JP6946891B2 - 高強度鋼線 - Google Patents

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Description

本発明は、高強度鋼線に関し、特に、過共析組成の熱間圧延線材に対し、冷間伸線加工、熱処理、めっき等を施して製造される高強度鋼線に関するものである。本発明の高強度鋼線は、例えば、スチールコード、ソーワイヤ等に適用できる。
スチールコードやソーワイヤなどに使用される高強度鋼線は、それぞれの仕様に応じて種々の線径、強度を有している。これら高強度鋼線は、最終的に複数本を撚り合わせて加工(撚り加工)した状態で使用させることが多く、単線で使用する場合でも捻れた状態で使用されるため、高強度鋼線は、強度のみならず延性も必要とされる。
一方、これら高強度鋼線は、製造コスト低減や製品の差別化のため、更なる高強度化が求められている。このような鋼線の高強度化の要求に対しては、C量の増加などの手段があるが、C量が0.9%超の過共析鋼では、熱間圧延線材に初析セメンタイトが析出し、延性が低下するとされている。そのため、過共析鋼において、伸線加工後の強度と延性を両立すべく、これまで様々な開発が行われてきた。
特許文献1は、SiとCrの合計含有量やラメラ間隔を制御することで、高強度と高延性を有する伸線用線材が得られるとしている。
特許文献2は、示差走査熱量曲線における60〜130℃間の発熱ピークを制御することで、強度と延性に優れた鋼線が得られるとしている。
国際公開第2009/084811号 特開2005−126765号公報
特許文献1では、パテンティング後の伸線用線材の組織において、ラメラ間隔を50nm以下としているが、本発明者らが検討した結果、50nm以下のラメラ間隔を有する線材に真歪3.5以上の加工を施して直径0.3mm以下の極細鋼線とした場合、強度と延性の両立は困難であることが分かった。
また、特許文献2では、伸線工程において、潤滑剤の温度の低温化や伸線速度の低速化等を図る必要があり、生産コストが上昇するなどの課題があった。さらに特許文献2では、前述のように伸線工程における各条件を細かく限定することで、N原子の拡散および転位への固着を抑制し延性を向上させるとしているものの、強度と延性の両立は困難であった。
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、過共析組成の鋼線において、強度および延性に優れた高強度鋼線を提供することを課題とする。
まず本発明者らは、炭素濃度0.90%〜1.10%の過共析組成を有する鋼線材を用い、熱処理条件や伸線条件を制御することで、種々の高強度鋼線を作製した。そして、得られた高強度鋼線の延性等の機械的特性を評価するとともに、示差走査熱量測定の結果を解析したところ、鋼線の延性の低下は、伸線加工時等に生じるセメンタイトの分解であると推定できた。さらにセメンタイトの分解の抑制方法を検討した結果、Si量やCr量、Mn量の制御、および、熱処理組織や伸線方法の制御が効果的であることを見出した。さらに、セメンタイトの分解状況は示差走査熱量測定にて評価できることも見出し、鋼線の示差走査熱量測定のDSC曲線における280〜420℃間の発熱ピークを制御することで、高強度かつ高延性の鋼線が得ることができるという知見を得て、本発明に至った。
本発明は、以上の知見に基づいて完成したものであり、その要旨は以下の通りである。
[1]質量%で、C:0.90〜1.10%、Si:0.40%超0.80%以下、Mn:0.10〜0.70%、Cr:0.10〜0.40%を含有し、Al:0.003%以下、P:0.020%以下、S:0.010%以下に制限し、かつ質量%で下記式(1)、(2)を満たし、残部はFeおよび不純物よりなり、線径が直径で0.05〜0.30mmであり、示差走査熱量測定のDSC曲線の100〜450℃の温度範囲において、複数の発熱ピークを有し、かつ、100〜450℃の温度範囲における発熱量の総和H100〜450と280〜420℃の温度範囲における発熱量H280〜420が、下記式(3)を満足し、引張強度TSが3500MPa超を満足する、高強度鋼線。
0.50≦Si(%)+Cr(%)≦0.90 ・・・(1)
0.40≦Cr(%)+Mn(%)≦0.80 ・・・(2)
0.05≦280〜420/H100〜450<0.45 ・・・(3)
上記の(1)、(2)式中の元素記号は、その元素の質量%での含有量を意味する。
[2]更に、質量%で、Ni:0.50%以下、Co:1.00%以下、Mo:0.20%以下、B:0.0002〜0.0030%、Cu:0.15%以下のいずれか1種もしくは2種以上を含有する、上記[1]に記載の高強度鋼線。
本発明によれば、過共析組成の鋼線において、強度および延性に優れた高強度鋼線を提供できる。また本発明によれば、スチールコードやソーワイヤなどの用途に好適な、延性に優れた高強度鋼線を安定的に生産することができる。
