以下に、実施の形態にかかる回転機制御装置を図面に基づいて詳細に説明する。
実施の形態1.
図1は、実施の形態1にかかる回転機制御装置20の構成例を示す図である。回転機制御装置20は、交流回転機である同期機21を制御する。同期機21は、突極性を有する回転子と固定子巻線を有する固定子とを備える。同期機21の構成の詳細については図示を省略する。
実施の形態1では、一次磁束ベクトルの位相に制御位相を同期させる場合について説明する。すなわち、回転機制御装置20は、一次磁束ベクトルを基準とするベクトル制御を行う。本明細書において、一次磁束とは、固定子が発生させる磁束である固定子磁束を表す。以下の説明において、固定座標系における二軸をα軸およびβ軸、回転座標系における二軸をd軸およびq軸と称する。d軸は、回転子位置の基準である。
図2は、実施の形態1における回転座標系の各軸の関係を説明するための図である。一次磁束ベクトルφsの位相を用いて、一次磁束ベクトルφsの方向を基準のd軸とする回転座標系への座標変換を行った場合におけるd軸およびq軸を、それぞれds軸、qs軸と表す。ds軸は、一次磁束ベクトルφsの方向の軸である。qs軸は、一次磁束ベクトルφsに直交する方向の軸である。
突極性による磁束ベクトルの方向を基準のd軸とする回転座標系への座標変換を行った場合におけるd軸およびq軸を、それぞれdr軸、qr軸と表す。dr軸は、突極性による磁束ベクトルの方向の軸である。dr軸には、インダクタンスが最大となる方向とインダクタンスが最小となる方向とのいずれか一方を選択することができる。qr軸は、突極性による磁束ベクトルに直交する方向の軸である。
界磁による磁束ベクトルの方向を基準のd軸とする回転座標系への座標変換を行った場合におけるd軸およびq軸を、それぞれdmr軸、qmr軸と表す。dmr軸は、界磁による磁束ベクトルの方向の軸である。インダクタンスが最小となる方向をdr軸とし、かつ、磁気飽和が小さい場合には、dmr軸は、dr軸と一致する。qmr軸は、界磁による磁束ベクトルに直交する方向の軸である。
ここでは、回転機制御装置20の制御対象として、界磁を持つ回転子を有する同期機21を想定しているが、回転機制御装置20の制御対象は、界磁を持たない回転子を有する同期機21、例えばリラクタンス型同期機であっても良い。界磁を持たない回転子を有する同期機21では、磁気飽和が小さい場合のdr軸がdmr軸である。また、dmr軸は、dr軸に合わせて、インダクタンスが最大となる方向の軸とインダクタンスが最小となる方向の軸とのいずれか一方となる。本明細書において、回転子が界磁を持つ場合についての説明は、回転子が界磁を持たない場合にも適用可能であるものとする。なお、Δθs_compについては後述する。
図1に示す回転機制御装置20は、電圧指令値vus
*,vvs
*,vws
*を出力する電圧指令器10と、同期機21へ電力を供給する電力変換器11と、同期機21に流れる交番電流を検出して電流検出値ius,ivs,iwsを出力する電流検出器12とを有する。電圧指令値vus
*,vvs
*,vws
*は、同期機21を駆動するための固定子電圧の指令値である。電圧指令器10は、電流検出値ius,ivs,iwsに基づいて、電圧指令値vus
*,vvs
*,vws
*を求める。電力変換器11は、基本波交番電圧に高周波交番電圧を重畳させた交番電圧を固定子巻線に印加する電圧印加器として機能する。
電圧指令器10は、電圧指令値vus
*,vvs
*,vws
*を生成する制御器1と、位相および角周波数を推定する推定器2とを有する。推定器2は、位相推定値θ^rと角周波数推定値ω^rとを求める。位相推定値θ^rは、dr軸の位相の推定値である。位相推定値θ^rは、突極位相の推定値である。以下、突極位相の推定値を、突極位相推定値と称する。角周波数推定値ω^rは、dr軸における角周波数の推定値であって、突極性による磁束ベクトルの角周波数の推定値である。「^」が付された変数は、推定値を表す。推定器2から出力された位相推定値θ^rと、推定器2から出力された角周波数推定値ω^rとは、制御器1へ入力される。
図3は、実施の形態1にかかる回転機制御装置20が有する制御器1の構成例を示す図である。制御器1は、三相dq変換器31と、dq三相変換器32a,32bと、電流制御器33と、速度制御器34と、高周波電圧指令器35と、ベクトル制御量演算器36とを有する。
三相dq変換器31には、電流検出値ius,ivs,iwsと位相推定値θ^sとが入力される。位相推定値θ^sは、ds軸の位相の推定値、すなわち一次磁束ベクトルの位相の推定値であって、制御位相の推定値である。以下、制御位相の推定値を、制御位相推定値と称する。三相dq変換器31は、位相推定値θ^sを用いた座標変換によって、三相の電流検出値ius,ivs,iwsをds軸上の電流検出値idsおよびqs軸上の電流検出値iqsへ変換する。三相dq変換器31は、電流検出値ids,iqsを出力する。
電流制御器33には、電流検出値ids,iqsと電流指令値ids
*,iqs
*とが入力される。電流指令値ids
*,iqs
*は、同期機21の駆動に必要なトルクを出力するための固定子電流の指令値である。電流指令値ids
*は、ds軸上の電流指令値である。電流指令値iqs
*は、qs軸上の電流指令値である。電流制御器33は、電流検出値idsが電流指令値ids
*に一致し、かつ電流検出値iqsが電流指令値iqs
*に一致するような電圧指令値vds
*,vqs
*を求める。電圧指令値vds
*,vqs
*は、基本波交番電圧の指令値である。電圧指令値vds
*は、ds軸上の電圧指令値である。電圧指令値vqs
*は、qs軸上の電圧指令値である。電流制御器33は、電圧指令値vds
*,vqs
*を出力する。すなわち、電流制御器33は、電流検出値ids,iqsが電流指令値ids
*,iqs
*に一致するように電圧指令値vds
*,vqs
*を調整する。
高周波電圧指令器35によって指令された高周波交番電圧が同期機21に印加されることによって、電流検出値ids,iqsには、角周波数の高周波交番成分が含まれる。ベクトル制御は、電流検出値ids,iqsのうち基本波交番成分、すなわちdq軸への座標変換後の直流成分を制御するものである。このため、制御器1は、角周波数ωhと同じ周波数成分を電流検出値ids,iqsから除去する構成を取っても良い。角周波数ωhと同じ周波数成分の除去には、例えば、後述する式(9)により表されるノッチフィルタを用いることができる。
dq三相変換器32aには、電圧指令値vds
*,vqs
*と位相推定値θ^sとが入力される。dq三相変換器32aは、位相推定値θ^sを用いた座標変換によって、電圧指令値vds
*,vqs
*を三相の電圧指令値vusn
