次に、本発明に係る内燃機関用点火装置の実施形態を、添付図面に基づいて詳細に説明する。
図1に示すのは、本発明の第1実施形態に係る内燃機関用点火装置1であり、内燃機関の気筒毎に設けられる1つの点火プラグ20に火花放電を発生させる点火コイルユニット10Aと、この点火コイルユニット10Aの動作タイミングを指示する点火信号Si等を適宜なタイミングで出力する点火制御手段としての内燃機関駆動制御装置30A、車両バッテリ等の直流電源40、点火プラグ20に火花放電が生じることで点火コイルの二次側を流れる二次電流に、更に電流を重ねて流す二次電流重ね手段50等で構成される。この二次電流重ね手段50は、点火コイルユニット10Aが備える点火コイル11Aの二次側へ重畳的にエネルギを加算して放電エネルギを増大させることが可能なエネルギ重畳手段として機能する。
なお、本実施形態に示す内燃機関用点火装置1においては、点火制御手段としての機能が、自動車の内燃機関を統括的に制御する内燃機関駆動制御装置30Aに含まれるものとしたが、これに限定されるものではない。例えば、ECUといった通常の内燃機関駆動制御装置30Aが有している点火信号生成機能によって生成された点火信号を受けて、適宜な制御信号を生成し、点火コイルユニット10Aや二次電流重ね手段50へ制御信号を出力する点火制御装置を別途設けるようにしても構わない。
上記点火コイルユニット10Aは、例えば、点火コイル11A、点火スイッチ12A、点火スイッチ12Aと並列に設けるバイパス線路13、このバイパス線路13に設ける整流手段14等を所要形状のケース15に収納して一体構造としたユニットである。このケース15の適所には、高圧端子151とコネクタ152を設けてあり、高圧端子151を介して点火プラグ20を接続すると共に、コネクタ152を介して内燃機関駆動制御装置30Aや直流電源40と接続する。
上記点火コイル11Aは、一次コイル111に生ずる磁束を二次コイル112に効率良く作用させるもので、例えば、センターコア113を取り巻くように一次コイル111を配置し、更にその外側に二次コイル112を配置した構造である。一次コイル111の一方端である第1端111-1は、コネクタ152を介して直流電源40と接続され、電源電圧VB+(例えば、12V)が印加される。一次コイル111の他方端である第2端111-2は点火スイッチ12Aのコレクタに接続され、点火スイッチ12Aのエミッタはコネクタ152を介して接地点GNDに接続される。
そして、放電サイクルの適宜なタイミングで内燃機関駆動制御装置30Aより出力される点火信号Siが点火スイッチ12Aのゲートに入力されると(例えば、点火信号Siの信号レベルがLからHに変わると)、点火スイッチ12Aがオンになって一次コイル111の第2端111-2が接地点GNDに接続され、一次コイル111には第1端111-1から第2端111-2に向かう一次電流I1が流れ始め、一次電流I1の流量は指数関数的に増加してゆく。この一次電流I1の流量に応じた磁束量が磁界のエネルギとして蓄積される。なお、点火コイル11Aの二次側には、二次コイル112や接続配線等の微少なコンデンサ成分により電気エネルギが蓄積される。
上記のようにエネルギが蓄積された後、一次コイル111への通電が所定の点火タイミングで遮断されると、高圧の起電力が二次コイル112に生じて点火プラグ20の放電ギャップ間に火花放電が発生し、気筒燃焼室内の混合気に着火する。このとき、一次コイル111には、通常の一次電流I1とは逆向きの電流を流そうとする逆方向の電圧が生ずるので、この逆起電力が点火スイッチ12Aのコレクタ-エミッタ間に印加されることとなり、点火スイッチ12Aが故障したり、点火スイッチ12Aの劣化を早めたりする危険性がある。そこで、点火スイッチ12Aと並列にバイパス線路13を設けると共に、このバイパス線路13の接地点側から点火コイル11A側に向かって順方向となる整流手段14(例えば、点火スイッチ12Aのコレクタ側にカソードを、点火スイッチ12Aのエミッタ側にアノードをそれぞれ接続したダイオード)を設けたのである。
上記点火プラグ20の放電電極間に火花放電が生じて二次側に流れる二次電流I2は、気筒内の燃焼状況を知るための情報として有用であるから、二次電流I2を検出するための二次電流検知手段を設けても良い。この二次電流検出手段は、例えば、二次電流重ね手段50と接地点GNDとの間の二次電流経路に介挿した適宜な抵抗値の電流検出用抵抗61と、この電流検出用抵抗61による電圧変化を二次電流の検出情報(二次電流検出信号)として取得する二次電流検出ライン62とで構成できる。そして、二次電流検出ライン62より得られる二次電流検出信号は、内燃機関駆動制御装置30Aへ供給され、この二次電流検出信号に基づいて内燃機関駆動制御装置30Aは二次コイル112に流れる電流値を知ることができる。
また、点火プラグ20に高電圧を印加する二次コイル112に発生している電圧(以下、二次コイル電圧という)も、燃焼状況を知るための情報として有用であるから、例えば、高圧端子151と二次コイル112との間に設定した検知点Pspにて二次コイル電圧情報を取得すれば良いのであるが、二次コイル電圧は数kV~数十kVに及ぶ高電圧であるために、分圧抵抗を設けることに依るリークの発生といった諸問題に配慮が必要であり、検知点Pspで二次コイル電圧の監視を行うことは現実的ではない。
しかしながら、点火プラグ20の放電時には、一次コイル111と二次コイル112との巻数比に応じた電圧が一次コイル111にも発生しており、一次コイル111に発生している電圧(以下、一次コイル電圧という)であれば、比較的低い電圧値であることから、監視のための難易度が低い。ただし、一次コイル電圧と二次コイル電圧は、電圧値のスケールが異なると共に、互いに逆極性となる。この相違点を踏まえておけば、一次コイル電圧を二次コイル電圧の相関情報として扱うことができる。
そこで、本実施形態に係る内燃機関用点火装置1の点火コイルユニット10Aにおいては、一次コイル低圧側の電圧を検出する一次コイル電圧検出手段として、一次コイル111の第2端111-2とバイパス線路13の分岐点との間から一次コイル電圧検出ライン16を引き出し、コネクタ152を介して内燃機関駆動制御装置30Aへ一次コイル電圧信号を入力するものとした。
内燃機関駆動制御装置30Aでは、一次コイル電圧信号に基づいて二次コイル電圧を推定することにより、点火プラグ20への印加電圧の変化を知ることが可能となるので、内燃機関駆動制御装置30Aが二次電流重ね手段50による二次電流の重畳制御を行うことで、着火性を向上させることが可能となる。この二次電流重ね手段50を用いた重畳制御は、例えば、内燃機関駆動制御装置30Aに設けた重畳制御手段31の機能によって実行する。また、二次電流重ね手段50の電流源としては、車両バッテリ等の直流電源40を用いることができる。
