以下に説明する最良の実施形態は、本発明を容易に理解するために用いられている。従って、当業者は、本発明が、以下に説明される実施形態によって不当に限定されないことを留意すべきである。
(第1の実施形態)
まず、図1(A)を参照する。図1(A)は、電力変換装置の一例としての、ハイブリッド電気自動車用のIPM(インテリジェントパワーモジュール)の外観を示す斜視図である。以下、電力変換装置10をIPM10と記載する。
IPM10は、2モータハイブリッドシステムに適用され得るものであり、エンジンからの最適な電力を取り出すためのジェネレータの制御を行う第1のインバータ(図2(A)における符号22)と、車輪駆動用のモータの制御を行う第2のインバータ(図2における符号24)と、を備えている(後述)。IPM10は、金属製の冷却部材12と、パワーモジュールケース14と、パワーモジュールケース14の上側(+Z軸側)に配置される回路基板16と、を有している。
パワーモジュールケース14の内部には、スイッチング動作を行う半導体素子と、電源配線としてのPバスバー(正極側バスバー)及びNバスバー(負極側バスバー)とが積層されてなる積層バスバーが収納(収容)されている(後述)。なお、Pバスバー(正極側バスバー)は、板状の導体部材である高電源側の第1のバスバーということができ、また、Nバスバー(負極側バスバー)は、板状の導体部材である低電源側の第2のバスバーということができる。
また、パワーモジュールケース14は直方体形状(但し、上面は無し)であり、長手方向(X軸方向)の側面には、上記のジェネレータ用のU、V、Wの各相の交流信号(3相交流信号)を出力する交流信号出力端子U1、V1、W1と、上記のモータ用のU、V、Wの各相の交流信号(3相交流信号)を出力する交流信号出力端子U2、V2、W2と、が設けられている。パワーモジュールケース14の短手方向(Y軸方向)の、互いに対向する側面の一方には、上記のPバスバー(正極側バスバー)に電気的に接続される正極電源端子VP1及びNバスバー(負極側バスバー)に電気的に接続される負極電源端子VN1が設けられ、他方の側面にも同様に、上記のPバスバー(正極側バスバー)に電気的に接続される正極電源端子VP2及びNバスバー(負極側バスバー)に電気的に接続される負極電源端子VN2が設けられる。
また、図1(A)の最上部に位置する回路基板16には、パワーモジュールケース14に収納(収容)されている、言い換えれば、パワーモジュールケース14の内側に設けられている、半導体素子のスイッチングを制御するためのスイッチング制御回路が設けられる。例えば、半導体素子がIGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)である場合には、回路基板16には、IGBTのゲートを駆動するゲートドライバ(GD)回路が設けられ、この場合は、回路基板はGD基板ということができる。
次に、図1(B)を参照する。図1(B)は、電源端子から引き出される積層バスバーの一態様を示す図である。なお、図1(B)は、図1(A)において破線で囲まれて示される領域Sに対応する図である。図示されるように、積層バスバーSBの構成要素であるPバスバー(正極側バスバー)BP及びNバスバー(負極側バスバー)BNの各々は、正極電源端子VP1及び負極電源端子VN1の各々から、パワーモジュールケース14の内側に向けて引き出され、+Y軸方向へと折曲られた後、+X軸方向へと導出される。X軸方向が、積層バスバーSBの延在方向ということができる。
PバスバーBPとNバスバーBNとの間には、樹脂等からなる電気的絶縁体(以下、単に絶縁体と記載する)Kが介在しており、各バスバーBP、BNは、この絶縁体Kの厚みに相当する距離(バスバー間距離、あるいは絶縁距離)だけ離れて、互いに対向して平行に延在している。なお、具体的には、その距離は、図3(B)の第1の部分90におけるa1に設定されている(この点は後述する)。
また、第1図(B)では、PバスバーBPとNバスバーBNとが、Y軸方向に積層される形態であるが、Z軸方向に積層される形態であってもよい。なお、「積層」とは、例えば、各バスバーが対向して立体的に配置され、各バスバーの延在方向に対して直交する方向から見た場合の平面視で、平板状の各バスバーが重なり合う(少なくとも一部の重なりを含む)ことである。
