JP6951815B1 - アンカーボルトを用いた器具取付の施工方法 - Google Patents

アンカーボルトを用いた器具取付の施工方法 Download PDF

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Abstract

【課題】器具を取り付けるアンカーボルトが規定の引き抜き荷重に耐えられるだれの強度で固定されているかを容易に判定する。【解決手段】呼び径Mのアンカーボルトを用意し、コンクリート壁面に、このアンカーボルトが挿入される下穴を、規定された深さLより予め定めた寸法ΔLだけ深く形成する。アンカーボルトを下穴の開口部よりも奥まった位置に固定する処置を行ない、アンカーボルトのネジ部に螺合部材を螺合して器具を取り付け、螺合部材を締め付けて器具をアンカーボルトに固定する。このとき、螺合部材をネジ部に締め付ける際のトルクが呼び径のアンカーボルトに対して定められた引き抜き荷重の定格に対応して規定した規定トルクに達した場合には、アンカーボルトは、規定の引き抜き荷重の定格を満たしていると判定する。【選択図】図2

Description

本開示は、アンカーボルトを用いて行なう器具取り付けの施工方法に関する。
トンネル内などのコンクリート壁面・天井などに、照明器具を取り付けたら、ケーブルを保持するケーブル保持具などを取り付ける場合、後施工タイプのアンカーボルトが用いられる。後施工タイプのアンカーボルトでは、硬化されたコンクリートからなる母材に下穴をあけ、アンカーボルトを挿入し、下穴とアンカーボルトの隙間を埋めて固着させ、設備機器や構造物に取り付ける。こうした後施工タイプのアンカーボルトには、打ち込み型と接着型がある(例えば、下記特許文献1)。
いずれの場合も、コンクリートに対してハンマドリルなどを使って下穴を開け、ここにアンカーボルトを挿入して固定する。こうした下穴は、アンカーボルトの大きさに適した径と深さに形成する必要がある。打ち込みアンカーボルトでは、下穴を形成すると、下穴加工時に生じた切り粉などを排除し、そこに打ち込みアンカーボルトをしっかりと差し入れ、アンカーボルトの芯や外周部など特定の箇所をハンマで叩くと、打ち込みアンカの下部が広がり、下穴の内部に食い込む。これにより、アンカーボルトは、コンクリートの躯体などの母材にしっかりと固定される。
こうした打ち込みアンカーボルトには、雄ネジタイプと雌ネジタイプの製品があるが、いずれのタイプも特定の部位に衝撃を加えることでスリーブに設けられた拡開部が拡張し、コンクリートの下穴に固定される。打ち込みの打撃力が不足していれば、拡開部が十分に拡張せず、所望の固定力を得ることができない。アンカーボルトを所定の打撃力を打ち込んでも、下穴の内径が、用いるアンカーボルトに対して規定された寸法より大き過ぎれば、やはり十分な固定強度を得ることができない。こうした課題は、接着型のアンカーボルトの場合でも同様であり、アンカーボルトに対する下穴の径と深さや、充填される接着剤の量などは規定されており、規定を守らないと、十分な強度が発揮できない。
特開2020−193521号公報
このため、従来から、施工済みのアンカーボルトが十分な耐久力を持っているか、検査することが行なわれている。検査は、コンクリートの躯体に、施工済みのアンカーボルトに治具を介してテスト装置を取り付け、コンクリートの躯体からアンカーボルトを引き抜くのに要した荷重(引き抜き荷重)を計測する。引き抜くのに必要な荷重が一定以上あれば、施工されたアンカーボルトは規定を満たしていると判断する。この場合、引き抜き荷重を計測したアンカーボルトは、下穴から引き抜かれてしまうから、破壊検査になる。このため、こうしたアンカーボルトの検査は抜き取り検査にならざるを得なかった。したがって、例えばトンネル内に照明器具を多数取り付けると言った場合、施工された多数のアンカーボルトの全てが十分な強度を備えているかを保証することは困難であった。