重畳制御手段31の一例を図2に示す。重畳制御手段31には、重畳制御の開始や終了のタイミングを判定する重畳制御タイミング判定手段301と、この重畳制御タイミング判定手段301が重畳制御開始タイミングを判定するための情報として用いる重畳制御開始条件(後に詳述)を記憶している重畳制御開始条件記憶手段302と、重畳制御開始に伴って二次電流重ね手段50を動作制御するための二次電流重ね制御信号Spを生成して出力する二次電流重ね制御信号生成手段303と、点火コイル二次側に流す二次電流の目標値として設定された設定二次電流値を記憶しておく設定二次電流値記憶手段304と、二次電流重ね手段50が重畳電流を調整することで保持できる二次電流値の種類(例えば、第1電流値と第2電流値の2種類)を記憶しておく変更可能二次電流値記憶手段305と、重畳制御開始条件が成立して重畳制御を開始した後に重畳制御が適正化否かを見直す重畳制御見直しタイミングを記憶しておく重畳制御見直しタイミング記憶手段306と、を設ける。
重畳制御タイミング判定手段301には、点火信号Siと一次コイル電圧信号と重畳制御開始条件記憶手段302からの重畳制御開始条件が供給されており、点火信号SiがONからOFFとなる点火タイミングIG以降に、重畳制御開始条件を満たす重畳制御開始タイミングα1の成立を判定する。例えば、図3(a)の波形図に示すように、一次電流遮断による点火タイミングIGで容量放電エネルギ(二次側に蓄積された電気エネルギ)が消費されて一次電圧が急激に高く(図3(a)の一次コイル電圧波形においては負極に大きく)なり、短時間で低下して(図3(a)の一次コイル電圧波形においては正極側へ戻って)行き、予め定めた指標値電圧に達したタイミングを重畳制御開始タイミングα1と判定する。なお、重畳制御のために一次コイル電圧の変化に着目する場合、基準電位に対する極性を考慮する必要が無いので、波形電圧の絶対値を電圧値として値の増減を判定するものとし、併せて、重畳制御開始条件も正の値として設定しておけば良い。
また、重畳制御開始条件は任意に設定して良く、例えば、容量放電と看做し得る所定期間(例えば、数十μs)が経過して誘導放電へ移行したと看做し得る状態になったことを重畳制御開始条件とする場合には、放電タイミングIGから所定期間の経過を重畳制御開始条件記憶手段302に記憶させておくことで、重畳制御タイミング判定手段301は重畳制御開始条件記憶手段302から取得した重畳制御開始条件を用いた重畳制御開始タイミングの判定を行い、二次電流重ね制御信号生成手段303へ二次電流重ね制御信号の生成開始を指示することができる。なお、重畳制御開始条件記憶手段302に記憶させる重畳制御開始条件は、外部から重畳制御開始条件設定信号を入力することで任意に変更できるようにしておくと、内燃機関の特性に応じて柔軟に重畳制御開始条件を設定できるので、利便性を高めることができる。
重畳制御タイミング判定手段301が重畳制御開始タイミングα1と判定し、二次電流重ね制御信号生成手段303に二次電流重ね開始指示を出すと、二次電流重ね制御信号生成手段303は二次電流重ね制御信号Spを生成して二次電流重ね手段50へ出力し、二次電流重ね手段50によって二次電流が重畳される(図3(a)の二次電流波形中、網掛けで示す領域を参照)。
ここで、二次電流重ね信号Spは、設定二次電流値記憶手段304に記憶されている設定二次電流値を二次電流重ね手段50へ指示するために、例えば、2つの信号レベルをとる。設定二次電流値記憶手段304に記憶されている設定二次電流値が第1電流値であった場合、二次電流重ね信号生成手段303が生成する二次電流重ね制御信号Spの電位をLev1とすることで、これを受けた二次電流重ね手段50は二次電流重ね制御信号Spの電位レベルから目標とする二次電流値が第1電流値であると分かり、点火コイル二次側を流れる二次電流が第1電流値を保持するように、二次電流重ね手段50による二次電流の重ね動作が行われる。
同様に、設定二次電流値記憶手段304に記憶されている設定二次電流値が第2電流値であった場合、二次電流重ね信号生成手段303が生成する二次電流重ね制御信号Spの電位をLev2とすることで、これを受けた二次電流重ね手段50は二次電流重ね制御信号Spの電位レベルから目標とする二次電流値が第2電流値であると分かり、点火コイル二次側を流れる二次電流が第2電流値を保持するように、二次電流重ね手段50による二次電流の重ね動作が行われる。
なお、変更可能二次電流値記憶手段305に記憶されている電流値が3種類以上あった場合には、それぞれの電流値に応じた電位レベルで二次電流重ね制御信号Spを生成するようにしても良いし、内燃機関駆動制御装置30Aから二次電流重ね手段50へ至る信号線を物理的に分けておき、二次電流重ね制御信号Spを出力した信号線に応じて目標とする電流値を二次電流重ね手段50へ指示するようにしても良い。
上記のようにして重畳制御が開始された後、重畳制御タイミング判定手段301は、重畳制御見直しタイミング記憶手段306に記憶されている重畳制御見直しタイミングα2の成否を判定する。重畳制御見直しタイミングは、例えば、重畳制御開始タイミングα1から所定時間幅の点火状況監視期間txが経過したタイミングとし、点火コイル20の放電電極間に生じた火花放電の放電経路がシリンダ内のタンブル流によって膨らんでいると推測されるか否かを見極めるタイミングとして用いる。なお、適切な時間幅の点火状況監視期間txは、内燃機関の特性や動作環境によって変化するので、例えば、外部からの重畳制御見直しタイミング設定信号によって重畳制御見直しタイミング記憶手段306の記憶内容を任意に変更できるようにしておけば、利便性が高い。
重畳制御タイミング判定手段306は、重畳制御見直しタイミングα2が成立するまで(点火状況監視期間txが経過するまで)の期間、一次コイル電圧検出手段により検出された一次コイル電圧の変化を監視し、点火プラグ20に発生した火花放電の膨らんだ放電経路を維持し難い状態として定めた二次電流加算条件、または、点火プラグ20に発生した火花放電の放電経路を膨らませ難い状態として定めた二次電流低減条件の成否を判定する。そして、二次電流加算条件が成立していた場合、重畳制御タイミング判定手段301は二次電流重ね制御信号生成手段303へ重畳増加制御を指示する。二次電流低減条件が成立していた場合、重畳制御タイミング判定手段301は二次電流重ね制御信号生成手段303へ重畳低減制御を指示する。なお、二次電流加算条件および二次電流低減条件の何れも成立していなかった場合には、重畳制御タイミング判定手段301から二次電流重ね制御信号生成手段303への指示は行わない。