図1(C)は、+Z軸方向側から回路基板を透視して見た場合の、2つのインバータ回路、電圧制御ユニット及び各回路の構成要素である半導体素子の配置例を示すレイアウト図である。図1(C)では、第1のインバータ回路22は、「GEN側インバータ」と記載されているが、これはジェネレータ側のインバータであることを意味し、また、第2のインバータ回路24は、「TRC側インバータ」と記載されているが、これはモータを制御するトラクションコントローラ側のインバータであることを意味する(後述)。平面視で四角形であるパワーモジュールケース16の底面(例えば実装面)の中央には、電圧制御ユニット(図1(C)ではVCUと記載される)20が配置され、上記の積層バスバーSBが延在する方向である第1の方向(X軸方向)に直交する第2の方向(Z軸方向)から見た平面視において、電圧制御ユニット(VCU)20の、第1の方向(X軸方向)における両側に、第1のインバータ22及び第2のインバータ24の各々が配置され、対称的でバランスのよいレイアウトが採用されている。なお、このようなレイアウトを採用することの利点については後述する。
なお、電圧制御ユニット(VCU)20は、第1、第2のインバータ22、24の各々に、直流電圧を昇圧して得られる昇圧電圧、又は降圧して得られる降圧電圧を、Pバスバー(正極側バスバー)BPを経由して供給する機能を有しており、この電圧制御ユニット(VCU)20は、図1(B)からもわかるように、第1、第2のインバータ22、24と共に(具体的には、それらに隣接して)、パワーモジュールケース14の内側に収納(収容)されている。
また、第1のインバータ回路22は、半導体素子Q1〜Q6を備え、第2のインバータ24は、半導体素子Q7〜Q12を備え、電圧制御ユニット(VCU)20は、半導体素子Qa、Qbを備える。半導体素子としては、IGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)、GTO(ゲートターンオフサイリスタ)等を使用することができるが、ここでは、IGBTを用いるものとして説明する。
次に、図2(A)を参照する。図2(A)は、図1の電力変換装置の全体の回路構成例を示す回路図である。
図2(A)に示されるように、電力変換装置としてのIPM(インテリジェントパワーモジュール)10は、第1のインバータ22と、電圧制御ユニット(VCU)20と、第2のインバータ24と、ゲートドライバ(ゲートドライバ回路)40と、バッテリ30に接続される1次側コンデンサ32と、昇圧(降圧)に用いられるリアクトル(コイル)34と、昇圧(降圧)された電源電圧の平滑用の平滑コンデンサ36と、電力経路(電源配線)としての、一対のPバスバーBP及びNバスバーBNと、正極電源端子VP1、VP2と、負極電源端子VN1、VN2と、を備える。
このIPM10は、2モータハイブリッドシステムに適用され得るものであり、第1のインバータ22は、エンジン50からの最適な電力を取り出すためのジェネレータ(GEN)60の制御を行うインバータ(言い換えれば、GEN側インバータ)であり、また、第2のインバータ24は、車輪駆動用のモータ80の制御を行うトラクションコントローラ(TRC)70に交流信号を供給するインバータ(言い換えれば、TRC側インバータ)である。
第1のインバータ22に含まれる半導体素子Q1、Q2は、U相用のスイッチング出力回路を構成する。各半導体素子Q1、Q2には、並列にダイオードDが接続されている。各半導体素子Q1、Q2としては、上述のとおり、IGBTを用いることができる。
ここで、半導体素子Q1は、板状の導体部材である高電源側の第1のバスバーとしてのPバスバー(正極側バスバー)BPに、コレクタが接続される(言い換えれば、電気的に接続される)、スイッチング動作を行う第1の半導体素子ということができる。同様に、半導体素子Q2は、板状の導体部材である低源側の第2のバスバーとしてのNバスバー(負極側バスバー)BNに、コレクタが接続される(言い換えれば、電気的に接続される)、スイッチング動作を行う第2の半導体素子ということができる。半導体素子(IGBT)Q1のエミッタと、半導体素子(IGBT)Q2のコレクタとの共通接続点から、U相用の交流信号(交流電圧)U10が出力され、交流信号U10は、図1(A)の交流信号出力端子U1を介して、ジェネレータ(GEN)60に供給される。
