JP6971655B2 - 水性組成物、及び臨界防止方法 - Google Patents
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Description
(A)成分:分子量1000以下の化合物から選ばれる水性ゲル形成剤
(B)成分:中性子吸収材
(C)成分:酸化防止剤
本発明の水性組成物は、水中で放射線に暴露された状況でも長時間流動性のあるゲル形状を保持できることから、例えば、デブリの水中での動きに追従してデブリを覆い隠すことができるため、デブリを破壊し、回収する際などデブリからの放射線拡散を抑制することができる。
本発明の水性組成物は、下記(A)成分、(B)成分、(C)成分、及び水を含有する。
(A)成分:分子量1000以下の化合物から選ばれる水性ゲル形成剤
(B)成分:中性子吸収材
(C)成分:酸化防止剤
本発明の(A)成分は、分子量1000以下の化合物から選ばれる水性ゲル形成剤である。(A)成分は、水中でゲルを形成する成分が挙げられる。
(A)成分により、本発明の水性組成物は、放射線を発生する固体形状物の水中での移動に際し、該固体形状物の動きに追従して、該固体形状物の表面を覆い隠すことができる。なお、ここで定義するゲルとは、水などの分散媒において、界面活性剤のような分散質がネットワークを形成することにより、適度な弾性と高い粘性を持つもののほか、適度な流動性をもった状態の高粘性の流体も含むものと定義する。また水性ゲルとは、分散媒が水を含むゲルであると定義する。(A)成分が形成するゲルは、20℃以上、50℃以上、或いは80℃以上といった温度でもある程度の粘度を有するゲルを形成することが好ましい。デブリ周辺の冷却水は、デブリにより発せられる熱により、高温になっている可能性があり、このような条件下で、ある程度の粘度があることが好ましい。
界面活性剤を水に溶解させると球状ミセルを形成し、その溶液の粘度は低く水の値とほとんど変らない。しかし、ある種の界面活性剤、あるいは界面活性剤と塩を形成する成分、更には、界面活性剤と塩を含むような系では、溶液中のミセルの形態が棒状や長いひも状を形成することが知られている。そのようなひも状ミセルを含む水溶液は、ミセル同士のからみ合いによって弾性的なゲルのような力学特性を示すことができる。
また界面活性剤が形成する会合体の構造を考察するのに、Israelachviliらにより提案された臨界充填因子(critical packing parameter;P)の値がしばしば用いられる。一般に、1/3<P<1/2を満たすような極性基が小さい1本鎖の界面活性剤(たとえばノニオン性界面活性剤など)は,円筒状(棒状)のミセルを形成することが知られている。従って、単独の界面活性剤、あるいは、ある種イオンと塩を形成する界面活性剤、特定の界面活性剤と特定の成分との関係等から界面活性剤の臨界充填因子Pが上記範囲付近にすることで、ひも状ミセルを形成させることが可能となる。
(A1)成分は、ひも状ミセルを形成させる観点から、炭素数16以上22以下の炭化水素基を1つ有する4級塩型カチオン性界面活性剤から選ばれる1種以上が好ましく、更に高温(80℃)でひも状ミセルを形成させる観点から、炭素数16以上18以下の炭化水素基を1つ有する4級塩型カチオン性界面活性剤と炭素数22の炭化水素基を1つ有する4級塩型カチオン性界面活性剤であることがより好ましい。
(A2)成分は、(A1)と塩を形成し、適度な流動性を有し、ひも状ミセルを形成させる観点から、芳香環を有するカルボン酸、芳香環を有するスルホン酸及びこれらの塩から選ばれる1種以上が好ましく、放射線に対する耐久性の観点から、芳香環を有するカルボン酸及びその塩から選ばれる1種以上がより好ましく、サリチル酸、トルイル酸、メチルサリチル酸、安息香酸、フェノキシ酪酸及びこれらの塩から選ばれる1種以上が更に好ましく、サリチル酸、フェノキシ酪酸及びこれらの塩から選ばれる1種以上がより更に好ましく、サリチル酸又はその塩がより更に好ましい。
