A1.第1実施形態のハードウェア構成:
第1実施形態の車両運転制御装置200は、車両AMの運転を制御する装置である。車両運転制御装置200は、目的地までの経路を案内する経路案内装置110からの経路指示に従って、一定範囲で自動運転を実現する自動運転ECU100を備える。もとより車両AMには、ハンドル151や図2に示すブレーキペダル71なども設けられており、運転者が運転に介入することも可能である。
車両運転制御装置200は、上述した自動運転ECU100や経路案内装置110の他、駆動力ECU120、駆動用モータ130、制動力ECU70,操舵ECU140、操舵装置150等の多数の装置を備える。これらの各ECUや装置は、図示しない車内LANであるネットワークCANにより結ばれており、常時データやコマンドをやり取りしている。
駆動力ECU120は、車両AMを走行させる駆動力を制御する。駆動力ECU120は、自動運転ECU100からの指示を受けて、駆動用モータ130の駆動力を制御する。駆動用モータ130は、図示しないバッテリからの電力を図示しないインバータを介して受けて回転する。駆動力ECU120は直接的にはこのインバータを制御している。駆動用モータ130の駆動力は、ディファレンシャルギヤ132および駆動軸134を介して、右左の後輪11,12に伝達される。本実施形態では後輪駆動としているが、前輪駆動でも4輪駆動でも差し支えない。第1実施形態の車両AMは、いわゆる電気自動車としての構成を備える。
操舵装置150は、ハンドル151の操舵量(回転角度)を検出するエンコーダ152と、操舵ギヤ155を駆動する操舵モータ154とを備える。操舵装置150の操舵モータ154は、操舵ギヤ155を介して、右左の前輪13,14の舵角(直進方向に対する角度)を制御する。右左前輪13,14それぞれの舵角には、操舵ギヤ155により、必要に応じたターニングラジアスが付与される。
次に、各車輪11〜14に制動力を付与する仕組みについて説明する。図1に示したように、各車輪11〜14には、ブレーキディスクBDや、ホイールシリンダ19〜22等を備えたディスクブレーキ装置が設けられており、車輪毎の制動力を制御できる。各車輪11〜14に設けられたブレーキディスクBDは、ホイールシリンダ19〜22に付設のディスクパッド(不図示)よって挟み込まれる構造となっており、ディスクパッドとブレーキディスクとの摩擦力により、制動力を発生する。ホイールシリンダ19〜22を駆動する油圧は、制動力ECU70により制御される。
制動力ECU70によりホイールシリンダ19〜22の油圧を制御する仕組みを図2を用いて説明する。図2は、マスタシリンダ72からホイールシリンダ19〜22までの油圧配管系統10を示している。
ブレーキペダル71はマスタシリンダ72に接続されており、運転者がブレーキペダル71を踏み込むと、マスタシリンダ72の内圧は高められる。この圧力をマスタシリンダ圧という。マスタシリンダ72には、マスタリザーバ73が付設されており、マスタシリンダ72と連通する通路を通じて、マスタシリンダ72内にブレーキ液を供給したり、マスタシリンダ72内の余剰なブレーキ液を貯留する。
マスタシリンダ72に生じたマスタシリンダ圧は、後輪配管系統10Rおよび前輪配管系統10Fに伝達される。 後輪配管系統10Rは右後輪11および左後輪12のブレーキを制御し、前輪配管系統10Fは右前輪13および左前輪14のブレーキを制御する。各車輪11〜14にはそれぞれ、各車輪を制動するための油圧ブレーキ装置を構成するホイールシリンダ19〜22が配設されていることは既に説明した。
後輪配管系統10Rは、各管路A〜D、圧力センサ31R、各種制御弁32〜37、後輪用ポンプ38、リザーバ39、各逆止弁40〜43を備えている。 管路Aはマスタシリンダ72と接続されている。制御弁32〜37は、制動力ECU70からの電気信号により、二つの位置の間で切り替え可能な制御弁である。これらの制御弁は、その役割に応じて、後輪用差圧制御弁32,増圧制御弁33〜35、減圧制御弁36,37とも呼ぶ。増圧制御弁33〜35および減圧制御弁36,37は、連通位置と遮断位置とを有する2位置弁である。
管路Aは、後輪用差圧制御弁32を介して各管路A1,A2に分岐する。圧力センサ31Rは、各管路A1,A2の分岐の手前に配設されており、ホイールシリンダ19,20に加えられる圧力を検出する。後輪用差圧制御弁32は、連通位置と差圧位置とを有する2位置弁である。後輪用差圧制御弁32が差圧位置になっているとき、後輪用差圧制御弁32の上下流に所定値以上の差圧がかかった場合には連通状態となり、管路Aにおける各管路A1,A2側(各ホイールシリンダ19,20側)がマスタシリンダ72側よりも所定圧力以上にならないようにして、管路Aの保護を可能にしている。
管路A1,A2にはそれぞれ、増圧制御弁34,35が配設されている。各増圧制御弁34,35の出口側は、それぞれホイールシリンダ19,20および減圧制御弁36,37の入口側に接続されている。各増圧制御弁34,35には逆止弁42,43がそれぞれ並列に接続されている。逆止弁42,43は、各ホイールシリンダ19,20から各管路A1,A2側へ向かうブレーキ液の流通を許可する。したがって、各ホイールシリンダ19,20の内圧が過大になると、逆止弁42,43を介して、過剰なブレーキ液が抜けるようにしている。
前輪配管系統10Fには、マスタリザーバ73からのもうひとつの管路Bが設けられている。この管路Bは、マスタリザーバ73から増圧制御弁33を介して、後輪用ポンプ38の入口側に至る油圧系統を構成する。増圧制御弁33の出口でありかつ後輪用ポンプ38の入口側には、逆止弁40を介してリザーバ39に結合する管路Cが接続されている。このため、後輪用ポンプ38は、リザーバ39からのブレーキ液を汲み上げることが可能である。他方、管路Cには逆止弁40が存在するので、マスタリザーバ73からのブレーキ液がリザーバ39に供給されることはない。
