JP7007837B2 - 水中用しゅう動部材組成物および水中用しゅう動部材の製造方法 - Google Patents

水中用しゅう動部材組成物および水中用しゅう動部材の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、水中用しゅう動部材組成物、及び該樹脂組成物からなる水中あるいは水潤滑条件下で使用される軸受、シールなどのしゅう動部材に関する。
原子力発電や火力発電プラント、上下水道の取水・排水装置、土木用排水装置、船舶のラダー軸や推進軸、製紙工業、食品工業、薬品工業などで使用される水媒体からなる液体を移送するための各種のポンプの回転部あるいは直動部には、水潤滑に適したしゅう動部材からなる軸受が使用されている。このような軸受の材質としては、フェノール樹脂やテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などをベース樹脂としてグラファイトや炭素繊維、二硫化モリブデンなどの添加により、所望の耐摩耗性や低摩擦性を得ている。
これらの軸受材料は、主に、高荷重および高速の運転が必要な産業用の大型ポンプなどに用いられているが、一方で軸受の摩耗による摩耗粉の発生や、しゅう動相手軸が金属に限られ、また発生した摩耗粉がしゅう動界面に介在すると、相手軸を傷つけたり、そのために摩耗が急増したりする可能性があり、これらの摩耗粉などによるコンタミネーションが環境に放出されると、分解されずに該環境に長期に残留するなどの問題があった。
薬品、半導体、園芸、魚類の養殖などに用いる水用ポンプの軸受や軸シールなどの、水などの液体と接する箇所のしゅう動部材としては、耐摩耗性に優れ、摩耗粉などのコンタミネーションの発生が少なく、かつ発生したコンタミネーションは、生分解性を有するなどの自然分解性を有することが望ましい。
特許文献1には、高分子ゲルをしゅう動部材とし、多孔質のポリエチレンあるいはポリプロピレンをバックアップ部材とするすべり軸受が開示されている。前記高分子ゲルとしては、水を溶媒として膨潤するハイドロゲル、エチレングリコールやグリセリン等の親水性溶媒を含んで膨潤する親水性オルガノゲル、または疎水性の有機溶媒や油等を溶媒として含んで膨潤するオルガノゲル等を挙げている。
特許文献2は、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合樹脂(PFA樹脂)、炭素繊維、およびポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)および/又は変性PTFEからなる水潤滑式軸受材料が開示されている。
特許文献3は、フェノール樹脂を主成分とし、炭素繊維と、ポリテトラフルオロエチレン及びグラファイトから選ばれる1つの固体潤滑剤、を含有するフェノール樹脂組成物をの外側にPEEK、PPSなどの耐熱性熱可塑性樹脂を射出成形で形成した電動ウォーターポンプ用ロータが開示されている。
特許文献4には、セルロースファイバーを含む親水性樹脂からなる潤滑層を有する積層体が開示されている。ここでは、セルロースファイバーが分散した親水性樹脂からなる潤滑層を基材に塗布した積層体は、セルロースファイバーの補強効果により、該潤滑層の強度が向上し、摩擦等による潤滑層の厚み減少や欠陥が抑制され、長期に渡って優れた潤滑効果が発揮されるとされている。
特開2009-144836号公報 WO2016/114244号公報 特開2017-25742号公報 特開2013-24713号公報
特許文献1では、フッ素樹脂、ポリエチレン樹脂及びポリプロピレン樹脂からなる群から選ばれた1つの樹脂の多孔質体に高分子ゲルを非架橋状態で充填した後に架橋させたしゅう動部材を有するすべり軸受が公開されている。高分子ゲルは低摩擦性に優れることが知られているものの、水、有機溶媒、及び油等で膨潤させてしゅう動部材としていることから、機械的強度は低く、耐摩耗性は十分ではないことから、用途としては、機械的に長時間繰り返ししゅう動を受けるのではなく、しゅう動回数が少なくしゅう動負荷のごく小さいカテーテルなどの医療用途に限られている。
さらに、高分子ゲルはフッ素樹脂、ポリエチレン樹脂及びポリプロピレン樹脂から選ばれた1つの樹脂の多孔質体に含浸後、架橋させて前記樹脂からなる軸受との接着性を向上させている。当該多孔質体の作製方法としては、焼結法、有機溶媒や超臨界流体抽出法、発泡法などを挙げられるが、前記の方法は、いずれも手間がかかり、製造コストアップの要因となる。
特許文献2に開示されている水潤滑式軸受材料は、PTFE樹脂及び/又は変性PTFE樹脂とPFA樹脂とからなる樹脂原料に炭素繊維(湾曲、ひねり状形状を有するピッチ系炭素繊維)を添加した組成物である。当該組成物は、炭素繊維を充填しているため機械的強度が高く、低摩擦性、耐摩耗性に優れるが、硬度の高いピッチ系炭素繊維であるため、炭素繊維成分を含む摩耗粉が運転中にしゅう動界面に介在(残留)すると、ざらつき摩耗(アブレシブ摩耗)を生じやすく、一旦ざらつき摩耗を生じると相手軸材を傷つけるだけでなく、軸受自身の摩耗が急増する事態となる可能性がある。
特許文献3に記載の滑り軸受は、フェノール樹脂を主成分として、炭素繊維と、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)およびグラファイトから選ばれる少なくとも1つの固体潤滑剤を含む組成物からなる水中用の滑り軸受であり、該軸受の外径側にPPS樹脂やPEEK樹脂などの融点が200度以上である熱可塑性樹脂組成物がインサート成形されている。これは、水潤滑下での摩擦摩耗特性には優れるが、滑り軸受を構成する組成物が剛直であり、リップシールなどの柔軟性の必要な用途には用いることが困難である。
特許文献4に記載の積層体は、セルロースファイバーが親水性樹脂に分散していることが開示されている。セルロースファイバー表面に存在する水酸基は、エーテル化剤等の修飾剤で修飾されているものの、該修飾剤はセルロースファイバーの親水性樹脂への分散性を向上させる目的ではなく、修飾剤を介してセルロースファイバーが親水性樹脂と化学結合し、組成物の補強効果を向上させている。しかしながら、セルロースファイバーの親水性樹脂への具体的な分散手法には触れられておらず、セルロースファイバーの親水性樹脂への分散性が充分に確保されているとはいえない。
本発明の目的は、水中あるいは水潤滑条件下での低摩擦性、耐摩耗性に優れ、またシールとして使用可能な柔軟性を有する水中用しゅう動部材組成物及び該組成物からなるしゅう動部材を提供することである。
本発明は、下記〔1〕~〔6〕の水中用しゅう動部材組成物及び該組成物からなるしゅう動部材を提供することである。
〔1〕 (A)未変性セルロースナノファイバー、および(B)水溶性又は水分散性を有する合成樹脂、及び(C)水溶性分散剤を含む、水潤滑用しゅう動部材組成物。
〔2〕 前記(B)水溶性又は水分散性を有する合成樹脂が(B-1)自己架橋性樹脂である、[1]に記載の水潤滑用しゅう動部材組成物。
〔3〕 (D)架橋成分をさらに含み、前記(D)架橋成分が、前記(B)水溶性又は水分散性を有する合成樹脂に反応可能な架橋剤および架橋助剤よりなる群から選ばれる少なくとも1種である、〔1〕に記載の水潤滑用しゅう動部材組成物。
〔4〕 前記(A)未変性セルロースナノファイバー、(B)水溶性又は水分散性を有する合成樹脂、および(C)水溶性分散剤、(D) 架橋成分の混合物が、機械的解繊手段により解繊処理かつ分散処理され、(A)未変性セルロースナノファイバーに(C)前記水溶性分散剤が吸着しており、かつ(B)水溶性又は水分散性を有する合成樹脂および水系溶媒中に均一分散させたものである、〔1〕~〔3〕に記載の水潤滑用しゅう動部材組成物の製造方法。
〔5〕 〔1〕~〔4〕に記載の水潤滑用しゅう動部材組成物から脱溶媒した後に、化学的架橋あるいは物理架橋された水潤滑用しゅう動部材組成物の製造方法。
〔6〕 〔1〕~〔5〕に記載のしゅう動部材組成物からなるしゅう動部材。
本発明によれば、水中あるいは水潤滑条件下で、低摩擦性、低摩耗性に優れ、しゅう動相手材料への攻撃性が低く、該相手材料を傷つけることのない水中用しゅう動部材を提供することができる。
本発明の水中用しゅう動部材組成物及び水中用しゅう動部材は、水溶性又は水分散性を有する合成樹脂をマトリックスとし、未変性セルロースナノファイバー、水溶性分散剤及び必要に応じて水溶性架橋剤を添加して、機械的な解繊処理と分散処理を一段で行い、未変性セルロースナノファイバー分散体組成物の水分散液を得て、該水分散体を乾燥、架橋処理することで水潤滑用しゅう動部材を提供することができる。
セルロースナノファイバーは幅4nm、長さ数μmであるセルロース結晶からなるナノ繊維であり、長さ方向のところどころに非晶領域が存在していることから、長さ方向の弾性率は140GPaと高いものの曲げ方向にはしなやかさを与えている。本発明による水中用しゅう動部材組成物は、曲げ方向に柔軟な未変性セルロースナノファイバーを補強繊維としていることから、当該しゅう動部材組成物から機械加工して作製する液体用リップシールについても充分な柔軟性を得ることができる。
さらに、本発明によるしゅう動部材組成物では、金属などのしゅう動相手材とのしゅう動初期にはセルロースナノファイバーより軟らかい、該部材のマトリックスである水溶性樹脂が先に摩耗して、未変性セルロースナノファイバーがしゅう動界面に残存し、その結果、未変性セルロースナノファイバーの端面、又は側面がしゅう動界面にまんべんなく多数存在する状態となる。これらのしゅう動界面に露出しているセルロースナノファイバーがしゅう動の加重を支えながらしゅう動することとなるので、結果として真実接触面が小さくなり、水中においては水による流体潤滑効果とあいまって、しゅう動部材全体として低摩擦、低摩耗を示す。
一般にしゅう動部材として用いられている組成物のマトリックス樹脂は、ほとんどが疎水性の性質を有する。疎水性の樹脂に、セルロースナノファイバーを添加しようとすれば、セルロースナノファイバーの表面に存在するセルロース由来の水酸基をアルキル基などの疎水基で変性する必要がある。疎水基で変性しないと、疎水性樹脂と溶融混練しようとすると、水酸基由来の強力な水素結合によりセルロースナノファイバー同士が結合し、凝集体となってしまうので、セルロースナノファイバーが均一分散せず、組成物として機械的強度や耐摩耗性は充分ではない。
疎水性樹脂にセルロースナノファイバーを分散させるため、セルロースナノファイバーを疎水変性するには複雑な化学反応工程を要し、組成物のコストとしては高いものとなる
水溶性又は水分散性を有する架橋性の合成樹脂の水溶液又は水分散液に、未変性セルロースナノファイバーと分散剤を添加して、セルロースナノファイバーの機械的解繊処理及び分散処理を行うことで、水溶性又は水分散性を有する合成樹脂に未変性セルロースナノファイバーが均一に分散し、経時的に分散が安定した組成物を得ることができる。水溶性又は水分散性を有する架橋性の合成樹脂が自己架橋性でない場合は、該組成物にあらかじめ該合成樹脂に反応し得る水溶性の架橋剤を添加し、機械的解繊処理及び分散処理を行なうことで、同様に経時的に分散が安定した組成物を得ることができる。その後、得られた組成物に化学架橋処理又は物理架橋処理することで水溶性又は水分散性を有する合成樹脂をマトリックスとした、セルロースナノファイバー組成物の架橋体が得られ、本発明によるしゅう動部材組成物を得ることが出来る。
未変性セルロースナノファイバーを含む、水溶性又は水分散性を有する架橋性の合成樹脂架橋体は、水中あるいは水潤滑条件下で優れた低摩耗性、低摩擦性を示すことを見出し、本発明をなすにいたった。
