以下、本発明の自動変速機の制御装置を実施するための形態を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
(実施例1)
実施例1における制御装置は、前進9速・後退1速の変速段を実現する自動変速機を搭載したエンジン車(車両の一例)に適用したものである。以下、実施例1の構成を、「全体システム構成」、「自動変速機の詳細構成」、「インターロック判定部の詳細構成」、「インターロック判定処理構成」に分けて説明する。
[全体システム構成]
実施例1のエンジン車は、図1に示すように、エンジン1(走行駆動源)と、トルクコンバータ2と、自動変速機3と、終減速機構4と、左右の駆動輪5と、を備えている。
トルクコンバータ2は、トルク増大機能を必要としないときにエンジン出力軸6aと変速機入力軸6bを直結するロックアップクラッチ7を有している。
自動変速機3は、エンジン1と駆動輪5との間に配置され、変速機入力軸6bを介してエンジン1からトルクが入力され、変速機出力軸6cを介して駆動輪5へトルクを出力する。この自動変速機3は、ギヤトレインを構成する遊星歯車と、セレクト操作や変速により締結又は解放される複数の締結要素(ここでは、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、第3ブレーキB3、第1クラッチK1、第2クラッチK2、第3クラッチK3)を有する。また、自動変速機3には、コントロールバルブユニット8が取り付けられている。コントロールバルブユニット8は、オイルポンプ8bからの吐出圧に基づいて、各種の制御圧を調圧する油圧制御回路8aを有している。
ここで、油圧制御回路8aは、図2に示すように、セレクト操作に応じてオイルポンプ8b(油圧源)から供給される油圧の供給先を切り替えるマニュアルバルブを有していない。すなわち、この油圧制御回路8aでは、セレクト操作を行うことで選択されたレンジ位置に拘らず、複数の締結要素(B1,B2,B3,K1,K2,K3)に対して常に油圧の供給を可能とする。なお、図2中の「RV」は、オイルポンプ8bの吐出圧をライン圧に調圧するレギュレータバルブである。また、「V」は、変速のためのシフトバルブ等のアクチュエータであり、各締結要素(B1,B2,B3,K1,K2,K3)に供給される油圧を調圧する。油圧制御回路8aが有するレギュレータバルブRVや各アクチュエータVは、ATコントローラ10からの制御指令を受けて作動する。また、「セレクト操作」とは、運転者によるセレクトレバー18a(セレクト操作部)の操作により、自動変速機3のレンジ位置を切り替えることである。
終減速機構4は、変速機出力軸6cの回転を減速すると共に、差動機能を与えて左右の駆動輪5に回転を伝達する機構である。
エンジン車は、図1に示すように、ATコントローラ10(変速機コントローラ)と、エンジンコントローラ11と、CAN通信線12と、を備えている。なお、ATコントローラ10の「AT」とは「Automatic Transmission」の略称である。また、CAN通信線12の「CAN」とは「Controller Area Network」の略称である。
ATコントローラ10は、CPU(Central Processing Unit)やメモリ等を備え、変速マップ(図5参照)上での車速VSPとアクセル開度APOによって決まる運転点(VSP,APO)の変化を監視して変速制御を行う。なお、変速制御は、例えば以下の基本パターンにより制御される。
1.アクセル開度を保った状態での車速上昇によるオートアップシフト。
2.アクセル足離し操作による足離しアップシフト。
3.アクセル戻し操作による足戻しアップシフト。
4.アクセル開度を保った状態での車速低下によるパワーオンダウンシフト。
5.アクセル操作量が小さいときの小開度急踏みダウンシフト。
6.アクセル操作量が大きいときの大開度急踏みダウンシフト(キックダウン)。
7.アクセル緩踏み操作と車速上昇による緩踏みダウンシフト。
8.アクセル足離し操作での車速低下によるコーストダウンシフト。
ATコントローラ10には、タービン回転センサ13、出力軸回転センサ14、ATF油温センサ15、アクセル開度センサ16、中間軸回転センサ17、インヒビタースイッチ18、エンジン回転センサ19等からの信号が入力される。なお、エンジン回転センサ19の信号は、エンジンコントローラ11及びCAN通信線12を介して入力される。
