JP7054103B2 - ナノ材料複合体およびその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、ナノ材料複合体およびその製造方法に関する。
近年、熱電変換素子、電界効果トランジスタ、センサー、集積回路、整流素子、太陽電池、触媒、およびエレクトロルミネッセンス等の分野で、柔軟性を備えた素子、または、小型軽量化された素子を構成するためにナノ材料の利用が注目されている。
通常、前記分野では、p型導電性を示す材料(p型材料)およびn型導電性を示す材料(n型材料)の両方を備えた双極型素子を用いることが好ましい。例えば、熱電変換素子は、熱電発電に用いられる素子である。熱電発電では、温度差によって物質内に生じる電位差を利用することにより、発電を行う。具体的に、図1に、n型材料とp型材料とを備えた双極型熱電変換デバイスの一例を示した概略図を示す。双極型熱電変換デバイスであれば、n型材料とp型材料とを直列につなぐことにより、効率的に発電することができる。
ところで、特許文献1には、導電性高分子と熱励起アシスト剤とを含有する熱電変換材料が開示されている。また、特許文献2には、カーボンナノチューブおよび共役高分子を含有する熱電変換材料が開示されている。
さらに、非特許文献1には、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)を利用した導電性フィルムが記載されている。非特許文献2には、PEDOTおよびポリ(スチレンスルホン酸)の複合体(PEDOT:PSS)またはメソ-テトラ(4-カルボキシフェニル)ポルフィン(TCPP)と、カーボンナノチューブとを利用した複合材料が記載されている。特許文献2および非特許文献2に記載の技術において利用されているカーボンナノチューブは、主にp型材料である。このようにナノ材料はp型導電性を示すことが多い。そのため、p型材料を、n型材料に変換する技術が求められている。
しかし、n型材料に関しては、非特許文献3に記載のように、n型有機系材料もしくはn型カーボン系材料、またはその添加剤が本質的に有する化学結合の不安定性に起因し、安定したn型材料を得ることは困難であるということが当該分野の技術常識であった。そのような状況の中で、本発明者らは、p型材料をn型材料へ変換する技術として、例えば、特許文献3に記載の技術を開発している。
国際公開第2013/047730号(2013年4月4日公開) 国際公開第2013/065631号(2013年5月10日公開) 国際公開第2015/198980号(2015年12月30日公開)
T. Park et. al.,Energy Environ. Sci. 6,788-792,2013 G. P. Moriarty et al., Energy Technol. 1, 265-272, 2013 D. M. de Leeuw et al., Synth. Met. 87, 53-59, 1997
しかしながら、前記p型材料に匹敵する出力を示すn型材料を実現するという観点からは、上述の従来技術には更なる改善の余地があった。本発明は、前記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、優れた熱電特性を有するナノ材料複合体を提供することである。
本発明者らは前記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の組み合わせの、アルカリ金属のイオンとクラウンエーテルとの錯体を用いることにより、優れた熱電特性を有するナノ材料複合体を提供できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
即ち、本発明は、以下の〔1〕~〔10〕に記載の発明を含む。
〔1〕アルカリ金属のイオンとクラウンエーテルとの錯体、およびn型ナノ材料を含むナノ材料複合体であって、前記クラウンエーテルのクラウンエーテル環を形成する原子数xは下記式(1)で表されることを特徴とする、ナノ材料複合体:
x=3(n+2+m)・・・(1)
前記式(1)中、nは前記アルカリ金属の、周期表における周期であり、mは1以上の整数である。
〔2〕前記クラウンエーテルは、1以上のアリール環を有することを特徴とする、〔1〕に記載のナノ材料複合体。
〔3〕前記式(1)中、mは1以上4以下の整数であることを特徴とする、〔1〕または〔2〕に記載のナノ材料複合体。
〔4〕前記アルカリ金属のイオンは、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオンおよびセシウムイオンからなる群より選択される少なくとも1つであることを特徴とする、〔1〕~〔3〕の何れか1つに記載のナノ材料複合体。
〔5〕前記n型ナノ材料は、ナノ粒子、ナノチューブ、ナノワイヤ、ナノロッドおよびナノシートからなる群より選択される少なくとも1つを含むことを特徴とする、〔1〕~〔4〕の何れか1つに記載のナノ材料複合体。
〔6〕n型ナノ材料に、アルカリ金属のイオンとクラウンエーテルとの錯体を接触させる工程を含み、前記クラウンエーテルのクラウンエーテル環を形成する原子数xは下記式(1)で表されることを特徴とする、ナノ材料複合体の製造方法:
x=3(n+2+m)・・・(1)
前記式(1)中、nは前記アルカリ金属の、周期表における周期であり、mは1以上の整数である。
〔7〕前記クラウンエーテルは、1以上のアリール環を有することを特徴とする、〔6〕に記載のナノ材料複合体の製造方法。
