次に、本発明に係る内燃機関用点火装置の実施形態を、添付図面に基づいて詳細に説明する。
図1に示すのは、本発明の第1実施形態に係る内燃機関用点火装置1であり、内燃機関の気筒毎に設けられる1つの点火プラグ20に火花放電を発生させる点火コイルユニット10Aと、この点火コイルユニット10Aの動作タイミングを指示する点火信号Si等を適宜なタイミングで出力する点火制御手段としての内燃機関駆動制御装置30A、車両バッテリ等の直流電源40、点火プラグ20に火花放電が生じることで点火コイルの二次側を流れる二次電流に、更に電流を重ねて流す二次電流重ね手段50等で構成される。この二次電流重ね手段50は、点火コイルユニット10Aが備える点火コイル11Aの二次側へ重畳的にエネルギを加算して放電エネルギを増大させることが可能な放電エネルギ重畳手段として機能する。
なお、本実施形態に示す内燃機関用点火装置1においては、点火制御手段としての機能が、自動車の内燃機関を統括的に制御する内燃機関駆動制御装置30Aに含まれるものとしたが、これに限定されるものではない。例えば、ECUといった通常の内燃機関駆動制御装置30Aが有している点火信号生成機能によって生成された点火信号を受けて、適宜な制御信号を生成し、点火コイルユニット10Aや二次電流重ね手段50へ制御信号を出力する点火制御装置を別途設けるようにしても構わない。
上記点火コイルユニット10Aは、例えば、点火コイル11A、点火スイッチ12A、点火スイッチ12Aと並列に設けるバイパス線路13、このバイパス線路13に設ける整流手段14等を所要形状のケース15に収納して一体構造としたユニットである。このケース15の適所には、高圧端子151とコネクタ152を設けてあり、高圧端子151を介して点火プラグ20を接続すると共に、コネクタ152を介して内燃機関駆動制御装置30Aや直流電源40と接続する。
上記点火コイル11Aは、一次コイル111に生ずる磁束を二次コイル112に効率良く作用させるもので、例えば、センターコア113を取り巻くように一次コイル111を配置し、更にその外側に二次コイル112を配置した構造である。一次コイル111の一方端である第1端111-1は、コネクタ152を介して直流電源40と接続され、電源電圧VB+(例えば、12V)が印加される。一次コイル111の他方端である第2端111-2は点火スイッチ12Aのコレクタに接続され、点火スイッチ12Aのエミッタはコネクタ152を介して接地点GNDに接続される。
そして、放電サイクルの適宜なタイミングで内燃機関駆動制御装置30Aより出力される点火信号Siが点火スイッチ12Aのゲートに入力されると(例えば、点火信号Siの信号レベルがLからHに変わると)、点火スイッチ12Aがオンになって一次コイル111の第2端111-2が接地点GNDに接続され、一次コイル111には第1端111-1から第2端111-2に向かう一次電流I1が流れ始め、一次電流I1の流量は指数関数的に増加してゆく。この一次電流I1の流量に応じた磁束量が磁界のエネルギとして蓄積される。なお、点火コイル11Aの二次側には、二次コイル112や接続配線等の微少なコンデンサ成分により電気エネルギが蓄積される。
上記のようにエネルギが蓄積された後、一次コイル111への通電が所定の点火タイミングで遮断されると、高圧の起電力が二次コイル112に生じて点火プラグ20の放電ギャップ間に火花放電が発生し、気筒燃焼室内の混合気に着火する。このとき、一次コイル111には、通常の一次電流I1とは逆向きの電流を流そうとする逆方向の電圧が生ずるので、この逆起電力が点火スイッチ12Aのコレクタ-エミッタ間に印加されることとなり、点火スイッチ12Aが故障したり、点火スイッチ12Aの劣化を早めたりする危険性がある。そこで、点火スイッチ12Aと並列にバイパス線路13を設けると共に、このバイパス線路13の接地点側から点火コイル11A側に向かって順方向となる整流手段14(例えば、点火スイッチ12Aのコレクタ側にカソードを、点火スイッチ12Aのエミッタ側にアノードをそれぞれ接続したダイオード)を設けたのである。
上記点火プラグ20の放電電極間に火花放電が生じて二次側に流れる二次電流I2は、気筒内の燃焼状況を知るための情報として有用であるから、二次電流I2を検出するための二次電流検知手段を設けても良い。この二次電流検出手段は、例えば、二次電流重ね手段50と接地点GNDとの間の二次電流経路に介挿した適宜な抵抗値の電流検出用抵抗61と、この電流検出用抵抗61による電圧変化を二次電流の検出情報(二次電流検出信号)として取得する二次電流検出ライン62とで構成できる。そして、二次電流検出ライン62より得られる二次電流検出信号は内燃機関駆動制御装置30Aへ供給され、この二次電流検出信号に基づいて内燃機関駆動制御装置30Aは二次電流値を知ることができる。
また、点火プラグ20に高電圧を印加する二次コイル112に発生している電圧(以下、二次コイル電圧という)も、燃焼状況を知るための情報として有用であるから、例えば、高圧端子151と二次コイル112との間に設定した検知点Pspにて二次コイル電圧情報を取得すれば良いのであるが、二次コイル電圧は数kV~数十kVに及ぶ高電圧であるために、分圧抵抗を設けることに依るリークの発生といった諸問題に配慮が必要であり、検知点Pspで二次コイル電圧の監視を行うことは現実的ではない。
しかしながら、点火プラグ20の放電時には、一次コイル111と二次コイル112との巻数比に応じた電圧が一次コイル111にも発生しており、一次コイル111に発生している電圧(以下、一次コイル電圧という)であれば、比較的低い電圧値であることから、監視のための難易度が低い。ただし、一次コイル電圧と二次コイル電圧は、電圧値のスケールが異なると共に、互いに逆極性となる。この相違点を踏まえておけば、一次コイル電圧を二次コイル電圧の相関情報として扱うことができる。
そこで、本実施形態に係る内燃機関用点火装置1の点火コイルユニット10Aにおいては、一次コイル低圧側の電圧を検出する一次コイル電圧検出手段として、一次コイル111の第2端111-2とバイパス線路13の分岐点との間から一次コイル電圧検出ライン16を引き出し、コネクタ152を介して内燃機関駆動制御装置30Aへ一次コイル電圧信号を入力するものとした。
内燃機関駆動制御装置30Aでは、一次コイル電圧信号に基づいて二次コイル電圧を推定することにより、点火プラグ20への印加電圧の変化を知ることが可能となるので、内燃機関駆動制御装置30Aが二次電流重ね手段50による二次電流の重畳制御を行うことで、着火性を向上させることが可能となる。この二次電流重ね手段50を用いた重畳制御は、例えば、内燃機関駆動制御装置30Aに設けた重畳制御手段31の機能によって実行する。また、二次電流重ね手段50の電流源としては、車両バッテリ等の直流電源40を用いることができる。
本実施形態にかかる内燃機関用点火装置1では、重畳制御手段31によって、二次側に放電エネルギを重畳することで、着火性を向上させ、その後、重畳制御変更タイミングになったとき、重畳低減条件が成立していれば、二次電流を第1電流値よりも低くする第2重畳制御へ変更することで、点火のための消費電力を適切化して燃費の悪化を低減するものである。しかしながら、直噴エンジンや高EGRエンジンでの着火性を向上させるためには、二次側に放電エネルギを与えて高電流期間を長くするだけでは十分とは言えず、点火プラグの放電電流によって大きな火炎を形成することも重要である。
通常のエンジンでは、シリンダ内に生じるタンブル流の流速が3~5〔m/s〕程度なのに対して、超希薄リーン燃焼(A/F=29)やEGR=35%で燃焼させようとするエンジンでは、シリンダ内に生じるタンブル流の流速が20〔m/s〕程度に増大することで、点火プラグ20の放電電極間に発生した火花放電はタンブル流に流されて膨らみ、放電経路が伸びる。点火プラグ20の放電電極間に発生した火花放電の放電経路が伸びると、それだけ大きな火炎核が形成されて火炎伝搬も良好となり、着火性を向上させることができる。だが、点火プラグ20の放電電極間に発生した火花放電の放電経路が伸びても、十分な放電電流が流れないと、その放電経路を維持できず、点火プラグの電極間を短経路で結ぶ新たな放電経路が生じるリストライク(放電吹き消え)を起こしてしまい、十分な大きさの火炎核を形成できない。
よって、直噴エンジンや高EGRエンジンでの着火性を向上させるためには、点火プラグに発生した火花放電のリストライクを防止することも重要である。また、シリンダ内に生じるタンブル流は一定ではなく、点火プラグ20の放電電極間に発生した火花放電の放電経路を膨らませるほどの流速に達しない場合もある。そのような場合にも、火花放電の放電経路が伸びるように放電電流を調整できれば、一層、着火性を向上させることができる。本実施形態にかかる内燃機関用点火装置1においては、このようなタンブル流の流速を考慮して重畳制御を行う重畳制御手段31を備えるものとした。
重畳制御手段31の一例を図2に示す。重畳制御手段31には、重畳制御の開始・変更や終了のタイミングを判定する重畳制御タイミング判定手段301と、この重畳制御タイミング判定手段301が重畳制御開始タイミングを判定するための情報として用いる重畳制御開始条件(後に詳述)を記憶している重畳制御開始条件記憶手段302と、重畳制御開始に伴って二次電流重ね手段50を動作制御するための二次電流重ね制御信号Spを生成して出力する二次電流重ね制御信号生成手段303と、点火コイル二次側に流す二次電流の目標値として使用できる複数の電流値(例えば、第1電流値と第2電流値の2種類)を記憶しておく変更可能二次電流値記憶手段304と、重畳制御開始条件が成立して重畳制御を開始した後に成立する重畳制御変更タイミングを記憶しておく重畳制御変更タイミング記憶手段305と、を設ける。
重畳制御タイミング判定手段301には、点火信号Siと一次コイル電圧信号と重畳制御開始条件記憶手段302からの重畳制御開始条件が供給されており、点火信号SiがONからOFFとなる点火タイミングIG以降に、重畳制御開始条件を満たす重畳制御開始タイミングα1の成立を判定する。例えば、図3(a)の波形図に示すように、一次電流遮断による点火タイミングIGで容量放電エネルギ(二次側に蓄積された電気エネルギ)が消費されて一次電圧が急激に高く(図3(a)の一次コイル電圧波形においては負極に大きく)なり、短時間で低下して(図3(a)の一次コイル電圧波形においては正極側へ戻って)行き、予め定めた指標値電圧に達したタイミングを重畳制御開始タイミングα1と判定する。なお、重畳制御のために一次コイル電圧の変化に着目する場合、基準電位に対する極性を考慮する必要が無いので、波形電圧の絶対値を電圧値として値の増減を判定するものとし、併せて、重畳制御開始条件も正の値として設定しておけば良い。
また、重畳制御開始条件は、放電開始から早期に成立する条件であれば、任意に設定して良く、例えば、容量放電と看做し得る所定期間(例えば、数十μs)が経過して誘導放電へ移行したと看做し得る状態になったことを重畳制御開始条件とする場合には、放電タイミングIGから所定期間の経過を重畳制御開始条件記憶手段302に記憶させておくことで、重畳制御タイミング判定手段301は重畳制御開始条件記憶手段302から取得した重畳制御開始条件を用いた重畳制御開始タイミングの判定を行い、二次電流重ね制御信号生成手段303へ二次電流重ね制御信号の生成開始を指示することができる。なお、重畳制御開始条件記憶手段302に記憶させる重畳制御開始条件は、外部から重畳制御開始条件設定信号を入力することで任意に変更できるようにしておくと、内燃機関の特性に応じて柔軟に重畳制御開始条件を設定できるので、利便性を高めることができる。
重畳制御タイミング判定手段301が重畳制御開始タイミングα1と判定し、二次電流重ね制御信号生成手段303に第1重畳制御開始指示を出すと、二次電流重ね制御信号生成手段303は二次電流重ね制御信号Spを生成して二次電流重ね手段50へ出力し、二次電流重ね手段50によって二次電流が重畳される(図3(a)の二次電流波形中、網掛けで示す領域を参照)。なお、何らかの要因(故障や断線等)により、放電タイミングIG以降に重畳制御開始条件の成立を重畳制御タイミング判定手段301が判定できなかった場合には、重畳制御が開始されることは無い。
ここで、二次電流重ね信号Spは、保持する二次電流値を二次電流重ね手段50へ指示するために、例えば、2つの信号レベルをとる。変更可能二次電流値記憶手段304に記憶されている第1重畳制御用の第1電流値を二次電流重ね手段50へ指示する場合には、二次電流重ね制御信号生成手段303が生成する二次電流重ね制御信号Spの電位をLev1とする。この二次電流重ね制御信号Spを受けた二次電流重ね手段50は、その電位レベルから目標とする二次電流値が第1電流値であると分かり、点火コイル二次側を流れる二次電流が第1電流値を保持するように、二次電流重ね手段50による二次電流の重ね動作が行われる。
