以下、添付の図面を用いて、本実施形態にかかる系統安定化装置を適用した電力供給システムについて説明する。
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態にかかる電力供給システムの構成の一例を示す図である。図1に示すように、本実施形態にかかる電力供給システムは、電力系統1と、伝送系10と、系統安定化装置20と、を有する。電力系統1は、通信端末11-1,11-2,11-3,11-4、電制端末12-1,12-2、母線2-1,2-2,2-3,2-4,2-5,2-6、送電線3-1,3-2,3-3,3-4,3-5、変圧器4-1,4-2,4-3,4-4、発電機5-1,5-2,5-3,5-4、および遮断器6-1,6-2,6-3,6-4を有する。以下の説明では、母線2-1,2-2,2-3,2-4,2-5,2-6を区別する必要が無い場合には、母線2と記載する。また、送電線3-1,3-2,3-3,3-4,3-5を区別する必要が無い場合には、送電線3と記載する。
発電機5-1,5-2,5-3,5-4は、太陽光や風力等の再生可能エネルギーまたは化石燃料等の枯渇性エネルギーによって電力を発電し、発電した電力を、送電線3および母線2を介して、需要家に供給する。以下の説明では、発電機5-1,5-2,5-3,5-4を区別する必要が無い場合には、発電機5と記載する。
変圧器4-1は、発電機5-1により発電される電力の電圧を所定電圧に変圧する。変圧器4-2は、発電機5-2により発電される電力の電圧を所定電圧に変圧する。変圧器4-3は、発電機5-3により発電される電力の電圧を所定電圧に変圧する。変圧器4-4は、発電機5-4により発電される電力の電圧を所定電圧に変圧する。以下の説明では、変圧器4-1,4-2,4-3,4-4を区別する必要が無い場合には、変圧器4と記載する。
遮断器6-1は、発電機5-1により発電される電力の需要家への供給を遮断する。遮断器6-2は、発電機5-2により発電される電力の需要家への供給を遮断する。遮断器6-3は、発電機5-3により発電される電力の需要家への供給を遮断する。遮断器6-4は、発電機5-4により発電される電力の需要家への供給を遮断する。以下の説明では、遮断器6-1,6-2,6-3,6-4を区別する必要が無い場合には、遮断器6と記載する。
通信端末11-1は、発電機5から母線2-1を介して需要家に電力を供給する電力系統1の特性を表す情報(以下、系統情報と言う)を計測する。具体的には、通信端末11-1は、母線2-1に接続される送電線3-1により供給される電力等に関する電気情報と、当該送電線3-1の接続情報と、を含む系統情報を計測する。通信端末11-2は、発電機5から母線2-2を介して需要家に電力を供給する電力系統1の特性を表す系統情報を計測する。具体的には、通信端末11-2は、母線2-2に接続される送電線3-2の電気情報と当該送電線3-2の接続情報とを含む系統情報を計測する。通信端末11-3は、発電機5から母線2-3を介して需要家に電力を供給する電力系統1の特性を表す系統情報を計測する。具体的には、通信端末11-3は、母線2-3に接続される送電線3-1,3-3,3-4の電気情報と当該送電線3-1,3-3,3-4の接続情報とを含む系統情報を計測する。通信端末11-4は、発電機5から母線2-4を介して需要家に電力を供給する電力系統1に関する系統情報を計測する。具体的には、通信端末11-4は、母線2-4に接続される送電線3-2,3-3,3-5の電気情報と当該送電線3-2,3-3,3-5の接続情報とを含む系統情報を計測する。
ここで、系統情報が含む電気情報は、送電線3や変圧器4の有効電力、母線2に印加される母線電圧、送電線3の有効電力と当該送電線3のリアクタンスとの積、変圧器4の有効電力と当該変圧器4のリアクタンスとの積などである。また、系統情報が含む接続情報は、送電線3と変圧器4の接続状態などである。なお、本実施形態では、通信端末11-1,11-2,11-3,11-4において、送電線3の有効電力と当該送電線3のリアクタンスの積、および変圧器4の有効電力と当該変圧器4のリアクタンスの積を求めているが、これに限定するものではなく、系統安定化装置20において、送電線3の有効電力と当該送電線3のリアクタンスの積、および変圧器4の有効電力と当該変圧器4のリアクタンスの積を求めても良い。以下の説明では、通信端末11-1,11-2,11-3,11-4を区別する必要が無い場合には、通信端末11と記載する。
