JP7022498B2 - イオン伝導体の経時劣化を抑制する方法 - Google Patents

イオン伝導体の経時劣化を抑制する方法 Download PDF

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Description

本発明は、イオン伝導体の経時劣化を抑制する方法に関する。
近年、携帯情報端末、携帯電子機器、電気自動車、ハイブリッド電気自動車、更には定置型蓄電システムなどの用途において、リチウムイオン二次電池の需要が増加している。しかしながら、現状のリチウムイオン二次電池は、電解液として可燃性の有機溶媒を使用しており、有機溶媒が漏れないように強固な外装を必要とする。また、携帯型のパソコン等においては、万が一電解液が漏れ出した時のリスクに備えた構造を取る必要があるなど、機器の構造に対する制約も出ている。
更には、自動車や飛行機等の移動体にまでその用途が広がり、定置型のリチウムイオン二次電池においては大きな容量が求められている。このような状況の下、安全性が従来よりも重視される傾向にあり、有機溶媒等の有害な物質を使用しない全固体リチウムイオン二次電池の開発に力が注がれている。
全固体リチウムイオン二次電池における固体電解質として、酸化物、リン酸化合物、有機高分子、硫化物等を使用することが検討されている。
しかしながら、酸化物やリン酸化合物は、その粒子が堅いという特性を有する。従って、これらの材料を使用して固体電解質層を成形するには、一般的に600℃以上の高い温度での焼結を必要とし、手間がかかる。更には、固体電解質層の材料として酸化物やリン酸化合物を使用した場合、電極活物質との間の界面抵抗が大きくなってしまうという欠点も有する。有機高分子については、室温におけるリチウムイオン伝導度が低く、温度が下がると急激に伝導性が低くなるという欠点を有する。
新しいリチウムイオン伝導性固体電解質に関しては、2007年に錯体水素化物固体電解質であるLiBHの高温相が高いリチウムイオン伝導性を有することが報告された(非特許文献1)。LiBHは密度が小さく、これを固体電解質として用いた場合には軽い電池を作製できる。また、LiBHは高温(例えば、約200℃)においても安定であるため、耐熱性の電池を作製することも可能である。
LiBHは、相転移温度である115℃未満において、リチウムイオン伝導度が大きく低下してしまうという問題がある。そこで、相転移温度である115℃未満においても高いリチウムイオン伝導性を有する固体電解質を得るべく、LiBHとアルカリ金属化合物とを組み合わせた固体電解質が提案されている。例えば、2009年には、LiBHにLiIを加えることによってできる固溶体が、室温においても高温相を保つことができることが報告された(非特許文献2および特許文献1)。また、この固溶体からなる錯体水素化物固体電解質は金属リチウムに対して安定であり、負極に金属リチウムを使用できることから、高容量な全固体電池を作製することができる(特許文献2および特許文献3)。
特許第5187703号公報 国際公開第2015-030052号 国際公開第2015-030053号
Applied Physics Letters(2007) 91、p.224103 Journal of the American Chemical Society(2009)、131、p.894-895
上記のとおり、LiBHとアルカリ金属化合物とを組み合わせた固体電解質は、115℃未満の温度においても高いリチウムイオン伝導度を示し、耐熱性にも優れる有望な固体電解質である。しかし、本発明者らは、このような固体電解質(あるいはイオン伝導体)を一旦高温に曝した後に室温に戻した場合、そのイオン伝導度が時間とともに大きく低下する場合があるという新たな課題を発見した。従って、本発明は、LiBHとアルカリ金属化合物とを含むイオン伝導体を一旦高温に曝した後に生じる経時劣化を抑制する方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、イオン伝導体に用いられる特定のLiBHとアルカリ金属化合物とを特定のモル比で混合することで、一旦高温に曝した後に室温に戻した場合のイオン伝導体の経時劣化を大幅に抑制することができるという予想外の知見を得た。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、以下に記載する特徴を有するものである。
