以下に、本発明の実施の形態に係る回転電機の制御装置を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施の形態により、本発明が限定されるものではない。また、以下では「回転電機の制御装置」を単に「制御装置」と称する場合がある。
実施の形態1.
実施の形態1に係る回転電機の制御装置は、多相の回転電機の駆動制御を行う制御装置である。多相の回転電機とは、三相もしくは四相以上の交流電圧が印加可能に構成されている回転電機である。
図1は、実施の形態1に係る回転電機の制御装置100の構成例を示す図である。実施の形態1に係る制御装置100は、図1に示すように、電圧印加手段である電圧印加器3と、電流検出手段である電流検出器2と、位置推定手段である位置推定器4と、制御手段である制御器5とを備える。
電圧印加器3は、回転電機1を駆動するための回転電機電圧指令vu
*,vv
*,vw
*に基づいて、回転電機1に交流電力を供給する。
回転電機1の一例は、回転子1aの突極性を利用してトルクを発生する三相の同期リラクタンスモータである。同期リラクタンスモータは、回転子1aの磁気抵抗が回転子位置によって変化するモータである。
電流検出器2は、回転電機1に流れる電流である回転電機電流iu,iv,iwを検出する。回転電機電流iu,iv,iwは、電圧印加器3から回転電機1の各相に供給される交流電流である。電流検出器2は、検出した回転電機電流iu,iv,iwを位置推定器4及び制御器5に出力する。
位置推定器4は、回転電機電流iu,iv,iwに基づいて推定回転子位置θ^を演算する。制御器5は、回転電機電流iu,iv,iw及び推定回転子位置θ^に基づいて、回転電機1の出力トルクがトルク指令値τ*で指示される値となるように回転電機電圧指令vu
*,vv
*,vw
*を演算する。推定回転子位置θ^は、回転電機1を構成する回転子1aの回転位置である回転子位置の推定値である。推定回転子位置θ^は、電気角で表される。
制御器5は、第1の演算部である駆動電圧指令演算部5aと、第2の演算部である位置推定用電圧演算部5bとに区分される。駆動電圧指令演算部5aは、電流指令演算器6、電流制御器7、回転座標逆変換器8、二相三相変換器9、駆動電流抽出器11、三相二相変換器12、回転座標変換器13及び加算器14を備える。なお、図1に示す駆動電圧指令演算部5a及び位置推定用電圧演算部5bの区分は一例であり、制御器5の構成要素をどのように区分してもよい。
位置推定用電圧演算部5bは、回転子位置を推定するための各相の位置推定用電圧指令vuf
*,vvf
*,vwf
*を演算する。駆動電圧指令演算部5aは、回転電機電流iu,iv,iw及び推定回転子位置θ^に基づいて回転電機1を駆動するための回転電機駆動電圧指令vuf
*,vvf
*,vwf
*を演算する。なお、回転電機駆動電圧指令vuf
*,vvf
*,vwf
*は、加算器14で位置推定用電圧指令vuh
*,vvh
*,vwh
*が加算される。加算器14の出力は、回転電機電圧指令vu
*,vv
*,vw
*として、電圧印加器3に出力される。
駆動電圧指令演算部5aにおいて、電流指令演算器6には、回転電機1の出力トルクの指令値であるトルク指令値τ*が入力される。
電流指令演算器6は、トルク指令値τ*を用いて、回転二相座標上の回転電機駆動電流指令idf
*,iqf
*を演算する。回転電機駆動電流指令idf
*,iqf
*は、回転電機1がトルク指令値τ*に対応した出力を発生するために必要な回転二相座標上の電流指令である。実施の形態1の電流指令演算器6では、トルクに対する電流実効値が最小、別言すると、トルクに対する銅損が最小になるような電流指令が演算される。
回転二相座標上の回転電機駆動電流指令idf
*,iqf
*のうち、回転電機駆動電流指令idf
*は、回転子1aの磁気抵抗が最も小さくなるd軸方向の電機子電流成分を示すd軸駆動電流の指令値である。回転電機駆動電流指令iqf
*は、d軸に直交する方向となるq軸方向の電機子電流成分を示すq軸駆動電流の指令値である。回転二相座標上の回転電機駆動電流指令idf
*,iqf
*の演算には、トルク指令値τ*以外にも、回転電機1のモータ定数が用いられる。モータ定数としては、回転電機1の相互インダクタンスと、回転電機1の極数とが例示される。なお、モータ定数に代えて、予め求めた電流指令とトルクとの間の関係式又はテーブルを用いてもよい。
駆動電流抽出器11は、電流検出器2で検出された三相座標上の回転電機電流iu,iv,iwから、三相座標上の回転電機駆動電流iuf,ivf,iwfを抽出する。三相座標上の回転電機駆動電流iuf,ivf,iwfは、回転電機1を駆動するための三相座標上の回転電機駆動電圧指令vuf
*,vvf
*,vwf
*により発生した三相座標上の回転電機駆動電流である。回転電機駆動電圧指令vuf
*,vvf
*,vwf
*は、二相三相変換器9から出力されて加算器14に入力される駆動電圧指令である。加算器14には、回転電機駆動電圧指令vuf
*,vvf
*,vwf
*と、回転電機1の回転子位置を推定するための電圧指令である位置推定用電圧指令vuh
*,vvh
*,vwh
*とが入力される。
加算器14は、三相座標上の回転電機駆動電圧指令vuf
*,vvf
*,vwf
*と、三相座標上の位置推定用電圧指令vuh
*,vvh
*,vwh
*とを加算した三相座標上の回転電機電圧指令vu
*,vv
*,vw
*を生成して、電圧印加器3へ出力する。位置推定用電圧指令vuh
*,vvh
*,vwh
*は、位置推定用電圧演算部5bによって演算される。
図2は、図1に示す位置推定用電圧演算部5bから出力される位置推定用電圧指令を示す図である。図2には、三相座標上の位置推定用電圧指令vuh
*,vvh
*,vwh
*の例として、互いに120°の位相差を有する方形波状の電圧が、上段部側からu相、v相及びw相の順で示されている。なお、図2では、三相座標上の位置推定用電圧指令vuh
*,vvh
*,vwh
*が方形波電圧である場合を示しているが、これに限定されない。方形波電圧に代えて、正弦波電圧を用いてもよい。
図1に戻り、実施の形態1の駆動電流抽出器11では、例えばノッチフィルタにより三相座標上の回転電機電流iu,iv,iwから、位置推定用電圧指令vuh
*,vvh
*,vwh
*の印加により発生する三相座標上の位置推定用電流振幅Iuh,Ivh,Iwhを除去することにより、三相座標上の回転電機駆動電流iuf,ivf,iwfを抽出する。なお、三相座標上の回転電機電流iu,iv,iwから三相座標上の回転電機駆動電流iuf,ivf,iwfを抽出する方法は、ノッチフィルタに限定されず、ローパスフィルタ又はハイパスフィルタを用いてもよい。
三相二相変換器12は、駆動電流抽出器11で抽出された三相座標上の回転電機駆動電流iuf,ivf,iwfを静止二相座標上の回転電機駆動電流iαf,iβfに変換する。回転座標変換器13は、位置推定器4によって推定された推定回転子位置θ^を用いて座標変換を行い、静止二相座標上の回転電機駆動電流iαf,iβfを、回転二相座標上の回転電機駆動電流idf,iqfに変換する。
電流制御器7は、回転座標変換器13で変換された、回転二相座標上の回転電機駆動電流idf,iqfが、電流指令演算器6で演算された回転電機駆動電流指令idf
*,iqf
*となるように電流制御を行い、回転二相座標上の回転電機駆動電圧指令vdf
*,vqf
*を演算する。電流制御器7における電流制御としては、比例積分(Proportional Integral:PI)制御を例示できる。
回転座標逆変換器8は、推定回転子位置θ^を用いて、電流制御器7で演算された回転二相座標上の回転電機駆動電圧指令vdf