本開示は、アンカーボルトを用いた器具取付の施工方法としての態様を含む。この施工方法において、器具を取り付けるためのネジ部を有する呼び径Mのアンカーボルトを用意し、コンクリート壁面に、前記呼び径Mのアンカーボルトが挿入される下穴を、前記呼び径Mのアンカーボルトに対して規定された内径Wで、規定された深さLより予め定めた寸法ΔLだけ深く形成し、前記形成された下穴に前記アンカーボルトを挿入し、前記下穴の内周面に固定される前記アンカーボルトの固定部材を、前記固定部材の先端が前記下穴の開口部よりも奥まった位置で、前記下穴内部に固定する処置を行ない、前記ネジ部に螺合する螺合部材を用いて、前記器具を前記アンカーボルトに取り付け、前記螺合部材を締め付けることで、前記器具を前記アンカーボルトに固定し、前記螺合部材を前記ネジ部に締め付ける際のトルクが前記呼び径のアンカーボルトに対して定められた引き抜き荷重の定格に対応して規定した規定トルクに達した場合には、前記アンカーボルトは、規定の引き抜き荷重の定格を満たしていると判定するものとしてよい。こうすれば、器具を取り付けるアンカーボルトが、そのアンカーボルトに対して定められた引き抜き荷重の定格以上で固定されていること容易に判定できる。
トンネルの内壁にアンカーボルトを用いて照明器具を設置する様子を示す説明図。 実施形態で用いたアンカーボルトの構成を示す説明図。 器具取り付けの施工方法を示す工程図。 下穴を明ける工程を示す説明図。 打ち込み型のアンカーボルトの下穴への配置の工程を示す説明図。 打ち込み型のアンカーボルトを下穴に固定する工程を示す説明図。 アンカーボルトが下穴に固定された様子を示す説明図。 アンカーボルトのネジ部にナットを用いて器具を取り付ける工程を示す説明図。 器具を固定する際の締め付けトルクを測定する様子を示す説明図。 同じく締め付けトルクを測定する様子を示す説明図。 器具の各アンカーボルトの締め付けトルクを記録した台帳を例示する説明図。 ネジ部が雌ネジタイプのアンカーボルトを用いた施工例を示す説明図。
A.第1実施形態:
(A1)照明器具の取付:
実施形態のアンカーボルトを用いた器具取り付けの施工方法について説明する前に、理解の便を図って、施工されて、トンネルの内面、ここでは壁面TWに、照明器具230を取り付け済みの照明装置210の構成を説明する。もとより、照明器具230は、トンネルの天井に取り付けてもよい。また、トンネルは、山体をくりぬいて形成されるものに限らず、地下や海底のトンネルであってもよく、騒音対策のためなどの理由で、コンクリート等で人工的に形成されたトンネル(チューブ)などであってもよい。また急斜面に造成された道路などを覆う半トンネル(片側が開放されたトンネル)などであっても差し支えない。もとよりトンネルに限らず、コンクリートにより形成された床面、壁面などに取り付けるものであってもよい。取り付けられるものは、照明器具230に限らず、フェンスや電源板、ケーブル支持具など、アンカーボルトを用いて固定されるものなら、どのようなものでもよい。
この照明装置210は、図1に示すように、トンネルの壁面TWに、照明器具230の幅方向左右に配置された支持台220,225を用いて固定される。照明器具230を固定する支持台220,225は、左右対称に構成され、配置される。支持台220,225は、Lアングルを組み合わせて構成される。第1Lアングル221は、ベース部221cの両側に直角に折り曲げられた長短2つのアーム部221a,221bを備える。ベース部221cは、2つのアンカーボルト212,213により、壁面TWに固定される。アンカーボルト212,213は、打ち込み型、接着型のいずれでもよい。また、打ち込み型はセンタピンを備えるタイプでもよいし、スリーブを円環状の工具により打ち込むものであってもよい。アンカーボルトの先端には、雄ネジが形成されており、ベース部221cに設けられた取り付け孔にネジ部を差し入れて、ナットを螺合して、第1Lアングル221を固定する。アンカーボルト212の構成や下穴への固定の詳細は後述する。
第1Lアングル221のアーム部221a,221bの先端同士は、第2Lアングル222により結合されている。第1Lアングル221と第2Lアングル222との結合は溶接によってもよいし、ボルト・ナットで締結してもよい。なお、支持台220,225は、2つのLアングルを組み合わせて形成する必要はなく、一体物として成形してもよい。また、その形状も、照明器具230を壁面に取り付けられれば、どのような形状、材質でもよい。