炭化水素基の炭素数は、現実的な使用に適した濃度で適度な流動性を有し、ひも状ミセルを形成させる観点から、12以上、好ましくは14以上、より好ましくは16以上、更に好ましくは18以上、そして、22以下、好ましくは20以下である。
前記硫酸エステル又はその塩は、アルキレンオキサイドとしてエチレンオキサイドを含むことが好ましい。
アルキレンオキサイドの平均付加モル数は、適度な流動性を有し、ひも状ミセルを形成させる観点から、好ましくは1以上、より好ましくは2以上、そして、現実的な使用に適した濃度でひも状ミセルを形成させる観点から、好ましくは20以下、より好ましくは16以下、更に好ましくは14以下、より更に好ましくは12以下、より更に好ましくは10以下、より更に好ましくは9以下である。
これらのノニオン性界面活性剤は、構造中に、炭素数10以上、好ましくは14以上、そして、26以下、好ましくは22以下の炭化水素基を、少なくとも1つ有している化合物が好ましく、1つ有している化合物がより好ましい。
脂肪酸アミドアルキル三級アミンとしては、ラウリルアミドプロピルジメチルアミン、ミリスチルアミドプロピルジメチルアミン、パルミチルアミドプロピルジメチルアミン、ステアリルアミドプロピルジメチルアミン、ベヘニルアミドプロピルジメチルアミン、オレイルアミドプロピルジメチルアミン、パルミチルアミドプロピルジエタノールアミン、ステアリルアミドプロピルジエタノールアミン等の炭素数10以上26以下の脂肪酸アミドプロピルジメチルアミンが挙げられる。これら化合物の脂肪酸の炭素数は、好ましくは10以上、より好ましくは12以上、そして、好ましくは26以下、より好ましくは22以下である。
これらの中でも脂肪族アミドプロピルジメチルアミンが好ましく、ベヘニルアミドプロピルジメチルアミン、オレイルアミドプロピルジメチルアミン、ステアリルアミドプロピルジメチルアミン、及びパルミチルアミドプロピルジメチルアミンから選ばれる1種以上が好ましく、特にはべへニルアミドプロピルジメチルアミンが好ましい。
本発明の(B)成分は、中性子吸収材である。中性子と原子核との核反応によりその中性子が原子核に吸収される場合を、中性子の吸収反応という。中性子吸収材とは、このように中性子の吸収反応により、中性子を吸収する物質をいう。本発明の水性組成物は、(B)成分を含有することにより、デブリ中に存在する核分裂性物質から放射される中性子を吸収して臨界状態を防止することができる。
本発明の(C)成分は、酸化防止剤である。デブリ中に存在する核分裂性物質から放射される放射線により、(A)成分は分解し、また分解によりラジカルを生成するため更なる分解を増長し、(A)成分の水性ゲル形成力が低減するが、本発明の水性組成物は、(C)成分である酸化防止剤を含有するため、(C)成分がラジカルを捕捉することにより、(A)成分の分解を防止することができ、水性ゲル形成を維持することができる。
酸化防止剤としては、アスコルビン酸及びその構造を有する化合物、ヒドロキノン及びその構造を有する化合物、チオグリセロール、アミノエタンチオール等のチオール基を有する化合物が挙げられる。
(C)成分は、(A)成分の放射線耐性を向上させる観点から、チオグリセロール、アミノエタンチオール、チオグリコール酸、チオ酢酸、チオ乳酸、3−メルカプトプロピオン酸、チオリンゴ酸、グルタチオン、システイン、N−アセチル−L−システイン、システアミン、アスコルビン酸、ヒドロキノン、及びこれらの塩から選ばれる1種以上が好ましく、チオグリセロール、アミノエタンチオール、グルタチオン、システイン及びこれらの塩から選ばれる1種以上がより好ましく、チオグリセロール、アミノエタンチオール、及びこれらの塩から選ばれる1種以上が更に好ましく、アミノエタンチオール又はその塩がより更に好ましい。
