<発明者等の得た知見>
本発明者等は、自走式電線点検装置について、以下に述べる新規な課題を見出した。
鉄塔を乗り越えるよう構成される自走式電線点検装置では、鉄塔を乗り越えるため、例えば、アームの長さ方向の中間部を挟んで両端側に設けられる一対のフック機構が架空地線を把持した状態で、本体部がアームに沿って移動する動作を行う。
ここで、鉄塔を挟んだ一対の架空地線の水平角が180°未満となることがある。上述のようにアームの両端で一対のフック機構が架空地線を把持した状態では、水平角が小さいほど、フックが架空地線を把持した箇所(以下、フック点)からアームの全長に亘って該アームが垂れ下がる。このため、水平方向に対する本体部のなす角度が大きくなる可能性がある。
水平方向に対する本体部のなす角度が大きくなると、本体部の姿勢を水平に戻すことが困難となる。このため、アームに沿って本体部を移動させる動作から、走行部により架空地線に沿って移動させる動作へと移行させることが困難となる可能性がある。
また、水平方向に対する本体部のなす角度が大きくなると、アームに沿って本体部を移動させる(登らせる)動作のために必要な駆動力が大きくなる可能性がある。その結果、自走式電線点検装置の消費電力が増大してしまう可能性がある。
本発明では、本発明者が見出した上記新規な課題に基づき、以下のような構成を採用した。
鉄塔間に架線された架空地線に沿って走行しながら電線の点検を行う自走式電線点検装置であって、
前記架空地線上を走行可能な走行部と、
前記走行部の下方に配置される本体部と、
前記本体部に対して相対移動可能に連結され、前記鉄塔を迂回するように前記本体部を移動させるための迂回路を形成する円弧型のアームと、
前記アームを前記架空地線に懸垂させるために前記アームの長さ方向の中間部を挟んで両端側に設けられる一対のフック機構と、
を備え、
前記一対のフック機構のうち少なくともいずれかは、前記アームに沿って移動可能に構成される
自走式電線点検装置。
この構成を採用すれば、アームの中心を鉄塔の中心に近づけることができ、フック点からアームが垂れ下がる長さを短くすることができる。その結果、水平面に対する本体部のなす角度を小さくすることができる。その結果、本実施形態の自走式電線点検装置を安定的に動作させることができる。
<本発明の第1実施形態>
(1)自走式電線点検装置の構成
図1〜図4を用い、本実施形態の自走式電線点検装置100について説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係る自走式電線点検装置の構成を示す斜視図であり、図2は、本発明の第1実施形態に係る自走式電線点検装置の構成を示す平面図である。また、図3は、図2に示す自走式電線点検装置をE1方向から見たときの側面図であり、図4は、図2に示す自走式電線点検装置をE2方向から見たときの側面図である。
なお、図1〜図4は、水平角180°で鉄塔120に支持された架空地線140に沿って自走式電線点検装置100が走行するときの姿勢を示している。架空地線140の「水平角」は、鉄塔120を上から見たときに、鉄塔120から一方向に延在する架空地線140と他方向に延在する架空地線140とのなす角度、言い換えれば、鉄塔120を挟んだ一対の架空地線140のなす角度をいい、架空地線140の「挟角」または「夾角」と言い換えることもできる。なお、以下において「水平角」等といった場合には、鉄塔120を挟んだ一対の架空地線140のなす2つの角度のうち、角度が小さいほうを意味する。
図示した自走式電線点検装置100は、鉄塔120間に架線された架空地線140に沿って走行しながら電線(送電線、電力線など)の点検を行う。自走式電線点検装置100は、鉄塔120を乗り越える機能を有するもので、架空地線140上を走行可能な走行部1と、走行部1から垂下するように設けられた本体部2と、本体部2に対して相対移動可能に連結されたアーム3と、アーム3の(円弧の)径方向の内側に設けられたバンパ40と、アーム3の長さ方向の中間部を挟んで両端側に設けられた一対のフック機構4と、を備える。
鉄塔120には、該鉄塔120の付属部材として、レール(セーフティレール)121が付設されている。レール121には、図示しない安全器が取り付けられる。安全器は、作業員が鉄塔120に昇ったり降りたりするときに、作業員が装着する安全帯をつないでおくための機器である。
架空地線140は、複数の鉄塔120を順に経由するように、それらの鉄塔120間にカテナリ方式等で架線される。その場合、架線方向で隣り合う2つの鉄塔120間は「径間」と呼ばれ、この径間を一方の鉄塔120から他方の鉄塔120に向かって自走式電線点検装置100が走行する。ここで、自走式電線点検装置100が鉄塔120を乗り越えるとは、鉄塔120を境に2つの径間が存在する場合に、一方の径間に架線されている架空地線140から、次の径間に架線されている架空地線140に自走式電線点検装置100が乗り移ることを意味する。架空地線140の直径は、たとえば、10mm以上15mm以下である。架空地線140は、本実施形態では図例のような1条タイプで、鉄塔120の頂部に耐張方式または懸垂方式に取り付けられる。ただし、本発明は、鉄塔に2条タイプで架線された架空地線に沿って走行しながら電線の点検を行う場合にも適用可能である。
(方向の定義)
以下において、自走式電線点検装置100の各部の相対的な位置関係や動作の向き、方向性などを明確にするために、次のように方向を定義する。まず、隣り合う2つの鉄塔120間に架線された架空地線140上を電線を点検しながら自走式電線点検装置100が走行する場合、自走式電線点検装置100の姿勢は、理想的には傾きのない水平姿勢に維持される。その場合、水平姿勢に維持される自走式電線点検装置100の高さ方向を上下方向とし、自走式電線点検装置100の進行方向(走行方向)の下流側を前方(前側)、上流側を後方(後ろ側)とする。また、架空地線140に自走式電線点検装置100を設置したときに、重力が働く方向(鉛直方向)に平行な方向を垂直方向とし、それと直交する方向を水平方向とする。また、水平姿勢を維持しながら架空地線140に沿って走行するときの自走式電線点検装置100の向きを基準に、自走式電線点検装置100の前後方向および左右方向を規定する。このため、上記図1において、自走式電線点検装置100が矢印Mの方向に走行するものとすると、矢印Mの指す方向が前方、それと反対の方向が後方、矢印Mの方向に向かって左側が左方、右側が右方となる。
また、以下において、アーム3の「長さ方向」とは、アーム3が構成する円弧に沿った方向のことをいい、アーム3の「周方向」と言い換えることができる。また、アーム3の「径方向」(半径方向)とは、アーム3が構成する円弧の中心から外周側に向かう方向のことをいう。
(走行部1)
走行部1は、駆動源となる走行用モータ(不図示)と、走行用モータの駆動にしたがって回転する一対の車輪(歯付き車)8と、一対の車輪8を支えるフレーム9と、を備える。一対の車輪8のそれぞれは、架空地線140に係合するV字形状の溝を有する。また、一対の車輪8は、これらの外周に沿って架け渡されるチェーン(符号不図示)を有し、走行用モータ(不図示)の駆動により、互いに同期して回転するよう構成されている。
(本体部2)
本体部2は、走行部1の下方に配置されている。本体部2は、走行部1から垂下するように、支持機構15によって支持されている。支持機構15は、傾き制御機構部16と、シャフト17と、を備える。
傾き制御機構部16は、円弧状のガイドレール18と、ガイドレール18に取り付けられた揺動部19とを有し、揺動部19がガイドレール18に沿って揺動することにより、本体部2とアーム3の傾きを制御可能になっている。ここで記述する「傾き」とは、ガイドレール18の円弧の中心を通る水平軸を中心とした、本体部2とアーム3の前後方向の傾きをいう。
ガイドレール18は、略U字形に配置されている。ガイドレール18の両端(上端部)は、走行部1に連結されている。ガイドレール18の外側の面にはラック18aが形成されている。揺動部19は、ガイドレール18に移動可能に取り付けられている。揺動部19には、ガイドレール18のラック18aに噛み合うピニオン(不図示)と、このピニオンを回転させるモータ12が設けられている。モータ12によってピニオンを回転させると、ピニオンの回転方向および回転量に応じて揺動部19がガイドレール18に沿って揺動(移動)する。揺動部19が揺動すると、走行部1に対するシャフト17の傾きが変化し、これに応じて本体部2とアーム3の傾きも変化する。したがって、傾き制御機構部16により、本体部2とアーム3の傾きを制御(調整)することができる。
図5は傾き制御機構部16による動作の具体例として、(a)は本体部とアームを水平姿勢とした場合の側面図、(b)は本体部とアームを前傾させた場合の側面図、(c)は本体部とアームを後傾させた場合の側面図である。
図5(a)に示すように、本体部2とアーム3を水平姿勢としている場合は、フック機構4のフック32が架空地線140と同じ高さに配置される。本体部2とアーム3が水平な姿勢とは、本体部2とアーム3の傾きが実質ゼロ(傾きなし)の場合をいう。
図5(b)に示すように、本体部2とアーム3を前傾させた場合は、水平姿勢のときに比べてフック機構4の位置が相対的に下方に変位する。このため、本体部2とアーム3を前傾姿勢とした場合は、フック機構4のフック32が架空地線140よりも低い位置に配置される。
図5(c)に示すように、本体部2とアーム3を後傾させた場合は、水平姿勢のときに比べてフック機構4の位置が相対的に上方に変位する。このため、本体部2とアーム3を後傾姿勢とした場合は、フック機構4のフック32が架空地線140よりも高い位置に配置される。
本体部2とアーム3は、本体部2のアーム支持部21で連結されているため、本体部2が前傾するとアーム3も前傾し、本体部2が後傾するとアーム3も後傾する。本体部2の前傾とは、本体部2の前後方向において、前側(アーム支持部21側)が後ろ側よりも低い位置となるように傾くことをいい、本体部2の後傾とは、本体部2の前側(アーム支持部21側)が後ろ側よりも高い位置となるように傾くことをいう。このため、本体部2を前傾させた場合は、フック機構4の位置が相対的に低くなり、本体部2を後傾させた場合は、フック機構4の位置が相対的に高くなる。
このように、傾き制御機構部16によって本体部2とアーム3の傾きを制御することにより、フック機構4のフック32を架空地線140よりも低く配置したり高く配置したりすることが可能となる。
シャフト17は、本体部2に対して垂直に立てて配置されるとともに、シャフト連結部20を介して揺動部19に連結されている。シャフト17の位置は、走行部1の2つの車輪8に自走式電線点検装置100の自重が均等に加わるように、2つの車輪8間の中心位置の直下に設定されている。シャフト17の外周面には、ボールネジ溝とボールスプライン溝が形成されている。シャフト17は、本体部2を上下に貫通するように配置されている。
本実施形態では、本体部2は、例えば、機器搭載部5と、搭載部支持部6と、昇降回転駆動部(不図示)と、アーム支持部21と、近接センサと、を有している。
