以下、実施形態によるブレーキ装置を、四輪自動車に適用した場合を例に挙げ、添付図面を参照して説明する。
図1、図2は、本発明の第1の実施形態を示している。ブレーキ装置1は、車両に搭載され、電気的に制動力を付与する電動ブレーキ装置となっている。そして、ブレーキ装置1は、ブレーキペダル2、制動操作量検出器3、車両速度検出器4、電動式ブレーキキャリパ5、および制御装置16を含んで構成されている。
ブレーキペダル2は、運転席の前方に配置されたアクセルペダル(図示せず)と並んで設けられ、運転者が車両を減速させるとき(制動要求を行うとき)に足踏み操作される制動操作部材である。制動操作量検出器3は、例えばブレーキペダル2に設けられ、ブレーキペダル2の制動操作量を検出するものである。制動操作量検出器3は、例えばブレーキペダル2の操作力を検出するブレーキペダル踏力センサおよびブレーキペダル2の操作量を検出するブレーキペダルストロークセンサからなっている。この制動操作量検出器3は、検出した制動操作量を制御装置16に出力する。
車両速度検出器4は、車速または車輪速を検出するもので、例えば車輪の回転速度を検出する車輪速センサまたは車両の絶対位置を観測することで車両の速度を検出する衛星測位システム受信器によって構成されている。この車両速度検出器4は、検出した車両速度Vを制御装置16に出力する。
電動式ブレーキキャリパ5は、車輪とともに回転するディスクD(回転部材)に制動力を付与するもので、制御装置16により制御されている。電動式ブレーキキャリパ5は、例えば図1中の矢示A方向に回転しているときに前進となり、矢示A方向とは逆方向に回転しているときに後退となるディスクDの外周を跨ぐように設けられている。そして、電動式ブレーキキャリパ5は、電動機6、回転角検出器7、減速機8、ブラケット9、キャリパ本体10、ピストン11、回転直動変換機12、インナブレーキパッド13、アウタブレーキパッド14、および押圧力検出器15を含んで構成されている。
電動機6は、後述のピストン11を推進するための駆動源となる電動モータである。電動機6は、制御装置16から出力される制動指令により、ピストン11がインナブレーキパッド13を押圧する押圧力を達成するためのトルクを発生させる。回転角検出器7は、電動機6の回転軸(図示せず)の回転角を検出するもので、例えば回転角センサからなっている。この回転角検出器7は、検出した回転角を制御装置16に出力する。減速機8は、電動機6が発生させたトルクを減速比に応じて変換するもので、例えば平歯多段減速機構および遊星歯車減速機構等からなっている。なお、減速機8は、プーリ減速機構によって構成してもよい。減速機8は、電動機6の回転を所定の減速比で減速、増強して後述の回転直動変換機12に伝達する。
ブラケット9は、ディスクDの外周を跨ぐようにして車両の非回転部に取り付けられている。このブラケット9は、後述のインナブレーキパッド13を支持するインナ側支持部9Aと、後述のアウタブレーキパッド14を支持するアウタ側支持部9Bとを備えている。インナ側支持部9Aとアウタ側支持部9Bとは、ディスクDを挟んだ位置にそれぞれ凹状に形成され、インナブレーキパッド13とアウタブレーキパッド14とがディスクDの軸方向に移動自在に支持されている。
キャリパ本体10は、ブラケット9にディスクDの軸方向に移動自在に取り付けられている。即ち、ブラケット9とキャリパ本体10とは、キャリパ浮動型のディスクブレーキとなっている。そして、キャリパ本体10は、車両内側の基端部に配置された円筒状のシリンダ部10Aと、シリンダ部10AからディスクDの外周側を跨いでアウタ側に延び、車両外側の先端側に配置された爪部10Bとが一体的に形成されている。
シリンダ部10Aには、有底のカップ状に形成されたピストン11がディスクDの軸方向に移動自在に収納されている。このピストン11は、後述のインナブレーキパッド13にディスクDの軸方向に対向して設けられ、ディスクDに向けて移動することによりインナブレーキパッド13を押圧する。この場合、ピストン11によるインナブレーキパッド13への押圧力に対する反力により、キャリパ本体10がブラケット9に対してインナ側に移動することで爪部10Bがアウタブレーキパッド14をディスクDに押し付ける。
