JP7001074B2 - 拘束性ブレークアウトの予測方法及び鋼の連続鋳造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、鋼の連続鋳造工程で生じ得る拘束性ブレークアウトを予測する方法に関し、更には、その方法を用いた鋼の連続鋳造方法に関する。
鋼の連続鋳造では、鋳型に溶鋼を注入し、鋳型で溶鋼を冷却して、鋳型との接触面で溶鋼を凝固させて凝固層(「凝固シェル」という)を生成し、凝固シェルを、水スプレーなどで冷却しながら、内部の未凝固層とともに鋳型から連続的に引き抜き、スプレーによる冷却で中心部まで凝固して鋳片を製造する。溶鋼を鋳型に注入する際に、上下方向の振動を鋳型に与えつつ鋳型内の溶鋼表面(適宜「メニスカス」ともいう)にモールドパウダーを投入し、該モールドパウダーが溶融して形成される溶融スラグを凝固シェルと鋳型内壁との間に流入させ、振動と溶融スラグによって凝固シェルが鋳型に焼き付くことを防止している。
鋼の連続鋳造中に溶鋼温度などの操業条件が変わり、凝固シェルの厚み方向の成長が遅れるあるいは止まるなどすると、凝固シェルが破断し、破断部位から未凝固の溶鋼が流出する。この現象をブレークアウトという。鋼の連続鋳造の操業では、溶融スラグによって凝固シェルが鋳型へ焼き付くことを防止することを試みているものの、操業条件によっては鋳型と凝固シェルの間への溶融スラグの流れ込み状態が変わり、特に鋳型のメニスカス近傍で凝固シェルが鋳型に焼き付く場合がある。この焼き付きに起因したブレークアウトを特に拘束性ブレークアウトと呼ぶ。拘束性ブレークアウトは、他の要因によるブレークアウトより発生頻度が高い。
ブレークアウトが生じると凝固シェルが部分的に破断した部位から溶鋼が流出し、設備機器が故障するだけでなく安全性が損なわれるので、操業を停止せざるを得ない。よって、操業では、特許文献1に記載されている通り、特に拘束性ブレークアウトの発生を回避すべく、鋳型内壁の温度を測定して得られる温度データを解析して、拘束性ブレークアウトが発生するかを予測・監視している。
特許文献1には、熱電対などの温度測定器を複数個水平に配列して測温列を形成し、該測温列を上下に2段以上配置し、且つ、任意の2段の測温列に配列される温度測定器を同一の鉛直線上に配置した鋳型で、鋳型の温度を計測して、拘束性ブレークアウトを監視する方法が開示されている。この方法では、温度測定器の測定温度が下記条件M及びNを共に満たした場合に、拘束性ブレークアウトが発生し得ると予測している。
条件M:上段の温度測定器の測定温度列及び/または下段の測定温度列で互いに隣り合う温度測定器の測定値が上昇しさらに下降する。
条件N:鉛直線上に配置される下段の前記温度測定器の測定温度の値が上段の測定値よりも高い。
前記条件Mは、横軸を時間(時刻)とし、縦軸を温度とした場合の温度分布において、上段及び/または下段の温度がピークを有することを意味し、前記条件Nは、下段の温度が上段の温度を超えることを意味している。特許文献1には、この2つの条件を満たす場合には、拘束性ブレークアウトの原因となる焼き付きが生じたと判定でき、そのように判定する考察が記載されている。更に、焼き付きが発生したと予測した場合には、鋳型から鋳片を引き抜く速度(鋳造速度)を下げて、鋳型による凝固シェルの冷却を促進させて、焼き付きで生じた亀裂の冷却を促進して拘束性ブレークアウトの発生を防止している。
特開2017-154155号公報
特許文献1では、予測(監視)の基となる温度データの解析対象が明確ではない。例えば、鋳型のメニスカスから下端に溶鋼が到達する時間の温度データ全てを解析対象とすることが考えられるものの、解析対象のデータを多くし過ぎると、焼き付きが生じていないにも拘わらず、生じたと判定してしまう「誤検出」の割合が増加する可能性がある。一方で、対象データを少なくし過ぎると、実際には焼き付きが生じたにも拘わらず、生じたと判定できない「見過し」の割合が増加する可能性がある。
