以下、実施形態の系統安定化装置を、図面を参照して説明する。以下の説明において、複数の同じ構成要素について、符号の末尾に「1」、「2」等の数値を、「-」(ハイフン)を介して付すことにより区別する。複数の同じ構成を互いに区別しない場合には、符号の末尾に「1」、「2」等の数値を「-」(ハイフン)を介して付すことを省略する。
(第1の実施形態)
第1の実施形態について説明する。図1は、第1の実施形態の系統安定化装置20が適用される電力供給システムの構成を示すブロック図である。電力供給システムは、例えば、電力系統1と、伝送系10と、系統安定化装置20とを備える。
電力系統1は、母線2(母線2-1~2-5)と、送電線3(送電線3-1~3-4)と、変圧器4(変圧器4-1~4-4)と、発電機5(発電機5-1~5-4)と、遮断器6(遮断器6-1~6-4)と、情報端末11(情報端末11-1~11-5)と、制御端末12(制御端末12-1、12-2)とを備える。
変圧器4は、発電機5により発電される電力の電圧を所定電圧に変圧する。例えば、変圧器4-1は、発電機5-1により発電される電力の電圧を所定電圧に変圧する。発電機5は、太陽光、風力等の再生可能エネルギーによる電源、または火力機、原子力機、水力機等の同期機等化石燃料等の枯渇性エネルギーによって電力を発電する機器を示す。遮断器6は、発電機5により発電される電力の需要家への供給を遮断する。例えば、遮断器6-1は、発電機5-1により発電される電力の供給を遮断する。伝送系10は、専用通信回線やインターネット等の通信ネットワークにより構成され、情報端末11と系統安定化装置20との間で、後述する系統情報等の各種情報を伝送する。
情報端末11は、発電機5から母線2を介して需要家に供給される電力に関する情報(以下、系統情報と称する)を計測する。
系統情報は、電力系統1の各構成要素(母線2、送電線3、変圧器4、発電機5、遮断器6、情報端末11、及び制御端末12)における電力の需給状態に関する電力情報、及びの接続状態に関する接続情報を含む。系統情報が含む電気情報は、送電線3や変圧器4の有効電力と無効電力、母線2に印加される母線電圧などである。また、系統情報が含む接続情報は、送電線3と変圧器4の接続状態などである。系統情報は、例えば、電力系統1における各母線2の電圧や位相角、送電線3の有効電力潮流や無効電力潮流、発電機5の起動・停止情報、などの情報を含む。例えば、情報端末11-1は、母線2-1に接続する送電線3-1、3-2、3-5により供給される電力等に関する電力情報、及び送電線3-1等の接続情報を含む系統情報を計測する。
制御端末12は、系統安定化装置20からの制御信号に応じて、遮断器6を制御し、発電機5からの電力の供給の遮断を制御する。例えば、制御端末12-1は、系統安定化装置20からの制御信号に応じて、遮断器6-1、6-2を制御し、母線2-4を介した電力の供給の遮断を制御する。
系統安定化装置20は、伝送系10を介して系統情報を取得し、取得した系統情報に基づいて過渡安定度計算を行い、想定事故が発生した場合に電力系統1の安定を維持するために電制を行う電制機を選択する。ここで、電制機は、電力の供給を遮断する発電機5である。
本実施形態において、系統安定化装置20は、上述した過渡安定度計算に加えて、過渡安定度計算を行う周期よりも早い周期で電力系統1の状態が変化した場合に、追加の電制が必要か否かを判定し、追加の電制が必要な場合には、追加で電制を行う電制機を選択する。
系統安定化装置20は、電制実行部30と、安定度評価モデル生成部40と、追加電制実行部50とを備える。電制実行部30は、従来の過渡安定度計算による電制に関する処理を行う機能部である。安定度評価モデル生成部40、及び追加電制実行部50は、追加の電制に関する処理を行う機能部である。ここで、安定度評価モデル生成部40は、「安定度評価モデル作成部」の一例である。追加電制実行部50は、「第2選択部」の一例である。
電制実行部30は、系統情報収集部31と、基本系統記憶部32と、系統モデル作成部33と、安定度計算部34と、電制機選定部35と、第1段電制部36と、計算結果記憶部37とを備える。ここで、系統情報収集部31は、「収集部」の一例である。安定度計算部34は、「計算部」の一例である。電制機選定部35は、「第1選択部」の一例である。
系統情報収集部31は、伝送系10を介して情報端末11から予め設定された周期(例えば、1分)毎に、系統情報を取得する。系統情報収集部31は、取得した系統情報を、系統モデル作成部33に出力する。
系統モデル作成部33は、情報端末11により取得される系統情報、及び基本系統記憶部32に記憶される構成情報に基づいて、電力系統1の電力の潮流状態を表すシミュレーションモデル(以下、系統モデルと称する)を作成する。基本系統記憶部32は、構成情報を記憶する。
構成情報は、電力系統1の各構成要素の構成に関する情報である。構成情報は、例えば、電力系統1が有する送電線3のインピーダンスやインダクタンス、母線2と送電線3の相互接続情報、電力系統1の各構成要素の規模や台数、配置等を示す情報である。
安定度計算部34は、系統モデルを用いて過渡安定度計算による系統解析シミュレーションを行う。安定度計算部34は、予め設定されている種々の想定事故が発生した場合の過渡安定度計算を実行し、発電機が脱調しないか脱調するか、即ち、電力系統が安定か不安定かを判別する。安定度計算部34は、判定結果を電制機選定部35に出力する。電制機選定部35は、安定度計算部34による判定結果が不安定の場合、脱調する発電機の中から1台を電制機として選択し、追加する。安定度計算部34は、電制機選定部35により選択された電制機を遮断する条件で過渡安定度計算を実行し、再度、安定か不安定かを判別し、判定結果を電制機選定部35に出力する。この安定度計算部34と電制機選定部35とのやり取りを、判定結果が安定となるまで反復することで、想定事故において電力系統の安定性を維持できる電制機が決定(選択)される。
