一般に、清涼飲料水やアルコール飲料等の飲料に含まれる香気成分は、飲料中に溶解又は分散されている。飲料中で香気成分が偏在すると、均質に製品を製造することが困難となる。このため、例えば、香りの強化や補香、風味矯正等を目的として飲料に使用される香料は、香気成分が水に溶解又は分散しやすいように処理されているものが多い。また、飲料に油脂等の疎水性物質が含まれる場合、疎水性物質が分離することは品質上好ましくないこととされ、乳化剤等を用いて乳化させたり、果実パルプに吸着させたりすることが一般的である。また、飲料の製造工程において疎水性物質が分離していると、均質に容器詰めすることが困難となる。
これに対して、本発明に係る容器詰飲料は、飲料の本体たる可食性の水溶液(以下、「ベース液体」ということがある。)と、疎水性香気成分を含有している疎水性液滴とを含有しており、当該水溶液と当該疎水性液滴とが分離している。飲料中の疎水性液滴は、1個であってもよく、複数個であってもよい。ベース液体とは分離した状態で存在している疎水性香気成分は、ベース液体に溶解や分散されている疎水性香気成分よりも香りとして感じられやすい。例えば、当該疎水性液滴がベース液体の液面に存在している場合には、当該疎水性液滴から揮発した疎水性香気成分により、飲料のオルソネーザルアロマ、特に容器の開封時のオルソネーザルアロマが増強される。また、当該疎水性液滴がベース液体の内部に存在している場合、喫飲時のレトロネーザルアロマの持続時間を長くすることができる。これは、当該疎水性液滴に含まれていた疎水性香気成分の一部が、飲用後も口腔内に保持されているためと推察される。
<疎水性香気成分>
本発明において用いられる疎水性香気成分は、ヒトに「におい」を感じさせる物質のうち、疎水性のものであれば、特に限定されるものではない。なお、疎水性の物質とは、25℃の水に滴下した場合に、少なくとも一部は相溶せずに界面を形成する物質である。すなわち、疎水性の物質は、水に完全に不溶であることまでは必要とせず、一部が水に溶解する物質も含まれる。本発明においては、一般的に飲食品に含まれる疎水性香気成分の中から、目的の香味特質を考慮して適宜選択して用いることができる。
本発明において用いられる疎水性香気成分としては、より香りとしてヒトが感じ取りやすいことから、常温常圧で揮発しやすい揮発性物質が好ましい。常温常圧で揮発しやすい疎水性香気成分としては、例えば、沸点が260℃以下の疎水性香気成分が挙げられる。
本発明において用いられる疎水性香気成分としては、目的とする飲料の風味に応じて適宜選択することができるが、飲料に広く使用されていることから、特定の植物の特徴的な香りを構成する成分(特徴香成分)であることが好ましく、果実やハーブ(香草)の特徴香成分であることがより好ましい。なお、「特定の植物の特徴香成分」は、当該植物の特徴的な香りとヒトが認識し得る香りを構成する成分であれば、当該植物に含有されている香気成分に限定されるものではなく、当該植物に含有されていない香気成分も含まれる。
本発明において用いられる疎水性香気成分としては、レモン、ライム、ユズ、シークヮーサー、スダチ、カボス、グレープフルーツ、オレンジ、伊予柑、温州みかん、夏みかん、八朔、日向夏等の柑橘類;イチゴ、モモ、メロン、ブドウ、リンゴ、洋ナシ、ナシ、サクランボ等のソフトフルーツ;バナナ、パイナップル、マンゴー、パッションフルーツ等のトロピカルフルーツ;ペパーミント、セージ、タイム、レモングラス、シナモン、ローズマリー、カモミール、ラベンダー、ローズヒップ、ペッパー、バニラ等のハーブ;などの特徴香成分が好ましい。
柑橘類のうち、レモンの特徴香成分は、シトラール、ネロール、ゲラニオール、酢酸ネリル、酢酸ゲラニル等が挙げられ、シトラールはレモン由来の精油(アロマオイル)に含まれる含酸素化合物の半分以上を占める。グレープフルーツの特徴香成分としては、オクタナール、デカナール、ヌートカトン等が挙げられ、ユズの特徴香成分としては、リナロール、チモール、ユズノン(登録商標)、N−メチルアントラニル酸メチル等が挙げられる。オレンジの特徴香成分としては、オクタナール、デカナール、リナロール、酢酸ゲラニル、シネンサール等が挙げられる。
柑橘類以外の果実やハーブとしては、例えば、モモの特徴香成分としては、γ−ウンデカラクトン等が挙げられる。ブドウの特徴香成分としては、メチルアンスラニレート等が挙げられる。ミントの特徴香成分としては、メントール等が挙げられる。バニラの特徴香成分としては、バニリン等が挙げられる。
<疎水性液状組成物>
本発明に係る容器詰飲料に形成されている疎水性液滴は、疎水性香気成分を含有する疎水性液状組成物からなる。当該疎水性液状組成物に含まれている疎水性香気成分は、1種類のみであってもよく、2種類以上であってもよい。また、化学合成品であってもよく、動植物等の天然物から抽出・精製されたものであってもよい。
本発明において、疎水性液滴を形成する疎水性液状組成物は、疎水性香気成分のみからなる組成物であってもよく、疎水性香気成分以外の疎水性物質を含有していてもよい。当該疎水性物質としては、例えば、油脂や、天然物からの有機溶媒抽出物に疎水性香気成分と共に抽出された疎水性物質等が挙げられる。より十分な香り増強効果が得られることから、当該液状組成物全体に対する疎水性香気成分の含有量は、15質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、50質量%以上がさらに好ましく、80質量%以上がよりさらに好ましい。
当該疎水性液状組成物は、沸点が比較的高くて不揮発性の成分を含んでいてもよい。含有されている疎水性香気成分が速やかに揮発して香りとして認識されやすくなり、より十分な香り増強効果が得られることから、当該疎水性液状組成物は、構成成分のうち80質量%以上が、沸点が260℃以下の成分であることが好ましい。
例えば、植物に含有されている疎水性香気成分は、植物から抽出された精油に多く含まれている。このため、疎水性液滴を構成する疎水性液状組成物には、精油やその加工物を含有させてもよい。精油の加工物としては、精油の濃縮物や、精油から一部成分を除去したものが挙げられる。精油は、植物の花、蕾、果実(果皮、果肉)、枝葉、根茎、木皮、樹幹、樹脂等から、水蒸気蒸留法、熱水蒸留法(直接蒸留法)等の常法によって植物から留出することができる。精油の加工処理は、蒸留法、晶析法、化学処理法等の常法により行うことができる。
精油は、一般に水より軽く、テルペン類を主成分とする疎水性の液状組成物である。テルペン類は、テルペン炭化水素とテルペノイドとからなる。テルペノイドは、テルペン炭化水素から誘導されるアルコール、アルデヒド、ケトン、エステル等の含酸素誘導体である。
例えば、柑橘類の果実から抽出された精油を含む疎水性液状組成物で疎水性液滴を構成することにより、柑橘類の香りが良好な容器詰飲料を製造できる。柑橘類の特徴香成分は、果実の中でも特に果皮に多く含まれているため、特に果皮から抽出された精油を用いることが好ましい。