拘束性ブレークアウトの発生を防ぐべく鋳造速度を下げると、鋳片の生産性が悪化するので、予測の正確性を高めて、必要な場合に限って鋳造速度を下げる操業を行うことが望ましい。すなわち、誤検出の割合は低い方が望ましい。また、見過しがあると、実際に拘束性ブレークアウトが発生してしまう。すなわち、見過しは起きないことが望ましい。これらに加え、低速あるいは高速となる広範囲な鋳造速度での鋼の連続鋳造において、焼き付きが生じた現象を正しく判定し得る、解析対象となる温度データを最適な範囲とする拘束性ブレークアウトの予測方法が希求されている。
本発明は、上記事情を鑑みて完成されたものであり、予測の基となる温度データの解析対象を明確にすることで、鋳造速度が広範囲となる鋼の連続鋳造において、拘束性ブレークアウトの原因となる凝固シェルの鋳型への焼き付きの発生を従来技術よりも精度良く予測することを目的とする。よって、本発明は、そのような予測を行う拘束性ブレークアウトの予測方法を提供することを目的とし、この方法を用いた鋼の連続鋳造方法を提供することも目的とする。
本発明者は、特許文献1に提案される拘束性ブレークアウトの監視方法を鋭意検討し、この監視方法では、鋳型内での焼き付きの移動速度を考慮していないことに気がついた。本発明者は、予測の基となる温度データの解析対象を前記移動速度に基づいて定める方法を検討して、拘束性ブレークアウトの原因となる凝固シェルと鋳型との焼き付きが生じたことを従来技術より正確に予測することを可能とする方法を完成した。
即ち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1)鋼の連続鋳造方法における拘束性ブレークアウトの予測方法であって、鋳型のメニスカスより下方で鋳造方向に沿った、前記鋳型の内壁の上下2箇所に設けられた温度測定器で温度を測定し、測定した温度データを解析して、下側の前記温度測定器で測定された温度が上側の前記温度測定器で測定された温度よりも高くなった反転時刻から所定時間N遡った時刻Aから、前記反転時刻から所定時間M経過した時刻Bまでの間で測定した温度データが上昇して下降する分布を有する場合には、拘束性ブレークアウトが生じ得ると判定することとし、Mは、上側の前記温度測定器と下側の前記温度測定器との間隔距離L2[m]及び鋳造速度Vc[m/秒]から算出される値、Nは、前記メニスカスと下側の前記温度測定器との間隔距離L1[m]及び前記鋳造速度Vc[m/秒]から算出される値、であることを特徴とする拘束性ブレークアウトの予測方法。
(2)下側の前記温度測定器で測定された温度が上側の前記温度測定器で測定された温度と同じになった時刻からM秒経過した時点で、前記時刻が反転時刻であるかを特定し、前記時刻が反転時刻であれば、前記時刻Aから前記時刻Bまでの間で測定した温度データを解析し、拘束性ブレークアウトが生じ得るかを判定することを特徴とする(1)に記載の拘束性ブレークアウトの予測方法。
(3)上記(1)または(2)に記載の拘束性ブレークアウトの予測方法を用いた鋼の連続鋳造方法であって、拘束性ブレークアウトが生じ得ると判定したら前記鋳造速度Vcを下げることを特徴とする鋼の連続鋳造方法。
本発明によって、広範囲な鋳造速度での鋼の連続鋳造において、拘束性ブレークアウトの原因となる凝固シェルと鋳型との焼き付きが生じたことを従来技術より正確に予測することを可能となった。
連続鋳造機を示す図である。 図1に示す連続鋳造機の鋳型の内壁を示す図である。 図2に示す鋳型の側断面を示し、拘束性ブレークアウトの原因となる焼き付きが移動する状況を示す説明図である。 焼き付きが生じた鋳型の内壁を示す図である。 本発明を適用した場合の温度分布を示すグラフである。 本発明を適用した場合の温度分布を示す図5とは別のグラフである。 鋳片に形成されたリップルマークの一例を示す図である。
