JP6962313B2 - 呈味増強剤 - Google Patents
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Description
うま味を与える物質としてはアミノ酸や核酸等の物質が代表されるが、成分によって呈味傾向は異なっており、口に含んだ瞬間のうま味を発現するものから、いわゆるコクといわれるような呈味の後味の余韻を強く発現するものなどがある。塩味やうま味、うま味コクは、それぞれのバランスによって複雑な呈味が形成され、食品の美味しさにつながる。
特許文献2には、乳またはチーズ製造時に得られるホエーから限外ろ過及び晶析操作によって乳ミネラル成分を多く含む濃縮物を得、食塩の代替とする方法が記載されている。乳ミネラル成分にはカリウム、ナトリウム、カルシウムとマグネシウムが含まれている。
また特許文献3には、トレハロースを用いることによって飲食物の塩からみやうま味を増強する方法について記載されている。
そこで本発明では、食品の呈味性改善のため、天然由来の呈味増強剤を提供することを目的とした。
(1)下記A〜Cの要件を満たす豆類抽出物を有効成分とする、呈味増強剤、
A)該豆類抽出物の原料が、予め加熱処理された豆類であること、
B)該豆類抽出物中の脂質含量が、固形分換算で15重量%以下、
C)該豆類抽出物中の炭水化物に対する蛋白質の含量比が、1〜200重量%、
(2)要件A)において、該加熱処理された豆類のNSI(水溶性窒素指数)が、15〜77である、前記(1)記載の呈味増強剤、
(3)要件C)において、該豆類抽出物中の炭水化物に対する蛋白質の含量比が、100〜200重量%である、前記(1)又は(2)記載の呈味増強剤、
(4)要件C)において、該豆類抽出物中の炭水化物に対する蛋白質の含量比が、1重量%以上100重量%未満である、前記(1)又は(2)記載の呈味増強剤、
(5)該豆類が、全脂大豆である、前記(1)〜(4)の何れか1項記載の呈味増強剤、
(6)該呈味の少なくとも1つが塩味である、前記(1)〜(5)の何れか1項記載の呈味増強剤、
(7)該呈味の少なくとも1つがうま味である、前記(1)〜(6)の何れか1項記載の呈味増強剤、
(8)該呈味の少なくとも1つがコクである、前記(1)〜(7)の何れか1項記載の呈味増強剤、
(9)前記(1)〜(8)の何れか1項記載の呈味増強剤を食品に含有させることを特徴とする、食品の製造法、
(10)下記A〜Cの要件を満たす豆類抽出物を食品に添加することを特徴とする、食品の呈味増強方法、
A)該豆類抽出物の原料が、予め加熱処理された豆類であること、
B)該豆類抽出物中の脂質含量が、固形分換算で15重量%以下、
C)該豆類抽出物中の炭水化物に対する蛋白質の含量比が、1〜200重量%。
本発明の有効成分である豆類抽出物の原料としては、大豆、エンドウ豆、インゲン、緑豆等の豆類が挙げられる。工業性の観点では、大豆またはエンドウ豆が好ましい。大豆を原料とする場合には、全脂大豆、部分脱脂大豆、脱脂大豆のいずれを用いることもできる。全脂大豆の脂質含量は特に限定されないが、抽出処理がされていない全脂大豆では固形分中15質量%を超えるのが通常であり、多くは18質量%以上である。全脂大豆から得られる大豆抽出物は不快な大豆臭がより少ないため、呈味増強効果をより発揮しやすくなる。
前記豆類は生のままではなく、水性溶媒により抽出する前に予め加熱処理されていることが重要である。特に豆類を砕く場合においては砕く前に予め加熱処理を行っておくのがより好ましい。豆類の加熱処理の方法は特に限定されず、例えば乾熱処理、水蒸気処理、過熱水蒸気処理、マイクロ波処理等を用いることができる。また水に浸漬した後、抽出前に加熱処理することもできるが、水に浸漬する前の段階で加熱処理されていることがより好ましい。
加熱処理の条件は加熱処理装置により異なるため特に限定されず、好ましくはNSIが上記範囲となるように適宜設定すれば良い。例えば乾熱加熱処理を行う場合、その処理条件は製造環境にも影響されるため一概に言えないが、おおよそ120〜250℃の過熱水蒸気を用いて5〜10分の間で豆類のNSIが上記範囲となるように処理条件を適宜選択すれば良く、処理条件の決定に特段の困難は要しない。