まず、一次コイル電圧の変化が二次電流加算条件を満たしていると重畳制御タイミング判定手段306が判定した場合について説明する。
二次電流加算条件の一例は、一次コイル電圧の絶対値が指標電圧値を超えて上昇したにもかかわらず、再び指標電圧値を下回るほど低下した状態と考えられる吹き消え波形が、点火状況監視期間tx中に所定回数(例えば、1回)以上生じていることである。この吹き消え波形が示すのは、点火プラグ20の放電電極間に生じた火花放電がタンブル流によって伸ばされ、膨らんでゆく過程で放電電流を維持するために生じた電圧上昇から、タンブル流の流速に対して膨らんだ放電経路を維持できずに、放電電極間を短経路で流れる放電経路に変わったために電極間電圧が低下した状態である。すなわち、点火状況監視期間tx中に吹き消え波形が検出されたと言うことは、シリンダ内で点火プラグ20の電極間に作用しているタンブル流の流速が放電電流(二次電流)に対して強すぎると考えられる。したがって、このときに生じているタンブル流で吹き消えが生じないように二次電流を増大させることが安定燃焼の実現に有効であるから、点火状況監視期間tx中に吹き消え波形が所定回数以上あることを二次電流加算条件とするのである。
なお、上述した二次電流加算条件は、あくまでも一例であり、内燃機関の特性等に応じて、適宜に設定すれば良い。例えば、点火状況監視期間txの初期に吹き消え波形が検出されていても、重畳制御見直しタイミングα2においては、指標電圧値を大きく超える高電圧に上昇していた場合、点火プラグ20の電極間に生じた火花放電に吹き消えが生ずることなく大きく膨らんでいる状態と推定できるので、このような場合にまで二次電流を増加させる必要は無いことから、これを二次電流加算条件から除外するようにしても良い。
重畳制御タイミング判定手段301が二次電流加算条件の成否を判定するために一次コイル電圧の変化を監視している点火状況監視期間tx中は、重畳制御判定タイミング判定手段301より重畳制御開始の指示を受けた二次電流重ね制御信号生成手段303が、設定二次電流値記憶手段304に記憶されている設定二次電流値で二次電流重ね手段50を動作させるための二次電流重ね制御信号Spを生成して、二次電流重ね手段50へ出力する。例えば、設定二次電流値記憶手段304に記憶されている設定二次電流値が第1電流値であれば、二次電流重ね制御信号生成手段303は、信号の電位レベルをLev1とした二次電流重ね制御信号Spを二次電流重ね手段50へ出力することで、二次電流を第1電流値に保持する重畳制御が行われる。
上記のように、二次電流重ね手段50によって二次電流が第1電流値に保持されている状態で重畳制御見直しタイミングα2となり、重畳制御タイミング判定手段301が二次電流加算条件の成立を判定すると、二次電流重ね制御信号生成手段303に対して重畳増加制御を指示する。これにより、二次電流重ね制御信号生成手段303は、変更可能二次電流値記憶手段305から読み出した変更可能二次電流値のうち、設定二次電流値記憶手段304に記憶されている設定二次電流値(第1電流値)よりも高い二次電流値(第2電流値)を新たな設定二次電流値として設定二次電流値記憶手段304に上書きすると共に、信号の電位レベルをLev2とした二次電流重ね制御信号Spを二次電流重ね手段50へ出力することで、二次電流を第1電流値よりも高い第2電流値に保持する重畳制御が行われるようになる。
すなわち、重畳増加制御を行うことによって、点火状況監視期間tx中に指標としていた第1電流値よりも高い第2電流値に変更し、二次電流を第2電流値に保持する重畳制御が行われるようになると、シリンダ内に生じている強いタンブル流でも吹き消えが生じ難い程度に大きな放電電流が流れることとなる。よって、点火プラグ20の電極間に生じた火花放電に吹き消えが生ずることなく大きく膨らみ、シリンダ内で大きな火炎核を形成できるので、好適な燃焼を実現できる。
なお、重畳制御において設定二次電流値として用いる第1電流値は、制御対象である内燃機関の標準的な稼働時に生ずる平均的なタンブル流によって吹き消えが生じないで、放電経路が十分に膨らむときの二次電流値を指標として定めれば良い。また、第2電流値は、制御対象である内燃機関の過負荷時等に生ずる強いタンブル流によって吹き消えが生じないで、放電経路が十分に膨らむときの二次電流値を指標として定めれば良い。
一方、上記のように設定二次電流値記憶手段304の設定二次電流値が第1電流値から第2電流値に変更された後に行われる点火サイクルにおいて、図3(b)の波形図に示すように、点火状況監視期間tx中に吹き消え波形が現れることなく、重畳制御見直しタイミングα2において、一次コイル電圧が指標電圧値を大きく超える高電圧に上昇していた場合、点火プラグ20の電極間に生じた火花放電に吹き消えが生ずることなく大きく膨らんでいると考えられるので、二次電流加算条件は成立せず、重畳制御タイミング判定手段301から二次電流重ね制御信号生成手段303に対して重畳増加制御が指示されることは無いので、設定二次電流値記憶手段304に記憶されている第2電流値がそのまま維持され、二次電流重ね手段50によって二次電流を第2電流値に保持する重畳制御が引き続き行われる。
なお、重畳制御手段31により行う重畳制御の終了タイミングは任意である。例えば、一次コイル電圧が予め定めた重畳停止基準電圧値にまで下がったタイミングを重畳制御終了タイミングβとし、この重畳制御終了タイミングβになると、重畳制御タイミング判定手段301が二次電流重ね制御信号生成手段303への重畳制御指示を停止(或いは、重畳制御終了指示を出力)することで、二次電流重ね制御信号生成手段303から二次電流重ね手段50へ二次電流重ね制御信号Spを出力させなくして、二次電流重ね手段50による二次電流重畳機能を停止させることができる。また、点火タイミングIGから計時した経過時間が、安定した燃焼維持に必要十分な高電流期間として定めた高電流保持時間に達したときを重畳制御終了タイミングβに設定し、重畳制御を終了するようにしても良い。
次いで、一次コイル電圧の変化が二次電流低減条件を満たしていると重畳制御タイミング判定手段306が判定した場合について説明する。
二次電流低減条件の一例は、図4(a)に示すように、点火状況監視期間tx中に一度も指標電圧値を超える電圧上昇が認められない短経路保持波形になっていることである。この短経路保持波形が示すのは、点火プラグ20の放電電極間に生じた火花放電がタンブル流によって伸ばされず、短経路の放電電流が保持されているために電圧上昇が生じていない状態である。すなわち、点火状況監視期間txが短経路保持波形になっていると言うことは、シリンダ内で点火プラグ20の電極間に作用しているタンブル流の流速に対して放電電流(二次電流)が強すぎると考えられる。したがって、このときに生じているタンブル流で火花放電の経路が良く伸びるように二次電流を低減させることが安定燃焼の実現に有効であるから、点火状況監視期間tx中に、短経路保持波形が維持されていることを二次電流低減条件とするのである。