電制端末12-1は、遮断器6-1,6-2を制御して、発電機5-1,5-2からの電力の供給の遮断を制御する。また、電制端末12-2は、遮断器6-3,6-4を制御して、発電機5-3,5-4からの電力の供給の遮断を制御する。以下の説明では、電制端末12-1,12-2を区別する必要が無い場合には、電制端末12-1,12-2を電制端末12と記載する。
伝送系10は、専用通信回線やインターネット等の通信ネットワークにより構成され、通信端末11と系統安定化装置20との間で、系統情報等の各種情報を伝送する。
系統安定化装置20は、伝送系10を介して、通信端末11から、系統情報等の各種情報を取得し、当該取得した各種情報に基づいて、電力系統1が有する発電機5のうち、電力系統1による電力供給の安定化に必要な電制機を決定する。ここで、電制機は、電力の供給を遮断する発電機5である。
図1に示すように、本実施形態では、系統安定化装置20は、系統情報収集部21、基本系統記憶部22、系統モデル作成部23、電制対象選定部24、計算結果記憶部25、電制機選択部26、回帰式生成部30、および電制機補正部40を有する。系統情報収集部21は、伝送系10を介して、通信端末11から、予め設定された周期で、電力系統1の特性を表す系統情報を取得する。基本系統記憶部22は、電力系統1が有する送電線3のインダクタンス等、電力系統1の構成に関する構成情報を記憶する。
系統モデル作成部23は、系統情報収集部21により取得される系統情報を用いて、電力系統1の電力の潮流状態を表すシミュレーションモデル(以下、系統モデルと言う)を作成する。本実施形態では、系統モデル作成部23は、系統情報収集部21により取得される系統情報および基本系統記憶部22に記憶される構成情報を組み合わせて、系統モデルを作成する。
電制対象選定部24は、系統モデルが作成される度に、予め設定された系統事故(例えば、短絡や地絡等。所定の系統事故の一例。以下、想定事故条件と言う。)が系統モデルで発生した場合の過渡安定度を算出する。そして、電制対象選定部24は、当該過渡安定度の算出結果に基づいて、想定事故条件毎に、発電機5のうち、電力の供給を遮断する電制機の候補(以下、第1電制機候補と言う)を選定する。本実施形態では、系統情報収集部21、系統モデル作成部23、および電制対象選定部24が、選定部の一例として機能する。
計算結果記憶部25は、系統情報と、当該系統情報を用いて作成される系統モデルにおける想定事故条件毎の第1電制機候補との組合せである電制機情報を記憶する。電制機選択部26は、伝送系10を介して、電力系統1において発生した系統事故を示す事故情報を取得する。そして、電制機選択部26は、電制対象選定部24により想定事故条件毎に選定された第1電制機候補のうち、取得した事故情報が示す系統事故と一致する想定事故条件について選定された第1電制機候補を選択する。
回帰式生成部30は、計算結果記憶部25に記憶される電制機情報に基づいて、系統情報から電制機を予測する回帰式を作成する。本実施形態では、回帰式生成部30は、計算結果仕分部31と、回帰式作成部33と、を有する。計算結果仕分部31は、電力系統1の特徴に従って、電制機情報が含む系統情報である過去の系統情報を複数のグループに分類する。回帰式作成部33は、系統情報のグループ毎に、当該グループに属する過去の系統情報に基づいて、回帰式を作成する。
電制機補正部40は、回帰式生成部30により生成される回帰式および系統情報に基づいて、電制機の候補を予測し、当該電制機の候補の予測結果に基づいて、電制機選択部26により選択される第1電制機候補を補正して、電制機を決定する。本実施形態では、電制機補正部40は、電制機判定部41、電制機決定部42、および回帰式選択部34を有する。
回帰式選択部34は、回帰式作成部33により作成される回帰式のうち、電力系統1において系統事故が発生した際の系統情報が属するグループの回帰式を選択する。電制機判定部41は、回帰式選択部34により選択された回帰式および系統情報収集部21により最後に取得された系統情報に基づいて、電制機の候補(以下、第2電制機候補と言う)を予測する。さらに、電制機判定部41は、回帰式選択部34により選択された回帰式および電力系統1において系統事故が発生した際の系統情報(直近の系統情報)に基づいて、電制機の候補(以下、第3電制機候補と言う)を予測する。すなわち、電制機判定部41は、回帰式作成部33により作成される回帰式と、系統情報収集部21により最後に取得される系統情報と、に基づいて、第2電制機候補を予測する。さらに、電制機判定部41は、回帰式作成部33により作成される回帰式と、直近の系統情報と、に基づいて、第3電制機候補を予測する。本実施形態では、回帰式生成部30、回帰式選択部34、および電制機判定部41が、予測部の一例として機能する。
