JP7046394B2 - グリオーマ検出用バイオマーカー - Google Patents

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Description

本発明は、グリオーマ検出用バイオマーカー、それを用いてグリオーマを検出する方法、及びグリオーマ検出用キットに関する。
グリオーマ(神経膠腫)は、神経膠細胞より発生すると考えられている腫瘍の総称で、脳腫瘍の約3割を占め、ヒトにおいて高頻度にみられる原発性脳腫瘍である(非特許文献1)。予後の悪い悪性腫瘍が多く、より的確な診断と治療の開発が求められている。
原発性脳腫瘍は、病理学的亜型を含めると100種類以上にわたるが、腫瘍毎に最適な治療法は異なる(非特許文献2)。したがって、腫瘍の種類を的確に診断することが重要となる。現在、手術前の脳腫瘍の診断は、ほとんどがCT、MRI、又はPET等の画像診断に依存している。画像診断では、病変の局在に関しては正確な情報を得ることができるが、腫瘍の種類に特異的な情報までは得られないことが多い。また、グリオーマと同じ中枢神経系原発腫瘍の悪性リンパ腫や中枢神経系非腫瘍性疾患である多発性硬化症では、画像上の所見が原発性脳腫瘍と類似することがあるため画像診断のみから原発性脳腫瘍を鑑別することは困難な場合がある(非特許文献3)。
したがって、確定診断には、脳生検術(開頭術又は穿頭術による脳組織の一部採取)が必要となる。しかし、脳生検術は、侵襲性が高い上に、頭蓋内出血による後遺症の危険性がある。また、脳生検術後、病理診断が得られるまでに通常1~2週以上を要し、実臨床においては、手術スケジュールの確保、手術実施、及び病理診断確定までに相当期間が経過することとなる。これは、早期診断、早期治療の観点からも大きな問題となる。さらに、脳生検術は、原則として入院治療が必須であるため、医療費の面でも患者の負担が大きい。即ち、従来の診断・治療では、診断のための脳生検術と腫瘍摘出手術の2回の入院が必要となる。
多くの腫瘍では、その発生に応じて血液等の試料中に含まれる量が上昇するタンパク・ポリペプチドや核酸の存在が知られている。これらは既に多くのものが臨床応用され、多くの癌腫で特異的な腫瘍マーカー検査として実用化され、さらに癌の診断、及び再発判定に向けた開発が進んでいる(非特許文献4、5)。ところが、原発性脳腫瘍に関しては、中枢神経系原発胚細胞性腫瘍の一部を除いて、血液や髄液中に存在する腫瘍マーカーは全く実用化されておらず、またグリオーマについては有効性の高い腫瘍マーカー自体が知られていない。
Committee-of-Brain-Tumor-Registry-of-Japan, Brain Tumor Registry of Japan, 2017, Neurol Med Chir (Tokyo), 57(Supplement-1): 9-102. Louis, D.N., et al., 2016, Acta Neuropathol, 131(6): 803-820. Niibo, T., et al., 2012, Jpn. J. Neurosurgery, 21 (8): 625-629. 光永 修ら, 2017,膵臓, 32(1): 56-61. 藤村 勉, 2016, 東北医科薬科大学研究誌, 63: 1-13.
本発明は、グリオーマを簡便、かつ容易に検出する方法を開発し、提供することを目的とする。
また、その方法で使用するための腫瘍マーカーを開発し、提供することを目的とする。
上記課題を解決するために、本発明者らは、グリオーマの腫瘍マーカーの探索用試料として髄液に着目した。髄液は、採取時の患者への侵襲性が生検術に比べて軽微であり、通常の髄液検査と同様に安全に実施することができる。さらにグリオーマ患者において、その量が変化する腫瘍マーカーとなり得るポリペプチド等の存在する可能性も高い。
研究の結果、本発明者らは、ヒト受容体型プロテインチロシンホスファターゼZ(Receptor type-Protein Tyrosine Phosphatase Receptor zeta:PTPRZ、PRPRZ1、PTPζ、又はRPTPβとも称する。本明細書では、しばしば「PTPRZ」と表記する。)における3種類のアイソフォームの細胞外領域に相当する一部領域が、グリオーマ患者の髄液中で著しく増加していることを見出した。
PTPRZをコードするPTPRZ1遺伝子は、グリオーマ細胞において高発現していることが知られている(Muller S., et al., 2003, Oncogene, 22: 6661-6668)。また、PTPRZが細胞浸潤と腫瘍形成において重要な機能を果たすことも知られている(Fujikawa et al., 2017, Scientific Reports, 17(1):5609)。しかし、マウスPtprzと異なり、ヒトPTPRZのアイソフォームには分泌型PTPRZが同定されていない。それ故に、髄液中に放出されたヒトPTPRZの一部領域とは、PTPRZの細胞外領域がプロテアーゼ等によって切断され、遊離型となったペプチド断片であることを示唆している。
髄液中に遊離したPTPRZの細胞外領域(遊離型PTPRZ)の量がグリオーマ患者で増加していることや、グリオーマと画像所見が類似する他の中枢神経系疾患では、この遊離型PTPRZの増加が認められないことは、これまでに報告がなかった。したがって、これらの結果は、ヒト髄液中の遊離型PTPRZがグリオーマ特異的なバイオマーカーとなり得ることを示唆している。本発明は、当該知見に基づいて開発されたものであって、以下を提供する。
(1)グリオーマの検出方法であって、被験者に由来する髄液の単位容量あたりに含まれる遊離型受容体型プロテインチロシンホスファターゼZ(遊離型PTPRZ)のタンパク質量を測定し、その測定値を得る測定工程、及び前記測定工程で得られた測定値に基づき、当該被験者のグリオーマの罹患の有無をin vitroで判定する判定工程を含み、前記遊離型PTPRZは配列番号4又は5で示すアミノ酸配列からなるPTPRZの細胞外領域が切断されてなる、前記方法。
(2)前記判定工程で、グリオーマ患者及び非グリオーマ患者の測定値から算出されるカットオフ値に基づいて、前記被験者のグリオーマ罹患可能性を判定する、(1)に記載の方法。
(3)前記判定工程で、被験者の測定値とグリオーマに罹患していない対照者に由来する髄液の単位容量あたりに含まれる遊離型PTPRZの測定値とを比較して、被験者の測定値が対照者の測定値よりも高いときに、前記被験者はグリオーマに罹患している可能性が高いと判定する、(1)に記載の方法。
(4)グリオーマと他の中枢神経系原発腫瘍又は中枢神経系非腫瘍性疾患との鑑別方法であって、被験者に由来する髄液の単位容量あたりに含まれる遊離型PTPRZのタンパク質量を測定し、その測定値を得る測定工程、及び前記測定工程で得られた測定値に基づいて、当該被験者が前記いずれの疾患に罹患しているかをin vitroで判定する判定工程を含み、前記被験者はグリオーマ、他の中枢神経系原発腫瘍、又は中枢神経系非腫瘍性疾患のいずれかに罹患の疑いがあり、前記遊離型PTPRZは配列番号4又は5で示すアミノ酸配列からなるPTPRZの細胞外領域が切断されてなる、前記方法。
(5)前記他の中枢神経系原発腫瘍が悪性リンパ腫又は神経鞘腫であり、また前記中枢神経系非腫瘍性疾患が多発性硬化症である、(4)に記載の鑑別方法。
(6)配列番号4又は5で示すアミノ酸配列からなるPTPRZの細胞外領域の全部又は一部を特異的に認識し、結合する結合手段を含むグリオーマ検出用キット。
(7)前記結合手段が抗体又はアプタマーである、(6)に記載のグリオーマ検出用キット。
(8)グリオーマ再発の有無を評価する方法であって、グリオーマ治療歴のある被験者において、術後、所定の期間が経過した前記被験者に由来する髄液の単位容量あたりに含まれる遊離型PTPRZのタンパク質量を測定し、その測定値を得る測定工程、前記測定工程で得られた測定値に基づき、当該被験者のグリオーマ再発の有無をin vitroで評価する評価工程を含み、前記遊離型PTPRZはPTPRZの細胞外領域が切断されてなる、前記評価方法。