機器搭載部5は、例えば、電線の点検に関わる機器を搭載している。電線の点検に関わる機器は、例えば、制御部と、電線点検部と、バッテリと、を含んでいる。
制御部は、所定の制御用プログラムに基づいて自走式電線点検装置100の各部の動作を統括的に制御する。制御部は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、記憶装置、およびI/Oポートを有している。RAM、記憶装置、およびI/Oポートは、CPUとデータ交換可能に構成されている。また、制御部には、外部と送受信する送受信部が接続されている。I/Oポートは、本体部2以外の各部や、電線点検部などに接続されている。記憶装置は、上述の各部の制御に係る各種データ並びにプログラム、電線点検部による点検結果などを記憶するよう構成されている。RAMは、CPUによって記憶装置から読み出される各種データやプログラム等が一時的に保持されるよう構成されている。CPUは、記憶装置に格納された所定のプログラムを実行することにより、上述の各部を制御するように構成されている。
電線点検部は、架空地線140よりも下方で鉄塔120に架線される送電線などの電線の点検や、点検用データの取得などを行う。電線点検部が行う点検項目には、たとえば、電線の外観、電線と樹木との離隔距離、電線接続管の発熱などが含まれる。また、これ以外にも、鉄塔120の外観をカメラ等で撮影して点検することも可能である。なお、点検の結果は、上述の記録装置に電子データとして記録してもよいし、送受信部を介して外部の装置にデータを取り込んで処理してもよい。
バッテリは、自走式電線点検装置100の動作に係る各部に電力を供給するよう構成されている。
なお、本実施形態では、機器搭載部5は、例えば、搭載部支持部6を挟んで一対設けられている。これにより、走行部1の進行方向に対する本体部2の左右のバランスを向上させることができる。
搭載部支持部6は、例えば、アーム3からの機器搭載部5の距離を調整するよう、(アーム3の径方向の外側で)アーム3の径方向に沿って機器搭載部5を移動可能に支持するよう構成されている。搭載部支持部6は、例えば、ラックアンドピニオン機構により、機器搭載部5を直線に沿って移動させるよう構成されている。これにより、自走式電線点検装置100の重心位置を調整することができる。自走式電線点検装置100の移動に係る動作に応じた搭載部支持部6の動作については、詳細を後述する。
昇降回転駆動部(不図示)は、本体部2の搭載部支持部6内に設けられている。昇降回転駆動部は、例えば、シャフト17の中心軸方向において走行部1と本体部2の間の離間距離を変化させ、本体部2の位置を基準に走行部1を相対的に昇降させるよう構成されている。また、昇降回転駆動部は、例えば、シャフト17の中心軸まわりに回転動作することで、走行部1に対する本体部2の向きを変化させるよう構成されている。
アーム支持部21は、例えば、本体部2の搭載部支持部6の前部に設けられている。本体部2の前部とは、自走式電線点検装置100が架空地線140上を走行するときに前方に位置する部分をいう。アーム支持部21は、アーム3を移動可能に支持し、傾き制御機構部16やシャフト17よりも前方に位置している。
アーム支持部21には、アーム3を相対的に移動可能に支持するアーム支持機構(不図示)と、本体部2に対してアーム3を相対移動させるための駆動源となるモータ25と、各々のモータ25に対応するピニオンと、が設けられている。ピニオンは、アーム3の外側面に形成されたラック28と噛み合うことにより、ラックアンドピニオン機構を構成する。モータ25の駆動によりピニオンを回転させることで、ピニオンの回転方向および回転量に応じて、本体部2とアーム3の相対位置を変化させることができる。
本実施形態では、アーム支持部21のアーム支持機構は、例えば、アーム3の長さ方向に直交する断面で見たときに、アーム3の外周全体を把持するよう構成されている。なお、ここでいう「アーム3の外周」とは、アーム3の長さ方向に直交する断面において、アーム3の外形を構成する周囲のことをいう。アーム支持機構がアーム3の外周全体を把持することで、アーム3と本体部2との結合を強固にすることができる。
近接センサは、例えば、本体部2の搭載部支持部6の前方下部に設けられ、自走式電線点検装置100から鉄塔120までの離間距離を検出するよう構成されている。近接センサは、例えば、レーザ光を用いた光学式で構成されている。
(アーム3)
アーム3は、架空地線140を支持する鉄塔120を迂回(回避)するように本体部2を移動させるための迂回路を形成する。アーム3は、たとえば、FRP(Fiber−Reinforced Plastics)などの樹脂により、一定の曲率で円弧型(半円型)に形成されている。アーム3の曲率半径は、例えば、鉄塔120やレール121との接触を避けて本体部2を移動させるのに必要な寸法に設定される。アーム3の周方向の長さは、例えば、アーム3が構成する円弧の半周の長さよりも若干(後述のブラケット31の水平部31bを確保する程度に)長くなっている。
アーム3は、アーム支持部21で本体部2の前部に連結されている。アーム3の外側面にはラック28が形成されている。ラック28は、アーム3の長さ方向の一端から他端にわたって連続的に形成されている。アーム支持部21において、モータ25を駆動すると、アーム3の一端はアーム支持部21から遠ざかる方向に移動し、アーム3の他端はアーム支持部21に近づく方向に移動する。
なお、図2において、アーム3の円弧の中心を「O」とし、アーム3の長さ方向の中間部(中点)を「C」とする。また、アーム3の長さ方向の中間部Cとアーム3の円弧の中心Oとを結ぶ仮想直線OCに垂直で、且つ、アーム3の円弧の中心Oを通る仮想直線が、アーム3と交わる交点を、それぞれ、「A」、「B」とする。
(フック機構4)
一対のフック機構4は、アーム3を架空地線140に懸垂させるためにアーム3の長さ方向の中間部を挟んで両端側に設けられている。
一対のフック機構4のそれぞれは、例えば、ブラケット31と、フック32と、を有する。ブラケット31は、逆さL字形に形成されている。ブラケット31は、アーム3の端部から立ち上がる立ち上がり部31aと、立ち上がり部31aの上端から水平方向に伸びる水平部31bとを一体に有する。
立ち上がり部31aは、例えば、アーム3の一部からアーム3の径方向の外側に離れるよう、鉛直斜め上方向に立ち上がっている。これにより、アーム3の円弧の半径を小さくすることができる。また、一対のフック32の間の距離を所定の把持力が得られる程度に確保することができる。
水平部31bは、図2に示すように、一対のフック機構4がアーム3の両端に位置するときに、アーム3の点Aおよび点Bのそれぞれに接する接線方向と平行な向きで、アーム3の長さ方向の中間部C側に伸びている。これにより、フック機構4のフック32を架空地線140に引っ掛けたときに、フック機構4が逆手懸垂形式で架空地線140に支持されるようになる。
フック32は、ブラケット31の水平部31bの先端に設けられている。フック32には、逆さU字形の溝が形成されている。フック32は、アーム3を架空地線140に懸垂させるときに、架空地線140に引っ掛けられる部分となる。
図2に示すように、例えば、一対のフック機構4がアーム3の両端に位置しているとき、2つのフック32を結ぶ仮想直線の中点は、アーム3の円弧の中心Oと一致している。言い換えれば、2つのフック32を結ぶ仮想直線は、上述の仮想直線ABと一致している。アーム3の円弧の半径を小さくすることができる。なお、2つのフック32を結ぶ仮想直線の中点が、アーム3の円弧の中心Oと一致していることで、後述のように一対のフック機構4のうち少なくともいずれかが移動可能に構成されている場合に、一対の架空地線140の水平角に対する一対のフック機構4の適用可能な拡開角度範囲を広げることができ、また、乗り越え動作時に本体部2を容易にオフセットさせることができる。
フック32は、例えば、把持爪(不図示)を有している。把持爪は、フック32の溝に対して進退移動可能に設けられている。把持爪の進退移動は、モータ33の駆動により行われる。モータ33の駆動力は、たとえば歯車等を介して把持爪に伝達される。架空地線140にフック32を引っ掛けて把持爪を進出させた場合は、フック32に嵌まり込んだ架空地線140が、フック32の溝内で把持爪によって把持される。また、その状態から把持爪を後退させた場合は、把持爪による架空地線140の把持が解除される。
一対のフック機構4のそれぞれのフック32は、例えば、アーム3の径方向に走行部1よりも中心O側に配置されている。言い換えれば、本体部2とアーム3とが相対的に移動したときに、一対のフック機構4のそれぞれのフック32が描く軌跡である仮想円の半径は、例えば、走行部1の車輪8が描く軌跡である仮想円の半径よりも小さい。つまり、走行部1の進行方向に後方に配置されるフック32を、前方の車輪8よりも鉄塔120に近づけて配置することができる。フック32を鉄塔120に近づけることで、鉄塔120の乗り越えに必要なフック32間距離を短くすることができ、その分だけアーム3の長さや曲率半径を小さくすることができる。その結果、アーム3の小型化を図ることが可能となる。
ここで、本実施形態では、一対のフック機構4のうち少なくともいずれかは、例えば、アーム3に沿って移動可能に構成されている。これにより、鉄塔120を挟んだ一対の架空地線140の水平角が180°未満である場合に、当該水平角に応じて、フック機構4の位置を変更することができる。水平角が180°未満である場合の乗り越え動作については、詳細を後述する。
本実施形態では、一対のフック機構4のうち少なくともいずれかは、例えば、該フック機構4自身をアーム3に沿って移動させるフック機構駆動部35を有している。すなわち、当該フック機構4は、自走式に構成されている。これにより、フック機構駆動部35によって、該フック機構4をアーム3に沿って任意に移動させることができる。
また、一対のフック機構4のうちの少なくともいずれかが有するフック機構駆動部35は、例えば、アーム支持機構のピニオンとともにアーム3のラック28を共用し、該ラック28に噛み合って回転するフック側ピニオン(不図示)を有している。アーム3のラック28を共用することで、アーム3に多重のラックが不要となる。
ここでは、例えば、一対のフック機構4の両方が、それぞれ、フック機構駆動部35を有し、アーム3に沿って移動可能に構成されている。これにより、走行部1の進行方向に対して左右どちらに鉄塔120が配置されるかに応じて、一対のフック機構4のそれぞれの位置を変更することができる。また、一対のフック機構4の両方が、それぞれ、フック機構駆動部35を有することで、一対のフック機構4の重量を等しくすることができる。これにより、アーム3の両端のバランスを向上させることができる。
(バンパ40)
バンパ40は、例えば、アーム3の径方向の内側に設けられ、本体部2がアーム3に沿って移動するときに、アーム3から径方向の内側に離間した位置で鉄塔120に当接するよう構成されている。これにより、鉄塔120に対する本体部2の接触を抑制することができる。自走式電線点検装置10の乗り越え動作時のバンパ40の機能については、後述する。