未変性セルロースナノファイバーを強化繊維とした水溶性又は水分散性を有する合成樹脂からなるしゅう動部材が、水中あるいは水潤滑条件下で優れた低摩擦性、低摩耗性を有するのは、先に述べたセルロースナノファイバーがしゅう動界面に露出した際の低摩擦性、耐摩耗性だけでなく、さらに、表面に水酸基を有する未変性セルロースナノファイバーおよび、水溶性又は水分散性を有する合成樹脂固有の親水的な性質により、しゅう動界面に水を豊富に引き寄せ、かつ保持することで、いわゆる流体潤滑の状態でしゅう動しているものと考える。流体潤滑では、流体である水がしゅう動界面に豊富に存在し、流体である水の層を介して相対する2物体(この場合は、しゅう動部材と相手材)がしゅう動するので、摩擦係数及び摩耗量が極めて小さくなり、結果として低摩擦、低摩耗をもたらすとされている。
さらに、繊維方向には剛直で熱膨張係数の小さいものの、曲げ方向に柔軟でかつ繊維サイズの小さいセルロースナノファイバーを補強繊維としていることから、本発明によるしゅう動部材組成物は、ガラス繊維や炭素繊維では得られない柔軟性を有する。そのため、リップシールに用いると、相手軸に形状がよくなじみ、そのうえ低摩擦性、低摩耗性を有することから、軸シールとして好適に用いることができる。
未変性セルロースナノファイバーの含有量が比較的少ないにも関わらず、良好な水中あるいは水潤滑条件下でのしゅう動特性が得られる理由のひとつとして、未変性セルロースナノファイバーの繊維径及び分散性が関係するものと推測している。本発明では、未変性セルロースナノファイバーの細径化及び分散の安定化は、後述するように例えば高速回転型メディアレス分散機を用いて行われる。このような細径化では、未変性セルロースナノファイバーは極限に使い3~10nm程度の繊維径までには粉砕されることはなく、繊維径10~100nmの未変性セルロースナノファイバーを比較的多く含むものとなりやすい。また、この段階で後述する分散剤を加えないと、細経化した未変性セルロースナノファイバーが時間と共に再凝集して結果として分散が不均一となりやすく、このためしゅう動部材のしゅう動面に現れる組成がバラつき、そのためにしゅう動特性のバラツキを生じて、良好な低摩擦性、低摩耗性を得られない場合が多くなる。本発明者らは、繊維径10~100nmの未変性セルロースナノファイバーがしゅう動部材のしゅう動面に均一分散していることが、これ以外の範囲の未変性セルロースナノファイバー、または不均一な分散状態よりもさらに良好な水中などの水潤滑条件下でのしゅう動特性を発現させることを見出した。
上述のように、本発明のしゅう動部材組成物は、未変性セルロースナノファイバーの他に、水溶性又は水分散性を有する合成樹脂及び水溶性分散剤を含み、未変性セルロースナノファイバーが前記合成樹脂中にほぼ均一に分散している。未変性セルロースナノファイバーの分散性が分散剤の存在により高まっている上に、合成樹脂として架橋性樹脂及び架橋剤を含むので、又は合成樹脂として自己架橋性樹脂を含むので、後述する架橋処理により、未変性セルロースナノファイバー間、架橋性樹脂(又は自己架橋性樹脂)間、未変性セルロースナノファイバーと架橋性樹脂(又は自己架橋性樹脂)との間のいずれかに架橋構造が導入される。これらのことにより、本発明しゅう動部材組成物は、耐水性が発現し、機械的強度、剛性が向上することとあいまって、水中あるいは水潤滑条件下でのしゅう動特性に優れる組成物とすることができるだけでなく、耐候性、耐熱性、柔軟性、耐薬品性、自己修復性に優れたものになる。
また、本発明のしゅう動部材組成物は、さらにポリエステル繊維やアラミド繊維、溶融紡糸によるセルロース繊維などの有機繊維の短繊維を加えることで、さらに耐水性および、機械的強度、剛性向上とあいまって、比較的負荷条件の高い場合でも水中あるいは水潤滑条件下しゅう動特性が優れた組成物となる。
好ましいポリエステル繊維としてはポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、ポリエチレンナフタレート繊維(PEN)、ポリブチレンナフタレート(PBT)などが挙げられ、アラミド繊維としては、ケブラー(商品名、東レ・デュポン(株)製)、コーネックス、テクノーラ、トワロン(いずれも商品名、帝人(株)製)などが挙げられ、セルロース繊維としては、テンセル(商品名、レンチン社製)、フォレッセ(商品名、東レ(株)製〕などを挙げることができる。
本発明の水中用しゅう動部材組成物は、マトリックスとする水溶性あるいは水分散性を有する合成樹脂を発泡体として用いることができる。この場合、未変性セルロースナノファイバーと水溶性又は水分散性を有する合成樹脂、水溶性の分散剤及び架橋成分を添加し、メディアレス分散装置で解繊処理と分散処理を一段で行って得た組成物を微細発泡する。
発泡剤としては、公知のものが使用可能で、超臨界流体、揮発系発泡剤、脂肪族炭化水素(プロパン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、ネオペンタンなど。)、塩素化脂肪族炭化水素(塩化メチル、塩化メチレン、トリクロルエチレン、ジクロルエタンなど。)、フッ素化脂肪族炭化水素(トリクロルフルオロメタン、ジクロルラトラフルオロエタンなど。)、無機発泡剤(重炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸マグネシウム、亜硝酸アンモニウム、シュウ酸第一鉄、ほう水素化ナトリウムなど。)、有機発泡剤(アゾ系発泡剤、アゾジカルボンアミド:ADCA系、アゾジスイソブチロニトリル、ニトロソ系発泡剤、ジニトロソペンタメチレンテトラミン:DPT系、N,N-ジニトロソ-N,N-ジメチルテレフタルアミド、ヒドラジド系発泡剤、p-トルエンスルホニルヒドラジド、p,p-オキシ-ビス-(ベンゼンスルホニルヒドラジド)、ベンゼンスルホニルヒドラジド、トリヒドラジノトリアジンなど。)などが挙げられる。
また、これら各発泡剤の誘導体や、安定性、分散性などを向上させる処理をした発泡剤なども使用できる。また、樹脂などでカプセル化された発泡剤(マイクロカプセル発泡剤)も使用できる。
上記の発泡剤のなかでは、水系で使用可能な超臨界流体、揮発系発泡剤、脂肪族炭化水素が好ましい。中でも、発泡剤成分が樹脂組成物内に残留せず、しゅう動特性に影響を与えない、超臨界二酸化炭素、又は超臨界窒素から選ばれる、超臨界流体が好ましい。
微細発泡により、本発明の水中用しゅう動部材に、柔軟性、機械的強度および剛性の高さ、低摩擦性および低摩耗性などの特性がバランスよく得られ、特に当該しゅう動部材組成物をシールとして用いる場合は、軽量性に優れ、しゅう動部材が水で膨潤して、相手軸とのなじみ性、運転時の軸のブレや振動に対する追従性に優れたものとなり、結果として高いシール性が得られる。
さらに、本発明の水中用しゅう動部材は、含浸法によっても作製することができる。未変性セルロースナノファイバーと分散剤を、あらかじめ、後述する高速回転型メディアレス分散機で解繊及び分散処理を行ない、未変性セルロースナノファイバーの分散体を調製する。該分散体から公知の湿式抄紙法によって未変性セルロースナノファイバーシートを作製し、該シートを乾燥後に水溶性又は水分散性を有する合成樹脂に架橋剤を加えた組成物の水溶液を当該シートに含浸した後、脱溶媒する。得られた該含浸シートを積層し、たとえば加熱加圧成形により所望の厚みの積層体を作製し、後述する架橋処理を行ない、水中用しゅう動部材用素材を得る。該しゅう動部材用素材を加工用素材として、機械加工等により所望の形状の水中用しゅう動部材としたものは、同様に水中あるいは水潤滑条件で好ましい低摩擦、低摩擦特性を示す。
また、本発明による未変性セルロースナノファイバー含浸シートの積層体からなるしゅう動部材は、該部材中のセルロースナノファイバーの含量が高いことから、しゅう動界面の単位面積当たりに露出するセルロースナノファイバーの数が多くなって、低摩擦性、低摩耗性に優れるとともに、柔軟性を有しており、液体用リップシールを含む水中用しゅう動部材として好適に用いることができる。
本発明による水中用しゅう動部材組成物は、一般的な熱成形によ成形体、発泡体、含浸シートの積層体いずれの形態であっても、セルロースナノファイバー/水溶性樹脂に架橋処理(化学架橋、物理架橋)を施すことによって、水潤滑条件において、低摩擦特性、低摩耗特性を示す。
本発明の水中用しゅう動部材組成物は、(A)未変性セルロースナノファイバー、(B)水溶性又は水分散性の合成樹脂、及び(C)水溶性分散剤を含み、未変性セルロースナノファイバーの含有量が、上述の成形体又は発泡体の場合は、架橋性樹脂100重量部に対して0.5重量部以上、10重量部以下、及び含浸シートからなる積層体の場合は、架橋性樹脂100重量部に対して0.5重量部以上、200重量部以下であり、未変性セルロースナノファイバーが繊維径10~100nmの未変性セルロースナノファイバーを含むものである。
本発明の水中用しゅう動部材は、水溶性又は水分散性を有する合成樹脂(以下、単に「合成樹脂」と表記することがある)と未変性セルロースナノファイバー、水溶性分散剤、架橋成分を含む組成物を、高速回転型メディアレス分散機を用いて解繊処理と分散処理を1段で行なって得た、水中用しゅう動部材組成物の水溶液を、熱可塑性樹脂製、熱硬化性樹脂製、又は金属製のスリーブの内周面あるいは外周面に塗布して、脱溶媒した後に架橋処理することで、水中において低摩擦性、低摩耗性に優れ、かつ相手軸を傷つけることの少ない、水中用しゅう動部材組成物を備えた軸受をつくることができる。
また前記水溶液を、任意の厚さに注型して脱溶媒後に架橋処理を行うことでシート状成形体を作成し、リング又はワッシャ形状に機械加工(打ち抜き加工など)することで、水潤滑に適したリップシールなどのしゅう動部材を作製することができる。
さらに、疎水変性されたセルロースナノファイバーを熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂に、二軸混練装置などで練り込んで樹脂組成物を得て、該組成物を射出成形などから軸受やシールなどを成形することによって、水中用しゅう動部材を作製することも可能である。
本発明によるしゅう動部材は、相手面へのなじみ性が高いことからしゅう動を伴わない、例えばパッキン、Oリング、ガスケットなどの静的な用途にも好適に使用することができる。
本発明によるしゅう動部材組成物(以下、単に「樹脂組成物」と表記することがある)の各成分の詳細は、次のとおりである。
[未変性セルロースナノファイバー]
未変性セルロースナノファイバーは、化学処理(化学的解繊とは異なる)を施さず、その分子鎖中及び/又は分子鎖末端のセルロース由来の水酸基が疎水変性されていない又は水酸基以外の官能基でブロックされていないセルロースナノファイバーであり、本発明では植物由来のパルプ等のセルロース原料を後述する機械的解繊によって解きほぐすことにより得られる繊維状物質である。セルロース原料は、例えば、一のセルロースナノファイバー内にて表面の複数の水酸基が水素結合を形成することにより、また、一のセルロースナノファイバー表面の水酸基と他のセルロースナノファイバー表面の水酸基とが水素結合を形成することにより、凝集体を含んでいることがある。この凝集体は、機械的解繊処理等により、容易に解きほぐすことがてきる。
また、本発明で使用する未変性セルロースナノファイバーは、機械的解繊処理を施すことにより、繊維径10~100nmの範囲の未変性セルロースナノファイバーを含むものになるという特徴がある。
前記範囲の繊維径を有する未変性セルロースナノファイバーは、前記範囲を以外の範囲の繊維径のものに比べ、樹脂組成物の機械的強度と、しゅう動特性とのバランスがよいと本発明者らは考えている。