後輪用ポンプ38の出口側は、管路A1,A2に接続されている。つまり各ホイールシリンダ19,20に供給されるブレーキ液の管路A1,A2における圧力は、以下の場合に制動力を発生可能な高さまで高められる。
(1)ブレーキペダル71が踏み込まれて、マスタシリンダ72の圧力が高まったとき、
(2)後輪用ポンプ38が、マスタリザーバ73に貯留されたブレーキ液を管路Bから増圧制御弁33を介して汲み取り、管路A1,A2に吐出するとき、
(3)後輪用ポンプ38が、リザーバ39に貯留されたブレーキ液を管路Cから逆止弁40を介して汲み取り、各管路A1,A2へ吐出するとき。
管路A1,A2のブレーキ液の圧力が高まれば、各増圧制御弁34,35が連通位置にあれば、各ホイールシリンダ19,20の圧力は高まり、制動力が増加する。他方、管路A1,A2のブレーキ液の圧力が高まっていても、各増圧制御弁34,35が遮断位置にあり、減圧制御弁36,37が連通位置にあれば、各ホイールシリンダ19,20の圧力は低下する。各増圧制御弁34から37等は、制動力ECU70により制御されるので、制動力ECU70は、右左の後輪11,12のホイールシリンダ19,20の油圧を制御して、各車輪の制動力を制御することができる。
前輪配管系統10Fの構成は、基本的に、後輪配管系統10Rと同じである。つまり、前輪配管系統10Fは、各管路E〜H、圧力センサ31F、制御弁52〜57、前輪用ポンプ58、リザーバ59、逆止弁60〜63を備えている。各管路E〜Hはそれぞれ後輪配管系統10Rの各管路A〜Dに対応し、圧力センサ31Fは圧力センサ31Rに対応し、各制御弁52〜57はそれぞれ各制御弁32〜37に対応し、前輪用ポンプ58は後輪用ポンプ38に対応し、リザーバ59はリザーバ39に対応し、各逆止弁60〜63はそれぞれ各逆止弁40〜43に対応している。また、制動力ECU70からの指令を受けて、右左の前輪13,14のホイールシリンダ21,22の油圧を制御して、各車輪の制動力を制御する点も同様である。
以上、各車輪の制動力を発生させる図2に示した油圧配管系統10について説明したが、図2には、車輪速度センサ15〜18も示されている。車輪速度センサ15〜18は、電磁ピックアップ式または磁気抵抗素子(MRE)式の車輪速度センサであり、各車輪11〜14にはそれぞれに設けられている。車輪速度センサ15〜18は、各車輪11〜14の回転速度に対応した出力信号を生成し、制動力ECU70に出力する。
上述した油圧配管系統10における各制御弁、ポンプ等を駆動して制動力を制御する制動力ECU70の構成を、図3を用いて説明する。制動力ECU70は周知のCPU,RAM,ROM,入出力ポート(I/O)などを備えるコンピュータである。この制動力ECU70は、上述した圧力センサ31F,31Rや、車輪速度センサ15〜18などのセンサや、各制御弁32〜37,52〜57、後輪用ポンプ38、前輪用ポンプ58などのアクチュエータが接続されている。
制動力ECU70は、イグニッションスイッチ(図示略)がオンされることにより、図示しないバッテリから電源が供給され、各制御弁32〜37,52〜57および各ポンプ38,58を駆動して、各車輪11〜14の制動力を制御する。こうした制動力の制御は、後述する旋回時の制御のみならず、急制動が掛かって車輪がロックし、スリップなどが生じた場合に、ロックした車輪の制動力を一時的に低減するアンチスキッド制御などでも行なわれる。
A2.第1実施形態での旋回制御:
次に、第1実施形態において車両運転制御装置200が行なう車両AMの旋回制御については説明する。図4は、車両AMが旋回する際の状況を例示する説明図である。運転の上手い運転者、いわゆるスキルドドライバは、カーブを走行するとき、大まかに言えば次の4つの行程をとる。
[1]減速行程:カーブに入る前の直線部分で、まず減速を行なう。減速は必須ではないが、通常はカーブを走行するのに適切な速度より高速で走行していることが多いので、ブレーキを踏んで制動力を発生させ、車両AMを減速する。
[2]ターンイン行程:旋回を開始する行程である。スキルドドライバは、カーブの入口で、ブレーキペダルを戻しながら、ハンドルを操作して旋回を開始する。ハンドルを操作して前輪を転舵すると、前輪と車両の進行方向との間にはスリップアングルが生じ、前輪には転舵方向に旋回しようとする力が加わる。
[3]定常旋回行程:車両AMが旋回を開始することで、右左の前輪に引き続き、後輪にもスリップアングルが生まれる。後輪に作用する力は、前輪に作用する力と逆方向となる。このため、車両AMには重心の周りに回転のモーメント(ヨーモーメント)が発生し、定常的な軌道で旋回する。
[4]立上がり加速行程:カーブの出口に指し掛かると、スキルドドライバは、アクセルを操作して、車両AMを加速する。この行程は、ターンアウト行程とも言う。
以上の[1]から[4]の行程をスムーズに行なうことで、車両AMは滑らかにカーブを走行し、乗員に対する横方向加速度の小さな、良好な乗り心地が実現される。
この4つの行程における車両進行方向の加速度と車両横方向の加速度をプロットしたのが図5である。図5において、Gx方向は車両Mから見た進行方向における減速度を示している。Gy方向は、車両AMから見た横方向の加速度を示している。図示するように、[1]減速行程では、車両AMには横方向の力は働いておらず、ブレーキ操作による制動力だけが作用している。[2]ターンイン行程では、車両AMは旋回を始め横方向加速度が加わっており、同時に車両進行方向の制動力は減っていく。[3]定常旋回行程では、車両の進行方向の制動力はほぼ0となっており、横方向の加速度のみが加わった状態となる。ここから、[4]立上がり加速行程に入って、車両は進行方向への駆動力を受け、加速しつつ、横方向の加速度が減って徐々に直進状態となる。
