本発明に係るクラッチユニットの実施形態を図面に基づいて詳述する。
図1はクラッチユニットの全体構成を示す断面図、図2は図1のP-P線に沿う断面図、図3は図1のQ-Q線に沿う断面図である。
以下の実施形態では、自動車用シートリフタ部に組み込まれたクラッチユニットを例示するが、自動車用シートリフタ部以外にも適用可能である。この実施形態の特徴的な構成を説明する前にクラッチユニットの全体構成を説明する。
この実施形態のクラッチユニット10は、図1に示すように、入力側クラッチ部としてのレバー側クラッチ部11と、出力側クラッチ部としてのブレーキ側クラッチ部12とをユニット化した構造を具備する。
レバー側クラッチ部11は、レバー操作により入力される回転トルクの伝達および遮断を制御する。ブレーキ側クラッチ部12は、レバー側クラッチ部11からの回転トルクを出力側へ伝達すると共に、出力側から逆入力される回転トルクを遮断する逆入力遮断機能を有する。
レバー側クラッチ部11は、図1および図2に示すように、側板13および外輪14と、内輪15と、複数の円筒ころ16と、保持器17と、内側センタリングばね18と、外側センタリングばね19とで主要部が構成されている。
側板13および外輪14は、側板13の外周縁部に形成された爪部13aを、外輪14の外周縁部に形成された切欠き凹部14aに挿入して加締めることにより一体化され、レバー操作により回転トルクが入力される。
外輪14の内周には、複数のカム面14bが円周方向等間隔に形成されている。外輪14への回転トルクの入力は、側板13にねじ止め等により取り付けた操作レバー43(図6参照)により行われる。
内輪15は、出力軸22が挿通される筒状部15aと、筒状部15aのブレーキ側端部を径方向外側に延在させた拡径部15bと、拡径部15bの外周端部を軸方向に屈曲させることにより突出した複数の柱部15c(図3参照)とからなり、外輪14から入力される回転トルクをブレーキ側クラッチ部12に伝達する。
内輪15の筒状部15aの円筒状外周面15dと、外輪14の内周に形成されたカム面14bとの間に楔すきま20が形成されている。
円筒ころ16は、外輪14のカム面14bと内輪15の筒状部15aの外周面15dとの間に形成された楔すきま20での係合および離脱により外輪14からの回転トルクの伝達および遮断を制御する。
保持器17は、円筒ころ16を収容する複数のポケット17aが円周方向等間隔に形成された円筒状部材で、外輪14のカム面14bと内輪15の筒状部15aの外周面15dとの間の楔すきま20に円筒ころ16を円周方向等間隔に保持する。
内側センタリングばね18は、保持器17とブレーキ側クラッチ部12のカバー24との間に配設された断面円形のC字状弾性部材で、その両端部を保持器17およびカバー24の一部に係止させている。
内側センタリングばね18は、レバー操作により外輪14から入力される回転トルクの作用時、静止状態にあるカバー24に対して、外輪14に追従する保持器17の回転に伴って押し拡げられて弾性力が蓄積され、外輪14からの回転トルクの開放時、その弾性力により保持器17を中立状態に復帰させる。
内側センタリングばね18の径方向外側に位置する外側センタリングばね19は、外輪14とブレーキ側クラッチ部12のカバー24との間に配設されたC字状帯板弾性部材で、その両端部を外輪14およびカバー24の一部に係止させている。
外側センタリングばね19は、レバー操作により外輪14から入力される回転トルクの作用時、静止状態にあるカバー24に対して、外輪14の回転に伴って押し拡げられて弾性力が蓄積され、外輪14からの回転トルクの開放時、その弾性力により外輪14を中立状態に復帰させる。
ブレーキ側クラッチ部12は、図1および図3に示すように、レバー側クラッチ部11の内輪15と、出力部材である出力軸22と、静止部材である外輪23、カバー24および側板25と、円筒ころ27および断面N字形の板ばね28と、制動部材である巻ばね29とで主要部が構成されている。
出力軸22は、内輪15の筒状部15aが外挿された軸部22aと、その軸部22aの略中央部位に一体的に形成された大径部22bと、軸部22aの出力側端部に同軸的に形成されたピニオンギヤ部22dとからなり、レバー側クラッチ部11からの回転トルクが出力される。
出力軸22のピニオンギヤ部22dは、シートリフタ部39(図6参照)と連結される。また、出力軸22の軸部22aの入力側端部にウェーブワッシャ30を介してワッシャ31を圧入することにより、レバー側クラッチ部11の構成部品を抜け止めしている。