本実施形態では、バンパ40は、例えば、アーム3の長さ方向の一端および他端にそれぞれ連結され、アーム3の一端から他端に亘って該アーム3から離間した状態で延在して設けられている。つまり、バンパ40のうちアーム3の一端から他端までの間の領域は、本体部2がアーム3に沿って移動できるよう、アーム3から径方向の内側に所定の間隔をあけて配置されている。このような構成により、上述のように、アーム3の長さ方向に直交する断面で見たときに、アーム3の外周全体を把持するよう、本体部2を構成することができる。
本実施形態では、バンパ40は、例えば、3つの部分に分けられ、具体的には、第1円弧部41と、第2円弧部42と、当接部43と、を有している。
第1円弧部41は、例えば、アーム3の一端に連結され、アーム3が構成する円弧に沿うようにアーム3の一端から他端に向けて所定距離だけ延在している。第2円弧部42は、例えば、アーム3の他端に連結され、アーム3が構成する円弧に沿うようにアーム3の他端から一端に向けて所定距離だけ延在している。第1円弧部41および第2円弧部42のそれぞれと、アーム3との離間距離は、例えば、第1円弧部41および第2円弧部42のそれぞれの全長に亘って、一定である。このような構成により、アーム3を送り出すときに、第1円弧部41および第2円弧部42のそれぞれが構成する円弧内に、鉄塔120のレール121等の付属部材を容易に避けることができる。
当接部43は、例えば、第1円弧部41と第2円弧部42との間を繋ぎ、第1円弧部41および第2円弧部42よりもアーム3の径方向の内側に設けられている。当接部43は、例えば、本体部2がアーム3に沿って移動するときに、鉄塔120に当接するよう構成されている。本体部2がアーム3に沿って移動するときに、当接部43が鉄塔120に当接することで、水平方向に対する本体部2のなす角度を小さくすることができる。なお、ここでいう「水平方向に対する本体部2のなす角度」とは、当接部43が鉄塔120に当接した状態で、本体部2がアーム3の長さ方向の中間部Cに到達したときの、水平方向に対する本体部2のなす最大角度のことをいう。
本実施形態では、当接部43は、例えば、アーム3の円弧に対して弦を構成している。言い換えれば、当接部43は、第1円弧部41と第2円弧部42との間を直線状に繋いでいる。これにより、当接部43が鉄塔120に当接したときの、水平方向に対する本体部2のなす角度を効率よく小さくすることができる。
また、本実施形態では、当接部43は、例えば、アーム3の一端と他端とを結ぶ仮想直線に対して平行である。これにより、当接部43が鉄塔120に当接したときに、鉄塔120に対する当接部43の当接点からアーム3の一端までの距離と、鉄塔120に対する当接部43の当接点からアーム3の他端までの距離と、を略等しくすることができる。
ここで、当接部43が鉄塔120に当接したときの、水平方向に対する本体部2のなす角度は、アーム3の円弧の中心Oからの当接部43の位置に依存する。例えば、当接部43の位置がアーム3の円弧の中心Oから遠くなるにつれて、本体部2がフック点から鉛直下側に大きく垂れ下がる。このため、水平方向に対する本体部2のなす角度が鉛直下側に大きくなる。一方で、当接部43の位置がアーム3の円弧の中心Oに近くなるにつれて、本体部2がフック点から鉛直下側に垂れ下がり難くなる。このため、水平方向に対する本体部2のなす角度が鉛直下側に小さくなるか、或いは、水平方向に対する本体部2のなす角度が鉛直上側に大きくなる。
本実施形態では、当接部43は、例えば、鉄塔120に当接したときに、水平方向に対する本体部2のなす角度が鉛直上側および鉛直下側にそれぞれ15°以内となる位置に配置されている。水平方向に対する本体部2のなす角度が鉛直下側に15°超となる位置に当接部43が配置されていると、アーム3に沿って本体部2を移動させる(登らせる)動作のために必要な駆動力が大きくなる可能性がある。これに対し、水平方向に対する本体部2のなす角度が鉛直下側に15°以内となる位置に当接部43を配置することで、アーム3に沿って本体部2を移動させる動作のために必要な駆動力を小さくすることができる。一方で、水平方向に対する本体部2のなす角度が鉛直上側に15°超となる位置に当接部43が配置されていると、当接部43がアーム3の円弧の中心Oに過剰に近づいてしまう可能性がある。このため、アーム3の送り出しの際に、バンパ40の当接部43が鉄塔120のレール121等の付属部材に接触してしまう可能性がある。これに対し、水平方向に対する本体部2のなす角度が鉛直上側に15°以内となる位置に当接部43を配置することで、当接部43がアーム3の円弧の中心Oに過剰に近づくことを抑制することができる。これにより、アーム3の送り出しの際に、鉄塔120のレール121等の付属部材に対する当接部43の接触を抑制することができる。
また、本実施形態では、当接部43は、例えば、アーム3の径方向の内側に、鉄塔120に当接したときの衝撃を吸収する緩衝材(符号不図示)を有している。緩衝材は、例えば、ゴムからなっている。これにより、鉄塔120に当接したときの衝撃を緩和することができる。
(2)自走式電線点検装置の動作
次に、本発明の第1実施形態に係る自走式電線点検装置100の動作について説明する。
本発明の第1実施形態に係る自走式電線点検装置100は、架空地線140に沿って走行(自走)する動作(以下、「走行動作」という。)と、鉄塔120を乗り越える動作(以下、「乗り越え動作」という。)を順に繰り返しながら、各径間を移動して電線の点検を行う。なお、自走式電線点検装置100を構成する各部の動作は、本体部2内の制御部により制御される。
(2−1)走行動作
走行動作において、自走式電線点検装置100は、上記図1〜図4に示すように、架空地線140に走行部1を乗せて装置全体を水平姿勢に維持し、その状態で走行部1を回転駆動することにより、架空地線140に沿って走行する。自走式電線点検装置100は、架空地線140を走行中に電線の点検を行う。このとき、本体部2はアーム3の中間部Cに位置する。アーム3は架空地線140を中心に左右対称に配置される。また、アーム3の両端はいずれも前方を向いて配置され、アーム3の中間部Cは後方を向いて配置される。
このとき、本体部2の搭載部支持部6は、例えば、自走式電線点検装置100の重心が走行部1の鉛直直下に位置するよう、アーム3からの機器搭載部5の距離を調整する。ここでいう「自走式電線点検装置100の重心が走行部1の鉛直直下に位置する」とは、鉛直上方から見て、自走式電線点検装置100の重心が走行部1と重なると言い換えることができる。具体的には、搭載部支持部6は、機器搭載部5をアーム3から遠ざけることで、走行部1の鉛直直下(搭載部支持部6とシャフト17との接点)を挟んで、機器搭載部5の重量によるモーメントと、アーム3の重量によるモーメントとを釣り合わせる。これにより、自走式電線点検装置100の重心を走行部1の鉛直直下に位置させることができる。
その結果、自走式電線点検装置100を水平姿勢に維持することができる。走行時の自走式電線点検装置100の姿勢が理想的な水平姿勢にあるときには、アーム3の両端と中間部Cとを上下方向で同じ高さに配置することができる。なお、その状態では、フック機構4のフック32は、架空地線140とほぼ同じ高さ位置に配置されることとなる。
山間部などに斜めに架線される架空地線140に沿って自走式電線点検装置100を走行させる場合には、架空地線140の傾斜角と傾斜方向に応じて傾き制御機構部16を駆動することにより、シャフト17を鉛直に維持する。これにより、架空地線140の傾きによる自走式電線点検装置100の前後の傾きを補正することができる。この点は、架空地線140のカテナリ曲線による傾斜部分を走行する場合も同様である。
走行動作では、走行部1の回転駆動部分にエンコーダ(不図示)を装着しておき、走行部1の回転駆動量(たとえば、車輪8の回転量など)をエンコーダを用いて計測することにより、自走式電線点検装置100の走行距離と径間での位置を把握することができる。
(2−2)乗り越え動作1:水平角=180°の場合
次に、図6(a)〜図14(d)を用い、鉄塔120を挟んだ一対の架空地線140の水平角が180°である場合(すなわち、一対の架空地線140が直線状に配置されている場合)において、自走式電線点検装置100が鉄塔120を乗り越えるときの一連の動作について説明する。図6〜図14は、本実施形態に係る自走式電線点検装置の乗り越え動作(S1−1)〜(S1−9)を示す図である。このうち、図6、図7、図9〜図12、および図14においては、(a)は平面図であり、(b)は斜視図であり、(c)は(a)のE1方向から見たときの側面図であり、(d)は(a)のE2方向から見たときの側面図である。なお、図8においては、(a)〜(d)は平面図である。また、図13においては、(a)は平面図であり、(b)は斜視図であり、(c)は(a)のE2方向から見たときの側面図である。なお、ステップを「S」と略している。
(S1−1:走行部1の停止)
まず、図6(a)〜図6(d)に示すように、自走式電線点検装置100が架空地線140に沿って走行中に鉄塔120に近づくと、搭載部支持部6の前方下部に設けられた近接センサは、鉄塔120の接近を検出する。近接センサが鉄塔120に接近したことを検出したら、走行部1の走行を停止させる。このとき、バンパ40の当接部43が鉄塔120に接触しない限界まで鉄塔120に接近したときに、走行部1の走行を停止させる。
(S1−2:本体部2およびアーム3の前傾)
走行部1の走行を停止させたら、図7(a)〜図7(d)に示すように、傾き制御機構部16を駆動することにより、本体部2およびアーム3を前傾させる。具体的には、傾き制御機構部16の揺動部19に設けられたモータ12を駆動することにより、ガイドレール18に沿って揺動部19を後方に揺動させる。これにより、揺動部19の揺動動作に応じて本体部2およびアーム3が前傾する。アーム3が前傾すると、アーム3の両端にあるフック機構4のフック32が架空地線140よりも鉛直下方に向けて変位する(図7(C))。
(S1−3:アーム3の送り出し)
本体部2およびアーム3を前傾させたら、図8(a)〜図8(d)に示すように、鉄塔120の周囲に迂回路を形成すべく、アーム3の端部を前方に送り出す。本実施形態では、例えば、バンパ40が3つの部分に分かれているため、バンパ40の形状に合わせて、段階的にアーム3の一端を前方に送り出す。
具体的には、図8(a)において、自走式電線点検装置100は、バンパ40の当接部43が鉄塔120に接触しない限界まで鉄塔120に接近した位置で停止している。このため、アーム3の円弧の中心は、鉄塔120の中心から走行部1の進行方向の後方に若干ずれて位置している。
次に、図8(b)に示すように、本体部2に対してアーム3を相対的に移動させ、アーム3の端部を前方に送り出す。