(9)前記評価工程で、グリオーマ患者及び非グリオーマ患者の測定値から算出されるカットオフ値に基づいて前記被験者のグリオーマ再発可能性を評価する、(8)に記載の方法。
(10)前記評価工程で、被験者の測定値とグリオーマに罹患していない対照者に由来する髄液の単位容量あたりに含まれる遊離型PTPRZの測定値とを比較して、被験者の測定値が対照者の測定値よりも高いときに、前記被験者はグリオーマを再発した可能性が高いと評価する、(8)に記載の方法。
(11)遊離型PTPRZからなるグリオーマ検出用のバイオマーカー。
(12)前記遊離型PTPRZはPTPRZの細胞外領域で構成される、(11)に記載のバイオマーカー。
(13)前記遊離型PTPRZが配列番号4で示すアミノ酸配列又はその一部を含む、(11)又は(12)に記載のバイオマーカー。
(14)前記その一部を含む遊離型PTPRZが配列番号5で示すアミノ酸配列からなる、(13)に記載のバイオマーカー。
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2018-125216号の開示内容を包含する。
本発明のグリオーマ検出方法によれば、被験者の髄液を検査試料とし、簡便かつ容易にグリオーマの罹患を検出することができる。
また、本発明のグリオーマ検出方法によれば、グリオーマと画像診断における所見の類似性の高い、中枢神経原発悪性リンパ種のような悪性腫瘍や多発性硬化症(multiple sclerosis:MS)のような中枢神経系非腫瘍性疾患との鑑別を、明瞭かつ正確に行うことができる。また、グリオーマ以外の神経鞘腫のような良性腫瘍との鑑別にも有用である。
本発明のグリオーマ検出用キットによれば、被験者由来の髄液中に存在し得るグリオーマ検出用バイオマーカーを検出し、その被験者のグリオーマ罹患を、容易かつ簡便に検出することができる。
ヒトPTPRZの3種類のアイソフォームの構造を示す概念図である。Aはアイソフォーム1を、Bはアイソフォーム2を、Cはアイソフォーム3を示す。図中、CAはカルボニックアンヒドラーゼ様ドメインを、FNはタイプIIIフィブロネクチン様ドメインを、CSはコンドロイチン硫酸鎖結合領域を、TMは膜貫通ドメインを、D1とD2はいずれもPTPドメインを表す。 本実施例におけるウェスタンブロッティングを示す図である。図中、I~IVは、各グレードのグリオーマ罹患患者由来の髄液を、SWは神経鞘腫罹患患者由来の髄液を、MSは多発性硬化症罹患患者由来の髄液を、Cont.1,2は特発性正常圧水頭症罹患患者の髄液をそれぞれ示している。fPTPRZ-long及びfPTPRZ-shortは、修飾糖鎖等の影響によりそれぞれ約400kDa(約350~400kDa)、約190kDa(約160~190kDa)の位置にブロードなバンドを生じる。 実施例2で得られた400kDa付近のバンド(A)及び190kDa付近のバンド(B)を定量化した図である。縦軸はシグナル強度を示す。なお、データは平均値±標準誤差で示した。 実施例3で得られた400kDa付近のバンド(A)及び190kDa付近のバンド(B)を定量化した図である。縦軸はシグナル強度を示す。なお、データは平均値±標準誤差で示した。 実施例4で得られた400kDa付近のバンド(A)及び190kDa付近のバンド(B)を定量化した図である。縦軸はシグナル強度を示す。なお、データは平均値±標準誤差で示した。
1.グリオーマ検出方法
1-1.概要
本発明の第1の態様は、グリオーマ検出方法である。本発明は、被験者由来の髄液中に含まれるグリオーマ検出用バイオマーカーの量を測定し、その測定値に基づいて、例えばin vitroでの検査により、該被験者のグリオーマの罹患の有無を判定することを特徴とする。
本発明の方法によれば、侵襲性が極めて高い脳の生検術を必要とせず、また、従来、画像診断だけではグリオーマとの鑑別が困難であった他の中枢神経系原発腫瘍や中枢神経系非腫瘍性疾患との鑑別も容易になる。
1-2.定義
本明細書において使用する以下の用語について定義する。
「グリオーマ(神経膠腫)」は、脳神経細胞を支持する神経膠細胞(グリア細胞)より発生するとされる腫瘍の総称で、膠芽腫、星細胞系腫瘍、乏突起膠細胞系腫瘍、上衣系腫瘍等が含まれる。グリオーマは、浸潤性が高く、悪性脳腫瘍に分類されるものが臨床上大半を占める。ただし、グリオーマは、悪性度に応じて、病理診断上、4つのWHOグレードに分けられ、グレードが高いほど悪性度が高いとされており、一部には良性腫瘍も含まれる。一般に、毛様細胞性星細胞腫等はグレードIに、びまん性星細胞腫、及び乏突起神経膠腫等はグレードIIに、退形成性星細胞腫及び退形成性乏突起神経膠腫等はグレードIIIに、そして膠芽腫はグレードIVに分類されている。このうちグレードIが良性腫瘍に、またグレードII、III、IVが悪性腫瘍に該当する。特にグレードIVの悪性度は非常に高く、手術及び放射線・化学療法を行っても平均余命が14か月に留まる。本明細書のグリオーマは、いずれのグレードに属する腫瘍も包含し、また、本発明の方法及びキットにおけるグリオーマは、いずれのグレードも対象となり得る。
本明細書において「中枢神経系原発腫瘍」とは、脳や脊髄等の中枢神経系で最初に発生する腫瘍をいう。本明細書では、良性腫瘍及び悪性腫瘍のいずれも包含する。良性腫瘍の例として、限定はしないが、髄膜種・神経鞘腫が挙げられる。また、悪性腫瘍の例として、限定はしないが、グリオーマや悪性リンパ腫が挙げられる。本明細書において「他の中枢神経系原発腫瘍」とは、グリオーマ以外の中枢神経系原発腫瘍を意味する。特に、診断上、グリオーマとの鑑別が困難な中枢神経系原発腫瘍が該当する。
本明細書において「中枢神経系非腫瘍性疾患」とは、中枢神経系で発生する非腫瘍性の疾患をいう。特に、診断上、グリオーマとの鑑別が困難な非腫瘍性疾患が該当する。例えば、限定はしないが、多発性硬化症が挙げられる。
本明細書において「グリオーマ検出用バイオマーカー」とは、グリオーマの罹患の有無を反映するバイオマーカーである。グリオーマと、他の中枢神経系原発腫瘍、又は中枢神経系非腫瘍性疾患との鑑別用マーカーにもなり得る。
本明細書におけるグリオーマ検出用バイオマーカーは、具体的には、受容体型プロテインチロシンホスファターゼZの細胞外領域からなるポリペプチド若しくは当該領域からなる糖鎖化ポリペプチド(Glycosylated polypeptide)、又はその一部からなるポリペプチドである。グリオーマに罹患している患者では、その量が非グリオーマ患者と比較して増加している。
「受容体型プロテインチロシンホスファターゼZ(前述のように、本明細書では、しばしば「PTPRZ」と表記する。)」は、プロテインチロシンホスファターゼスーパーファミリーに属する受容体型プロテインチロシンホスファターゼ(receptor-type PRPs:RPTPs)の1つで、N末端側を細胞質外に露出させた1回膜貫通型の膜タンパク質である。RPTPsは、構造的類似性から8つのサブファミリーに分類されるが、PTPRZはR5サブファミリーに分類されている。PTPRZは、細胞外のN末端側から順にカルボニックアンヒドラーゼ様ドメイン(CAドメイン)、タイプIIIフィブロネクチン様ドメイン(FNドメイン)、及びセリン-グリシンに富むコンドロイチン硫酸鎖結合領域(CS結合領域)、膜貫通ドメイン、そして細胞内のC末端側に位置する2つのPTPドメイン(D1及びD2)で構成されている。PTPRZは、主に中枢神経系で発現し、脱髄等に関与することが知られている(Harroch S. et al., 2002, Nat. Genet. 32, 411-4; Kuboyama K. et al. 2012, PloS One. 7, e48797)。