本発明は、鋼の連続鋳造の操業で生じ得る拘束性ブレークアウトを予測する方法に関する。その説明の前に、鋼の連続鋳造を行う連続鋳造機を示す図1を参照して、連続鋳造工程及び連続鋳造機を説明する。
連続鋳造機1は、鋳型5と、該鋳型5の上方に設置されるタンディッシュ2と、鋳型5の下方に複数並べて配置される鋳片支持ロール6と、を有する。図示を省略してあるが、タンディッシュ2の上方には、溶鋼9を収容する取鍋が設置され、該取鍋の底部からタンディッシュ2に溶鋼9を注入する。タンディッシュ2の底部には、スライディングノズル3が取り付けられた浸漬ノズル4が設置され、タンディッシュ2内に溶鋼9を所定量滞在させた状態で浸漬ノズル4を介して溶鋼9を鋳型5に注入する。鋳型5には冷却水路が形成されており、該冷却水路に冷却水を通過させている。これにより、鋳型5の内面から溶鋼9が抜熱され凝固し凝固シェル11が形成され、該凝固シェル11が引き抜かれ、溶鋼9からなる未凝固層12を内部に有する鋳片10が形成される。
鋳造方向に隣り合う鋳片支持ロール6の間隙には、スプレーノズルが配置された冷却帯(図示せず)が、鋳型5の直下から鋳造方向に沿って複数設置されている。スプレーノズルから噴霧される冷却水によって、鋳片10は、引き抜かれながら冷却される。鋳片10が、鋳片支持ロール6で搬送されて、冷却帯を通過している間に、凝固シェル11が適切に冷却され、未凝固層12の凝固が進み、鋳片10の凝固が完了する。
図示を省略してあるが、凝固完了位置13あるいはその鋳造方向下流には、鋳片10を引き続き搬送するための搬送ロールが複数設置されており、搬送ロールの上方には、鋳片を切断するための鋳片切断機が配置され、凝固完了後の鋳片10は、鋳片切断機によって、所定の長さの鋳片に切断される。
溶鋼9を鋳型5に注入する際には、上下方向の振動を鋳型5に与えつつ鋳型5内の溶鋼表面にモールドパウダーを投入しており、該モールドパウダーが溶融して形成される溶融スラグを凝固シェル11と鋳型5の内壁との間に流入させ、振動と溶融スラグとによって凝固シェル11が鋳型5に焼き付くことを防止している。しかしながら、操業条件によって鋳型5と凝固シェル11の間への溶融スラグの流れ込み状態が変わり、特に鋳型のメニスカス近傍で凝固シェル11が鋳型5に焼き付く場合がある。この焼き付きに起因して拘束性ブレークアウトが生じる場合がある。
次に、鋳型で生じ得る焼き付きについて図2~4を参照して説明する。図2では鋳型5の内壁を示してあり、図3では、鋳型5の側断面を示し、拘束性ブレークアウトの原因となる焼き付きが移動する状況を示してある。なお、説明のために溶融スラグは図示を省略してある。図4では、焼き付きが生じた鋳型5の内壁を示してある。
図2に示すように、鋳型5には、メニスカス21より下方で、鋳造方向Aに沿った同一鉛直線上の少なくとも上下2箇所に温度測定器22a,22bを設けてある。メニスカス21と上側の温度測定器22aとの鋳造方向Aに沿った間隔距離はL0[m]、メニスカス21と下側の温度測定器22bとの間隔距離はL1[m]、温度測定器22aと22bとの間隔距離はL2[m]、である。図示は省略してあるが、温度測定器22a,22bはプロセスコンピュータに繋がれており、温度測定器22a,22bから得られる測定温度データがプロセスコンピュータに送られる。なお、温度測定器22a,22は、温度が測定可能であれば特に限定されるものではないが、熱電対が使用可能である。図2に示すように、上下段の温度測定器22a,22bを水平方向に複数配列してもよい。