*,vqf
*を、静止二相座標上の回転電機駆動電圧指令vαf
*,vβf
*に変換する。二相三相変換器9は、静止二相座標上の回転電機駆動電圧指令vαf
*,vβf
*を、前述した三相座標上の回転電機駆動電圧指令vuf
*,vvf
*,vwf
*に変換する。
次に、位置推定器4の細部について説明する。図3は、図1に示す位置推定器4の細部の構成例を示す図である。位置推定器4は、図3に示すように、信号処理器41、位置推定用電流振幅演算器403、信号処理器42、第1の推定位置演算器である推定位置演算器406、第2の推定位置演算器である推定位置演算器407、第3の推定位置演算器である推定位置演算器408、及び推定位置切替器409を備える。
信号処理器41は、位置推定用電流抽出器401及び駆動電流抽出器402を備える。位置推定用電流抽出器401は、三相座標上の回転電機電流iu,iv,iwから位置推定用電流iuh,ivh,iwhを抽出する。駆動電流抽出器402は、三相座標上の回転電機電流iu,iv,iwから三相座標上の回転電機駆動電流iuf,ivf,iwfを抽出する。
位置推定用電流振幅演算器403は、三相座標上の位置推定用電流iuh,ivh,iwhに基づいて、三相座標上の位置推定用電流振幅Iuh,Ivh,Iwhを演算する。
信号処理器42は、交流成分抽出器404及び直流成分抽出器405を備える。交流成分抽出器404は、位置推定用電流振幅Iuh,Ivh,Iwhから位置推定用電流振幅の三相交流成分Iuhac,Ivhac,Iwhacを抽出する。直流成分抽出器405は、位置推定用電流振幅Iuh,Ivh,Iwhから位置推定用電流振幅の直流成分Ihdcを抽出する。
推定位置演算器406は、位置推定用電流振幅の三相交流成分Iuhac,Ivhac,Iwhacに基づいて、第1の推定回転子位置θ^
1を推定する。推定位置演算器406において用いられる回転子位置の推定方式は、突極方式である。即ち、第1の推定回転子位置θ^
1は、位置推定用電圧の印加により生じる位置推定用電流の振幅である位置推定用電流振幅の交流成分に基づいて演算される推定回転子位置である。第1の推定回転子位置θ^
1は、位置推定器4から最終的に出力される推定回転子位置θ^の候補値の1つである。
推定位置演算器407は、位置推定用電流振幅の直流成分Ihdcに基づいて、第2の推定回転子位置θ^
2を演算する。推定位置演算器407において用いられる回転子位置の推定方式は、磁気飽和方式である。第2の推定回転子位置θ^
2は、位置推定器4から最終的に出力される推定回転子位置θ^の候補値の1つである。
推定位置演算器408は、三相座標上の回転電機駆動電流iuf,ivf,iwfと、回転子1aの突極性により生じる誘起電圧により演算される鎖交磁束と、に基づいて第3の推定回転子位置θ^
3を演算する。推定位置演算器408において用いられる回転子位置の推定方式は、誘起電圧及び鎖交磁束方式である。第3の推定回転子位置θ^
3は、位置推定器4から最終的に出力される推定回転子位置θ^の候補値の1つである。
推定位置切替器409は、第1の推定回転子位置θ^
1、第2の推定回転子位置θ^
2及び第3の推定回転子位置θ^
3のうちの何れか1つを選択することで得られる位置情報、又は、少なくとも2つの推定回転子位置を用いて合成することで得られる位置情報を推定回転子位置θ^として出力する。
次に、位置推定器4の更に詳細な機能について、図3に加え、更に図4から図6の図面を参照して説明する。図4は、図3に示す推定位置演算器407の動作説明に供する第1の図である。図5は、図3に示す推定位置演算器407の動作説明に供する第2の図である。図6は、図3に示す推定位置演算器408の細部の構成例を示す図である。
駆動電流抽出器402は、例えばノッチフィルタを用いて、三相座標上の回転電機電流iu,iv,iwから、位置推定用電圧指令vuh
*,vvh
*,vwh
*の印加により発生する三相座標上の位置推定用電流振幅Iuh,Ivh,Iwhを除去することにより、三相座標上の回転電機駆動電流iuf,ivf,iwfを抽出する。位置推定用電流抽出器401は、例えば三相座標上の回転電機電流iu,iv,iwから、駆動電流抽出器402で演算された三相座標上の回転電機駆動電流iuf,ivf,iwfを減算することにより、三相座標上の位置推定用電流振幅Iuh,Ivh,Iwhを演算する。なお、三相座標上の回転電機駆動電流iuf,ivf,iwf及び三相座標上の位置推定用電流振幅Iuh,Ivh,Iwhの抽出方法又は演算方法は、これに限定されず、バンドパスフィルタ、バンドストップフィルタ、ローパスフィルタ又はハイパスフィルタを用いてもよい。
前述の通り、位置推定用電流振幅演算器403は、三相座標上の位置推定用電流振幅Iuh,Ivh,Iwhに基づいて、三相座標上の位置推定用電流振幅Iuh,Ivh,Iwhを演算する。なお、三相座標上の位置推定用電流振幅Iuh,Ivh,Iwhは、前述した位置推定用電流振幅の直流成分Ihdcと、位置推定用電流振幅の交流成分Ihacとを用いて、下記(1)式のように表すことができる。
なお、位置推定用電流振幅演算器403による演算方法は公知であり、ここでの詳細な説明は割愛する。演算方法の詳細は、例えば特許第5324646号公報の明細書の段落[0034]から[0055]に記載されており、当該記載内容を参照されたい。当該記載内容は、本明細書に取り込まれて本明細書の一部を構成する。
また、本手法は、三相座標上の位置推定用電流振幅Iuh,Ivh,Iwhの交流成分の相対関係を利用して磁極位置を演算するものであり、位置推定用電流振幅Iuh,Ivh,Iwhの絶対値を演算する必要がない。このため、三相座標上の位置推定用電流振幅Iuh,Ivh,Iwhの演算には、下記(2)式を用いることができる。
上記(2)式において、“t”は時間であり、“Th”は交流の1周期である。上記(2)式では、自己相関により絶対値を求めるときに積分記号の前に付される“√(2/Th)”の係数が省略されている。即ち、位置推定用電流振幅演算器403による演算では、乗算及び平方根演算は不要である。従って、実施の形態1の位置推定用電流振幅演算器403によれば、演算処理の高速化及び演算時間の短縮化が可能である。
前述の通り、直流成分抽出器405は、位置推定用電流振幅Iuh,Ivh,Iwhから位置推定用電流振幅の直流成分Ihdcを抽出する。具体的に、直流成分抽出器405は、下記(3)式に示されるように、位置推定用電流振幅演算器403で演算された三相座標上の位置推定用電流振幅Iuh,Ivh,Iwhの平均値を演算することで、位置推定用電流振幅の直流成分Ihdcを抽出する。
また、前述の通り、交流成分抽出器404は、位置推定用電流振幅Iuh,Ivh,Iwhから位置推定用電流振幅の三相交流成分Iuhac,Ivhac,Iwhacを抽出する。具体的に、交流成分抽出器404は、入力された位置推定用電流振幅Iuh,Ivh,Iwhのそれぞれから、直流成分抽出器405によって抽出された位置推定用電流振幅の直流成分Ihdcを減算することにより、位置推定用電流振幅の三相交流成分Iuhac,Ivhac,Iwhacを演算する。上記(1)及び(3)式を用いれば、位置推定用電流振幅の三相交流成分Iuhac,Ivhac,Iwhacは、下記(4)式で表すことができる。なお、位置推定用電流振幅の直流成分Ihdc及び位置推定用電流振幅の三相交流成分Iuhac,Ivhac,Iwhacの演算方法は、これに限定されず、ローパスフィルタ又はハイパスフィルタを用いてもよい。
推定位置演算器406は、位置推定用電流振幅の三相交流成分Iuhac,Ivhac,Iwhacが回転子位置θの関数、即ちsin(2θ)又はcos(2θ)の関数となることを利用して、第1の推定回転子位置θ^