未変性セルロースナノファイバーの繊維径、繊維長及びアスペクト比は特に限定されないが、繊維径が好ましくは100nm以下、より好ましくは80nm以下、さらに好ましくは60nm以下であり、繊維長が好ましくは10~1000μm、より好ましくは100~500μmであり、アスペクト比(繊維長/繊維径)が1000~15000、好ましくは2000~10000程度である。ここでの繊維径及び繊維長は、電子顕微鏡観察により任意の個数(例えば20本)の未変性セルロースナノファイバーの繊維径及び繊維長を測定し、得られた測定値の算術平均値として求められる。
未変性セルロースナノファイバーは、繊維径が前述のようにナノオーダーと非常に小さいことから、これを低濃度で水に分散させた場合、水中に未変性セルロースナノファイバーが分散していることは肉眼では認められず、透明な分散液となる。また、未変性セルロースナノファイバーを高濃度で水に分散させると、不透明な分散液となる。ここで、分散液は、エマルジョン、スラリー、ゲル、ペーストなどの種々の形態を含む。
なお、本発明樹脂組成物のように、未変性セルロースナノファイバーと後述する分散剤とを水系で共存させた場合には、少なくとも一部の未変性セルロースナノファイバー表面の官能基と少なくとも一部の分散剤とが反応し、これらのイオン結合体が形成されることがある。このようなイオン結合体は、例えば、未変性セルロースナノファイバーの分散安定性を長期間にわたって高水準に維持するような機能を有していると考えられる。
本発明では、未変性セルロースナノファイバーは、得られるナノファイバー複合体における未変性セルロースナノファイバーの分散性などの観点から、水系溶媒分散液の形態で用いることが好ましい。水系溶媒分散液における未変性セルロースナノファイバーの含有量は特に限定されないが、好ましくは水分散液全量の0.001~20重量%であり、より好ましくは水分散液全量の0.1~10重量%である。
なお、伸びきり鎖結晶からなる未変性セルロースナノファイバーの弾性率、強度はそれぞれ140GPaおよび3GPaに達し、代表的な高強度繊維、アラミド繊維に等しく、ガラス繊維よりも高弾性である。しかも、線熱膨張係数は1.0×10-7/℃と石英ガラスに匹敵する小ささである。
未変性セルロースナノファイバーの製造に使用するセルロースは、好ましくは水分散体として用いられる。セルロースの形状は、例えば、繊維状、粒状などの任意の形状である。セルロースとしては、リグニンやヘミセルロースを除去したミクロフィブリル化セルロースが好ましい。また、市販の微細セルロース繊維を使用してもよい。メディアレス分散機でミクロフィブリル化セルロースを処理すると、ミクロフィブリル化セルロースが繊維の長さを保ったまま繊維表面に存在する水酸基に由来する水素結合がほどけて細くなるが、処理条件を変えることで、繊維の切断もしくは分子量を低下させることも可能である。
本発明の樹脂組成物における未変性セルロースナノファイバーの配合量は特に限定されないが、水潤滑条件でのしゅう動特性と、本発明の樹脂組成物の加工性、取扱い性等とのバランスを考慮すると、好ましくは、しゅう動部材組成物が成形体又は発泡体の場合は、合成樹脂100重量部に対して0.5重量部以上、10重量部以下、及び含浸シートからなる積層体の場合は、合成樹脂100重量部に対して0.5重量部以上、200重量部以下である。未変性セルロースナノファイバーの配合量が0.5重量部未満では、本発明の樹脂組成物からなるしゅう動部材の低摩擦性又は低摩耗性が不十分になる傾向がある。一方、しゅう動部材組成物が成形体又は発泡体の場合は、未変性セルロースナノファイバーの配合量が10重量部以上であると、本発明樹脂組成物が大きく増粘し、その加工性、取扱い性等が著しく低下する傾向がある。その結果、本発明樹脂組成物からなるしゅう動部材の形成が困難になる傾向がある。
[合成樹脂]
本発明では、架橋性を有する合成樹脂は好ましくは溶液又は分散液の形態で用いられる。合成樹脂が水溶性である場合、合成樹脂の溶液は、合成樹脂を水系溶媒に溶解させた溶液であることが好ましい。水系溶媒とは、水、水に溶解可能な有機溶媒、及び水と水に溶解可能な有機溶媒との混合溶媒等が挙げられる。また、合成樹脂が水分散性である場合、合成樹脂の分散液は、前記と同様の水系溶媒を分散媒として用い強制乳化型エマルジョン、自己乳化型エマルジョンなどのエマルジョン、スラリーなどであることが好ましい。強制乳化型エマルジョンは、界面活性剤やその他の乳化剤を用いて合成樹脂を水系溶媒に分散させたものである。自己乳化型エマルジョンは、合成樹脂の主鎖骨格に側鎖および/又は末端基として親水性基を導入することにより、合成樹脂を水系溶媒に分散させたものである。水系溶媒の中でも、水、水と水溶性溶媒との混合溶媒が好ましく、水がより好ましい。
このような合成樹脂の具体例として、水溶性又は水分散性を有する架橋性樹脂、水溶性又は水分散性を有する自己架橋性樹脂等が挙げられる。架橋性樹脂とは、架橋性基及び架橋性構造から選ばれる少なくとも1種を有し、例えば架橋剤と反応して架橋構造を形成する合成樹脂であり、好ましくは、架橋性基及び架橋性構造から選ばれる少なくとも1種を有するとともに水溶性又は水分散性を有する合成樹脂である。ここで架橋性基としては特に限定されないが、例えば、エポキシ基、ヒドロキシ基、イソシアネート基、アミノ基、アミド基、カルボキシル基、エーテル基(例えばフルオロエチレンエーテル基など)、ヒドロシリル基などが挙げられる。架橋性樹脂は、架橋性基の1種又は2種以上を有することができる。これらの架橋性基は、合成樹脂の主鎖骨格に側鎖の少なくとも一部として結合してもよく、主鎖骨格の末端に結合してもよい。
また、架橋性構造としては特に限定されないが、例えば、ピロリドン構造、シロキサン構造、オキセタン構造などが挙げられる。架橋性樹脂は、架橋性構造の1種又は2種以上を有することができる。これらの架橋性構造は、合成樹脂の主鎖骨格の一部を形成していてもよく、合成樹脂の主鎖骨格の側鎖及び/又は末端に結合していてもよい。
また、架橋性樹脂は、水溶性又は水分散性を示すために、親水性基を有していてもよい、親水性基としては特に限定されないが、例えば、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシル基、スルホン基、エーテル基などが挙げられる。親水性基は、合成樹脂の主鎖骨格に側鎖の一部として結合してもよく、また、主鎖骨格の末端に結合してもよい。これらの親水性基の中でも、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシル基、エーテル基などを有する合成樹脂は、水分散性又は水溶性を有する架橋性樹脂となる。
架橋性樹脂は、架橋性基及び/又は架橋構造を有するものであれば特に限定されないが、架橋性合成樹脂は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
所定の機械的強度を兼ね備え、水中で低摩擦、低摩耗特性を発揮する架橋性樹脂としては架橋性合成樹脂が好ましく、未変性セルロースナノファイバーの架橋性樹脂への分散性等の観点から、ポリビニルアルコール樹脂、エチレンビニルアルコール共重合体樹脂、ポリカルボン酸系樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂がより好ましい。これらのうち、ポリビニルアルコール樹脂及びエチレンビニルアルコール共重合体樹脂、ポリアミド樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂は、機械的強度、低摩擦性、低摩耗性等に優れ、未変性セルロースナノファイバー間の隙間に容易に侵入し、セルロースナノファイバーと架橋製樹脂との接着性が高く、セルロースナノファイバーがしゅう動時のせん断力で容易には樹脂相から抜け落ちにくいために摩耗量が低く、耐摩耗性に優れ、かつ真実接触面積が小さくなることで低摩擦特性を発揮する成形体、シート、フィルム等を作製することができる。これらの樹脂は、単独で用いてもよいし、両者を任意の割合でブレンドして用いてもよい。
なお、架橋性樹脂の分子量は特に限定されるものではないが、例えば、最終的に得られるナノセルロース複合体およびその成形体のしゅう動特性(低摩擦性、低摩耗性)、機械的特性、剛性、その他の特性の向上を図る上では、重量平均分子量として2000以上であることが好ましい。
本発明において、水溶性又は水分散性を有する合成樹脂として架橋性樹脂を用いるには、架橋性樹脂が有する架橋性基及び/又は架橋性構造と反応可能な架橋剤を、架橋性樹脂と併用することが好ましい。架橋剤については後述する。
また、架橋性の合成樹脂としては、架橋剤を用いなくても自身の分子内に架橋構造を形成し得る自己架橋性樹脂を用いることもできる。自己架橋性樹脂としては、水溶性又は水分散性を有するものであれば特に限定されないが、例えば、-ブチルアクリレート/グリシジルアクリレート共重合体、カルボキシル基含有ビニル単量体/スルホン酸基含有ビニル単量体共重合体等が挙げられる。また、自己架橋性樹脂と共に後述する架橋剤を用いることもできる。なお、自己架橋性樹脂の場合も、水溶性又は水分散性であるものが好ましい。
また、合成樹脂を溶液又は分散液とした場合、合成樹脂の濃度は特に限定されないが、得られるナノファイバー複合体におけるナノファイバーと合成樹脂との均一分散性、合成樹脂の溶液又は分散液の取扱い性などの観点から、合成樹脂の溶液又は分散液全量の、好ましくは1~50重量%、より好ましくは5~45重量%、さらに好ましくは10~40重量%である。
[分散剤]
分散剤は水溶性分散剤であり、好ましくは未変性セルロースナノファイバーが表面に有する水酸基などの官能基とイオン結合可能な水溶性分散剤であり、より好ましくは未変性セルロースナノファイバーが表面に有する水酸基などの官能基とイオン結合可能でありかつ静電反発力などにより本発明の樹脂組成物中での未変性セルロースナノファイバーの分散性及び分散安定性を高め得るような分散剤である。該分散剤としては、前述のように水溶性であれば特に限定されないが、陰イオン性分散剤を好ましく使用できる。陰イオン性分散剤としては、例えば、リン酸基、-COOH基、-SOH基、これらの金属エステル基、及びイミダゾリン基から選ばれた少なくとも1種の官能基を有する化合物、アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(共)重合体などが挙げられる。陰イオン性分散剤は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
陰イオン性分散剤の具体例としては特に限定されないが、例えば、ポリアクリル酸とその塩、ポリメタクリル酸とその塩、ポリアクリル酸共重合体とその塩、ポリイタコン酸とその塩、オレフィン由来モノマーおよび不飽和カルボン酸(塩)由来モノマーを含む共重合体、ポリマレイン酸共重合体とその塩、ポリスチレンスルホン酸とその塩、スルホン酸基結合ポリエステルなどのカルボン酸系陰イオン性分散剤、アルキルイミダゾリン系化合物などの複素環系陰イオン性分散剤、、酸価とアミン価とを有する陰イオン性分散剤、ピロリン酸、ポリリン酸、トリポリリン酸、テトラポリリン酸、メタリン酸、トリメタリン酸、テトラメタリン酸、ヘキサメタリン酸、ホスホン酸、これらの塩などのリン酸系陰イオン分散剤、スルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、リグニンスルホン酸、これらの塩などのスルホン酸系陰イオン分散剤、オルトケイ酸、メタケイ酸、フミン酸、タンニン酸、ドデシル硫酸、これらの塩などのその他の陰イオン性分散剤などが挙げられる。これらの中でも、リン酸、ポリリン酸、リン酸塩、ポリリン酸塩、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸共重合体、ポリアクリル酸塩、ポリアクリル酸共重合体塩などが好ましい。