照明器具230は、支持台220,225の2つの第2Lアングル222にボルト・ナット231,232により固定されている。トンネル内には、こうした照明器具230が、多数設けられており、トンネル内を照らす。
このように、照明装置210の固定には、多数のアンカーボルトが用いられている。本実施形態で用いるアンカーボルトの一例を、図1Bに示した。アンカーボルトは、単体でその機能を説明する際には、アンカーボルト50と呼ぶ。このアンカーボルト50は、本体51と固定部材に相当するスリーブ55とを備える。本体51は、雄ネジが端部の一方に形成されたネジ部52を備える。本体51の他端は、端部ほど大径となる傾斜部53が設けられている。傾斜部53の端部の外径は、スリーブ55の外径とほぼ等しい。スリーブ55は、円筒形状をしており、一端には、軸方向に沿った切込部58が4つ形成されている。この切込部58により、スリーブ55の一端には4つの拡開部57が形成される。この拡開部57には、厚みを低減された薄肉部56が複数形成されている。このため、拡開部57は、切込部58が形成されていないスリーブ55の他の部分より変形し易くなっている。
本体51のネジ部52はスリーブ55に挿入可能だが、挿入していくと、本体51の傾斜部53は、外径が次第に大きくなっていくので、スリーブ55の拡開部57側端部は、傾斜部53の途中に当たり、本体51はそれ以上スリーブ55に挿入することはできない。この状態が、アンカーボルト50を下穴に設置する際の基本的な状態である。この状態では、本体51のネジ部52は、スリーブ55の反対側から飛び出しており、ここに照明器具230などの器具が取り付けられる。アンカーボルト50は、このネジ部52の呼び径Mにより、適合する下穴の内径Dが規格化され、下穴の推奨深さLが示されている。以下に、その一例を示す。
呼び径M 内径D 推奨深さL ネジ部飛び出し長さ(一例)
10 10.5 40 30〜110
12 12.7 50 30〜200
16 17.0 60 50〜140
20 21.5 80 80〜120
同じ呼び径Mのアンカーボルト50であっても、ネジ部の飛び出し長さについては、異なるものが存在する。したがって、取り付ける器具側の金具の厚みなどによって、ネジ部の飛び出し長さが適切なアンカーボルトを選択すればよい。なお、アンカーボルトにはネジ部が雌ネジのものも存在するが、その場合には、雌ネジに螺合する螺合部材であるボルトの長さを調整すればよい。
(A2)施工方法:
次に、アンカーボルトを用いた器具取り付けの施工方法について説明する。図2は、器具取り付け施工方法を示す工程図である。照明器具230を固定する際には、まず、アンカーボルトを用意する。図1に示した例では、左右の支持台220,225毎に2本のアンカーボルト212,213が用いられる様子を示すしており、この例では、一台の照明器具230につき、4本のアンカーボルトが用いられる。そこで、施工に際しては、まずアンカーボルトを用意する(工程T100)。本実施形態では、図1Bに示した打ち込み型のアンカーボルト50を用いるものとした。
アンカーボルト50を用意したら、その呼び径Mに対応する下穴40を、トンネルの壁面TWに形成する(工程T110)。下穴形成の様子を、図3に示した。下穴40は、インパクトタイプの電動ドリル20にドリルビット25を装着し、アンカーボルト50の呼び径Mに応じた推奨深さLに余剰分ΔL1を加えたの長さに形成する。図示した例では、ドリルビット25の長さを、L+ΔL1に調整しているので、電動ドリル20のチャック27が壁面TWに接触するまで加工すれば良い。ここで、ΔL1は、少なくとも3mm、最大で10mm程度である。
こうして下穴40を形成した後、ここにアンカーボルト50を挿入し、固定する(工程T120)。下穴40にアンカーボルト50を挿入する様子を図4に、アンカーボルト50を固定する様子を図5に、それぞれ示した。下穴40の推奨深さLは、アンカーボルト50の傾斜部53側端部から、スリーブ55の拡開部57とは反対側の端部までの長さL1と略同一なので、アンカーボルト50を下穴40の奥まで挿入すると、アンカーボルト50のスリーブ55の端部は、下穴40の開口端からΔL1だけ奥まった位置に配置される。この状態で、図5に示したように、打ち込み治具60を用いて、スリーブ55を打ち込む。具体的には、ハンマ62で打ち込み治具60の底部を打刻すると、打ち込み治具60の先端に設けられた円筒形の打撃部61が、アンカーボルト50のスリーブ55に当たり、スリーブ55を下穴40の底部側に向かって移動させる。打撃部61は、円筒形状をしており、本体51のネジ部52は打撃部61の内側に遊嵌された状態となっているので、ハンマ62による打撃力は、スリーブ55にのみ伝達される。この結果、スリーブ55は傾斜部53に乗り上げ、下穴40の内周面に向かって拡開する。拡開部57は、薄肉部56が設けられているので、この薄肉部56を中心に変形し、下穴40の内周面のコンクリートに食い込む。