本明細書におけるPTPRZは、特に断りのない限りヒトPTPRZを意味する。野生型のヒトPTPRZは、図1に示す3種類のアイソフォーム(アイソフォーム1~3)が同定されている。
アイソフォーム1(本明細書では、しばしば「PTPRZ-iso1」と表記する。)は、配列番号1で示す2315アミノ酸残基からなる。PTPRZ-iso1は、最長のPTPRZであって、1~24位にシグナルペプチドを、45~298位にCAドメインを、313~401位にFNドメインを、1637~1662位に膜貫通ドメインを、1717~1992位にD1ドメインを、そして2023~2282位にD2ドメインを有する。また、CS結合領域は、前記FNドメインと膜貫通ドメイン間でCS鎖結合している領域が該当する。このうち細胞外領域は、配列番号1で示すアミノ酸配列において25~1636位に相当する配列番号4で示すアミノ酸配列からなる。
アイソフォーム2(本明細書では、しばしば「PTPRZ-iso2」と表記する。)は、配列番号2で示す2308アミノ酸残基からなる。PTPRZ-iso2は、PTPRZ-iso1におけるD1ドメインの1723~1729位に相当する8アミノ酸残基が欠失したアイソフォームである。したがって、アイソフォーム2の細胞外領域は、アイソフォーム1のそれと一致し、配列番号4で示すアミノ酸配列からなる。
アイソフォーム3(本明細書では、しばしば「PTPRZ-iso3」と表記する。)は、配列番号3で示す1448アミノ酸残基からなる。PTPRZ-iso3は、PTPRZ-iso1におけるCS結合領域の大部分に相当し得る755~1614位の860アミノ酸残基と、1723~1729位に相当する8アミノ酸残基が欠失したアイソフォームである。したがって、アイソフォーム3の細胞外領域は、アイソフォーム1及び2のそれよりも短く、配列番号1で示すアミノ酸配列において25~754位及び1615~1636位に相当する配列番号5で示すアミノ酸配列からなる。
なお、マウスPtprzにおいても、Ptprz-A、Ptprz-B、及びPtprz-Sからなる3種類のアイソフォームが知られている(Chow J.P., et al., 2008, J Biol Chem., 283(45):30879-89)。しかし、全てのアイソフォームが膜タンパク質であるヒトPTPRZと異なり、マウスのPtprz-Sは、膜貫通ドメインやチロシンフォスファターゼドメインを含まない分泌型Ptprとして発現している。
本明細書において「遊離型受容体型プロテインチロシンホスファターゼZ(本明細書では、しばしば「遊離型PTPRZ」又は「fPTPRZ(free-type PTPRZ)」と表記する。)」とは、前記ヒトPTPRZにおける各アイソフォームの細胞外領域からなるポリペプチド断片若しくは当該領域からなる糖鎖化ポリペプチド断片、又はその一部からなるポリペプチド断片をいう。ここで「その一部からなるポリペプチド断片」とは、前記ヒトPTPRZにおける各アイソフォームの細胞外領域からなるポリペプチド断片若しくは当該領域からなる糖鎖化ポリペプチド断片が分解されて生じる任意の断片を意味する。PTPRZには、細胞外領域のC末端側にプロテアーゼに対し感受性の高い部位が存在する。この部位がメタロプロテアーゼ等のプロテアーゼの分解により切断されること等により、遊離型PTPRZとなる。
前述のように、遊離型PTPRZには、PTPRZの細胞外ドメインに由来する約400kDaのlong-form(本明細書では、しばしば「fPTPRZ-long」と表記する。)と約190kDaのshort-form(本明細書では、しばしば「fPTPRZ-short」と表記する。)の2種類が主に存在するが、いずれもグリオーマ検出用バイオマーカーとなり得る。したがって、本明細書では、特に断りのない限り遊離型PTPRZは、fPTPRZ-long及びその一部を含むポリペプチド、例えばfPTPRZ-shortを意味するものとする。あるいは、遊離型PTPRZは、fPTPRZ-short及びその一部を含むポリペプチドを意味するものとする。例えば、遊離型PTPRZは、配列番号4で示すアミノ酸配列(1612アミノ酸)の、連続する、1129アミノ酸以上、1209アミノ酸以上、1290アミノ酸以上、1371アミノ酸以上、1451アミノ酸以上、1532アミノ酸以上、1580アミノ酸以上、及び1596アミノ酸以上のアミノ酸配列を含むペプチド等が例示される。また、例えば、遊離型PTPRZは、配列番号5で示すアミノ酸配列(752アミノ酸)の、連続する、269アミノ酸以上、349アミノ酸以上、430アミノ酸以上、511アミノ酸以上、591アミノ酸以上、672アミノ酸以上、720アミノ酸以上、及び736アミノ酸以上のアミノ酸配列を含むペプチド等が例示される。さらに、例えば、遊離型PTPRZは、fPTPRZ-longに由来する、175kDa以上、200kDa以上、225kDa以上、250kDa以上、275kDa以上、300kDa以上、325kDa以上、350kDa以上、及び375kDa以上の分子量の断片等が例示される。また、例えば、遊離型PTPRZは、fPTPRZ-shortに由来する、25kDa以上、50kDa以上、75kDa以上、90kDa以上、115kDa以上、140kDa以上、及び165kDa以上の分子量の断片等が例示される。
なお、fPTPRZ-long及びfPTPRZ-shortは、糖鎖修飾を有するため分子量が不均一な分子として検出され得る。本明細書では、fPTPRZ-long及びfPTPRZ-shortに対応する分子量の範囲を、便宜的にそれぞれ「約400kDa」、「約190kDa」と記載するが、「約400kDa」とは、例えば約350~400kDa、約350kDaの分子量を含むものとする。また、「約190kDa」とは、例えば約160~190kDa、約160kDa、約180kDaの分子量を含むものとする。
本明細書において「髄液」とは、脳脊髄液(cerebrospinal fluid:CSF)をいう。髄液は、脳と脊髄の周囲にのみ存在する無色透明の液体で、他の臓器とは硬膜、血液とは血液脳関門や血液脳脊髄液関門で隔てられている。髄液は、脈絡叢からの分泌や脳実質からの滲出に由来し、脳細胞と髄液との間には障壁が事実上存在しないことが近年の研究から明らかとなっている(Wang C, et al., 2012, Cerebrospinal Fluid: Physiology, biomarker and methodology. In: V. S, Dolezal, T., editor. Cerebrospinal Fluid: Functions, Composition and Disorders. New York: Nova Science Publishers; pp.1-37.)。
本明細書において「被験者」とは、本発明の方法又はキットの適用対象となるヒト個体をいう。被験者は、限定はしないが、グリオーマ罹患の疑いがある患者、特に、医師による所見や画像診断によりグリオーマ罹患の疑いがあるが、悪性リンパ腫のようなグリオーマ以外の中枢神経系原発腫瘍や多発性硬化症のような中枢神経系非腫瘍性疾患との判別が困難な患者が好適である。被験者における性別、年齢、身長、体重、治療歴、健康状態、遺伝的素因等の条件は問わない。
本明細書において「対照者」とは、本発明の方法又はキットにおいて対照となるヒト個体をいう。具体的には、グリオーマに罹患していないことが明白なヒト個体(非グリオーマ患者)である。限定はしないが、対照者は被験者の条件に近い個体が好ましい。例えば、被験者と同性で、同年齢の者が挙げられる。
1-3.方法
本発明のグリオーマ検出方法は、測定工程、及び判定工程を必須工程として含む。以下、各工程について具体的に説明をする。
1-3-1.測定工程