1を演算する。具体的に、第1の推定回転子位置θ^
1は、上記(4)式に示される位置推定用電流振幅の三相交流成分Iuhac,Ivhac,Iwhacの何れか1つの信号を逆余弦演算することにより求めることができる。また、第1の推定回転子位置θ^
1は、三相座標上で表現された位置推定用電流振幅の三相交流成分Iuhac,Ivhac,Iwhacを三相二相変換してから逆正接演算することにより求めることができる。また、第1の推定回転子位置θ^
1は、位置推定用電流振幅の三相交流成分Iuhac,Ivhac,Iwhacのそれぞれのゼロクロス点を中心とした電気角60°毎に6つの区間に分け、各区間において位置推定用電流振幅の三相交流成分Iuhac,Ivhac,Iwhacのうちのゼロクロスするものを直線近似することによって演算することも可能である。
推定位置演算器407は、位置推定用電流振幅の直流成分Ihdcに基づいて、第2の推定回転子位置θ^
2を演算する。図4には、最大トルク(Maximum Torque Per Ampere:MTPA)制御における位置推定用電流振幅の直流成分Ihdcの振る舞いが、電流位相φと、駆動電流ベクトルの大きさ|idqf|とに対する関係で示されている。なお、MTPA制御は、同一のトルクを発生させる駆動電流ベクトルのうちで、駆動電流ベクトルの大きさ|idqf|を最小にする制御である。駆動電流ベクトルの大きさ|idqf|は、三相座標上の回転電機駆動電流iuf,ivf,iwfを回転座標変換し、d軸成分とq軸成分とに分けたときの、d軸成分とq軸成分との二乗和の平方根に相当する。図4では、駆動電流ベクトルの大きさ|idqf|が定格電流の20%から100%電流までの間で、20%の電流刻みで与えられている。また、図4において、電流位相φは、d軸を基準とした進み位相として定義されている。
実施の形態1において、回転電機1に対するMTPA制御では、電流位相φの制御範囲は、45°から55°を想定する。図4において、駆動電流ベクトルの大きさ|idqf|が定格電流の60%以上であり、且つ、電流位相φが45°から55°の範囲では、位置推定用電流振幅の直流成分Ihdcは、電流位相φに対して単調減少している。実施の形態1における推定位置演算器407では、この特性を利用して、第2の推定回転子位置θ^
2を演算する。
なお、回転子位置の推定に必要な特性は、位置推定用電流振幅の直流成分Ihdcと駆動電流ベクトルとの一意性であり、位置推定用電流振幅の直流成分Ihdcと電流位相φとの関係は、単調減少に限定されない。
図5には、図4に示した駆動電流ベクトルの大きさ|idqf|のプロットのうち、駆動電流ベクトルの大きさ|idqf|が100%電流、即ち定格電流である場合の、位置推定用電流振幅の直流成分Ihdcが示されている。また、図5において、電流位相指令値をφ*とし、電流位相指令値φ*で駆動した場合の位置推定用電流振幅の直流成分Ihdcを、Ihdc(φ*)と表記する。また、回転子位置の位置推定誤差をΔθ2とし、電流位相指令値φ*が位置推定誤差Δθ2だけずれた実際の電流位相φで駆動した場合の位置推定用電流振幅の直流成分IhdcをIhdc(φ)と定義する。このように定義すると、位置推定誤差Δθ2は、Ihdc(φ*)とIhdc(φ)との差に比例する。本明細書では、Ihdc(φ*)とIhdc(φ)との差を「Ihdc誤差」と呼ぶ。
推定位置演算器407を位相同期回路(Phase Locked Loop:PLL)で構成する場合、推定位置演算器407は、Ihdc誤差がゼロとなるようにPLLを動作させることで、第2の推定回転子位置θ^
2を演算する。なお、PLLは、Ihdc誤差がゼロとなるような構成であればよく、比例積分器又は比例積分積分器が例示される。比例積分積分器は、比例積分器の後段に更に積分器を有する構成である。なお、推定位置演算器407では、使用を想定するトルク又は回転電機電流の範囲に対応付けて、電流位相φと位置推定用電流振幅の直流成分Ihdcとの関係が予め記憶されているものとする。
推定位置演算器408は、図6に示すように、位置推定誤差演算器4080及びPLL4081を備える。前述したように、推定位置演算器408は、回転子1aの突極性により生じる誘起電圧により演算される鎖交磁束に基づいて、第3の推定回転子位置θ^
3を推定する演算器である。
位置推定誤差演算器4080は、三相座標上の回転電機駆動電圧指令vuf
*,vvf
*,vwf
*と、三相座標上の回転電機駆動電流iuf,ivf,iwfとに基づいて、回転子位置の位置推定誤差“-(θ^
3-θ)”を演算する。PLL4081は、回転子位置の位置推定誤差“-(θ^
3-θ)”から第3の推定回転子位置θ^
3を演算する。
位置推定誤差演算器4080は、三相二相変換器40800,40801、回転座標変換器40802、鎖交磁束インダクタンス交流分演算器40803、鎖交磁束インダクタンス交流分推定器40804及び回転子位置推定誤差演算器40805を備える。
三相二相変換器40800は、三相座標上の回転電機駆動電圧指令vuf
*,vvf
*,vwf
*を、静止二相座標上の回転電機駆動電圧指令vαf
*,vβf
*に変換する。
三相二相変換器40801は、三相座標上の回転電機駆動電流iuf,ivf,iwfを、静止二相座標上の回転電機駆動電流iαf,iβfに変換する。
回転座標変換器40802は、推定回転子位置θ^
3を用いて座標変換を行い、静止二相座標上の回転電機駆動電流iαf,iβfを回転二相座標上の回転電機駆動電流idf,iqfに変換する。
PLL4081は、回転子位置の位置推定誤差“-(θ^
3-θ)”がゼロとなるように、PLL動作することで、第3の推定回転子位置θ^
3を演算する。PLL4081は、位置推定誤差“-(θ^
3-θ)”がゼロとなるように構成されていればよく、比例積分器又は比例積分微分器を用いてもよい。
次に、鎖交磁束インダクタンス交流分演算器40803の動作について説明する。まず、回転電機1のモデルは、静止二相座標において、下記(5)式から(8)式で表される。
上記(5)式のvdqはd軸の回転電機電圧vdとq軸の回転電機電圧vqからなるベクトルであり、idqはd軸回転電機電流idとq軸回転電機電流iqからなるベクトルであり、Rsは回転電機1の巻線抵抗であり、ωsはモデルを表す座標の回転角速度であり、上記(5)式のψdqは鎖交磁束である。上記(6)式のJは、変換行列である。上記(5)式の鎖交磁束ψdqは上記(7)式のように表すことができる。上記(7)式のLdqは、Lsdcと、Lmacと、回転子位置の電気角θとにより、上記(8)式のように行列で表すことができる。上記(8)式のLsdcは、回転子位置によって変化しないインダクタンス直流分であり、Lmacは回転子位置によって変化するインダクタンス交流分である。なお、インダクタンスの変化は一般的に、回転子位置の電気角θに対し、2θの正弦関数又は余弦関数で表される。
上記(7)式と、上記(8)式とから、鎖交磁束ψdqは、下記(9)式で表される。
上記(9)式の第1項は、回転子位置によって変化しないインダクタンス直流分Lsdcによる項である。また、上記(9)式の第2項は、回転子位置によって変化するインダクタンス交流分Lmacによる項であり、この項が「鎖交磁束インダクタンス交流分」である。即ち、鎖交磁束インダクタンス交流分は、インダクタンス交流分と回転電機電流とによって生成される鎖交磁束である。
鎖交磁束インダクタンス交流分演算器40803は、鎖交磁束インダクタンス交流分を演算するため、以下の演算を行う。まず、鎖交磁束インダクタンス交流分演算器40803は、下記(10)式を用いて回転電機の鎖交磁束ψdqを演算する。