電制機選定部35は、想定事故が発生した場合に電力系統1を安定させるために選択した電制機の情報を第1段電制部36に出力する。また、安定度計算部34は、計算結果記憶部37に、過渡安定度計算に用いた系統モデルや、電制機の選定結果を含む各種条件と計算結果とを記憶させる。
第1段電制部36は、伝送系10を介して電力系統1における事故の発生及び事故条件を感知し、事故条件に対応した想定事故において予め選択された電制機の制御端末12に遮断指令を送る。これにより、該当する発電機5が電力系統1から切り離される。計算結果記憶部37は、過渡安定度計算に用いた系統モデルや、電制機の選定結果を含む各種条件と計算結果とを記憶する。
安定度評価モデル生成部40は、次の過渡安定度計算のタイミングよりも前に電力の状態が変化した場合において電制実行部30により選択された電制機(第1電制機)を電制した後に電力系統1が安定するか否か、つまり、追加の電制を行うか否かを判定するための関数及びパラメータを策定する(作成する)。安定度評価モデル生成部40は、電制実行部30による過渡安定度計算の周期と同じ周期で、常時(つまり、事故の発生の有無に関わらず)処理を実行する。
安定度評価モデル生成部40は、不安定側系統モデル策定部41と、安定側系統モデル策定部42と、判定基準策定部43と、出力変化モデル策定部44とを備える。
不安定側系統モデル策定部41は、各想定事故の事故条件における不安定発電機群モデルの状態量を計算するための各種定数を算出する。不安定発電機群モデルは、不安定側系統に属する複数の発電機5(不安定発電機群)を、当該複数の発電機と等価な1台の発電機にまとめたモデルである。不安定側系統に属する発電機5とは、想定事故の発生に対して安定を維持しない、つまり不安定となり得る発電機5であり、当該想定事故における電制の対象とする発電機5である。
不安定側系統モデル策定部41は、例えば、全ての発電機5の位相角重心を基準とした各発電機5の内部電圧位相角差を精査(算出)し、算出した位相角差が所定の指定値を超過している発電機を不安定側系統に属する発電機5とする。
また、不安定側系統モデル策定部41は、不安定発電機群モデルの状態量を計算するための各種定数(パラメータ)として、不安定発電機群モデルの慣性定数M1を算出する。安定発電機群モデルの慣性定数M1は、(式1)に示すように、不安定側系統に属する発電機の慣性定数Miの合計として計算される。
(式1)において、M1は不安定発電機群モデルの慣性定数、Miは不安定側系統に属する識別番号iの発電機5の慣性定数を示す。識別番号i(i=0~n)は不安定発電機(不安定側系統に属する発電機5)を一意に識別する番号である。nは任意の自然数である。
安定側系統モデル策定部42は、計算結果記憶部37に保存された計算結果を用いて、各事故条件における安定発電機群モデルの有効電力を推定するための関数を策定する。また、安定側系統モデル策定部42は、各想定事故の事故条件における安定発電機群モデルの状態量を計算するための各種定数(パラメータ)を算出する。
安定発電機群モデルは、安定側系統に属する複数の発電機5(安定発電機群)を、当該複数の発電機5と等価な1台の発電機にまとめたモデルである。安定側系統とは、想定事故に対して安定を維持すると推定される系統であり、例えば、想定事故が発生した箇所から電気的な接続の観点から離れた箇所に位置する発電機等の集合である。想定事故の発生が想定される箇所から離れた箇所に設けられた発電機5は、想定事故の影響を受け難く、想定事故に対して安定を維持すると考えられるためである。
安定側系統モデル策定部42は、例えば、全ての発電機5の位相角重心を基準とした各発電機の内部電圧位相角差を精査(算出)し、算出した位相角差が所定の指定値を超過していないものを安定側系統に属する発電機5とする。
ここで、安定側系統は、想定事故が発生した箇所から離れた箇所に設けられている場合が多いと考えられるため、情報端末11により安定側系統における系統情報を直接的に計測することができない場合がほとんどであるとみなしてよい。このため、実際に事故が発生した直後の安定側系統の系統情報をリアルタイムに測定することは困難である。
この対策として、本実施形態において安定側系統モデル策定部42は、安定発電機群モデルの有効電力を推定するための関数として、安定側系統の総負荷と母線電圧との関係を示す回帰モデル(関数)を作成する。これにより、事故が発生した直後の安定側系統の系統情報を、回帰モデルを用いて推測する。
また、安定側系統モデル策定部42は、安定発電機群モデルの状態量を計算するための各種定数(パラメータ)として、安定発電機群モデルの慣性定数M2を算出する。安定発電機群モデルの慣性定数M2は、(式2)に示すように、安定側系統に属する発電機の慣性定数Mjの合計として計算される。
(式2)において、M2は安定発電機群モデルの慣性定数、Mjは安定側系統に属する識別番号jの発電機5の慣性定数を示す。識別番号j(j=0~m)は安定発電機(安定側系統に属する発電機5)を一意に識別する番号である。mは任意の自然数である。
判定基準策定部43は、統合発電機モデルが安定か不安定かを判定するための基準を策定する。統合発電機モデルとは、安定発電機群モデルと不安定発電機群モデルとを1台の発電機にまとめたモデルのことである。
