JP7005825B2 - 認知症又は神経変性疾患の予防又は治療用生薬組成物 - Google Patents

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Description

本発明は認知症又は神経変性疾患の予防又は治療用生薬組成物に関する。より詳細には、本発明は田七(デンシチ)及び杜仲(トチュウ)を有効生薬成分として含む認知症又は神経変性疾患の予防又は治療用生薬組成物に関する。また本発明は田七、杜仲、及び黄精(オウセイ)を有効生薬成分として含む認知症又は神経変性疾患の予防又は治療用組成物に関する。また本発明は田七、杜仲、黄精、及び甘草(カンゾウ)を有効生薬成分として含む認知症又は神経変性疾患の予防又は治療用組成物に関する。
認知症は、正常に働いていた脳の機能が低下し、記憶、思考、判断力などの認知機能が徐々に低下し、日常社会や社会生活に支障をきたす状態をいう。現代において85歳以上は4人に1人が認知症に、年齢を重ねるほど認知症になりやすくなり、65歳以上70歳未満の有病率は1.5%、85歳では27%に達し、日本における65歳以上の認知症患者はすでに240万人を超えているという推計もある(厚生労働省 みんなのメンタルヘルス総合サイト http://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_recog.html)。近年の高齢社会においては認知症が今後ますます重要な問題になることは明らかである。
警察庁の調査によると、下表のとおり、認知機能検査を受けた人は、平成28年は166万人となり、今後も受検者は増加していくことが予想されている。この8年間の認知機能検査の結果をみると、第1分類(記憶力・判断力が低くなっている者)が2.3%、第2分類(記憶力・判断力が少し低くなっている者)が26.7%、第3分類(記憶力・判断力に心配のない者)が71.0%との結果が公表されている(一般社団法人 全日本指定自動車教習所協会連合会のホームページ「事故等のデータ」「認知機能検査の受検者数の推移」http://www.zensiren.or.jp/kourei/data/data.htmlより)。
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認知症は原因疾患の観点から、大きく、神経変性疾患、脳血管性障害、その他の原因(精神疾患、脳外科疾患又は内科疾患を含む)に分類される。
神経変性疾患とは脳の神経細胞がゆっくりと死んでいく疾患であり、神経変性疾患による認知症には、アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、脳血管性認知症、前頭側頭型認知症があげられる。
アルツハイマー型認知症は患者数が最も多く、認知症のなかでも約半数を占める。これは、ベータアミロイドの脳内蓄積とそれによる神経毒性が発病の原因であると考えられ、脳の全般的な萎縮、脳室の拡張、神経原線維の変化、老人斑等の病理組織学的特徴が見られ、記憶力低下、見当識障害、判断力低下などが徐々に進行し、うつ病等の精神症状も伴うことがある。
アルツハイマー型認知症に次いで患者数が多いのがレビー小体型認知症である。レビー小体とは、神経細胞にできる特殊なたんぱく質であり、これが脳の大脳皮質や脳幹に集まると、神経細胞が破壊され減少するため、神経伝達が上手くいかず、認知症の症状が起こると考えられている。
同様に患者数が多いのが脳血管性認知症であり、これは脳梗塞、脳出血、脳動脈硬化等により神経細胞に栄養や酸素が行き渡らなくなり、その結果その部分の神経細胞が死に、神経のネットワークが壊れてしまうことによるものである。
前頭側頭型認知症はピック病とも称され、前頭葉や側頭葉に萎縮が見られ、若年性認知症の一つとされている。
また、認知症を症状の観点から分類すると、大きく中核症状と行動・心理症状(BPSD)の2つに分けられる。
中核症状は認知症の直接の原因である脳細胞の破壊により起こる症状であり、記憶障害、見当識障害、理解・判断力の障害、実行機能障害、感情表現の変化、失語・失認・失行が一般的に現れる症状である。
一方、行動・心理症状は、かつては周辺症状とも称され、BPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)とも称される。行動・心理症状の具体例としては、徘徊、食行動異常、拒否、不安・焦燥、幻覚・妄想(物盗られ妄想等)・錯覚、うつ・抑うつ、興奮、暴力・暴言、失禁、不眠・睡眠障害・昼夜逆転、帰宅願望、摂食障害・嚥下障害、不潔行為等があげられる。
神経変性疾患は上述の認知症の原因疾患として捉えられるもののほか、中枢神経の中の特定の神経細胞群が徐々に死んでゆく脳神経疾患の一つであり、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、パーキンソン病等のパーキンソン症候群、老人性失認症等のアルツハイマー型痴呆等、進行性核上性麻痺(PSP)、ハンチントン病、黒質線状体変性症(SND)、シャイ・ドレーガー症候群(Shy-Drager症候群)、オリーブ橋小脳萎縮症(OPCA)等の多系統萎縮症(MSA)、脊髄小脳失調症(SCA3)、フリードライヒ失調症等の脊髄小脳変性症(SCD)があげられる。
脳は神経細胞のネットワークを構成し、このうち情報の伝達を行っている最小単位が神経細胞(ニューロン)である。神経細胞は脳神経系ネットワークを形成するために神経突起を有している。神経突起は形態上、一般的に、情報を送り出す突起(軸索)と情報を受け取る突起(樹状突起)に分類される。一つの神経細胞からは長い軸索と、複雑に枝分かれしている樹状突起の複数の突起が出ており、これらの突起が他の神経細胞とつながり、複雑な神経回路網を形成している。
脳は加齢とともに萎縮するといわれ、脳の神経細胞は、損傷すると再生することが難しく、出生後、一度も細胞分裂せず、ほぼ同じ細胞を一生使い続けるといわれている。脳の神経細胞は、5歳ぐらいまでに急速に成長し、若い脳は神経細胞が大きくなるとともに、樹状突起が遠くまで枝を伸ばして神経回路網が発達する。成人を過ぎると脳の重量と容積は減少し、脳の神経細胞の数も加齢とともに減少する。特にアルツハイマー型認知症を含む認知症又は神経変性疾患においては、神経突起の萎縮とシナプス減少が起こり、これらが記憶障害等の原因となっている。
そのため神経突起の萎縮とシナプス減少の回復により認知症改善作用が期待されると考えられる。認知症ないしは神経変性疾患の病因は様々であるが、神経機能の障害をもたらす直接的な要因が神経回路網の破綻であるため、神経突起を伸長して神経回路網を再構築することができれば、認知症又は神経変性疾患の予防又は治療に大いに有用である。
神経成長因子はNGF(nerve growth factor)とも呼ばれ、神経細胞の生存維持、神経突起の伸長促進、神経伝達物質の合成促進などの作用を示す神経栄養因子の一つであり、三つのサブユニット(α、β、γ)からなる蛋白質複合体である。NGFβサブユニットは118個のアミノ酸からなるポリペプチド(分子量13kD)であり、二量体の形で存在する。NGFは、末梢神経系では交感神経系と知覚神経系に局在し、また中枢神経系では大脳皮質や海馬に投射する前脳基底部コリン作動性神経細胞に特異的に作用する。NGFが作用するこの神経細胞群はアルツハイマー病の脳において著しく脱落することが知られている。そのため、加齢やアルツハイマー病等で減少する脳内NGFの量又はその活性を高める手法の開発や機序の解明が望まれている。