[1]LiBHと下記式(1):
MX (1)
[式(1)中、Mは、リチウム原子、ルビジウム原子およびセシウム原子からなる群より選択されるアルカリ金属原子を表し、Xは、ハロゲン原子を表す。]
で表されるアルカリ金属化合物とを含むイオン伝導体の経時劣化を抑制する方法であって、
前記LiBHと前記アルカリ金属化合物とを、LiBH:アルカリ金属化合物=1:1~2.6:1のモル比で混合することによって前記イオン伝導体の経時劣化を抑制する、方法。
[2]前記イオン伝導体は、X線回折(CuKα:λ=1.5405Å)において、少なくとも、2θ=23.9±1.2deg、25.6±1.5deg、27.3±1.5deg、35.4±2.0degおよび42.2±2.0degに回折ピークを有する、[1]に記載の方法。
[3]前記アルカリ金属化合物は、ハロゲン化リチウムである、[1]または[2]に記載の方法。
[4]前記アルカリ金属化合物はヨウ化リチウムである、[3]に記載の方法。
[5]前記混合はメカニカルミリングによって行われる、[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6]150℃の温度に曝し、その後25℃まで冷却した時点で測定した前記イオン伝導体のイオン伝導度を第1のイオン伝導度とし、
前記25℃まで冷却した時点から、温度を25℃に維持して148時間経過した時点で測定した前記イオン伝導体のイオン伝導度を第2のイオン伝導度とした際、
下記式(2):
Figure 0007022498000001
で示すイオン伝導度の維持率が45%以上である、[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7]前記混合の後に、前記イオン伝導体を90℃~280℃の温度に曝し、その後25℃まで冷却することを含む、[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8]LiBHと下記式(1):
MX (1)
[式(1)中、Mは、リチウム原子、ルビジウム原子およびセシウム原子からなる群より選択されるアルカリ金属原子を表し、Xは、ハロゲン原子を表す。]
で表されるアルカリ金属化合物とを含み、
前記LiBHと前記アルカリ金属化合物とのモル比が、LiBH:アルカリ金属化合物=1:1~2.6:1である、イオン伝導体。
[9]90℃~280℃の温度に曝し、その後25℃で1日経過した後に、X線回折(CuKα:λ=1.5405Å)スペクトルにおいて、2θ=26.85±0.14degにおける最大回折強度が、2θ=26.60±0.10における最大回折強度よりも大きい、[8]に記載のイオン伝導体。
[10]150℃の温度に曝し、その後25℃まで冷却した時点で測定した前記イオン伝導体のイオン伝導度を第1のイオン伝導度とし、
前記25℃まで冷却した時点から、温度を25℃に維持して148時間経過した時点で測定した前記イオン伝導体のイオン伝導度を第2のイオン伝導度とした際、
下記式(2):
Figure 0007022498000002
で示すイオン伝導度の維持率が45%以上である、[8]または[9]に記載のイオン伝導体。
[11][8]~[10]のいずれかに記載のイオン伝導体を含む、全固体電池用固体電解質。
[12][11]に記載の全固体電池用固体電解質を使用した、全固体電池。
本発明によれば、一旦高温に曝した後に室温に戻した場合に生じるイオン伝導体の経時劣化を大幅に抑制する方法を提供することができる。
実施例1~3および比較例1~3で得たイオン伝導体のイオン伝導度を示す図。 実施例1~3および比較例1~3で得たイオン伝導体の経時劣化を示す図。 実施例1~3および比較例1~3で得たイオン伝導体の150℃に加熱前、加熱直後、および25℃で1日経過した後のXRDスペクトルを示す図[(a)実施例1、(b)実施例2、(c)実施例3、(d)比較例1、(e)比較例2、(f)比較例3]。 イオン伝導体の加熱によるXRDスペクトルの回折ピーク位置の変化を示す図。 LiBHとLiIをLiBH:LiI=2.5:1のモル比で混合して得たイオン伝導体(a)と3.0:1のモル比で混合して得たイオン伝導体(b)の、150℃に加熱する前後および、加熱後25℃で1日経過後のXRDスペクトルを示す図。