そこで、本実施形態では、こうしたスキルドドライバによる旋回において、[1]減速行程で車輪11〜14に付与される制動力を利用して、車両を旋回させる力の一部として利用する。図6を用いて、車両に働く旋回方向の力について説明する。制動を掛けつつ転舵した車両AMには、車両AMを旋回させようとする二つの力が働く。一つは、車輪の転舵によるスリップアングルに基づいて発生する通常の旋回力である。もう一つは、右左の車輪の制動力に差がある場合に発生する旋回力(ヨーモーメント)である。図6に例示したように、右側の前後の車輪における制動力RBと左側の前後の車輪における制動力LBとの間に差があると、車両AMの重心の周りには、
Mt=Lx・(LB−RB)
のヨーモーメントが働く。ここで、Lxは、重心から車輪までの車両幅方向の距離である。なお、図6では、左右の前輪と後輪には、左右の制動力を按分した制動力LB/2,RB/2がそれぞれ付与されるものとした。
本実施例では、車両AMの旋回に、この制動力差により生じるヨーモーメントを利用する。その原理を図7に示した。ここでは、経路案内装置110により目的地までの経路が案内され、車両AMは、経路案内装置110により案内される経路に沿って走行するものとされている。このとき、経路案内装置110は、自動運転ECU100に対して、現在走行中の経路と共に、道路形状と現在位置とを出力する。この結果、自動運転ECU100は、現在、車両AMが、道路の直線やカーブのどのような位置に存在するかを知ることができる。自動運転ECU100は、こうした道路をどのように走行するか、という情報を得て、以下の処理を行なう。
自動運転ECU100は、車両AMが、カーブに指し掛かると判断すると、まず図5、図6に示した[1]減速行程を実現するために、制動力ECU70を介して各車輪11〜14に制動力を付与する。制動力付与は、具体的には、各ポンプ38,58を駆動して、管路A1,A2および管路E1,E2のブレーキ液圧を高め、減圧制御弁36,37,56,57を遮断位置に制御し、増圧制御弁34,35,54,55を連通位置に制御する。こうすることで、各ポンプ38,58により作り出されたブレーキ液圧が、各ホイールシリンダ19〜22に付与され、各車輪11〜14は制動される。
自動運転ECU100は、[1]減速行程での上記の制動力の制御に加えて、旋回に備えて、車両AMに必要となる目標ヨーレイトを演算する。その上で、この目標ヨーレイトを、操舵装置150により車輪を転舵することによって得られる操舵目標ヨーレイトと制動力ECU70により各車輪11〜14の制動力の差によって得られる制動力差目標ヨーレイトとに分配する。この分配を行なうものを、図7では、目標ヨーレイト分配器YDとして記載したが、目標ヨーレイト分配器YDは、自動運転ECU100の内部の演算により実現される仮想的な装置である。
自動運転ECU100は、ヨーレイト分配器YDにより得られた操舵目標ヨーレイトを操舵ECU140に出力し、操舵装置150を用いて、この操舵目標ヨーレイトが得られる角度まで前輪13,14を転舵する。他方、自動運転ECU100は、ヨーレイト分配器YDにより得られた制動力差目標ヨーレイトを制動力ECU70に出力する。制動力ECU70は、この制動力差目標ヨーレイトを入力すると、この制動力差目標ヨーレイトが得られるように、右左の車輪の制動力差を演算し、制動力を左右の車輪に分配する。この分配を行なうものを、図7では、制動力分配器DDとして記載したが、制動力分配器DDは、制動力ECU70の内部の演算により実現される仮想的な装置である。なお、制動力分配器DDは、自動運転ECU100内で実現しても差し支えない。
車両AMの各車輪には、カーブにさしかかる前に[1]制動行程において、制動力が付与されている。制動力分配器DDは、この既に付与されている制動力を、[2]ターンイン行程でリリースしていく際の右左輪でのリリースの程度を異ならせ、右左輪の制動力に差を持たせるように、制動力を分配する。この結果、制動力ECU70は、前後の右輪11,13に設けられたホイールシリンダ19,21のブレーキ液圧と、前後の左輪12,14に設けられたホイールシリンダ20,22のブレーキ液圧とが、差を以て徐々に低下していくように制御する。具体的には、各ポンプ38,58の運転を止め、増圧制御弁34,35,54,55を遮断位置に制御し、減圧制御弁36,37,56,57を連通位置に制御することで、ホイールシリンダ19〜22に付与されるブレーキ液圧を徐々に低減していく。右左輪のブレーキ液圧に差を持たせるには、右輪11,13用の減圧制御弁36,56を連通位置にする割合(デューティ)と、左輪12,14用の減圧制御弁37,57を連通位置にする割合(デューティ)とを異ならせれば良い。
図7に示した制御を行なうことにより、図6に示したように、右左の車輪の制動力差による旋回力(ヨーモーメント)と転舵による旋回力とが車両AMに発生し、車両AMは、スキルドドライバの運転に近い車両AMの運転状態を作り出すことができる。しかも旋回力の一部を、もともと[1]減速行程で車両に付与した制動力のリリースによる制動力差から得ているので、エネルギを無駄に消費することがない。また、旋回のために制動力を付与することもないので、運転者に違和感を持たせることもない。