同様に、変更可能二次電流値記憶手段304に記憶されている第2重畳制御用の第2電流値を二次電流重ね手段50へ指示する場合には、二次電流重ね制御信号生成手段303が生成する二次電流重ね制御信号Spの電位をLev2とする。この二次電流重ね制御信号Spを受けた二次電流重ね手段50は、その電位レベルから目標とする二次電流値が第2電流値であると分かり、点火コイル二次側を流れる二次電流が第2電流値を保持するように、二次電流重ね手段50による二次電流の重ね動作が行われる。
なお、重畳制御手段31から二次電流重ね手段50への指示は、それぞれの電流値に応じた電位レベルで二次電流重ね制御信号Spを生成するものに限らない。例えば、内燃機関駆動制御装置30Aから二次電流重ね手段50へ至る信号線を物理的に分けておき、二次電流重ね制御信号Spを出力した信号線に応じて、第1電流値か第2電流値かを二次電流重ね手段50へ指示するようにしても良い。
上記のようにして重畳制御が開始された後、重畳制御タイミング判定手段301は、重畳制御変更タイミング記憶手段305に記憶されている重畳制御変更タイミングα2の成否を判定する。重畳制御変更タイミングは、例えば、重畳制御開始タイミングα1から所定時間幅の点火状況監視期間txが経過したタイミングとし、点火コイル20の放電電極間に生じた火花放電の放電経路がシリンダ内のタンブル流によって膨らんでいると推測されるか否かを見極めるタイミングとして用いる。
なお、適切な時間幅の点火状況監視期間txは、内燃機関の特性や動作環境によって変化するので、例えば、外部からの重畳制御変更タイミング設定信号によって重畳制御変更タイミング記憶手段305の記憶内容を任意に変更できるようにしておけば、利便性が高い。また、変更可能二次電流値記憶手段304に記憶させておく第1重畳制御用の第1電流値と第2重畳制御用の第2電流値も、内燃機関の特性や動作環境によって変化するので、例えば、外部からの変更可能二次電流値設定信号によって変更可能二次電流値記憶手段304の記憶内容を任意に変更できるようにしておけば、利便性が高い。
重畳制御タイミング判定手段301は、重畳制御変更タイミングα2が成立するまで(点火状況監視期間txが経過するまで)の期間、一次コイル電圧検出手段により検出された一次コイル電圧の変化を監視する。点火プラグ20の放電電極間に発生した火花放電の放電経路が膨らまずに短経路が保持されていると想定される一次コイル電圧の変化である短経路保持状態(例えば、一次コイル電圧が指標電圧値に達しない低電圧で推移している状態)が継続していたことを重畳低減条件とし、この重畳低減条件が成立していた場合、重畳制御タイミング判定手段301は二次電流重ね制御信号生成手段303へ第2重畳制御への変更を指示する。
これにより、二次電流重ね制御信号生成手段303は、変更可能二次電流値記憶手段304に記憶されている第2重畳制御用の第2電流値を二次電流重ね手段50へ指示するべく、二次電流重ね制御信号Spの信号電位をLev1からLev2に変更し(図3(a)における二次電流重ね制御信号Sp波形を参照)、二次電流が第1電流値から第2電流値へ低減される(図3(a)における二次電流波形を参照)。なお、二次電流検出信号を二次電流重ね制御信号生成手段303へ供給しておけば(図2中、破線で示す)、二次電流重ね手段50を用いた重畳制御が適正に行われているか否かを二次電流重ね制御信号生成手段303で判定できる。重畳制御が適正に行われていないと判定した場合、例えば、その旨を報知して異常を搭乗者に知らせると共に、重畳制御を一旦中止すれば、二次電流重ね手段50が無意味に電力消費することを抑制できる。
このように、点火状況監視期間tx中に一度も指標電圧値を超える電圧上昇が認められない短経路保持波形が示すのは、点火プラグ20の放電電極間に生じた火花放電がタンブル流によって伸ばされず、短経路の放電電流が保持されているために電圧上昇が生じていない状態、すなわち、シリンダ内で点火プラグ20の電極間に作用しているタンブル流の流速に対して放電電流(二次電流)が強すぎる状態と考えられるから、このときに生じているタンブル流で火花放電の経路が良く伸びるように二次電流を低減させる第2重畳制御へ変更することが、安定燃焼の実現に有効である。
なお、重畳制御手段31により行う重畳制御の終了タイミングは任意である。例えば、点火タイミングIGから計時した経過時間が、安定した燃焼維持に必要十分な放電時間に達したときを重畳制御終了タイミングβに設定し、第2重畳制御を終了するようにしても良い。或いは、一次コイル電圧が予め定めた重畳停止基準電圧値にまで下がったタイミングを重畳制御終了タイミングβとし、この重畳制御終了タイミングβになると、重畳制御タイミング判定手段301が二次電流重ね制御信号生成手段303への重畳制御指示を停止(或いは、重畳制御終了指示を出力)することで、二次電流重ね制御信号生成手段303からの二次電流重ね制御信号Spを停止させ(例えば、信号電位をOFFにし)、二次電流重ね手段50による二次電流重畳機能を停止させてもよい。
また、二次電流を第1電流値から第2電流値へ低減させる第2重畳制御は、第1電流値から第2電流値へ急速に低減させる制御に限らず、重畳制御終了タイミングβへ至るまで徐々に二次電流を低減させて行くようにしても良い(図3(a)の二次電流波形中、一点鎖線で示す)。
一方、図3(b)の波形図に示すように、点火状況監視期間tx中に短経路保持波形が維持されることなく、重畳制御変更タイミングα2において、一次コイル電圧が指標電圧値を大きく超える高電圧に上昇していた場合、点火プラグ20の電極間に生じた火花放電が大きく膨らんでいると考えられるので、重畳低減条件は成立せず、重畳制御タイミング判定手段301から二次電流重ね制御信号生成手段303に対して第2重畳制御への変更が指示されることは無いので、二次電流重ね制御信号Spの信号電位はLev1が維持され(図3(b)における二次電流重ね制御信号Sp波形を参照)、二次電流も第1電流値に保持されたままとなる(図3(b)における二次電流波形を参照)。
上述したように、第1実施形態にかかる内燃機関用点火装置1では、第1重畳制御を行う事で点火プラグ20の放電電極間に発生した火花放電に吹き消えが生じないよう、点火コイル二次側へ放電エネルギを重畳しておき、重畳制御変更タイミングにおいて重畳低減条件が成立していた場合には、第1重畳制御から第2重畳制御に変更して点火コイル二次側へ重畳する放電エネルギを低減させ、点火プラグ20の電極間に生じた火花放電が大きく膨らむようにするので、着火性を向上させることができると共に、点火のための消費電力を適切化して燃費の悪化を低減できる。
上述した第1実施形態に係る内燃機関用点火装置1では、点火コイル11Aの二次側を流れる二次電流を直接コントロールできる二次電流重ね手段50を放電エネルギ重畳手段として用いるものとしたが、放電エネルギ重畳手段はこれに限定されるものではない。例えば、図4に示す第2実施形態に係る内燃機関用点火装置2のように、点火タイミングIG以降に点火コイルの一次側から二次側へ誘導性の放電エネルギを重畳することで、点火プラグ20に発生した火花放電による着火性を向上させる構成とすることもできる。
図4に示す内燃機関用点火装置2は、第1実施形態に係る内燃機関用点火装置1と異なり、点火コイル11Bを設けた点火コイルユニット10Bと、この点火コイルユニット10Bに対応した駆動制御機能を有する内燃機関駆動制御装置30B、点火コイル11Bの点火制御を行うための副一次コイル通電許可スイッチ71および副一次コイル通電スイッチ72を有する。また、内燃機関駆動制御装置30Bは、点火コイル11Bを制御することで二次側へ放電エネルギを重畳する重畳制御手段32を備える。なお、前述した第1実施形態に係る内燃機関用点火装置1と同一の構成については、同一符号を付して説明を省略する。
上記点火コイルユニット10Bの点火コイル11Bは、主一次コイル111a(例えば、90ターン)と副一次コイル111b(例えば、60ターン)に生ずる磁束を二次コイル112(例えば、9000ターン)に効率良く作用させるもので、例えば、センターコア113を取り巻くように主一次コイル111aおよび副一次コイル111bを配置し、更にその外側に二次コイル112を配置した構造である。
まず、主一次コイル111aは、その一方端である第1端111a-1がコネクタ152を介して直流電源40と接続され、電源電圧VB+(例えば、12V)が印加される。また、主一次コイル111aの他方端である第2端111a-2は、主点火スイッチ12Bのコレクタに接続され、さらに、この主点火スイッチ12Bのエミッタはコネクタ152を介して接地点GNDに接続される。すなわち、内燃機関駆動制御装置30Bより出力される主一次コイル点火信号Saが主点火スイッチ12Bのゲートに入力されると(例えば、主一次コイル点火信号Saの信号レベルがLからHに変わると)、主点火スイッチ12Bがオンになって主一次コイル111aの第2端111a-2が接地点GNDに接続され、主一次コイル111aには第1端111a-1から第2端111a-2に向かう主一次電流I1aが流れて、順方向の磁束(通電磁束)が発生する。
そして、内燃機関駆動制御装置30Bより出力される主一次コイル点火信号SaがOFFになると(例えば、主一次コイル点火信号Saの信号レベルがHからLに変わると)、主点火スイッチ12Bがオフになって、主一次コイル111aへの通電が遮断される。これにより、容量成分による放電エネルギが二次コイル112に与えられて、点火プラグ20の放電電極間に火花放電が生じると共に、センターコア113を介して二次コイル112にも作用している通電磁束が急激に消失してゆく。この通電磁束の減衰は、見かけ上、通電磁束と逆向きの磁束(以下、遮断磁束という)が生じて通電磁束を減じてゆくものと捉えられる。すなわち、主点火コイル111aへの通電遮断により生じた遮断磁束で通電磁束の磁束量が減ぜられ、その磁束量の変化が一次側と二次側の巻線比に応じた高圧の起電力を二次コイル112に生じさせるので、点火コイル11Bの二次側に誘導成分による放電エネルギが与えられる。
一方、上記主一次コイル111aと同様に、鉄心113を介して二次コイル112に磁界を作用させることが可能な副一次コイル111bは、その一方端である第1端111b-1がコネクタ152を介して副一次コイル通電スイッチ72と接続され、他方端である第2端111b-2がコネクタ152を介して副一次コイル通電許可スイッチ71と接続される。そして、内燃機関駆動制御装置30Bにより副一次コイル通電許可スイッチ71および副一次コイル通電スイッチ72のオン・オフが制御されて、副一次コイル111bの第1端111b-1側が直流電源40に、第2端111b-2側が接地点GNDにそれぞれ接続されると、副一次コイル111bには第1端111b-1から第2端111b-2に向かう重畳電流I1bが流れる。
副一次コイル111bに重畳電流I1bが流れると、直流電源40から主一次コイル111aへ通電したときに発生する通電磁束とは逆方向(主一次コイル111aへの通電遮断時に仮想的に生じる遮断磁束と同方向)の重畳磁束が発生する。すなわち、主一次コイル111aへの通電遮断タイミング以降に、重畳電流I1bを副一次コイル111bに流すと、遮断磁束に重畳磁束が加わることで、通電磁束の減衰が加速されることとなり、二次コイル112に誘起される誘導放電エネルギを重畳的に増加させることができる。従って、点火コイル11Bを用いる第2実施形態の内燃機関用点火装置2においては、副一次コイル111bと、この副一次コイル111bへの通電・遮断制御を行う副一次コイル通電許可スイッチ71および副一次コイル通電スイッチ72が、点火コイル11Bの二次側へ重畳的にエネルギを加算して放電エネルギを増大させることが可能な放電エネルギ重畳手段として機能するのである。
このように、副一次コイル111bによって重畳磁束を発生させて二次側の誘導放電エネルギを調整すれば、二次電流の電流値をコントロールすることができるので、二次電流を高めてやれば、点火プラグ20の放電電極間に生じた火花放電の放電経路がタンブル流によって吹き消されることなく大きく膨らみ、大きな火炎核を形成して、好適な燃焼を実現できる。なお、通電磁束と重畳磁束の向きを逆にする(重畳磁束を遮断磁束と同じ向きにする)ためには、主一次コイル111aと副一次コイル111bの巻回方向を逆向きにするか、主一次コイル111aへの給電方向と副一次コイル111bへの給電方向を逆向きにしておけば良い。