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下に説明する材料、構成等は本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。
1.イオン伝導体の経時劣化を抑制する方法
本発明の1つの実施形態によると、LiBHと下記式(1):
MX (1)
[式(1)中、Mは、リチウム原子、ルビジウム原子およびセシウム原子からなる群より選択されるアルカリ金属原子を表し、Xは、ハロゲン原子を表す。]
で表されるアルカリ金属化合物とを、LiBH:アルカリ金属化合物=1:1~2.6:1のモル比で混合することによってイオン伝導体の経時劣化を抑制する、方法が提供される。
従来は、例えば特許第5187703号公報の実施例に記載のように、イオン伝導体を製造する際にアルカリ金属化合物1モルに対してLiBHを3モル以上の比で混合する方法が行われていた。しかし、このような比率でアルカリ金属化合物とLiBHを混合した場合、得られたイオン伝導体は、一旦高温に曝された後に室温でイオン伝導度が大きく経時劣化する恐れがある。これに対して、本発明による方法によれば、LiBHとアルカリ金属化合物とをLiBH:アルカリ金属化合物=1:1~2.6:1のモル比で混合していることから、一旦高温に曝した後に室温に戻した場合に生じるイオン伝導体の経時劣化を大幅に抑制することができる。なお、本明細書において「イオン伝導体が高温に曝される」とは、イオン伝導体が高温状態を経ていれば特に限定されるものではなく、イオン伝導体を高温に至るまで加熱する場合や、イオン伝導体を固体電解質として使用した際に電池の反応によって高温となる場合も含むものとする。
本発明の方法に用いるLiBHとしては、通常に市販されているものを使用することができる。その純度は、90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましい。純度が上記範囲である化合物は、イオン伝導体としての性能が高いためである。また、固体の状態で市販されているLiBHを用いてもよく、THF等の溶媒に溶解した溶液の状態で市販されているLiBHを用いてもよい。なお、溶液の場合には、溶媒を除いた純度で90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましい。
上記式(1)におけるMとしてのアルカリ金属原子は、リチウム原子、ルビジウム原子およびセシウム原子からなる群より選択されるが、リチウム原子であることが好ましい。
上記式(1)におけるXとしてのハロゲン原子は、ヨウ素原子、臭素原子、フッ素原子、塩素原子等であってよい。Xは、ヨウ素原子であることがより好ましい。
具体的には、アルカリ金属化合物は、ハロゲン化リチウム(例えば、LiI、LiBr、LiFまたはLiCl)、ハロゲン化ルビジウム(例えば、RbI、RbBr、RbFまたはRbCl)、あるいはハロゲン化セシウム(例えば、CsI、CsBr、CsFまたはCsCl)であることが好ましく、ヨウ化リチウム(LiI)、ヨウ化ルビジウム(RbI)またはヨウ化セシウム(CsI)であることがより好ましく、ヨウ化リチウム(LiI)であることが特に好ましい。アルカリ金属化合物は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。好ましい組合せとしては、LiIとRbIとの組合せが挙げられる。
LiBHとアルカリ金属化合物の混合比は、モル比で、LiBH:アルカリ金属化合物=1:1~2.6:1であり、好ましくは1:1~2.5:1であり、より好ましくは1:1~2.3:1である。モル比が1:1以上であれば、イオン伝導体中のLiBHの量を十分に確保することができ、高いイオン伝導性を得ることができる。また、モル比が2.6:1以下であれば一旦高温に曝した後に室温に戻した場合に生じるイオン伝導体の経時劣化を大幅に抑制することができる。
2種以上のアルカリ金属化合物を併用する場合、その混合比は特に限定されない。例えば、LiIと他のアルカリ金属化合物(好ましくはRbIまたはCsI)とを併用する場合においては、LiIと他のアルカリ金属化合物とのモル比=1:1~20:1であることが好ましく、5:1~20:1であることがより好ましい。このような混合比とすることにより、高温相(高イオン伝導度の相)が維持されやすいためである。