次に、こうした旋回制御を行なう処理について説明する。図8は、自動運転ECU100が実行する旋回制御ルーチンを示すフローチャートである。この処理は、自動運転の実行中、自動運転ECU100において、繰り返し実行される。この処理が開始されると、自動運転ECU100は、まず走行路先読み処理を行なう(ステップS100)。走行路先読み処理とは、第1実施形態では、経路案内装置110からの経路情報に従って自動運転している場合に、車両AMが次に走行する道路を、経路案内装置110から読み出す処理である。次の走行する道路とは、例えば現在位置から所定の時間後に指し掛かる所定範囲の道路をいう。例えば、時速40kmで走行している車両AMであれば、10秒後に指し掛かる位置は、現在位置から約140メートル先であり、そこから6秒間走行する位置とは約80メートルとなる。もとより、道路が、道路の一定の性質(例えば、直線道路か、カーブかなど)毎のリンクに分けられており、交差点などにリンクとリンクを接続するノードが定義された形で記憶されていれば、走行路の先読み処理は、次に走行するリンクを読み出す処理に相当する。先読み処理は、次に走行するリンクを読み出す処理に限る必要はなく、任意のリンクを読み出す処理として実施しても良いし、自動運転の経路に沿ったリンクを自動運転の開始の際に予め読込んでしまうようにして実施してよい。
次に、先読み処理で読込んだ走行路にカーブが存在するか否かの判断を行なう(ステップS110)。カーブが存在しなければ、旋回制御を行なう必要はないので、何も行なわず、「NEXT」に抜けて、本制御ルーチンを終了する。先読みした走行路にカーブが存在すれば、自動運転ECU100は、車両を旋回させるとして、図4に示した[1]から[4]の行程を実施する。そこでまず[1]減速行程を開始する地点に車両AMが至ったかを判断する(ステップS120)。減速を開始する地点に至るまで待機し、減速を開始する地点に至ったと判断すれば、次にブレーキ加圧処理を行なう(ステップS130)。この処理は、制動力ECU70に指令を出力し、右左後前の車輪11〜14のホイールシリンダ19〜22に供給するブレーキ液圧を高め、右左後前の車輪11〜14に制動力を付与する。制動力は、各ポンプ38,58を駆動することで管路A1,A2,E1,E2のブレーキ液圧が高まることにより、徐々に高まっていく。ブレーキ液圧が所定の圧力となれば、その圧力を保つために、ブレーキ加圧処理は継続される。
ブレーキ加圧処理(ステップS130)の継続中に、自動運転ECU100は、次に車両AMの位置が[2]ターンイン行程を開始する位置に至ったかを判断する(ステップS140)。ターンイン開始位置まで至っていなければ、上述したブレーキ加圧処理(ステップS130)を継続する。ターンイン開始位置に至ったと判断したら、次に制動力リリース制御を行なう(ステップS200)。制動力リリース制御(ステップS200)は、[1]制動行程で各車輪11〜14に加えられた制動力を低減していく処理である。制動力を低減していく際に、右左の車輪における制動力に差を付けること、および操舵装置150により車輪を転舵することにより、旋回力を生じさせ、[3]定常旋回行程を実現する。この処理の詳細については、後で説明する。
制動力リリース処理の後、車両AMが[4]ターンアウト行程に入ったかを判断し(ステップS150)、ターンアウト行程を開始するまで、上述した制動力リリース処理を継続する。[4]ターンアウト行程が開始されたと判断すると(ステップS150:「YES」)、次に自動運転ECU100は、駆動力ECU120に指令を送り、駆動用モータ130を駆動して、車両AMを[4]ターンアウト行程(立上がり加速する行程)を実現する(ステップS160)。カーブの立上がりに必要な加速を行なったのち、定速走行域に移行したかを判断し、定速走行域に入った場合には、加速処理(ステップS160)を終了し、「NEXT」に抜けて本旋回制御ルーチンを終了する。以上の処理により、図4に示した4つの行程、即ち、
[1]減速行程
[2]ターンイン行程
[3]定常旋回行程
[4]立上がり加速行程(ターンアウト行程)
が実現される。
こうしたカーブ走行時の目標ヨーレイトについて、図9を用いて説明する。経路案内装置110からの道路の先読み情報により、自動運転ECU100は、車両AMが、現在カーブ手前に位置するか、カーブを走行しているかを知ることができる。図9では、時間t0で、車両AMが、減速が必要なカーブ手前の減速区間に入り、時間t1で、カーブの走行区間に入ったものとしている。時間t0からt1までが、図4に示した[1]減速行程に対応している。また、時間t1以降は、[2]ターンイン行程から[3]定常旋回行程に相当する。
車両AMは、時間t1からカーブ走行区間を走行するので、車両AMは、この時点から、旋回に必要となる目標ヨーレイトTYが徐々に高まっていく。定常旋回行程に入れば、目標ヨーレイトTYは、一定値となる。この旋回の開始から定常旋回に必要となる目標ヨーレイトTYは、本実施形態では、図7に示したように、操舵目標ヨーレイトSYと制動力差目標ヨーレイトBYとに分配される。その総和は目標ヨーレイトTYとなる。図7では、目標ヨーレイト分配器YDが行なうとされた目標ヨーレイトの分配は、図8における制動力リリース処理(ステップS200)により実現される。目標ヨーレイト分配器DYは、自動運転ECU100において制動力リリース処理が実行されることにより実現される機能である。
図9最下段に示した目標ヨーレイト分配器DYを、操舵目標ヨーレイトSYと制動力差目標ヨーレイトBYとに分配する処理を含む制動力リリース処理(ステップS200)について、図10のフローチャートを用いて説明する。この制動力リリース処理は、自動運転ECU100および操舵ECU140の協働処理として実施される。制動力リリース処理が開始されると、自動運転ECU100、まず目標ヨーレイトTYを演算する処理を行なう(ステップS210)。車両の目標ヨーレイトT1は、経路案内装置110から取得した走行路の形状(曲率半径Rなど)や現在の車両AMの速度Vから求めることができる。
