以下、実施の形態に係る車両用操舵装置を、図面を参照しながら説明する。なお、以下で説明される実施の形態は、包括的又は具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、ステップ(工程)、並びにステップの順序等は、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。また、以下の実施の形態の説明において、略平行、略直交のような「略」を伴った表現が、用いられる場合がある。例えば、略垂直とは、完全に垂直であることを意味するだけでなく、実質的に垂直である、すなわち、例えば数%程度の差異を含むことも意味する。他の「略」を伴った表現についても同様である。また、各図は模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。さらに、各図において、実質的に同一の構成要素に対しては同一の符号を付しており、重複する説明は省略又は簡略化される場合がある。
[実施の形態1]
まず、本発明の実施の形態1に係る車両用操舵装置100の全体的な構成を説明する。図1には、実施の形態1に係る車両用操舵装置100及びその周辺の全体的な構成が模式的に示されている。車両用操舵装置100は、車両1に搭載され、左右独立転舵システムが採用されたステア・バイ・ワイヤシステムの構成を備えている。車両用操舵装置100は、運転者が操向のために操作する操舵部材としてのステアリングホイール2と、車両1の前方側に配置された左転舵輪3L及び右転舵輪3Rとを備える。さらに、車両用操舵装置100は、左転舵輪3Lを個別に転舵するための左転舵装置4Lと、左転舵装置4Lと機械的に接続されておらず且つ右転舵輪3Rを個別に転舵するための右転舵装置4Rとを備える。左転舵装置4Lは、ステアリングホイール2の回転操作に応じて左転舵輪3Lを転舵する。右転舵装置4Rは、ステアリングホイール2の回転操作に応じて右転舵輪3Rを転舵する。
左転舵装置4L及び右転舵装置4Rはそれぞれ、ステアリングホイール2の回転操作に応じて駆動される左転舵アクチュエータ5L及び右転舵アクチュエータ5Rを備える。左転舵アクチュエータ5L及び右転舵アクチュエータ5Rの例は、電動モータである。また、左転舵装置4Lは、左転舵アクチュエータ5Lから受ける回転駆動力により左転舵輪3Lを転舵させる左転舵機構6Lをさらに備え、右転舵装置4Rは、右転舵アクチュエータ5Rから受ける回転駆動力により右転舵輪3Rを転舵させる右転舵機構6Rをさらに備える。ステアリングホイール2と、左転舵装置4L及び右転舵装置4Rとの間には、ステアリングホイール2に加えられた操舵トルクを左転舵装置4L及び右転舵装置4Rに機械的に伝達する機械的結合はない。左転舵アクチュエータ5Lは、左転舵輪3Lのみを転舵し、右転舵アクチュエータ5Rは、右転舵輪3Rのみを転舵する。
また、車両用操舵装置100は、左転舵機構6Lを介して左転舵輪3Lの転舵角を制限する左制限装置110Lと、右転舵機構6Rを介して右転舵輪3Rの転舵角を制限する右制限装置110Rとを備える。このような左制限装置110L及び右制限装置110Rは、左転舵装置4L又は右転舵装置4Rに異常が発生した場合、異常が発生した転舵装置の転舵動作量を機械的に制限する。さらに、車両用操舵装置100は、ステアリングホイール2の操舵角を検出する操舵角センサ10を備える。本実施の形態では、操舵角センサ10は、ステアリングホイール2の回転シャフトの回転角及び角速度を検出する。また、車両用操舵装置100は、左転舵輪3Lの転舵角を検出する左転舵角センサ11Lと、右転舵輪3Rの転舵角を検出する右転舵角センサ11Rとを備える。
また、車両1には、車両1の速度を検出する車速センサ12、及び慣性計測装置(以下、「IMU(Inertial Measurement Unit)」とも呼ぶ)13が設けられている。IMU13は、ジャイロセンサ、加速度センサ及び地磁気センサ等で構成され得る。例えば、IMU13は、車両1の3軸方向の加速度及び角速度等を検出する。角速度の3軸方向の例は、ヨーイング、ピッチング及びローリング方向である。IMU13は、例えばヨーイング方向の角速度(「ヨーレート」とも呼ぶ)を検出する。さらに、IMU13は、ピッチング及びローリング方向の角速度を検出してもよい。
また、車両用操舵装置100は、上位ECU(電子制御ユニット:Electronic Control Unit)20を備える。左転舵装置4Lは、下位ECUの1つである左転舵ECU21Lを備え、右転舵装置4Rは、下位ECUの1つである右転舵ECU21Rを備える。ここで、左転舵ECU21L及び右転舵ECU21Rは、制御部の一例である。上位ECU20は、左転舵ECU21L、右転舵ECU21R、操舵角センサ10、車速センサ12及びIMU13と接続されている。左転舵ECU21Lは、上位ECU20、左転舵角センサ11L、左転舵アクチュエータ5L、左制限装置110L及び右転舵ECU21Rと接続されている。右転舵ECU21Rは、上位ECU20、右転舵角センサ11R、右転舵アクチュエータ5R、右制限装置110R及び左転舵ECU21Lと接続されている。なお、左制限装置110L及び右制限装置110Rは、上位ECU20と接続されてもよい。上位ECU20、左転舵ECU21L、右転舵ECU21R、左転舵アクチュエータ5L、右転舵アクチュエータ5R、左制限装置110L、右制限装置110R及び各センサ間の通信は、CAN(Controller Area Network)等の車載ネットワークを介した通信であってもよい。
上位ECU20は、操舵角センサ10、車速センサ12、IMU13、左転舵ECU21L及び右転舵ECU21Rから取得する情報に基づき、左転舵輪3L及び右転舵輪3Rの転舵角(「目標転舵角」とも呼ぶ)を決定し、左転舵ECU21L及び右転舵ECU21Rに出力する。また、上位ECU20は、上記情報に基づき、左制限装置110Lを動作させる指令、及び、右制限装置110Rを動作させる指令を、左転舵ECU21L及び右転舵ECU21Rに出力する。
左転舵ECU21Lは、左転舵角センサ11Lが検出する転舵角(「検出転舵角」又は「実転舵角」とも呼ぶ)を上位ECU20に出力し、上位ECU20から受け取る目標転舵角に基づき、左転舵アクチュエータ5Lを動作させる。また、左転舵ECU21Lは、上位ECU20から受け取る指令に基づき、左制限装置110Lを動作させる。左転舵ECU21Lは、上位ECU20との接続が切断された場合等において、上位ECU20から指令を受け取っていなくても、左制限装置110Lを動作させてもよい。
右転舵ECU21Rは、右転舵角センサ11Rが検出する実転舵角を上位ECU20に出力し、上位ECU20から受け取る目標転舵角に基づき、右転舵アクチュエータ5Rを動作させる。また、右転舵ECU21Rは、上位ECU20から受け取る指令に基づき、右制限装置110Rを動作させる。右転舵ECU21Rは、上位ECU20との接続が切断された場合等において、上位ECU20から制御信号を受け取っていなくても、右制限装置110Rを動作させてもよい。
