JP7035416B2 - 乾燥固形物および乾燥固形物の製造方法 - Google Patents
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前記微細化セルロースの形状は、天然セルロースのミクロフィブリル構造由来の繊維状であってもよい。
前記第一工程において、前記アニオン性官能基が、セルロース1g当たり0.1mmol以上5.0mmol以下導入されてもよい。
まず、本発明の一実施形態に係る乾燥固形物に含まれる金属微粒子/微細化セルロース複合体(以下、単に「複合体」と称することがある。)について説明する。本発明の複合体は、その構造の少なくとも一辺がナノメートル(nm)オーダーである微細化セルロースと金属微粒子とが複合化された複合体である。本複合体は微細化セルロースの表面上に金属ナノ微粒子を直接還元析出することにより得られ、金属微粒子と微細化セルロースが不可分に結合されている。本発明における「不可分」とは、例えば本複合体を含む分散液を遠心分離処理して上澄みを除去し、さらに溶媒を加えて再分散することで複合体を精製・洗浄する操作を繰返した後であっても金属微粒子と微細化セルロースとが分離しない程度の結合状態を意味する。
金属微粒子の形状に特に制限はなく、例えば平板状、球状、あるいはロッド状等であってもよい。特に金属微粒子が金または銀、あるいはその両方を含む場合には、金属微粒子の形状を平板状とすることで、局在表面プラズモン共鳴波長を可視~近赤外領域において幅広く制御可能であるため有用である。
より具体的には、図1に示すように、各微細化セルロース3は、金属微粒子2に結合している第一部分3aと、金属微粒子2の周囲に露出している第二部分3bとを有する。そして、第一部分3aの存在により、金属微粒子2と微細化セルロース3とが不可分の状態となっている。即ち、金属微粒子2と微細化セルロース3とは、微細化セルロース3の少なくとも一部分(第一部分3a)が金属微粒子2に結合することにより、少なくとも一部同士が物理的に結合することにより、不可分の状態にある。
金属微粒子2が平板状である場合、その粒子径は20~1000nmが好ましい。
金属微粒子2が平板状である場合、その粒子厚みは5~100nmが好ましく、8~50nmがより好ましい。
金属微粒子2が平板状である場合、その平均アスペクト比(粒子径/粒子厚み)は2.0以上が好ましく、2.0~200がより好ましい。
(1)粒子径の測定法
複合体を含む分散液を透過型電子顕微鏡(TEM)観察用支持膜付き銅グリッド上にキャストして風乾したのち、TEM観察を行う。得られた画像中の金属微粒子を、円で近似した際の径を平面方向の粒子径として算出する。
(2)粒子厚みの測定法
複合体を含む分散液をPETフィルム上にキャストして風乾し包埋樹脂で固定したものをミクロトームで断面方向に切削し、TEM観察を行う。得られた画像中の金属微粒子の厚みを平面方向に対する粒子厚みとして算出する。
(3)アスペクト比の算出方法
上述のようにして求めた粒子径をaとし、粒子厚みをbとした際に、粒子径aを粒子厚みbで割った値を、アスペクト比=a/bとして算出する。
なお、上述した測定方法および算出方法は一例であり、特にこれらに限定されるものではない。
次に、本実施形態における複合体1の製造方法について説明する。微細化セルロース3と、金属微粒子2を形成するための金属イオンとを含む分散液中で、微細化セルロース3上に金属を還元析出させて金属結晶を生成することによって、微細化セルロース3に金属微粒子2が担持された複合体1を得ることができる。還元析出の際に、異方性をもってこの金属結晶を成長させることにより、金属微粒子2の形状が平板状となる。
上記した製造方法は一例であり、他の公知の方法で微細化セルロースに金属微粒子が担持された複合体が製造されてもよい。
次に、本実施形態の乾燥固形物について説明する。本実施形態における乾燥固形物は、上述した金属微粒子/微細化セルロース複合体と、金属微粒子が担持されていない遊離微細化セルロースとを含む。乾燥固形物は溶媒をほとんど含まず、溶媒を加えることにより、溶液中に複合体を再分散させることが可能である。