その一方で、NGFが炎症、痛み、障害に関与することが知られている(Freund V, Pons F, Joly V, Mathieu E, Martinet N, Frossard N.(2002) Upregulation of nerve growth factor expression by human airway smooth muscle cells in inflammatory conditions.(炎症条件下でのヒト気道平滑筋細胞による神経成長因子発現の上方制御) Eur Respir J. 20:458-463)。また、NGFはマスト細胞を活性化し、ヒスタミンの放出を引き起こし、これがヒスタミン過敏症に寄与する可能性がある(Aloe L, Skaper SD, Leon A, Levi-Montalcini R.(1994) Nerve growth factor and autoimmune diseases. Autoimmunity.(神経成長因子及び自己免疫疾患 自己免疫) 19:141-150)。また、NGFは、BDNF(Brain-derived neurotrophic factor;脳由来神経栄養因子)と同様に、腫瘍細胞の拡散と生存を刺激して、腫瘍における新生血管形成を促進する(Chopin V, Lagadec C, Toillon RA, Le Bourhis X.(2016) Neurotrophin signaling in cancer stem cells.(ガン幹細胞における神経栄養因子シグナル) Cell Mol Life Sci. 73:1859-1870)。このように、NGFの量の増大が必ずしも好ましい結果をもたらすとは限らないのである。
そのためNGFの量を必要以上に増大させることなく、その神経成長活性を高めることができれば、それは有利なことである。
認知症の代表例であるアルツハイマー病の治療薬として世界で最初に開発された医薬は、タクリン(商品名コグニックス)で、1993年に米国で承認されたが、肝臓に対する障害が大きく、日本では認可されなかった。肝臓へのダメージが少なく、神経伝達物質であるアセチルコリンの神経細胞中での分解を抑制し、記憶力を回復させる働きを持つ医薬として日本で開発されたのが、アセチルコリン分解酵素阻害薬としてのドネペジル(アリセプト(登録商標)、エーザイ)である。その後、リバスチグミン、ガランタミン、メマンチン等の治療薬が認可されている。
しかし、西洋医学に基づくアルツハイマー治療薬の選択の幅は依然として狭く、また医薬によっては興奮・精神不穏などの精神周辺症状や消化器症状等の副作用を引き起こすことが知られている。一方、西洋医学の限界及び従来の医薬品の副作用等の憂慮に鑑み、近年、認知症及びその行動・心理症状に対して漢方薬の有効性がしばしば報告されている。認知症に効果があるとされている生薬又は漢方薬として、抑肝散(ヨクカンサン)、当帰芍薬散、抑肝散加陳皮半夏などが適用される例がある。
例えば、近年、抑肝散の新たな可能性として、認知症などの精神・神経領域への応用が行われている。抑肝散に含まれる生薬である当帰、
Figure 0007005825000002

(センキュウ)、釣藤鈎(チョウトウコウ)が胃にもたれやすい性質を持っているため、抑肝散は、長期内服の場合、胃腸に負担がかかりやすくなるといわれている。そこで抑肝散に陳皮(チンピ)と半夏(ハンゲ)を加え、胃腸保護作用を合わせ持たせた抑肝散加陳皮半夏の投与により、認知症の行動・心理症状に有意な改善が認められ、特に攻撃性で顕著な改善がみられたとされている(宮澤仁朗、精神科 14(6)、535-542、2009)。また、抑肝散加陳皮半夏の臨床研究報告もなされている(藤田日奈ら、精神科 23(1)、130-138、2013)。
一方、高コレステロール血症、高血圧症、糖尿病などの生活習慣病の発病の予防や機能の改善及び肝炎患者の肝機能改善に有効な生薬組成物として、田七及び杜仲を含む生薬組成物や田七、杜仲、黄精、及び甘草を含む生薬組成物が知られている。
田七及び杜仲を含む生薬組成物の製品として、田七杜仲精(でんしちとちゅうせい)(登録商標)が知られており、株式会社 協通事業(東京)から入手可能である。これは本発明者の一人が初めて開発したもので、田七及び杜仲を主成分とする生薬混合物の熱湯抽出物を含むものである。田七杜仲精は、主成分である田七及び杜仲のほかに、好ましくは高麗人参、蜂蜜などを含ませることもある。
田七、杜仲、黄精、及び甘草を含む生薬組成物として、
Figure 0007005825000003

(ヨウジョウヘンシコウ)(登録商標)が知られており、株式会社 協通事業(東京)から入手可能である。これも本発明者の一人が初めて開発したもので、田七抽出物、杜仲抽出物、黄精抽出物、及び甘草抽出物を含有する生薬組成物である。なお、以下、この生薬組成物を便宜上「養生片仔コウ」と表記する。田七及び杜仲を含む生薬組成物、及び田七、杜仲及び黄精(及び甘草)を含む生薬組成物は、日本国特許第4588132号明細書、米国特許第6,280,776号明細書、及び米国特許第6,586,017号明細書等に記載されている。
なお、田七杜仲精及び養生片仔コウは、健康食品として利用されている。
日本国特許第4588132号 米国特許第6,280,776号 米国特許第6,586,017号
Greene LA and Tischler AS (1976) Proc Natl Acad Sci U S A, 73 (7): 2424-2428 Fukuda J, Yamaguchi K,Akimoto S, Tada Y. Neurosci Res. 2: 460-471, 1985 Fischer W, Wictorin K, Bjoerklund A, Williams LR, Varon S, Gage FH. Nature 329: 65-68, 1987 Freund V, Pons F, Joly V, Mathieu E, Martinet N, Frossard N.(2002) Upregulation of nerve growth factor expression by human airway smooth muscle cells in inflammatory conditions. Eur Respir J. 20:458-463 Aloe L, Skaper SD, Leon A, Levi-Montalcini R.(1994) Nerve growth factor and autoimmune diseases. Autoimmunity. 19:141-150 Chopin V, Lagadec C, Toillon RA, Le Bourhis X.(2016) Neurotrophin signaling in cancer stem cells. Cell Mol Life Sci. 73:1859-1870 宮澤仁朗、精神科 14(6)、535-542、2009 藤田日奈ら、精神科 23(1)、130-138、2013
認知症又は神経変性疾患の予防又は治療には、症状の状態や患者の体質に合わせた薬物の選定が重要であり、認知症、その行動・心理症状、又は神経変性疾患に対して十分な効果を発揮する薬剤が求められていた。かかる状況の下、認知症やその関連症状に苦しむ患者やその周辺の人々にとっては、予防方法や治療方法の選択肢を西洋医学のみに頼るのではなく、東洋医学や生薬・漢方の領域にまで広げ、認知症若しくはその行動・心理症状(BPSD)、又は神経変性疾患の予防又は治療に有用で副作用の少ない生薬組成物を求めるというニーズがあった。
また、神経成長因子(NGF)は、神経細胞の生存維持、神経突起の伸長促進、神経伝達物質の合成促進などの作用を示すが、NGF量の増大が必ずしも好ましい結果をもたらすとは限らないため、NGF量を増大させることなく、その神経成長活性を高めたいというニーズがあった。