上位ECU20、左転舵ECU21L及び右転舵ECU21Rは、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサ及びメモリを備えるマイクロコンピュータにより構成されてもよい。メモリの例は、RAM(Random Access Memory)等の揮発性メモリ、及び、ROM(Read−Only Memory)等の不揮発性メモリであってもよい。上位ECU20、左転舵ECU21L及び右転舵ECU21Rの一部又は全部の機能は、CPUがRAMを作業用のメモリとして用いてROMに記録されたプログラムを実行することによって達成されてもよい。
次いで、車両用操舵装置100及びその周辺の詳細な構成を説明する。図2には、左転舵輪3L及びその周辺の構成が模式的に示されている。図3には、図2の左転舵装置4L、左制限装置110L及びその周辺の構成が模式的に示されている。左転舵輪3L、左転舵装置4L及び左制限装置110Lの構成は、右転舵輪3R、右転舵装置4R及び右制限装置110Rと同様である。このため、以降では、左転舵輪3L、左転舵装置4L及び左制限装置110Lの構成を中心に説明し、右転舵輪3R、右転舵装置4R及び右制限装置110Rの説明を省略する。
図2及び図3に示すように、左転舵装置4Lの左転舵機構6Lは、左転舵アクチュエータ5Lから回転駆動力が入力される入力軸30と、入力軸30からの回転駆動力を左転舵輪3Lに出力する出力軸40とを備える。入力軸30及び出力軸40は、上下方向に延び、それぞれの軸心を中心に一体的に回転するように連結されている。入力軸30及び出力軸40は、スプライン嵌合等によって直接的に連結されてもよく、自在継手等の継手を介して間接的に連結されてもよい。また、左転舵機構6Lは、左転舵アクチュエータ5Lの回転駆動力を減速して入力軸30に伝達する減速機構60を備える。
なお、本明細書及び特許請求の範囲において、「上方」及び「下方」それぞれの表現、並びにこれらに類似する表現は、車両1が水平面に配置された場合における重力方向の「上方」及び「下方」を意味する。また、各構成要素の方向は、記載される方向に限定されない。
図2に示すように、出力軸40は、出力軸40の軸心C1方向に伸縮可能な伸縮軸である。出力軸40は、第一軸40a及び第二軸40bを有する。第一軸40a及び第二軸40bは、出力軸40の軸心C1方向に相対移動可能であり、軸心C1の周りに相対移動できないように、連結されている。第一軸40aは、円筒状の第二軸40bの内側に下方から挿入されている。なお、第二軸40bが、円筒状の第一軸40aの内側に挿入されてもよい。上述のような第一軸40a及び第二軸40bの連結構造の例は、スプライン嵌合による連結構造である。
左転舵機構6Lは、ハブキャリア41と、ハブ42と、ロアアーム43と、ガイドジョイント44とをさらに備える。ハブキャリア41は、第一軸40aの下端に、第一軸40aと一体的に回転するように連結されている。ハブ42は、ハブキャリア41に回転可能に連結されている。ハブ42には、左転舵輪3Lが固定される。ロアアーム43は、一端で車両1の車体の取付部1bに支持され、他端でハブキャリア41に連結されている。ガイドジョイント44は、ロアアーム43とハブキャリア41とを連結する。ハブキャリア41は、ガイドジョイント44を介してロアアーム43に対して回動可能である。ガイドジョイント44は、左転舵輪3Lを回動させる際の中心軸線であるキングピン軸Kを規定する。
ハブキャリア41は、ナックルとも呼ばれる。ハブキャリア41は、ハブ42を介して左転舵輪3Lを支持する。ハブキャリア41、ハブ42、出力軸40及びロアアーム43は、サスペンションSを構成する。サスペンションSの一部を構成する出力軸40が左転舵機構6Lとして利用される。本実施の形態では、出力軸40は、ストラット式のサスペンションSのダンパである。なお、出力軸40が適用されるサスペンション形式は、ダンパを備えるものであれば、マルチリンク式、ダブルウィッシュボーン式等のいかなる形式でもよい。
本実施の形態では、車両1は前輪駆動であるため、ハブ42は、ドライブシャフト45と連結されている。ハブ42には、ドライブシャフト45を介して、エンジンEの回転駆動力が伝達され、それにより、ハブ42は、左転舵輪3Lを回転駆動させる。なお、車両1が後輪駆動である場合、ハブ42は、ドライブシャフト45と連結されない。
サスペンションSは、上部において、車両1の車体における取付部1aに固定され、下部において、車両1の車体におけるロアアーム43の取付部1bに固定される。取付部1a及び1bは、車体を形成する金属板で構成されてもよい。第二軸40bは、取付部1aに形成された貫通孔1aaを下方から上方に向かって貫通し、車体の外部から車室内又はエンジンルーム内に延びる。
サスペンションSは、第二軸40bの周囲を囲繞し且つ取付部1aに固定された上側固定部材40cと、第一軸40aの周囲を囲繞し且つ第一軸40aに固定された下側固定部材40dとをさらに有する。上側固定部材40cは、取付部1aの下方に配置される。サスペンションSは、上側固定部材40c及び下側固定部材40dの間で挟持されたコイルスプリング46をさらに有する。コイルスプリング46は、第一軸40a及び第二軸40bを外側から囲繞して延び、キングピン軸Kの方向に、第一軸40a及び第二軸40bと共に伸縮する。
サスペンションSは、上側固定部材40cに下方から取り付けられるストラットマウント47と、ストラットマウント47に取り付けられる軸受48とをさらに有する。第二軸40bは、ストラットマウント47を貫通して延びる。軸受48は、第二軸40bを軸心C1の周りに回転可能に支持する。軸受48の一例は、深溝玉軸受である。図3に示すように、ストラットマウント47は、軸受48を介して第二軸40bの段差部分40baと係合し、上側固定部材40cと共に、第二軸40bの上方への移動を阻止する。言い換えれば、ストラットマウント47及び上側固定部材40cは、第二軸40b上で取付部1aを下方から支持する。段差部分40baは、第二軸40bの径が拡大する部分である。ストラットマウント47は、ゴム等の弾性体によって形成されてもよいが、剛体によって形成されてもよい。
上述のような構成により、左転舵アクチュエータ5Lの回転駆動力は、入力軸30、出力軸40、ハブキャリア41及びハブ42を介して、左転舵輪3Lに伝達される。これにより、左転舵輪3Lは、キングピン軸Kの周りに回動するように転舵される。
また、図3に示すように、左転舵装置4Lは、減速機構60を収容するギヤハウジング70をさらに備える。ギヤハウジング70は、取付部1a等の車両1の車体に固定されてもよい。ギヤハウジング70は、第一ギヤハウジング71及び第二ギヤハウジング72で構成されている。第一ギヤハウジング71及び第二ギヤハウジング72は、互いに接合されることによって、互いの間に、減速機構60等を収容する収容空間73を形成する。収容空間73は、下方に開放している。第一ギヤハウジング71及び第二ギヤハウジング72の接合方法の例は、ねじ締結である。