乾燥固形物の乾燥の度合いは固形分率として示される。固形分率は適宜設定できるが少なくとも80%以上であり、好ましくは90%以上であり、より好ましくは95%以上であり、100%(絶乾状態)であってもよい。
上記効果を十分に得る観点からは、乾燥固形物におけるセルロースの含有率は、30質量%(wt%)以上が好ましく、40wt%以上がより好ましい。セルロースの含有率が30%未満となると、金属微粒子をセルロースで均一に包み込むことが難しくなり、金属微粒子同士が接触して凝集し再分散が阻害されたり、金属微粒子が大気中の元素と接触・反応して変性したりする可能性があるため好ましくない。上記効果を得る観点からは、セルロース含有率の数値範囲に上限は存在しないが、セルロース含有率が低くなるほど、乾燥固形物における金属微粒子の輸送効率は向上する。
セルロースの含有率は、原子吸光分光光度計等を用いて測定することができる。ただし、複合体に含まれる微細化セルロースと遊離微細化セルロースを分けて測定することは困難であるため、本発明において、乾燥固形物におけるセルロースの含有率は、複合体に含まれる微細化セルロースと遊離微細化セルロースとの合計と定義する。
乾燥固形物のセルロース含有率を測定する場合は、以下の方法も可能である。例えば金属が銀である場合、乾燥固形物を硝酸水溶液で処理して銀のみを溶出させ、溶解液をフィルターなどでろ別し、得られたろ液中に含まれる銀濃度を測定する。これにより、乾燥固形物における銀の質量が算出でき、最終的にセルロース含有率が特定できる。
乾燥固形物の形態は特に限定されないが、例えばフィルム形状、多孔質形状で提供することができる。また、フィルム形状あるいは多孔質形状で得られた乾燥固形物を粉砕処理することにより、粉体形状の乾燥固形物として提供することも可能である。
本実施形態に係る乾燥固形物の製造方法は、セルロース原料にアニオン性官能基を導入する工程(第一工程)と、アニオン性官能基が導入されたセルロース原料を溶媒中で解繊して微細化セルロース分散液を得る工程(第二工程)と、微細化セルロース分散液と、1種類以上の金属イオンを含有する溶液とを混合して混合溶液を得る工程(第三工程)と、混合溶液中の金属イオンを還元して1種以上の金属またはそれらの化合物からなる金属微粒子を成長させることにより混合溶液中に金属微粒子/微細化セルロース複合体を形成し、金属微粒子/微細化セルロース複合体と遊離微細化セルロースとを含む分散液を得る工程(第四工程)と、複合体と遊離微細化セルロースとを含む分散液から溶媒を除去して乾燥固形物を得る工程(第五工程)と、を備える。以下、各工程について詳細に説明する。
本実施形態の乾燥固形物に含まれる微細化セルロースは、結晶表面にアニオン性官能基が導入されている。微細化セルロースは、その構造の少なくとも一辺がナノメートルオーダーであり、その調製方法については特に限定されない。
繊維状の微細化セルロースは、短軸径において数平均短軸径が1nm以上100nm以下であればよく、好ましくは2nm以上50nm以下であればよい。ここで、数平均短軸径が1nm未満では高結晶性の剛直な微細化セルロース繊維構造をとることができず、金属微粒子を析出させるための足場として用いることができない。一方、数平均短軸径が100nmを超えると、金属微粒子に対してサイズが大きくなり過ぎるため、金属微粒子のサイズや形状を制御することが困難となる。繊維状の微細化セルロースの数平均長軸径については特に制限はないが、好ましくは数平均短軸径の10倍以上である。数平均長軸径が数平均短軸径の10倍未満であると、金属微粒子のサイズや形状を十分に制御することができない場合がある。
N-オキシル化合物の使用量は、触媒として機能する程度の量であればよく、特に限定されない。一例を挙げると、酸化処理する木材系天然セルロースの固形分に対して0.01~5.0質量%程度である。
添加するアルカリ水溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化リチウム水溶液、水酸化カリウム水溶液等の無機アルカリや、アンモニア水溶液、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液、水酸化テトラエチルアンモニウム水溶液、水酸化テトラブチルアンモニウム水溶液、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム水溶液等の有機アルカリなどが挙げられる。コストなどの面からは、水酸化ナトリウム水溶液が好ましい。