上述した点火コイル11Bの通電制御に用いる副一次コイル通電許可スイッチ71および副一次コイル通電スイッチ72は、それぞれ別々に設けるようにしても良いし、点火コイルユニット10Bとは別体として設ける副一次コイル通電許可スイッチ71および副一次コイル通電スイッチ72を同一のケースに収納したユニット構造としても良い。また、耐電圧および耐ノイズ性の高い半導体デバイスを副一次コイル通電許可スイッチ71および副一次コイル通電スイッチ72として用いるなら、点火コイルユニット10Bのケース15内に設けるようにしても良い。
副一次コイル通電許可スイッチ71は、高速スイッチング特性を備えるパワーMOS-FETで構成でき、副一次コイル通電許可スイッチ71のソースが副一次コイル111bの第2端111b-2側に、副一次コイル通電許可スイッチ71のドレインが接地点GND側に接続され、副一次コイル通電許可スイッチ71のゲートには、内燃機関駆動制御装置30Bの重畳制御手段32より副一次コイル通電許可信号Sb1が入力される。したがって、副一次コイル通電許可信号Sb1がオン(例えば、信号レベルがLからH)になると、副一次コイル通電許可スイッチ71がオンになり、副一次コイル111bの第2端111b-2が接地点GNDに接続されることとなる。
なお、上記副一次コイル通電許可スイッチ71のドレインと接地点GNDの間の副一次電流経路には、適宜な抵抗値の電流検出用抵抗81を介挿してあり、この電流検出用抵抗81による電圧変化を検知する副一次電圧検出ライン82と電流検出用抵抗81とによって、副一次電流検出手段を構成する。副一次電圧検出ライン82より得られる副一次電流検出信号は、内燃機関駆動制御装置30Bへ供給され、この副一次電流検出信号に基づいて重畳制御手段32は副一次コイル111bに流れる副一次電流を知ることができる。
また、副一次コイル通電スイッチ72もパワーMOS-FETで構成でき、副一次コイル通電スイッチ72のドレインが直流電源40側に、副一次コイル通電スイッチ72のソースが副一次コイル111bの第1端111b-1側に接続され、副一次コイル通電スイッチ72のゲートには、重畳制御手段32より副一次コイル通電信号Sb2が入力される。したがって、副一次コイル通電信号Sb2がオン(例えば、信号レベルがLからH)になると、副一次コイル通電スイッチ72がオンになり、副一次コイル111bの第1端111b-1に直流電源40から電源電圧VB+が印加されることとなる。なお、昇圧電源回路73(図4中、二点鎖線で示す)を設け、直流電源40からの電源電圧VB+を昇圧して副一次コイル111bへ供給できるようにしても良い。斯くすれば、副一次コイル111bに印加する電圧を高くして、副一次コイル111bに流す重畳電流I1bを大きくできるので、副一次コイル111bから二次コイル112へ、より大きなエネルギを重畳することが可能となる。
重畳制御手段32によって副一次コイル111bへの通電制御を行うに際し、二次コイル電圧の相関情報として、主一次コイル111aに生ずる電圧(以下、主一次コイル電圧という)を用いる。そのため、本実施形態に係る内燃機関用点火装置2の点火コイルユニット10Bにおいては、主一次コイル低圧側の電圧を検出する主一次コイル電圧検出手段として、主一次コイル111aの第2端111a-2とバイパス線路13の分岐点との間から主一次コイル電圧検出ライン17を引き出し、コネクタ152を介して内燃機関駆動制御装置30Bの重畳制御手段32へ主一次コイル電圧信号を入力するものとした。
重畳制御手段32の一例を図5に示す。重畳制御手段32には、重畳制御の開始・変更や終了のタイミングを判定する重畳制御タイミング判定手段301と、この重畳制御タイミング判定手段301が重畳制御開始タイミングを判定するための情報として用いる重畳制御開始条件を記憶している重畳制御開始条件記憶手段302と、重畳制御開始に伴って副一次コイル通電許可スイッチ71と副一次コイル通電スイッチ72を動作させるための副一次コイル通電許可信号Sb1と副一次コイル通電信号Sb2を生成して出力する副一次コイル制御手段306と、点火コイル二次側に流す二次電流の目標値として使用できる複数の電流値(例えば、第1電流値と第2電流値の2種類)を記憶しておく変更可能二次電流値記憶手段304と、重畳制御開始条件が成立して重畳制御を開始した後に成立する重畳制御変更タイミングを記憶しておく重畳制御変更タイミング記憶手段305と、を設ける。
重畳制御タイミング判定手段301には、点火信号Siと、主一次コイル電圧信号と、重畳制御開始条件記憶手段302からの重畳制御開始条件と、重畳制御変更タイミング記憶手段305からの重畳制御変更タイミングが供給されており、点火信号SiがONからOFFとなる点火タイミングIG以降に、重畳制御開始条件を満たす重畳制御開始タイミングの成立を判定する。例えば、図6(a)の波形図に示すように、一次電流遮断による点火タイミングIGで容量放電エネルギ(二次側に蓄積された電気エネルギ)が消費されて一次電圧が急激に高くなった後、短時間で低下して行き、指標電圧値に達したタイミングを重畳制御開始タイミングα1と判定する。無論、容量放電と看做し得る所定期間(例えば、数十μs)が経過して誘導放電へ移行したと看做し得る状態になったことを重畳制御開始条件としても良い。
また、重畳制御開始条件は、放電開始から早期に成立する条件であれば、任意に設定して良く、例えば、容量放電と看做し得る所定期間(例えば、数十μs)が経過して誘導放電へ移行したと看做し得る状態になったことを重畳制御開始条件とする場合には、放電タイミングIGから所定期間の経過を重畳制御開始条件記憶手段302に記憶させておくことで、重畳制御タイミング判定手段301は重畳制御開始条件記憶手段302から取得した重畳制御開始条件を用いた重畳制御開始タイミングの判定を行い、幅一次コイル制御手段306へ副一次コイル通電許可信号Sb1と副一次コイル通電信号Sb2の生成開始を指示することができる。なお、重畳制御開始条件記憶手段302に記憶させる重畳制御開始条件は、外部から重畳制御開始条件設定信号を入力することで任意に変更できるようにしておくと、内燃機関の特性に応じて柔軟に重畳制御開始条件を設定できるので、利便性を高めることができる。
重畳制御タイミング判定手段301が重畳制御開始タイミングα1と判定し、副一次コイル制御手段306に第1重畳制御開始の指示を出すと、副一次コイル制御手段301は副一次コイル通電許可信号Sb1および副一次コイル通電信号Sb2を生成して、副一次コイル通電許可スイッチ71と副一次コイル通電スイッチ72へそれぞれ出力する。放電エネルギ重畳手段として機能する副一次コイル通電許可スイッチ71と副一次コイル通電スイッチ72によって副一次コイル111bへの通電制御が実行され、通電量に応じた重畳磁束が二次コイル112に作用し、二次電流が重畳される(図6(a)の二次電流波形中、網掛けで示す領域を参照)。なお、何らかの要因(故障や断線等)により、放電タイミングIG以降に重畳制御開始条件の成立を重畳制御タイミング判定手段301が判定できなかった場合には、重畳制御が開始されることは無い。
このとき、副一次コイル制御手段306は、二次電流検出信号から得られる二次電流の値を、変更可能二次電流値記憶手段304に記憶された第1重畳制御用の第1電流値に近づけるように、副一次コイル111bに発生させる重畳磁束量を調整する第1重畳制御を行う。例えば、副一次コイル111bに生じさせる重畳磁束で二次電流を第1電流値に保持できる副一次電流が副一次コイル111bへ供給されるように、副一次コイル通電信号Sb2のパルス幅(デューティ比)を多段階(例えば、256段階)で調整した副一次コイル通電信号Sb2を副一次コイル制御手段306が生成して副一次コイル通電スイッチ72へ供給すれば、副一次コイル通電スイッチ72に適切なスイッチング動作を行わせる第1PWM制御が可能となり、第1重畳制御が実行される。同様に、変更可能二次電流値記憶手段304に記憶されている第2重畳制御用の第2電流値に二次電流を保持する第2重畳制御を行う場合には、副一次コイル111bに生じさせる重畳磁束で二次電流が第2電流値に保持される通電パルスを副一次コイル111bへ供給するように、適切なデューティ比の副一次コイル通電信号Sb2を副一次コイル制御手段306が生成して副一次コイル通電スイッチ72へ供給することで、副一次コイル通電スイッチ72に適切なスイッチング動作を行わせる第2PWM制御を行えば良い。
上記のようにして重畳制御が開始された後、重畳制御タイミング判定手段301は、重畳制御変更タイミング記憶手段305に記憶されている重畳制御変更タイミングα2の成否を判定する。重畳制御変更タイミングは、例えば、重畳制御開始タイミングα1から所定時間幅の点火状況監視期間txが経過したタイミングとし、点火コイル20の放電電極間に生じた火花放電の放電経路がシリンダ内のタンブル流によって膨らんでいると推測されるか否かを見極めるタイミングとして用いる。
なお、適切な時間幅の点火状況監視期間txは、内燃機関の特性や動作環境によって変化するので、例えば、外部からの重畳制御変更タイミング設定信号によって重畳制御変更タイミング記憶手段305の記憶内容を任意に変更できるようにしておけば、利便性が高い。また、変更可能二次電流値記憶手段304に記憶させておく第1重畳制御用の第1電流値と第2重畳制御用の第2電流値も、内燃機関の特性や動作環境によって変化するので、例えば、外部からの変更可能二次電流値設定信号によって変更可能二次電流値記憶手段304の記憶内容を任意に変更できるようにしておけば、利便性が高い。
重畳制御タイミング判定手段301は、重畳制御変更タイミングα2が成立するまで(点火状況監視期間txが経過するまで)の期間、主一次コイル電圧検出手段により検出された主一次コイル電圧の変化を監視し、点火プラグ20の放電電極間に発生した火花放電の放電経路が膨らまずに短経路が保持されていると想定される一次コイル電圧の変化である短経路保持状態(例えば、一次コイル電圧が指標電圧値に達しない低電圧で推移している状態)が継続していたことを重畳低減条件とし、この重畳低減条件が成立していた場合、重畳制御タイミング判定手段301は副一次コイル制御手段306へ重畳低減制御を指示する。これにより、副一次コイル制御手段306は、変更可能二次電流値記憶手段304に記憶されている第2重畳制御用の第2電流値の二次電流を流すべく、副一次コイル通電スイッチ72へ出力する副一次コイル通電信号Sb2によって第2PWM制御を(図6(a)における副一次コイル通電信号Sb2波形を参照)、二次電流が第1電流値から第2電流値へ低減される(図6(a)における二次電流波形を参照)。
このように、点火状況監視期間tx中に一度も指標電圧値を超える電圧上昇が認められない短経路保持波形が示すのは、点火プラグ20の放電電極間に生じた火花放電がタンブル流によって伸ばされず、短経路の放電電流が保持されているために電圧上昇が生じていない状態、すなわち、シリンダ内で点火プラグ20の電極間に作用しているタンブル流の流速に対して放電電流(二次電流)が強すぎる状態と考えられるから、このときに生じているタンブル流で火花放電の経路が良く伸びるように二次電流を低減させる第2重畳制御へ変更することが、安定燃焼の実現に有効である。
なお、重畳制御手段31により行う重畳制御の終了タイミングは任意である。例えば、点火タイミングIGから計時した経過時間が、安定した燃焼維持に必要十分な放電時間に達したときを重畳制御終了タイミングβに設定し、第2重畳制御を終了するようにしても良い。或いは、一次コイル電圧が予め定めた重畳停止基準電圧値にまで下がったタイミングを重畳制御終了タイミングβとし、この重畳制御終了タイミングβになると、重畳制御タイミング判定手段301が副一次コイル制御手段306への重畳制御指示を停止(或いは、重畳制御終了指示を出力)することで、副一次コイル制御手段306からの副一次コイル通電許可信号Sb1および副一次コイル通電信号Sb2を停止させ(例えば、信号電位をOFFにし)、副一次コイル111bによる点火コイル二次側への放電エネルギ重畳機能を停止させてもよい。
また、二次電流を第1電流値から第2電流値へ低減させる第2重畳制御は、第1電流値から第2電流値へ急速に低減させる制御に限らず、重畳制御終了タイミングβへ至るまで徐々に二次電流を低減させて行くようにしても良い(図6(a)の二次電流波形中、一点鎖線で示す)。