〔8〕前記式(1)中、mは1以上4以下の整数であることを特徴とする、〔6〕または〔7〕に記載のナノ材料複合体。
〔9〕前記アルカリ金属のイオンは、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオンおよびセシウムイオンからなる群より選択される少なくとも1つであることを特徴とする、〔6〕~〔8〕の何れか1つに記載のナノ材料複合体の製造方法。
〔10〕前記n型ナノ材料は、ナノ粒子、ナノチューブ、ナノワイヤ、ナノロッドおよびナノシートからなる群より選択される少なくとも1つであることを特徴とする、〔6〕~〔9〕の何れか1つに記載のナノ材料複合体の製造方法。
本発明の一態様によれば、特定の組み合わせの、アルカリ金属のイオンとクラウンエーテルとの錯体を用いることにより、優れた熱電特性を有するナノ材料複合体を提供できるという効果を奏する。
n型材料とp型材料とを備える双極型熱電変換素子の一例を示した模式図である。 実施例1~6のSWNTフィルム、比較例1~6のSWNTフィルムおよび参考例1~4のSWNTフィルムの、導電率の測定値を示す図である。 実施例1~6のSWNTフィルム、比較例1~6のSWNTフィルムおよび参考例1~4のSWNTフィルムの、ゼーベック係数の測定値を示す図である。 実施例1~6のSWNTフィルム、比較例1~6のSWNTフィルムおよび参考例1~4のSWNTフィルムの、出力因子の算出値を示す図である。
以下、本発明の実施の形態の一例について詳細に説明するが、本発明は、これらに限定されない。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。
〔1.ナノ材料複合体の熱電特性に関する指標〕
まず、ナノ材料複合体の熱電特性に関する指標について説明する。当該指標としては出力因子(パワーファクター)が挙げられる。出力因子は、以下の式(i)によって求められる。
PF=ασ (i)
式(i)中、PFは出力因子、αはゼーベック係数、σは導電率を示す。n型ナノ材料複合体においては、例えば、出力因子が310Kにて100μW/mK以上であることが好ましく、200μW/mK以上であることがより好ましく、400μW/mK以上であることが特に好ましい。n型ナノ材料複合体の出力因子が310Kにて100μW/mK以上であれば、従来のp型ナノ材料複合体と同等またはそれを上回る値であるため、好ましい。このような高出力のn型ナノ材料複合体を得るためには、ゼーベック係数または導電率のいずれか一方、もしくはその両方を向上させることが考えられる。
ゼーベック係数とは、ゼーベック効果を示す回路の、高温接合点と低温接合点との間の温度差に対する、開放回路電圧の比をいう(「マグローヒル科学技術用語大辞典 第3版」より)。ゼーベック係数は、例えば、後述する実施例で用いたゼーベック効果測定装置(MMR Technologies社製)等を用いて測定することができる。ゼーベック係数の絶対値が大きいほど、熱起電力が大きいことを表す。
また、ゼーベック係数は、カーボンナノチューブ等の電子材料の極性を判別するための指標となり得る。具体的には、例えば、ゼーベック係数が正の値を示す電子材料は、p型導電性を有しているといえる。これに対して、ゼーベック係数が負の値を示す電子材料は、n型導電性を有しているといえる。
n型ナノ材料複合体においては、ゼーベック係数が-20μV/K以下であることが好ましく、-30μV/K以下であることがより好ましく、-40μV/K以下であることがさらに好ましい。ただし、低温熱源などの微小エネルギーを用いて発電を行う場合においては、熱起電力の増大とともに導電率の増大により、昇圧回路に要求されるインピーダンスの抑制を必要とする場合もある。この場合は、n型ナノ材料複合体のゼーベック係数が-250~-20μV/Kであることがより好ましい。
導電率は、例えば、抵抗率計(三菱化学アナリテック社製、ロレスタGP)を用いた4探針法により測定することができる。
n型ナノ材料複合体においては、導電率が1000S/cm以上であることが好ましく、1500S/cm以上であることがより好ましく、2000S/cm以上であることがさらに好ましい。導電率が1000S/cm以上であれば、n型ナノ材料複合体が高出力であるため、好ましい。
なお、本発明において、「優れた熱電特性」とは、少なくともゼーベック係数が増大していることを表す。
〔2.ナノ材料複合体〕
本発明の一実施形態に係るナノ材料複合体(以下、本ナノ材料複合体とも称する)は、アルカリ金属のイオンとクラウンエーテルとの錯体、およびn型ナノ材料を含み、前記クラウンエーテルのクラウンエーテル環を形成する原子数xは下記式(1)で表される。
x=3(n+2+m)・・・(1)
前記式(1)中、nは前記アルカリ金属の、周期表における周期であり、mは1以上の整数である。
前記n型ナノ材料は、負の電荷が非局在化した状態となっており、軟らかい塩基(soft base)となっている。一方、前記錯体は、正の電荷が非局在化した軟らかい酸(soft acid)となっている。軟らかい塩基に対しては、軟らかい酸を作用させることで安定化することができる。そのため、本ナノ材料複合体は、n型ナノ材料に錯体を作用させることにより、安定したn型導電性を示す。なお、軟らかい酸および塩基の定義は、HSAB理論に基づく(R. G. Pearson, J. Am. Chem. Soc. 85 (22), 3533-3539, 1963)。