第二工程では、第一工程においてアニオン性官能基が導入されたセルロース原料を溶媒中で解繊し、微細化セルロース分散液を得る。
TEMPO酸化処理を施した木材系のセルロース原料を第二工程に用いる場合、溶媒中の水の割合が50%以下になると木材由来の微細化セルロースの分散が阻害され、金属微粒子と微細化セルロースとの均一な複合体形成が難しくなる。水以外に含まれる溶媒としては親水性溶媒が好ましい。親水性溶媒については特に制限は無いが、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類;テトラヒドロフラン等の環状エーテル類が好ましい。必要に応じて、セルロースや生成された微細化セルロースの分散性を上げるために、懸濁液のpH調整を行ってもよい。pH調整に用いられるアルカリ水溶液としては、上述したアルカリ水溶液と同様のものが挙げられる。
第三工程では、第二工程で得られた微細化セルロース分散液と、1種類以上の金属イオンを含有する金属イオン含有溶液とを混合して混合溶液を得る。
金属イオン含有溶液は、金属微粒子の原料となる、金属または金属を含む化合物を水などの溶媒に溶解させることにより得られる。第二工程で得られた微細化セルロース分散液を攪拌しながら、金属イオン含有溶液を少しずつ添加することにより、微細化セルロース分散液と金属イオン含有溶液との混合溶液が得られる。
金属イオン含有溶液の具体的組成は特に限定されない。銀を用いる場合は例えば硝酸銀水溶液を用いることができ、金を用いる場合は例えば塩化金酸水溶液を用いることができる。
第四工程では、第三工程で得られた混合溶液中の金属イオンを還元して1種以上の金属またはそれらの化合物からなる金属微粒子を成長させるとともに、金属微粒子と微細化セルロースとを複合化する。この際、金属微粒子の異方成長を促進して平板状金属微粒子としてもよい。
第四工程では、まず、混合溶液中への還元剤の添加により、微細化セルロース3に設けたカルボキシ基を起点に金属の析出が始まる。そして、析出した金属は一次粒子(金属微粒子)2aを形成する(図2における左側参照)。この状態で金属微粒子/微細化セルロース複合体が生成される。さらに反応条件を制御することによって、これらの一次粒子2aを起点として、平板状の金属微粒子(すなわち、平板状金属微粒子)2を形成することも可能である。この際、微細化セルロース3の第一部分3aが金属結晶に結合するとともに第二部分3bが平板状金属微粒子の周囲に露出した状態で複合化する(図2における右側参照)。
第五工程では、第四工程で得られた金属微粒子/微細化セルロース複合体を含む分散液から溶媒を除去して乾燥固形物を得る。
分散液に含まれる複合体において、金属微粒子が担持された微細化セルロース3は第二部分3bを有するため、溶媒の除去に伴って複合体同士が接近しても、金属微粒子同士が結合することが好適に抑制される。さらに、複合体の周囲に存在する遊離微細化セルロースも、複合体の金属微粒子同士の結合抑制に寄与する。その結果、金属微粒子の接触による結合や凝集等が防止されつつ、再分散された際に所望の特性を発揮可能な状態で乾燥される。
なお、発明者らは、第四工程で得られた平板状銀ナノ粒子を含む分散液から遊離微細化セルロースを除去した後に乾燥して放置したところ、銀鏡反応を生じ、分散液の状態で発揮されていたLSPRが失われることを確認している。
上述した、微細化セルロース濃度、金属イオン濃度、および還元剤濃度と、得られる平板状金属微粒子/微細化セルロース複合体のアスペクト比の関係については、理論的なメカニズムは不明な点が多い。平板状金属微粒子と微細化セルロースとの複合体の具体的な作製法については、後述する実施例においても詳細を記している。
例えば、少なくとも銀を含む直径が数nmの球状金属微粒子は、波長400nm付近の光を吸収するために黄色味を呈するが、遠心分離等によってこれらの球状金属微粒子を含む複合体を除去することにより、平板状銀微粒子/微細化セルロース複合体の共振ピークに由来する波長のみを吸収する光学材料のみを含んだ乾燥固形物を得ることができる。
