JP7016655B2 - 加熱調理用油脂組成物及びその製造方法 - Google Patents
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Description
従って、加熱調理用油脂組成物において、酸化安定性を向上しかつ、トランス脂肪酸含量を低下させることが一つの課題である。
従来、加熱調理用油脂組成物において、トランス脂肪酸含量を低下させる方法としては、パームや牛脂など常温で固体である油脂を使用する方法と、大豆油やナタネ油など常温で液状である油脂を用いる方法が取られてきた。
しかし、液体油を多く使用すると、酸化安定性が低下して加熱時に劣化臭を生じやすく、更に液体油特有の臭いが強くなるため、加熱調理した食品の風味が固体脂を用いた風味とは大きく変わってしまうという問題があった。また使用する液体油によっては食品の塩味を強く感じさせるという問題点もあった。
液体油特有の臭いが強くなる問題を解消するために、パーム油分別硬質油を液体油に添加することにより、液体油臭を低下させ、好適な硬化油風味を得る方法が報告されている(特許文献1)。しかし固体脂であり、液体油臭は少ないもののあっさりとした風味になってしまう。
ファストフード店では固体脂が多く使われており、チキンナゲットなどのスパイス感に合う風味が好まれている。しかし固体脂は必要量をへら等ですくい差し油することが出来る一方で、差し油時に揚げ油が跳ねて火傷の危険が高まることや、大量に使う際には溶かす必要があるなどハンドリング性に課題がある。
総飽和脂肪酸含量が40質量%以下の液体油または前記液体油の2以上の混合物である油脂Aと、総飽和脂肪酸含量が20質量%以下の部分水素添加油脂である油脂Bを含み、
油脂組成物全質量に対して油脂Bを2~30質量%含み、
不飽和結合を3以上含む多価不飽和脂肪酸含量が5質量%以下であることを特徴とする加熱調理用油脂組成物、
により、トランス脂肪酸含量が低く、かつ結晶性が低く、加熱時の劣化臭を抑制して液体油にもかかわらず従来の固体脂に似た良好な風味を食品に与える加熱調理用油脂組成物が得られることを見いだし、本発明を完成した。
<1>総飽和脂肪酸含量が40質量%以下の液体油または前記液体油の2以上の混合物である油脂Aと、総飽和脂肪酸含量が20質量%以下の部分水素添加油脂である油脂Bを含み、
油脂組成物全質量に対して油脂Bを2~30質量%含み、
不飽和結合を3以上含む多価不飽和脂肪酸含量が5質量%以下であることを特徴とする加熱調理用油脂組成物。
<2>油脂Aが、コーン油、ヒマワリ油、ナタネ油、サフラワー油、米油、綿実油、大豆油、ハイオレインヒマワリ油、ハイオレインナタネ油、ハイオレインサフラワー油、及びパームダブルオレイン油、並びにこれらの2以上の混合物からなる群より選択される、<1>に記載の加熱調理用油脂組成物。
<3>油脂Bが、ヨウ素価80以上の部分水素添加油脂である、<1>または<2>に記載の加熱調理用油脂組成物。
<4>油脂Bが、コーン油、ヒマワリ油、ナタネ油、サフラワー油、米油、綿実油、大豆油、からなる群より選択される油脂の部分水素添加油脂である、<1>~<3>のいずれか一に記載の加熱調理用油脂組成物。
<5>油脂Aが、全構成脂肪酸中の不飽和結合が3以上の多価不飽和脂肪酸含量が2質量%未満でかつ総飽和脂肪酸含量が40質量%以下の液体油から選択される油脂A1と、全構成脂肪酸中における不飽和結合が3以上の多価不飽和脂肪酸含量が2質量%以上でかつ総飽和脂肪酸含量が40質量%以下の液体油から選択される油脂A2からなり、
油脂Aの全質量に対して油脂A1が20~100質量%であり、油脂A2が80質量%以下である、<1>~<4>のいずれか一に記載の加熱調理用油脂組成物。
<6>トランス脂肪酸含量が5質量%以下である、<1>~<5>のいずれか一に記載の加熱調理用油脂組成物。
<7><1>~<6>のいずれか一に記載の加熱調理用油脂組成物を用いて加熱調理された食品。
<8><1>~<6>のいずれか一に記載の加熱調理用油脂組成物を用いて食品を加熱調理することを特徴とする食品の調理方法。
本発明の加熱調理用油脂組成物に用いられる油脂Aは、総飽和脂肪酸含量が40質量%以下の液体油または前記液体油の2以上の混合物である。
本明細書において「液体油」とは、常温(25℃付近)で液状の油脂を意味する。
油脂Aの「総飽和脂肪酸含量が40質量%以下の液体油」とは、全構成脂肪酸中の飽和脂肪酸の合計量が40質量%以下である液体油を意味する。
油脂Aの「総飽和脂肪酸含量が40質量%以下の液体油」は、好ましくは総飽和脂肪酸含量が30質量%以下の液体油、より好ましくは総飽和脂肪酸含量が25質量%以下の液体油、さらに好ましくは総飽和脂肪酸含量が10質量%~25質量%の液体油である。