「測定工程」は、単位容量あたりの髄液中に含まれるグリオーマ検出用バイオマーカーのタンパク質量を測定し、その測定値を得る工程である。本工程での測定対象となるグリオーマ検出用バイオマーカーは、前述のように髄液中に存在する遊離型PTPRZである。測定対象は、fPTPRZ-long又はその一部を含むポリペプチド、例えばfPTPRZ-short、あるいはそれらの任意の組合せである。
本工程で測定に供される髄液は、被験者由来の髄液である。被験者から髄液を採取する方法は、既知の方法であればよく、特に限定はしない。例えば、腰椎穿刺により採取すればよい。腰椎穿刺は、事前に市販の局所麻酔薬を用いることで、痛みを採血と同等程度にすることが可能であり、また無外傷性針を用いることで、副作用を軽減できることから侵襲性が比較的低く、髄液を採取する場合には好適な方法である。また、手術過程で、グリオーマ患者から採取された髄液は治療効果判定用の陽性コントロールとなる。
「単位容量」は、容量の単位であって、例えば、マイクロリットル(μL)若しくは立方mm(mm3)、ミリリットル(mL)若しくは立方cm(cm3)、及びリットル(L)等が挙げられる。
本明細書において「測定値」は、単位容量あたりの髄液中に含まれるグリオーマ検出用バイオマーカーの量を測定し、得られた値である。
本工程で測定に供する髄液の量は限定しないが、例えば、1μL~10μL、2μL~20μL、5μL~50μL、8μL~80μL、10μL~100μL、20μL~200μL、50μL~500μL、80μL~800μL、100μL~1mL、200μL~2mL、又は500μL~5mLの範囲内であればよい。
髄液中のグリオーマ検出用バイオマーカーのタンパク質量を測定する方法は、ペプチド定量方法であればよく、特に限定はしない。例えば、免疫学的検出法、アプタマー解析法、又は質量分析法等の公知の定量方法を利用できる。以下、各定量法について説明をする。
(1)免疫学的検出法
「免疫学的検出法」とは、標的分子と特異的に結合する抗体又はその結合断片を用いて、その標的分子を定量する方法である。免疫学的検出法には、例えば、酵素免疫測定法(ELISA法、EIA法を含む)、蛍光免疫測定法、放射免疫測定法(RIA)、発光免疫測定法、表面プラズモン共鳴法(SPR法)、水晶振動子マイクロバランス(QCM)法、免疫比濁法、ラテックス凝集免疫測定法、ラテックス比濁法、赤血球凝集反応、粒子凝集反応法、金コロイド法、キャピラリー電気泳動法、ウェスタンブロット法又は免疫組織化学法(免疫染色法)等が知られているが、本方法ではいずれの検出法を用いてもよい。限定はしないが、ELISA法は好適であり、標的分子の異なる2つのエピトープをそれぞれ特異的に認識する抗体を用いたサンドイッチELISA法は、簡便性、検出感度、及び定量性の点から特に好ましい。
抗fPTPRZ抗体は、遊離型PTPRZの全長又はその一部(例えば、CS結合領域、CAドメイン、又はFNドメイン)を抗原とし、常法により作製すればよい。具体的には、配列番号4又は5で示すアミノ酸配列からなるポリペプチド、又はその断片を抗原とすることができる。PTPRZの細胞外領域に特異的に結合する市販のPTPRZ抗体を使用してもよい。抗体は、モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体のいずれを使用してもよい。抗体がポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体の場合、それを構成する免疫グロブリンは、任意のクラス(例えば、IgG、IgE、IgM、IgA、IgD及びIgY)、又は任意のサブクラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2)でよい。抗体は、哺乳動物及び鳥を含めたいずれの動物由来でもよい。抗体由来動物として、例えば、ウサギ、マウス、ラット、モルモット、ヤギ、ロバ、ヒツジ、ラクダ、ラマ、アルパカ、ウマ、ニワトリ又はヒト等が挙げられる。
免疫学的検出法では、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体に基づき、人為的に作製した抗体も使用することができる。そのような抗体として、例えば、組換え抗体、合成抗体、及び抗体フラグメントが挙げられる。
「組換え抗体」は、遺伝子組換え技術を用いて作製された抗体であり、キメラ抗体、ヒト化抗体、及び多重特異性抗体等を含む。
「キメラ抗体」とは、分子生物学的手法を用いて、ある動物由来の抗体の可変領域(V領域)を他の異なる動物由来の抗体のV領域で置換した抗体である。例えば、グリオーマ検出用バイオマーカーであるfPTPRZと特異的に結合するマウス由来の抗fPTPRZモノクローナル抗体のV領域をヒト抗体のV領域と置き換えて、V領域がマウス由来、C領域がヒト由来となった抗体が該当する。
「ヒト化抗体」とは、ヒト以外の哺乳動物、例えば、マウス由来のモノクローナル抗体のV領域における相補性決定領域(CDR;CDR1、CDR2及びCDR3)を適当なヒトモノクローナル抗体の対応するCDRと置換したグラフト抗体である。例えば、マウス由来の抗fPTPRZモノクローナル抗体における各CDRをヒトモノクローナル抗体の対応するCDRとそれぞれ置換して得られる抗fPTPRZヒト化抗体が該当する。
「多重特異性抗体」とは、多価抗体、すなわち抗原結合部位を一分子内に複数有する抗体において、それぞれの抗原結合部位が異なるエピトープと結合する抗体をいう。例えば、IgGのように2つの抗原結合部位を有する抗体であれば、それぞれの抗原結合部位が同一の又は異なる抗原と特異的に結合する二重特異性抗体(Bispecific抗体)が挙げられる。
「合成抗体」は、化学的方法又は組換えDNA法を用いることによって合成した抗体をいう。例えば、適当な長さと配列を有するリンカーペプチド等を介して、特定の抗体の一以上の軽鎖可変領域(VL領域)及び一以上の重鎖可変領域(VH領域)を人工的に連結させた一量体ポリペプチド分子、又はその多量体ポリペプチドが該当する。このようなポリペプチドの具体例としては、一本鎖Fv(scFv :single chain Fragment of variable region)(Pierce Catalog and Handbook, 1994-1995, Pierce Chemical Co., Rockford, IL参照)、ダイアボディ(diabody)、トリアボディ(triabody)又はテトラボディ(tetrabody)等が挙げられる。免疫グロブリン分子において、VL領域及びVH領域は、通常別々のポリペプチド鎖(軽鎖と重鎖)上に位置する。一本鎖Fvは、これら2つのポリペプチド鎖上のV領域を十分な長さの柔軟性リンカーによって連結し、1本のポリペプチド鎖に包含した構造を有する合成抗体断片である。一本鎖Fv内において両V領域は、互いに自己集合して1つの機能的な抗原結合部位を形成することができる。一本鎖Fvは、それをコードする組換えDNAを、公知技術を用いてファージゲノムに組み込み、発現させることで得ることができる。ダイアボディは、一本鎖Fvの二量体構造を基礎とした構造を有する分子である(Holliger et al., 1993, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:6444-6448)。例えば、上記リンカーの長さが約12アミノ酸残基よりも短い場合、一本鎖Fv内の2つの可変部位は自己集合できないが、ダイアボディを形成させることにより、すなわち、2つの一本鎖Fvを相互作用させることにより、一方のFv鎖のVL領域が他方のFv鎖のVH領域と集合可能となり、2つの機能的な抗原結合部位を形成することができる(Marvin et al., 2005, Acta Pharmacol. Sin. 26:649-658)。さらに、一本鎖FvのC末端にシステイン残基を付加させることにより、2本のFv鎖同士のジスルフィド結合が可能となり、安定的なダイアボディを形成させることもできる(Olafsen et al., 2004, Prot. Engr. Des. Sel. 17:21-27)。このようにダイアボディは二価の抗体断片であるが、それぞれの抗原結合部位は、同一エピトープと結合する必要はなく、それぞれが異なるエピトープを認識し、特異的に結合する二重特異性を有していてもよい。トリアボディ、及びテトラボディは、ダイアボディと同様に一本鎖Fv構造を基本としたその三量体、及び四量体構造を有する。それぞれ、三価、及び四価の抗体断片であり、多重特異性抗体であってもよい。