判定基準策定部43は、例えば、統合発電機モデルの位相角偏差の閾値(以下、位相角偏差閾値Δδth)を算出する。位相角偏差については、後で詳しく説明する。統合発電機モデルの位相角偏差閾値Δδthは、後述する追加電制実行部50の安定度判別部57により、事故発生後における統合発電機モデルの安定度合いを判定する閾値に用いられる。
また、判定基準策定部43は、位相角偏差閾値Δδthを求める過程で、統合発電機モデルの位相角と有効電力出力の関係性から、有効電力出力の最大値、および、有効電力出力が最大となる時の位相角を求める。具体的には、時系列の過渡安定度計算結果から統合発電機モデルの位相角と有効電力出力を求め、その中から有効電力出力の最大値を探索し、同じ時刻の位相角を保存する。
出力変化モデル策定部44は、計算結果記憶部37に保存された計算結果を用いて、電制を実施した場合における、電制の対象外とする発電機5の有効電力の変化を推定するための係数を算出する。電制の対象外とする発電機5とは、安定側系統に属する発電機5のことである。
出力変化モデル策定部44は、例えば、第1電制機、及び第1電制機に追加電制機候補を組み合わせた全電制パターンを導出する。出力変化モデル策定部44は、導出した全電制パターンにおける、追加した電制機の端子母線から見た、他の不安定側系統の発電機5までの短絡インピーダンスと、安定側系統の発電機5までの短絡インピーダンスとを求める。出力変化モデル策定部44は、求めた2つの短絡インピーダンスの合計値に対する各短絡インピーダンスの比率を算出する。出力変化モデル策定部44は、算出した比率を、電制の対象外とする発電機5の有効電力の変化を推定するための係数とする。
ここで、有効電力の変化は2種類あり、1つ目は電制を実施した直後のステップ的な変化であり、2つ目は電制を実施した後の緩やかな変化である。出力変化モデル策定部44は、電制を実施した時刻からの経過時間に応じて上述した比率を算出することにより、これら2つの有効電力の変化を推定するための係数を算出する。
追加電制実行部50は、電力系統で事故が発生した後に動作する機能部である。追加電制実行部50は、電力系統で事故が発生した場合において、第1電制機による電制を実行した後に追加の電制を行うか否かを、安定度評価モデル生成部40により生成された関数等を用いて判定し、追加の電制が必要な場合には、その対象とする電制機を選択する。
追加電制実行部50は、高速情報収集部51と、発電機状態計算部500と、出力変化推定部55と、安定度判別部57と、追加電制機選定部58とを備える。高速情報収集部51は、伝送系10を介して、電制実行部30による系統情報を取得する周期よりも高速なサンプリング周期で系統情報を取得する。ここでの系統情報には、発電機有効電力や送電線有効電力などの各種情報が含まれる。
高速情報収集部51は、常時、高速なサンプリング周期で系統情報を収集し、一定の時間区間の系統情報を保持する。そして、高速情報収集部51は、事故が発生したと判定した場合、事故が発生する前の所定時刻(以下、情報収集開始時という)から所定の時間が経過するまで(以下、情報収集終了時という)の一定の時間区間に収集した系統情報を抽出する。高速情報収集部51は、抽出した一定の時間区間の系統情報を、発電機状態計算部500に出力する。
なお、事故が発生したか否かは、保護リレーの動作信号を取得することで判定することができる。例えば、保護リレーの1つでは、送電線の両端の電流を計測し、その差分が所定の閾値以上であるか否かにより判定される。この場合、電流の差分が所定の閾値以上である場合、事故が発生したと判定される。
発電機状態計算部500は、高速情報収集部51から取得した系統情報を用いて、事故発生後の発電機5の状態を計算する。発電機5の状態とは、例えば、発電機5の有効電力偏差、及び位相角偏差である。有効電力偏差は、事故発生前の有効電力を基準とした、情報収集開始時から情報収集終了時までの有効電力の時系列変化である。位相角偏差は、事故発生前の位相角を基準とした、情報収集開始時から情報収集終了時までの位相角の時系列変化である。
出力変化推定部55は、発電機状態計算部500による計算結果を用いて、電制を実施した場合における統合発電機モデルの有効電力偏差の時系列変化を推定する。安定度判別部57は、発電機状態計算部500による計算結果を用いて、電制を実施した場合において電力系統1が安定するか否かを推定する。追加電制機選定部58は、安定度判別部57により電制を実施しても電力系統1が安定しないと判定された場合に、追加の電制を行う対象とする電制機を選択する。なお、出力変化推定部55、安定度判別部57、及び追加電制機選定部58が行う処理については、後で詳しく説明する。
発電機状態計算部500は、不安定側系統計算部52と、安定側系統計算部53と、位相角偏差予測部54と、位相角偏差再計算部56とを備える。
不安定側系統計算部52は、不安定発電機群モデルの状態として、不安定発電機群モデルの有効電力偏差ΔPG1、及び不安定発電機群モデルの位相角偏差Δδ1を計算する。
具体的に、不安定側系統計算部52は、(式3)に示すように、高速情報収集部51により収集された不安定側系統に属する発電機5の時刻tにおける有効電力PGiを加算することにより不安定発電機群モデルの時刻tにおける有効電力PG1(t)を算出する。
(式3)において、PG1(t)は情報収集開始時から所定の時刻tが経過した時点における不安定発電機群モデルの有効電力、PGi(t)は情報収集開始時から所定の時刻tが経過した時点における不安定側系統に属する識別番号iの発電機5の有効電力を示す。識別番号i(i=0~n)は不安定発電機を一意に識別する番号である。また、nは任意の自然数である。
不安定側系統計算部52は、(式4)に示すように、各時刻tにおける不安定発電機群モデルの有効電力から事故発生前における不安定発電機群モデルの有効電力を減ずることにより不安定発電機群モデルの有効電力偏差を計算する。