油脂Aは油脂Bとは異なる油脂である。よって、油脂Aは非水素添加油脂である。
油脂A1としては、例えば、コーン油、ヒマワリ油、サフラワー油、米油、及び綿実油が挙げられる。より好ましくは、油脂A1としてコーン油、綿実油及び米油から選択される油脂が挙げられる。油脂A中に油脂A1としてコーン油、綿実油及び米油を少なくとも60質量%含むことがさらにより好ましい。
油脂A2としては、例えば、ナタネ油及び大豆油が挙げられる。大豆油がより好ましい。
本発明の加熱調理用油脂組成物に用いられる油脂Bは、総飽和脂肪酸含量が20質量%以下の部分水素添加油脂である。
本明細書において「部分水素添加油脂」とは、公知の方法により部分的に水素添加処理した油脂である。完全硬化された油脂を含まない。「部分水素添加油脂」は、好ましくは、ヨウ素価が80以上となるように水素添加された油脂である。
油脂Bとして、より好ましくはヨウ素価が87以上であり、さらに好ましくはヨウ素価が100以上の部分水素添加油脂が挙げられる。ヨウ素価が高くなるほど固化しにくく、ハンドリング性が向上する。
総飽和脂肪酸含量が20質量%以下の部分水素添加油脂は、好ましくは、コーン油、ヒマワリ油、ナタネ油、サフラワー油、米油、綿実油、及び大豆油からなる群より選択される油脂であり、さらに好ましくは、コーン油及び大豆油からなる群より選択される油脂である。
総飽和脂肪酸含量が20質量%以下の部分水素添加油脂は2以上の油脂の混合油脂の部分水素添加油脂であってもよい。混合油脂としては、例えば、コーン油と大豆油を9:1~1:9で混合した油脂が挙げられ、さらに9:1~5:5で混合した油脂であってもよい。
また、油脂Bは総飽和脂肪酸含量が20質量%以下の部分水素添加油脂を2以上組み合わせたものであってもよい。
これらの油脂を用いることにより、あっさりした風味ではなく、液体油にもかかわらず従来の固体脂に似たコクのある良好な風味を提供することができ好ましい。例えば、チキンナゲットを加熱調理した場合、チキンナゲットのスパイス感が増強され、あっさりしておらずコクのある風味となり、かつ塩味を抑制できるため好ましい。
油脂Bは上記部分水素添加を行った後、公知の方法により脱色・脱臭してもよい。例えば、脱色は活性白土を添加して、常圧または減圧下で、油脂を60~120℃で、5~60分程度加熱することにより行うことができる。脱臭は、例えば、真空下、スチームを吹き込み、有臭成分や、脂肪酸、不けん化物などの揮発成分を蒸留することにより行う。
本発明の加熱調理用油脂組成物において、不飽和結合を3以上含む多価不飽和脂肪酸含量は5質量%以下である。好ましくは4.5質量%以下であり、さらに好ましくは4質量%以下であり、より好ましくは3.5質量%以下、さらにより好ましくは2.5質量%以下である。不飽和結合を3以上含む多価不飽和脂肪酸含量はより少ない方が加熱時の劣化臭を抑制することができるため好ましい。
また、不飽和結合を3以上含む多価不飽和脂肪酸含量は風味の観点から、0.3質量%以上であることが好ましく、1.0質量%以上であることがより好ましく、1.2質量%以上であることがさらに好ましい。
不飽和結合を3以上含む多価不飽和脂肪酸とは、具体的には、α-リノレン酸、γ-リノレン酸、アラキドン酸等が挙げられる。
本発明の加熱調理用油脂組成物を構成する脂肪酸組成においてトランス脂肪酸含量は5質量%未満であることが好ましい。より好ましくは3.5質量%以下であり、さらに好ましくは3質量%以下である。トランス脂肪酸は、近年、その摂取により動脈硬化等の疾病を引き起こす可能性があることが報告されており、加熱調理食品においても低く抑えることが好ましい。
本発明において、加熱調理用油脂組成物を構成する飽和脂肪酸含量は、例えば12~25質量%程度であることが好ましい。より好ましくは13~20質量%であり、さらにより好ましくは13~16質量%である。飽和脂肪酸は、トランス脂肪酸同様、過剰な摂取により動脈硬化等の疾病を引き起こす可能性があることが報告されている。その一方でエネルギー源として重要な栄養成分でもある。
本発明の加熱調理用油脂組成物を用いて、公知の方法で食品を加熱調理することができる。
加熱調理食品としては、フライ、天ぷら、からあげ、フライドポテト、ドーナツ、スナック菓子などの油ちょう品が挙げられる。
(総飽和脂肪酸含量が20質量%以下の部分水素添加油脂Bの調製)
表1に示した配合で原料油脂を混合し、ヨウ素価75、88、90、110または120の油脂混合物(油脂B-1~B-5)を調製した。表1中、脂肪酸含量はいずれも、全脂肪酸質量に対する質量%を表している。
原料油脂には、コーン油と大豆油又はナタネ油を使用した。コーン油と大豆油を70:30で混合したものあるいはナタネ油を、通常の方法により水素添加した。