他の例として、平板状銀微粒子または平板状金微粒子と微細化セルロースとの複合体のうち、アスペクト比が所定値以上であると、可視光透過率の高い近赤外線吸収材料として用いることが可能であるため、遠心分離等によってこれらのアスペクト比が所定値未満の複合体を除去することにより、可視光透過率の高い近赤外線吸収材料のみを含んだ乾燥固形物を得ることができる。
実施例1から6は、金属として銀を用いた乾燥固形物の実施例である。
(木材セルロースのTEMPO酸化:第一工程)
針葉樹クラフトパルプ70gを蒸留水3500gに懸濁し、蒸留水350gにTEMPOを0.7g、臭化ナトリウムを7g溶解させた溶液を加え、20℃まで冷却した。ここに2mol/L、密度1.15g/mLの次亜塩素酸ナトリウム水溶液450gを滴下により添加し、酸化反応を開始した。系内の温度は常に20℃に保ち、反応中のpHの低下は0.5Nの水酸化ナトリウム水溶液を添加することでpH10に保ち続けた。セルロースの重量に対して、水酸化ナトリウムの添加量の合計が3.50mmol/gに達した時点で、約100mLのエタノールを添加し反応を停止させた。その後、ガラスフィルターを用いて蒸留水によるろ過洗浄を繰り返し、酸化パルプを得た。
上記TEMPO酸化で得た酸化パルプおよび再酸化パルプを固形分重量で0.1g量りとり、1%濃度で水に分散させ、塩酸を加えてpHを2.5とした。その後0.5M水酸化ナトリウム水溶液を用いた電導度滴定法により、カルボキシ基量(mmol/g)を求めた。結果は1.6mmol/gであった。
上記TEMPO酸化で得た酸化パルプ1gを99gの蒸留水に分散させ、ジューサーミキサーで30分間微細化処理し、濃度1%の微細化セルロース水分散液を得た。この分散液を光路長1cmの石英セルに入れ、分光光度計(島津製作所社製、「UV-3600」)を用いて分光透過スペクトルの測定を行った結果を図3に示す。図3から明らかなように、微細化セルロース水分散液は高い透明性を示した。微細化セルロース水分散液に含まれる微細化セルロースの数平均短軸径は3nm、数平均長軸径は1110nmであった。図4に、レオメーターを用いて微細化セルロース水分散液の定常粘弾性測定を行った結果を示す。図4から明らかなように、微細化セルロース水分散液はチキソトロピック性を示した。
硝酸銀50mgを蒸留水10mLに溶解させ、硝酸銀水溶液を調製した。
水素化ホウ素ナトリウム50mgを蒸留水10mLに溶解させ、水素化ホウ素ナトリウム水溶液を調製した。
上述した1%微細化セルロース水分散液100gを温度一定(15℃)に保ち攪拌しながら、硝酸銀水溶液4mLを添加した。5分攪拌を続けたのち、水素化ホウ素ナトリウム水溶液を4mL添加し、さらに30分ほど攪拌を続けることによって銀微粒子と微細化セルロースとの複合体(金属微粒子/微細化セルロース複合体)を作製した。
得られた銀微粒子と微細化セルロースとの複合体分散液50gを、高速冷却遠心機を用い、75,600g(30分×5セット)の条件で精製・分画した。精製済みの銀微粒子を酢酸ウラニルによるネガティブ染色法を用いてTEM観察を行った。透過型電子顕微鏡はJEM1400Plus(日本電子)を用い、加速電圧は100kvとした。結果を図5に示す。銀微粒子と微細化セルロースとの同時観察を行うことで、微細化セルロースと銀微粒子とが相互に結合した状態が確認された。
銀微粒子と微細化セルロースとの複合体分散液50gを、高速冷却遠心機を用い、75,600g(30分×1セット)の条件で精製・分画し複合体ペーストを得た。得られた複合体ペーストを、水を用いて再希釈し、光路長1cmの石英セルに入れ、分光光度計(UV-3600)を用いて分光透過スペクトルを測定し、LSPR由来の共振ピーク波長λmaxの値を調べた。
上記複合体ペーストの固形分濃度は6.32%であった。さらに、原子吸光分光光度計(日立ハイテクサイエンス製 ZA3700)を用いて複合体ペーストの固形分における銀の重量比率を測定したところ、2.78%であった。したがって、複合体ペーストの固形分におけるセルロースの割合は、約97%であった。