一方、図6(b)の波形図に示すように、点火状況監視期間tx中に短経路保持波形が維持されることなく、重畳制御変更タイミングα2において、一次コイル電圧が指標電圧値を大きく超える高電圧に上昇していた場合、点火プラグ20の電極間に生じた火花放電が大きく膨らんでいると考えられるので、重畳低減条件は成立せず、重畳制御タイミング判定手段301から副一次コイル制御手段306に対して第2重畳制御への変更が指示されることは無いので、副一次コイル制御手段306による第1PWM制御が維持され(図6(b)における副一次コイル通電信号Sb2波形を参照)、二次電流も第1電流値に保持されたままとなる(図6(b)における二次電流波形を参照)。
上述したように、第2実施形態にかかる内燃機関用点火装置2においても、第1重畳制御を行う事で点火プラグ20の放電電極間に発生した火花放電に吹き消えが生じないよう、点火コイル二次側へ放電エネルギを重畳しておき、重畳制御変更タイミングにおいて重畳低減条件が成立していた場合には、第1重畳制御から第2重畳制御に変更して点火コイル二次側へ重畳する放電エネルギを低減させ、点火プラグ20の電極間に生じた火花放電が大きく膨らむようにするので、着火性を向上させることができると共に、点火のための消費電力を適切化して燃費の悪化を低減できる。
上述した第1,第2実施形態に係る内燃機関用点火装置1,2では、二次コイル電圧の相関情報として用いる一次コイル電圧の波形状態によって、重畳低減条件を設定するものとしたが、他の重畳低減条件を設定しても構わない。例えば、図7に示す第3実施形態に係る内燃機関用点火装置3においては、点火によって消費した電力量が点火に必要十分と想定される想定必要電力量に達したか否かを重畳低減条件とし、想定必要電力量以上の電力が消費されていた場合には、点火コイル二次側へのエネルギ重畳を停止させ、過剰な電力消費とならないようにした。
図7に示す内燃機関用点火装置3は、第1実施形態に係る内燃機関用点火装置1と同様、点火コイル11Aを設けた点火コイルユニット10Aと、この点火コイルユニット10Aに対応した駆動制御機能を有する内燃機関駆動制御装置30C、二次電流を所定の制御電流値に保持できる二次電流重ね手段50を備える。なお、前述した第1実施形態に係る内燃機関用点火装置1と同一の構成については、同一符号を付して説明を省略する。
内燃機関駆動制御装置30Cでは、一次コイル電圧信号に基づいて二次コイル電圧を推定することにより、点火プラグ20への印加電圧の変化を知ることが可能となるので、内燃機関駆動制御装置30Cが二次電流重ね手段50による二次電流の重畳制御を行う。この二次電流重ね手段50を用いたエネルギ重畳制御は、例えば、内燃機関駆動制御装置30Cに設けた重畳制御手段33の機能によって実行する。また、二次電流重ね手段50の電流源としては、車両バッテリ等の直流電源40を用いることができる。
重畳制御手段33の一例を図8に示す。重畳制御手段33には、重畳制御の開始・変更や終了のタイミングを判定する重畳制御タイミング判定手段301と、この重畳制御タイミング判定手段301が重畳制御開始タイミングを判定するための情報として用いる重畳制御開始条件を記憶している重畳制御開始条件記憶手段302と、重畳制御開始に伴って二次電流重ね手段50を動作制御するための二次電流重ね制御信号Spを生成して出力する二次電流重ね制御信号生成手段303と、点火に必要十分と想定される電力量の値を想定必要電力値として記憶しておく想定必要電力値記憶手段307と、を設ける。
重畳制御タイミング判定手段301には、点火信号Siと一次コイル電圧信号と二次電流検出信号と重畳制御開始条件記憶手段302からの重畳制御開始条件が供給されており、点火信号SiがONからOFFとなる点火タイミングIG以降に、重畳制御開始条件を満たす重畳制御開始タイミングα1の成立を判定する。例えば、図9の波形図に示すように、一次電流遮断による点火タイミングIGで容量放電エネルギが消費されて一次電圧が急激に高く(図9の一次コイル電圧波形においては負極に大きく)なり、短時間で低下して(図9の一次コイル電圧波形においては正極側へ戻って)行き、予め定めた指標値電圧に達したタイミングを重畳制御開始タイミングα1と判定する。
また、重畳制御開始条件は、放電開始から早期に成立する条件であれば、任意に設定して良く、例えば、容量放電と看做し得る所定期間(例えば、数十μs)が経過して誘導放電へ移行したと看做し得る状態になったことを重畳制御開始条件とする場合には、放電タイミングIGから所定期間の経過を重畳制御開始条件記憶手段302に記憶させておくことで、重畳制御タイミング判定手段301は重畳制御開始条件記憶手段302から取得した重畳制御開始条件を用いた重畳制御開始タイミングの判定を行い、二次電流重ね制御信号生成手段303へ二次電流重ね制御信号の生成開始を指示することができる。なお、重畳制御開始条件記憶手段302に記憶させる重畳制御開始条件は、外部から重畳制御開始条件設定信号を入力することで任意に変更できるようにしておくと、内燃機関の特性に応じて柔軟に重畳制御開始条件を設定できるので、利便性を高めることができる。
重畳制御タイミング判定手段301が重畳制御開始タイミングα1と判定し、二次電流重ね制御信号生成手段303に第1重畳制御開始指示を出すと、二次電流重ね制御信号生成手段303は二次電流重ね制御信号Spを生成して二次電流重ね手段50へ出力し、二次電流重ね手段50によって二次電流が重畳され、所定の制御電流値保持される(図9の二次電流波形中、濃い網掛けで示す領域を参照)。なお、何らかの要因(故障や断線等)により、放電タイミングIG以降に重畳制御開始条件の成立を重畳制御タイミング判定手段301が判定できなかった場合には、重畳制御が開始されることは無い。
なお、重畳制御手段33から二次電流重ね手段50への指示は、それぞれの電流値に応じた電位レベルで二次電流重ね制御信号Spを生成するものに限らない。例えば、内燃機関駆動制御装置30Cから二次電流重ね手段50へ至る信号線を物理的に分けておき、二次電流重ね制御信号Spを出力した信号線に応じて、第1電流値か第2電流値かを二次電流重ね手段50へ指示するようにしても良い。
上記のようにして重畳制御が開始された後、重畳制御タイミング判定手段301は、重畳制御変更タイミング記憶手段305に記憶されている重畳制御変更タイミングα2の成否を判定する。重畳制御変更タイミングは、例えば、点火タイミングIGから所定時間幅の点火状況監視期間txが経過したタイミングとし、点火に必要十分と想定される想定必要電力量が消費されたか否かを見極めるタイミングとして用いる。
なお、適切な時間幅の点火状況監視期間txは、内燃機関の特性や動作環境によって変化するので、例えば、外部からの重畳制御変更タイミング設定信号によって重畳制御変更タイミング記憶手段305の記憶内容を任意に変更できるようにしておけば、利便性が高い。また、想定必要電力値記憶手段307に記憶させておく想定必要電力値も、内燃機関の特性や動作環境によって異なるので、例えば、外部からの想定必要電力値設定信号によって想定必要電力値記憶手段307の記憶内容を任意に変更できるようにしておけば、利便性が高い。
重畳制御タイミング判定手段301は、点火タイミングIGから重畳制御変更タイミングα2が成立するまで(点火状況監視期間txが経過するまで)の期間、点火コイル二次側で消費された電力の積分値、すなわち、二次コイル112に与えられた誘導放電エネルギと二次電流重ね手段50によって重畳された重畳エネルギとの積算値である重ね電力積分値を演算する。このため、重畳制御タイミング判定手段301は、一次コイル電圧信号によって得られる一次コイル電圧から想定される二次コイル電圧と二次電流検出信号によって得られる二次電流との積により算出される放電電力を放電開始から重畳制御変更タイミングα2まで積算することで、重ね電力積分値を演算する重ね電力積分値演算機能を備える。
そして、重畳制御変更タイミングα2になると、重畳制御タイミング判定手段301は、演算により求めた重ね電力積分値が、想定必要電力記憶手段307に記憶されている想定必要電力値に達しているか否かの重畳低減条件を判定する。このとき、重ね電力積分値が想定必要電力値に達していれば、重畳制御タイミング判定手段301は二次電流重ね制御信号生成手段303へ重畳制御の停止(二次電流を制御電流値よりも低下させる第2重畳制御に相当)を指示する。
これにより、二次電流重ね制御信号生成手段303は、二次電流重ね制御信号SpをOFFに変更し(図9における二次電流重ね制御信号Sp波形を参照)、二次電流が制御電流値に保持されなくなるので(図9における二次電流波形を参照)、以降は一次コイル111から二次コイル112に与えられた誘導放電エネルギのみによる放電が継続する。なお、二次電流検出信号を二次電流重ね制御信号生成手段303へ供給しておけば(図8中、破線で示す)、二次電流重ね手段50を用いた重畳制御が適正に行われているか否かを二次電流重ね制御信号生成手段303で判定できる。重畳制御が適正に行われていないと判定した場合、例えば、その旨を報知して異常を搭乗者に知らせると共に、重畳制御を一旦中止すれば、二次電流重ね手段50が無意味に電力消費することを抑制できる。
このように、点火状況監視期間tx中の重ね電力積分値が想定必要電力値に達していれば、安定燃焼に必要十分と想定される放電エネルギが点火コイル二次側にて消費されたと考えられるので、重畳制御を中止して、それ以上の放電エネルギを放電エネルギ重畳手段によって点火コイル二次側へ重畳することを止め、重畳制御を行うことによる燃費の悪化を抑制するのである。仮に、重畳制御変更タイミングα2において重畳低減条件の判定を行わず、そのまま二次電流を制御電流値に維持する重畳制御を続けた場合(図9における二次電流波形中、破線で示す)、重畳制御終了タイミングβまでの重ね電力積分値は更に増大し(図9における重ね電力積分値波形中、破線で示す)、想定必要電力値よりも遙かに大きな電力量が消費されるので、重畳制御を行うことによる燃費の悪化が無視し得ないものとなる可能性がある。
なお、重畳制御手段33により行う重畳制御の終了タイミングは任意である。例えば、点火タイミングIGから計時した経過時間が、安定した燃焼維持に必要十分な放電時間に達したときを重畳制御終了タイミングβに設定し、第2重畳制御を終了するようにしても良い。或いは、一次コイル電圧が予め定めた重畳停止基準電圧値にまで下がったタイミングを重畳制御終了タイミングβとし、この重畳制御終了タイミングβになると、重畳制御タイミング判定手段301が二次電流重ね制御信号生成手段303への重畳制御指示を停止(或いは、重畳制御終了指示を出力)することで、二次電流重ね制御信号生成手段303からの二次電流重ね制御信号Spを停止させ(例えば、信号電位をOFFにし)、二次電流重ね手段50による二次電流重畳機能を停止させてもよい。
また、本実施形態においては、重畳制御タイミング判定手段301が点火タイミングIGから重畳制御変更タイミングα2までの重ね電力積分値を求めるものとしたが、例えば、重畳制御開始タイミングα1から重畳制御変更タイミングα2までの重ね電力積分値を求め、これを用いて重畳低減条件の成否を判定するようにしても良い。かくする場合は、想定必要電力値記憶手段307に記憶させておく想定必要電力値を、重畳制御開始タイミングα1から重畳制御変更タイミングα2までの期間に応じた想定必要電力値にしておく必要がある。
一方、図10の波形図に示すように、重畳制御変更タイミングα2において、重畳制御タイミング判定手段301が点火状況監視期間tx中に求めた重ね電力積分値が、想定必要電力値記憶手段307に記憶されている想定必要電力値に達していなかった場合、重畳低減条件は成立せず、重畳制御タイミング判定手段301から二次電流重ね制御信号生成手段303に対して第2重畳制御への変更(重畳制御の停止)が指示されることは無いので、二次電流重ね制御信号Spの出力が継続され(図10における二次電流重ね制御信号Sp波形を参照)、二次電流も制御電流値に保持されたままとなる(図10における二次電流波形を参照)。
なお、重畳制御タイミング判定手段301は、重畳制御変更タイミングα2となる点火状況監視期間tx中だけ重ね電力積分値を求めていれば良いのであるが、重畳低減条件が成立しなかった場合には、その後も継続して重ね電力積分値を求めるようにしても良い(図10における重ね電力積分値波形中、破線で示す)。例えば、重畳制御変更タイミングα2の後に、第2重畳制御変更タイミングα3、第3重畳制御変更タイミングα4…を設定しておき、その都度、重畳制御タイミング判定手段301が重畳低減条件の成否を判定し、重畳低減条件が成立したタイミングで、重畳制御タイミング判定手段301から二次電流重ね制御信号生成手段303に対して第2重畳制御への変更(重畳制御の停止)を指示すれば、重畳制御を行うことによる燃費の悪化を抑制する上で、一層効果がある。