本発明者らは、認知症等に係る神経細胞の振る舞いや生薬組成物に関する知見に基づき鋭意研究を行った結果、認知症若しくはその行動・心理症状、又は神経変性疾患の予防又は治療に有用な生薬組成物を見出し、本発明を完成させた。
本発明は田七及び杜仲を有効生薬成分として含む認知症若しくはその行動・心理症状、又は神経変性疾患の予防又は治療用組成物に関する。本発明はまた、田七、杜仲、及び黄精を有効生薬成分として含む認知症若しくはその行動・心理症状、又は神経変性疾患の予防又は治療用組成物に関する。本発明はまた、田七、杜仲、黄精、及び甘草を有効生薬成分として含む認知症若しくはその行動・心理症状、又は神経変性疾患の予防又は治療用組成物に関する。
これまで、田七及び杜仲を含む生薬組成物、田七、杜仲、及び黄精を含む生薬組成物、並びに田七、杜仲、黄精、及び甘草を含む生薬組成物が、認知症若しくはその行動・心理症状、又は神経変性疾患の予防又は治療に有用であることは当業界でまったく知られておらず、示唆すらされていなかった。
本発明は以下の通りである。
(1)生薬成分として田七及び杜仲を含む、認知症若しくはその行動・心理症状、又は神経変性疾患の予防又は治療用生薬組成物。
(2)生薬成分として黄精をさらに含む、請求項1記載の生薬組成物。
(3)生薬成分として甘草をさらに含む、上記(1)又は(2)記載の生薬組成物。
(4)前記田七が10~90重量%、前記杜仲が10~90重量%である、上記(1)記載の生薬組成物。
(5)前記田七が10~90重量%、前記杜仲が10~90重量%、及び前記黄精が2~25重量%であり、生薬成分の合計量が100重量%である、上記(2)記載の生薬組成物。
(6)前記田七が10~90重量%、前記杜仲が10~90重量%、前記黄精が2~25重量%、及び前記甘草が3~20重量%であり、生薬成分の合計量が100重量%である、上記(3)記載の生薬組成物。
(7)前記田七が10~90重量%、前記杜仲が10~90重量%、前記黄精が2~25重量%、及び前記甘草が5~20重量%であり、生薬成分の合計量が100重量%である、上記(3)記載の生薬組成物。
(8)前記生薬成分が各々の生薬成分の抽出物である、上記(1)~(7)のいずれか一項に記載の生薬組成物。
(9) 前記認知症若しくはその行動・心理症状、又は神経変性疾患の予防又は治療が、ニューロフィラメントの発現の増大、又は神経突起の伸長の促進により行われる、上記(1)~(8)のいずれか一項に記載の生薬組成物。
本発明の生薬組成物により、認知症若しくはその行動・心理症状、又は神経変性疾患の予防又は治療に対する新しい選択肢が提供される。
本発明の生薬組成物は、ニューロフィラメントの発現又は神経突起の伸長に効果を有していると考えられ、特にNGFと併用すると、NGF自体では効果を示さないような低い用量のNGFであっても、ニューロフィラメントの発現を促進し、また、神経突起伸長を促進する。
図1は田七杜仲精(DTS)抽出物と養生片仔コウ(YHK)抽出物のPC12細胞の増殖に対する効果を示すグラフである。培養細胞PC12細胞はDTS抽出物とYHK抽出物で48時間処理された。細胞生存と増殖試験を比色MTTアッセイを用いて行った。値は平均値±SEM、各々につき5サンプル、n=4。
図2はDTS抽出物とYHK抽出物の単独適用がPC12細胞において神経突起伸長を誘導するかどうかを示す顕微鏡写真と棒グラフである。(A)DTS又はYHK抽出物(0.1、0.5、及び5mg/mL)を培養PC12細胞上に48時間適用した。細胞を氷冷4%パラホルムアルデヒドで固定した。バーは50μmを表す。NGFを陽性対照として提供した。4つの独立した実験から代表的な画像を示す。(B)培養PC12細胞を(A)と同様に処理した。分化した細胞のパーセンテージと神経突起の長さを後述する実施例の方法のセクションで記載するように計数した。値は100個の計数した細胞における合計細胞のパーセンテージとして表現した。平均値±標準誤差、n=4。
図3はYHK抽出物の単独使用が高濃度でPC12細胞中のニューロフィラメントの発現を誘導することを示す電気泳動の写真とヒストグラムである。(A)DTS抽出物又はYHK抽出物(0.1、0.5、及び5mg/mL)を培養PC12細胞上に48時間適用した。ニューロフィラメント(NF68及びNF160)の発現を特異抗体により測定した。GAPDHをローディング対照として供給した。四つの独立した実験からの代表的な画像を示す。(B)定量プロットをヒストグラムで示す。値は基底値(Basal)の倍数で示す。対照値を1に設定した。平均値±標準誤差、n=4。対照と比較して、p<0.05、**p<0.01、及び***p<0.001。
図4はDTS抽出物とYHK抽出物がNGFにより誘導される神経突起伸長を促進することを示す顕微鏡写真と棒グラフである。(A)DTS抽出物又はYHK抽出物(0.1、0.5、及び5mg/mL)を培養PC12細胞上に48時間、NGF(0.5ng/mL)とともに共適用した。NGF(50ng/mL)を陽性対照として適用した。細胞を氷冷4%パラホルムアルデヒドで固定し、神経突起の伸長が見られた。バーは50μmを表す。(B)培養PC12細胞を(A)と同様に処理した。分化した細胞のパーセンテージと神経突起の長さを後述する実施例の方法のセクションに記載するように計数した。値は100個の計数した細胞における合計細胞のパーセンテージとして表現した。平均値±標準誤差、n=4。
図5はDTS抽出物とYHK抽出物がNGFにより誘導されるニューロフィラメント発現を促進することを示す電気泳動の写真とヒストグラムである。(A)DTS抽出物又はYHK抽出物(0.1、0.5、及び5mg/mL)を培養PC12細胞上に48時間、NGF(0.5ng/mL)とともに共処理した。ニューロフィラメント(NF68及びNF160)の発現を特異抗体により測定した。GAPDHをローディング対照として供給した。四つの独立した実験からの代表的な画像を示す。(B)定量プロットをヒストグラムで示す。値は基底値(Basal)の倍数で示す。対照値を1に設定した。平均値±標準誤差、n=4。対照と比較して、p<0.05、**p<0.01、及び***p<0.001。 図6は性別及び年齢別セグメントごとに、服用期間とともに検査結果を示す表である。 図7は大友式認知症予測テストの内容を示す。 図8はYHKのみを服用した被験者の服用年数に関する解析を示すグラフである。 図9はDTSのみを服用した被験者の服用年数に関する解析を示すグラフである。 図10はYHKとDTSを両方服用した被験者の服用年数に関する解析を示すグラフである。 図11はYHKのみ服用した被験者の年齢に関する解析を示すグラフである。 図12はDTSのみ服用した被験者の年齢に関する解析を示すグラフである。 図13はYHKとDTSを両方服用した被験者の年齢に関する解析を示すグラフである。
本発明における生薬成分について説明する。
本発明において、生薬成分とは、生薬組成物を構成する各生薬をいい、該各生薬はその基原植物の薬用部位やその粉末であってもよく、又はそれらの抽出物であってもよく、又は抽出物を乾燥することにより得られた顆粒等、それらから調整された、顆粒剤、錠剤、丸薬、散剤、カプセル剤、液剤(ドリンク剤)、エキス剤、チンキ剤、シロップ剤、酒精剤等の様々な剤形の形態であってもよい。
本発明において、田七(デンシチ)は、三七人参(サンシチニンジン)、田七人参、Notoginseng、Radix Notoginseng、又はPseudoginseng等とも呼ばれ、中国原産のウコギ科の薬用植物サンシチニンジン Panax notoginsengの根、又はPanax pseudo-ginseng Wall、若しくはPanax pseudo-ginseng Wall.var.notoginseng(Burkill)Hoo&Tseng等の根として定義される。この生薬は脂質代謝異常を改善し、高血圧や痛みを抑制することが知られている。本発明においては、田七の基原植物として、当業界でその他の基原植物として用いられている植物も用いることができる。本発明において、田七の使用部位は特に限定されないが、通常はその根を用いる。