以上の説明は、半導体素子Q1、Q2を含む、U相用のスイッチング出力回路についての説明であるが、半導体素子Q3、Q4を含む、V相用のスイッチング出力回路についても適用され、また、半導体素子Q5、Q6を含む、W相用のスイッチング出力回路についても適用される。
また、以上の説明は、第1のインバータ22についての説明であるが、第2のインバータ24についても同様に適用される。ここで、第2のインバータ24における半導体素子Q7、Q8は、U相用のスイッチング出力回路を構成する。半導体素子Q7は、板状の導体部材である高電源側の第1のバスバーとしてのPバスバー(正極側バスバー)BPに、コレクタが接続される(言い換えれば、電気的に接続される)、スイッチング動作を行う第3の半導体素子ということができる。同様に、半導体素子Q8は、板状の導体部材である低源側の第2のバスバーとしてのNバスバー(負極側バスバー)BNに、コレクタが接続される(言い換えれば、電気的に接続される)、スイッチング動作を行う第4の半導体素子ということができる。第3の半導体素子としての半導体素子Q7のエミッタと、第4の半導体素子としての半導体素子Q8のコレクタとの共通接続点から、U相用の交流信号(交流電圧)U20が出力され、交流信号U20は、図1(A)の交流信号出力端子U2を介して、トラクションコントローラ(TRC)70に供給される。第2のインバータ24における、V相用のスイッチング出力回路及びW相用のスイッチング出力回路についても、同様の説明が適用される。
また、電圧制御ユニット(VCU)20において、半導体素子(IGBT)Qaのエミッタと、半導体素子(IGBT)Qbのコレクタとの共通接続点は、リアクトル(コイル)34の一端に接続されている。
半導体素子Q1〜Q12、Qa、Qbの各々の動作(スイッチング動作)は、ゲートドライバ40から出力されるゲート制御信号によって個別に制御される。ゲートドライバ40は、各インバータ22、24、電圧制御ユニット20の制御部として機能する。また、ゲート制御信号は、各半導体素子(のゲート)を駆動する駆動信号ということもできる。ゲートドライバ40は、上位の制御部としてのECU(電子制御ユニット)39によって制御される。なお、ジェネレータ(GEN)60が生成して出力する信号(例えば直流信号)は、ECU39に供給される。なお、ジェネレータ(GEN)60が生成して出力する信号(例えば直流信号)は、ECU39に供給される。また、トラクションコントローラ(TRC)70の出力信号も、同様に、ECU39に供給される。
また、図2(A)では、平滑コンデンサ36、リアクトル(コイル)34、及び1次側コンデンサ32は、電圧制御ユニット(VCU)20の外に設けられているが、これらは、適宜、電圧制御ユニット(VCU)20内に取り込むことができる。この場合、外付け部品が減り、電力変換装置としてのIPM10をより小型化できる。
次に、図2(B)を参照する。図2(B)は、本発明に係る部分を含まない積層バスバーの部分的斜視図である。電力経路(電源配線)としての積層バスバーSBは、板状の導体部材である高電源側の第1のバスバーとしてのPバスバー(正極側バスバー)BPと、板状の導体部材である低電源側の第2のバスバーとしてのNバスバー(負極側バスバー)BNと、が絶縁体(図1(A)の符号K:図2(B)では省略)を介して積層された構造を有する。なお、Pバスバー(正極側バスバー)BP、Nバスバー(負極側バスバー)BNの各々には、適宜、ボンディングワイヤー接続領域、あるいは、直接に半導体素子等に接続するための分岐アーム(不図示)が設けられる。
次に、図2(C)を参照する。図2(C)は、図2(B)に示される積層バスバーの等価回路図である。図示されるように、例えば、Pバスバー(正極側バスバー)BPに分布するインダクタンス成分Lと、Pバスバー(正極側バスバー)BPとNバスバー(負極側バスバー)BNとの間の浮遊容量Cとで、LC回路(LC直列回路)が構成されている。このLC回路は、閉じたループが形成された場合には、LC直列共振回路として動作する可能性がある。