上述の複合体ペーストを再希釈し、ナスフラスコに封入して凍結真空乾燥し、溶媒を完全に除去して乾燥固形物を得た。得られた乾燥固形物をさらにビーズミルで処理し、粉体状にした。光学顕微鏡で粉体の粒径を観察したところ、粒径100から500μmほどの粒子サイズであった。また、粉体の一部を105℃のオーブンでさらに3時間熱乾燥し、熱乾燥前後の重量変化の差分を取ることによって固形分率を測定したところ、99.9%であった。
また、図示を省略するが、乾燥固形物のSEM観察により、複合体における銀微粒子の外面が膜状の微細化セルロースに覆われた状態であることを確認した。
粉体状の乾燥固形物をスクリュー管に封入し、ペースト希釈品と同様の固形分濃度になるように純水を添加し、攪拌子で3時間攪拌し、乾燥固形物の再分散液を得た。この再分散液について、上述の手順で分光透過スペクトルを行い、乾燥前の分散液のスペクトルと比較した。
硝酸銀水溶液の添加量を2mLとした点を除き、実施例1と同様の条件で実施例2の乾燥固形物を作製した。
硝酸銀水溶液の添加量を1mLとした点を除き、実施例1と同様の条件で実施例3の乾燥固形物を作製した。
微細化セルロースの濃度を1.5%、硝酸銀水溶液の添加量を6mL、水素化ホウ素ナトリウム水溶液の添加量を6mLとした点を除き、実施例1と同様の条件で実施例4の乾燥固形物を作製した。
硝酸銀水溶液の添加量を10mLとした点を除き、実施例1と同様の条件で実施例5の乾燥固形物を作製した。
第五工程の乾燥条件を、105℃で1時間真空乾燥とした点を除き、実施例1と同様の条件で実施例6の乾燥固形物を作製した。
実施例7は、金属として金を用いた乾燥固形物の実施例である。
(塩化金酸水溶液(金属イオン含有溶液)の調製)
2.47M塩化金酸水溶液を田中貴金属工業株式会社より購入し、水を用いて希釈して1.0mM塩化金酸水溶液を調製した。
水素化ホウ素ナトリウムを蒸留水に溶解し、12mM水素化ホウ素ナトリウム水溶液を調製した。
第一工程および第二工程は実施例1と同一である。
第二工程で得られた微細化セルロース水分散液を希釈して固形分を0.2%に調節した。0.2%微細化セルロース水分散液20gを温度一定(25℃)に保ち攪拌しながら、上述した1.0mM塩化金酸水溶液20gを添加した。30分攪拌を続けたのち、上述した12mM水素化ホウ素ナトリウム水溶液を20g添加し、さらに90分ほど攪拌を続けることによって金微粒子と微細化セルロースの複合体(金属微粒子/微細化セルロース複合体)を作製した。
金微粒子と微細化セルロースの複合体分散液を、TEM観察用グリッドにキャストし、TEM観察を行った。観察時の加速電圧は80kvとした。
金微粒子と微細化セルロースの複合体分散液に対し、実施例1と同一の第五工程を行うことにより、実施例7の乾燥固形物を得た。
実施例7においても、実施例1と同様に分光透過スペクトル測定を行い、再分散性を評価した。
市販の導電性銀ナノインク(NBSIJ―MU01、三菱製紙株式会社)に対して実施例1と同一の第五工程を行うことにより、比較例1の乾燥固形物を得た。
乾燥前の銀ナノインクおよび乾燥固形物を用いて実施例1と同様に形状観察と分光透過スペクトル測定を行い、再分散性を評価した。
市販の銀ナノプレート分散液(JMW1080、ナノコンポジクス社)に対して実施例1と同一の第五工程を行うことにより、比較例2の乾燥固形物を得た。
乾燥前の銀ナノプレート分散液および乾燥固形物を用いて実施例1と同様に形状観察と分光透過スペクトル測定を行い、再分散性を評価した。
・乾燥の前後で、分散液の分光透過スペクトルにおけるλmaxが同一である
・目視で再分散液中に凝集物を認めない
本発明の乾燥固形物に含まれる金属微粒子/微細化セルロース複合体は、結晶性の剛直な微細化セルロースの繊維に金属微粒子が固定されているため、溶媒が除去されても複合体を形成する微細化セルロースおよび遊離微細化セルロースによって金属微粒子同士の接触が妨げられ、金属微粒子由来のLSPR特性等を損なうことなく再分散が可能になったと推測される。
実施例1から6の乾燥固形物中の複合体は、乾燥履歴を経ていても銀微粒子同士が凝集することなく、ナノレベルで均一に再分散可能であり、LSPRに由来する共振ピークλmaxも乾燥前後で変化がないことが確認された。
図9において、細い網目状に見えるものが微細化セルロースである。微細化セルロース上に存在する微小な黒点(例えば、図9に一点鎖線で示す領域A内を参照。)が銀微粒子である。