上述したように、第3実施形態にかかる内燃機関用点火装置3では、第1重畳制御を行う事で点火プラグ20の放電電極間に発生した火花放電に吹き消えが生じないよう、点火コイル二次側へ放電エネルギを重畳しておき、重畳制御変更タイミングにおいて重畳低減条件が成立していた場合には、第1重畳制御から第2重畳制御に変更して点火コイル二次側への放電エネルギ重畳を停止させるので、着火性を向上させることができると共に、点火のための消費電力を適切化して燃費の悪化を低減できる。
上述した第3実施形態に係る内燃機関用点火装置3では、点火コイル11Aの二次側を流れる二次電流を直接コントロールできる二次電流重ね手段50を放電エネルギ重畳手段として用いるものとしたが、放電エネルギ重畳手段はこれに限定されるものではない。例えば、図11に示す第4実施形態に係る内燃機関用点火装置4のように、点火タイミングIG以降に点火コイルの一次側から二次側へ誘導性の放電エネルギを重畳することで、点火プラグ20に発生した火花放電による着火性を向上させる構成とすることもできる。
図11に示す内燃機関用点火装置4は、第2実施形態に係る内燃機関用点火装置2と同様、点火コイル11Bを設けた点火コイルユニット10Bと、副一次コイル通電許可スイッチ71と、副一次コイル通電スイッチ72と、点火コイルユニット10Bおよび副一次コイル通電許可スイッチ71と副一次コイル通電スイッチ72に対応した駆動制御機能を有する内燃機関駆動制御装置30Dを備える。なお、前述した第1~第3実施形態に係る内燃機関用点火装置1~3と同一の構成については、同一符号を付して説明を省略する。
内燃機関駆動制御装置30dでは、一次コイル電圧信号に基づいて二次コイル電圧を推定することにより、点火プラグ20への印加電圧の変化を知ることが可能となるので、内燃機関駆動制御装置30dが副一次コイル通電許可スイッチ71と副一次コイル通電スイッチ72の動作制御を行うことで、副一次コイル111bによる重畳磁束の発生タイミングや磁束量の制御を行う。これら副一次コイル通電許可スイッチ71と副一次コイル通電スイッチ72の動作制御は、例えば、内燃機関駆動制御装置30Dに設けた重畳制御手段34の機能によって実行する。
重畳制御手段34の一例を図12に示す。重畳制御手段34には、重畳制御の開始・変更や終了のタイミングを判定する重畳制御タイミング判定手段301と、この重畳制御タイミング判定手段301が重畳制御開始タイミングを判定するための情報として用いる重畳制御開始条件を記憶している重畳制御開始条件記憶手段302と、重畳制御開始に伴って副一次コイル通電許可スイッチ71と副一次コイル通電スイッチ72を動作させるための副一次コイル通電許可信号Sb1と副一次コイル通電信号Sb2を生成して出力する副一次コイル制御手段306と、重畳制御開始条件が成立して重畳制御を開始した後に成立する重畳制御変更タイミングを記憶しておく重畳制御変更タイミング記憶手段305と、点火に必要十分と想定される電力量の値を想定必要電力値として記憶しておく想定必要電力値記憶手段307と、点火コイル二次側に流す二次電流の目標値とする制御電流値を記憶しておく変更可能二次電流値記憶手段304と、を設ける。
重畳制御タイミング判定手段301には、点火信号Siと一次コイル電圧信号と二次電流検出信号と重畳制御開始条件記憶手段302からの重畳制御開始条件が供給されており、点火信号SiがONからOFFとなる点火タイミングIG以降に、重畳制御開始条件を満たす重畳制御開始タイミングα1の成立を判定する。例えば、図13の波形図に示すように、一次電流遮断による点火タイミングIGで容量放電エネルギが消費されて一次電圧が急激に高くなり、短時間で低下して行き、予め定めた指標値電圧に達したタイミングを重畳制御開始タイミングα1と判定する。
また、重畳制御開始条件は、放電開始から早期に成立する条件であれば、任意に設定して良く、例えば、容量放電と看做し得る所定期間(例えば、数十μs)が経過して誘導放電へ移行したと看做し得る状態になったことを重畳制御開始条件とする場合には、放電タイミングIGから所定期間の経過を重畳制御開始条件記憶手段302に記憶させておくことで、重畳制御タイミング判定手段301は重畳制御開始条件記憶手段302から取得した重畳制御開始条件を用いた重畳制御開始タイミングの判定を行い、二次電流重ね制御信号生成手段303へ二次電流重ね制御信号の生成開始を指示することができる。なお、重畳制御開始条件記憶手段302に記憶させる重畳制御開始条件は、外部から重畳制御開始条件設定信号を入力することで任意に変更できるようにしておくと、内燃機関の特性に応じて柔軟に重畳制御開始条件を設定できるので、利便性を高めることができる。
重畳制御タイミング判定手段301が重畳制御開始タイミングα1と判定し、副一次コイル制御手段306に第1重畳制御開始の指示を出すと、副一次コイル制御手段301は副一次コイル通電許可信号Sb1および副一次コイル通電信号Sb2を生成して、副一次コイル通電許可スイッチ71と副一次コイル通電スイッチ72へそれぞれ出力する。放電エネルギ重畳手段として機能する副一次コイル通電許可スイッチ71と副一次コイル通電スイッチ72によって副一次コイル111bへの通電制御が実行され、通電量に応じた重畳磁束が二次コイル112に作用し、二次電流が重畳される(図13の二次電流波形中、濃い網掛けで示す領域を参照)。なお、何らかの要因(故障や断線等)により、放電タイミングIG以降に重畳制御開始条件の成立を重畳制御タイミング判定手段301が判定できなかった場合には、重畳制御が開始されることは無い。
このとき、副一次コイル制御手段306は、二次電流検出信号から得られる二次電流の値を、制御電流値記憶手段308に記憶された第1重畳制御用の制御電流値に近づけるように、副一次コイル111bに発生させる重畳磁束量を調整する第1重畳制御を行う。例えば、副一次コイル111bに生じさせる重畳磁束で二次電流を制御電流値に保持できる副一次電流が副一次コイル111bへ供給されるように、副一次コイル通電信号Sb2のパルス幅(デューティ比)を多段階(例えば、256段階)で調整した副一次コイル通電信号Sb2を副一次コイル制御手段306が生成して副一次コイル通電スイッチ72へ供給すれば、副一次コイル通電スイッチ72に適切なスイッチング動作を行わせるPWM制御が可能となり、第1重畳制御が実行される。
上記のようにして重畳制御が開始された後、重畳制御タイミング判定手段301は、重畳制御変更タイミング記憶手段305に記憶されている重畳制御変更タイミングα2の成否を判定する。重畳制御変更タイミングは、例えば、点火タイミングIGから所定時間幅の点火状況監視期間txが経過したタイミングとし、点火に必要十分と想定される想定必要電力量が消費されたか否かを見極めるタイミングとして用いる。
なお、適切な時間幅の点火状況監視期間txは、内燃機関の特性や動作環境によって変化するので、例えば、外部からの重畳制御変更タイミング設定信号によって重畳制御変更タイミング記憶手段305の記憶内容を任意に変更できるようにしておけば、利便性が高い。また、想定必要電力値記憶手段307に記憶させておく想定必要電力値も、内燃機関の特性や動作環境によって異なるので、例えば、外部からの想定必要電力値設定信号によって想定必要電力値記憶手段307の記憶内容を任意に変更できるようにしておけば、利便性が高い。同様に、制御電流値記憶手段308に記憶させておく制御電流値も、内燃機関の特性や動作環境によって異なるので、例えば、外部からの制御電流値設定信号によって制御電流値記憶手段308の記憶内容を任意に変更できるようにしておけば、利便性が高い。
重畳制御タイミング判定手段301は、点火タイミングIGから重畳制御変更タイミングα2が成立するまで(点火状況監視期間txが経過するまで)の期間、点火コイル二次側で消費された電力の積分値、すなわち、主一次コイル111aにより与えられた誘導放電エネルギと副一次コイル111bによって重畳された重畳エネルギとの積算値である重ね電力積分値を演算する。このため、重畳制御タイミング判定手段301は、一次コイル電圧信号によって得られる一次コイル電圧から想定される二次コイル電圧と二次電流検出信号によって得られる二次電流との積により算出される放電電力を放電開始から重畳制御変更タイミングα2まで積算することで、重ね電力積分値を演算する重ね電力積分値演算機能を備える。
そして、重畳制御変更タイミングα2になると、重畳制御タイミング判定手段301は、演算により求めた重ね電力積分値が、想定必要電力記憶手段307に記憶されている想定必要電力値に達しているか否かの重畳低減条件を判定する。このとき、重ね電力積分値が想定必要電力値に達していれば、重畳制御タイミング判定手段301は副一次コイル制御手段306へ重畳制御の停止(二次電流を制御電流値よりも低下させる第2重畳制御に相当)を指示する。
これにより、副一次コイル制御手段306は、副一次コイル通電許可信号Sb1および副一次コイル通電信号Sb2をOFFに変更し(図13における副一次コイル通電許可信号Sb1波形および副一次コイル通電信号Sb2波形を参照)、二次電流が制御電流値に保持されなくなるので(図13における二次電流波形を参照)、以降は一次コイル111から二次コイル112に与えられた誘導放電エネルギのみによる放電が継続する。
このように、点火状況監視期間tx中の重ね電力積分値が想定必要電力値に達していれば、安定燃焼に必要十分と想定される放電エネルギが点火コイル二次側にて消費されたと考えられるので、重畳制御を中止して、それ以上の放電エネルギを放電エネルギ重畳手段によって点火コイル二次側へ重畳することを止め、重畳制御を行うことによる燃費の悪化を抑制するのである。仮に、重畳制御変更タイミングα2において重畳低減条件の判定を行わず、そのまま二次電流を制御電流値に維持する重畳制御を続けた場合(図13における二次電流波形中、破線で示す)、重畳制御終了タイミングβまでの重ね電力積分値は更に増大し(図13における重ね電力積分値波形中、破線で示す)、想定必要電力値よりも遙かに大きな電力量が消費されるので、重畳制御を行うことによる燃費の悪化が無視し得ないものとなる可能性がある。
なお、重畳制御手段34により行う重畳制御の終了タイミングは任意である。例えば、点火タイミングIGから計時した経過時間が、安定した燃焼維持に必要十分な放電時間に達したときを重畳制御終了タイミングβに設定し、第2重畳制御を終了するようにしても良い。或いは、一次コイル電圧が予め定めた重畳停止基準電圧値にまで下がったタイミングを重畳制御終了タイミングβとし、この重畳制御終了タイミングβになると、重畳制御タイミング判定手段301が副一次コイル制御手段306への重畳制御指示を停止(或いは、重畳制御終了指示を出力)することで、副一次コイル制御手段306からの副一次コイル通電許可信号Sb1および副一次コイル通電信号Sb2を停止させ(例えば、信号電位をOFFにし)、副一次コイル111bへの通電による重畳磁束を消失させるようにしてもよい。
また、本実施形態においては、重畳制御タイミング判定手段301が点火タイミングIGから重畳制御変更タイミングα2までの重ね電力積分値を求めるものとしたが、例えば、重畳制御開始タイミングα1から重畳制御変更タイミングα2までの重ね電力積分値を求め、これを用いて重畳低減条件の成否を判定するようにしても良い。かくする場合は、想定必要電力値記憶手段307に記憶させておく想定必要電力値を、重畳制御開始タイミングα1から重畳制御変更タイミングα2までの期間に応じた想定必要電力値にしておく必要がある。
一方、図14の波形図に示すように、重畳制御変更タイミングα2において、重畳制御タイミング判定手段301が点火状況監視期間tx中に求めた重ね電力積分値が、想定必要電力値記憶手段307に記憶されている想定必要電力値に達していなかった場合、重畳低減条件は成立せず、重畳制御タイミング判定手段301から副一次コイル制御手段306に対して第2重畳制御への変更(重畳制御の停止)が指示されることは無いので、副一次コイル通電許可信号Sb1および副一次コイル通電信号Sb2の出力が継続され(図14における副一次コイル通電許可信号Sb1波形および副一次コイル通電信号Sb2波形を参照)、二次電流も制御電流値に保持されたままとなる(図14における二次電流波形を参照)。