この様子を図6に示した。図示するように、拡開部57の変形量だけ、スリーブ55は、下穴40の底部方向に移動するから、このとき、スリーブ55の端部は、下穴40の開口端からΔL2だけ奥まった位置に配置される。もとより、拡開部57の変形によるスリーブ55の移動量は数ミリ程度なので、ΔL2は、ΔL1より数ミリ大きく、5〜13mm程度となる。
こうしてコンクリートの躯体にアンカーボルト50を固定した後、壁面TWから飛び出しているネジ部52に器具を取り付ける作業を行なう(工程T130)。この様子を、図7に示した。この例では、アンカーボルト50のネジ部52に、Lアングルの形態のベース部221cの貫通孔を通し、ワッシャ71をかませた後、螺合部材であるナット73を螺合する。ワッシャ71はバネワッシャでもよい。この状態でナット73を締め付けることで、器具はアンカーボルト50に固定されるが、その際、本実施形態では、締め付ける際のトルクを測定する(工程T140)。
締め付ける際のトルクに測定は、トルクレンチを用いれば容易に測定できる。図8は、トルクレンチ80を用いて、ナット73を締め付ける際のトルクを測定する様子を示す平面図、図9は、同じく側面である。図示するように、トルクレンチ80の先端に、ナット73の呼び径に適したソケットビット81を取り付け、このソケットビット81をナット73に填めて、トルクレンチ80を、ハンドル83により時計回りに回転する。このとき、ソケットビット81がナット73を回転し、その回転に要するトルクが、ディスプレイ85に表示される。トルクレンチ80は、締め付ける際のトルクの最大値を保持するピークホールド機能があり、ディスプレイ85に表示されるトルクは、締め付けの際の最大値になる。締め付けが終わって、ボタン86を操作することにより、表示トルクはリセットされ、値0に戻る。
図9に示すように、ナット73を時計回りに回転すると、ワッシャ71を介してナット73がベース部221cにあたり、更に回転すると、ベース部221cを壁面TWに押しつける。この状態から、ナット73を回転すると、ナット73の回転により、ナット73に螺合しているネジ部52を介して、本体51がナット73側に引き上げられる。この引き上げる力は、アンカーボルト50を引き抜こうとする力であり、その力は、スリーブ55を介して、コンクリート躯体に加わる。アンカーボルト50が打ち込まれて、適正に固定されていれば、アンカーボルト50が引き抜かれることなく、トルクレンチ80は強い反力を受けて、ディスプレイ85に高いトルク値を表示する。
そこで、このトルク値を読み取り、予めアンカーボルト50が満たすべき引き抜き荷重(以下、引き抜き耐力とも言う)の定格に対応して規定した規定トルク値である所定値より大きいか否かの判断を行ない(工程150)、所定値以上であれば、アンカーボルト50は正常固定と判定する。他方、トルクレンチ80が測定したトルクが所定値以下であれば、アンカーボルト50は、固定不良と判定する。一般に、ネジの軸方向にかかる軸力F(引き抜き荷重)とネジに加えられるトルクTとの間には、次式(1)の関係が成り立つ。
F=k・T/M …(1)
ここで、
F:軸力(N)
T:締め付けトルク(N・m)
M:ネジの呼び径(m)
k:軸力係数
である。実際に締め付けた時に加わる軸力は、ネジの座面の表面粗さやネジのピッチなどによって変わる。これらの要素を考慮したのが軸力係数kであり、一般に5〜7程度となる。軸力係数kは、用いるアンカーボルト50やベース部221cの材質、ネジ部52のピッチなどにより、予め求めておけばよい。