すなわち、試料2.0gに100mlの水を加え、40℃にて60分攪拌抽出し、1400×gにて10分間遠心分離し、上清1を得る。残った沈殿に再度100mlの水を加え、40℃にて60分攪拌抽出し、1400×gにて10分遠心分離し、上清2を得る。上清1および上清2を合わせ、さらに水を加えて250mlとする。No.5Aろ紙にてろ過したのち、ろ液の窒素含量をケルダール法にて測定する。同時に試料中の窒素含量をケルダール法にて測定し、ろ液として回収された窒素(水溶性窒素)の試料中の全窒 素に対する割合を重量%として表したものをNSIとする。
本発明の有効成分は、上記の加熱処理された豆類を水性溶媒で抽出して得られ、下記の組成を有する豆類抽出物である(以下、この抽出物を「本抽出物」と称する場合がある)。該豆類抽出物には、該水性溶媒からの抽出物からさらに特定の画分を分画、濃縮又は精製したものも含まれる。
本抽出物中の脂質含量は固形分換算で15質量%以下であり、12質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。なお、本発明において、脂質含量は酸分解法により測定される。本抽出物を豆類から抽出するための水性溶媒は、水や含水アルコール等を用いることができ、水や含水エタノールが食品製造上好ましい。本抽出物を豆類から抽出するときの加水量、抽出温度、抽出時間等の抽出条件は特に限定されず、例えば加水量は豆類に対して2〜15重量倍、抽出温度は20〜99℃、抽出時間は20分〜14時間などで設定すればよい。本抽出物は液状、固形状、粉末状の何れの形態もとり得る。
一方、分離大豆蛋白などのような、蛋白質が固形分中90重量%程度も含まれるような大豆蛋白質素材では、貯蔵蛋白質が主成分で炭水化物が少量しか含まれないため、炭水化物に対する蛋白質の含量が過剰で本抽出物とは異なるものであり、本発明のような効果を奏さない。逆に該素材そのものの風味が呈味増強剤の効果に影響する場合がある。
なお、本発明において、蛋白質含量はケルダール法により測定される。また炭水化物含量は、固形分から脂質、蛋白質及び灰分の含量の和を引いた計算値とする。以下、本抽出物のより具体的な例を示す。
該低脂肪の抽出物の場合は大豆蛋白質がある程度抽出されているため、炭水化物含量に対する蛋白質含量の重量比は比較的高く、100〜200重量%程度である。ただし、この範囲は通常の豆乳や未変性の脱脂大豆から抽出した脱脂豆乳と比べると十分に低いレベルである。かかる特定の範囲において当業者は任意に選択することができ、下限は120重量%以上、130重量%以上や140重量%以上の範囲、上限は195重量%以下、190重量%以下、185重量%以下、180重量%以下、175重量%以下、170重量%以下、165重量%以下、160重量%未満、155重量%以下、150重量%以下等の範囲を選択することができる。蛋白質含量の比率をなるべく低減したい場合には、例えば限外ろ過等により高分子の蛋白質を除去してその透過液を回収したり、蛋白質をpH調整により沈殿させたりしてその上清を回収する方法等を用いることができる。
加熱処理後の豆類の浸漬液や煮汁は通常、豆類を砕かずに丸豆のまま水に浸漬し、必要により熱水で煮沸して得られる。大豆の場合は味噌,豆乳,豆腐,醤油,納豆などの大豆加工製品を製造する過程で副産物として生成するものを利用することができる。
ホエーは、豆類から調製した水抽出液(豆乳)に酸を加えて蛋白質の等電点付近であるpH4〜5に調整したり、豆乳にカルシウム塩やマグネシウム塩などの2価金属塩を加えたり、豆類に50〜80%のアルコール溶液を用いてアルコール抽出したり、あるいは豆類にpH4〜5の酸溶液を加えて酸洗浄したりすることにより、不溶化した蛋白質を分離して得られる水可溶性画分である(この場合必要により中和してもよい)。また該抽出物を限外ろ過膜等のろ過膜に通して蛋白質、好ましくは分画分子量50万以上ないし1万以上の蛋白質を除去した透過液なども該当する。
