JP6946891B2 - 高強度鋼線 - Google Patents
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[1]質量%で、C:0.90〜1.10%、Si:0.40%超0.80%以下、Mn:0.10〜0.70%、Cr:0.10〜0.40%を含有し、Al:0.003%以下、P:0.020%以下、S:0.010%以下に制限し、かつ質量%で下記式(1)、(2)を満たし、残部はFeおよび不純物よりなり、線径が直径で0.05〜0.30mmであり、示差走査熱量測定のDSC曲線の100〜450℃の温度範囲において、複数の発熱ピークを有し、かつ、100〜450℃の温度範囲における発熱量の総和H100〜450と280〜420℃の温度範囲における発熱量H280〜420が、下記式(3)を満足し、引張強度TSが3500MPa超を満足する、高強度鋼線。
0.50≦Si(%)+Cr(%)≦0.90 ・・・(1)
0.40≦Cr(%)+Mn(%)≦0.80 ・・・(2)
0.05≦H280〜420/H100〜450<0.45 ・・・(3)
上記の(1)、(2)式中の元素記号は、その元素の質量%での含有量を意味する。
本実施形態にかかる高強度鋼線は、質量%で、C:0.90〜1.10%、Si:0.40%超0.80%以下、Mn:0.10〜0.70%、Cr:0.10〜0.40%を含有し、Al:0.003%以下、P:0.020%以下、S:0.010%以下に制限し、かつ質量%で下記式(1)、(2)を満たし、残部はFeおよび不純物よりなり、線径が直径で0.05〜0.30mmであり、示差走査熱量測定のDSC曲線における100〜450℃の温度範囲において、複数の発熱ピークを有し、かつ、100〜450℃の温度範囲における発熱量の総和H100〜450と280〜420℃の温度範囲における発熱量H280〜420が、下記式(3)を満足する高強度鋼線である。
0.50≦Si(%)+Cr(%)≦0.90 ・・・(1)
0.40≦Cr(%)+Mn(%)≦0.80 ・・・(2)
H280〜420/H100〜450<0.45 ・・・(3)
280〜420℃付近の発熱ピークは後述する通り、転位へ固着していたラメラセメンタイト由来のC原子が、セメンタイトとして再析出することが関係していると推考される。したがって、C原子の転位への固着の有無、ならびにセメンタイトとしての再析出が、鋼線の延性に大きく影響するものと推考される。
以下、DSC曲線の発熱ピークと鋼線の延性の相関についてさらに詳述する。
ここで、セメンタイトへ再析出するC原子は、前述の示差走査熱量測定時の昇温中にセメンタイトが分解し転位へ固着したC原子の他、伸線中およびその後の保管中などに時効が進行した際にセメンタイトが分解し、転位へ固着したC原子も含まれていると推察する。つまり、DSC曲線において、100〜450℃における全発熱量H100〜450に対して、280〜420℃の発熱量H280〜420の割合(H280〜420/H100〜450)が大きいということは、伸線中およびその後の時効時にセメンタイトが分解し、転位へ固着したC量が多いことを示すと推察される。
一般的に、材料が変形するためには転位が動く必要がある。しかし、C原子が転位へ固着すると転位は動きづらくなるため、C原子の転位への固着量が増大するほど材料は変形しづらくなり、前述のように延性値が低下すると考えられる。
しかしながら、鋼線組織内におけるC原子の転位への固着の有無やその量は、鋼線組織の観察をはじめ、その他の測定方法でも測定や評価することが非常に困難である。
したがって、本実施形態では、鋼線の延性の評価を、C原子の転位固着量と相関関係がある280〜420℃の発熱量H280〜420を用いて行うこととする。
すなわち、本実施形態では、DSC曲線におけるH280〜420/H100〜450を低減させることで、鋼線の延性の向上を図る。
伸線加工を施した高強度鋼線から試験片を採取し、この試験片をDSC測定用チャンバーに入れて、50℃〜500℃までの温度範囲で示差走査熱量測定を行う。また、測定に際して、酸化などの反応が起こらないよう、Ar雰囲気下で実施することとし、昇温速度は20℃/minとすることができる。
また、得られたDSC曲線から、各ピークにおいて、基準線を引き、ピークと基準線に囲まれた領域、つまり、基準線からのピークの高さの積分値を求め、この積分値をそのピークにおける熱量とする。
次に、本実施形態の高強度鋼線の鋼組成について説明する。以下、各元素の含有量の単位は質量%である。
