本発明の繊維強化樹脂組成物は、少なくとも熱可塑性樹脂(A)、炭素繊維(B)および金属酸化物被覆マイカ(C)を含む。以下各構成について説明する。
本発明において熱可塑性樹脂(A)は、成形温度(溶融温度)が200~450℃であるものが好ましく、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ハロゲン化ビニル樹脂、ポリアセタール樹脂、飽和ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリールスルホン樹脂、ポリアリールケトン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリアリーレンサルファイド樹脂、ポリアリールエーテルケトン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリフェニレンサルファイドスルフォン樹脂、ポリアリレート樹脂、液晶ポリエステル樹脂、フッ素樹脂等が挙げられ、これらはいずれも、電気絶縁体に相当する。これらを2種以上用いることもできる。
前記熱可塑性樹脂(A)の中でも、軽量、かつ、力学特性や成形性のバランスに優れるポリカーボネート、ポリオレフィン、ポリアミドおよびポリアリーレンサルファイドからなる群より選択される少なくとも1種の樹脂がより好ましい。耐薬品性や吸湿性にも優れることから、ポリオレフィン樹脂の中でもポリプロピレン樹脂がさらに好ましい。
ここで言うポリプロピレン樹脂とは、無変性のものも、変性されたものも含まれる。無変性のポリプロピレン樹脂は、具体的には、プロピレンの単独重合体またはプロピレンと少なくとも1種のα-オレフィン、共役ジエン、非共役ジエンなどとの共重合体である。α-オレフィンとしては、例えば、エチレン、1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン、4,4ジメチル-1-ヘキセン、1-ノネン、1-オクテン、1-ヘプテン、1-ヘキセン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン等のプロピレンを除く炭素数2~12のα-オレフィンなどが挙げられる。共役ジエン、非共役ジエンとしては、例えば、ブタジエン、エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1,5-ヘキサジエン等が挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。無変性ポリプロピレン樹脂の骨格構造としては、プロピレンの単独重合体、プロピレンと前記その他の単量体のランダムあるいはブロック共重合体、またはプロピレンと他の熱可塑性単量体とのランダムあるいはブロック共重合体等を挙げることができる。例えば、ポリプロピレン、エチレン・プロピレン共重合体、プロピレン・1-ブテン共重合体、エチレン・プロピレン・1-ブテン共重合体などが好適なものとして挙げられる。プロピレンの単独重合体は成形品の剛性をより向上させる観点から好ましく、プロピレンと前記その他の単量体のランダムあるいはブロック共重合体は成形品の衝撃強度をより向上させる観点から好ましい。
また、変性ポリプロピレン樹脂としては、酸変性ポリプロピレン樹脂が好ましく、重合体鎖に結合したカルボン酸および/またはその塩の基を有するポリプロピレン樹脂がより好ましい。上記酸変性ポリプロピレン樹脂は種々の方法で得ることができ、例えば、ポリプロピレン樹脂に、中和されているか、中和されていないカルボン酸基を有する単量体、および/または、ケン化されているか、ケン化されていないカルボン酸エステルを有する単量体を、グラフト重合することにより得ることができる。
ここで、中和されているか、中和されていないカルボン酸基を有する単量体、および、ケン化されているか、ケン化されていないカルボン酸エステル基を有する単量体としては、例えば、エチレン系不飽和カルボン酸、その無水物、これらのエステル化物などが挙げられる。さらに、オレフィン以外の不飽和ビニル基を有する化合物なども挙げられる。
エチレン系不飽和カルボン酸としては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマール酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸などが例示され、その無水物としては、ナジック酸TM(エンドシス-ビシクロ[2,2,1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボン酸)、無水マレイン酸、無水シトラコン酸などが例示できる。
エチレン系不飽和カルボン酸のエステル化物としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、iso-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、n-アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ラウロイル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類、ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、ラクトン変性ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル類、グリシジル(メタ)アクリレート、メチルグリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル類、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N-ジプロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジヒドロキシエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノアルキル(メタ)アクリレート類などが挙げられる。
オレフィン以外の不飽和ビニル基を有する単量体としては、ビニルイソシアナート、イソプロペニルイソシアナート等のイソシアナート基含有ビニル類、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、t-ブチルスチレン等の芳香族ビニル類、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、マレイン酸アミド等のアミド基含有ビニル類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類、スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸ソーダ、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等の不飽和スルホン酸類、モノ(2-メタクリロイロキシエチル)アシッドホスフェート、モノ(2-アクリロイロキシエチル)アシッドホスフェート等の不飽和リン酸類等が挙げられる。
これらを2種以上用いることもできる。また、これらの中でも、エチレン系不飽和カルボン酸無水物類が好ましく、無水マレイン酸がより好ましい。
ここで、成形品の力学特性、特に曲げ強度および引張強度を向上させるため、無変性ポリプロピレン樹脂と変性ポリプロピレン樹脂を共に用いることが好ましく、特に難燃性や力学特性のバランスの観点から、無変性ポリプロピレン樹脂と変性ポリプロピレン樹脂の重量比が95/5~75/25となるように用いることが好ましい。より好ましくは95/5~80/20、さらに好ましくは90/10~80/20である。
また、ポリアミド樹脂は、アミノ酸、ラクタム、あるいはジアミンとジカルボン酸を主たる原料とする樹脂である。その主要原料の代表例としては、6-アミノカプロン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸などのアミノ酸、ε-カプロラクタム、ω-ラウロラクタムなどのラクタム、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4-/2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、5-メチルノナメチレンジアミンなどの脂肪族ジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミンなどの芳香族ジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1-アミノ-3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジンなどの脂環族ジアミン、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2-クロロテレフタル酸、2-メチルテレフタル酸、5-メチルイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
本発明においては、耐熱性や強度に優れるという点から、200℃以上の融点を有するポリアミド樹脂が特に有用である。その具体的な例としては、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンアジパミドコポリマー(ナイロン6/66)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリカプロアミドコポリマー(ナイロン6T/6)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6I)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリドデカンアミドコポリマー(ナイロン6T/12)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリ(2-メチルペンタメチレン)テレフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/M5T)、ポリキシリレンアジパミド(ナイロンXD6)、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ナイロン9T)およびこれらの共重合体などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。これらの中でも、ナイロン6、ナイロン66がより好ましい。