出力軸22の大径部22bの外周には複数(例えば6つ)の平坦なカム面22eが円周方向等間隔に形成されている。大径部22bのカム面22eと外輪23の円筒状内周面23aとの間に楔すきま26が形成されている。
この楔すきま26に、二つの円筒ころ27とその間に介挿された一つの板ばね28とがそれぞれ配されている。円筒ころ27は、楔すきま26での係合および離脱により、出力軸22から逆入力される回転トルクの遮断と内輪15から入力される回転トルクの伝達とを制御する。板ばね28は、円筒ころ27同士に円周方向への離反力を付勢する。
円筒ころ27および板ばね28は、外輪14から入力される回転トルクを出力軸22に伝達する機能を持つ内輪15の柱部15cにより円周方向等間隔に配設されている。つまり、内輪15の柱部15cは、円筒ころ27および板ばね28をポケット15fに収容して円周方向等間隔に保持する機能を持つ。
出力軸22の大径部22bには、内輪15からの回転トルクを出力軸22に伝達するための突起22fが設けられている。突起22fは、内輪15の拡径部15bに形成された孔15eに円周方向のクリアランスをもって挿入配置されている。
外輪23、カバー24および側板25は、外輪23の外周縁部に形成された切欠き凹部23bと、カバー24の外周縁部に形成された切欠き凹部24aとに、側板25の外周縁部に形成された爪部25aを挿入して加締めることにより一体化されている。
以上のような構造を具備するレバー側クラッチ部11およびブレーキ側クラッチ部12の動作例を以下に説明する。
レバー側クラッチ部11では、レバー操作により外輪14に回転トルクが入力されると、円筒ころ16が外輪14と内輪15間の楔すきま20に係合する。この楔すきま20での円筒ころ16の係合により、内輪15に回転トルクが伝達されて内輪15が回転する。この時、外輪14および保持器17の回転に伴って両センタリングばね18,19に弾性力が蓄積される。
レバー操作による回転トルクの入力がなくなると、両センタリングばね18,19の弾性力により保持器17および外輪14が中立状態に復帰する。一方で、内輪15は、与えられた回転位置をそのまま維持する。従って、外輪14の回転繰り返し、つまり、操作レバー43(図6参照)のポンピング操作により、内輪15は寸動回転する。
ブレーキ側クラッチ部12では、座席シート40(図6参照)への着座により出力軸22に回転トルクが逆入力されても、円筒ころ27が出力軸22と外輪23間の楔すきま26と係合して出力軸22が外輪23に対してロックされる。
このようにして、出力軸22から逆入力された回転トルクは、ブレーキ側クラッチ部12によってロックされてレバー側クラッチ部11へ逆入力される回転トルクの還流が遮断される。これにより、座席シート40(図6参照)の座面高さは保持される。
一方、レバー操作によりレバー側クラッチ部11からの回転トルクが内輪15に入力されると、内輪15の柱部15cが円筒ころ27と当接して板ばね28の弾性力に抗して円筒ころ27を押圧する。
これにより、円筒ころ27が楔すきま26から離脱し、この楔すきま26からの円筒ころ27の離脱により出力軸22のロック状態が解除され、出力軸22は回転可能となる。この出力軸22のロック状態の解除時、巻ばね29により出力軸22に回転抵抗が付与される。
内輪15がさらに回転すると、内輪15の拡径部15bの孔15eと出力軸22の大径部22bの突起22fとのクリアランスが詰まって内輪15の拡径部15bが出力軸22の突起22fに回転方向で当接する。
これにより、レバー側クラッチ部11からの回転トルクは、突起22fを介して出力軸22に伝達されて出力軸22が回転する。つまり、内輪15が寸動回転すると、出力軸22も寸動回転することになる。これにより、座席シート40(図6参照)の座面高さが調整可能となる。
以上で説明したクラッチユニット10は、レバー操作により座席シート40の座面高さを調整する自動車用シートリフタ部39に組み込まれて使用される。図6は自動車の乗員室に装備される座席シート40を示す。
図6に示すように、シートリフタ部39において、座席シート40の座面高さは、クラッチユニット10におけるレバー側クラッチ部11の側板13(図1参照)に取り付けられた操作レバー43によって調整される。
シートリフタ部39は、以下の構造を具備する。スライド可動部材44にリンク部材45,46の一端がそれぞれ回動自在に枢着されている。リンク部材45,46の他端はそれぞれ座席シート40に回動自在に枢着されている。リンク部材45の他端にはセクターギヤ47が一体的に設けられている。セクターギヤ47はクラッチユニット10の出力軸22のピニオンギヤ部22dに噛合している。