(式4)において、ΔPG1は不安定発電機群モデルの有効電力偏差、PG1(t)は情報収集開始時から所定の時刻tが経過した時点における不安定発電機群モデルの有効電力、PG1(0)は情報収集開始時(つまり、事故発生前)における不安定発電機群モデルの有効電力、を示す。
また、不安定側系統計算部52は、(式5)を用いて、不安定発電機群モデルの位相角偏差を計算する。
(式5)において、Δδ1は不安定発電機群モデルの位相角偏差、ΔPG1は不安定発電機群モデルの有効電力偏差、M1は不安定発電機群モデルの慣性定数を示す。不安定発電機群モデルの慣性定数M1は不安定側系統モデル策定部41により算出されるものである。なお、(式5)は、(式6)に示す発電機の運動方程式に基づいて算出される。
(式6)において、Mは発電機の慣性定数、Dはダンピング係数、δは位相角、Pmは機械入力、PGは発電機の有効電力を示している。(式5)は、(式6)におけるダンピング係数Dを0(ゼロ)、機械入力Pmを、事故発生前における安定発電機群モデルの有効電力PG(0)とすることにより算出することができる。
安定側系統計算部53は、安定発電機群モデルの状態として、安定発電機群モデルの有効電力偏差ΔPG2、及び安定発電機群モデルの位相角偏差Δδ2を計算する。
具体的に、安定側系統計算部53は、安定側系統モデル策定部42により作成された回帰モデルに、高速情報収集部51により収集された母線電圧を入力させることにより、安定側系統における総負荷を推定する。安定側系統計算部53は、高速情報収集部51により収集された、時刻tにおいて安定側系統へ流れる有効電力PG2を、推定した安定側系統における総負荷から減じた差分を、安定発電機群モデルの有効電力PG2(t)とする。
安定側系統計算部53は、(式7)に示すように、計算した時刻tにおける安定発電機群モデルの有効電力PG2(t)から事故発生前における安定発電機群モデルの有効電力PG2(0)を減ずることにより安定発電機群モデルの有効電力偏差ΔPG2を計算する。
(式7)において、ΔPG2は安定発電機群モデルの有効電力偏差、PG2(t)は情報収集開始時から所定の時刻tが経過した時点における安定発電機群モデルの有効電力、PG2(0)は情報収集開始時(つまり、事故発生前)における安定発電機群モデルの有効電力、を示す。
また、安定側系統計算部53は、(式8)を用いて、安定発電機群モデルの位相角偏差Δδ2を計算する。
(式8)において、Δδ2は安定発電機群モデルの位相角偏差、ΔPG2は安定発電機群モデルの有効電力偏差、M2は安定発電機群モデルの慣性定数を示す。安定発電機群モデルの慣性定数M2は安定側系統モデル策定部42により算出されるものである。
位相角偏差予測部54は、統合発電機モデルの状態として、統合発電機モデルの有効電力偏差ΔPG、及び統合発電機モデルの位相角偏差Δδを計算する。
位相角偏差予測部54は、(式9)に示すように、不安定側系統計算部52により計算された、時刻tにおける不安定発電機群モデルの位相角偏差Δδ1(t)から、安定側系統計算部53により計算された、時刻tにおける安定発電機群モデルの位相角偏差Δδ2(t)を減ずることにより、時刻tにおける統合発電機モデルの位相角偏差Δδ(t)を計算する。
(式9)において、Δδ(t)は時刻tにおける統合発電機モデルの位相角偏差、Δδ1(t)は時刻tにおける不安定発電機群モデルの位相角偏差、Δδ2(t)は時刻tにおける安定発電機群モデルの位相角偏差を示す。
また、位相角偏差予測部54は、計算した統合発電機モデルの位相角偏差Δδ(t)の時間推移を二次関数などで近似することにより、情報収集終了時点から先の任意の時刻おける、統合発電機モデルの予測位相角偏差Δδ’(t){t=t3~}を予測する。ここで、時刻t3は、情報収集終了時の時刻である。
位相角偏差予測部54は、高速情報収集部51の情報収集終了時(時刻t3)までの安定発電機群モデルの有効電力偏差ΔPG2(t)と、不安定発電機群モデルの有効電力偏差ΔPG1(t)を(式10)に代入することにより、統合発電機モデルの有効電力偏差ΔPGに換算する。
(式10)において、ΔPG(t)は時刻t(t=0~t3)における統合発電機モデルの有効電力偏差、M1は不安定発電機群モデルの慣性定数を示す。M2は安定発電機群モデルの慣性定数を示す。また、ΔPG1(t)は時刻t(t=0~t3)における不安定発電機群モデルの有効電力偏差、ΔPG2(t)は時刻t(t=0~t3)における安定発電機群モデルの有効電力偏差を示す。
また、位相角偏差予測部54は、統合発電機モデルの予測位相角偏差Δδ’と(式11)から、時刻t3以降の任意の時刻tおける、統合発電機モデルの予測有効電力偏差ΔPG’(t)を計算する。
(式11)において、ΔPG’(t)は時刻t(t=t3~)における統合発電機モデルの予測有効電力偏差、Mは統合発電機モデルの慣性定数、Δδ’は時刻t(t=t3~)における統合発電機モデルの予測位相角偏差を示す。統合発電機モデルの慣性定数Mは(式12)により求める。
出力変化推定部55は、電制を反映した統合発電機モデルの反映有効電力偏差ΔPG”を推定する。ここでの電制は、第1電制機による電制、及び追加電制実行部50により選択された追加の電制機による電制を含む。つまり、出力変化推定部55は、第1電制機による電制を行った後のみならず、追加の電制を行った後の統合発電機モデルの有効電力偏差ΔPG”を推定するようにしてよい。以下では、第1電制機による電制を反映した統合発電機モデルの有効電力偏差ΔPG”を推定する方法について説明するが、追加の電制を反映する場合も同様な方法で推定することができる。