左転舵アクチュエータ5Lは、第二ギヤハウジング72に固定される。左転舵アクチュエータ5Lは、回転軸51と、回転軸51を回転駆動する駆動源52とを有する。駆動源52は、図示しないロータ及びステータを含む。収容空間73内に延びる回転軸51の端部には、減速機構60の第一歯車61が一体的に回転するように取り付けられている。回転軸51は、軸受を介して第二ギヤハウジング72によって回転可能に支持される。
減速機構60は、第一減速機60a及び第二減速機60bを含む。第一減速機60aは、第一歯車61と、中間軸65上の第二歯車62とを含む。中間軸65は、その両端において、軸受を介して第一ギヤハウジング71及び第二ギヤハウジング72によって回転可能に支持される。第二歯車62は、中間軸65と一体的に回転するように中間軸65に設けられている。第二歯車62は、中間軸65と交差する方向に延びる回転軸51の第一歯車61とギヤ係合する。第二歯車62の歯数は、第一歯車61の歯数よりも多い。第一歯車61及び第二歯車62の例は、ベベルギヤ(「かさ歯車」とも呼ばれる)であるが、他のいかなる歯車であってもよい。このような第一減速機60aは、回転軸51の回転を減速して、中間軸65に伝達する。
第二減速機60bは、中間軸65上の第三歯車63と、入力軸30に設けられた第四歯車64とを含む。第三歯車63は、中間軸65と一体的に回転するように中間軸65に設けられる。第三歯車63は、中間軸65を介して、第二歯車62と一緒に回転する。第四歯車64は、入力軸30と一体的に回転するように入力軸30に設けられ、第三歯車63とギヤ係合する。第四歯車64は、リング状の形状を有し、入力軸30の端部の拡径部分30aの外周面を囲繞するように形成されたギヤである。拡径部分30aは、入力軸30における径が大きくなった部分であり、有底円筒状の形状を有する。第四歯車64の歯数は、第三歯車63の歯数よりも多い。第三歯車63及び第四歯車64の例は、平歯車又ははすば歯車であるが、他のいかなる歯車であってもよい。このような第二減速機60bは、中間軸65の回転を減速して、入力軸30に伝達する。上述のような減速機構60は、回転軸51の回転を、第一減速機60aによって減速し、さらに、減速後の回転を第二減速機60bによって減速して入力軸30に伝達する。
さらに、左制限装置110L及び入力軸30の構成を説明する。図4には、図3の左制限装置110Lの模式的な部分分解斜視図が示されている。図3及び図4に示すように、入力軸30は、拡径部分30aの上面30aa上に、上方に向かって延びる柱状のストッパ30bを有している。ストッパ30bは、拡径部分30aと一体的に形成されてもよく、嵌合等の接合方法によって拡径部分30aに取り付けられてもよい。ストッパ30bは、入力軸30の軸心C2と略平行に延び、軸心C2から径方向に離れて配置されている。入力軸30が回転すると、ストッパ30bは、入力軸30と共に、軸心C2を中心に回動する。そして、このようなストッパ30bは、左転舵輪3Lの転舵と一体的に回動する。ここで、ストッパ30bは、第一係合体の一例である。
左制限装置110Lは、第一ギヤハウジング71に取り付けられる有底円筒状のハウジング101を備える。ハウジング101は、底壁101aを上方にして、入力軸30の上方に配置される。底壁101aは、入力軸30の拡径部分30aの上面30aaと対向する。これに限定するものではないが、本実施形態では、ハウジング101の周壁101bの軸心は、入力軸30の軸心C2と略平行であり、さらに、周壁101bの軸心と軸心C2とは略同軸上である。ハウジング101内の空間は、収容空間73と連通する。ハウジング101の周壁101bの内周面には、周壁101bの軸心方向に延びる複数の帯状のガイド突起101cが形成されている。ハウジング101は、別部材として第一ギヤハウジング71に固定されているが、第一ギヤハウジング71と一体化され、第一ギヤハウジング71の一部であってもよい。ハウジング101は、第一ギヤハウジング71を介して、車両1の車体に固定される。
左制限装置110Lは、ハウジング101内に、ロック板102と、保持部103と、付勢部材104とをさらに備える。ロック板102は、ストッパ30bの上方に配置され、その平坦な表面の一方を拡径部分30aの上面30aaと対向させる。ロック板102は、円板状の形状を有しており、その外周縁に、複数のガイド突起101cが嵌まる複数の凹部102aを有している。ロック板102は、各凹部102aに各ガイド突起101cを係合させて配置され、ガイド突起101cに沿って、周壁101bの軸心方向に、つまり、拡径部分30aの上面30aaに接近及び離れる方向に、昇降することができる。凹部102aとガイド突起101cとの係合によって、ロック板102は、周壁101bの軸心を中心とする回転方向に、つまり周方向に拘束される。また、ロック板102は、周壁101bの軸心方向にロック板102を貫通する孔102bを有している。孔102bは、入力軸30の回転の周方向に延びる長孔であり、例えば、入力軸30の軸心C2を中心として円弧状に延びる長孔である。孔102bは、ストッパ30bが挿入され且つ移動可能である大きさを有している。孔102bの形状、寸法及び位置は、入力軸30が回転したときにストッパ30bが描く軌跡の形状、寸法及び位置に対応している。なお、孔102bの断面は、円弧形状に限定されず、ストッパ30bを挿入可能であれば、いかなる形状及び寸法であってもよい。さらに、孔102bは、ロック板102を貫通せずに、凹状又は溝状であってもよい。また、孔102bは、ストッパ30bの上方に位置している。
このため、ロック板102がガイド突起101cに沿って降下すると、ストッパ30bが孔102bに挿入される。このとき、入力軸30は、孔102b内でストッパ30bが移動できる範囲内で、回転することができる。つまり、ストッパ30bの回動範囲及び入力軸30の回転範囲が、孔102bによって制限される。このような孔102bの形状及び寸法は、制限すべき入力軸30の回転範囲に応じて、決定されてもよい。このようなロック板102は、ストッパ30bが挿入可能であり且つストッパ30bの回動を制限する孔102bを有する部材である。ロック板102は、孔102bにストッパ30bを挿入する方向に移動可能であり且つストッパ30bの回動の方向に拘束されている。ここで、ロック板102は、第二係合体の一例である。
保持部103は、ハウジング101の底壁101aに配置及び固定される。保持部103には、ロック板102が取り付けられ、保持部103は、ストッパ30bから上方に離れた位置にロック板102を保持する。保持部103は、左転舵装置4Lの正常時、ストッパ30bが孔102bに挿入されていない状態でロック板102を保持する。保持部103は、左転舵ECU21Lと接続され、左転舵ECU21Lの制御に従って動作する。保持部103の例は、ソレノイド又はインフレータである。ソレノイドは、リニアアクチュエータであり、通電時に収縮動作をし、非通電時に伸張可能である。保持部103は、左転舵装置4Lの正常時、通電されることによりストッパ30bから離れた位置にロック板102を保持し、左転舵装置4Lの異常時、非通電とされることによりストッパ30bの保持を解除する。
