JP6948560B2 - 鍛伸材の製造方法 - Google Patents
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この四面鍛造を用いた工具鋼の鍛伸材の製造方法として、例えば、特開平1−284447号公報(特許文献1)に開示された冷間工具鋼や高速度工具鋼の鍛伸方法の発明がある。
熱間での塑性加工の方法として、熱間プレスがある。これは、所謂スラブを製造するものであるが、この方法では肌荒れは生じにくい。これは、平坦な下型と上型とで挟み込むように厚さを減ずるものであり、幅方向は自由変形領域となることから、素材が変形するときにスケールの剥離が生じやすいためであると推測している。一方で、4方向からの四面鍛造においては、4方向から金敷によって同時に直径を減ずるように押圧(鍛伸)する。4方向から同時に押圧されるとその部分は金敷によって拘束される。そのため、前記の熱間プレスと比して自由変形領域が少なく、鍛伸中にスケールの剥離が生じにくく、厚さの厚いスケールが鍛伸中の中間鍛伸材に深く押し込まれやすくなる。この問題については、殆ど検討がなされていないのが現状である。
本発明の目的は、4方向からの押圧による四面鍛造において、肌荒れの問題を抑制することが可能な鍛伸材の製造方法を提供することである。
すなわち本発明は、工具鋼でなる鍛伸用素材の表面を酸化防止剤で被覆する被覆工程と、前記酸化防止剤で被覆した鍛伸用素材を鍛伸温度に加熱する加熱工程と、前記加熱した鍛伸用素材を四面鍛造機の把持治具で把持し、4方向から押圧することで全長を伸長する操作を繰返す熱間鍛伸工程と、を含む鍛伸材の製造方法である。
前記酸化防止剤の厚さが100〜700μmであることが好ましい。
先ず、四面鍛造用の鍛伸用素材を準備する。用いる柱状の鍛伸用素材の長手方向に垂直な断面(径方向断面)における形状としては、例えば、八角形、十六角形等の略円形、円形、又は矩形である。
用意した鍛伸用素材の表面に酸化防止剤を塗布する。酸化防止剤は、鍛伸用素材を加熱炉で加熱したときに、鍛伸用素材の表面酸化を抑制するものである。なお、本発明で言う「酸化防止剤」とは、例えば、リン酸アルミニウムまたは、ホウ酸ケイ素または、炭化ケイ素と耐熱顔料及び水の混合物など、鍛伸の温度まで加熱しても被覆形態が維持されるものであり、加熱すると軟化するようなガラス潤滑剤は対象外である。ガラス潤滑剤を用いると、部分的に鍛伸終了時点までガラス潤滑剤が残留するおそれがあり、かえって肌荒れを助長するおそれがある。
この酸化防止剤を鍛伸用素材表面に被覆する際、被覆は室温で行っても良いし、例えば、鍛伸用素材を100℃前後に予熱してから被覆しても良い。被覆の方法としては、塗布、噴霧、浸漬等、公知の方法で差し支えない。酸化防止剤を被覆した後に、例えば、150〜300℃の温度で酸化防止剤を乾燥させることが好ましい。また、被覆する場所は、少なくとも四面鍛造機に備えられた金型(金敷)が接触して打撃される部分に被覆する。被覆する酸化防止剤の厚さは100〜700μmであることが好ましい。これは、酸化防止剤の厚さが過度に薄いと前記の酸化防止剤による酸化抑制効果が低くなる。一方、酸化防止剤の厚さが過度に厚いと鍛伸加工中に酸化防止剤の剥離が進まなくなり、残留した酸化防止剤によって、鍛伸材表面に凹凸が形成されやすくなる。好ましい酸化防止剤の厚さの下限は300μmであり、好ましい酸化防止剤の厚さの上限は500μmである。
なお、酸化防止剤の厚さの測定は、電磁式または渦電流式の接触型膜厚計を使用して測定することができる。厚さの測定範囲は、例えば、酸化防止剤で被覆した鍛伸用素材の任意の場所を外周方向に90°ピッチで各角度の位置で3〜4箇所ずつ、計12〜16箇所程度測定し、その平均で求めれば良い。
前記の酸化防止剤で被覆した鍛伸用素材を890〜1200℃に加熱する。加熱温度は鍛伸用素材の材質によって、890〜1200℃の範囲で適切な温度を選択する。鍛伸用素材の材質が0.55〜1.50質量%の炭素を含有し,特別に合金元素を添加しない工具鋼(炭素工具鋼)であれば、その加熱温度はおおよそ890〜1200℃であれば良い。また、鍛伸用素材の材質が炭素鋼にSi、Mn、Ni、Cr、Mo、W、V等の合金元素を1種類以上添加した工具鋼(合金工具鋼)であれば、その加熱温度はおおよそ1030〜1180℃の範囲であれば良い。更に、高炭素鋼にCr、Mo、W、V、Co等の合金元素を比較的多量に添加した工具鋼(高速度工具鋼)であれば、その加熱温度はおおよそ1000〜1120℃であれば良い。何れの材質であっても、過度に加熱温度が低いと変形抵抗が大きくなって鍛伸が困難となったり、疵の発生や割れ等の欠陥が発生する。また、過度に加熱温度が高くなると結晶粒の粗大化やゼロ延性温度域に到達し、材料に割れが発生するという問題が生じる。そのため、用いる鍛伸用素材の材質に応じて890〜1200℃の範囲で加熱温度を選択することが好ましい。
