[1.試料分析用カートリッジ]
本実施形態の試料分析用カートリッジ(以下、単に「カートリッジ」ともいう)は、試料中の被検物質の検出に必要な固相担体及び検出用試薬が適切に配置されたマイクロ流体デバイスである。被検物質を含む試料を本実施形態のカートリッジ内へ入れ、所定のプロセスで処理することにより、被検物質の検出が可能となる。所定のプロセスは、例えば、図4Aに示すような本実施形態のカートリッジ専用の分析装置を用いて実行することが好ましい。なお、図4Aに示される分析装置100については後述する。
本実施形態のカートリッジが対象とする試料は、被検物質を含み得るかぎり、特に限定されない。試料としては、例えば、血液、血漿、血清、リンパ液、細胞又は組織の可溶化液などの生体試料、尿や糞便などの排泄物、河川水、海水、土壌などの環境サンプルなどが挙げられる。本実施形態のカートリッジは、血液、血漿及び血清中の被検物質の検出に適している。
被検物質の種類は、被検物質に特異的に結合する捕捉物質が存在するか又はそのような捕捉物質を製造できるかぎり、特に限定されない。捕捉物質として抗体を用いる場合、抗原性を有する物質はいずれも被検物質になり得る。被検物質の例としては、タンパク質、ペプチド、核酸、生理活性物質、ベシクル、細菌、ウイルス、ハプテン、治療薬剤、治療薬剤の代謝物などが挙げられる。抗体も被検物質になり得る。タンパク質は、天然に存在するタンパク質だけでなく、組換えタンパク質などの非天然のタンパク質も含む。ペプチドは、アミノ酸残基数の多いポリペプチドだけでなく、ジペプチドやトリペプチドなどのアミノ酸残基数の少ないオリゴペプチドも含む。核酸は、天然に存在する核酸だけでなく、核酸アナログなどの人工的に合成された核酸も含む。多糖類は、細胞又はタンパク質の表面に存在する糖鎖、及び、細菌の外膜成分であるリポ多糖も含む。生理活性物質としては、例えば、細胞増殖因子、分化誘導因子、細胞接着因子、酵素、サイトカイン、ホルモン、糖鎖、脂質などが挙げられるが、特に限定されない。ベシクルは、膜で構成された小胞であれば特に限定されない。ベシクルは、内部に液相を含んでいてもよい。ベシクルとしては、例えば、エクソソーム、マイクロベシクル、アポトーシス小体などの細胞外小胞や、リポソームなどの人工のベシクルなどが挙げられる。
本実施形態のカートリッジは、少なくとも、カートリッジ基体と、担体粒子と、第1の液体試薬と、被検物質に特異的に結合する第1の捕捉物質とを備える。
カートリッジ基体(以下、単に「基体」ともいう)とは、被検物質の検出に必要な担体粒子及び液体試薬を使用時まで収容しておく保存容器としての役割と、試料と試薬との反応が行われる反応容器としての役割とを果たす部材である。本実施形態において、基体には、被検物質を含む液体を収容するためのチャンバ、及び、該チャンバと接続可能であってチャンバに供給すべき液体試薬を収容するための収容部が形成されている。チャンバは、基体において反応容器に該当する部分であり、収容部は、基体において保存容器に該当する部分である。該基体において、チャンバと収容部とは、流路により接続される。基体の厚みは特に限定されないが、例えば0.2 mm以上10 mm以下であればよい。チャンバ及び収容部の容積は特に限定されないが、例えば0.1μL以上500μL以下であればよい。チャネルの内径又は幅は特に限定されないが、例えば0.1μm以上5000μm以下であればよい。
本実施形態では、基体には、複数のチャンバを形成してもよい。また、基体には、それらのチャンバと接続可能な複数の収容部を形成してもよい。この場合、チャンバの数と収容部の数は、同じであってもよいし、異なっていてもよい。基体に複数のチャンバを形成する場合、該基体に、それらのチャンバを接続する流路であるチャネルをさらに形成することが好ましい。また、基体に、外部から被検物質を含む試料を入れるための開口部をさらに形成することが好ましい。
カートリッジ基体の材質は、免疫学的測定に通常用いられる固相と同じ材質が適用可能である。そのような材質としては、例えば、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、シクロオレフィンコポリマー、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体、及びガラスなどが挙げられる。材質は1種類であってもよいし、2種類以上を組み合わせてもよい。例えば、チャンバが上記から選択されるいずれか1つの材質で構成され、チャネル及び収容部などの残りの部分がチャンバとは異なる材質で構成されてもよい。本実施形態では、カートリッジ基体の材質は、光を透過する材質であることが好ましい。
本実施形態において、基体は、該基体の基礎的部材である基板に、チャンバ及び収容部を形成することにより得ることができる。基板には、さらにチャネル及び開口部を形成することが好ましい。すなわち、基板は、チャンバ、収容部、チャネル及び開口部が形成される部材である。基板は、基体と同じ材質のプレート状部材であることが好ましい。例えば、基体は、基板の表面に、チャンバ、収容部、チャネル及び開口部となる凹部を形成し、この基板に、該基板の全面を覆うフィルムを貼り合わせることによって得ることができる。ただし、図4Bを参照して、開口部241、封止体231a及び232aがある部分の上面には、フィルムが貼り合わせられていない。基板上に形成された凹部がフィルムで覆われることで、該凹部は、チャンバ、収容部、チャネル及び開口部となる。
また、基体は、チャンバ、収容部及びチャネルとなる凹部と、開口部となる孔とを形成した基板と、該基板とは左右対称にチャンバ、収容部、チャネル及び開口部となる凹部が形成された別の基板とを貼り合わせることによって得ることができる。開口部の孔は、いずれか一方の基板に形成されていればよい。あるいは、基体は、基板上に、チャンバ、収容部及びチャネルを構成する部品を設置することによって得ることができる。この場合、設置される部品は、接着剤や融着技術により基板上に固定されることが好ましい。
開口部は、被検物質を含む試料を外部からカートリッジ内へ入れるための入り口部分である。開口部は、流路を介してチャンバの1つに接続されている。試料の種類に応じて、開口部と、該開口部と接続したチャンバとの間に、試料を一旦収容するための試料収容部をカートリッジ基体に形成してもよい。例えば、試料が、被検物質と不溶性夾雑物とを含む液体試料である場合、試料収容部は、該液体試料を、被検物質を含む上清と不溶性夾雑物とに分離するための場所(分離部)として利用できる。
基体において、チャンバ、収容部、チャネル及び開口部の配置は特に限定されない。好ましい本実施形態では、カートリッジに遠心力及び慣性力の少なくとも一方を付与したときに、開口部から入れられた試料がチャネルを通ってチャンバに移送され、且つ、収容部に収容された第1の液体試薬が該チャンバに移送されるように、チャンバ、収容部、チャネル及び開口部を配置する。以下、図面を参照して、カートリッジを構成する基体の一例について説明する。しかし、本実施形態のカートリッジは、この例に限定されるものと解されるべきではない。図4Bを参照して、カートリッジ200は、円盤形状の基体200aにより構成される。この図では、カートリッジは円盤形状として示されているが、この形状に限定されない。本実施形態のカートリッジは、プレート状であることが好ましい。形状としては、例えば、円盤形状、矩形形状などが挙げられる。また、カートリッジは、突起部分などを有してもよい。
基体200aは、孔201と、チャンバ211〜216と、チャネル220と、6つの収容部231と、収容部232と、開口部241と、分離部242と、チャネル243とを備える。孔201は、基体200aの中心において基体200aを貫通している。カートリッジ200は、孔201の中心が、後述する回転軸311(図8参照)に一致するように分析装置100に配置される。以下、回転軸311を中心とする円の径方向及び周方向をそれぞれ単に「径方向」及び「周方向」と称する。チャンバ211〜216は、基体200aの外周付近において周方向に並んでいる。
チャンバ211〜216、チャネル220、6つの収容部231、収容部232、分離部242及びチャネル243は、基体200a上に凹部として形成される。さらに、基体200aは、カートリッジ200の周方向の基準の位置(ホームポジション)を定める指標(インデックス)を備える。インデックスは、例えば基体200aに設けられた1つの孔であって、本体部101の所定の位置に、そのインデックスに対向するセンサ(例えば、光センサ)が配置されてインデックスを検出する。
チャンバ211〜216は、被検物質を含む液体を収容するためにカートリッジ200に設けられた収容部である。チャンバ内には常に液体が入っていなくてもよい。チャンバは、液体を収容するために空間的な広がりを有していればよい。チャネル220は、試料を担体粒子と共にあるチャンバから別のチャンバへ移送するためにカートリッジ200に設けられた流路である。チャネル220は、周方向に延びた円弧状の領域221と、径方向に延びた6つの領域222とを備える。領域221は、6つの領域222と繋がっている。6つの領域222は、それぞれチャンバ211〜216に繋がっている。6つの収容部231は、流路を介してチャネル220に繋がっており、それぞれチャンバ211〜216に繋がる領域222の延長線上にある。収容部232は、流路を介して、チャンバ216に繋がる領域222と、チャンバ216に繋がる領域222の延長線上にある収容部231とを繋ぐ流路に繋がっている。
収容部231には、径方向の内側の上面に封止体231aが設けられている。封止体231aは、後述する開栓部195によって上から押されることにより開栓される。これにより、収容部231の内部が、封止体231aの位置においてカートリッジ200の外部と繋がる。同様に、収容部232にも、径方向の内側の上面に封止体232aが設けられている。封止体232aは、開栓部195によって上から押されることにより開栓される。これにより、収容部232の内部が、封止体232aの位置においてカートリッジ200の外部と繋がる。
図4Bには示されないが、封止体231a及び封止体232aは、それぞれ収容部231及び232の径方向の外側の上面にも設けられてもよい。収容部を2つの封止体で閉鎖することで、カートリッジを使用するまで、収容部に収容された液体試薬等を安定に保存できる。これらの封止体も、開栓部195によって上から押されることにより開栓される。これにより、収容部231及び232が、流路を介してチャンバと接続される。
被検物質を含む試料は、開口部241を介して分離部242に注入される。試料が血液である場合、分離部242にて、遠心力により血液を血球と血漿とに分離できる。分離部242で分離された血漿は、チャネル243に移動する。チャネル243の径方向の内側の上面には、孔243aが設けられている。チャネル243内の領域243bに位置付けられた血漿は、カートリッジ200が回転されると遠心力によりチャンバ211に移動する。これにより、所定量の血漿がチャンバ211に移送される。
図4Bでは、基体200aの各構成は、基体200aの3分の1の領域にのみ形成されている。しかし、本実施形態はこの例に限定されない。図4Bに示される一群の構成を、残りの3分の2の領域に形成して、基体200aに一群の構成を3つ設けてもよい。