図3において、(a)では、鋳型5から凝固シェル11が正常に引き抜かれている状態、(b)では、メニスカス21近傍で焼き付きが発生し、焼き付き31が温度測定器22aに到達した状態、(c)及び(d)では、焼き付き31が鋳造方向Aに移動していく状態、を示してある。図3(b)に示す状態で凝固シェル11が鋳造方向Aへ引き抜かれると、焼き付き31の上側の凝固シェル11は、焼き付き31に拘束されて、鋳造方向Aへの進行が阻害される。一方で、焼き付き31の下側の凝固シェル11は鋳造方向Aへ進行するので、鋳型5内の凝固シェル11に微細な亀裂が生じる。亀裂から溶鋼9が鋳型5に接触することによって、新たな焼き付きが、焼き付き31の下側近傍に発生する。このようにして、焼き付き31が、図3(c)に示すように鋳造方向Aへ移動して行く。図3(d)に示すように、亀裂の冷却が進められずに焼き付き31が鋳型5の下端に到達し、溶鋼9によって生じる内圧に凝固シェル11が耐えられなければ、拘束性ブレークアウトが発生する。
図4に示すように、焼き付き31が鋳造方向Aに移動するに伴い、焼き付き31は、V字形状を呈する拘束線32として延伸していく。拘束線32の位置で亀裂が生じ溶鋼9が鋳型5に接触するので、拘束線32で鋳型1の温度は高くなっている。
鋼の連続鋳造中にプロセスコンピュータで温度測定器22a,22bから送られる測定温度を一定間隔(例えば1秒間隔)でサンプリングする。これにより、横軸を時間(時刻)とし、縦軸を温度としたグラフを作成できる。焼き付きが生じた場合の温度分布を図5のグラフに示す。図5を参照して、本発明に係る拘束性ブレークアウトの予測方法を説明する。なお、この温度分布は、比較的高速とされる鋳造速度が2.0[m/分]の連続鋳造で得られたデータに基づく。
鋳型5に焼き付きが生じていない場合には温度測定器22a,22bから得られる温度はそれぞれ一定となる。焼き付きがメニスカス21近傍で発生すると、鋳片10の引き抜きに伴い焼き付き31を頂点とする拘束線32が下方へ移動する。拘束線32が温度測定器22aに到達した時は、温度測定器22aでは、未凝固の溶鋼9と接触する鋳型5の温度を測定することになるので、温度が急激に上昇する。図5においては「22aからの温度」を示すプロファイルでの○で示す温度ピークが急激な温度上昇を表している。
拘束線32が下方へ移動して温度測定器22bに近づくと、温度測定器22bでの測定温度が上昇していく。一方で、温度測定器22aでは再び凝固シェル11の温度を測定することになるので、その測定温度が下降していく。よって、拘束線32が生じた場合には、下側(下段)の温度測定器22bでの温度が、上側(上段)の温度測定器22aでの測定温度よりも高くなる反転時刻が存在する。
反転時刻を過ぎて、拘束線32が温度測定器22bに到達した時には、温度測定器22bでは、未凝固の溶鋼9と接触している鋳型5の温度を測定することになるので、温度が急激に上昇する。図5においては「22bからの温度」を示すプロファイルでの○で示す温度ピークが急激な温度上昇を表している。拘束線32が温度測定器22bから下方へ更に移動して、温度測定器22bでは再び凝固シェル11の温度を測定することになるので、その測定温度が下降していく。
本発明者らは、焼き付きが生じた場合には存在することになる反転時刻に着目して、鋳造速度、メニスカス及び温度測定器22a,22bの位置から導出される時刻Aから時刻Bまでの反転時刻を基準とした所定時間内の温度データを演算の対象とすることを検討し、本発明の完成に至った。すなわち、本発明は、反転時刻からN秒遡った時刻Aから、反転時刻からM秒経過した時刻Bまでの間で測定したデータが上昇して下降する分布(ピーク)を有する場合には、焼き付きが生じたと判定する。
Mは、上側の温度測定器22aと下側の温度測定器22bとの間隔距離[m]及び鋳造速度[m/秒]から算出される値である。具体的には、L2/Vc×2+mでMを算出することが好ましい。L2は、上側の温度測定器22aと下側の温度測定器22bとの間隔距離[m]である。Vcは、鋳造速度[m/秒]である。焼き付き31を含む拘束線32は、凝固シェル11の引き抜きに伴い鋳造方向Aに移動するとしても、鋼の連続鋳造中には鋳型5は上下方向に振動しているので、振動によって鋳型5が上方に移動する場合には拘束線32は移動せず、振動によって下方に鋳型5が移動する場合に限り、拘束線32は下方(鋳造方向A)に移動する、と本発明者は想定した。