柑橘類から得られる精油成分の90%以上は、テルペン炭化水素であり、その主な成分はD−リモネンであるが、香りに対する貢献度は低い。柑橘類の香りを特徴づける成分として重要なのは、精油中に数%存在するアルデヒド類、アルコール類、エステル類などの含酸素化合物(テルペノイド)である。そこで、飲食品に添加される香料としては、D−リモネンなどのテルペン炭化水素を除去し、シトラールなどの含酸素化合物(テルペノイド)の含有比を増大させたテルペンレスオイルやフォールディッドオイルなどが広く使用されている。本発明に係る容器詰飲料においても、疎水性液滴を構成する疎水性液状組成物に、テルペンレスオイルやフォールディッドオイル等を含有させることができる。
柑橘類の精油からテルペン炭化水素を除去し、テルペノイドの含有比を増大させると、香りは強くなるものの、香りの自然さは減弱されるおそれがある。より自然な柑橘類の香りの強い容器詰飲料を製造できるため、疎水性液滴を構成する疎水性液状組成物中のテルペン類全体に対するテルペノイドの含有比は、10〜40質量%であることが好ましく、15〜40質量%であることがより好ましく、20〜40質量%であることがさらに好ましく、20〜30質量%であることがよりさらに好ましい。疎水性液状組成物中のテルペン類全体に対するテルペン炭化水素の含有比は、90質量%以下であることが好ましく、85質量%以下であることがより好ましい。また、疎水性液状組成物中のテルペン類全体に対するD−リモネンの含有量は、40〜60質量%とすることが好ましく、50〜60質量%とすることがより好ましい。また、疎水性液状組成物中のテルペン炭化水素に対するD−リモネンの含有量は、50〜80質量%とすることが好ましく、60〜75質量%とすることがより好ましい。
疎水性液状組成物は、本発明の効果を損なわない限度において、疎水性香気成分以外のその他の成分を含有していてもよい。当該他の成分としては、油溶性溶剤、疎水性香気成分の劣化を抑制する物質等が挙げられる。例えば、疎水性液状組成物は、疎水性香気成分を液状油等の液状の疎水性溶媒に溶解させた油溶性香料を含有させることもできる。また、精油又はその加工物と油溶性香料を両方とも疎水性液状組成物に含有させてもよい。
疎水性液状組成物の密度が、ベース液体の密度より小さい場合、当該疎水性液状組成物から形成される疎水性液滴は、容器詰飲料のベース液体の液面に位置する。通常、容器詰飲料においては、容器の開口部は、容器本体に充填されたベース液体の液面(天面)側に存在する。つまり、ベース液体よりも密度の小さい疎水性液滴は、容器開口部に最も近いベース液体の液面に浮いており、容器開口部付近の空間には、当該疎水性液滴から揮発した疎水性香気成分が含まれる。このため、容器を開封した際のオルソネーザルアロマを強く感じることができる。
疎水性液状組成物の密度は、ベース液体の密度以上であってもよい。この場合、当該疎水性液状組成物から形成される疎水性液滴は、ベース液体の液面に位置している場合もあるが、ベース液体の液中に位置している場合もある。
ベース液体に添加する疎水性液状組成物の量は、疎水性香気成分の量が求める香味の強度やバランスに適した量となるように、適宜決定することができる。本発明に係る容器詰飲料では、疎水性香気成分をベース液体と分離した疎水性液滴として含有しているため、飲料中の疎水性香気成分の含有量が同程度であって、飲料全体に疎水性香気成分が均一に存在している従来の容器詰飲料に比べて、疎水性香気成分の香りがより強く感じられる。例えば、飲料の全量(ベース液体と疎水性液状組成物の総量)に対する疎水性液状組成物の含有量を、好ましくは0.1g/L以上、より好ましくは0.2g/L以上にすることによって、充分な香増強効果が期待できる。一方で、疎水性液状組成物の量が多すぎると、油っぽくなり、飲料としてあまり好ましくはない。飲料の全量に対する疎水性液状組成物の含有量を、好ましくは1.0g/L以下、より好ましくは0.8g/L以下にすることによって、飲料として口当たりの好ましさを入れて維持しつつ、香り増強効果を得ることができる。
<親油性抗酸化物質>
疎水性香気成分には、酸化により劣化し、目的の香りが失われたり、劣化臭の原因となる場合がある。本発明に係る容器詰飲料が、ベース液体の液面に疎水性液滴が位置している場合には、容器の空寸部に存在する酸素の影響を受けやすく、疎水性液滴中の疎水性香気成分が酸化して劣化臭が強くなるおそれがある。そこで、本発明に係る容器詰飲料では、疎水性液滴中の疎水性香気成分の酸化を防止するために、親油性抗酸化物質を含有することが好ましい。親油性抗酸化物質は、水溶性抗酸化物質よりも、容器詰飲料中において疎水性香気成分により近接した状態で存在することができ、疎水性香気成分の酸化による香りの低下や劣化を効果的に抑制することができる。本発明に係る容器詰飲料に含有させる親油性抗酸化物質は、1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。
本発明及び本願明細書において、親油性抗酸化物質とは、疎水性溶媒に親和性が高く、かつ抗酸化作用を有する物質を意味する。親油性抗酸化物質には、両親媒性物質のように、水にも溶解可能な物質も含まれる。例えば、log Pow(n−オクタノール/水分配係数)が−1.5以上、好ましくは−1.0〜4.0であり、かつ抗酸化作用を有する物質を意味する。
親油性抗酸化物質が、水への溶解性もある程度高い場合、親油性抗酸化物質をベース液体中に含有させてもよい。疎水性液滴の周囲のベース液体中の親油性抗酸化物質によって、疎水性液滴に含まれている疎水性香気成分の酸化が抑制され、香りの強さの低下や劣化臭の発生といった香り品質の低下を抑制できる。このような親油性抗酸化物質としては、ポリフェノールが挙げられる。
本発明に係る容器詰飲料に含有させるポリフェノールとしては、特に限定されるものではないが、リモネン等の香気成分の劣化防止効果が高いことから、プロアントシアニジン、エラジタンニン、及びガロタンニンからなる群から選ばれる1種又は2種以上のポリフェノールを含むものが好ましく、プロアントシアニジンを含むものがより好ましい。
プロアントシアニジンは、エピカテキン、カテキン、エピガロカテキン、ガロカテキンが複数個重合した構造を有するポリフェノールであり、その具体例としては、プロシアニジンA1(Procyanidin A1)、プロシアニジンA2(Procyanidin A2)、プロシアニジンB1(Procyanidin B1)、プロシアニジンB2(Procyanidin B2)、プロシアニジンB3(Procyanidin B3)、プロシアニジンC1(Procyanidin C1)、プロシアニジンC2(Procyanidin C2)、プロデルフィニジンB1(ProdelphinidinB1)、プロデルフィニジンB2(ProdelphinidinB2)、プロデルフィニジンB3(ProdelphinidinB3)等が挙げられる。プロアントシアニジンにおけるカテキンの重合態様としては、上で列挙した化合物群の態様に限定されるものでなく、その位置異性体も含まれるものである。また、プロアントシアニジンにはガロイル化されたもの、配糖体化されたものも存在しており、これらも同様の効果を示す。