杜仲(トチュウ)は、Eucommia Bark、EUCOMMIAE CORTEXとも呼ばれ、一般的には、トチュウ科の落葉高木トチュウ Eucommiae ulmoidesの樹皮の乾燥物からなる。この生薬は肝機能・腎機能の強化、高血圧や高血中脂質濃度の低減に効果があることが知られている。本発明においては、杜仲の基原植物として、当業界でその他の基原植物として用いられている植物も用いることができる。本発明において、杜仲の使用部位は特に限定されないが、本発明においては、上記トチュウ等の基原植物の樹皮を指すだけではなく、その若葉(Eucommiae Folium)、実(Eucommiae Berry)、及び/又は木部(Eucommiae Wood)の乾燥物をも指す。
黄精(オウセイ)は、Polygonatum Rhizome、Polygonati Rhizoma、又はSiberian Solomonseal Rhizomeとも呼ばれ、栄養状態の改善、健康増進に有用な伝統的な生薬である。この生薬は、慢性肝炎患者の症状や肝機能の改善に有効であることが知られている。黄精の使用部位は特に限定されないが、本発明において、黄精は、Polygonatum属の基原植物の根茎を乾燥したもの又は蒸したものを指す。
本発明において、黄精の基原植物としては、
ナルコユリ(Polygonatum falcatum A.Gray)、
カギクルマバナルコユリ(Polygonatum sibiricum Redoute、Polygonatum sibiricum Delar. ex Redoute)、
Polygonatum kingianum Collett et Hemsley、
Polygonatum cyrtonema Hua(Liliaceae)
が代表的なものとして用いられる(第十七改正日本薬局方参照)。
本発明においては、さらに黄精の基原植物として、
アマドコロ(Polygonatum odoratum (Mill.) Druce、Polygonatum odoratum)、
Polygonatum multiflorum、
Polygonatum stenophyllum Maxim.、
Polygonatum involucratum Maxim.、
Polygonatum macropodium Turez.、
Polygonatum cirrhifolium (Wall.) Royle、
Polygonatum prattii Baker、
Polygonatum punctatum Royle ex Kunth、
Polygonatum zanlanscianense Pamp.、
Polygonatum curvistylum Hua、
Polygonatum tessellatum Wang et Tang、
Polygonatum roseum (Ledeb.) Kunth、
Polygonatum verticillatum (L.) All.、
Polygonatum curvistylum Hua、
Polygonatum erythrocarpum Hua、
Polygonatum filipes Merr.、
Polygonatum lasianthum Maxim.
等を必要に応じて用いることもできる。
本発明において、甘草(カンゾウ)は、glycyrrhiza、glycyrrhizae radix、Glycyrrhizae Rhizoma、licorice、又はliquoriceとも呼ばれ、漢方薬に広範囲にわたって用いられる生薬である。マメ科のGlycyrrhiza属の基原植物であるカンゾウ類の根、根茎又はストロンを乾燥したものとして定義される。
本発明において、甘草の基原植物としては、第十七改正日本薬局方に収載のGlycyrrhiza uralensis Fischer(ウラルカンゾウ)又はGlycyrrhiza glabra Linne(Leguminosae)(スペインカンゾウ)が代表的なものとして用いられる。
本発明においては、さらに甘草の基原植物として、
Glycyrrhiza acanthocarpa
G. aspera
G. astragalina
G. bucharica
ロシアカンゾウ G. echinata
G. eglandulosa
G. foetida
G. foetidissima
G. gontscharovii
G. iconica
G. korshinskyi
アメリカカンゾウ G. lepidota
G. pallidiflora
G. squamulosa
G. triphylla
G. yunnanensis
新疆カンゾウ G. inflata
等を必要に応じて用いることもできる。
本発明においては、甘草の基原植物として、当業界でその他の基原植物として用いられている植物も用いることができる。本発明において、甘草の使用部位は特に限定されないが、通常は上記のように根、根茎又はストロンが用いられる。
本発明の生薬組成物において、田七は10~90重量%、好ましくは30~80重量%、より好ましくは35~75重量%、さらにより好ましくは40~60重量%の量で用いられる。上記範囲の最下限未満や最上限超の量を用いることはできるが、他の生薬成分との協奏効果が発揮されない場合があるので、上記範囲内で使用することが好ましい。
本発明の生薬組成物において、杜仲は10~90重量%、好ましくは15~80重量%、より好ましくは20~60重量%、さらにより好ましくは30~50重量%の量で用いられる。上記範囲の最下限未満や最上限超の量を用いることはできるが、他の生薬成分との協奏効果が発揮されない場合があるので、上記範囲内で使用することが好ましい。
本発明の生薬組成物において、黄精は0~25重量%、好ましくは2~25重量%、より好ましくは6~20重量%、さらにより好ましくは10~20重量%の量で用いられる。生薬組成物中の生薬成分である田七、杜仲、黄精の合計量は100重量%である。上記範囲の最下限未満や最上限超の量を用いることはできるが、他の生薬成分との協奏効果が発揮されない場合があるので、上記範囲内で使用することが好ましい。特に、黄精の割合が多過ぎると、消化されにくくなり、そのため人体に吸収されにくく、胃に不快感が現れてくるので、上記範囲内で使用することが好ましい。
本発明の生薬組成物において、甘草は0~20重量%の量で用いることができる。本発明の生薬組成物において生薬成分として黄精を用いる場合は、その協奏効果を考慮すると、甘草を用いることが好ましい。その場合、甘草は、好ましくは3~20重量%、より好ましくは5~20重量%、さらに好ましくは10~20重量%の量で用いることができる。生薬組成物中の生薬成分である田七、杜仲、黄精、甘草の合計量は100重量%である。上記範囲の下限未満や最上限超の量を用いることはできるが、他の生薬成分との協奏効果が発揮されない場合があるので、上記範囲内で使用することが好ましい。なお、甘草については、その過剰摂取による副作用を考慮すると、上記範囲内で使用することが好ましい。
上記の生薬組成物の組成について、各生薬成分が上記の組成の範囲内にある限り、以下のように、他の生薬成分を含んでもよい。例えば、本発明の生薬組成物は任意生薬成分として、高麗人参及び蜂蜜からなる群から選ばれる少なくとも一種をさらに含んでもよい。