本発明では、この想定を踏まえ、拘束線32の移動速度を鋳造速度Vcの1/2と考える。温度測定器22aと22bとの間隔距離L2を拘束線32の移動速度(=1/2×Vc)で除算すると、温度測定器22aと22bとの間を拘束線32が移動する時間(=L2/Vc×2)が算出される。算出された値は拘束線32の移動時間を意味する。この移動時間に補正時間mを加算してMを算出する。この補正時間mは、今までの操業から-5~+5の範囲内の値とすることが好ましいことが判明しており、温度測定器22bからの温度分布のピークが、過去の操業から最も捉えやすくなるように値を定めることが好ましい。
Nは、メニスカス21と温度測定器22bとの間隔距離[m]及び鋳造速度[m/秒]から算出される値である。具体的には、L1/Vc×2+nでNを算出することが好ましい。L1は、メニスカス21と下側の温度測定器22bとの間隔距離[m]である。本発明では、拘束線32の移動速度を鋳造速度Vcの1/2と想定するので、Nは、メニスカス21と温度測定器22bと間を拘束線32が移動する時間(=L1/Vc×2)を意味する。この移動時間に補正時間nを加算してNを算出する。この補正時間nは、今までの操業から-5~+5の範囲内の値とすることが好ましいことが判明しており、温度測定器22aからの温度分布のピークが、過去の操業から最も捉えやすくなるように値を定めることが好ましい。
図5に示すグラフにおける反転時刻では、拘束線32が温度測定器22aと22bとの間にある。温度測定器22bの測定温度は、反転時刻から、最長でも、温度測定器22aと22bとの間隔を拘束線32が移動する時間に相当するM秒経過した時刻Bまでの間に、ピークを迎えると推定される。また、反転時刻から最長でも、メニスカス21と温度測定器22bとの間隔を拘束線32が移動する時間に相当するN秒遡った時刻Aまでの間に、温度測定器22aの測定温度はピークを迎えると推定される。すなわち、反転時刻を挟んだ時刻Aから時刻Bまでの間で、温度測定器22aと22bとからの温度データが上昇して下降する分布を有する場合には、焼き付きが生じたと判断することができる。
温度測定器22aと22bとから得られる温度データの分布がピークを有すると判断するためには、時刻Aから時刻Bまでの間で温度データが最大となる時刻を特定し、特定した時刻からそれぞれQ及びR[秒]遡った時刻までの時間範囲内で、温度測定器22aと22bとから得られる温度データのそれぞれの上昇する温度幅を確認すればよい。
Q=L0/Vc×2
R=L2/Vc×2
ここで、L0は、メニスカス21から上側の温度測定器22aまでの間隔距離[m]、L2は、上側の温度測定器22aから下側の温度測定器22bまでの間隔距離[m]、である。
上昇した温度幅が、例えば、3[℃]などの所定の閾値を超えた場合には、温度データがピークを有すると判断すればよい。
次に、焼き付きが生じたと判断し得る場合の図5とは別の温度分布を図6に示す。図6のグラフにおける温度分布は、比較的低速とされる鋳造速度が1.1[m/分]の連続鋳造で得られたデータに基づいている。図6のグラフから、鋳造速度が低い場合であっても、温度測定器22aと22bとからの温度データが上昇して下降する分布を有していることを時刻Aから時刻Bまでの間で捉えることが可能であることがわかる。
温度測定器22aと22bとからの温度が同じとなった時刻からM秒経過した時点で、前記時刻が反転時刻であるかを特定し、反転時刻であると特定できれば、時刻Aから時刻Bまでの間で測定した温度データを解析して、拘束性ブレークアウトが生じ得るかを判定してもよい。温度データを時系列で取得していくときに、温度測定器22bからの温度が22aからの温度を超えたと判定可能となる時刻は、温度測定器22aと22bとからの温度が同じとなった時刻からある程度時間が経過しなければ、温度分布によっては、その時刻を反転時刻であると明確に判定できない場合がある。そのような場合を考慮して、温度測定器22aと22bとからの温度が同じとなった時刻からM秒経過した時点で、温度測定器22bの温度が22aからの温度を逆転していた場合には、前記時刻が反転時刻であるかを特定し、前記時刻が反転時刻であれば、前記時刻Aから前記時刻Bまでの間で測定した温度データを解析するようにしてもよい。