こうして走行路の形状等から目標ヨーレイトTYを演算すると、次にヨーレイトの分配演算を行なう(ステップS220)。具体的には、目標ヨーレイトT1を、制動力差目標ヨーレイトBYと操舵目標ヨーレイトSYとに分配するのである。この目標ヨーレイトの分配は、種々の手法を採用することが可能であるが、一つには、図8のステップS130で各車輪11〜14に加えられた制動力をリリースしていく際に車両AMに付与可能な制動力差目標ヨーレイトBYをまず求め、目標ヨーレイトTYとの差分を操舵目標ヨーレイトSYとすることで行なう。この際の制動力差目標ヨーレイトBYの決定は様々な観点から決定することができる。
(A)制動力差目標ヨーレイトBYを最大にする決定方法:
各車輪11〜14への制動力は[1]制動行程で付与されているので、この制動力のリリースを利用して車両AMに付与されるヨーレイトで、必要な目標ヨーレイトTYをできるだけ賄うものとして、制動力差目標ヨーレイトBYを決定してもよい。こうすれば、車両AM全体で消費されるエネルギを低減することができる。なお、カーブが緩やかであったり、減速のための制動力が十分に大きかったりすれば、目標ヨーレイトTYを制動力差目標ヨーレイトBYだけで賄うことができる場合も想定される。そうした場合には、操舵目標ヨーレイトSYを0として、制動力差目標ヨーレイトBYだけで車両AMを旋回させてもよいし、車両AMの安定走行の観点から、操舵目標ヨーレイトSYと制動力差目標ヨーレイトBYとを一定の割合で用いるように分配してもよい。制動力差を用いた旋回の力を最大にする場合、理論的に可能な最大の旋回力を取り出すように、制動力差を分配するのではなく、安全係数などをみて、最大となるように、してもよい。
(B)目標減速度を確保しながら制動力差目標ヨーレイトBYを求める決定方法:
図5に示したように、[1]減速行程を過ぎた車両AMは、[2]ターンイン行程おいて、進行方向の減速度Gxを徐々に小さくしながら、横方向の加速度を増やして、旋回している。この進行方向の減速度Gxおよび横方向の加速度の関係は、いわゆるスキルドドライバの運転を学習することで、関数として用意することができる。そこで、[2]ターンイン行程に入った後の進行方向の減速度Gxの時間的変化を予め求め、この減速度Gxを確保することを優先して、制動力差目標ヨーレイトBYを決定してもよい。この場合は、[2]ターンイン行程における車両を、乗員が感じる加速度Gx,Gyが、進行方向の制動から横方向の加速度へと滑らかに変化していくように体感されることになり、乗り心地を改善することができる。
(C)その他の決定方法:
ステップS220の制動力差目標ヨーレイトBYと操舵目標ヨーレイトSYとの分配はこれ以外の手法によってもよい。例えば、運転者が両者の割合などを設定可能としたり、天候や路面の状況になどに応じて、両者の割合を変更するようにしてもよい。例えば降雨などの場合には、操舵目標ヨーレイトSYの割合を相対的に高くするといった対応が考えられる。
こうして目標ヨーレイトに分配演算を行なった後、次に、操舵目標ヨーレイトSYを操舵ECU140に送信する処理を行なう(ステップS230)。操舵によるヨーレイトの制御は、自動運転の元では、操舵ECU140が行なうからである。図10では、右側に操舵ECU140による操舵処理ルーチンを示した。自動運転ECU100から操舵目標ヨーレイトSYの送信を受けると、操舵ECU140はこれを受信し(ステップS300)、操舵処理を行なう(ステップS310)。この操舵処理は、操舵目標ヨーレイトSYが生じるように、操舵装置150を制御し、操舵モータ154,操舵ギヤ155を介して、右左の前輪13,14を所定の角度に転舵する処理である。図9に示したように、目標ヨーレイトTYは、[2]ターンイン行程では、まず制動力のリリースに際しての制動力差により作り出される。このため、操舵目標ヨーレイトSYは、[2]ターンイン行程に入ると、徐々に高まるように制御される。即ち、[2]ターンイン行程に入っても直ぐには右左の車輪13,14は転舵されず、[2]ターンイン行程から[3]定常旋回行程に向けて、徐々に転舵されていく。
操舵目標ヨーレイトSYを操舵ECU140に送信した後、自動運転ECU100は、図9に示したように、制動力差目標ヨーレイトBYを発生させるように、制動力リリースのプロファイルを選択する処理を行なう(ステップS240)。制動力差目標ヨーレイトBYに対して制動力リリースのプロファイルがどのように定まるかを図11に例示した。図11に示したように、カーブ手前の[1]制動行程では、車両AMの速度を低下させるために、時間t0からt1までの区間で、右左の車輪11〜14には、所定の制動力が付与される。時間t1以降、つまりカーブ手前の[1]減速行程に相当する減速区間が終了し、カーブ走行区間に入る以前に、ステップS220の処理により、目標ヨーレイトTYから制動力差目標ヨーレイトBYが求められる。この制動力差目標ヨーレイトBYを発生させるためには、右左の車輪11〜14の車輪の制動力に左右差を設ければ良い。必要なヨーレイトBYを発生させるのに必要な右左の車輪に付与される制動力の差は、予め実験やシミュレーションによって求められ、プロファイルとして、自動運転ECU100の記憶装置に記憶されている。そこで、ステップS240では、ステップS220の分配演算により求められた制動力差目標ヨーレイトBYが実現可能な制動力リリースのプロファイルを選択する。
この一例を、図11の最下段に示した。例示した制動力リリースプロファイルでは、[1]制動行程(図11、時間t0〜t1)では、図12に示したように、右車輪11,13と左車輪12,14とには、等しい制動力が付与される。右左の制動力が等しいので、車両AMは、直進しながら減速する。その後、時間t1に至って、[2]ターンイン行程に入ると、図11最下段に示したように、右車輪11,13の目標制動力RBは、左車輪12,14の制動力LBと比べて急速に低下するように、つまり右左の車輪に付与される制動力に差が生じるような制動力リリースプロファイルとされている。