*,vvsn
*,vwsn
*へ変換する。dq三相変換器32aは、電圧指令値vusn
*,vvsn
*,vwsn
*を出力する。
速度制御器34には、速度指令値である角周波数指令値ω*と速度推定値である角周波数推定値ω^rとが入力される。速度制御器34は、角周波数推定値ω^rが角周波数指令値ω*に一致するような電流指令値iqs
*を求める。速度制御器34は、電流指令値iqs
*を出力する。すなわち、速度制御器34は、角周波数推定値ω^rが角周波数指令値ω*に一致するように電流指令値iqs
*を調整する。
ここでは、同期機21の速度を制御する要素である速度制御器34を有する構成例を示したが、回転機制御装置20は、速度制御器34を有するものに限られない。回転機制御装置20は、同期機21の速度によらず同期機21のトルクを制御する構成を取っても良い。当該構成としては、例えば、速度制御器34を有さずに、電流指令値iqs
*を電流制御器33に直接入力することで、同期機21の速度によらず電流指令値iqs
*に応じたトルクを同期機21に出力させるよう同期機21のトルク制御を行う構成などが挙げられる。
高周波電圧指令器35は、高周波交番電圧の任意に設定された振幅vhと、高周波交番電圧の任意に設定された角周波数ωhとに基づいて、電圧指令値vdrh
*,vqrh
*を求める。電圧指令値vdrh
*,vqrh
*は、高周波交番電圧の指令値である。電圧指令値vdrh
*は、dr軸上の電圧指令値である。電圧指令値vqrh
*は、qr軸上の電圧指令値である。高周波電圧指令器35は、電圧指令値vdrh
*,vqrh
*を出力する。実施の形態1では、電圧指令値vdrh
*,vqrh
*は、それぞれvdrh
*=vhsin(ωh・t),vqrh
*=0を満たす。すなわち、回転機制御装置20は、dr軸方向およびqr軸方向のうちdr軸方向にのみ高周波交番電圧を印加する。tは時間を表す。
dq三相変換器32bには、電圧指令値vdrh
*,vqrh
*と位相推定値θ^rとが入力される。dq三相変換器32bは、位相推定値θ^rを用いた座標変換によって、電圧指令値vdrh
*,vqrh
*を三相の電圧指令値vurh
*,vvrh
*,vwrh
*へ変換する。dq三相変換器32bは、電圧指令値vurh
*,vvrh
*,vwrh
*を出力する。回転機制御装置20は、電圧指令値vusn
*,vvsn
*,vwsn
*に電圧指令値vurh
*,vvrh
*,vwrh
*を足し合わせた結果である電圧指令値vus
*,vvs
*,vws
*を出力する。
ベクトル制御量演算器36は、任意の制御位相を基準とするベクトル制御を行うために、同期機21の出力トルクに応じてその制御方式において必要となる励磁電流指令と制御位相とを求める機能を有する。ベクトル制御量演算器36は、励磁電流の指令値を生成する励磁電流指令器301と、制御位相を求める制御位相演算器302とを有する。励磁電流は、一次磁束を発生させる電流であって、ds軸上の電流である。
励磁電流指令器301には、磁束指令値|φs
*|と電流指令値iqs
*とが入力される。磁束指令値|φs
*|は、一次磁束ベクトルφsの振幅|φs|の指令値であって、あらかじめ設定される。励磁電流指令器301は、一次磁束ベクトルφsの振幅|φs|の値を保つために必要な磁束指令値|φs
*|、電流指令値iqs
*および電流指令値ids
*を対応付けたテーブルである第1のテーブルを有する。
励磁電流指令器301は、第1のテーブルを参照することによって、入力された磁束指令値|φs
*|と入力された電流指令値iqs
*とに対応する電流指令値ids
*を算出する。すなわち、励磁電流指令器301は、入力された磁束指令値|φs
*|と入力された電流指令値iqs
*に従って一次磁束ベクトルφsの振幅|φs|の値を保つように電流指令値ids
*を調整する。励磁電流指令器301は、電流指令値ids
*を出力する。
制御位相演算器302には、位相推定値θ^rと、磁束指令値|φs
*|と、電流指令値iqs
*とが入力される。制御位相演算器302は、位相推定値θ^rを制御位相へ補正するための補正量であるΔθs_compを求め、位相推定値θ^rとΔθs_compとに基づいて、制御位相推定値である位相推定値θ^sを求める演算を行う。
Δθs_compは、位相推定値θ^rを位相推定値θ^sへ補正するための補正量であって、同期機21の出力トルクに応じて必要となる補正量である。図2に示すように、Δθs_compは、突極性による磁束ベクトルの方向の軸であるdr軸と、一次磁束ベクトルの方向の軸であるds軸との間の角度を表す。
制御位相演算器302は、磁束指令値|φs
*|と、電流指令値iqs
*と、Δθs_compとを対応付けたテーブルである第2のテーブルを有する。制御位相演算器302は、第2のテーブルを参照することによって、入力された磁束指令値|φs
*|と入力された電流指令値iqs
*とに対応するΔθs_compを算出する。すなわち、制御位相演算器302は、入力された磁束指令値|φs
*|と入力された電流指令値iqs
*とに従って、Δθs_compを調整する。
制御位相演算器302は、次の式(1)に示すように、位相推定値θ^rにΔθs_compを足し合わせる補正を行うことによって、制御位相推定値である位相推定値θ^sを算出する。制御位相演算器302は、位相推定値θ^sを出力する。
ここでは、一次磁束ベクトルを基準とするベクトル制御が行われることから、制御位相演算器302が、Δθs_compの算出において磁束指令値|φs
*|を用いる例を説明した。第2のテーブルは、磁束指令値|φs
*|と、電流指令値iqs
*と、Δθs_compとを対応付けたテーブルに限られず、電流指令値ids
*と、電流指令値iqs
*と、Δθs_compとを対応付けたテーブルであっても良い。この場合、制御位相演算器302は、第2のテーブルを参照することによって、入力された電流指令値ids
*と入力された電流指令値iqs
*とに対応するΔθs_compを算出する。
図4は、実施の形態1にかかる回転機制御装置20が有する推定器2の構成例を示す図である。推定器2は、高周波交番電圧に基づいてdr軸の位相の推定値である位相推定値θ^rを求める。
ここで、高周波交番電圧に基づいてdr軸の位相を推定する方法について説明する。以下では、便宜上、dr軸はdmr軸に一致するものとみなし、演算にはLd,Lqの各パラメータが用いられる。Ldは、dmr軸成分のインダクタンスを表す。Lqは、qmr軸成分のインダクタンスを表す。Ld,Lqの詳細なデータは、あらかじめ行われる解析または計測によって取得される。