また、陰イオン性分散剤として、アクリル酸やメタクリル酸と、他の単量体を共重合させた共重合体を用いることもできる。他の単量体としては、例えば、α-ヒドロキシアクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸などの不飽和カルボン酸およびそれらの塩、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸などの不飽和スルホン酸およびそれらの塩等が挙げられる。
上記した陰イオン性分散剤の塩を構成するカチオンとしては特に限定されないが、例えば、ナトリウム、カリウム、リチウムなどのアルカリ金属、カルシウムなどのアルカリ土類金属、マグネシウム、アンモニウム基などが挙げられる。水に対する溶解性の点からナトリウム、カリウム、アンモニウム基などがより好ましく、カリウムが最も好ましい。
本発明では市販の陰イオン性分散剤を用いてもよく、市販品の具体例としては、アロンA-6114(商品名、カルボン酸系分散剤、東亜合成(株)製)、アロンA-6012(商品名、スルホン酸系分散剤、東亜合成(株)製)、デモールNL(商品名、スルホン酸系分散剤、花王(株)製)、SD-10(商品名、ポリアクリル酸系分散剤、東亜合成(株)製)などが挙げられる。
また、本発明に用いられる陰イオン性分散剤として、(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(共)重合体を用いてもよい。(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(共)重合体は、本発明により得られるナノファイバー複合体中の各成分の分散安定性、特にナノファイバーの分散安定性を高め得るとともに、例えば、生体適合性を有し、本発明のナノセルロース複合体を医療用途、食品用途などに用いる場合の分散剤として好適に使用できる。ここで、(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンとは、メタアクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、及びアクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを包含する。これらは、常法に従って製造される。例えば、2-ブロモエチルホスホリルジクロリドと2-ヒドロキシエチルホスホリルジクロリドと2-ヒドロキシエチルメタクリレートとを反応させて2-メタクリロイルオキシエチル-2′-ブロモエチルリン酸を得、更にこれをトリメチルアミンとメタノール溶液中で反応させて得ることができる。
本発明では(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(共)重合体の市販品を用いてもよく、市販品の具体例としては、例えば、リピジュアHM、リピジュアBL(いずれも商品名、ポリメタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)、リピジュアPMB(商品名、メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン・メタクリル酸ブチルコポリマー)、リピジュアNR(商品名、メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン・メタクリル酸ステアリルコポリマー)などが挙げられる。これらはいずれも日油(株)製である。
[架橋剤]
本発明の製造方法で使用する架橋剤は、主に架橋性樹脂が有する架橋性基、架橋構造や、ナノセルロースがその表面に有する官能基と架橋反応を起こすものである。該架橋反応の結果、架橋性樹脂間、未変性セルロースナノファイバー間、架橋性樹脂と未変性セルロースナノファイバーとの間の少なくとも1つに、架橋剤に由来する架橋構造が形成され、得られる本発明の樹脂組成物の機械的特性やしゅう動特性が向上する。
架橋剤としては、架橋性樹脂が有する架橋性や架橋構造、ナノセルロースが表面に有する官能基などとの反応性を有するものであれば特に限定されないが、例えば、多官能性モノマー、多官能性樹脂、有機過酸化物、重合開始剤などが挙げられる。これらの架橋剤は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
多官能性モノマーとしては、多官能アクリル系モノマー、多官能アリル系モノマー、およびこれらの混合モノマー等が挙げられる。
多官能アクリル系モノマーの具体例としては、例えば、エチレンオキシド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、PO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、トリス(メタクリロキシエチル)イソシアヌレートなどが挙げられる。これらの中でも、皮膚刺激性が低いという観点からは、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート(トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌル酸のトリアクリル酸エステル)を好ましく使用できる。多官能アクリル系モノマーは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
多官能アリル系モノマーとしては、例えば、トリアリルシアヌレート(TAC)、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート(DA-MGIC)、ジアリルフタレート、ジアリルベンゼンホスフォネートなどが挙げられる。多官能アリル系モノマーは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる
多官能性モノマーは、必要に応じて重合開始剤と併用することができ、また、酸触媒、安定剤等を併用することができる。重合開始剤、触媒、安定剤等の本発明樹脂組成物への添加時期は特に限定されないが、例えば、未変性セルロースナノファイバー、架橋性樹脂、分散剤、水系溶媒と同時に混合される。
多官能性モノマーの配合量は特に限定されないが、架橋性樹脂の固形分重量に対して、好ましくは0.01~10重量%、より好ましくは0.1~5重量%である。多官能性モノマーの配合量が0.01重量%未満の場合は、本発明樹脂組成物の機械的特性、熱的特性が顕著に向上しない傾向がある。多官能性モノマーの配合量が10重量%を上回る場合には、本発明樹脂組成物の伸びや衝撃強さなどの機械的特性に悪影響を及ぼす傾向がある。
多官能性樹脂(多官能性ポリマー)の具体例としては、例えば、エポキシ樹脂、イソシアネート樹脂、シアネート樹脂、マレイミド樹脂、アクリレート樹脂、メタクリレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、オキセタン樹脂、ビニルエーテル樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂等が挙げられる。これらの中でも、熱硬化性エポキシ樹脂、エポキシ(メタ)アクリレート樹脂などの放射線硬化性樹脂などが好ましい。なお、多官能性樹脂は架橋性樹脂よりも相対的に分子量の低いものである。多官能性樹脂の分子量は、重量平均分子量として1000未満が好ましい。多官能性樹脂は、架橋性樹脂と同様に、水酸基やカルボキシル基などの親水性基で変性された自己乳化性のもの、乳化剤により分散媒中に分散可能な強制乳化型のものが好ましい。これらの樹脂を架橋剤として用いる場合、架橋性樹脂とは樹脂種の異なるものを用いるのが好ましい。多官能性樹脂の配合量は、架橋性樹脂の固形分重量に対して好ましくは3~20重量%、より好ましくは5~15重量%である。
有機過酸化物は、例えば、加熱によりフリーラジカルを発生し、これにより、架橋性樹脂同士間、未変性セルロースナノファイバー同士間、架橋性樹脂と未変性セルロースナノファイバーとの間の少なくとも一部を架橋する。なお、有機過酸化物は重合開始剤の範疇にも入るものであるが、本明細書では重合開始剤とは別個に記載する。有機過酸化物の具体例としては、例えば、ジクミルパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3、1,3-ビス(tert-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1-ビス(tert-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、n-ブチル-4,4-ビス(tert-ブチルパーオキシ)バレレート、ベンゾイルパーオキサイド、p-クロロベンゾイルパーオキサイド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、tert-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ジアセチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、tert-ブチルクミルパーオキサイド、過酸化ベンゾイル、tert-ブチルヒドロパーオキサイドなどが挙げられる。有機過酸化物は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。有機過酸化物の配合量は、架橋性樹脂及び未変性セルロースナノファイバーの合計固形分量に対して好ましくは0.0001~10重量%、より好ましくは0.01~5重量%、さらに好ましくは0.1~3重量%である。
重合開始剤は、例えば、加熱又は電離放射線照射によりフリーラジカルを発生し、これにより、架橋性樹脂同士間、未変性セルロースナノファイバー同士間、架橋性樹脂と未変性セルロースナノファイバーとの間の少なくとも一部を架橋する。重合開始剤の具体例としては、例えば、アゾ化合物、過硫酸塩などが挙げられる。また、重合開始剤は水溶性のものでも、非水溶性のものでもよい。
重合開始剤の具体例としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)などの疎水性アゾ化合物、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]などの水溶性アゾ化合物;過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩名とが挙げられる。重合開始剤の配合量は、架橋性樹脂及びナノファイバーの合計固形分量に対して、好ましくは0.0001~5重量%、より好ましくは0.01~3重量%、さらに好ましくは0.1~1重量%程度である。
なお、本発明では架橋剤と共に、酸触媒を用いてもよい。酸触媒は、例えば、架橋性性樹脂の架橋性基および/または架橋構造と架橋剤の求核性反応基との反応を促進させるために用いられる。酸触媒の具体例としては、例えば、p-トルエンスルホン酸、クエン酸、酢酸、リンゴ酸等の有機酸、塩酸、硫酸、スルホン酸等の無機酸、三フッ化ホウ素、塩化亜鉛、塩化スズ、塩化アルミニウムなどのルイス酸が挙げられる。酸触媒は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。酸触媒の配合量は、架橋性樹脂の固形分量100重量部に対して好ましくは0.1~8重量部である。酸触媒の配合量が0.1重量部未満では、架橋度が低くなりすぎる恐れがあり、8重量部を超えるとナノファイバー複合体中での相溶性が悪化する恐れがある。