LiBHとアルカリ金属化合物との混合方法は、イオン伝導体を製造できる限り特に限定されないが、例えば、メカニカルミリングや特許第5187703号公報に記載の溶融混合および溶媒を用いた混合方法(溶液混合)にて行うことができるが、その中でもメカニカルミリングが好ましい。
溶媒を用いた混合方法は、材料を均一に混合することが可能であることから、イオン伝導体を大量に製造する場合に適している。更に、溶液混合は、溶融混合のように高い温度を必要とせず、溶媒の除去もLiBHが安定に存在できる200℃以下で実施することが可能である。なお、溶液混合において使用する溶媒は、LiBHとアルカリ金属化合物のいずれか一方が溶解する溶媒であれば使用することができるが、これらの両方が溶解する溶媒が好ましい。LiBHとアルカリ金属化合物の両方が溶解することにより、均一な溶液を得ることができ、結果としてイオン伝導性のより優れたイオン伝導体を得られるからである。
溶媒としては、特に限定されず、種々の有機溶媒を用いることができる。そのような有機溶媒としては、例えば、テトラヒドロフランやジエチルエーテル等のエーテル系溶媒や、N,N-ジメチルホルムアミドやN,N-ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒等が挙げられる。その中でもエーテル系溶媒が好ましい。エーテル系溶媒は原料に安定で、原料の溶解度が高いものが使用でき、例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタン、トリエチレングリコールジメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、メチル-t-ブチルエーテル、ジオキサン等をあげることができる。その中でもテトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテルがより好ましい。
LiBHとアルカリ金属化合物との混合は、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。不活性ガスとしては、例えばヘリウム、窒素、アルゴンを挙げることができるが、より好ましくはアルゴンである。
混合時間は、混合する方法によって異なるが、例えば遊星ボールミルを用いた場合には、0.5~24時間であり、2~20時間が好ましい。溶液を用いた場合には、混合物が均一となる時間が確保できれば十分である。その時間は製造規模に左右されることが多いが、例えば0.1~5時間行うことで十分に均一な混合物を得ることができる。
上記のようにして得られたイオン伝導体の結晶化を進行させるため、加熱処理を行ってもよい。加熱温度は、通常50~300℃の範囲であり、より好ましくは60~250℃の範囲であり、特に好ましくは65~200℃未満である。50℃以上の温度であれば結晶化が生じ易く、一方、300℃以下の温度であれば、イオン伝導体が分解することや、結晶が変質することを十分に抑制することができる。なお、溶液混合において、溶媒除去のために加熱した場合は結晶化が同時に進行し、効率的である。
加熱時間は、加熱温度との関係で若干変化するものの、通常は0.1~12時間の範囲で十分に結晶化される。加熱時間は、好ましくは0.3~6時間であり、より好ましくは0.5~4時間である。イオン伝導体の変質を抑える観点から、加熱時間は短い方が好ましい。
本発明の方法が適用されるイオン伝導体は、X線回折(CuKα:λ=1.5405Å)において、少なくとも、2θ=23.9±1.2deg、25.6±1.5deg、27.3±1.5deg、35.4±2.0degおよび42.2±2.0degに回折ピークを有することが好ましい。少なくとも2θ=23.6±0.8deg、25.2±0.8deg、26.9±1.0deg、35.0±1.2degおよび41.4±1.2degに回折ピークを有することがより好ましく、少なくとも2θ=23.5±0.5deg、24.9±0.5deg、26.7±0.5deg、34.6±0.7degおよび40.9±0.7degに回折ピークを有することがさらに好ましい。また、少なくとも2θ=23.5±0.3deg、25.0±0.4deg、26.7±0.3deg、34.6±0.5degおよび40.9±0.5degに回折ピークを有することが特に好ましい。これら5つの領域の回折ピークは、LiBHの高温相の回折ピークに相当するものである。LiBHの高温相の転移温度(115℃)未満においてもこのように5つの領域に回折ピークを有する材料は、上記転移温度未満においても高いイオン伝導性を示す傾向にある。