このとき、アーム3の両端のうちどちらのアーム端を前方に送り出してもよいが、好ましくは、本体部2を支持している支持機構15の位置によって決めるとよい。支持機構15は、架空地線140の位置を基準に、左右いずれか一方に存在する。アーム3を送り出すときは、支持機構15と同じ側に存在するアーム3の一端を前方に送り出すとよい。理由は、その後の動作で本体部2をアーム3に沿って移動させるときに、昇降回転駆動部の駆動により支持機構15を下降させなくても、支持機構15と架空地線140との干渉を回避でき、乗り越え動作がシンプルになるメリットが得られるからである。このため、本実施形態では、支持機構15と同じ側に存在するアーム3の一端を前方に送り出すものとする。
アーム3の送り出しは、本体部2のアーム支持部21に設けられたモータ25を駆動することにより行う。モータ25を駆動することで、アーム支持部21の内部でアーム3のラック28に噛み合うピニオンが回転する。このため、アーム3の円弧の周方向において、本体部2とアーム3との相対位置が変化する。そして、両者の相対位置の変化により、アーム3の一端は本体部2から遠ざかる方向に移動し、アーム3の他端は本体部2に近づく方向に移動する。これにより、アーム3の一端を前方に送り出すことができる。
また、上述したようにアーム3の送り出しに際して本体部2とアーム3を前傾させた場合は、フック機構4のフック32が架空地線140よりも下方に配置されるため、フック32と架空地線140との干渉を避けることができる。
図8(b)に示すように、アーム3の一端を前方に送り出したら、アーム3の一端が架空地線140に到達したとき(鉛直上方から見てこれらが重なったとき)に、アーム3の移動を停止させる。ここでは、例えば、アーム3が半時計回りに60°回転移動した位置で、アーム3の一端を架空地線140に到達させ、アーム3の移動を停止させる。このとき、バンパ40のうちアーム3の他端に連結された第2円弧部42は、本体部2に接近する。当該第2円弧部42は、当接部43よりもアーム3の径方向の外側に位置しているため、第2円弧部42と鉄塔120との間には、所定の間隙が生じることとなる。
次に、図8(c)に示すように、第2円弧部42と鉄塔120との間に生じた間隙の分だけ、走行部1を架空地線140に沿って鉄塔120に向けて走行させる。これにより、第2円弧部42が鉄塔120に近づくとともに、アーム3の円弧の中心が鉄塔120の中心に近づく。アーム3の円弧の中心を鉄塔120の中心に近づけたら、アーム3の円弧の中心と鉄塔120の中心とが一致したときに、走行部1の走行を停止させる。
次に、図8(d)に示すように、アーム3の一端をさらに前方に送り出し、アーム3の一端を、架空地線140下を通過させる。アーム3の一端を、架空地線140下を通過させたら、アーム3の一端と他端とを結ぶ仮想直線が架空地線140と平行となったときに、アーム3の移動を停止させる。具体的には、例えば、アーム3が半時計回りにさらに30°回転移動した位置で、アーム3の移動を停止させる。このとき、本体部2およびアーム3は前傾した状態であり、一対のフック機構4のフック32は、鉛直上方から見て、架空地線140と重なる。
(S1−4:フック32位置のずらし)
上述のように、一対のフック機構4のフック32が鉛直上方から見て架空地線140と重なっているため、このまま、本体部2およびアーム3の姿勢を前傾姿勢から元の水平姿勢に戻すと、フック32が架空地線140に接触してしまう。
そこで、図9(a)〜図9(d)に示すように、鉛直上方から見たフック32位置を架空地線140からずらす。具体的には、一対のフック機構4のフック32が鉛直上方から見て架空地線140から離れるように、昇降回転駆動部により走行部1に対する本体部2の向きを変化させる。これにより、鉛直上方から見たフック32位置を架空地線140からずらすことができる。
(S1−5:姿勢戻し)
フック32位置を架空地線140からずらしたら、図10(a)〜図10(d)に示すように、傾き制御機構部16により、本体部2およびアーム3の姿勢を前傾姿勢から水平姿勢に戻す。これにより、一対のフック機構4を構成する一対のフック32は、水平となる。
また、昇降回転駆動部により、走行部1と本体部2との間の離間距離を短くし、本体部2を走行部1に対して相対的に上昇させる。これにより、水平方向から見て、フック32を架空地線140よりも鉛直上方に移動させる。
フック32を架空地線140よりも鉛直上方に移動させたら、一対のフック機構4のフック32が鉛直上方から見て架空地線140と重なるように、昇降回転駆動部により走行部1に対する本体部2の向きを変化させる。
(S1−6:フック32による把持)
一対のフック機構4のフック32を鉛直上方から見て架空地線140と重ならせたら、図11(a)〜図11(d)に示すように、昇降回転駆動部により、走行部1と本体部2との間の離間距離を長くし、本体部2を走行部1に対して相対的に下降させる。これにより、一対のフック機構4のフック32を架空地線140に引っ掛ける。
一対のフック機構4のフック32を架空地線140に引っ掛けたら、フック32の把持爪を進出させ、フック32の溝内で把持爪により架空地線140を把持する。
(S1−7:走行部1上昇)
一対のフック機構4のフック32が架空地線140を把持したら、図12(a)〜図12(d)に示すように、搭載部支持部6により、機器搭載部5をアーム3の径方向に沿ってアーム3に近づける。つまり、機器搭載部5の重心をアーム3の円弧の中心に近づける。これにより、後述の本体部2移動S1−8においてフック点からアーム3を介して本体部2が垂れ下がったときに、機器搭載部5の重心を架空地線140側に近づけることができる。
機器搭載部5をアーム3に近づけたら、昇降回転駆動部により走行部1を本体部2に対して相対的に上昇させる。これにより、架空地線140よりも高い位置に走行部1が持ち上げられる。その結果、後述する本体部2の移動に際して、走行部1が架空地線140に干渉することを抑制することができる。また、上述したアーム3の送り出しS1−3に際しては、左右方向で支持機構15と同じ側に存在するアーム3の一端を送り出した。このため、後述する本体部2移動S1−8に際して、支持機構15が架空地線140に干渉することを抑制することができる。
(S1−8:本体部2移動)
走行部1を持ち上げたら、図13(a)〜図13(d)に示すように、アーム3に沿って本体部2を移動させる。これにより、本体部2は、走行部1と共に、鉄塔120を迂回するように移動する。
アーム3に沿って本体部2を移動させていくと、本体部2がアーム3の長さ方向の中間部に近づくにつれて、自走式電線点検装置100の重心がアーム3の長さ方向の中間部側に移動する(偏る)。自走式電線点検装置100の重心がアーム3の中間部に移動すると、フック32により架空地線140を把持するフック点からアーム3を介して本体部2が垂れ下がる。
このとき、本実施形態では、自走式電線点検装置100がバンパ40を有していることで、アーム3から径方向の内側に離間した位置で、バンパ40を鉄塔120に当接させることができる。これにより、鉄塔120に対する本体部2の接触を抑制することができる。
また、このとき、本実施形態では、バンパ40のうち、第1円弧部41および第2円弧部42よりもアーム3の径方向の内側に設けられた当接部43を、鉄塔120に当接させる。これにより、水平方向に対する本体部2のなす角度(θ)を小さくすることができる。
その後、本体部2をアーム3に沿ってアーム3の一端まで移動させる。
このとき、本体部2がアーム3の一端に近づくにつれて、自走式電線点検装置100の重心がアーム3の一端付近に移動する。これにより、フック点からアーム3を介して本体部2が垂れ下がっていた状態から、アーム3の長さ方向の中間部が鉛直上方に持ち上がり、アーム3が、再度、水平姿勢に戻る。
また、このとき、本体部2が移動を終える前(本体部2がアーム3の一端まで移動し終える前)までに、昇降回転駆動部により、本体部2に対して走行部1および支持機構15の向きを反転させる。これにより、支持機構15と架空地線140の干渉を回避することができる。
(S1−9:走行部1下降)
本体部2をアーム3の一端に到達させたら、図14(a)〜図14(d)に示すように、昇降回転駆動部により走行部1を本体部2に対して相対的に下降させる。走行部1を下降させることで、架空地線140上に走行部1を着地させる。これにより、走行部1を架空地線140に乗せることができる。
(S1−10:走行復帰)
走行部1を架空地線140に乗せたら、S1−6からS1−2までを逆の手順で動作させることで、走行動作に復帰する。
具体的には、搭載部支持部6により、機器搭載部5をアーム3の径方向に沿ってアーム3から遠ざける。これにより、自走式電線点検装置100の重心を、走行動作時の位置、すなわち、走行部1の鉛直直下に位置させる。
また、一対のフック機構4のフック32において、それぞれ把持爪をフック32の溝部分から後退させることにより、把持爪による架空地線140の把持状態を解除する。
次に、昇降回転駆動部により本体部2およびアーム3を走行部1に対して相対的に上昇させる。これにより、一対のフック機構4のフック32が架空地線140よりも上方に変位する。このため、フック32を架空地線140から外すことができる。
フック32を架空地線140から外したら、鉛直上方から見たフック32位置を架空地線140からずらすように、昇降回転駆動部により走行部1に対する本体部2の向きを変化させる。
鉛直上方から見たフック32位置を架空地線140からずらしたら、昇降回転駆動部により、本体部2を走行部1に対して相対的に下降させる。これにより、水平方向から見て、フック32を架空地線140と一致させる。
次に、傾き制御機構部16により、本体部2およびアーム3を前傾させる。これにより、一対のフック機構4のフック32が架空地線140よりも下方に変位する。本体部2の前傾とは、先述したとおり本体部2の前側(アーム支持部21側)が後ろ側よりも低い位置となるように傾くことをいい、本体部2の前傾にしたがってアーム3も前傾する。
次に、モータ25の駆動によってアーム3を引き戻すことにより、アーム3の中間部が本体部2と一致するようにアーム3を移動させる。アーム3を引き戻すとは、鉄塔120よりも後方にあるアーム3の端部を本体部2側に引き込む方向にアーム3を移動させることをいう。これにより、アーム3の両端は後方を向いて配置される。
次に、鉄塔120から遠ざかる方向に自走式電線点検装置100を所定量だけ走行させる。ここで記述する所定量とは、次の動作で本体部2の向きを変えるときに、アーム3等が鉄塔120に干渉しない程度の量をいう。
次に、アーム3の両端が前方を向くように、昇降回転駆動部により、走行部1に対する本体部2の向きを変える。
アーム3の両端が前方を向いたら、傾き制御機構部16により、本体部2およびアーム3を前傾姿勢から水平姿勢に戻す。
以上により、鉄塔120を挟んだ一対の架空地線140の水平角が180°である場合の、一連の乗り越え動作が完了となる。
(2−3)乗り越え動作2:水平角<180°の場合