言い換えれば、電力経路(電源配線)としてのPバスバー(正極側バスバー)BP及びNバスバー(負極側バスバー)BNの電源電圧(高電位側電源電圧、低電位側電源電圧)には、例えば、スイッチング回路(具体的には、図2(A)の各相用のスイッチング出力回路)のスイッチングに伴うリップルや、リアクトル(コイル)34を用いたバッテリ30の電圧の昇圧や降圧に伴うリップル等の高周波成分が混在している。また、Pバスバー(正極側バスバー)BP及びNバスバー(負極側バスバー)BNは対向して配置されていることから、各バスバー間には、浮遊容量(寄生容量)が存在する。
また、高周波成分の周波数が高くなると、各バスバーは、各バスバーの延在方向に沿って、インダクタンス成分(L成分)及び容量成分(C成分)が連続的に分布する分布定数回路とみなすことができるようになる。また、図2(A)の回路図から明らかなように、各バスバーBP、BN間には、例えば平滑コンデンサ36が接続されており、各バスバーは、平滑コンデンサ36を介して交流的に接続されているとみることができ、すると、各バスバー間の浮遊容量及び平滑コンデンサ36を介する閉じたループが形成される可能性があり、よって、上記の高周波成分が振動源となって、各バスバーを介して共振(LC直列共振)が生じる可能性は否定できない。
そこで、本発明の実施形態では、不要輻射の軽減が可能な形状(不要輻射軽減形状)を備える積層バスバーを採用し、ノイズ対策のレベルを更に向上させる。この点について、図3(A)〜(C)を用いて説明する。図3(A)は、図1の電力変換装置で採用される、本発明に係る積層バスバーの要部の斜視図、図3(B)は、図3(A)に示される積層バスバーの具体的構成及び等価回路を示す図、図3(C)は、図3(A)の積層バスバーを使用した場合と使用しない場合における、高周波インピーダンスの周波数特性の測定結果を示す図である。なお、図3(A)では、絶縁体は省略している。なお、本発明では、空気絶縁の場合も排除しない。
図3(A)、(B)に示される積層バスバーSBは、Pバスバー(正極側バスバー)BP、及びNバスバー(負極側バスバー)BNの少なくとも一方(ここでは、PバスバーBPとする)に屈曲部93a、93bが設けられることによって、PバスバーBPとNバスバーBNとの間のバスバー間距離(絶縁距離)が第1の距離(図3(B)のa1)である第1の部分(図3(A)の破線で囲まれて示される符号90の部分)と、バスバー間距離(絶縁距離)が、第1の距離a1よりも長い第2の距離(図3(B)のa2)である第2の部分(図3(A)の破線で囲まれて示される符号92の部分)と、を有する。
なお、図3(A)、(B)において、第1の部分90に含まれるPバスバーはBP(1)と表記され、第2の部分92に含まれるPバスバーはBP(2)と表記されている。
積層バスバーSBの第2の部分92のバスバー間距離a2が、第1の部分90におけるバスバー間距離a1よりも長い(言い換えれば、各バスバー間の間隔が大きい)ため、第1の部分90の浮遊容量の容量値に比べて、第2の部分92の浮遊容量の容量値が小さくなり、積層バスバーの全体が一律に第1の部分90で構成される場合(言い換えれば従来構成の場合)に比べて、浮遊容量を介した漏れ電流が減少する。図3(B)では、第1の部分90における漏れ電流J1は大きく、一方、第2の部分92における漏れ電流J2は小さい。第2の部分92が設けられたことによって、積層バスバーSB全体として、浮遊容量を介して流れる漏れ電流が減少し、したがって、静電誘導ノイズを低減することができる。
また、積層バスバーSBを経由した共振回路を想定した場合、積層バスバーSBの全体に対応する共振回路(図2(C)で示したようなLC共振回路)は、図3(B)の左下側に示されるような、積層バスバーSBの第1の部分90に対応する第1の共振回路(インダクタンス成分がL1、容量成分がC1である)M1と、第2の部分92に対応する第2の共振回路(インダクタンス成分がL2、容量成分がC2であり、容量値はC1>C2の関係である)M2との組み合わせとみなすことができる。
よって、例えば、第2の部分92のバスバー間距離a2、あるいは、第2の部分92における、積層バスバーSBの延在方向(図3(A)、(B)の例ではX軸方向)における長さ(言い換えれば、屈曲部93aから屈曲部93bまでの距離)、あるいは。屈曲部を繰り返して設ける(言い換えれば、第2の部分92を複数、設ける)といった設計変更によって、部分的なLC回路の特性を適宜、調整することができ、これによって、積層バスバーSBの全体の共振回路の特性を調整(制御)することが可能となる。