本実施形態のカートリッジでは、担体粒子は、糖及びタンパク質を含む固体混合物でチャンバの内壁に固定されている。本明細書において、「固定する」とは、対象の物体を、所定の位置から移動しないように据えることをいう。糖及びタンパク質を含む固体混合物(以下、単に「固体混合物」ともいう)は、担体粒子をチャンバの内壁に固定するための媒体である。該固体混合物自体も、チャンバの内壁に付着して固定されている。
本実施形態において、固体混合物による担体粒子の固定の態様としては、例えば、担体粒子を固体混合物で覆うこと、担体粒子を固体混合物中に分散又は内包することなどが挙げられる。担体粒子が所定の位置から移動しない態様としては、例えば、担体粒子が内壁上の所定の位置で常に静止していることが挙げられる。しかし、本実施形態は、この例のみに限定されない。例えば、担体粒子が、粘性又は弾性のある固体混合物に分散又は内包されている場合、該固体混合物の変形に伴って担体粒子が移動しうる。この場合、該固体混合物がチャンバの内壁上の所定の位置に固定されているかぎり、担体粒子がそのような固体混合物中に分散又は内包されることは、担体粒子が所定の位置から移動しない態様に含まれる。
本明細書において、「担体粒子」と「糖及びタンパク質を含む固体混合物」とは、別個の物質として言及する。すなわち、用語「糖及びタンパク質を含む固体混合物」自体は、特に言及しないかぎり、さらに担体粒子を含むことを意図しない。また、本明細書では、「担体粒子」と「糖及びタンパク質を含む溶液」とは、別個の物質として言及する。すなわち、用語「糖及びタンパク質を含む溶液」自体は、特に言及しないかぎり、さらに担体粒子を含むことを意図しない。
固体混合物は、糖及びタンパク質を含む溶液を乾燥して生じる組成物である。固体混合物は、チャンバの内壁上の所定の位置から移動しないかぎり、上記の溶液が完全に乾固した硬質の固体であってもよいし、粘性又は弾性のある固体(例えばゲル、半固体など)であってもよい。ただし、該固体混合物が硬質の固体である場合、亀裂が生じた固体混合物は本実施形態から除かれる。亀裂のある固体混合物は、輸送過程における衝撃によりチャンバから脱離して、担体粒子を固定できなくなるおそれがある。
本実施形態では、固定された担体粒子は、内壁に接していてもよいし、接していなくてもよい。例えば、チャンバの内壁と接している担体粒子が固体混合物で覆われることにより、該担体粒子が内壁に固定されてもよい。あるいは、内壁に付着した固体混合物中に担体粒子が分散又は内包されていることにより、該担体粒子が内壁に固定されてもよい。この場合、担体粒子が内壁に接していなくとも、該担体粒子は、固体混合物で間接的に内壁に固定されている。本実施形態では、固体混合物が、被検物質と第1の捕捉物質と第1の液体試薬とを含む混合液に接触して溶解することにより、担体粒子が内壁から脱離して該混合液中に分散する。
固体混合物の溶解後、担体粒子が内壁から脱離するようにするため、担体粒子は、チャンバの内壁と結合していないことが望ましい。例えば、担体粒子と、チャンバの内壁との間に、共有結合、物理吸着などによる結合がないことが好ましい。
内壁における担体粒子が固定される位置は特に限定されず、内壁の一部の領域であってもよいし、内壁の全面であってもよい。本実施形態には、担体粒子の一部が、チャンバに繋がる領域222(図4B参照)に固定されている場合が含まれてもよい。担体粒子が固定されているので、製品としてのカートリッジの輸送工程における振動や衝撃などによって担体粒子がチャンバから脱離することを防止できる。担体粒子が固定されるべきチャンバは、複数のチャンバのいずれであってもよいが、好ましくは、開口部から入れられた試料が最初に移送されるチャンバである。例えば、図4Bを参照して、チャンバ211に担体粒子が固定されることが好ましい。
固体混合物に含まれる糖は、水溶性であって、且つ被検物質と捕捉物質との特異的結合を阻害しないかぎり、特に限定されない。好ましくは、水に容易に溶解する糖である。そのような糖は、単糖類及び二糖類から適宜選択すればよい。例えば、スクロース、トレハロース、グルコース、ラクトース、フルクトース、マルトース、ガラクトースなどが挙げられる。糖は1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。本実施形態では、スクロースが特に好ましい。
固体混合物に含まれるタンパク質は、水溶性であって、且つ被検物質と捕捉物質との特異的結合を阻害しないかぎり、特に限定されない。また、タンパク質を含む組成物を用いてもよい。本実施形態では、担体粒子の凝集及び/又は捕捉物質の劣化を防止する作用を有するタンパク質が好ましい。そのようなタンパク質は、免疫学的測定において安定化剤又はブロッキング剤として通常用いられるタンパク質から適宜選択すればよい。例えば、アルブミン、クリスタリン、カゼイン、正常血清タンパク質、コラーゲン、ゼラチン、ゲリゼート、スキムミルク、乳酸発酵物、及びそれらの分解産物などが挙げられる。タンパク質は1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。動物性タンパク質を用いる場合、該タンパク質の由来は特に限定されない。本実施形態では、血清アルブミンが好ましく、ウシ血清アルブミン(BSA)が特に好ましい。
本実施形態のカートリッジにおいて、固体混合物による担体粒子の内壁への固定は、例えば、次のようにして行われる。糖及びタンパク質を含む溶液中に担体粒子を分散させて担体粒子の懸濁液を得る。そして、この懸濁液を内壁上で乾燥させると、固体混合物で内壁に固定された担体粒子が得られる。担体粒子の懸濁液において、タンパク質の濃度は0.1質量%以上20質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以上5質量%以下であることがより好ましい。また、上記の担体粒子の懸濁液において、糖の濃度は0.5質量%以上30質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以上15質量%以下であることがより好ましい。なお、本明細書においては、「質量%」を「重量%」と読み替えてもよい。
糖及びタンパク質を含む固体混合物において、タンパク質に対する糖の質量比(糖の質量/タンパク質の質量)は、通常0.1以上100以下であり、好ましくは0.5以上30以下であり、より好ましくは1以上10以下である。また、本実施形態のカートリッジにおいて、上記の固体混合物に含まれるタンパク質に対する担体粒子の質量比(担体粒子の質量/タンパク質の質量)は、通常0.05以上10以下であり、好ましくは0.1以上7以下であり、より好ましくは0.5以上5以下である。本実施形態では、試料の処理をカートリッジ内で行うので、ピペッティングのような直接的な手段で内部の液体を撹拌することができない。しかし、タンパク質に対する糖及び担体粒子の質量比を上記の範囲内に調整することにより、固体混合物が、被検物質を含む液体に速やかに溶解して、担体粒子が、チャンバの内壁から脱離して該液体中に分散することが可能となる。
担体粒子の材質は、免疫学的測定において固相担体として通常用いられる粒子と同じ材質が適用可能である。例えば、金属粒子、樹脂粒子、シリカ粒子などを用いることができる。金属粒子としては、例えば、金、銀、銅、鉄、アルミ、マンガン、ニッケル、チタン、及びこれらの酸化物などの粒子が挙げられる。また、これらの合金の粒子であってもよい。樹脂粒子としては、例えば、ポリスチレン粒子、ラテックス粒子などが挙げられる。好ましい実施形態では、担体粒子は、磁性を帯びた粒子(以下、「磁性粒子」ともいう)である。磁性粒子は当該技術において公知であり、基材として酸化鉄(Fe2O3及び/又はFe3O4)、酸化クロム、コバルト、フェライト、マグネタイトなどを含む粒子が挙げられる。
担体粒子の大きさは、担体粒子がチャネルを通過可能であれば、特に限定されない。例えば、平均粒子径が10 nm以上100μm以下の粒子を用いることができる。担体粒子の平均粒子径は、レーザー回折・散乱法による粒度分布測定装置により測定される体積基準のメジアン径である。粒度分布測定装置としては、日機装株式会社製「マイクロトラックMT3000II」などが挙げられる。本明細書において、「粒子径」は直径を意味する。担体粒子の形状は特に限定されない。例えば、球体、直方体、立方体、三角錐及びこれらに近い形状のいずれであってもよい。
担体粒子は、第1の捕捉物質を固定可能な表面を有することが好ましい。そのような表面は、担体粒子と第1の捕捉物質との結合様式に応じて決定できる。例えば、第1の捕捉物質がタンパク質である場合、担体粒子の表面の材質を、タンパク質を物理吸着する材質で構成すればよい。第1の捕捉物質が抗体である場合は、抗体と特異的に結合する分子を担体粒子の表面に固定すればよい。抗体と特異的に結合する分子としては、例えばプロテインA又はGなどが挙げられる。第1の捕捉物質と担体粒子との間を介在する物質の組み合わせを用いてもよい。そのような物質の組み合わせとしては、ビオチンとアビジン(又はストレプトアビジン)、ハプテンと抗ハプテン抗体などの組み合わせが挙げられる。ハプテンと抗ハプテン抗体などの組み合わせとしては、ジニトロフェニル(DNP)基と抗DNP抗体との組み合わせが挙げられる。例えば、第1の捕捉物質がビオチンで修飾されている場合、アビジン又はストレプトアビジンを担体粒子の表面に固定すればよい。
本実施形態のカートリッジにおいて、第1の液体試薬は、収容部に収容されている。第1の液体試薬は、試料を適切な濃度に希釈し、且つ、チャンバの内壁に固定された担体粒子を分散させるための媒体である。第1の液体試薬として、例えば、水、生理食塩水、リン酸緩衝液(PBS)、グッドの緩衝液などを用いることができる。グッドの緩衝液としては、例えば、MES、Bis-Tris、ADA、PIPES、Bis-Tris-Propane、ACES、MOPS、MOPSO、BES、TES、HEPES、HEPPS、Tricine、Tris、Bicine、TAPSなどが挙げられる。
第1の捕捉物質は、被検物質と特異的に結合する物質であれば特に限定されない。捕捉物質と被検物質との結合は、被検物質の種類によって様々な態様が考えられる。そのような結合の態様としては、例えば、抗原抗体反応による結合、核酸の相補鎖形成による結合、受容体とリガンドの結合などが挙げられる。したがって、第1の捕捉物質は、被検物質の種類(抗体、抗原、核酸、受容体、リガンド、アプタマーなど)に応じて適宜選択すればよい。本実施形態では、抗原抗体反応を利用して被検物質を検出することが好ましい。よって、第1の捕捉物質は、被検物質に特異的に結合する抗体又は抗原であることが好ましい。
本明細書において、「抗体」は、モノクローナル抗体及びポリクローナル抗体、並びにFab及びF(ab')2などの抗体の断片を含む。捕捉物質としての「核酸」は、DNA及びRNAだけでなく、Peptide Nucleic Acid(PNA)、Locked Nucleic Acid(LNA)、Bridged Nucleic Acid(BNA)などの人工核酸も含む。