次に、図15〜図21を用い、鉄塔120を挟んだ一対の架空地線140の水平角が180°未満である場合(すなわち、一対の架空地線140が鉄塔120を介して屈曲して配置されている場合)において、自走式電線点検装置100が鉄塔120を乗り越えるときの一連の動作について説明する。図15〜図21は、それぞれ、本実施形態に係る自走式電線点検装置の乗り越え動作(S2−1)〜(S2−7)を示す斜視図である。なお、図15〜図21においては、バンパ40の形状を簡略化し、円弧状にしている。
以下、鉄塔120を挟んだ一対の架空地線140の水平角が180°未満である場合の動作のうち、一対のフック機構4のフック32を、架空地線140の下を通過させる動作、一対のフック機構4のフック32を架空地線140に引っ掛ける動作、昇降回転駆動部により走行部1を本体部2に対して相対的に昇降させる動作、搭載部支持部6によりアーム3からの機器搭載部5の距離を調整する動作などについては、上述の乗り越え動作1と同様であるため、説明を省略する。
(S2−1:走行部1の停止)
まず、図15に示すように、近接センサが鉄塔120に接近したことを検出したら、走行部1の走行を停止させる。
(S2−2:アーム3の送り出し)
次に、図16に示すように、アーム3の一端を前方に送り出す。このとき、一対の架空地線140のそれぞれからアーム3の長さ方向の中間部までの距離が等しくなったときに、アーム3の移動を停止させる。
(S2−3:フック機構4の移動)
アーム3の一端を前方に送り出したら、図17に示すように、一対のフック機構4のそれぞれにおいて、フック機構駆動部35を駆動することで、フック機構4をアーム3に沿って移動させる。
このとき、本実施形態では、例えば、アーム3が構成する円弧の中心を中心とした一対のフック機構4の拡開角度が、一対の架空地線140の水平角と等しくなるように、フック機構4をアーム3に沿って移動させる。なお、ここでいう「一対のフック機構4の拡開角度」とは、鉛直上方から見たときに、一方のフック機構4のフック32とアーム3が構成する円弧の中心とを結ぶ仮想直線と、他方のフック機構4のフック32とアーム3が構成する円弧の中心とを結ぶ仮想直線と、のなす角度のうち、アーム3の長さ方向の中間部が位置するほうの角度のことをいう。一対のフック機構4の拡開角度を一対の架空地線140の水平角と等しくすることで、本体部2をアーム3に沿って移動させるときに、本体部2をフック点から鉛直下側に垂れ下がり難くすることができる。
また、このとき、本実施形態では、例えば、鉛直上方から見て一対のフック機構4のそれぞれのフック32と架空地線140とのなす角度が互いに60°以上120°以下、好ましくは90°になるように、フック機構4をアームに沿って移動させる。なお、ここでいう「フック32と架空地線140とのなす角度」とは、フック32と架空地線140とのなす角度のうち、アーム3の長さ方向の中間部側の角度のことをいう。フック32と架空地線140とのなす角度が60°未満であったり、120°超であったりすると、フック32が架空地線140に対して過度に斜めに引っ掛かることとなる。このため、フック32が架空地線140を把持する把持力が弱くなる可能性がある。これに対し、フック32と架空地線140とのなす角度を60°以上120°以下とすることで、フック32が架空地線140に対して過度に斜めに引っ掛かることを抑制することができる。これにより、フック32が架空地線140を把持する把持力を強くすることができる。さらに、フック32と架空地線140とのなす角度を90°とすることで、フック32が架空地線140を把持する把持力を安定的に強くすることができる。これにより、フック点のずれを抑制することができる。
一対のフック機構4をそれぞれ所定位置に移動させたら、一対のフック機構4のフック32をそれぞれ架空地線140に引っ掛ける。
(S2−4:本体部2移動)
一対のフック機構4のフック32をそれぞれ架空地線140に引っ掛けたら、図18に示すように、本体部2を一方のフック機構4の位置からアーム3に沿って他方のフック機構4の位置まで移動させる。
なお、本体部2が移動を終える前に、本体部2に対して走行部1および支持機構15の向きを反転させる。
(S2−5:走行部1下降)
本体部2を他方のフック機構4の位置まで到達させたら、図19に示すように、走行部1を架空地線140に乗せる。
(S2−6:フック機構4の移動)
走行部1を架空地線140に乗せたら、一対のフック機構4による架空地線140の把持状態を解除する。
次に、図20に示すように、一対のフック機構4のそれぞれにおいて、フック機構駆動部35を駆動することで、フック機構4をアーム3に沿ってアーム3の端部まで移動させる。
(S2−7:走行復帰)
フック機構4をアーム3の端部まで移動させたら、図21に示すように、アーム3を引き戻すことにより、アーム3の長さ方向の中間部が本体部2と一致するようにアーム3を移動させる。
以上により、鉄塔120を挟んだ一対の架空地線140の水平角が180°未満である場合の、一連の乗り越え動作が完了となる。
(3)第1実施形態の効果
本実施形態によれば、以下に示す1つまたは複数の効果が得られる。
(a)本実施形態では、一対のフック機構4のうち少なくともいずれかが、アーム3に沿って移動可能に構成されていることで、鉄塔120を挟んだ一対の架空地線140の水平角が180°未満である場合に、当該水平角に応じて、フック機構4の位置を変更することができる。これにより、アーム3の円弧の中心を鉄塔120の中心に近づけることができ、一対のフック点の間でアーム3が鉛直下側に垂れ下がる長さを短くすることができる。その結果、水平面に対する本体部2のなす角度を小さくすることができる。
水平方向に対する本体部2のなす角度を小さくすることで、本体部2を水平姿勢に容易に戻すことができる。これにより、アーム3に沿って本体部2を移動させる動作から、走行部1を架空地線140に沿って走行させる動作へと、スムーズに移行させることができる。
また、水平方向に対する本体部2のなす角度を小さくすることで、アーム3に沿って本体部2を移動させる(登らせる)動作のために必要な駆動力を小さくすることができる。これにより、自走式電線点検装置100の消費電力を低減することができる。
また、本体部2を鉛直下側に垂れ下がり難くすることで、当接部43が当接する鉄塔120のレール121への負荷を軽減することができる。
これらの結果、本実施形態の自走式電線点検装置100を安定的に動作させることができる。
(b)鉄塔120を挟んだ一対の架空地線140の水平角が180°未満である場合に、一対のフック機構4のうち少なくともいずれかをアーム3に沿って移動させることで、鉛直上方から見た一対のフック機構4のそれぞれのフック32と架空地線140とのなす角度を、互いに60°以上120°以下、すなわち90°に近くすることができる。一対のフック機構4のそれぞれのフック32と架空地線140とのなす角度を90°に近くすることで、フック32が架空地線140に対して過度に斜めに引っ掛かることを抑制することができる。これにより、フック32が架空地線140を把持する把持力を強くすることができる。
また、一対のフック機構4のそれぞれのフック32と架空地線140とのなす角度を90°に近くすることで、アーム3をフック点から鉛直下側に垂れ下がり難くすることができる。これにより、本体部2を傾き難くすることができ、理想的には、本体部2を水平姿勢に維持させることもできる。
(c)本実施形態では、一対のフック機構4のうち少なくともいずれかは、該フック機構4自身をアーム3に沿って移動させるフック機構駆動部35を有している。すなわち、当該フック機構4は、自走式に構成されている。これにより、フック機構駆動部35によって、該フック機構4をアーム3に沿って任意に移動させることができる。
(d)一対のフック機構4のうちの少なくともいずれかが有するフック機構駆動部35は、アーム支持機構のピニオンとともにアーム3のラック28を共用し、該ラック28に噛み合って回転するフック側ピニオン(不図示)を有している。アーム3のラック28を共用することで、アーム3に多重のラックが不要となる。これにより、フック機構駆動部35を設けたことに起因するアーム3の構造の複雑化を回避することができる。
(e)鉄塔120を挟んだ一対の架空地線140の水平角が180°未満であるときに、アーム3が構成する円弧の中心を中心とした一対のフック機構4の拡開角度が、一対の架空地線140の水平角と等しくなるように、一対のフック機構4のうち少なくともいずれかを、アーム3に沿って移動させる。これにより、本体部2をアーム3に沿って移動させるときに、本体部2をフック点から鉛直下側に垂れ下がり難くすることができる。その結果、本体部2を傾き難くすることができ、理想的には、本体部2を水平姿勢に維持させることもできる。
(f)本実施形態では、バンパ40が、本体部2がアーム3に沿って移動するときに、アーム3から径方向の内側に離間した位置で鉄塔120に当接するよう構成されている。これにより、鉄塔120とアーム3との間にバンパ40を介在させることができ、鉄塔120に対する本体部2の接触を抑制することができる。鉄塔120に対する本体部2の接触を抑制することで、本体部2が鉄塔120の側壁を摺動することを抑制することができる。その結果、自走式電線点検装置100が鉄塔120を乗り越える動作を安定化させることができる。
(g)本実施形態では、バンパ40が、アーム3の長さ方向の一端および他端にそれぞれ連結され、アーム3の一端から他端に亘って該アーム3から離間した状態で延在して設けられることで、アーム3の長さ方向に直交する断面で見たときに、アーム3の外周全体を把持するよう、本体部2を構成することができる。
ここで、特許文献2の自走式電線点検装置では、アームの長さ方向の略中間部の下方からバンパが突き出ていた。このため、本体部は、アームの上方だけしか把持することができなかった。すなわち、アームを把持する本体部の断面形状は、C字状にアームを跨ぐ形状となっていた。本体部の断面形状がC字状であると、アームと本体部との結合が不確実な状態となり、本体部がアームを把持する把持力が弱くなる可能性があった。その結果、自走式電線点検装置が鉄塔を乗り越える動作が不安定となる可能性があった。
これに対し、本実施形態では、バンパ40が、アーム3の長さ方向の一端および他端にそれぞれ連結され、アーム3の一端から他端に亘って該アーム3から離間した状態で延在して設けられていることで、アーム3に沿った本体部2の経路中に、バンパ40の連結部が存在しない。これにより、アーム3の長さ方向に直交する断面で見たときに、アーム3の外周全体を把持するよう、本体部2を構成することができる。すなわち、アーム3を把持する本体部2の断面形状を、O字状にアーム3の外周を囲む形状とすることができる。アーム3の外周全体を把持するよう本体部2を構成することで、アーム3と本体部2との結合を強固にすることができ、すなわち、本体部2がアームを把持する把持力を強くすることができる。その結果、自走式電線点検装置100が鉄塔を乗り越える動作を安定化させることが可能となる。
(h)本実施形態では、上述のように鉄塔120に当接するバンパ40を設けることで、自走式電線点検装置100を小型化し、かつ、自走式電線点検装置100の構造を簡略化することができる。