本発明の水性組成物は、(A)成分を、中性子吸収材の分散状態を均一に保つ観点から、好ましくは0.25質量%以上、より好ましくは0.75質量%以上、更に好ましくは1.0質量%以上、そして、組成物のハンドリングの観点から、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは5質量%以下、含有する。
本発明の水性組成物における粘度は、B型回転粘度計で、ローターNo.3を用い、1.5〜30rpm、1分後の値として測定されたものであり、必要により、粘度の測定範囲に入るようにローターNo.2又は1を用いる。
本発明の水性組成物は、放射線を発生する固体形状物(すなわち、核分裂性物質含有のデブリ)の水中での移動に際し、(A)成分により、該固体形状物の動きに追従して、該固体形状物の表面を覆い隠すことができ、隙間なく該デブリを中性子吸収材である(B)成分で覆うことができるため、該デブリの放射線拡散を抑制することができる。また本発明の水性組成物は、酸化防止剤である(C)成分を含有するため、放射線による(A)成分の分解を抑制し、長時間流動性のあるゲル形状を保つことができるため、該デブリを長時間覆い隠し、該デブリの放射線拡散を抑制することができる。また、本発明の水性組成物は、組成を調整することにより、高温でも高い粘度と流動性を維持できるため、高温になった水温でも上記効果を維持することができる。
本発明の臨界防止方法は、本発明の水性組成物で、核分裂性物質を含有するデブリを被覆する臨界防止方法である。
本発明は、水性組成物を用いた該デブリの再臨界を防止することのできる臨界防止方法に関する。
本発明の臨界防止方法には、本発明の水性組成物で述べた事項を適宜用いることができる。
下記配合成分を用いて、表1に示す水性組成物を調製し、以下の項目について評価を行った。結果を表1に示す。表1の水性組成物は、適量のイオン交換水に(C)成分を溶解した後、(B)成分を添加してプロペラ型撹拌羽で撹拌(300rpm)し、(A)成分を添加して、3分間混錬することでスラリー形態の水性組成物を調製した。なお、表1中の配合成分の質量%は、全て有効分に基づく数値である。実施例中の組成物は、放射線照射前の25℃における粘度が0.5Pa・s以上であり、弾力のある性状から、ひも状ミセルが形成されているものと考えられる。
・ベヘニルトリメチルアンモニウムクロライド:(A1)成分((A1−2)成分)、コータミン2285E(有効分58質量%)、花王(株)製
・ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド:(A1)成分((A1−1)成分)、コータミン86W(有効分29質量%)、花王(株)製
・エルシルビスヒドロキシエチルメチルアンモニウムクロライド:(A1)成分((A1−2)成分)、(有効分25質量%)、アクゾノーベル(株)製
・サリチル酸ナトリウム:(A2)成分(有効分100質量%)、和光純薬工業(株)製
・ポリオキシエチレン(9)オレイルエーテル硫酸ナトリウム:(A3)成分、下記合成例1により得られる化合物
・オレイルジメチルアミンオキシド:(A4)成分、ユニセーフA−OM(有効分29質量%)、日油(株)製
・ベヘニルアミドプロピルジメチルアミン:(A5)成分、アミデットAPA−22(有効分100質量%)、花王(株)製
・オレイン酸ジエタノールアミド:(A5)成分(有効分100質量%)、和光純薬工業(株)製
ポリオキシエチレン(9)オレイルエーテル硫酸ナトリウムの合成
エマルゲン409PV(花王(株)製)と硫酸ガス用い、40℃で硫酸化反応を行った。反応後、水酸化ナトリウム水溶液とイオン交換水で中和を行った。
更に水酸化ナトリウム水溶液、リン酸及びイオン交換水を用いて濃度とpHの調整を行い、ポリオキシエチレン(9)オレイルエーテル硫酸ナトリウム25重量%水溶液を得た。なお( )はオキシエチレン基の平均付加モル数を示す。