エラジタンニンとしては加水分解によりエラグ酸を与える、ヘキサヒドロキシジフェニル基、サングイソルボイル基、ガロイル基を有する化合物が挙げられる。具体的には、プニカラジン(Punicalagin)、プニカリン(Punicalin)、カスタラジン(Castalagin)、ベスカラジン(Vescalagin)オイゲニイン(Eugeniin)、サングイインH−1(Sanguiin H−1)、サングイインH−4(Sanguiin H−4)、2,3−ヘキサヒドロキシジフェノイルグルコース(2,3−hexahydroxydiphenoylglucose)、4,6−ヘキサヒドロキシジフェノイルグルコース(4,6−hexahydroxydiphenoylglucose)、ケブラグ酸(Chebulagic acid)、ゲラニイン(Geraniin)、グラナチンA(Granatin A)、グラナチンB(Granatin B)、エラエオカルプシン(Elaeocarpusin)、コリラギン(Corilagin)、コルヌシインA(Cornusiin A)、コルヌシインB(Cornusiin B)、アグリモニイン(Agrimoniin)、エンブリカニン(Emblicanin)、プニグルコニン(Punigluconin)、テリマグランジンI(Tellimagrandin I)、テリマグランジンII(Tellimagrandin II)、カスアリクチン(Casuarictin)、ペデュンクラギン(Pedunculagin)、ケブリン酸(Chebulic acid)等が挙げられる。
ガロタンニンとしては、タンニン酸(tannic acid)、ハマメリタンニン(Hamamelitannin)、モノガロイルグルコース(monogalloylglucose)、ジガロイルグルコース(digalloylglucose)、トリガロイルグルコース(trigalloylglucose)、テトラガロイルグルコース(tetragalloylglucose)、ペンタガロイルグルコース(pentagalloylglucose)、ヘキサガロイルグルコース(hexagalloylglucose)、ヘプタガロイルグルコース(heptagalloylglucose)、オクタガロイルグルコース(octagalloylglucose)、ノナガロイルグルコース(nonagalloylglucose)、デカガロイルグルコース(decagalloylglucose)、ウンデカガロイルグルコース(undecagalloylglucose)、ドデカガロイルグルコース(dodecagalloylglucose)等が挙げられる。
本発明に係る容器詰飲料に含有させるポリフェノールとしては、化学合成品であってもよいが、飲食品の原料として広く使用されていることから、植物から抽出されたものを用いることが好ましい。本発明においては、ポリフェノールを含む植物エキスをそのまま容器詰飲料の原料として用いてもよく、植物エキスからポリフェノール分を精製したものを原料として用いてもよい。本発明に係る容器詰飲料に含有させる植物由来ポリフェノールとしては、ブドウ、オリーブ、ルブス(甜茶)、リンゴ、ナシ、モモ、大麦、グァバ、ホップ、小豆、松樹皮、ゴマ、イチゴ、又はコーヒーから抽出されたものが好ましく、ブドウ、オリーブ、ルブス、リンゴ、大麦、又はホップから抽出されたものがより好ましく、ブドウ種子由来ポリフェノールが特に好ましい。これらの植物由来ポリフェノールの各植物からの抽出は、例えば、特開2007−77122号公報や特許文献3等に記載されている公知の方法又はこれらを改良方法により行うことができる。また、市販されている各種植物エキスを用いることもできる。
親油性抗酸化物質として、本発明に係る容器詰飲料にポリフェノールを含有させる場合、当該容器詰飲料のポリフェノール含有量は、疎水性液滴中の疎水性香気成分に対して十分な香り品質劣化抑制効果が得られる量であれば特に限定されるものではない。例えば、本発明に係る容器詰飲料のベース液体のポリフェノール含有量は、1.0〜30.0mg/Lであることが好ましく、5.0〜15.0mg/Lであることがより好ましい。なかでも、ベース液体のプロアントシアニジンの含有量が、0.75〜22.5mg/Lであることが好ましく、3.75〜11.25mg/Lであることがより好ましい。
親油性抗酸化物質が、水への溶解性が非常に低い場合には、親油性抗酸化物質を疎水性液滴中に含有させることができる。例えば、疎水性液状組成物に、疎水性香気成分と共に親油性抗酸化物質を含有させておくことにより、疎水性香気成分と親油性抗酸化物質を共に含有する疎水性液滴を有する容器詰飲料が製造できる。その他、例えば、乳化香料のオイル粒子中に親油性抗酸化物質を含有させ、この乳化香料をベース液体に均一に分散させることもできる。このような親油性抗酸化物質としては、トコフェロール(α−、β−、γ−、δ−)、トコトリエノール(α−、β−、γ−、δ−)、β−カロテン、レチノール、リコペン、ルテイン、β−クリプトキサンチン等が挙げられる。
親油性抗酸化物質として、本発明に係る容器詰飲料にトコフェロールを含有させる場合、当該容器詰飲料のトコフェロール含有量は、疎水性液滴中の疎水性香気成分に対して十分な香り品質劣化抑制効果が得られる量であれば特に限定されるものではない。例えば、本発明に係る容器詰飲料の疎水性液滴のトコフェロール含有量は、10.0〜100.0mg/Lであることが好ましく、30.0〜80.0mg/Lであることがより好ましく、40.0〜70.0mg/Lであることがさらに好ましい。
<ベース液体>
本発明に係る容器詰飲料のベース液体は、飲料の本体となる可食性の水溶液である。当該ベース液体としては、水を含む各種の飲料をそのまま使用することができる。当該ベース液体としては、ノンアルコール飲料であってもよく、アルコール飲料であってもよい。また、炭酸ガスを含有していない非発泡性飲料であってもよく、炭酸ガスを含有する発泡性飲料であってもよい。また、発酵工程を経て製造される飲料であってもよく、発酵工程を経ずに製造される飲料であってもよい。
本発明に係る容器詰飲料のベース液体は、全体として流動性のある状態であれば、果実パルプ、ゼリー等の固体を含んでいてもよい。また、成分として水を含有していればよく、水、酒類、果汁そのものであってもよい。
