JP6955377B2 - 銅粒子 - Google Patents

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Description

本発明は銅粒子に関する。
銅粒子に関する従来の技術としては例えば特許文献1に記載のものが知られている。同文献には、SEM観察による平均粒子径が0.05〜0.35μmであり、BET比表面積値と炭素含量とが特定の関係にあり、且つBET比表面積値と酸素含量とが特定の関係にある銅粉末が記載されている。
特許文献2には、アミン類、窒素含有複素環化合物、ニトリル類及びシアン化合物、ケトン類、アミノ酸類、アルカノールアミン類又はそれらの塩等から選ばれる錯化剤、及び保護コロイドの存在下で、2価の銅酸化物と還元剤とを媒液中で混合して、金属銅微粒子を生成させる方法が記載されている。
特許文献3には、錯化剤及びタンパク質系保護剤の存在下で、2価の銅酸化物と還元剤とを媒液中で混合して、金属銅微粒子を生成させることが記載されている。錯化剤としては、窒素、酸素、硫黄をドナー原子とする化合物が用いられている。その具体例としてはアミノポリカルボン酸類が挙げられている。
特許文献4には、分散剤としてポリエチレンイミンを添加して、銅の酸化物、水酸化物又は塩をポリエチレングリコール又はエチレングリコール溶液中で加熱還元し、銅微粒子を生成させることが記載されている。
国際公開第2012/157704号パンフレット 特開2012−052240号公報 特開2012−162807号公報 特開2005−330552号公報
これまで知られている湿式の銅粒子の製造方法においては、保護コロイドや保護剤などと呼ばれる有機高分子化合物の存在下に銅粒子の合成が行われることが多い。この理由は、粒子の粒径が小さくなるに連れて表面エネルギーが大きくなり、そのことに起因して凝集が起きやすいからである。また、表面積の増大に起因して粒子表面に酸化膜が形成されやすいからである。
しかし、粒子表面に有機高分子化合物が存在している銅粒子を、電気回路の形成や電子部品の接合に用いた場合、該銅粒子の焼結温度が上昇してしまうという不都合がある。
したがって本発明の課題は、低温焼結性が従来よりも優れる銅粒子を提供することにある。
本発明は、以下の(a)及び(b)の条件を満たす銅粒子を提供するものである。
不活性雰囲気中で銅粒子を30℃から350℃まで昇温する間の複数の温度において、該温度を一旦保持した状態で、該銅粒子についてXRD測定を行い、その測定結果から得られた、30℃における銅の結晶子サイズに対する各温度における該結晶子サイズの比である結晶子サイズ比と温度との関係において、
(a)前記結晶子サイズ比が1.2となる温度が250℃以下であり、
(b)250℃以上350℃以下の温度範囲における単位温度あたりの前記結晶子サイズ比の変化量が2.0×10−3以上である。
本発明によれば、低温焼結性が従来よりも優れる銅粒子が提供される。
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。なお、以下の説明において、「粒子」というときには、文脈に応じ、粒子の集合体である粉末を指す場合と、該粉末を構成する個々の粒子を指す場合とがある。本発明の銅粒子は、高温XRD法で測定された銅の結晶子サイズと温度との関係に特徴を有する。
高温XRD法とは、加熱可能なステージに試料を設置し、ステージの加熱によって試料を徐々に加熱しながら試料のXRD(粉末X線回折)測定を行う方法である。XRDの測定は、銅粒子を測定対象とし、不活性雰囲気中で該銅粒子を30℃から350℃まで昇温する間の複数の温度において、該温度を一旦保持した状態で行う。「複数の温度」とは、例えば10℃以上100℃以下の範囲から適宜選択した所定温度の間隔で決定される温度のことである。例えば温度間隔が10℃である場合には、30℃から350℃までの間を10℃刻みで分割した温度のことである。30℃から350℃までの昇温速度は、後述する結晶子サイズ比の測定結果に本質的な影響を及ぼすものではなく、一般に1℃/min以上10℃/min以下の範囲から適宜選択すればよい。温度を保持する時間は、XRD測定が完了するのに足る時間であるとともに、結晶子サイズが過度に大きくならない程度の時間であればよく、一般には1分以下であることが好ましく、30秒以下であることが更に好ましく、15秒以下であることがより一層好ましい。測定中の雰囲気は窒素ガス等の不活性雰囲気とする。