電制機決定部42(決定部の一例)は、第1電制機候補に対して、第2電制機候補と第3電制機候補との差分を加えた電制機の候補を、電制機に決定する。これにより、系統モデルを用いて第1電制機候補が選定された後、再生可能エネルギーにより発電する発電機5からの出力等の急変によって電力系統1の状態が変化した場合でも、回帰式と系統事故が発生した際の系統情報を用いて予測された第2,3電制機候補に基づいて、脱調を防止できるように、第1電制機候補を補正できるので、再生可能エネルギーにより発電機5からの出力の急変等によって電力系統1の状態が変化した場合でも、電力系統1における発電機5の脱調を抑制できる。
次に、図1~3を用いて、本実施形態にかかる系統安定化装置20が有する各部において実行される具体的な処理について説明する。図2は、第1の実施形態にかかる系統安定化装置による系統情報の分類処理の一例を説明するための図である。図3は、第1の実施形態にかかる系統安定化装置による第1電制機候補の分類処理の一例を説明するための図である。
まず、系統安定化装置20において実行される処理は、1分などの予め設定された周期で実行される処理と、電力系統1において系統事故が発生した際に実行される処理とに分けられる。ここでは、まず、予め設定された周期で実行される処理について説明する。
系統情報収集部21は、伝送系10を介して、通信端末11から、予め設定された周期で、系統情報を取得する。系統モデル作成部23は、系統情報収集部21により取得される系統情報、および基本系統記憶部22に記憶される構成情報を組み合わせて、系統モデルを作成する。電制対象選定部24は、系統モデルが作成される度に、想定事故条件が発生した場合の系統モデルの過渡安定度を算出する。そして、電制対象選定部24は、過渡安定度の算出結果に基づいて、想定事故条件毎に、第1電制機候補を選定する。電制機選択部26は、想定事故条件毎に選定された第1電制機候補を記憶する。計算結果記憶部25は、系統情報と、当該系統情報を用いて作成される系統モデルにおける想定事故条件毎の第1電制機候補との組合せである電制機情報を記憶する。
計算結果仕分部31は、計算結果記憶部25から、電制機情報が含む過去の系統情報を読み出す。また、計算結果仕分部31は、計算結果記憶部25から、電制機情報が含む、想定事故条件毎の第1電制機候補を読み出す。そして、計算結果仕分部31は、電力系統1の特徴に従って、過去の系統情報(以下、状態量データと言う)を複数のグループに分類する。また、計算結果仕分部31は、図3に示すように、第1電制機候補(以下、電制対象データと言う)を、想定事故条件毎の複数のグループに分類する。
本実施形態では、計算結果仕分部31は、電力系統1の特徴に従って、状態量データ(図2参照)の断面を複数のグループに分類する。ここで、断面は、過去に作成された電力系統1の系統モデルを示す番号である。よって、例えば、断面:1の状態量データと、断面:2の状態量データとは、異なる系統モデルにおける状態量データとなる。なお、ここで言うブランチ相差角は、系統モデルが含む送電線の有効電力と、当該送電線のリアクタンスとの積である。本実施形態では、状態量データの一例としてブランチ相差角を用いているが、これに限定するものではなく、例えば、発電機5の有効電力や、母線電圧の位相角、ブランチ相差角と母線電圧の位相角の組合せ等であっても良い。
具体的には、計算結果仕分部31は、各断面のブランチ相差角間のユークリッド距離を求め、当該ユークリッド距離に基づく階層型クラスタリングを実行することで、各断面を複数のグループに分類する(各断面のブランチ相差角のグループを形成する)。例えば、計算結果仕分部31は、下記の式(1)を用いて、断面iおよび断面jそれぞれのブランチ相差角間のユークリッド距離D(i,j)を求める。式(1)において、δ(i,k)は、断面iにおけるk番目のブランチのブランチ相差角であり、δ(j,k)は、断面jにおけるk番目のブランチのブランチ相差角であり、nは、ブランチ相差角の総数である。ここで、ブランチは、送電線や変圧器等、系統モデルが含む電力の供給に関わる機器である。