タービン回転センサ13は、トルクコンバータ2のタービンランナの回転数(=変速機入力軸6bの回転数)を検出し、タービン回転数Ntの信号をATコントローラ10に送出する。出力軸回転センサ14は、自動変速機3の変速機出力軸6cの回転数を検出し、出力軸回転数Noの信号をATコントローラ10に送出する。なお、車速VSPは、出力軸回転数Noに基づいて演算により求められる。ATF油温センサ15は、ATF(Automatic Transmission Fluid:自動変速機用オイル)の温度を検出し、ATF油温TATFの信号をATコントローラ10に送出する。アクセル開度センサ16は、運転者のアクセル操作によるアクセル開度APOを検出し、アクセル開度APOの信号をATコントローラ10に送出する。中間軸回転センサ17は、中間軸(インターミディエイトシャフト=第1キャリアC1に連結される回転メンバ)の回転数を検出し、中間軸回転数Nintの信号をATコントローラ10に送出する。インヒビタースイッチ18は、運転者によるセレクトレバー18aのセレクト操作により切り替えられたレンジ位置を検出し、レンジ位置信号をATコントローラ10に送出する。エンジン回転センサ19は、エンジン1の出力回転数を検出し、エンジン回転数Neの信号をATコントローラ10に送出する。
また、この実施例1では、ATコントローラ10は、自動変速機3にインターロックが発生したか否かを判定するインターロック判定部10aを有している。ここで、「インターロック」とは、自動変速機3が有する締結要素(B1,B2,B3,K1,K2,K3)に対して解放指令を出力したにも拘わらず締結状態が維持されてしまい、解放すべき締結要素のトルク容量がゼロ以上になることである。
エンジンコントローラ11は、エンジン1単体の様々な制御に加え、変速制御との協調制御によりエンジントルク制限制御等を行う。ATコントローラ10とエンジンコントローラ11は、双方向に情報交換可能なCAN通信線12を介して接続されている。よって、エンジンコントローラ11は、ATコントローラ10からトルク情報リクエストが入力されると、推定したエンジントルクTeの情報をATコントローラ10に出力する。
[自動変速機の詳細構成]
自動変速機3は、図3に示すように、ギヤトレインを構成する遊星歯車として、変速機入力軸6bから変速機出力軸6cに向けて順に、第1遊星歯車PG1と、第2遊星歯車PG2と、第3遊星歯車PG3と、第4遊星歯車PG4と、を備えている。
第1遊星歯車PG1は、シングルピニオン型遊星歯車であり、第1サンギヤS1と、第1サンギヤS1に噛み合うピニオンを支持する第1キャリアC1と、ピニオンに噛み合う第1リングギヤR1と、を有する。
第2遊星歯車PG2は、シングルピニオン型遊星歯車であり、第2サンギヤS2と、第2サンギヤS2に噛み合うピニオンを支持する第2キャリアC2と、ピニオンに噛み合う第2リングギヤR2と、を有する。
第3遊星歯車PG3は、シングルピニオン型遊星歯車であり、第3サンギヤS3と、第3サンギヤS3に噛み合うピニオンを支持する第3キャリアC3と、ピニオンに噛み合う第3リングギヤR3と、を有する。
第4遊星歯車PG4は、シングルピニオン型遊星歯車であり、第4サンギヤS4と、第4サンギヤS4に噛み合うピニオンを支持する第4キャリアC4と、ピニオンに噛み合う第4リングギヤR4と、を有する。
自動変速機3は、図3に示すように、変速機入力軸6bと、変速機出力軸6cと、第1連結メンバM1と、第2連結メンバM2と、トランスミッションケースTCと、を備えている。さらに、自動変速機3は、変速やセレクト操作により締結又は解放される締結要素として、第1ブレーキB1と、第2ブレーキB2と、第3ブレーキB3と、第1クラッチK1と、第2クラッチK2と、第3クラッチK3と、を備えている。
変速機入力軸6bは、エンジン1からの駆動力がトルクコンバータ2を介して入力される軸で、第1サンギヤS1及び第4キャリアC4に常時連結している。そして、変速機入力軸6bは、第2クラッチK2を介して第1キャリアC1に断接可能に連結している。
変速機出力軸6cは、プロペラシャフト及び終減速機構4を介して駆動輪5へ変速した駆動力を出力する軸であり、第3キャリアC3に常時連結している。そして、変速機出力軸6cは、第1クラッチK1を介して第4リングギヤR4に断接可能に連結している。
第1連結メンバM1は、第1遊星歯車PG1の第1リングギヤR1と第2遊星歯車PG2の第2キャリアC2を、締結要素を介在させることなく常時連結するメンバである。第2連結メンバM2は、第2遊星歯車PG2の第2リングギヤR2と第3遊星歯車PG3の第3サンギヤS3と第4遊星歯車PG4の第4サンギヤS4を、締結要素を介在させることなく常時連結するメンバである。
第1ブレーキB1は、第1キャリアC1の回転を、トランスミッションケースTCに対し係止可能な摩擦締結要素である。第2ブレーキB2は、第3リングギヤR3の回転を、トランスミッションケースTCに対し係止可能な摩擦締結要素である。第3ブレーキB3は、第2サンギヤS2の回転を、トランスミッションケースTCに対し係止可能な摩擦締結要素である。