本発明の生薬組成物において、任意生薬成分である高麗人参は0~20重量%の量で用いることができ、また任意生薬成分である蜂蜜は0~30重量%の量で用いることができる。これらの成分は、生薬組成物の摂取のし易さを考慮して、上記範囲内で使用することが好ましい。
なお、上記生薬成分及び任意生薬成分は、各原料の採取年・季節、水分含量等に差が生じることがあるため、上記使用量は適宜変更することが可能であり、上記範囲外で用いられることもある。
本発明の生薬組成物は、これら任意成分を含ませることにより、摂取しやすく、また人体に吸収されやすく、短期間で服用の効果が現れ、服用を中止した後もその効果が持続するという利点がある。その点で、黄精を用いる場合、多くの日本人にとっては甘草を含ませることが望ましいが、個人差があり、甘草を含まないものでも人体に吸収される事例もある。
本発明において、いずれの生薬成分も、通常用いられる生薬を用いることができる。いずれの生薬成分も、例えばそれが日本薬局方に収載されている品目であれば、それを用いることができるが、それ以外のものであってもよい。また、本発明の生薬成分として、上記の市販品である田七杜仲精や養生片仔コウを用いることもできる。
本発明において、田七、杜仲、黄精、甘草等の各生薬成分又は生薬組成物に言及する場合、基原植物の薬用部位、すなわち該当する場合、その根、ストロン、樹皮、若葉、実、木部、根茎、及び/又はそれらの抽出物のいずれをも意味することができる。また、その剤形は、粉末、顆粒剤、錠剤、丸薬、散剤、カプセル剤、液剤(ドリンク剤)、エキス剤、チンキ剤、シロップ剤、酒精剤等のいずれであることもできる。
なお、本発明において「生薬成分の抽出物」又は「抽出物」とは、抽出対象である生薬成分の、室温~60℃の水若しくは60℃~100℃の熱水による抽出物、又は室温~100℃のエタノールでの若しくは水とエタノールとの混合溶液(100:0~0:100)による抽出物をいう。抽出時間としては、例えば0.5時間~2時間が挙げられるが、目的に応じて適宜これより短い時間や長い時間を用いることもできる。上記抽出溶媒の種類、温度及び時間は例示であり、目的に応じて適宜変更することができる。
なお、生薬組成物中の生薬成分が抽出処理を施していない、基原植物の薬用部位、すなわちその根、ストロン、樹皮、若葉、実、木部、根茎等からなる場合、及び/又は、それらを含む剤形の場合は、使用前に上記のように抽出を施してから使用することができる。
生薬は、天然に存在する薬効を持つ産物から有効成分を精製することなく用いる薬の総称であり、また有効成分も単数とは限らず複数成分が複雑に関連しあっていることが多い。したがって、現時点では生薬成分又はその抽出物がいかなる有効化学成分で構成されているか、あるいは当該生薬組成物又はその抽出物をいかにして構造又は特性により直接特定することができるか、は今後の課題である。
田七及び杜仲を含む本発明の生薬組成物(黄精は含まない)は、主要生薬成分である田七及び杜仲のほかに、任意成分として高麗人参、蜂蜜などを含ませることができる。田七及び杜仲を含む生薬組成物(黄精は含まない)としては、上記のように田七杜仲精(登録商標、株式会社 協通事業(東京))が知られており、市販されている。本願明細書では、田七及び杜仲を含み、黄精を含まない生薬組成物を便宜上、DTSということがある。
本発明の田七、杜仲、及び黄精を含む生薬組成物の場合、甘草を含ませることが好ましい。田七、杜仲、黄精、及び甘草を含む生薬組成物としては、上記のように養生片仔コウ(登録商標、株式会社 協通事業(東京))が知られており、市販されている。これは、田七、杜仲、黄精及び甘草を主成分とした生薬混合物の熱湯抽出物を含むものである。本願明細書では、田七、杜仲、黄精、及び甘草を含む生薬組成物を便宜上、YHKということがある。
次に、本発明の生薬組成物の製造方法について説明する。
本発明の生薬組成物は、上記の生薬成分を用いて、当業界で通常使用される方法により製造することができる。
例えば、生薬組成物中の生薬成分が抽出処理を施していない、根、ストロン、樹皮、若葉、実、木部、根茎等からなる場合、及び/又は、それらを含む剤形の場合は、それらを所定量秤量し、混合することにより、本発明の生薬組成物を製造することができる。
抽出処理を施していない生薬成分を用いる場合は、例えば粉末にして用いることができる。
この生薬組成物は、1回の処方量で分包する等により用いることができる。この場合、処方された本発明の生薬組成物は、使用前に上記のように抽出を施してから服用することができる。得られた液体の抽出物は乾燥することにより顆粒にすることができ、後述するように、顆粒剤、錠剤、丸薬、散剤、カプセル剤、液剤(ドリンク剤)、エキス剤、チンキ剤、シロップ剤、酒精剤等の様々な剤形の形態にすることができる。
また、本発明の生薬組成物の他の態様として例えば、各生薬成分が該生薬成分の抽出物であってもよい。上記の生薬成分の各々を、例えば細片にして所定量秤量し、その各々について、あるいはまたそれらを混合して得られた混合物について、上記のように水、熱水、エタノール、又は水とエタノールとの混合溶液で抽出し、必要に応じて濾過、精製、濃縮の各工程を経て、液体抽出物としての生薬組成物を製造することができる。
1回の処方量をアルミパック等の密封袋に分包することができる。この場合、処方された本発明の生薬組成物は、使用前に温めたり、希釈したりしてから服用することができる。
本発明において生薬成分の抽出方法は、上述の方法に限られるものではなく、当業者の常識に基づいて慣用されているいかなる抽出方法を用いることができる。
得られた生薬成分の抽出物は乾燥することにより顆粒にすることができ、後述するように、顆粒剤、錠剤、丸薬、散剤、カプセル剤、液剤(ドリンク剤)、エキス剤、チンキ剤、シロップ剤、酒精剤等の様々な剤形の形態にすることができる。
得られた両抽出物に、必要に応じて任意成分として、高麗人参抽出物、蜂蜜等を加えて混合することもできる(混合工程)。混合物を熱風乾燥する(乾燥工程)ことにより、粉末状ないし粉末顆粒状の本発明の生薬組成物が得られる。
また、得られた混合物に乳化剤等の賦形剤を添加して成形し、熱風乾燥することにより、錠剤等の剤形が得られる。乳化剤としては、蜂蜜、植物油、キシリトール等が用いられる。乳化剤の重量比は、0~20重量%が望ましい。
上記生薬成分の抽出物の混合粉末、及び必要に応じて乳化剤から熱風乾燥して得られる錠剤中の本発明の生薬組成物の含量は、0.1~0.5g/錠剤、特に0.25g/錠剤が適当である。
ヒトにおいて、本発明の生薬組成物の摂取量は、有効性の観点から特に制限はないが、安全性の観点から、おおよそ1日あたり0.1~2g/Kg、好ましくは0.1~0.25g/Kgである。
しかし、これらの生薬組成物の含量及び摂取量は、有効性、安全性の観点から、当業者の技術常識により、副作用を発揮せず又は最小限に抑えつつ、薬効を十分発揮する量として設定することが可能である。
本発明の生薬組成物は、投与の形態に応じて様々な剤形で投与することができる。製剤化のために、通常、充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤等の希釈剤又は賦形剤を用いることができる。経口投与には、剤形として、粉末、顆粒剤、錠剤、丸薬、散剤、カプセル剤、液剤(ドリンク剤)、エキス剤、チンキ剤、シロップ剤、酒精剤等の剤形の形態が適するが、希釈剤や賦形剤を用いることにより、これらの剤形の形態で本発明の生薬組成物を得ることができる。固形製剤の剤形の場合、少なくとも一種の賦形剤、例えば、デンプン、炭酸カルシウム、ショ糖、ラクトース、ゼラチン等を用いることができ、また単純な賦形剤のほかに、ステアリン酸マグネシウム、タルクのような潤滑剤を用いることもできる。液体製剤の剤形の場合、懸濁剤、乳化剤、シロップ剤等を用いることができ、また単純な希釈剤としての水や、湿潤剤、甘味剤、芳香剤、保存剤等を用いることもできる。