例えば、共振周波数の値を放射ノイズが生じにくい周波数帯域にシフトさせ、あるいは、2つの共振回路のQ特性の合成によって全体の共振回路のQ値(共振の鋭さの指標)を抑制する、あるいは、共振ピーク値を抑制する、といったことができるようになり、よって、ノイズをより抑制(低減)できる、積層バスバーSBを用いる電力変換装置(例えば、IPM10)の提供が可能となる。
図3(C)を参照する。図3(C)において、横軸は、積層バスバーに混在する高周波成分の周波数(単位はMHz)であり、縦軸は、積層バスバーSBにおける高周波インピーダンス(高周波抵抗:単位Ω)である。破線で示される特性線110は、積層バスバーにおけるバスバー間距離が一律にa1の場合(本発明を適用しない場合)における周波数特性を示し、実線で示される特性線112は、積層バスバーSBにおいて、図3(B)のように、第1の部分90と、第2の部分92(一ヵ所)と、を設けた場合(本発明を適用した場合)における周波数特性を示す。
本発明を適用した場合の特性線112は、本発明を適用しない場合の特性線110に比べて、周波数が高い帯域でインピーダンスが低下しており、また、ピークが生じる周波数が概ね高周波数側にややシフト(変移)しており、回路の高周波特性が調整されていることがわかる。これは、本発明を適用した場合には、図3(B)で示したとおり、2つのLC回路(LC共振回路)M1、M2の合成によって、全体の回路の特性が決まることから、これによって、全体の回路の高周波特性に変化が生じた結果ということができる。
本発明は、図3(A)の例に限定されるものではない。例えば、図3(A)の例では、屈曲部(段差部)93a、93bが、積層バスバーSBの延在方向であるX軸方向に沿って設けられているが、屈曲部(段差部)を、積層バスバーSBの幅方向(Z軸方向)に沿って設けることによっても、各バスバー間の浮遊容量の容量値を変化させることができる。このような変型は、適宜、なし得る。
また、図3(A)の例では、屈曲部93a、93bにおける屈曲形状として、積層バスバーSBの延在方向に対して90度をなすように(つまり、直角に)折り曲げられているが、これに限定されるものではなく、積層バスバーSBの延在方向に対して90度未満の角度をなして傾斜して折り曲げられた形状であってもよい。傾斜した折り曲げを採用する場合は、直角に折り曲げる場合に比べて、屈曲部のエッジで電界集中が生じること(いわゆるエッジ効果)を緩和することができ、このことは、ノイズの抑制に効果があるものと考えられる。
また、上記の例では、一対のバスバーが積層される構成を示しているが、より多くのバスバーが積層される多層の積層バスバーにおいても、少なくともいずれかのバスバーに、屈曲部を設けることで、同様の効果を得ることができる。
このように、本発明の実施形態では、積層バスバーを構成する、少なくともいずれかのバスバーに屈曲部が設けられるが、この屈曲部を形成する技術的意義は、例えば、単に障害物を回避するといった機械的な意義ではなく、回路定数を積極的に調整する(制御する)という意義をもつ。
言い換えれば、積層バスバーSBが、第1の部分90及び第2の部分92を有することによって、第1の部分90における各バスバー間の浮遊容量の容量値と、第2の部分92における、各バスバー間の浮遊容量の容量値との間に差が生じ、第2の部分92においては、容量値が減少して漏れ電流が低減され、漏れ電流に起因する誘導ノイズが抑制されるという回路上の効果が得られる。また、上記の効果に加えて、第1の部分90に対応する各バスバーと浮遊容量と、を構成要素として含む共振回路(第1の共振回路)M1の共振周波数、及び第2の部分92に対応する各バスバーと浮遊容量と、を構成要素として含む共振回路(第2の共振回路)M2の共振周波数の各周波数値に差が生じ、第1の共振回路M1と第2の共振回路M2とが組み合わされる(合成される)ことで、積層バスバーSBの全体を構成要素として含む共振回路の特性が決定され得る(調整され得る)という回路設計上の効果を得ることができる。