第1クラッチK1は、第4リングギヤR4と変速機出力軸6cの間を選択的に連結する摩擦締結要素である。第2クラッチK2は、変速機入力軸6bと第1キャリアC1の間を選択的に連結する摩擦締結要素である。第3クラッチK3は、第1キャリアC1と第2連結メンバM2の間を選択的に連結する摩擦締結要素である。
図4は、自動変速機3において六つの締結要素(B1,B2,B3,K1,K2,K3)のうち三つの同時締結の組み合わせにより、Dレンジ位置で前進9速を達成しRレンジ位置で後退速段を達成する際の締結要素の締結表である。以下、図4に基づいて、各変速段を成立させる変速構成を説明する。なお、図4では、「●」によって締結される締結要素を示し、空欄によって解放される締結要素を示す。
1速段(1st)は、第2ブレーキB2と第3ブレーキB3と第3クラッチK3の同時締結により達成する。2速段(2nd)は、第2ブレーキB2と第2クラッチK2と第3クラッチK3の同時締結により達成する。3速段(3rd)は、第2ブレーキB2と第3ブレーキB3と第2クラッチK2の同時締結により達成する。4速段(4th)は、第2ブレーキB2と第3ブレーキB3と第1クラッチK1の同時締結により達成する。5速段(5th)は、第3ブレーキB3と第1クラッチK1と第2クラッチK2の同時締結により達成する。以上の1速段~5速段が、ギヤ比が1を超えている減速ギヤ比によるアンダードライブ変速段である。
6速段(6th)は、第1クラッチK1と第2クラッチK2と第3クラッチK3の同時締結により達成する。この第6速段は、ギヤ比=1の直結段である。
7速段(7th)は、第3ブレーキB3と第1クラッチK1と第3クラッチK3の同時締結により達成する。8速段(8th)は、第1ブレーキB1と第1クラッチK1と第3クラッチK3の同時締結により達成する。9速段(9th)は、第1ブレーキB1と第3ブレーキB3と第1クラッチK1の同時締結により達成する。以上の7速段~9速段は、ギヤ比が1未満の増速ギヤ比によるオーバードライブ変速段である。
さらに、1速段から9速段までの変速段のうち、隣接する変速段へのアップ変速を行う際、或いは、ダウン変速を行う際、図4に示すように、掛け替え変速により行う。即ち、隣接する変速段への変速は、締結している三つの締結要素のうち、二つの締結要素の締結は維持したままで、一つの締結要素の解放と他の一つの締結要素の締結を行うことで達成される。
Rレンジ位置の選択による後退速段(Rev)は、第1ブレーキB1と第2ブレーキB2と第3ブレーキB3の同時締結により達成する。
そして、レンジ位置としてNレンジ位置及びPレンジ位置が選択されたときは、複数の締結要素(B1,B2,B3,K1,K2,K3)の全てが解放状態にされる。さらに、図4には示さないが、レンジ位置がDレンジ位置からRレンジ位置又はRレンジ位置からDレンジ位置に切り替えられるときにも、一時的に複数の締結要素(B1,B2,B3,K1,K2,K3)の全てが解放状態にされる。ここで、「一時的」とは、所定の前進変速段の達成状態から後退速段の達成状態の間や、後退速段の達成状態から所定の前進変速段の達成状態の間だけ全ての締結要素(B1,B2,B3,K1,K2,K3)が解放されることを意味する。
そして、ATコントローラ10には、図5に示すような変速マップが記憶されている。Dレンジ位置の選択により前進側の1速段から9速段までの変速段の切り替えによる変速は、この変速マップに従って行われる。すなわち、運転点(VSP,APO)が図5の実線で示すアップシフト線を横切るとアップシフト変速要求が出される。又、運転点(VSP,APO)が図5の破線で示すダウンシフト線を横切るとダウンシフト変速要求が出される。
[インターロック判定部の詳細構成]
インターロック判定部10aは、エンジン1の駆動中に車両が停車している際、セレクト操作を行うことで自動変速機3が有する六つの締結要素(B1,B2,B3,K1,K2,K3)のいずれかを締結している状態から、全ての締結要素(B1,B2,B3,K1,K2,K3)を解放する状態に切り替えるとき、これらの締結要素(B1,B2,B3,K1,K2,K3)を全て解放するタイミングでインターロックの発生の有無を判定する。
また、このインターロック判定部10aでは、セレクト操作に伴って全ての締結要素(B1,B2,B3,K1,K2,K3)を解放する解放指令の出力から、所定時間(例えば、締結要素のトルク容量をゼロにするために要する時間等)が経過した後の自動変速機3の入力回転数(タービン回転数Nt)の増加が閾値以下のとき、インターロックが発生したと判定する。