製剤化された本発明の生薬組成物は、適宜目的に応じて分包して、製品化することができる。例えば、アルミパック、アルミ箔、防湿ファイバー紙等の密封袋又は分包紙等で分包して、製品化することができる。
生薬成分が、粉末、顆粒剤、錠剤、丸剤、散剤、カプセル剤、液剤(ドリンク剤)、エキス剤、チンキ剤、シロップ剤、酒精剤等のような他の剤形の形態にある本発明の生薬組成物の製法については、当業者であれば、生薬・製薬業界における常識及び上記の説明から容易に製造方法を理解することができるであろう。
以下に本発明の生薬組成物の、認知症若しくはその行動・心理症状、又は神経変性疾患に関連する薬理学的効果について説明する。
PC12細胞は、ラットの副腎髄質由来の褐色細胞腫から樹立された細胞株(Greene LA and Tischler AS (1976) Proc Natl Acad Sci U S A, 73 (7): 2424-2428)で、神経成長因子(NGF)を作用させると、神経突起を伸張して、交感神経細胞様に分化することが知られている。そのため、PC12細胞は、神経突起の伸長、神経細胞における分化機構の解明、NGFの作用機構解明のためのインビトロモデル細胞として古くから研究に利用され、市販もされている(Das KP, Freudenrich TM, Mundy WR. (2004) Assessment of PC12 cell differentiation and neurite growth: a comparison of morphological and neurochemical measures.(PC12細胞分化と神経突起成長の評価:形態学的及び神経化学的測定の比較) Neurotoxicol Teratol. 26:397-406)。
NGFは、末梢神経系では交感神経系と知覚神経系に局在し、また中枢神経系では大脳皮質や海馬に投射する前脳基底部コリン作動性神経細胞に特異的に作用する。NGFが作用するこの神経細胞群はアルツハイマー病の脳において著しく脱落することが知られている。NGFは高齢のヒトやラットの交感神経節ニューロンに対しても神経線維の伸展作用を示す(Fukuda J, Yamaguchi K,Akimoto S, Tada Y. NGF-dependent and -independent growth of neurites from sympathetic ganglion cells of the aged human in a serum-free culture.(無血清培地における老年ヒトの交感神経節細胞からの神経突起のNGF-依存性及び非依存性成長) Neurosci Res. 2: 460-471, 1985)。また、老化による学習能力の低下には脳内におけるNGFの働きの低下が関わっていることが示唆されている(Fischer W, Wictorin K, Bjoerklund A, Williams LR, Varon S, Gage FH. Amelioration of cholinergic neuron atrophy and spatial memory impairment in aged rats by nerve growth factor.(神経成長因子による加齢ラットにおけるコリン作動性ニューロン萎縮及び空間記憶障害の改善)Nature 329: 65-68, 1987)。
ニューロフィラメントは神経細胞に特異的な中間径のフィラメントであり、神経細胞体、樹状突起内では比較的疎に、軸索内では密に存在し、互いに無数の架橋でつながっている。ニューロフィラメントに固有の蛋白は分子量の異なる3種類のアイソフォームで構成されていることが明らかになっており、分子量200kDのものはNF-H、分子量160kDのものはNF-M又はNF160、分子量68kDのものはNF-L又はNF68と略称される。
軸索伸長の間のニューロフィラメント(NF)タンパク質の高度に制御された発現は、ニューロフィラメントが軸索の発達に重要であることを示唆している。幾つかの研究によれば、軸索内ニューロフィラメントが長い軸索への延長をより効率化することにより、当該延長を促進することが示唆されている(Walker KL, Yoo HK, Undamatla J, Szaro BG. (2001) Loss of neurofilaments alters axonal growth dynamics.(ニューロフィラメントの損失は軸索成長動態を変える。) J Neurosci. 21:9655-9666)。
本発明の生薬組成物は、PC12細胞中でニューロフィラメントの発現を誘導することから、PC12細胞中で神経突起の伸長を引き起こすことに有意な効果を有していると考えられる。また、本発明の生薬組成物は、NGFと併用すると、NGFにより誘導されるPC12細胞中でのニューロフィラメントの発現をさらに促進する。さらにまた、本発明の生薬組成物は、NGFと併用すると、NGFにより誘導される神経突起伸長を有意に促進する。
前記認知症若しくはその行動・心理症状、又は神経変性疾患の予防又は治療は、神経成長因子(NGF)により誘導されるニューロフィラメントの発現の増大、及び/又は神経細胞における神経突起の伸長の促進により行われると考えられる。したがって、本発明の生薬組成物が、ニューロフィラメントの発現、及び神経細胞の神経突起の伸長を含む、神経細胞の分化・成長に有意な効果を有することから、認知症若しくはその行動・心理症状、又は神経変性疾患の予防又は治療に優れた効果を有する。
認知症若しくはその行動・心理症状、又は神経変性疾患の予防又は治療に関する本発明の効果はまた、DTS又はYHKを一定期間服用した被験者に問診票に答えてもらうことにより検証することができる。
認知症簡易チェックのための問診票として、大友式認知症予測テストが用いられる(公益財団法人認知症予防財団のホームページ http://www.mainichi.co.jp/ninchishou/explanation.htmlから抜粋)。図6にその内容を示す。本テストは認知症のごく初期、認知症の始まり、あるいは認知症に進展する可能性のある状態を、老年者自身が、あるいは配偶者または同居者などが簡単に予測できるように考案されたものである。
問診票の結果から、本発明のYHK、DTS、又はYHKとDTSの両方を服用することにより、認知症予防・治療に効果があることがわかる
本発明の生薬組成物により、認知症若しくはその行動・心理症状、又は神経変性疾患の予防又は治療に対する新たな選択肢が提供された。
以下に実施例により、本発明をより詳細に説明するが、それらの実施例は例示であって、以下の特許請求の範囲によって決定される本発明の範囲を限定するものではない。
実施例1
[目的]
田七杜仲精と養生片仔コウの神経細胞に対する機能を探るために、田七杜仲精と養生片仔コウの水抽出物を調製し、田七杜仲精と養生片仔コウの効果を神経病態学に沿って評価した。田七杜仲精と養生片仔コウの神経生物学的機能は、(i)神経細胞の分化、及び(ii)シナプスタンパク質の発現、の二つの局面から評価した。
[材料と方法]
(1)生薬組成物(抽出物)の調製
使用した田七杜仲精は、株式会社 協通事業(東京)から購入したものを用い、これは田七33g(55重量%)、及び杜仲22g(45重量%)の組成からなる。以下この生薬組成物をDTSと略称する。
使用した養生片仔コウは田七6g(40重量%)、杜仲4.5g(30重量%)、黄精2.25g(15重量%)、及び甘草2.25g(15重量%)の組成からなる。以下この生薬組成物をYHKと略称する。