これらポリアミド樹脂の重合度には特に制限がなく、98%濃硫酸25mlにポリアミド樹脂0.25gを溶解した溶液の25℃で測定した相対粘度が1.5~5.0の範囲、特に2.0~3.5の範囲のポリアミド樹脂が好ましい。
また、ポリカーボネート樹脂は、二価フェノールとカーボネート前駆体とを反応させて得られるものである。2種以上の二価フェノールまたは2種以上のカーボネート前駆体を用いて得られる共重合体であってもよい。反応方法の一例として、界面重合法、溶融エステル交換法、カーボネートプレポリマーの固相エステル交換法、および環状カーボネート化合物の開環重合法などを挙げることができる。かかるポリカーボネート樹脂はそれ自体公知であり、例えば、特開2002-129027号公報に記載のポリカーボネート樹脂を使用できる。
二価フェノールとしては、例えば、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)アルカン(ビスフェノールAなど)、2,2-ビス{(4-ヒドロキシ-3-メチル)フェニル}プロパン、α,α’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-m-ジイソプロピルベンゼン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレンなどが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。これらの中でも、ビスフェノールAが好ましく、耐衝撃特性により優れたポリカーボネート樹脂を得ることができる。一方、ビスフェノールAと他の二価フェノールを用いて得られる共重合体は、高耐熱性または低吸水率の点で優れている。
カーボネート前駆体としては、例えば、カルボニルハライド、炭酸ジエステルまたはハロホルメートなどが使用され、具体的には、ホスゲン、ジフェニルカーボネートまたは二価フェノールのジハロホルメートなどが挙げられる。
上記二価フェノールとカーボネート前駆体からポリカーボネート樹脂を製造するにあたっては、必要に応じて触媒、末端停止剤、二価フェノールの酸化を防止する酸化防止剤などを使用してもよい。
また、本発明におけるポリカーボネート樹脂には、三官能以上の多官能性芳香族化合物を共重合した分岐ポリカーボネート樹脂、芳香族または脂肪族(脂環族を含む)の二官能性カルボン酸を共重合したポリエステルカーボネート樹脂、二官能性アルコール(脂環族を含む)を共重合した共重合ポリカーボネート樹脂、並びにかかる二官能性カルボン酸および二官能性アルコールを共に共重合したポリエステルカーボネート樹脂を含む。これらのポリカーボネート樹脂も公知である。また、これらのポリカーボネート樹脂を2種以上用いてもよい。
ポリカーボネート樹脂の分子量は特定されないが、粘度平均分子量が10,000~50,000のものが好ましい。粘度平均分子量が10,000以上であれば、成形品の強度をより向上させることができる。15,000以上がより好ましく、18,000以上がさらに好ましい。一方、粘度平均分子量が50,000以下であれば、成形加工性が向上する。40,000以下より好ましく、30,000以下がさらに好ましい。ポリカーボネート樹脂を2種以上用いる場合、少なくとも1種の粘度平均分子量が上記範囲にあることが好ましい。この場合、他のポリカーボネート樹脂として、粘度平均分子量が50,000、好ましくは80,000を超えるポリカーボネート樹脂を用いることが好ましい。かかるポリカーボネート樹脂は、エントロピー弾性が高く、ガスアシスト成形等を併用する場合に有利となる他、高いエントロピー弾性に由来する特性(ドリップ防止特性、ドローダウン特性、およびジェッティング改良などの溶融特性を改良する特性)を発揮する。
ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(M)は、塩化メチレン100mlにポリカーボネート樹脂0.7gを溶解した溶液から20℃で求めた比粘度(ηsp)を次式に挿入して求めたものである。
ηsp/c=[η]+0.45×[η]2c(但し[η]は極限粘度)
[η]=1.23×10-4M0.83
c=0.7
ポリアリーレンサルファイド樹脂としては、例えば、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリフェニレンサルファイドスルホン樹脂、ポリフェニレンサルファイドケトン樹脂、これらのランダムまたはブロック共重合体などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。中でもポリフェニレンサルファイド樹脂が特に好ましく使用される。
ポリアリーレンサルファイド樹脂は、例えば、特公昭45-3368号公報に記載される比較的分子量の小さな重合体を得る方法、特公昭52-12240号公報や特開昭61-7332号公報に記載される比較的分子量の大きな重合体を得る方法など、任意の方法によって製造することができる。
得られたポリアリーレンサルファイド樹脂に、空気中加熱による架橋/高分子量化、窒素などの不活性ガス雰囲気下あるいは減圧下での熱処理、有機溶媒、熱水、酸水溶液などによる洗浄、酸無水物、アミン、イソシアネート、官能基含有ジスルフィド化合物などの官能基含有化合物による活性化などの種々の処理を施してもよい。
ポリアリーレンサルファイド樹脂を加熱により架橋/高分子量化する方法としては、例えば、空気、酸素などの酸化性ガス雰囲気下あるいは前記酸化性ガスと窒素、アルゴンなどの不活性ガスとの混合ガス雰囲気下で、加熱容器中で所定の温度において、希望する溶融粘度が得られるまで加熱を行う方法を例示することができる。加熱処理温度は200~270℃の範囲が好ましく、加熱処理時間は2~50時間の範囲が好ましい。処理温度と処理時間を調整することによって、得られるポリマーの粘度を所望の範囲に調整することができる。加熱処理装置としては、通常の熱風乾燥機、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置などが挙げられる。効率よく、より均一に加熱処理する観点から、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いることが好ましい。
ポリアリーレンサルファイド樹脂を減圧下で処理する場合、圧力は7,000Nm-2以下が好ましい。加熱処理装置としては、通常の熱風乾燥機、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置などが挙げられる。効率よく、より均一に加熱処理する観点から、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いることが好ましい。
ポリアリーレンサルファイド樹脂を有機溶媒で洗浄する場合、有機溶媒としては、例えば、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどの含窒素極性溶媒;ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホンなどのスルホキシド・スルホン系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、アセトフェノンなどのケトン系溶媒;ジメチルエーテル、ジプロピルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒;クロロホルム、塩化メチレン、トリクロロエチレン、2塩化エチレン、ジクロルエタン、テトラクロルエタン、クロルベンゼンなどのハロゲン系溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、フェノール、クレゾール、ポリエチレングリコールなどのアルコールもしくはフェノール系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。これらの有機溶媒のなかでも、N-メチルピロリドン、アセトン、ジメチルホルムアミドおよびクロロホルムなどが好ましく使用される。有機溶媒による洗浄の方法としては、例えば、有機溶媒中にポリアリーレンサルファイド樹脂を浸漬せしめる方法などが挙げられる。必要により、適宜撹拌または加熱することも可能である。有機溶媒中でポリアリーレンサルファイド樹脂を洗浄する際の洗浄温度は、常温~150℃が好ましい。なお、有機溶媒洗浄を施されたポリアリーレンサルファイド樹脂は、残留している有機溶媒を除去するため、水または温水で数回洗浄することが好ましい。
ポリアリーレンサルファイド樹脂を熱水で洗浄する場合、熱水洗浄によるポリアリーレンサルファイド樹脂の好ましい化学的変性の効果を発現するために、使用する水は蒸留水あるいは脱イオン水であることが好ましい。熱水洗浄は、通常、所定量の水に所定量のポリアリーレンサルファイド樹脂を投入し、常圧であるいは圧力容器内で加熱、撹拌することにより行われる。ポリアリーレンサルファイド樹脂と水との割合は、好ましくは水1リットルに対し、ポリアリーレンサルファイド樹脂200g以下の浴比が選択される。
ポリアリーレンサルファイド樹脂を酸処理する方法としては、例えば、酸または酸の水溶液にポリアリーレンサルファイド樹脂を浸漬せしめる方法などが挙げられる。必要により、適宜撹拌または加熱することも可能である。酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸などの脂肪族飽和モノカルボン酸;クロロ酢酸、ジクロロ酢酸などのハロ置換脂肪族飽和カルボン酸、アクリル酸、クロトン酸などの脂肪族不飽和モノカルボン酸;安息香酸、サリチル酸などの芳香族カルボン酸;シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フタル酸、フマル酸などのジカルボン酸;および硫酸、リン酸、塩酸、炭酸、珪酸などの無機酸性化合物などが挙げられる。これらの酸のなかでも、酢酸または塩酸が好ましく用いられる。酸処理を施されたポリアリーレンサルファイド樹脂は、残留している酸または塩などを除去するため、水または温水で数回洗浄することが好ましい。洗浄に用いる水は、蒸留水または脱イオン水であることが好ましい。