図9に示すように、アンカーボルト50のスリーブ55の先端は、下穴40の開口端、つまり取り付けられる器具の部材、ここではベース部221cに対して、距離ΔL2だけ控えているので、アンカーボルト50が下穴40に固定されている引き抜き耐力より、ナット73の回転により本体51に加わる引き抜き荷重(軸力)が高ければ、アンカーボルト50は下穴40内部で開口端側に移動する。したがって、アンカーボルト50を下穴40に固定する際、下穴40の開口端までに数ミリ離間させておくだけで、アンカーボルト50の引き抜き耐力が、予め定めた閾値以上か否かを容易に判断することができる。アンカーボルト50の固定が不十分な場合には、トルクレンチ80が測定するトルクは、スリーブ55の端部がベース部221cに当接するまでの間、予め定めた所定値に達しないからである。仮に、この隔たりΔL2がなければ、アンカーボルト50のスリーブ55の端部がベース部221cに当接していることになり、ナット73を締め付けると、ベース部221cがスリーブ55の端部とナット73により挟持され、トルクレンチ80は高いトルクを表示する。したがって、仮にアンカーボルト50の固定が規格通りになされていなくても、トルクレンチ80の表示は規定トクル以上となり、アンカーボルト50の固定力の不足は検出できない。
以上のトルクの測定(T140)と固定状態の正常/不良の判定(工程T150〜T170)とを行なった後、記録処理を行なう(工程T180)。この工程は、1つ1つのアンカーボルト50の締め付けトルクを記録する処理である。記録は、ナット73にトルクレンチ80のソケットビット81を嵌合した状態で、トルクレンチ80のディスプレイ85を写真に撮り、どのアンカーボルト50かと紐付けて記録すればよい。この一例を、図10に示した。記録は、照明器具230を取り付けた場所(例えばAトンネル)と施工日とアンカーボルト50の番号とトルクレンチ80のディスプレイ85の写真とをセットとして、行なう。アンカーボルト50の番号は、施工図面において、トンネルのコンクリート躯体に取り付けたアンカーボルト50の施工場所を示す番号である。
以上説明した第1実施形態の施工方法によれば、アンカーボルト50を下穴40に取り付ける際、下穴40の深さを、用いるアンカーボルト50に規定された下穴の深さより深くしておき、アンカーボルト50を下穴40に対して数ミリ程度奥まって固定し、器具を取り付ける際の締め付けトルクを測定するだけで、アンカーボルト50が予め定めた引き抜き耐力以上で下穴40に固定されているか否かを判定することができる。このため、従来の抜き取り検査に代えて、全数検査を行なうことも容易である。また、判定の根拠となった測定結果を残すことも容易である。
上述した実施形態では、トルクレンチ80による測定の結果は、ディスプレイ85の表示を写真に撮るなどして記録したが、トルクレンチ80による測定結果を、プルートゥース(登録商標)などにより記録装置やスマートホンなどに無線送信し、記録として残すことも可能である。例えば、京都機械工具株式会社製、「デジラチェ(メモルク)」(いずれも登録商標)などを使えば、スマートホン上の専用アプリなどに、トルク値を順次記録することも可能である。
また、トルクレンチ80は、単にトルク値を測定するだけでなく、予め所定のトルク値を設定しておき、締め付けの際に、設定したトルク値以上のトルクを検出した場合に、音や光で、これを報知するといった使い方も可能である。したがって、器具の取付を行なう者が、アンカーボルト50の引き抜き耐力の規格値に対応したトルク値を、上述した式(1)により求めて予めトルクレンチ80に設定しておき、ナット73を締め付ける度に、設定値を超えたかを音や光で確認し、これを記録するものとしてもよい。もとより、光や音以外、例えば、振動、表示、印刷等の手法で提示してもよい。予め設定したトルク値以上で締め付けたことを確認した場合、例えば器具を取り付けたアンカーボルト50のナット73や対応箇所の壁面TWに、予め定めた色のペイントを塗るといった方法で記録してもよい。あるいは、その場で、図10に示した記録画面やトルク値などを、携帯型プリンタでラベルに印刷し、これを壁面TWのアンカーボルト50に対応する位置に貼付するものとしてもよい。このように、引き抜き荷重が定格に達しているかを報知するだけでなく、測定したナット73の締め付けトルクやこれから求めた引き抜き荷重の最大値を、音やディスプレイへの表示、あるいは印刷などにより、使用者に報知するものとしてもよい。