第1の捕捉物質は、標記物質で標識されていてもよい。標識物質には、それ自体がシグナルを発生する物質(以下、「シグナル発生物質」ともいう)、又は、他の物質の反応を触媒して検出可能なシグナルを発生させる物質を用いることができる。シグナル発生物質としては、例えば、蛍光物質、放射性同位元素などが挙げられる。他の物質の反応を触媒して検出可能なシグナルを発生させる物質としては、例えば、酵素が挙げられる。酵素としては、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β−ガラクトシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、チロシナーゼ、酸性ホスファターゼ、ルシフェラーゼなどが挙げられる。蛍光物質としては、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミン、Alexa Fluor(登録商標)、シアニン系色素などの蛍光色素、GFPなどの蛍光タンパク質などが挙げられる。放射性同位元素としては、125I、14C、32Pなどが挙げられる。それらの中でも、標識物質として、酵素が好ましく、ペルオキシダーゼ及びアルカリホスファターゼが特に好ましい。
本実施形態のカートリッジにおいて、第1の捕捉物質が収容される部位は特に限定されない。例えば、第1の捕捉物質を含む液体試薬を収容部に収容してもよい。カートリッジに搭載する試薬の数を減らす観点から、第1の捕捉物質は、第1の液体試薬中に含まれるか、又は、担体粒子の表面にあらかじめ固定されていることが好ましい。第1の捕捉物質の担体粒子への固定は、上述の第1の捕捉物質を固定可能な表面を有する粒子と、第1の捕捉物質とを接触させることにより行ってもよい。あるいは、公知の架橋剤を用いて、第1の捕捉物質を担体粒子の表面に、共有結合を介して結合させてもよい。
本実施形態では、カートリッジは、被検物質に特異的に結合する第2の捕捉物質を含む第2の液体試薬をさらに備えてもよい。この場合、第2の液体試薬は、第1の液体試薬が収容されている収容部とは異なる収容部に収容されることが好ましい。例えば、図4Bを参照して、第1の液体試薬が、チャンバ211の径方向に位置する収容部231に収容されているとき、第2の液体試薬は、チャンバ212の径方向に位置する収容部231に収容されてもよい。
第2の捕捉物質は、被検物質と特異的に結合する物質であれば特に限定されない。第2の捕捉物質の種類などは、第1の被検物質について述べたことと同様である。第1の捕捉物質と第2の捕捉物質とは同種の物質であってもよいし、別種の物質であってもよい。同種の物質である例としては、捕捉物質が何れも抗体である場合が挙げられる。別種の物質である例としては、第1の捕捉物質がアプタマーであり、第2の捕捉物質が抗体である場合が挙げられる。第1の捕捉物質が標識物質で標識されていない場合、第2の捕捉物質は、標識物質で標識されていることが好ましい。
第2の液体試薬の溶媒は、第2の捕捉物質を溶解できれば特に限定されない。例えば、水、生理食塩水、リン酸緩衝液(PBS)、グッドの緩衝液などを用いることができる。
第1の捕捉物質と第2の捕捉物質との競合を避けるため、第1の捕捉物質と第2の捕捉物質とは、被検物質において互いに異なる位置に結合することが好ましい。例えば、第1及び第2の捕捉物質が抗体であり、被検物質が抗原である場合、第1の捕捉物質が結合する被検物質のエピトープと、第2の捕捉物質が結合する被検物質のエピトープとは異なっていることが好ましい。第1及び第2の捕捉物質と被検物質が核酸である場合、第1の捕捉物質が結合する被検物質の塩基配列と、第2の捕捉物質が結合する被検物質の塩基配列とは異なっていることが好ましい。この実施形態では、1つの被検物質を2種類の捕捉物質により捕捉するので、検出の特異性が向上する。
本実施形態では、カートリッジは、未反応の遊離成分を除去するための洗浄液をさらに備えてもよい。洗浄液の組成は、担体粒子上に形成された複合体を損なわないかぎり、特に限定されない。本実施形態では、洗浄液は、例えば、免疫学的測定において通常用いられる洗浄液であってもよい。本実施形態のカートリッジにおいて、洗浄液は、第1及び第2の液体試薬のそれぞれが収容されている収容部とは異なる収容部に収容されることが好ましい。例えば、図4Bを参照して、第1の液体試薬が、チャンバ211の径方向に位置する収容部231に収容され、第2の液体試薬が、チャンバ212の径方向に位置する収容部231に収容されているとき、洗浄液は、チャンバ213の径方向に位置する収容部231に収容されてもよい。洗浄液は、1つであってもよいし、2つ以上であってもよい。例えば、カートリッジが洗浄液を3つ備える場合、図4Bを参照して、洗浄液は、チャンバ213〜215の径方向に位置する3つの収容部231に収容されてもよい。
上記の標識物質として酵素を用いる場合、カートリッジは、該酵素の基質溶液をさらに備えてもよい。本実施形態のカートリッジにおいて、基質溶液は、担体粒子が最後に移送されるチャンバに内容物を供給可能な収容部に収容されることが好ましい。例えば、図4Bを参照して、基質溶液は、チャンバ216の径方向に位置する収容部231、又は収容部232に収容されることが好ましい。
必要に応じて、カートリッジは、酵素と基質との反応に適したバッファー(以下、「反応バッファー」ともいう)をさらに備えてもよい。反応バッファーは、酵素及び基質の種類に応じて適宜選択される。反応バッファーは、図4Bを参照して、チャンバ216の径方向に位置する収容部231に収容されることが好ましい。この場合、基質溶液は、収容部232に収容されることが好ましい。
基質は、酵素に応じて当該技術において公知の基質から適宜選択できる。酵素としてアルカリホスファターゼを用いる場合、基質としては、CDP-Star(登録商標)(4-クロロ-3-(メトキシスピロ[1, 2-ジオキセタン-3, 2'-(5'-クロロ)トリクシロ[3. 3. 1. 13, 7]デカン]-4-イル)フェニルリン酸2ナトリウム)、CSPD(登録商標)(3-(4-メトキシスピロ[1, 2-ジオキセタン-3, 2-(5'-クロロ)トリシクロ[3. 3. 1. 13, 7]デカン]-4-イル)フェニルリン酸2ナトリウム)などの化学発光基質、5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルリン酸(BCIP)、5-ブロモ-6-クロロ−インドリルリン酸2ナトリウム、p-ニトロフェニルリン酸などの発色基質が挙げられる。酵素としてペルオキシダーゼを用いる場合、基質としては、ルミノール及びその誘導体などの化学発光基質、2, 2'-アジノビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸アンモニウム)(ABTS)、1, 2-フェニレンジアミン(OPD)、3, 3', 5, 5'-テトラメチルベンジジン(TMB)などの発色基質が挙げられる。
[2.試料分析用カートリッジの製造方法]
本実施形態のカートリッジの製造方法(以下、単に「製造方法」ともいう)では、まず、糖及びタンパク質を含む溶液中に担体粒子を分散させて担体粒子の懸濁液を得る。この懸濁液を固相上で乾燥させると、固体混合物で固相上に固定された担体粒子が得られる。懸濁液に含まれる糖、タンパク質及び担体粒子の種類については、先に述べたことと同様である。糖及びタンパク質を含む溶液の溶媒は、糖及びタンパク質を溶解可能であれば特に限定されない。そのような溶媒として、例えば、水、生理食塩水、グッドの緩衝液などを用いることができる。
担体粒子の懸濁液における糖及びタンパク質の濃度が低すぎると、乾燥固定した固体混合物が溶けにくくなり、担体粒子を分散させることが難しい。よって、担体粒子の懸濁液において、タンパク質の濃度は0.1質量%以上であることが好ましく、1.0質量%以上であることがより好ましい。糖の濃度は0.5質量%以上であることが好ましく、1.0質量%以上であることがより好ましい。また、担体粒子の懸濁液における糖の濃度が高すぎると、懸濁液が乾燥しにくくなる。よって、担体粒子の懸濁液における糖の濃度は30質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましい。担体粒子の懸濁液におけるタンパク質の濃度の上限は特に限定されないが、通常20質量%以下であり、5質量%以下であることが好ましい。
担体粒子の懸濁液において、タンパク質に対する糖の質量比(糖の質量/タンパク質の質量)は、通常0.1以上100以下であり、好ましくは0.5以上30以下であり、より好ましくは1以上10以下である。また、担体粒子の懸濁液において、タンパク質に対する担体粒子の質量比(担体粒子の質量/タンパク質の質量)は、通常0.05以上10以下であり、好ましくは0.1以上5以下であり、より好ましくは0.5以上7以下である。タンパク質に対する糖及び担体粒子の質量比を上記の範囲内に調整することにより、固体混合物が、被検物質を含む液体に容易に溶解し、担体粒子が、チャンバの内壁から速やかに脱離して該液体中に分散する。
次いで、被検物質を含む液体を収容するためのチャンバが形成される基板上の、該チャンバが形成される領域に、上記の懸濁液を供給する。基板の詳細は、本実施形態のカートリッジについて述べたことと同様である。例えば、基板上に複数のチャンバとなる凹部が形成されている場合、少なくとも1つのチャンバとなる凹部に懸濁液を供給する。懸濁液の供給は、基板上の領域に懸濁液を載せ置くことにより行われる。供給する量は特に限定されないが、例えば、チャンバの容積の1%以上75%以下の量であればよい。
最終的に担体粒子が固定されるチャンバは、複数のチャンバのいずれであってもよいが、好ましくは、開口部から入れられた試料が最初に移送されるチャンバである。例えば、図4Bを参照して、チャンバ211が形成される基板上の領域に懸濁液を供給することが好ましい。
そして、供給された懸濁液を乾燥させて、担体粒子を基板上に固定する。乾燥方法は特に限定されないが、例えば、自然乾燥、加熱乾燥、凍結乾燥などが挙げられる。必要に応じて、乾燥剤、デシケータ、真空乾燥機などを用いてもよい。操作の簡便性の観点からは、懸濁液を供給したカートリッジ基体を常温・常圧下にて自然乾燥させることが好ましい。乾燥時間は特に限定されないが、自然乾燥の場合は1時間以上30時間以下であればよい。
乾燥後、固定された担体粒子を内包するチャンバを形成する。基板上に複数のチャンバとなる凹部が形成されている場合は、担体粒子を内包しない他のチャンバをさらに形成してもよい。本実施形態では、収容部をさらに形成することが好ましい。また、複数のチャンバを形成する場合は、それらのチャンバを接続するチャネルをさらに形成することが好ましい。例えば、基板上にチャンバ、収容部及びチャネルとなる凹部が形成されている場合、該基板に、該基板の全面を覆うフィルムを張り合わせてもよい。あるいは、この基板に、該基板とは左右対称にチャンバ、収容部及びチャネルが凹部として形成された別の基板を張り合わせてもよい。これにより、チャンバの内壁に担体粒子が固定された試料分析用カートリッジが得られる。
本実施形態では、形成した各収容部に、第1の液体試薬、第2の液体試薬、洗浄液、基質溶液、及び反応バッファーを収容させることが好ましい。これらの試薬などの詳細は、本実施形態の試料分析用カートリッジについて述べたことと同様である。
[3.試料分析用カートリッジを用いる被検物質の検出方法]