水系溶媒は、水、水溶性溶媒、水と水溶性溶媒との混合溶媒などを含む。水溶性溶媒としては、前述の水溶性溶媒と同じものをいずれも使用でき、水溶性溶媒としては、水、低級アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール)、グリコール類(エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール)、グリセリン、アセトン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトアミドなどが好ましい。これらの水溶性溶媒は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。好ましい水系溶媒は、水、水と水溶性溶媒との混合溶媒などであり、特別な廃液処理設備が不要で環境汚染をしにくい水が特に好ましい。
また水としては、水は、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水、または超純水を用いることができる。また、紫外線照射、または過酸化水素添加などにより滅菌した水を用いることにより、長期保存におけるカビまたはバクテリアの発生を防止することができるので好適である。
また、本発明の樹脂組成物にアルカリ剤を配合し、そのpHを弱アルカリに調整することにより、未変性セルロースナノファイバーの分散性及び分散安定性をさらに向上させることができる。アルカリ剤としては特に限定されず、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどが挙げられる。アルカリ剤は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
[その他の添加剤]
また、本発明では、得られる本発明樹脂組成物の好ましい特性を損なわない範囲で、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粉末、グラファイト、二硫化モリブデンなどの固体潤滑剤、ヒンダードフェノール、リン酸エステルや亜リン酸エステルなどの酸化防止剤、耐熱安定剤、トリアジン系化合物などの耐候性付与剤等の安定剤、ガラス繊維等の繊維状充填材、ガラスビーズ、金属粉末、シリカ等の粉状充填材、顔料、染料等の着色剤、滑剤、揆水剤、アンチブロッキング剤、レベリング剤、消泡剤、金属石鹸、有機シラン、有機金属化合物、防腐剤などを配合することができる。これらの添加剤は、上記した各成分と共に同時に一段で混合してもよく、また、得られた本発明の樹脂組成物に添加及び混合してもよい。
これらの添加剤の中でも、酸化防止剤が好ましく、フェノール系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤などが挙げられる。これらの中でも、フェノール系酸化防止剤が特に好ましい。酸化防止剤の配合量は、未変性セルロースナノファイバー及び架橋性樹脂の合計固形分量又は未変性セルロースナノファイバー、架橋性樹脂及び分散剤の合計固形分量に対し、通常0.1~10重量%。好ましくは0.2~5重量%である。
本発明の樹脂組成物は、例えば、混合工程を含み、混合工程の前に実施される予備混合工程、混合工程の後に実施される架橋工程、成形工程等を含む製造方法により作製できる。この製造方法において、予備混合工程、架橋工程及び成形工程の有無、架橋工程及び成形工程の順序などは得ようとする本発明樹脂組成物の形態や用途などに応じて適宜選択できる。この製造方法によれば、未変性セルロースナノファイバーが架橋性樹脂中にほぼ均一に分散した樹脂組成物、該樹脂組成物の固形分からなる成形品、該樹脂組成物の固形分の少なくとも一部を架橋させた架橋成形品などが得られる。各工程の詳細は次の通りである。
[予備混合工程]
予備混合工程では、水系溶媒に、未変性セルロースナノファイバー、水溶性又は水分散性を有する合成樹脂、水溶性分散剤、水溶性又は水分散性を有する合成樹脂に反応可能な架橋成分、及び他の添加剤より成る群から選ばれる少なくとも1種を添加及び混合する。未変性セルロースナノファイバー、合成樹脂、水溶性分散剤、その他添加剤などを水系溶媒に添加する場合は、機械的解繊処理を行うことなく単に混合だけを行なうことにより、予備混合物(ア)が得られる。また、未変性セルロースナノファイバー及び分散剤を水系溶媒に添加及び混合して予備混合物(イ)を得る場合は、機械的解繊処理下に混合を行なってもよく、単なる混合のみを行なってもよい。ここでの混合には、例えば、ホモジナイザー、ロッキングミル、ヘンシェルミキサー、インラインミキサー、二軸ニーダー等の混合装置が用いられる。なお、合成樹脂が自己架橋性を有さない架橋性樹脂である場合は、架橋性樹脂と共に架橋剤を用いることが好ましい。
[混合工程]
混合工程では、未変性セルロースナノファイバー、水溶性又は水分散性を有する合成樹脂、水溶性分散剤、水系溶媒、架橋性分、及び必要に応じてその他の添加剤などを機械的解繊処理下に一段で混合する。合成樹脂が自己架橋性を有さない架橋性樹脂である場合は、架橋性樹脂と共に架橋剤を併用することが好ましい。また、混合工程では、予備混合工程で得られた予備混合物(ア)に機械的解繊処理を施してもよく、予備混合物(イ)にさらに合成樹脂、水系溶媒等を添加及び混合する二段混合を行ないつつ、機械的解繊処理を施してもよい。ここで、一段での混合とは、上記した各成分を同一容器に一度に投入して混合することを意味する。混合工程では、合成樹脂は、得られる樹脂組成物の水系溶媒溶液又は水系溶媒分散液(以下これらを「樹脂組成物の溶液又は分散液」という)中での未変性セルロースナノファイバーの分散性などの観点から、溶液又は分散液の形態で用いることが好ましく、水系溶媒溶液又は水系溶媒分散液の形態で用いることがより好ましい。また、ナノファイバー、分散剤、架橋剤、その他の添加剤は、それぞれ別々に水系溶媒に溶解又は分散させた形態で用いてもよい。
機械的解繊処理は、予備混合工程で得られた予備混合物又は混合工程で各成分を同一容器に同時に投入した混合物に対して、せん断力を付与できる装置を用いて実施される。このような装置としては、高圧ホモジナイザー、水中カウンターコリジョン、高速回転分散機、ビーズレス分散機、高速撹拌型メディアレス分散機などが挙げられる。これらのなかでも、未変性セルロースナノファイバーの合成樹脂中への分散性が一層高くなるだけでなく、不純物の混入が少なく、純度の高いナノファイバー複合体が得られるという観点から、高速撹拌型メディアレス分散機が好ましい。
高速攪拌型メディアレス分散機とは、分散メディア(例えば、ビーズ、サンド(砂)、ボール等)を用いず、せん断力を利用して分散処理を行う分散機である。高速攪拌型メディアレス分散機は市販品を使用できる。該市販品としては、例えば、DR-PILOT2000、ULTRA-TURRAXシリーズ、Dispax―Reactorシリーズ(いずれも商品名、IKA社製)、T.K.ホモミクサー、T.K.パイプラインホモミクサー(いずれも商品名、プライミクス(株)製)、ハイ・シアー・ミキサー(商品名、シルバーソン社製)、マイルダー、キャビトロン(いずれも商品名、大平洋機工(株)製)、クレアミックス(商品名、エムテクニック(株)製)、ホモミキサー、パイプラインミキサー(商品名、みずほ工業(株)製)、ジェットペースタ(商品名、日本スピンドル製造(株)製)、アペックスディスパーザー ZERO(商品名、(株)広島メタル&マシナリー製)等が挙げられる。
高速攪拌型メディアレス分散機の中でも、ステータとロータとを備える型式の高速攪拌型メディアレス分散機が好ましい。この型式の具体例としては、例えば、ステータと、ステータの内部で回転するロータとを備える型式、ステータおよびロータが多段階に設置された型式などが挙げられる。上記した市販品の中では、アペックスディスパーザー ZEROがこの型式である。この型式では、ステータとロータの間には隙間がある。この隙間の寸法を「せん断部クリアランス」とする、ロータの回転下に、ステータとロータの隙間に上記各成分の混合液を通過させることにより、該混合液にせん断力を付与でき,未変性セルロースナノファイバーのさらなる細径化、未変性セルロースナノファイバーの合成樹脂への均一分散のさらなる向上などを図り得る。また、上記各成分の混合液全体に均一にせん断力を付与する観点から、上記各成分の混合液が装置内を循環するインライン循環式高速攪拌型メディアレス分散機が好ましい。
高速撹拌型メディアレス分散機を用いる場合、せん断速度、せん断部クリアランスおよびロータの回転周速、特にせん断部クリアランスおよびロータの回転周速を所定の範囲に設定することにより、未変性セルロースナノファイバーのさらなる細径化や、合成樹脂へのさらなる均一分散、得られる樹脂組成物中での未変性セルロースナノファイバーの沈降防止などの優れた効果が得られることが、本発明者らの研究により判明している。
せん断速度は、900,000[1/sec]を超えることが好ましい。せん断速度が900,000[1/sec]以下である場合には、未変性セルロースナノファイバーのさらなる解繊、および合成樹脂への分散が共に不十分になる傾向がある。また、せん断速度は、2,000,000[1/sec]以下が好ましく、1,500,000[1/sec]以下が好ましく、1,200,000[1/sec]以下がより好ましい。
せん断部クリアランスは、せん断速度、上記各成分の混合液の粘度などに応じて適宜設定されるが、未変性セルロースナノファイバーを最大限細径化し、また、未変性セルロースナノファイバーの合成樹脂中への分散性の一層の向上を図る観点から、100μm以上が好ましく、150μm以上がより好ましく、200μm以上が更に好ましい。また、上記各成分の混合液の粘度が高くても、分散機の回転数を適正範囲に保持しつつ高分散性を確保する観点から、クリアランスは、2mm以下が好ましく、1.5mm以下がより好ましく、1.2mm以下がさらに好ましい。
ロータの回転周速は、せん断速度に応じて適宜設定されるが、未変性セルロースナノファイバーの最大限の細径化径や、合成樹脂中への分散性の一層の向上等を図る観点から、18m/s以上が好ましく、20m/s以上がより好ましい。また、しゅう動特性の観点から最適な10~100nmという繊維径を得るためには、回転周速は、60m/s以下が好ましく、50m/s以下がより好ましく、45m/s以下がさらに好ましい。回転周速は、ロータの最先端部分の周速である。
予備混合工程および混合工程において、上記した各成分の配合量は特に限定されないが、例えば、しゅう動部材組成物が成形体又は発泡体の場合は、架橋性樹脂100重量部に対して0.5重量部以上、10重量部以下、配合する合成樹脂の全固形分量を100重量部に対して、未変性セルロースナノファイバーを好ましくは0.5重量部以上、10重量部未満、より好ましくは0.5~5.5重量部、水系溶媒を好ましくは100~10000重量部、より好ましくは150~1000重量部、分散剤を好ましくは0.01~0.5重量部、より好ましくは0.025~0.25重量部配合すればよい。架橋剤の配合量は前述したとおりである。
混合工程で得られる樹脂組成物の溶液又は分散液は、水系溶媒中に未変性セルロースナノファイバーと合成樹脂とがほぼ均一に分散し、時間を経過しても未変性ナノファイバーの沈降が非常に少ないものである。また、該樹脂組成物の溶液又は分散液中には、少なくとも一部の未変性セルロースナノファイバーの表面に分散剤がイオン結合している場合がある。未変性セルロースナノファイバーと分散剤とのイオン結合体は、後述する成形後および架橋後にも残留する場合がある。また、該樹脂組成物の溶液又は分散液に含まれる未変性セルロースナノファイバーの平均繊維径は10~100nm程度、好ましくは10~40nm程度、より好ましくは10~30nm程度であり、繊維径10~20nmの未変性セルロースナノファイバーを含むものとなる。すなわち、混合工程を実施することにより、未変性セルロースナノファイバーの繊維径がさらに細径化していることがある。また、混合工程のように一段の混合で樹脂組成物の溶液又は分散液が得られるので、従来の二段工程に比べて、大幅な省力化(特に量産時の大幅な省力化)を達成できる。