ポリアリーレンサルファイド樹脂の溶融粘度は、310℃、剪断速度1000/秒の条件下で80Pa・s以下であることが好ましく、20Pa・s以下であることがより好ましい。溶融粘度の下限については特に制限はないが、5Pa・s以上であることが好ましい。溶融粘度の異なる2種以上のポリアリーレンサルファイド樹脂を併用してもよい。なお、溶融粘度は、キャピログラフ(東洋精機(株)社製)装置を用い、ダイス長10mm、ダイス孔直径0.5~1.0mmの条件により測定することができる。
ポリアリーレンサルファイド樹脂として、東レ(株)製“トレリナ”(登録商標)、DIC(株)製“DIC.PPS”(登録商標)、ポリプラスチックス(株)製“ジュラファイド”(登録商標)などとして上市されているものを用いることもできる。
本発明の組成物は、熱可塑性樹脂(A)、炭素繊維(B)および金属酸化物被覆マイカ(C)の合計100重量部に対して、熱可塑性樹脂(A)を20~92.1重量部(20重量部以上92.1重量部以下)含有する。熱可塑性樹脂(A)の含有量が20重量部未満であると、成形性が著しく低下するため、成形品を得ることが困難となる。熱可塑性樹脂(A)の含有量は30重量部以上が好ましく、より好ましくは、40重量部以上である。また、熱可塑性樹脂(A)の含有量が92.1重量部を超えると、成形品中における炭素繊維(B)や金属酸化物被覆マイカ(C)の含有量が減少するため、電磁波遮蔽性や力学特性および外観品位効果が低下する。熱可塑性樹脂(A)の含有量は90重量部以下が好ましく、より好ましくは、85重量部以下がより好ましい。
本発明の組成物は、熱可塑性樹脂(A)、炭素繊維(B)および金属酸化物被覆マイカ(C)の合計100重量部に対して、炭素繊維(B)を5~40重量部(5重量部以上40重量部以下)含有する。炭素繊維(B)の含有量が5重量部未満であると、成形品の力学特性、特に衝撃強度が低下する。炭素繊維(B)の含有量は好ましくは、7重量部以上であり、より好ましくは、10重量部以上である。また、炭素繊維(B)の含有量が40重量部を超えると、成形品中の炭素繊維(B)の分散性が低下することで、成形品外観に表面凹凸が発生し、外観品位が著しく低下する。さらに、成形品中の炭素繊維(B)同士の絡み合い、衝突が増えるため繊維長が短くなり、成形品の力学特性、特に衝撃強度の低下を引き起こすことが多い。炭素繊維(B)の含有量は好ましくは、30重量部以下であり、より好ましくは、20重量部以下がより好ましい。
炭素繊維(B)の種類として特に制限はないが、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、セルロース系炭素繊維、気相成長系炭素繊維、これらの黒鉛化繊維などが例示される。PAN系炭素繊維はポリアクリロニトリル繊維を原料とする炭素繊維である。ピッチ系炭素繊維は石油タールや石油ピッチを原料とする炭素繊維である。セルロース系炭素繊維はビスコースレーヨンや酢酸セルロースなどを原料とする炭素繊維である。気相成長系炭素繊維は炭化水素などを原料とする炭素繊維である。これらのうち、強度と弾性率のバランスに優れる点で、PAN系炭素繊維が好ましい。また、導電性を付与する目的では、ニッケル、銅またはイッテルビウムなどの金属を被覆した炭素繊維を用いることもできる。
炭素繊維(A)の表面酸素濃度比[O/C]は、0.05~0.5が好ましい。表面酸素濃度比[O/C]は、X線光電子分光法により測定される繊維表面の酸素(O)と炭素(C)の原子数の比である。表面酸素濃度比が0.05以上であることにより、炭素繊維表面に十分な官能基量を確保でき、より強固な接着性を得ることができることから、力学特性、特に曲げ強度および引張強度がより向上する。0.08以上がより好ましく、0.1以上がさらに好ましい。また、表面酸素濃度比の上限には特に制限はないが、炭素繊維の取り扱い性、生産性のバランスから、一般的に0.5以下が好ましい。0.4以下がより好ましく、0.3以下がさらに好ましい。
炭素繊維の表面酸素濃度比は、X線光電子分光法により、次の手順にしたがって求めるものである。まず、溶剤で炭素繊維表面に付着しているサイジング剤などを除去した炭素繊維束を20mmにカットして、銅製の試料支持台に拡げて並べた後、X線源としてAlKα1、2を用い、試料チャンバー中を1×10-8Torrに保つ。測定時の帯電に伴うピークの補正値としてC1sの主ピークの運動エネルギー値(K.E.)を1202eVに合わせる。C1sピーク面積をK.E.として1191~1205eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求める。O1sピーク面積をK.E.として947~959eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求める。
ここで、表面酸素濃度比とは、上記O1sピーク面積とC1sピーク面積の比から装置固有の感度補正値を用いて原子数比として算出する。X線光電子分光装置として、国際電気社製モデルES-200を用い、感度補正値を1.74とする。
表面酸素濃度比[O/C]を0.05~0.5に制御する手段としては、特に限定されるものではないが、例えば、電解酸化処理、薬液酸化処理および気相酸化処理などの手法を挙げることができ、中でも電解酸化処理が好ましい。
炭素繊維(A)の平均繊維径は特に限定されないが、成形品の力学特性と表面外観の観点から、1~20μmが好ましく、3~15μmがより好ましい。強化繊維束とした場合の単糸数には、特に制限はないが、100~350,000本が好ましく、生産性の観点から、20,000~100,000本がより好ましい。
炭素繊維(B)と熱可塑性樹脂(A)の接着性を向上する等の目的で、炭素繊維(B)は表面処理されたものであってもかまわない。表面処理の方法としては、例えば、電解処理、オゾン処理、紫外線処理等を挙げることができる。
炭素繊維(B)の毛羽立ちを防止したり、炭素繊維(B)とマトリックス樹脂である熱可塑性樹脂(A)との接着性を向上する等の目的で、炭素繊維(B)はサイジング剤が付与されたものであってもかまわない。サイジング剤としては、具体的には、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエチレングリコール、ポリウレタン、ポリエステル、乳化剤あるいは界面活性剤などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。これらのサイジング剤は、成形材料において、炭素繊維(B)の表面に含有される。サイジング剤は、水溶性もしくは水分散性であることが好ましく、炭素繊維(B)との濡れ性に優れるエポキシ樹脂が好ましい。中でも多官能エポキシ樹脂がより好ましい。
多官能エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。中でも、マトリックス樹脂との接着性を発揮しやすい脂肪族エポキシ樹脂が好ましい。脂肪族エポキシ樹脂は、柔軟な骨格のため、架橋密度が高くとも靭性の高い構造になりやすい。炭素繊維/マトリックス樹脂間に存在させた場合、柔軟で剥離しにくくさせるため、成形品の強度をより向上させることができる。多官能の脂肪族エポキシ樹脂としては、例えば、ジグリシジルエーテル化合物としては、エチレングリコールジグリシジルエーテルおよびポリエチレングリコールジグリシジルエーテル類、プロピレングリコールジグリシジルエーテルおよびポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル類、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリアルキレングリコールジグリシジルエーテル類等が挙げられる。また、ポリグリシジルエーテル化合物としては、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル類、ソルビトールポリグリシジルエーテル類、アラビトールポリグリシジルエーテル類、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル類、トリメチロールプロパングリシジルエーテル類、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル類、脂肪族多価アルコールのポリグリシジルエーテル類等が挙げられる。
上記脂肪族エポキシ樹脂の中でも、反応性の高いグリシジル基を多数有する脂肪族のポリグリシジルエーテル化合物がより好ましい。脂肪族のポリグリシジルエーテル化合物は、柔軟性、架橋密度、マトリックス樹脂との相溶性のバランスがよく、接着性をより向上させることができる。この中でも、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールグリシジルエーテル類、ポリプロピレングリコールグリシジルエーテル類がさらに好ましい。
サイジング剤付着量は、炭素繊維(B)100重量部に対して、0.01重量部以上10重量部以下が好ましい。サイジング剤付着量が0.01重量部以上であれば、熱可塑性樹脂(A)との接着性がより向上する。0.05重量部以上がより好ましく、0.1重量部以上がさらに好ましい。一方、サイジング剤付着量が10重量部以下であれば、熱可塑性樹脂(A)の物性をより高いレベルで維持することができる。5重量部以下がより好ましく、2重量部以下がさらに好ましい。
サイジング剤の付与手段としては特に限定されるものではないが、例えば、ローラーを介して炭素繊維をサイジング液に浸漬する方法、サイジング液の付着したローラーに炭素繊維を接する方法、サイジング液を霧状にして炭素繊維に吹き付ける方法などが挙げられる。また、バッチ式、連続式いずれでもよいが、生産性がよくバラツキが小さくできる連続式が好ましい。この際、炭素繊維(B)に対するサイジング剤の有効成分の付着量が適正範囲内で均一に付着するように、サイジング液濃度、温度、糸条張力などをコントロールすることが好ましい。また、サイジング剤付与時に炭素繊維(B)を超音波で加振させることがより好ましい。