ここで、「締結要素をすべて解放するタイミング」とは、全ての締結要素(B1,B2,B3,K1,K2,K3)の解放を要するセレクト操作が実施された時点から、締結要素が全て解放するまでに必要な時間が経過するまでの間を意味する。実施例1では、セレクト操作に伴って全ての締結要素(B1,B2,B3,K1,K2,K3)を解放する解放指令が出力された時点から所定時間が経過したときに、インターロックの発生の有無を判定する。
また、「停車」とは、車速VSPが所定値(例えば、出力軸回転センサ14にて検出不可能となる値)以下の状態とする。「セレクト操作」の有無は、インヒビタースイッチ18の検出値に基づいて判断する。また、「複数の締結要素のいずれかを締結している状態から、全ての締結要素を解放する状態に切り替えるセレクト操作」とは、レンジ位置を走行レンジ位置(Dレンジ位置やRレンジ位置等)から非走行レンジ位置(Nレンジ位置やPレンジ位置等)に切り替えるセレクト操作に加え、前進レンジ位置(Dレンジ位置等)から後退レンジ位置(Rレンジ位置)に切り替えるセレクト操作や、後退レンジ位置(Rレンジ位置)から前進レンジ位置(Dレンジ位置等)に切り替えるセレクト操作等も含む。
さらに、「閾値」は、ここでは解放指令の出力時点からのタービン回転数Ntの増加率で示され、例えば20%に設定する。すなわち、インターロック判定部10aは、解放指令が出力されてから所定時間経過後のタービン回転数Ntの増加率が20%以下のとき、タービン回転数Ntの増加が閾値以下と判断し、インターロックが発生したと判定する。また、解放指令が出力されてから所定時間経過後のタービン回転数Ntの増加率が20%を超えているとき、タービン回転数Ntの増加が閾値を超えたと判断し、インターロックが発生してないと判定する。
なお、この「閾値」や判定に要する「所定時間」は、エンジン回転数Neやタービン回転数Nt等に応じて任意に設定する。また、「所定時間」は、セレクト操作が行われてからカウントを開始してもよい。
[インターロック判定処理構成]
図6は、実施例1のATコントローラ10のインターロック判定部10aにて実行されるインターロック判定処理の流れを示すフローチャートである。以下、図6の各ステップについて説明する。
ステップS1では、実施例1のエンジン車に搭載されたエンジン1が駆動しているか否かを判断する。YES(エンジン駆動中)の場合にはステップS2へ進む。NO(エンジン停止中)の場合には、自動変速機3のインターロックを判定できないとしてエンドへ進む。
ここで、エンジン1が駆動しているとの判断は、エンジン回転センサ19によってエンジン回転数Neが検出されているときに行われる。
ステップS2では、ステップS1でのエンジン駆動中との判断に続き、実施例1のエンジン車が停車しているか否かを判断する。YES(停車)の場合にはステップS3へ進む。NO(走行中)の場合には、図6に示すインターロック判定処理が不要としてエンドへ進む。
なお、停車しているとの判断は、出力軸回転数Noが出力軸回転センサ14の検出不能回転数以下になったときに行われる。
ステップS3では、ステップS2での停車との判断に続き、自動変速機3が有する締結要素(B1,B2,B3,K1,K2,K3)の全ての解放を要するセレクト操作が発生したか否かを判断する。YES(セレクト操作あり)の場合にはステップS4へ進む。NO(セレクト操作なし)の場合には、インターロックの発生有無を判定できないとしてエンドへ進む。
ここで、「全ての締結要素の解放を要するセレクト操作」とは、Dレンジ位置からNレンジ位置又はPレンジ位置へのセレクト操作、Rレンジ位置からNレンジ位置又はPレンジ位置へのセレクト操作、Dレンジ位置からRレンジ位置へのセレクト操作、Rレンジ位置からDレンジ位置へのセレクト操作のいずれかとする。
ステップS4では、ステップS3でのセレクト操作ありとの判断に続き、全ての締結要素(B1,B2,B3,K1,K2,K3)を解放する解放指令がATコントローラ10から出力されたか否かを判断する。YES(解放指令出力)の場合にはステップS5へ進む。NO(解放指令なし)の場合はステップS4を繰り返す。
ステップS5では、ステップS4での解放指令出力との判断に続き、この解放指令の出力から予め設定した所定時間が経過したか否かを判断する。YES(所定時間経過)の場合にはステップS6へ進む。NO(所定時間未経過)の場合にはステップS5を繰り返す。
ここで、「所定時間」とは、締結要素を解放してトルク容量がゼロになるために要する時間等、任意に設定される。
ステップS6では、ステップS5での所定時間経過との判断に続き、タービン回転数Ntの増加が予め設定した閾値以下であるか否かを判断する。YES(タービン回転数Ntの増加≦閾値)の場合にはステップS7へ進む。NO(タービン回転数Ntの増加>閾値)の場合にはステップS8へ進む。