高温XRD法によって、昇温中の各温度におけるX線回折チャートが得られる。このチャートに基づき各温度における結晶子サイズを算出する。そして、その算出結果から、30℃における結晶子サイズC1に対する各温度における結晶子サイズCの比である結晶子サイズ比(C/C1)と温度との関係が得られる。この関係に基づき、以下の(a)及び(b)の条件を満たすか否かを判断する。本発明の銅粒子は、(a)及び(b)の条件をともに満たすものである。
(a)結晶子サイズ比が1.2となる温度が250℃以下であり、
(b)250℃以上350℃以下の温度範囲における単位温度あたりの結晶子サイズ比の変化量が2.0×10−3以上である。
(a)の条件は、結晶子サイズ比と温度との関係において、30℃における結晶子サイズC1に対する各温度における結晶子サイズCの比である結晶子サイズ比C/C1が1.2になる温度が250℃以下であることを規定している。この規定は、銅粒子が比較的低温において結晶成長すること、すなわち低温焼結性が高いことを意味している。この観点から、C/C1=1.2になる温度は200℃以下であることが好ましい。なお、C/C1=1.2になる温度とは、銅粒子の焼結開始温度として捉えることもできる。
(b)の条件は、(a)の条件である低温焼結性を有することに加えて、比較的高温である250℃以上350℃以下の温度範囲において単位温度あたりの結晶子サイズ比(C/C1)の変化量が大きいことを意味している。詳細には、本発明の銅粒子は低温で焼結が開始し、且つ焼結の開始とともに結晶子のサイズが増大する、すなわち焼結が素早く進行するものである。このこととは対照的に、これまでの銅粒子は、焼結の開始温度が高く、しかも焼結が開始したとしてもその進行の度合いは緩やかなものであった。焼結が素早く進行することは、銅粒子を接合材料として用いた場合、低温で且つ短時間で被接合部材(例えば、金属部材)同士を接合できる点から有利である。
本発明の銅粒子における単位温度あたりの結晶子サイズ比の変化量は、250℃以上350℃以下の温度範囲において、上述のとおり2.0×10−3以上であり、更に好ましくは3.0×10−3以上であり、一層好ましくは4.0×10−3以上である。単位温度あたりの結晶子サイズ比の変化量がこの範囲内であると、焼結が開始した銅粒子の焼結が素早く進行する。銅粒子の焼結が素早く進行する理由は、本発明の銅粒子は、粒子の表面に有機高分子を有しておらず、且つ、結晶子が小さいことに起因して、加熱されたときに粒子同士が接触する界面にて結晶子の拡散が起こりやすいからだと考えられる。
単位温度あたりの結晶子サイズ比(C/C1)の変化量とは、250℃以上350℃以下の温度範囲において算出された結晶子サイズ比(C/C1)と温度との関係に基づき、一次の回帰計算を行って得られる傾きの値のことであって、温度が1℃上昇するあたりの結晶子サイズ比(C/C1)の変化量のことである。
結晶子サイズ比と温度との関係は上述のとおりであるところ、銅粒子における銅の結晶子サイズそのものは、30℃において10nm以上30nm以下であることが好ましく、10nm以上25nm以下であることが更に好ましく、10nm以上20nm以下であることが一層好ましい。銅粒子における銅の結晶子サイズがこの範囲内であると、銅粒子を接合材料として用いた場合、窒素ガス等などの不活性雰囲気中においても比較的低温(例えば、200℃以下)で被接合部材(例えば、金属部材)同士を接合可能であることから好ましい。
結晶子サイズは、粉末X線回折によって得られる回折ピークからシェラー(Scherrer)の式によって算出する。本発明においては、株式会社リガク製の全自動水平型多目的X線回折装置を用い、CuKα線を使用して、測定範囲2θ=38°〜48°で銅粒子のX線回折強度を測定した。そのときの結晶面(111)におけるX線回折ピークのピーク幅(半値幅)から、下記のシェラーの式により結晶子サイズ算出した。