上記のとおり、従来のイオン伝導体は、一旦高温に曝されるとその後室温に冷却したとしても時間とともにイオン伝導度が大きく低下する。理論に拘束されるものではないが、LiBHの比率が高いイオン伝導体(具体的には、アルカリ金属化合物1モルに対してLiBHを3モル以上の比で混合したイオン伝導体)は、高温に加熱した際に相転移による新たな結晶構造を形成し、その結晶構造が不安定であるものと推定される。この点について、図4および5のグラフを用いて以下に説明する。
図4は、LiBHとLiI(アルカリ金属化合物)をLiBH:LiI=3:1のモル比で混合して得たイオン伝導体を種々の温度に加熱し、冷却した後のXRDスペクトルである。図4では特に、2θ=22~28°の領域を拡大して示している。このグラフからわかるように、80℃に加熱したサンプルのピークと比較して、100℃で加熱したサンプルでは、ピークの一部が高角度側にシフトしていることが観測される。さらに高温(120℃)に加熱したサンプルでは、80℃に加熱したサンプルで観測されたピークがほぼ完全にシフトしていることが分かる。このことから、80℃~100℃付近で相転移が生じ、新たな結晶構造が発現しているものと推定される。
そして、LiBHの比率が高いイオン伝導体においては、この高角度側にシフトしたピークの一部が冷却後に25℃で一日経過した後に低角度側にシフトする(図5(b))。一方で、LiBHとLiI(アルカリ金属化合物)をLiBH:LiI=2.5:1のモル比で混合して得たイオン伝導体においては、そのような低角側へのピークのシフトは観察されない(図5(a))。詳細は不明であるが、このような新しい不安定な結晶構造が存在することによって、LiBHの比率が高いイオン伝導体においては経時劣化が大きくなると推察される。
本発明による方法を適用したイオン伝導体を150℃の温度に曝し、その後25℃まで冷却した時点で測定した前記イオン伝導体のイオン伝導度を第1のイオン伝導度とし、
前記25℃まで冷却した時点から、温度を25℃に維持して148時間経過した時点で測定した前記イオン伝導体のイオン伝導度を第2のイオン伝導度とした際、
下記式(2):
Figure 0007022498000003
で示すイオン伝導度の維持率が45%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、50~70%であることがさらに好ましい。上記式(2)で示される維持率が45%以上であれば、従来のイオン伝導体と比較して、イオン伝導体を全固体電池に用いて長時間動作させた際の出力電圧の低下や抵抗成分による熱損失の増加をより効果的に抑えることができる。本明細書において、「イオン伝導体を150℃の温度に曝し、その後25℃まで冷却した時点」とは、サンプルを25℃に設定した恒温槽に入れて30分間保持した後にイオン伝導度を測定し、続いて30℃~150℃まで10℃ずつ恒温槽を昇温して各温度で同様の操作を繰り返し、150℃での測定を終えた後に、140℃~30℃まで10℃ずつ恒温槽を降温し、各温度で40分間保持した後にイオン伝導度を測定し、最後に25℃に設定した恒温槽で40分間保持した後にイオン伝導度を測定した時点を示す。
2.イオン伝導体
本発明の他の実施形態によると、LiBHと下記式(1):
MX (1)
[式(1)中、Mは、リチウム原子、ルビジウム原子およびセシウム原子からなる群より選択されるアルカリ金属原子を表し、Xは、ハロゲン原子を表す。]
で表されるアルカリ金属化合物とを含み、LiBHとアルカリ金属化合物とのモル比が、LiBH:アルカリ金属化合物=1:1~2.6:1、好ましくは1:1~2.5:1、より好ましくは1:1~2.3:1である、イオン伝導体が提供される。本発明の他の実施形態によるイオン伝導体は、高温に曝された後でもイオン伝導度の維持率が高い。上述したように、従来のイオン伝導体には、一旦高温に曝された後に室温に戻した場合、イオン伝導度が時間とともに大きく低下するという問題点がある。しかしながら、本発明のイオン伝導体では、このようなイオン伝導度の低下は大幅に抑制され、イオン伝導度を高い値に維持することができる。