回転直動変換機12は、例えばボールねじ機構からなり、電動機6から減速機8に伝達された回転運動を直線運動に変換する。この回転直動変換機12は、基端側が減速機8に接続され、先端側がキャリパ本体10のシリンダ部10A内に設けられたピストン11に当接するプッシュロッド12Aと、シリンダ部10A内に設けられプッシュロッド12Aの外周側にねじ係合されるベースナット12Bとを含んで構成されている。回転直動変換機12は、プッシュロッド12Aがベースナット12Bに対して相対回転しながら前進することによりピストン11をディスクDに向けて推進させる。
インナブレーキパッド13とアウタブレーキパッド14とは、車輪の回転とともに回転するディスクDを押圧して制動力を付与する摩擦部材である。インナブレーキパッド13は、ピストン11とディスクDとの間に位置してブラケット9のインナ側支持部9Aに設けられている。インナブレーキパッド13は、ディスク回転方向(図1中の上,下方向)の両端側がインナ側支持部9Aにそれぞれ摺動可能に挿入される裏板13Aと、裏板13Aに固着されディスクDに摩擦接触するライニング13Bとを含んで構成されている。このインナブレーキパッド13は、裏板13Aがピストン11により押圧されることにより、ライニング13BがディスクDの一面に摩擦接触する。また、図1に示すように、裏板13Aとインナ側支持部9Aとの間には、インナブレーキパッド13がディスクDの軸方向に円滑に摺動するための隙間Sが形成されている。
一方、アウタブレーキパッド14は、爪部10BとディスクDとの間に位置してブラケット9のアウタ側支持部9Bに設けられている。アウタブレーキパッド14は、ディスク回転方向(図1中の上,下方向)の両端側がアウタ側支持部9Bにそれぞれ摺動可能に挿入される裏板14Aと、裏板14Aに固着されディスクDに摩擦接触するライニング14Bとを含んで構成されている。このアウタブレーキパッド14は、裏板14Aが爪部10Bに押圧されることにより、ライニング14BがディスクDの他面に摩擦接触する。また、図1に示すように、裏板14Aとアウタ側支持部9Bとの間には、アウタブレーキパッド14がディスクDの軸方向に円滑に摺動するための隙間Sが形成されている。
押圧力検出器15は、回転直動変換機12のプッシュロッド12Aに設けられ、例えばロードセルを用いた押圧力センサからなっている。押圧力検出器15は、ピストン11からインナブレーキパッド13およびアウタブレーキパッド14への押圧力に対する反力を検出している。即ち、ディスクDがインナブレーキパッド13およびアウタブレーキパッド14により挟まれて制動力が発生し始めると、その反力がプッシュロッド12Aを介して押圧力検出器15に付与される。そして、押圧力検出器15は、その検出した押圧力を後述の制御装置16に出力する。
次に、電動式ブレーキキャリパ5を制御する制御装置16について説明する。
制御装置16は、制動要求に応じてインナブレーキパッド13とアウタブレーキパッド14とをディスクDに向けて押圧させる。制御装置16は、入力側に制動操作量検出器3、車両速度検出器4、回転角検出器7、および押圧力検出器15が接続され、出力側に電動機6が接続されている。制御装置16は、制動操作量検出器3から出力された信号を受けて、メモリ16Aに予め格納(記憶)された制御プログラムにより各車輪に対しての目標制動力(押圧力)の演算を行う。
そして、制御装置16は、算出した目標制動力に基づいて電動機6に制動指令を出力する。また、制御装置16は、回転角検出器7から電動機6の回転角度を受信し、押圧力検出器15からインナブレーキパッド13およびアウタブレーキパッド14の押圧力を受信して目標制動力が達成するように電動機6を制御する。この場合、制御装置16は、車両速度検出器4から車速または車輪速を受信して車両が減速しているか否かを監視している。
また、制御装置16は、車両速度検出器4で検出された車両速度Vが速度閾値Va(所定速度)以下(V≦Va)のときに、制動要求がなくてもインナブレーキパッド13とアウタブレーキパッド14とを制動に寄与しない押圧力(制動力が発生しない押圧力)でディスクDに接触させる。このために、制御装置16には、制動に寄与しない押圧力を発生させるように電動機6を駆動するパッド移動部16Bが設けられている。