本発明における呈味増強剤は、これを食品に添加することにより塩味やうま味を増強し、コクを付与できる。該呈味増強剤は、有効成分である本抽出物のみからなることができるし、また各種副成分を組み合わせて含有させることもできる。副成分としては、例えば油脂、乳化剤、糖類、澱粉類、無機塩、有機酸塩、ゲル化剤、増粘多糖類、着香料、調味料等の呈味成分、着色料、保存料、酸化防止剤、pH調整剤などを含有させることができる。本呈味増強剤中の本抽出物の含量は特に限定されず、固形分換算で5重量%以上が適当であるが、含量が多いほど改良効果が高いため、15重量%以上が好ましく、25重量%以上がより好ましく、30重量%以上がさらに好ましく、50重量%以上が最も好ましい。
表1の条件に従い、未加熱の豆類またはオーブンで加熱処理した豆類(未粉砕)200gに、水800gを加え、約90℃の熱水で80分間煮て、豆類から抽出液を分離した。表1に該抽出液の分析結果を示す。なお、各抽出液中の脂質含量は、いずれも固形分換算で0.3%程度、炭水化物に対する蛋白質の含量比は7%程度であった。次に、下記の評価試験により、得られた豆類抽出液を呈味液に添加し、該抽出液の呈味増強効果について評価した。
呈味液として0.3%のうま味調味料(MSG)溶液(うま味調味料には「味の素」(味の素(株)製)を使用した。)と0.5%の塩味液(塩化ナトリウム溶液)を用い、これらの溶液に対してそれぞれ上記各豆類抽出液を10%加え、うま味と塩味の増強効果について官能で評価した。
評価基準として、呈味液に10%の水を加えた液のうま味と塩味の強度を5とし、強度が弱いものを1、強度が強いものを10として10段階で評価した。
さらに、水に各豆類抽出液を10%加えた液のうま味と塩味について、同様に10段階で評価し、呈味液に加えた場合の点数との差が基準の数値より高いものを合格とした。
さらに全体の風味について、最も良好なものを5点、最も不良なものを1点とし、合格ラインは3点として5段階で評価した。官能評価の結果を表2に示す。
試験1の試験区A3と同様にして、予めオーブンで120℃、10分間加熱処理した丸大豆200gに、水800gを加え、約90℃の熱水で80分間煮て、大豆抽出液をざるで分離した。次に、該抽出液をフリーズドライした後、表3の各種固形分濃度となるように水に分散させ、各呈味増強剤を得た。該呈味増強剤を呈味液に添加した場合の呈味増強効果について、試験例1と同様にして評価した。結果を表4に示す。
試験に用いる大豆抽出物として、全脂豆乳粉末、脱脂豆乳粉末、低脂肪豆乳粉末、および大豆ホエー粉末の4点を試験サンプルとして表5の通り用意した。
試験区S10、S11の全脂豆乳粉末と脱脂豆乳粉末を添加した場合、うま味と塩味はあまり変化がなく、むしろ豆乳粉末そのものの特有の風味(苦味や酸味、収斂味など)を強く感じた。
一方、試験区S11の低脂肪豆乳粉末を添加した場合、豆乳粉末そのものの風味により阻害されることなくうま味と塩味が強く感じられ、苦味や収斂味等の悪風味が少なかった。
また、試験区S12の大豆ホエー粉末を添加した場合、試験区S11よりもさらにうま味と塩味が増強され、最も良好であった。
試験例3の結果を受け、試験区S13と同様にして、表5に記載した「低脂肪豆乳」(不二製油(株)製、以下の実施例において同じ。)をダイセン・メンブレン・システムズ(株)製の分画分子量1万の限外ろ過膜(以下、「UF膜」という。)に通してUF膜透過液(固形分4.5%)を回収した。
次の通り、3種類のダシ液を用意した。
(1) 昆布ダシ
昆布を水に浸漬し、さらに加熱し沸騰する直前に昆布を取り除いて、昆布ダシを作製した。
(2) 鰹ダシ
まず水を沸騰させて火を止めた後、熱湯に鰹節を加えて1分間静置した後に粕を取り除いて鰹ダシを作製した。
(3) 合わせダシ
(1)と同様にして得た昆布ダシをさらに加熱して沸騰させて火を止めた後、鰹節を加えて1分間静置した後、粕を取り除いて合わせダシを作製した。
表6の混合比に従って各3つのダシ液とUF膜透過液と水を混合した。
味覚センサーには表7に示したうま味、塩味、酸味、苦味、渋味の5種類のセンサーを用いて、先味である酸味、苦味雑味、渋味刺激、旨味、塩味と、後味である苦味、渋味、うま味コクの計8つの味覚項目について測定を行った。