上記実施形態では、アンカーボルト50として、打ち込み型のものを用い、またネジ部として、雄ネジが形成されたアンカーボルト50(スリーブ打ち込み式アンカーボルトとも言う)を用いたが、芯棒打ち込み式アンカーボルトを用いることも可能である。また打ち込み型に代えて接着型(ケミカルタイプ)のアンカーボルトを用いても、施工方法は同様に行なうことができ、接着剤により固定された各アンカーボルト50が予め定めた引き抜き荷重の定格を備えているかを、容易に判定できる。また、図11に示したように、ネジ部が雌ネジ52Aであるアンカーボルト50A(グリップアンカーボルトとも言う)を用いる場合には、螺合部材として雄ネジが形成されたボルト152を用いることになり、トルクレンチ80のソケットビット81のこのボルトの頭部に填めて同様に締め付けトルクを測定すればよい。
上記実施形態では、トルクレンチ80は手動でナット73を締め付けるものとしたが、電動または空気圧で締め付けトルクを発生するものとしてもよい。電動の場合、商用交流や発電機で発電した電力を用いてもよいし、充電式のトルクレンチを用いてもよい。空気圧を用いる場合、コンプレッサからの空気圧を利用してもよいし、圧搾空気を充填したボンベなどを用いてもよい。
B.他の実施形態:
(1)本開示の実施態様の1つは、アンカーボルトを用いた器具取付の施工方法としての態様である。この施工方法において、器具を取り付けるためのネジ部を有する呼び径Mのアンカーボルトを用意し、コンクリート壁面に、前記呼び径Mのアンカーボルトが挿入される下穴を、前記呼び径Mのアンカーボルトに対して規定された内径Wで、規定された深さLより予め定めた寸法ΔLだけ深く形成し、前記形成された下穴に前記アンカーボルトを挿入し、前記下穴の内周面に固定される前記アンカーボルトの固定部材を、前記固定部材の先端が前記下穴の開口部よりも奥まった位置で、前記下穴内部に固定する処置を行ない、前記ネジ部に螺合する螺合部材を用いて、前記器具を前記アンカーボルトに取り付け、前記螺合部材を締め付けることで、前記器具を前記アンカーボルトに固定し、前記螺合部材を前記ネジ部に締め付ける際のトルクが前記呼び径のアンカーボルトに対して定められた引き抜き荷重の定格に対応して規定した規定トルクに達した場合には、前記アンカーボルトは、規定の引き抜き荷重の定格を満たしていると判定するものとしてよい。こうすれば、器具を取り付けるアンカーボルトが、そのアンカーボルトに対して定められた引き抜き荷重の定格以上で固定されていること容易に判定できる。したがって、抜き取り検査ではなく、施工される全アンカーボルトについて検査することも可能である。また、こうした検査のために、新たに要すべき特殊な治具なども必要がない。したがって、検査を短時間のうちに行なうことも可能である。
ここで、呼び径Mのアンカーボルトに対して規定された深さLより深くする予め定めた寸法ΔLは、アンカーボルトが固定に際して変形する場合には、変形前の寸法(上記実施形態の寸法ΔL1)として規定してもよいし、変形後の寸法(上記実施形態の寸法ΔL2)として規定してもよい。
(2)こうした構成において、前記寸法ΔLは、3〜20mmであるものとしてよい。こうすれば、下穴深さの僅かな変更で、引き抜き荷重が定格を満たすかを判定できる。この寸法ΔLは、好ましくは下限5〜8mm、上限15〜20mmである。ΔLが小さいと、抜き取り荷重が定格を満たしているかを判断するストロークが小さくなり、引き抜き荷重の判定を行なう時間的余裕が減る可能性がある。またΔLが大きいと、ネジ部の寸法を大きくする必要があり、アンカーボルトのコストを押し上げる可能性がある。
(3)こうした構成において、前記螺合部材をトルクレンチで締め付け、前記トルクレンチによる締め付けトルクが前記規定トルクに達した場合には、前記アンカーボルトは、規定の引き抜き荷重の定格を満たしていると判断するものとしてよい。こうすれば、アンカーボルトの引き抜き荷重の判定を一層容易に行なうことができる。