重畳制御タイミング判定手段301が二次電流低減条件の成否を判定するために一次コイル電圧の変化を監視している点火状況監視期間tx中は、重畳制御判定タイミング判定手段301より重畳制御開始の指示を受けた二次電流重ね制御信号生成手段303が、設定二次電流値記憶手段304に記憶されている設定二次電流値で二次電流重ね手段50を動作させるための二次電流重ね制御信号Spを生成して、二次電流重ね手段50へ出力する。例えば、設定二次電流値記憶手段304に記憶されている設定二次電流値が第2電流値であれば、二次電流重ね制御信号生成手段303は、信号の電位レベルをLev2とした二次電流重ね制御信号Spを二次電流重ね手段50へ出力することで、二次電流を第2電流値に保持する重畳制御が行われる。
上記のように、二次電流重ね手段50によって二次電流が第2電流値に保持されている状態で重畳制御見直しタイミングα2となり、重畳制御タイミング判定手段301が二次電流低減条件の成立を判定すると、二次電流重ね制御信号生成手段303に対して重畳低減制御を指示する。これにより、二次電流重ね制御信号生成手段303は、変更可能二次電流値記憶手段305から読み出した変更可能二次電流値のうち、設定二次電流値記憶手段304に記憶されている設定二次電流値(第2電流値)よりも低い二次電流値(第1電流値)を新たな設定二次電流値として設定二次電流値記憶手段304に上書きすると共に、信号の電位レベルをLev1とした二次電流重ね制御信号Spを二次電流重ね手段50へ出力することで、二次電流を第2電流値よりも低い第1電流値に保持する重畳制御が行われるようになる。
すなわち、重畳低減制御を行うことによって、点火状況監視期間tx中に指標としていた第2電流値よりも低い第1電流値に変更し、二次電流を第1電流値に保持する重畳制御が行われるようになると、シリンダ内に生じている弱いタンブル流でも放電経路が大きく膨らみ、かつ吹き消えが生じない程度の放電電流が流れることとなる。よって、点火プラグ20の電極間に生じた火花放電に吹き消えが生ずることなく大きく膨らみ、シリンダ内で大きな火炎核を形成できるので、好適な燃焼を実現できる。
一方、上記のように設定二次電流値記憶手段304の設定二次電流値が第2電流値から第2電流値に変更された後に行われる点火サイクルにおいて、図4(b)の波形図に示すように、点火状況監視期間tx中に吹き消え波形も短経路保持波形も現れることなく、重畳制御見直しタイミングα2において、一次コイル電圧が指標電圧値を大きく超える高電圧に上昇していた場合、点火プラグ20の電極間に生じた火花放電に吹き消えが生ずることなく大きく膨らんでいると考えられるので、二次電流低減条件も二次電流増加条件も成立せず、重畳制御タイミング判定手段301から二次電流重ね制御信号生成手段303に対して重畳低減制御および重畳増加制御が指示されることは無いので、設定二次電流値記憶手段304に記憶されている第1電流値がそのまま維持され、二次電流重ね手段50によって二次電流を第1電流値に保持する重畳制御が引き続き行われる。そして、重畳制御終了タイミングβになると、二次電流を第1電流値に保持する重畳制御が終了する。
上述したように、第1実施形態に係る内燃機関用点火装置1における重畳制御手段31では、重畳制御を開始した後、重畳制御見直しタイミングα2において、二次電流増加条件と二次電流低減条件の成否に基づき、重畳増加制御あるいは重畳低減制御が必要か否かの判断を行い、必要に応じて重畳増加制御あるいは重畳低減制御を実行することで、点火プラグ20の電極間に生じた火花放電に吹き消えが生ずることなく大きく膨らんで、シリンダ内で大きな火炎核を形成できるようにし、好適な燃焼を実現するのである。
ただし、本実施形態の内燃機関用点火装置1においては、変更可能二次電流値記憶手段305に第1電流値と第2電流値の2種類のみ記憶させてあるので、設定二次電流値記憶手段304に記憶されている設定二次電流値が第2電流値であった場合には、たとえ二次電流増加条件が成立しても重畳増加制御を行う事はできず、同様に、設定二次電流値記憶手段304に記憶されている設定二次電流値が第1電流値であった場合には、二次電流低減条件が成立しても重畳低減制御を行う事はできない。すなわち、本実施形態に係る内燃機関用点火装置1では、設定二次電流値に応じて、重畳増加制御または重畳低減制御の何れか一方の制御を行う事しかできない。
しかしながら、変更可能二次電流値記憶手段305に3種類以上(例えば、第1電流値、第2電流値、第3電流値の3種類で、第1電流値<第2電流値<第3電流値)を記憶させておけば、より細かく重畳増加制御と重畳低減制御を行う事ができる上に、設定二次電流値記憶手段304に記憶されている設定二次電流値が上限電流値(第3電流値)でも下限電流値(第1電流値)でもない中間電流値(第2電流値)であれば、二次電流増加条件が成立すると重畳増加制御を行う事ができ、二次電流低減条件が成立すると重畳低減制御を行う事ができる。すなわち、変更可能二次電流値記憶手段305に3種類以上を記憶させ、二次電流重ね手段50が3種類以上の電流値に二次電流を保持できる構成とすれば、成立条件に応じて、重畳増加制御および重畳低減制御のどちらの制御でも行える場合がある。
また、上述した第1実施形態の内燃機関用点火装置1のように、二次電流増加条件と二次電流低減条件の成否を点火サイクル内で判断し、同じサイクル内で補正するために重畳増加制御あるいは重畳低減制御を行えば、点火サイクル毎のバラツキを無くして、安定した燃焼を実現できるのであるが、必ずしも同一サイクル内で二次電流増加条件と二次電流低減条件の成否を判断する必要は無い。例えば、気筒内の燃焼に支障が出るほどではないものの吹き消えの発生傾向が認められる点火サイクルが所定回数続いた場合には、二次電流増加条件が成立したものとして重畳増加制御を行い、気筒内の燃焼に支障が出るほどではないものの短経路保持傾向が認められる点火サイクルが所定回数続いた場合には、二次電流低減条件が成立したものとして重畳低減制御を行うようにしても良い。
上述した第1実施形態に係る内燃機関用点火装置1では、点火コイル11Aの二次側を流れる二次電流を直接コントロールできる二次電流重ね手段50をエネルギ重畳手段として用いるものとしたが、エネルギ重畳手段はこれに限定されるものではない。例えば、図5に示す第2実施形態に係る内燃機関用点火装置2のように、点火タイミングIG以降に点火コイルの一次側から二次側へ誘導性の放電エネルギを重畳することで、点火プラグ20に発生した火花放電による着火性を向上させる構成とすることもできる。