例えば、座席シート40の座面を低くする場合、レバー側クラッチ部11でのレバー操作、つまり、操作レバー43を下側へ揺動させることにより、ブレーキ側クラッチ部12(図1参照)のロック状態を解除する。
このブレーキ側クラッチ部12でのロック解除時、巻ばね29(図1参照)により出力軸22に適正な回転抵抗を付与することで、座席シート40の座面をスムーズに低くすることができる。
ブレーキ側クラッチ部12でのロック解除により、レバー側クラッチ部11からブレーキ側クラッチ部12に伝達された回転トルクでもって、ブレーキ側クラッチ部12の出力軸22のピニオンギヤ部22dが時計方向(図6の矢印方向)に回動する。
そして、ピニオンギヤ部22dと噛合するセクターギヤ47が反時計方向(図6の矢印方向)に揺動し、リンク部材45とリンク部材46が共に傾倒して座席シート40の座面が低くなる。
このようにして、座席シート40の座面高さを調整した後、操作レバー43を開放すると、操作レバー43が両センタリングばね18,19の弾性力によって上側へ揺動して元の位置(中立状態)に戻る。
なお、操作レバー43を上側へ揺動させた場合は、前述とは逆の動作で座席シート40の座面が高くなる。座席シート40の座面高さを調整した後に操作レバー43を開放すると、操作レバー43が下側へ揺動して元の位置(中立状態)に戻る。
この実施形態におけるクラッチユニット10の全体構成は、前述のとおりであるが、その特徴的な構成である制動部材としての巻ばね29について、以下に詳述する。
巻ばね29は、図4(A)(B)に示すように、金属製の帯板状弾性部材を軸方向に沿って螺旋状に巻回したもので、その一端部に軸方向に突出する係止部29aを有する。図5に示すように、この係止部29aを側板25に設けられたスリット25bに嵌合することにより、巻ばね29を側板25に回り止め状態で固定している(図1参照)。
この回り止め状態の巻ばね29は、出力軸22の大径部22bに形成された環状凹部22c内で拡径および縮径可能に収容されている。巻ばね29は、その外周面29bと出力軸22の環状凹部22cの内周面22gとの間に嵌め合い代を設けている。
側板25に取り付けられた巻ばね29を出力軸22に組み付けるに際しては、出力軸22の環状凹部22cの内周面22gに対して巻ばね29の外周面29bを嵌め合い代により圧入することになる。なお、巻ばね29の内周面29cと出力軸22の軸部22aの外周面22hとの間には隙間が存在する。
レバー操作によりブレーキ側クラッチ部12における出力軸22のロック状態を解除するに際して、巻ばね29と出力軸22との嵌め合い代により巻ばね29の外周面29bと出力軸22の環状凹部22cの内周面22gとの間に生じる摩擦力でもって、巻ばね29の外周面29bに対して出力軸22の環状凹部22cの内周面22gが摺動する。
この巻ばね29と出力軸22との間の摩擦力により、出力軸22に適正な回転抵抗(摺動トルク)を付与する。この回転抵抗の付与により、座席シート40(図6参照)の座面高さをスムーズに調整することができる。
この実施形態で制動部材として使用する巻ばね29は、出力軸22の環状凹部22cの内周面22gに対して拡径および縮径可能であることから、出力軸22に付与される回転抵抗を、レバー操作による入力側クラッチ部11からの回転トルクの回転方向によって容易に増減させることができる。
このように、出力軸22に付与される回転抵抗を、レバー操作による入力側クラッチ部11からの回転トルクの回転方向によって増減させることが容易となることから、その回転方向に応じて最適な回転抵抗を出力軸22に付与することができる。
その結果、出力軸22に回転抵抗を適正に付与することができることから、入力側クラッチ部11からの回転トルクを安定させることができる。
つまり、座席シート40(図6参照)の座面を上げるためのレバー操作では、搭乗者の体重が座席シート40の座面に作用した状態となっていることから、搭乗者の体重分のトルクも操作レバーに加わることになる。
このレバー操作による入力側クラッチ部11からの回転トルクの回転方向を巻ばね29が縮径する方向に設定することで、出力軸22に付与される回転抵抗(摺動トルク)の増加、つまり、レバー操作時の操作トルクの増加を抑制することができる。