さらに、本ナノ材料複合体は、アルカリ金属のイオンと、従来好ましいとされていた原子数よりも多い数の原子から形成されるクラウンエーテル環を有するクラウンエーテルとの錯体を含んでいるため、優れた熱電特性を有する。
当該分野の常識では、クラウンエーテルのクラウンエーテル環を形成する原子数xは、下記式(2)で表される組み合わせが好ましいと考えられてきた。
x=3(n+2)・・・(2)
例えば、錯体を形成しやすいという観点からは、第4周期に属するカリウムイオンに対して、18-クラウン-6-エーテルを用いることが好ましいと考えられてきた(George W. Gokel, Deepa M. Goli, Carlo Minganti, Luis Echegoyen, J. Am. Chem. Soc., 1983, 105 (23), pp 6786-6788)。しかし、本発明者らは、アルカリ金属のイオンと、従来好ましいとされていた原子数よりも多い数の原子から形成されるクラウンエーテル環を有するクラウンエーテルとの錯体を用いることで、優れた熱電特性を有するナノ材料複合体を提供できることを見出した。この場合、クラウンエーテルを形成するクラウンエーテル環のサイズがアルカリ金属のイオンに対して大きい。そのため、クラウンエーテル環がアルカリ金属のイオンを包み込むように収縮し、立体化すると考えられる。このような錯体の立体化が熱電特性に何らかの影響を与えていると推測される。
本ナノ材料複合体は、必要に応じて、クラウンエーテルとアルカリ金属のイオンとの錯体、およびn型ナノ材料以外の物質を含んでいてもよい。このような物質としては、錯体による前記効果を阻害しないものであれば特に限定されない。
<2-1.錯体>
本ナノ材料複合体は、アルカリ金属のイオンとクラウンエーテルとの錯体を含む。
本明細書において、アルカリ金属のイオンとは、アルカリ金属の一価のカチオンを意味する。クラウンエーテルは、アルカリ金属のイオンを取り込む能力を有する。そのため、クラウンエーテルとアルカリ金属のイオンとは配位結合し、錯体を形成する。
アルカリ金属イオンの中でも、入手が容易である観点からは、特にナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオンおよびセシウムイオンからなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましい。
なお、本明細書において、「クラウンエーテル」とは、特に断らない限りは、クラウンエーテル誘導体を含む。本明細書において、「クラウンエーテル誘導体」との表現は、少なくともクラウンエーテル環を有し、アリール環、置換基、または炭素原子および酸素原子以外の原子等を有することを意図する。例えば、本明細書において、「クラウンエーテル」には、クラウンエーテル、1つ以上のアリール環を有するクラウンエーテル誘導体、1つ以上の置換基を有するクラウンエーテル誘導体、およびクラウンエーテル環中に炭素原子および酸素原子以外の原子を有するクラウンエーテル誘導体等が含まれる。クラウンエーテル誘導体が1つ以上のアリール環を有する場合、正の電荷がより非局在化しやすいため、好ましい。
前記1つ以上のアリール環は、縮合環を形成していてもよい。すなわち、前記クラウンエーテルは、縮合環を有するクラウンエーテルであってもよい。前記縮合環としては、2つ、3つ、4つ、5つ、またはそれ以上のアリール環が縮合したものであってもよい。前記アリール環または縮合環としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、テトラセン環、ペンタセン環、ヘキサセン環、ヘプタセン環、オクタセン環、フェナントレン環、ピレン環、クリセン環、ベンゾピレン環、トリフェニレン環、およびベンゾフラン環が挙げられる。
なお、前記クラウンエーテルとしては、縮合環を形成していない2つ以上のアリール環を有するクラウンエーテルも利用可能であり、この例としては、ジベンゾクラウンエーテル等が挙げられる。
前記クラウンエーテルは、クラウンエーテル環中に炭素原子および酸素原子以外の原子を有するクラウンエーテル誘導体であってもよい。例えば、前記クラウンエーテルは、アザクラウンエーテル誘導体であってもよい。また、上述のように、前記アリール環が芳香族複素環であってもよい。前記芳香族複素環としては、フラン環、チオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、チアゾール環、オキサゾール環、オキサジアゾール環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環およびピラジン環等が挙げられる。さらに芳香族複素環が縮合環を形成していてもよく、このような例としては、ベンゾフラン環、インドール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾチアジアゾール環、キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン環、キナゾリン環、フタラジン環、カルバゾール環、チエノチオフェン環、ベンゾチオフェン環およびジベンゾチオフェン環等が挙げられる。
前記クラウンエーテルのクラウンエーテル環を形成する原子数xは下記式(1)で表される。
x=3(n+2+m)・・・(1)
前記式(1)中、nは前記アルカリ金属の、周期表における周期であり、mは1以上の整数である。