上記(10)式において、vαβ
*はα軸の回転電機電圧指令vα
*と、β軸の回転電機電圧指令vβ
*からなるベクトルである。
また、上記(10)式の積分は、ラプラス変換におけるs領域において、下記(11)式で表される。
回転電機1の鎖交磁束ψαβを積分で演算する場合、通常は初期値が不明である。このため、回転電機1の鎖交磁束ψαβの基本波周波数成分に対して十分にカットオフ周波数の低いハイパスフィルタを利用する。ここで、ハイパスフィルタの伝達関数は、カットオフ周波数をωhpfとして、下記(12)式で表される。
よって、上記(11)式で表される鎖交磁束ψαβを上記(12)式のハイパスフィルタに通すと、フィルタ適用後の鎖交磁束ψ^
hpfαβは、下記(13)式で計算される。
また、上記(13)式を変形すると、下記(14)式が得られる。
更に、鎖交磁束インダクタンス交流分演算器40803は、第3の推定回転子位置θ^
3を用いて、静止二相座標上での鎖交磁束ψ^
hpfαβを、回転二相座標上での鎖交磁束ψ^
hpfdqへ座標変換する。回転座標上での鎖交磁束インダクタンス交流分ψ^
acdq,calcは、上記(9)式に従って、下記(15)式で演算される。
上記(15)式で演算される鎖交磁束インダクタンス交流分ψ^
acdq,calcは、以下では「鎖交磁束インダクタンス交流分演算値」と呼ぶ。
鎖交磁束インダクタンス交流分推定器40804は、下記(16)式に示すように、推定回転子位置θ^
3と回転電機電流idqとを用いて、上記(9)式の第2項である鎖交磁束インダクタンス交流分を推定する。
ここで、上記(16)式において、回転子位置の推定値θ^
3と真値θがおよそ等しい場合、上記(16)式は下記(17)式に示すように簡略化される。
上記(17)式のψ^
acdqは、鎖交磁束インダクタンス交流分推定器40804で演算される鎖交磁束インダクタンス交流分の推定値である。以下、この推定値を「鎖交磁束インダクタンス交流分推定値」と呼ぶ。
位置推定誤差演算器4080は、鎖交磁束インダクタンス交流分演算値ψ^
acdq,calcと鎖交磁束インダクタンス交流分推定値ψ^
acdqとを用いて、回転子位置の位置推定誤差“-(θ^
3-θ)”を演算する。ここで、鎖交磁束インダクタンス交流分演算値ψ^
acdq,calcと鎖交磁束インダクタンス交流分推定値ψ^
acdqとの外積は、上記(15)式、即ち上記(9)式の第2項を演算した値と、上記(16)式とを用いて、下記(18)式で表される。
そして、回転子位置の推定値と真値とがおよそ等しい、即ちθ^
3≒θとすると、回転子位置の推定誤差は下記(19)式で演算できる。
以上が、推定位置演算器408による演算処理である。なお、位置推定に用いる回転電機電圧指令及び回転電機電流は、それぞれ回転電機駆動電圧指令及び回転電機駆動電流とする。
図3に戻り、推定位置切替器409は、第1の推定回転子位置θ^
1、第2の推定回転子位置θ^
2及び第3の推定回転子位置θ^
3のうちの何れか1つを選択、即ち切り替えて出力する。或いは、推定位置切替器409は、第1の推定回転子位置θ^
1、第2の推定回転子位置θ^
2及び第3の推定回転子位置θ^
3のうちの少なくとも2つの推定回転子位置の情報を選択し、これらを予め設定した割合で加重平均した値を推定回転子位置θ^として出力する。このように、推定位置切替器409は、回転子位置の推定情報を選択又は切り替えて出力する。
以上のように、実施の形態1によれば、位置推定器4は、第1の推定回転子位置θ^
1、第2の推定回転子位置θ^
2及び第3の推定回転子位置θ^
3のうちの何れか1つを選択して出力する。或いは、位置推定器4は、第1の推定回転子位置θ^
1、第2の推定回転子位置θ^
2及び第3の推定回転子位置θ^
3のうちの少なくとも2つの推定回転子位置を用いて合成した推定回転子位置θ^を出力する。これにより、所望の推定回転子位置を用いた位置センサレス制御が可能となり、動作範囲のトルク速度領域においての位置センサレス制御が可能となる。
実施の形態2.
実施の形態1は、第1の推定回転子位置θ^
1、第2の推定回転子位置θ^
2及び第3の推定回転子位置θ^
3のうちの何れか1つを選択することで得られる位置情報、又は、少なくとも2つの推定回転子位置を用いて合成することで得られる位置情報を推定回転子位置θ^として出力する実施の形態であった。ここで、第1の推定回転子位置θ^
1は、突極方式によって推定される位置情報であり、第2の推定回転子位置θ^
2は、磁気飽和方式によって推定される位置情報であり、第3の推定回転子位置θ^
3は、誘起電圧及び鎖交磁束方式によって推定される位置情報である。
一方、回転子位置の推定方式には、それぞれの特徴がある。前述の通り、突極方式は、低速域且つ磁気飽和の程度が小さい駆動領域で推定精度が高く、磁気飽和方式は、低速域且つ磁気飽和の程度が大きい駆動領域で推定精度が高く、誘起電圧及び鎖交磁束方式は、高速域で推定精度が高いという特徴がある。実施の形態1では、推定される位置情報と駆動領域との関係性については、特に触れていなかった。そこで、実施の形態2では、回転子位置に加え、回転子1aの回転速度を推定し、推定した速度情報と、磁気飽和情報とに基づいて、推定した回転子位置の情報を切り替える実施の形態について説明する。なお、磁気飽和情報は、回転電機1の磁気飽和の程度と相関のある情報として定義される。
図7は、実施の形態2に係る回転電機の制御装置100Aの構成例を示す図である。実施の形態2に係る制御装置100Aは、図1に示す実施の形態1に係る制御装置100の構成において、位置推定器4が位置推定器4Aに置換されている。その他の構成については、実施の形態1の構成と同一又は同等であり、同一又は同等の構成部には同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
図8は、図7に示す位置推定器4Aの細部の構成例を示す図である。図8に示す実施の形態2における位置推定器4Aは、図3に示す実施の形態1における位置推定器4の構成において、推定位置演算器406,407,408及び推定位置切替器409が、それぞれ推定位置速度演算器406A,407A,408A及び推定位置切替器409Aに置換されている。推定位置速度演算器406A,407A,408Aのそれぞれを符号無しで区別する場合には、それぞれを「第1の推定位置速度演算器」、「第2の推定位置速度演算器」、及び「第3の推定位置速度演算器」と呼ぶ。
推定位置速度演算器406Aは、位置推定用電流振幅の三相交流成分Iuhac,Ivhac,Iwhacに基づいて、第1の推定回転子位置θ^
1と、第1の推定速度ω^
1とを演算する。推定位置速度演算器406Aでは、実施の形態1と同様に、突極方式が用いられる。即ち、第1の推定速度ω^
1は、位置推定用電流から検出した回転子1aの突極性に基づいて演算される推定速度である。
推定位置速度演算器407Aは、位置推定用電流振幅の直流成分Ihdcに基づいて、第2の推定回転子位置θ^
2と、第2の推定速度ω^
2とを演算する。推定位置速度演算器407Aでは、実施の形態1と同様に、磁気飽和方式が用いられる。即ち、第2の推定速度ω^
2は、位置推定用電流振幅の直流成分Ihdcに基づいて演算される推定速度である。
推定位置速度演算器408Aは、三相座標上の回転電機駆動電流iuf,ivf,iwfと、回転子の突極性により生じる誘起電圧により演算される鎖交磁束と、に基づいて第3の推定回転子位置θ^
3と、第3の推定速度ω^
3とを演算する。推定位置速度演算器408Aでは、実施の形態1と同様に、誘起電圧及び鎖交磁束方式が用いられる。即ち、第3の推定速度ω^