図5に示す内燃機関用点火装置2は、第1実施形態に係る内燃機関用点火装置1と異なり、点火コイル11Bを設けた点火コイルユニット10Bと、この点火コイルユニット10Bに対応した駆動制御機能を有する内燃機関駆動制御装置30B、点火コイル11Bの点火制御を行うための副一次コイル通電許可スイッチ71および副一次コイル通電スイッチ72を有する。また、内燃機関駆動制御装置30Bは、点火コイル11Bを制御することで二次側へ放電エネルギを重畳する重畳制御手段32を備える。なお、前述した第1実施形態に係る内燃機関用点火装置1と同一の構成については、同一符号を付して説明を省略する。
上記点火コイルユニット10Bの点火コイル11Bは、主一次コイル111a(例えば、90ターン)と副一次コイル111b(例えば、60ターン)に生ずる磁束を二次コイル112(例えば、9000ターン)に効率良く作用させるもので、例えば、センターコア113を取り巻くように主一次コイル111aおよび副一次コイル111bを配置し、更にその外側に二次コイル112を配置した構造である。
まず、主一次コイル111aは、その一方端である第1端111a-1がコネクタ152を介して直流電源40と接続され、電源電圧VB+(例えば、12V)が印加される。また、主一次コイル111aの他方端である第2端111a-2は、主点火スイッチ12Bのコレクタに接続され、さらに、この主点火スイッチ12Bのエミッタはコネクタ152を介して接地点GNDに接続される。すなわち、内燃機関駆動制御装置30Bより出力される主一次コイル点火信号Saが主点火スイッチ12Bのゲートに入力されると(例えば、主一次コイル点火信号Saの信号レベルがLからHに変わると)、主点火スイッチ12Bがオンになって主一次コイル111aの第2端111a-2が接地点GNDに接続され、主一次コイル111aには第1端111a-1から第2端111a-2に向かう主一次電流I1aが流れて、順方向の磁束(通電磁束)が発生する。
そして、内燃機関駆動制御装置30Bより出力される主一次コイル点火信号SaがOFFになると(例えば、主一次コイル点火信号Saの信号レベルがHからLに変わると)、主点火スイッチ12Bがオフになって、主一次コイル111aへの通電が遮断される。これにより、容量成分による放電エネルギが二次コイル112に与えられて、点火プラグ20の放電電極間に火花放電が生じると共に、センターコア113を介して二次コイル112にも作用している通電磁束が急激に消失してゆく。この通電磁束の減衰は、見かけ上、通電磁束と逆向きの磁束(以下、遮断磁束という)が生じて通電磁束を減じてゆくものと捉えられる。すなわち、主点火コイル111aへの通電遮断により生じた遮断磁束で通電磁束の磁束量が減ぜられ、その磁束量の変化が一次側と二次側の巻線比に応じた高圧の起電力を二次コイル112に生じさせるので、点火コイル11Bの二次側に誘導成分による放電エネルギが与えられる。
一方、上記主一次コイル111aと同様に、鉄心113を介して二次コイル112に磁界を作用させることが可能な副一次コイル111bは、その一方端である第1端111b-1がコネクタ152を介して副一次コイル通電スイッチ72と接続され、他方端である第2端111b-2がコネクタ152を介して副一次コイル通電許可スイッチ71と接続される。そして、内燃機関駆動制御装置30Bにより副一次コイル通電許可スイッチ71および副一次コイル通電スイッチ72のオン・オフが制御されて、副一次コイル111bの第1端111b-1側が直流電源40に、第2端111b-2側が接地点GNDにそれぞれ接続されると、副一次コイル111bには第1端111b-1から第2端111b-2に向かう重畳電流I1bが流れる。
副一次コイル111bに重畳電流I1bが流れると、直流電源40から主一次コイル111aへ通電したときに発生する通電磁束とは逆方向(主一次コイル111aへの通電遮断時に仮想的に生じる遮断磁束と同方向)の重畳磁束が発生する。すなわち、主一次コイル111aへの通電遮断タイミング以降に、重畳電流I1bを副一次コイル111bに流すと、遮断磁束に重畳磁束が加わることで、通電磁束の減衰が加速されることとなり、二次コイル112に誘起される誘導放電エネルギを重畳的に増加させることができる。従って、点火コイル11Bを用いる第2実施形態の内燃機関用点火装置2においては、副一次コイル111bと、この副一次コイル111bへの通電・遮断制御を行う副一次コイル通電許可スイッチ71および副一次コイル通電スイッチ72が、点火コイル11Bの二次側へ重畳的にエネルギを加算して放電エネルギを増大させることが可能なエネルギ重畳手段として機能するのである。
このように、副一次コイル111bによって重畳磁束を発生させて二次側の誘導放電エネルギを調整すれば、二次電流の電流値をコントロールすることができるので、高めれば、点火プラグ20に生じた火花放電の放電経路がタンブル流によって吹き消されることなく大きく膨らみ、大きな火炎核を形成して、好適な燃焼を実現できる。なお、通電磁束と重畳磁束の向きを逆にする(重畳磁束を遮断磁束と同じ向きにする)ためには、主一次コイル111aと副一次コイル111bの巻回方向を逆向きにするか、主一次コイル111aへの給電方向と副一次コイル111bへの給電方向を逆向きにしておけば良い。
上述した点火コイル11Bの通電制御に用いる副一次コイル通電許可スイッチ71および副一次コイル通電スイッチ72は、それぞれ別々に設けるようにしても良いし、点火コイルユニット10Bとは別体として設ける副一次コイル通電許可スイッチ71および副一次コイル通電スイッチ72を同一のケースに収納したユニット構造としても良い。また、耐電圧および耐ノイズ性の高い半導体デバイスを副一次コイル通電許可スイッチ71および副一次コイル通電スイッチ72として用いるなら、点火コイルユニット10Bのケース15内に設けるようにしても良い。
副一次コイル通電許可スイッチ71は、高速スイッチング特性を備えるパワーMOS-FETで構成でき、副一次コイル通電許可スイッチ71のソースが副一次コイル111bの第2端111b-2側に、副一次コイル通電許可スイッチ71のドレインが接地点GND側に接続され、副一次コイル通電許可スイッチ71のゲートには、内燃機関駆動制御装置30Bの重畳制御手段32より副一次コイル通電許可信号Sb1が入力される。したがって、副一次コイル通電許可信号Sb1がオン(例えば、信号レベルがLからH)になると、副一次コイル通電許可スイッチ71がオンになり、副一次コイル111bの第2端111b-2が接地点GNDに接続されることとなる。