ステップS7では、ステップS6でのタービン回転数Ntの増加が閾値以下との判断に続き、全ての締結要素(B1,B2,B3,K1,K2,K3)の少なくとも一つが適切に解放せず、インターロックが発生したと判定し、エンドへ進む。
ここで、「タービン回転数Ntの増加が閾値以下の状態」とは、変速機入力軸6bに接続されたトルクコンバータ2のタービンランナが、エンジン1の回転が入力しているにも拘らず回転できない状態である。これにより、変速機入力軸6bの回転は締結要素を介して変速機出力軸6cに拘束されていると考えられ、解放すべき締結要素が適切に解放されていない(=インターロック発生)と判断できる。
ステップS8では、ステップS6でのタービン回転数Ntの増加が閾値を超えたとの判断に続き、全ての締結要素(B1,B2,B3,K1,K2,K3)がいずれも適切に解放し、インターロックが発生していないと判定し、エンドへ進む。
ここで、「タービン回転数Ntの増加が閾値を超えた状態」とは、変速機入力軸6bに接続されたトルクコンバータ2のタービンランナが、エンジン1によって回転している状態である。これにより、変速機入力軸6bの回転は変速機出力軸6cに拘束されていないと考えられ、解放すべき締結要素が適切に解放された(=インターロック未発生)と判断できる。
次に、実施例1の自動変速機の制御装置の作用を「D→Nセレクト操作時インターロック判定作用」、「D→Rセレクト操作時インターロック判定作用」に分けて説明する。
[D→Nセレクト操作時インターロック判定作用]
実施例1の制御装置において、停車中のインターロックの有無を判定する際、まず、図6のフローチャートに示すステップS1からステップS2、ステップS3の各処理を順に行う。つまり、インターロック判定部10aは、エンジン1の駆動有無と、エンジン車の停車有無と、全ての締結要素(B1,B2,B3,K1,K2,K3)の解放を要するセレクト操作の有無を順に判断する。
図7に示す車両状態では、時刻t1以前において、レンジ位置はDレンジ位置が選択されている。そのため、表示レンジ及び目標レンジは、いずれも「Dレンジ位置」に設定されている。また、Dレンジ位置が選択されていることから、車速VSP及びアクセル開度APOに基づいて設定される目標変速比を実現するための締結要素が締結している。なお、時刻t1以前では、車速VSP=ゼロ及びアクセル開度APO=ゼロであるため、目標変速比が1速段(1st)に設定され、第2ブレーキB2と第3ブレーキB3と第3クラッチK3が締結される。
また、このエンジン車は、時刻t1以前では、エンジン1が駆動している状態でブレーキペダルが踏み込まれ、停車している。このため、エンジン回転数Neはアイドル回転数に維持される。一方、Dレンジ選択中の停車中(=車速ゼロ)であることから、変速機入力軸6bは、締結要素を介して回転していない変速機出力軸6cに拘束され、タービン回転数Ntはゼロとなる。
時刻t1時点において、Dレンジ位置からNレンジ位置へとレンジ位置を切り替えるセレクト操作が生じると、表示レンジ及び目標レンジは、いずれも「Dレンジ位置」から「Nレンジ位置」に切り替えられる。
これにより、時刻t1時点において、インターロック判定部10aは、ステップS1、ステップS2、ステップS3の各処理に続き、ステップS4の処理を行う。つまり、ATコントローラ10から全ての締結要素(B1,B2,B3,K1,K2,K3)に対して解放指令が出力されたか否かを判断する。全ての締結要素(B1,B2,B3,K1,K2,K3)に対して解放指令が出力された場合には、図7にて実線で示すように、締結状態から解放状態へと切り替える締結要素(ここでは、第2ブレーキB2と第3ブレーキB3と第3クラッチK3)への指示圧は、「締結」から「解放」に変化する。この結果、時刻t1以降、図7にて破線で示すように、解放する締結要素(B2,B3,K3)の実圧が次第に低下していく。なお、実圧は応答遅れを有しており、指示圧の変化に対して遅れて変化していく。
そして、インターロック判定部10aは、ステップS5の処理を行い、解放指令の出力から所定時間が経過したか否かを判断する。図7に示す時刻t3時点において、所定時間が経過すると、インターロック判定部10aは、所定時間が経過したと判断し、ステップS6の処理を実施する。すなわち、インターロック判定部10aは、タービン回転数Ntの増加が閾値以下であるか否かを判断する。