インフレータは、通電されることによって、ガスを発生し膨張する。保持部103がインフレータである場合、保持部103は、インフレータと、底壁101aに対してロック板102を保持する保持部材とを備える。保持部103は、左転舵装置4Lの正常時、非通電とされることにより、ストッパ30bから離れた位置にロック板102を保持する。保持部103は、異常時、通電されることによりインフレータを膨張させ、それにより、保持部材を破壊しつつ、ロック板102を降下させ、孔102b内にストッパ30bを挿入する。このように、保持部103は、左転舵装置4Lの異常の発生時、ロック板102が移動し孔102b内にストッパ30bを挿入するように、ロック板102の保持を解除する。
少なくとも1つの付勢部材104が、底壁101aとロック板102との間に配置され、ロック板102を拡径部分30aに向かって付勢する。本実施の形態では、複数の付勢部材104、具体的には4つの付勢部材104が配置され、複数の付勢部材104は、ロック板102の全体を略均等に付勢するように配置される。付勢部材104の例は、コイルバネ等のバネである。保持部103は、通電時、付勢部材104の付勢力に逆らって、ストッパ30bから離れた位置にロック板102を保持する。保持部103の非通電時、付勢部材104は、保持部103の伸張時の抵抗に逆らって、ロック板102を拡径部分30aに向かって降下させる。付勢部材104の付勢によって、ロック板102は、自由落下よりも迅速に降下する。なお、付勢部材104は、省略されてもよい。
次に、実施の形態1に係る車両用操舵装置100の動作を説明する。具体的には、左制限装置110L及び右制限装置110Rの動作を中心に説明する。図5には、実施の形態1に係る車両用操舵装置100の動作の流れの一例を示すフローチャートが示されている。図5に示すように、ステップS001において、車両1が通常走行を行っている時、上位ECU20は、操舵角センサ10が検出するステアリングホイール2の操舵角に基づき、左転舵輪3L及び右転舵輪3Rの目標転舵角を決定する。さらに、上位ECU20は、左転舵輪3L及び右転舵輪3Rの目標転舵角を左転舵ECU21L及び右転舵ECU21Rに出力する。上位ECU20は、操舵角センサ10、車速センサ12及びIMU13から取得する情報に基づき、左転舵輪3L及び右転舵輪3Rの転舵速度(「目標転舵速度」とも呼ぶ)を決定し、左転舵ECU21L及び右転舵ECU21Rに出力してもよい。
左転舵ECU21L及び右転舵ECU21Rはそれぞれ、上位ECU20から取得する目標転舵角及び/又は目標転舵速度に基づき、左転舵アクチュエータ5L及び右転舵アクチュエータ5Rを動作させることによって、左転舵輪3L及び右転舵輪3Rを転舵する。左転舵ECU21L及び右転舵ECU21Rはそれぞれ、左転舵角センサ11L及び右転舵角センサ11Rから取得する左転舵輪3L及び右転舵輪3Rの実転舵角に基づき、左転舵アクチュエータ5L及び右転舵アクチュエータ5Rをフィードバック制御してもよい。左転舵ECU21L及び右転舵ECU21Rはそれぞれ、取得した左転舵輪3L及び右転舵輪3Rの実転舵角を上位ECU20に出力する。
次いで、ステップS002において、左転舵ECU21L及び右転舵ECU21Rはそれぞれ、左転舵装置4L及び右転舵装置4Rに異常があるか否か、つまり失陥の有無を検出する。左転舵装置4L及び右転舵装置4Rの一方に異常がある場合、ステップS003の処理が行われ、左転舵装置4L及び右転舵装置4Rの両方に異常がある場合、ステップS004の処理が行われ、左転舵装置4L及び右転舵装置4Rの両方に異常がない場合、ステップS001の処理が行われる。左転舵装置4L及び右転舵装置4Rの両方に異常がない状態は、正常状態であり、少なくとも一方に異常がある状態は、異常状態である。
具体的には、ステップS002において、左転舵ECU21L及び右転舵ECU21Rはそれぞれ、左転舵アクチュエータ5L及び右転舵アクチュエータ5Rの動作量と対応する実転舵角が、左転舵角センサ11L又は右転舵角センサ11Rから検出されない場合、異常有りと判定する。左転舵ECU21L及び右転舵ECU21Rはそれぞれ、上位ECU20との通信が切断された場合、異常有りと判定する。また、左転舵ECU21L及び右転舵ECU21Rは、上位ECU20と車両1に搭載された他のECUとの通信が切断された場合、異常有りと判定してもよい。この場合、上位ECU20が、左転舵装置4L及び右転舵装置4Rの両方に異常があると判定してもよい。
左転舵アクチュエータ5L及び右転舵アクチュエータ5Rの動作量に対応する実転舵角が検出されない場合、左転舵アクチュエータ5L又は右転舵アクチュエータ5Rの故障、左転舵機構6L又は右転舵機構6Rにおける入力軸30、出力軸40又は減速機構60等の異常の発生が考えられる。このような場合、左転舵装置4L及び右転舵装置4Rのうちの異常が発生した転舵装置の転舵輪が、意図しない方向又は意図しない転舵角で転舵される可能性がある。例えば、正常時の左転舵装置4L及び右転舵装置4Rによる左転舵輪3L及び右転舵輪3Rの転舵角の範囲を超える転舵角で、転舵輪が転舵される可能性がある。また、左転舵ECU21L又は右転舵ECU21Rと上位ECU20との通信が切断された場合、左転舵ECU21L又は右転舵ECU21Rは、ステアリングホイール2の操舵に応じた転舵制御を行うことができない。
ステップS003では、左転舵装置4Lに異常があったとして、説明する。なお、右転舵装置4Rに異常があった場合も、左転舵装置4Lと同様である。このようなステップS003において、左転舵ECU21Lは、異常の発生を上位ECU20に出力するが、右転舵ECU21Rは、異常の発生を上位ECU20に出力しない。このため、上位ECU20は、左転舵装置4Lのみに異常が発生したことを認識し、左制限装置110Lを起動する指令を左転舵ECU21Lに出力する。なお、左転舵ECU21Lと上位ECU20との通信が切断された場合、切断を認識した左転舵ECU21Lが、上位ECU20からの指令を受けずに、左制限装置110Lを起動してもよく、切断を認識した上位ECU20が、右転舵ECU21Rを介して、左制限装置110Lに指令を出力してもよい。
指令を受け取った左転舵ECU21Lは、左制限装置110Lを起動し、左制限装置110Lの保持部103に、ロック板102の保持を解除させる。保持解除されたロック板102は、付勢部材104によって付勢されつつ、降下し、それにより、ロック板102の孔102b内に、入力軸30のストッパ30bが挿入される。これに限定するものではないが、本実施の形態では、円弧状の長孔である孔102bの周方向の長さは、正常時の左転舵装置4Lが左転舵輪3Lを転舵する際にストッパ30bが移動し得る軌跡よりも短い。また、ロック板102は、ハウジング101及び第一ギヤハウジング71を介して、車両1の車体に回転方向つまり外周方向に固定されている。このため、ストッパ30bの可動範囲が孔102b内に強制的に制限され、それにより、入力軸30の回転範囲及び左転舵輪3Lの転舵角が、左転舵装置4Lの正常時よりも、つまり、左制限装置110Lの起動前よりも、制限される。言い換えれば、入力軸30の回転範囲及び左転舵輪3Lの転舵量が、正常時(「通常時」ともいう)の最大回転範囲及び最大転舵量よりも小さい範囲及び小さい量に制限される。