本実施形態の被検物質の検出方法(以下、単に「検出方法」ともいう)では、担体粒子を備えた試料分析用カートリッジを用いる。この試料分析用カートリッジにおいて、担体粒子は、糖及びタンパク質を含む固体混合物で、カートリッジ内に形成されたチャンバの内壁に固定されている。糖及びタンパク質を含む固体混合物の組成や質量比などの詳細は、本実施形態のカートリッジについて述べたことと同様である。本実施形態の検出方法では、上記の本実施形態のカートリッジを用いることが特に好ましい。
本実施形態の検出方法では、まず、試料分析用カートリッジ内に形成されたチャンバの内壁に固定された担体粒子と、被検物質を含む試料と、被検物質に特異的に結合する第1の捕捉物質と、第1の液体試薬とを、チャンバ内で接触させる。被検物質を含む試料、担体粒子、第1の捕捉物質及び第1の液体試薬の詳細は、本実施形態のカートリッジについて述べたことと同様である。
開口部から試料をカートリッジに入れて、該カートリッジに遠心力及び慣性力の少なくとも一方を付与すると、試料は流路を通って、担体粒子の固定されたチャンバへと移送される。このとき、付与された遠心力及び/又は慣性力により、収容部に収容された第1の液体試薬も、担体粒子の固定されたチャンバへと移送される。ここで、第1の捕捉物質は、第1の液体試薬中に含まれるか、又は、担体粒子の表面にあらかじめ固定されていることが好ましい。これにより、担体粒子と、被検物質を含む試料と、第1の捕捉物質と、第1の液体試薬とを、チャンバ内で接触させることができる。第1の捕捉物質を含む第1の液体試薬を用いる場合、担体粒子は、該第1の捕捉物質を固定可能な表面を有する粒子であることが好ましい。そのような表面の詳細は、本実施形態のカートリッジについて述べたことと同様である。
本実施形態では、開口部から入れた試料は、流路を通って担体粒子の固定されたチャンバへと移送するため、該試料は液状であることが好ましい。試料が液状ではない場合は、前処理を行うことにより、液状としておくことが好ましい。ここで、液状の試料は、溶液に限られず、懸濁液、ゾルなども含まれる。前処理の方法は、被検物質の種類に応じて公知の方法が選択できる。例えば、試料が生体から摘出した固形組織である場合、界面活性剤を含む緩衝液中で固形組織をホモジナイズし、遠心分離などで破砕物を分離・除去することにより、固形組織を液状にすることができる。この場合、遠心分離後の上清を、カートリッジに投入することができる。
次いで、本実施形態では、撹拌により、担体粒子を、第1の捕捉物質と第1の液体試薬とを含む混合液中に分散させる。上記の接触により、糖及びタンパク質を含む固体混合物は、該混合液に溶解し始める。ここで、カートリッジを撹拌することで、固体混合物を完全に溶解させることができる。これにより、担体粒子がチャンバの内壁から脱離して、混合液中に分散させることができる。撹拌は、カートリッジに遠心力及び慣性力の少なくとも一方を付与し、且つ、付与する遠心力及び慣性力の大きさを経時変化させることにより行うことが好ましい。例えば、カートリッジが、図4Bに示されるような円盤形状である場合、該カートリッジを回転させることで遠心力を付与することができ、回転速度を急激に変化させることで内部の液を撹拌できる。撹拌の一例としては、回転速度を50 rpmから250 rpmまで0.02秒で加速した後、250 rpmから50 rpmまで0.02秒で減速することを30秒間繰り返すことが挙げられる。
撹拌後、本実施形態では、分散した担体粒子上に、被検物質と第1の捕捉物質とを含む複合体を形成させる。担体粒子が、第1の捕捉物質が固定された粒子である場合は、担体粒子上の第1の捕捉物質が被検物質と特異的に結合することにより、該担体粒子上に複合体を形成できる。第1の液体試薬が第1の捕捉物質を含む場合は、該第1の捕捉物質を固定可能な表面を有する粒子を用いることにより、該担体粒子上に複合体を形成できる。
複合体を形成するときの温度及び反応時間は特に限定されないが、例えば37〜42℃で60〜600秒間インキュベートすればよい。インキュベーションの間に撹拌を行ってもよい。
本実施形態では、複合体に含まれていない遊離成分を除去する操作を行ってもよい。この遊離成分の除去は、担体粒子に固定された分子(Bound)と、担体粒子に固定されていない遊離状態の分子(Free)とを分離することにより行われる。このような分離は、B/F分離とも呼ばれる。複合体に含まれていない遊離成分としては、未反応の捕捉物質、捕捉物質と結合していない被検物質などが挙げられる。B/F分離は、例えば、担体粒子が磁性粒子である場合、磁石又は集磁装置によって磁性粒子をカートリッジ内の別のチャンバへと移送して、該チャンバに洗浄液を供給することにより行うことができる。
本実施形態では、担体粒子上に形成された複合体に含まれる被検物質を検出する。本明細書において、「検出」とは、定性的な検出、定量的な検出および半定量的な検出を含む。「半定量的な検出」とは、「陰性」、「弱陽性」、「陽性」、「強陽性」などといったように、試料中の被検物質の含有量(又は濃度)を段階的に示すことをいう。
本実施形態では、複合体に含まれる被検物質に標識物質を間接的に結合させ、該標識物質に基づくシグナルを検出することにより、被検物質を検出することが好ましい。例えば、第1の捕捉物質が標識物質であらかじめ標識されていた場合、標識物質に基づくシグナルを検出し、該シグナルに基づいて被検物質を検出する。なお、標識物質の詳細は、本実施形態のカートリッジについて述べたことと同様である。
標識物質に基づくシグナルの検出方法自体は、当該技術において公知である。シグナルの検出方法は、標識物質の種類に応じて適宜選択できる。例えば、該標識物質が酵素である場合は、酵素と、該酵素に対する基質とを反応させることによって発生する光、色などのシグナルを公知の測定装置を用いて測定することにより行うことができる。そのような測定装置としては、分光光度計、ルミノメータなどが挙げられる。標識物質が蛍光物質である場合は、シグナルとしての蛍光を、蛍光マイクロプレートリーダーなどの公知の装置を用いて測定できる。なお、励起波長及び蛍光波長は、用いた蛍光物質の種類に応じて適宜決定できる。
本実施形態では、複合体の形成工程と検出工程との間に、被検物質に特異的に結合する第2の捕捉物質を含む第2の液体試薬をさらに添加してもよい。これにより、分散した担体粒子上に、被検物質と第1の捕捉物質と第2の捕捉物質とを含む複合体を形成することができる。この複合体において、被検物質は、第1の捕捉物質と第2の捕捉物質とで挟まれた状態となる。第1の捕捉物質が標識物質で標識されていない場合、第2の捕捉物質は、標識物質で標識されていることが好ましい。
第2の液体試薬の添加は、例えば、担体粒子が磁性粒子である場合、磁石又は集磁装置によって磁性粒子をカートリッジ内の別のチャンバへと移送して、該チャンバに第2の液体試薬を供給することにより行うことができる。なお、第2の捕捉物質及び第2の液体試薬の詳細は、本実施形態のカートリッジについて述べたことと同様である。
本実施形態では、第2の捕捉物質は、被検物質に特異的に結合する標識抗体又は標識抗原であることが好ましい。この場合、複合体に含まれる標識抗体又は標識抗原の標識に基づいて、被検物質を検出することができる。
本実施形態の検出方法は、例えば、図4Aに示すような試料分析用カートリッジ専用の分析装置を用いて実行することが好ましい。以下、図面を参照して、分析装置と、磁性粒子を乾燥固定した試料分析用カートリッジとを用いる検出方法の一例について説明する。しかし、本実施形態は、この例に限定されるものと解されるべきではない。
<分析装置の構成例>
図4Aに示される分析装置100は、抗原抗体反応を利用して試料中の被検物質を検出し、検出結果に基づいて被検物質を分析する試料分析装置である。分析装置100は、本体部101と蓋部102を備える。本体部101は、蓋部102を開閉可能に支持している。本体部101の上部は、設置部材110で覆われ、設置部材110の上面の中心部にカートリッジ200が置かれる。分析装置100は、カートリッジ200に収容された磁性粒子を、カートリッジ200に形成された複数のチャンバに順次移送することにより、磁性粒子に被検物質と標識物質で標識された捕捉物質との複合体を担持させ、標識物質に基づいて被検物質を検出する。
本体部101において、蓋部102に対向する上面に設置部材110が配置されている。本体部101の上面以外は筐体101aに覆われている。蓋部102において、本体部101に対向する下面に設置部材180が配置されている。蓋部102の下面以外は筐体102aに覆われている。カートリッジ200の着脱の際には、蓋部102は、図4Aに示すように開けられる。
図5は、分析装置100において本体部101側の設置部材110及び筐体101a内に収容される磁石、移動機構、検出部、及び収容体を斜め上から見た場合の構成を示す図である。図5に示すように、設置部材110は、複数箇所に孔が形成されている。孔111には、後述する回転軸311(図8参照)が位置付けられる。孔112は、径方向に長い形状を有する。移動機構130は、取付部材131を介して設置部材110の下面に配置される。検出部140は、取付部材141を介して設置部材110の孔113の下方に配置される。また、他の孔の下方には、カートリッジ200のインデックスを検出するインデックスセンサが配置される。後述する制御部301は、インデックスセンサからの検出信号を読取り、後述するモータ171を制御して、カートリッジ200の周方向の位置を制御する。
収容体150は、その上面151の複数箇所に孔が形成されている。孔155は、後述する回転軸311(図8参照)を通すために設けられている。収容部152、153は、上面151から下方向に窪んだ凹部により構成される。設置部材110が収容体150に設置される際には、設置部材110の外周下面と収容体150の外周上面とが接合される。設置部材110が収容体150に設置されると、移動機構130が収容部152に収容され、検出部140が収容部153に収容される。設置部材110と収容体150は、遮光性の樹脂で形成されており、設置部材110と収容体150の色は、遮光性を高めるために黒色に設定されている。
移動機構130は、磁石120を径方向及び上下方向に独立して移動させる。モータ135の駆動に応じて、磁石120が径方向に移動可能となり、モータ136の駆動に応じて、磁石120が上下方向に移動可能となる。また、移動機構130は、磁石120の径方向における基準の位置(ホームポジション)を検出する図示しないセンサを備える。同様に、磁石120の上下方向におけるホームポジションを検出する図示しないホームポジションセンサを備える。後述する制御部301は、それらホームポジションセンサからの検出信号を読取り、モータ135及び136をそれぞれ制御して、磁石120の径方向及び上下方向の位置を制御する。
磁石120が上に移動されることにより、磁石120の上端が、取付部材131の孔131a及び支持部134の孔134aを介して設置部材110の孔112の上方へ突出し、カートリッジ200に接近する。磁石120が下に移動されることにより、磁石120の上端が、カートリッジ200から離れる。
磁石120は、円柱形状の永久磁石121と円錐形状の磁性体122とを備える。磁性体122は、永久磁石121の上面に接合されている。磁性体122の上端には、永久磁石121より径の小さい円柱形状の先端部122aが形成されている。