図5は、実施の形態1にかかる回転機制御装置20の推定器2によって推定されるdr軸と実際のdr軸との関係について説明するための図である。d^r軸は、推定器2において推定されたdr軸とする。q^r軸は、d^r軸に直交する軸である。d^r軸は、定常的にはdr軸と一致する。ただし、瞬時的に、dr軸の位相とd^r軸の位相との差分であるΔθが生じる。Δθは、瞬時的に生じる誤差ともいえる。
同期機21に高周波交番電圧vdrh,vqrhを印加した場合における電圧方程式は、次の式(2)により表される。vdrhは、dr軸上の高周波交番電圧である。vqrhは、qr軸上の高周波交番電圧である。Rsは一次相抵抗、ωrはdr軸の方向における角周波数、φrは回転子の界磁がなす鎖交磁束ベクトルの振幅を表す。pは微分演算子である。
ここでは、回転子に界磁を持つ同期機21を想定して、鎖交磁束ベクトルの振幅を示すφrが式(2)に使用されている。同期機21が、回転子に界磁を持たないリラクタンス型同期機である場合も、φr=0とすることにより、回転子に界磁を持つ場合と同様の理論が成り立つ。
高周波交番電圧に基づいてdr軸の位相を推定する際には、停止に近い低速域で同期機21を回転させることから、ωr≒0と仮定する。この場合、式(2)から、次の式(3)が成り立つ。
式(3)の右辺第二項は、高周波交番電流の微分を含む。高周波交番電流の微分は、高周波交番電圧の角周波数倍、すなわちωh倍されることから、右辺第二項は、右辺第一項に比べて非常に大きな値となる。よって、式(3)における右辺第一項を無視することで、次の式(4)が得られる。
vdrh=vdrh
*=vhsin(ωh・t)、およびvqrh=vqrh
*=0である高周波交番電圧を同期機21に印加するものとして、式(4)から、次の式(5)が成り立つ。
式(5)の両辺を積分することによって、高周波交番電流idrh,iqrhは、次の式(6)により表される。
式(6)から、高周波交番電流iqrhの振幅|iqrh|を表す次の式(7)を得ることができる。
Δθは、瞬時的に生じることから微小値とする。この場合、sinΔθ≒Δθとみなせる。式(7)から、Δθを表す次の式(8)を得ることができる。なお、Kについては後述する。
式(8)によると、振幅|iqrh|が「0」であるとき、Δθも「0」となる。このことから、振幅|iqrh|の信号を誤差Δθと等価な信号とみなし、振幅|iqrh|を「0」に収束させるようなPLL(Phase Locked Loop)構成を推定器2に設けることによって、d^r軸の位相をdr軸の位相に一致させることが可能となる。
以上を踏まえて、図4に示す推定器2の構成および動作を説明する。推定器2は、三相dq変換器41と、電流フィルタリング器42と、高周波電流振幅演算器43と、高周波位相速度演算器44と、を有する。
三相dq変換器41には、電流検出値ius,ivs,iwsと位相推定値θ^rとが入力される。三相dq変換器41は、位相推定値θ^rを用いて三相の電流検出値ius,ivs,iwsの座標変換を行う。三相dq変換器41は、座標変換によって得られたqr軸上の電流検出値iqrを出力する。
電流フィルタリング器42には、電流検出値iqrが入力される。電流フィルタリング器42は、電流検出値iqrから、高周波交番電圧の角周波数ωhと同じ周波数成分である高周波成分を抽出することによって、qr軸上の高周波交番電流iqrhの値を求める。
高周波成分の抽出には、バンドパスフィルタといった、任意のフィルタリング手段を用いることができる。図4に示すノッチ(Notch)フィルタは、フィルタリング手段の一例である。ノッチフィルタは、角周波数ωhと同じ周波数成分を電流検出値iqrから除去する。電流フィルタリング器42は、電流検出値iqrのフィルタリングを行うノッチフィルタを有する。電流フィルタリング器42は、ノッチフィルタによるフィルタリング後の電流を示す電流フィルタ値iqrnを電流検出値iqrから差し引くことによって、高周波交番電流iqrhの値を求める。電流フィルタリング器42は、高周波交番電流iqrhの値を出力する。
ノッチフィルタの伝達関数H(s)は、次の式(9)により表される。sはラプラス演算子である。qxはノッチフィルタの深さを表す。
高周波電流振幅演算器43には、高周波交番電流iqrhの値が入力される。高周波電流振幅演算器43は、高周波交番電流iqrhの値から、高周波交番電流iqrhの振幅|iqrh|の値を求める。高周波電流振幅演算器43は、振幅|iqrh|の値を出力する。振幅|iqrh|の値の算出には、任意の演算方法を用いることができる。例えば、高周波電流振幅演算器43は、次の式(10)に示されるような、自己相関による演算を用いて、振幅|iqrh|の値を算出する。なお、Tは、高周波交番電流iqrhの周期である。
高周波位相速度演算器44には、振幅|iqrh|の値と、振幅|iqrh|の目標値|iqrh
*|とが入力される。高周波位相速度演算器44は、振幅|iqrh|の値を目標値|iqrh
*|に収束させることによりdr軸の位相を推定するPLLである。実施の形態1において、目標値|iqrh
*|は「0」である。すなわち、高周波位相速度演算器44は、振幅|iqrh|の値を「0」に収束させる演算を行う。実施の形態1では、PLLとして、比例積分(Proportional Integral:PI)制御器を用いる。
高周波位相速度演算器44は、次の式(11)に示す演算によって、角周波数推定値ω^rと位相推定値θ^rとを求める。高周波位相速度演算器44は、角周波数推定値ω^rと位相推定値θ^rとを出力する。
Kpは、比例制御における比例ゲインである。Kiは、積分制御における積分ゲインである。Kは、式(8)に示される値である。Kには、Ld,Lqの各パラメータが含まれる。式(11)によると、Kは、Kpの一部とみなすことができる。このため、Ld,Lqのデータに誤差が含まれていたとしても、位相推定値θ^rを得るまでのPI制御の応答に変化が生じるだけとなる。高周波位相速度演算器44は、PLLの応答特性に余裕を持たせることで、Ld,Lqのデータの誤差を吸収することができる。したがって、実施の形態1では、Ld,Lqについて必ずしも詳細なデータを必要とするものではない。なお、角周波数推定値ω^rと位相推定値θ^rとを求める方法は、実施の形態1で説明する方法に限られず、任意であるものとする。
回転機制御装置20は、上記の構成によって、Ld,Lqといったパラメータのデータによらず、高周波交番電圧の重畳中に位相推定値θ^rを位相推定値θ^sへ補正することで、位相推定値θ^sを得ることができる。これにより、回転機制御装置20は、一次磁束ベクトルの位相に制御位相を同期させるベクトル制御を行うことができる。