シェラーの式:D=Kλ/βcosθ
D:結晶子サイズ
K:シェラー定数(0.94)
λ:X線の波長
β:半値幅[rad]
θ:回折角
前記の(a)及び(b)の条件を満たす本発明の銅粒子は、例えばポリイミドや液晶ポリマーからなるフレキシブル基板の回路形成用材料として好適に用いられる。この理由は、本発明の銅粒子を用いて回路形成用材料とした場合に、回路形成時の熱処理温度をフレキシブル基板の耐熱温度より低くすることができることによる。
低温焼結性を有する本発明の銅粒子を得るには、例えば後述する方法で銅粒子を製造すればよい。本発明の銅粒子が低温焼結性を有する理由を、本発明者は次のように考えている。後述する製造方法で本発明の銅粒子を製造した場合、該銅粒子は、その表面に有機高分子を有していないものとなる。これに加えて該銅粒子は、これまでの銅粒子に比べて結晶子サイズが小さいことに起因して、低温でも、粒子同士が接触する界面にて結晶子の拡散が進行する。これらの理由によって、本発明の銅粒子は低温で焼結すると考えられる。粒子同士が接触する界面において結晶子の拡散を起こしやすくするためには、例えば後述する方法で銅粒子を製造することが有利である。
本発明の銅粒子は、粒子間での凝集及び/又は粒子の酸化を抑制するための剤からなる層を粒子表面に極力有していないことが好ましい。本明細書において粒子間での凝集及び/又は粒子の酸化を抑制するための剤とは、銅粒子の表面に付着して、該銅粒子間の凝集を抑制する機能、及び/又は該銅粒子の酸化を抑制する機能を有する化合物を広く包含する。その意味で、以下に説明においては、この剤のことを便宜的に「保護剤」と称する。
保護剤としては、例えば天然高分子や合成高分子などの有機高分子化合物が挙げられる。天然高分子としては、例えばゼラチン等のタンパク質、アラビアゴム、カゼイン、カゼイン酸ソーダ、カゼイン酸アンモニウム、デンプン、デキストリン、寒天、アルギン酸ソーダなどが挙げられる。合成高分子としては、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース及びエチルセルロース等のセルロース系化合物、ポリビニルアルコール及びポリビニルピロリドン等のポリビニル系化合物、ポリアクリル酸ソーダ及びポリアクリル酸アンモニウム等のポリアクリル酸系化合物、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。その他、保護剤としては、ピロリン酸ナトリウム等のリン酸塩、ステアリン酸、ラウリン酸及びオレイン酸といった鎖状脂肪酸などが挙げられる。また、ケイ素、チタン、ジルコニウム及びアルミニウム等の半金属又は金属を含有する各種のカップリング剤も挙げられる。
本発明の銅粒子が保護剤の層を粒子表面に多量に有していないことによっても、本発明の銅粒子は低温焼結性が良好なものとなる。この低温焼結性を一層良好にする観点から、該銅粒子は、保護剤の層を形成する元素の含有量が極力少ないことが好ましい。
本発明の銅粒子は微粒であることが好ましく、具体的には一次粒子の平均粒径Dが0.01μm以上0.3μm以下であることが好ましく、0.02μm以上0.21μm以下であることが更に好ましく、0.05μm以上0.10μm以下であることが一層好ましい。銅粒子の平均粒径Dを0.3μm以下に設定することによって、銅粒子を用いて膜を形成するときに、銅粒子が低温で焼結しやすくなる。また、粒子間に空隙が生じにくく、膜の比抵抗を低下させることができる。一方、銅粒子の平均粒径Dを0.01μm以上に設定することによって、銅粒子を焼成するときの粒子の収縮を防止することができる。本発明において、銅粒子の一次粒子の平均粒径Dは、走査型電子顕微鏡や透過型電子顕微鏡による観察像を用いて測定した複数の粒子のHeywood径の算術平均粒径である。本発明の銅粒子の粒子形状は球状であることが、銅粒子の分散性を高める観点から好ましい。