磁石120のカートリッジ200側の端縁の幅、すなわち先端部122aの幅は、少なくともチャネル220内の各領域の最小幅よりも小さくなっている。これにより、磁石120で集められた複合体を、チャネル220に引っかかることなく円滑にチャネル220内で移動させることができる。
検出部140は、取付部材141に形成された孔に嵌め込まれたリング状の反射部材142と、支持部143と、光検出ユニット144とを備える。光検出ユニット144は、反射部材142の奥に、上方からの光を検出する光検出器144aと、上方から光検出器144aへ向かう光の光路にNDフィルタを挿抜する光調整部160とを備える(図5に図示せず)。光検出器144aは、例えば、光電子増倍管、光電管、光ダイオードなどにより構成される。
図6に示すように、カートリッジ200のチャンバ216から生じた光は、カートリッジ200の上側と下側に広がる。カートリッジ200の下側に広がった光は、反射部材142の孔142bを通り、光調整部160を通り、光検出器144aにより受光される。カートリッジ200の上側に広がった光は、後述する蓋部102の下面に露出する板部材191により反射されてチャンバ216に戻り、同様に光検出器144aにより受光される。蓋部102の板部材191にミラーを配置して、カートリッジ200の上側に広がった光を反射させてもよい。
図7に示すように、設置部材110の中心に支持部材177が配置される。支持部材177は、装着されたカートリッジ200を支持して回転させるターンテーブルにより構成される。支持部材177が配置される中心部の周囲には、同軸状に突部115と突部116とが形成され、それらの間に、例えば遮光性のポリウレタン樹脂で形成された弾性部材117が配置される。弾性部材117の色は、遮光性を高めるために黒色に設定されている。弾性部材117は、閉ループに構成されている。弾性部材117の上面は、弾性変形可能な接合面である。
突部115及び突部116は、いずれもその内径がカートリッジ200の外径よりも大きく、支持部材177にカートリッジ200を載せた状態で内側の突部115のさらに内側にカートリッジ200が収まる。突部115の内側かつ設置部材110の上面に、板部材176が配置される。板部材176は、熱伝導性の高い金属により構成される。板部材176の下面と設置部材110の上面との間には、図5に図示しないヒータ321が配置されている(図8参照)。設置部材110の下面側に収容体150が組合わされ、それが筐体101aの内部に収容されて本体部101が完成する。
図7には、蓋部102を下側から見た状態をあわせて示している。蓋部102は、設置部材180と、設置部材180の中央部下面に配置された板部材191と、クランパ192と、撮像部193と、照明部194と、開栓部195とを備える。
設置部材180は、遮光性の樹脂で形成されており、設置部材180の色は、遮光性を高めるために黒色に設定されている。設置部材180の突部181の内側に、板部材191とクランパ192が配置される。板部材191は、板部材176と同様、熱伝導性の高い金属により構成される。板部材191の上面とその上方にある設置部材180の下面との間には、カートリッジ200をあらかじめ定められた範囲の温度に加温する図7に図示しないヒータ322が配置されている(図8参照)。設置部材180の下面と、板部材191と、ヒータ322とが重なる部分には、撮像部193と、照明部194と、開栓部195に対応する位置にそれらを貫通する孔が設けられている。これらの孔を介して、撮像部193と、照明部194と、開栓部195とが、カートリッジ200の上面に直接的に対向する。撮像部193と、照明部194と、開栓部195は、設置部材180の上面に配置される(図8参照)。
撮像部193は、暗室340内にあるカートリッジ200のチャンバ211〜216を目視観察できるように、カートリッジ200を撮像する。撮像部193は、たとえば、CCDイメージセンサ、CMOSイメージセンサなどを用いた小型カメラにより構成される。照明部194は、撮像部193による撮影が行われる際に、カートリッジ200を照らす。照明部194は、たとえば発光ダイオードにより構成される。開栓部195は、カートリッジ200の封止体231a、232aを上から押すための部材と、この部材を駆動するための機構とを備える。
クランパ192は、設置部材180の中心に配置される。設置部材180の下面には、閉ループの突部181が形成されている。突部181は、周方向に沿って下方向に突出している。設置部材180の下面には、突部181の外側に凹部が形成されており、この凹部に弾性部材182が配置される。弾性部材182は、たとえば遮光性のポリウレタン樹脂で形成されており、弾性部材182の色は、遮光性を高めるために黒色に設定されている。弾性部材182は、閉ループに構成されている。弾性部材182の下面は、弾性変形可能な接合面である。
図8は、分析装置100にカートリッジ200が配置され、蓋部102が閉じられた状態を示している。上述したように、設置部材110の下面には、磁石120を保持する移動機構130と、検出部140とが配置されており、設置部材180の上面には、撮像部193と、照明部194と、開栓部195とが配置されている。図8には、これら各部の配置位置に相当する位置が、破線で示されている。
図8に示すように、設置部材310は、上下方向に延びる回転軸311を回転可能に支持している。回転軸311は、孔155の内部において、固定部材312によりモータ171の駆動軸171aに対して固定されている。モータ171は、ステッピングモータにより構成される。モータ171の駆動軸171aは、孔155の内部に延びている。孔155の上部には、設置部材310が配置されている。
回転軸311の上部には、所定の部材を介して、カートリッジ200の下面を支持するための支持部材177が固定されている。モータ171が駆動され駆動軸171aが回転すると、回転駆動力は、回転軸311を介して支持部材177に伝達される。これにより、支持部材177に置かれたカートリッジ200が、回転軸311及び駆動軸171aを中心として回転する。クランパ192は、支持部材177にカートリッジ200が置かれ、蓋部102が閉じられると、カートリッジ200の上面の内周部分を回転可能な状態で押さえ付ける。
蓋部102が閉じられると、設置部材110の突部116が、設置部材180の弾性部材182の下面に押し付けられて密着する。設置部材180の突部181が、設置部材110の弾性部材117の上面に押し付けられて密着する。こうして、図8の点線に示す暗室340が形成される。
さらに、分析装置100は、制御部301として機能する回路を搭載した制御基板を筐体101aの内部に備える。制御部301は、CPUあるいはMPUと記憶部を含む。記憶部は、たとえば、フラッシュメモリ、ハードディスクなどにより構成される。上述のCPUあるいはMPUは、記憶部にあらかじめ格納されたプログラムに基づく処理を実行し、分析装置100の各部の動作を制御して測定及び分析を行う。即ち、制御部301は、分析装置100の各部から信号を受信し、分析装置100の各部の動作を制御する。このように、ソフトウェアとハードウェアとが協働して制御部301の機能が実現される。
次に、図9を参照して、分析装置100の動作の一例について説明する。まず、オペレータは、試料として、被検者から採取した血液を開口部241からカートリッジ200内に注入し、そのカートリッジ200を支持部材177に設置する。この例では、被検物質は、血液中のB型肝炎ウイルスの表面抗原(HBsAg)である。なお、この例では、カートリッジ200内に注入された血液は、分離部242にて血漿と血球とに分離される。
カートリッジ200の収容部231、232及びチャンバ211には、あらかじめ所定の液体試薬が収容されている。具体的には、チャンバ211の径方向に位置する収容部231には、R1試薬が収容されている。チャンバ211には、糖及びタンパク質を含む固体混合物で内壁に乾燥固定された磁性粒子(以下、「R2試薬」ともいう)が収容されている。チャンバ212の径方向に位置する収容部231には、R3試薬が収容されている。チャンバ213〜215の径方向に位置する収容部231には、洗浄液が収容されている。チャンバ216の径方向に位置する収容部231には、R4試薬が収容されている。収容部232には、R5試薬が収容されている。
この例において用いられる上記の各試薬について説明する。R1試薬は、第1の捕捉物質(捕捉抗体)として、ビオチン結合抗HBsAgモノクローナル抗体を含む緩衝液である。R2試薬中の磁性粒子は、ストレプトアビジン結合磁性粒子である。この磁性粒子の表面には、ストレプトアビジンが固定されている。R3試薬は、第2の捕捉物質(標識抗体)として、アルカリホスファターゼ(ALP)標識抗HBsAgモノクローナル抗体を含む緩衝液である。R4試薬は、反応バッファーである。R5試薬は、ALPの化学発光基質であるCDP-Star(登録商標)の溶液である。
以下の制御において、制御部301は、モータ171に接続されたエンコーダ172の出力信号に基づいて、モータ171の駆動軸171aの回転位置を取得する。
ステップS11において、制御部301は、図示しない入力部を介してオペレータによる開始指示を受け付け、ステップS12以降の処理を開始させる。前記入力部は、オペレータの操作を受付けるボタンやタッチパネルなどであって、例えば、本体部101の側面部分あるいは蓋部102の上面部分に設けられる。
ステップS12において、制御部301は、血漿と試薬をチャンバに移送するための処理を実行する。具体的には、制御部301は、モータ171を駆動してカートリッジ200を周方向に移動させ、開栓部195を駆動して、開栓部195に対向する位置に位置付けられた6つの封止体231aを順次押し下げる。そして、制御部301は、モータ171を駆動してカートリッジ200を回転させ、遠心力により、領域243bに位置付けられた血漿をチャンバ211に移送すると共に6つの収容部231に収容された試薬及び洗浄液を対応するチャンバ211〜216にそれぞれ移送する。これにより、チャンバ211に血漿とR1試薬とが流入し、内壁に乾燥固定された磁性粒子が流入した液中に分散して混合される。チャンバ212には、R3試薬が移送され、チャンバ213〜315には、それぞれ洗浄液が移送され、チャンバ216には、R4試薬が移送される。
さらに、ステップS12において、血漿と試薬の移送が終わると、制御部301は、あらかじめ定められた期間撹拌処理を行う。具体的には、制御部301は、異なる2つの回転速度を所定の時間間隔で切り替えるよう、モータ171を駆動する。これにより、周方向に発生するオイラー力が所定の時間間隔で変化することで、チャンバ211〜216内の液体が撹拌される。このような撹拌処理は、ステップS12だけでなく、ステップS13〜S18においても移送処理後に同様に行われる。
ステップS12において、血漿と、R1試薬と、磁性粒子とを接触させ、撹拌処理が行われると、血漿中のHBsAgと、R1試薬中のビオチン結合抗HBsAgモノクローナル抗体とが、抗原抗体反応により結合して複合体を形成する。また、抗体に結合したビオチンと、磁性粒子の表面上のストレプトアビジンとの結合を介して、該抗体が、分散した磁性粒子上に固定される。よって、HBsAgとビオチン結合抗HBsAgモノクローナル抗体とを含む複合体が磁性粒子上に形成される。以下、被検物質と捕捉物質とを含む複合体が固定された磁性粒子を、「複合体」とも呼ぶ。