ベクトル制御量演算器36の構成は、制御位相の設定に従って、適宜変更可能であるものとする。すなわち、ベクトル制御量演算器36の設定は、回転機制御装置20によって実現されるベクトル制御の種類に合わせた設定とすることができる。ベクトル制御量演算器36に入力される信号は、ベクトル制御量演算器36において設定されるテーブルのデータに合わせた信号とすることができる。
一次磁束ベクトルの位相に制御位相を同期させるベクトル制御を行う場合の例を説明してきたが、回転機制御装置20は、一次磁束ベクトルの位相以外の位相に制御位相を同期させるベクトル制御を行うこととしても良い。例えば、回転機制御装置20は、最大トルク制御時の電流ベクトルに制御位相を同期させるベクトル制御を行うこととしても良い。ここで、回転機制御装置20が、最大トルク制御時の電流ベクトルに制御位相を同期させるベクトル制御を行う場合について説明する。最大トルク制御時の電流ベクトルに制御位相を同期させるベクトル制御については、「比田一、富樫仁夫、岸本圭司、最大トルク制御軸に基づく永久磁石同期モータの位置センサレスベクトル制御、電気学会論文誌D、Vol.127、No.12、pp.1190-1196、2007」に説明されている。以下、同文献を非特許文献1と称する。
最大トルク制御時の電流ベクトルに制御位相を同期させるベクトル制御を行う場合は、励磁電流指令器301による電流指令値ids
*の出力は「0」に設定される。また、非特許文献1の図1に示されるΔθmに相当する値が、電流指令値ids
*および電流指令値iqs
*とともにあらかじめ取得され、これらの各値を対応付けた第2のテーブルが制御位相演算器302に設定される。上述するように、電流指令値ids
*は「0」である。Δθmは、推定軸と最大トルク制御軸との軸誤差である。推定軸は、回転する座標軸であって、非特許文献1に示されるγ-δ座標軸である。最大トルク制御軸は、最大トルク制御時の電流ベクトルと一致する軸と最大トルク制御時の電流ベクトルの直交方向と一致する軸との二軸であって、非特許文献1に示されるdm-qm座標軸である。このように、制御位相が最大トルク制御時の電流ベクトルに同期する場合、制御位相演算器302は、電流指令値ids
*,iqs
*に基づいて、補正量であるΔθmを算出する。具体的には、制御位相演算器302は、電流指令値ids
*,iqs
*とΔθmとを互いに対応付けて保持するテーブルである第2のテーブルを参照することによってΔθmを算出する。
実施の形態1によると、回転機制御装置20は、突極位相推定値である位相推定値θ^rを制御位相推定値である位相推定値θ^sへ補正するための補正量であるΔθs_compを求め、位相推定値θ^rとΔθs_compとに基づいて位相推定値θ^sを求める演算を行う。これにより、回転機制御装置20は、停止に近い低速域において高周波交番電圧の重畳中から、突極位相以外の任意の制御位相を選択したベクトル制御が可能となるという効果を奏する。さらに、低速域と高速域との間における速度変化の途中における制御手法の切換が不要となるため、2つの制御系の各々に合わせた制御パラメータを用意する必要が無くなる。これにより、回転機制御装置20は、処理の低減が可能となる。また、回転機制御装置20は、2つの制御系の各々に合わせた制御パラメータの調整が不要となるため、調整工数の低減も可能となる。
実施の形態2.
実施の形態2では、実施の形態1における補正量であるΔθs_compを計測する方法の一例を説明する。実施の形態2では、回転子位置を検出するための高周波交番電圧の重畳を必要としない任意の位相を制御位相とするベクトル制御が行われ、同期機21を低速域にまで減速させたときに、高周波交番電圧の重畳により位相推定値θ^s,θ^rおよび電流指令値ids
*が計測される。実施の形態2では、一次磁束ベクトルφsの位相に制御位相を同期させる。
図6は、実施の形態2においてΔθs_compの計測に用いられる回転機制御装置20が有する制御器1Aの構成例を示す図である。Δθs_compの計測に用いられる回転機制御装置20のうち制御器1A以外の構成は、実施の形態1にかかる回転機制御装置20と同様である。実施の形態2では、上記の実施の形態1と同一の構成要素には同一の符号を付し、実施の形態1とは異なる構成について主に説明する。
制御器1Aは、図1に示すベクトル制御量演算器36とは異なる構成のベクトル制御量演算器36Aを有する。ベクトル制御量演算器36Aは、励磁電流指令器301Aと、一次磁束演算器303と、データ取得器304とを有する。ベクトル制御量演算器36Aは、高速域においてテーブルの参照によらずに任意の制御位相によるベクトル制御を行うための励磁電流指令と制御位相とを算出する機能を有する。
実施の形態2において、速度制御器34には、速度推定値として、一次磁束演算器303が出力する角周波数推定値ω^sが入力される。ここでは、実施の形態1と同様に、同期機21の速度を制御する要素である速度制御器34を有する構成例を示しているが、回転機制御装置20は、速度制御器34を有するものに限られない。回転機制御装置20は、同期機21の速度によらず同期機21のトルクを制御する構成を取っても良い。当該構成としては、例えば、速度制御器34を有さずに、電流指令値iqs
*を電流制御器33に直接入力することで、同期機21の速度によらず電流指令値iqs
*に応じたトルクを同期機21に出力させるよう同期機21のトルク制御を行う構成などが挙げられる。
同期機21の一次電圧vds,vqsは、次の式(12)により表される。一次電圧vdsは、ds軸上の一次電圧である。一次電圧vqsは、qs軸上の一次電圧である。式(12)において、φdsはds軸上の一次磁束、φqsはqs軸上の一次磁束、idsはds軸上の一次電流、iqsはqs軸上の一次電流である。
制御位相が一次磁束ベクトルφsの位相に同期している場合は、φqs=0である。このため、一次磁束ベクトルφsの振幅|φs|は、ds軸上の一次磁束φdsに等しい。一次磁束ベクトルφsの振幅|φs|は、次の式(13)により表される。
一次磁束ベクトルφsの角周波数ωsは、次の式(14)により表される。
一次磁束ベクトルφsの位相θsは、次の式(15)により表される。
図7は、図6に示す制御器1Aが有する一次磁束演算器303の構成例を示す図である。一次磁束演算器303には、電圧指令値vds
*,vqs
*と電流検出値ids,iqsとが入力される。一次磁束演算器303は、図7に示す構成によって式(13)-(15)に示される演算を行い、振幅|φs|の推定値である磁束推定値|φ^s|と、角周波数ωsの推定値である角周波数推定値ω^sと、位相θsの推定値である位相推定値θ^sとを算出する。一次磁束演算器303は、磁束推定値|φ^s|、角周波数推定値ω^sおよび位相推定値θ^sを出力する。