ここで、自走式電線点検装置が、自身の重心の位置を制御する重心制御機構を有する場合が考えられる。この場合、重心制御機構は、例えば、アームの両端に接続される可動式のバランスウェイトを有する。重心制御機構がバランスウェイトを動かすことにより、本体部がアームに沿って移動する際に、フック点から本体部が垂れ下がることを抑制し、自走式電線点検装置の姿勢を安定的に制御することができる。
しかしながら、自走式電線点検装置が重心制御機構を有する場合では、自走式電線点検装置の重量が複数のバランスウェイトの分だけ重くなり、自走式電線点検装置の外形が複数のバランスウェイトの分だけ大きくなっていた。また、重心制御機構を構成する複数のバランスウェイトのそれぞれが、例えば、錘部と、アームおよび錘部を連結する連結棒と、連結棒を動作させる駆動部と、を有していたため、自走式電線点検装置の構造が複雑化していた。
これに対し、本実施形態では、上述のように鉄塔120に当接するバンパ40を設けることで、バンパ40を介して鉄塔120に寄り掛かるようにして、自走式電線点検装置100を支持することができる。これにより、重量化かつ複雑化した重心制御機構を、自走式電線点検装置100から排除することができる。その結果、上述の自走式電線点検装置100の移動に係る動作の安定性を向上させつつ、自走式電線点検装置100を小型化し、かつ、自走式電線点検装置100の構造を簡略化することが可能となる。また、自走式電線点検装置100が鉄塔を乗り越える動作自体を簡略化することも可能となる。
(i)バンパ40が、アーム3の一端から他端に亘って延在して設けられることで、鉄塔120に対する本体部2の接触を広範囲に亘り抑制することができる。
ここで、特許文献2の構成では、バンパが、アームの長さ方向の略中間部に位置する2箇所にそれぞれ連結されていた。このため、アームのうちバンパが設けられていない領域を本体部が移動する際に、本体部が鉄塔に接触してしまう可能性があった。つまり、バンパが設けられているのにも関わらず、鉄塔に対する本体部の接触を抑制するバンパの機能を果たせない状態が生じる可能性があった。その結果、鉄塔に対する本体部の接触に起因して、自走式電線点検装置が鉄塔を乗り越える動作が不安定となる可能性があった。
これに対し、本実施形態では、バンパ40がアーム3の一端から他端に亘って延在して設けられていることで、本体部2がアーム3のどの位置にいたとしても、本体部2と鉄塔120との間にバンパ40を介在させることができる。これにより、鉄塔120に対する本体部2の接触を広範囲に亘り抑制することができる。その結果、自走式電線点検装置100が鉄塔を乗り越える動作を確実に安定化させることが可能となる。
(j)バンパ40がアーム3の一端から他端に亘って該アーム3から離間していることで、バンパ40と本体部2との干渉を抑制することができる。
ここで、特許文献2の構成では、バンパが、上述のように、アームに沿った本体部の経路中に連結されていた。このため、本体部がアームに沿って移動する際に、バンパが鉄塔との当接によって撓んだ場合などに、バンパが本体部の経路を遮り、バンパと本体部とが干渉してしまう可能性があった。
これに対し、本実施形態では、バンパ40がアーム3の一端から他端に亘って該アーム3から離間していることで、本体部2がアーム3に沿って移動する際に、バンパ40が鉄塔120との当接によって撓んだ場合などであっても、アーム3に沿った本体部2の経路を安定的に維持し、バンパ40と本体部2との干渉を抑制することができる。
(k)バンパ40において、第1円弧部41および第2円弧部42よりもアーム3の径方向の内側に、当接部43が設けられていることで、フック点からアーム3を介して本体部2が垂れ下がったときに、鉄塔120に対するバンパ40の当接位置(当接点)を、架空地線140側(フック点側)に近づけることができる。これにより、本体部2を鉛直下側に垂れ下がり難くすることができる。その結果、バンパがアームの全周に亘って該アームの円弧に沿うように設けられている場合よりも、水平方向に対する本体部2のなす角度を小さくすることができる。
(l)バンパ40において、当接部43の両側に、それぞれ、アーム3の円弧に沿うように第1円弧部41および第2円弧部42が設けられていることで、アーム3の送り出しの際に、第1円弧部41および第2円弧部42のそれぞれが構成する円弧内に、鉄塔120のレール121等の付属部材を容易に避けることができる。つまり、第1円弧部41および第2円弧部42よりもアーム3の径方向の内側に当接部43が設けられていたとしても、アーム3の送り出しに必要なバンパ40と鉄塔120との間の間隙を確保することができる。これにより、アーム3の送り出しの際に、バンパ40と鉄塔120との干渉を抑制することができる。
(m)バンパ40の当接部43がアーム3の円弧に対して弦を構成することで、すなわち、当接部43を直線状とすることで、当接部43の長さ方向の中間部を、アーム3が構成する円弧の中心に近づけることができる。一方で、当接部43がアーム3が構成する円弧の中心側に突出していないことで、アーム3の送り出しに必要な、バンパ40と鉄塔120との間の間隙が狭くなることを抑制することができる。これにより、フック点からアーム3を介して本体部2が垂れ下がったときに、水平方向に対する本体部2のなす角度を効率よく小さくすることができる。
(n)バンパ40の当接部43がアーム3の一端と他端とを結ぶ仮想直線に対して平行であることで、鉄塔120に対する当接部43の当接点からアーム3の一端までの距離と、鉄塔120に対する当接部43の当接点からアーム3の他端までの距離と、を略等しくすることができる。その結果、フック点からアーム3を介して本体部2が垂れ下がり、当接部43が鉄塔120に当接したときに、アーム3に沿った本体部2の移動方向における自走式電線点検装置100のバランスを向上させることができる。
(o)バンパ40の当接部43は、鉄塔120に当接したときに、水平方向に対する本体部2のなす角度が鉛直上側および鉛直下側にそれぞれ15°以内となる位置に配置されている。水平方向に対する本体部2のなす角度が鉛直下側に15°以内となる位置に当接部43を配置することで、アーム3に沿って本体部2を移動させる(登らせる)動作のために必要な駆動力を小さくすることができる。また、水平方向に対する本体部2のなす角度が鉛直上側に15°以内となる位置に当接部43を配置することで、当接部43がアーム3の円弧の中心に過剰に近づくことを抑制することができる。これにより、アーム3の送り出しの際に、鉄塔120のレール121等の付属部材に対する当接部43の接触を抑制することができる。
(p)搭載部支持部6が、アーム3からの機器搭載部5の距離を調整するよう、アーム3の径方向に沿って機器搭載部5を移動可能に支持することで、自走式電線点検装置100の動作に応じて、機器搭載部5内の機器の重量を利用しながら、自走式電線点検装置100の重心位置を調整することができる。これにより、自走式電線点検装置100のバランスを向上させることができる。その結果、自走式電線点検装置100の移動に係る動作を安定化させることができる。
(q)搭載部支持部6により、アーム3の径方向に沿って機器搭載部5を移動させることで、走行部1の進行方向に対する本体部2の左右方向のバランスを維持しつつ、自走式電線点検装置100の重心位置を調整することができる。
特許文献2の構成では、本体部の所定の仮想中心軸を中心として、バランサを揺動させていた。これにより、走行動作において、自走式電線点検装置の前後左右のバランスを安定化させることができた。しかしながら、乗り越え動作のうちアームに沿って本体部を移動させる動作では、自走式電線点検装置のバランスを安定化させることには寄与しなかった。
これに対し、本実施形態では、搭載部支持部6により、アーム3の径方向に沿って機器搭載部5を移動させることで、機器搭載部5の重心がアーム3の径方向から外れることを抑制することができる。これにより、鉛直上方から見て、アーム3の円弧の中心と、走行部1の鉛直直下の中心と、機器搭載部5の重心と、を一直線上に配置したまま、自走式電線点検装置100の重心位置を調整することができる。その結果、走行部1の進行方向に対する本体部2の左右方向のバランスを維持しつつ、自走式電線点検装置100の重心位置を調整することができる。
例えば、後述の(s)に記載のように、走行動作において、自走式電線点検装置100の左右のバランスを維持しつつ、自走式電線点検装置100の前後のバランスを向上させることができる。また、例えば、後述の(t)に記載のように、乗り越え動作のうちアーム3に沿って本体部2を移動させる動作において、本体部2の左右のバランスを維持しつつ、機器搭載部5をアーム3に近づけることことができる。つまり、機器搭載部5の重心を架空地線140(鉄塔120)側に近づけることができる。
(r)搭載部支持部6により、機器搭載部5内の機器の重量を利用しながら、自走式電線点検装置100の重心位置を調整することで、この理由からも、重量化かつ複雑化した重心制御機構を、自走式電線点検装置100から排除することができる。
(s)搭載部支持部6は、走行部1が架空地線140に沿って走行するときに、自走式電線点検装置100の重心が走行部1の鉛直直下に位置するよう、アーム3からの機器搭載部5の距離を調整する。すなわち、走行部1の鉛直直下を挟んで、機器搭載部5の重量によるモーメントと、アーム3の重量によるモーメントと、を釣り合わせる。これにより、走行部1が架空地線140に沿って走行する際の、走行部1の進行方向における自走式電線点検装置100の前後のバランスを向上させることができ、すなわち、自走式電線点検装置100を水平姿勢に維持することができる。その結果、走行部1が架空地線140に沿って走行する動作を安定化させることができる。
(t)搭載部支持部6は、本体部2がアーム3に沿って移動するときに、機器搭載部5をアーム3に近づける。これにより、アーム3に沿って本体部2を移動させる動作において、フック点からアーム3を介して本体部2が垂れ下がったときに、機器搭載部5の重心を架空地線140(鉄塔120)側に近づけることができる。すなわち、機器搭載部5の重量によるモーメントを小さくすることができる。その結果、フック点からアーム3を介して本体部2が垂れ下がったときの、架空地線140への負荷を軽減することができる。
<第1実施形態の変形例>
上述の第1実施形態は、必要に応じて、以下に示す変形例のように変更することができる。以下、上述の実施形態と異なる要素についてのみ説明し、上述の実施形態で説明した要素と実質的に同一の要素には、同一の符号を付してその説明を省略する。
図22(a)〜図22(d)を用い、本実施形態の変形例について説明する。図22(a)〜図22(d)は、それぞれ、本実施形態の変形例1〜4に係るバンパを示す平面図である。
本実施形態の変形例1〜4では、バンパ40の形状が上述の実施形態と異なっている。
(変形例1)