本実施形態に係る高強度鋼線および従来の鋼線の示差走査熱量測定によって得られたDSC曲線を示す説明図である。 本実施例における、鋼線の引掛強さの測定方法を説明するための模式図である。
以下、本発明の高強度鋼線(以下、単に「鋼線」とも称する。)およびその製造方法の実施形態について説明する。なお、この実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために詳細に説明するものであるから、特に指定の無い限り、本発明を限定するものではない。
(示差走査熱量測定のDSC曲線)
本実施形態にかかる高強度鋼線は、質量%で、C:0.90〜1.10%、Si:0.40%超0.80%以下、Mn:0.10〜0.70%、Cr:0.10〜0.40%を含有し、Al:0.003%以下、P:0.020%以下、S:0.010%以下に制限し、かつ質量%で下記式(1)、(2)を満たし、残部はFeおよび不純物よりなり、線径が直径で0.05〜0.30mmであり、示差走査熱量測定のDSC曲線における100〜450℃の温度範囲において、複数の発熱ピークを有し、かつ、100〜450℃の温度範囲における発熱量の総和H100〜450と280〜420℃の温度範囲における発熱量H280〜420が、下記式(3)を満足する高強度鋼線である。
0.50≦Si(%)+Cr(%)≦0.90 ・・・(1)
0.40≦Cr(%)+Mn(%)≦0.80 ・・・(2)
280〜420/H100〜450<0.45 ・・・(3)
また、この高強度鋼線は、一例として、上記の化学成分を有する鋼片を熱間圧延して熱間圧延線材とし、熱間圧延線材を乾式伸線し、更に熱間圧延線材を熱処理することで、引張強度が調整され、かつパーライト組織を有する熱処理線材とし、熱処理線材にブラスめっきを施し、更にめっき後の熱処理線材を素材として後述する条件で湿式伸線を行うことで製造される。
まず、前述した示差走査熱量測定におけるDSC曲線ならびに上記式(3)について、規定した理由等を本発明者らの検討結果と合わせて図面等を参照しながら下記に説明する。
まず本発明者らは、従来の鋼線に対して示差走査熱量測定(DSC:Differential Scanning Calorimetry)を行い、得られた曲線(縦軸に熱流(Heat Flow /mW)、横軸に温度をとった曲線(以下、DSC曲線)と称する)を解析した結果、DSC曲線の100〜450℃間において複数の発熱ピークを確認した。さらに、発熱量、特に280〜420℃の発熱量と、鋼線の延性に相関があることを見出した。
280〜420℃付近の発熱ピークは後述する通り、転位へ固着していたラメラセメンタイト由来のC原子が、セメンタイトとして再析出することが関係していると推考される。したがって、C原子の転位への固着の有無、ならびにセメンタイトとしての再析出が、鋼線の延性に大きく影響するものと推考される。
以下、DSC曲線の発熱ピークと鋼線の延性の相関についてさらに詳述する。
図1に、本実施形態に係る高強度鋼線(後述する[実施例]における水準「A1」に相当)と従来の鋼線(後述する[実施例]における水準「B4」に相当)のDSC曲線を示す。なお、DSC曲線において、基準線(直線)に対して、上向きのピークを有する場合を「発熱ピークを有する」ものとし、下向きのピークを有する場合を「吸熱ピークを有する」ものとする。また、基準線と各ピークの積分値が、そのピークでの変動した発熱量もしくは吸熱量である。ここで「基準線」とは、曲線上における任意の2点同士を結ぶ直線を意味し、この基準線に対する各ピークの最大高さの絶対値が3μW/mg以上であるピークを発熱ピークもしくは吸熱ピークと規定する。図1における基準線は、70℃と200℃、250℃と400℃を結ぶ直線である。なお、図1の基準線はあくまで例示である。基準線は、DSC曲線から熱量を求める際に通常行われる方法にて設定すればよい。
従来の高強度鋼線のDSC曲線は図1に示すように、100〜200℃付近と280〜420℃付近に発熱ピークを有する。このうち、100〜200℃付近の発熱ピークはC原子の転位への固着を示す発熱ピークと考えられる。これは、伸線などの加工を受けたラメラセメンタイト(以下、単にセメンタイトとも称する。)が示差走査熱量測定時の昇温に伴い、熱活性により分解し、C原子を放出し、そのC原子が転位へ固着したと推察される。一方、280〜420℃付近の発熱ピークは、転位へ固着したC原子が、更に熱活性されることで、セメンタイトへ再析出したと考えられる。
ここで、セメンタイトへ再析出するC原子は、前述の示差走査熱量測定時の昇温中にセメンタイトが分解し転位へ固着したC原子の他、伸線中およびその後の保管中などに時効が進行した際にセメンタイトが分解し、転位へ固着したC原子も含まれていると推察する。つまり、DSC曲線において、100〜450℃における全発熱量H100〜450に対して、280〜420℃の発熱量H280〜420の割合(H280〜420/H100〜450)が大きいということは、伸線中およびその後の時効時にセメンタイトが分解し、転位へ固着したC量が多いことを示すと推察される。