銅粒子が微粒である場合にはその比表面積が増大することから、表面が酸化されやすい状態になっている。酸化を防止するためには粒子の表面に保護剤を施せばよいが、その場合には銅粒子の低温焼結性が損なわれてしまう。そこで、本発明においては、従来の保護剤に代えて、−COO−基を有するとともに窒素を含有する有機物を存在させることが有利である。この有機物は微量の付着量で銅粒子の酸化を効果的に防止し得ることが本発明者の検討の結果判明した。
窒素を含む前記有機物の付着量は、銅粒子の比表面積を基準とした場合の銅粒子に含まれる炭素と窒素の含有量によって表すことができる。銅粒子における炭素含有割合をPC(質量%)とし、銅粒子における窒素含有割合をPN(質量%)とし、銅粒子の比表面積をSSA(m/g)としたとき、PCとSSAとの比であるPC/SSAの値は好ましくは0.01以上0.1以下の範囲であり、更に好ましくは0.01以上0.8以下の範囲であり、一層好ましくは0.01以上0.6以下の範囲である。そして、PNとSSAとの比であるPN/SSAの値は好ましくは0.001以上0.05以下であり、更に好ましくは0.01以上0.03以下の範囲であり、一層好ましくは0.01以上0.015以下の範囲である。この範囲内に炭素と窒素が含まれる銅粒子は、窒素を含む有機物の作用によって粒子表面の酸化が効果的に防止されたものとなる。
本発明の銅粒子は、該銅粒子を含んで構成される組成物の形態で用いることができる。例えば本発明の銅粒子は、該銅粒子及び有機溶媒を少なくとも含んで構成される組成物の形態で用いることができる。有機溶媒としては、金属粉を含む組成物の技術分野においてこれまで用いられてきたものと同様のものを特に制限なく用いることができる。そのような有機溶媒としては、例えばモノアルコール、多価アルコール、多価アルコールアルキルエーテル、多価アルコールアリールエーテル、エステル類、含窒素複素環化合物、アミド類、アミン類、飽和炭化水素などが挙げられる。これらの有機溶媒は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
前記の組成物に、有機ビヒクルやガラスフリットを更に含有させることもできる。有機ビヒクルは、樹脂成分と溶剤とを含む。樹脂成分としては、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、エチルセルロース、カルボキシエチルセルロース等が挙げられる。溶剤としては、ターピネオール及びジヒドロターピネオール等のテルペン系溶剤や、エチルカルビトール及びブチルカルビトール等のエーテル系溶剤が挙げられる。ガラスフリットとしては、ホウケイ酸ガラス、ホウケイ酸バリウムガラス、ホウケイ酸亜鉛ガラス等が挙げられる。更に、前記の組成物には、該組成物の各種の性能を一層高めることを目的として、必要に応じて、本発明の製造方法で得られた銅粒子に加えて、他の銅粒子を適宜配合してもよい。
前記の組成物における銅粒子及び有機溶媒の配合量は、該組成物の具体的な用途や該組成物の塗布方法に応じて広い範囲で調整することができる。塗布方法としては、例えばインクジェット法、ディスペンサ法、マイクロディスペンサ法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、ディップコーティング法、スピンコーティング法、スプレー塗布法、バーコーティング法、ロールコーティング法などを用いることができる。
前記の組成物は導電材として用いることができる。具体的には前記の組成物を基板上に塗布して塗膜とし、この塗膜を焼成することによって膜を形成することができる。この膜は、例えばプリント配線板の回路形成や、セラミックコンデンサの外部電極の電気的導通確保のための導体膜として好適に用いられる。基板としては、銅粒子が用いられる電子回路の種類に応じて、ガラスエポキシ樹脂等からなるプリント基板や、ポリイミドや液晶ポリマー等からなるフレキシブルプリント基板が挙げられる。また、前記の組成物を、半導体デバイスのダイと支持体(例えば配線体)とを接合するためのダイボンディング用の接合材料として用いることもできる。あるいは、半導体上に設置するヒートスプレッダなどの放熱金属部材と該半導体とを接合する接合材料としても用いることができる。これらの場合、前記の組成物から得られる膜は熱伝導体として機能する。また、前記の組成物をビアに充填した後に加熱することで、熱伝導体として機能させることもできる。