逆に、座席シート40の座面を下げるためのレバー操作では、入力側クラッチ部11からの回転トルクの回転方向は巻ばね29が拡径する方向となるので、座席シート40の自重や搭乗者の体重によって座席シート40の座面が急激に下がらない程度に最適な回転抵抗(摺動トルク)を出力軸22に付与することができる。
また、この実施形態で採用した巻ばね29は金属製であるため、クラッチユニット10の使用環境、つまり、ブレーキ側クラッチ部12での温度変化によって巻ばね29が膨張あるいは収縮し難い。これにより、出力軸22に付与される回転抵抗が変化し難い。巻ばね29の場合、経年劣化により出力軸22に対する嵌め合い代の変化も少ない。
その結果、安定した回転抵抗を出力軸22に付与することが容易となり、最適な操作トルクによるレバー操作を可能とし、使用環境や経年劣化による悪影響を抑制してレバー操作の安定化が図れる。
以上の実施形態において、巻ばね29は、その外周面29bと出力軸22の環状凹部22cの内周面22gとの間に嵌め合い代を設けているが、巻ばね29の内周面29cと出力軸22の軸部22aの外周面22hとの間に嵌め合い代を設ける構造としてもよい。
この場合、座席シート40の座面を上げるためのレバー操作では、入力側クラッチ部11からの回転トルクの回転方向を巻ばね29が拡径する方向に設定することで、出力軸22に付与される回転抵抗(摺動トルク)の増加、つまり、レバー操作時の操作トルクの増加を抑制することができる。
逆に、座席シート40の座面を下げるためのレバー操作では、入力側クラッチ部11からの回転トルクの回転方向は巻ばね29が縮径する方向となるので、座席シート40の自重や搭乗者の体重によって座席シート40の座面が急激に下がらない程度に最適な回転抵抗(摺動トルク)を出力軸22に付与することができる。
以上の実施形態では、ブレーキ側クラッチ部12において、回転トルクの遮断および伝達を制御する手段として円筒ころ27を採用した場合を例示したが、本発明は、図7に示す構造のクラッチユニット110にも適用可能である。この実施形態の特徴的な構成を説明する前にクラッチユニット110の全体構成を説明する。
この実施形態のクラッチユニット110は、図7に示すように、入力側クラッチ部としてのレバー側クラッチ部111と、出力側クラッチ部としてのブレーキ側クラッチ部112とをユニット化した構造を具備する。このクラッチユニット110も、前述のシートリフタ部39(図6参照)に組み込まれて使用される。
レバー側クラッチ部111は、レバー操作により入力される回転トルクの伝達および遮断を制御する。ブレーキ側クラッチ部112は、レバー側クラッチ部111からの回転トルクを出力側へ伝達すると共に、出力側から逆入力される回転トルクを遮断する逆入力遮断機能を有する。
レバー側クラッチ部111は、図7および図8に示すように、側板113および外輪114と、入力軸115と、複数の円筒ころ116と、保持器117と、内側センタリングばね118と、外側センタリングばね119とで主要部が構成されている。
側板113および外輪114は、側板113の外周縁部に形成された爪部120を、外輪114の外周縁部に形成された切欠き凹部121に挿入して加締めることにより一体化され、レバー操作により回転トルクが入力される。
外輪114の内周には、複数のカム面122が円周方向等間隔に形成されている。外輪114への回転トルクの入力は、側板113にねじ止め等により取り付けた上下方向搖動可能な操作レバー43(図6参照)により行われる。
入力軸115は、軸部123と、その軸部123の出力側端部に一体的に設けられたフランジ部124とで構成され、外輪114から入力される回転トルクをブレーキ側クラッチ部112に伝達する。
軸部123の円柱状外周面125と外輪114のカム面122との間に楔すきま126(図8参照)が形成されている。軸部123の入力側端部にウェーブワッシャ127を介してワッシャ128を圧入することにより、レバー側クラッチ部111の構成部品を抜け止めしている。
円筒ころ116は、外輪114のカム面122と入力軸115の外周面125との間に形成された楔すきま126での係合および離脱により外輪114からの回転トルクの伝達を制御する。
保持器117は、円筒ころ116を収容する複数のポケット129が円周方向等間隔に形成された円筒状部材で、外輪114のカム面122と入力軸115の外周面125との間の楔すきま126に円筒ころ116を円周方向等間隔に保持する。