本明細書において、クラウンエーテル環を形成する原子数xとは、クラウンエーテルの主骨格となる環を形成している原子の数を表す。例えば、下記式(a)で表される12-クラウン-4-エーテルの場合、クラウンエーテル環を形成する原子数xは、炭素原子および酸素原子の数の合計であり、12である。同様に、下記式(b)で表される15-クラウン-5-エーテルの場合、クラウンエーテル環を形成する原子数xは、15である。下記式(c)で表される18-クラウン-6-エーテルの場合、クラウンエーテル環を形成する原子数xは、18である。
Figure 0007054103000001
また、下記式(d)で表されるベンゾ-18-クラウン-6-エーテルの場合、クラウンエーテル環を形成する原子数xは、18である。ベンゾ-18-クラウン-6-エーテルが有するベンゼン環を構成する炭素原子のうち、クラウンエーテル環を形成していない炭素原子4個はクラウンエーテル環を形成する原子数xに含まれない。
Figure 0007054103000002
なお、クラウンエーテル環を形成している炭素原子または酸素原子が他の原子(窒素原子または硫黄原子)に置換されている場合は、当該他の原子の数もクラウンエーテル環を形成する原子数xに含まれる。
前記式(1)中、mは1以上の整数である。mは1以上4以下の整数であることが好ましく、mは1または2であることがより好ましい。
例えば、ナトリウムイオン(第3周期に属するアルカリ金属のイオン)を用いる場合、nは3である。本発明の一実施形態においては、mは1以上の整数であるため、ナトリウムイオンを用いる場合、クラウンエーテル環を形成する原子数xは18以上の整数である。また、xは18以上30以下の整数が好ましく、xは18または21であることがより好ましい。すなわち、例えば、ナトリウムイオンに対して、クラウンエーテルを用いる場合、18-クラウン-6-エーテル、21-クラウン-7-エーテル、24-クラウン-8-エーテル、27-クラウン-9-エーテルおよび30-クラウン-10-エーテルからなる群より選択される少なくとも1つを用いることが好ましい。また、ナトリウムイオンに対しては、18-クラウン-6-エーテルおよび21-クラウン-7-エーテルからなる群より選択される少なくとも1つを用いることがより好ましい。また、例えば、ナトリウムイオンに対して、1つのベンゼン環を有するクラウンエーテル(すなわち、ベンゾクラウンエーテル)を用いる場合、ベンゾ-18-クラウン-6-エーテル、ベンゾ-21-クラウン-7-エーテル、ベンゾ-24-クラウン-8-エーテル、ベンゾ-27-クラウン-9-エーテルおよびベンゾ-30-クラウン-10-エーテルからなる群より選択される少なくとも1つを用いることが好ましい。また、ナトリウムイオンに対しては、ベンゾ-18-クラウン-6-エーテルおよびベンゾ-21-クラウン-7-エーテルからなる群より選択される少なくとも1つを用いることがより好ましい。
本発明の一実施形態において、カリウム(第4周期に属するアルカリ金属のイオン)を用いる場合、クラウンエーテル環を形成する原子数xは21以上の整数である。同様に、ルビジウム(第5周期に属するアルカリ金属のイオン)を用いる場合、クラウンエーテル環を形成する原子数xは24以上の整数である。セシウム(第6周期に属するアルカリ金属のイオン)を用いる場合、クラウンエーテル環を形成する原子数xは27以上の整数である。
<2-2.n型ナノ材料>
本ナノ材料複合体は、n型ナノ材料、すなわち、n型化されたナノ材料を含んでいる。本明細書において、「ナノ材料」とは、少なくとも1つの方向の寸法がナノスケール(例えば100nm以下)の物質を意味する。前記ナノ材料は、例えば電子材料等として用いられる物質である。
ナノ材料をn型化する方法は特に限定されず、例えば、ナノ材料へ電極から電子を導入する方法、および、ナノ材料にn型ドーパント(例えば、特定のアニオン)を作用させる方法が挙げられる。より具体的には、後述する工程(ii)が挙げられる。
前記ナノ材料は、低次元ナノ材料であってもよい。本明細書において、「低次元」とは、3次元よりも小さい次元を意図する。すなわち、本明細書において、「低次元」とは、0次元、1次元、または、2次元を意図する。そして、本明細書において「低次元ナノ材料」とは、「低次元」にて立体構造を略規定し得るナノ材料を意図する。
0次元のナノ材料としては、例えば、ナノ粒子(量子ドット)が挙げられる。1次元のナノ材料としては、例えば、ナノチューブ、ナノワイヤおよびナノロッドが挙げられる。2次元のナノ材料としては、例えばナノシートが挙げられる。前記n型ナノ材料は、ナノ粒子、ナノチューブ、ナノワイヤ、ナノロッドおよびナノシートからなる群より選択される少なくとも1つを含むことが好ましい。
前記n型ナノ材料は、炭素、半導体、半金属および金属からなる群より選択される少なくとも1つ以上を含んでいてもよい。前記n型ナノ材料は、炭素、半導体、半金属および金属からなる群より選択される少なくとも1つ以上からなるナノ材料であってもよい。軽量であることおよび炭素-炭素結合に由来する柔軟性の観点からは、前記ナノ材料は、炭素からなるナノ材料であることが好ましい。炭素からなるナノ材料としては、カーボンナノチューブおよびグラフェン(すなわち、炭素からなるナノシート)等が挙げられる。本明細書においては、カーボンナノチューブを「CNT」と称する場合もある。
半導体としては、ケイ素化鉄、コバルト酸ナトリウムおよびテルル化アンチモン等が挙げられる。半金属としては、テルル、ホウ素、ゲルマニウム、ヒ素、アンチモン、セレンおよびグラファイト等が挙げられる。金属としては、金、銀、銅、白金およびニッケル等が挙げられる。