ベース液体は、例えば、原料水に、その他の成分を混合し、必要に応じて炭酸ガスを圧入することにより製造できる。当該その他の成分としては、例えば、酒類、炭酸水、果実、野菜類、ハーブ、糖類、香味料、その他の食品素材、食品添加物などが挙げられ、これらを適宜選択して使用する。ベース液体全体として水を含有していればよく、原料水を原料とせず、炭酸水、酒類、果汁等の水を含有する液体を用い、当該液体にその他の成分を混合してもよい。
ベース液体に含有させる酒類としては、原料用アルコール;ウォッカ、ウイスキー、ブランデー、焼酎、ラム酒、スピリッツ、及びジン等の蒸留酒;ワイン、シードル、ビール、日本酒等の醸造酒;リキュール、ベルモットなどの混成酒等が挙げられる。ベース液体に含有させる酒類は、1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。なお、本発明に係る容器詰飲料が酒類と食品素材を混合した液体をベース液体とする場合には、当該飲料は、日本国の酒税法(平成三十年四月一日施行)上、リキュール(エキス分が二度以上)又はスピリッツ(エキス分が二度未満)に分類される。
ベース液体のアルコール度数(エタノールの体積濃度)は特に制限されず、目的とする製品品質に応じて適宜決定される。例えば、ベース液体のアルコール度数を、好ましくは1容量%以上、より好ましくは2容量%以上、さらに好ましくは3容量%以上になるように、ベース液体の酒類含有量を調整することができる。
疎水性香気成分の中には、アルコールに溶解しやすいものもある。疎水性液滴に含有させる疎水性香気成分がアルコールに溶解しやすい香気成分であり、かつベース液体のアルコール濃度が高い場合には、疎水性液滴中の疎水性香気成分の一部がベース液体に溶解してしまうことがある。このため、ベース液体のアルコール含有量は、ベース液体と疎水性液滴が分離可能であり、かつ風味のバランスを崩さない程度とすることが好ましい。例えば、アルコール度数を好ましくは15容量%以下、より好ましくは10容量%以下、さらに好ましくは8容量%以下になるように、ベース液体の酒類含有量を調整することができる。
なお、疎水性液滴中の疎水性香気成分の一部がベース液体に溶解した後でも、疎水性香気成分を含有する疎水性液滴がベース液体と分離した状態で飲料中に残るように、予め損失分を加味した十分量の疎水性液状組成物をベース液体に混合させることが好ましい。具体的には、ベース液体に疎水性液状組成物を混合させた後の飲料全体に対する疎水性香気成分の濃度、すなわち、([疎水性液状組成物を混合させる前のベース液体に含有されていた疎水性香気成分の量]+[ベース液体に混合させた疎水性液状組成物に含有されていた疎水性香気成分の量])/([ベース液体の量]+[疎水性液状組成物の量])が、当該疎水性香気成分の25℃におけるベース液体に対する溶解度よりも大きくなるように、疎水性液状組成物の疎水性香気成分の濃度やベース液体へ混合させる量を適宜調整することが好ましい。
ベース液体に含有させる果実、野菜類、ハーブは、特に限定されるものではなく、飲料に一般的に使用される果実等を適宜選択して使用することができる。例えば、果実やハーブとしては、疎水性香気成分に由来する果実やハーブとして挙げられたものを用いることができる。また、野菜類としては、トマト、ニンジン、ホウレン草、キャベツ、メキャベツ、ブロッコリー、カリフラワー、セロリ、レタス、パセリ、クレソン、ケール、大豆、ビート、赤ピーマン、カボチャ、小松菜等を用いることができる。ベース液体に含有させる果実、野菜類、ハーブは、1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。
ベース液体には、果実等の細断物をそのままベース液体に含有させてもよく、果汁や野菜汁のような搾汁を原料として添加してもよい。なお、果汁は、日本国においては果実飲料の日本農林規格、国際的には果汁及びネクターに関するコーデックス規格(CODEX STAN 247‐2005)に定義されている。ベース液体の調製に使用する原料としては、濃縮果汁や還元果汁等を使用してもよく、不溶性固形分の一部が除去されて清澄化された果汁を用いてもよい。
ベース液体には、果実エキス、野菜エキスを原料として添加してもよい。特に、疎水性液滴に含まれる疎水性香気成分が、果実やハーブの特徴香成分である場合には、ベース液体には、当該疎水性香気成分と同種の果実等の果汁やエキスを含有することが好ましい。
果実エキス、野菜エキスは、果実や野菜の細断物から水やアルコールを用いて果実や野菜に含まれる成分を抽出したものである。これらのエキスは、例えば、熱水抽出による方法や、液化ガスを用いて果実成分を溶出させた後、液化ガスを気化させ、果実成分を分離、回収する方法などによって製造される。
糖類は、単糖類・二糖類の総称であり、砂糖(ショ糖、スクロース)、ブドウ糖(グルコース)、果糖(フルクトース)、異性化糖などがある。これらの糖類をベース液体に含有させることで、飲料に甘味やボディ感等を付与することができる。ベース液体に含有させる糖類は、1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。
さらに、ベース液体には、香味料やその他の食品素材を含有させることができる。その他の食品素材としては、例えば、食物繊維、酵母エキス、タンパク質若しくはその分解物等が挙げられる。中でも、水溶性食物繊維は、飲料にボディ感やその他の機能性を付与するために広く使用されている。水溶性食物繊維とは、水に溶解し、かつヒトの消化酵素により消化されない又は消化され難い炭水化物を意味する。水溶性食物繊維としては、例えば、大豆食物繊維、ポリデキストロース、難消化性デキストリン、ガラクトマンナン、イヌリン、グアーガム分解物、ペクチン、アラビアゴム等が挙げられる。これらの水溶性食物繊維は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
ベース液体に含有させてもよい食品添加物は、国の法令に基づいて使用可能な物品を用いることができ、その範囲において特に制限されない。例えば、食品の品質を保つための保存料、水溶性の抗酸化物質、食品の嗜好性の向上を目的とした着色料、香料、甘味料、酸味料、乳化剤等、食品の製造または加工のために必要なpH調整剤、消泡剤、起泡剤等や、栄養成分の補充、強化に使われる栄養強化剤を、必要に応じて含有させることができる。
以下では、一部の食品添加物について簡単に説明する。
着色料は、食品の色調を改善する食品添加物であり、化学合成系着色料と天然系着色料に大別され、日本国の食品衛生法では、指定添加物、既存添加物、一般飲食物添加物に分類される。着色料としては、食品を褐色に着色するカラメル色素が多く使用されている。なお、カラメル色素の副次効果として、飲料にロースト感やコク等を付与することができる。