Cは、鋼線の必要強度を付与するために必須の元素である。0.90%未満では鋼線の引張強度の低下を招くため、Cを0.90%以上含有する。好ましくは、C量は0.95%以上であり、より好ましくは1.00%である。
一方、C量が1.10%を超えると、初析セメンタイトが増加して断線が多発するのに加え、鋼線の延性低下を招く。そのため、C量は1.10%以下とする。好ましくは、C量は1.08%以下である。
Siは、パーライト中のフェライト強度を増加させる他、後述する伸線中のセメンタイトの分解を抑制し、鋼線の延性を向上する効果があり重要な元素である。これらの作用を有効に発揮させるためには、Siは0.40%超含有することが必要である。好ましくは、Si量は0.50%以上である。
しかしながら、Siを過剰に含有すると、伸線加工性に有害なSiO2系介在物が発生し易くなるため、その上限を0.80%以下に定めた。好ましくは、Si量は0.70%以下である。
Mnは、脱酸及び脱硫に有用であるのみならず、オーステナイトからの初析セメンタイトや粒界フェライトの変態を遅延させる効果があり、パーライト主体の組織を得るために有用な元素である。このような作用を有効に発揮させるには、Mnを0.10%以上含有することが必要である。好ましくは、Mn量は0.15%以上である。
但し、Mnを過剰に含有しても上記効果が飽和する他、熱処理時の変態完了までの時間が長時間となり、生産性の低下や設備コストの増加につながる。そのため、Mn量の上限を0.70%以下に定めた。好ましくはMn量は0.50%以下である。
Crはパーライトの加工硬化率を高め、低ひずみ量の伸線加工でより高い引張強度を得ることができる。また、Crはオーステナイトからの初析セメンタイトや粒界フェライトの変態を遅延させる効果があり、パーライト主体の組織を得るために有用な元素である。このような作用を有効に発揮させるには、Crを0.10%以上含有することが必要である。好ましくは、Cr量は0.15%以上である。
しかし、Cr量が0.40%超ではこれら効果が飽和する他、熱処理時の変態完了までの時間が長時間となり、生産性の低下や設備コストの増加につながる。そのため、Cr量の上限を0.40%以下に定めた。好ましくは、Cr量は0.30%以下である。
更に、上記のSiとCrを複合含有することで、後述する伸線中のセメンタイトの分解を抑制でき、鋼線の強度と延性を向上させることができる。SiとCrの合計量が0.50%未満ではセメンタイトの分解が進行し延性が低下してしまう上、引張強度が不足するおそれがある。一方、SiとCrの合計量が0.90%超では鋼線の引張強度が過剰に増加し、延性が低下する。そのため、SiとCrの合計量が下記式(1)を満たすようにする。なおSiとCrの合計量の好ましい下限は0.55%以上であり、好ましい上限は0.80%以下である。
0.50≦Si(%)+Cr(%)≦0.90 ・・・(1)
上記のCrとMnを複合含有することで、パーライト組織を安定的に得られる他、鋼線の引張強度が上昇する効果が得られる。MnとCrの合計量が0.40%未満では、これら効果が十分得られず、一方、MnとCrの合計量が0.80%超では、熱処理時の変態完了までの時間が長時間となり、生産性の低下や設備コストの増加につながる。そのため、MnとCrの合計量が下記式(2)を満たすようにする。なおMnとCrの合計量の好ましい下限は0.45%以上であり、好ましい上限は0.60%以下である。
0.40≦Cr(%)+Mn(%)≦0.80 ・・・(2)
Alは、Oと反応し、Al2O3などの硬質な酸化物が発生し、伸線加工性や鋼線の延性の低下要因となる。そのため上限を0.003%以下に制限する。なおAlは、脱酸元素として非常に有用であるほか、精錬技術と製造コストを考慮すると、Al量の下限は0.001%以上とすることが好ましい。
Pは不純物である。P含有量が0.020%を超えると、結晶粒界に偏析して伸線加工性を損ねる恐れがある。したがって、P含有量を0.020%以下に制限する。好ましくは、P含有量を0.015%以下に制限する。また、P含有量は少ないほど望ましいので、P含有量の下限が0%であってもよい。しかし、P含有量を0%にするのは、技術的に容易でなく、また、安定的に0.001%未満とするにも、製鋼コストが高くなる。よって、P含有量の下限を0.001%以上としてもよい。
Sは不純物である。S含有量が0.010%を超えると、粗大なMnSが形成されて伸線加工性を損ねる恐れがある。したがって、S含有量を0.010%以下に制限する。好ましくは、S含有量を0.008%以下に制限する。また、S含有量は少ないほど望ましいので、S含有量の下限が0%であってもよい。しかし、S含有量を0%にするのは、技術的に容易でなく、また、安定的に0.001%未満とするにも、製鋼コストが高くなる。よって、S含有量の下限を0.001%以上としてもよい。