なお、重畳制御タイミング判定手段301は、重畳制御変更タイミングα2となる点火状況監視期間tx中だけ重ね電力積分値を求めていれば良いのであるが、重畳低減条件が成立しなかった場合には、その後も継続して重ね電力積分値を求めるようにしても良い(図14における重ね電力積分値波形中、破線で示す)。例えば、重畳制御変更タイミングα2の後に、第2重畳制御変更タイミングα3、第3重畳制御変更タイミングα4…を設定しておき、その都度、重畳制御タイミング判定手段301が重畳低減条件の成否を判定し、重畳低減条件が成立したタイミングで、重畳制御タイミング判定手段301から副一次コイル制御手段306に対して第2重畳制御への変更(重畳制御の停止)を指示すれば、重畳制御を行うことによる燃費の悪化を抑制する上で、一層効果がある。
上述したように、第3実施形態にかかる内燃機関用点火装置3では、第1重畳制御を行う事で点火プラグ20の放電電極間に発生した火花放電に吹き消えが生じないよう、点火コイル二次側へ放電エネルギを重畳しておき、重畳制御変更タイミングにおいて重畳低減条件が成立していた場合には、第1重畳制御から第2重畳制御に変更して点火コイル二次側への放電エネルギ重畳を停止させるので、着火性を向上させることができると共に、点火のための消費電力を適切化して燃費の悪化を低減できる。
上述した第1~第4実施形態に係る内燃機関用点火装置1~4では、二次コイル電圧の相関情報として用いる一次コイル電圧の波形状態や消費電力量によって重畳低減条件を設定するものとしたが、所定の時間が経過することで重畳低減条件が成立するものとし、その時間経過毎に二次電流を順次低減させて行くようにしても構わない。例えば、図15に示す第5実施形態に係る内燃機関用点火装置5においては、放電サイクルにおける放電時間中に複数の重畳制御期間を設定し、各重畳制御期間に対応させて定めた二次電流値を維持することで、着火性を向上させると共に、過剰な電力消費とならないようにした。
図15に示す内燃機関用点火装置5は、第1,第3実施形態に係る内燃機関用点火装置1,3と同様、点火コイル11Aを設けた点火コイルユニット10Aと、この点火コイルユニット10Aに対応した駆動制御機能を有する内燃機関駆動制御装置30E、二次電流を複数種類の電流値(例えば、最も高い第1電流値、それより低い第2電流値、最も低い第3電流値の3種類)に保持できる二次電流重ね手段50を備える。なお、前述した第1~第4実施形態に係る内燃機関用点火装置1~4と同様の構成については、同一符号を付して説明を省略する。
内燃機関駆動制御装置30Eによって行う点火制御は、ピストンによってシリンダ内の混合気を高圧縮した適宜なタイミングで行うものであり、その適切な点火時期は、ピストンを昇降させるクランクシャフトのクランク角度によって推し量ることができるので、クランク角センサからの信号に基づいて点火信号Siのオン・オフを制御して、所定の点火タイミングIGを実現できる。
そして、点火コイル11Aのオン・オフ制御によって点火プラグ20の放電電極間に火花放電が生じて放電電流が流れ始めるのであるが、この火花放電は、放電電極間を横切る方向へ流れるタンブル流の影響を受ける。点火プラグ20の放電ギャップ間を横切るように流れるタンブル流の流速(以下、プラグギャップ間流速という)は、点火サイクル毎に高くなったり低くなったりと変化が激しく、各点火サイクルにおける放電時間の範囲に限ってみても、規則性のある流速変化を予測することはできない。
しかしながら、プラグギャップ間流速をある程度の範囲(例えば、高流速時、中流速時、低流速時といった代表的な流速変化タイプ)に区分けすると、その範囲のプラグギャップ間流速に対して火花放電が良く伸びるような放電電流値(例えば、高流速時には高電流値、中流速時には中電流値、低流速時には低電流値)を設定することは可能である。すなわち、二次電流を適宜な高電流値に保持することで高流速時に火花放電を好適に膨らませることができ、二次電流を適宜な中電流値に保持することで中流速時に火花放電を好適に膨らませることができ、二次電流を適宜な低電流値に保持することで低流速時に火花放電を好適に膨らませることができる。
そこで、内燃機関駆動制御装置30Eでは、タンブル流のプラグギャップ間流速を複数範囲の流速に分け、各流速に適した二次電流を所定時間毎に流すように二次電流重ね手段50を用いたエネルギ重畳を行う。かくすれば、その点火サイクルにおけるタンブル流の流速に適した電流値の二次電流に制御されている期間には、点火プラグ20の放電電極間に生じた火花放電が好適に伸びることとなるので、それだけ大きな火炎核が形成されて火炎伝搬も良好となり、着火性を向上させることができる。この二次電流重ね手段50を用いたエネルギ重畳制御は、例えば、内燃機関駆動制御装置30Eに設けた重畳制御手段35の機能によって実行する。また、二次電流重ね手段50の電流源としては、車両バッテリ等の直流電源40を用いることができる。
重畳制御手段35の一例を図16に示す。重畳制御手段35には、重畳制御の開始・変更や終了のタイミングを判定する重畳制御タイミング判定手段301と、この重畳制御タイミング判定手段301が重畳制御開始タイミングを判定するための情報として用いる重畳制御開始条件を記憶している重畳制御開始条件記憶手段302と、重畳制御開始に伴って二次電流重ね手段50を動作制御するための二次電流重ね制御信号Spを生成して出力する二次電流重ね制御信号生成手段303と、点火コイル二次側に流す二次電流の目標値として使用できる複数の電流値(例えば、第1電流値、第2電流値、第3電流値の3種類)を記憶しておく変更可能二次電流値記憶手段304と、重畳制御開始条件が成立して重畳制御を開始した後に成立する重畳制御変更タイミングを記憶しておく重畳制御変更タイミング記憶手段305と、を設ける。
重畳制御タイミング判定手段301には、点火信号Siと一次コイル電圧信号と重畳制御開始条件記憶手段302からの重畳制御開始条件が供給されており、点火信号SiがONからOFFとなる点火タイミングIG以降に、重畳制御開始条件を満たす重畳制御開始タイミングα1の成立を判定する。例えば、一次電流遮断による点火タイミングIGで容量放電エネルギが消費されて一次電圧が急激に高くなり、短時間で低下して行き、予め定めた指標値電圧に達したタイミングを重畳制御開始タイミングα1と判定する。
また、重畳制御開始条件は、放電開始から早期に成立する条件であれば、任意に設定して良く、例えば、容量放電と看做し得る所定期間(例えば、数十μs)が経過して誘導放電へ移行したと看做し得る状態になったことを重畳制御開始条件とする場合には、放電タイミングIGから所定期間の経過を重畳制御開始条件記憶手段302に記憶させておくことで、重畳制御タイミング判定手段301は重畳制御開始条件記憶手段302から取得した重畳制御開始条件を用いた重畳制御開始タイミングの判定を行い、二次電流重ね制御信号生成手段303へ二次電流重ね制御信号の生成開始を指示することができる。なお、重畳制御開始条件記憶手段302に記憶させる重畳制御開始条件は、外部から重畳制御開始条件設定信号を入力することで任意に変更できるようにしておくと、内燃機関の特性に応じて柔軟に重畳制御開始条件を設定できるので、利便性を高めることができる。
重畳制御開始条件記憶手段302に記憶されていた重畳制御開始条件に基づいて重畳制御タイミング判定手段301が重畳制御開始タイミングα1の成立を判定すると、二次電流重ね制御信号生成手段303に第1重畳制御開始指示を出し、その後、重畳制御変更タイミング記憶手段305に記憶されていた第1変更タイミングα2の成立(例えば、重畳制御開始タイミングα1から所定の重畳制御時間txが経過したこと)を判定すると、二次電流重ね制御信号生成手段303に第2重畳制御開始指示を出し、その後、重畳制御変更タイミング記憶手段305に記憶されていた第2変更タイミングα3の成立(例えば、第1変更タイミングα2から所定の重畳制御時間txが経過したこと)を判定すると、二次電流重ね制御信号生成手段303に第3重畳制御開始指示を出す。その後、重畳制御変更タイミング記憶手段305に記憶されていた重畳制御終了タイミングβの成立(例えば、第2変更タイミングα3から所定の重畳制御時間txが経過したこと)を判定すると、二次電流重ね制御信号生成手段303に重畳制御終了指示を出す。
重畳制御開始条件の成立により、重畳制御タイミング判定手段301より第1重畳制御開始指示を受けた二次電流重ね制御信号生成手段303は、信号電位がLev1の二次電流重ね制御信号Spを生成して二次電流重ね手段50へ出力し、重畳制御開始タイミングα1から第1変更タイミングα2に至る第1重畳制御期間T1が経過するまで、二次電流重ね手段50によって第1電流値の二次電流が保持される。なお、何らかの要因(故障や断線等)により、放電タイミングIG以降に重畳制御開始条件の成立を重畳制御タイミング判定手段301が判定できなかった場合には、重畳制御が開始されることは無い。
この第1重畳制御開始から所定の重畳制御時間txが経過して、重畳制御タイミング判定手段301より第2重畳制御開始指示を受けた二次電流重ね制御信号生成手段303は、信号電位がLev2の二次電流重ね制御信号Spを生成して二次電流重ね手段50へ出力し、第1変更タイミングα2から第2変更タイミングα3に至る第2重畳制御期間T2が経過するまで、二次電流重ね手段50によって第2電流値の二次電流が保持される。
さらに、第2重畳制御開始から所定の重畳制御時間txが経過して、重畳制御タイミング判定手段301より第3重畳制御開始指示を受けた二次電流重ね制御信号生成手段303は、信号電位がLev3の二次電流重ね制御信号Spを生成して二次電流重ね手段50へ出力し、第2変更タイミングα3から重畳制御終了タイミングβに至る第3重畳制御期間T3が経過するまで、二次電流重ね手段50によって第3電流値の二次電流が保持される。
なお、重畳制御手段31から二次電流重ね手段50への指示は、それぞれの電流値に応じた電位レベルで二次電流重ね制御信号Spを生成するものに限らない。例えば、内燃機関駆動制御装置30Eから二次電流重ね手段50へ至る信号線を物理的に分けておき、二次電流重ね制御信号Spを出力した信号線に応じて、第1電流値~第3電流値の何れかを二次電流重ね手段50へ指示するようにしても良い。
ここで、第1~第3重畳制御期間T1~T3と、二次電流を保持する第1~第3電流値との関係について説明する。図17(a)、図18(a)、図19(a)は、プラグギャップ間流速とクランク角度の関係を示す特性図であり、クランクが上死点(クランク角度が0)へ近づくにつれて概ねプラグギャップ間流速が低下して行く傾向を示している。また、プラグギャップ間流速に対して好適な電流値、すなわち、タンブル流による吹き消えが生じないで火花が良く伸びるときの電流値の範囲は、各内燃機関の構造や特性に応じて特定することができる。
例えば、プラグギャップ間流速が19〔m/s〕~15〔m/s〕の範囲に対して有効な二次電流の範囲である第1電流ゾーン、プラグギャップ間流速が15〔m/s〕~11〔m/s〕の範囲に対して有効な二次電流の範囲である第2電流ゾーン、プラグギャップ間流速が11〔m/s〕~7〔m/s〕の範囲に対して有効な二次電流の範囲である第3電流ゾーン、をそれぞれ設定し、第1電流ゾーンにおけるプラグギャップ間流速の全範囲で有効な二次電流値として第1電流値(例えば、210〔mA〕)を、第2電流ゾーンにおけるプラグギャップ間流速の全範囲で有効な二次電流値として第2電流値(例えば、160〔mA〕)を、第3電流ゾーンにおけるプラグギャップ間流速の全範囲で有効な二次電流値として第3電流値(例えば、110〔mA〕)を、それぞれ設定する。すなわち、プラグギャップ間流速の範囲をある程度絞り込むことで、その範囲内のプラグギャップ間流速全てに有効な1つの二次電流値を設定できるのである。
しかしながら、プラグギャップ間流速の乱れは広範なブレとなっており、点火タイミングIG以降の放電時間範囲に限定してみても、第1~第3電流ゾーンの何れか1つに収まるものではない。そこで、プラグギャップ間流速が比較的高いときに予測される流速変化を高流速予測とし(図17(a)を参照)、プラグギャップ間流速が中間的と予測される流速変化を中流速予測とし(図18(a)を参照)、プラグギャップ間流速が比較的低いときに予測される流速変化を低流速予測とし(図19(a)を参照)、それぞれの流速変化を第1~第3電流ゾーンの何れかに割り当てられるか試みた。
図17(a)に示す高流速予測のプラグギャップ間流速の変化特性に着目すると、重畳制御開始タイミングα1から第1変更タイミングα2に至る第1重畳制御期間T1において、第1電流ゾーンに収まる傾向が強いと想定されるので、プラグギャップ間流速が高い傾向にあるときは、二次電流を第1電流ゾーンに対応する第1電流値に保持しておくと、第1重畳制御期間T1で火花放電の放電経路が伸びて大きな火炎核が形成され、着火性を向上させることができる。