速度閾値Vaは、車両の動き始め(車両発進直後)の速度に設定されており、制御装置16のメモリ16Aに予め格納されている。一例を挙げると、速度閾値Vaは、例えば時速3km〜5km程度の低速として設定されている。また、メモリ16Aには、図2に示す押圧力発生制御の制御プログラムが格納されている。制御装置16のパッド移動部16Bは、メモリ16Aに格納された押圧力発生制御の制御プログラムにより、車両速度Vが速度閾値Va以下のときに、インナブレーキパッド13とアウタブレーキパッド14とを低速で回転するディスクDに僅かに(緩やかに)接触させる。
即ち、インナブレーキパッド13とアウタブレーキパッド14とは、制動力を付与しない押圧力(以下、非制動押圧力という)でディスクDと摩擦接触する。この非制動押圧力は、ディスクDの制動に影響を与えない値、即ち車両が減速しない値として実験、計算、シミュレーション等により設定され、メモリ16Aに格納されている。
これにより、インナブレーキパッド13は、ディスクDの回転に引き摺られてディスクDの回転方向の回出側のインナ側支持部9Aに近接する位置まで移動する。一方、アウタブレーキパッド14は、ディスクDの回転に引き摺られてディスクDの回転方向の回出側のアウタ側支持部9Bに近接する位置まで移動する。
そして、パッド移動部16Bは、車両速度Vが速度閾値Vaよりも大きくなったときには、インナブレーキパッド13とアウタブレーキパッド14との非制動押圧力を解除する。これにより、インナブレーキパッド13とアウタブレーキパッド14とは、ディスクDから離れる方向に移動してディスクDと非接触となる。
このように、制御装置16のパッド移動部16Bは、車両が低速のときに電動機6を駆動して、予めディスクDの回転方向にインナブレーキパッド13とアウタブレーキパッド14とを移動させている。その結果、その後にブレーキ操作がなされたときには、インナブレーキパッド13とアウタブレーキパッド14とがインナ側支持部9Aとアウタ側支持部9Bとにそれぞれ衝突する運動エネルギを低減することができるので、クロンク音の発生を抑制することができる。
本実施形態によるブレーキ装置1は、上述の如き構成を有するもので、次にその作動について説明する。
運転者がブレーキペダル2を踏込み操作すると、制動操作量検出器3がブレーキペダル2の操作量を検出し、その操作量を制御装置16に出力する。制御装置16は、制動操作量検出器3が検出した操作量に基づき目標制動力を演算する。そして、制御装置16は、演算した目標制動力に基づく制動指令を電動機6に出力する。電動機6は、制御装置16からの制動指令に基づき回転軸を正方向(アプライ方向)に回転駆動し、その回転が減速機8を経由することで所定の減速比で減速、増強される。そして、減速機8の回転は、回転直動変換機12のプッシュロッド12Aに伝達される。
プッシュロッド12Aは、ベースナット12Bに対して相対回転しながら前進することにより、ピストン11をディスクDに向けて押圧する。これにより、ピストン11は、インナブレーキパッド13をディスクDに押し付ける。そして、ピストン11によるインナブレーキパッド13への押圧力に対する反力により、キャリパ本体10がブラケット9に対して図1における右方向に移動して、爪部10Bがアウタブレーキパッド14をディスクDに押し付ける。この結果、ディスクDがインナブレーキパッド13およびアウタブレーキパッド14により挟みつけられ、摩擦力が発生して車両に制動力が発生する。
この場合、押圧力検出器15は、ピストン11の推進によるインナブレーキパッド13およびアウタブレーキパッド14からディスクDへの押圧力を検出して、制御装置16に出力している。また、回転角検出器7は、電動機6の回転軸の回転角を検出して、制御装置16に出力している。制御装置16は、これら検出値を監視して目標制動力を満たすように電動機6を制御する。
一方、ブレーキペダル2が非操作となった制動解除時には、制御装置16からの制動解除指令により、電動機6の回転軸が逆方向(リリース方向)に回転すると共に、その逆方向の回転が減速機8を介してプッシュロッド12Aに伝達される。その結果、プッシュロッド12Aがベースナット12Bに対して逆方向に相対回転しながら後退することでピストン11がディスクDから離れる方向に移動し、ディスクDへのインナブレーキパッド13およびアウタブレーキパッド14による制動力が解除される。
ところで、上述した特許文献1では、車両の進行方向が逆転したことを検出したときに、ブレーキパッドをディスクに向けて押圧させ、ブレーキパッドを予めディスクの回転方向に移動させている。これにより、運転者がブレーキ操作を行ったときに、ブレーキパッドがブラケットに衝突するときの運動エネルギを低減させてクロンク音の発生を抑制している。