すなわち、コーン油と大豆油の混合物については、オートクレーブ内で、開始温度120℃、水素圧力0.25MPa、ニッケル触媒0.1質量%(ニッケル含量20質量%)で加熱しながら、ヨウ素価が75、90、110または120となるまで水素添加反応を行った。
また、ナタネ油については、オートクレーブ内で、開始温度170℃、水素圧力0.25MPa、ニッケル触媒0.1質量%(ニッケル含量20質量%)で加熱しながら、ヨウ素価が88となるまで水素添加反応を行った。
これらの部分水素添加油脂を脱色・脱臭し、それぞれの油脂を得た。
表1に示した油脂B-1~B-5と表2に示した液体油を用いて表3(表3-1~3-4)に示した配合の加熱調理用油脂組成物を調製した。表2において、C16-0などで表した脂肪酸組成は主要なもののみを示しているため、表2の脂肪酸組成の合計量と、「total」で示されている合計脂肪酸量とは合致しない。表2の脂肪酸含量はいずれも、全脂肪酸質量に対する質量%を表している。また、表3中の%で表される油脂組成はいずれも質量%を意味する。
実施例において、飽和脂肪酸含量、不飽和結合3以上の多価不飽和脂肪酸含量、トランス脂肪酸含量は、日本油化学会編「基準油脂試験分析法」(2013年)に記載の「脂肪酸組成(キャピラリーガスクロマトグラフ法)」に記載の方法に従って分析した。ガスクロマトグラフィー装置は、GC-2010型(島津製作所(株)製)、カラムは、SP-2560(SUPELCO社製)を用いた。
市販のプレフライ済み冷凍チキンナゲットを180℃で3分15秒間フライ調理し、官能評価(スパイス感及び塩味抑制効果)を行った。官能評価は、良く訓練された3人のパネラーにより行われた。
「スパイス感」の評価において、比較例1の油脂を「スパイス感が強く、あっさりしておらずコクがある風味」と評価して5点とし、比較例2の油脂を「スパイス感が無く、あっさりした風味」と評価して1点とした。これらを基準として各油脂を5点満点で評価し、その平均点をとった。
「塩味抑制効果」の評価において、比較例1の油脂を「適度な塩味を感じる」と評価して5点とし、比較例2の油脂を「塩味が強すぎると感じる」と評価して1点とした。これらを基準として各油脂を5点満点で評価し、その平均点をとった。結果を表3に示す。
日本油化学会編「基準油脂試験分析法」(2013年)に記載の「2.3.8.1-71 冷却試験(その1)」に記載の方法に従い、調製した各油脂を0℃で5時間半冷却した後の状態を確認し、以下の基準で評価した。結果を表3に示す。
◎:透明
○:濁り
△:結晶の塊あり
×:固化
このように、本発明により、結晶性が低く、加熱時の劣化臭を抑制して、あっさりしておらず、液体油にもかかわらずコクのある従来の固体脂に似た風味を食品に与える加熱調理食品用油脂組成物を提供することができる。
Claims (8)
- 総飽和脂肪酸含量が40質量%以下の液体油または前記液体油の2以上の混合物である油脂Aと、総飽和脂肪酸含量が20質量%以下の部分水素添加油脂である油脂Bを含み、
油脂Bがヨウ素価100以上の部分水素添加油脂であり、
油脂Aがコーン油、綿実油及び米油から選択される油脂A1を少なくとも含み、
油脂組成物全質量に対して油脂Bを2~30質量%含み、
不飽和結合を3以上含む多価不飽和脂肪酸含量が5質量%以下であることを特徴とする加熱調理用油脂組成物。 - 油脂Aが、油脂A1を少なくとも20質量%含む、請求項1に記載の加熱調理用油脂組成物。
- 油脂Bが、コーン油、及び大豆油、からなる群より選択される油脂の部分水素添加油脂である、請求項1または2に記載の加熱調理用油脂組成物。
- 油脂Aが、油脂A1と、全構成脂肪酸中における不飽和結合が3以上の多価不飽和脂肪酸含量が2質量%以上でかつ総飽和脂肪酸含量が40質量%以下の液体油から選択される油脂A2とからなり、
油脂Aの全質量に対して油脂A1の含量が20~100質量%であり、油脂A2の含量が80質量%以下である請求項1~3のいずれか一項に記載の加熱調理用油脂組成物。 - 油脂Aの全質量に対して油脂A1の含量が40~95質量%であり、油脂A2の含量が5~60質量%である、請求項4に記載の加熱調理用油脂組成物。
- トランス脂肪酸含量が5質量%以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載の加熱調理用油脂組成物。
- 請求項1~6のいずれか一項に記載の加熱調理用油脂組成物を用いて加熱調理された食品。
- 請求項1~6のいずれか一項に記載の加熱調理用油脂組成物を用いて食品を加熱調理することを特徴とする食品の調理方法。
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