このとき、車両1は、右転舵輪3Rがステアリングホイール2の操舵に連動して正常に転舵され、且つ、左転舵輪3Lがステアリングホイール2の操舵に反応しないが転舵角の制限を受けた状態で、走行することになる。このような車両1は、ステアリングホイール2の操舵に対する反応を低下させ旋回半径を変化させるが、全く制御不能な状態ではない。このため、車両1の運転者は、車両1の衝突を回避しつつ車両1を道路脇などに停止させることができる。さらに、車両1の運転者は、修理工場などに自走で車両1を運搬することもできる。
また、ステップS004では、左転舵ECU21L及び右転舵ECU21Rはそれぞれ、異常の発生を上位ECU20に出力する。上位ECU20は、車両1の停車を運転者に促す、又は、ブレーキ等を作動させ車両1を停車させる。
上述のように実施の形態1に係る車両用操舵装置100では、左制限装置110L及び右制限装置110Rは、左転舵装置4L又は右転舵装置4Rに異常が発生した場合、異常が発生した転舵装置の転舵動作量を機械的に制限する。例えば、異常が発生した転舵装置の転舵輪が、意図しない方向又は意図しない転舵角で転舵すると、運転者が予測できない挙動又は方向への車両1の進行が、発生することがある。さらに、異常が発生した転舵装置とは他方の転舵装置が正常な場合でも、異常が発生した転舵装置の転舵輪の挙動によって、正常な転舵装置の転舵輪に過度な外力が作用し、当該転舵輪にも意図しない方向又は意図しない転舵角での転舵が生じる可能性がある。これに対し上記構成によると、異常が発生した転舵装置の転舵輪が、意図しない方向又は意図しない転舵角で転舵することが抑えられる。
また、実施の形態1に係る車両用操舵装置100では、左転舵装置4L及び右転舵装置4Rのうちの一方に異常が発生し、他方が正常である場合、左制限装置110L又は右制限装置110Rは動作する。上記構成によると、車両1の運転者は、異常が発生していない転舵装置を用いて、車両1を走行させることができる。このとき、異常が発生した転舵装置の転舵動作量が制限されているため、異常が発生した転舵装置による走行への悪影響が抑えられる。また、左転舵装置4L及び右転舵装置4Rの両方に異常が発生した場合、左制限装置110L及び右制限装置110Rが動作しても、車両1の走行を継続することは困難である。このような場合、車両用操舵装置100は、車両1の停止を運転者に促す、又は、車両1を停止してもよい。
また、実施の形態1に係る車両用操舵装置100では、左転舵装置4Lの転舵動作量を機械的に制限する左制限装置110Lと、右転舵装置4Rの転舵動作量を機械的に制限する右制限装置110Rとが設けられる。上記構成によると、左転舵装置4L及び右転舵装置4Rに対して、個別に転舵動作量を制限することが可能になる。
また、実施の形態1に係る車両用操舵装置100では、保持部103は、異常の発生時、ロック板102が移動しロック板102の孔102b内に入力軸30のストッパ30bを挿入するように、ロック板102の保持を解除する。なお、ロック板102は、ストッパ30bの回動の方向に拘束されている。上記構成によると、ロック板102の孔102b内に挿入されたストッパ30bの回動範囲は、孔102b内に制限される。よって、左転舵装置4Lの転舵動作量が制限される。
[実施の形態2]
本発明の実施の形態2に係る車両用操舵装置を説明する。実施の形態2に係る車両用操舵装置において、左制限装置及び右制限装置の構成が、実施の形態1と異なる。以下において、実施の形態1と異なる点を中心に説明する。さらに、実施の形態2に係る車両用操舵装置においても、左制限装置及び右制限装置の構成は同様であるため、左制限装置のみを説明する。
図6には、実施の形態2に係る車両用操舵装置における左制限装置210L及びその周辺の構成が模式的に示されている。図7には、図6の左制限装置210Lの模式的な部分分解斜視図が示されている。図6及び図7に示すように、左制限装置210Lは、ロック板102、及び、入力軸30のストッパ30bを備えない。左制限装置210Lは、入力軸30の拡径部分30aの上面30aaに形成された凹部30cを有している。これに限定するものではないが、本実施の形態では、凹部30cは、入力軸30の回転の周方向に延びる帯状の溝であり、例えば、入力軸30の軸心C2を中心として円弧状に延びる帯状の溝である。さらに、凹部30cは、実施の形態1におけるロック板102の孔102bと同様の平面形状を有している。凹部30cの平面形状は、軸心C2方向に見たときの形状である。凹部30cの形状、寸法及び位置は、入力軸30が回転したときに後述するストッパ205が拡径部分30aに対して描く軌跡の形状、寸法及び位置に対応している。このような入力軸30は、左転舵輪3Lの転舵と一体的に回転し、例えば、入力軸30の回転の周方向に延びるような凹部30cを有する部材である。ここで、入力軸30は、第三係合体の一例である。
また、左制限装置210Lは、ハウジング101の底壁101aから入力軸30の上面30aaに向かって延びるガイド壁101dと、ガイド壁101d内に配置された保持部103及びストッパ205とを有している。ストッパ205は、円柱又は角柱等の柱状の形状を有し、凹部30c内に挿入され且つ移動可能である。ストッパ205は、保持部103から下方に延びる軸部103aの下端に、つまり、保持部103の下部に取り付け及び固定されている。保持部103は、底壁101a又はガイド壁101dに固定されている。保持部103は、その本体から延びる軸部103aを上下に伸縮することができ、例えば、ソレノイド又はインフレータである。
左制限装置210Lはさらに、付勢部材204を有している。付勢部材204は、軸部103aに配置され、保持部103から離れる方向にストッパ205を付勢する。これに限定するものではないが、本実施の形態では、付勢部材204は、保持部103の本体とストッパ205との間に配置され、軸部103aに沿って延びる。付勢部材204の例は、軸部103aを囲繞するコイルバネ等のバネである。ガイド壁101dは、保持部103、付勢部材204及びストッパ205を収容し且つこれらを側方から支持する。ガイド壁101dは、円筒又は角筒状の壁部であり、下部で開口している。ガイド壁101dは、底壁101aと一体的に形成されてもよく、別部材として形成されて底壁101aに固定されてもよい。上述のようなストッパ205は、凹部30c内に係合可能であり、凹部30c内への挿入方向に移動可能であり、入力軸30の回転の方向に拘束されている。ここで、ストッパ205は、第四係合体の一例である。