しかし、特許文献1に記載されたブレーキ装置では、車両の進行方向が逆転したことを検出する信号を取得できない場合には、ブレーキパッドをディスクの回転方向に移動させることが困難となる虞がある。特に、車両を後退させて駐車した後に車両の電源が切られた場合には、後退させたときの記憶がリセットされてしまい、その後に車両を前進させたときに車両の進行方向が逆転したか否かを検出する信号が取得できない虞がある。
そこで、本実施形態では、車速または車輪速が所定速度以下で制動要求がないときに、ブレーキパッド13,14とディスクDとを制動に寄与しない押圧力で接触させている。具体的には、制御装置16は、車速または車輪速(車両速度V)が所定速度(速度閾値Va)以下(V≦Va)で制動要求がないときに電動機6を駆動し、制動に寄与しない推力でピストン11を推進してブレーキパッド13,14とディスクDとを接触させる。これにより、車両の進行方向の情報を取得することなくクロンク音の発生を抑制することができ、ブレーキ装置の信頼性を向上することができる。
次に、制御装置16が行う押圧力発生制御について、図2を参照して説明する。なお、図2に示す制御処理は、車両の電源がONとなっている間に予め決められた制御周期で繰り返し実行される。
ステップ1では、制動操作なしか否かを判定する。即ち、制御装置16は、運転者によりブレーキペダル2が踏み込まれて、制動操作量検出器3が制動要求の信号を出力しているか否かを判定する。この場合、制御装置16は、制動操作量検出器3により検出された検出値が予め定められた踏込み閾値以上となったか否かを判定することにより、ブレーキペダル2の操作(制動操作)の有無を判定することができる。そして、ステップ1で「YES」、即ち制動操作がないと判定された場合には、ステップ2に進む。一方、ステップ1で「NO」、即ち制動操作があると判定された場合には、ステップ5に進む。
ステップ2では、車両速度Vが速度閾値Va以下(V≦Va)か否かを判定する。即ち、制御装置16のパッド移動部16Bは、車両速度検出器4により検出された車両速度Vがメモリ16Aに格納された速度閾値Va以下か否かを判定する。速度閾値Vaは、車両の動き始めの速度として、例えば3〜5km/h程度の低速に設定されている。そして、ステップ2で「YES」、即ち車両速度Vが速度閾値Va以下(V≦Va)と判定された場合には、ステップ3に進む。一方、ステップ2で「NO」、即ち車両速度Vが速度閾値Vaよりも大きい(V>Va)と判定された場合には、ステップ4に進む。
ステップ3では、パッド移動押圧力発生制御を行う。即ち、制御装置16のパッド移動部16Bは、予め定められた非制動押圧力を発生させるために、ブレーキペダル2の操作がなくても電動機6に正回転(アプライ方向)の駆動を開始する制御信号を出力する。これにより、電動機6は、回転軸が正回転に駆動して、その回転が減速機8を介してプッシュロッド12Aに伝達される。プッシュロッド12Aは、ベースナット12Bに対して相対回転しながら前進してピストン11を押圧する。
ピストン11は、インナブレーキパッド13をディスクDに向けて押圧する。また、ピストン11によるインナブレーキパッド13への押圧力に対する反力により、爪部10Bがアウタブレーキパッド14をディスクDに向けて押圧する。この場合、制御装置16は、押圧力検出器15から出力されたインナブレーキパッド13とアウタブレーキパッド14とのディスクDに対する押圧力を監視して、非制動押圧力を満たすように電動機6に制御信号を出力する。
これにより、インナブレーキパッド13は、ディスクDの回転方向に引き摺られて裏板13AがディスクDの回出側のインナ側支持部9Aに近接するまで移動する。また、アウタブレーキパッド14も同様に、ディスクDの回転方向に引き摺られて裏板14AがディスクDの回出側のアウタ側支持部9Bに近接するまで移動する。
即ち、図1に示すように、例えばディスクDが矢示A方向とは逆方向に回転した場合には、インナブレーキパッド13がディスクDに摩擦接触すると、インナブレーキパッド13が裏板13Aとインナ側支持部9Aとの間の隙間Sを詰めるように移動する。この場合、ディスクDは、時速3〜5km程度の低速で回転しており、かつインナブレーキパッド13は、制動に寄与しない非制動押圧力でディスクDに押圧している。