香料は、食品に香気を与える、又は増強するために用いられる。食品用香料には、天然物から抽出した天然香料と化学的に合成された合成香料がある。天然香料は、日本国の食品衛生法では、「動植物より得られる物又はその混合物で、食品の着香の目的で使用される添加物」と定義され、使用できる動植物名が例示として「天然香料基原物質リスト」に記載されている。また、合成香料のほとんどは食品に存在するものと同一成分を化学合成した化合物であり、「食品衛生法施行規則別表第1」のなかで指定されている。
食品用香料は、単品で使用されることは少なく、通常、多数の香料化合物を組み合わせた調合製品が用いられる。香料製品の形態としては、水溶性香料、油溶性香料、乳化香料、粉末香料などがある。水溶性香料は、香料ベースを水溶性溶剤である含水アルコール、プロピレングリコールなどで抽出・溶解したものである。油溶性香料は、香料ベースを植物油などで溶解したものである。乳化香料は、乳化剤や安定剤を使用し、香料ベースを水に乳化させ微粒子状態にしたものである。飲料ににごりを与えることもありクラウディーとも呼ばれる。粉末香料は、香料ベースをデキストリンや天然ガム質、糖、でんぷんなどの賦形剤とともに乳化させた後、噴霧乾燥させて粉末化したり乳糖などに香料ベースを付着させたりしたものである。飲料には、通常、水溶性香料と乳化香料が用いられる。
特に、疎水性液滴に含まれる疎水性香気成分が、果実やハーブの特徴香成分である場合には、ベース液体には、当該疎水性香気成分と同種の果実等の香料を含有することが好ましい。
甘味料は、食品に甘味をつける目的で使用されるものであるが、前述した糖類や一部の低甘味度物質(水あめ、エリスリトール、マルチトール、ラクチトールなど)は、食品に区分され、食品添加物には区分されない。食品添加物に区分される低甘味度物質としては、L‐アラビノース、D‐キシロース、トレハロース、D‐ソルビトール、キシリトール、マンニトールなどがあり、高甘味度物質としてはアスパルテーム、ネオテーム、アセスルファムカリウム、サッカリン類、スクラロース、グリチルリチン酸二ナトリウム、ステビア抽出物、カンゾウ抽出物、タウマチンなどがある。なお、日本国の食品衛生法では、甘味料は、指定添加物、既存添加物、一般飲食物添加物に分類される。
飲料には、従来から飲料に用いられる糖類(砂糖、ブドウ糖、果糖)と甘味特性の近いアスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロースなどがよく用いられる。本発明におけるベース液体においても、これらの飲料に汎用されている甘味料の1種以上を使用することが好ましい。
酸味料は、食品に酸味を与えたり、酸味を増強したりするために用いられる。酸味料には、クエン酸や乳酸のような有機酸及びそれらの塩類と、リン酸、二酸化炭素のような無機酸がある。有機酸とその塩を併用すると、緩衝作用によって特定のpHを保持しやすくすることができる。
なお、日本国において酸味料として一括名表示ができる物質は、指定添加物では、アジピン酸、クエン酸、クエン酸三ナトリウム、グルコノデルタラクトン、グルコン酸、グルコン酸カリウム、グルコン酸ナトリウム、コハク酸、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、酢酸ナトリウム、DL−酒石酸、L−酒石酸、DL−酒石酸ナトリウム、L−酒石酸ナトリウム、二酸化炭素、乳酸、乳酸ナトリウム、氷酢酸、フマル酸、フマル酸一ナトリウム、DL−リンゴ酸、DL−リンゴ酸ナトリウム、リン酸、既存添加物では、イタコン酸、フィチン酸、α−ケトグルタル酸が挙げられる。
飲料に用いる酸味料は、飲料の風味(フレーバー)に応じて選択される。例えば、柑橘類風味の飲料では柑橘類に多く含まれるクエン酸及びクエン酸塩、ブドウ風味の飲料ではブドウに多く含まれる酒石酸及び酒石酸塩、リンゴ風味の飲料ではリンゴに多く含まれるリンゴ酸及びリンゴ酸塩が選択される場合が多い。
また、飲料のpHは、微生物制御、香気成分の劣化抑制などの目的に応じて調整されてもよい。一般に、飲料のpHが低いほど微生物が発育し難くなる。一方で、pHが低すぎると、酸味が強くなりすぎる。また、香気成分の中には、pHが低くなると劣化しやすいものもある。飲料として適した酸味の強さや香気成分の劣化抑制の点から、ベース液体のpHは、好ましくは2.0以上、より好ましくは2.5以上、さらに好ましくは3.0以上である。また、微生物の生育抑制、殺菌条件の強度等を考慮し、ベース液体のpHは、アルコールを含有していない場合は、好ましくは5.0以下、より好ましくは4.0以下、さらに好ましくは4.0未満であり、アルコールを含有している場合は、好ましくは6.5以下、より好ましくは5.0以下である。
例えば、疎水性液滴に、pHが低いほど劣化しやすくなる疎水性香気成分が含有されている場合は、ベース液体のpHを比較的高くすることが好ましい。例えば、シトラールはpHが低いほど劣化しやすくなるため、本発明に係る容器詰飲料が、シトラールを含むレモン風味の飲料の場合、ベース液体のpHを3.0以上にすることが好ましく、3.5以上にすることがより好ましく、微生物の発育を充分に抑制でき、かつレモン風味として好ましい酸味を達成しやすいため、pHを3.0〜4.0にすることが好ましく、3.5〜3.7にすることが特に好ましい。
乳化剤は、食品に乳化、分散、浸透、洗浄、起泡、消泡、離型などの目的で使用されるが、飲料では液中に油を分散(乳化)させる目的で使用される場合が多い。例えば、疎水性成分を水中に均一に分散させたり、原材料由来の油脂成分の分離を抑制したりするために用いられる。
上述した食品素材や食品添加物は一例であり、本発明に係る容器詰飲料に含有させるものはこれらに限定されるものではない。使用する食品素材や食品添加物の種類や含有量は、目的に応じて適宜選択、調整すればよい。
ベース液体は、全ての原料を均一に混合して調製する。原料に疎水性の成分が含まれている場合には、適切な乳化剤等を使用して乳化処理して均一にする。また、ベース液体に果実パルプ等の不溶性固形分が含まれている場合も、均一になるように充分に攪拌処理する。乳化処理や攪拌処理は、飲料の製造で汎用されているホモジナイザーや攪拌装置を使用して行うことができる。例えば、ベース液体が疎水性香気成分を含有する場合には、当該疎水性香気成分がベース液体中に均一に分散するように、乳化剤を併用して混合することが好ましく、適切な乳化処理を行うことがより好ましい。
ベース液体が、疎水性の成分や不溶性固形分を含有していない場合には、これらを含有する場合よりも、ベース液体の均一性がより容易に安定して保持できる。ベース液体が均一であるほうが、疎水性液滴がベース液体からより安定して分離でき、好ましい。