なお、上記副一次コイル通電許可スイッチ71のドレインと接地点GNDの間の副一次電流経路には、適宜な抵抗値の電流検出用抵抗81を介挿してあり、この電流検出用抵抗81による電圧変化を検知する副一次電圧検出ライン82と電流検出用抵抗81とによって、副一次電流検出手段を構成する。副一次電圧検出ライン82より得られる副一次電流検出信号は、内燃機関駆動制御装置30Bへ供給され、この副一次電流検出信号に基づいて重畳制御手段32は副一次コイル111bに流れる副一次電流を知ることができる。
また、副一次コイル通電スイッチ72もパワーMOS-FETで構成でき、副一次コイル通電スイッチ72のドレインが直流電源40側に、副一次コイル通電スイッチ72のソースが副一次コイル111bの第1端111b-1側に接続され、副一次コイル通電スイッチ72のゲートには、重畳制御手段32より副一次コイル通電信号Sb2が入力される。したがって、副一次コイル通電信号Sb2がオン(例えば、信号レベルがLからH)になると、副一次コイル通電スイッチ72がオンになり、副一次コイル111bの第1端111b-1に直流電源40から電源電圧VB+が印加されることとなる。なお、昇圧電源回路73(図5中、二点鎖線で示す)を設け、直流電源40からの電源電圧VB+を昇圧して副一次コイル111bへ供給できるようにしても良い。斯くすれば、副一次コイル111bに印加する電圧を高くして、副一次コイル111bに流す重畳電流I1bを大きくできるので、副一次コイル111bから二次コイル112へ、より大きなエネルギを重畳することが可能となる。
重畳制御手段32によって副一次コイル111bへの通電制御を行うに際し、二次コイル電圧の相関情報として、主一次コイル111aに生ずる電圧(以下、主一次コイル電圧という)を用いる。そのため、本実施形態に係る内燃機関用点火装置2の点火コイルユニット10Bにおいては、主一次コイル低圧側の電圧を検出する主一次コイル電圧検出手段として、主一次コイル111aの第2端111a-2とバイパス線路13の分岐点との間から主一次コイル電圧検出ライン17を引き出し、コネクタ152を介して内燃機関駆動制御装置30Bの重畳制御手段32へ主一次コイル電圧信号を入力するものとした。
重畳制御手段32の一例を図6に示す。重畳制御手段32には、重畳の開始・更新や終了の制御タイミングを判定する重畳制御タイミング判定手段301と、この重畳制御タイミング判定手段301が重畳制御開始の制御タイミングを判定するための情報として用いる重畳制御開始条件を記憶している重畳制御開始条件記憶手段302と、重畳制御タイミング判定手段301が重畳制御見直しのタイミングを判定するための情報として用いる重畳制御見直しタイミングを記憶している重畳制御見直しタイミング記憶手段306と、重畳制御開始に伴って副一次コイル通電許可スイッチ71と副一次コイル通電スイッチ72を動作させるための副一次コイル通電許可信号Sb1と副一次コイル通電信号Sb2を生成して出力する副一次コイル制御手段307と、点火コイル二次側に流す二次電流の目標値として設定された設定二次電流値を記憶しておく設定二次電流値記憶手段304と、副一次コイル111bへの通電制御によって保持できる二次電流値の種類(例えば、第1電流値と第2電流値の2種類)を記憶しておく変更可能二次電流値記憶手段305と、を設ける。
重畳制御タイミング判定手段301には、点火信号Siと、主一次コイル電圧信号と、重畳制御開始条件記憶手段302からの重畳制御開始条件と、重畳制御見直しタイミング記憶手段306からの重畳制御見直しタイミングが供給されており、点火信号SiがONからOFFとなる点火タイミングIG以降に、重畳制御開始条件を満たす重畳制御開始タイミングの成立を判定する。例えば、図7(a)の波形図に示すように、一次電流遮断による点火タイミングIGで容量放電エネルギ(二次側に蓄積された電気エネルギ)が消費されて一次電圧が急激に高くなった後、短時間で低下して行き、指標電圧値に達したタイミングを重畳制御開始タイミングα1と判定する。無論、容量放電と看做し得る所定期間(例えば、数十μs)が経過して誘導放電へ移行したと看做し得る状態になったことを重畳制御開始条件としても良い。
重畳制御タイミング判定手段301が重畳制御開始タイミングα1と判定し、副一次コイル制御手段307に重畳制御開始指示を出すと、副一次コイル制御手段301は副一次コイル通電許可信号Sb1および副一次コイル通電信号Sb2を生成して、副一次コイル通電許可スイッチ71と副一次コイル通電スイッチ72へそれぞれ出力する。エネルギ重畳手段として機能する副一次コイル通電許可スイッチ71と副一次コイル通電スイッチ72によって副一次コイル111bへの通電制御が実行され、通電量に応じた重畳磁束が二次コイル112に作用し、二次電流が重畳される(図7(a)の二次電流波形中、網掛けで示す領域を参照)。
このとき、副一次コイル制御手段307は、二次電流検出信号から得られる二次電流の値を、設定二次電流値記憶手段304に記憶された設定二次電流値に近づけるように、副一次コイル通電信号Sb2のパルス幅を多段階(例えば、256段階)で調整するPWM制御を行う。例えば、設定二次電流値記憶手段304に設定二次電流値として第1電流値が記憶されていた場合には、副一次コイル111bに生じさせる重畳磁束で二次電流が第1電流値に保持される通電パルスを副一次コイル111bへ供給するように、副一次コイル通電スイッチ72のスイッチング動作を制御する第1PWM制御を副一次コイル制御手段307が行うのである。同様に、設定二次電流値記憶手段304に設定二次電流値として第2電流値が記憶されていた場合には、副一次コイル111bに生じさせる重畳磁束で二次電流が第2電流値に保持される通電パルスを副一次コイル111bへ供給するように、副一次コイル通電スイッチ72のスイッチング動作を制御する第2PWM制御を副一次コイル制御手段307が行うのである。
なお、変更可能二次電流値記憶手段305に記憶されている電流値が3種類以上あった場合には、それぞれの電流値に応じた適切な重畳磁束を副一次コイル111bに生じさせるように、3種類以上のPWM制御を副一次コイル制御手段301が行えるようにすれば良い。
上記のようにして重畳制御が開始された後、重畳制御タイミング判定手段301は、重畳制御見直しタイミング記憶手段306に記憶されている重畳制御見直しタイミングα2の成否を判定する。重畳制御見直しタイミングは、例えば、重畳制御開始タイミングα1から所定時間幅の点火状況監視期間txが経過したタイミングとし、点火コイル20の放電電極間に生じた火花放電の放電経路がシリンダ内のタンブル流によって膨らんでいると推測されるか否かを見極めるタイミングとして用いる。なお、適切な時間幅の点火状況監視期間txは、内燃機関の特性や動作環境によって変化するので、例えば、外部からの重畳制御見直しタイミング設定信号によって重畳制御見直しタイミング記憶手段306の記憶内容を任意に変更できるようにしておけば、利便性が高い。