本実施形態では、計算結果仕分部31は、ユークリッド距離が小さい断面が同一のグループとなるように集めていき、ユークリッド距離が予め設定された閾値に達するまで処理を継続する。計算結果仕分部31は、電力系統1の特性に応じて閾値を設定する。例えば、計算結果仕分部31は、負荷量が異なる複数の断面それぞれについて、閾値を求めるための状態量データと電制機との組合せを求め、断面毎の状態量データと電制機との組合せに基づいて、回帰式を作成する。そして、計算結果仕分部31は、作成した回帰式による電制機の予測結果と、電制機選択部26による電制機の選択結果との誤差が小さくなる、状態量データ間のユークリッド距離の閾値を求める。
または、計算結果仕分部31は、各断面のブランチ相差角の主成分分析を実行し、第1主成分の大きさの差異が所定値以下のブランチ相差角を集めることによって、類似するブランチ相差角を集めたグループを形成する。主成分分析は、ブランチ相差角を対象として共分散行列を作成し、当該共分散行列の固有値問題を解くことによって固有ベクトルを得て、ブランチ相差角と固有ベクトルの積を求めることで、第1主成分から第n主成分までのベクトルを求める。ここで、nは、ブランチ相差角の総数である。
第1主成分を用いて類似するブランチ相差角を集めたグループを作成する方法の一例としては、各断面の第1主成分の差を用いる方法がある。断面の総数をmとした場合、各主成分は、m個の要素を持つベクトルとなる。計算結果仕分部31は、各断面の第1主成分を昇順に並べ替え、隣り合う断面間の差分(例えば、断面:1の第1主成分と断面:2の第1主成分の差分、断面:2の第1主成分と断面:3の第1主成分の差分)を求める。そして、計算結果仕分部31は、得られたm-1個の差分を標準化した値が1を超える箇所を、グループの境界とする。ここで、標準化とは、数値の集合の平均値が0かつ分散が1となるように、数値を変換する処理である。
図4は、第1の実施形態にかかる系統安定化装置による状態量データの複数のグループへの分類処理の一例を説明するための図である。計算結果仕分部31は、図4に示すように、2段階の分類によって、状態量データの断面を複数のグループに分類することも可能である。本実施形態では、計算結果仕分部31は、1段階目の分類において、ブランチ相差角の類似度に基づいて、状態量データの断面を2以上の複数のグループ(例えば、3つのグループ)に分類する。さらに、計算結果仕分部31は、2段階目の分類において、発電機5の有効電力の類似度に基づいて、1段階目の分類において分類された各グループに属する状態量データの断面を、さらに、複数のグループ(例えば、3つのグループ)に分類する。
具体的には、計算結果仕分部31は、1段階目の分類において、各断面のブランチ相差角のユークリッド距離を求め、当該ユークリッド距離に基づく階層型クラスタリングを実行することで、各断面を複数のグループに分類する。例えば、計算結果仕分部31は、上記の式(1)を用いて、断面iおよび断面jそれぞれのブランチ相差角のユークリッド距離D(i,j)を求める。そして、計算結果仕分部31は、ユークリッド距離D(i,j)が予め設定された閾値以下の断面が同一のグループになるように、断面を集めることによって、各断面を複数のグループに分類する。
計算結果仕分部31は、2段階目の分類において、1段階目の分類において分類されたグループ毎に、各断面の発電機5の有効電力間のユークリッド距離を求め、当該ユークリッド距離に基づく階層型クラスタリングを実行することで、各断面を複数のグループに分類する。例えば、計算結果仕分部31は、下記の式(2)を用いて、断面iおよび断面jそれぞれの発電機5の有効電力間のユークリッド距離D(i,j)を求める。式(2)において、P(i,k)は、断面iにおけるk番目の発電機5の有効電力であり、P(j,k)は、断面jにおけるk番目の発電機5の有効電力であり、mは、発電機5の総数である。そして、計算結果仕分部31は、1段階目の分類と同様に、ユークリッド距離D(i,j)が予め設定された閾値以下の断面が同一のグループになるように、断面を集めることによって、各断面を複数のグループに分類する。