さらに検討を進めた結果、DSC曲線において、H280〜420/H100〜450が大きくなると延性値が低下することが分かった。つまり、これは、伸線中にセメンタイトが分解し、転位へ固着したC原子が過剰にあると、延性値が低下するということを示していると考えられる。
一般的に、材料が変形するためには転位が動く必要がある。しかし、C原子が転位へ固着すると転位は動きづらくなるため、C原子の転位への固着量が増大するほど材料は変形しづらくなり、前述のように延性値が低下すると考えられる。
これらの検討結果から、本発明者らは、伸線後の鋼線の延性を向上させるためには、セメンタイトの分解を抑制して転位へ固着するC原子量を低減することが重要であると導き出した。
しかしながら、鋼線組織内におけるC原子の転位への固着の有無やその量は、鋼線組織の観察をはじめ、その他の測定方法でも測定や評価することが非常に困難である。
したがって、本実施形態では、鋼線の延性の評価を、C原子の転位固着量と相関関係がある280〜420℃の発熱量H280〜420を用いて行うこととする。
すなわち、本実施形態では、DSC曲線におけるH280〜420/H100〜450を低減させることで、鋼線の延性の向上を図る。
以上のことから、本実施形態ではDSC曲線の100〜450℃間における全発熱量H100〜450に対する280〜420℃の発熱量H280〜420の割合(H280〜420/H100〜450)を0.45未満とした。また、この割合H280〜420/H100〜450は0でもよいが、過剰に低い場合、鋼線の引張強度が低下するので、下限を0.05以上としてもよい。
ここで、鋼線のDSCの測定方法を以下に説明する。
伸線加工を施した高強度鋼線から試験片を採取し、この試験片をDSC測定用チャンバーに入れて、50℃〜500℃までの温度範囲で示差走査熱量測定を行う。また、測定に際して、酸化などの反応が起こらないよう、Ar雰囲気下で実施することとし、昇温速度は20℃/minとすることができる。
また、得られたDSC曲線から、各ピークにおいて、基準線を引き、ピークと基準線に囲まれた領域、つまり、基準線からのピークの高さの積分値を求め、この積分値をそのピークにおける熱量とする。
(成分組成)
次に、本実施形態の高強度鋼線の鋼組成について説明する。以下、各元素の含有量の単位は質量%である。
C:0.90〜1.10%
Cは、鋼線の必要強度を付与するために必須の元素である。0.90%未満では鋼線の引張強度の低下を招くため、Cを0.90%以上含有する。好ましくは、C量は0.95%以上であり、より好ましくは1.00%である。
一方、C量が1.10%を超えると、初析セメンタイトが増加して断線が多発するのに加え、鋼線の延性低下を招く。そのため、C量は1.10%以下とする。好ましくは、C量は1.08%以下である。
Si:0.40%超0.80%以下
Siは、パーライト中のフェライト強度を増加させる他、後述する伸線中のセメンタイトの分解を抑制し、鋼線の延性を向上する効果があり重要な元素である。これらの作用を有効に発揮させるためには、Siは0.40%超含有することが必要である。好ましくは、Si量は0.50%以上である。
しかしながら、Siを過剰に含有すると、伸線加工性に有害なSiO2系介在物が発生し易くなるため、その上限を0.80%以下に定めた。好ましくは、Si量は0.70%以下である。
Mn:0.10〜0.70%
Mnは、脱酸及び脱硫に有用であるのみならず、オーステナイトからの初析セメンタイトや粒界フェライトの変態を遅延させる効果があり、パーライト主体の組織を得るために有用な元素である。このような作用を有効に発揮させるには、Mnを0.10%以上含有することが必要である。好ましくは、Mn量は0.15%以上である。
但し、Mnを過剰に含有しても上記効果が飽和する他、熱処理時の変態完了までの時間が長時間となり、生産性の低下や設備コストの増加につながる。そのため、Mn量の上限を0.70%以下に定めた。好ましくはMn量は0.50%以下である。
Cr:0.10%〜0.40%
Crはパーライトの加工硬化率を高め、低ひずみ量の伸線加工でより高い引張強度を得ることができる。また、Crはオーステナイトからの初析セメンタイトや粒界フェライトの変態を遅延させる効果があり、パーライト主体の組織を得るために有用な元素である。このような作用を有効に発揮させるには、Crを0.10%以上含有することが必要である。好ましくは、Cr量は0.15%以上である。
しかし、Cr量が0.40%超ではこれら効果が飽和する他、熱処理時の変態完了までの時間が長時間となり、生産性の低下や設備コストの増加につながる。そのため、Cr量の上限を0.40%以下に定めた。好ましくは、Cr量は0.30%以下である。
Si+Cr:0.50〜0.90%
更に、上記のSiとCrを複合含有することで、後述する伸線中のセメンタイトの分解を抑制でき、鋼線の強度と延性を向上させることができる。SiとCrの合計量が0.50%未満ではセメンタイトの分解が進行し延性が低下してしまう上、引張強度が不足するおそれがある。一方、SiとCrの合計量が0.90%超では鋼線の引張強度が過剰に増加し、延性が低下する。そのため、SiとCrの合計量が下記式(1)を満たすようにする。なおSiとCrの合計量の好ましい下限は0.55%以上であり、好ましい上限は0.80%以下である。