「抗体フラグメント」とは、例えば、Fab、F(ab’)2、Fv等が該当する。
(2)アプタマー解析法
「アプタマー解析法」は、立体構造によって標的物質と強固、かつ特異的に結合するアプタマーを用いて、標的分子であるグリオーマ検出用バイオマーカーを定量する方法である。アプタマーは、その分子の種類により、核酸アプタマーとペプチドアプタマーに大別することができるが、いずれのアプタマーであってもよい。
「核酸アプタマー」とは、核酸で構成されるアプタマーをいう。核酸アプタマーを構成する核酸は、DNA、RNA又はそれらの組合せのいずれであってもよい。必要に応じて、PNA、LNA/BNA、メチルホスホネート型DNA、ホスホロチオエート型DNA、2'-O-メチル型RNA等の化学修飾核酸を含むこともできる。本発明であれば、抗fPTPRZ RNAアプタマー又は抗fPTPRZ DNAアプタマー等が挙げられる。
核酸アプタマーは、グリオーマ検出用バイオマーカー、すなわち、fPTPRZの全長又は一部を標的分子として、当該分野で公知の方法、例えば、SELEX(systematic evolution of ligands by exponential enrichment)法を用いて作製することができる。SELEX法は、公知の方法であり、具体的な方法は、例えば、Panら(Proc. Natl. Acad. Sci. 1995, U.S.A.92: 11509-11513)に準じて行えばよい。
ペプチドアプタマーとは、アミノ酸で構成されるアプタマーで、抗体と同様に、特定の標的分子の表面構造を認識して、特異的に結合する1~6kDaのペプチド分子である。本発明であれば、抗fPTPRZペプチドアプタマーが挙げられる。ペプチドアプタマーは、当該分野で公知製造の方法に基づいて作製すればよい。例えば、Whaley, S.R., et al., 2000, Nature, 405, 665-668を参照することができる。通常は、ファージディスプレイ法や細胞表層ディスプレイ法を用いて作製することができる。
上記抗体又はアプタマーは、必要に応じて標識されていてもよい。標識は、当該分野で公知の標識物質を利用すればよい。抗体及びペプチドアプタマーの場合、例えば、蛍光色素(フルオレセイン、FITC、ローダミン、テキサスレッド、Cy3、Cy5)、蛍光タンパク質(例えば、PE、APC、GFP)、酵素(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、グルコースオキシダーゼ)、放射性同位元素(例えば、3H、14C、35S)又はビオチン若しくは(ストレプト)アビジンにより標識することができる。また、核酸アプタマーの場合、例えば、放射性同位元素(例えば、32P、3H、14C)、DIG、ビオチン、蛍光色素(例えば、FITC、Texas、cy3、cy5、cy7、FAM、HEX、VIC、JOE、Rox、TET、Bodipy493、NBD、TAMRA)、又は発光物質(例えば、アクリジニウムエスター)が挙げられる。標識物質で標識された抗体やアプタマーは、標的タンパク質と結合したアプタマーを検出する際に有用なツールとなり得る。
(3)質量分析法
「質量分析法」には、高速液体クロマトグラフ質量分析法(LC-MS)、高速液体クロマトグラフタンデム質量分析法(LC-MS/MS)、ガスクロマトグラフ質量分析法(GC-MS)、ガスクロマトグラフタンデム質量分析法(GC-MS/MS)、キャピラリー電気泳動質量分析法(CE-MS)及びICP質量分析法(ICP-MS)が挙げられる。
上記免疫学的検出法、アプタマー解析法、及び質量分析法は、いずれも当該分野に公知の技術であって、それらの方法に準じて行えばよい。例えば、Green, M.R. and Sambrook, J., 2012, Molecular Cloning: A Laboratory Manual Fourth Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York;Christopher J., et al., 2005, Chemical Review,105:1103-1169;Iijima Y. et al., 2008,.The Plant Journal, 54,949-962;Hirai M. et al.,2004, Proc Natl Acad Sci USA, 101(27) 10205-10210;Sato S, et al., 2004,,The Plant Journal, 40(1)151-163; Shimizu M. et al., 2005, Proteomics, 5,3919-3931に記載の方法に準じて行うことができる。また、各メーカーからペプチド定量キットが市販されており、それらを利用することもできる。
1-3-2.判定工程
「判定工程」は、前記測定工程で得られた測定値に基づき、被験者におけるグリオーマの罹患の有無を判定する工程である。
測定値に基づいた判定方法として、限定はしないが、例えば、カットオフ値を定め、そのカットオフ値に基づきグリオーマの罹患を判定する方法、及び被験者の測定値を対照者群の測定平均値と比較したときの統計学的有意差に基づきグリオーマの罹患を判定する方法が挙げられる。
カットオフ値は、定量結果を陽性、陰性に分類するための境界値をいう。カットオフ値は、通常、疾患の罹患率とROC曲線(receiver operating characteristic curve)より算出された感度及び特異度に基づき算出することができる。カットオフ値により陽性と判定された被験者はグリオーマに罹患している可能性が高いことを、また陰性と判定された被験者はグリオーマに罹患していない可能性が高いことをそれぞれ示す。カットオフ値の設定法は特に限定しない。
例えば、所定の値をカットオフ値と定め、測定値がその値以上であれば、測定工程での髄液提供者である被験者は陽性であり、グリオーマに罹患している可能性が高いと判定すればよい。逆にカットオフ値未満であれば陰性であり、グリオーマには罹患していない可能性が高いと判定すればよい。例えば、被験者の測定値とグリオーマに罹患していない対照者に由来する髄液の単位容量あたりに含まれる遊離型PTPRZの測定値とを比較して、被験者の測定値が対照者の測定値よりも高いときに、前記被験者はグリオーマに罹患している可能性が高いと判定することができる。
または、対照者群から得られた測定値をパーセンタイルで分類し、その分類に用いたパーセンタイル値をカットオフ値とすることもできる。例えば、対照者から得られた測定値の95パーセンタイルをカットオフ値とし、その値以上を陽性、値未満を陰性とした場合、被験者の測定値が95パーセンタイル以上であれば、被験者は陽性のため、グリオーマに罹患している可能性が高いと判定すればよい。
統計学的有意差に基づき判定する方法は、有意性の有無を判断可能な公知の検定方法であれば限定はしない。例えば、t検定法や多重比較検定法等が挙げられる。「統計学的(に)有意」とは、帰無仮説の下で、得られた値の偶然性が統計確率的に低く、意味があることをいい、「有意差」とは2つの値の間で有意な差があることをいう。具体的には、危険率(有意水準)が5%、1%、0.3%、0.2%又は0.1%より小さい場合が挙げられる。本方法の場合であれば、被験者の測定値と対照者群の平均測定値を前記t検定法等により統計学的に処理したときに、両者間に統計学的有意差があることをいう。「対照者群の平均測定値」とは、前記測定工程において被験者に対して行った測定方法と同じ方法により、複数の対照者から得た測定値の平均値をいう。