具体的に、出力変化推定部55は、出力変化モデル策定部44により算出された安定側系統発電機の短絡インピーダンスの比率に、安定側系統に属する第1電制機における事故発生前の有効電力を乗じた値を、電制による不安定発電機群モデルの有効電力増加分とする。ここでの安定側系統発電機は、安定側系統に属する発電機であって第1電制機に該当する発電機を示す。
出力変化推定部55は、電制を反映する前における不安定発電機群モデルの有効電力偏差ΔPG1に、電制による不安定発電機群モデルの有効電力増加分を加算することにより、電制を反映した不安定発電機群モデルの反映有効電力偏差ΔPG1”(t)(t=t4~t5)を推定する。ここで、時刻t4は、第1電制機による電制が実行された時刻である。時刻t5は、追加の電制が実行された時刻である。
なお、出力変化推定部55は、まず、(式3)において、不安定側系統に属する発電機5のうち、第1電制機に該当する発電機5を除いた発電機5の有効電力偏差ΔPGiを加算することにより、電制を反映した安定発電機群モデルの有効電力偏差ΔPG1#を算出する。そして、出力変化推定部55は、電制を反映した安定発電機群モデルの有効電力偏差ΔPG1#に、電制による不安定発電機群モデルの有効電力増加分を加算することにより、電制を反映した不安定発電機群モデルの反映有効電力偏差ΔPG1”(t)(t=t4~t5)を推定する。
また、出力変化推定部55は、出力変化モデル策定部44により算出された不安定側系統発電機の短絡インピーダンスの比率に、不安定側系統に属する第1電制機における事故発生前の有効電力を乗じた値を、電制による安定発電機群モデルの有効電力増加分とする。ここでの不安定側系統発電機は、不安定側系統に属する発電機であって第1電制機に該当する発電機を示す。
出力変化推定部55は、電制を反映する前における安定発電機群モデルの有効電力偏差ΔPG2に、電制による安定発電機群モデルの有効電力増加分を加算することにより、電制を反映した安定発電機群モデルの反映有効電力偏差ΔPG2”(t)(t=t4~t5)を推定する。
そして、出力変化推定部55は、第1電制機による電制を反映した不安定発電機群モデルの慣性定数M1”、及び安定発電機群モデルの慣性定数M2、不安定発電機群モデルの反映有効電力偏差ΔPG1”(t)、安定発電機群モデルの反映有効電力偏差ΔPG2”(t)と(式13)により、第1電制機による電制を反映した、統合発電機モデルの反映有効電力偏差ΔPG”(t)(t=t4~t5)を計算する。
(式13)において、ΔPG1”(t)は時刻tにおける統合発電機モデルの反映有効電力偏差、M1”は第1電制機による電制を反映した不安定発電機群モデルの慣性定数、M2は安定発電機群モデルの慣性定数、ΔPG1”(t)は不安定発電機群モデルの反映有効電力偏差、ΔPG2”(t)は安定発電機群モデルの反映有効電力偏差を示す。第1電制機による電制を反映した不安定発電機群モデルの慣性定数M1”は、例えば、(式1)において、不安定側系統に属する発電機5のうち、第1電制機に該当する発電機5を除いた発電機5の慣性定数を加算することにより算出される。
位相角偏差再計算部56は、電制を反映した統合発電機モデルの反映位相角偏差Δδ”を推定する。位相角偏差再計算部56は、出力変化推定部55により計算された統合発電機モデルの反映有効電力偏差ΔPG”(t)(t=t4~t5)と、(式14)とから、統合発電機モデルの反映位相角偏差Δδ”(t)(t=t4~t5)を計算する。
(式14)において、Δδ”(t)は時刻tにおける統合発電機モデルの反映位相角偏差、M”は第1電制機による電制を反映した統合発電機モデルの慣性定数、ΔPG”(t)は時刻tにおける統合発電機モデルの推定有効電力偏差を示す。ここで、統合発電機モデルの慣性定数M”は、第1電制に選択された発電機の分だけ減少した不安定発電機群モデルの慣性定数M1”と(式12)により求めることができる。
上記より、時間で区切ると、位相角偏差予測部54により計算された情報収集開始時(時刻t0)から情報収集終了時(時刻t3)までの位相角偏差Δδ、位相角偏差予測部54により予測された情報収集終了時(時刻t3)から第1電制機による電制実行時(時刻t4)までの予測位相角偏差Δδ’、位相角偏差再計算部56により計算された第1電制機による電制実行後(時刻t4~)の反映位相角偏差Δδ”となり、これらを時間経過順に並べたものが統合発電機モデルの位相角偏差の時間推移となる(図3の下段参照)。
安定度判別部57は、位相角偏差再計算部56により計算された統合発電機モデルの反映位相角偏差Δδ”と、判定基準策定部43により算出された統合発電機モデルの位相角偏差閾値Δδthを比較する。安定度判別部57は、反映位相角偏差Δδ”の最大値が、位相角偏差閾値Δδthを下回れば安定、上回れば不安定と判別する。
追加電制機選定部58は、出力変化モデル策定部44により計算されたで得た係数(インピーダンスの比率)を基に、追加の電制の候補とする発電機5の中から電制時の有効電力変化が最も大きいものを、追加の電制を行う対象とする電制機として選択する。
図2は、実施形態の追加電制実行部50が行う処理の流れを説明するフローチャートである。
ステップS1において、高速情報収集部51は、指定時間における系統情報を取得する。指定時間は、事故発生時を含む所定の時間区間であって情報収集開始時(時刻t0)から情報収集終了時(時刻t3)までの時間区間である。高速情報収集部51は、取得した指定時間の系統情報を発電機状態計算部500に出力する。
ステップS2において、不安定側系統計算部52は、不安定発電機群モデルの位相角偏差Δδ1(t)(t=t0~t3)を計算する。不安定側系統計算部52は、系統情報から計算した不安定発電機群モデルの有効電力偏差ΔPG1(t)(t=t0~t3)と、不安定発電機群モデルの慣性定数M1に基づいて、不安定発電機群モデルの位相角偏差Δδ1(t)(t=t0~t3)を計算し、計算結果を位相角偏差予測部54に出力する。