0.50≦Si(%)+Cr(%)≦0.90 ・・・(1)
Cr+Mn:0.40%〜0.80%
上記のCrとMnを複合含有することで、パーライト組織を安定的に得られる他、鋼線の引張強度が上昇する効果が得られる。MnとCrの合計量が0.40%未満では、これら効果が十分得られず、一方、MnとCrの合計量が0.80%超では、熱処理時の変態完了までの時間が長時間となり、生産性の低下や設備コストの増加につながる。そのため、MnとCrの合計量が下記式(2)を満たすようにする。なおMnとCrの合計量の好ましい下限は0.45%以上であり、好ましい上限は0.60%以下である。
0.40≦Cr(%)+Mn(%)≦0.80 ・・・(2)
Al:0.003%以下
Alは、Oと反応し、Alなどの硬質な酸化物が発生し、伸線加工性や鋼線の延性の低下要因となる。そのため上限を0.003%以下に制限する。なおAlは、脱酸元素として非常に有用であるほか、精錬技術と製造コストを考慮すると、Al量の下限は0.001%以上とすることが好ましい。
P:0.020%以下
Pは不純物である。P含有量が0.020%を超えると、結晶粒界に偏析して伸線加工性を損ねる恐れがある。したがって、P含有量を0.020%以下に制限する。好ましくは、P含有量を0.015%以下に制限する。また、P含有量は少ないほど望ましいので、P含有量の下限が0%であってもよい。しかし、P含有量を0%にするのは、技術的に容易でなく、また、安定的に0.001%未満とするにも、製鋼コストが高くなる。よって、P含有量の下限を0.001%以上としてもよい。
S:0.010%以下
Sは不純物である。S含有量が0.010%を超えると、粗大なMnSが形成されて伸線加工性を損ねる恐れがある。したがって、S含有量を0.010%以下に制限する。好ましくは、S含有量を0.008%以下に制限する。また、S含有量は少ないほど望ましいので、S含有量の下限が0%であってもよい。しかし、S含有量を0%にするのは、技術的に容易でなく、また、安定的に0.001%未満とするにも、製鋼コストが高くなる。よって、S含有量の下限を0.001%以上としてもよい。
本実施形態に係る高強度鋼線の基本的な成分組成は上記のとおりであるが、上記成分に加えさらに下記に示す元素のうち1種または2種以上を選択的に含有させると好ましい。なお、下記に示す元素は含有させても、含有させなくてもよく、これら元素の含有量の下限は0%である。
Ni:0.50%以下
Niは、オーステナイトからの初析セメンタイトや粒界フェライトの変態を遅延させる効果があり、パーライト主体の組織を得るために有用な元素である。その他、鋼線の靭性を高める元素である。これらの効果を得るためにはNiは0.10%以上含有することが望ましい。一方、Niを過剰に含有すると、熱処理時の変態完了までの時間が長時間となり、生産性の低下や設備コストの増加につながる。そのため、上限を0.50%以下とした。好ましくは、Ni量は0.30%以下とする。
Co:1.00%以下
Coは、圧延時や熱処理時における初析フェライトの析出を抑制するのに有効な元素である。また、鋼線の延性を向上させるのに有効な元素である。このような作用を有効に発揮させるには0.10%以上含有することが好ましい。一方、Coを過剰に含有してもその効果は飽和して経済的に無駄であるので、その上限値を1.00%以下とした。好ましくは、Co量は0.90%以下とする。
Mo:0.20%以下
Moは、オーステナイトからの初析セメンタイトや粒界フェライトの変態を遅延させる効果があり、パーライト主体の組織を得るために有用な元素である。この効果を得るためにはMoは0.05%以上含有することが望ましい。しかしながら、Mo量が0.20%超では、熱処理時の変態完了までの時間が長時間となり、生産性の低下や設備コストの増加につながる。そのため、その上限を0.20%以下とした。好ましくは、Mo量は0.15%以下とする。
B:0.0002〜0.0030%
Bは粒界に濃化して、初析フェライトの抑制に有効な元素である。この効果を得るためにはBは0.0002%以上含有することが必要である。一方、Bを過剰に含有するとオーステナイト中にFe23(CB)などの炭化物を形成し、伸線加工性を低下させるので、その上限を0.0030%以下とした。好ましくは、B量は0.0005〜0.0020%である。
Cu:0.15%以下
Cuは析出硬化などにより、鋼線の高強度化に寄与する有用な元素である。一方、Cuを過剰に含有すると粒界脆化を引き起こし、疵の発生要因となる他、延性低下の要因となる。そのため、上限を0.15%以下とした。好ましくは、Cu量は0.12%以下とする。
本実施形態の高強度鋼線は上記成分を含有し、残部は実質的にFeおよび不純物で形成される。なお、本発明の作用効果を害さない範囲内で、他の元素を微量に含有することができる。