内側センタリングばね118は、保持器117とブレーキ側クラッチ部112のカバー132との間に配設された断面円形のC字状弾性部材で、その両端部を保持器117およびカバー132の一部に係止させている。
内側センタリングばね118は、レバー操作により外輪114から入力される回転トルクの作用時、静止状態にあるカバー132に対して、外輪114に追従する保持器117の回転に伴って押し拡げられて弾性力が蓄積され、外輪114からの回転トルクの開放時、その弾性力により保持器117を中立状態に復帰させる。
内側センタリングばね118の径方向外側に位置する外側センタリングばね119は、外輪114とブレーキ側クラッチ部112のカバー132との間に配設されたC字状帯板弾性部材で、その両端部を外輪114およびカバー132の一部に係止させている。
外側センタリングばね119は、レバー操作により外輪114から入力される回転トルクの作用時、静止状態にあるカバー132に対して、外輪114の回転に伴って押し拡げられて弾性力が蓄積され、外輪114からの回転トルクの開放時、その弾性力により外輪114を中立状態に復帰させる。
ブレーキ側クラッチ部112は、図7、図9および図10に示すように、レバー側クラッチ部111の入力軸115と、出力部材である出力軸131と、静止部材であるカバー132、外輪133、ケース134および側板135と、クラッチ板136と、制動部材である巻ばね144とで主要部が構成されている。
入力軸115は、図11に示すように、軸部123と、その軸部123の出力側端部に一体的に形成されたフランジ部124とで構成されている。また、入力軸115の出力側端面の中央部位には、出力軸131の軸部137の入力軸側端部が嵌まり込む凹部138が形成されている(図7参照)。
出力軸131は、図12に示すように、軸部137と、その軸部137の略中央部位に一体的に形成された大径部138と、その大径部138の入力軸側に一体的に形成されたフランジ部139と、大径部138と同軸的に形成されたピニオンギヤ部140(図7参照)とで主要部が構成されている。
カバー132、外輪133、ケース134および側板135で囲まれた内部空間に、入力軸115のフランジ部124、クラッチ板136、出力軸131のフランジ部139からなる主要部が収容されている。静止系であるカバー132、外輪133、ケース134および側板135に対して、入力軸115および出力軸131が回転自在に配置されている。
カバー132、外輪133、ケース134および側板135は、側板135の外周縁部に形成された爪部141(図9および図10参照)を、カバー132の外周縁部に形成された切欠き凹部167(図17参照)と、外輪133およびケース134の外周縁部に形成された切欠き凹部142,143(図9および図14参照)に挿入して加締めることにより一体化されている。
入力軸115のフランジ部124と出力軸131のフランジ部139との間に、クラッチ板136が軸方向移動可能に配されている。クラッチ板136は、図13に示すように、その中央部位に出力軸131の軸部137が挿通される軸孔145を有する。このクラッチ板136は、出力軸131のフランジ部139との間に介在するウェーブスプリング146により入力軸115側へ弾性的に押圧されている(図7参照)。
クラッチ板136の軸孔145の一部に平坦部147が形成されている。また、出力軸131の軸部137の入力側端部に平坦部148が形成されている(図12参照)。出力軸131の軸部137の入力側端部をクラッチ板136の軸孔145に挿入する。
この時、出力軸131の平坦部148とクラッチ板136の平坦部147とを位相合わせすることにより、クラッチ板136と出力軸131との相対的な回転が不能となっている。一方、クラッチ板136は、出力軸131に対して平坦部147,148に沿って軸方向移動が可能となっている。
入力軸115とクラッチ板136との間に、クラッチ板136を軸方向移動させるためのカム部149が設けられている。カム部149は、入力軸115に設けられたカム面150と、クラッチ板136に設けられたカム面151とで構成されている(図11および図13参照)。入力軸115のカム面150とクラッチ部材136のカム面151とが摺接可能となっている。
図11に示すように、入力軸115のフランジ部124の端面に円弧状の突壁部152を一体的に形成している。その突壁部152の周方向端部にカム面150が回転方向に対して傾斜するように形成されている。このカム面150は、正方向回転と逆方向回転に対応するため、入力軸115の突壁部152の周方向両端部に設けられている。