次に、本発明の銅粒子の好適な製造方法について説明する。本製造方法においては、湿式で、すなわち水性液中で銅粒子を得ることが好ましい。銅粒子の銅源として本発明においては銅錯体を用いることが好ましい。この銅錯体は、中心金属元素としての銅イオンに配位子が配位した構造を有している。この銅イオンとしては一般に正二価の電荷を有するものが用いられる。
銅イオンに配位して銅錯体を形成するために用いられる配位子として、本発明においては微粒で、且つ焼結温度の低い銅粒子が容易に得られる観点から、ニトリロ三酢酸(NTA)を用いることが好ましい。すなわち銅錯体として、銅−ニトリロ三酢酸錯体を用いることが好ましい。この銅錯体においては一般に正二価の銅イオン1個に対して1個のニトリロ三酢酸が配位している。銅イオンに配位しているニトリロ三酢酸の状態は、該銅錯体が溶解している水溶液のpHに依存する。
銅錯体として銅−ニトリロ三酢酸錯体を用いる場合、この銅錯体は好適には以下に述べる手順によって調製することができる。すなわち、水溶性のニトリロ三酢酸塩、例えばニトリロ三酢酸二ナトリウムを準備し、これを水に溶解させてニトリロ三酢酸の水溶液を調製する。この水溶液に銅源化合物を添加する。銅源化合物としては、例えば二価の銅化合物を用いることができる。その具体例としては、水酸化銅(II)、酢酸銅(II)、硝酸銅(II)、硫酸銅(II)などが挙げられる。銅源化合物が水溶性である場合には、該銅源化合物を前記の水溶液に添加することで、該水溶液中に銅−ニトリロ三酢酸錯体が生成する。銅源化合物が水不溶性である場合には、水溶液のpHを調整して該銅源化合物を水に溶解させる。例えば水不溶性の化合物である水酸化銅(II)を銅源化合物として用いる場合、ニトリロ三酢酸の水溶液に水酸化銅(II)を添加した後、該水溶液に塩基性化合物を適量添加する。塩基性化合物としては、例えば水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物を用いることが好適である。塩基性化合物の添加量は、水酸化銅(II)が水に溶解するpHとなるような量とする。それによって水溶液中に銅−ニトリロ三酢酸錯体が生成する。銅−ニトリロ三酢酸錯体が生成後の水溶液中に未反応の固形分が残存している場合には、濾過等の分離手段を用いて該固形分を除去する。水溶液中の銅錯体の濃度は、銅イオンに基づき0.001mol/L以上1mol/L以下とすることが好ましく、0.1mol/L以上0.5mol/L以下とすることが更に好ましい。
このようにして得られた銅錯体の水溶液に還元剤を添加して、該還元剤を該銅錯体に作用させ、該銅錯体中の銅イオンを金属銅に還元する。本製造方法において還元剤の添加方法は特に制限されるものではなく、還元剤の全量を一括添加してもよく、あるいは所定の時間にわたり連続滴下してもよい。これらの方法のうち、連続滴下を採用することで、還元反応による発泡を抑えることができるという利点がある。還元剤を作用させるのに際しては、銅錯体の水溶液中に、銅錯体の配位子成分以外の保護剤を存在させないことが好ましい。かかる保護剤が銅錯体の水溶液中に存在した状態で該銅錯体中の銅イオンを還元させると、還元によって生成した銅粒子の表面に該剤が付着してしまう。該保護剤が表面に付着した銅粒子は、該保護剤の存在に起因して焼結が生じにくくなるので、焼結開始温度が高くなる傾向にあるという不都合を該銅粒子は有している。
前記の銅錯体の還元によって銅粒子が生成するときに、配位子の分解が生じると本発明者は考えている。配位子の分解によって生じた分解物は、該配位子が本来有していた−(C=O)O−部位と窒素含有部位を有していることがある。そのような部位を有する分解物は、還元によって生じた銅粒子の表面に付着しやすい。その結果、本製造方法によって得られる銅粒子は、これをXPS測定すると、−COO−基及びNが検出される。