ここで、不純物とは、鉄鋼材料を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ又は製造環境などから混入するものを指す。
(引張強度)
本実施形態に係る鋼線は、極細鋼線の高強度化を目指したものである。そのため、本実施形態に係る鋼線は、真歪量εが3.5以上の湿式伸線加工でできた鋼線とし、かつ鋼線の引張強度TSの下限を前記真歪量εの1000倍超(下記式(4)参照)とすることが望ましい。鋼線の引張強度TSの上限は特に限定しないが、過剰に高くなると延性が低下するおそれがあるため、引張強度TSの上限は前記真歪量εの1070倍未満とすることが好ましい。
TS(MPa)>1000×ε ・・・式(4)
(真歪量ε:−2×Ln(D/D0)、D:鋼線直径(mm)、D0:熱処理線材直径(mm))
なお、湿式伸線加工を施した鋼線の引張強度TSは、伸線前の素材となる熱処理線材の引張強度TSに大きく依存する。ここで、熱処理線材の引張強度TSは、成分に応じて、適切な範囲がある。熱処理線材の引張強度TSが下記式(5)の左辺以下では、伸線後の鋼線の引張強度TSが低下する。一方、熱処理線材の引張強度TSが下記式(5)の右辺以上では鋼線の引張強度TSが過剰に高くなり、延性値が低下する可能性がある。そのため、本実施形態に係る鋼線の素材となる熱処理線材の引張強度TSは下記式(5)を満たすことが好ましい。
一方で、熱処理線材の引張強度TSが成分に応じた適切な水準であっても、過剰に高ければ、鋼線の延性が低下し、逆に過剰に低ければ、鋼線の引張強度TSが低下する。そのため、下記式(5)に加え、熱処理線材の引張強度TSは下限を1500MPa以上、上限を1700MPa以下に制御することがより好ましい。
600×C量(%)+100×Si量(%)+250×Cr量(%)+860<TS(MPa)<600×C量(%)+100×Si量(%)+250×Cr量(%)+900 ・・・式(5)
(引張強度の測定方法)
鋼線の引張強度TSの測定方法は、鋼線から、非定常部を除き3本以上のサンプルを連続して採取し、それぞれ引張試験に供する。それらの平均値を鋼線の引張強度TSとすることができる。
また、熱処理線材の引張強度TSの測定方法は、熱処理線材から、非定常部を除き3本以上のサンプルを採取し、それぞれ引張試験に供する。それらの平均を熱処理線材の引張強度TSとすることができる。
(金属組織)
次に、本実施形態に係る高強度鋼線と、その素材となる熱処理線材の金属組織について説明する。
本実施形態の鋼線の素材である熱処理線材の金属組織は、高強度と高延性を両立するためにパーライトを主組織とし、残部組織は、初析セメンタイト、粒界フェライトおよびベイナイトのいずれか1種もしくは2種以上からなる。
なお、初析セメンタイトや粒界フェライト、ベイナイトは破壊の伝播経路となる可能性があり、熱処理線材においてこれらの面積率が大きくなれば、鋼線の引張強度や延性の低下要因となる。さらに、熱処理線材においてベイナイトや初析フェライトの面積率が大きくなれば、伸線時の歪が不均一に集中し、局所的にセメンタイトの分解が進行してしまう。その結果、発熱量H280〜420が増大し延性が低下するおそれがある。そのため、伸線前の素材となる熱処理線材のパーライトの面積率を95%以上とすることが好ましい。
熱処理線材のパーライトの面積率の測定は、以下のように行うことができる。熱処理線材を切断し、長さ方向と垂直な横断面を観察できるように樹脂埋めした後、研磨紙やアルミナ砥粒で研磨して鏡面仕上げした試料とする。これを3%ナイタール溶液もしくはピクラールで腐食して、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて観察する。続いて、SEM付属の写真撮影装置を用い、任意の箇所を2000倍以上で総観察視野面積が0.08mm2以上となるように複数視野撮影し、粒子解ソフトウェアなどの画像解析ソフトウェアを用いてパーライトの面積率の測定を行う。
本実施形態の鋼線の金属組織は、熱処理線材とほぼ同等の金属組織を備えているものと推測される。すなわち、面積率で95%以上のパーライトと、残部組織として初析セメンタイト、粒界フェライトおよびベイナイトのいずれか1種もしくは2種以上とを備えた組織を有するものと推測される。ただし、鋼線の金属組織は、断面の顕微鏡観察からパーライトが主体とする組織であることは確認できるが、その面積率は、鋼線の断面が極めて小さな面積であるため、正確な測定が困難である。
(製造方法)
次に、本実施形態に係る高強度鋼線の製造方法について説明する。
本実施形態に係る高強度鋼線を製造する場合、DSC曲線における上記発熱量の規定、金属組織の面積率等、上述した各条件を満たし得るように、鋼の成分や各工程、及び各工程における条件を設定すればよい。
つまり、伸線加工後の鋼線の線径や必要とされる強度と延性に応じて、製造条件を設定することができる。
なお、以下に説明する製造方法は一例であり、以下の手順および方法で限定するものではなく、本発明の高強度鋼線の構成を実現できる方法であれば、如何なる方法を採用することも可能である。