3は、三相座標上の回転電機駆動電流iuf,ivf,iwfと、回転子1aの突極性により生じる誘起電圧により演算される鎖交磁束と、に基づいて演算される推定速度である。
推定位置切替器409Aには、τ*,τf
*,τ^
m,τ^
1,if
*,iff
*,ifが入力される。τ*は、前述したトルク指令値であり、ifは、駆動電流である。τf
*は、トルク指令値τ*に制御系の遅れを考慮したフィルタを通して得られる値である。τ^
mは、回転電機の数学モデルに基づき、駆動電流ifと回転電機パラメータとから演算される推定トルクである。τ^
1は、駆動電流ifを引数としたルックアップテーブルにより得られる推定トルクである。if
*は、回転電機駆動電流指令である。iff
*は、回転電機駆動電流指令if
*に制御系の遅れを考慮したフィルタを通して得られる値である。駆動電流ifでは、駆動電流ifの周波数が利用される。推定位置切替器409Aでは、これらの入力情報のうちの少なくとも1つが、磁気飽和情報として使用される。
図9は、図8に示す推定位置速度演算器406Aの細部の構成例を示す図である。推定位置速度演算器406Aは、図9に示すように、推定位置演算器406及び推定速度演算器4060を備える。図9に示す推定位置演算器406は、図3に示した推定位置演算器406と同等の構成部である。また、推定速度演算器4060は、推定位置演算器406が演算した第1の推定回転子位置θ^
1を擬似微分することにより第1の推定速度ω^
1を演算する。推定位置速度演算器406Aは、演算した第1の推定回転子位置θ^
1及び第1の推定速度ω^
1を出力する。なお、擬似微分は、入力値に微分演算とフィルタ処理とを施したものである。擬似微分の処理器は、微分器及びローパスフィルタにより実現することができる。
図10は、図8に示す推定位置速度演算器407Aの細部の構成例を示す図である。推定位置速度演算器407Aは、図10に示すように、ルックアップテーブル(Look Up Table:LUT)4070、LUT4071、減算器4072、除算器4073、比例積分器4074及び積分器4075を備える、2型の演算器として構成される。
LUT4070には、トルク指令値τ*と、そのトルク指令値τ*で駆動した際に得られる位置推定用電流振幅の直流成分IhdcであるIhdc
*とが記憶されている。推定位置速度演算器407Aは、LUT4070に記憶されたテーブル値Ihdc
*を参照する。
減算器4072は、位置推定用電流振幅の直流成分Ihdcとテーブル値Ihdc
*との偏差ΔIhを演算する。
LUT4071には、トルク指令値τ*から位置推定誤差Δθ2を換算するための係数KIhθ2が記憶されている。推定位置速度演算器407Aは、LUT4071に記憶された係数KIhθ2を参照する。
除算器4073は、偏差ΔIhをKIhθ2で除することにより位置推定誤差Δθ2を得る。比例積分器4074は、より位置推定誤差Δθ2に基づいて第2の推定速度ω^
2を演算する。積分器4075は、第2の推定速度ω^
2に基づいて第2の推定回転子位置θ^
2を演算する。
なお、図10は、第2の推定速度ω^
2を先に演算し、第2の推定速度ω^
2に基づいて第2の推定回転子位置θ^
2を演算する構成であるが、これに限定されない。これとは逆に、第2の推定回転子位置θ^
2を先に演算し、第2の推定回転子位置θ^
2を擬似微分することで第2の推定速度ω^
2を演算する構成であってもよい。
また、図10は、LUT4070及びLUT4071の引数はトルク指令値τ*とする例であるが、これに限定されない。トルク指令値τ*に代えて、回転電機駆動電流指令if
*をLUT4070及びLUT4071の引数としてもよい。
図11は、図8に示す推定位置速度演算器408Aの細部の構成例を示す図である。推定位置速度演算器408Aは、図11に示すように、位置推定誤差演算器4080及びPLL4081Aを備える。
図11に示す位置推定誤差演算器4080は、図6に示した位置推定誤差演算器4080と同等の構成部である。PLL4081Aは、位置推定誤差“-(θ^3-θ)”がゼロとなるように演算器が構成される。具体的に、PLL4081Aは、図10に示す推定位置速度演算器407Aと同様に、比例積分器4081Aaと、積分器4081Abとを備えた2型の演算器として構成される。
PLL4081Aにおいて、比例積分器4081Aaは、位置推定誤差“-(θ^
3-θ)”に基づいて第3の推定速度ω^
3を演算する。積分器4081Abは、第3の推定速度ω^
3に基づいて第3の推定回転子位置θ^
3を演算する。
なお、図11のPLL4081Aは、第3の推定速度ω^
3を先に演算し、第3の推定速度ω^
3に基づいて第3の推定回転子位置θ^
3を演算する構成であるが、これに限定されない。これとは逆に、第3の推定回転子位置θ^
3を先に演算し、第3の推定回転子位置θ^
3を擬似微分することで第3の推定速度ω^
3を演算するようにPLL4081Aが構成されていてもよい。
図12は、図8に示す推定位置切替器409Aの細部の構成例を示す図である。推定位置切替器409Aは、図12に示すように、推定速度選択器411A及び推定位置選択器410Aを備える。推定速度選択器411Aは、第1の推定速度ω^
1、第2の推定速度ω^
2及び第3の推定速度ω^
3のうちの何れか1つを選択し、選択した推定速度ω^を速度情報として推定位置選択器410Aに出力する。推定位置選択器410Aは、推定速度選択器411Aから出力される速度情報と、前述した磁気飽和情報とに基づいて、回転子位置の推定情報を選択又は切り替えて出力する。
推定位置選択器410Aにおいて、推定回転子位置θ^の選択又は切替に用いる速度情報は、第1の推定速度ω^
1、第2の推定速度ω^
2及び第3の推定速度ω^
3のうちの何れか1つである。即ち、推定速度選択器411Aは、第1の推定速度ω^
1、第2の推定速度ω^
2及び第3の推定速度ω^
3のうちの何れか1つの推定速度を選択して推定位置選択器410Aに出力する。
図13は、図8及び図12に示す推定位置切替器409Aにおける駆動領域の説明に供する図である。図13において、横軸は回転電機の回転速度であり、縦軸は回転電機のトルクである。回転速度は、速度情報の例示である。また、トルクは、前述した磁気飽和情報と相関がある情報である。
図13において、(1)は突極方式により駆動する駆動領域、(2)は磁気飽和方式により駆動する駆動領域、(3)は誘起電圧及び鎖交磁束方式により駆動する駆動領域である。また、図13における破線は、前述した回転子位置の各推定方式との境界線を意味し、境界判定の閾値となる。この境界線は、磁気飽和情報及び速度情報により規定される。即ち、領域の判定には磁気飽和情報と、速度情報とが用いられ、その領域に規定された回転子位置の推定方式が選択される。
具体的に説明すると、推定位置切替器409Aは、回転速度が閾値より小さく、且つ、トルクが閾値より小さい場合は、第1の推定回転子位置θ^
1を選択して出力する。また、推定位置切替器409Aは、回転速度が閾値より小さく、且つ、トルクが閾値より大きい場合は、第2の推定回転子位置θ^
2を選択して出力する。そして、推定位置切替器409Aは、回転速度が閾値より大きい場合は、第3の推定回転子位置θ^
3を選択して出力する。
なお、図13では、切り替えの境界線を直線で示したが、直線である必要はなく、曲線であってもよい。
以上のように、実施の形態2によれば、回転子の磁気飽和情報及び回転速度に基づいて、適切な回転子位置の推定方式を切り替えることができる。これにより、動作範囲のトルク速度領域において、所望する位置センサレス制御が可能となる。
実施の形態3.