これにより、インナブレーキパッド13は、インナ側支持部9Aに向けて小さい運動エネルギで移動するので、裏板13Aがインナ側支持部9Aに衝突したときの衝突音の発生を抑制することができる。アウタブレーキパッド14についてもインナブレーキパッド13と同様に隙間Sを詰めるようにアウタ側支持部9Bに向けて移動する。そして、ステップ3のパッド移動押圧力発生制御が終了すると、リターンとなる。
ステップ4では、ディスクDとブレーキパッド13,14とのクリアランスの確保が行われる。即ち、制御装置16のパッド移動部16Bは、ピストン11をディスクDから離れる方向に移動させるために、電動機6に逆回転(リリース方向)の駆動を開始する制御信号を出力する。これにより、電動機6の回転は、減速機8を介してプッシュロッド12Aに伝達される。プッシュロッド12Aは、ベースナット12Bに対して相対回転しながら後退してピストン11の押圧を解除する。
その結果、インナブレーキパッド13は、ピストン11からの押圧が解除されるので、ディスクDから離れる方向に移動してディスクDとの間にクリアランスが確保される。一方、アウタブレーキパッド14は、ピストン11によるインナブレーキパッド13への押圧力に対する反力がなくなり爪部10Bからの押圧が解除されるので、ディスクDから離れる方向に移動してディスクDとの間にクリアランスが確保される。
これにより、車両の走行中にブレーキパッド13,14がディスクDに接触した状態が維持されるのを抑制することができる。そして、インナブレーキパッド13とアウタブレーキパッド14とは、ディスクDの回出側に片寄らせた状態でブレーキ操作の待機(準備)とすることができる。ステップ4のクリアランス確保が終了すると、リターンとなる。
ステップ5では、制動操作量に応じた押圧力発生制御を行う。即ち、制御装置16は、制動操作量検出器3で検出されたブレーキペダル2の操作量に基づき、電動機6に正回転の駆動を開始する制御信号を出力する。この場合、電動機6は、ディスクDに制動力を付与する押圧力を発生させるように回転軸が正回転する。電動機6の回転は、減速機8およびプッシュロッド12Aを介してピストン11に伝達され、ピストン11がインナブレーキパッド13をディスクDに向けて押圧する。また、このときの反力により、キャリパ本体10の爪部10Bがアウタブレーキパッド14をディスクDに向けて押圧する。
この場合、ステップ3の制御により、インナブレーキパッド13は、裏板13AとディスクDの回転方向の回出側のインナ側支持部9Aとの間の隙間Sが小さくなっている。即ち、インナブレーキパッド13は、ディスクDの回転方向の回出側のインナ側支持部9Aに片寄った位置からディスクDに向けて移動する。これにより、インナブレーキパッド13のライニング13BがディスクDに摩擦接触したときに、インナブレーキパッド13の裏板13Aがインナ側支持部9Aに衝突する運動エネルギを低減し、クロンク音の発生を抑制することができる。
一方、アウタブレーキパッド14は、ディスクDの回転方向の回出側のアウタ側支持部9Bに片寄った位置からディスクDに向けて移動する。これにより、アウタブレーキパッド14のライニング14BがディスクDに摩擦接触したときに、アウタブレーキパッド14の裏板14Aがアウタ側支持部9Bに衝突する運動エネルギを低減し、クロンク音の発生を抑制することができる。
その後、制御装置16は、ブレーキペダル2の操作が解除されたことを検出すると、電動機6を逆回転させて、ディスクDとブレーキパッド13,14とを非接触とすることで制動を解除する。そして、ステップ5が終了すると、リターンとなる。
かくして、本実施形態では、制御装置16は、車両速度Vが速度閾値Va以下で制動要求がない場合に、ディスクDに制動を付与しないようにブレーキパッド13,14を接触させ、ブレーキパッド13,14をディスクDの回出側に移動させている。これにより、ブレーキ操作時のクロンク音の発生を抑制することができる。また、車両の進行方向情報が不要であるので、例えば駐車等で車両電源がOFFとなっても混乱することなくブレーキパッド13,14の位置を制御することができる。さらに、車両の発進直後には、ブレーキパッド13,14とディスクDとの間のクリアランスを詰めているので、例えば車両発進直後に自動ブレーキが作動したときの応答性が速くなり停止距離を短くすることができる。