保持部103は、左転舵ECU21Lの制御のもと、左転舵装置4Lの正常時、付勢部材204の付勢力に逆らって軸部103aを収縮させ、凹部30cに挿入つまり係合されていない状態でストッパ205を保持する。このとき、ストッパ205は、凹部30cの上方に位置する。保持部103は、左転舵装置4Lの異常時、保持を解除し、それにより、付勢部材204がストッパ205を下方に移動させ、凹部30c内に挿入する。つまり、保持部103は、異常の発生時、ストッパ205が移動し凹部30c内に係合するように、ストッパ205の保持を解除する。凹部30c内に挿入されたストッパ205は、部分的にガイド壁101dと係合するため、ガイド壁101dによって側方に拘束されている。つまり、ストッパ205は、側方から実質的に固定されている。このため、入力軸30の回転は、一緒に回動する凹部30cがストッパ205に当接すると、制止される。よって、入力軸30の回転範囲が、凹部30cがストッパ205に対して周方向に移動可能である範囲、つまり、凹部30cの周方向範囲に制限される。これにより、左転舵輪3Lの転舵角が左転舵装置4Lの正常時よりも制限される。
また、実施の形態2に係る車両用操舵装置のその他の構成及び動作は、実施の形態1と同様であるため、その説明を省略する。上述のような実施の形態2に係る車両用操舵装置では、保持部103は、左転舵装置4Lの異常の発生時、ストッパ205が移動し入力軸30の凹部30c内に係合するように、ストッパ205の保持を解除する。なお、ストッパ205は、入力軸30の回転の方向に拘束されている。上記構成によると、凹部30c内にストッパ205を係合させた入力軸30の回転範囲は、ストッパ205に対する凹部30cの回動範囲、つまり、凹部30cの範囲内に制限される。よって、左転舵装置4Lの転舵動作量が制限される。
[実施の形態3]
本発明の実施の形態3に係る車両用操舵装置を説明する。実施の形態3に係る車両用操舵装置において、左制限装置及び右制限装置の構成が、実施の形態2と異なる。以下において、実施の形態2と異なる点を中心に説明する。さらに、実施の形態3に係る車両用操舵装置においても、左制限装置及び右制限装置の構成は同様であるため、左制限装置のみを説明する。
図8には、実施の形態3に係る車両用操舵装置における左制限装置310L及びその周辺の構成が模式的に示されている。図9には、図8の左制限装置310Lの模式的な部分分解斜視図が示されている。図8及び図9に示すように、左制限装置310Lは、入力軸30の拡径部分30aの上面30aaに、実施の形態2における凹部30cと異なる平面形状の凹部30dを有している。これに限定するものではないが、本実施の形態では、凹部30dは、3つの領域30da、30db及び30dcで構成されている。凹部30dを構成する領域は、2つ以上であってもよい。領域30da、30db及び30dcはいずれも、入力軸30の回転の周方向に延びる帯状の溝を形成し、例えば、入力軸30の軸心C2を中心として円弧状に延びる帯状の溝を形成する。拡径部分30aの径方向内側から径方向外側に向かって、領域30da、30db及び30dcがこの順に並ぶ。領域30da、30db及び30dcは互いに隣接し且つ連通する。周方向の長さに関して、領域30da、30db及び30dcの順に大きくなる。領域30da、30db及び30dcそれぞれの形状、寸法及び位置は、入力軸30が回転したときに後述する保持部103A、103B及び103Cそれぞれのストッパ205が拡径部分30aに対して描く軌跡の形状、寸法及び位置に対応している。このような領域30da及び30dbは、入力軸30の回転の周方向に延び、領域30dcは、入力軸30の回転の周方向に領域30da及び30dbよりも長く延びる。ここで、領域30da又は30dbは第一凹部の一例であり、領域30dcは第二凹部の一例である。
また、左制限装置310Lは、ハウジング101の底壁101aから入力軸30の上面30aaに向かって延びるガイド壁101eと、保持部103A、103B及び103Cとを有している。保持部103A、103B及び103Cの構成は、実施の形態2の保持部103と同様である。保持部103A、103B及び103Cは、底壁101a又はガイド壁101eに取り付け及び固定される。保持部103A、103B及び103Cはそれぞれ、軸部103aを介して、ストッパ205を保持する。また、付勢部材204が、保持部103A、103B及び103Cそれぞれの軸部103aに配置されている。
ガイド壁101eは、保持部103A、付勢部材204及びストッパ205の組立体、保持部103B、付勢部材204及びストッパ205の組立体、並びに、保持部103C、付勢部材204及びストッパ205の組立体を収容し且つこれらを側方から支持する。
保持部103A、103B及び103Cはそれぞれ、左転舵ECU21Lの制御のもと、左転舵装置4Lの正常時、付勢部材204の付勢力に逆らって軸部103aを収縮させ、凹部30dに挿入されていない状態でストッパ205を保持する。このとき、保持部103A、103B及び103Cそれぞれのストッパ205は、領域30da、30db及び30dcの上方に位置する。そして、保持部103Aのストッパ205、保持部103Bのストッパ205及び保持部103Cのストッパ205はそれぞれ、領域30da、30db及び30dc内に係合可能である。ここで、保持部103Aのストッパ205及び保持部103Bのストッパ205は、第五係合体の一例であり、保持部103Cのストッパ205は、第六係合体の一例である。
左転舵装置4Lの異常時、左転舵ECU21Lは、車速センサ12から取得する車両1の速度、及び、IMU13から取得する車両1の角速度の少なくとも一方に基づき、保持を解除する保持部103A、103B又は103Cを決定する。そして、保持部103A、103B及び103Cのうちの決定された1つが保持を解除する。保持部103Aが保持を解除した場合、入力軸30の回転範囲は、領域30daの周方向範囲に制限される。保持部103Bが保持を解除した場合、入力軸30の回転範囲は、領域30dbの周方向範囲に制限され、領域30daの場合よりも大きい。保持部103Cが保持を解除した場合、入力軸30の回転範囲は、領域30dcの周方向範囲に制限され、領域30dbの場合よりも大きい。よって、左転舵輪3Lの転舵角は、左転舵装置4Lの正常時よりも小さい3つの範囲に選択的に制限される。
左転舵ECU21Lは、車速が大きくなるほど、左転舵輪3Lの転舵角を小さい範囲に制限し、角速度が大きくなるほど、左転舵輪3Lの転舵角を小さい範囲に制限する。左転舵ECU21Lが考慮する角速度は、ヨーレートのみでもよい。例えば、左転舵ECU21Lは、車速が第一閾値未満の場合、保持部103Cの保持を解除し、車速が第一閾値以上第二閾値未満の場合、保持部103Bの保持を解除し、車速が第二閾値以上の場合、保持部103Aの保持を解除してもよい。また、左転舵ECU21Lは、角速度が第三閾値未満の場合、保持部103Cの保持を解除し、角速度が第三閾値以上第四閾値未満の場合、保持部103Bの保持を解除し、角速度が第四閾値以上の場合、保持部103Aの保持を解除してもよい。左転舵ECU21Lは、車速及び角速度を組み合わせて判断することによって、保持解除する保持部103A、103B又は103Cを決定してもよい。