または、計算結果仕分部31は、1段階目の分類において、各断面のブランチ相差角(または、発電機5の有効電力)の主成分分析を実行し、第1主成分の大きさの差異が所定値以下のブランチ相差角(または、発電機5の有効電力)を集めることによって、類似するブランチ相差角(または、発電機5の有効電力)を集めたグループを形成しても良い。次いで、計算結果仕分部31は、2段階目の分類において、1段階目の分類において分類されたグループ毎に、各断面のブランチ相差角(または、発電機5の有効電力)の主成分分析を実行し、第1主成分の大きさの差異が所定値以下のブランチ相差角(または、発電機5の有効電力)を集めることによって、類似するブランチ相差角(または、発電機5の有効電力)を集めたグループを形成する。
本実施形態では、計算結果仕分部31は、状態量データの断面を、2段階の分類によって複数のグループに分類しているが、状態量データの断面を分類する段階は、これに限定するものではなく、例えば、3段階の分類によって、状態量データの断面を複数のグループに分類しても良い。また、本実施形態では、計算結果仕分部31は、各段階において状態量データの断面を3つのグループに分類しているが、複数のグループに分類するものであれば良い。さらに、本実施形態では、計算結果仕分部31は、ブランチ相差角および発電機5の有効電力を用いて、状態量データの断面を複数のグループに分類しているが、他の種類の状態量データを用いて、状態量データの断面を複数のグループに分類しても良い。
図5は、第1の実施形態にかかる系統安定化装置における状態量データの断面の分類に用いる状態量データの種類の決定処理の流れの一例を示すフローチャートである。本実施形態では、計算結果仕分部31は、状態量データを用いて仮に作成した回帰式(以下、仮の回帰式と言う)により予測される電制機と、第1電制機候補と、の差分に基づいて、状態量データを複数の仮のグループ(以下、仮グループと言う)に分類する。そして、計算結果仕分部31は、同一の仮グループ内での類似度が高くかつ異なる仮グループ間での類似度が低い状態量データの種類を、状態量データのグループへの分類に用いる。
具体的には、計算結果仕分部31は、まず、全ての状態量データ、または1段階目の分類によって分類される各グループの状態量データを用いて、状態量データから電制機を予測する回帰式(以下、仮の回帰式と言う)を作成する(ステップS501)。仮の回帰式の具体的な作成方法は、後述する回帰式作成部33による回帰式の作成方法と同様である。次に、計算結果仕分部31は、仮の回帰式を用いて各断面の電制機を求め、当該各断面の電制機と各断面の第1電制機候補との差分を算出する(ステップS502)。
次いで、計算結果仕分部31は、仮の回帰式を用いて求めた電制機と第1電制機候補との差分に基づいて、状態量データの断面を複数の仮グループに分類する(ステップS503)。具体的には、計算結果仕分部31は、状態量データの断面を第1~3仮グループに分類する。第1グループは、仮の回帰式を用いて求めた電制機と第1電制機候補との差分が予め設定された閾値以下の断面の仮グループである。第2グループは、仮の回帰式を用いて求めた電制機と第1電制機候補との差分が予め設定された閾値より大きく、かつ仮の回帰式を用いて求めた電制機が第1電制機候補より少ない断面の仮グループである。第3グループは、仮の回帰式を用いて求めた電制機と第1電制機候補との差分が予め設定された閾値より大きく、かつ仮の回帰式を用いて求めた電制機が第1電制機候補より多い断面の仮グループである。
さらに、計算結果仕分部31は、仮グループ毎に、当該仮グループに属する断面の状態量データの種類毎の類似度を算出する(ステップS504)。具体的には、計算結果仕分部31は、下記の式(3)を用いて、第1~3仮グループの仮グループ毎に、各仮グループに属する断面(例えば、断面i、断面j)の状態量データの種類毎のユークリッド距離D(i,j)の平均値(以下、第1平均値と言う)を類似度として算出する。また、計算結果仕分部31は、異なる仮グループに属する断面の状態量データの種類毎の類似度を算出する(ステップS505)。具体的には、計算結果仕分部31は、下記の式(4)を用いて、第1~3仮グループのうち異なる仮グループに属する断面の状態量データの種類毎のユークリッド距離を算出し、かつその平均値(以下、第2平均値と言う)を類似度として算出する。式(3)および式(4)において、断面1,2は、第1仮グループに属し、断面3,4は、第2仮グループに属し、断面5,6は、第3仮グループに属する。そして、計算結果仕分部31は、状態量データの種類のうち、第1平均値が予め設定された値より小さく(言い換えると、類似度が高く)、かつ第2平均値が予め設定された値より大きい(言い換えると、類似度が低い)種類を、状態量データの断面の分類に用いる状態量データの種類に決定する(ステップS506)。