乾燥温度と乾燥時間は化合物の付着量によって調整すべきであるが、サイジング剤の付与に用いる溶媒の完全な除去、乾燥に要する時間を短くし、一方、サイジング剤の熱劣化を防止し、サイジング処理された炭素繊維(B)が固くなって拡がり性が悪化することを防止する観点から、乾燥温度は、150℃以上350℃以下が好ましく、180℃以上250℃以下がより好ましい。
サイジング剤の希釈に使用する溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトン等が挙げられるが、取扱いが容易であることおよび防災の観点から、水が好ましい。従って、水に不溶、若しくは難溶の化合物をサイジング剤として用いる場合には、乳化剤、界面活性剤を添加し、水分散して用いることが好ましい。具体的には、乳化剤、界面活性剤としては、スチレン-無水マレイン酸共重合体、オレフィン-無水マレイン酸共重合体、ナフタレンスルホン酸塩のホルマリン縮合物、ポリアクリル酸ソーダ等のアニオン系乳化剤、ポリエチレンイミン、ポリビニルイミダゾリン等のカチオン系乳化剤、ノニルフェノールエチレンオキサイド付加物、ポリビニルアルコール、ポリオキシエチレンエーテルエステル共重合体、ソルビタンエステルエチルオキサイド付加物等のノニオン系乳化剤等を用いることができるが、相互作用の小さいノニオン系乳化剤が多官能化合物の接着性効果を阻害しにくく好ましい。
本発明の組成物は、熱可塑性樹脂(A)、炭素繊維(B)および金属酸化物被覆マイカ(C)の合計100重量部に対して、金属酸化物被覆マイカ(C)を1~15重量部(1重量部以上15重量部以下)含有する。金属酸化物被覆マイカ(C)の含有量が1重量部未満であると、成形品の電磁波遮蔽性が低下する。金属酸化物被覆マイカ(C)の含有量は2重量部以上がより好ましい。また、金属酸化物被覆マイカ(C)の含有量が15重量部を超えると、成形品中の金属酸化物被覆マイカ(C)が凝集し、成形品の力学特性、特に衝撃強度の低下を引き起こすことが多い。金属酸化物被覆マイカ(C)の含有量は10重量部以下がより好ましく、5重量部以下がさらに好ましい。
本発明に用いられる、金属酸化物被覆マイカ(C)としては、マイカの表面に金属酸化物被覆を形成したものである。金属酸化物被覆マイカ(C)の基材となるマイカの種類として、特に制限はないが、天然マイカ又は合成マイカが挙げられる。ここで、天然マイカとは、鉱石のマイカ(雲母)を粉砕した基材であり、合成マイカ(人工マイカ)とは、SiO2、MgO、Al203、K2SiF6、Na2SiF6等の工業原料を加熱し、約1500℃の高温で熔融し、冷却して結晶化させて合成したものであり、天然のマイカと比較した場合において、不純物が少なく、大きさや厚さが均一なものである。具体的には、フッ素金雲母(KMg3AlSi3O10F2)、カリウム四ケイ素雲母(KMg25AlSi4O10F2)、ナトリウム四ケイ素雲母(NaMg25AlSi4O10F2)、Naテニオライト(NaMg2LiSi4O10F2)、LiNaテニオライト(LiMg2LiSi4O10F2)等が知られている。
本発明において、マイカの表面に形成される金属皮膜は、金属の酸化物であれば特に限定されず、酸化チタン(TiO2(二酸化チタン))、酸化鉄(Fe2O3(三酸化二鉄))、酸化スズ(SnO2(二酸化スズ))、酸化ケイ素(SiO2(二酸化ケイ素))アンチモン、銅、ネオジウム、モリブデン、ビスマス又はスズの酸化物、これらの混合物、(例えば銅クロマイト(銅クロム酸化物、Shepard Black)等のスピネルを除く)の群から選択される1種又は2種以上を用いることができる。
中でも、酸化チタン、酸化鉄、酸化スズ、および酸化アンチモンからなる群より選択される少なくとも1種の金属酸化物で被覆されたマイカが好ましい。中でも酸化スズが好ましく、ドープされた酸化スズがより好ましい。ドープされた酸化スズの場合、ドーピングはアンチモン、インジウム、ビスマス、モリブデン、アルミニウム、チタン、ケイ素、鉄、銅、銀で行なってよい。アンチモン、チタン又は銅をドープした酸化スズが特に好ましい。中でもアンチモンがドープされた酸化スズがさらに好ましい。
また、本発明おける金属酸化物被覆マイカ(C)は、板状であることが好ましい。板状であることで、他の形状のフィラーと比較して扁平な面を広く有するため、射出成形時に盤面が配向し、優れた電磁波遮蔽性を有する。
本発明の金属酸化物被覆マイカ(C)は、アスペクト比が10以上であることが好ましい。アスペクト比が10未満であると、電磁波遮蔽性の効果が乏しい。電磁波遮蔽性を向上させる観点から、金属酸化物被覆マイカ(C)のアスペクト比は10以上が好ましく、20以上がより好ましく、30以上がさらに好ましい。マイカのアスペクト比の上限は、溶融加工時のマイカの破損抑制およびハンドリング性の観点から、500以下が好ましく、300以下がより好ましく、200以下がさらに好ましい。
ここで、「金属酸化物被覆マイカ(C)のアスペクト比」は、金属酸化物被覆マイカ(C)の体積平均粒子径と数平均厚みを求め、「体積平均粒子径(μm)/数平均厚み(μm)」により算出する。「体積平均粒子径」は、マイカを100mg秤量して、水中に分散させた後、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(HORIBA社製LA-300)を用いて求める。
また、「数平均厚み」は、走査型電子顕微鏡(SEM)(日本電子(株)社製JSM-6360LV)により2000倍の倍率で観察したマイカの画像から無作為に選んだ10個の厚みを測定し、その数平均値をいう。
本発明の実施形態に用いられる金属酸化物被覆マイカ(C)の体積平均粒子径は、樹脂組成物から得られる成形品内において、炭素繊維(B)の隙間を効率的に埋めることができ、電磁波遮蔽性に優れる成形品を得ることができるので、1~100μmであることが好ましい。表面平滑性を損なわない観点から、100μm以下であることが好ましく、80μm以下であることがより好ましく、60μm以下であることがさらに好ましい。体積平均粒子径の下限は特に限定しないが、5μm以上が好ましく、10μm以上がさらに好ましい。
また、本発明の実施形態に用いられる金属酸化物被覆マイカ(C)の数平均厚みは、3μm以下が好ましく、1μm以下がより好ましく、0.5μm以下がさらに好ましい。本発明の実施形態に用いられる金属酸化物被覆マイカ(C)の数平均厚みの下限については、溶融加工時のマイカの破損抑制およびハンドリング性の観点から、0.01μm以上が好ましく、0.05μm以上がより好ましく、0.1μm以上がさらに好ましい。
本発明は、熱可塑性樹脂(A)と炭素繊維(B)と金属酸化物被覆マイカ(C)に加えて、炭素系フィラー(D)(ただし、炭素繊維(B)を除く)を含有することが好ましい。炭素系フィラーとしては、例えば、黒鉛、カーボンブラック、気相成長炭素繊維、カーボンナノチューブなどが例として挙げられる。
気相成長炭素繊維とは、炭化水素、例えばベンゼン、トルエンなどを気相化して高温の炉内で結晶を成長させる製造方法により得られる平均繊維直径10~200nmの微細炭素繊維であり、気相成長炭素繊維としては、例えば昭和電工社のVGCFが挙げられる。
カーボンナノチューブとしては、例えば、たとえば気相成長法、アーク放電法、レーザー蒸発法などにより得られる平均直径0.4~50nmの単層ナノチューブや多層ナノチューブが挙げられ、これらは、針状、コイル状、チューブ状の形態など任意の形態をとることができる。
中でも、カーボンブラックが特に好ましく、カーボンブラックとしては、例えばファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラック等が挙げられ、これらを2種以上含有してもよい。
これら炭素系フィラー(D)の配合量は、熱可塑性樹脂(A)、炭素繊維(B)および金属酸化物被覆マイカ(C)の合計100重量部に対して、0.1~5重量部(0.1重量部以上5重量部以下)の範囲内である。0.1重量部以上であると十分な電磁波遮蔽性を得ることができる。5重量部以下であると樹脂組成物の増粘による、凝集の発生を抑制し、流動性低下を抑制するため、外観品位や衝撃強度が向上する。より好ましくは、1~3重量部の範囲である。また、所望する電磁波遮蔽性を得るために、炭素繊維(B)を増量させると、成形品外観に表面凹凸が発生し、外観品位が著しく低下する。
本発明の繊維強化樹脂組成物は、炭素繊維(A)、有機繊維(B)、熱可塑性樹脂(C)および炭素系フィラー(D)に加えて、200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(A)より低い化合物(E)(以下、「化合物(E)」と記載する場合がある)を含んでもよい。化合物(E)は、200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂(A)より低いことにより、成形時における化合物(E)の流動性が高く、炭素繊維(B)の熱可塑性樹脂(A)内への分散効果を高めることができる。化合物(E)の200℃における溶融粘度は、5Pa・s以下が好ましく、2Pa・s以下がより好ましく、1.5Pa・s以下がさらに好ましい。この範囲内に調整することで、炭素繊維(B)の分散性をより向上させ、成形品の機械強度、特に衝撃強度をより向上させることができる。ここで、熱可塑性樹脂(A)および化合物(E)の200℃における溶融粘度は、40mmのパラレルプレートを用いて、0.5Hzにて、粘弾性測定器により測定することができる。
化合物(E)の数平均分子量は、200~50,000が好ましい。数平均分子量が200以上であれば、成形品の機械強度、特に衝撃強度をより向上させることができる。数平均分子量は1,000以上がより好ましい。また、数平均分子量が50,000以下であれば、化合物(E)の粘度が適度に低いことから、成形品中に含まれる炭素繊維(B)への含浸性に優れ、成形品中における炭素繊維(B)の分散性をより向上させることができる。数平均分子量は3,000以下がより好ましい。なお、かかる化合物の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定することができる。