本発明によるイオン伝導体は、X線回折(CuKα:λ=1.5405Å)において、少なくとも、2θ=23.9±1.2deg、25.6±1.5deg、27.3±1.5deg、35.4±2.0degおよび42.2±2.0degに回折ピークを有することが好ましい。少なくとも2θ=23.6±0.8deg、25.2±0.8deg、26.9±1.0deg、35.0±1.2degおよび41.4±1.2degに回折ピークを有することがより好ましく、少なくとも2θ=23.5±0.5deg、24.9±0.5deg、26.7±0.5deg、34.6±0.7degおよび40.9±0.7degに回折ピークを有することがさらに好ましい。また、少なくとも2θ=23.5±0.3deg、25.0±0.4deg、26.7±0.3deg、34.6±0.5degおよび40.9±0.5degに回折ピークを有することが特に好ましい。これら5つの領域の回折ピークは、LiBHの高温相の回折ピークに相当するものである。LiBHの高温相の転移温度(115℃)未満においてもこのように5つの領域に回折ピークを有する材料は、上記転移温度未満においても高いイオン伝導性を示す傾向にある。
本発明によるイオン伝導体は、90℃~280℃の温度に曝し、その後25℃で1日経過した後に、X線回折(CuKα:λ=1.5405Å)スペクトルにおいて、2θ=26.85±0.14degにおける最大回折強度が、2θ=26.60±0.10における最大回折強度よりも大きいことが好ましい。本明細書において、ある角度範囲における「最大回折強度」とは、その範囲内において最も大きな回折強度を示すものであり、必ずしも回折ピークを示すものではない。また、X線回折に使用する試料の調製方法により回折ピーク全体のシフトが生じる可能性もあるが、従来の組成でみられた高角度側にシフトしたピークの一部が冷却後に低角度側にシフトする現象が本発明によるイオン伝導体では発生しないという特徴に変わりはない。
本発明によるイオン伝導体を150℃の温度に曝し、その後25℃まで冷却した時点で測定した前記イオン伝導体のイオン伝導度を第1のイオン伝導度とし、
前記25℃まで冷却した時点から、温度を25℃に維持して148時間経過した時点で測定した前記イオン伝導体のイオン伝導度を第2のイオン伝導度とした際、
下記式(2):
Figure 0007022498000004
で示すイオン伝導度の維持率が45%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、50~70%であることがさらに好ましい。上記式(2)で示される維持率が45%以上であれば、従来のイオン伝導体と比較して、イオン伝導体を全固体電池に用いて長時間動作させた際の出力電圧の低下や抵抗成分による熱損失の増加をより効果的に抑えることができる。
本発明のイオン伝導体は、リチウム(Li)とボロハイドライド(BH )とハロゲン原子とを主要成分として含むが、これら以外の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、酸素(O)、窒素(N)ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)等が挙げられる。
3.全固体電池用固体電解質および全固体電池
本発明の他の実施形態によると、本発明の一実施形態によるイオン伝導体を含む、全固体電池用固体電解質が提供される。また、本発明のさらなる実施形態によると、この全固体電池用固体電解質を使用した全固体電池が提供される。
本明細書において、全固体電池とは、リチウムイオンが電気伝導を担う全固体電池であり、特に全固体リチウムイオン二次電池である。全固体電池は、正極層と負極層との間に固体電解質層が配置された構造を有する。本発明のイオン伝導体は、正極層、負極層および固体電解質層のいずれか1層以上に、固体電解質として含まれてよい。電極層に使用する場合には、負極層よりも正極層に使用することが好ましい。正極層の方が、副反応が生じにくいためである。正極層または負極層に実施形態に関わるイオン伝導体が含まれる場合、イオン伝導体と公知のリチウムイオン二次電池用正極活物質または負極活物質とを組み合わせて使用する。正極層としては、活物質と固体電解質が混じり合ったバルク型を用いると、単セルあたりの容量が大きくなることから好ましい。