一方、図13に示すように、入力軸115の突壁部152が挿入配置される円弧状の開口部153をクラッチ板136に形成している。その開口部153の周方向端部にカム面151が回転方向に対して傾斜するように形成されている。このカム面151も、正方向回転と逆方向回転に対応するため、クラッチ板136の開口部153の周方向両端部に設けられている。
クラッチ板136と外輪113との間に、回転方向で噛み合い可能な凹凸嵌合部154が設けられている。この凹凸嵌合部154は、図13および図14に示すように、クラッチ板136の外周面全周に亘って設けられたギヤ部155と、外輪133の内周面全周に亘って設けられたギヤ部156とで構成されている。このクラッチ板136のギヤ部155と外輪133のギヤ部156とが噛合可能となっている(図9参照)。
入力軸115とクラッチ板136との間に、入力軸115からの回転トルクをクラッチ板136を介して出力軸131に伝達するトルク伝達部147を設けている。このトルク伝達部147は、図11および図13に示すように、入力軸115の突壁部152のカム面150の周方向端部に軸方向に沿って形成された起立面159と、クラッチ板136の開口部153のカム面151の周方向端部に軸方向に沿って形成された起立面160とで構成されている。
この入力軸115の突壁部152の起立面159がクラッチ板136の開口部153の起立面160に回転方向で当接することにより、入力軸115からの回転トルクがクラッチ板136に伝達可能となっている。クラッチ板136に伝達された回転トルクは、クラッチ板136と出力軸131が相対回転不能となっていることから、クラッチ板136の軸孔145および出力軸131の軸部137を介して出力軸131に伝達される。
以上の構成からなるレバー側クラッチ部111およびブレーキ側クラッチ部112の動作例を以下に説明する。
レバー側クラッチ部111では、レバー操作により外輪114に回転トルクが入力されると、円筒ころ116が外輪114と入力軸115間の楔すきま126に係合する。この楔すきま126での円筒ころ116の係合により、入力軸115に回転トルクが伝達されて入力軸115が回転する。この時、外輪114および保持器117の回転に伴って両センタリングばね118,119に弾性力が蓄積される。
レバー操作による回転トルクの入力がなくなると、両センタリングばね118,119の弾性力により保持器117および外輪114が中立状態に復帰する。一方で、入力軸115は、与えられた回転位置をそのまま維持する。従って、外輪114の回転繰り返し、つまり、操作レバー43(図6参照)のポンピング操作により、入力軸115は寸動回転する。
ブレーキ側クラッチ部112では、出力軸131から逆入力される回転トルクの遮断時、出力軸131とクラッチ板136との間に介在するウェーブスプリング146の弾性力により、クラッチ板136が入力軸115側に押圧された状態にある。
この状態では、凹凸嵌合部154において、クラッチ板136のギヤ部155と静止系である外輪133のギヤ部156とが噛合した状態となっている(図9参照)。このクラッチ板136のギヤ部155と外輪133のギヤ部156との噛合により、クラッチ板136がロック状態となる。
つまり、このクラッチ板136と相対回転が不能な出力軸131もロック状態となる。このクラッチ板136および出力軸131のロック状態により、出力軸131から逆入力される回転トルクが入力軸115に伝達されることはない。これにより、座席シート40(図6参照)の座面高さは保持される。
次に、出力軸131から逆入力される回転トルクがなくなり、入力軸115から回転トルクが入力されると、入力軸115とクラッチ板136との間のカム部149により、クラッチ板136が出力軸131側に軸方向移動する。
つまり、カム部149では、図15に示すように、入力軸115の突壁部152のカム面150とクラッチ板136の開口部153のカム面151とが当接し、入力軸115のカム面150がクラッチ板136のカム面151を押圧する。
クラッチ板136への押圧力がウェーブスプリング146の弾性力に打ち勝つと、入力軸115の回転により入力軸115のカム面150に対してクラッチ板136のカム面151が摺接することにより、入力軸115の回転がクラッチ板136の軸方向移動に変換される(図15の矢印参照)。