DTSとYHKの各試料を粉末状に挽き、1.5mLのエッペンドルフ社のマイクロチューブに50mg秤量し、1mLの水を加え、30分間超音波照射を行い、13200rpmで10分間遠心分離した。上清を集め、PTFEシリンジフィルター(0.22μm)によりろ過した。ストック溶液を50mg/mLとし、-20℃で保存した。
(2)細胞培養
ラット副腎髄質由来のPC12細胞をアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(American Type Culture Collection、ATCC)から購入した。細胞を6%ウシ胎仔血清(FBS)とウマ血清(HS)、100単位/mLのペニシリン、及び100μg/mLのストレプトマイシンを添加したダルベッコ変性イーグル培地(DMEM)で培養し、37℃で加湿したCO(7.5%)インキュベーター中に置いた。新しい培地を毎日適用した。培地は、抽出処理の3時間前に、1%FBS及びHS、100単位/MIのペニシリン、及び100μg/mLのストレプトマイシンとともに新しいDMEMで置き換えた。抽出処理では、抽出物を1%FBS及びHS、100単位/mLのペニシリン、及び100μg/mLのストレプトマイシンを含むDMEMで希釈した。
(3)細胞生存アッセイ
細胞の生存をMTT(3-(4,5-ジメチル-2-チアゾリル)-2,5-ジフェニル-2H-テトラゾリウムブロミド)アッセイにより評価した。細胞を96ウェルのプレート上に24時間置き、様々な濃度の生薬組成物の抽出物で48時間処理した。次いで、細胞をMTTで3時間、37℃でインキュベートした。次いで、培地を廃棄し、100μLのDMSOを各ウェルに追加した。プレートを暗所で15分間振盪した。その後、570nmでの吸光度をマイクロプレートリーダー(Thermo Scientific社、フリーモント、カリフォルニア州)で測定した。
(4)生薬組成物の抽出物での処理
神経突起伸長に対する抽出物の効果を培養したPC12細胞で調べた。50ng/mLの神経成長因子(NGF)(Alomone Labs,Ltd.から購入、Cat#:N-100)を、神経突起様プロセスを示す陽性対照として提供した。PC12細胞(5x10細胞/ウェル)を6ウェルプレートに播種した。24時間後、細胞を1%FBS、1%HS、及び1%P/Sを含むDMEM培地で換えた。抽出処理において、一連の濃度の抽出物(0.1、0.5、及び5mg/mL)を24時間ごとに2回処理した。次いで、細胞をさらなる実験のために集めた。
(5)神経突起伸長の測定
処理後、位相差集光装置、10倍の対物レンズ、及びデジタルカメラ(Diagnostic Instruments、スターリングハイツ、ミシガン州)を備えた光学顕微鏡(Diagnostic Instruments)を用いて、マニュアル設定で画像を捉えた。神経突起の数と長さを解析するために、各培地についてランダムに選ばれた少なくとも10個の視野から約100個の細胞を計数した。次いでフォトショップ(登録商標)ソフトウェアを用いて、細胞について神経突起の数と長さについて解析した。一つ以上の神経突起が細胞体の直径より長い場合、細胞にスコアを付けて差別化し、また細胞体が有する神経突起の長さによって異なるグループに分類した。すなわち、30μm未満、30~60μm、60~90μm、及び90μm超で分類した。この試験では、NGF(50ng/mL)を陽性対照として用いた。
(6)ドデシル硫酸ナトリウム‐ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS‐PAGE)
抽出処理の後、神経分化のためのタンパク質を低塩溶解緩衝液(10mM HEPES、pH7.4、150mM NaCl,1mM EDTA、1mM EGTA、0.5% Triton X-100、5mM ベンズアミジン HCl、10μM アプロチニン、10μM ロイペプチン)に抽出した。13200rpm(16100×g)で20分間、4℃で遠心分離した後、上清を集めてタンパク質アッセイを用いてタンパク質の総量を測定した。すべての試料を同レベルのタンパク質に規格化し、2xSDS‐PAGE試料緩衝液(0.125M Tris-Cl、pH6.8、4%SDS、20%グリセロール、2%2-メルカプトエタノール、及び0.02%ブロモフェノールブルー)で処理し、SDS-PAGEに付す前に15分煮沸した。
(7)ウェスタンブロット分析
電気泳動の後、タンパク質をMini Trans-Blot(登録商標)Cellを用いてニトロセルロース膜にトランスファーした。トランスファー条件は以下の通りとした。1xトランスファー緩衝液(25 mM Tris、192 mM グリシン、15% エタノール、0.1% SDS)で16時間、~40V及び~0.1A。試料のトランスファーと等量のローディングを、ポンソーSで染色することにより確認した。ニトロセルロース膜を、室温で2時間、Tris緩衝液食塩水/0.1%Tween20(TBS-T)中、5%無脂肪乳でブロックし、次いでTBS-T中2.5%無脂肪乳中に希釈した一次抗体中で一晩4℃でインキュベートした。その後、ニトロセルロース膜をTBS-Tですすぎ、TBS-T中2.5%無脂肪乳中に希釈した、ペルオキシダーゼ(HRP)結合抗マウス二次抗体、又はペルオキシダーゼ(HRP)結合抗ウサギ二次抗体で、室温で2時間インキュベートした。TBS-Tで十分に洗浄した後、免疫複合体を増幅化学ルミネッセンス(ECL)法を用いて可視化した。同じゲル上で厳密に標準化したECL条件下で走らせた対照と様々な試料におけるバンドの強度を、試料のうちの一つの連続希釈度で平行ゲルから構築された較正プロットを用いて画像解析器で比較した。
実験で使用した抗体を以下に示す。
Figure 0007005825000004
(8)他のアッセイ
タンパク質濃度をBio‐Rad社(ハーキュリーズ、カリフォルニア州)からのキットを用いてブラッドフォード法により測定した。統計的試験を、一元配置分散分析を用いて行った。基底値(Basal)又は対照値からの違いを以下のようにして分類した。
*p<0.05,**p<0.01、及び***p<0.001。
[結果と考察]
(1)PC12細胞の増殖に対するDTS抽出物とYHK抽出物の効果
PC12細胞は、例えばNGFのような様々な刺激に反応することができる、神経分化について十分に確立された細胞モデルである。細胞生存アッセイをまず行い、すべての抽出物が細胞増殖や細胞死を引き起こさない各抽出物の安全濃度範囲(0~5mg/mL)を決定した。結果として、細胞生存率は、0~5mg/mLの濃度では、DTS抽出物やYHK抽出物により有意には影響を受けなかったので、0.1、0.5、及び5mg/mL(低、中、高)の三つの異なる濃度を以下の実験のために選択した(図1)。
(2)神経分化に対するDTS抽出物及びYHK抽出物の生物学的評価
PC12細胞は、ニューロフィラメント発現及び神経突起伸長のような交感神経ニューロンに類似した特徴を示した。ここで、PC12細胞の神経突起伸長の数と長さ、及びニューロフィラメント(NF68及びNF160)の発現を調べ、DTS抽出物及びYHK抽出物の処理後の形態学的及び生物学的変化を調べた。
2-1)DTS抽出物及びYHK抽出物の単独適用によるPC12細胞の神経突起伸長の誘導について
PC12細胞の神経分化を神経突起の数と長さを測定することで形態学的に調べた。その際、50ng/mLのNGFを陽性対照として用いた。48時間の50ng/mLのNGF処理の後、PC12細胞の有意な神経突起伸長が観察された。0.1、0.5及び5mg/mL(先の実験で選択した濃度)でのDTS抽出物又はYHK抽出物の処理では、培養物は神経突起の大きな成長は見られなかった(図2A及びB)。しかし、以下の実験結果に示すように、YHK抽出物が高濃度でPC12細胞のニューロフィラメントの発現を誘導し、またDTS抽出物及びYHK抽出物が、NGFにより誘導される神経突起伸長や、ニューロフィラメントのNGFにより誘導される発現を促進することがわかった。