次に、図3は本発明の第2の実施形態を示している。第2の実施形態の特徴は、油圧によりブレーキパッドを押圧する油圧式ブレーキ装置を用いたことにある。なお、第2の実施形態では、前述した第1の実施形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
ブレーキ装置21は、車両に搭載され、油圧で制動力を付与する油圧式ブレーキ装置となっている。そして、ブレーキ装置21は、ブレーキペダル2、制動操作量検出器3、車両速度検出器4、油圧ユニット22、油圧式ブレーキキャリパ23、および制御装置26を含んで構成されている。
油圧ユニット22は、例えば電動ブースタおよび横滑り防止装置等からなり、キャリパ本体10のシリンダ部10Aに油圧管路22Aを介して接続されている。この油圧ユニット22は、後述する制御装置26から出力された液圧指令に基づき、キャリパ本体10のシリンダ部10Aに油液(ブレーキ液)を供給する。
油圧式ブレーキキャリパ23は、油圧ユニット22から供給された油液により、ディスクDに制動力を付与するものである。この油圧式ブレーキキャリパ23は、ディスクDの外周を跨ぐように設けられている。そして、油圧式ブレーキキャリパ23は、ブラケット9、キャリパ本体10、ピストン11、インナブレーキパッド13、アウタブレーキパッド14、ピストン位置検出器24、および押圧力検出器25を含んで構成されている。
ピストン位置検出器24は、キャリパ本体10のシリンダ部10Aに設けられている。このピストン位置検出器24は、シリンダ部10A内を移動するピストン11の位置を検出するもので、例えば変位センサ、シリンダ部10A内に供給される油液の流量を検出する流量センサ等からなっている。ピストン位置検出器24は、その検出したピストン11の位置情報を後述の制御装置26に出力する。
押圧力検出器25は、ピストン位置検出器24とは別の位置でキャリパ本体10のシリンダ部10Aに設けられている。この押圧力検出器25は、ピストン11からインナブレーキパッド13およびアウタブレーキパッド14への押圧力(推力)に対する反力を検出している。押圧力検出器25は、その検出した押圧力を後述の制御装置26に出力する。
制御装置26は、制動要求に応じてインナブレーキパッド13とアウタブレーキパッド14とのディスクDに対する押圧を制御する。制御装置26は、入力側に制動操作量検出器3、車両速度検出器4、ピストン位置検出器24、および押圧力検出器25が接続され、出力側に油圧ユニット22が接続されている。制御装置26は、制動操作量検出器3から出力された信号を受けて、メモリ26Aに予め格納(記憶)された制御プログラムにより各車輪に対しての目標制動力(押圧力)の演算を行う。
そして、制御装置26は、算出した目標制動力に基づいて油圧ユニット22に制動指令を出力する。また、制御装置26は、ピストン位置検出器24からピストン11の位置を受信し、押圧力検出器25からインナブレーキパッド13およびアウタブレーキパッド14の押圧力を受信して目標制動力が達成するように油圧ユニット22を制御する。この場合、制御装置26は、車両速度検出器4から車速または車輪速を受信して車両が減速しているか否かを監視している。
また、制御装置26は、車両速度検出器4で検出された車両速度Vが速度閾値Va(所定速度)以下(V≦Va)のときに、制動要求がなくてもインナブレーキパッド13とアウタブレーキパッド14とを制動に寄与しない押圧力(制動力が発生しない押圧力)でディスクDに接触させる。このために、制御装置26には、制動に寄与しない押圧力を発生させるように油圧ユニット22を駆動するパッド移動部26Bが設けられている。
メモリ26Aには、図2に示す押圧力発生制御の制御プログラムが格納されている。制御装置26のパッド移動部26Bは、メモリ26Aに格納された押圧力発生制御の制御プログラムにより、車両速度Vが速度閾値Va以下のとき(即ち、車両が低速のとき)に、インナブレーキパッド13とアウタブレーキパッド14とを低速で回転するディスクDに僅かに(緩やかに)接触させる。
この場合、制御装置26のパッド移動部26Bは、予め定められた非制動押圧力を発生させるために、ブレーキペダル2の操作がなくても油圧ユニット22を駆動させる制御信号を出力する。これにより、油圧ユニット22は、油圧管路22Aを介してシリンダ部10Aにピストン11が非制動押圧力を発生させるための油液を供給する。