本発明においては、銅錯体に還元剤を作用させるのに際しては、系内に銅錯体の配位子成分以外の保護剤が全く存在しないことが最も好ましいが、本発明の効果を損なわない限りにおいて不可避的に微量の銅錯体の配位子成分以外の保護剤が混入することは許容される。
銅錯体に還元剤を作用させるのに際して、系内のpHは8.0以上14.0以下に設定することが好ましく、8.6以上13.0以下に設定することが更に好ましく、8.9以上12.9以下に設定することが一層好ましい。特に、還元剤としてヒドラジンを用いる場合、系内のpHは12.4以上に設定することが、粒子の凝集を効果的に防ぐ観点から特に好ましい。このpHの範囲内の水溶液に還元剤を添加することで、微粒で、且つ焼結温度の低い銅粒子が容易に得られる。pHの調整には各種の酸や塩基性物質を用いることができる。例えば水酸化ナトリウムやアンモニアを用いることができる。
銅錯体に作用させる還元剤としては、該銅錯体における銅イオンを金属銅にまで還元し得る還元能を有する化合物を特に制限なく用いることができる。そのような還元剤としては、例えばヒドラジン、塩酸ヒドラジン、硫酸ヒドラジン及び抱水ヒドラジン等のヒドラジン系化合物、水素化ホウ素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、次亜硝酸ナトリウム、亜リン酸、亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸、次亜リン酸ナトリウム等が挙げられる。これらの還元剤は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。特に、ヒドラジンを初めとするヒドラジン系化合物は還元力が強いので好適に用いられ、とりわけヒドラジンは還元後に不純物の発生が少ないので特に好適に用いられる。還元剤の使用量は、銅錯体から銅粒子を生成できる量であれば特に制限はなく、適宜設定することができる。一般に銅1モルに対して0.5モル以上50モル以下の範囲で還元剤を使用することが好ましい。この範囲内で還元剤を使用することで、還元を過度に進行させることなく、微粒の銅粒子を十分に生成させることができる。この観点から、更に好ましい還元剤の使用量は、銅1モルに対して1モル以上5モル以下の範囲である。
銅錯体を含む水溶液に還元剤を添加したら、液の撹拌を所定時間継続してエージングを行う。還元剤を添加するときの水溶液の温度、及びエージング時の水溶液の温度は、本製造方法において臨界的なものではなく、一般に20℃以上25℃以下の室温で行うことができる。このようにして、目的とする銅粒子を得ることができる。このようにして得られた銅粒子は、粒子間での凝集を抑制するための剤(銅錯体の配位子に由来の有機化合物以外の物質)からなる層を粒子表面に有していないものとなる。また、このようにして得られた銅粒子は、一般に球状のものとなる。球状の銅粒子は、その分散性を高めやすい観点から好ましい。なお、本発明は、本発明の意義が損なわれない程度において、得られた銅粒子が他の元素を不可避的に含むことや、銅粒子表面が酸化されることを排除するものではない。
本製造方法においては、上述の工程における還元剤を作用させるときのpHを適切に設定することで、得られる銅粒子の粒径を調整することができる。例えば一次粒子の平均粒径Dが0.01μm以上0.3μm以下という微粒の銅粒子を得ることができる。
このようにして得られた銅粒子は、純水リパルプ洗浄やデカンテーション法等による洗浄後、水やアルコール等の有機溶媒等に分散させてスラリーやインクやペースト等としてもよい。また銅粒子を乾燥させて乾燥粉としてもよい。更に、得られた銅粒子を、後述するように溶剤や樹脂等を添加して、スラリーやインクやペースト等の組成物としてもよい。この組成物は、導電性又は熱伝導性組成物として好適に用いることができる。