対照者群の測定平均値と被験者の測定値の間に有意差が認められた場合、その被験者はグリオーマに罹患している可能性が高いと判定すればよい。一方、有意差が認められない場合、その被験者はグリオーマに罹患していない可能性が高いと判定すればよい。
1-4.効果
本発明の方法によれば、被験者の髄液のみを検査試料として要する。それ故に、侵襲性の極めて高い脳生検術を必要とせず、簡便、かつ容易にグリオーマの罹患を検出することができる。
また、本発明の方法によれば、グリオーマに特異的なバイオマーカーを用いて鑑別することから、従来、画像診断だけでは困難であった悪性リンパ腫のようなグリオーマ以外の中枢神経系原発腫瘍や、多発性硬化症のような中枢神経系非腫瘍性疾患との鑑別は明瞭、かつ正確であり、それらの疾患との誤診を防ぐことができる。
2.グリオーマ検出用キット
2-1.概要
本発明の第2の態様は、グリオーマ検出用キットである。本発明のキットは、グリオーマ検出用バイオマーカーに特異的に結合する結合手段を構成要素として含む。本発明のキットによれば、被験者由来の髄液中に存在し得るグリオーマ検出用バイオマーカーを検出し、その被験者のグリオーマ罹患を容易、かつ簡便に検出することができる。
2-2.構成
本発明のグリオーマ検出用キットは、必須の構成要素として結合手段を含む。
本明細書において「結合手段」とは、fPTPRZ、すなわちPTPRZの細胞外領域を特異的に認識し、結合する手段をいう。具体的には、配列番号4又は5で示すアミノ酸配列の全部、又は一部を特異的に認識し、結合する手段である。
結合手段を構成する素材は、特に限定はしないが、ポリペプチドや核酸が適当である。
ポリペプチドで構成される結合手段には、例えば、抗体、若しくはその結合断片、又はペプチドアプタマーが挙げられる。抗体の場合、標的抗原であるfPTPRZに結合する抗fPTPRZ抗体が例示される。ペプチドアプタマーの場合、fPTPRZに結合する抗fPTPRZペプチドアプタマーが例示される。抗fPTPRZ抗体については、第1態様の「1-3.方法」の章における「1-3-1.測定工程」の「(1)免疫学的検出法」で、また抗fPTPRZペプチドアプタマーについては、「(2)アプタマー解析法」で、それぞれ詳述したことから、ここでの具体的な説明は省略する。
核酸で構成される結合手段には、例えば、核酸アプタマー(RNAアプタマー、DNAアプタマー)が挙げられる。本発明の場合、標的抗原であるfPTPRZに結合する抗fPTPRZ RNAアプタマーや抗fPTPRZ DNAアプタマーが例示される。これらの核酸アプタマーについては、第1態様の「1-3.方法」の章における「1-3-1.測定工程」の「(2)アプタマー解析法」で詳述したことから、ここでの具体的な説明は省略する。
本発明のグリオーマ検出用キットは、前記結合手段を2種以上含むことができる。この場合、各結合手段の構成素材は同一であっても、異なっていてもよい。構成素材が同一の場合の例として、抗fPTPRZ抗体とその結合断片の組み合わせが挙げられる。また、構成素材が異なる場合の例として、抗fPTPRZ抗体と抗fPTPRZ RNAアプタマーの組み合わせが挙げられる。
本発明のグリオーマ検出用キットが結合手段を2種以上含む場合、各結合手段はfPTPRZの異なる部位を特異的に認識するものであってもよい。例えば、結合手段が抗体の場合、fPTPRZ上の異なるエピトープを認識して結合する2種以上の抗体が該当する。このようなfPTPRZの異なる部位を特異的に認識する複数種の結合手段は、例えば、サンドイッチELISA法等で使用することができ、より高い感度と精度でグリオーマ検出用バイオマーカーを検出できるため構成要素として好ましい。
なお、本発明のグリオーマ検出用キットの適用対象となる試料は、原則として単離された髄液である。これは、本発明がグリオーマ罹患患者において、PTPRZの細胞外領域が切断され、遊離型PTPRZとして髄液中に分泌される新規知見に基づくものであるからである。
3.グリオーマ再発評価方法
3-1.概要
本発明の第3の態様は、グリオーマ再発評価方法である。本発明の方法によれば、グリオーマ罹患患者において、術後所定期間を経過した後、グリオーマが再発したか否かを評価することできる。また、手術不能症例や放射線療法や化学療法の実施例における治療効果を評価することができる。
3-2.方法
本発明のグリオーマ再発評価方法は、測定工程、及び評価工程を必須工程として含む。以下、各工程について説明をする。
(1)測定工程
「測定工程」は、被験者に由来する髄液の単位容量あたりに含まれる遊離型PTPRZのタンパク質量を測定し、その測定値を得る工程であって、その基本構成は、第1態様のグリオーマ検出方法における測定工程とほとんど同じである。したがって、第1態様の測定工程と同一な点についての説明は省略し、ここでは異なる点についてのみ説明をする。
本態様の方法では、被験者の条件が第1態様の被験者のそれとは異なる。本態様の方法における被験者は、グリオーマに罹患していたことのある者、すなわちグリオーマ治療歴のある者であって、グリオーマ手術後に所定の期間が経過した者が該当する。ここでいう「所定の期間」とは、限定はしないが、例えば、症例から術後にグリオーマが再発し得る期間であればよい。具体的には、例えば、術後、3ヶ月、半年、9か月、1年、1.5年、2年、3年、4年、又は5年が挙げられる。
(2)評価工程
「評価工程」は、測定工程で得られた測定値に基づき、当該被験者のグリオーマ再発の有無を評価する工程である。
本工程において、測定値に基づいた評価方法は、第1態様のグリオーマ検出方法における測定工程に類似する。すなわち、限定はしないが、例えば、カットオフ値を定め、そのカットオフ値に基づきグリオーマの再発を評価する方法や被験者の測定値を対照者群の測定平均値と比較したときの統計学的有意差に基づきグリオーマの再発を評価する方法が挙げられる。
カットオフ値や統計学的有意差に関する説明は、第1態様のグリオーマ検出方法における判定工程で詳述していることから、ここではその説明を省略する。
本工程において、カットオフ値に基づきグリオーマの再発を評価する場合には、例えば、所定の値をカットオフ値と定め、測定値がその値以上であれば、測定工程での髄液提供者である被験者は陽性であり、グリオーマを再発している可能性が高いと評価すればよい。逆に測定値がカットオフ値未満であれば陰性であり、グリオーマを再発していない可能性が高いと評価すればよい。例えば、被験者の測定値とグリオーマに罹患していない対照者に由来する髄液の単位容量あたりに含まれる遊離型PTPRZの測定値とを比較して、被験者の測定値が対照者の測定値よりも高いときに、前記被験者はグリオーマを再発した可能性が高いと評価することができる。
また、パーセンタイル値をカットオフ値として用いる場合であれば、例えば、対照者から得られた測定値の95パーセンタイルをカットオフ値として、その値以上は陽性であり、被験者はグリオーマを再発している可能性が高いと評価すればよい。逆に、前記カットオフ値未満は陰性であり、被験者はグリオーマを再発していない可能性が高いと評価すればよい。
統計学的有意差に基づきグリオーマの再発を評価する方法も、基本的には第1態様のグリオーマ検出方法における判定工程と同じであって、対照者群の測定平均値と被験者の測定値の間に有意差が認められた場合、その被験者はグリオーマを再発している可能性が高いとし、逆に有意差が認められない場合には、グリオーマを再発していない可能性が高いと評価すればよい。
3-3.効果
本発明のグリオーマ再発評価方法によれば、グリオーマ治療歴のある者が術後所定の期間を経過した後に、グリオーマを再発しているか否かを、髄液採取という比較的侵襲性の低い措置のみで、簡便、かつ容易に評価することができる。