シリンダ部10A内の液圧が上昇すると、ピストン11は、インナブレーキパッド13をディスクDに向けて押圧する。また、ピストン11によるインナブレーキパッド13への押圧力に対する反力により、爪部10Bがアウタブレーキパッド14をディスクDに向けて押圧する。この場合、制御装置26は、押圧力検出器25から出力されたインナブレーキパッド13とアウタブレーキパッド14とのディスクDに対する押圧力を監視して、非制動押圧力を満たすように油圧ユニット22に制御信号を出力する。
これにより、インナブレーキパッド13は、ディスクDの回転方向に引き摺られて裏板13AがディスクDの回出側のインナ側支持部9Aに近接するまで移動する。また、アウタブレーキパッド14も同様に、ディスクDの回転方向に引き摺られて裏板14AがディスクDの回出側のアウタ側支持部9Bに近接するまで移動する。
その後、車両速度Vが速度閾値Vaよりも大きくなると、制御装置26のパッド移動部26Bは、ピストン11をディスクDから離れる方向に移動させるために、油圧ユニット22にシリンダ部10Aから油液を戻す制御信号を出力する。その結果、インナブレーキパッド13は、ピストン11からの押圧が解除されるので、ディスクDから離れる方向に移動してディスクDとの間にクリアランスが確保される。一方、アウタブレーキパッド14は、ピストン11によるインナブレーキパッド13への押圧力に対する反力がなくなり爪部10Bからの押圧が解除されるので、ディスクDから離れる方向に移動してディスクDとの間にクリアランスが確保される。
かくして、このように構成された第2の実施形態によるブレーキ装置21においても、第1の実施形態と同様に、ブレーキ操作よりも前にブレーキパッド13,14をディスクDの回出側に移動させている。これにより、ブレーキ操作時にインナブレーキパッド13およびアウタブレーキパッド14がブラケット9のインナ側支持部9Aおよびアウタ側支持部9Bにそれぞれ衝突する際の運動エネルギを低減して、クロンク音の発生を抑制することができる。また、車両の進行方向情報が不要であるので、例えば駐車等で車両電源がOFFとなっても混乱することなくブレーキパッド13,14の位置を制御することができる。さらに、車両の発進直後には、ブレーキパッド13,14とディスクDとの間のクリアランスを詰めているので、例えば車両発進直後に自動ブレーキが作動したときの応答性が速くなり停止距離を短くすることができる。
なお、上述した第1の実施形態では、車両速度Vが速度閾値Va以下のときにブレーキパッド13,14の移動制御を行うことを例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えばブレーキパッド13,14の移動制御は、車両が減速して速度閾値Va以下となったときには行わずに、車両速度Vが増加しているときにのみ行うようにしてもよい。即ち、車両が発進したときで、車両速度Vが速度閾値Va以下の場合にブレーキパッド13,14の移動制御を行うようにしてもよい。このことは、第2の実施形態についても同様である。
また、上述した第1の実施形態では、制御装置16に制動操作量、車両速度V、回転角、および押圧力等の検出値を入力した場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えばこれらの検出値は、他の制御装置を介して制御装置16に入力されてもよい。このことは、第2の実施形態についても同様である。
以上説明した実施態様に基づくブレーキ装置および電動ブレーキ装置として、例えば以下に述べる態様のものが考えられる。
第1の態様としては、車輪の回転とともに回転する回転部材を押圧する摩擦部材と、制動要求に応じて前記摩擦部材の押圧を制御する制御装置と、を備えるブレーキ装置において、前記制御装置は、車速または車輪速が所定速度以下で前記制動要求がないときに、前記摩擦部材と前記回転部材とを制動に寄与しない押圧力で接触させることを特徴としている。
第2の態様としては、車輪の回転とともに回転する回転部材を押圧する摩擦部材と、制動要求に応じて前記摩擦部材を推進し前記回転部材を押圧するためのピストンに推力を与える電動機と、前記電動機の押圧を制御する制御装置と、を備える電動ブレーキ装置において、前記制御装置は、車速または車輪速が所定速度以下で前記制動要求がないときに、前記電動機を駆動し、制動に寄与しない推力でピストンを推進して前記摩擦部材と前記回転部材とを接触させることを特徴としている。