[架橋工程]
架橋工程では、混合工程で得られた本発明の樹脂組成物の溶液又は分散液に対して架橋処理を施す。このとき、樹脂組成物が架橋性樹脂及び架橋剤を含む場合、又は樹脂組成物が自己架橋性樹脂及び必要に応じて架橋剤を含む場合は、少なくとも一部の未変性セルロースナノファイバー間、少なくとも一部の未変性セルロースナノファイバーと少なくとも一部の架橋性樹脂(又は自己架橋性樹脂)との間、および少なくとも一部の架橋性樹脂(又は自己架橋性樹脂)間の1又は2以上に架橋剤及び/又は自己架橋性樹脂による架橋構造が形成された架橋体を含む本発明の樹脂組成物の架橋体の溶液又は分散液が得られる。これを後述する成形工程に従って成形することにより、機械的強度、耐熱性、耐薬品性、耐摩耗性、耐傷つき性、吸水性、保水性、ガスバリア性、自己修復性などが一層向上した、架橋構造を含む成形品が得られる。また本発明では、水系溶媒を分散媒として用いているので、本発明の樹脂組成物の溶液又は分散液にそのまま架橋処理を施しても、安全性が高いという利点がある。
架橋処理の方法としては特に限定されないが、本発明の樹脂組成物に含まれる架橋剤を利用した化学的架橋法および物理的架橋法が好ましい。
化学的架橋法の具体例としては、例えば、加熱による架橋などが挙げられる。加熱条件は、樹脂組成物の成分組成、固形分濃度、架橋性樹脂(又は自己架橋性樹脂)および架橋剤の種類や配合量、設定される架橋度合い、得られる樹脂組成物の架橋体に設定される各物性の値などに応じて適宜選択されるが、通常は約30℃以上の温度下での長時間加熱により架橋が形成される。架橋に要する時間を短くして工程全体としての省力化を図り、また架橋後の本発明樹脂組成物の各物性をさらに向上させる観点から、加熱条件は、好ましくは30℃~220℃の温度下で1分以上、より好ましくは100℃~180℃の温度下で1~40分、さらに好ましくは125℃~140℃で1~20分(好ましくは5~10分)である。
物理的架橋の具体例としては、例えば、電離放射線の照射による架橋などが挙げられる。電離放射線の照射による架橋は、制御が容易であるという利点がある。電離放射線としては特に限定されないが、電子線、γ線、X線、荷電粒子線、紫外線、中性子線等が挙げられる。これらの中でも、電離放射線を発生させる装置の入手容易性、架橋反応の制御の容易性、安全性等の観点から、紫外線、γ線、電子線などが好ましい。
電離放射線の照射線量は、本発明樹脂組成物の成分組成、固形分濃度、架橋性樹脂(又は自己架橋性樹脂)および架橋剤の種類や配合量、設定される架橋度合い、得られる樹脂組成物り架橋体に設定される各物性の値などに応じて適宜選択できるが、好ましくは10kGy~1000kGy、より好ましくは10~50kGyである。照射線量が10kGy未満では、最終的に得られる成形品の架橋度が不足し、成形品の物性が低下する傾向がある。一方、照射線量が1000kGyを超えると、成形品の着色が大きくなるとともに、架橋構造が形成される領域以外での分子鎖の切断などが増大することにより、成形品の物性が低下する傾向がある。
架橋の度合いは、架橋度として通常20~98%、好ましくは60~98%である。架橋度が20%未満では、最終的に得られる成形品の剛性、耐クリープ性、耐摩耗性などの機械的強度や耐熱性のさらなる向上を得られない場合がある。また、架橋度が98%を超えると、架橋構造が形成される領域以外での分子鎖の切断などが増大することにより、成形品の物性が低下する場合がある。架橋度は、例えばゲル分率(%)として求められる。ゲル分率(%)の具体的な求め方は後述する。
[成形工程]
成形工程では、本発明樹脂組成物又はその架橋体の溶液又は分散液を成形する。すなわち、樹脂組成物又はその架橋体の溶液又は分散液から水系溶媒を除去しながら成形することにより成形品が得られる。また、樹脂組成物又はその架橋体の溶液又は分散液から水系溶媒を除去した固形分を成形することにより、成形品が得られる。ここで、成形方法としては、樹脂溶液又は樹脂分散液から成形品を得るための公知の方法を限定なく利用できるが、樹脂組成物又はその架橋体に含まれる架橋性樹脂(又は自己架橋性樹脂)の種類などに応じて成形方法を適宜選択することが好ましい。
本発明の樹脂組成物又はその架橋体の溶液又は分散液から水系溶媒を除去しながら成形する方法としては、例えば、溶液キャスト(流延)法のほか、樹脂コーティング法、異形押出し成形法、ブロー成形法、圧縮成形法、真空成形法、射出成形法等が挙げられる。これらの中でも、各種基材表面に膜状(又はフィルム状又はシート状)成形品を形成する樹脂コーティング法が一般的である。樹脂コーティング法では、例えば、樹脂組成物又はその架橋体の溶液又は分散液を基材表面に塗布し、加熱乾燥することにより、膜状成形品が得られる。ここで、塗布方法としては特に限定されず、例えば、スピンコーター法、バーコーター法、スプレーコート法、刷毛、ヘラ、ブラシやローラーによる塗布、ディッピング法、電着塗装法などが挙げられる。
樹脂組成物又はその架橋体の溶液又は分散液から水系溶媒を除去して得られる固形分の成形方法としては、例えば、平面プレス法の他に、該樹脂組成物が電離放射線により硬化可能な架橋性樹脂(又は自己架橋性樹脂)や架橋剤を含む場合には、マテリアルジェッティング方式、バインダージェッティング方式、光造形3Dプリンティング方式などが挙げられる。
成形工程では、成形と架橋とが同時に実施されることがある。例えば、注型や圧縮成形などの金型内で樹脂組成物又はその架橋体の溶液又は分散液を高温状態(120~150℃程度)に保持する成形形態、得られた成形品を金型から取り出した後に熱風炉等でポストキュアする成形形態、基材表面に樹脂組成物又はその架橋体の溶液又は分散液の塗膜を形成し、これを熱風炉等でポストキュアする成形形態、樹脂組成物又はその架橋体の溶液又は分散液をハイドロゲル化した固形物をそのままポストキュアする成形形態などでは、成形と化学的架橋とが同時に行なわれる。
本発明による水中用しゅう動部材としては、発泡体を使用することができる。前記、未変性セルロースナノファイバー、水溶性又は水分散性を有する合成樹脂、及び分散剤からなる樹脂組成物を、注型後、乾燥などの方法により脱溶媒して成形体を作成し、加熱可能な高圧容器に入れて超臨界流体とともに封入し、超臨界流体を該成形体に含浸した後に、急減圧することで、該成形体を発泡させることができる。
前記の発泡に用いられる発泡媒体の具体例としては、二酸化炭素、窒素等が挙げられる。これらの中で、水溶性又は水分散性を有する合成樹脂への溶解度の高さ等の観点から、二酸化炭素が好ましく、超臨界の二酸化炭素を用いることが、より緻密な発泡体を形成出来るという点でより好ましい。
発泡媒体封入後の高圧容器内圧力は、1~30MPa程度が好ましく、3~25MPa程度がより好ましく、5~25MPa程度がさらに好ましい。高圧容器内の圧力を1MPa以上に設定することで、前記成形体中に不活性ガスをより多く含浸させることが出来る、また、溶解した不活性ガスが前記成形体を可塑化させるため発泡温度を低く出来る。
高圧容器内の温度としては、80~140℃程度が好ましく、90~130℃程度がより好ましく、100~120℃程度がさらに好ましい。高圧容器内の温度を水溶性又は水分散性を有する合成樹脂の軟化点付近以上に設定することで、発泡倍率が大きくなり、軽量化を図ることが出来る。また、高圧容器内の温度を水溶性又は水分散性を有する合成樹脂の軟化点付近に設定することで、発泡倍率が小さくなり、機械的強度、および摩擦摩耗特性の低下を抑制することが出来る。
前記高圧容器内に熱可塑性樹脂及び/又はゴム組成物と不活性ガスを封入し、上記のような高圧高温条件下で封入させた後、急減圧させることにより、熱可塑性樹脂及び/又はゴム組成物を発泡させることが出来る。
急減圧させる方法としては、高圧容器を一度に開放し、圧力を大気圧にまで減圧させる方法等が挙げられる。急減圧後の圧力としては、0.5×10~2×10Pa程度が好ましく、大気圧(1.01325×10Pa)であることがより好ましい。
樹脂組成物又はその架橋体の溶液又は分散液から、水系溶媒を除去しながら成形する別法としては、あらかじめ分散剤を加えて機械的解繊処理を行なったセルロースナノファイバーの水分散体から、抄紙によりセルロースナノファイバー及び水溶性分散剤からなるシートを作製し、該シートに水溶性樹脂(架橋性分成分を含む)を含浸して作製したプリプレグを経由して成形品を得る方法が挙げられる。水溶性樹脂を含浸させたセルロースナノファイバーシートからなるプリプレグを作製し、1又は複数のプリプレグに対して、プレス成形による加熱加圧、オートクレープを用いた加熱加圧などを行なうことににより、成形品が得られる。当該成形体を用いて、シールや軸受などの製品を機械加工によって作製することができる。
セルロースナノファイバーの水分散体を抄紙する方法は、特に限定されず、通常、紙を作るときに用いられる方法でよい。水に対するセルロースナノファイバーの濃度は、抄造性、流動性の点から考えると、0.01~10重量%、好ましくは0.02~5重量%が好ましく、分散剤の濃度はセルロースナノファイバーの固形分に対し、好ましくは0.1~50重量%、さらに好ましくは1~20重量%、より好ましくは5~20重量%含まれる。セルロースナノファイバーの分散体の分散媒の含有量は、好ましくは50~99.9重量%、さらに好ましくは60~99.5重量%、より好ましくは70~99重量%である。
該樹脂含浸シートの樹脂含量としては、セルロースナノファイバーの固形分に対し、好ましくは60~20重量%、より好ましくは50~30重量%である。
セルロースナノファイバーシートに水溶性樹脂を含浸する方法としては、あらかじめ抄紙法で作製したセルロースナノファイバーシートを、所定のサイズの浅型容器の底面と同形状、同寸法に切り取り、容器の底面に設置して、所定濃度の水溶性樹脂および所定量の架橋剤を配合、溶解、混合した水溶液を、該容器に注ぎこみ、乾燥させる。乾燥手段としては、自然乾燥、加熱乾燥、減圧乾燥、凍結乾燥などの公知の方法を採用することができる。
こうして得られる本発明の樹脂組成物又はその架橋体、発泡体、またはシート積層物は、前述のように、軸受成形品のしゅう動部に塗布したものを、しゅう動部材の潤滑皮膜としての使用、および成形体を作製しそのまま摺動部材として使用することができる。また、リング形状に加工して、水性媒体用のリップシールとして使用することができる。
本発明によるしゅう動部材組成物は、親水性の高い水溶性樹脂および未変性セルロースナノファイバーを使用し、架橋剤をマトリックス樹脂およびセルロースナノファイバーと反応させて架橋構造を形成していることから、耐水性が向上し、水潤滑環境下あるいは水中用途において、低摩擦性、および低摩耗性を示し、好ましく使用できる。本発明によるしゅう動部材組成物は、水による境界潤滑あるいは流体潤滑下であって、比較的低負荷条件であることが好ましい。
以下に、実施例および比較例を挙げて、本発明を具体的に説明する。なお実施例中で用いた各成分、装置および繊維径、水への溶解性、水の膨潤性、ゲル分率、曲げ強度、曲げ弾性率、水潤滑条件での主導特性の測定方法は下記のとおりである。
[合成樹脂]
ポリビニルアルコール(商品名:ポバールPVA-250、水溶性及び生分解性を有する、クラレ(株)製)は、10重量%水溶液として用いた。以下「PVA樹脂」と呼ぶことがある。