さらに、ベース液体に炭酸ガスを圧入して、炭酸飲料としてもよい。このときのガスボリュームは、目的に応じて適宜決定すればよいが、容器の耐圧や製造条件によって制限されることになる。例えば、製造工程において加熱殺菌を行う場合は、加熱中の容器内の圧力を、容器の耐圧以下にする必要があるため、加熱殺菌を行わない場合に比べて、ガスボリュームは制限される。
なお、炭酸ガスが静菌作用を有することから、容器内の炭酸ガス圧力が20℃で98kPa以上であり、飲料に果汁や果実、乳等の植物又は動物の組織成分を含まない場合、加熱殺菌が不要であり、ガスボリュームを高くすることができる。
調製されたベース液体に、不溶物が生じた場合には、当該ベース液体に対して濾過等の不溶物を除去する処理を行うことが好ましい。不溶物除去処理は、特に限定されるものではなく、濾過法、遠心分離法等の当該技術分野で通常用いられている方法で行うことができる。本発明においては、不溶物は濾過除去することが好ましく、珪藻土濾過により除去することがより好ましい。
<容器>
ベース液体と疎水性液状組成物とを容器に封入する、すなわち、充填して密閉することにより、本発明に係る容器詰飲料が得られる。使用できる容器に特に制限はなく、ツーピース飲料缶、スリーピース飲料缶、ボトル缶、可撓性容器、ガラス瓶などを用いることができる。可撓性容器としては、PE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)、EVOH(エチレン・ビニルアルコール共重合体)、PET(ポリエチレンテレフタレート)等の可撓性樹脂をボトル形状等に成形してなる容器が挙げられる。可撓性容器は、単層樹脂からなるものであってもよく、多層樹脂からなるものであってもよい。
本発明に係る容器詰飲料が発泡性飲料の場合、耐圧性の高い容器を使用する。現在、流通しているアルミニウム(合金)製ツーピース飲料缶やアルミニウム(合金)製ボトル缶のメーカー保証耐圧は、高いもので686kPa程度であり、実際の耐圧を考慮すると加熱殺菌を要する場合はおおよそ3.2ガスボリューム以下、加熱殺菌が不要な場合はおおよそ3.8ガスボリューム以下となる。
疎水性香気成分を始めとする疎水性物質の中には、樹脂を溶解又は劣化させるものがある。このため、可撓性容器や容器の一部に樹脂を使用している容器を用いる場合には、飲料中の疎水性液滴中に含まれている疎水性の物質によって溶解や劣化等の影響を受けない樹脂を用いることが好ましい。例えば、ツーピース飲料缶やスリーピース飲料缶などに用いられるシーリングコンパウンドは樹脂を主成分としており、ボトル缶のキャップのライナーにも樹脂が含まれる。
例えば、柑橘類から得られる精油成分の多くはD−リモネンであり、飲料に自然な柑橘類の香りを付与するためには、疎水性物質にD−リモネンをある程度含有させる必要がある。一方で、D−リモネンは、スチレン・ブタジエンゴム等を主成分とするシーリングコンパウンドやキャップライナーを溶解させる恐れがある。したがって、D−リモネンを含有する疎水性液滴を含む飲料を封入する容器としては、D−リモネン耐性の高い樹脂が使用されている容器、例えば、フッ素ゴム、ニトリルゴム(NBR)、鎖状低密度ポリエチレン(L−LDPE)等が使用された容器が好ましい。このような容器としては、フッ素ゴム、ニトリルゴム(NBR)等を主成分とするシーリングコンパウンドを使用したツーピース飲料缶又はスリーピース飲料缶や、キャップライナーとしてL−LDPEを用いたボトル缶が挙げられる。
<容器詰飲料>
本発明に係る容器詰飲料は、疎水性香気成分を、ベース液体に分離した疎水性液滴に内包した状態で含有する。疎水性液滴は、飲料を顕微鏡で観察することで確認できる。また、疎水性液滴の密度がベース液体よりも小さい場合には、疎水性液滴は、飲料の液面に浮いているため、目視で確認できる場合もある。
また、本発明に係る容器詰飲料としては、疎水性液滴が飲料中の限定された領域に存在していることが好ましい。疎水性液滴が集積していることにより、容器の開栓時や喫飲時にこれらが内包する疎水性香気成分がより強く感じられ、より優れた香り増強効果が得られる。
例えば、疎水性液滴の密度がベース液体よりも小さい場合には、疎水性液滴はほぼ飲料の液面に存在する。このため、疎水性液滴中に含まれている疎水性香気成分の濃度は、液面側が他の領域よりも明らかに高濃度である。例えば、容器詰飲料の高さ方向の一番上側(液面側)10分の1の分画(例えば、400mLの飲料の場合、液面から40mL分の分画)における疎水性香気成分の濃度は、その他の分画、例えば、高さ方向の一番下の分画よりも少なくとも10倍以上、好ましくは100倍以上高い。
なお、各飲料の各種の香気成分の濃度は、例えば、GC−MS(ガスクロマトグラフ質量分析)により定量することができる。
<容器内の酸素濃度>
本発明に係る容器詰飲料では、疎水性液滴中の疎水性香気成分の酸化を防止するために、親油性抗酸化物質の使用に代えて、又は親油性抗酸化物質を含有させた上でさらに、容器内の酸素濃度を20.0mg/L未満、好ましくは15.0mg/L以下、より好ましくは1.0〜10.0mg/Lに低く調整する。ここで、「容器内の酸素濃度」とは、容器内の飲料に溶存している酸素と、空寸部に存在する酸素の合計量から求められる濃度である。容器内の酸素濃度は、例えば、「Orbisphere 6110パッケージアナライザー」(HACH社製)等の非破壊式酸素濃度測定器を用いて測定することができる。
例えば、容器詰飲料の空寸部に存在する酸素を減少させることにより、容器内の酸素濃度を低減させることができる。例えば、飲料を充填する前、又は、飲料を充填した後、密封する前に、容器の開口部から窒素ガスや二酸化炭素ガス等の不活性ガスを吹き込んで充填させること(ガッシング)により、空寸部の酸素量を減少させることができる。
<容器詰飲料の製造方法>
本発明に係る容器詰飲料は、疎水性液状組成物を、疎水性液滴が形成されるようにベース液体に混合すること、及び疎水性液滴中の疎水性香気成分の酸化を抑制するため、ベース液体又は疎水性液状組成物に原料として親油性抗酸化物質を含有させること以外は、一般的な容器詰飲料と同様にして製造することができる。また、親油性抗酸化物質を含有させない場合には、密封前に不活性ガスでガッシングを行う。密封前の不活性ガスによるガッシングは、親油性抗酸化物質を含有させた場合にも行うことが好ましい。
なお、以降において、目的の飲料のベース液体としては未完成の液体を、「ベース液体中間液」という。ベース液体中間液としては、例えば、原料の一部を含有していないもの、後工程で除去される成分等を含むものなどがある。
一般的に、容器詰飲料製品は、濃縮シロップを調製するシロップ調製工程、濃縮シロップと水とを混合する希釈工程、飲料を容器に充填する充填工程等を経て製造される。発泡性飲料の場合、希釈工程と充填工程の間に、必要に応じて炭酸ガスを圧入するガス導入工程が設けられる。本発明に係る容器詰飲料がガス導入工程なしに製造される場合、例えば、濃縮シロップがベース液体中間液に相当し、濃縮シロップと水とを混合して希釈された液がベース液体に相当する。本発明に係る容器詰飲料がガス導入工程を経て製造される場合、例えば、濃縮シロップとその希釈液がベース液体中間液に相当し、濃縮シロップの希釈液に炭酸ガスを導入した液体がベース液体に相当する。