次に、ステップS13において、制御部301は、チャンバ211内の複合体をチャンバ211からチャンバ212へ移送する。これにより、チャンバ212において、チャンバ211で形成された複合体と、R3試薬とが混合される。そして、ステップS13において撹拌処理が行われると、チャンバ211で形成された複合体と、R3試薬に含まれる標識抗体とが反応する。これにより、被検物質と第1の捕捉物質(捕捉抗体)と第2の捕捉物質(標識抗体)とを含む複合体が磁性粒子上に形成される。
ここで、ステップS13の処理について、図10を参照して詳細に説明する。図10のフローチャートは、図9のステップS13を詳細に示すフローチャートである。以下の説明では、図10を主として参照し、図11及び図12を適宜参照する。
ステップS12の処理が終わった時点では、図11A示すように、チャンバ211内で複合体が液中に分散している。ステップS101において、制御部301は、移動機構130を駆動して、磁石120をカートリッジ200に近付けて、図11Bに示すように、チャンバ211内に広がる複合体を集める。このとき、制御部301は、水平面内において、磁石120の先端部122aを、チャンバ211の周方向の中央、かつ、チャンバ211の径方向の外側寄りの領域に接近させる。
ステップS102において、制御部301は、移動機構130を駆動して、回転軸311に近付く方向に磁石120を移動させて、図11Cに示すように、チャンバ211に繋がる領域222と、領域221との接続部へ複合体を移送する。ステップS102において複合体をカートリッジ200に対して移動させる速度は、複合体がチャンバ211に取り残されないようにあらかじめ定められた速度に設定される。前記速度は、10 mm/秒以下とするのが好ましく、例えば0.5 mm/秒とされる。
ステップS103において、制御部301は、モータ171を駆動してカートリッジ200を回転させて、図12Aに示すように、チャンバ212に繋がる領域222と、領域221との接続部へ複合体を移送する。ステップS103において複合体をカートリッジ200に対して移動させる速度も、ステップS102の場合と同様に設定される。
ステップS104において、制御部301は、移動機構130を駆動して、回転軸311から離れる方向に磁石120を移動させて、図12Bに示すように、チャンバ212へ複合体を移送する。ステップS104において複合体をカートリッジ200に対して移動させる速度は、ステップS102と同様に設定される。ステップS105において、制御部301は、移動機構130を駆動して、磁石120をカートリッジ200から遠ざけて、図12Cに示すように、チャンバ212内に複合体を分散させる。
以上のように、ステップS101〜S105において、制御部301は、チャンバ211に対向する位置において磁石120をカートリッジ200に接近させた後、磁石120をカートリッジ200に接近させたまま、磁石120をチャネル220に沿って移動させて、チャンバ212に対向する位置に磁石120を位置付ける。その後、制御部301は、磁石120をカートリッジ200から離れさせて、磁石120による複合体の集磁を解除する。
ステップS106において、制御部301は、上述した撹拌処理を行う。このとき、撹拌処理の前に複合体の集磁が解除され、複合体がチャンバ212内で広がっているため、チャンバ212内の液体の撹拌が確実に行われる。
以上のようにして、図9のステップS13の処理が行われる。なお、ステップS101〜S106に示す移送処理及び撹拌処理は、後述するステップS14〜S17においても、同様に行われる。
図9に戻り、ステップS14において、制御部301は、チャンバ212内の複合体を、チャンバ212からチャンバ213へ移送する。これにより、チャンバ213において、チャンバ212で形成された複合体と、洗浄液とが混合される。そして、ステップS14において撹拌処理が行われると、チャンバ213内で複合体と未反応物質とが分離される。すなわち、チャンバ213では、洗浄により未反応の遊離成分が除去される。
ステップS15において、制御部301は、チャンバ213内の複合体を、チャンバ213からチャンバ214へ移送する。これにより、チャンバ214において、チャンバ212で形成された複合体と、洗浄液とが混合される。チャンバ214においても、洗浄により未反応の遊離成分が除去される。
ステップS16において、制御部301は、チャンバ214内の複合体を、チャンバ214からチャンバ215へ移送する。これにより、チャンバ215において、チャンバ212で形成された複合体と、洗浄液とが混合される。チャンバ215においても、洗浄により未反応の遊離成分が除去される。
ステップS17において、制御部301は、チャンバ215内の複合体を、チャンバ215からチャンバ216へ移送する。これにより、チャンバ216において、チャンバ212で形成された複合体と、R4試薬とが混合される。そして、ステップS17において撹拌処理が行われると、チャンバ212で形成された複合体が分散される。
ステップS18において、制御部301は、R5試薬をチャンバ216に移送する。具体的には、制御部301は、モータ171を駆動してカートリッジ200を周方向に移動させ、開栓部195を駆動して、開栓部195に対向する位置に位置付けられた封止体232aを押し下げる。そして、制御部301は、モータ171を駆動してカートリッジ200を回転させ、遠心力により、収容部232に収容されたR5試薬をチャンバ216に移送する。これにより、チャンバ216において、ステップS17で生成された混合液に、さらにR5試薬が混合される。
ステップS18において、ステップS17で生成された混合液と、R5試薬とが混合され、撹拌処理が行われると、測定用試料が調製される。この測定用試料において、複合体中の標識物質(アルカリホスファターゼ)と化学発光基質との反応により、シグナルとして化学発光が生じる。
ステップS19において、制御部301は、モータ171を駆動して、チャンバ216を光検出器144aの真上に位置付け、チャンバ216から生じる光を、光検出器144aにより検出する。ステップS20において、制御部301は、光検出器144aにより検出した光に基づいて、免疫に関する分析処理を行う。制御部301は、光検出ユニット144からの出力に基づいて、被検物質の有無及び量などを分析し、分析結果を図示しない表示部に表示させる。前記表示部は、たとえば、本体部101の側面部分や、蓋部102の上面部分などに設けられ、液晶パネルなどにより構成される。
上記の例において、蛍光物質で標識された第2の捕捉物質を用いてもよい。この場合、チャンバ216に励起光を照射するための光源が配置される。光検出器144aは、光源からの光照射によって複合体中の蛍光物質から放出される蛍光を検出する。
さらなる実施形態では、図13に示すように、支持部材177に代えて、支持部材510が配置され、円盤形状のカートリッジ200に代えて、矩形形状のカートリッジ520が用いられる。その他の構成については、上記の分析装置100の具体的構成と同様である。
支持部材510は、孔511と、3つの設置部512とを備える。孔511は、支持部材510の中心に設けられている。支持部材510は、所定の部材を介して回転軸311に設置される。これにより、支持部材510は、回転軸311を中心として回転可能となる。設置部512は、周方向に3つ設けられている。設置部512は、面512aと孔512bを備える。面512aは、支持部材510の上面よりも一段低い面である。孔512bは、面512aの中央に形成されており、支持部材510を上下方向に貫通する。カートリッジ520は、矩形形状であることを除いて、カートリッジ200と同様の構成を有する。
分析を開始する場合、オペレータは、カートリッジ200の場合と同様に、試料をカートリッジ520に注入し、カートリッジ520を設置部512に設置する。そして、上記と同様に、制御部301は、モータ171と、移動機構130と、検出部140とを駆動する。これにより、カートリッジ520内の複合体の移送が磁石120により確実に行われる。よって、分析装置100による被検物質の分析精度を高く維持できる。また、この実施形態では、3つの設置部512に、それぞれカートリッジ520を設置できるため、3つのカートリッジ520に対して同時に分析を行うことができる。
[4.担体粒子の固定化方法]
本発明の範囲には、担体粒子を固相上に固定する方法も含まれる(以下、単に「固定化方法」ともいう)。本実施形態の固定化方法によれば、担体粒子を、糖及びタンパク質を含む固体混合物で任意の固相上に固定することができる。本実施形態の固定化方法では、まず、糖及びタンパク質を含む溶液中に担体粒子を分散させて、担体粒子の懸濁液を得る。この担体粒子の懸濁液の組成などの詳細は、本実施形態のカートリッジの製造方法について述べたことと同様である。
次いで、固相上に上記の懸濁液を供給する。本実施形態において、固相は特に限定されず、免疫学的測定に通常用いられる固相から選択してもよい。そのような固相としては、例えば、マイクロプレート、マイクロチューブ、試験管などが挙げられる。また、固相は、上記のカートリッジ基体のようなマイクロ流体デバイスであってもよい。固相の材質は特に限定されないが、好ましくは上述のカートリッジ基体と同じ材質である。懸濁液の供給量は特に限定されず、固相の種類に応じて適宜決定すればよい。
そして、供給された懸濁液を乾燥させて、担体粒子を固相上に固定する。乾燥の手段及び条件などの詳細は、本実施形態のカートリッジの製造方法について述べたことと同様である。乾燥後、担体粒子が、固相上に糖及びタンパク質を含む固体混合物で固定された状態となる。この担体粒子は、固相上に強固に固定されている一方で、溶液に接触すると容易に分散する。
上述した実施の形態の他にも、本発明について種々の変形例があり得る。それらの変形例は、この発明の範囲に属さないと解されるべきではない。この発明には、請求の範囲と均等の意味及びその範囲内でのすべての変形とが含まれるべきである。
以下に、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下に記載の「HISCL」は、シスメックス株式会社の登録商標で
ある。また、「質量%」を「wt%」と表記した。
実施例1: 担体粒子が固定された試料分析用カートリッジの性能評価
実施例1では、試料分析用カートリッジのチャンバに乾燥固定された磁性粒子の固定強度及び分散性を評価した。
(1) 材料
(1.1) カートリッジ基体
実施例1では、ポリメチルメタクリレート製のマイクロ流路カートリッジ基体(ASTI株式会社)を用いた。このカートリッジ基体は、液体試料を注入するための開口部と、試料収容部と、複数のチャンバと、それらを接続する流路とを備える。チャンバの容積は約34μLであり、流路の内径は約2μmである。
(1.2) 磁性粒子含有試薬
ストレプトアビジン結合磁性粒子(HISCL R2試薬:シスメックス株式会社)を、糖及びタンパク質を含む水溶液(1wt%BSA、2.5 wt%スクロース及び20 mM MES(pH 6.5))で懸濁して、磁性粒子含有試薬1(粒子濃度1wt%、タンパク質に対する糖の質量比[糖/タンパク質]=2.5)を調製した(以下、「試薬1」ともいう)。