また、本発明のグリオーマ再発評価方法をグリオーマ治療中の被験者に対して定期的に継続して実施するあるいは治療前後に実施することで、手術、放射線、化学療法あるいはその他の治療に対して、それぞれの治療効果を評価することもできる。
<実施例1:髄液中の遊離型PTPRZの検証>
(目的)
PTPRZの細胞外領域に由来する2種類の遊離型PTPRZが、グリオーマ患者の髄液中に存在していることを検証する。
(方法)
グレードI~IVの各グリオーマ患者(4名)、神経鞘腫患者(1名)、及び多発性硬化症患者(1名)のそれぞれに由来する髄液中の遊離型PTPRZをウェスタンブロッティングで測定した。なお、本明細書の実施例で使用した髄液は、福島県立医科大学附属病院を中心とした医療機関で得られた患者試料であり、全患者からインフォームドコンセントを取得した。使用した抗体は、抗PTPRζ抗体であるMouse anti PTPζ IgMκ (sc-33664, Santa cruz)、及びGoat anti mouse IgM antibody-HRP (SAB-110, Stressgen)である。Mouse anti PTPζ IgMκはラット胎児脳からプロテオグリカン画分を調製して作製されたPTPRZ特異的モノクローナル抗体である。その他の試薬は、主にWako社より購入した。
遊離型PTPRZのCS結合領域には、多数のコンドロイチン硫酸鎖によって修飾されている。そこで、それらを消化するために上記各患者から採取した10μLの髄液にコンドロイチナーゼ消化を行った。具体的には、試料溶液に、終濃度100mM Tris-HCl(pH7.5)、60mM 酢酸ナトリウム、4mUコンドロイチナーゼABC(Sigma, 2905)を添加し、37℃にて1時間インキュベートした。
その後、ウェスタンブロッティングを行った。ウェスタンブロッティングは以下の手順で行った。コンドロイチナーゼ処理した試料溶液にLaemmliのSample buffer(終濃度20.8mM Tris-HCl(pH6.5)、8.3%グリセロール、1%SDS、1%βメルカプトエタノール)を加え、99℃で5分間加熱した。3~10%グラジエントポリアクリルアミドゲル(Atto社,NPG-310L)を用いてゲル1枚あたり20mA~25mAの定電流で60分間~70分間泳動した。ウェット式の転写装置を用いて、ニトロセルロース膜に350mAの定電流で45分間転写を行った。1%BSA-PBS(pH7.4)に4℃で1晩浸漬してブロッキングを行った後、PBS-0.1%Tween(PBS-T)で200倍希釈したマウス抗Ptprz IgMκ(Santa cruz, sc-33664)を一次抗体として含む1.5mLのPBS-T中で室温にて2時間振とうした。続いて、PBS-T中に5分間ずつ3回浸漬して洗浄した後、二次抗体として10,000倍希釈したHRP標識化ヤギ抗マウスIgM抗体(SAB-110, Stressgen)を含むPBS-Tと室温で2時間反応させた。TBS-Tで3回洗浄後、SuperSignal West Femto maximum sensitivity substrate(Thermo Fisher Scientific社, 34096)を用いて発色させて、得られたシグナルをATTO Ez-Capture MG(ATTO)で検出した。なお、バンドのシグナル強度の定量は、付属の定量ソフトCS Analyzerを用いて行った。
(結果)
図2で示す通り、各髄液から抗fPTPRZ抗体と反応を示す数本の又はブロードなバンドからなる約400kDa(約350~400kDa)のバンドと約190kDa(約160~190kDa)のバンドの2つが各患者由来の髄液から検出された。約400kDaと約190kDaのいずれのバンドもグリオーマ罹患患者の髄液では、そのグレードにかかわらず、他の疾患の同サイズのシグナル強度と比較して、強いシグナルが検出された。特に約400kDaのバンドのシグナル強度は著しく高かった。約400kDaのバンドは、fPTPRZ-longに相当し、約190kDaのバンドはfPTPRZ-shortに相当する。これは遊離型PTPRZであるfPTPRZ-longとfPTPRZ-shortが髄液中のグリオーマ検出用の腫瘍マーカーとなり得ることを示唆している。
<実施例2:髄液中の遊離型PTPRZのグリオーマ検出用バイオマーカーとしての検証>
(目的)
遊離型PTPRZ(fPTPRZ-long及びfPTPRZ-short)が、髄液中のグリオーマ検出用バイオマーカーとして機能し得ることを検証する。
(方法)
グレードI~IVの様々なグレードからなるグリオーマ患者群(15名、初発症例と再発症例の両方を含む)、多発性硬化症(MS)患者群(16名)、及び特発性正常圧水頭症群(iNPH)患者(14名)のそれぞれに由来する髄液中の遊離型PTPRZ(fPTPRZ-long及びfPTPRZ-short)をウェスタンブロッティングで測定した。iNPHは、髄液代謝異常症であって、グリオーマとの鑑別が困難な中枢神経系原発腫瘍及び中枢神経系非腫瘍性のいずれにも該当しない疾患である。それ故に、iNPH患者由来の髄液は、本実施例の陰性対照として使用した。具体的な方法については、実施例1に準じた。各患者から得られた約400kDa(以下、単に「400kDa」と表記する。)と約190kDa(以下、単に「190kDa」と表記する。)の遊離型PTPRZのシグナル強度を定量化して、比較した。
(結果)
図3で示すようにグリオーマ患者由来の髄液中の遊離型PTPRZのシグナル強度は、400kDaのfPTPRZ-long及び190kDaのfPTPRZ-shortのいずれも他疾患と比較して有意に高いことが明らかとなった。この結果から、どちらの遊離型PTPRZもグリオーマ特異的なバイオマーカーとなり得ることが立証された。
また、遊離型PTPRZ、特に400kDaのfPTPRZ-longをバイオマーカーとして用いることで、従来、画像診断の所見からは確定診断が困難であったグリオーマ患者と非グリオーマ患者(本実施例では多発性硬化症患者)とを明瞭かつ容易に鑑別できることも明らかとなった。
<実施例3:初発症例のグリオーマ患者群のみを対象とする検証>
(目的)
初発症例のグリオーマ患者群のみを対象として、遊離型PTPRZ(fPTPRZ-long及びfPTPRZ-short)が、髄液中のグリオーマ検出用バイオマーカーとして機能し得ることを、実施例2から被験者数を増やして検証する。なお、「初発症例」とは、過去にグリオーマを診断されたことのない患者が初めてグリオーマを診断された症例をいう。
(方法)
グレードI~IVの様々なグレードからなる初発症例のグリオーマ患者群(17名)、多発性硬化症(MS)患者群(27名)、及び対照群(21名、内訳はiNPH患者11名、片側顔面痙攣患者3名、未破裂脳動脈瘤患者4名、三叉神経痛患者3名)のそれぞれに由来する髄液中の遊離型PTPRZ(fPTPRZ-long及びfPTPRZ-short)をウェスタンブロッティングで測定した。
具体的には、実施例1に記載の方法に以下の改変を加えてウェスタンブロッティングを行った。コンドロイチナーゼ消化は、試料溶液に、終濃度100mM Tris-HCl(pH7.4)、60mM 酢酸ナトリウム、0.2mUコンドロイチナーゼABC(Sigma, 2905)を添加し、37℃にて1時間インキュベートすることで行った。泳動用試料の調製は、コンドロイチナーゼ処理した試料溶液にLaemmliのSample buffer(終濃度60mM Tris-HCl(pH6.5)、10%グリセロール、2%SDS、5%βメルカプトエタノール)を加え、95℃で5分間加熱することで行った。また、二次抗体反応は室温にて30分で行った。
(結果)