2-2)YHK抽出物の単独適用は高濃度でPC12細胞のニューロフィラメントの発現を誘導する
神経分化は分化した神経細胞(ニューロン)の主要な構造成分であるニューロフィラメントの発現を解析することにより生化学的に測定することができる。神経突起の伸長の間、哺乳類のニューロフィラメントサブユニットである、NF68(約68kDa)及びNF160(約160kDa)が神経突起の構造ドメインを構築する際にヘテロダイマーを形成すると考えられている。
培養PC12細胞上での50ng/mLのNGFを48時間適用すると、NF68及びNF160の両方の発現を確実に誘導した。培養PC12細胞上でのDTS抽出物の単独適用は、すべての濃度で、NF68及びNF160の発現に制御を引き起こすことはなかった。一方、YHK抽出物の単独適用は、高濃度(5mg/mL)で、NF68及びNF160のタンパク質発現を上方制御した(約4倍)(図3A及びB)。
2-3)DTS抽出物及びYHK抽出物はNGFにより誘導される神経突起伸長を促進する
本実施例では、神経突起伸長の誘導やニューロフィラメント発現にはほとんどまったく効果を有しないNGFの適切な濃度として、0.5ng/mLのNGF濃度を選定した。
神経突起伸長アッセイでは、DTS又はYHK抽出物(0.1、0.5、及び5mg/mL)及びNGF(0.5ng/mL)の共処理により分化した細胞のパーセンテージは用量に依存した。DTS及びNGFの共処理の後、より長い神経突起、例えば30~60μm、60~90μm、及び90μm超の神経突起を示すPC12細胞が増加した。YHKとNGFの共処理についても同様の観察がなされた(図4A及びB)。
2-4)DTS抽出物及びYHK抽出物はNGFにより誘導されるニューロフィラメントの発現を促進する
神経分化におけるDTS抽出物及びYHK抽出物の促進効果をさらに調べるために、DTS抽出物又はYHK抽出物(0.1、0.5、及び5mg/mL)とNGF(0.5ng/mL)をPC12細胞に対して共処理した。DTSはすべての濃度でNGFとともに共処理したところ、NF68の発現がわずかに増大し、また0.1及び0.5mg/mLのYHKとNGFとの共処理ではNF68の発現が2~3倍となった。5mg/mLのYHKとNGFとの共処理ではNF68の大きな増加が観察された(約8倍)。NF160の発現はすべてのグループでNF68よりもよく増加した。DTSとNGFの共処理では、0.1mg/mLのDTSがNF160発現に対して最も高い効果を示した(約6倍)。YHKとNGFの共処理では、5mg/mLのYHKがNF160発現に対して最も高い効果を示した(約9倍)。図5A及びB参照。
[結論]
DTS抽出物及びYHK抽出物の単独適用の場合、NGFを併用すると、NGF自体では効果を示さないような低い用量のNGFであっても、神経突起伸長を誘導し、ニューロフィラメントの発現を増大することを促進する。
実施例2
実施例1のDTS又はYHKを一定期間服用した被験者に問診票に答えてもらい、認知症予防・治療に関する本発明の効果を検証した。
認知症簡易チェックのための問診票として、上述のように図6の大友式認知症予測テストを用いた。
調査対象となる被験者は、YHK、又はYHKとDTSの両方を、3年以上服用している者(最長服用歴者は15年の服用歴あり)とした。ただし、被験者は全員肝機能異常歴 (C型肝炎歴者80%、他の肝機能異常者20%)があり、他の持病については不明である。
方法:問診票を被験者に送り、被験者はそれに記入して返送してもらった。
期間:2017年2月末迄に任意で記入し、3月に返信してもらった。
被験者は合計62名で、性別及び年齢別セグメントごとの被験者数は図7に示すとおりである。
点数の目安として、0~8点を正常、9~13点を要注意、14~20点を認知症初期症状が出ている可能性があると判定した。
結果を棒グラフにまとめたものを、図8~図13に示す。
1.服用年数に関する解析
(1)YHKのみ、DTSのみ、YHK+DTS服用の全群の被験者で認知症初期の症状を示す被験者はいなかった。
(2)YHKのみの服用群では、図8に示すように、服用3年未満では要注意が50%であったが、服用3年以上、服用6年以上ではすべて正常であった。
(3)DTSのみの服用群では、図9に示すように、3年から6年の服用者で要注意が50%であったが6年以上の服用者は全て正常であった。
(4)YHKとDTSの両方の服用では、図10に示すように、3年未満でも全員が正常であった。3~6年服用で要注意が18%(11例中2例)であったが 、今回の調査の年齢分布における上限に近い値76~80歳の年齢群であるため加齢による影響が考えられる。
2.被験者の年齢に関する解析
(1)YHKのみ服用の被験者は、図11に示すように、年齢層が判明している限りにおいてすべて正常であった。
(2)DTSのみ服用の被験者では、図12に示すように、要注意患者が61~65歳の群に見られた(全体の33%)。
(3)YHKとDTSの両方を服用した被験者では、図13に示すように、76~80歳の群で全体の6%が要注意であったが、その他は全員正常であった。
上記の結果より、YHKのみを3年以上服用した被験者では認知症初期や要注意の者はいなかった。DTSのみの服用では6年以上の長期服用で腎肝機能改善の結果、脳細胞の活性化が起こりやすくなったと考えられる。YHKとDTSの併用者においては服用年数3年未満においても認知症初期や要注意の者は見られず、すべて正常であった。このことからYHK、又はYHKとDTSの併用が認知症の予防に効果的であると考えられる。
背景技術の段落でも述べたように、70歳以上の高齢者に、免許更新のために検査を受けさせ、警察庁により公表されたデータ(http://www.zensiren.or.jp/kourei/data/data.html)では、第1分類(記憶力・判断力が低くなっている者)が2.3%、第2分類(記憶力・判断力が少し低くなっている者)が26.7%、第3分類(記憶力・判断力に心配のない者)が71.0%であった。このデータと比較すると、本実施例では、YHK、DTS、又はYHKとDTSの両方を服用した70歳超の被験者の合計26人のうち、要注意とされた者(上記の第2分類に相当する)が2人で7.7%,正常(上記の第3分類に相当する)が24人で92.3%であったことから、本発明の認知症予防・治療効果が優れていることがわかる。

Claims (5)

  1. 生薬成分として田七、杜仲、黄精及び甘草を含む、認知症若しくはその行動・心理症状、又は神経変性疾患の予防又は治療用生薬組成物。
  2. 前記田七が10~90重量%、前記杜仲が10~90重量%、前記黄精が2~25重量%、及び前記甘草が3~20重量%であり、生薬成分の合計量が100重量%である、請求項記載の生薬組成物。
  3. 前記田七が10~90重量%、前記杜仲が10~90重量%、前記黄精が2~25重量%、及び前記甘草が5~20重量%であり、生薬成分の合計量が100重量%である、請求項記載の生薬組成物。
  4. 前記生薬成分が各々の生薬成分の抽出物である、請求項1、2又は3のいずれか一項に記載の生薬組成物。
  5. 前記認知症若しくはその行動・心理症状、又は神経変性疾患の予防又は治療が、ニューロフィラメントの発現の増大、又は神経突起の伸長の促進により行われる、請求項1、2、3又は4のいずれか一項に記載の生薬組成物。
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