図22(a)に示すように、変形例1では、バンパ40は、例えば、第1弦部44と、第2弦部45と、当接部43と、を有している。第1弦部44は、例えば、アーム3の一端に連結され、アーム3が構成する円弧に対して弦を構成し、アーム3の一端から他端に向けて所定距離だけ延在している。第2弦部45は、例えば、アーム3の他端に連結され、アーム3が構成する円弧に対して弦を構成し、アーム3の他端から一端に向けて所定距離だけ延在している。当接部43は、例えば、第1弦部44と第2弦部45との間を繋ぎ、アーム3が構成する円弧に沿うように延在している。当接部43とアーム3との離間距離は、例えば、当接部43の全長に亘って一定である。
変形例1によれば、当接部43が円弧状となっていることで、アーム3の送り出しの際に、当接部43が鉄塔120と干渉してしまうことを抑制することができる。また、鉄塔120の形状や大きさが変化したとしても、該鉄塔120に応じて、当接部43を鉄塔120に当接させることができる。
しかしながら、変形例1では、バンパ40が、全長に亘って、アーム3の円弧の中心から遠くなっている。このため、フック点からアーム3を介して本体部2が垂れ下がったときに、本体部2が鉛直下側に垂れ下がり易くなる。その結果、当接部43が当接する鉄塔120のレール121への負荷が大きくなる可能性がある。
これに対し、上述の実施形態のように、当接部43がアーム3の円弧に対して弦を構成しているほうが、フック点からアーム3を介して本体部2が垂れ下がったときに、変形例1よりも、水平方向に対する本体部2のなす角度を効率よく小さくすることができる点で好ましい。
(変形例2)
図22(b)に示すように、変形例2では、バンパ40は、例えば、変形例1と同様に、第1弦部44と、第2弦部45と、当接部43と、を有している。しかしながら、変形例2では、当接部43の曲率半径が、アーム3の円弧の曲率半径よりも大きい。当接部43の長さ方向の中間部は、当接部43の長さ方向の両端よりも、アーム3の円弧の中心に近くなっている。
変形例2によれば、当接部43の長さ方向の中間部がアーム3の円弧の中心に近いことで、フック点からアーム3を介して本体部2が垂れ下がったときに、変形例1よりも、水平方向に対する本体部2のなす角度を小さくすることができる。
しかしながら、変形例2では、バンパ40において、アーム3の円弧形状に倣った部分が無くなっている。つまり、アーム3の送り出しの際に、バンパ40と鉄塔120との間の間隙(空間)が狭くなる。このため、アーム3の送り出しの際に、バンパ40と鉄塔120との干渉が生じないよう、複数段階に分けて小まめにアーム3を送り出す必要がある。
これに対し、上述の実施形態のように、アーム3の円弧に沿った第1円弧部41および第2円弧部42が設けられているほうが、アーム3の送り出しの際に、バンパ40と鉄塔120との干渉を安定的に抑制することができる点で好ましい。
(変形例3)
図22(c)に示すように、変形例3では、バンパ40は、例えば、上述の実施形態と同様に、第1円弧部41と、第2円弧部42と、当接部43と、を有している。しかしながら、変形例3では、当接部43が、第1円弧部41および第2円弧部42との間で、アーム3が構成する円弧に沿うように延在している。当接部43の長さ方向の中間部は、当接部43の長さ方向の両端よりも、アーム3の円弧の中心に近くなっている。
変形例3によれば、当接部43の長さ方向の中間部がアーム3の円弧の中心に近いことで、フック点からアーム3を介して本体部2が垂れ下がったときに、水平方向に対する本体部2のなす角度を小さくすることができる。また、アーム3の円弧に沿った第1円弧部41および第2円弧部42が設けられていることで、アーム3の送り出しの際に、バンパ40と鉄塔120との干渉を抑制することができる。
しかしながら、変形例3では、当接部43が円弧状である分だけ、第1円弧部41および第2円弧部42のそれぞれの長さが、上述の実施形態よりも短い。つまり、アーム3の送り出しの際に、バンパ40と鉄塔120との間の間隙(空間)が狭くなる。このため、変形例3においても、アーム3の送り出しの際に、バンパ40と鉄塔120との干渉が生じないよう、複数段階に分けて小まめにアーム3を送り出す必要がある。
これに対し、上述の実施形態のように、当接部43がアーム3の円弧に対して弦を構成しつつ、第1円弧部41および第2円弧部42のそれぞれの長さを所定長さ以上に確保しているほうが、アーム3の送り出しの際に、バンパ40と鉄塔120との干渉を安定的に抑制することができる点で好ましい。
(変形例4)
図22(d)に示すように、変形例4では、例えば、変形例3と同様に、当接部43が、第1円弧部41および第2円弧部42との間で、アーム3が構成する円弧に沿うように延在している。しかしながら、変形例4では、当接部43の長さ方向の中間部は、変形例3よりも、アーム3の円弧の中心から遠くなっている。
変形例4によれば、当接部43の長さ方向の中間部が変形例3よりもアーム3の円弧の中心から遠いことで、アーム3の送り出しの際に、変形例3よりも、バンパ40と鉄塔120との干渉を安定的に抑制することができる。
しかしながら、変形例4では、変形例3と同様に、第1円弧部41および第2円弧部42のそれぞれの長さが、上述の実施形態よりも短い。したがって、変形例3と同様の理由により、上述の実施形態のほうが好ましい。
<本発明の第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
本実施形態では、フック機構4の態様が第1実施形態と異なる。以下、第1実施形態の変形例と同様に、第1実施形態と異なる要素についてのみ説明する。
(1)フック機構
本実施形態では、一対のフック機構4のうちいずれかは、例えば、第1実施形態と同様に、アーム3に沿って移動可能に構成されている。
しかしながら、本実施形態では、一対のフック機構4のうちいずれかは、例えば、自走式に構成されておらず、上述のフック機構駆動部を有していない。すなわち、一対のフック機構4のうちいずれかは、例えば、該フック機構4が架空地線140を把持した状態で、本体部2に対してアーム3を相対的に移動させることで、アーム3に沿って移動可能に構成されている。
ここでは、例えば、一対のフック機構4の両方が、フック機構駆動部を有さずに、アーム3に沿って移動可能に構成されている。これにより、走行部1の進行方向に対して左右どちらに鉄塔120が配置されるかに応じて、一対のフック機構4のそれぞれの位置を変更することができる。
(2)自走式電線点検装置の動作
次に、図23〜図29を用い、本実施形態に係る自走式電線点検装置100の動作のうち、鉄塔120を挟んだ一対の架空地線140の水平角が180°未満である場合において、自走式電線点検装置100が鉄塔120を乗り越えるときの一連の動作について説明する。図23〜図19は、それぞれ、本実施形態に係る自走式電線点検装置の乗り越え動作(S3−1)〜(S3−7)を示す斜視図である。なお、図23〜図29においては、バンパ40の形状を簡略化し、円弧状にしている。
以下、上述の実施形態の乗り越え動作1と同様である動作は、説明を省略する。
(S3−1:一方のフック32のみによる把持)
まず、図23に示すように、近接センサが鉄塔120に接近したことを検出したら、走行部1の走行を停止させる。
走行部1の走行を停止させたら、乗り越え先の架空地線140に対して、一方のフック機構4のフック32のみを引っ掛ける。これにより、一方のフック32のみにより、乗り越え先の架空地線140を把持する。
(S3−2:フック機構4の移動)
一方のフック32のみにより架空地線140を把持させたら、図24に示すように、該フック32が架空地線140を把持した状態で、本体部2に対してアーム3を相対的に移動させる。具体的には、フック32が架空地線140を把持した方のアーム3の一端を、本体部2から遠ざかるように、前方に送り出す。これにより、架空地線140を把持したフック機構4を、アーム3に沿ってアーム3の他端に向けて移動させることができる。
このとき、例えば、アーム3が構成する円弧の中心を中心とした一対のフック機構4の拡開角度が、一対の架空地線140の水平角と等しくなるように、架空地線140を把持したフック機構4をアーム3に沿って移動させる。また、例えば、鉛直上方から見て一対のフック機構4のそれぞれのフック32と架空地線140とのなす角度が互いに60°以上120°以下、好ましくは90°になるように、架空地線140を把持したフック機構4をアームに沿って移動させる。
このように、架空地線140を把持した一方のフック機構4をアーム3に沿って所定位置に移動させることで、架空地線140を把持していない他方のフック機構4を、走行部1が乗っている架空地線140(乗り越え元の架空地線140)に近づけることができる。
(S3−3:他方のフック32による把持)
架空地線140を把持していない他方のフック機構4を、走行部1が乗っている架空地線140に近づけたら、図25に示すように、当該他方のフック機構4のフック32を、走行部1が乗っている架空地線140に引っ掛ける。これにより、一対のフック32により、一対の架空地線140を把持させることができる。
(S3−4:本体部2移動)
一対のフック機構4のフック32をそれぞれ架空地線140に引っ掛けたら、図26に示すように、乗り越え元のフック機構4の位置からアーム3に沿って乗り越え先のフック機構4の位置まで本体部2を移動させる。
(S3−5:走行部1下降)
本体部2を乗り越え先のフック機構4の位置まで到達させたら、図27に示すように、走行部1を架空地線140に乗せる。
(S3−6:フック機構4の移動)
走行部1を架空地線140に乗せたら、乗り越え元のフック機構4のみにおいて、架空地線140の把持状態を解除する。一方で、乗り越え先のフック機構4による架空地線140の把持状態を維持する。
乗り越え元のフック機構4のみにおいて架空地線140の把持状態を解除したら、図28に示すように、乗り越え先のフック32が架空地線140を把持した状態で、本体部2に対してアーム3を相対的に移動させる。具体的には、フック機構4の把持状態を解除した方のアーム3の他端を、本体部2から遠ざかるように、後方に送り出す。これにより、架空地線140を把持したフック機構4を、アーム3に沿ってアーム3の一端に向けて相対的に移動させることができる。
架空地線140を把持したフック機構4をアーム3の一端に向けて移動させたら、該フック機構4による架空地線140の把持状態を解除する。
(S3−7:走行復帰)
フック機構4による架空地線140の把持状態を解除したら、図29に示すように、アーム3を引き戻すことにより、アーム3の中間部が本体部2と一致するようにアーム3を移動させる。
以上により、本実施形態の一連の乗り越え動作が完了となる。
(3)第2実施形態の効果
本実施形態では、一対のフック機構4のうちいずれかは、該フック機構4が架空地線140を把持した状態で、本体部2に対してアーム3を相対的に移動させることで、アーム3に沿って移動可能に構成されている。これにより、該フック機構4からフック機構駆動部を排除することができる。フック機構駆動部を排除することで、該フック機構4を軽量化かつ簡略化することができる。その結果、アーム3を保持する本体部2への負荷を軽減することができる。
<他の実施形態等>