本発明に用いられる化合物(E)は、熱可塑性樹脂(A)との組み合わせにより適宜選択して用いることが好ましく、例えば、成形温度が150℃~270℃の範囲であればテルペン樹脂を用い、270℃~320℃の範囲であればエポキシ樹脂を用いることが好ましい。
本発明の繊維強化樹脂組成物における化合物(E)の含有量は、熱可塑性樹脂(A)、炭素繊維(B)および金属酸化物被覆マイカ(C)の合計100重量部に対して、1~20重量部が好ましい。化合物(E)の含有量が1重量部以上であれば、成形品内での炭素繊維(B)の流動性がより向上し、分散性がより向上する。2重量部以上が好ましい。一方、化合物(E)の含有量が20重量部以下であれば、成形品の機械強度、特に衝撃強度をより向上させることができる。15重量部以下が好ましく、12重量部以下がより好ましく、10重量部以下がさらに好ましい。
化合物(E)は、成形温度における10℃/分昇温(空気中)における加熱減量が5重量%以下であることが好ましい。より好ましくは3重量%以下である。かかる加熱減量が5重量%以下の場合、炭素繊維(B)へ含浸した際に分解ガスの発生を抑制することができ、成形した際にボイドの発生を抑制することができる。また、特に高温における成形において、発生ガスを抑制することができる。
ここで、化合物(E)の成形温度における重量減量は、白金サンプルパンを用いて、空気雰囲気下、昇温速度10℃/分の条件にて、成形温度における重量を熱重量分析(TGA)により測定することにより求めることができる。
また、化合物(E)の200℃における2時間加熱後の溶融粘度変化率は、2%以下であることが好ましい。溶融粘度変化率を2%以下にすることで、長時間にわたり成形材料を製造する場合においても、付着ムラなどを抑制し、成形材料を安定して製造することができる。溶融粘度変化率は、1.5%以下がより好ましく、1.3%以下がさらに好ましい。
ここで、化合物(E)の溶融粘度変化率は、次の方法により求めることができる。まず、40mmのパラレルプレートを用いて、0.5Hzにて、粘弾性測定器により200℃における溶融粘度を測定する。また、化合物(E)を200℃の熱風乾燥機に2時間静置した後、同様に200℃における溶融粘度を測定し、下記式により粘度変化率を算出する。
(溶融粘度変化率[%])={|(200℃にて2時間加熱前の200℃における溶融粘度-200℃にて2時間加熱後の200℃における溶融粘度)|/(200℃にて2時間加熱前の200℃における溶融粘度)}×100 。
本発明において、化合物(E)として好ましく用いられるエポキシ樹脂とは、2つ以上のエポキシ基を有する化合物であって、実質的に硬化剤が含まれておらず、加熱しても、いわゆる三次元架橋による硬化をしないものをいう。グリシジル基を有することが好ましく、炭素繊維(B)と相互作用しやすくなり、含浸時に後述する繊維束(F)と馴染みやすく、含浸しやすい。また、成形加工時の炭素繊維(B)の分散性がより向上する。
ここで、グリシジル基を有する化合物としては、例えば、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂が挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
グリシジルエーテル型エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ハロゲン化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、レゾルシノール型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、エーテル結合を有する脂肪族エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂等が挙げられる。
グリシジルエステル型エポキシ樹脂としては、例えば、ヘキサヒドロフタル酸グリシジルエステル、ダイマー酸ジグリシジルエステル等が挙げられる。
グリシジルアミン型エポキシ樹脂としては、例えば、トリグリシジルイソシアヌレート、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、テトラグリシジルメタキシレンジアミン、アミノフェノール型エポキシ樹脂等が挙げられる。
脂環式エポキシ樹脂としては、例えば、3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルメチルカルボキシレート、3,4-エポキシシクロヘキシルメチルカルボキシレート等が挙げられる。
中でも、粘度と耐熱性のバランスに優れるため、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂が好ましく、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂がより好ましい。
また、本発明に用いられるエポキシ樹脂の数平均分子量は、200~5000であることが好ましい。エポキシ樹脂の数平均分子量が200以上であれば、成形品の力学特性をより向上させることができる。800以上がより好ましく、1000以上がさらに好ましい。一方、エポキシ樹脂の数平均分子量が5000以下であれば、繊維束(F)への含浸性に優れ、炭素繊維(B)の分散性をより向上させることができる。4000以下がより好ましく、3000以下がさらに好ましい。なお、エポキシ樹脂の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定することができる。
また、テルペン樹脂としては、例えば、有機溶媒中でフリーデルクラフツ型触媒存在下、テルペン単量体を、必要に応じて芳香族単量体等と重合して得られる重合体または共重合体などが挙げられる。
テルペン単量体としては、例えば、α-ピネン、β-ピネン、ジペンテン、d-リモネン、ミルセン、アロオシメン、オシメン、α-フェランドレン、α-テルピネン、γ-テルピネン、テルピノーレン、1,8-シネオール、1,4-シネオール、α-テルピネオール、β-テルピネオール、γ-テルピネオール、サビネン、パラメンタジエン類、カレン類等の単環式モノテルペンなどが挙げられる。また、芳香族単量体としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン等が挙げられる。
中でも、α-ピネン、β-ピネン、ジペンテン、d-リモネンが熱可塑性樹脂(A)との相溶性に優れるため好ましく、さらに、これらのテルペン単量体の単独重合体がより好ましい。また、これらテルペン樹脂を水素添加処理して得られる水素化テルペン樹脂が、より熱可塑性樹脂(A)、特にポリプロピレン樹脂との相溶性に優れるため好ましい。
また、テルペン樹脂のガラス転移温度は、特に限定しないが、30~100℃であることが好ましい。ガラス転移温度が30℃以上であると、成形加工時に化合物(E)の取扱性に優れる。また、ガラス転移温度が100℃以下であると、成形加工時の化合物(E)の流動性を適度に抑制し、成形性を向上させることができる。
また、テルペン樹脂の数平均分子量は、200~5000であることが好ましい。数平均分子量が200以上であれば、成形品の機械特性、特に衝撃強度をより向上させることができる。また、数平均分子量が5000以下であれば、テルペン樹脂の粘度が適度に低いことから含浸性に優れ、成形品中における炭素繊維(B)の分散性をより向上させることができる。なお、テルペン樹脂の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定することができる。
また、本発明の繊維強化樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、前記(A)~(E)に加えて他の成分を含有してもよい。他の成分の例としては、熱硬化性樹脂、炭素繊維および炭素系フィラー以外の無機充填材、難燃剤、結晶核剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、制振剤、抗菌剤、防虫剤、防臭剤、着色防止剤、熱安定剤、離型剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、着色剤、顔料、染料、発泡剤、制泡剤、あるいは、カップリング剤などが挙げられる。
続いて、本発明の樹脂組成物の製造方法について説明する。本発明の樹脂組成物は、(1)熱可塑性樹脂(A)、炭素繊維(B)および金属酸化物被覆マイカ(C)を含有する短繊維強化熱可塑性樹脂組成物であってもよいし(以下、「第一の態様の樹脂組成物」と言うこともある)、(2)前記(A)~(C)を含有する長繊維強化熱可塑性樹脂組成物であってもよい(以下、「第二の態様の樹脂組成物」、あるいは「成形材料」と言うこともある)。
まず、第一の態様について説明する。本発明第一の態様における樹脂組成物の製造方法は、たとえば、熱可塑性樹脂(A)と3~15mmにカットした炭素繊維(B)および金属酸化物被覆マイカ(C)を規定量計量しブレンドしたものを、既知の単軸あるいは2軸押出機で溶融混錬した後、冷却して3~15mmにペレタイズする方法、あるいは熱可塑性樹脂と金属酸化物被覆マイカ(C)を規定量計量ブレンドしたものを2軸押出機のホッパーに投入し、3~15mmにカットした炭素繊維(B)あるいは炭素繊維(B)ロービングを押出機の途中からサイドフィードする方法でも良い。また、炭素系フィラー(D)、化合物(E)、およびその他成分は、熱可塑性樹脂(A)を投入する際に規定量計量ブレンドし、加えても良い。
また、熱可塑性樹脂(A)と炭素繊維(B)を溶融混錬して得られた繊維強化熱可塑性樹脂と前述した熱可塑性樹脂(A)と同一の熱可塑性樹脂(A)にあらかじめ金属酸化物被覆マイカ(C)を練り込んだ金属酸化物被覆マイカマスターバッチをブレンドしたものでも良い。炭素系フィラー(D)、化合物(E)、およびその他成分を加える場合、熱可塑性樹脂(A)と炭素繊維(B)を溶融混練する際に加えてもよいし、または、熱可塑性樹脂(A)と金属酸化物被覆マイカ(C)を溶融混練する場合に加えてもよい。