前記の加熱した鍛伸用素材は、加熱炉からマニピュレータ等を用いて、四面鍛造機に搬送され、次いで、四面鍛造機に備えられた把持治具で把持し、鍛伸用素材を4方向から押圧することで全長を伸長する操作を繰返す。このとき、鍛伸用素材を周方向に回転することはしない。なお、鍛伸用素材または中間鍛伸材の長手方向の一方端面から他端面側に鍛伸するまでを1パスと呼ぶ。
酸化防止剤で被覆された鍛伸用素材はそのまま四面鍛造する。被覆された酸化防止剤は、鍛伸中に徐々に剥離する。この剥離のし易さと前記加熱工程での過度なスケール発生を抑制できるのも酸化防止剤で被覆する効果の一つである。なお、鍛伸によって酸化防止剤が適当に剥離できる条件としては、例えば、圧下回数を80〜190回/分、1パス当たりの減面率を5〜25%、前記被鍛造材の挿入側での送り速度を2800〜7000mm/分の範囲とするのがよい。
その後、本発明例及び比較例の鍛伸用素材を加熱炉に挿入し、1100℃で加熱を行った。次に、前記の加熱した鍛伸用素材を加熱炉からマニピュレータを用いて、四面鍛造機に搬送し、次いで、四面鍛造機に備えられた把持治具で把持し、鍛伸用素材を、全長にわたって4方向から押圧することで全長を伸長する操作を繰返す四面鍛造を行った。四面鍛造の条件は、本発明例及び比較例共に同一条件とし、圧下回数を90〜110回/分、1パス当たりの減面率を15%、前記被鍛造材の挿入側での送り速度を4〜5.25m/分の範囲で5パス実施した。なお、鍛伸工程中において、中間鍛伸材を再加熱することなく、鍛伸を終了した。鍛伸終了後の鍛伸材の表面は本発明例及び比較例共に大きな差は見られなかった。
以上のことから、本発明を適用した鍛伸材は、4方向からの押圧による四面鍛造において、肌荒れの問題を抑制することができることがわかる。
質量%でC:0.65%、Si:1.0%、Mn:0.95%、Cr:1.15%、Mo:0.15%、残部はFeでなる鍛伸用素材を2本準備した。この鍛伸用素材は、長さ2500mmの棒状の合金工具鋼であり、その長手方向に垂直な断面は、外接円の直径が400mmの八角形あった。そのうち1本は本発明例として、室温にてリン酸アルミニウムと耐熱顔料及び水の混合物からなる酸化防止剤を厚さが約300μmとなるように、後に行う鍛伸工程で打撃が加えられる表面に塗布した。なお、厚さの測定は接触型膜厚計を使用して鍛伸用素材の長手方向の両方の端面側と中央部の3ヶ所それぞれについて外周方向に対し90°ピッチで測定し、その平均を厚さとした。酸化防止剤を被覆しなかったものは比較例とした。酸化防止剤で被覆した本発明例の鍛伸用素材は300℃で酸化防止剤を乾燥させた。
その後、本発明例及び比較例の鍛伸用素材を加熱炉に挿入し、1100℃で加熱を行った。次に、前記の加熱した鍛伸用素材を加熱炉からマニピュレータを用いて、四面鍛造機に搬送し、次いで、四面鍛造機に備えられた把持治具で把持し、鍛伸用素材を、全長にわたって4方向から押圧することで全長を伸長する操作を繰返す四面鍛造を行った。四面鍛造の条件は、本発明例及び比較例共に同一条件とし、圧下回数を95〜160回/分、1パス当たりの減面率を13%、前記被鍛造材の挿入側での送り速度を3.8〜5m/分の範囲で5パス実施した。なお、鍛伸工程中において、中間鍛伸材を再加熱することなく、鍛伸を終了した。鍛伸終了後の鍛伸材の表面は本発明例及び比較例共に大きな差は見られなかった。
以上のことから、本発明を適用した鍛伸材は、4方向からの押圧による四面鍛造において、肌荒れの問題を抑制することができることがわかる。
Claims (2)
- 工具鋼でなる鍛伸用素材の表面を酸化防止剤で被覆する被覆工程と、
前記酸化防止剤で被覆した鍛伸用素材を鍛伸温度に加熱する加熱工程と、
前記加熱した鍛伸用素材を四面鍛造機の把持治具で把持し、4方向から押圧することで全長を伸長する操作を繰返す熱間鍛伸工程とを含み、前記鍛伸行程は、圧下回数を80〜190回/分、1パス当たりの減面率を5〜25%、前記被鍛造材の挿入側での送り速度を2800〜7000mm/分とし、周方向に回転することはしないことを特徴とする鍛伸材の製造方法。 - 前記酸化防止剤の厚さが100〜700μmであることを特徴とする請求項1に記載の鍛伸材の製造方法。
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