前記ナノチューブおよび前記ナノシートは、単層、または多層(二層、三層、四層、またはそれよりも多層)の構造を有していてもよい。例えば、前記n型ナノ材料は、単層カーボンナノチューブ(single-wall carbon nanotube:SWNT)または多層カーボンナノチューブ(multi-wall carbon nanotube:MWNT)であってもよい。
本ナノ材料複合体は、熱電変換デバイス等として、様々な応用および用途が考えられる。ここで、熱電変換デバイスに柔軟性があれば、人体および配管等の複雑な三次元表面に密着させることができ、体温および廃熱等を効率的に利用できるため好ましい。熱電変換デバイスの柔軟性を増すため、本ナノ材料複合体において、優れた機械的特性(引張強度、ヤング率および弾性率など)を付与するという観点からは、前記n型ナノ材料は、単層カーボンナノチューブであることが好ましい。
本ナノ材料複合体において、前記n型ナノ材料は、所望の形状に成形されていてもよい。例えば、本ナノ材料複合体は、ナノ材料が集積したフィルムを含んでいてもよい。ここで、前記「フィルム」は、シートまたは膜とも言い換えられる。フィルムは、例えば、0.1μm~1000μmの厚みであってもよい。フィルムの密度は特に限定されないが、0.05~1.0g/cmであってもよく、0.1~0.5g/cmであってもよい。前記フィルムは、ナノ材料同士が互いに絡み合うように不織布状の構造を形成している。そのため、前記フィルムは軽量であり、且つ、柔軟性を有している。
〔3.ナノ材料複合体の製造方法〕
本発明の一実施形態に係るナノ材料複合体の製造方法(以下、本製造方法とも称する)は、n型ナノ材料に、アルカリ金属のイオンとクラウンエーテルとの錯体を接触させる工程を含み、前記クラウンエーテルのクラウンエーテル環を形成する原子数xは下記式(1)で表される。
x=3(n+2+m)・・・(1)
前記式(1)中、nは前記アルカリ金属の、周期表における周期であり、mは1以上の整数である。
なお、〔2.ナノ材料複合体〕にて既に説明した事項について、以下では説明を省略し、適宜、上述の記載を援用する。
以下、n型ナノ材料に、アルカリ金属のイオンとクラウンエーテルとの錯体を接触させる工程を工程(i)と記載する。
前記工程(i)では、ナノ材料に、クラウンエーテルとアルカリ金属のイオンとの錯体を接触させることができればよく、その方法は特に限定されない。ナノ材料と、錯体とを十分に接触させる観点から、錯体を含む溶液をナノ材料に接触させる方法が好ましい。具体的には、溶液をナノ材料に含浸させる方法、または、溶液中にナノ材料をせん断分散させることによって、ナノ材料と溶液とを接触させる方法が好ましい。
前記溶液における溶媒は、水であってもよく有機溶媒であってもよい。当該溶媒は、好ましくは有機溶媒であり、より好ましくはメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドまたはN-メチルピロリドンである。プロパノールとしては、1-プロパノールおよび2-プロパノールが挙げられる。ブタノールとしては、1-ブタノールおよび2-ブタノール等が挙げられる。
溶液中のクラウンエーテルおよびアルカリ金属のイオンの濃度は、任意の濃度であってよく、0.001~1mol/Lが好ましく、0.01~0.1mol/Lがより好ましい。
溶液をナノ材料に含浸させる方法としては、後述のように所望の形状に成形したナノ材料(例えばフィルム)を溶液に浸漬させる方法が挙げられる。また、溶液中にナノ材料をせん断分散させる方法としては、均質化装置を用いてナノ材料を溶液中に分散させる方法が挙げられる。
前記均質化装置としては、ナノ材料を溶液中で均質に分散させることができる装置であれば特に限定されないが、例えば、ホモジナイザーまたは超音波ホモジナイザー等の公知の手段を用いることができる。なお、本明細書中において、単に「ホモジナイザー」と表記した場合は、「撹拌ホモジナイザー」が意図される。
均質化装置の運転条件としては、ナノ材料を溶液中に分散させることができる条件であれば特に限定されない。例えば、均質化装置として、ホモジナイザーを用いる場合は、ナノ材料を加えた溶液を、ホモジナイザーの撹拌速度(回転数)20000rpmにて、室温(23℃)にて10分間処理することによって、ナノ材料を溶液中に分散させることができる。
また、成形済のナノ材料を溶液に浸漬させる方法の場合、浸漬させる時間は特に限定されないが、10~600分であることが好ましく、100~600分であることがより好ましく、200~600分であることがさらに好ましい。
なお、工程(i)の前に、工程(ii)ナノ材料をn型化する工程が含まれていてもよい。ナノ材料をn型化する方法は特に限定されず、例えば、ナノ材料へ電極から電子を導入する方法、および、ナノ材料に特定のアニオンを作用させる方法が挙げられる。
工程(ii)は工程(i)と同時に行われてもよい。この場合、例えば、溶媒に溶解した際にアニオンとアルカリ金属のイオンとを生じる金属塩と、クラウンエーテルとを溶解させた溶液にナノ材料を接触させる。錯体を効率的に形成させるという観点からは、前記溶液は、アルカリ金属のイオンとクラウンエーテルとを、そのモル比が1:1になるように含んでいることが好ましい。
前記アニオンは、ナノ材料のキャリアを正孔から電子へと変化させる。これによって、ナノ材料のゼーベック係数が変化するとともに、ナノ材料は負に帯電する。