従来、保護剤の層を有さず、且つ微粒の銅粒子は、乾燥させると凝集してしまうため、乾燥粉として取り出すことは難しかった。このため、従来、このような銅粒子を保管・搬送する際には、銅粒子に水や有機溶媒、樹脂等を添加して、水性スラリーやペーストの形態としていた。これに対し、本製造方法で得られた銅粒子は、保護剤の層を有していないにも関わらず、乾燥させても凝集しにくいので、乾燥粉として保管・搬送できる。このことは、銅粒子の保管スペースを削減でき、搬送しやすい等の点で有利である。
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
〔実施例1〕
(1)銅錯体水溶液の調製
244gのニトリロ三酢酸二ナトリウムを1202gの水に溶解して水溶液を得た。この水溶液に51gの水酸化銅(II)を添加して液中に分散させた。この分散状態下に、203gの10%水酸化ナトリウム水溶液を添加して撹拌を行った。次いで濾過によって水不溶物を除去することで、銅−ニトリロ三酢酸錯体を含む水溶液を得た。この水溶液における銅−ニトリロ三酢酸錯体の濃度は、銅基準で0.3mol/Lであった。水溶液のpHは12.9であった。
(2)還元剤水溶液の調製
31gのヒドラジン一水和物を469gの水に溶解させてヒドラジン水溶液を得た。この水溶液におけるヒドラジンの濃度は1.2mol/Lであった。
(3)銅粒子の合成
前記の(1)で得られた銅錯体水溶液を1600g用い、室温下、(2)で得られた還元剤水溶液を400g撹拌下に添加した。還元剤の量は、銅1モルに対して約1モルであった。混合液の撹拌を1時間継続してエージングを行った。次いで純水による遠心分離洗浄を行い、更にエタノールで溶媒置換を行った。その後遠心分離により濃縮し、固形分の真空乾燥をこの順で行い、目的とする銅粒子を得た。
〔実施例2ないし6〕
以下の表1に示す条件を採用した以外は実施例1と同様にして銅粒子を得た。
〔比較例1〕
(1)有機高分子保護剤水溶液の調製
6gのゼラチンを78gの水に溶解し、室温で1時間静置してゼラチンを膨潤させた。次いで撹拌下に40℃まで加熱し、その温度を1時間維持しつつ撹拌を継続した。次いで8gの5%水酸化ナトリウム水溶液を添加して撹拌を継続することで、ゼラチン水溶液を得た。この水溶液におけるゼラチンの濃度は6.5%であった。
(2)酸化第二銅の合成
1000gの水酸化ナトリウム水溶液(2mol/L)と1000gの硝酸銅水溶液(1mol/L)とを混合し、撹拌下に40℃まで加熱し、その温度を6時間維持しつつ撹拌を継続した。この水溶液をオートクレーブに充填し、100℃で96時間水熱合成を行った。得られた生成物を純水で洗浄し、引き続き凍結乾燥することで、酸化第二銅を得た。
(3)還元剤水溶液の調製
5gのヒドラジン一水和物を90gの水に溶解させた。次いで5gのピロカテコールを添加して、目的とする水溶液を得た。この水溶液におけるヒドラジンの濃度は1mol/Lであった。ピロカテコールの濃度は0.2mol/Lであった。
(4)銅粒子の合成
前記の(1)で得られた有機高分子保護剤水溶液を92g用い、室温下、これに前記の(2)で得られた酸化第二銅を8g添加した。液を撹拌しつつ、前記の(3)で得られた還元剤水溶液を100g添加した。撹拌を継続して5時間エージングを行った。次いで液中にタンパク質分解酵素(アクチナーゼE)を0.02g添加して、35℃の環境下、24時間にわたって酵素洗浄を行った。その後、遠心洗浄を行い、次いで凍結乾燥を行って、銅粒子を得た。
〔評価〕
実施例及び比較例で得られた銅粒子について、上述の方法で結晶子サイズ、結晶子サイズ比、結晶子サイズ比が1.2以上となる温度(℃)、及び250℃以上350℃以下の温度範囲における単位温度あたりの結晶子サイズ比の変化量を測定した。また、一次粒子の平均粒径D、比表面積SSA、炭素及び窒素の含有割合を測定した。また、XPS測定を行い、−COO−基及びNの検出の有無を測定した。結晶子サイズ比の温度依存性の測定結果を以下の表2に示す。それ以外の結果を以下の表3に示す。なお、XRD測定は、株式会社リガク製全自動水平型多目的X線回折装置と、検出器として同社製の高速二次元X線検出器PILATUS3 R 100Kとを用いて、窒素雰囲気中で測定温度範囲30〜400℃、昇温速度を10℃/minとし、2θ=38〜48°の範囲で測定した。また、1回のXRD測定に掛かる時間は15秒であり、XRD測定をしている間は昇温せずに、測定雰囲気の温度を保持した。測定温度は、30℃、50℃、100℃、150℃、200℃、250℃、300℃、350℃、400℃であった。