全固体電池は、上述した各層を成形して積層することによって作製されるが、各層の成形方法および積層方法については、特に限定されるものではない。例えば、固体電解質および/または電極活物質を溶媒に分散させてスラリー状としたものをドクターブレード、スピンコート等により塗布し、それを圧延することにより製膜する方法;真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、レーザーアブレーション法等を用いて成膜および積層を行う気相法;ホットプレスまたは温度をかけないコールドプレスによって粉末を成形し、それを積層していくプレス法等がある。実施形態に関わるイオン伝導体は比較的柔らかいことから、プレスによって成形および積層して電池を作製することが特に好ましい。また、正極層は、ゾルゲル法を用いて成膜することもできる。
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明の内容がこれにより限定されるものではない。
(実施例1)
アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で、LiBH(シグマ・アルドリッチ社製、純度95%以上)とLiI(シグマ・アルドリッチ社製、純度:99.9%以上、水含有量50ppm以下)とを、LiBH:LiI=2.00:1.00のモル比になるように量り取り、メノウ乳鉢にて混合した。次に、得られた混合物を45mLのSUJ-2製ポットに投入し、さらにSUJ-2製ボール(φ7mm、20個)を投入して、ポットを完全に密閉した。このポットを遊星型ボールミル機(フリッチェ製P7)に取り付け、回転数400rpmで2時間、メカニカルミリングを行い、イオン伝導体(2.00LiBH-1.00LiI)を得た。
(実施例2)
LiBHとLiIとのモル比をLiBH:LiI=2.25:1.00に変更した以外は、実施例1と同様にイオン伝導体を得た。
(実施例3)
LiBHとLiIとのモル比をLiBH:LiI=2.50:1.00に変更した以外は、実施例1と同様にイオン伝導体を得た。
(比較例1)
LiBHとLiIとのモル比をLiBH:LiI=2.75:1.00に変更した以外は、実施例1と同様にイオン伝導体を得た。
(比較例2)
LiBHとLiIとのモル比をLiBH:LiI=3.00:1.00に変更した以外は、実施例1と同様にイオン伝導体を得た。
(比較例3)
LiBHとLiIとのモル比をLiBH:LiI=4.00:1.00に変更した以外は、実施例1と同様にイオン伝導体を得た。
<X線回折測定>
実施例1~3および比較例1~3で得られたイオン伝導体の粉末について、Ar雰囲気下、室温にて、X線回折測定(PANalytical社製X‘pert Powder、CuKα:λ=1.5405Å)を実施した。
実施例1~3および比較例1~3では、少なくとも、2θ=23.5±0.3deg、25.0±0.4deg、26.7±0.3deg、34.6±0.5degおよび40.9±0.5degに回折ピークが観測され、LiBHの高温相の回折ピークに相当するピークが示された。
次いで、実施例1~3および比較例1~3で得られたイオン伝導体の粉末を、Ar雰囲気下、150℃に加熱した後、25℃まで冷却し、一日経過した時点で室温にて、X線回折測定(PANalytical社製X‘pert Powder、CuKα:λ=1.5405Å)を実施した。実施例1~3では2θ=26.85±0.14degにおける最大回折強度が、2θ=26.60±0.10における最大回折強度よりも大きかった。図3に、加熱前、加熱直後、および25℃で1日経過した後のXRDスペクトルを示す。
<イオン伝導度測定>