ここで、自動変速機3のインターロックが発生している場合には、締結要素(B1,B2,B3,K1,K2,K3)への解放指令が出力されても、解放すべき締結要素(B2,B3,K3)のいずれかは適切に解放されない。つまり、図7にて破線で示すように、インターロックが発生した締結要素の実圧は解放圧まで達することがなく、当該締結要素のトルク容量がゼロ以上となってしまう。そのため、変速機入力軸6bの回転が締結要素を介して変速機出力軸6cに拘束されてしまい、エンジン1の回転が入力しているにも拘らずトルクコンバータ2のタービンランナは回転することができない。これにより、図7にて実線で示すように、タービン回転数Ntは、増加することなくゼロのままとなる。
一方、自動変速機3のインターロックが発生していない場合には、締結要素(B1,B2,B3,K1,K2,K3)への解放指令の出力によって、解放すべき締結要素(B2,B3,K3)はいずれも適切に解放される。そのため、変速機入力軸6bの回転は変速機出力軸6cに拘束されることがなく、エンジン1の回転によってトルクコンバータ2のタービンランナと変速機入力軸6bは回転する。これにより、図7にて破線で示すように、タービン回転数Ntは、解放する締結要素(B2,B3,K3)が実際に開放を開始する時刻t2時点から、次第に増加していく。
そのため、インターロック判定部10aは、所定時間経過後の時刻t3時点において、図7にて実線で示すようにタービン回転数Ntの増加が閾値以下のときには、ステップS7の処理を実施し、インターロックの発生と判定する。また、所定時間経過後の時刻t3時点において、図7にて破線で示すようにタービン回転数Ntの増加が閾値を超えているときには、ステップS8の処理を実施し、インターロックの発生と判定する。
このように、実施例1の制御装置では、インターロック判定部10aは、エンジン1の駆動中にエンジン車が停車し、且つ、セレクト操作によって全ての締結要素(B1,B2,B3,K1,K2,K3)を解放する際、自動変速機3のインターロックの発生の有無を複数の締結要素(B1,B2,B3,K1,K2,K3)を全て解放するタイミングで判定する。
ここで、自動変速機3では、複数の締結要素(B1,B2,B3,K1,K2,K3)を全て解放するとき、インターロックの発生の有無によってタービン回転数Ntの変化状態が大きく異なる。つまり、インターロックが発生していなければ、タービン回転数Ntは、エンジン回転数Neに向かって速やかに増加する。一方、インターロックが発生しているときには、タービン回転数Ntは増加しない。そのため、インターロックの有無を容易に判定することができる。
また、縁石乗り上げや登坂路を走行するときには、複数の締結要素(B1,B2,B3,K1,K2,K3)を全て解放させるセレクト操作を行うことはない。つまり、縁石乗り上げや登坂路の影響によって変速機出力回転が検出できないシーンでは、インターロックの有無を判定するインターロック判定処理は実行しない。そのため、縁石乗り上げや登坂路の影響によってタービン回転数Ntの増加が検出できない場合と、インターロックの発生によってタービン回転数Ntの増加が検出できない場合との区別を行う必要がなく、インターロックを誤判定することを防止できる。
また、この実施例1では、自動変速機3の油圧制御回路8aは、オイルポンプ8bから供給される油圧の供給先をセレクト操作に応じて切り替えるマニュアルバルブを有していない。つまり、実施例1の油圧制御回路8aは、運転者のセレクト操作に拘らず、複数の締結要素(B1,B2,B3,K1,K2,K3)に対して常に油圧の供給を可能とする回路である。
そのため、マニュアルバルブによる油圧回路の制御が行われないので、自動変速機3が有する締結要素(B1,B2,B3,K1,K2,K3)の全ての解放を要するセレクト操作が発生したときには、選択されたレンジ位置に拘らずインターロックの有無を判定することができる。この結果、インターロックの有無を判定する機会の増加を図ることが可能となる。
そして、この実施例1では、インターロック判定部10aは、自動変速機3の入力回転数を示すタービン回転数Ntの増加が閾値以下のとき、インターロックが発生したと判定する。ここで、図7に示すように、自動変速機3が有する締結要素(B1,B2,B3,K1,K2,K3)の全ての解放を要するセレクト操作が生じたときのタービン回転数Ntは、インターロックの発生の有無によって変化状態が大きく異なる。
そのため、このタービン回転数Ntの増加状態を判定基準としてインターロックの発生の有無を判断することで、自動変速機3のインターロックの発生の有無を、精度よく容易に判定することができる。
[D→Rセレクト操作時インターロック判定作用]