重畳制御タイミング判定手段306は、重畳制御見直しタイミングα2が成立するまで(点火状況監視期間txが経過するまで)の期間、主一次コイル電圧検出手段により検出された主一次コイル電圧の変化を監視し、点火プラグ20に発生した火花放電の膨らんだ放電経路を維持し難い状態として定めた二次電流加算条件、または、点火プラグ20に発生した火花放電の放電経路を膨らませ難い状態として定めた二次電流低減条件の成否を判定する。そして、二次電流加算条件が成立していた場合、重畳制御タイミング判定手段301は副一次コイル制御手段307へ重畳増加制御を指示する。二次電流低減条件が成立していた場合、重畳制御タイミング判定手段301は副一次コイル制御手段307へ重畳低減制御を指示する。なお、二次電流加算条件および二次電流低減条件の何れも成立していなかった場合には、重畳制御タイミング判定手段301から副一次コイル制御手段307への指示は行わない。
まず、主一次コイル電圧の変化が二次電流加算条件を満たしていると重畳制御タイミング判定手段306が判定した場合について説明する。
二次電流加算条件の一例は、前述したように、主一次コイル電圧の絶対値が指標電圧値を超えて上昇したにもかかわらず、再び指標電圧値を下回るほど低下した状態と考えられる吹き消え波形が、点火状況監視期間tx中に所定回数(例えば、1回)以上生じていることである。無論、第2実施形態の内燃機関用点火装置2においても、二次電流加算条件は本例に限定されず、内燃機関の特性等に応じて、適宜な二次電流加算条件を任意に設定して構わない。例えば、点火状況監視期間txの初期に吹き消え波形が検出されていても、重畳制御見直しタイミングα2においては、指標電圧値を大きく超える高電圧に上昇していた場合、点火プラグ20の電極間に生じた火花放電に吹き消えが生ずることなく大きく膨らんでいる状態と推定できるので、このような場合にまで二次電流を増加させる必要は無いことから、これを二次電流加算条件から除外するようにしても良い。
重畳制御タイミング判定手段301が二次電流加算条件の成否を判定するために主一次コイル電圧の変化を監視している点火状況監視期間tx中は、重畳制御判定タイミング判定手段301より重畳制御開始の指示を受けた副一次コイル制御手段307が、設定二次電流値記憶手段304に記憶されている設定二次電流値の二次電流に保たれるように、副一次コイル通電信号Sb2のデューティ比を調節するPWM制御を行う。例えば、設定二次電流値記憶手段304に記憶されている設定二次電流値が第1電流値であれば、副一次コイル制御手段307は、二次電流検出手段からの二次電流検出信号より得られる実際の二次電流値を第1電流値に近づけるべく、副一次コイル111bに生じさせる重畳磁束を適切に増減させる通電パルスを副一次コイル111bへ供給するように、副一次コイル通電信号Sb2のデューティ比を調節する第1PWM制御が行われる。
上記のように、副一次コイル制御手段307が第1PWM制御を行うことによって二次電流が第1電流値に保持されている状態で重畳制御見直しタイミングα2となり、重畳制御タイミング判定手段301が二次電流加算条件の成立を判定すると、副一次コイル制御手段307に対して重畳増加制御を指示する。これにより、副一次コイル制御手段307は、変更可能二次電流値記憶手段305から読み出した変更可能二次電流値のうち、設定二次電流値記憶手段304に記憶されている設定二次電流値(第1電流値)よりも高い二次電流値(第2電流値)を新たな設定二次電流値として設定二次電流値記憶手段304に上書きすると共に、二次電流検出手段からの二次電流検出信号より得られる実際の二次電流値を第2電流値に近づけるべく、副一次コイル111bに生じさせる重畳磁束を適切に増減させる通電パルスを副一次コイル111bへ供給するように、副一次コイル通電信号Sb2のデューティ比を調節する第2PWM制御が行われるようになる。
すなわち、重畳増加制御を行うことによって、点火状況監視期間tx中に指標としていた第1電流値よりも高い第2電流値に変更し、二次電流を第2電流値に保持する重畳制御が行われるようになると、シリンダ内に生じている強いタンブル流でも吹き消えが生じ難い程度に大きな放電電流が流れることとなる。よって、点火プラグ20の電極間に生じた火花放電に吹き消えが生ずることなく大きく膨らみ、シリンダ内で大きな火炎核を形成できるので、好適な燃焼を実現できる。
なお、第2実施形態の内燃機関用点火装置2においても、重畳制御において設定二次電流値として用いる第1電流値は、制御対象である内燃機関の標準的な稼働時に生ずる平均的なタンブル流によって吹き消えが生じないで、放電経路が十分に膨らむときの二次電流値を指標として定めれば良い。また、第2電流値は、制御対象である内燃機関の過負荷時等に生ずる強いタンブル流によって吹き消えが生じないで、放電経路が十分に膨らむときの二次電流値を指標として定めれば良い。
一方、上記のように設定二次電流値記憶手段304の設定二次電流値が第1電流値から第2電流値に変更された後に行われる点火サイクルにおいて、図7(b)の波形図に示すように、点火状況監視期間tx中に吹き消え波形が現れることなく、重畳制御見直しタイミングα2において、主一次コイル電圧が指標電圧値を大きく超える高電圧に上昇していた場合、点火プラグ20の電極間に生じた火花放電に吹き消えが生ずることなく大きく膨らんでいると考えられるので、二次電流加算条件は成立せず、重畳制御タイミング判定手段301から副一次コイル制御手段307に対して重畳増加制御が指示されることは無いので、設定二次電流値記憶手段304に記憶されている第2電流値がそのまま維持され、副一次コイル制御手段307によって二次電流を第2電流値に保持する第2PWM制御が引き続き行われる。
また、本実施形態の内燃機関用点火装置2においても、重畳制御手段32により行う重畳制御の終了タイミングは任意である。例えば、主一次コイル電圧が予め定めた重畳停止基準電圧値にまで下がったタイミングを重畳制御終了タイミングβとし、この重畳制御終了タイミングβになると、重畳制御タイミング判定手段301が副一次コイル制御手段307への重畳制御指示を停止(或いは、重畳制御終了指示を出力)することで、副一次コイル制御手段307による副一次コイル通電許可信号Sb1および副一次コイル通電信号Sb2の出力を止め、副一次コイル111bによる重畳磁束が二次コイル112に作用させなくすることで二次電流重畳機能を停止させることができる。また、点火タイミングIGから計時した経過時間が、安定した燃焼維持に必要十分な高電流期間として定めた高電流保持時間に達したときを重畳制御終了タイミングβに設定し、重畳制御を終了するようにしても良い。