実施の形態2では、推定位置切替器409Aにおいて、回転子1aの磁気飽和情報及び回転速度に基づいて、回転子位置の推定情報を選択又は切り替える実施の形態であった。一方、回転子位置の推定情報を選択又は切り替える際には、切り替えの前後において、推定情報が不連続に変化する可能性があり、切り替え時のショックが課題となる。そこで、実施の形態3では、切り替え時のショックを小さくできる実施の形態について説明する。
図14は、実施の形態3に係る回転電機の制御装置100Bの構成例を示す図である。図14に示す実施の形態3に係る制御装置100Bは、図7に示す実施の形態2に係る制御装置100Aの構成において、位置推定器4Aが位置推定器4Bに置換されている。その他の構成については、実施の形態2の構成と同一又は同等であり、同一又は同等の構成部には同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
図15は、図14に示す位置推定器4Bの細部の構成例を示す図である。図15に示す実施の形態3における位置推定器4Bは、図8に示す実施の形態2における位置推定器4Aの構成において、推定位置切替器409Aが、推定位置切替器409Bに置換されている。その他の構成については、図8の構成と同一又は同等であり、同一又は同等の構成部には同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
図16は、図15に示す推定位置切替器409Bの細部の構成例を示す図である。図16に示す実施の形態3における推定位置切替器409Bは、図12に示す実施の形態2における推定位置切替器409Aの構成において、推定位置選択器410Aが推定位置合成器410Bに置換されている。
推定位置切替器409Bにおいて、推定位置合成器410Bは、磁気飽和情報及び速度情報に基づいて、第1の推定回転子位置θ^
1、第2の推定回転子位置θ^
2及び第3の推定回転子位置θ^
3のうちの少なくとも2つの推定回転子位置を用いて合成した位置情報を推定回転子位置θ^として出力する。
推定位置切替器409Bにおいて、推定回転子位置の合成に用いる磁気飽和情報は、実施の形態2で用いる磁気飽和情報と同様である。また、推定回転子位置の切り替えに用いる速度情報は、実施の形態2で用いる速度情報と同様である。
推定位置合成器410Bは、磁気飽和情報と速度情報とに基づいて、第1の推定回転子位置θ^
1、第2の推定回転子位置θ^
2及び第3の推定回転子位置θ^
3を加重平均により合成する。図17は、図15及び図16に示す推定位置切替器409Bにおける駆動領域の説明に供する図である。図17において、横軸は回転電機の回転速度であり、縦軸は回転電機のトルクである。トルクは、実施の形態2と同様に、磁気飽和情報に相関する情報の例示である。
図17において、(1)は突極方式のみにより駆動する駆動領域、(2)は磁気飽和方式のみにより駆動する駆動領域、(3)は誘起電圧及び鎖交磁束方式のみにより駆動する駆動領域である。また、(1)(2)のように、複数の数字で表記される領域は、それらの数字に対応する推定方式を使用する駆動領域である。
例えば、(1)(2)は突極方式及び磁気飽和方式により駆動される駆動領域である。この駆動領域では、突極方式により推定された第1の推定回転子位置θ^
1と、磁気飽和方式により推定された第2の推定回転子位置θ^
2とによって、出力すべき推定回転子位置θ^が合成される。なお、駆動領域の境界は、図13と同様に破線で示している。また、図17では、図13と同様に、駆動領域の境界は直線で示されているが、直線である必要はなく、曲線であってもよい。
図17において、Wspdは速度情報に基づく重みであり、Wmsは磁気飽和情報に基づく重みである。重みWspd及び重みWmsは、それぞれが速度情報及び磁気飽和情報に応じて、0から1の範囲で値が変化する。具体的に、推定位置合成器410Bは、下記の(20)式及び(21)式を用いて、図17で定義された駆動領域において、推定回転子位置θ^を合成する。
上記(21)式におけるθ^
4は、「突極方式と磁気飽和方式との重みWmsによる加重平均値」である。以下、この加重平均値θ^
4を「第4の推定回転子位置」と呼ぶ。
また、上記(20)式におけるθ^
5は、「第4の推定回転子位置θ^
4と、誘起電圧及び鎖交磁束方式のみによる演算値である第3の推定回転子位置θ^
3との重みWspdによる加重平均値」である。以下、この加重平均により合成したものを「第5の推定回転子位置」と呼ぶ。
例えば、Wspd=1の場合、(20)式はθ^
5=θ^
3となり、第3の推定回転子位置θ^
3が、推定位置合成器410Bから出力される推定回転子位置θ^となる。また、Wspd=0の場合、(20)式はθ^
5=θ^
4となり、(21)式に従って、重みWmsの値に応じて重み付けされたθ^
4、即ち、突極方式と磁気飽和方式とによる加重平均値である第4の推定回転子位置θ^
4が、推定位置合成器410Bから出力される推定回転子位置θ^となる。また、0<Wspd<1の場合、重みWmsの値に応じて、突極方式と、磁気飽和方式と、誘起電圧及び鎖交磁束方式とのうちの少なくとも2つの方式の加重平均によって合成された第5の推定回転子位置θ^
5が推定位置合成器410Bから出力される。なお、(20)式と(21)式の演算の順序を入れ替えてもよい。また、(20)式に(21)式を代入した演算式を用いて第4の推定回転子位置を演算することなく第5の推定回転子位置を演算してもよい。更に、図17で定義された駆動領域において、定義された第1の推定回転子位置と第2の推定回転子位置と第3の推定回転子位置との組み合わせにより推定回転子位置θ^を合成する演算式であれば,推定回転子位置θ^の演算式は(20)式(21)式である必要は無い。
なお、図14の制御器5における位置推定用電圧演算部5b、及び図15の位置推定器4Bにおける推定位置速度演算器406A,407A,408Aは、常時動作させる必要はなく、図17で規定した駆動領域に応じて停止させてもよい。例えば、図17における数字に対応する推定方式の構成部のみを動作させ、記載されていない数字に対応する推定方式の構成部は動作を停止させることが可能である。また、図17における(3)の領域においては、位置推定用電圧演算部5bの動作を停止させ、その出力を0とすることができる。これにより、演算処理に伴う消費電力の低減が可能になる。
また、推定位置速度演算器406A,407A,408Aが動作を停止している状態から、動作を開始する際には、動作を開始する位置速度推定器の初期値として、動作を行っている他の位置速度推定器の推定回転子位置、推定速度、積分器出力又は推定位置合成器410Bの出力θ^、及び推定速度選択器411Aの出力ω^を与えることができることは言うまでもない。
以上のように、実施の形態3によれば、磁気飽和情報と速度情報とに基づいて、実施の形態2で得られた3つの回転子位置の推定情報を加重平均により合成して出力する。これにより、実施の形態2の効果に加え、回転子位置の推定情報を切り替える際のショックを低減することが可能となる。
実施の形態4.
実施の形態2及び実施の形態3では、回転子位置の推定方式を切り替える際に用いる磁気飽和情報として、回転電機1に対するトルク指令値τ*、トルク指令値τ*のフィルタ出力値τf
*、回転電機の数学モデルにより得られる推定トルクτ^
m、駆動電流ifを引数としたルックアップテーブルにより得られる推定トルクτ^
1、回転電機1に対する回転電機駆動電流指令if
*、回転電機駆動電流指令if
*のフィルタ出力値iff
*、及び駆動電流ifの周波数のうちの少なくとも1つを用いる。一方、制御器5の制御において、トルク制御誤差、電流制御誤差、位置推定誤差が生じた場合、実施の形態2及び実施の形態3で用いる磁気飽和情報では、磁気飽和の程度を正確に把握できないことが想定される。そこで、実施の形態4では、回転子位置の推定方式を切り替える際の磁気飽和情報として、前述した位置推定用電流振幅の直流成分Ihdcを使用する。なお、位置推定用電流振幅の直流成分Ihdcは、位置推定用電流振幅Iuh,Ivh,Iwhのうち、回転子位置によって変化しない成分である。即ち、実施の形態4は、回転子位置によって変化しない位置推定用電流振幅の直流成分Ihdcを磁気飽和情報として使用する実施の形態である。
図18は、実施の形態4に係る回転電機の制御装置100Cの構成例を示す図である。図18に示す実施の形態4に係る制御装置100Cは、図7に示す実施の形態2に係る制御装置100Aの構成において、位置推定器4Aが位置推定器4Cに置換されている。その他の構成については、実施の形態2の構成と同一又は同等であり、同一又は同等の構成部には同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
図19は、図18に示す位置推定器4Cの細部の構成例を示す図である。図18に示す実施の形態4における位置推定器4Cは、図8に示す実施の形態2における位置推定器4Aの構成において、推定位置切替器409Aが、推定位置切替器409Cに置換されている。また、図8に示す磁気飽和情報に代えて、直流成分抽出器405によって抽出される位置推定用電流振幅の直流成分Ihdcが磁気飽和情報として推定位置切替器409Cに入力される構成である。なお、その他の構成については、図8の構成と同一又は同等であり、同一又は同等の構成部には同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