実施例1のエンジン車では、Dレンジ位置からRレンジ位置又はRレンジ位置からDレンジ位置へとレンジ位置を切り替えるセレクト操作を行ったとき、一時的に複数の締結要素(B1,B2,B3,K1,K2,K3)の全てが解放状態にされる。つまり、D→Rセレクト操作やR→Dセレクト操作も、自動変速機3が有する複数の締結要素(B1,B2,B3,K1,K2,K3)の全ての解放を要するセレクト操作であるため、インターロックの有無を判定することができる。
すなわち、図8に示す車両状態では、時刻t11以前において、レンジ位置はDレンジ位置が選択されている。そのため、表示レンジ及び目標レンジは、いずれも「Dレンジ位置」に設定されている。また、Dレンジ位置が選択されていることから、車速VSP及びアクセル開度APOに基づいて設定される目標変速比を実現するための締結要素が締結している。なお、時刻t11以前では、車速VSP=ゼロ及びアクセル開度APO=ゼロであるため、目標変速比が1速段(1st)に設定され、第2ブレーキB2と第3ブレーキB3と第3クラッチK3が締結される。
また、このエンジン車は、時刻t11以前では、エンジン1が駆動している状態でブレーキペダルが踏み込まれ、停車している。このため、エンジン回転数Neはアイドル回転数に維持される。一方、Dレンジ選択中の停車中(=車速ゼロ)であることから、変速機入力軸6bは、締結要素を介して回転していない変速機出力軸6cに拘束され、タービン回転数Ntはゼロとなる。
そして、時刻t11時点において、Dレンジ位置からRレンジ位置へとレンジ位置を切り替えるセレクト操作が生じると、表示レンジは、「Dレンジ位置」から「Rレンジ位置」へと切り替えられる。一方、目標レンジは、一時的に全ての締結要素(B1,B2,B3,K1,K2,K3)を解放するために「Dレンジ位置」から「Nレンジ位置」へと切り替えられる。
そのため、ATコントローラ10から全ての締結要素(B1,B2,B3,K1,K2,K3)に対して解放指令が出力されることになり、図8にて実線で示すように、締結状態から解放状態へと切り替える締結要素(ここでは、第2ブレーキB2と第3ブレーキB3と第3クラッチK3)への指示圧は、「締結」から「解放」に変化する。一方、目標変速比が後退速段(Rev)に設定されたときに締結する締結要素(ここでは、第1ブレーキB1と第2ブレーキB2と第3ブレーキB3)に対する指示圧は、図8にて一点鎖線で示すように「解放」のままになる。
そして、例えば、解放すべき締結要素がほぼ解放状態になったと判断できる時間が経過した時刻t14時点において、目標レンジが、「Nレンジ位置」から「Rレンジ位置」に切り替えられる。そのため、ATコントローラ10は、目標変速比を後退速段(Rev)に設定し、第1ブレーキB1と第2ブレーキB2と第3ブレーキB3に対して締結指令を出力する。これにより、図8にて一点鎖線で示すように、解放状態から締結状態へと切り替える締結要素(B1,B2,B3)への指示圧は、「解放」から「締結」に向けて次第に変化する。
ここで、自動変速機3のインターロックが発生し、解放すべき締結要素(B2,B3,K3)のいずれかが解放されない状態では、図8にて破線で示すように、インターロックが発生した締結要素の実圧は解放圧まで達することがない。そのため、当該締結要素のトルク容量がゼロ以上になり、変速機入力軸6bの回転が締結要素を介して変速機出力軸6cに拘束され、トルクコンバータ2のタービンランナは回転することができない。この結果、図8にて実線で示すように、タービン回転数Ntは、増加することなくゼロのままとなる。
これに対し、自動変速機3のインターロックが発生していない場合には、変速機出力軸6cによる変速機入力軸6bの回転の拘束が一時的に解消される。そのため、トルクコンバータ2のタービンランナは、エンジン1の回転によって回転する。これにより、図8にて破線で示すように、タービン回転数Ntは、解放する締結要素(B2,B3,K3)が実際に開放を開始する時刻t12時点から増加し、時刻t15時点でエンジン回転数Neにほぼ一致する。しかし、時刻t14時点ですでに後退速段(Rev)を実現する締結要素(B1,B2,B3)に対して締結指令が出力されているので、これらの締結要素(B1,B2,B3)がトルク容量を持つことで、変速機入力軸6bの回転が再び変速機出力軸6cに拘束される。そのため、時刻t15以降、タービン回転数Ntはゼロに向けて次第に低下し、t16時点においてタービン回転数Ntはゼロになる
これに対し、インターロック判定部10aでは、目標レンジが「Nレンジ位置」に設定されている期間中、全ての締結要素(B1,B2,B3,K1,K2,K3)への解放指令の出力から所定時間が経過した時刻t13時点において、ステップS6の処理を実施する。つまり、インターロック判定部10aは、D→Rセレクト操作時、一時的に目標レンジが「Nレンジ位置」に設定されている期間にインターロックの発生の有無を判定する。