(4)こうした構成において、前記アンカーボルトは打ち込み型のアンカーボルト、または接着型のアンカーボルトのいずれかであり、前記固定部材前記下穴への固定する前記処置は、前記打ち込み型のアンカーボルトでは打撃により変形する部材を前記下穴の底方向に打撃する処理であり、前記接着型のアンカーボルトでは前記固定部材と前記下穴との間隙の少なくとも一部に接着剤を充填し固化する処置であるものとしてよい。こうすれば、いずれのタイプのアンカーボルトを用いた場合でも、その引き抜き荷重が定格を満たしているかの判定を容易に行なえる。
(5)こうした構成において、前記ネジ部は雄ネジまたは雌ネジであり、前記螺合部材は前記ネジ部に螺合するナットまたはボルトであり、前記螺合部材の締め付けは、前記ナットまたは前記ボルトの頭部に適合するソケットビットを備えるトルクレンチにより行ない、前記トルクレンチは、締め付けトルクの最大値を提示する提示部を備えたものとしてよい。こうすれば、アンカーボルトが雄雌いずれのタイプの螺合部材を用いるものであっても、当該アンカーボルトの引き抜き荷重が定格を満たしているかを容易に判定できる。
(6)こうした構成において 前記トルクレンチは、手動、電動または空気圧で前記締め付けトルクを発生し、前記提示部は、前記締め付けトルクの値を表示または外部に出力するものとしてよい。こうすれば、引き抜き荷重に対応するトルクを螺合部材に容易に加えることができ、加えたトルクの値を容易に知ることができる。
(7)こうした構成において、前記出力部は、前記アンカーボルト毎に、前記締め付けの際の締め付けトルクが前記規定トルクを超えたとき、音、光、振動、表示、印刷のうちの少なくとも1つ方法で、前記トルクレンチの使用者に提示するものとしてよい。こうすれば、判定結果を容易に知得できる。
(8)こうした構成において、前記出力部は、前記アンカーボルト毎に、前記締め付けの際の締め付けトルクの最大値を、音、表示、印刷のうちの少なくとも1つ方法で、前記トルクレンチの使用者に提示するものとしてよい。こうすれば、単に引き抜き荷重が定格に達しているかだけでなく、どの程度の大きさなのかを知ることができる。
(9)こうした構成において、前記トルクレンチは、前記締め付けの際の締め付けトルクの最大値を少なくとも一定時間表示する表示部を備え、前記トルクレンチの前記ソケットビットが、前記ナットまたはボルトの頭部に適合した状態で、前記トルクレンチの前記表示部における前記最大値の表示と、前記器具の少なくとも一部とを、カメラで撮像し、前記器具における前記アンカーボルトの引き抜き荷重が前記最大値以上であることを記録するものとしてよい。こうすれば、特別な機器を用意しなくても、各アンカーボルトの引き抜き荷重に対応するトルクの最大値を容易に記録できる。
(10)上記各実施形態において、ハードウェアによって実現されていた構成の一部をソフトウェアに置き換えるようにしてもよい。ソフトウェアによって実現されていた構成の少なくとも一部は、ディスクリートな回路構成により実現することも可能である。また、本開示の機能の一部または全部がソフトウェアで実現される場合には、そのソフトウェア(コンピュータプログラム)は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納された形で提供することができる。「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスクやCD−ROMのような携帯型の記録媒体に限らず、各種のRAMやROM等のコンピュータ内の内部記憶装置や、ハードディスク等のコンピュータに固定されている外部記憶装置も含んでいる。すなわち、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、データパケットを一時的ではなく固定可能な任意の記録媒体を含む広い意味を有している。
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
20…電動ドリル、25…ドリルビット、27…チャック、40…下穴、50,50A…アンカーボルト、51…本体、52…ネジ部、52A…雌ネジ、53…傾斜部、55…スリーブ、56…薄肉部、57…拡開部、58…切込部、60…治具、61…打撃部、62…ハンマ、71…ワッシャ、73…ナット、80…トルクレンチ、81…ソケットビット、83…ハンドル、85…ディスプレイ、86…ボタン、152…ボルト、210…照明装置、212,213…アンカーボルト、220…支持台、221…第1Lアングル、221a…アーム部、221c…ベース部、222…第2Lアングル、230…照明器具、231…ボルト・ナット