アニオンの例としては、ヒドロキシイオン(OH)、アルコキシイオン(CH、CHCH、i-PrOおよびt-BuO等)、チオイオン(SH、並びにCHおよびC等のアルキルチオイオン等)、シアヌルイオン(CN)、I、Br、Cl、BH 、カルボキシイオン(CHCOO等)、CO 2-、HCO 、NO 、BF 、ClO 、TfO、並びにTos等が挙げられる。なかでも、アニオンは、OH、CH、CHCH、i-PrO、t-BuO、SH、CH、C、CN、I、Br、Cl、BH 、およびCHCOOからなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましく、OHおよびCHのうち少なくとも一方であることがより好ましい。前記アニオンによれば、効率よくナノ材料のゼーベック係数を変化させることができる。
アニオンがナノ材料をn型化するドーパントとして作用する理由の一つとしては、アニオンが非共有電子対を有していることが考えられる。アニオンは、その非共有電子対に基づいて、ドーピングの対象となるナノ材料と相互作用するか、または化学反応を誘起すると推測される。また、ドーピングの効率においては、ドーパントのルイス塩基性、分子間力および解離性が重要であると考えられる。
本明細書において、「ルイス塩基性」とは、電子対を供与する性質を意図している。ルイス塩基性の強いドーパントは、ゼーベック係数の変化に対して、より大きな影響を与えると考えられる。
また、ドーパントの分子間力も、ナノ材料に対するドーパントの吸着性に関連していると考えられる。ドーパントの分子間力としては、水素結合、CH-π相互作用およびπ-π相互作用等が挙げられる。前記アニオンのなかでも、弱い水素結合を与えるアニオンが好ましい。弱い水素結合を与えるアニオンとしては、例えば、OH、CH、CHCH、i-PrOおよびt-BuOが挙げられる。また、アニオンは、π-π相互作用を与えるアニオンであることが好ましい。π-π相互作用を与えるアニオンとしては、例えば、CHCOOが挙げられる。
本製造方法は、工程(i)の前または後に工程(iii)ナノ材料を集積させてフィルムを成形する工程を含んでいてもよい。すなわち、工程(iii)は、前記工程(i)の前にナノ材料を所望の形状(例えばフィルム)に成形する工程であってもよく、前記工程(i)によって得られたナノ材料を所望の形状に成形する工程であってもよい。
フィルムを成形する方法としては、特に限定されないが、例えば、溶媒中にナノ材料を分散させ、得られた分散液をメンブレンフィルター上で濾過することによってフィルムを成形する方法が挙げられる。具体的には、ナノ材料の分散液を、0.1~2μm孔のメンブレンフィルターを用いて吸引濾過を行い、メンブレンフィルター上に残った膜を、50~150℃にて、1~24時間、減圧乾燥させることにより、フィルムを成形することができる。
ナノ材料を分散させる溶媒は、水であってもよく有機溶媒であってもよい。当該溶媒は、好ましくは有機溶媒であり、より好ましくはo-ジクロロベンゼン、ブロモベンゼン、1-クロロナフタレン、2-クロロナフタレンまたはシクロヘキサノンである。これらの溶媒であれば、ナノ材料を効率的に分散させることができる。
ナノ材料を分散させる方法としては、上述の工程(i)における均質化装置を用いてナノ材料を溶液中に分散させる方法と同様の方法を用いることができる。
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
以下、実施例、比較例および参考例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
〔熱電特性の評価〕
(a)導電率
後述の実施例、比較例および参考例にて得られたSWNTフィルムについて、抵抗率計(三菱化学アナリテック社製、ロレスタGP)を用いた4探針法によって導電率を測定した。測定温度は310K(37℃)であった。
(b)ゼーベック係数
後述の実施例、比較例および参考例にて得られたSWNTフィルムのゼーベック係数を、ゼーベック効果測定装置(MMR technologies社製、SB-200)を用いて測定した。測定温度は310K(37℃)であった。
(c)出力因子
後述の実施例、比較例および参考例にて得られたSWNTフィルムについて、上述の方法で得られた導電率σおよびゼーベック係数αを用いて、下記式(i)により出力因子PFを算出した。
PF=ασ (i)
〔ナトリウムイオンを用いた場合の熱電特性の比較〕
<実施例1>
5mgのCNT(平均内径2nm、名城ナノカーボン社製、製品名:EC2.0)を10mLのo-ジクロロベンゼンに撹拌ホモジナイザー(IKA社製、ウルトラタラックス)を用いて20000rpmで10分間処理をした。得られた分散液を吸引濾過し、80℃にて減圧乾燥することにより、メンブレンフィルター(ミリポア社製、オムニポアメンブレンフィルター JGWP02500)上に不織布状のSWNTフィルムを得た。
SWNTフィルムを、0.1mol/LのNaOH(和光純薬工業社製、試薬特級)および0.1mol/Lのベンゾ-18-クラウン-6-エーテル(シグマアルドリッチ社製、以下、B18Cと称する)を含むブタノール溶液に5時間浸漬した。また、ブタノールとしては1-ブタノール(和光純薬工業社製)を用いた。
その後、SWNTフィルムを溶液から引き上げ、窒素ブローにより乾燥させ、さらに室温にて10時間減圧乾燥を行い、ナノ材料複合体であるSWNTフィルムを得た。
<実施例2>