図18(a)に示す中流速予測のプラグギャップ間流速の変化特性に着目すると、第1変更タイミングα2から第2変更タイミングα3に至る第2重畳制御期間T2において、第2電流ゾーンに収まる傾向が強いと想定されるので、プラグギャップ間流速が中程度の傾向にあるときは、二次電流を第2電流ゾーンに対応する第2電流値に保持しておくと、第2重畳制御期間T2で火花放電の放電経路が伸びて大きな火炎核が形成され、着火性を向上させることができる。
図19(a)に示す中流速予測のプラグギャップ間流速の変化特性に着目すると、第2変更タイミングα3から重畳制御終了タイミングβに至る第3重畳制御期間T3において、第3電流ゾーンに収まる傾向が強いと想定されるので、プラグギャップ間流速が低い傾向にあるときは、二次電流を第3電流ゾーンに対応する第3電流値に保持しておくと、第3重畳制御期間T3で火花放電の放電経路が伸びて大きな火炎核が形成され、着火性を向上させることができる。
従って、図17(a)に示す高流速予測のプラグギャップ間流速の変化特性から、第1重畳制御期間T1においては二次電流を第1電流値に保持しておく第1重畳制御を行い、図18(a)に示す中流速予測のプラグギャップ間流速の変化特性から、第2重畳制御期間T2においては二次電流を第2電流値に保持しておく第2重畳制御を行い、図19(a)に示す中流速予測のプラグギャップ間流速の変化特性から、第3重畳制御期間T3においては二次電流を第2電流値に保持しておく第3重畳制御を行えば、プラグギャップ間流速に生ずる高低のブレに柔軟に対応でき、点火サイクル毎の放電時間内に火花放電の放電経路を伸ばして着火性を向上させることが可能となる。
このように、本実施形態に係る内燃機関用点火装置5では、予め設定した重畳制御時間tx毎に、二次電流の電流値を第1電流値、第2電流値、第3電流値へ順に変更するという簡単な制御で(図17(b)、図18(b)、図19(b)における二次電流重ね制御信号Sp波形および二次電流波形を参照)、プラグギャップ間流速の高低に影響されることなく、好適に火花放電の放電経路を伸ばして着火性を向上させることができる。
具体的には、図17(a)に示すように、プラグギャップ間流速が高い傾向にあるとき、その流速変化は、重畳制御開始タイミングα1から第1変更タイミングα2に至る第1重畳制御期間T1において、第1電流ゾーンに収まる傾向が強いと想定されるので、二次電流が第1電流値に保持されているときに放電電流の放電経路を伸ばすことができる。このように火花放電の放電経路が伸びた状況は、図17(b)の一次コイル電圧波形における第1重畳制御期間T1において、一次コイル電圧が大きく上昇していることから分かる。
また、図18(a)に示すように、プラグギャップ間流速が中程度であるとき、その流速変化は、第1変更タイミングα2から第2変更タイミングα1に至る第2重畳制御期間T2において、第2電流ゾーンに収まる傾向が強いと想定されるので、二次電流が第2電流値に保持されているときに放電電流の放電経路を伸ばすことができる。このように火花放電の放電経路が伸びた状況は、図18(b)の一次コイル電圧波形における第2重畳制御期間T2において、一次コイル電圧が大きく上昇していることから分かる。
また、図19(a)に示すように、プラグギャップ間流速が低い傾向にあるとき、その流速変化は、第2変更タイミングα3から重畳制御終了タイミングβに至る第3重畳制御期間T3において、第3電流ゾーンに収まる傾向が強いと想定されるので、二次電流が第3電流値に保持されているときに放電電流の放電経路を伸ばすことができる。このように火花放電の放電経路が伸びた状況は、図19(b)の一次コイル電圧波形における第3重畳制御期間T2において、一次コイル電圧が大きく上昇していることから分かる。
なお、適切な時間幅の重畳制御時間txは、内燃機関の特性や動作環境によって変化するので、例えば、外部からの重畳制御変更タイミング設定信号によって重畳制御変更タイミング記憶手段305の記憶内容を任意に変更できるようにしておけば、利便性が高い。但し、第1重畳制御~第3重畳制御を行うまでの期間が、点火コイル11Aによって生ずる放電時間を越えることがないよう、重畳制御時間txの時間幅に考慮しておく必要がある。
また、変更可能二次電流値記憶手段304に記憶させておく第1重畳制御用の第1電流値、第2重畳制御用の第2電流値、第3重畳制御用の第3電流値も、内燃機関の特性や動作環境によって変化するので、プラグギャップ間流速の変化特性に応じた電流ゾーンおよび対応する二次電流値を設定することができれば、汎用性を高めることができる。そこで、例えば、外部からの変更可能二次電流値設定信号によって変更可能二次電流値記憶手段304の記憶内容を任意に変更できるようにしておけば、第1~第3電流値を簡便に変更することが可能となり、利便性が高い。
また、重畳制御タイミング判定手段301が第1~第3重畳制御の開始・終了を判定する情報は、重畳制御時間txの経過に限定されるものではない。例えば、重畳制御タイミング判定手段301に二次電流検出信号を入力させておき(図16中、破線で示す)、二次電流検出信号によって検知した二次電流が第1~第3電流値に変更されてからの保持時間によって、第1~第3重畳制御の開始・終了を判定するようにしても良い。或いは、プラグギャップ間流速に生ずる高低変化の傾向に偏りがあるような場合には、第1重畳制御用の第1重畳制御時間tx1と第2重畳制御用の第2重畳制御時間tx2と第3重畳制御用の第3重畳制御時間tx3を別々の時間幅としておき、第1~第3重畳制御期間T1~T3がそれぞれ異なる時間幅となる設定を行えるようにしても構わない。
また、プラグギャップ間流速の予測に応じて設定する電流ゾーンは、3種類に限らず、4種類以上に設定しても良いが、各電流ゾーンに対応する重畳制御時間が短くなるため、火花放電の放電経路が十分に伸びる前に次の重畳制御へ移行してしまう可能性もあり、必ずしも着火性能の向上に寄与できわけではない。逆に、プラグギャップ間流速の予測に応じて設定する電流ゾーンを2種類に設定すると、各電流ゾーンに対応させて設定する二次電流の電流値が、その流速変化の全範囲で火花放電の放電経路を十分に伸ばせるとは限らない。但し、内燃機関の特性や通常の運転状況から、プラグギャップ間流速が高流速側に寄っており、殆ど低流速には落ちない傾向にあるような場合ならば、低域の第3電流ゾーンを除外して第1電流ゾーンと第2電流ゾーンに対応させた第1重畳制御と第2重畳制御のみを行うような制御としても良い。このとき、第1,第2重畳制御を行う重畳制御時間txはそのままとしても良いが、1.5倍の重畳制御時間に増やせば、第1,第2重畳制御において火花放電の放電経路を伸ばすための時間を十分に確保できるので、着火性の向上に一層有効と考えられる。
また、重畳制御タイミング判定手段301が重畳制御の変更および終了を判定するための情報として重畳制御タイミング記憶手段305に記憶させるのは、重畳制御時間txに限定されない。例えば、クランク角センサとして高分解能の角度センサを用いている場合には、重畳制御変更タイミングとなるクランク角度を重畳制御タイミング記憶手段305に記憶させておくと共に、クランク角センサからのクランク角信号を重畳制御タイミング判定手段301に入力しておき(図16中、破線で示す)、設定されているクランク角度になる毎に、重畳制御タイミング判定手段301が重畳制御の変更を二次電流重ね制御信号生成手段303へ指示するようにしても良い。
上述したように、第5実施形態に係る内燃機関用点火装置5では、一次コイル電圧から想定される二次コイル電圧の変化状況は重畳制御に用いず、所定時間幅の第1重畳制御期間T1においては二次電流を第1電流値とする第1重畳制御を行い、続く所定時間幅の第2重畳制御期間T2においては二次電流を第2電流値とする第2重畳制御を行い、続く所定時間幅の第3重畳制御期間T3においては二次電流を第3電流値とする第3重畳制御を行うという比較的単純な制御によって、プラグギャップ間流速の高低変化に左右されずに、点火プラグ20の電極間に生じた火花放電を大きく膨らませることができるので、効率良く着火性を向上させることが可能となる。加えて、内燃機関用点火装置5で行う重畳制御では、二次電流を最も高い第1電流値からより低い第2電流値へ、更に低い第3電流値へと順次下げて行くので、点火のための消費電力を抑制して燃費の悪化を低減できる。
上述した第5実施形態に係る内燃機関用点火装置5では、点火コイル11Aの二次側を流れる二次電流を直接コントロールできる二次電流重ね手段50を放電エネルギ重畳手段として用いるものとしたが、放電エネルギ重畳手段はこれに限定されるものではない。例えば、図20に示す第6実施形態に係る内燃機関用点火装置6のように、点火タイミングIG以降に点火コイルの一次側から二次側へ誘導性の放電エネルギを重畳することで、点火プラグ20に発生した火花放電による着火性を向上させる構成とすることもできる。
図20に示す内燃機関用点火装置6は、第2,第4実施形態に係る内燃機関用点火装置2,4と同様、点火コイル11Bを設けた点火コイルユニット10Bと、副一次コイル通電許可スイッチ71と、副一次コイル通電スイッチ72と、点火コイルユニット10Bおよび副一次コイル通電許可スイッチ71と副一次コイル通電スイッチ72に対応した駆動制御機能を有する内燃機関駆動制御装置30Fを備える。なお、前述した第1~第5実施形態に係る内燃機関用点火装置1~5と同一の構成については、同一符号を付して説明を省略する。
内燃機関駆動制御装置30Fでは、タンブル流のプラグギャップ間流速を複数範囲の流速に分け、各流速に適した二次電流を所定時間毎に流すように、内燃機関駆動制御装置30Fが副一次コイル通電許可スイッチ71と副一次コイル通電スイッチ72の動作制御を行うことで、副一次コイル111bによる重畳磁束の発生タイミングや磁束量の制御を行う。かくすれば、その点火サイクルにおけるタンブル流の流速に適した電流値の二次電流に制御されている期間には、点火プラグ20の放電電極間に生じた火花放電が好適に伸びることとなるので、それだけ大きな火炎核が形成されて火炎伝搬も良好となり、着火性を向上させることができる。これら副一次コイル通電許可スイッチ71と副一次コイル通電スイッチ72の動作制御は、例えば、内燃機関駆動制御装置30Fに設けた重畳制御手段36の機能によって実行する。
重畳制御手段36の一例を図21に示す。重畳制御手段36には、重畳制御の開始・変更や終了のタイミングを判定する重畳制御タイミング判定手段301と、この重畳制御タイミング判定手段301が重畳制御開始タイミングを判定するための情報として用いる重畳制御開始条件を記憶している重畳制御開始条件記憶手段302と、重畳制御開始に伴って副一次コイル通電許可スイッチ71と副一次コイル通電スイッチ72を動作させるための副一次コイル通電許可信号Sb1と副一次コイル通電信号Sb2を生成して出力する副一次コイル制御手段306と、点火コイル二次側に流す二次電流の目標値として使用できる複数の電流値(例えば、第1電流値、第2電流値、第3電流値の3種類)を記憶しておく変更可能二次電流値記憶手段304と、重畳制御開始条件が成立して重畳制御を開始した後に成立する重畳制御変更タイミングを記憶しておく重畳制御変更タイミング記憶手段305と、を設ける。
重畳制御タイミング判定手段301には、点火信号Siと一次コイル電圧信号と重畳制御開始条件記憶手段302からの重畳制御開始条件が供給されており、点火信号SiがONからOFFとなる点火タイミングIG以降に、重畳制御開始条件を満たす重畳制御開始タイミングα1の成立を判定する。例えば、一次電流遮断による点火タイミングIGで容量放電エネルギが消費されて一次電圧が急激に高くなり、短時間で低下して行き、予め定めた指標値電圧に達したタイミングを重畳制御開始タイミングα1と判定する。
また、重畳制御開始条件は、放電開始から早期に成立する条件であれば、任意に設定して良く、例えば、容量放電と看做し得る所定期間(例えば、数十μs)が経過して誘導放電へ移行したと看做し得る状態になったことを重畳制御開始条件とする場合には、放電タイミングIGから所定期間の経過を重畳制御開始条件記憶手段302に記憶させておくことで、重畳制御タイミング判定手段301は重畳制御開始条件記憶手段302から取得した重畳制御開始条件を用いた重畳制御開始タイミングの判定を行い、副一次コイル制御手段306へ重畳制御の開始を指示することができる。なお、重畳制御開始条件記憶手段302に記憶させる重畳制御開始条件は、外部から重畳制御開始条件設定信号を入力することで任意に変更できるようにしておくと、内燃機関の特性に応じて柔軟に重畳制御開始条件を設定できるので、利便性を高めることができる。