この制動力リリースプロファイルに沿って、左右輪の制動力LB,RBを決定し(ステップS250)、この制動力を左右の前後輪に配分する(ステップS260)。この処理を行なうことにより、図7の制動力分配器DDの機能が実現される。左右の前後輪11〜14の各制動力を求めた後、これを実現する制動力制御処理を実行する(ステップS270)。具体的には、油圧配管系統10(図2)の減圧制御弁36,37,56,57を駆動して、ホイールシリンダ19〜22のブレーキ液をリザーバ39,59に抜いて、各ホイールシリンダ19〜22のブレーキ液圧を漸次低下させる。このとき、減圧制御弁36,37と56,57を遮断位置と連通位置との間で切り換える際の連通位置に保持するデューティを制御することにより、ブレーキ液圧の低下の速さ(時間当りの低下の割合)を調整することができる。
こうして左の前後輪12,14および右の前後輪11,13の制動力LB,RBを低下させる際に、制動力LBとRBとに差を付けると、図13に例示するように、車両AMに、制動力差ΔB=LB−RBに比例する横方向の力、つまりヨーモーメントMtを受け、車両は旋回を開始する。制動力差ΔBは、図11の最下段に示したように、目標制動力の低下と共に低下していくから、制動力差に基づいて車両AMに作用するヨーモーメントも小さくなっていく。他方、操舵目標ヨーレイトSYを受け取った操舵ECU140は、制動力差目標ヨーレイトBYの減少を補償するように、操舵目標ヨーレイトSYに合わせて、右左の前輪13,14を転舵するから、転舵によるヨーモーメント(旋回力)は増加し、カーブ走行区間における車両のヨーレイトは、図9に示した目標ヨーレイトTYの近い値となる。こうして、車両AMは、[2]ターンイン行程から[3]旋回行程をとって走行する。
やがて、車両AMが、カーブ走行区間をほぼ終えて、[4]立上がり加速行程に指し掛かると、目標ヨーレイトTYも徐々に0に近づけられて行く。自動運転ECU100は、車両AMが[4]立上がり加速行程(ターンアウト行程)に入ったかを判断し(ステップS280)、立上がり加速行程に入るまで、従前のステップS250〜S280の処理・判断を繰り返す。[4]立上がり加速行程に入ったと判断すると、「NEXT」に抜けて、上述した制動力リリース処理を終了する。その後、自動運転ECU100は、図示しない立上がり加速処理を実行し、駆動力ECU120および操舵ECU140に指示して、徐々に右左の車輪13,14の転舵量を小さくして操舵によるヨーレイトを小さくし、同時に駆動用モータ130を駆動し、駆動輪である右左の後輪11,12を駆動して、車両AMを加速する処理を行なう。
A3.第1実施形態の作用効果:
以上説明した第1実施形態では、車両運転制御装置200は、車両の走行路を経路案内装置110からの情報を用いて先読みし、カーブを走行することが分れば、カーブの手前で減速し、その減速に利用した制動力をリリースする際に、右左の車輪11〜14の制動力に差を設けることで、カーブ走行に必要な旋回のためのヨーレイトの少なくとも一部を発生させる。このため、いわゆるスキルドドライバのカーブ走行に近い制動と旋回とを実現でき、しかも旋回のためだけに制動力を付与するといった必要がなく、乗員に違和感を与えることがない。
しかも、制動力差を設けるのに、カーブ手前の区間での[1]制動行程で付与した制動力を利用し、これをリリースする際のプロファイルを利用しているので、エネルギを無駄にすることがない。このため、操舵による旋回力の発生を0あるいは最小限に、少なくとも操舵のみによる旋回力よりは低下させることができるので、車両AM全体のエネルギ収支を改善することができる。
第1実施形態では、右の前後輪11,13に付与する制動力RBや左の前後輪12,14に付与する制動力LBに関して、前後の車輪では同じ大きさの制動力を付与したが、制動力RB,LBは、前後輪の総和を意味しており、前輪と後輪とで異なる制動力としてもよい。図14は、こうした場合の一例を示す。右の前後輪11,13に加わる制動力の総和RBと、左の前後輪12,14に加わる制動力の総和LBとの差ΔBが同じであれば、車両AMに加わる横方向の加速度は同じになる。また、[1]制動行程において、全車輪に制動力を付与してもよいが、前輪のみ、あるいは後輪のみに付与するものとしてもよい。
本実施形態では、旋回のために右左の前後輪11〜14に付与される制動力差を決定する目標制動力差目標ヨーレイトBYと、旋回のために操舵される右左の前輪13,14の転舵量を決定する操舵目標ヨーレイトSYとは、実際のカーブ走行に先立って演算される(ステップS220)。降雨などにより路面の摩擦係数が大きく変化した場合、これら目標ヨーレイトBY,SYに基づく制御による旋回と、実際の走行路のカーブを走行するのに必要な旋回とを一致させるためには、補正処理を行なえばよい。例えば、車両AMに搭載した接触型摩擦係数センサ、あるいは音波やマイクロ波、赤外光などの路面での散乱を利用した非接触型のセンサなどにより路面の摩擦係数を取得し、各目標ヨーレイトBY,SYを修正しても良い。路面の摩擦係数などのパラメータは、ネットワークを介して外部から取得してもよい。また、自車位置から旋回の状況を把握して、制動力差や転舵量を調整してもよい。
B.第2実施形態:
次に第2実施形態について説明する。第2実施形態の車両運転制御装置210は、その概略構成図である図15に示すように、駆動用モータ130と駆動ECU120とに代えてガソリンエンジン230と変速機235とエンジンECU220とを搭載している点、自動運転ECU100に代えて運転支援ECU105を備える点、および経路案内装置110に代えてカメラ115を搭載している点を除いて第1実施形態と同様のハードウェア構成を備える。エンジン230はガソリンを燃料として動力を発生する4気筒エンジンであり、エンジンECU220からの指令を受けて、その出力が制御される。エンジンECU220は、図示しないアクセルペダルの踏込量や車速から、エンジン230に必要とされる出力を求め、エンジン230および変速機235を制御する。これにより、ディファレンシャルギヤ132および駆動軸134を介して、前後輪11,12が駆動され、車両は走行する。第2実施形態における車両AMは、いわゆるレシプロエンジン搭載車両としての構成を備えるが、エンジン230を用いた車両AMの動力系の構成および出力の制御は公知のものなので、ここでは、搭載している各種アクチュエータやセンサ共々、説明は省略する。第2実施形態で搭載されたカメラ115は、車両AMのフロント側に設けられ、車両の前方を撮像することができる。
車両運転制御装置210は、経路案内装置110および自動運転ECU100を備えていないため、走行路の先読み処理(図8,ステップS100)を含む自動運転は、第2実施形態では行なわない。車両AMの運転は、運転者により行なわれる。
第2実施形態における旋回制御処理について、以下説明する。車両運転制御装置210を搭載した車両AMは、車両AMを旋回するのに、図16に示した旋回制御ルーチンを実行する。この処理は、運転支援ECU105により実行される。運転支援ECU105は、図16に示した旋回制御ルーチンを、他の制御ルーチンと共に、所定のインターバルで繰り返し実行している。このルーチンを開始すると、運転支援ECU105、カメラ115を用いて、車両AMの前方を撮像する処理を実行(ステップS400)。撮像は、所定のインターバルで連続的に行なわれる。
次に、運転支援ECU105は、連続して撮像された画像を解析する撮像画像解析処理を実行する(ステップS405)。具体的には、撮像した画像から路肩を含む走行路を検出し、車両前方の所定区間に渡る走行路形状を解析する。続いて、解析した走行路形状から、カーブが存在するか否かの判断を行なう(ステップS410)。走行路にカーブが含まれていると判断できなければ(ステップS410:「NO」)、「NEXT」に抜けて本制御ルーチンを終了し、他の制御ルーチンを実行する。
走行路にカーブが存在すると判断できれば(ステップS410:「YES」)、圧力センサ31F,31Rから信号を読み取って、ブレーキ液圧を読み取る(ステップS425)。カーブの手前の所定の区間に入ると、運転者は、[1]制動行程をとり、ブレーキペダル71を操作して各ホイールシリンダ19〜22のブレーキ液圧を高める。
このブレーキ液圧が所定圧以上かを判断し(ステップS435)、所定圧以上であれば、制動力リリース制御(ステップS200)が可能と判断し(ステップS435:「YES」)、ステップS440以下の処理を実行する。他方、ブレーキ液圧が所定圧未満と判断した場合には、制動力リリース処理は行なえないと判断し(ステップS435:「NO」)、「NEXT」に抜けて、本制御ルーチンを終了する。
ブレーキ液圧が所定圧以上であれば、次に操舵ECU140と通信し、現在の操舵量を読み取る処理を行なう(ステップS440)。操舵量は、エンコーダ152を用いて、操舵装置150により読み取られ、操舵ECU140に常時送信されている。読み取った操舵量から[2]ターンイン行程に入ったか否かの判断を行なう(ステップS445)。運転者がハンドル151を操作して転舵を開始していなければ(ステップS445:「NO」)、ステップS425に戻って、ブレーキ液圧の読み取り以下の処理(ステップS425〜S445)を繰り返す。カメラ115で撮像した画像からカーブが存在すると判断していても、運転者が車両AMを停止したり、別の走行路に進んだりして、想定されたカーブに入らないまま、ブレーキ液圧が低下することも生じ得る。この場合、ステップS435での判断は「NO」となり、制動力リリース制御(ステップS200)は、行なわれないまま、「NEXT」に抜けて、本制御ルーチンを終了することも生じ得る。
他方、ブレーキ液圧が所定圧以上のまま、運転者が操舵を開始して、[2]ターンイン行程に入ったと判断されると(ステップS445:「YES」)、次に制動力リリース制御(ステップS200)を実行する。この制動力リリース制御は、第1実施形態とほぼ同様の処理である。但し、第2実施形態では、転舵は運転者によって行なわれので、操舵目標ヨーレイトSYに基づく処理は、次のように行なわれる。操舵ECU140は、運転支援ECU105から操舵目標ヨーレイトSYを受け取ると、実際に運転者がハンドル151を操作しても、前輪13,14の転舵量による旋回力が、操舵目標ヨーレイトSYとなるように、操舵装置150に指示する。前輪13,14の転舵量は、操舵モータ154および操舵ギヤ155により制御されるので、運転者によるハンドル151の操作量が、操舵目標ヨーレイトSYに対応した転舵量以上となるような操作量であれば、余剰の部分は、カットして、操舵モータ154を駆動するのである。
他方、制動力ECU70は、[2]ターンイン行程に入った直前のブレーキ液圧から、旋回に必要な制動力差目標ヨーレイトBYが得られる制動力差となるように、制動力リリースのプロファイルを選択し(図10,ステップS240)、第1実施形態と同様、左車輪,右車輪の制動力LB,RBの制動力差ΔBを制御する(図10、ステップS250〜S280)。こうした制動力の制御は、各ホイールシリンダ19〜22のブレーキ液圧を調整することにより行なわれる。本実施形態の油圧配管系統10では、運転者がブレーキペダル71を踏み戻しても、増圧制御弁34,35,54,55を遮断位置とすれば、各ホイールシリンダ19〜22のブレーキ液圧を維持することができ、プロファイルに沿って制動力LB,RBをリリースしていくことも可能である。もとより、運転者の意図を優先して、ブレーキペダル71が踏み戻される操作がなされた場合には、各ホイールシリンダ19〜22のブレーキ液圧をブレーキペダル71の操作量に応じた値にすることも差し支えない。この場合には、制動力差に基づくヨーレイトの発生はキャンセルされる。あるいは、ブレーキペダル71が踏み戻されても各ホイールシリンダ19〜22のブレーキ液圧は、ステップS240で選択したプロファイルに基づいて制御するものとし、アクセルペダルが踏まれたら、制動力リリース制御(ステップS200)を終了するものとしてもよい。