Claims (9)

  1. 器具を取り付けるためのネジ部を有する呼び径Mのアンカーボルトを用意し、
    前記アンカーボルトは打ち込み型のアンカーボルト、または接着型のアンカーボルトのいずれかであり、
    コンクリート壁面に、前記呼び径Mのアンカーボルトが挿入される下穴を、前記呼び径Mのアンカーボルトに対して規定された内径Wで、規定された深さLより予め定めた寸法ΔLだけ深く形成し、
    前記形成された下穴に前記アンカーボルトを挿入し、前記下穴の内周面に固定される前記アンカーボルトの固定部材を、前記固定部材の先端が前記下穴の開口部よりも奥まった位置で、前記下穴内部に固定する処置を行ない、
    前記ネジ部に螺合する螺合部材を用いて、前記器具を前記アンカーボルトに取り付け、前記螺合部材を締め付けることで、前記器具を前記アンカーボルトに固定し、
    前記螺合部材を前記ネジ部に締め付ける際のトルクが前記呼び径のアンカーボルトに対して定められた引き抜き荷重の定格に対応して規定した規定トルクに達した場合には、前記アンカーボルトは、規定の引き抜き荷重の定格を満たしていると判定する、
    アンカーボルトの施工方法。
  2. 前記寸法ΔLは、3〜20mmである、請求項1記載のアンカーボルトの施工方法。
  3. 前記螺合部材をトルクレンチで締め付け、前記トルクレンチによる締め付けトルクが前記規定トルクに達した場合には、前記アンカーボルトは、規定の引き抜き荷重の定格を満たしていると判断する、請求項1または請求項2に記載のアンカーボルトの施工方法。
  4. 記固定部材を前記下穴への固定する前記処置は、前記打ち込み型のアンカーボルトでは打撃により変形する部材を前記下穴の底方向に打撃する処理であり、前記接着型のアンカーボルトでは前記固定部材と前記下穴との間隙の少なくとも一部に接着剤を充填し固化する処置である、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のアンカーボルトの施工方法。
  5. 前記ネジ部は雄ネジまたは雌ネジであり、前記螺合部材は前記ネジ部に螺合するナットまたはボルトであり、
    前記螺合部材の締め付けは、前記ナットまたは前記ボルトの頭部に適合するソケットビットを備えるトルクレンチにより行ない、
    前記トルクレンチは、締め付けトルクの最大値を提示する提示部を備えた、
    請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のアンカーボルトの施工方法。
  6. 前記トルクレンチは、手動、電動または空気圧で前記締め付けトルクを発生し、
    前記提示部は、前記締め付けトルクの値を表示または外部に出力する、請求項5に記載のアンカーボルトの施工方法。
  7. 前記提示部は、前記アンカーボルト毎に、前記締め付けの際の締め付けトルクが前記規定トルクを超えたとき、音、光、振動、表示、印刷のうちの少なくとも1つ方法で、前記トルクレンチの使用者に提示する、請求項6に記載のアンカーボルトの施工方法。
  8. 前記提示部は、前記アンカーボルト毎に、前記締め付けの際の締め付けトルクの最大値を、音、表示、印刷のうちの少なくとも1つ方法で、前記トルクレンチの使用者に提示する、請求項6に記載のアンカーボルトの施工方法。
  9. 前記トルクレンチは、前記締め付けの際の締め付けトルクの最大値を少なくとも一定時間表示する表示部を備え、
    前記トルクレンチの前記ソケットビットが、前記ナットまたはボルトの頭部に適合した状態で、前記トルクレンチの前記表示部における前記最大値の表示と、前記器具の少なくとも一部とを、カメラで撮像し、
    前記器具における前記アンカーボルトの引き抜き荷重が前記最大値以上であることを記録する、
    請求項5に記載のアンカーボルトの施工方法。
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