まず、安定側系統計算部53は、安定発電機群モデルの位相角偏差Δδ2(t)(t=t0~t3)を計算する。そして、安定側系統計算部53は、回帰モデルから推定した安定発電機群モデルの有効電力偏差ΔPG2(t)(t=t0~t3)と、安定発電機群モデルの慣性定数M2に基づいて、安定発電機群モデルの位相角偏差Δδ2(t)(t=t0~t3)を計算し、計算結果を位相角偏差予測部54に出力する。
ステップS3において、位相角偏差予測部54は、不安定発電機群モデルの位相角偏差Δδ1(t)(t=t0~t3)、及び安定発電機群モデルの位相角偏差Δδ2(t)(t=t0~t3)を用いて、統合発電機モデルの位相角偏差Δδ(t)(t=t0~t3)を計算する。
ステップS4において、位相角偏差予測部54は、統合発電機モデルの有効電力偏差ΔPG(t)(t=t0~t3)を計算するとともに、統合発電機モデルの予測有効電力偏差ΔPG’(t)(t=t3~)を予測する。
まず、位相角偏差予測部54は、不安定発電機群モデルの有効電力偏差ΔPG1(t)(t=t0~t3)、及び安定発電機群モデルの有効電力偏差ΔPG2(t)(t=t0~t3)を用いて、統合発電機モデルの有効電力偏差ΔP(t)(t=t0~t3)を計算する。次に、位相角偏差予測部54は、ステップS3で計算した統合発電機モデルの位相角偏差Δδ(t)(t=t0~t3)を用いて、二次関数などの関数による近似曲線を用いること等により、統合発電機モデルの予測位相角偏差Δδ’(t)(t=t3~)を予測する。そして、位相角偏差予測部54は、統合発電機モデルの予測位相角偏差Δδ’(t)(t=t3~)を用いて、統合発電機モデルの予測有効電力偏差ΔPG’(t)(t=t3~)を計算する。
ステップS5において、出力変化推定部55は、第1電制機による電制を反映させた統合発電機モデルの反映有効電力偏差ΔPG”(t)(t=t4~)を計算する。時刻t4は第1電制機による電制が実行される時刻である。
まず、出力変化推定部55は、電制による不安定発電機群モデルの有効電力増加分を加算することにより、不安定発電機群モデルの反映有効電力偏差ΔPG1”(t)(t=t4~t5)を計算する。次に、出力変化推定部55は、電制による安定発電機群モデルの有効電力増加分を加算することにより、安定発電機群モデルの反映有効電力偏差ΔPG2”(t)(t=t4~t5)を計算する。そして、出力変化推定部55は、不安定発電機群モデルの反映有効電力偏差ΔPG1”(t)(t=t4~t5)、安定発電機群モデルの反映有効電力偏差ΔPG2”(t)(t=t4~t5)を用いて、統合発電機モデルの反映有効電力偏差ΔPG”(t)(t=t4~t5)を計算する。
ステップS6において、位相角偏差再計算部56は、ステップS5で計算された統合発電機モデルの反映有効電力偏差ΔPG”(t)(t=t4~t5)を用いて、第1電制機による電制を反映させた統合発電機モデルの反映位相角偏差Δδ”(t)(t=t4~t5)を再計算する。
ステップS7において、安定度判別部57は、ステップS6で再計算された統合発電機モデルの反映位相角偏差Δδ”(t)(t=t4~t5)を、位相角偏差閾値Δδthと比較することにより、電制により電力系統1が安定するか否かを判定する。安定度判別部57は、統合発電機モデルの反映位相角偏差Δδ”(t)(t=t4~t5)が位相角偏差閾値Δδthを下回った場合に電力系統1が安定すると判定し、上回った場合に電力系統1が安定しないと判定する。ステップS7において電制により安定すると判定された場合にステップS10に進み、電制により安定しないと判定された場合にステップS8に進む。
ステップS8において、追加電制機選定部58は、追加の電制機を選択する。追加電制機選定部58は、追加の電制機の候補となる発電機5の中から電制時の有効電力変化が最も大きいものを追加の電制機に選択する。追加の電制機の候補は、例えば、不安定側系統に属する発電機5であって、第1電制機に該当していない発電機5である。
ステップS9において、出力変化推定部55は、ステップS8で選択された追加の電制機による電制を反映させた統合発電機モデルの反映有効電力偏差ΔPG”(t)(t=t5~)を計算する。時刻t5は追加の電制が実行される時刻である。出力変化推定部55は、ステップS5に示す処理と同様な方法により、統合発電機モデルの反映有効電力偏差ΔPG”(t)(t=t5~)を計算する。
ステップS10において、安定度判別部57は、電制により安定すると判定された電制機に該当する発電機5の制御端末12に遮断指令を送る。ここで、電制の対象となる発電機5は、第1電制機、又は、追加の電制機が選択された場合における第1電制機及び追加の電制機である。これにより、該当する発電機5が電力系統1から切り離される。なお、安定度判別部57は、第1電制機を電力系統1から切り離す場合、第1段電制部36を介して、第1電制機の制御端末12に遮断指令を送る。
なお、上記図2に示すフローチャートでは、ステップS1とステップS2との処理の順序を入れ替えてもよい。
また、位相角偏差予測部54は、計算した統合発電機モデルの有効電力偏差ΔPG(t)(t=t0~t3)、及び統合発電機モデルの予測有効電力偏差ΔPG’(t)(t=t3~)に対して、スケール調整を行うようにしてもよい。