こうした制動力リリース制御は、アクセルペダルが踏まれるなどして、[4]立上がり加速行程が開始されたと判断された時点で終了する(ステップS450)。
以上説明した第2実施形態によれば、車両が自動運転ではなく、運転者により運転されている場合でも、車両がカーブに指し掛かったときに、運転者がカーブ手前で[1]制動行程をとってブレーキペダル71を踏んでいれば、その制動力を利用し、これをリリースする際に左右の車輪における制動力差を作り出すことで、旋回力を生じさせることができる。この結果、自動運転でなくても、カーブに指し掛かったとき、制動力差を用いて無駄なく車両AMに旋回力を付与することができる。
本実施形態では、カーブ走行をカメラ115が撮像した画像により判断するものとしたが、カメラ115に代えて、ライダーなどレーザーを単独または併用で用いて、カーブの走行を先読みしてもよい。あるいは、運転者が、カーブに接近していることを示すボタンなどを操作したり、音声認識を利用して「カーブに入ります」との発語をきっかけに、図16に示した旋回制御ルーチンのステップS425以下を実行するようにしてもよい。もとより、第2実施形態において、第1実施形態で用いた経路案内装置110を採用し、車両AMの走行位置と走行している道路の情報とから、カーブ走行を先読みして、カーブ走行を行なうか否かを判断するようにしても差し支えない。
C.第3実施形態:
第3実施形態は、第1実施形態もしくは第2実施形態と同様のハードウェア構成を備え、前後輪の制動力制御を行なうものである。車両の重心周りに生じるヨー以外の3種類の力を図17に模式的に示した。図示するように、車両には、第1,第2実施形態で取り扱った鉛直軸Z周りのモーメントであるヨーモーメント以外に、前後軸Xの周りのモーメントであるロールΦと、車幅方向軸Yの周りのモーメントであるピッチθと、車両の重心の上下動であるヒーブZが働く。これらの力の一部は、車両前後輪の制動力を配分することで調整可能である。第1実施形態では、図14を用いて、左右車輪の制動力差を生じさせた際に、前後輪に制動力を割り振ってもよいことを示したが、この前後輪の制動力の割り振りをダイナミックに行なって、車両AMの姿勢を制御することができる。
第3実施形態では、自動運転ECU100または運転支援ECU105は、左右輪の制動力LB,RBを決定した後、更に、この左右の制動力LB,RBを、動的にそれぞれの側の前後輪に割り振っている。制動力を割り振ることにより、車両AMの姿勢を制御できる原理を、図18に模式的に示した。片側(例えば右側)の前後輪13,11に付与される制動力の総和をFとし、動的に割り振られる制動力の割合を(β:1−β)とすると、前輪13にはβFの制動力が、後輪11には(1−β)Fの制動力が、それぞれ付与される。
この制動力がそれぞれの車輪に加わったとき、前輪13の瞬間的な回転中心と接地面との角度をΦfとすれば、前輪13には、
HF=βFtanΦf
の力Hが加わる。力の方向は、制動力方向に回転中心がある場合は上向き(符号は「+」)、制動力方向と反対側に回転中心がある場合は下向き(符号は「−」)である。従って、後輪11の瞬間的な回転中心と接地面との角度をΦrとすれば、後輪11には、
HR=−(1−β)FtanΦr
の力HRが加わる。他方、右側の前後輪13,11には、車両AMの走行に伴い、慣性力ΔWが加わっているので、この慣性力ΔWと上記の力HF,HRとの合力が、前後輪13、11には、加わることになる。この結果、
ΔW+HF あるいは ΔW+HR
が正であれば上向きの力が、負であれば下向きの力が、前後輪13,11に加わり、車輪が上向きまたは下向きに移動し、車両AMの姿勢を変化させる(あるいは維持させる)とができる。
従って、制動力リリース制御の際の制動力LB,RBを、右左の前後輪11〜14に割り振る際、動的に、つまり慣性力ΔWの変化に追従可能な程度の速さで制御すれば、カーブ走行中の車両AMの姿勢を、制動力リリースを利用して制御することができる。
以上、いくつかの実施形態について説明したが、本発明は、こうした実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々の態様で実施し得ることは勿論である。実施形態でのみ用いられる構成や従属請求項に記載された要件は、本発明の実施に必須の要件ではない。例えば、本発明は、操舵ECUと協働せず、単独で制動力リリースにおける制動力差を用いて旋回する運転制御装置として実施することも可能である。車両としては、第1の実施形態において第2実施形態のエンジン230,変速機235およびエンジンECU220を用いた構成としてもよく、第2実施形態において第1実施形態の駆動用モータ130と駆動ECU120を用いた構成としてもよい。車両としては、こうした電気自動車やガソリンエンジン搭載車両に限らず、いわゆるハイブリッド車両や燃料電池搭載車両などを用いてもよい。エンジンを用いる場合、ガソリンを燃料とするレシプロエンジンに限らず、ロータリーエンジンや、ディーゼルエンジン、LPGを燃料とするエンジンなど、種々のタイプを利用可能である。また、制動はブレーキ液圧を用いた制動装置に限らず、モータなどにより直接制動力を車輪に付与する構成も採用可能である。各車輪にモータを設けたホイールモータ方式であれば、回生制動を利用して、同様の制御を実現しても良い。制動力の制御にブレーキ液圧を用いる場合には、図2の構成に限らず、種々の油圧系統の構成を採用することができる。