重畳制御開始条件記憶手段302に記憶されていた重畳制御開始条件に基づいて重畳制御タイミング判定手段301が重畳制御開始タイミングα1の成立を判定すると、副一次コイル制御手段306に第1重畳制御開始指示を出し、その後、重畳制御変更タイミング記憶手段305に記憶されていた第1変更タイミングα2の成立(例えば、重畳制御開始タイミングα1から所定の重畳制御時間txが経過したこと)を判定すると、副一次コイル制御手段306に第2重畳制御開始指示を出し、その後、重畳制御変更タイミング記憶手段305に記憶されていた第2変更タイミングα3の成立(例えば、第1変更タイミングα2から所定の重畳制御時間txが経過したこと)を判定すると、副一次コイル制御手段306に第3重畳制御開始指示を出す。その後、重畳制御変更タイミング記憶手段305に記憶されていた重畳制御終了タイミングβの成立(例えば、第2変更タイミングα3から所定の重畳制御時間txが経過したこと)を判定すると、副一次コイル制御手段306に重畳制御終了指示を出す。なお、何らかの要因(故障や断線等)により、放電タイミングIG以降に重畳制御開始条件の成立を重畳制御タイミング判定手段301が判定できなかった場合には、重畳制御が開始されることは無い。
重畳制御開始条件の成立により、重畳制御タイミング判定手段301から第1重畳制御開始指示を受けた副一次コイル制御手段306は、副一次コイル通電許可信号Sb1および副一次コイル通電信号Sb2を生成して副一次コイル通電許可スイッチ71および副一次コイル通電スイッチ72へ出力し、重畳制御開始タイミングα1から第1変更タイミングα2に至る第1重畳制御期間T1が経過するまで、副一次コイル111bへの通電制御によって二次電流を第1電流値に保持する。すなわち、副一次コイル制御手段306が、二次電流検出信号により取得した二次電流の値に基づいて、副一次コイル111bに生じさせる重畳磁束で二次電流の値を第1電流値に保持あるいは近づける副一次電流が副一次コイル111bへ供給されるように、副一次コイル通電信号Sb2のパルス幅(デューティ比)を多段階(例えば、256段階)で調整した副一次コイル通電信号Sb2を生成して副一次コイル通電スイッチ72へ供給し、副一次コイル通電スイッチ72に適切なスイッチング動作を行わせることが、第1重畳制御である。
この第1重畳制御開始から所定の重畳制御時間txが経過して、重畳制御タイミング判定手段301より第2重畳制御開始指示を受けた副一次コイル制御手段306は、副一次コイル通電許可信号Sb1および副一次コイル通電信号Sb2を生成して副一次コイル通電許可スイッチ71および副一次コイル通電スイッチ72へ出力し、第1変更タイミングα2から第2変更タイミングα3に至る第2重畳制御期間T2が経過するまで、副一次コイル111bへの通電制御によって二次電流を第2電流値に保持する。すなわち、副一次コイル制御手段306が、二次電流検出信号により取得した二次電流の値に基づいて、副一次コイル111bに生じさせる重畳磁束で二次電流の値を第2電流値に保持あるいは近づける副一次電流が副一次コイル111bへ供給されるように、副一次コイル通電信号Sb2のパルス幅を多段階で調整した副一次コイル通電信号Sb2を生成して副一次コイル通電スイッチ72へ供給し、副一次コイル通電スイッチ72に適切なスイッチング動作を行わせることが、第2重畳制御である。
さらに、第2重畳制御開始から所定の重畳制御時間txが経過して、重畳制御タイミング判定手段301より第3重畳制御開始指示を受けた副一次コイル制御手段306は、副一次コイル通電許可信号Sb1および副一次コイル通電信号Sb2を生成して副一次コイル通電許可スイッチ71および副一次コイル通電スイッチ72へ出力し、第2変更タイミングα3から重畳制御終了タイミングβに至る第3重畳制御期間T3が経過するまで、副一次コイル111bへの通電制御によって二次電流を第3電流値に保持する。すなわち、副一次コイル制御手段306が、二次電流検出信号により取得した二次電流の値に基づいて、副一次コイル111bに生じさせる重畳磁束で二次電流の値を第3電流値に保持あるいは近づける副一次電流が副一次コイル111bへ供給されるように、副一次コイル通電信号Sb2のパルス幅を多段階で調整した副一次コイル通電信号Sb2を生成して副一次コイル通電スイッチ72へ供給し、副一次コイル通電スイッチ72に適切なスイッチング動作を行わせることが、第3重畳制御である。
なお、第1~第3重畳制御期間T1~T3と、二次電流を保持する第1~第3電流値との関係は、前述した第5実施形態と同様で、プラグギャップ間流速とクランク角度の関係を示す図22(a)、図23(a)、図24(a)のように、第1電流値で好適に火花放電の放電経路を伸ばせるプラグギャップ間流速の範囲を第1電流ゾーン、第2電流値で好適に火花放電の放電経路を伸ばせるプラグギャップ間流速の範囲を第2電流ゾーン、第3電流値で好適に火花放電の放電経路を伸ばせるプラグギャップ間流速の範囲を第3電流ゾーンに設定してある。
従って、図22(a)に示す高流速予測のプラグギャップ間流速の変化特性から、第1重畳制御期間T1においては二次電流を第1電流値に保持しておく第1重畳制御を行い、図23(a)に示す中流速予測のプラグギャップ間流速の変化特性から、第2重畳制御期間T2においては二次電流を第2電流値に保持しておく第2重畳制御を行い、図24(a)に示す中流速予測のプラグギャップ間流速の変化特性から、第3重畳制御期間T3においては二次電流を第2電流値に保持しておく第3重畳制御を行えば、プラグギャップ間流速に生ずる高低のブレに柔軟に対応でき、点火サイクル毎の放電時間内に火花放電の放電経路を伸ばして着火性を向上させることが可能となる。
このように、上述した第5実施形態に係る内燃機関用点火装置5と同様、本実施形態に係る内燃機関用点火装置6においても、予め設定した重畳制御時間tx毎に、二次電流の電流値を第1電流値、第2電流値、第3電流値へ順に変更するという簡単な制御で(図22(b)、図23(b)、図24(b)における副一次コイル通電信号Sb2波形および二次電流波形を参照)、プラグギャップ間流速の高低に影響されることなく、好適に火花放電の放電経路を伸ばして着火性を向上させることができる。
具体的には、図22(a)に示すように、プラグギャップ間流速が高い傾向にあるとき、その流速変化は、重畳制御開始タイミングα1から第1変更タイミングα2に至る第1重畳制御期間T1において、第1電流ゾーンに収まる傾向が強いと想定されるので、二次電流が第1電流値に保持されているときに放電電流の放電経路を伸ばすことができる。このように火花放電の放電経路が伸びた状況は、図22(b)の一次コイル電圧波形における第1重畳制御期間T1において、一次コイル電圧が大きく上昇していることから分かる。
また、図23(a)に示すように、プラグギャップ間流速が中程度であるとき、その流速変化は、第1変更タイミングα2から第2変更タイミングα1に至る第2重畳制御期間T2において、第2電流ゾーンに収まる傾向が強いと想定されるので、二次電流が第2電流値に保持されているときに放電電流の放電経路を伸ばすことができる。このように火花放電の放電経路が伸びた状況は、図23(b)の一次コイル電圧波形における第2重畳制御期間T2において、一次コイル電圧が大きく上昇していることから分かる。
また、図24(a)に示すように、プラグギャップ間流速が低い傾向にあるとき、その流速変化は、第2変更タイミングα3から重畳制御終了タイミングβに至る第3重畳制御期間T3において、第3電流ゾーンに収まる傾向が強いと想定されるので、二次電流が第3電流値に保持されているときに放電電流の放電経路を伸ばすことができる。このように火花放電の放電経路が伸びた状況は、図24(b)の一次コイル電圧波形における第3重畳制御期間T2において、一次コイル電圧が大きく上昇していることから分かる。
なお、適切な時間幅の重畳制御時間txは、内燃機関の特性や動作環境によって変化するので、例えば、外部からの重畳制御変更タイミング設定信号によって重畳制御変更タイミング記憶手段305の記憶内容を任意に変更できるようにしておけば、利便性が高い。但し、第1重畳制御~第3重畳制御を行うまでの期間が、点火コイル11Aによって生ずる放電時間を越えることがないよう、重畳制御時間txの時間幅に考慮しておく必要がある。
また、変更可能二次電流値記憶手段304に記憶させておく第1重畳制御用の第1電流値、第2重畳制御用の第2電流値、第3重畳制御用の第3電流値も、内燃機関の特性や動作環境によって変化するので、プラグギャップ間流速の変化特性に応じた電流ゾーンおよび対応する二次電流値を設定することができれば、汎用性を高めることができる。そこで、例えば、外部からの変更可能二次電流値設定信号によって変更可能二次電流値記憶手段304の記憶内容を任意に変更できるようにしておけば、第1~第3電流値を簡便に変更することが可能となり、利便性が高い。
また、重畳制御タイミング判定手段301が第1~第3重畳制御の開始・終了を判定する情報は、重畳制御時間txの経過に限定されるものではない。例えば、重畳制御タイミング判定手段301に二次電流検出信号を入力させておき(図21中、破線で示す)、二次電流検出信号によって検知した二次電流が第1~第3電流値に変更されてからの保持時間によって、第1~第3重畳制御の開始・終了を判定するようにしても良い。或いは、プラグギャップ間流速に生ずる高低変化の傾向に偏りがあるような場合には、第1重畳制御用の第1重畳制御時間tx1と第2重畳制御用の第2重畳制御時間tx2と第3重畳制御用の第3重畳制御時間tx3を別々の時間幅としておき、第1~第3重畳制御期間T1~T3がそれぞれ異なる時間幅となる設定を行えるようにしても構わない。
また、プラグギャップ間流速の予測に応じて設定する電流ゾーンは、3種類に限らず、4種類以上に設定しても良いが、各電流ゾーンに対応する重畳制御時間が短くなるため、火花放電の放電経路が十分に伸びる前に次の重畳制御へ移行してしまう可能性もあり、必ずしも着火性能の向上に寄与できわけではない。逆に、プラグギャップ間流速の予測に応じて設定する電流ゾーンを2種類に設定すると、各電流ゾーンに対応させて設定する二次電流の電流値が、その流速変化の全範囲で火花放電の放電経路を十分に伸ばせるとは限らない。但し、内燃機関の特性や通常の運転状況から、プラグギャップ間流速が高流速側に寄っており、殆ど低流速には落ちない傾向にあるような場合ならば、低域の第3電流ゾーンを除外して第1電流ゾーンと第2電流ゾーンに対応させた第1重畳制御と第2重畳制御のみを行うような制御としても良い。このとき、第1,第2重畳制御を行う重畳制御時間txはそのままとしても良いが、1.5倍の重畳制御時間に増やせば、第1,第2重畳制御において火花放電の放電経路を伸ばすための時間を十分に確保できるので、着火性の向上に一層有効と考えられる。
また、重畳制御タイミング判定手段301が重畳制御の変更および終了を判定するための情報として重畳制御タイミング記憶手段305に記憶させるのは、重畳制御時間txに限定されない。例えば、クランク角センサとして高分解能の角度センサを用いている場合には、重畳制御変更タイミングとなるクランク角度を重畳制御タイミング記憶手段305に記憶させておくと共に、クランク角センサからのクランク角信号を重畳制御タイミング判定手段301に入力しておき(図21中、破線で示す)、設定されているクランク角度になる毎に、重畳制御タイミング判定手段301が重畳制御の変更を副一次コイル制御手段306へ指示するようにしても良い。
上述したように、第6実施形態に係る内燃機関用点火装置6では、一次コイル電圧から想定される二次コイル電圧の変化状況は重畳制御に用いず、所定時間幅の第1重畳制御期間T1においては二次電流を第1電流値とする第1重畳制御を行い、続く所定時間幅の第2重畳制御期間T2においては二次電流を第2電流値とする第2重畳制御を行い、続く所定時間幅の第3重畳制御期間T3においては二次電流を第3電流値とする第3重畳制御を行うという比較的単純な制御によって、プラグギャップ間流速の高低変化に左右されずに、点火プラグ20の電極間に生じた火花放電を大きく膨らませることができるので、効率良く着火性を向上させることが可能となる。加えて、内燃機関用点火装置5で行う重畳制御では、二次電流を最も高い第1電流値からより低い第2電流値へ、更に低い第3電流値へと順次下げて行くので、点火のための消費電力を抑制して燃費の悪化を低減できる。
以上、本発明に係る内燃機関用点火装置の実施形態を添付図面に基づいて説明したが、本発明は、これらの実施形態のみに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の構成を変更しない範囲で、公知既存の等価な技術手段を転用することにより実施しても構わない。