樹脂組組成物のペレット形状は特に制限はないが、通常3~15mmの範囲が好ましい。ペレット長が短すぎると、繊維が短くなり強度、衝撃、導電性が低下する恐れがあり、ペレット長が長すぎると成形機での噛み込み不良を生じる場合がある。ペレット長は3~12mmが好ましく、6~10mmが更に好ましい。
次に、第二の態様について説明する。本発明の第二の態様における樹脂組成物は、成形品を射出成形などで成形する際に用いる原料の材料(成形材料)を意味する。本発明の第二の態様における樹脂組成物、つまり成形材料は、炭素繊維(B)に、化合物(E)を含浸させ、それからなる樹脂含浸炭素繊維束(F)が、少なくとも熱可塑性樹脂(A)および金属酸化物被覆マイカ(C)によって、被覆された構造を有することが好ましい。
炭素繊維(B)に化合物(E)を付着させて、繊維束(F)を得る方法は、特に限定されないが、炭素繊維(B)に化合物(E)を供給し、化合物(E)を100~300℃の溶融状態で炭素繊維(B)と接触させる工程(I)と、化合物(E)と接触している炭素繊維(B)を加熱して、化合物(E)を含浸させる工程(II)を有する方法などが挙げられる。
上記工程(I)において、化合物(E)を供給して炭素繊維(B)と接触させる方法は特に限定されないが、例えば、炭素繊維に油剤、サイジング剤、マトリックス樹脂を付与する場合に用いられる任意の方法を用いることができる。中でも、ディッピングもしくはコーティングが好ましく用いられる。
ここで、ディッピングとは、ポンプにて化合物(E)を溶融バスに供給し、該溶融バス内に炭素繊維(B)を通過させる方法をいう。炭素繊維(B)を化合物(E)の溶融バスに浸すことで、確実に化合物(E)を炭素繊維(B)に付着させることができる。また、コーティングとは、例えば、リバースロール、正回転ロール、キスロール、スプレイ、カーテンなどのコーティング手段を用いて、炭素繊維(B)に化合物(E)を塗布する方法をいう。ここで、リバースロール、正回転ロール、キスロールとは、ポンプで溶融させた化合物(E)をロールに供給し、炭素繊維(B)に化合物(E)の溶融物を塗布する方法をいう。さらに、リバースロールは、2本のロールが互いに逆方向に回転し、ロール上に溶融した化合物(E)を塗布する方法であり、正回転ロールは、2本のロールが同じ方向に回転し、ロール上に溶融した化合物(E)を塗布する方法である。通常、リバースロール、正回転ロールでは、炭素繊維(B)を挟み、さらにロールを設置し、化合物(E)を確実に付着させる方法が用いられる。一方で、キスロールは、炭素繊維(B)とロールが接触しているだけで、化合物(E)を付着させる方法である。そのため、キスロールは比較的粘度の低い場合の使用が好ましいが、いずれのロール方法を用いても、加熱溶融した化合物(E)の所定量を塗布させ、炭素繊維(B)を接着させながら走らせることで、繊維の単位長さ当たりに所定量の化合物(E)を付着させることができる。スプレイは、霧吹きの原理を利用したもので、溶融した化合物(E)を霧状にして炭素繊維(B)に吹き付ける方法であり、カーテンは、溶融した化合物(E)を小孔から自然落下させ塗布する方法または溶融槽からオーバーフローさせ塗布する方法である。塗布に必要な量を調節しやすいため、化合物(E)の損失を少なくできる。
また、化合物(E)を供給する際の溶融温度(溶融バス内の温度)は、100~300℃が好ましい。溶融温度が100℃以上であれば、化合物(E)の粘度を適度に抑え、付着むらを抑制することができる。150℃以上がより好ましい。一方、溶融温度が300℃以下であれば、長時間にわたり製造した場合にも、化合物(E)の熱分解を抑制することができる。250℃以下がより好ましい。100~300℃の溶融状態で炭素繊維(B)と接触させることで、化合物(E)を安定して供給することができる。
次いで、工程(I)で得られた、化合物(E)と接触した状態の炭素繊維(B)を加熱して、化合物(E)を含浸させる工程(工程(II))について説明する。具体的には、化合物(E)と接触した状態の炭素繊維(B)に対して、化合物(E)が溶融する温度において、ロールやバーで張力をかける、拡幅、集束を繰り返す、圧力や振動を加えるなどの操作により、化合物(E)を炭素繊維(B)の内部まで含浸するようにする工程である。より具体的な例として、加熱された複数のロールやバーの表面に炭素繊維(B)を接触するように通して拡幅などを行う方法を挙げることができ、中でも、絞り口金、絞りロール、ロールプレス、ダブルベルトプレスを用いて含浸させる方法が好適に用いられる。ここで、絞り口金とは、進行方向に向かって、口金径の狭まる口金のことであり、炭素繊維(B)を集束させながら、余分に付着した化合物(E)を掻き取ると同時に、含浸を促す口金である。また、絞りロールとは、ローラーで炭素繊維(B)に張力をかけることで、余分に付着した化合物(E)を掻き取ると同時に、含浸を促すローラーのことである。また、ロールプレスは、2つのロール間の圧力で連続的に炭素繊維(B)内部の空気を除去すると同時に、含浸を促す装置であり、ダブルベルトプレスとは、炭素繊維(B)の上下からベルトを介してプレスすることで、含浸を促す装置である。
また、工程(II)において、化合物(E)の供給量の80~100重量%が炭素繊維(B)に含浸されていることが好ましい。収率に直接影響するため、経済性、生産性の観点から供給量に対する含浸量が高いほど好ましい。より好ましくは、85~100重量%であり、さらに好ましくは90~100重量%である。また、80重量%以上であれば、経済性の観点に加えて、工程(II)における化合物(E)に起因する揮発成分の発生を抑制し、複合繊維束(F)内部のボイド発生を抑制することができる。
また、工程(II)において、化合物(E)の最高温度が150~400℃であることが好ましい。最高温度が150℃以上であれば、化合物(E)を十分に溶融してより効果的に含浸させることができる。180℃以上がより好ましく、200℃以上がさらに好ましい。一方、最高温度が400℃以下であれば、化合物(E)の分解反応などの好ましくない副反応を抑制することができる。380℃以下がより好ましく、350℃以下がさらに好ましい。
工程(II)における加熱方法としては、特に限定されないが、具体的には、加熱したチャンバーを用いる方法や、ホットローラーを用いて加熱と加圧を同時に行う方法などが例示できる。
また、化合物(E)の架橋反応や分解反応などの好ましくない副反応の発生を抑制する観点から、非酸化性雰囲気下で加熱することが好ましい。ここで、非酸化性雰囲気とは酸素濃度が5体積%以下、好ましくは2体積%以下、さらに好ましくは酸素を含有しない雰囲気、すなわち、窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気であることを指す。特に、経済性および取り扱いの容易さの面から、窒素雰囲気が好ましい。
また、前記工程(I)、(II)の前段階で、炭素繊維(B)の束を予め開繊してもよい。開繊とは収束された炭素繊維束を分繊させる操作であり、化合物(E)の含浸性をさらに高める効果が期待できる。開繊により、強化繊維束の厚みは薄くなり、開繊前の強化繊維束の幅をb1(mm)、厚みをa1(μm)、開繊後の強化繊維束の幅をb2(mm)、厚みをa2(μm)とした場合、開繊比=(b2/a2)/(b1/a1)を2.0以上とすることが好ましく、2.5以上とすることがさらに好ましい。
炭素繊維束の開繊方法としては、特に制限はなく、例えば凹凸ロールを交互に通過させる方法、太鼓型ロールを使用する方法、軸方向振動に張力変動を加える方法、垂直に往復運動する2個の摩擦体による強化繊維束の張力を変動させる方法、炭素繊維束にエアを吹き付ける方法などを利用できる。
図1は、本発明における複合繊維束(F)の横断面形態の一例を示す概略図である。なお、本発明において、横断面とは、軸心方向に直交する面での断面を意味する。本発明において用いられる複合繊維束(F)は、炭素繊維(B)に化合物(E)を付着せしめた複合繊維束として形成されている。この複合繊維束(F)の形態は図1に示すようなものであり、炭素繊維(B)の各単繊維1間に、化合物(E)が満たされている。すなわち、化合物(E)の海に、炭素繊維(B)の各単繊維が島のように分散している状態である。
かかる複合繊維束(F)に、少なくとも熱可塑性樹脂(A)を含む樹脂組成物を付着させることにより、成形材料を得ることができる。
本発明の成形材料は、繊維束(F)の長さと成形材料の長さが実質的に同じであることが好ましい。繊維束(F)の長さは、炭素繊維(B)の長さと同じであるから、上記記載は、炭素繊維(B)の長さと成形材料の長さが実質的に同じである、と言い換えることができる。繊維束の長さが成形材料の長さと実質的に同じであることにより、成形品における炭素繊維(B)の繊維長を長くすることができるため、より優れた力学特性を得ることができる。なお、成形材料の長さとは、成形材料中の繊維束配向方向の長さである。
また、「実質的に同じ長さ」とは、成形材料内部で繊維束が意図的に切断されていたり、成形材料全長よりも有意に短い繊維束が実質的に含まれたりしないことである。特に、成形材料全長よりも短い繊維束の量について限定するわけではないが、成形材料全長の50%以下の長さの繊維束の含有量が、全繊維束中30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。成形材料は、長手方向にほぼ同一の断面形状を保ち連続であることが好ましい。成形材料の長さは、通常3mm~15mmの範囲である。
かかる樹脂含浸強化繊維束(F)を、少なくとも熱可塑性樹脂(A)および金属酸化物被覆マイカ樹脂組成物で被覆することにより、本発明の成形材料を得ることができる。このような構造を得る方法としては、溶融した熱可塑性樹脂(A)および金属酸化物被覆マイカ(C)を含む樹脂組成物を樹脂含浸強化繊維束(F)に接するように配置し、冷却・固化する方法が好ましい。その手法については、特に限定されないが、具体的には、押出機と電線被覆法用のコーティングダイを用いて、樹脂含浸強化繊維束(F)の周囲に連続的に熱可塑性樹脂(A)および金属酸化物被覆マイカ(C)を含む樹脂組成物を被覆するように配置する方法や、ロール等で扁平化した樹脂含浸強化繊維束(E)の片面あるいは両面から、押出機とTダイを用いて溶融したフィルム状の熱可塑性樹脂(A)を含む樹脂組成物を配置し、ロール等で一体化させる方法などを挙げることができる。炭素系フィラー(D)や他の成分を含有する場合は、熱可塑性樹脂(A)および金属酸化物被覆マイカ(C)と共に溶融混練して、樹脂含浸強化繊維束(F)に接するように配置することが好ましい。