一次磁束演算器303は、低速域での同期機21の駆動に鑑みて、カットオフ角周波数ωc[rad/s]を持つハイパスフィルタが組み合わされた一次遅れフィルタを、式(13)の積分演算に用いても良い。カットオフ角周波数ωcの値は、0よりも大きい。一次磁束演算器303は、一次遅れフィルタを用いることによって、カットオフ角周波数ωcよりも低い帯域のノイズが積分されることを防止できる。これにより、回転機制御装置20は、低速域での同期機21の駆動の安定性を向上させることができる。
励磁電流指令器301Aには、磁束推定値|φ^s|と、あらかじめ設定された磁束指令値|φs
*|とが入力される。励磁電流指令器301Aは、磁束推定値|φ^s|が磁束指令値|φs
*|に一致するような電流指令値ids
*を求める。すなわち、励磁電流指令器301Aは、設定された磁束指令値|φs
*|に磁束推定値|φ^s|が一致するように電流指令値ids
*を調整する。励磁電流指令器301Aは、電流指令値ids
*を出力する。回転機制御装置20は、制御器1Aを用いて、一次磁束ベクトルφsの位相に制御位相を同期させるベクトル制御を行う。なお、一次磁束ベクトルφsの位相に制御位相を同期させるベクトル制御の方法は、実施の形態2で説明する方法に限られず、任意であるものとする。
ここで、低速域にまで同期機21を減速させたときにおける制御器1Aの動作について説明する。以下に説明する制御器1Aの動作は、同期機21を低速域にて駆動させ、かつ回転機制御装置20の動作が安定している状態であるときにおける動作とする。
データ取得器304には、電流指令値ids
*,iqs
*と、位相推定値θ^s,θ^rと、磁束指令値|φs
*|とが入力される。データ取得器304は、電流指令値ids
*と、電流指令値iqs
*と、磁束指令値|φs
*|とを互いに対応付けて記憶する。これにより、制御器1Aは、磁束指令値|φs
*|、電流指令値iqs
*および電流指令値ids
*を対応付けた第1のテーブルを作成する。
図8は、実施の形態2において作成される第1のテーブルについて説明するための図である。図8には、第1のテーブルに格納されるデータの例を示す。図8において、iqs[1],・・・,iqs[n]の各々は、データ取得器304へ入力された電流指令値iqs
*を表す。φs[1],・・・,φs[n]の各々は、データ取得器304へ入力された磁束指令値|φs
*|を表す。ids(iqs[1],φs[1]),・・・,ids(iqs[1],φs[n]),・・・,ids(iqs[n],φs[1]),・・・,ids(iqs[n],φs[n])は、データ取得器304へ入力された電流指令値iqs
*をiqs[1],・・・,iqs[n]およびφs[1],・・・,φs[n]に対応付けたデータを表す。nは2以上の整数である。
このように、第1のテーブルでは、磁束指令値|φs
*|、電流指令値iqs
*および電流指令値ids
*が互いに対応付けられている。制御器1Aによって作成された第1のテーブルは、実施の形態1の励磁電流指令器301が電流指令値ids
*を算出する際に使用される。
また、データ取得器304は、入力された位相推定値θ^sと入力された位相推定値θ^rとの差分であるΔθs_compを算出する。データ取得器304は、磁束指令値|φs
*|と、電流指令値iqs
*と、Δθs_compとを互いに対応付けて記憶する。これにより、制御器1Aは、磁束指令値|φs
*|と、電流指令値iqs
*と、Δθs_compとを対応付けた第2のテーブルを作成する。
図9は、実施の形態2において作成される第2のテーブルについて説明するための図である。図9には、第2のテーブルに格納されるデータの例を示す。図9において、iqs[1],・・・,iqs[n]の各々は、データ取得器304へ入力された電流指令値iqs
*を表す。φs[1],・・・,φs[n]の各々は、データ取得器304へ入力された磁束指令値|φs
*|を表す。Δθs_comp(iqs[1],φs[1]),・・・,Δθs_comp(iqs[1],φs[n]),・・・,Δθs_comp(iqs[n],φs[1]),・・・,Δθs_comp(iqs[n],φs[n])は、算出されたΔθs_compをiqs[1],・・・,iqs[n]およびφs[1],・・・,φs[n]に対応付けたデータを表す。
このように、第2のテーブルでは、磁束指令値|φs
*|、電流指令値iqs
*およびΔθs_compが互いに対応付けられている。制御器1Aによって作成された第2のテーブルは、実施の形態1の制御位相演算器302がΔθs_compを算出する際に使用される。制御位相演算器302は、第2のテーブルを参照することによって、入力された磁束指令値|φs
*|と入力された電流指令値iqs
*とに対応するΔθs_compを算出する。
ここでは、一次磁束ベクトルを基準とするベクトル制御が行われることから、第2のテーブルは、磁束指令値|φs
*|と、電流指令値iqs
*と、Δθs_compとを対応付けたテーブルとした。制御器1Aが作成する第2のテーブルは、磁束指令値|φs
*|と、電流指令値iqs
*と、Δθs_compとを対応付けたテーブルに限られず、電流指令値ids
*と、電流指令値iqs
*と、Δθs_compとを対応付けたテーブルであっても良い。この場合、実施の形態1の制御位相演算器302は、第2のテーブルを参照することによって、入力された電流指令値ids
*と入力された電流指令値iqs
*とに対応するΔθs_compを算出する。
実施の形態2の方法によると、Ld,Lqといったパラメータのデータによらず、Δθs_compを計測でき、制御位相演算器302がΔθs_compを算出するための第2のテーブルを作成することができる。また、実施の形態2の方法によると、励磁電流指令器301が電流指令値ids
*を算出するための第1のテーブルを作成することができる。
ベクトル制御量演算器36Aの構成は、制御位相の設定に従って、適宜変更可能であるものとする。すなわち、ベクトル制御量演算器36Aの設定は、回転機制御装置20によって実現されるベクトル制御の種類に合わせた設定とすることができる。ベクトル制御量演算器36Aに入力される信号は、ベクトル制御量演算器36Aにおいて作成されるテーブルのデータに合わせた信号とすることができる。
最大トルク制御時の電流ベクトルに制御位相を同期させるベクトル制御を行う場合、励磁電流指令器301が出力する電流指令値ids
*には「0」が設定される。また、ベクトル制御量演算器36Aは、図7に示す一次磁束演算器303の代わりに、Δθmを「0」に収束させるPLL構成を有しても良い。Δθmは、実施の形態1で述べた非特許文献1の説明に従って算出できる。これにより、制御器1Aは、位相推定値θ^sと角周波数推定値ω^sとを求めることができる。
実施の形態3.