例えば、統合発電機モデルの有効電力偏差ΔPG(t)(t=t0~t3)に対応する統合発電機モデルの位相角偏差Δδ(t)(t=t0~t3)との組み合わせを、位相角偏差Δδが昇順となるように並び替えると、有効電力偏差ΔPGは放物線状の軌跡となる。位相角偏差予測部54は、この放物線状の軌跡における有効電力偏差ΔPGの最大値が、判定基準策定部43により作成された有効電力偏差の最大値より大きい場合のみ、同じ値となるようにスケール調整する。
図3は実施形態の追加電制実行部50が行う処理を説明する図である。図3は発電機5の有効電力偏差及び位相角偏差の時系列変化を示しており、時刻t0が情報収集開始時、時刻t1が事故発生時(事故発生)、時刻t2が事故除去時(事故除去)、時刻t3が情報収集終了時(計測終了)、時刻t4が第1電制機による電制実行時(第1の電制)、時刻t5が追加の電制実行時(追加電制)を示している。
図3の上段には、安定発電機群モデルの有効電力偏差ΔPG2(t)(t=t0~t3)が実線、安定発電機群モデルの予測有効電力偏差ΔPG2’(t)(t=t3~)が破線、安定発電機群モデルの反映有効電力偏差ΔPG2”(t)(t=t4~t5)が一点破線で示されている。この例では、事故が発生した場合、安定発電機群モデルにおいて有効電力がやや低下し、事故除去により事故発生前の状態に回復し、事故除去後に有効電力がやや増加する。また、事故除去後に増加した有効電力は徐々に低下していくと予測されるが、電制を行う度に有効電力がやや増加すると予測される。
図3の上から二段目には、不安定発電機群モデルの有効電力偏差ΔPG1(t)(t=t0~t3)が実線、不安定発電機群モデルの予測有効電力偏差ΔPG1’(t)(t=t3~)が破線、不安定発電機群モデルの反映有効電力偏差ΔPG1”(t)(t=t4~t5)が一点破線で示されている。この例では、事故が発生した場合、不安定発電機群モデルにおいて有効電力が大幅に低下し、事故除去により事故発生前の状態からやや低下する程度にまで回復し、事故除去後に有効電力が増加に転じた後、徐々に低下する。また、事故除去後、電制を行う度に有効電力が増加し、その後に徐々に低下すると予測される。
図3の上から三段目には、統合発電機モデルの有効電力偏差ΔPG(t)(t=t0~t3)が実線、統合発電機モデルの予測有効電力偏差ΔPG’(t)(t=t3~)が破線、統合発電機モデルの反映有効電力偏差ΔPG”(t)(t=t4~t5)が一点破線で示されている。この例では、事故が発生した場合、統合発電機モデルにおいて有効電力が大幅に低下し、事故除去により事故発生前の状態からやや低下する程度にまで回復し、事故除去後に有効電力が増加した後、一定時間維持されてから徐々に低下する。また、事故除去後、電制を行う度に有効電力が増加し、その後に徐々に低下すると予測される。
図3の下段には、安定発電機群モデルの位相角偏差Δδ2(t)(t=t0~t3)が実線で示されている。また、不安定発電機群モデルの位相角偏差Δδ1が実線で示されている。また、統合発電機モデルの位相角偏差Δδ(t)(t=t0~t3)が実線、統合発電機モデルの予測位相角偏差Δδ’(t)(t=t3~)が破線、統合発電機モデルの反映位相角偏差Δδ”(t)(t=t4~t5)が一点破線で示されている。この例では、事故が発生した場合、安定発電機群モデルにおいて位相角偏差が多少増加したり、事故除去により減少したりするものの、変化の度合いは小さく、位相角偏差が拡大されることなく安定している。一方、不安定発電機群モデルにおいては、事故が発生した直後から位相角偏差が急激に増加し、事故除去により増加の度合いが多少減少するものの、位相角偏差は大きいままである。統合発電機モデルにおいては、情報収集終了後において位相角偏差が増加し続けると予測されるが、電制を行う度に位相角偏差が増加する度合いが減少し、追加の電制を実行した後に位相角偏差が減少していくと予測される。
以上説明したように、実施形態の系統安定化装置20は、従来の電制実行部30に加えて、安定度評価モデル生成部40、及び追加電制実行部50(第2選択部)を備える。安定度評価モデル生成部40は、電制実行部30における処理(第1処理)の過程で用いられた変数を用いて、電力系統1に設けられた発電機5における安定度合いを評価する安定度評価モデルを生成する。追加電制実行部50は、電制実行部30における処理が行われる周期(第1周期)よりも早い周期(第2周期)により取得された系統情報、及び安定度評価モデルを用いて、次の電制実行部30による処理タイミング(次の第1周期)が到来する前に第1電制機による電制が実行された場合における前記発電機の安定度合いを評価し、評価結果に基づいて追加で行う電制の対象とする電制機(第2電制機)を選定する。これにより、実施形態の系統安定化装置20は、電制実行部30における処理が行われる周期よりも早い周期で、電力系統1の電力の状態が急変した場合であっても、その変化に応じて適切な電制機を選択することができ、追加の電制を行うことにより電力系統1を安定させることが可能である。
また、実施形態の系統安定化装置20では、追加電制実行部50は、高速情報収集部51と、発電機状態計算部500と、出力変化推定部55と、安定度判別部57と、追加電制機選定部58を有する。高速情報収集部51は、電制実行部30における処理が行われる周期よりも早い周期により所定の時間区間(時刻t0~時刻t3)の系統情報を収集する。発電機状態計算部500は、統合発電機モデルの位相角偏差Δδ(t)(t=t0~t3)を計算すると共に、統合発電機モデルの予測位相角偏差Δδ’(t)(t=t3~)を予測する。出力変化推定部55は、発電機状態計算部500による計算結果を用いて、電制が実行されることによる、統合発電機モデルの反映有効電力偏差ΔPG(t)(t=t4~)を推定する。安定度判別部57は、出力変化推定部55による推定結果に基づいて計算された統合発電機モデルの反映位相角偏差Δδ”(t)(t=t4~)を用いて、電制が実行されることにより電力系統1が安定するか否かを判定する。追加電制機選定部58は、安定度判別部57により電力系統1が安定しないと判定された場合に、追加する電制機を選択する。これにより、実施形態の系統安定化装置20では、発電機5の時系列変化を計算した計算結果を用いて、電制が実行されることにより電力系統1が安定するか否かを判定することが可能である。