〔一次粒子の平均粒径D〕
走査型電子顕微鏡(日本エフイー・アイ(株)製XL30SFEG)を用い、走査型電子顕微鏡(SEM)像を撮影した。倍率は粒子の粒径に応じて決定し、5000倍から150000倍の範囲で撮影を行った。画像解析ソフトMac−View(マウンテック製)を用いてSEM像を解析し、1サンプルあたり100個以上の粒子についてHeywood径を求めた。Heywood径の算術平均値を一次粒子の平均粒径Dとした。
〔比表面積(SSA)〕
比表面積(SSA)は、一次粒子の平均粒径Dを用い下記式から算出した。
SSA=6/(ρ*D)
式中、SSAは比表面積〔m/g〕を表し、ρは銅の密度〔g/m〕を表し、Dは一次粒子の平均粒径〔m〕を表す。
〔炭素の含有割合PC〕
ガス分析装置((株)堀場製作所製EMIA−920V)を用いて測定した。
〔窒素の含有割合PN〕
酸素・窒素・水素分析装置(Leco製ONH836)を用いて測定した。
〔XPS測定〕
XPS装置(アルバック・ファイ株式会社製のVersaProbeII)を用いた。銅粒子を窒素雰囲気中でハンドプレス機にて圧縮成型した後、ブロワーにて除去し、測定試料とした。その後、窒素雰囲気中で同社製のトランスファー・ベッセルに試料を入れ、装置に導入した。X線源はモノクロAl−Kα線(hν=1486.7eV、100W)を用いた。Pass Energyを26eV、エネルギーステップを0.1eVとし、検出器と試料台の角度を45°として測定を行った。なお帯電中和には低速イオン及び電子を使用した。データの解析にはアルバック・ファイ社製MultiPak 9.0を用いた。得られたスペクトルについてC1sの結合エネルギーを284.8eVとして帯電補正を行った。補正後、Savitzky−Golay法でスムージング処理し、Shirley法によりバックグラウンドを除去した。得られたスペクトルについて−COO−基及びNの検出の有無を確認した。なお、−COO−基は結合エネルギー288.0eV以上289.2eV以下に現れるピークのことであり、Nは結合エネルギー390eV以上410eV以下に現れるピークのことである。
Figure 0006955377
Figure 0006955377
Figure 0006955377
表3に示す結果から明らかなとおり、各実施例の銅粒子は、低温焼結性が優れるものであることが判る。

Claims (5)

  1. 以下の(a)及び(b)の条件を満たし且つXPS測定によって−COO−基及びNが検出され、一次粒子の平均粒径Dが0.02μm以上0.21μm以下である銅粒子。
    不活性雰囲気中で銅粒子を30℃から350℃まで昇温する間の複数の温度にて、該温度を一旦保持した状態で、該銅粒子についてXRD測定を行い、その測定結果から得られた、30℃における銅の結晶子サイズに対する各温度における該結晶子サイズの比である結晶子サイズ比と温度との関係において、
    (a)前記結晶子サイズ比が1.2となる温度が250℃以下であり、
    (b)250℃以上350℃以下の温度範囲における単位温度あたりの前記結晶子サイズ比の変化量が2.0×10−3以上である。
  2. 炭素含有割合PC(質量%)と比表面積SSA(m/g)との比であるPC/SSAの値が0.01以上0.1以下であり、且つ窒素含有割合PN(質量%)と比表面積SSA(m/g)との比であるPN/SSAの値が0.001以上0.05以下である請求項1に記載の銅粒子。
  3. 請求項1又は2に記載の銅粒子を含む組成物。
  4. 導電材として用いられる請求項に記載の組成物。
  5. ダイボンディング用の接合材料として用いられる請求項に記載の組成物。
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