ポリアミド11樹脂(リルサン BMNO、アルケマ(株)製)は、20重量%のメタノール溶液として用いた。
水溶性ウレタン樹脂として、自己乳化性ウレタン樹脂の水分散エマルジョン(スーパーフレックス820、第一工業製薬(株)製、固形分30重量%)を用いた。
[未変性セルロースナノファイバー]
未変性セルロースナノファイバー(商品名:BiNFi-s、(株)スギノマシン製)5重量%水分散液として用いた。以下、「未変性CNF」と呼ぶことがある。
[分散剤]
アクリルスルホン酸系分散剤(商品名:アロン A-6012、水溶性、東亞合成(株)製)をそのまま用いた。
[架橋剤]
加熱処理による化学架橋には、両末端イソシアネート型ポリカルボジイミド(商品名:カルボジライトVS-02、多官能性樹脂、日清紡ケミカル(株)製)40重量%水溶液として用いた。以下「カルボジライト」と呼ぶことがある。
また、物理架橋には酸触媒としてクエン酸(試薬1級)、および架橋助剤としてトリアリルイソシアヌレート(TAIC、四国化成工業(株)製)を用いた。
[高速撹拌型メディアレス分散機]
アペックスディスパーザーZERO(商品名、(株)広島メタル&マシナリー製)を用いた。
<繊維径>
実施例および比較例で得られた樹脂組成物の水分散液を電界放出型電子顕微鏡(FE-SEM)で観察し、電子顕微鏡写真(50000倍)を撮影した。撮影した写真上において、写真を横切る任意の位置に、20本以上のナノファイバーと交差する2本の線を引き、線と交差する全てのナノファイバーり繊維径を測定し、得られた測定値(n=20以上)の算術平均値として平均繊維径(nm)を算出した。なお、繊維径の測定値に基づいて、繊維径分布の標準偏差およびナノファイバーの最大繊維径を求めることもできる。
<ゲル化の有無>
酸素プラズマで親水化処理したガラス基板上に、実施例及び比較例で得られた樹脂組成物の水分散液を速度3m/sでバーコーター塗布し、自然乾燥し、100mm×200mm×厚さ5μmのコーティング膜を形成した。このコーティング膜を170℃で20分間加熱し、化学架橋を行ない、架橋コーティング膜(コーティング膜の架橋体)を得た。得られた架橋コーティング膜の水への可溶分の有無からゲル化の有無を判定した。
<ゲル分率>
架橋度としてゲル分率を求めた。実施例及び比較例で得られた樹脂組成物の水系溶媒分散液を、100℃で2時間乾燥した後にその重量を秤量し、初期乾燥重量(g)を求めた。初期乾燥重量を秤量した試料を常温で24時間浸漬し後、溶解残渣を定量ろ紙でろ取し、100℃で2時間乾燥した後に秤量して、不溶解分重量(g)を求めた。ゲル分率は下記の式から算出される。
ゲル分率(%)=[(不溶解分重量)/(初期乾燥重量)]×100
<水潤滑しゅう動特性>
水潤滑条件でのしゅう動特性は、ピンオンディスク型摩擦摩耗試験機により、樹脂製ピン試料の金属ディスクに対する摩擦摩耗特性を調べた。試験では、ディクス内外径部上側に壁面を設け、摺動トラック部に精製水を溜めることで、水による流体潤滑条件(水中条件)でのしゅう動特性を測定した。
該試験における相手ディスク材料は、SUS304製ディスクの表面を、#240フラップホイールを用いて研磨することで表面粗さを調整した。ピン試料は、SUS304製の円柱状ピンホルダ(φ5×10L)の端面に、本発明による水中用しゅう動部材組成物の架橋体を接着剤で貼り付け、外径を機械加工で直径5mmに仕上げたものを試験に用いた。し、架橋処理を行なってからしゅう動試験を行なった。しゅう動試験用試料が固体である場合は、φ5サイズに加工した円盤状試料を前記ピンホルダに接着剤で貼付して用いた。試験条件を以下に示す。
<試験条件>
試験装置 :ピンオンディスク型摩擦摩耗試験機(オートピンディスク、スターライト工業(株)製)
相手ディスク:SUS304 (φ70×φ20×7t、Ra=0.3μm)
しゅう動円直径 :50 mm
試験荷重 :1 MPa
試験速度 :0.5 m/sec
試験温度 : 常温
試験時間 : 20hrs
測定項目 : 摩擦係数、 摩耗係数
なお、水潤滑しゅう動特性の評価は、以下の基準として、摩耗粉の状態は目視判定とした。
◎ : 摩擦係数が低く、ほぼ摩耗しない (摩耗粉の発生なし)
○ : 摩擦係数が低く、やや摩耗がある (摩耗粉が微量発生)
△ : 摩擦係数はやや高く、やや摩耗する(摩耗粉が微量発生)
× : 摩擦係数はやや高く、摩耗が多い(摩耗粉発生が多い)
(実施例1)
水溶性あるいは水分散性を有する合成樹脂として、ポリビニルアルコール樹脂(ポバール PVA-205、(株)クラレ製)を用いた。当該ポリビニルアルコール樹脂20gに、架橋剤としてカルボジライト(VS-02、日清紡ケミカル(株)製)を1g(PVA樹脂に対して5重量%)、未変性セルロースナノファイバー(BiNFi-s、(株)スギノマシン製)を固形分換算で0.2g(ポリビニルアルコール樹脂に対して1重量%)、アクリルスルホン酸系分散剤(アロンA-6012、東亞合成(株)製)を0.01g(未変性CNFに対して5重量%)、および精製水200gを、高速回転型メディアレス分散機(アペックスディスパーサーZERO)に同時に投入し、せん断部クリアランス1mm、ロータの回転周速45m/sに設定して、10分間の解繊処理を5回繰り返した(表1では「一段法」と表記)。これにより、固形分含量10重量%で白濁液状の本発明の樹脂組成物の水分散液(以下単に「水分散液(L)」と呼ぶことがある)を調製した。
得られた水分散液(L)の外観は白濁液状で、未変性セルロースナノファイバーの分散ムラや凝集は見られず、またこの水分散液を24時間以上静置しても未変性セルロースナノファイバーの沈殿は見られず、安定したスラリーであった。
この水分散液を、PTFE製トレイをに流延(溶液キャスト法)し、80℃×24hr乾燥して水分を除去し、85×70×1.2mmの樹脂組成物の曲げ試験片素材用成形体を得た。その後該成形体を150℃で1時間加熱して化学架橋した成形体から、機械加工により曲げ試験片を作製した。この試験片は、厚さを1.2mmとした以外はJIS K7171に準拠した。
また、曲げ試験は、前記の曲げ試験片を測定試料として、JIS K7171に準じてオートグラフ(AGX-Plus、(株)島津製作所製)を用いて、3点曲げ法で行なった。
前記曲げ試験片を、常温下で精製水に24時間浸漬し、該組成物中の樹脂成分の水への溶解性および膨潤性を評価した。溶解性は、浸漬後の水の状態を目視で溶出成分の有無を判定した。水の膨潤性は、試験片の水への浸漬前後の重量変化より膨潤の有無を判定した。ここでは、浸漬前後の重量変化が5%以内であるものを「膨潤なし」として評価した。また、ゲル分率を前記の方法で求めた。結果を表1に示す。
(水潤滑しゅう動試験)
前述の実施例1において作製した水中用しゅう動部材組成物を用いて、水潤滑条件でのしゅう動試験を行なった。しゅう動試験にはピンオンディスク型摩擦摩耗試験機を使用した。
水潤滑条件でのしゅう動特性は以下の方法によった。
しゅう動試験に用いるピン試料は、SUS304製のピンホルダー(φ5×10L)の端面に厚さ1mmになるよう、前記水分散液(A)にディップコートし、80℃×12hr乾燥後、同様に150℃×1hrの加熱処理で化学架橋を行った。この試料を用いて、SUS304ディスク(Ra=0.3μm)のしゅう動面に水を溜め、ピンディスク試験機により水潤滑条件の摩擦摩耗試験を行なった。摩擦摩耗試験の試験条件は前述のとおりとした。試験中は小型定量ポンプによりしゅう動部に水を供給し、一定の水潤滑状態を保持できるようにした。
(実施例2)
実施例1と同様に操作して、水分散液(A)を流延して得た試験用素材を機械加工して曲げ試験片を作製し、架橋前に超臨界流体を用いて該曲げ試験片を微細発泡体とした。微細発泡は以下の方法によった。
前記の方法で作製した曲げ試験片を、同寸法のSUS製の板(1t)および金属クリップでクランプしてから、高圧容器に入れ、二酸化炭素を充填し、圧力10MPa、温度90℃で5時間保持した後、二酸化炭素を大気(1.01325×10Pa)中に一気に開放し、試験片を発泡させて発泡体を得た。超臨界流体処理には、日本分光株式会社製の超臨界流体システムを用いた。
得られた発泡体は、目視で微小な気泡が多数見られ、水中置換法で求めた発泡倍率は約1.4であった。
得られた発泡体を、実施例1と同様に操作して、架橋処理を行ない、実施例1と同様の評価を行なった。
(実施例3、4)
実施例1において、ポリビニルアルコールに代えてポリアミド11樹脂(リルサン BMNO、アルケマ(株)製)を用い、また溶媒を精製水からメタノール(試薬1級)として、ポリアミド11樹脂のメタノール溶液(濃度20重量%)とし、また架橋剤をトリアリルイソシアネート(TAIC、日本化成(株)製)、該分散液の乾燥条件としては、60℃×10時間とした以外は実施例1と同様に操作して、ナイロン11樹脂/未変性セルロースナノファイバーのメタノール/水分散液(B)を調製した。
得られたメタノール/水分散液(B)の外観は白濁液状で、未変性セルロースナノファイバーの分散ムラや凝集は見られず、またこのメタノール/水分散液を24時間以上静置しても未変性セルロースナノファイバーの沈殿は見られず、安定したスラリーであった。流延法により作製した板状試験片の架橋処理は、紫外線を1,000mJ/cm照射して物理架橋処理を行なったのち、実施例1、2と同様の評価を行なった。また、水潤滑しゅう動試験用のピン資料も実施例1と同様の方法で作製し、同様に評価した。結果を表1に示す。
(実施例5)
前記未変性セルロースナノファイバーの1重量%水分散液に、アクリルスルホン酸系分散剤(アロンA-6012、東亞合成(株)製)を未変性セルロースナノファイバー固形分に対して5重量%加え、高速回転型メディアレス分散機(アペックスディスパーサーZERO)にて、せん断部クリアランス1mm、ロータの回転周速45m/sの条件で、10分間の解繊処理を5回繰り返してセルロースナノファイバー水分散液を得た。該水分散液を吸引ろ過法により抄紙して、80℃×24hr乾燥して厚さ0,1mmのセルロースナノファイバーシートを作製した。
該セルロースナノファイバーシートをφ100の円形に切り取り、直径が同寸法のPTFE製浅型容器の底部に設置し、ポリビニルブチラール樹脂(エスレックKW-1、積水化学工業(株)製)との10重量%に架橋剤TAICをポリビニルブチラール樹脂の固形分に対し5重量%添加して混合した水分散液を静かに注ぎ込み、80℃×24h以上乾燥し、セルロースナノファイバー/ポリビニルブチラール樹脂複合シートを作製した。また、当該未変性セルロースナノファイバー/ポリビニルブチラール樹脂複合シートの樹脂含有量は、約50重量%であった。このようにして作製したシートを15枚積層し、熱板温度100℃のプレスで、圧力5MPaで加圧後冷却してものに対し、γ線を30kGy照射して物理架橋させた。
該物理架橋シートからなるセルロースナノファイバー/ポリビニルブチラール樹脂成形体から、機械加工にて80×10×1tの直方体を作製し、前記曲げ試験を行なった。また、加工残材を用いて実施例1と同様に、水への溶解性、水膨潤性、ゲル分率を評価した。結果を表1に示す。
しゅう動試験用の試験片は、セルロースナノファイバーの抄紙シートにポリビニルブチラールを含浸して作成した樹脂含浸シートを15枚積層して加熱圧縮した成形体の7mm角切片を、φ5×10LのSU304製試料ホルダーの端面にエポキシ樹脂系接着剤を用いて接着し、充分に接着剤を固化させてから、小型旋盤にて外径を5mmに仕上げて試験に用いた。しゅう動試験は、相手ディスク上面に水を溜めて試験する水潤滑条件とした。しゅう動耗試験の結果を表1に示す。
(実施例6)