図4で示すように初発症例のグリオーマ患者由来の髄液中の遊離型PTPRZのシグナル強度は、400kDaのfPTPRZ-long及び190kDaのfPTPRZ-shortのいずれも他疾患と比較して有意に高いことが明らかとなった。この結果から、どちらの遊離型PTPRZも、初発症例のグリオーマ患者において、グリオーマ特異的なバイオマーカーとなり得ることが立証された。
また、遊離型PTPRZ、特に400kDaのfPTPRZ-longをバイオマーカーとして用いることで、初発症例のグリオーマ患者と非グリオーマ患者(本実施例では多発性硬化症患者)とを明瞭かつ容易に鑑別できることも明らかとなった。
<実施例4:再発症例のグリオーマ患者群のみを対象とする検証>
(目的)
再発症例のグリオーマ患者群のみを対象として、遊離型PTPRZ(fPTPRZ-long及びfPTPRZ-short)が、髄液中のグリオーマ検出用バイオマーカーとして機能し得ることを、実施例2から被験者数を増やして検証する。なお、「再発症例」とは、手術、放射線、化学療法等の治療によってグリオーマが一旦消失したと思われる状態を経た後にグリオーマが再出現した症例をいう。
(方法)
グレードI~IVの様々なグレードからなる再発症例のグリオーマ患者群(7名)、多発性硬化症(MS)患者群(27名)、及び対照群(21名、内訳はiNPH患者11名、片側顔面痙攣患者3名、未破裂脳動脈瘤患者4名、三叉神経痛患者3名)のそれぞれに由来する髄液中の遊離型PTPRZ(fPTPRZ-long及びfPTPRZ-short)をウェスタンブロッティングで測定した。具体的な方法については、実施例3に準じた。
(結果)
図5で示すように再発症例のグリオーマ患者由来の髄液中の遊離型PTPRZのシグナル強度は、400kDaのfPTPRZ-long及び190kDaのfPTPRZ-shortのいずれも他疾患と比較して有意に高いことが明らかとなった。この結果から、どちらの遊離型PTPRZも、再発症例のグリオーマ患者において、グリオーマ特異的なバイオマーカーとなり得ることが立証された。
また、遊離型PTPRZ、特に400kDaのfPTPRZ-longをバイオマーカーとして用いることで、再発症例のグリオーマ患者と非グリオーマ患者(本実施例では多発性硬化症患者)とを明瞭かつ容易に鑑別できることも明らかとなった。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。

Claims (12)

  1. グリオーマの検出方法であって、
    被験者に由来する髄液の単位容量あたりに含まれる遊離型受容体型プロテインチロシンホスファターゼZ(遊離型PTPRZ)のタンパク質量を測定し、その測定値を得る測定工程、及び
    前記測定工程で得られた測定値と、グリオーマ患者及び非グリオーマ患者の測定値から算出されるカットオフ値とを比較して、被験者の測定値がカットオフ値よりも高いときに、前記被験者はグリオーマに罹患している可能性が高いと判定する判定工程
    を含み、
    前記遊離型PTPRZは配列番号4又は5で示すアミノ酸配列からなるPTPRZの細胞外領域が切断されて髄液中に遊離した断片からなる、前記方法。
  2. グリオーマの検出方法であって、
    被験者に由来する髄液の単位容量あたりに含まれる遊離型PTPRZのタンパク質量を測定し、その測定値を得る測定工程、及び
    前記測定工程で得られた測定値とグリオーマに罹患していない対照者に由来する髄液の単位容量あたりに含まれる遊離型PTPRZの測定値とを比較して、被験者の測定値が対照者の測定値よりも高いときに、前記被験者はグリオーマに罹患している可能性が高いと判定する判定工程
    を含み、
    前記遊離型PTPRZは配列番号4又は5で示すアミノ酸配列からなるPTPRZの細胞外領域が切断されて髄液中に遊離した断片からなる、前記方法。
  3. グリオーマと他の中枢神経系原発腫瘍又は中枢神経系非腫瘍性疾患との鑑別方法であって、
    被験者に由来する髄液の単位容量あたりに含まれる遊離型PTPRZのタンパク質量を測定し、その測定値を得る測定工程、及び
    前記測定工程で得られた測定値と、グリオーマ患者及び非グリオーマ患者の測定値から算出されるカットオフ値とを比較して、被験者の測定値がカットオフ値よりも高いときに、前記被験者はグリオーマに罹患している可能性が高いと判定する判定工程
    を含み、
    前記被験者はグリオーマ、他の中枢神経系原発腫瘍、又は中枢神経系非腫瘍性疾患のいずれかに罹患の疑いがあり、
    前記遊離型PTPRZは配列番号4又は5で示すアミノ酸配列からなるPTPRZの細胞外領域が切断されて髄液中に遊離した断片からなる、前記方法。
  4. グリオーマと他の中枢神経系原発腫瘍又は中枢神経系非腫瘍性疾患との鑑別方法であって、
    被験者に由来する髄液の単位容量あたりに含まれる遊離型PTPRZのタンパク質量を測定し、その測定値を得る測定工程、及び
    前記測定工程で得られた測定値とグリオーマに罹患していない対照者に由来する髄液の単位容量あたりに含まれる遊離型PTPRZの測定値とを比較して、被験者の測定値が対照者の測定値よりも高いときに、前記被験者はグリオーマに罹患している可能性が高いと判定する判定工程
    を含み、
    前記被験者はグリオーマ、他の中枢神経系原発腫瘍、又は中枢神経系非腫瘍性疾患のいずれかに罹患の疑いがあり、
    前記遊離型PTPRZは配列番号4又は5で示すアミノ酸配列からなるPTPRZの細胞外領域が切断されて髄液中に遊離した断片からなる、前記方法。
  5. 前記他の中枢神経系原発腫瘍が悪性リンパ腫又は神経鞘腫であり、又は前記中枢神経系非腫瘍性疾患が多発性硬化症である、請求項3又は4に記載の鑑別方法。
  6. 配列番号4又は5で示すアミノ酸配列からなるPTPRZの細胞外領域の全部又は一部を特異的に認識し、結合する結合手段を含むグリオーマ検出用キット。
  7. 前記結合手段が抗体又はアプタマーである、請求項6に記載のグリオーマ検出用キット。
  8. グリオーマ再発の可能性を評価する方法であって、
    グリオーマ治療歴のある被験者において、術後、所定の期間が経過した前記被験者に由来する髄液の単位容量あたりに含まれる遊離型PTPRZのタンパク質量を測定し、その測定値を得る測定工程、及び
    前記測定工程で得られた測定値と、グリオーマ患者及び非グリオーマ患者の測定値から算出されるカットオフ値とを比較して、被験者の測定値がカットオフ値よりも高いときに、前記被験者はグリオーマを再発した可能性が高いと評価する評価工程、
    を含み、
    前記遊離型PTPRZはPTPRZの細胞外領域が切断されて髄液中に遊離した断片からなる、前記評価方法。
  9. グリオーマ再発の可能性を評価する方法であって、
    グリオーマ治療歴のある被験者において、術後、所定の期間が経過した前記被験者に由来する髄液の単位容量あたりに含まれる遊離型PTPRZのタンパク質量を測定し、その測定値を得る測定工程、及び
    前記測定工程で得られた測定値とグリオーマに罹患していない対照者に由来する髄液の単位容量あたりに含まれる遊離型PTPRZの測定値とを比較して、被験者の測定値が対照者の測定値よりも高いときに、前記被験者はグリオーマを再発した可能性が高いと評価する評価工程、
    を含み、前記遊離型PTPRZはPTPRZの細胞外領域が切断されて髄液中に遊離した断片からなる、前記評価方法。
  10. 遊離型PTPRZからなるグリオーマ検出用のバイオマーカーであって、前記遊離型PTPRZはPTPRZの細胞外領域で構成される、前記バイオマーカー。
  11. 遊離型PTPRZからなるグリオーマ検出用のバイオマーカーであって、前記遊離型PTPRZが配列番号4で示すアミノ酸配列又はその一部を含む、前記バイオマーカー。
  12. 前記その一部を含む遊離型PTPRZが配列番号5で示すアミノ酸配列からなる、請求項11に記載のバイオマーカー。
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