まず、本実施形態に係る材料、すなわち熱間圧延に供する材料の製造条件は、通常の製造条件を採用することができる。例えば、上記成分の鋼を連続鋳造によって鋳造片を製造し、鋳造片を分塊圧延にて、線材圧延に適した大きさの鋼片(一般にビレットと呼ばれる線材圧延前の鋼片)を製造し、熱間圧延に供する。
線材の圧延に際しては、上記鋼片を950〜1150℃に加熱し、仕上圧延開始温度を800℃以上950℃以下に制御し、直径3.6〜5.5mmまで熱間圧延する。
熱間圧延後、800℃以上940℃以下で線材をリング状に巻き取る。その後、700℃までの冷却速度を10℃/s以上で冷却し、その後、580℃まで冷却速度5℃/s以上15℃/s以下で冷却し熱間圧延線材を製造する。
こうして得られた熱間圧延線材を、通常の方法でスケールはく離、皮膜処理を行う。その後、乾式で冷間伸線加工を行う。なお、乾式伸線加工は、1パスの減面率20%以下で行い、真歪2.5超となる場合は、中間熱処理を実施する。この中間熱処理は一般的なパテンティング処理で行う。
乾式伸線加工後の線材の線径は特に限定しないが、0.4〜2.5mmの範囲としてもよい。
次に、乾式伸線加工にて上記線径まで伸線した後、最終熱処理を行う。最終熱処理によって、熱処理後の熱処理線材の引張強度TSを、上記式(5)を満足する範囲に調整する。これにより、本実施形態の鋼線の引張強度TSを、上記式(4)を満たす範囲に調整することができる。
熱処理線材の引張強度TSを上記式(5)を満足する範囲に調整するための最終熱処理の条件は、例えば、アルゴン雰囲気等、酸化しない雰囲気で、985℃〜1020℃の範囲まで加熱し、熱間圧延線材をオーステナイト化する。具体的には、985℃〜1020℃の範囲で5秒〜10秒保持する。その後、2秒以内に浴温590℃〜605℃の鉛浴に浸漬し、6秒〜20秒間保持する。その後、直ちに大気もしくは水などで常温まで冷却を行う。
このような最終熱処理を行うことで、上述したような熱処理線材の組織や引張強度TSを得ることができる。しかし、前述のように、これらの製造はあくまで一例であり、最適な熱処理条件は、鋼の組成や熱処理を行う線径、熱処理までの加工プロセスなどによって異なるので、上記式(5)を満たす範囲で適宜変更してもよい。
次に、このようにして製造した熱処理線材に、ブラスめっきを施し、その後、湿式伸線工程にて直径0.05〜0.30mmまで伸線加工を行う。本実施形態ではこの最終熱処理後の伸線工程を湿式伸線にて行うことが重要である。
めっき後の伸線工程を乾式伸線にて行うと、加工発熱が大きいためにセメンタイトの分解が進行してしまう。したがって、最終熱処理後は湿式伸線にて加工を行うこととする。湿式伸線工程においては線材に潤滑剤等の液体を付着させるが、この付着させた液体によって伸線時の加工発熱が除かれ、更には線材とダイスとの接触圧力等が低減されて、セメンタイトの分解を抑制することができる。その結果、H280〜420/H100〜450を低減でき、伸線後の鋼線の延性を向上させることができる。
以下に、湿式伸線加工の製造条件の一例を示すが、これはあくまで一例であり、鋼線の線径や伸線機やダイス等の製造機器の種類や能力等に応じて、本発明の趣旨に適合し得る範囲で各条件を設定すればよい。
まず、湿式伸線加工は、多段に配列されたダイスによる連続的な湿式伸線加工とし、1パスの減面率を10〜17%、最終の伸線速度は50〜700m/minで行うことができる。伸線時の減面率が大きすぎると、鋼線表層にかかるダイスとの接触圧力が増加し、セメンタイトの分解が進行するおそれがある。また伸線速度が過度に遅いと潤滑剤の引き込みが低下し、摩擦による加工発熱が上昇する結果、セメンタイトの分解が進行するおそれがある。伸線速度が過度に速い場合も同様にして、摩擦による加工発熱が上昇する結果、セメンタイトの分解が進行するおそれがある。
また、最終パスから上流側へ5パスの範囲内においては、逆張力を安定的に制御しながら伸線を行うことにより、鋼線表層にかかるダイスとの接触圧力や摩擦熱の上昇を抑制することができる。しかしながら、逆張力が大きすぎると鋼線が破断するおそれがある。そのため、付与する逆張力の大きさは、その各パスの鋼線の引張強度の5〜40%とすることが好ましい。
湿式伸線加工によって伸線されて得られた本実施形態の鋼線は、上記式(4)を満たすものとなり、優れた強度を有するものとなる。
以上説明したとおり、本実施形態の成分組成を有し、製造条件を上記のように調整することにより、鋼線を本発明の範囲内とすることができる。また、上記のようにして、鋼線を製造することで、本発明の強度と延性に優れた高強度極細鋼線を得ることができる。しかし、上記の製造はあくまで一例であり、最適な製造条件は、鋼の組成や最終の極細鋼線の線径などによって異なり、製造方法が特定されるものではなく、適宜変更してもよい。
以下、本発明にかかる鋼線の実施例を挙げ、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、もとより下記実施例に限定されるものではなく、前、後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれるものである。