先味の膜電位変化量は、サンプル液中で測定した膜電位(Vs)から、基準液中で測定した膜電位(Vr)を減算して算出した。また、後味の膜電位変化量は、サンプル液に浸した味覚センサーをCPA液で洗浄した後に測定した膜電位(Vr’)から、基準液中で測定した膜電位(Vr)を減算して算出した。
市販のカレーソース120gに対して、試験例4で得られた「低脂肪豆乳」のUF膜透過液を2.4g添加したところ、添加前に比べてカレーソースが持つうま味がより底上げされた風味となった。
市販のトマトソース260gに、菜種油2.6gと試験例4で得られた「低脂肪豆乳」のUF膜透過液5.2gを添加し、煮込みハンバーグ用ソースを調製した。フライパンに焼成済みのハンバーグ4個と前記ソースを加え、蓋をして煮込んだ。得られたソースは低脂肪豆乳を添加しないものに比べてコクがあり、ハンバーグの風味とも調和したものであった。
玉ねぎピューレ100g、米酢20g、うすくち醤油10g、食塩1g、砂糖0.5gに試験例4で得られた「低脂肪豆乳」のUF膜透過液50gを混合し、ノンオイルドレッシングを調製した。得られたドレッシングはさっぱりとしていながら、うま味と塩味が引き立った風味であった。また、これをレタス、トマト、ワカメなどの生野菜や海草にかけると素材の味を消さずに素材本来のおいしさが引き出された。
市販の液体状の味噌12.8gに、試験例3の試験区S13で用いた大豆ホエー粉末0.4gを加え、味噌改良品を得た。これに湯150gを加えて混合し、味噌汁を調製した。得られた味噌汁はうま味と塩味が付与され、おいしさがさらに増していた。そのため、味噌の減塩にも寄与すると考えられた。
市販の甘酒70gに、試験例4で得られた「低脂肪豆乳」のUF膜透過液30gを加えた。得られた甘酒改良品は、酸味や苦味が抑えられ、うま味が付与されたおいしい風味であった。
ポリ袋に食塩2g、砂糖6g、粉末かつおだし0.1g、水5g、試験例4で得られた「低脂肪豆乳」のUF膜透過液5gをよく混合し、漬け物用調味液を得た。きゅうり1/2本を厚み1cmの輪切りにし、前記調味液を漬け、2時間以上冷蔵庫に保管し、浅漬けを調製した。得られた浅漬けは塩味とうま味が増強されており、おいしい風味であった。そのため、漬け物の減塩効果にも寄与すると考えられた。
Claims (9)
- 下記A〜Cの要件を満たす豆類抽出物を有効成分とする、呈味の少なくとも1つが塩味又はうま味である、呈味増強剤。
A)該豆類抽出物の原料が、予め加熱処理された大豆、エンドウ又は緑豆から選択される豆類であり、該豆類のNSI(水溶性窒素指数)が、15〜77であること、
B)該豆類抽出物中の脂質含量が、固形分換算で15重量%以下、
C)該豆類抽出物中の炭水化物に対する蛋白質の含量比が、1重量%以上100重量%未満。 - 要件A)において、該加熱処理された豆類のNSI(水溶性窒素指数)が、15〜70である、請求項1記載の呈味増強剤。
- 要件A)において、該加熱処理された豆類のNSI(水溶性窒素指数)が、30〜60である、請求項1記載の呈味増強剤。
- 要件C)において、該豆類抽出物中の炭水化物に対する蛋白質の含量比が、1〜70重量%である、請求項1〜3の何れか1項記載の呈味増強剤。
- 該豆類が、全脂大豆である、請求項1〜4の何れか1項記載の呈味増強剤。
- 請求項1〜5の何れか1項記載の呈味増強剤を食品に含有させることを特徴とする、食品の製造法。
- 下記A〜Cの要件を満たす豆類抽出物を食品に添加することを特徴とする、呈味の少なくとも1つが塩味又はうま味である、食品の呈味増強方法。
A)該豆類抽出物の原料が、予め加熱処理された大豆、エンドウ又は緑豆から選択される豆類であり、該豆類のNSI(水溶性窒素指数)が、15〜77であること、
B)該豆類抽出物中の脂質含量が、固形分換算で15重量%以下、
C)該豆類抽出物中の炭水化物に対する蛋白質の含量比が、1重量%以上100重量%未満。 - 要件A)において、該加熱処理された豆類のNSI(水溶性窒素指数)が、15〜70である、請求項7記載の食品の呈味増強方法。
- 該豆類が、全脂大豆である、請求項7又は8記載の呈味増強方法。
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