実施の形態3では、例えば上記特許文献2に示されるような、磁気飽和による突極位相の変化量を補正して回転子位置を検出する機能を有する例について説明する。
図10は、実施の形態3にかかる回転機制御装置20が有する制御器1Bの構成例を示す図である。図11は、実施の形態3にかかる回転機制御装置20が有する推定器2Aの構成例を示す図である。実施の形態3にかかる回転機制御装置20のうち制御器1Bおよび推定器2A以外の構成は、実施の形態1にかかる回転機制御装置20と同様である。実施の形態3では、上記の実施の形態1または2と同一の構成要素には同一の符号を付し、実施の形態1または2とは異なる構成について主に説明する。
実施の形態3では、一次磁束ベクトルの位相に制御位相を同期させる場合について説明する。すなわち、回転機制御装置20は、一次磁束ベクトルを基準とするベクトル制御を行う。
図10に示す制御器1Bは、図3に示すベクトル制御量演算器36とは異なる構成のベクトル制御量演算器36Bを有する。ベクトル制御量演算器36Bは、励磁電流指令器301Bと、制御位相演算器302Bと、パラメータ演算器305とを有する。制御器1Bは、dr軸上の電流検出値idrとqr軸上の電流検出値iqrとが制御器1Bに入力される点が、図1に示す制御器1とは異なる。
ここで、磁気飽和による突極位相の変化量について説明する。図12は、実施の形態3にかかる回転機制御装置20の制御対象における突極位相の変化量について説明するための図である。図12には、同期機21に流れる電流の高さが互いに異なる2つのケースの各々におけるインダクタンスの変化を表すグラフを示す。第1のケースは、2つのケースのうち同期機21に流れる電流が低く、磁気飽和が小さいケースである。第2のケースは、2つのケースのうち同期機21に流れる電流が高く、磁気飽和が大きいケースである。図12における実線の曲線は、第1のケースにおけるインダクタンスを表す。図12における破線の曲線は、第2のケースにおけるインダクタンスを表す。図12に示すグラフの縦軸はインダクタンス、横軸は位相を表す。図12では、dmr軸の方向を、位相の基準である0degとする。Lpは、正弦波の一周期におけるインダクタンスの平均値を表す。Lmは、正弦波の振幅を表す。
図12に示すθeは、第1のケースにおけるインダクタンスの変化と第2のケースにおけるインダクタンスの変化との誤差である。θeは、図2に示すdr軸とdmr軸との位相差であって、磁気飽和による突極位相の変化量でもある。θeの誤差が生じた場合、図5に示す瞬時的な誤差であるΔθにθeが加えられることによって、dr軸とdmr軸との誤差はΔθからΔθ-θeへ変化する。
実施の形態1で述べた式(2)におけるΔθをΔθ-θeに置き換えることによって、実施の形態1で述べた式(6)は、次の式(16)のようになる。
Δθが限りなく「0」に近づくとして、式(16)は次の式(17)のようになる。
振幅|iqrh|の値が式(17)を満たすことになれば、突極位相の変化量が補正されて、dmr軸にdr軸を一致させることができる。したがって、dmr軸に一致する方向の位相推定値θ^rを得たい場合は、目標値|iqrh
*|は「0」ではなく式(17)に示される振幅|iqrh|の値とすれば良い。目標値|iqrh
*|が、式(17)に示される振幅|iqrh|の値と一致するとき、制御軸は、dmr軸およびdr軸の双方と一致する。
例えば、同期機21のうちdmr軸上に取り付けられた位置センサによって回転子の位相および速度を検出することとし、同期機21に高周波交番電圧を印加して同期機21の負荷運転を行う。かかる負荷運転により、同期機21には、出力トルクに応じた高電流が流れることによって磁気飽和が生じて、|iqrh|≠0となる。このときに、電流検出値idr,iqrおよび振幅|iqrh|が計測される。かかる手順を、さまざまな負荷条件の各々について行うことによって、各負荷条件に応じた電流検出値idr,iqrが引数として入力されることにより振幅|iqrh|を出力するテーブルデータを作成することができる。このテーブルデータによれば、未知のθeに関わらず、負荷条件に応じた目標値|iqrh
*|を得ることができる。振幅|iqrh|の値は、実施の形態1で述べた式(10)により求まる。
以上を踏まえて、図11に示す推定器2Aの構成および動作を説明する。三相dq変換器41は、位相推定値θ^rを用いて三相の電流検出値ius,ivs,iwsの座標変換を行い、dr軸上の電流検出値idrと、qr軸上の電流検出値iqrとを出力する。電流検出値idr,iqrは、制御器1Bと高周波電流指令器45とへ入力される。
高周波電流指令器45は、電流検出値idrと、電流検出値iqrと、目標値|iqrh
*|とを対応付けたテーブルである第3のテーブルを有する。第3のテーブルのデータは、あらかじめ計測によって取得されたデータである。高周波電流指令器45は、第3のテーブルを参照することによって、入力された電流検出値idr,iqrに対応する目標値|iqrh
*|を算出する。すなわち、高周波電流指令器45は、入力された電流検出値idr,iqrに従って、目標値|iqrh
*|を調整する。高周波電流指令器45は、目標値|iqrh
*|を出力する。
また、高周波電圧指令器35によって指令された高周波交番電圧が同期機21に印加されることによって、電流検出値idr,iqrには、角周波数ωhの高周波交番成分が含まれる。このため、制御器1Bは、角周波数ωhと同じ周波数成分を電流検出値idr,iqrから除去するフィルタリングを行い、フィルタリング後の電流検出値idr,iqrによって第3のテーブルを参照する構成を取っても良い。フィルタリングには、例えば、実施の形態1で述べた式(9)により表されるノッチフィルタを用いることができる。
高周波位相速度演算器44には、振幅|iqrh|の値と、目標値|iqrh
*|とが入力される。高周波位相速度演算器44は、補正値である目標値|iqrh
*|に振幅|iqrh|の値を収束させる演算を行う。高周波位相速度演算器44は、計測される振幅|iqrh|の値を目標値|iqrh
*|に収束させることによって、dr軸をdmr軸に一致させる補正を行う。高周波位相速度演算器44は、かかる演算によって、dmr軸の方向に一致した位相推定値θ^rを出力する。