そして、この時刻t13時点で図8にて実線で示すようにタービン回転数Ntの増加が閾値以下のときには、ステップS7の処理を実施し、インターロックの発生と判定する。また、時刻t13時点において、図8にて破線で示すようにタービン回転数Ntの増加が閾値を超えているときには、ステップS8の処理を実施し、インターロックの発生と判定する。
このように、実施例1では、Dレンジ位置からRレンジ位置へとレンジ位置を切り替えるセレクト操作を行ったときであっても、一時的に複数の締結要素(B1,B2,B3,K1,K2,K3)の全てが解放状態にされる。このため、実施例1の制御装置では、この複数の締結要素(B1,B2,B3,K1,K2,K3)を全て解放するタイミングでインターロックの発生の有無を判定することで、インターロックの有無を容易に判定することができる。
以上述べたように、実施例1の自動変速機3の制御装置にあっては、下記に列挙する効果が得られる。
(1)走行駆動源(エンジン1)と駆動輪5の間に配置されて複数の締結要素(B1,B2,B3,K1,K2,K3)を有する自動変速機3のレンジ位置を切り替えるセレクト操作を行うセレクト操作部(セレクトレバー18a)と、
セレクト操作でレンジ位置が切り替えられたときに複数の締結要素(B1,B2,B3,K1,K2,K3)を締結又は解放する変速機コントローラ(ATコントローラ10)と、を備えた自動変速機3の制御装置であって、
変速機コントローラ(ATコントローラ10)は、自動変速機3にインターロックが発生したか否かを判定するインターロック判定部10aを有し、
インターロック判定部10aは、走行駆動源(エンジン1)の駆動中に車両(エンジン車)が停車し、且つ、セレクト操作を行う場合、インターロックの発生の有無を複数の締結要素(B1,B2,B3,K1,K2,K3)を全て解放するタイミングで判定する構成とした。
これにより、車両(エンジン車)の停車中にインターロックが発生したか否かを容易に判定することができる。
(2)自動変速機3の油圧制御回路8aは、油圧源(オイルポンプ8b)から供給される油圧の供給先をセレクト操作に応じて切り替えるマニュアルバルブを有しておらず、セレクト操作に拘らず、複数の締結要素(B1,B2,B3,K1,K2,K3)に対して常に油圧の供給を可能とする回路である構成とした。
これにより、インターロックの有無を判定する機会の増加を図ることが可能となる。
(3)インターロック判定部10aは、自動変速機3の入力回転数(タービン回転数Nt)の増加が閾値以下のとき、インターロックが発生したと判定する構成とした。
これにより、自動変速機3のインターロックの発生の有無を、精度よく容易に判定することができる。
以上、本発明の自動変速機の制御装置を実施例1に基づき説明してきた。しかし、具体的な構成については、この実施例1に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
実施例1では、全ての締結要素(B1,B2,B3,K1,K2,K3)を解放する解放指令の出力から所定時間が経過したときにインターロックの発生の有無を判定する際、「所定時間」を、締結要素のトルク容量をゼロにするために要する時間等とする例を示した。しかしながら、これに限らない。例えば、締結中の締結要素のトルク容量が低下するために要する時間や、締結要素の解放に伴ってタービン回転数Ntが増加するために要する時間等であってもよい。
また、実施例1では、インターロックの発生有無を判定する基準となるタービン回転数Ntの増加に対する「閾値」を、解放指令の出力時点からのタービン回転数Ntの増加率とする例を示した。しかしながら、これに限らない。例えば、この「閾値」を、タービン回転数Ntとエンジン1の出力回転数(エンジン回転数Ne)との回転差で示し、この回転差が所定値以上のとき、タービン回転数Ntの増加が閾値以下であると判断してもよい。
また、実施例1では、自動変速機として、前進9速後退1速の自動変速機3の例を示した。しかし、自動変速機としては、前進9速後退1速以外の有段変速段を持つ自動変速機の例としてもよいし、締結要素として、前進クラッチと後退ブレーキを持つ無段変速機の例としてもよい。つまり、締結要素を有する自動変速機であれば、本発明の自動変速機の制御装置を適用することが可能である。なお、締結要素は、摩擦締結要素に限らず、ドグクラッチのような噛み合いによって締結するものであってもよい。
そして、実施例1では、エンジン車に搭載される自動変速機の制御装置の例を示したが、エンジン車に限らない。ハイブリッド車や電気自動車等の自動変速機の制御装置としても本発明の自動変速機の制御装置を適用することが可能である。