表1に成分組成および最終熱処理線材の線径、組織(パーライト面積率)および引張強度TSを、表2に湿式伸線条件と鋼線の引張特性および延性値を評価した結果を示す。
表1〜表4において、A1〜23は本発明例であり、B1〜24は成分組成または製造条件の少なくともいずれかが適正範囲外となり、鋼線の機械的特性やDSC曲線におけるH280〜420/H100〜450が本発明の適正範囲から外れたものである。
なお、表1〜表4で、本発明の適正範囲から外れる数値にアンダーラインを付している。
Figure 0006946891
Figure 0006946891
Figure 0006946891
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本発明例、比較例ともに、熱処理線材は、以下の方法で製造した。
表1、2に示す組成の鋼を真空溶解もしくは転炉により溶製した後、熱間鍛造および熱間圧延により、直径3.6〜5.5mmの熱間圧延線材を作製した。その際、熱間圧延線材の組織は、マルテンサイトなど過冷組織は生成させず、初析セメンタイトを極力抑制したパーライト組織が主体となるよう制御した。具体的には、ビレットを加熱炉にて1000〜1200℃まで加熱したのちに熱間圧延を行い、その後、750〜950℃でリング状に巻取った。巻取った後は、700℃までの冷却速度を20℃/s、その後の580℃までの冷却速度を8℃/sとして冷却した。
こうして得られた熱間圧延線材を、通常の方法でスケールはく離、皮膜処理を行い、その後、乾式で冷間伸線加工を行い、表1、2に示す線径を有する線材を製造し、最終熱処理に供した。
なお、乾式伸線加工は、1パスの減面率20%以下で行い、真歪2.5超となる場合は、一般的なパテンティング処理で中間熱処理を実施した。
最終熱処理は、アルゴン雰囲気で985℃から1020℃までの範囲内に加熱し、その温度範囲にて5秒から10秒間保持しオーステナイト化した後、2秒以内に浴温が590℃から605℃の鉛浴に浸漬し、6秒から20秒間保持することでパーライト組織へと変態させた。
その後、直ちに大気もしくは水で常温まで冷却を行い、熱処理線材を製造した。なお、比較例のB15、B21は前記の製造方法からはずれた条件で製造した結果、引張強度TSまたはパーライト面積率が本発明の好ましい範囲から外れた熱処理線材の例である。
熱処理線材のパーライト面積率および引張強度TSは上記の方法で測定した。
なお、本発明例、比較例において、熱処理線材の金属組織はいずれもパーライトと初析セメンタイト、粒界フェライトおよびベイナイトの1種又は2種以上の複合組織であった。また、最終熱処理線材の引張試験は、N数を3、サンプル長さを400mm、クロスヘッドスピードを10mm/min、治具間を200mmとして行った。
得られた最終熱処理線材に、通常の方法でブラスめっきを施し、表2に記載の条件で、線径0.06〜0.28mmまで、真歪εが3.5以上の湿式伸線を行った。なお、表2中の「減面率」、「伸線速度」はそれぞれ、1パス(各ダイス)の減面率、最終パスの伸線速度を示している。また「逆張力」は最終パスから上流側5パスまでの範囲内において付与したものであり、その数値は、各パスにおける鋼線の引張強度(MPa)に対する割合を示している。
湿式伸線後、得られた鋼線の評価として、DSC曲線における50℃から500℃の温度範囲における発熱ピークの測定、分析、引張試験および延性評価を行った。
示差走査熱量測定は、Ar雰囲気下で、50℃から500℃までの温度範囲で発熱ピークを測定し、100〜450℃における全発熱量H100〜450に対する280〜420℃の発熱量H280〜420の割合H280〜420/H100〜450を計測した。なお、50℃から500℃までの昇温速度は20℃/minとした。
引張試験は、N数を3、サンプル長さを200mm、クロスヘッドスピードを10mm/min、治具間を200mmとして行い、それらの平均で引張強度TSを評価した。なお本発明では、式(4)を満たすものを優れた引張強度と評価した。
延性値は、特開2011-52269号公報に記載の引掛強さ保持率の測定方法と同様にして行った。
まず前述の引張試験においてサンプルを採取した場所から連続して、20本以上のサンプルを採取する。その後、それらサンプルを図2に示すように、2本の鋼線1をループ状にして互いに引っ掛け合い、この状態で、各鋼線1を引張試験機のチャック2間に固定して破断するまで引張り、破断したときの荷重(引掛強さ)を測定した。そして、引掛強さと鋼線の引張強度TSとを比較することで、引掛強さ保持率=((引掛強さ)/引張強度TS×100)として求め、その値を延性値とした。本発明では、延性値60%以上を優れた延性値として評価した。
表1、3に示すように、試験例のA1〜23は、いずれも本発明例であり、すべての高強度鋼線は、真歪ε3.5以上の伸線加工を施したうえで、DSC曲線において280〜450℃の温度範囲の発熱ピークを抑制することができ(H280〜420/H100〜450を低減でき)、強度と延性に優れた特性を得られた。