(第2の実施形態)
次に、図4(A)〜(H)を参照して、本発明の変形例(応用例)について説明する。
図4(A)、図4(B)は各々、積層バスバーに屈曲部を設ける場合の第1、第2の変形例における構造及び等価回路を示す図、図4(C)〜(H)は各々、回路基板に実装される回路のレイアウトに対応して屈曲部を形成する位置を変更する、第3〜第8の変形例における構造を示す図である。なお、図4(A)〜(H)では、各バスバーは太い実線で示されている。
図4(A)の例では、Pバスバー(正極側バスバー)BPにおいて、屈曲部が繰り返し設けられて、BP(1)、BP(2)が繰り返し設けられる構成となっている。なお、図3(A)、(B)の例にて説明したとおり、BP(1)は、第1の部分90を構成するPバスバーであり、BP(2)は第2の部分92を構成するPバスバーである。この結果として、図4(A)の下側に示される回路図のように、7つのLC回路(LC共振回路)が構成され、これらの組み合わせによって全体のLC回路(LC共振回路)の特性が決まることになる。よって、より細かな回路定数(共振周波数等)の調整が可能となる。
図4(B)の例では、積層バスバーSBにおいて、Nバスバー(負極側バスバー)BNにおいても屈曲部が設けられる。言い換えれば、Nバスバー(負極側バスバー)BNにおいても、第1の部分90、第2の部分92の各々に対応して、BN(1)、BN(2)が繰り返される構成が採用される。Nバスバー(負極側バスバー)BNにおけるバスバーの屈曲方向(−Z軸方向)は、Pバスバー(正極側バスバー)BPにおけるバスバーの屈曲方向(+Z軸方向)とは逆向きであり、また、その逆向きの屈曲部は、Pバスバー(正極側バスバー)BPの屈曲部に対応して設けられることから、第2の部分92における、
BP(2)とBN(2)との間の距離(バスバー間距離、あるいは絶縁距離)は、図4(A)の場合の2倍となり、浮遊容量の容量値をより小さくすることが可能である。なお、図4(B)における積層バスバーの等価回路は、LC回路(LC共振回路)M1と、LC回路(LC共振回路)M3と、が繰り返される構成となる。なお、LC回路(LC共振回路)M3は、BP(2)及びBN(2)を構成要素として含む箇所におけるLC回路(LC共振回路)である。
次に、図4(C)〜(H)を参照する。これらの構成は、図1(C)に示した2つのインバータを含むレイアウトに対応させて、バスバーの屈曲部の位置を調整しようとする意図の下で採用されるものである。なお、図4(C)〜(H)において、積層バスバーにおける不要輻射軽減形状(不要輻射低減構造)が採用される部分(以下、「不要輻射軽減形状部分」と称する)は破線で囲い、かつH1〜H7の符号を付している。
先に図1(C)、図2(A)を用いて説明したように、電力変換装置としてのIPM10は、ジェネレータ側の第1のインバータ(GEN側インバータ)22と、トラクションコントローラ側の第2のインバータ(TRC側インバータ)24とが、電圧制御ユニット(VCU)20の両側(積層バスバーSBの延在方向における両側)に配置されたレイアウト構成を有する。また、第1のインバータ22に含まれる第1、第2の半導体素子(例えば、Q1、Q2)は、第2のインバータ24に含まれる第3、第4の半導体素子(例えばQ7、Q8)よりも高い周波数の駆動信号でスイッチングされ(言い換えれば、第1のインバータ22の動作周波数が、第2のインバータ24の動作周波数よりも高く設定され)、かつ、積層バスバーSBが、第1、第2のインバータ22、24の共通の電力経路として利用される(この点は、図2(A)の回路図から明らか)という構成である。
この場合において、図4(C)の例では、Pバスバー(正極側バスバー)BPに設けられる屈曲部93a、93bは、第1のインバータ(GEN側インバータ)22の実装領域において設けられる。言い換えれば、不要輻射軽減形状部分H1が、第1のインバータ22の実装領域において設けられる。動作周波数が高いためにノイズが生じ易い第1のインバータの実装領域に設けることによって、例えば、浮遊容量の容量値を小さくして、ノイズが生じ易い第1のインバータについての静電誘導ノイズを効果的に低減するという効果が得られる。