成形材料は、必ずしも単一の成形材料から構成されている必要はなく、2種以上の成形材料の組み合わせであってもよい。2種以上の成形材料を組み合わせる場合、その製造方法としては、(i)熱可塑性樹脂(A)または熱可塑性樹脂(A)および金属酸化物被覆マイカ(C)を、炭素繊維(B)に化合物(E)を含浸してなる樹脂含浸強化繊維束(F)とを含む成形材料(ブレンド成分1)、ならびに、(ii)熱可塑性樹脂(A)と金属酸化物被覆マイカ(C)とを溶融混練してなる樹脂組成物からなる成形材料(ブレンド成分2)を、各成分の含有量が前記範囲になるようにドライブレンドする方法が挙げられる。ここで、ブレンド成分1とブレンド成分2の混合比率(ブレンド成分1/ブレンド成分2)は75/25~25/75(重量比)が好ましく、70/30~30/70がより好ましく、67/33~33/67がさらに好ましい。かかる混合比率において、各成分の含有量が前記好ましい範囲になるように、ブレンド成分1およびブレンド成分2の組成を調整することが好ましい。炭素系フィラー(D)や他の成分を含有する場合は、ブレンド成分1に含まれても良く、また熱可塑性樹脂(A)と金属酸化物被覆マイカ(C)と共に溶融混練し、ブレンド成分2に含まれていても良い。
本発明の成形材料は、例えば、射出成形やプレス成形などの手法により成形されて成形品となる。成形材料の取扱性の点から、複合繊維束(F)と熱可塑性樹脂(A)および金属酸化物被覆マイカ(C)からなる樹脂組成物は成形が行われるまでは接着されたまま分離せず、前述したような形状を保っていることが好ましい。複合繊維束(F)と熱可塑性樹脂(A)および金属酸化物被覆マイカ(C)からなる樹脂組成物では、形状(サイズ、アスペクト比)、比重、質量が全く異なるため、成形までの材料の運搬、取り扱い時、成形工程での材料移送時に分級し、成形品の力学特性にバラツキを生じたり、流動性が低下して金型詰まりを起こしたり、成形工程でブロッキングする場合があるが、図2~4に例示されるような芯鞘構造の配置であれば、熱可塑性樹脂(A)および金属酸化物被覆マイカ(C)からなる樹脂組成物が複合繊維束(F)を拘束し、より強固な複合化ができる。また、製造の容易さと、材料の取り扱いの容易さから、芯鞘構造とすることがより好ましい。
本発明の成形材料は、その軸心方向には、ほぼ同一の断面形状を保っていれば、連続であってもよいし、成形方法によっては連続のものをある長さに切断されてなっていてもよい。1~50mmの範囲の長さに切断されてなっていることが好ましく、かかる長さに調整することにより、成形時の流動性、取扱性を十分に高めることができる。3~20mmが好ましく、より好ましくは、4~15mmである。このように適切な長さに切断されてなる成形材料としてとりわけ好ましい態様は、射出成形用の長繊維ペレットが例示できる。
次に本発明の成形品について説明する。
本発明の成形品に含まれる炭素繊維(B)の重量平均繊維長は、0.4~2.0mmであることが好ましい。炭素繊維(B)の重量平均繊維長が0.4mm以上であれば、力学特性や電磁波遮蔽性がより向上する。0.5mm以上がより好ましい。一方、炭素繊維(B)の重量平均繊維長が2.0mm以下であれば、繊維分散性により優れ、表面外観が向上する。1.5mm以下がより好ましい。
また、上記重量平均繊維長を有する成形品を得るための方法としては、特に限定しないが、射出成形時にペレット内に繊維が長く残存した、いわゆる長繊維ペレットを用いる方法を挙げることができる。言い換えると、上記成形材料を用いる方法を挙げることができる。長繊維ペレットに含まれる炭素繊維の長さとしては、特に限定しないが、3~20mmが好ましく、より好ましくは、4~15mmである。
ここで、本発明における「重量平均繊維長」とは、重量平均分子量の算出方法を繊維長の算出に適用し、単純に数平均を取るのではなく、繊維長の寄与を考慮した下記の式から算出される平均繊維長を指す。ただし、下記の式は、炭素繊維の繊維径および密度が一定の場合に適用される。
重量平均繊維長=Σ(Mi2×Ni)/Σ(Mi×Ni)
Mi:繊維長(mm)
Ni:繊維長Miの炭素繊維の個数
上記重量平均繊維長の測定は、次の方法により行うことができる。成形品を500℃で2時間灰化処理し、成形品中の炭素繊維を取り出し、この炭素繊維を水中に均一分散させる。炭素繊維が均一分散した分散水をシャーレにサンプリングした後、乾燥させ、光学顕微鏡(50~200倍)にて観察する。無作為に選んだ1000本の炭素繊維の長さを計測して、上記式から重量平均繊維長を算出する。
本発明の成形材料を成形することにより、成形品を得ることができる。成形方法としては、特に限定しないが、射出成形、オートクレーブ成形、プレス成形、フィラメントワインディング成形、スタンピング成形などの生産性に優れた成形方法を挙げることができる。これらを組み合わせて用いることもできる。また、インサート成形、アウトサート成形などの一体化成形にも適用することができる。さらに、成形後にも加熱による矯正処置や、熱溶着、振動溶着、超音波溶着などの生産性に優れた接着工法を活用することもできる。これらの中でも、金型を用いた成形方法が好ましく、特に射出成形機を用いた成形方法により、連続的に安定した成形品を得ることができる。射出成形の条件としては、特に規定はないが、例えば、射出時間:0.5秒~10秒、より好ましくは2秒~10秒、背圧:0.1MPa~10MPa、より好ましくは2MPa~8MPa、保圧力:1MPa~50MPa、より好ましくは1MPa~30MPa、保圧時間:1秒~20秒、より好ましくは5秒~20秒、シリンダー温度:200℃~320℃、金型温度:20℃~100℃の条件が好ましい。ここで、シリンダー温度とは、射出成形機の成形材料を加熱溶融する部分の温度を示し、金型温度とは、所定の形状にするための樹脂を注入する金型の温度を示す。これらの条件、特に射出時間、背圧および金型温度を適宜選択することにより、成形品における、炭素繊維(B)の重量平均繊維長(Lw)を前述の好ましい範囲に調整することができる。
成形品としては、インストルメントパネル、ドアビーム、アンダーカバー、ランプハウジング、ペダルハウジング、ラジエータサポート、スペアタイヤカバー、フロントエンドなどの各種モジュール、シリンダーヘッドカバー、ベアリングリテーナ、インテークマニホールド、ペダル等の自動車部品、部材および外板、ランディングギアポッド、ウィングレット、スポイラー、エッジ、ラダー、フェイリング、リブなどの航空機関連部品、部材および外板、モンキー、レンチ等の工具類、電話、ファクシミリ、VTR、コピー機、テレビ、電子レンジ、音響機器、トイレタリー用品、レーザーディスク(登録商標)、冷蔵庫、エアコンなどの家庭・事務電気製品部品などが挙げられる。また、パーソナルコンピューター、携帯電話などに使用される筐体や、パーソナルコンピューターの内部でキーボードを支持する部材であるキーボード支持体に代表される電気・電子機器用部材も挙げられる。中でも、本発明の成形材料は、炭素繊維を用いていることから、優れた電磁波遮蔽性を得られることから、電気・電子機器、OA機器、家電機器、筐体、自動車の部品、特には電気自動車の電気部品収納容器等の各種部品・部材に極めて有用である。
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、下記実施例は本発明を限定するものではない。まず、各種特性の評価方法について説明する。
(1)溶融粘度
各実施例および比較例に用いた熱可塑性樹脂(A)、化合物(E)について、40mmのパラレルプレートを用いて、0.5Hzにて、粘弾性測定器により200℃における溶融粘度を測定した。また、化合物(E)を200℃の熱風乾燥機に2時間静置した後、同様に200℃における溶融粘度を測定した。
(2)成形品中の強化繊維[B]の重量平均繊維長
各実施例および比較例により得られた80mm×10mm×4mm厚の試験片を、200~300℃に設定したホットステージの上にガラス板間に挟んだ状態で設置して加熱し、炭素繊維(B)が均一分散したフィルムを得た。炭素繊維(B)が均一分散したフィルムを、光学顕微鏡(50~200倍)にて観察した。無作為に選んだ1000本の炭素繊維(B)の繊維長を計測した。各実施例においてはいずれも共通の強化繊維を使用したため、強化繊維の密度および径は同一であることから、下記式から重量平均繊維長(LW)を算出した。
重量平均繊維長=Σ(Mi2×Ni)/Σ(Mi×Ni)
Mi:繊維長(mm)
Ni:繊維長Miの繊維の個数 。
(3)金属酸化物被覆マイカ(C)の体積平均粒子径
「体積平均粒子径」は、マイカを100mg秤量して、水中に分散させた後、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(HORIBA社製LA-300)を用いて求める。
(4)成形品の外観表面粗さ
各実施例および比較例により得られた、150mm×150mm×3mm厚の試験片を使用し、表面粗さ測定装置(ACCRTECH社製)を用いて、評価長さ8mm、試験速度0.6mm/secの測定条件で成形品表面の算術平均粗さ(Ra)値を評価した。
(5)成形品の繊維分散性
各実施例および比較例により得られた、150mm×150mm×3mm厚の試験片表裏それぞれの面に存在する未分散強化繊維束の個数を目視でカウントした。50枚の試験片について、3mm×3mm角以上の凝集強化繊維を未分散繊維と定義し、未分散強化繊維束の合計個数を求め、以下の基準に基づき、繊維分散性の判定を行った。A、Bを合格とした。
A:未分散強化繊維束が1個未満
B:未分散強化繊維束が1個以上10個未満
C:未分散強化繊維束が10個以上 。
(6)成形品の曲げ強度および曲げ弾性率
各実施例および比較例により得られたISO型ダンベル試験片について、ISO 178に準拠し、3点曲げ試験冶具(圧子半径5mm)を用いて支点距離を64mmに設定し、試験速度2mm/分の試験条件にて曲げ強度および曲げ弾性率を測定した。試験機として、“インストロン”(登録商標)万能試験機5566型(インストロン社製)を用いた。
(7)成形品の衝撃強度