一方、B1〜24の試験例は、本発明の要件のいずれかを満たしていないため、鋼線の強度や延性が劣位であった。
B1〜B12は本発明の成分範囲が外れており、鋼線の引張強度や延性値が低下した例である。
B1、B2はCが過剰に添加されたため、熱処理線材における初析セメンタイトの増加にともなうパーライト面積率の低下や引張強度の上昇により、鋼線の延性値が低下した例である。
B3〜5、B10は、Si量やCr量およびSi+Cr量が少なすぎたため、湿式伸線加工工程においてセメンタイトの分解が進行してしまい、結果、H280〜420/H100〜450が上昇し、鋼線の引張強度や延性値が低下した例である。
B6はSi量が過剰に添加されたため、SiO系の介在物が析出し、断線が発生した例である。
B7は、Cr量およびSi+Cr量が過剰であったため、またB8はSi+Cr量が過剰であったため、鋼線の延性値が低下した例である。
また、B9はCr+Mn量が過剰であるため、変態完了時間が長時間化し、所定の時間内(鉛浴への浸漬中)に変態が完了せず、ベイナイトが多く析出してしまい、パーライト面積率が低下した結果、熱処理線材の引張強度TSが低下し、鋼線の延性が低下した例である。
B11はCr+Mn量が小さいため、初析セメンタイトの増加にともなう熱処理線材におけるパーライト面積率の低下や引張強度TSの低下により、鋼線の引張強度TSや延性値が低下した例である。
B12はCuが過剰に添加されたため、熱処理線材に粗大な表面疵が生成し、鋼線の延性値が低下した例である。
B13〜19、B22、23は熱処理線材のパーライト面積率が低い、湿式伸線時のラメラセメンタイトの分解の進行などにより、DSC曲線の発熱ピーク(H280〜420/H100〜450が)が本発明の範囲外となり、鋼線の延性が低下した例である。
B13は湿式伸線時の減面率が大きいため、B14、16、19、22は逆張力が小さいもしくは逆張力を安定的に制御していないために、湿式伸線時に鋼線表層にかかるダイスとの接触圧力や摩擦による加工発熱量などが増加し、セメンタイトの分解が進んでしまい、H280〜420/H100〜450が本発明の範囲外となり、鋼線の延性が低下した例である。
B17は湿式伸線時の伸線速度が過剰に速かったため、B18、23は伸線速度が過剰に遅かったために、湿式伸線時に潤滑剤の引き込みが低下し、摩擦による加工発熱が上昇した結果、セメンタイトの分解が進んでしまい、H280〜420/H100〜450が本発明の範囲外となり、鋼線の延性が低下した例である。
B20は湿式伸線時の減面率が小さく、B24は逆張力が大きかったため、断線が発生した例である。
B15は、熱処理線材においてベイナイトやフェライトが析出してしまいパーライト面積率が低下した結果、湿式伸線時の歪が不均一に集中し、局所的にセメンタイトの分解が進行してしまい、H280〜420/H100〜450が本発明の範囲外となり、鋼線の延性が低下した例である。
B21は、熱処理線材の引張強度が過剰に大きいため、湿式伸線時の変形抵抗が上昇し、加工発熱が上昇し、湿式伸線時のラメラセメンタイトの分解が進行し、鋼線の延性が低下した例である。
本発明によれば、スチールコードやソーワイヤなどの用途に好適な、延性に優れた高強度鋼線を安定的に生産することができ産業上の貢献が極めて顕著である。
1:鋼線
2:試験機のチャック

Claims (2)

  1. 質量%で、
    C:0.90〜1.10%、
    Si:0.40%超0.80%以下、
    Mn:0.10〜0.70%、
    Cr:0.10〜0.40%
    を含有し、
    Al:0.003%以下、
    P:0.020%以下、
    S:0.010%以下
    に制限し、かつ質量%で下記式(1)、(2)を満たし、残部はFeおよび不純物よりなり、
    線径が直径で0.05〜0.30mmであり、
    示差走査熱量測定のDSC曲線の100〜450℃の温度範囲において、複数の発熱ピークを有し、かつ、100〜450℃の温度範囲における発熱量の総和H100〜450と280〜420℃の温度範囲における発熱量H280〜420が、下記式(3)を満足し、
    引張強度TSが3500MPa超を満足する、高強度鋼線。
    0.50≦Si(%)+Cr(%)≦0.90 ・・・(1)
    0.40≦Cr(%)+Mn(%)≦0.80 ・・・(2)
    0.05≦280〜420/H100〜450<0.45 ・・・(3)
    上記の(1)、(2)式中の元素記号は、その元素の質量%での含有量を意味する。
  2. 更に、質量%で、Ni:0.50%以下、Co:1.00%以下、Mo:0.20%以下、B:0.0002〜0.0030%、Cu:0.15%以下のいずれか1種もしくは2種以上を含有する、請求項1に記載の高強度鋼線。
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