温度測定器22a,22bに繋がるプロセスコンピュータにより以上の通りに説明した演算を行って、拘束性ブレークアウトが生じ得ると判定したら、例えば、警告を発生する装置で連続鋳造工場のオペレータに警告して、鋳造速度を下げさせることで鋳型による凝固シェルの冷却を促進させて焼き付きで生じた亀裂の冷却を促進する。これにより、拘束性ブレークアウトの発生を防止することが可能となる。
なお、温度測定器22a,22bを鋳型5の水平方向に複数配列することが好ましく、鋳造方向Aに沿った上下2箇所を1組として、全ての組の温度測定器22a,22bからの温度データを解析することが好ましい。例えば、図2及び4の例の場合、鋳造方向Aに沿った上下2箇所を1組として、温度測定器22a,22bが鋳型5に8組設けられている。焼き付き31が水平方向での任意の位置(例えば、鋳型5の内壁端部)で発生しても、この8組の温度測定器からの温度データを解析することで、拘束線32をより早めに検出することができる。
以上の通りに説明した方法によって、広範囲な鋳造速度での鋼の連続鋳造において、拘束性ブレークアウトの原因となる凝固シェルと鋳型との焼き付きが生じたことを正確に予測することを可能である。
図2に示す鋳型5を有する図1に示す連続鋳造機1を用いて鋼の連続鋳造を操業した。鋳型5における、メニスカス21,温度測定器22a及び温度測定器22bの位置関係を表す間隔距離L0,L1及びL2を表1に示す。
Figure 0007001074000001
鋼の連続鋳造の操業では6月間行った。操業中は1.0~3.0[m/分]の範囲で鋳造速度を適宜変更し、広範囲な鋳造速度での鋼の連続鋳造を複数回行いつつ、各連続鋳造において、本発明に係る拘束性ブレークアウトの予測方法を行った(本発明例)。本発明例の予測方法において、時刻Aから時刻Bまでの間で温度データが最大となる時刻を特定し、温度測定器22aと22bとから得られる温度データの分布がピークを有すると判断するために、特定した時刻から、それぞれ、Q及びR[秒]遡った時刻までの時間範囲内で上昇する温度幅を確認した。温度測定器22aから得られた温度データの上昇した温度幅が、表1に示すTuの値を超えた場合には、温度測定器22aからの温度データがピークを有すると判断した。また、温度測定器22bから得られた温度データの上昇した温度幅が、表1に示すTlの値を超えた場合には、温度測定器22bからの温度データがピークを有すると判断した。なお、本発明例では、補正時間m及びnは0とした。
本発明例では、1.0~3.0[m/分]の範囲の鋳造速度に対応する、解析対象の温度データとして最適な範囲を決定することになる。これと比較するべく、拘束性ブレークアウトの予測方法以外は本発明例と同様の条件にして、鋼の連続鋳造の操業を6月間行った(比較例)。比較例では、溶鋼が鋳型内を通過する全時間を解析対象の温度データの範囲として、温度データが、特許文献1に記載されている条件M及びNを満たすと、拘束性ブレークアウトが発生し得ると判定する予測を行った。
本発明例及び比較例の操業ではともに、拘束性ブレークアウトが発生し得ると判定された場合には、鋳造速度を下げて、凝固シェルの冷却を促進させて拘束性ブレークアウトの発生を防止した。また、本発明例及び比較例の操業ではともに、図7に示すように鋳片10にリップルマーク41が形成されるかを確認した。リップルマーク41は、鋳型5で拘束線32が形成された場合に鋳片10に形成されるマークであり、拘束性ブレークアウトが発生し得ると判定されたときの鋳片10にリップルマーク41が形成されているかを特に確認した。