実施例1~3および比較例1~3で得られたイオン伝導体を一軸成型(240MPa)に供し、厚さ約1mm、直径8mmのディスクを得た。室温(25℃)および30℃から150℃の温度範囲において10℃間隔で、リチウム電極を利用した四端子法による交流インピーダンス測定(SI1260 IMPEDANCE/GAIN―PHASE ANALYZER)を行い、イオン伝導度を算出した。具体的には、サンプルを25℃に設定した恒温槽に入れて30分間保持した後にイオン伝導度を測定し、続いて30℃~150℃まで10℃ずつ恒温槽を昇温し、各温度で同様の操作を繰り返した。150℃での測定を終えた後は、140℃~30℃まで10℃ずつ恒温槽を降温し、各温度で40分間保持した後にイオン伝導度を測定した。最後に25℃に設定した恒温槽で40分間保持した後のサンプルのイオン伝導度を測定した。測定周波数範囲は0.1Hz~1MHz、振幅は50mVとした。
実施例1~3および比較例1~3のイオン伝導体についてのイオン伝導度の測定結果を図1に示す。
<経時劣化測定>
上記のイオン伝導度の測定に続けて、実施例1~3および比較例1~3のイオン伝導体についての経時劣化を測定した。上記の25℃での最後の測定時の値を基準とし(すなわち、0時間とし)、経過時間148時間までに複数回測定を行い、イオン伝導度の経時変化を観察した。イオン伝導度の維持率は、イオン伝導体を150℃の温度に曝し、その後25℃まで冷却した時点(0時間)で測定したイオン伝導体のイオン伝導度を基準(すなわち100%)として百分率で示した。
実施例1~3および比較例1~3のイオン伝導体についてのイオン伝導度の経時劣化測定結果を図2に示す。実施例1~3はいずれも経過時間148時間後のイオン伝導体の維持率が50%を超えていたのに対して、比較例1~3はいずれも40%を下回っていた。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。

Claims (8)

  1. LiBHとLiIとを含むイオン伝導体の経時劣化を抑制する方法であって、
    前記LiBHと前記LiIとを、LiBH:LiI=2.25:1~2.6:1のモル比で混合し、前記混合の後に、前記イオン伝導体を150℃~280℃の温度に曝し、その後25℃まで冷却することを含む、方法。
  2. 前記イオン伝導体は、X線回折(CuKα:λ=1.5405Å)において、少なくとも、2θ=23.9±1.2deg、25.6±1.5deg、27.3±1.5deg、35.4±2.0degおよび42.2±2.0degに回折ピークを有する、請求項1に記載の方法。
  3. 前記混合はメカニカルミリングによって行われる、請求項1または2に記載の方法。
  4. 150℃の温度に曝し、その後25℃まで冷却した時点で測定した前記イオン伝導体のイオン伝導度を第1のイオン伝導度とし、
    前記25℃まで冷却した時点から、温度を25℃に維持して148時間経過した時点で測定した前記イオン伝導体のイオン伝導度を第2のイオン伝導度とした際、
    下記式(2):
    Figure 0007022498000005
    で示すイオン伝導度の維持率が45%以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
  5. LiBHとLiIとを含み、
    前記LiBHと前記LiIとのモル比が、LiBH:LiI=2.25:1~2.6:1である、イオン伝導体であって、
    150℃の温度に曝し、その後25℃まで冷却した時点で測定した前記イオン伝導体のイオン伝導度を第1のイオン伝導度とし、
    前記25℃まで冷却した時点から、温度を25℃に維持して148時間経過した時点で
    測定した前記イオン伝導体のイオン伝導度を第2のイオン伝導度とした際、
    下記式(2):
    Figure 0007022498000006
    で示すイオン伝導度の維持率が45%以上である、イオン伝導体
  6. 90℃~280℃の温度に曝し、その後25℃で1日経過した後に、X線回折(CuKα:λ=1.5405Å)スペクトルにおいて、2θ=26.85±0.14degにおける最大回折強度が、2θ=26.60±0.10における最大回折強度よりも大きい、請求項5に記載のイオン伝導体。
  7. 請求項5または6に記載のイオン伝導体を含む、全固体電池用固体電解質。
  8. 請求項に記載の全固体電池用固体電解質を使用した、全固体電池。
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