図6は、第1の実施形態にかかる系統安定化装置における状態量データの断面の分類に用いる状態量データの種類の決定処理の流れの他の例を示すフローチャートである。本実施形態では、計算結果仕分部31は、仮の回帰式の作成に用いられる状態量データ(入力変数)のうち状態量データの断面間の差が小さい状態量データの断面を同一の仮グループに分類する。そして、計算結果仕分部31は、同一の仮グループに属する状態量データのうち、仮の回帰式により予測される電制機が異なりかつ状態量データ間の類似度が低い状態量データの種類を、状態量データのグループへの分類に用いても良い。
具体的には、計算結果仕分部31は、まず、全ての状態量データ、または1段階目の分類によって分類される各グループの状態量データを用いて、仮の回帰式を作成する(ステップS601)。次に、計算結果仕分部31は、仮の回帰式の作成に用いられた状態量データ(入力変数)のうち、状態量データの断面間の差が予め設定された閾値以下の断面を、同一の仮グループ(例えば、第1~3仮グループ)に分類する(ステップS602)。
さらに、計算結果仕分部31は、同一の仮グループに属する状態量データの断面のうち、仮の回帰式により予測される電制機が異なる断面間の状態量データの種類毎の類似度を算出する(ステップS603)。例えば、計算結果仕分部31は、同一の仮グループに属する断面間の状態量データのうち、仮の回帰式により予測される電制機が異なる断面間の状態量データのユークリッド距離D(i,j)を算出し、さらに、上記の式(3)を用いて、その平均値を類似度として算出する。そして、計算結果仕分部31は、状態量データの種類のうち、算出した平均値が最も大きい(言い換えると、類似度が低い)種類を、状態量データの断面の分類に用いる状態量データの種類に決定する(ステップS604)。
回帰式作成部33は、状態量データのグループ毎に、状態量データから電制機を予測する回帰式を作成する。使用する状態量データは、予め設定しておくものとする。これにより、類似する状態量データに基づいて回帰式を作成できるので、回帰式による、発電機5の脱調を抑制する電制機の予測精度が向上し、かつ過剰な電制を抑制できる。本実施形態では、回帰式作成部33は、ブランチ相差角のグループ毎に、当該グループに分類されるブランチ相差角を含む電制機情報に基づいて、回帰式を作成する。その際、回帰式作成部33は、下記の式(5)を用いて、最小二乗法によって、電制機による電制量が最小となる回帰式の係数を求める。そして、回帰式の電制量が、教師とした電制量以上となるように、式(5)の切片bを増加させる。式(5)において、aiは係数であり、Xiはブランチ相差角である。また、回帰式作成部33は、各グループに分類されるブランチ相差角を含む電制機情報に基づいて、想定事故条件毎に、状態量データから電制機を予測する回帰式を作成する。よって、回帰式作成部33は、状態量データのグループの数と、想定事故条件の数とを掛け合わせた数だけ、回帰式を作成する。より正確には、電制機に選定された発電所の数で回帰式の数が増加する。回帰式作成部33は、予め設定された周期(例えば、1分)毎に(計算結果記憶部25に新たな電制機情報が記憶される度に)、回帰式を作成する必要は無く、例えば、予め設定された周期よりも長い時間(例えば、1日)毎に、回帰式を作成すれば良い。
次に、電力系統1において系統事故が発生した際に実行される処理について説明する。電制機選択部26は、伝送系10を介して、通信端末11から、事故情報を取得する。そして、電制機選択部26は、想定事故条件毎の第1電制機候補のうち、取得した事故情報が示す系統事故と一致する想定事故条件について選定された第1電制機候補を選択する。
回帰式選択部34は、伝送系10を介して、通信端末11から、1秒等の周期で系統情報を取得する。そして、計算結果仕分部31は、電力系統1において系統事故が発生した際に取得した系統情報(例えば、ブランチ相差角)を状態量データに含めて、状態量データのグループに分類し直す。次いで、回帰式選択部34は、状態量データを分類し直した後、系統事故が発生した際に取得した系統情報が属するグループの回帰式を選択する。