各実施例および比較例により得られた80mm×10mm×4mm厚の試験片に、ISO 2818:1994に準拠して、ノッチ角度45°、深さ2mmのノッチ加工を施した。ノッチ加工を施した試験片について、ISO179-1:2010に準拠し、1.0Jのハンマーを用いて、ノッチ付きシャルピー衝撃強度を測定した。
(8)成形品の電磁波遮蔽性測定
各実施例および比較例により得られた150mm×150mm×3mm厚の電磁波遮蔽性評価用試験片について、マイクロウェーブ・ファクトリー社製の評価装置を用いて、KEC法に準拠し、近傍電界10(MHz)~1(GHz)の領域において、下記式(1)により平均シールド効果(dB)を測定した。
SE=20×log10(E0/EX) (1)
SE:平均シールド効果(dB)
E0:シールド材がない場合の空間電界強度
EX:シールド材がある場合の空間電界強度
(参考例1)炭素繊維の作製
ポリアクリロニトリルを主成分とする共重合体を原料として用い、紡糸、焼成処理および表面酸化処理の各工程を経て、総単糸数24,000本、平均繊維径7μm、単位長さ当たりの質量1.6g/m、比重1.8g/cm3、表面酸素濃度[O/C]0.12の均質な炭素繊維[B-1]を得た。この炭素繊維のストランド引張強度は4880MPa、ストランド引張弾性率は225GPaであった。
ここで、表面酸素濃度比は、表面酸化処理を行った後の炭素繊維を用いて、X線光電子分光法により、次の手順にしたがって求めた。まず、炭素繊維束を20mmにカットして、銅製の試料支持台に拡げて並べて、測定サンプルとした。測定サンプルをX線光電子分光法装置の試料チャンバーにセットした後、試料チャンバー中を1×10-8Torrに保ち、X線源としてAlKα1、2を用いて、測定を行った。測定時の帯電に伴うピークの補正値としてC1sの主ピークの運動エネルギー値(K.E.)を1202eVに合わせた。K.E.として1191~1205eVの範囲で直線のベースラインを引くことによりC1sピーク面積を求めた。K.E.として947~959eVの範囲で直線のベースラインを引くことによりO1sピーク面積を求めた。O1sピーク面積とC1sピーク面積の比から装置固有の感度補正値を用いて原子数比として、表面酸素濃度[O/C]を算出した。X線光電子分光法装置として、国際電気社製モデルES-200を用い、感度補正値を1.74とした。
次に、サイジング剤として、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル(エポキシ当量:140g/eq)を2重量%になるように水に溶解させたサイジング処理液を調製した。付着量が1.0重量%になるよう、浸漬法により前記炭素繊維に前記サイジング剤を付与し、230℃で乾燥を行い、炭素繊維[B-1]の束を得た。こうして得られた炭素繊維のサイジング剤付着量は、炭素繊維(B)100重量部に対して1.0重量部であった。また、サイジング剤のSP値を算出した結果、10であった。
(参考例2)成形材料の作製
塗布温度150℃に加熱されたロール上に、各実施例および比較例に示すエポキシ樹脂(E-1)を加熱溶融した液体の被膜を形成させた。ロール上に一定した厚みの被膜を形成するため、リバースロールを用いた。このロール上に、参考例1で得られた連続した炭素繊維(B-1)束を、接触させながら通過させて、エポキシ樹脂(E-1)を付着させた。次に、エポキシ樹脂が付着した炭素繊維束を、窒素雰囲気下において、温度250℃に加熱されたチャンバー内にて、5組の直径50mmのロールプレス間を通過させた。この操作により、エポキシ樹脂(E-1)を炭素繊維束の内部まで含浸させ、成形材料を得た。
各実施例および比較例に用いた原料を以下に示す。
熱可塑性樹脂(A-1)
ポリカーボネート樹脂(帝人化成(株)製、「“パンライト”(登録商標)L-1225L」)を用いた。200℃における溶融粘度を上記(1)に記載の方法により測定した結果、14000Pa・sであった。
熱可塑性樹脂(A-2)
ポリプロピレン樹脂(プライムポリマー(株)製“プライムポリプロ”(登録商標)J137G)とマレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(三井化学(株)製“アドマー”(登録商標)QE840)(PP)を重量比85/15でペレットブレンドしたものを用いた。200℃における溶融粘度を上記(1)に記載の方法により測定した結果、50Pa・sであった。
マイカ(C-1)
金属酸化物被覆マイカ(メルク(株)製、「“Iriotec”(登録商標)7310、アンチモンドープ酸化スズで被覆」)を用いた。(C-1)は板状マイカであり、アスペクト比は30であった。体積平均粒子径を上記(3)に記載の方法により測定した結果、15μmであった。
マイカ(C-2)
マイカ(ヤマグチマイカ社製“工業用湿式粉砕雲母粉”A-21S)を用いた。(C-2)は金属酸化物で被覆されていないマイカである。(C-2)は板状マイカであり、アスペクト比は70であり、体積平均粒子径を上記(3)に記載の方法により測定した結果、23μmであった。
マイカ(C-3)
金属酸化物被覆マイカ(メルク(株)製、「“TIMIRON“(登録商標)SUPERSILK MP1005、酸化チタンで被覆」)を用いた。(C-2)は板状マイカであり、アスペクト比は28であった。体積平均粒子径を上記(3)に記載の方法により測定した結果、14μmであった。」)
炭素系フィラー(D-1)
ファーネスブラック(三菱化学(株)製、「“三菱カーボンブラック”MA100)を用いた。
化合物(E-1)
固体のビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱化学(株)製“jER”(登録商標)1004AF、軟化点97℃)を用いた。これを含浸助剤塗布装置内のタンク内に投入し、タンク内の温度を200℃に設定し、1時間加熱して溶融状態にした。この時の、200℃における溶融粘度を上記(1)に記載の方法により測定した結果、1Pa・sであった。また、溶融粘度変化率を算出した結果、1.1%であった。
化合物(E-2)
固体の水添テルペン樹脂(ヤスハラケミカル(株)製“クリアロン”(登録商標)P125、軟化点125℃)を用いた。これを含浸助剤塗布装置内のタンク内に投入し、タンク内の温度を200℃に設定し、1時間加熱して溶融状態にした。この時の、200℃における溶融粘度を上記(1)に記載の方法により測定した結果、1Pa・sであり、また、溶融粘度変化率を算出した結果、1.2%であった
(実施例1~4、7、比較例1~5)
JSW製TEX-30α型2軸押出機(スクリュー直径30mm、ダイス直径5mm、バレル温度290℃、スクリュー回転数150rpm)を使用し、熱可塑性樹脂(A)、炭素繊維(B)、金属酸化物被覆マイカ(C)(比較例1においては、金属酸化物で被覆されていないマイカ)、炭素系フィラー(D)を、各実施例および比較例に示す組成比になるようにドライブレンドしたものをメインホッパーから供給し、下流の真空ベントより脱気を行いながら、溶融混練した。溶融樹脂組成物をダイス口から吐出し、得られたストランドを冷却後、カッターで切断して熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。
得られたペレット状の成形材料を、住友重機械工業社製SE75DUZ-C250型射出成形機を用いて、射出時間:10秒、スクリュー回転数:100rpm、背圧力:10MPa、保圧時間:10秒、シリンダー温度:300℃、金型温度:100℃の条件で射出成形することにより、ISO型引張ダンベル試験片(成形品)、80mm×10mm×4mm厚の試験片(成形品)、150mm×150mm×3mm厚の試験片(成形品)を作製した。ここで、シリンダー温度とは、射出成形機の成形材料を加熱溶融する部分の温度を示し、金型温度とは、所定の形状にするために成形材料を注入する金型の温度を示す。得られた試験片(成形品)を、温度23℃、50%RHに調整された恒温恒湿室に24時間静置した後、前述の方法により評価した。評価結果を表1、表2に示した。
(実施例5~6、8~9、比較例6~7)
参考例2に従い、炭素繊維(B-1)に化合物(E-1)(実施例6および9は、化合物(E-2))を含浸して得られた樹脂含浸強化繊維束(F-1)を日本製鋼所(株)TEX-30α型2軸押出機(スクリュー直径30mm、L/D=32)の先端に設置された電線被覆法用のコーティングダイ中に通した。熱可塑性樹脂(A)、金属酸化物被覆マイカ(C)および炭素系フィラー(D)を含む樹脂組成物をTEX-30α型2軸押出機のメインホッパーから供給して溶融混練し、溶融した状態で前記ダイ内に吐出させ、樹脂含浸強化繊維束(F-1)の周囲を被覆するように連続的に配置した。この時、熱可塑性樹脂(A)、炭素繊維(B)、金属酸化物被覆マイカ(C)、炭素系フィラー(D)および化合物(E)が表1、2記載の配合量となるように、樹脂組成物の吐出量を調整した。得られた連続状の成形材料を冷却後、カッターで切断して、長さ7mmの長繊維ペレット状の樹脂成形材料を得た。
得られた長繊維ペレット状の成形材料を、住友重機械工業社製SE75DUZ-C250型射出成形機を用いて、射出時間:10秒、スクリュー回転数:100rpm、背圧力:10MPa、保圧時間:10秒、シリンダー温度:300℃、金型温度:100℃の条件で射出成形することにより、ISO型引張ダンベル試験片(成形品)、80mm×10mm×4mm厚の試験片(成形品)、150mm×150mm×3mm厚の試験片(成形品)を作製した。ここで、シリンダー温度とは、射出成形機の成形材料を加熱溶融する部分の温度を示し、金型温度とは、所定の形状にするために成形材料を注入する金型の温度を示す。得られた試験片(成形品)を、温度23℃、50%RHに調整された恒温恒湿室に24時間静置した後、前述の方法により評価した。評価結果を表1、表2に示した。
以上のように、実施例1~4および7においては、機械強度、電磁波遮蔽性および外観品位が良好な成形品が得られた。さらに、長繊維ペレットである実施例5および8は、優れた繊維分散性を有し、衝撃強度、電磁波遮蔽性および外観品位が良好な成形品を得られた。また、実施例6および9から明らかなように、熱可塑性樹脂(A-2)を用いた場合でも、実施例5と同様に優れた性能を有した。一方、比較例1~7においては、機械特性および電磁波遮蔽性が劣る成形品しか得られなかった。