次いで、主一次コイル電圧の変化が二次電流低減条件を満たしていると重畳制御タイミング判定手段306が判定した場合について説明する。
二次電流低減条件の一例は、図8(a)に示すように、点火状況監視期間tx中に一度も指標電圧値を超える電圧上昇が認められない短経路保持波形になっていることであり、この二次電流低減条件の成否を判定するために、重畳制御タイミング判定手段301は、点火状況監視期間tx中、主一次コイル電圧の変化を監視している。また、重畳制御判定タイミング判定手段301より重畳制御開始の指示を受けた副一次コイル制御手段307は、設定二次電流値記憶手段304に記憶されている設定二次電流値が第2電流値であれば、二次電流検出手段からの二次電流検出信号より得られる実際の二次電流値を第2電流値に近づけるべく、副一次コイル111bに生じさせる重畳磁束を適切に増減させる通電パルスを副一次コイル111bへ供給するように、副一次コイル通電信号Sb2のデューティ比を調節する第2PWM制御が行われる。
上記のように、副一次コイル制御手段307による第2PWM制御によって二次電流が第2電流値に保持されている状態で重畳制御見直しタイミングα2となり、重畳制御タイミング判定手段301が二次電流低減条件の成立を判定すると、副一次コイル制御手段307に対して重畳低減制御を指示する。これにより、副一次コイル制御手段307は、変更可能二次電流値記憶手段305から読み出した変更可能二次電流値のうち、設定二次電流値記憶手段304に記憶されている設定二次電流値(第2電流値)よりも低い二次電流値(第1電流値)を新たな設定二次電流値として設定二次電流値記憶手段304に上書きすると共に、二次電流検出手段からの二次電流検出信号より得られる実際の二次電流値を第1電流値に近づけるべく、副一次コイル111bに生じさせる重畳磁束を適切に増減させる通電パルスを副一次コイル111bへ供給するように、副一次コイル通電信号Sb2のデューティ比を調節する第1PWM制御が行われるようになる。
すなわち、重畳低減制御を行うことによって、点火状況監視期間tx中に指標としていた第2電流値よりも低い第1電流値に変更し、二次電流を第1電流値に保持する重畳制御が行われるようになると、シリンダ内に生じている弱いタンブル流でも放電経路が大きく膨らみ、かつ吹き消えが生じない程度の放電電流が流れることとなる。よって、点火プラグ20の電極間に生じた火花放電に吹き消えが生ずることなく大きく膨らみ、シリンダ内で大きな火炎核を形成できるので、好適な燃焼を実現できる。
一方、上記のように設定二次電流値記憶手段304の設定二次電流値が第2電流値から第2電流値に変更された後に行われる点火サイクルにおいて、図8(b)の波形図に示すように、点火状況監視期間tx中に吹き消え波形も短経路保持波形も現れることなく、重畳制御見直しタイミングα2において、主一次コイル電圧が指標電圧値を大きく超える高電圧に上昇していた場合、点火プラグ20の電極間に生じた火花放電に吹き消えが生ずることなく大きく膨らんでいると考えられるので、二次電流低減条件も二次電流増加条件も成立せず、重畳制御タイミング判定手段301から副一次コイル制御手段307に対して重畳低減制御および重畳増加制御が指示されることは無いので、設定二次電流値記憶手段304に記憶されている第1電流値がそのまま維持され、副一次コイル制御手段301による第1PWM制御が引き続き行われる。そして、重畳制御終了タイミングβになると、二次電流を第1電流値に保持する重畳制御が終了する。
上述したように、第2実施形態に係る内燃機関用点火装置2における重畳制御手段32では、重畳制御を開始した後、重畳制御見直しタイミングα2において、二次電流増加条件と二次電流低減条件の成否に基づき、重畳増加制御あるいは重畳低減制御が必要か否かの判断を行い、必要に応じて重畳増加制御あるいは重畳低減制御を実行することで、点火プラグ20の電極間に生じた火花放電に吹き消えが生ずることなく大きく膨らんで、シリンダ内で大きな火炎核を形成できるようにし、好適な燃焼を実現するのである。
ただし、本実施形態の内燃機関用点火装置2においては、変更可能二次電流値記憶手段305に第1電流値と第2電流値の2種類のみ記憶させてあるので、設定二次電流値記憶手段304に記憶されている設定二次電流値が第2電流値であった場合には、たとえ二次電流増加条件が成立しても重畳増加制御を行う事はできず、同様に、設定二次電流値記憶手段304に記憶されている設定二次電流値が第1電流値であった場合には、二次電流低減条件が成立しても重畳低減制御を行う事はできない。すなわち、本実施形態に係る内燃機関用点火装置2では、設定二次電流値に応じて、重畳増加制御または重畳低減制御の何れか一方の制御を行う事しかできない。
しかしながら、変更可能二次電流値記憶手段305に3種類以上(例えば、第1電流値、第2電流値、第3電流値の3種類で、第1電流値<第2電流値<第3電流値)を記憶させておけば、より細かく重畳増加制御と重畳低減制御を行う事ができる上に、設定二次電流値記憶手段304に記憶されている設定二次電流値が上限電流値(第3電流値)でも下限電流値(第1電流値)でもない中間電流値(第2電流値)であれば、二次電流増加条件が成立すると重畳増加制御を行う事ができ、二次電流低減条件が成立すると重畳低減制御を行う事ができる。すなわち、変更可能二次電流値記憶手段305に3種類以上を記憶させ、副一次コイル制御手段307が3種類以上の電流値に二次電流を保持できるPWM制御を行える構成とすれば、成立条件に応じて、重畳増加制御および重畳低減制御のどちらの制御でも行える場合がある。
また、上述した第2実施形態の内燃機関用点火装置2のように、二次電流増加条件と二次電流低減条件の成否を点火サイクル内で判断し、同じサイクル内で補正するために重畳増加制御あるいは重畳低減制御を行えば、点火サイクル毎のバラツキを無くして、安定した燃焼を実現できるのであるが、必ずしも同一サイクル内で二次電流増加条件と二次電流低減条件の成否を判断する必要は無い。例えば、気筒内の燃焼に支障が出るほどではないものの吹き消えの発生傾向が認められる点火サイクルが所定回数続いた場合には、二次電流増加条件が成立したものとして重畳増加制御を行い、気筒内の燃焼に支障が出るほどではないものの短経路保持傾向が認められる点火サイクルが所定回数続いた場合には、二次電流低減条件が成立したものとして重畳低減制御を行うようにしても良い。
以上、本発明に係る内燃機関用点火装置の実施形態を添付図面に基づいて説明したが、本発明は、これらの実施形態のみに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の構成を変更しない範囲で、公知既存の等価な技術手段を転用することにより実施しても構わない。