このように、左転舵ECU21Lは、車両1の速度及びヨーレート等の角速度の少なくとも1つに応じて、制限する左転舵輪3Lの転舵角、つまり転舵動作量を変更する。具体的には、左転舵装置4Lの異常の発生時、左転舵ECU21Lは、領域30da、30db又は30dc内に係合させるように保持部103A、103B又は103Cにストッパ205の保持を解除させる。より具体的には、左転舵ECU21Lは、車両1の速度及びヨーレートの少なくとも1つを含む情報を車両1から取得し、上記情報の値が第一閾値及び/又は第三閾値以上の場合、保持部103A又は103Bのストッパ205を領域30da又は30dbに係合させ、上記情報の値が第一閾値及び/又は第三閾値未満の場合、保持部103Cのストッパ205を領域30dcに係合させる。
また、実施の形態3に係る車両用操舵装置のその他の構成及び動作は、実施の形態2と同様であるため、その説明を省略する。上述のような実施の形態3に係る車両用操舵装置では、保持部103A、103B又は103Cは、左転舵装置4Lの異常の発生時、領域30da、30db又は30dc内に係合させるようにストッパ205の保持を解除する。上記構成によると、入力軸30の回転範囲は、ストッパ205に対する領域30da、30db又は30dcの回動範囲、つまり、領域30da、30db又は30dcの範囲内に制限される。よって、左転舵装置4Lの転舵動作量の制限範囲の変更が可能になる。
また、実施の形態3に係る車両用操舵装置では、左転舵ECU21Lは、車両1の速度及びヨーレートの少なくとも1つを含む情報の値が第一閾値及び/又は第三閾値以上の場合、保持部103A又は103Bのストッパ205を領域30da又は30dbに係合させ、上記情報の値が第一閾値及び/又は第三閾値未満の場合、保持部103Cのストッパ205を領域30dcに係合させる。上記構成によると、車両1の速度及びヨーレートに応じて、左転舵装置4Lの転舵動作量の制限範囲を変更することが可能になる。
[実施の形態4]
本発明の実施の形態4に係る車両用操舵装置を説明する。実施の形態4に係る車両用操舵装置において、左制限装置及び右制限装置の構成が、実施の形態3と異なる。以下において、実施の形態3と異なる点を中心に説明する。さらに、実施の形態4に係る車両用操舵装置においても、左制限装置及び右制限装置の構成は同様であるため、左制限装置のみを説明する。
図10には、実施の形態4に係る車両用操舵装置における左制限装置410L及びその周辺の構成が模式的に示されている。図11には、図10の左制限装置410Lの模式的な部分分解斜視図が示されている。図10及び図11に示すように、左制限装置410Lは、入力軸30の拡径部分30aの上面30aaに、凹部30dを有している。
また、左制限装置410Lは、ハウジング101の底壁101aから入力軸30の上面30aaに向かって延びるガイド壁101fと、保持部103と、付勢部材204と、ストッパ205とを有している。保持部103、付勢部材204及びストッパ205の構成は、実施の形態2と同様である。底壁101aには、貫通孔101gが形成されている。貫通孔101gは、ガイド壁101fの内側の空間と連通している。貫通孔101gは、底壁101aの径方向に延びる長孔の形状を有している。ガイド壁101fの内部空間は、底壁101aの径方向を長手方向とする長円形状の断面形状を有している。内部空間の上記断面は、周壁101bの軸心に略垂直な方向の断面である。
保持部103は、貫通孔101gを通ってガイド壁101f内に配置され、保持部103の上部は、底壁101aよりも上方に突出している。保持部103は、貫通孔101g及びガイド壁101f内に沿って、底壁101aの径方向にスライド可能である。保持部103は、上下方向に固定され且つ底壁101aの径方向にスライドできるように、底壁101a及びガイド壁101f等によって支持される。
また、左制限装置410Lは、側方付勢部材408と、第一係止部材406aと、第二係止部材406bとを有する。側方付勢部材408は、貫通孔101gに、長孔の長手方向で隣接して、具体的には、底壁101aの径方向外側で隣接して、底壁101a上に配置されている。側方付勢部材408の一端は、保持部103の上部と連結され、他端は、底壁101a上に固定された支持部101hと連結されている。側方付勢部材408の例は、コイルバネ等のバネである。側方付勢部材408は、貫通孔101gの長孔の長手方向に沿って、保持部103を径方向内側へ付勢する。
第一係止部材406a及び第二係止部材406bは、保持部103の上部に係合することによって、貫通孔101gの長孔の長手方向に沿った保持部103の移動を阻止する。第一係止部材406a及び第二係止部材406bは、保持部103に対して径方向内側の位置で底壁101a上に配置され、貫通孔101gを横切って延びる。第一係止部材406a及び第二係止部材406bは、貫通孔101gの長孔の長手方向に並んで配置される。第一係止部材406aは、保持部103に隣接し、第二係止部材406bは、第一係止部材406aに対して保持部103と反対側に位置する。第一係止部材406a及び第二係止部材406bは、底壁101a上において、少なくとも径方向に固定されている。第一係止部材406a及び第二係止部材406bは、底壁101a上において、径方向と略垂直な方向にスライド可能であってもよい。
このような第一係止部材406a及び第二係止部材406bは、貫通孔101g内において底壁101aの径方向で最も外側の位置に、保持部103を保持するように、配置される。このとき、保持部103は、側方付勢部材408を押し縮めている。さらに、保持部103のストッパ205は、入力軸30の凹部30cの領域30dcの上方に位置する。そして、側方付勢部材408、保持部103、第一係止部材406a及び第二係止部材406bは、底壁101aの径方向外側から径方向内側に向かって、この順で一列に並ぶ。
また、左制限装置410Lは、第一係止部材406a及び第二係止部材406bそれぞれを移動させる第一移動装置407a及び第二移動装置407bを有している。第一移動装置407a及び第二移動装置407bの例は、ソレノイド又はインフレータである。第一移動装置407a及び第二移動装置407bは、左転舵ECU21Lによる制御のもと、動作する。第一移動装置407a及び第二移動装置407bは、ソレノイドである場合、通電されると、第一係止部材406a及び第二係止部材406bそれぞれを引き寄せるように移動させ、貫通孔101g上から第一係止部材406a及び第二係止部材406bを除去してもよい。第一移動装置407a及び第二移動装置407bは、インフレータである場合、通電されると、第一係止部材406a及び第二係止部材406bそれぞれを飛散させ、貫通孔101g上から第一係止部材406a及び第二係止部材406bを除去してもよい。