図示を省略するが、実施例2から4に係る複合体も、平板状銀微粒子と微細化セルロースとから形成されており、その厚みは10nm程度であった。これらの複合体は、平板状銀微粒子の形状に由来して、可視光~近赤外光領域における波長選択的なLSPR特性を示す。平板状銀微粒子の厚みがどの実施例においても概ね同一であったことから、硝酸銀水溶液添加量を調節することにより平板状銀微粒子の面方向における粒径サイズを選択的に制御可能であることが示された。
比較例1においては、分散後のλmaxに変化は無かったが、再分散液中に目視で凝集体が認められ、ナノレベルで均一には分散していなかった。また、乾燥固形物の再分散液において、λmaxの波長における透過率が乾燥前に比して高くなっていた。これは、銀微粒子の一部のみが分散したに過ぎないため、再分散時に分散液の吸光度が下がってしまったことによるものと考えられる。
比較例2においては、再分散液の測定において明瞭な透過率のピークを得ることができず、λmaxを特定することができなかった。これは、第五工程において金属微粒子同士が接触し、金属微粒子の結晶面同士がスタッキングすることによって凝集が促進され、金属微粒子のもともとの粒子形状に由来するLSPR効果が生じなくなったことによるものと考えられる。すなわち、比較例2においては、乾燥固形物としたことにより金属微粒子の特性が失われたと言える。
2 金属微粒子
3 微細化セルロース
3a 第一部分
3b 第二部分
Claims (11)
- 少なくとも結晶表面にアニオン性官能基を有する微細化セルロースの表面上に、1種以上の金属またはそれらの化合物からなる金属微粒子が担持されてなる金属微粒子/微細化セルロース複合体と、
前記金属微粒子が担持されていない遊離微細化セルロースと、
を含み、
前記金属微粒子/微細化セルロース複合体の表面が前記遊離微細化セルロースに覆われており、
セルロースの含有率が30質量%以上である、
粉体の乾燥固形物。 - 前記粉体の粒径が500μm以下である、
請求項1に記載の乾燥固形物。 - 前記金属微粒子が少なくとも金、銀、白金、パラジウムより選ばれた1種類以上の金属またはその化合物を含む、請求項1または2に記載の乾燥固形物。
- 前記アニオン性官能基の含有量が、セルロース1gあたり0.1mmol以上5.0mmol以下である、請求項1から3のいずれか一項に記載の乾燥固形物。
- 前記微細化セルロースの結晶構造が、セルロースI型である、請求項1から4のいずれか一項に記載の乾燥固形物。
- 前記微細化セルロースの形状が、天然セルロースのミクロフィブリル構造由来の繊維状であることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の乾燥固形物。
- 前記微細化セルロースは、数平均短軸径が1nm以上100nm以下、数平均長軸径が50nm以上であり、かつ数平均長軸径が数平均短軸径の10倍以上である、請求項1から6のいずれか一項に記載の乾燥固形物。
- 前記金属微粒子が平板状である、請求項1から7のいずれか一項に記載の乾燥固形物。
- セルロース原料にアニオン性官能基を導入する第一工程と、
前記アニオン性官能基が導入された前記セルロース原料を溶媒中で解繊して微細化セルロース分散液を得る第二工程と、
前記微細化セルロース分散液と、1種類以上の金属イオンを含有する金属イオン含有溶液とを混合して混合溶液を得る第三工程と、
前記混合溶液中の前記金属イオンを還元して、1種以上の金属またはそれらの化合物からなる金属微粒子を成長させることにより前記混合溶液中に金属微粒子/微細化セルロース複合体を形成し、前記金属微粒子/微細化セルロース複合体と遊離微細化セルロースとを含む分散液を得る第四工程と、
前記分散液から溶媒を除去して粉砕することにより、粉体の乾燥固形物を得る第五工程と、
を備える、
乾燥固形物の製造方法。 - 前記第五工程が凍結真空乾燥により行われる、
請求項9に記載の乾燥固形物の製造方法。 - 前記第一工程において、前記アニオン性官能基が、セルロース1g当たり0.1mmol以上5.0mmol以下導入される、
請求項9または10に記載の乾燥固形物の製造方法。
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