B18Cの代わりにベンゾ-21-クラウン-7-エーテル(以下、B21Cと称する)を用いたこと以外は、実施例1と同様にSWNTフィルムを作製した。なお、B21Cは、Chuanju Zhang , Shijun Li , Jinqiang Zhang , Kelong Zhu , Ning Li , and Feihe Huang Org. Lett., 2007, 9 (26), pp 5553-5556に記載の方法を元に、発明者らが合成した。
<実施例3>
B18Cの代わりにベンゾ-24-クラウン-8-エーテル(以下、B24Cと称する)を用いたこと以外は、実施例1と同様にSWNTフィルムを作製した。なお、B24Cは、Chuanju Zhang , Shijun Li , Jinqiang Zhang , Kelong Zhu , Ning Li , and Feihe Huang Org. Lett., 2007, 9 (26), pp 5553-5556に記載の方法を元に、発明者らが合成した。
<比較例1>
B18Cの代わりにベンゾ-15-クラウン-5-エーテル(シグマアルドリッチ社製、以下、B15Cと称する)を用いたこと以外は、実施例1と同様にSWNTフィルムを作製した。
(結果)
測定結果および算出結果を表1に示す。
Figure 0007054103000003
従来の技術常識によれば、アルカリ金属のイオンとしてナトリウムイオン(ナトリウムは第3周期に属する)を用いる場合、クラウンエーテル環を形成する原子数が15のクラウンエーテルを用いることが好ましいと考えられる。しかし、比較例1においてB15Cを用いた場合と比較して、実施例1~3において、それぞれ、B18C、B21CおよびB24Cを用いた場合の方が、ゼーベック係数の絶対値が大きいことがわかった。また、実施例1~3および比較例1を比較すると、実施例2においてB21Cを用いた場合が最もゼーベック係数の絶対値が大きく、-49.5μV/Kであった。
また、比較例1においてB15Cを用いた場合と比較して、実施例1~3において、それぞれ、B18C、B21CおよびB24Cを用いた場合の方が、出力因子が大きいことがわかった。さらに、実施例1~3および比較例1を比較すると、実施例2においてB21Cを用いた場合が最も出力因子が大きく、317μW/mKであった。
〔カリウムイオンを用いた場合の熱電特性の比較〕
<実施例4>
NaOHの代わりにKOH(和光純薬工業社製、試薬特級)を用い、B18Cの代わりにB21Cを用いたこと以外は、実施例1と同様にSWNTフィルムを作製した。
<実施例5>
B21Cの代わりにB24Cを用いたこと以外は、実施例4と同様にSWNTフィルムを作製した。
<比較例2>
B21Cの代わりにB15Cを用いたこと以外は、実施例4と同様にSWNTフィルムを作製した。
<比較例3>
B21Cの代わりにB18Cを用いたこと以外は、実施例4と同様にSWNTフィルムを作製した。
(結果)
測定結果および算出結果を表2に示す。
Figure 0007054103000004
従来の技術常識によれば、アルカリ金属のイオンとしてカリウムイオン(カリウムは第4周期に属する)を用いる場合、クラウンエーテル環を形成する原子数が18のクラウンエーテルを用いることが好ましいと考えられる。しかし、比較例3においてB18Cを用いた場合と比較して、実施例4および5において、それぞれ、B21CおよびB24Cを用いた場合の方が、ゼーベック係数の絶対値が大きいことがわかった。また、実施例4、5および比較例2、3を比較すると、実施例4においてB21Cを用いた場合が最もゼーベック係数の絶対値が大きく、-60.6μV/Kであった。
また、比較例3においてB18Cを用いた場合と比較して、実施例4において、B21Cを用いた場合の方が出力因子が大きいことがわかった。さらに、実施例4、5および比較例2、3を比較すると、実施例4においてB21Cを用いた場合が最も出力因子が大きく、507μW/mKであった。
〔ルビジウムイオンを用いた場合の熱電特性の比較〕
<実施例6>
NaOHの代わりにRbOH(和光純薬工業社製、試薬特級)を用い、B18Cの代わりにB24Cを用いたこと以外は、実施例1と同様にSWNTフィルムを作製した。
<比較例4>
B24Cの代わりにB15Cを用いたこと以外は、実施例6と同様にSWNTフィルムを作製した。
<比較例5>
B24Cの代わりにB18Cを用いたこと以外は、実施例6と同様にSWNTフィルムを作製した。
<比較例6>
B24Cの代わりにB21Cを用いたこと以外は、実施例6と同様にSWNTフィルムを作製した。
(結果)
測定結果および算出結果を表3に示す。
Figure 0007054103000005
従来の技術常識によれば、アルカリ金属のイオンとしてルビジウムイオン(ルビジウムは第5周期に属する)を用いる場合、クラウンエーテル環を形成する原子数が21のクラウンエーテルを用いることが好ましいと考えられる。しかし、比較例6において、B21Cを用いた場合と比較して、実施例6において、B24Cを用いた場合の方が、ゼーベック係数の絶対値が大きいことがわかった。また、実施例6および比較例4~6を比較すると、実施例6においてB24Cを用いた場合が最もゼーベック係数の絶対値が大きく、-54.6μV/Kであった。
また、比較例6において、B21Cを用いた場合と比較して、実施例6において、B24Cを用いた場合の方が、出力因子が大きいことがわかった。さらに、実施例6および比較例4~6を比較すると、実施例6においてB24Cを用いた場合が最も出力因子が大きく、428μW/mKであった。
〔セシウムイオンを用いた場合の熱電特性の比較〕
<参考例1>
NaOHの代わりにCsOH(和光純薬工業社製、試薬特級)を用い、B18Cの代わりにB15Cを用いたこと以外は、参考例1と同様にSWNTフィルムを作製した。