疎水性液状組成物は、シロップ調製工程後から容器に充填し密封するまでの間のいずれかの時点で、ベース液体中間液又はベース液体に混合される。最終的に喫飲のために開封される時点において、原料として添加された疎水性液状組成物の少なくとも一部が、ベース液体と分離した状態の疎水性液滴として存在していればよい。
ベース液体と疎水性液状組成物は、それぞれ別個に準備されることが好ましい。同一種の果実から得られた果汁をベース液体に、果実から得られた疎水性香気成分を疎水性液状組成物に用いる場合においても、果汁と疎水性香気成分を同じ果実から調製する必要はなく、別の果実から果汁と疎水性物質をそれぞれ準備することによって、工業的な大量生産に有利となる。
例えば、容器本体に、ベース液体を充填した後、疎水性液状組成物を添加して充填する。ベース液体と疎水性液状組成物をそれぞれ別個に容器に充填することにより、疎水性液状組成物をベース液体から分離した疎水性液滴として存在させることができ、その後当該容器本体に蓋をして密封することで、本発明に係る容器詰飲料が製造できる。疎水性液状組成物は、全量を一度に添加してもよく、複数回に分けて添加してもよい。また、疎水性液状組成物は、1箇所の注入口から容器本体に添加してもよく、複数箇所に設置された注入口から少量ずつ容器本体に添加してもよい。
容器本体に、ベース液体を充填した後、疎水性液状組成物を添加して充填する態様においては、容器本体の密封される前の開口部の面積は、容器本体に充填されたベース液体の液面の面積よりも小さい方が好ましく、ベース液体の液面の面積の70%以下とすることがより好ましく、50%以下とすることがさらに好ましく、30%以下とすることがよりさらに好ましい。容器本体の密封される前の開口部の面積が、ベース液体の液面の面積よりも小さくすることによって、疎水性液状組成物を添加した際にベース液体の液面に当該疎水性液状組成物が跳ね返り、容器外へ流出してしまうことを防止できる。容器本体の密封される前の開口部の面積が相対的に小さい容器としては、ボトル缶、可撓性容器、ガラス瓶等のボトル形状の容器が挙げられる。
容器本体に、疎水性液状組成物を充填した後、ベース液体を充填し、その後当該容器本体に蓋をして密封することによっても、本発明に係る容器詰飲料が製造できる。先に疎水性液状組成物を充填させることにより、容器本体の密封される前の開口部の面積の大きさにかかわらず、容器本体に添加する際の疎水性液状組成物の跳ね返りによる容器外への流出を防止できる。
本発明に係る容器詰飲料は、ベース液体に疎水性液状組成物を分散させた溶液を予め調製し、当該溶液を容器本体に充填してもよい。充填後の容器本体に蓋をして密封し、その後、当該容器内において、ベース液体から分離した疎水性液滴を形成させることによって本発明に係る容器詰飲料を製造することもできる。ベース液体に疎水性液状組成物を分散させた溶液は、ベース液体に疎水性液状組成物を混合して分散させて調製してもよく、ベース液体中間液に疎水性液状組成物を混合して分散させ、得られた分散液にさらに残りの原料を混合して調製してもよい。
容器詰飲料がアルコール飲料であって、ベース液体がアルコールを含有している場合には、濃縮シロップのアルコール度数は20質量%以上と高くなる場合がある。このため、ベース液体がアルコールを含有している場合には、濃縮シロップを水で希釈して得られたベース液体に、疎水性液状組成物を混合して分散させることが好ましい。
水を主たる成分とするベース液体と疎水性液状組成物とは、非常に馴染みにくい。そこで、ベース液体と疎水性液状組成物を混合する際に、分散剤や乳化剤を適宜選択して使用したり、攪拌強度を調整することにより、疎水性液状組成物が、混合処理後の一定期間はベース液体中に分散しているが、その後ベース液体から分離して疎水性液滴を形成させることができる。ベース液体と疎水性液状組成物を混合して得られた分散液は、少なくとも混合処理後から容器本体に充填するまでの間、好ましくは混合処理後から24時間以上、より好ましくは24〜240時間、さらに好ましくは24〜120時間、よりさらに好ましくは48〜120時間経過する時点まで疎水性液状組成物がベース液体内に分散しており、その後、疎水性液滴が形成される。
疎水性液状組成物がベース液体に分散している分散液からの疎水性液状組成物の分離は、一定時間以上静置する以外にも、温度変化、塩の添加、遠心力や剪断力の付与、電圧印加、酸や塩基の添加、解乳化剤の添加などの処理によっても行うことができる。容器詰飲料に対して加熱殺菌処理を行う場合は、加熱殺菌工程の加熱によって、ベース液体と疎水性液状組成物とを分離させてもよい。ベース液体から疎水性液状組成物を分離させる分離処理は、疎水性液状組成物をベース液体に分散させた後から好ましくは24〜240時間経過後、より好ましくは48〜120時間経過後に行う。
疎水性液状組成物をベース液体に分散させた分散液は、必ずしも均一である必要はなく、当該分散液を複数の容器本体内に同量ずつ充填したときに、ベース液体及び疎水性液状組成物の含有量がおおよそ一定(±20質量%)になる程度に分散していればよい。
ベース液体がアルコールを含有する場合、アルコールの添加によっても、疎水性液状組成物が水性媒体に分散している分散液からの疎水性液状組成物の分離を行うことができる。例えば、原料とする酒類を混合する前のベース液体中間液を調製し、当該ベース液体中間液に疎水性液状組成物を混合して分散させる。得られた分散液を容器本体に充填した後、当該容器本体内に酒類を添加する。添加された酒類により分散状態は不安定となり、疎水性液状組成物が分離して疎水性液滴が形成される。その後、当該容器本体を密封することにより、本発明に係る容器詰飲料が製造できる。疎水性液状組成物を分散させるベース液体中間液は、酒類以外の他の全ての原料が混合されていてもよく、酒類以外の幾つかの原料も混合前であり、酒類と共に残りの原料も容器本体に添加して、目的の処方のベース液体を調製してもよい。
なお、ベース液体又はベース液体中間液中に疎水性液状組成物を分散させる方法として分散剤や乳化剤を用いた場合、最終的に得られた容器詰飲料は、分散剤や乳化剤を含有する。また、上記以外の製造に関わる工程については、特に制限されない。
日本国においては、食品衛生法により、飲料に植物又は動物の組織成分を含有する場合、殺菌又は除菌を要することが定められている。容器詰飲料においては、通常、飲料を容器に密封した後、加熱殺菌が行われる。本発明においても、容器詰飲料の製造工程において、必要に応じて加熱殺菌処理を行う。加熱殺菌処理は、容器に充填前に行ってもよく、容器充填後に行ってもよい。殺菌方法としては、UHT(超高温)殺菌処理、パストライザー殺菌処理、レトルト殺菌処理等の常法により行うことができる。