・炭化ホウ素:F−500、ESK Ceramics GmbH & Co.製
(C)成分
・チオグリセロール:東京化成工業(株)製、水溶性酸化防止剤
・アミノエタンチオール塩酸塩:和光純薬工業(株)製、水溶性酸化防止剤
調製した各水性組成物を、25℃又は80℃に調整し、粘度を測定した。粘度測定は、B型回転粘度計で、ローターNo.3を用い、30rpm、1分後の値として測定されたものを表1に示した。なお、上記方法で振り切れた場合は、回転数を30rpmから順次10rpm、6rpm、1.5rpmまで下げて、振り切れなくなったところの値を表1に示した。
調製した各水性組成物を、スクリュー管No.7((株)マルエム製)にスラリー40g添加してアルミ箔で軽く封じ、ステンレス保存容器(φ57×81)に入れてγ線照射試験を行った。γ線照射は、大気中、室温(25℃)下においてコバルト60を線源として10kGy/hの照射強度で90時間照射した。γ線照射後の各水性組成物を、25℃に調整し、粘度を測定した。粘度測定は、B型回転粘度計で、ローターNo.3を用い、30rpm、1分後の値として測定されたものを表1に示した。なお、上記方法で振り切れた場合は、回転数を30rpmから順次10rpm、6rpm、1.5rpmまで下げて、振り切れなくなったところの値を表1に示した。
Claims (14)
- 下記(A)成分、(B)成分、(C)成分、及び水を含有する、核分裂性物質を含有するデブリ被覆用の水性組成物。
(A)成分:水中でひも状ミセルを形成する、分子量1000以下の化合物から選ばれる水性ゲル形成剤
(B)成分:中性子吸収材
(C)成分:酸化防止剤 - 前記水性組成物が、ひも状ミセルを含む、請求項1に記載の水性組成物。
- (A)成分が、(A1)カチオン性界面活性剤(以下、(A1)成分という)、(A2)アニオン性芳香族化合物(以下、(A2)成分という)、(A3)アニオン性界面活性剤(以下、(A3)成分という)、(A4)両性界面活性剤(以下、(A4)成分という)、及び(A5)ノニオン性界面活性剤(以下、(A5)成分という)から選ばれる1種以上の水性ゲル形成剤である、請求項1又は2に記載の水性組成物。
- (A)成分が、(A1)成分と(A2)成分である、請求項3に記載の水性組成物。
- (A1)成分が、炭素数16以上22以下の炭化水素基を1つ有する4級塩型カチオン性界面活性剤から選ばれる1種以上である、請求項3又は4に記載の水性組成物。
- (A1)成分が、炭素数16以上18以下の炭化水素基を1つ有する4級塩型カチオン性界面活性剤と炭素数22の炭化水素基を1つ有する4級塩型カチオン性界面活性剤である、請求項3〜5の何れか1項に記載の水性組成物。
- (A)成分が、(A4)成分と(A2)成分である、請求項3に記載の水性組成物。
- (A2)成分が、サリチル酸又はその塩である、請求項3〜7の何れか1項に記載の水性組成物。
- (A)成分が、(A3)成分と(A5)成分である、請求項3に記載の水性組成物。
- (B)成分が、炭化ホウ素、及び酸化ガドリニウムから選ばれる1種以上である、請求項1〜9の何れか1項に記載の水性組成物。
- (C)成分が、水溶性の酸化防止剤である、請求項1〜10の何れか1項に記載の水性組成物。
- (C)成分が、硫黄原子を含む酸化防止剤である、請求項1〜11の何れか1項に記載の水性組成物。
- (A)成分の含有量が0.25質量%以上20質量%以下、(B)成分の含有量が30質量%以上80質量%以下、(C)成分の含有量が0.1質量%以上5質量%以下である、請求項1〜12の何れか1項に記載の水性組成物。
- 請求項1〜13の何れか1項に記載の水性組成物で、核分裂性物質を含有するデブリを被覆する、臨界防止方法。
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