このようにして、推定器2Aは、突極位相と界磁磁束の位相との差に基づいて、dr軸をdmr軸に一致させる補正が行われた位相推定値θ^rを出力する。
なお、推定器2Aの構成によると、制御軸は、dmr軸およびdr軸の双方と一致する。磁気飽和を考慮した詳細な解析または計測によって、dmr軸上におけるLd,Lqのデータがあらかじめ取得されており、Ld,Lqのデータについてのテーブルを有する場合は、制御器1Bは、当該テーブルを利用した演算を行うこととしても良い。図10に示すパラメータ演算器305は、Ld,Lqのデータについてのテーブルである第4のテーブルを有する。
Ld,Lqを用いると、一次磁束ベクトルφsのdr軸成分であるφdrはφdr=Ldidr+φr、一次磁束ベクトルφsのqr軸成分であるφqrはφqr=Lqiqrと表される。したがって、一次磁束ベクトルφsの振幅|φs|の値は、次の式(18)により求まる。
また、図2に示す各軸の関係から、補正量であるΔθs_compは次の式(19)により求まる。
ここでは、磁極を有する同期機21を想定して、鎖交磁束ベクトルの振幅を示すφrが式(19)に使用されている。同期機21が、磁極を持たない回転子を有するリラクタンス型同期機である場合も、φr=0とすることにより、磁極を有する場合と同様の理論が成り立つ。
パラメータ演算器305には、電流検出値idr,iqrが入力される。パラメータ演算器305は、第4のテーブルを参照することによって、入力された電流検出値idr,iqrに対応するLd,Lqの各値を算出する。すなわち、パラメータ演算器305は、入力された電流検出値idr,iqrに従ってLd,Lqの各値を調整する。パラメータ演算器305は、Ld,Lqの各値を出力する。
励磁電流指令器301Bには、あらかじめ設定された磁束指令値|φs
*|と、Ld,Lqの各値と、電流検出値idr,iqrとが入力される。励磁電流指令器301Bは、式(18)に従って、振幅|φs|の推定値である磁束推定値|φ^s|を求める。励磁電流指令器301Bは、磁束推定値|φ^s|が磁束指令値|φs
*|に一致するような電流指令値ids
*を求める。すなわち、励磁電流指令器301Bは、設定された磁束指令値|φs
*|に磁束推定値|φ^s|が一致するように電流指令値ids
*を調整する。励磁電流指令器301Bは、電流指令値ids
*を出力する。
制御位相演算器302Bには、位相推定値θ^rと、Ld,Lqの各値と、電流検出値idr,iqrとが入力される。制御位相演算器302Bは、式(19)に従って、Δθs_compを算出する。制御位相演算器302Bは、実施の形態1の場合と同様に、式(1)に示すように、位相推定値θ^rにΔθs_compを足し合わせる補正を行うことによって、位相推定値θ^sを算出する。制御位相演算器302Bは、位相推定値θ^sを出力する。
また、パラメータ演算器305、励磁電流指令器301B、および制御位相演算器302Bの各々に入力される電流検出値idr,iqrには、角周波数ωhの高周波交番成分が含まれる。このため、制御器1Bは、角周波数ωhと同じ周波数成分を電流検出値idr,iqrから除去するフィルタリングを行い、フィルタリング後の電流検出値idr,iqrによって各テーブルの参照または演算を行う構成を取っても良い。フィルタリングには、例えば、実施の形態1で述べた式(9)により表されるノッチフィルタを用いることができる。
回転機制御装置20は、上記の構成によって、高周波交番電圧の重畳中に位相推定値θ^rを位相推定値θ^sへ補正することで、位相推定値θ^sを得ることができる。これにより、回転機制御装置20は、一次磁束ベクトルの位相に制御位相を同期させるベクトル制御を行うことができる。また、回転機制御装置20は、目標値|iqrh
*|に基づいてdr軸をdmr軸に一致させる補正を行うことから、dmr軸を基準とするLd,Lqのデータを用いた演算によって、Δθs_compを求めることができる。
ベクトル制御量演算器36Bの構成は、制御位相の設定に従って、適宜変更可能であるものとする。すなわち、ベクトル制御量演算器36Bの設定は、回転機制御装置20によって実現されるベクトル制御の種類に合わせた設定とすることができる。ベクトル制御量演算器36Bに入力される信号は、ベクトル制御量演算器36Bにおいて設定されるテーブルのデータに合わせた信号とすることができる。
一次磁束ベクトルの位相に制御位相を同期させるベクトル制御を行う場合の例を説明してきたが、回転機制御装置20は、一次磁束ベクトルの位相以外の位相に制御位相を同期させるベクトル制御を行うこととしても良い。例えば、回転機制御装置20は、最大トルク制御時の電流ベクトルに制御位相を同期させるベクトル制御を行うこととしても良い。最大トルク制御時の電流ベクトルに制御位相を同期させるベクトル制御を行う場合は、励磁電流指令器301Bが出力する電流指令値ids
*には「0」が設定される。ベクトル制御量演算器36Bは、実施の形態1で述べた非特許文献1の説明に従ってΔθmを算出する際に、Ld,Lqのデータを利用することができる。
実施の形態3によると、回転機制御装置20は、dr軸をdmr軸に一致させる補正が行われた位相推定値θ^rを求め、位相推定値θ^rとΔθs_compとに基づいて位相推定値θ^sを求める演算を行う。これにより、回転機制御装置20は、低速域において高周波交番電圧の重畳中から、突極位相以外の任意の制御位相を選択したベクトル制御が可能となるという効果を奏する。さらに、低速域と高速域との間における速度変化の途中における制御手法の切換が不要となるため、2つの制御系の各々に合わせた制御パラメータを用意する必要が無くなる。これにより、回転機制御装置20は、処理の低減が可能となる。また、回転機制御装置20は、2つの制御系の各々に合わせた制御パラメータの調整が不要となるため、調整工数の低減も可能となる。