(1.3) 溶出試薬
甲状腺刺激ホルモン測定キットであるHISCL TSH試薬(シスメックス株式会社)に含まれるキャリブレータ(HISCL TSH C0、TSH濃度0IU/mL)とHISCL TSH R3試薬とを1:1(体積比)で混合して、溶出試薬を調製した。実施例1では、この溶出試薬を、チャンバの内壁に乾燥固定された磁性粒子の分散性の確認のために用いた。なお、HISCL TSH R3試薬は、ビオチン結合抗TSHモノクローナル抗体を含む水溶液である。
(1.4) 試料分析装置
上記(1.1)のカートリッジ基体を遠心可能な試料分析装置の試作機(シスメックス株式会社)を用いた(以下、この試作機を「分析装置」ともいう)。
(2) 試料分析用カートリッジの作製
試薬1(10μL)をカートリッジの反応チャンバに添加した。このカートリッジをデジタル制御デシケータ(McDRY MCU-201:エクアールシー社)に入れ、室温にて1時間乾燥させた。乾燥によって試薬1はチャンバ内で乾固し、磁性粒子が、糖及びタンパク質を含む固体混合物で該チャンバの内壁に固定された。これにより、試料分析用カートリッジを得た。同様にして、複数の試料分析用カートリッジを作製した。
(3) 乾燥固定された磁性粒子の外観、固定強度及び分散性の評価
(3.1) 外観及び固定強度
乾燥固定された磁性粒子の表面を観察して、亀裂の有無を確認した。磁性粒子が固定されたカートリッジを分析装置に水平に設置し、該カートリッジを、該分析装置の回転軸を中心に3000 rpmで30秒間又は6000 rpmで10秒間遠心した。これにより、チャンバに固定された磁性粒子に遠心力(500 G又は2000 G)を加えた。500 Gの遠心力を加える前後のチャンバの写真を図1に示す。また、別のカートリッジを机に軽く打ちつけて、チャンバに固定された磁性粒子に衝撃を加えた。
図1の左の写真に示されるように、遠心前は、円形のチャンバの内壁に磁性粒子が固定されている様子が認められる。このチャンバに固定された磁性粒子に亀裂は認められなかった。図1の右の写真に示されるように、磁性粒子は500 Gの遠心力によってもチャンバ上を移動したり、チャンバから脱離したりせず、固定されたままであった。2000 Gの遠心力を加えた場合も同様に、磁性粒子の移動及び脱離は認められなかった(図示せず)。なお、これらの遠心条件は、血液から血漿を分離する場合に用いられる条件と同じである。また、衝撃によっても、磁性粒子はチャンバの内壁から脱離することはなかった。よって、本実施形態のカートリッジでは、磁性粒子がしっかりとチャンバに固定されていることが確認された。
(3.2) 分散性
磁性粒子が固定されたカートリッジの開口部に溶出試薬(20μL)を注入した。そして、このカートリッジを分析装置で遠心することにより、溶出試薬と磁性粒子とを撹拌した。遠心による撹拌は、回転速度を300 rpmから500 rpmまで0.02秒で加速した後、500 rpmから300 rpmまで0.02秒で減速することを30秒間繰り返すことにより行った。溶出試薬は、遠心力により流路を通じてチャンバへと移動し、該チャンバに固定された磁性粒子と接触する。撹拌の前後のチャンバの写真を図2Aに示す。また、別のカートリッジについて、撹拌の条件を変えて、同様に分散性の試験を行った。この試験では、回転速度を50 rpmから250 rpmまで0.02秒で加速した後、250 rpmから50 rpmまで0.02秒で減速することを30秒間繰り返すことにより撹拌を行った。撹拌の前後のチャンバの写真を図2Bに示す。
図2Aの左の写真に示されるように、遠心による撹拌の前は、円形のチャンバの内壁に磁性粒子が固定されている様子が認められる。撹拌後は、図2Aの右の写真に示されるように、溶出試薬との接触により固体混合物が溶解し、磁性粒子が内壁から脱離したことがわかる。また、溶液中に磁性粒子の凝集は認められなかった。すなわち、内壁から脱離した磁性粒子は、溶液中に分散していることがわかる。また、図2Bに示されるように、遠心による撹拌の条件を変えても同様の結果が得られた。これらのことから、本実施形態のカートリッジでは、遠心による撹拌によって、チャンバに固定された磁性粒子を、試料を含む溶液に容易に分散させることできることが確認された。
実施例2: 乾燥固定された担体粒子の性能評価
実施例2では、磁性粒子の乾燥固定による免疫学的測定への影響と、乾燥固定した磁性粒子の保存安定性を評価した。
(1) 材料
(1.1) 磁性粒子含有試薬
磁性粒子含有試薬として、実施例1で調製した試薬1を用いた。比較のため、ストレプトアビジン結合磁性粒子を、糖及びタンパク質を含まない水溶液(20 mM MES(pH 6.5))で懸濁して、磁性粒子含有試薬2(粒子濃度1wt%)を調製した(以下、「試薬2」ともいう)。
(1.2) 基板への磁性粒子の固定及び回収
2枚のシクロオレフィン(COP)製基板(ASTI株式会社)の上に試薬1を50μLずつ滴下した。これらの基板を塩化カルシウム乾燥剤とともにプラスチック容器内に静置し、密閉して自然乾燥させた。これにより基板上に磁性粒子が乾燥固定された。1枚の基板上の磁性粒子に精製水(50μL)を滴下し、磁性粒子をピペッティングにより回収した。もう1枚の基板をアルミラミネートバッグに封入し、恒温機内に45℃で3日間保存した。3日後、基板上の磁性粒子に精製水(50μL)を滴下し、ピペッティングにより磁性粒子を回収した。試薬2についても、上記と同様にして2枚のCOP製基板上に磁性粒子を乾燥固定し、そのうちの1枚の基板から磁性粒子を精製水(50μL)で回収した。また、もう1枚の基板を上記と同様にして45℃で3日間保存した後、基板上の磁性粒子を精製水(50μL)で回収した。
(2) 免疫学的測定
回収した磁性粒子及びHISCL TSH試薬(シスメックス株式会社)を用いて免疫学的測定を行った。具体的には、次のとおりである。
(2.1) 試料、試薬及び測定装置
・試料(キャリブレータ):HISCL TSH C0(TSH濃度0IU/mL)及びHISCL TSH C3(TSH濃度50μIU/mL)(シスメックス株式会社)
・第1試薬(捕捉用抗体):HISCL TSH R1試薬(シスメックス株式会社)
・第2試薬(担体粒子):上記(1.2)で回収した磁性粒子の懸濁液
・第3試薬(検出用抗体):HISCL TSH R3試薬(シスメックス株式会社)
・洗浄液:HISCL洗浄液(シスメックス株式会社)
・第4試薬(基質用バッファー):HISCL R4試薬(シスメックス株式会社)
・第5試薬(発光基質):HISCL R5試薬(CDP-Star(登録商標))(シスメックス株式会社)
・測定装置:全自動免疫測定装置HISCL-800(シスメックス株式会社)
(2.2) 測定の手順
測定は、デフォルト設定にしたHISCL-800により行った。ただし、第2試薬を添加する操作は用手法で行った。反応キュベットに試料(30μL)及び第1試薬(30μL)を添加し、42℃で2分間インキュベートした。反応キュベットに第2試薬(30μL)を加え、42℃で2分30秒間インキュベートした。反応キュベットに第3試薬(30μL)を加え、42℃で2分30秒間インキュベートした。磁性粒子を磁石で集めて上清を除き、HISCL洗浄液(300μL)を加えて磁性粒子を洗浄した(B/F分離)。B/F分離をさらに3回行った。上清を除き、磁性粒子に第4試薬(50μL)及び第5試薬(100μL)を加えた。得られた混合液を42℃で5分間インキュベートして、シグナル(発光強度)を測定した。対照として、回収した磁性粒子に代えて、0日間又は3日間冷蔵保存したHISCL TSH R2試薬(シスメックス株式会社)を用いて、同様にして測定を行った。HISCL TSH R2試薬は、ストレプトアビジン結合磁性粒子を含む水性懸濁液である。
(3) 結果
図3A及びBにおいて、測定結果を、HISCL TSH R2試薬を用いた測定で得られたシグナルに対する、回収した磁性粒子を用いた測定で得られたシグナルの比(%)で示した。図中、「0日目」は、保存前の磁性粒子を用いたときの比を示し、「3日目」は、3日間保存した磁性粒子を用いたときの比を示す。図3Aにおいて、HISCL TSH C0は被検物質であるTSHを含まないので、得られたシグナルはバックグラウンド(ノイズ)を示す。図3Aを参照して、試薬1の磁性粒子のシグナルは、0日目では、HISCL TSH R2試薬に比べて7〜8%増加した。3日目も0日目と同様に、試薬1の磁性粒子のシグナルは、HISCL TSH R2試薬に比べて約7%増加した。このように、試薬1の磁性粒子のシグナルには、0日目と3日目との間で大きな変化は認められなかった。すなわち、磁性粒子の乾燥固定によりノイズが少し増加したが、測定値自体に対しては乾燥固定による影響はほとんどなかったといえる。試薬2の磁性粒子のシグナルは、0日目では、試薬1の磁性粒子のシグナルと同様に、HISCL TSH R2試薬に比べて約7%増加していた。しかし、3日目では、試薬2の磁性粒子のシグナルは、HISCL TSH R2試薬に比べて40%以上も増加していた。
図3Bにおいて、HISCL TSH C3は被検物質であるTSHを含むので、得られたシグナルは、検出された被検物質の量を示す。図3Bを参照して、試薬1の磁性粒子のシグナルは、0日目では、HISCL TSH R2試薬に比べて約20%低下した。3日目も0日目と同様に、試薬1の磁性粒子のシグナルは、HISCL TSH R2試薬に比べて約20%低下した。磁性粒子の乾燥固定によりシグナルは減少したが、被検物質の検出には十分な測定値が得られた。このように、試薬1の磁性粒子のシグナルには、0日目と3日目との間で大きな変化は認められなかった。試薬2の磁性粒子のシグナルは、0日目では、試薬1の磁性粒子のシグナルと同様に、HISCL TSH R2試薬に比べて約20%低下した。しかし、3日目では、試薬2の磁性粒子のシグナルは、HISCL TSH R2試薬に比べて約50%低下した。
以上のことから、糖及びタンパク質なしで磁性粒子を乾燥固定すると、該磁性粒子を安定に保存できないことが示唆された。これに対して、糖及びタンパク質とともに磁性粒子を乾燥固定すると、該磁性粒子は安定に保存されることが示された。
実施例3: 糖濃度の検討
実施例3では、試料分析用カートリッジに乾燥固定する磁性粒含有試薬における適切な糖の濃度を、乾燥後の磁性粒子の分散性に基づいて検討した。
(1) 材料
(1.1) 磁性粒子含有試薬
下記のようにして、磁性粒子含有試薬3〜5を調製した。
・磁性粒子含有試薬3
ストレプトアビジン結合磁性粒子(HISCL R2試薬:シスメックス株式会社)を、糖及びタンパク質を含む水溶液(1wt%BSA、0.5 wt%トレハロース及び20 mM MES(pH 6.5))で懸濁して、磁性粒子含有試薬3(粒子濃度1wt%、[糖/タンパク質]=0.5)を調製した(以下、「試薬3」ともいう)。
・磁性粒子含有試薬4
ストレプトアビジン結合磁性粒子を、糖及びタンパク質を含む別の水溶液(1wt%BSA、0.1 wt%トレハロース及び20 mM MES(pH 6.5))で懸濁して、磁性粒子含有試薬4(粒子濃度1wt%、[糖/タンパク質]=0.1)を調製した(以下、「試薬4」ともいう)。
・磁性粒子含有試薬5