なお、「第1のインバータの実装領域」は、図1(C)の例では、符号22が付されている、破線で囲まれる矩形の領域である。先に説明したように、第1のインバータ22、第2のインバータ24、電圧制御ユニット(VCU)20、及び積層バスバーSBは、パワーモジュールケース14(図1(A)参照)に収納されている。例えば、パワーモジュールケース14の底面が実装面となっており、その実装面に半導体素子(パワーチップ)が実装されて、各インバータが構成される。図1(C)のように、積層バスバーの延在方向に直交する方向(+Z軸方向)から見た平面視にて、第1のインバータ22の実装領域は一義的に定まる。そして、積層バスバーSBの内の、第1のインバータ22の実装領域に対応する領域(具体的にはその近傍において配置されている部分)において、屈曲部93a、93b(言い換えれば、不要輻射軽減形状H1)が設けられる。以上の説明は、第2のインバータ24の実装領域についても適用され得る。
また、図4(D)の例では、積層バスバーSBの、第1のインバータ22の実装領域に対応する部分において、図4(A)に示した不要輻射軽減形状H2が採用されている。また、図4(E)の例では、積層バスバーSBの、第1のインバータ22の実装領域に対応する部分において、図4(B)に示した不要輻射軽減形状H3が採用されている。いずれの場合も、図4(C)の例と同様の効果が得られる。
一方、積層バスバーSBにおいて、屈曲部93a、93b等を形成することによるインダクタンス成分(L成分)の増加による悪影響の方が懸念される場合(例えば、屈曲部を繰り返し設けるような場合)は、動作周波数の高い第1のインバータ22の実装領域を避けて、動作周波数が低く、インダクタンス成分(L成分)の増加に起因するノイズが生じにくい第2のインバータ24の実装領域にて屈曲部93a、93b等を設けてもよい。この例が、図4(F)、(G)、(H)に示される。図4(F)、(G)、(H)の各例では、不要輻射軽減形状H4、H5、H6が、第2のインバータ24の実装領域に対応して設けられている。これらの例では、インダクタンス成分(L成分)の増加によるノイズを抑制しつつ、積層バスバー全体として共振周波数を調整して共振が生じにくくする、といった効果的な対策を採ることが可能である。
次に、図1(C)を参照して、電圧制御ユニット(VCU)20の両側に、第1、第2のインバータ22、24を設けるレイアウト構成の利点について説明する。
ここで、電圧制御ユニット(VCU)20は、直流電圧(例えば、バッテリ30の電圧)を昇圧(あるいは降圧)して得られる昇圧電圧(降圧電圧)をPバスバー(正極側バスバー)BPを経由して供給する、一種の電源として機能する。
図1(C)の例では、積層バスバーSBが延在する方向(具体的にはX軸方向)を第1の方向とする場合に、電圧制御ユニット(VCU)20の両側(第1の方向に沿う両側)に、第1、第2の各インバータ22、24が配置される左右対称的なレイアウト構成が採用されている。これによって、電圧制御ユニット(VCU)20と第1、第2の各インバータ22、24とを接続するPバスバーBP、NバスバーBNの長さ(言い換えれば、各インバータへの電力経路の長さ)が最短化される。
よって、各バスバーBP、BNのインダクタンス成分(L成分)が低減されることから、L成分が支配的な要素となることがなく、よって、上記の不要輻射軽減形状を設けることによる、各バスバー間の浮遊容量の低減(C成分の低減)の好ましい効果が顕在化し易くなり、また、例えば、第1、第2の各インバータ22、24を電圧制御ユニット(VCU)20を中心として左右対称的に配置することで回路のバランスがよくなり、不要な反射等が抑制されて不要輻射が低減されることになる。言い換えれば、図1(C)のようなレイアウト構成を採用して、L成分による悪影響を最小限化しておき、一方で、不要輻射軽減形状を備える積層バスバーを採用することで、好ましい効果を効果的に得ることが可能である。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、種々、変形、応用が可能である。例えば、本発明は、直流チョッパを備える電力変換回路にも適用可能であり、また、多層のバスバーを備える電力変換装置にも適用可能である。また、電力変換装置は、電動車両や、いわゆるハイブリッド車両に搭載される他、船舶用や一般産業用に供することもできる。