また、実施形態の系統安定化装置20では、発電機状態計算部500は、不安定側系統計算部52と、安定側系統計算部53と、位相角偏差予測部54と、位相角偏差再計算部56とを有する。不安定側系統計算部52は、高速情報収集部51により収集された系統情報に基づき、不安定発電機群モデルの位相角偏差Δδ1(t)(t=t0~t3)を計算する。安定側系統計算部53は、高速情報収集部51により収集された系統情報に基づき、安定発電機群モデルの位相角偏差Δδ2(t)(t=t0~t3)を計算する。位相角偏差予測部54は、不安定発電機群モデルの位相角偏差Δδ1(t)(t=t0~t3)、安定発電機群モデルの位相角偏差Δδ2(t)(t=t0~t3)を用いて、統合発電機モデルの予測位相角偏差Δδ’(t)(t=t3~)を予測する。位相角偏差再計算部56は、統合発電機モデルの予測位相角偏差Δδ’(t)(t=t3~)を用いて、電制が実行された場合における統合発電機モデルの反映位相角偏差Δδ”(t)(t=t4~)を計算する。これにより、実施形態の系統安定化装置20では、電制が実行された場合における統合発電機モデルの反映位相角偏差Δδ”(t)(t=t4~)を用いて電力系統1が安定するか否かを定量的に判定することが可能である。
また、実施形態の系統安定化装置20では、安定度評価モデル生成部40は、不安定側系統モデル策定部41と、安定側系統モデル策定部42と、判定基準策定部43と、出力変化モデル策定部44とを有する。不安定側系統モデル策定部41は、電制実行部30における処理による計算結果を用いて、不安定発電機群モデルを作成する。安定側系統モデル策定部42は、電制実行部30における処理による計算結果を用いて、安定発電機群モデルを作成する。判定基準策定部43は、電制が実行されることにより前記電力系統が安定するか否かを判定するための位相角偏差閾値Δδthを作成する。出力変化モデル策定部44は、発電機5の有効電力に関する情報の時系列変化を表す係数を作成する。これにより、実施形態の系統安定化装置20では不安定側系統モデル、安定側系統モデル、係数を用いて各モデルの電力の状態における時系列変化を計算することができる。また、位相角偏差閾値Δδthを用いて、電制が実行されることにより前記電力系統が安定するか否かを判定することが可能となる。
また、実施形態の系統安定化装置20では、安定側系統モデル策定部42は、電制実行部30における処理による計算結果を用いて、回帰モデル(安定発電機群モデルにおける有効電力に関する情報の時系列変化を表す関数)を作成する。これにより、実施形態の系統安定化装置20では、安定側系統の系統情報が直接取得できない場合であっても、安定発電機群モデルの有効電力の時系列変化を計算することが可能である。
また、実施形態の系統安定化装置20では、安定側系統モデル策定部42は、電制が実行されることによる発電機5の有効電力の時系列変化について、電制が実行された際の変化であるステップ的な変化(第1変化)、及び電制が実行された後の緩やかな変化(第2変化)の各々を表す係数を作成する。これにより、実施形態の系統安定化装置20では、電制が実行された場合の発電機5の有効電力の時系列変化を精度よく計算することが可能である。
以上説明した少なくとも一つの実施形態によれば、安定度評価モデル生成部40が作成した安定度評価モデルを用いて、追加電制実行部50が、電制が実行された場合における発電機5の安定度合いを評価し、評価結果に基づいて追加で行う電制の対象とする電制機を選定する。これにより、実施形態の系統安定化装置20は、電制実行部30における処理が行われる周期よりも早い周期で、電力系統1の電力の状態が急変した場合であっても、その変化に応じて適切な電制機を選択することができる。
なお、上述した実施形態において統合発電機モデルの位相角偏差Δδを用いて、電制により電力系統1が安定するか否かを判定する例を示したが、これに限定されない。位相角偏差Δδに、事故発生前の位相角初期値δ0を加算した位相角(δ0+Δδ)を用いて、安定するか否かが判定されてもよい。その場合、判定基準策定部43で得られる統合発電機モデルの位相角偏差閾値Δδthは、位相角初期値δ0が加算されたものとなる。
また、上記では、高速情報収集部51が、第1電制機による電制の実行より前に情報の収集を終了させる場合の例を示したが、これに限定されない。第1電制機による電制の実行の後まで高速情報収集部51による情報収集が行われてもよい。その場合、第1電制機による電制の実行による、不安定発電機群モデルの有効電力偏差ΔPG1(t)(t=t14~)は高速情報収集部51の情報に基づいて計算される。ここで、時刻t14は第1電制機による電制が実行された時刻であり、情報収集時刻は時刻t14より後の時刻である。
また、上記では、ある値(閾値)について、「閾値を超過しない場合」、「閾値を下回った場合」との文言には、閾値未満である場合と、閾値以下である場合とが含まれていてよい。閾値を超過しない場合や閾値を下回った場合が、閾値未満である場合とするか、閾値以下である場合とするかは、電力伝送システムにおいて任意に定められてよい。「閾値を超過した場合」、「閾値を上回った場合」との文言についても同様である。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。