<参考例2>
B15Cの代わりにB18Cを用いたこと以外は、参考例1と同様にSWNTフィルムを作製した。
<参考例3>
B15Cの代わりにB21Cを用いたこと以外は、参考例1と同様にSWNTフィルムを作製した。
<参考例4>
B15Cの代わりにB24Cを用いたこと以外は、参考例1と同様にSWNTフィルムを作製した。
(結果)
測定結果を表4に示す。
Figure 0007054103000006
アルカリ金属のイオンとしてセシウムイオン(セシウムは第6周期に属する)を用いる場合、B24Cを用いることが好ましいとされていた。参考例1~4において、それぞれB15C、B18C、B21CおよびB24Cを用いた場合を比較すると、クラウンエーテルのクラウンエーテル環を形成する原子数が大きくなるほど、ゼーベック係数の絶対値が大きくなっていることがわかった。このことから、セシウムイオンに対しては、B27CおよびB30C等のより大きなクラウンエーテル環を有するクラウンエーテルを用いることで、ゼーベック係数の絶対値を増大できると推測される。
また、参考例1~4において、それぞれB15C、B18C、B21CおよびB24Cを用いた場合を比較すると、参考例3においてB21Cを用いた場合が最も出力因子が大きく、365μW/mKであった。しかし、アルカリ金属のイオンとして、ナトリウムイオン、カリウムイオンおよびルビジウムイオンを用いた場合の結果を参酌すると、ゼーベック係数の絶対値が大きな値を示すほど、出力因子も大きな値を示すことが推測される。そのため、アルカリ金属のイオンとしてセシウムイオンを用いた場合も、B27CおよびB30C等のより大きなクラウンエーテル環を有するクラウンエーテルを用いることで、出力因子を増大できると推測される。
〔まとめ〕
図2~4はそれぞれ、実施例1~6のSWNTフィルム、比較例1~6のSWNTフィルムおよび参考例1~4のSWNTフィルムの、導電率の測定値、ゼーベック係数の測定値および出力因子の算出値を示す。
図2より、実施例1~6のSWNTフィルムのいずれにおいても、導電率は1000S/cm以上であり、高出力なナノ材料複合体を提供できることがわかった。
また、図3および図4より、アルカリ金属のイオンがナトリウムイオン、カリウムイオン、およびルビジウムイオンのいずれの場合においても、従来好ましいとされていた原子数よりも多い数の原子から形成されるクラウンエーテル環を有するクラウンエーテルとの錯体を用いることにより、ゼーベック係数の絶対値および出力因子を増大できることがわかった。
アルカリ金属のイオンがセシウムイオンの場合は、図2~4および表4に示す結果から、従来好ましいとされていた原子数よりも多い数の原子から形成されるクラウンエーテル環を有するクラウンエーテルとの錯体を用いることにより、ゼーベック係数の絶対値および出力因子を増大できることが推測される。
以上のことより、従来好ましいとされていた原子数よりも多い数の原子から形成されるクラウンエーテル環を有するクラウンエーテルとの錯体を用いることにより、優れた熱電特性を有するナノ材料複合体を提供できることがわかった。
本発明は、熱電発電システム、医療用電源、セキュリティ用電源および航空・宇宙用途等の種々広範な産業において利用可能である。

Claims (6)

  1. アルカリ金属のイオンとクラウンエーテルとの錯体、およびn型ナノ材料を含むナノ材料複合体であって、
    前記アルカリ金属は、ナトリウムイオン、カリウムイオンおよびルビジウムイオンのいずれかであり、
    前記クラウンエーテルのクラウンエーテル環を形成する原子数xは下記式(1)で表されることを特徴とする、ナノ材料複合体:
    x=3(n+2+m)・・・(1)
    前記式(1)中、nは前記アルカリ金属の、周期表における周期であり、前記アルカリ金属がナトリウムイオンである場合のmは1以上3以下、カリウムイオンである場合のmは1または2、ルビジウムイオンである場合のmは1である。
  2. 前記クラウンエーテルは、1以上5以下のアリール環を有することを特徴とする、請求項1に記載のナノ材料複合体。
  3. 前記n型ナノ材料は、ナノ粒子、ナノチューブ、ナノワイヤ、ナノロッドおよびナノシートからなる群より選択される少なくとも1つを含むことを特徴とする、請求項1または2に記載のナノ材料複合体。
  4. n型ナノ材料に、アルカリ金属のイオンとクラウンエーテルとの錯体を接触させる工程を含み、
    前記アルカリ金属は、ナトリウムイオン、カリウムイオンおよびルビジウムイオンのいずれかであり、
    前記クラウンエーテルのクラウンエーテル環を形成する原子数xは下記式(1)で表されることを特徴とする、ナノ材料複合体の製造方法:
    x=3(n+2+m)・・・(1)
    前記式(1)中、nは前記アルカリ金属の、周期表における周期であり、前記アルカリ金属がナトリウムイオンである場合のmは1以上3以下、カリウムイオンである場合のmは1または2、ルビジウムイオンである場合のmは1である。
  5. 前記クラウンエーテルは、1以上5以下のアリール環を有することを特徴とする、請求項に記載のナノ材料複合体の製造方法。
  6. 前記n型ナノ材料は、ナノ粒子、ナノチューブ、ナノワイヤ、ナノロッドおよびナノシートからなる群より選択される少なくとも1つであることを特徴とする、請求項4または5に記載のナノ材料複合体の製造方法。
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