電制機判定部41は、回帰式選択部34により選択される回帰式および系統情報収集部21により最後に取得した系統情報に基づいて、第2電制機候補を予測する。また、電制機判定部41は、回帰式選択部34により選択される回帰式および電力系統1において系統事故が発生する直前に取得した系統情報(直近の系統情報)に基づいて、第3電制機候補を予測する。電制機決定部42は、電制機判定部41による第2電制機候補および第3電制機候補の予測結果に基づいて、電制機選択部26により選択される第1電制機候補を補正し、補正後の第1電制機候補を、電制機に決定する。例えば、電制機決定部42は、第2電制機候補と第3電制機候補との差分の電制機を求める。次いで、電制機決定部42は、求めた差分の電制機を、第1電制機候補に加えた電制機の候補を、電制機に決定する。電制端末12は、遮断器6を制御して、電制機決定部42により電制機に決定した発電機5からの電力の供給を遮断する。
このように、第1の実施形態にかかる系統安定化装置20によれば、系統モデルを用いて第1電制機候補が選定された後、再生可能エネルギーの出力等の急変によって電力系統1の状態が変化した場合でも、回帰式と系統事故が発生する直前の系統情報を用いて予測された第2,3電制機候補に基づいて、脱調を防止できるように、第1電制機候補を補正できるので、再生可能エネルギーの出力の急変等によって電力系統1の状態が変化した場合でも、電力系統1における発電機5の脱調を抑制できる。
(第2の実施形態)
本実施形態は、各グループの系統情報のうち、当該系統情報の標準偏差が予め設定された値以上であり、電制機との相関係数が高い順に予め設定された数の系統情報であり、かつ同一のグループに属する系統情報との類似度が所定の閾値以上である複数の系統情報のうちいずれか1つの系統情報に基づいて、回帰式を作成する例である。以下の説明では、第1の実施形態と同様の箇所については説明を省略する。
図7は、第2の実施形態にかかる電力供給システムの構成の一例を示す図である。図7に示すように、本実施形態にかかる系統安定化装置300は、回帰式生成部301が入力変数選定部302を有する点において、第1の実施形態にかかる系統安定化装置20と異なる。
入力変数選定部302は、計算結果仕分部31により分類された状態量データのグループ毎に、当該グループに分類された状態量データのうち、回帰式の作成に用いる状態量データを選定する。本実施形態では、入力変数選定部302は、状態量データのグループ毎に、当該グループに分類される状態量データの標準偏差、当該グループに分類される状態量データと電制機との相関係数、および当該グループに属する状態量データ間の類似度を算出する。
具体的には、入力変数選定部302は、下記の式(6)を用いて、状態量データの各グループについて、当該グループに属する状態量データと、電制機と、の相関係数を算出する。また、入力変数選定部302は、下記の式(7)を用いて、状態量データの各グループについて、当該グループに属する状態量データの標準偏差を算出する。式(6)および式(7)において、Nは、各グループに属する状態量データの断面数であり、Xiは、各状態量データであり、X´は、各状態量データの平均であり、Yiは、電制機による電制量であり、Y´は、電制機による電制量の平均である。
また、入力変数選定部302は、下記の式(8)を用いて、状態量データの各グループについて、当該グループに属する状態量データ間のユークリッド距離(類似度の一例)を算出する。さらに、入力変数選定部302は、算出したユークリッド距離が所定の閾値以下の複数の状態量データのグループを作成する階層型クラスタリングを実行する。式(8)において、D(i,j)は、i番目の状態量データとj番目の状態量データのユークリッド距離であり、δ(i,k)は、断面:kのi番目の状態量データであり、δ(j,k)は、断面:kのj番目の状態量データであり、nは、各グループに分類された状態量データの断面数である。また、所定の閾値は、予め設定された値であり、例えば、状態量データのグループに属する状態量データの平均値である。
そして、入力変数選定部302は、状態量データの各グループに属する状態量データのうち、標準偏差が予め設定された値未満の状態量データを、回帰式の作成に用いる状態量データから除外する。また、入力変数選定部302は、状態量データの各グループに属する状態量データのうち、電制機との相関係数が高い順に予め設定された状態量データを選定する。さらに、入力変数選定部302は、同一のグループに属する状態量データとの類似度が所定の閾値以上の状態量データを重複して選定しない。