図20は、図19に示す推定位置切替器409Cの細部の構成例を示す図である。図20に示す実施の形態4における推定位置切替器409Cは、図12に示す実施の形態2における推定位置切替器409Aの構成において、推定位置選択器410Aが推定位置合成器410Cに置換されている。また、図12に示す磁気飽和情報に代えて、位置推定用電流振幅の直流成分Ihdcが磁気飽和情報として推定位置合成器410Cに入力されている。
推定位置合成器410Cは、磁気飽和情報と速度情報とに基づいて、第1の推定回転子位置θ^
1、第2の推定回転子位置θ^
2及び第3の推定回転子位置θ^
3を加重平均により合成する。
図21は、図19及び図20に示す推定位置切替器409Cにおける駆動領域の説明に供する図である。図21において、横軸、縦軸及び駆動領域の定義は実施の形態2のものと同様である。回転電機の回転速度であり、縦軸は回転電機のトルクである。縦軸のトルクは、実施の形態2と同様に、位置推定用電流振幅の直流成分Ihdcに相関する情報の例示である。縦軸を区分するWms(Ihdc)は、位置推定用電流振幅の直流成分Ihdc及び速度情報、即ち磁気飽和情報及び速度情報により規定される重みである。なお、図21では、図13及び図17と同様に、駆動領域の境界は直線で示されているが、直線である必要はなく、曲線であってもよい。
図21に示すように、重みWspdは、速度情報に応じて、0から1の範囲で値が変化する。また、重みWms(Ihdc)は、磁気飽和情報及び速度情報に応じて、0から1の範囲で値が変化する。推定位置合成器410Cは、下記(22)式及び(23)式を用いて、図21で規定された駆動領域において、推定回転子位置θ^を合成する。
上記(23)式は、上記(21)式のWmsをWms(Ihdc)に置換したものである。従って、上記(23)式におけるθ^
4は、Wms(Ihdc)によって重み付けされる点を除き、「突極方式と磁気飽和方式との加重平均値」である「第4の推定回転子位置」を意味している。
また、上記(22)式は、上記(20)式と同一の式であり、重みWms(Ihdc)によって重み付けされた第4の推定回転子位置θ^
4と、誘起電圧及び鎖交磁束方式のみによる演算値である第3の推定回転子位置θ^
3との重みWspdによる加重平均値である第5の推定回転子位置θ^
5である。なお、(22)式と(23)式の演算の順序を入れ替えてもよい。また、(22)式に(23)式を代入した演算式を用いて第4の推定回転子位置を演算することなく第5の推定回転子位置を演算してもよい。更に、図17で定義された駆動領域において、定義された第1の推定回転子位置と第2の推定回転子位置と第3の推定回転子位置との組み合わせにより推定回転子位置θ^を合成する演算式であれば、推定回転子位置θ^の演算式は(22)式、(23)式である必要は無い。
なお、実施の形態4では、駆動領域の境界と、重みWms(Ihdc)とは、位置推定用電流振幅の直流成分Ihdcに基づいて規定しているが、これに限定されない。位置推定用電流振幅の直流成分Ihdcに加え、実施の形態2及び実施の形態3で用いた磁気飽和情報を併用して規定してもよい。
また、実施の形態4では、図21に示すように、加重平均により複数の推定方式を併用する駆動領域を規定しているが、これに限定されない。位置推定用電流振幅の直流成分Ihdc及び速度情報に基づいて、第1の推定回転子位置θ^
1、第2の推定回転子位置θ^
2及び第3の推定回転子位置θ^
3のうちの何れか1つが選択されるように、駆動領域を規定してもよい。
なお、位置推定用電流振幅の直流成分Ihdcは、各推定方式の処理を行う演算器の異常判定、及び、推定方式を切り替える際の可否判定にも利用できることは言うまでもない。なぜなら、推定位置速度演算器407Aは、推定原理上、図4に示すような、駆動電流ベクトルと、位置推定用電流振幅の直流成分Ihdcとの関係を事前に記憶しているためである。即ち、推定位置速度演算器407Aは、駆動条件に応じて得られる位置推定用電流振幅の直流成分Ihdcを把握しているので、記憶している直流成分Ihdcと実際の直流成分Ihdcとを比較することにより、異常判定が可能である。また、駆動電流ベクトルと直流成分Ihdcとの関係から、磁気飽和方式によって駆動可能な駆動領域であるか否かを把握できるので、実際の直流成分Ihdcを用いることにより、推定方式を切り替える際の可否判定が可能となる。
なお、図18の制御器5における位置推定用電圧演算部5b、及び図19の位置推定器4Cにおける推定位置速度演算器406A,407A,408Aは、常時動作させる必要はなく、図21で規定した駆動領域に応じて停止させてもよい。例えば、図21における数字に対応する推定方式の構成部のみを動作させ、記載されていない数字に対応する推定方式の構成部は動作を停止させることが可能である。また、図21における(3)の領域においては、位置推定用電圧演算部5bの動作を停止させ、その出力を0とすることができる。これにより、演算処理に伴う消費電力の低減が可能になる。
また、推定位置速度演算器406A,407A,408Aが動作を停止している状態から、動作を開始する際には、動作を開始する位置速度推定器の初期値として、動作を行っている他の位置速度推定器の推定回転子位置、推定速度、積分器出力又は推定位置合成器410Cの出力θ^、及び推定速度選択器411Aの出力ω^を与えることができることは言うまでもない。
以上のように、実施の形態4によれば、トルク制御誤差、電流制御誤差、位置推定誤差によらず磁気飽和の程度を正確に把握することができる。このため、実施の形態3の効果に加え、回転子位置の推定精度を高めることが可能になる。
実施の形態5.
実施の形態2から実施の形態4では、回転子位置の推定情報を切り替えるために用いる速度情報として、第1の推定速度ω^
1、第2の推定速度ω^
2及び第3の推定速度ω^
3のうちの何れか1つを用いる実施の形態であった。一方、第1の推定速度ω^
1、第2の推定速度ω^
2及び第3の推定速度ω^
3の推定精度は、駆動条件により異なる。例えば、第1の推定速度ω^
1は、低速域且つ磁気飽和の程度が小さい駆動領域では推定精度が高く、第2の推定速度ω^
2は、低速域且つ磁気飽和の程度が大きい駆動領域で推定精度が高く、第3の推定速度ω^
3は、高速域で推定精度が高いという特徴がある。実施の形態2から実施の形態4では、推定される速度情報と駆動領域との関係性については、特に触れていなかった。そこで、実施の形態5では、回転子位置の推定情報を切り替えるために用いる速度情報の精度を高める実施の形態について説明する。
図22は、実施の形態5に係る回転電機の制御装置100Dの構成例を示す図である。図22に示す実施の形態5に係る制御装置100Dは、図18に示す実施の形態4に係る制御装置100Cの構成において、位置推定器4Cが位置推定器4Dに置換されている。その他の構成については、実施の形態4の構成と同一又は同等であり、同一又は同等の構成部には同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
図23は、図22に示す位置推定器4Dの細部の構成例を示す図である。図23に示す実施の形態5における位置推定器4Dは、図19に示す実施の形態4における位置推定器4Cの構成において、推定位置切替器409Cが、推定位置切替器409Dに置換されている。その他の構成については、図8の構成と同一又は同等であり、同一又は同等の構成部には同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
図24は、図23に示す推定位置切替器409Dの細部の構成例を示す図である。図24に示す実施の形態5における推定位置切替器409Dは、図20に示す実施の形態4における推定位置切替器409Cの構成において、推定位置合成器410Cが推定位置合成器410Dに置換され、推定速度選択器411Aが推定速度合成器411Dに置換されている。また、位置推定用電流振幅の直流成分Ihdcが磁気飽和情報として推定位置合成器410Dに入力されると共に、推定速度合成器411Dの出力が自身にフィードバックされている。
推定速度合成器411Dは、磁気飽和情報及び速度情報に基づいて、第1の推定速度ω^
1、第2の推定速度ω^
2及び第3の推定速度ω^
3のうちの何れか1つを選択することで得られる速度情報、又は、少なくとも2つの推定速度を用いて、加重平均により合成した速度情報を推定速度ω^として出力する。推定速度ω^を選択もしくは合成するための速度情報としては、推定速度合成器411Dの出力、即ち自身の出力を利用する。なお、推定速度ω^に代えて、第1の推定速度ω^
1、第2の推定速度ω^
2及び第3の推定速度ω^
3のうちの何れか1つを用いてもよい。