このクラッチ板136の軸方向移動により、外輪133のギヤ部156からクラッチ板136のギヤ部155が離脱する。外輪133のギヤ部156に対するクラッチ板136のギヤ部155の離脱により、クラッチ板136および出力軸131のロック状態が解除される。
出力軸131のロック解除時、巻ばね144と出力軸131の回転抵抗によってシート下がりを防止する。
ロック解除後は入力軸115とクラッチ板136が相対回転し、クラッチ板のトルク伝達部147と出力軸のトルク伝達部148が係合している為、入力軸の回転トルクが出力軸131に伝達され、出力軸131が入力軸115と同方向に回転する。つまり、入力軸115が寸動回転すると、出力軸131も寸動回転することになる。これにより、座席シート40の座面高さが調整可能となる。
この実施形態におけるクラッチユニット110の全体構成は、前述のとおりであるが、その特徴的な構成である制動部材としての巻ばね144について、以下に説明する。この実施形態の巻ばね144も、前述の実施形態の巻ばね29〔図4(A)(B)参照〕と基本的な構成が同一である。
巻ばね144は、図16(A)(B)に示すように、金属製の帯板状弾性部材を軸方向に沿って螺旋状に巻回したもので、その一端部に軸方向に突出する係止部161を有する。図17に示すように、この係止部161を外輪133に設けられたスリット162に嵌合することにより、巻ばね144を外輪133に回り止め状態で固定している(図7参照)。
この回り止め状態の巻ばね144は、外輪133、ケース134および側板135で囲まれた内部空間に拡径および縮径可能に収容されている。巻ばね144は、その内周面163と出力軸131のフランジ部139の外周面164との間に嵌め合い代を設けている(図10参照)。
外輪133に取り付けられた巻ばね144を出力軸131に組み付けるに際しては、出力軸131のフランジ部139の外周面164に対して巻ばね144の内周面163を圧入することになる。なお、巻ばね144の外周面165とケース134の内周面166との間には隙間が存在する。
巻ばね144と出力軸131との嵌め合い代を設けているので、出力軸回転時には摩擦抵抗が発生する。
この巻ばね144と出力軸131との間の摩擦力により、出力軸131に適正な回転抵抗(摺動トルク)を付与すると共にブレーキロック解除時のシート座面下がりを防止している。
この実施形態で制動部材として使用する巻ばね144は、出力軸131のフランジ部139の外周面164に対して拡径および縮径可能であることから、出力軸131に付与される回転抵抗を、レバー操作による入力側クラッチ部111からの回転トルクの回転方向によって容易に増減させることができる。
このように、出力軸131に付与される回転抵抗を、レバー操作による入力側クラッチ部111からの回転トルクの回転方向によって増減させることが容易となることから、その回転方向に応じて最適な回転抵抗を出力軸131に付与することができる。
その結果、出力軸131に回転抵抗を適正に付与することから、入力側クラッチ部111からの回転トルクを安定させることができる。
つまり、座席シート40の座面を上げるためのレバー操作では、搭乗者の体重が座席シート40の座面に作用した状態となっていることから、搭乗者の体重分のトルクも操作レバー43に加わることになる。
このレバー操作による入力側クラッチ部111からの回転トルクの回転方向を巻ばね144が拡径する方向に設定することで、出力軸131に付与される回転抵抗(摺動トルク)の増加、つまり、レバー操作時の操作トルクの増加を抑制することができる。
逆に、座席シート40の座面を下げるためのレバー操作では、入力側クラッチ部111からの回転トルクの回転方向は巻ばね144が縮径する方向となるので、座席シート40の自重や搭乗者の体重によって座席シート40の座面が急激に下がらない程度に最適な回転抵抗(摺動トルク)を出力軸131に付与することができる。
また、この実施形態で採用した巻ばね144は金属製であるため、クラッチユニット110の使用環境、つまり、ブレーキ側クラッチ部112での温度変化によって巻ばね144が膨張あるいは収縮し難い。これにより、出力軸131に付与される回転抵抗が変化し難い。巻ばね144の場合、経年劣化により出力軸131に対する嵌め合い代の変化も少ない。
その結果、安定した回転抵抗を出力軸131に付与することが容易となり、最適な操作トルクによるレバー操作を可能とし、使用環境や経年劣化による悪影響を抑制してレバー操作の安定化が図れる。
本発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。