すなわち、回帰式作成部33は、各グループの状態量データのうち、当該状態量データの標準偏差が予め設定された値以上であり、電制機との相関係数が高い順に予め設定された数の状態量データであり、かつ同一のグループに属する状態量データとの類似度が所定の閾値以上の複数の状態量データのうちいずれか1つの状態量データに基づいて、回帰式を作成する。
このように、第2の実施形態にかかる系統安定化装置300によれば、電制機との相関が強い状態量データに基づいて回帰式を作成できるので、回帰式による、発電機5の脱調を抑制する電制機の予測精度が向上し、かつ過剰な電制を抑制できる。
(第3の実施形態)
本実施形態は、第1電制機候補を選定する処理が停止した場合、第3電制機候補を、電制機に決定する例である。以下の説明では、上述の実施形態と同様の箇所については説明を省略する。
図8は、第3の実施形態にかかる電力供給システムの構成の一例を示す図である。本実施形態にかかる系統安定化装置500は、1分などの予め設定された周期で実行される処理(言い換えると、第1電制機候補を選定する処理)に関わる系統情報収集部21、基本系統記憶部22、系統モデル作成部23、および電制対象選定部24の少なくとも1つが停止した場合を想定した構成を有する。
具体的には、第1電制機候補を選定する処理が停止した場合でも、計算結果記憶部25が電制機情報を記憶しているため、回帰式生成部30による回帰式の作成、および電制機補正部501による第3電制機候補の予測は実行可能である。そこで、本実施形態では、電制機判定部502は、回帰式選択部34により選択される回帰式および電力系統1において系統事故が発生した際に取得した系統情報に基づいて、第3電制機候補を予測する。そして、電制機決定部503は、電制機判定部502により予測される第3電制機候補を、電制機に決定する。電制端末12は、遮断器6を制御して、電制機決定部503により電制機に決定した発電機5からの電力の供給を遮断する。
このように、第3の実施形態にかかる系統安定化装置500によれば、第1電制機候補を選定する処理が停止した場合でも、電制機を決定できる。
以上説明したとおり、第1から第3の実施形態によれば、再生可能エネルギーの出力の急変等によって電力系統1の状態が変化した場合でも、電力系統1における発電機5の脱調を抑制できる。
なお、本実施形態の系統安定化装置20,300,500で実行されるプログラムは、ROM(Read Only Memory)等に予め組み込まれて提供される。本実施形態の系統安定化装置20,300,500で実行されるプログラムは、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD-ROM、フレキシブルディスク(FD)、CD-R、DVD(Digital Versatile Disk)等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録して提供するように構成してもよい。
さらに、本実施形態の系統安定化装置20,300,500で実行されるプログラムを、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせることにより提供するように構成しても良い。また、本実施形態の系統安定化装置20,300,500で実行されるプログラムをインターネット等のネットワーク経由で提供または配布するように構成しても良い。
本実施形態の系統安定化装置20,300,500で実行されるプログラムは、上述した各部(系統情報収集部21、系統モデル作成部23、電制対象選定部24、電制機選択部26、回帰式生成部30,301、および電制機補正部40,501)を含むモジュール構成となっており、実際のハードウェアとしてはCPU(Central Processing Unit)が上記ROMからプログラムを読み出して実行することにより上記各部が主記憶装置上にロードされ、系統情報収集部21、系統モデル作成部23、電制対象選定部24、電制機選択部26、回帰式生成部30,301、および電制機補正部40,501が主記憶装置上に生成されるようになっている。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。