また、実施の形態5における磁気飽和情報は、位置推定用電流振幅Iuh,Ivh,Iwhのうち、回転子位置によって変化しない位置推定用電流振幅の直流成分Ihdcとしているが、直流成分Ihdcに加え、もしくは直流成分Ihdcに代えて、実施の形態2及び実施の形態3で説明した磁気飽和情報を使用してもよい。従って、図24に示す推定位置合成器410Dは、図12に示す推定位置選択器410A、図16に示す推定位置合成器410B、及び図20に示す推定位置合成器410Cのうちの何れかに置換することができる。
次に、推定速度合成器411Dから出力される推定速度ω^の演算方法について、図21を参照して説明する。実施の形態5において、図21に示される数値は、各領域において演算される推定速度と見ることができる。例えば、図21において、(1)は第1の推定速度ω^
1を演算する領域、(2)は第2の推定速度ω^
2を演算する領域、(3)は第3の推定速度ω^
3を演算する領域である。また、(1)(2)のように複数の数字で表記される領域は、それらの数字に対応する複数の推定速度を、前述した磁気飽和情報及び速度情報に基づいて合成する領域である。
例えば、(1)(2)では、第1の推定速度ω^
1と、第2の推定速度ω^
2との加重平均が演算される。また、図中における破線は、何れの推定速度を用いるかを切り替える際の境界であり、この境界は、前述した磁気飽和情報及び速度情報により規定される。なお、この境界は直線で示されているが、直線である必要はなく、曲線であってもよい。
図21に示すように、重みWspdは、速度情報に応じて、0から1の範囲で値が変化する。また、重みWms(Ihdc)は、磁気飽和情報及び速度情報に応じて、0から1の範囲で値が変化する。推定速度合成器411Dは、下記(24)式及び(25)式を用いて、図21で規定された領域において、推定速度ω^を合成する。
上記(25)式におけるω^
4は、「突極方式と磁気飽和方式との重みWms(Ihdc)による加重平均値」である。以下、この加重平均値ω^
4を「第4の推定速度」と呼ぶ。
また、上記(24)式におけるω^
5は、「第4の推定速度ω^
4と、誘起電圧及び鎖交磁束方式のみによる演算値である第3の推定速度ω^
3との重みWspdによる加重平均」である。以下、この加重樹平均値により合成したものを「第5の推定速度」と呼ぶ。
例えば、Wspd=1の場合、(24)式はω^
5=ω^
3となり、「誘起電圧及び鎖交磁束方式のみによる演算値ω^
3」が、推定速度合成器411Dから出力される推定速度ω^となる。また、Wspd=0の場合、(24)式はω^
5=ω^
4となり、(25)式に従って、重みWms(Ihdc)の値に応じて重み付けされたω^
4、即ち「突極方式と磁気飽和方式とによる加重平均値ω^
4」が、推定速度合成器411Dから出力される推定速度ω^となる。また、0<Wspd<1の場合、重みWms(Ihdc)の値に応じて、突極方式と、磁気飽和方式と、誘起電圧及び鎖交磁束方式とのうちの少なくとも2つの方式の加重平均によって合成された推定速度ω^が推定速度合成器411Dから出力される。
また、実施の形態5では、図21に示すように、推定速度を加重平均により合成する領域を規定しているが、これに限定されない。位置推定用電流振幅の直流成分Ihdc及び速度情報に基づいて、第1の推定速度ω^
1、第2の推定速度ω^
2及び第3の推定速度ω^
3のうちの何れか1つが選択されるように、領域を規定してもよい。なお、(24)式と(25)式の演算の順序を入れ替えてもよい。また、(24)式に(25)式を代入した演算式を用いて第4の推定速度を演算することなく第5の推定速度を演算してもよい。更に、図21で定義された駆動領域において、定義された第1の推定速度と第2の推定速度と第3の推定速度との組み合わせにより推定速度ω^を合成する演算式であれば、推定速度ω^の演算式は(24)式、(25)式である必要は無い。
以上のように、実施の形態5によれば、推定位置切替時において、推定速度の急峻な変化を防止し、更に速度情報を正確に把握することができる。加えて、トルク制御誤差、電流制御誤差、位置推定誤差によらず磁気飽和の程度を正確に把握することができる。このため、実施の形態4よりも、回転子位置の推定精度を高めることが可能になる。
次に、実施の形態1から実施の形態5に係る制御装置100,100A,100B,100C,100Dが備える各機能もしくはその一部を実現するためのハードウェアの構成について説明する。ここで言う各機能とは、電流検出器2、電圧印加器3、位置推定器4,4A,4B,4C,4D及び制御器5が有する機能である。
図25は、実施の形態1から実施の形態5に係る回転電機の制御装置の各機能もしくはその一部を実現するための第1のハードウェア構成例を示す図である。図26は、実施の形態1から実施の形態5に係る回転電機の制御装置の各機能もしくはその一部を実現するための第2のハードウェア構成例を示す図である。図25には、専用処理回路1000のような専用のハードウェアにより上記の処理回路を実現する例が示される。図26にはプロセッサ1001及び記憶装置1002により上記の処理回路を実現する例が示される。
図25に示す例では、図1、図7、図14、図18及び図22の電流検出器2、並びに電圧印加器3は、専用のハードウェアを用いてその機能が実現され、位置推定器4,4A,4B,4C,4D、及び制御器5は、専用処理回路1000により実現される。図25に示すように専用の処理回路を利用する場合、専用処理回路1000は、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC、FPGA、又はこれらを組み合わせたものが該当する。上記の各機能のそれぞれを、処理回路で実現してもよいし、まとめて処理回路で実現してもよい。
図26に示す例では、図1、図7、図14、図18及び図22の電流検出器2、並びに電圧印加器3は、専用のハードウェアを用いてその機能が実現され、位置推定器4,4A,4B,4C,4D、及び制御器5は、記憶装置1002に記録されたプログラムを実行するプロセッサ1001により実現される。なお、複数のプロセッサ1001と複数の記憶装置1002とが連携して、上述した各機能を実現してもよい。
図26に示すように、プロセッサ1001及び記憶装置1002を利用する場合、上述した各機能は、ソフトウェア、ファームウェア又はこれらの組合せにより実現される。ソフトウェア又はファームウェアはプログラムとして記述され、記憶装置1002に記憶される。プロセッサ1001は、記憶装置1002に記憶されたプログラムを読み出して実行する。また、これらのプログラムは、各機能が実行される手順及び方法をコンピュータに実行させるものであるとも言える。
記憶装置1002は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリー、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、又はEEPROM(登録商標)(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)といった半導体メモリが該当する。半導体メモリは不揮発性メモリでもよいし、揮発性メモリでもよい。また、記憶装置1002は、半導体メモリ以外にも、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク又はDVD(Digital Versatile Disc)が該当する。
なお、実施の形態1から実施の形態5では、回転電機1を同期リラクタンスモータとして説明したが、これに限定されない。実施の形態1から実施の形態5に係る制御装置100,100A,100B,100C,100Dは、埋込磁石型同期モータ又は表面磁石型同期モータといった突極性を持つモータにも適応可能である。
また、実施の形態1から実施の形態5では、位置推定用電流振幅の直流成分から回転子位置を推定しているが、位置推定の高精度化又は低騒音化のために位置推定用電圧指令の大きさを可変にする場合がある。この場合において、位置推定用電流振幅の直流成分の代わりに、上記の直流成分と位置推定用電圧指令との比、例えばインダクタンスの直流成分などを利用できることは自明のことである。
また、実施の形態1から実施の形態5では、制御装置100,100A,100B,100C,100Dの制御器5がトルクを制御するものとして説明したが、これに限定されない。制御器5は、回転速度を制御する構成とすることもできる。
また、実施の形態1から実施の形態5では、トルクに対する回転電機1の電流指令が電流実効値、即ち銅損が最小になるように選択されているが、これに限定されない。制御装置100,100A,100B,100C,100Dにおいて、鎖交磁束又は回転電機1の損失が最小になるように設定してよい。
また、実施の形態1から実施の形態5では、電流検出器2が回転電機1の相電流を検出する構成例を説明したが、これに限定されない。制御装置100,100A,100B,100C,100Dは、相電流を検出することができればよく、電圧印加器3を構成する図示しないインバータに内蔵された電流センサにより、回転電機1の相電流を検出する構成としてもよい。
なお、以上の実施の形態に示した構成は、本発明の内容の一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。