実施例5において、ポリビニルブチラール樹脂に代えて、水溶性自己架橋性樹脂であるアクリル-ウレタン樹脂エマルジョン(ボンコート CG-5010EF、DIC(株)製)として、かつ架橋剤を加えない以外は、実施例5と同様に操作して、同様の評価を行なった。当該未変性セルロースナノファイバー/アクリルウレタン樹脂シートの樹脂含有量は50重量%であった。結果を表1に示す。
(実施例7、8、9)
実施例1において、未変性セルロースナノファイバオーの添加量を固形分換算で3重量%、5重量%、10重量%とした以外は同様に操作し、評価を行った。結果を表1に示す。
(比較例1)
実施例1において、未変性セルロースナノファイバーを疎水変性セルロースナノファイバー(T-NP101,星光PMC(株)製)に置き換え、分散剤を添加しない以外は実施例1と同様に操作して、分散液の調製、成形体の架橋処理、および試験片の作製を行ない、曲げ特性を測定しない他は同様の評価を行なった。結果を表1に示す。
(比較例2)
実施例1において、架橋剤を添加せず架橋処理を行なわない以外は、実施例1と同様に操作して、分散液の調製、成形体の架橋処理、および試験片の作製を行ない、比較例1と同様の評価を行なった。結果を表1に示す。
(比較例3)
実施例3において、未変性セルロースナノファイバーを疎水変性セルロースナノファイバー(T-NP101,星光PMC(株)製)に置き換え、分散剤を添加しない以外は実施例3と同様に操作して、分散液の調製、成形体の架橋処理、および試験片の作成を行ない、比較例1と同様の評価を行なった。結果を表1に示す。
(比較例4)
未変性セルロースナノファイバー(BiNFi-s、(株)スギノマシン製)に分散剤(アロンA-6012、東亞合成(株)製)を未変性セルロースナノファイバーの固形分に対し5重量%加えて、高速回転型メディアレス分散機(アペックスディスパーサーZERO)にて、せん断部クリアランス1mm、ロータの回転周速45m/sの条件で、10分間の解繊処理を5回繰り返してセルロースナノファイバー分散液を得た。当該分散液を凍結乾燥して、分散剤を含む未変性セルロースナノファイバーの粉体を得た。
次いで、ポリプロピレン樹脂(プライムポリプロ J106MG、(株)プライムポリマー製)に、該粉体を1重量%添加し、二軸混練押出機(BT―30、(株)プラスチック工学研究所製、L/D=30)にて混練して射出成形用ペレットを作製した。該ペレットを用いて射出成形により、80×10×1.5mmの平板試験片、およびφ5×10Lの円柱状ピン試料を作製した。該ピン試験片を用いて、実施例5~6と同様に操作して、水潤滑条件でのしゅう動試験を行なった。結果を表1に示す。
(比較例5)
成形用PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)粉末(テフロン(登録商標)7J、三井デュポンフルオロケミカル(株)製)にミルドガラス繊維(EFH30-01、セントラル硝子(株)製)を20重量%添加し、充分に混合後に、室温で圧縮成形によりφ50×25Lの円柱状プリフォームを作製した。該プリフォームを360℃×5hrで焼成し、ガラス繊維入りPTFEの成形体を得た。該成形体を機械加工して、80×10×1.5mmの平板試験片、およびφ5×10Lのしゅう動試験用ピン試料を作製した。該ピン試料を用いて、実施例5~6と同様に操作して、水潤滑条件でのしゅう動試験を行なった。結果を表1に示す。
(比較例6)
熱可塑性樹脂であるPPS樹脂(ポリフェニレンサルファイド)ベースのすべり軸受材料であるエスベアS2270(スターライト工業(株)製)の射出成形体を用いて、機械加工により80×10×1.5mmの平板試験片、およびφ5×10Lのしゅう動試験用ピン試料を作製し、実施例5~6と同様に操作して、水潤滑条件でのしゅう動試験を行なった。結果を表1に示す。
Figure 0007007837000001
<実施例の効果>
以下の評価は、材料調製手段あるいは樹脂種の異なる未変性セルロースナノファイバー/水溶性又は水分散性を有する合成樹脂からなる組成物からしゅう動部材を形成した場合の、該しゅう動部材の諸特性を比較したものであり、未変性セルロースナノファイバー/水溶性又は水分散性を有する合成樹脂分散体全般の特性を評価するものではない。
表1から、未変性セルロースナノファイバー、水溶性又は水分散性を有する合成樹脂としてのポリビニルアルコール樹脂またはポリアミド11樹脂、分散剤および架橋剤を機械的解繊処理下に混合した実施例1、3の水分散液は、いずれも未変性セルロースナノファイバーの分散性は良好でかつ分散安定性が高かった。これらを乾燥し、化学架橋(加熱処理)あるいは物理架橋(紫外線照射)すると、ゲル分率が89%以上であり、十分に架橋が進んでいることが確認でき、さらに両者の水への溶解および水の膨潤は見られず、いずれも水への溶解性および水への膨潤性はなかった。
実施例1、3で作製した樹脂組成物から流延法により成形した素材から作製した試験片の曲げ強度、曲げ弾性率を、それぞれの組成物のマトリックス樹脂単体の架橋体と比較した。
ポリビニルアルコール樹脂(セルロースナノファイバー1重量%)は、曲げ強度、曲げ弾性率ともにはほぼ同レベルの値であった。ポリアミド11では実施例3(CNF1重量%)のほうがやや曲げ強度、曲げ弾性率共に、やや高い数値を示した。ポリビニルアルコール樹脂、ポリアミド11樹脂いずれにおいても、マトリックス樹脂単体の架橋体との比較でセルロースナノファイバーによる補強効果は確認できたが、その程度は少ないと考える。
実施例2、4は、上述の実施例1、3をそれぞれ超臨界二酸化炭素により発泡させたのものである。超臨界発泡した組成物においても、発泡していない組成物と水への溶解性、水への膨潤性、ゲル分率はほぼ同レベルであり、曲げ強度、曲げ弾性率は若干高い値を示した。
実施例5、6では、分散剤を含む未変性セルロースナノファイバーを抄紙したシートにポリビニルブチラール樹脂および水溶性ウレタン樹脂を含浸した部材を用いて上記と同様の試験を行なった。いずれの場合も水への溶解性および膨潤はなく、またゲル分率が90%いじょうであり、架橋処理の効果が現れている。また、曲げ強度、曲げ弾性率が実施例1~4よりも高く、これは未変性セルロースナノファイバーの含量が高い(50重量%)によるものと推察できる。
実施例7~9では、ポリビニルアルコールをマトリックスとする本発明による複合体において、未変性セルロースナノファイバーの添加量を3~10重量%に高くしている。いずれの場合も水に対する溶解、膨潤を示さず、mた、ゲル分率は90%以上を示している。また、曲げ強度、曲げ弾性率は、未変性セルロースナノファイバー添加量が5重量%以上で頭打ちの傾向を示しており、未変性セルロースナノファイバーの添加量としては、5重量%でよいと考える。
ポリビニルアルコールに未変性セルロースナノファイバーの代わりに疎水変性セルロースナノファイバーを添加したものに架橋処理を行なって、水に浸漬すると、複合体組成物が水に溶解していた。ゲル分率は83%と比較的低く、疎水変性セルローズナノファイバーの添加では、架橋構造が充分進まなかったと考え、これは未変性セルロースナノファイバーが何からの様式で架橋構造に関与していることを示唆しているものと考える。(比較例1、3)。
この理由として、以下のように考えている。
未変性セルロースナノファイバーは、セルロースユニットあたり3ヶの水酸基を有し、樹脂との架橋反応が可能である。これに対し、 疎水変性セルロールナノファイバーは、セルロースの水酸基が疎水基で変性されており、架橋反応が充分に進まず、未架橋性分を含んでおり、この部分が水に溶出すると考える。
ポリビニルアルコールに未変性セルロースナノファイバー(分散剤を含まない)を添加し、架橋処理を行なわないと、水への溶解性を示し、かつ曲げ強度、曲げ弾性率は低い値を示した(比較例2)。
次に、水潤滑条件でのしゅう動特性について述べる。
本願発明による組成物は(実施例1~9)、水潤滑条件においては、比較例5、6に挙げた一般的な無潤滑用しゅう動材料(PTFE/GF材、PPS系軸受材にくらべ低摩耗性を示す。これは、本願発明によるしゅう動部材組成物が高い親水性を示すことから、しゅう動界面に水を引き込んで潤滑皮膜を形成し、その流体潤滑効果により低摩擦低摩耗特性をもたらしているものと考える。一般的なしゅう動材料は、主として無潤滑条件において、しゅう動相手面に潤滑性を示す移着膜を形成しながらしゅう動することで、低摩擦低摩耗性を発揮するのに対し、水潤滑条件では該移行膜の形成が阻害されて、摩耗量の増大を招いているものと推察する。
表1における実施例1~4において、分散剤として、アクリルスルホン酸系分散剤(アロンA-6012、東亞合成(株)製)に代えて、ポリメタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(リピジュアBL)、又はカルボン酸系分散剤(アロンA―6114)に代えた以外は同様に操作したところ。それぞれ実施例10~13に準ずる水潤滑条件での摩擦摩耗特性を有する組成物が得られた。
これ以外の評価として、実施例1,2および実施例5、6のしゅう動部材組成物で、水媒体用リップシールを作成し、シール試験を行なった。いずれの試料においてもシール部からの水漏れは発生せず、本発明によるしゅう動部材組成物が良好なシール特性を有することがわかった。
本発明の水中用しゅう動部材組成物は、(A)未変性セルロースナノファイバーが、マトリックス成分である水溶性水あるいは水分散性の合成樹脂に均一に分散させたのちに充分に架橋されており、一般の無潤滑用しゅう動材料に比べて水中でのしゅう動特性に優れている。
さらに、本発明のしゅう動部材組成物は、水に対する溶解性や膨潤性がないので、しゅう動部に水が介在するような条件下で用いられるしゅう動部材組成物としての特性に優れ、例えば、水中ポンプのシール材、すべり軸受へのしゅう動性コーティング材料として好適に用いることができる。

Claims (5)

  1. (A)未変性セルロースナノファイバー、および(B)水溶性又は水分散性を有する合成樹脂、(C)水溶性分散剤、及び(D)架橋成分を含む、水潤滑用しゅう動部材組成物であって、
    前記(A)未変性セルロースナノファイバーは、繊維表面に有する水酸基に、陰イオン性分散剤からなる(C)水溶性分散剤がイオン結合しており、
    前記(B)水溶性又は水分散性を有する合成樹脂が、ポリビニルアルコール、ポリアミド11、ポリビニルブチラール、水溶性ウレタンからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
    前記(D)架橋成分が、前記(B)水溶性又は水分散性を有する合成樹脂に反応可能な架橋剤および架橋助剤よりなる群から選ばれる少なくとも1種である、水潤滑用しゅう動部材組成物。
  2. 前記(B)水溶性又は水分散性を有する合成樹脂が、(B-1)自己架橋性樹脂である、請求項1に記載の水潤件用しゅう動部材組成物。
  3. 前記(A)未変性セルロースナノファイバー、前記(B)水溶性又は水分散性を有する合成樹脂、および前記(C)水溶性分散剤、前記(D) 架橋成分の混合物が、機械的解繊手段により解繊処理かつ分散処理され、(A)未変性セルロースナノファイバーと前記(C)水溶性分散剤がイオン結合体を形成しており、かつ前記(A)未変性セルロースナノファイバーを前記(B)水溶性又は水分散性を有する合成樹脂および水系溶媒中に均一分散させたものである、請求項1~2に記載の水潤滑用しゅう動部材組成物の製造方法。
  4. 請求項に記載の水潤滑用しゅう動部材組成物の製造方法において、得られた水潤滑用しゅう動部材組成物から脱溶媒した後に成形し、化学的架橋あるいは物理架橋された水潤滑用しゅう動部材組成物の製造方法。
  5. 請求項1、2に記載の水潤滑用しゅう動部材組成物からなる水潤滑用しゅう動部材。
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