左転舵ECU21Lは、左転舵装置4Lの正常時、第一移動装置407a及び第二移動装置407bを動作させずに、保持部103を径方向外側の位置に保持し、且つ、保持部103に、凹部30cに挿入されていない状態でストッパ205を保持させる。左転舵装置4Lの異常時、左転舵ECU21Lは、車速センサ12から取得する車両1の速度、及び、IMU13から取得する車両1の角速度の少なくとも一方に基づき、第一移動装置407a及び第二移動装置407bを動作させ、保持部103に保持を解除させる。
左転舵ECU21Lは、第一閾値未満の車速及び/又は第三閾値未満の角速度の場合、第一移動装置407a及び第二移動装置407bを動作させずに、保持部103に保持を解除させる。これにより、ストッパ205は、凹部30cの領域30dcに挿入される。凹部30cの周方向でのストッパ205の移動は、ガイド壁101fによって阻止されるため、入力軸30の回転範囲及び左転舵輪3Lの転舵角は、領域30dcに基づく制限を受ける。
左転舵ECU21Lは、第一閾値以上第二閾値未満の車速及び/又は第三閾値以上第四閾値未満の角速度の場合、第一移動装置407aを動作させ、且つ、保持部103に保持を解除させる。これにより、第一係止部材406aが第一移動装置407aによって貫通孔101g上から除去され、保持部103は、側方付勢部材408の付勢力によって、径方向内側に移動され、第二係止部材406bに当接する。このとき、保持部103のストッパ205は、凹部30cの領域30dbの上方に位置する。そして、保持解除されたストッパ205は、領域30dbに挿入される。凹部30cの周方向でのストッパ205の移動は、ガイド壁101fによって阻止されるため、入力軸30の回転範囲及び左転舵輪3Lの転舵角は、領域30dbに基づく制限を受ける。
左転舵ECU21Lは、第二閾値以上の車速及び/又は第四閾値以上の角速度の場合、第一移動装置407a及び第二移動装置407bを動作させ、且つ、保持部103に保持を解除させる。これにより、第一係止部材406a及び第二係止部材406bが、第一移動装置407a及び第二移動装置407bによって貫通孔101g上から除去される。そして、保持部103は、側方付勢部材408の付勢力によって、径方向内側に移動され、貫通孔101gの径方向内側の端部に当接する。このとき、保持部103のストッパ205は、凹部30cの領域30daの上方に位置する。さらに、保持解除されたストッパ205は、領域30daに挿入される。凹部30cの周方向でのストッパ205の移動は、ガイド壁101fによって阻止されるため、入力軸30の回転範囲及び左転舵輪3Lの転舵角は、領域30daに基づく制限を受ける。なお、上述のような側方付勢部材408は、保持部103を、領域30dcから領域30daに向かう方向に付勢している。また、凹部30c内において、領域30da、30db及び30dc間に障害物がないため、保持部103によるストッパ205の保持解除後も、保持部103の移動が可能である。上述のような左転舵ECU21Lは、左転舵装置4Lの異常時、車速及び/又は角速度が大きくなるに従って、貫通孔101gの長孔の長手方向での保持部103の移動量を大きくし、入力軸30の回転範囲及び左転舵輪3Lの転舵角を小さくするように制限する。
このように、保持部103のストッパ205は、領域30da、30db又は30dc内に選択的に係合するように移動可能である。そして、左転舵ECU21Lは、左転舵装置4Lの異常の発生時、領域30da、30db又は30dc内に係合させるようにストッパ205を移動させる。具体的には、左転舵ECU21Lは、車両1の速度及びヨーレートの少なくとも1つを含む情報を車両1から取得し、上記情報の値が第一閾値及び/又は第三閾値以上の場合、ストッパ205を領域30da又は30dbに係合させ、上記情報の値が第一閾値及び/又は第三閾値未満の場合、ストッパ205を領域30dcに係合させる。
また、実施の形態4に係る車両用操舵装置のその他の構成及び動作は、実施の形態3と同様であるため、その説明を省略する。上述のような実施の形態4に係る車両用操舵装置では、保持部103は、左転舵装置4Lの異常の発生時、領域30da、30db又は30dc内に係合させるようにストッパ205を移動させる。上記構成によると、左転舵装置4Lの転舵動作量の制限範囲の変更が可能になる。また、領域毎に保持部が設けられる実施の形態3と比較して、保持部103の数量の低減が可能になる。
また、実施の形態4に係る車両用操舵装置では、左転舵ECU21Lは、車両1の速度及びヨーレートの少なくとも1つを含む情報の値が第一閾値及び/又は第三閾値以上の場合、ストッパ205を領域30da又は30dbに係合させ、上記情報の値が第一閾値及び/又は第三閾値未満の場合、ストッパ205を領域30dcに係合させる。上記構成によると、車両1の速度及びヨーレートに応じて、左転舵装置4Lの転舵動作量の制限範囲を変更することが可能になる。
また、実施の形態4において、側方付勢部材408、保持部103、第一係止部材406a及び第二係止部材406bは、底壁101aの径方向外側から径方向内側に向かって、この順で並んで配置されていたが、これに限定されない。側方付勢部材408、保持部103、第一係止部材406a及び第二係止部材406bは、上記と逆の順序で並んで配置されてもよい。
また、実施の形態4において、側方付勢部材408は、保持部103を押圧することによって移動させていたが、これに限定されるものでなく、保持部103を引っ張ることによって移動させるように構成されてもよい。
[その他]
以上、本発明の1つ以上の態様に係る車両用操舵装置について、実施の形態に基づいて説明したが、本発明は、実施の形態に限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を本実施の形態に施したものや、異なる実施の形態における構成要素を組み合わせて構築される形態も、本発明の1つ以上の態様の範囲内に含まれてもよい。
また、実施の形態に係る車両用操舵装置において、入力軸30の拡径部分30aに第四歯車64が設けられていた。つまり、左制限装置及び右制限装置は、第四歯車64を構成する拡径部分30aに配置されていた。しかしながら、左制限装置及び右制限装置の配置位置は、これに限定されず、第四歯車64を構成しない部材であってもよく、入力軸30と一体的に回転するいかなる部材であってもよい。
また、実施の形態に係る車両用操舵装置において、保持部103、103A、103B及び103Cは、ソレノイド等のリニアアクチュエータである場合、通電時に収縮動作をし、非通電時に伸張可能なフリーな状態となる構成であったが、これに限定されない。保持部は、通電時に伸張動作をし、非通電時に伸縮自在なフリーな状態となる構成であってもよい。又は、保持部は、通電時に伸張動作及び収縮動作のいずれも行うことができる構成であってもよい。この場合、保持部は、非通電時、伸縮自在なフリーな状態となってもよく、通電時の伸縮状態を維持するように固定された状態となってもよい。