次に、実施の形態1から3にかかる回転機制御装置20の要部である電圧指令器10を実現するハードウェア構成について説明する。図13は、実施の形態1から3にかかる回転機制御装置20の電圧指令器10を実現するハードウェアの構成例を示す図である。図13には、電圧指令器10の制御器1,1A,1Bおよび推定器2,2Aを処理回路61によって実現する場合の構成例を示す。処理回路61は、プロセッサ63とメモリ64とを有する。
プロセッサ63は、CPU(Central Processing Unit)である。プロセッサ63は、演算装置、処理装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、またはDSP(Digital Signal Processor)でも良い。メモリ64は、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、EEPROM(登録商標)(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)といった、揮発性あるいは不揮発性の半導体メモリである。
メモリ64には、制御器1,1A,1Bおよび推定器2,2Aとして動作するためのプログラムが格納される。このプログラムをプロセッサ63が読み出して実行することにより、制御器1,1A,1Bおよび推定器2,2Aを実現することが可能である。なお、メモリ64に格納される、制御器1,1A,1Bおよび推定器2,2Aとして動作するためのプログラムは、例えば、CD(Compact Disc)-ROM、DVD(Digital Versatile Disc)-ROMなどの記憶媒体に書き込まれた状態でユーザ等に提供される形態であっても良いし、ネットワークを介して提供される形態であっても良い。また、プロセッサ63は、演算結果等のデータをメモリ64の揮発性メモリに出力する。または、プロセッサ63は、演算結果等のデータを、メモリ64の揮発性メモリを介して補助記憶装置に出力することによってデータを保存する。
入力部62は、電圧指令器10に対する入力信号を外部から受信する回路である。入力部62は、電流検出値ius,ivs,iwsを受信する。出力部65は、電圧指令器10で生成した信号を外部へ出力する回路である。出力部65は、電圧指令値vus
*,vvs
*,vws
*を出力する。
図13は、汎用のプロセッサ63およびメモリ64により制御器1,1A,1Bおよび推定器2,2Aを実現する場合のハードウェアの例であるが、プロセッサ63およびメモリ64の代わりに専用の処理回路で制御器1,1A,1Bおよび推定器2,2Aを実現してもよい。すなわち、専用の処理回路で制御器1,1A,1Bおよび推定器2,2Aを実現しても良い。ここで、専用の処理回路は、単一回路、複合回路、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、またはこれらを組み合わせた回路である。なお、制御器1,1A,1Bおよび推定器2,2Aの一部をプロセッサ63およびメモリ64で実現し、残りを専用の処理回路で実現しても良い。
実施の形態4.
本開示によると、停止に近い低速域から高速域まで全速域に渡って、選択された1つの制御位相でベクトル制御を行うことが可能となる。実施の形態4では、停止に近い低速域から高速域まで全速域に渡って、選択された1つの制御位相でベクトル制御を行う構成例について説明する。
図14は、実施の形態4にかかる回転機制御装置20Aの構成例を示す図である。実施の形態4にかかる回転機制御装置20Aの電圧指令器10Aは、推定器2と制御ユニット3とを有する。制御ユニット3は、実施の形態1と同様の制御器1と、実施の形態2と同様の制御器1Aとを有する。すなわち、実施の形態4にかかる回転機制御装置20Aは、制御器1の機能と制御器1Aの機能とを備える。実施の形態4では、上記の実施の形態1から3と同一の構成要素には同一の符号を付し、実施の形態1から3とは異なる構成について主に説明する。なお、電圧指令器10Aは、図13に示す構成例と同様のハードウェアにより実現される。
制御器1には、突極位相推定値である位相推定値θ^rと角周波数推定値ω^rとが入力される。制御器1は、同期機21の速度が第1の速度領域の速度であるとき、位相推定値θ^rと補正量であるΔθs_compとに基づいて、制御位相推定値である位相推定値θ^sを求める。回転機制御装置20Aは、求めた位相推定値θ^sを制御位相としてベクトル制御を行う。
制御器1Aには、位相推定値θ^rが入力される。制御器1Aは、同期機21の速度が第2の速度領域の速度であるとき、同期機21に生じる誘起電圧または同期機21に生じる鎖交磁束を推定することによって、制御位相推定値である位相推定値θ^sを求める。第2の速度領域は、第1の速度領域よりも高い速度領域である。回転機制御装置20Aは、求めた位相推定値θ^sを制御位相としてベクトル制御を行う。
このように、回転機制御装置20Aは、第1の速度領域すなわち停止に近い低速域では、位相推定値θ^rとΔθs_compとに基づいて求めた位相推定値θ^sを制御位相としてベクトル制御を行う。また、回転機制御装置20Aは、第2の速度領域すなわち高速域では、同期機21に生じる誘起電圧または同期機21に生じる鎖交磁束を推定することによって求めた位相推定値θ^sを制御位相としてベクトル制御を行う。回転機制御装置20Aは、例えば、あらかじめ設定された閾値を基に、同期機21の速度が第1の速度領域の速度であるか第2の速度領域の速度領域の速度であるかを判断する。
実施の形態4によると、回転機制御装置20Aは、停止に近い低速域から高速域まで全速域に渡って、選択された1つの制御位相でベクトル制御を行うことが可能となるという効果を奏する。なお、回転機制御装置20Aは、実施の形態2と同様の制御器1Aと、実施の形態3と同様の制御器1Bとを有するものであっても良い。この場合も、回転機制御装置20Aは、停止に近い低速域から高速域まで全速域に渡って、選択された1つの制御位相でベクトル制御を行うことが可能となる。
以上の各実施の形態に示した構成は、本開示の内容の一例を示すものである。各実施の形態の構成は、別の公知の技術と組み合わせることが可能である。各実施の形態の構成同士が適宜組み合わせられても良い。本開示の要旨を逸脱しない範囲で、各実施の形態の構成の一部を省略または変更することが可能である。