本発明例及び比較例の操業ではともに、「正検出」、「誤検出」及び「見過し」の発生率を調査した。これらの発生率を表2に示す。
Figure 0007001074000002
表2における「正検出」は、6月の操業期間中の連続鋳造の全ヒート数を分母とし、その期間中に本発明例あるいは比較例の予測方法により拘束性ブレークアウトが発生し得ると判定され、鋳片を観察した結果、リップルマーク41が形成されていた鋳片を含む連続鋳造のヒート数を分子として算出される発生率を表している。「誤検出」は、前述の全ヒート数を分母とし、6月の期間中に拘束性ブレークアウトが発生し得ると判定されたものの、鋳片を観察した結果、リップルマーク41が形成されていなかった鋳片を含む連続鋳造のヒート数を分子として算出される発生率を表している。「見過し」は、全ヒート数を分母とし、6月の期間中に拘束性ブレークアウトが発生し得ると判定されずに、実際に拘束性ブレークアウトが起きた連続鋳造の鋳片を含む連続鋳造のヒート数を分子として算出される発生率を表している。
本発明例では、正検出の発生率が比較例よりも高く、誤検出の発生率が比較例よりも格段に抑えられている。見過しの発生率は半減している。本発明によって、広範囲な鋳造速度での鋼の連続鋳造において、拘束性ブレークアウトの原因となる凝固シェルと鋳型との焼き付きが生じたことを従来技術より正確に予測することを可能であることがわかる。
1 連続鋳造機
2 タンディッシュ
3 スライディングノズル
4 浸漬ノズル
5 鋳型
6 鋳片支持ロール
7 搬送ロール
8 鋳片切断機
9 溶鋼
10 鋳片
11 凝固シェル
12 未凝固層
13 凝固完了位置
21 メニスカス
22a 温度測定器(上段・上側)
22b 温度測定器(下段・上側)
31 焼き付き
32 拘束線
41 リップルマーク

Claims (3)

  1. 鋼の連続鋳造方法における拘束性ブレークアウトの予測方法であって、
    鋳型のメニスカスより下方で鋳造方向に沿った、前記鋳型の内壁の上下2箇所に設けられた温度測定器で温度を測定し、
    測定した温度データを解析して、下側の前記温度測定器で測定された温度が上側の前記温度測定器で測定された温度よりも高くなった反転時刻から所定時間N遡った時刻Aから、前記反転時刻から所定時間M経過した時刻Bまでの間で、上側の前記温度測定器で測定した温度データおよび下側の前記温度測定器で測定した温度データが上昇して下降する分布を有する場合には、焼き付きがV字形状を呈する拘束線として延伸して前記鋳型の下端に到達して拘束性ブレークアウトが生じ得ると判定することとし、
    Mは、上側の前記温度測定器と下側の前記温度測定器との間隔距離L2[m]及び鋳造速度Vc[m/秒]から式L2/Vc×2+m(ただしmは-5~+5の範囲内の値)で算出される値、
    Nは、前記メニスカスと下側の前記温度測定器との間隔距離L1[m]及び前記鋳造速度Vc[m/秒]から式L1/Vc×2+n(ただしnは-5~+5の範囲内の値)で算出される値、であることを特徴とする拘束性ブレークアウトの予測方法。
  2. 下側の前記温度測定器で測定された温度が上側の前記温度測定器で測定された温度と同じになった時刻からM秒経過した時点で、前記時刻が反転時刻であるかを特定し、
    前記時刻が反転時刻であれば、前記時刻Aから前記時刻Bまでの間で測定した温度データを解析し、
    拘束性ブレークアウトが生じ得るかを判定することを特徴とする請求項1に記載の拘束性ブレークアウトの予測方法。
  3. 請求項1または請求項2に記載の拘束性ブレークアウトの予測方法を用いた鋼の連続鋳造方法であって、
    拘束性ブレークアウトが生じ得ると判定したら前記鋳造速度Vcを下げることを特徴とする鋼の連続鋳造方法。
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