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
レモンの果皮から抽出された疎水性香気成分を、ベース液体とは分離して含有させた容器詰飲料について、2種類の親油性抗酸化物質(ポリフェノール、トコフェロール)と1種類の水溶性抗酸化物質(アスコルビン酸)をそれぞれ含有させ、香り品質に対する影響を調べた。
<対照区サンプルの調製>
まず、原料用アルコール(エタノール濃度:95.3容量%)を6.1質量%、ショ糖を2.1質量%、無水クエン酸を0.3質量%、クエン酸ナトリウムを0.2質量%、及び水を混合して、対照ベース液体を調製した。調製された対照ベース液体は、炭酸ガスを圧入してガスボリュームを3.0GV(容量/容量)とした後、446mL容のアルミニウム(合金)製ボトル缶の缶胴に、400mL充填した。次いで、当該缶胴内の液面に、レモンオイルを0.3g/L滴下したところ、飲料の液面にレモンオイルの液滴が浮いていることが目視で確認できた。その後、スクリュー式キャップで蓋をして密封することにより、容器詰飲料(アルコール度数5.8質量%)を製造した。
レモンオイルは、レモンの果皮から抽出された疎水性組成物(シングルオイル)と、このシングルオイルのテルペン炭化水素の一部を除去してテルペノイドの含有比を増大させた疎水性組成物(フォールディッドオイル)とを混合した疎水性液状組成物であった。レモンオイルに含まれるテルペン類のうち、テルペン炭化水素の含有量は84.0質量%であり、さらに、テルペン炭化水素のうち、D−リモネンの含有量は68.2質量%であった。
製造された容器詰飲料は、レモンオイルに代えて、対照ベース液体にレモン乳化香料を添加した以外は同様にして製造された容器詰飲料よりも、開封時に感じられるレモンの香り(オルソネーザルアロマ)が強く、好ましいものであった。
<試験区1−1〜1−4のサンプルの調製>
対照ベース液体に、ブドウ種子エキス(総ポリフェノール100質量%、プロアントシアニジン75質量%以上)を、総ポリフェノール濃度が1.00、5.00、10.0、又は20.0mg/Lとなるように混合したものをベース液体とした以外は、対照区サンプルと同様にして、容器詰飲料を製造した。
<試験区2−1〜2−4のサンプルの調製>
レモンオイルに、トコフェロール(「イーミックス−35L」、三菱ケミカルフーズ社製、総トコフェロール34質量%以上)を、トコフェロール濃度が3.4、17.0、34.0、又は68.0mg/Lとなるように混合した以外は、対照区サンプルと同様にして、容器詰飲料を製造した。
<試験区3−1〜3−4のサンプルの調製>
対照ベース液体に、L−アスコルビン酸を、L−アスコルビン酸濃度が200、400、600、又は800mg/Lとなるように混合したものをベース液体とした以外は、対照区サンプルと同様にして、容器詰飲料を製造した。
<保管後の香りに対する影響の測定>
製造された各容器詰飲料を、4℃で24時間、45℃で120時間、又は60℃で72時間保管した。保管後に開封して、「開封時のレモンの香りの質」について官能評価を行った。
官能評価は、開封時にレモンの香気の質について、4℃で24時間保管したサンプルを基準として、45℃で120時間保管したサンプルと60℃で72時間保管したサンプルが、4℃で24時間保管したサンプルに比べてどの程度劣化(変化)したかについて、相対的に評価した。レモンの香気の質が基準と同程度である場合を評点1とし、評点が高くなるほど、基準からの劣化(変化)の度合いが大きい、とした。官能評価は、訓練されたパネリスト3名で行い、全パネリストの評価点の平均値を、評価対象の評価点とした。
試験区1〜3の評価結果を、対照区の結果と共に、それぞれ表1〜3に示す。表1中、括弧内の数値は、含有させたポリフェノールのうち、プロアントシアニジンの量を示す。この結果、親油性抗酸化物質を添加した試験区1及び試験区2では、いずれも、45℃で120時間保管したサンプルと60℃で72時間保管したサンプルの評点は、親油性抗酸化物質の添加量依存的に小さくなっており、劣化度合いが小さくなる傾向が観察された。特に、試験区1−3、試験区1−4、試験区2−4では、45℃で120時間保管したサンプルが、4℃で24時間保管したサンプルと同程度に、新鮮なレモンの香りがしており、良好であった。一方で、水溶性抗酸化物質を添加した試験区3では、添加量にかかわらず、みな対照区と同程度に、保管によってレモンの香りは劣化した。これらの結果から、ベース液体又は疎水性液滴に、親油性抗酸化物質を含有させることにより、保管後の香気成分の香り品質の劣化を抑制できることがわかった。
試験区1のサンプル1−1〜1−4はいずれも、保管後には、ポリフェノールがオイルに付着して液面に浮いていた。レモンオイルを別添しない場合には、保管後でもポリフェノールの浮きは確認されなかった。また、ポリフェノールの添加量が多くなるほど、飲み応えが改善された。ただし、ポリフェノールは渋味があるため、試験区1−4では、渋みが強くなりすぎていた。
試験区2のサンプル2−1〜2−4はいずれも、4℃で24時間保管したサンプル同士を比較したところ、トコフェロールの添加量が多くなるほど、レモンの香りの香り立ちが弱くなっていた。これは、トコフェロールにより、レモンオイルの粘度が高くなり、これにより香気成分の揮発が抑制されたためと推察された。
[実施例2]
レモンの果皮から抽出された疎水性香気成分を、ベース液体とは分離して含有させた容器詰飲料について、香り品質に対する容器の空寸に存在している酸素の影響を調べた。
<試験区4−1〜4−4のサンプルの調製>
ベース液体を充填する際に、容器内の空気を炭酸ガスと置換するガッシングを行って容器内の酸素濃度を低減させた以外は、実施例1の対照区と同様にして容器詰飲料を製造した。ガッシングを行う時間を変化させることにより、容器内の酸素濃度の異なる容器詰飲料を調製した。
製造された容器詰飲料の酸素濃度は、「Orbisphere 6110パッケージアナライザー」(HACH社製)を使用して測定した全パッケージ酸素(TPO)の値である。測定結果を表4に示す。実施例1と同様にして、4℃で24時間又は45℃で120時間保管し、保管後に開封して、「開封時のレモンの香りの質」について、実施例1と同様にして官能評価を行った。評価結果を表4に示す。なお、表4中、試験区4−3サンプルは、実施例1の対照区と同じである。
表4に示すように、容器内の酸素濃度が低下するほど、45℃で120時間保管したサンプルの評点は小さくなっており、劣化度合いが小さくなる傾向が観察された。これらの結果から、容器内の酸素濃度を低下させることにより、香気成分の劣化は抑制され、香りの良好な容器詰飲料が得られることが確認された。