本発明の技術的範囲は上述した実施形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
上述の実施形態では、走行部1が一対の車輪8で走行するよう構成されている場合について説明したが、走行部1は、クローラ型により構成されていてもよい。
上述の実施形態では、アーム3の形状が正円に沿う円弧状である場合を想定して説明したが、アーム3の形状は完全な正円でなくてもよく、例えば、楕円に沿う円弧状であってもよい。
上述の実施形態では、搭載部支持部6が、ラックアンドピニオン機構により構成されている場合について説明したが、搭載部支持部6は、ラックアンドピニオン機構以外の機構により構成されていてもよい。具体的には、搭載部支持部6は、例えば、スライドレールを用いた機構により構成されていてもよい。
上述の実施形態では、自走式電線点検装置100が、(i)バンパ40、(ii)搭載部支持部6による機器搭載部5の移動機構、(iii)移動可能なフック機構4、の全てを兼ね備える場合について説明したが、自走式電線点検装置100は、(i)〜(iii)のうち少なくともいずれかの構成を有していればよく、架空地線140や鉄塔120の状況などに応じて、自走式電線点検装置100の構成を変更してもよい。
上述の実施形態では、一対のフック機構4の両方がアーム3に沿って移動可能に構成されている場合について説明したが、この場合に限られない。例えば、一対のフック機構4のうち一方のみが、アーム3に沿って移動可能に構成されていてもよい。
<本発明の好ましい態様>
以下、本発明の好ましい態様を付記する。
(付記1)
鉄塔間に架線された架空地線に沿って走行しながら電線の点検を行う自走式電線点検装置であって、
前記架空地線上を走行可能な走行部と、
前記走行部の下方に配置される本体部と、
前記本体部に対して相対移動可能に連結され、前記鉄塔を迂回するように前記本体部を移動させるための迂回路を形成する円弧型のアームと、
前記アームを前記架空地線に懸垂させるために前記アームの長さ方向の中間部を挟んで両端側に設けられる一対のフック機構と、
を備え、
前記一対のフック機構のうち少なくともいずれかは、前記アームに沿って移動可能に構成される
自走式電線点検装置。
(付記2)
前記一対のフック機構の両方は、前記アームに沿って移動可能に構成される
付記1に記載の自走式電線点検装置。
(付記3)
前記一対のフック機構のうち少なくともいずれかは、該フック機構自身を前記アームに沿って移動させるフック機構駆動部を有する
付記1又は2に記載の自走式電線点検装置。
(付記4)
前記本体部は、前記アームを相対的に移動可能に支持するアーム支持機構を備え、
前記アームは、周方向に沿ってラックを有し、
前記アーム支持機構は、前記アームの前記ラックに噛み合って回転させるピニオンを有し、
前記フック機構駆動部は、前記アーム支持機構の前記ピニオンとともに前記ラックを共用し、該ラックに噛み合って回転するフック側ピニオンを有する
付記3に記載の自走式電線点検装置。
(付記5)
前記一対のフック機構のうち少なくともいずれかは、該フック機構が前記架空地線を把持した状態で、前記本体部に対して前記アームを相対的に移動させることで、前記アームに沿って移動可能に構成される
付記1又は2に記載の自走式電線点検装置。
(付記6)
前記一対のフック機構のうち少なくともいずれかは、前記鉄塔を挟んだ一対の前記架空地線の水平角が180°未満であるときに、前記アームが構成する円弧の中心を中心とした前記一対のフック機構の拡開角度が、前記一対の架空地線の前記水平角と等しくなるように、前記アームに沿って移動する
請求項1〜5のいずれか1つに記載の自走式電線点検装置。
(付記7)
前記一対のフック機構のうち少なくともいずれかは、前記一対のフック機構が前記一対の架空地線を把持するときの前記アームが構成する円弧の中心と前記鉄塔の中心とが一致するように、前記アームに沿って移動する
付記6に記載の自走式電線点検装置。
(付記8)
前記一対のフック機構は、それぞれ、前記架空地線を把持するフックを有し、
前記一対のフック機構のうち少なくともいずれかは、前記鉄塔を挟んだ一対の前記架空地線の水平角が180°未満であるときに、鉛直上方から見て前記一対のフック機構のそれぞれの前記フックと前記架空地線とのなす角度が互いに60°以上120°以下になるように、前記アームに沿って移動する
付記1〜7のいずれか1つに記載の自走式電線点検装置。
(付記9)
前記一対のフック機構のうち少なくともいずれかは、前記鉄塔を挟んだ一対の前記架空地線の水平角が180°未満であるときに、鉛直上方から見て前記一対のフック機構のそれぞれの前記フックと前記架空地線とにより前記アームの円弧の中心側で形成される角度が互いに90°となるように、前記アームに沿って移動する
付記8に記載の自走式電線点検装置。
(付記10)
前記アームの径方向の内側に設けられ、前記本体部が前記アームに沿って移動するときに、前記アームから径方向の内側に離間した位置で前記鉄塔に当接することで、前記鉄塔に対する前記本体部の接触を抑制するバンパを備え、
前記バンパは、前記アームの長さ方向の一端および他端にそれぞれ連結され、前記アームの前記一端から前記他端に亘って前記アームから離間した状態で延在して設けられる
付記1〜9のいずれか1つに記載の自走式電線点検装置。
(付記11)
前記本体部は、前記アームの長さ方向に直交する断面で見たときに、前記アームの外周全体を把持するよう構成される
付記10に記載の自走式電線点検装置。
(付記12)
前記バンパおよび前記アームは、前記本体部が前記アームに沿って移動可能な間隔をあけて配置される
付記10又は11に記載の自走式電線点検装置。
(付記13)
前記バンパは、
前記アームの前記一端に連結され、前記アームが構成する円弧に沿うように前記アームの前記一端から前記他端に向けて所定距離だけ延在する第1円弧部と、
前記アームの前記他端に連結され、前記アームの前記円弧に沿うに前記アームの前記他端から前記アームの前記一端に向けて所定距離だけ延在する第2円弧部と、
前記第1円弧部と前記第2円弧部との間を繋ぎ、前記第1円弧部および前記第2円弧部よりも前記アームの径方向の内側に設けられ、前記本体部が前記アームに沿って移動するときに、前記鉄塔に当接する当接部と、
を有する
付記10〜12のいずれか1つに記載の自走式電線点検装置。
(付記14)
前記当接部は、前記アームの前記円弧に対して弦を構成する
付記13に記載の自走式電線点検装置。
(付記15)
前記当接部は、前記アームの前記一端と前記他端とを結ぶ仮想直線に対して平行である
付記14に記載の自走式電線点検装置。
(付記16)
前記当接部は、前記鉄塔に当接したときに、水平方向に対する前記本体部のなす角度が鉛直上側および鉛直下側にそれぞれ15°以内となる位置に配置される
付記13〜15のいずれか1つに記載の自走式電線点検装置。
(付記17)
前記本体部は、
前記電線の点検に関わる機器を搭載する機器搭載部と、
前記アームからの前記機器搭載部の距離を調整するよう、前記アームの径方向に沿って前記機器搭載部を移動可能に支持する搭載部支持部と、
を有する
付記10〜16のいずれか1つに記載の自走式電線点検装置。
(付記18)
前記搭載部支持部は、前記走行部が前記架空地線に沿って走行するときに、前記自走式電線点検装置の重心が前記走行部の鉛直直下に位置するよう、前記アームからの前記機器搭載部の距離を調整する
付記17に記載の自走式電線点検装置。
(付記19)
前記搭載部支持部は、前記本体部が前記アームに沿って移動するときに、前記機器搭載部を前記アームに近づける
付記17又は18に記載の自走式電線点検装置。
(付記20)
鉄塔間に架線された架空地線に沿って走行しながら電線の点検を行う自走式電線点検装置の制御方法であって、
前記自走式電線点検装置は、
前記架空地線上を走行可能な走行部と、
前記走行部の下方に配置される本体部と、
前記本体部に対して相対移動可能に連結され、前記鉄塔を迂回するように前記本体部を移動させるための迂回路を形成する円弧型のアームと、
前記アームを前記架空地線に懸垂させるために前記アームの長さ方向の中間部を挟んで両端側に設けられる一対のフック機構と、
を備え、
前記鉄塔を挟んだ一対の前記架空地線の水平角に応じて、前記一対のフック機構のうち少なくともいずれかを、前記アームに沿って移動させる
自走式電線点検装置の制御方法。
(付記21)
前記自走式電線点検装置は、
前記アームの径方向の内側に設けられ、前記アームの長さ方向の一端および他端にそれぞれ連結され、前記アームの前記一端から前記他端に亘って前記アーム3から離間した状態で延在して設けられるバンパを備え、
前記走行部を前記架空地線に沿って走行させる工程と、
前記一対のフック機構により前記架空地線を把持した状態で、前記アームに沿って前記本体部を移動させることで、前記自走式電線点検装置により前記鉄塔を乗り越えらせる工程と、
を有し、
前記自走式電線点検装置により前記鉄塔を乗り越えらせる工程では、
前記アームから径方向の内側に離間した位置で前記バンパを前記鉄塔に当接させることで、前記鉄塔に対する前記本体部の接触を抑制する
付記20に記載の自走式電線点検装置の制御方法。
(付記22)
前記バンパは、
前記アームの前記一端に連結され、前記アームが構成する円弧に沿うように前記アームの前記一端から前記他端に向けて所定距離だけ延在する第1円弧部と、
前記アームの前記他端に連結され、前記アームの前記円弧に沿うに前記アームの前記他端から前記アームの前記一端に向けて所定距離だけ延在する第2円弧部と、
前記第1円弧部と前記第2円弧部との間を繋ぎ、前記第1円弧部および前記第2円弧部よりも前記アームの径方向の内側に設けられ、前記本体部が前記アームに沿って移動するときに、前記鉄塔に当接する当接部と、
を有し、
前記自走式電線点検装置により前記鉄塔を乗り越えらせる工程は、
前記当接部が前記鉄塔に接触しない限界まで前記鉄塔に接近したときに、前記走行部の走行を停止させる工程と、
前記アームの前記一端または前記他端のうちいずれかの端部を前方に送り出し、前記アームの前記端部が前記架空地線に到達したときに、前記アームの移動を停止させる工程と、
前記第1円弧部または前記第2円弧部のうち前記本体部に接近した方と、前記鉄塔との間に生じた間隙の分だけ、前記走行部を前記架空地線に沿って走行させ、前記アームの円弧の中心と前記鉄塔の中心とが一致したときに、前記走行部の走行を停止させる工程と、
前記アームの前記端部をさらに前方に送り出し、前記アームの前記端部を、前記架空地線を通過させ、前記アームの前記一端と前記他端とを結ぶ仮想直線が前記架空地線と平行となったときに、前記アームの移動を停止させる工程と、
を有する
付記21に記載の自走式電線点検装置の制御方法。
(付記23)
前記本体部は、
前記電線の点検に関わる機器を搭載する機器搭載部と、
前記アームの径方向に沿って前記機器搭載部を移動可能に支持する搭載部支持部と、
を有し、
前記自走式電線点検装置の動作に応じて、前記搭載部支持部により、前記アームからの前記機器搭載部の距離を調整する
付記20〜22のいずれか1つに記載の自走式電線点検装置の制御方法。