ストレプトアビジン結合磁性粒子を、糖及びタンパク質を含むさらに別の水溶液(0.35 wt%BSA、35.4 wt%トレハロース及び20 mM MES(pH 6.5))で懸濁して、磁性粒子含有試薬5(粒子濃度1wt%、[糖/タンパク質]=101.1)を調製した(以下、「試薬5」ともいう)。
(1.2) カートリッジへの磁性粒子の固定
試薬3(10μL)を、実施例1と同じカートリッジ基体の反応チャンバに添加した。このカートリッジ基体を塩化カルシウム乾燥剤とともにプラスチック容器内に静置し、密閉して自然乾燥させた。これにより、試薬3の磁性粒子が乾燥固定されたカートリッジを得た。同様にして、試薬4の磁性粒子が乾燥固定されたカートリッジを作製した。作製したカートリッジを机に軽く打ちつけて、磁性粒子がチャンバの内壁に強固に固定されていることを確認した。
一方、試薬5を添加したカートリッジ基体を上記と同様にして乾燥剤とともに容器内に一晩静置しても、試薬5は乾燥せず、水分が多量に残っていた。すなわち、カートリッジ基体の反応チャンバには、磁性粒子を含むゲル状物質が付着していた。このカートリッジ基体を1000 rpm (60 G)で遠心すると、遠心力のよってゲル状物質が内壁上をずれ動いたので、固定強度は十分ではなかった。よって、試薬5の磁性粒子は反応チャンバに乾燥固定されなかった。
(2) 分散性の評価
カートリッジの開口部に、実施例1と同じ溶出試薬(20μL)を注入した。そして、このカートリッジを実施例1の分析装置で遠心することにより、溶出試薬と磁性粒子とを撹拌した。遠心による撹拌は、回転速度を50 rpmから250 rpmまで0.02秒で加速した後、250 rpmから50 rpmまで0.02秒で減速することを30秒間繰り返すことにより行った。この撹拌操作を合計3回行った。試薬3の磁性粒子は、溶出試薬との接触により内壁から脱離していた。また、溶液中に磁性粒子の凝集は認められなかった。よって、試薬3の磁性粒子は、溶液中に分散していることがわかった。一方、試薬4の磁性粒子は、溶出試薬と接触しても一部が内壁に残っていた。さらに、溶液中に磁性粒子の沈殿が認められた。
以上のことから、磁性粒子含有試薬における糖の濃度が低すぎると、乾燥固定された磁性粒子を分散させることが難しいことがわかった。一方、磁性粒子含有試薬における糖の濃度が高すぎると、磁性粒子が乾燥固定されないことがわかった。よって、磁性粒子含有試薬における糖の濃度は0.5 wt%以上30 wt%以下であることが好ましいことが示唆された。
実施例4: タンパク質濃度の検討
実施例4では、試料分析用カートリッジに乾燥固定する磁性粒含有試薬における適切なタンパク質の濃度を、乾燥後の磁性粒子の分散性に基づいて検討した。
(1) 材料
(1.1) 磁性粒子含有試薬
ストレプトアビジン結合磁性粒子(HISCL R2試薬:シスメックス株式会社)を、糖及びタンパク質を含む水溶液(0.35 wt%BSA、3.49 wt%グルコース及び20 mM MES(pH 6.5))で懸濁して、磁性粒子含有試薬6(粒子濃度1wt%、[糖/タンパク質]=9.9)を調製した(以下、「試薬6」ともいう)。比較のため、ストレプトアビジン結合磁性粒子を、糖及びタンパク質を含む別の水溶液(0.04 wt%BSA、4.14 wt%グルコース及び20 mM MES(pH 6.5))で懸濁して、磁性粒子含有試薬7(粒子濃度1wt%、[糖/タンパク質]=103.5)を調製した(以下、「試薬7」ともいう)。
(1.2) カートリッジへの磁性粒子の固定
試薬6(10μL)を、実施例1と同じカートリッジ基体の反応チャンバに添加した。このカートリッジ基体を塩化カルシウム乾燥剤とともにプラスチック容器内に静置し、密閉して自然乾燥させた。これにより、試薬6の磁性粒子が乾燥固定されたカートリッジを得た。同様にして、試薬7の磁性粒子が乾燥固定されたカートリッジを作製した。作製したカートリッジを机に軽く打ちつけて、磁性粒子がチャンバの内壁に強固に固定されていることを確認した。
(2) 分散性の評価
カートリッジの開口部に、実施例1と同じ溶出試薬(20μL)を注入した。そして、このカートリッジを実施例1の分析装置で遠心することにより、溶出試薬と磁性粒子とを撹拌した。撹拌条件は、実施例3と同じである。試薬6の磁性粒子は、溶出試薬との接触により内壁から脱離していた。また、溶液中に磁性粒子の凝集は認められなかった。よって、試薬6の磁性粒子は、溶液中に分散していることがわかった。一方、試薬7の磁性粒子は、溶出試薬との接触により内壁から脱離したが、溶液中に磁性粒子の沈殿が認められた。これらのことから、磁性粒子含有試薬におけるタンパク質の濃度が低すぎると、乾燥固定された磁性粒子を均一に分散させることが難しいことがわかった。この結果より、本発明者らは、磁性粒子含有試薬におけるタンパク質の濃度は0.1 wt%以上であることが好ましいと考えた。
実施例5: 糖濃度とタンパク質濃度との比の検討
実施例5では、試料分析用カートリッジに乾燥固定する磁性粒含有試薬における糖とタンパク質との適切な濃度比を、乾燥後の磁性粒子の外観及び固定強度に基づいて検討した。
(1) 材料
(1.1) 磁性粒子含有試薬
下記のようにして、磁性粒子含有試薬8〜10を調製した。
・磁性粒子含有試薬8
ストレプトアビジン結合磁性粒子(HISCL R2試薬:シスメックス株式会社)を、糖及びタンパク質を含む水溶液(3wt%BSA、1.5 wt%トレハロース及び20 mM MES(pH 6.5))で懸濁して、磁性粒子含有試薬8(粒子濃度1wt%、[糖/タンパク質]=0.5)を調製した(以下、「試薬8」ともいう)。
・磁性粒子含有試薬9
ストレプトアビジン結合磁性粒子を、糖及びタンパク質を含む別の水溶液(15.0 wt%BSA、1.5 wt%グルコース及び20 mM MES(pH 6.5))で懸濁して、磁性粒子含有試薬9(粒子濃度1wt%、[糖/タンパク質]=0.1)を調製した(以下、「試薬9」ともいう)。
・磁性粒子含有試薬10
ストレプトアビジン結合磁性粒子を、糖及びタンパク質を含むさらに別の水溶液(1.9 wt%BSA、0.19 wt%トレハロース及び20 mM MES(pH 6.5))で懸濁して、磁性粒子含有試薬10(粒子濃度1wt%、[糖/タンパク質]=0.1)を調製した(以下、「試薬10」ともいう)
(1.2) カートリッジへの磁性粒子の固定
試薬8(10μL)を、実施例1と同じカートリッジ基体の反応チャンバに添加した。このカートリッジ基体を塩化カルシウム乾燥剤とともにプラスチック容器内に静置し、密閉して自然乾燥させた。これにより、試薬8の磁性粒子が乾燥固定されたカートリッジを得た。同様にして、試薬9及び10の磁性粒子が乾燥固定されたカートリッジを作製した。
(2) 磁性粒子の外観及び固定強度の評価
乾燥固定された試薬8の磁性粒子に亀裂は認められなかった。また、試薬8の磁性粒子が固定されたカートリッジを1000 rpm (60 G)で遠心しても、磁性粒子はチャンバの内壁から移動及び脱離することはなかった。一方、乾燥固定された試薬9の磁性粒子には亀裂が認められた。亀裂が生じると、製品の輸送中の振動や衝撃などによって磁性粒子が脱離するおそれがある。乾燥固定された試薬10の磁性粒子に亀裂は認められなかったが、カートリッジを1000 rpm (60 G)で遠心すると、磁性粒子はチャンバの内壁から脱離した。これらのことから、磁性粒子含有試薬における糖濃度とタンパク質濃度との比(糖濃度/タンパク質濃度)が低すぎると、磁性粒子をチャンバの内壁に強固に固定することが難しいことがわかった。また、磁性粒子含有試薬における糖の質量とタンパク質の質量との比(糖/タンパク質)は0.5以上であることが好ましいことがわかった。
比較例1
比較例1では、糖及びタンパク質を含まない磁性粒子含有試薬をカートリッジに乾燥固定し、固定された磁性粒子の分散性を確認した。具体的には、下記のとおりである。
(1) カートリッジへの磁性粒子の固定
ストレプトアビジン結合磁性粒子(HISCL R2試薬:シスメックス株式会社)を、糖及びタンパク質を含まない水溶液(20 mM MES(pH 6.5))で懸濁して、磁性粒子含有試薬11(粒子濃度1wt%)を調製した(以下、「試薬11」ともいう)。試薬11(10μL)を、実施例1と同じカートリッジ基体の反応チャンバに添加した。このカートリッジ基体を塩化カルシウム乾燥剤とともにプラスチック容器内に静置し、密閉して自然乾燥させた。これにより、試薬11の磁性粒子が乾燥固定されたカートリッジを得た。乾燥固定された試薬11の磁性粒子に亀裂は認められなかった。
(2) 分散性の評価
カートリッジの開口部に、実施例1と同じ溶出試薬(20μL)を注入した。そして、このカートリッジを実施例1の分析装置で遠心することにより、溶出試薬と磁性粒子とを撹拌した。撹拌条件は、実施例3と同じである。撹拌操作を合計4回行ったが、試薬11の磁性粒子はほとんど脱離せず、チャンバに固定された状態を保っていた。
比較例2
比較例2では、糖及びタンパク質のいずれか一方を含む磁性粒子含有試薬を基板上に乾燥固定し、磁性粒子の固定強度及び分散性を確認した。具体的には、下記のとおりである。
(1) 試薬の調製及び基板への固定
緩衝液(20 mM MES(pH 6.5))にスクロースを2、5又は10 wt%の濃度となるように添加して、糖を含む水溶液を調製した。各水溶液の一部を取り、これらに磁性粒子を1wt%の粒子濃度となるように添加して、糖を含む磁性粒子含有試薬を調製した。緩衝液(20 mM MES(pH 6.5))にBSAを1又は3wt%の濃度となるように添加して、タンパク質を含む水溶液を調製した。各水溶液の一部を取り、これらに磁性粒子を粒子濃度1wt%となるように添加して、タンパク質を含む磁性粒子含有試薬を調製した。PMMA製基板(ASTI株式会社)及びCOP製基板(ASTI株式会社)の上に、各磁性粒子含有試薬を10μLずつ滴下した。これらの基板を塩化カルシウム乾燥剤とともにプラスチック容器内に静置し、密閉して自然乾燥させた。これにより基板上に磁性粒子が乾燥固定された。
(2) 磁性粒子の固定強度及び分散性の評価
基板上の磁性粒子の表面を観察して、亀裂の有無を確認した。そして、基板を机に軽く打ちつけて、固定された磁性粒子に衝撃を加え、磁性粒子が基板から脱離したか否かを確認した。別の基板上の磁性粒子に、実施例1と同じ溶出試薬(10μL)を滴下し、磁性粒子の分散性を確認した。結果を表1に示す。表中、固定強度の欄の「○」は、衝撃を加えても磁性粒子が基板から脱離しなかったことを示し、「×」は、磁性粒子が衝撃により基板から脱離したことを示す。分散性の欄の「○」は、磁性粒子が溶出試薬に分散したことを示し、「×」は、磁性粒子が溶出試薬に十分に分散しなかったことを示す。
表1からわかるように、タンパク質を含まない試薬(No. 1〜3及び6〜8)を乾燥固定すると、磁性粒子は、亀裂を生じずに基板上に強固に固定された。しかし、分散性は良好ではなく、これらの磁性粒子は試料分析には適していない。一方、糖を含まない試薬(No. 4、5、9及び10)を乾燥固定すると、磁性粒子の表面に亀裂が生じた。また、衝撃により磁性粒子は基板から脱離した。よって、これらの磁性粒子は、輸送中の振動や衝撃に耐えないおそれがある。これらのことから、糖及びタンパク質のいずれか一方のみでは、固定強度と分散性との両方を満足することはできないことが示された。