Niは、オーステナイトからの初析セメンタイトや粒界フェライトの変態を遅延させる効果があり、パーライト主体の組織を得るために有用な元素である。その他、鋼線の靭性を高める元素である。これらの効果を得るためにはNiは0.10%以上含有することが望ましい。一方、Niを過剰に含有すると、熱処理時の変態完了までの時間が長時間となり、生産性の低下や設備コストの増加につながる。そのため、上限を0.50%以下とした。好ましくは、Ni量は0.30%以下とする。
Coは、圧延時や熱処理時における初析フェライトの析出を抑制するのに有効な元素である。また、鋼線の延性を向上させるのに有効な元素である。このような作用を有効に発揮させるには0.10%以上含有することが好ましい。一方、Coを過剰に含有してもその効果は飽和して経済的に無駄であるので、その上限値を1.00%以下とした。好ましくは、Co量は0.90%以下とする。
Moは、オーステナイトからの初析セメンタイトや粒界フェライトの変態を遅延させる効果があり、パーライト主体の組織を得るために有用な元素である。この効果を得るためにはMoは0.05%以上含有することが望ましい。しかしながら、Mo量が0.20%超では、熱処理時の変態完了までの時間が長時間となり、生産性の低下や設備コストの増加につながる。そのため、その上限を0.20%以下とした。好ましくは、Mo量は0.15%以下とする。
Bは粒界に濃化して、初析フェライトの抑制に有効な元素である。この効果を得るためにはBは0.0002%以上含有することが必要である。一方、Bを過剰に含有するとオーステナイト中にFe23(CB)6などの炭化物を形成し、伸線加工性を低下させるので、その上限を0.0030%以下とした。好ましくは、B量は0.0005〜0.0020%である。
Cuは析出硬化などにより、鋼線の高強度化に寄与する有用な元素である。一方、Cuを過剰に含有すると粒界脆化を引き起こし、疵の発生要因となる他、延性低下の要因となる。そのため、上限を0.15%以下とした。好ましくは、Cu量は0.12%以下とする。
ここで、不純物とは、鉄鋼材料を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ又は製造環境などから混入するものを指す。
本実施形態に係る鋼線は、極細鋼線の高強度化を目指したものである。そのため、本実施形態に係る鋼線は、真歪量εが3.5以上の湿式伸線加工でできた鋼線とし、かつ鋼線の引張強度TSの下限を前記真歪量εの1000倍超(下記式(4)参照)とすることが望ましい。鋼線の引張強度TSの上限は特に限定しないが、過剰に高くなると延性が低下するおそれがあるため、引張強度TSの上限は前記真歪量εの1070倍未満とすることが好ましい。
TS(MPa)>1000×ε ・・・式(4)
(真歪量ε:−2×Ln(D/D0)、D:鋼線直径(mm)、D0:熱処理線材直径(mm))
鋼線の引張強度TSの測定方法は、鋼線から、非定常部を除き3本以上のサンプルを連続して採取し、それぞれ引張試験に供する。それらの平均値を鋼線の引張強度TSとすることができる。
また、熱処理線材の引張強度TSbの測定方法は、熱処理線材から、非定常部を除き3本以上のサンプルを採取し、それぞれ引張試験に供する。それらの平均を熱処理線材の引張強度TSbとすることができる。
次に、本実施形態に係る高強度鋼線と、その素材となる熱処理線材の金属組織について説明する。
本実施形態の鋼線の素材である熱処理線材の金属組織は、高強度と高延性を両立するためにパーライトを主組織とし、残部組織は、初析セメンタイト、粒界フェライトおよびベイナイトのいずれか1種もしくは2種以上からなる。
なお、初析セメンタイトや粒界フェライト、ベイナイトは破壊の伝播経路となる可能性があり、熱処理線材においてこれらの面積率が大きくなれば、鋼線の引張強度や延性の低下要因となる。さらに、熱処理線材においてベイナイトや初析フェライトの面積率が大きくなれば、伸線時の歪が不均一に集中し、局所的にセメンタイトの分解が進行してしまう。その結果、発熱量H280〜420が増大し延性が低下するおそれがある。そのため、伸線前の素材となる熱処理線材のパーライトの面積率を95%以上とすることが好ましい。
次に、本実施形態に係る高強度鋼線の製造方法について説明する。
本実施形態に係る高強度鋼線を製造する場合、DSC曲線における上記発熱量の規定、金属組織の面積率等、上述した各条件を満たし得るように、鋼の成分や各工程、及び各工程における条件を設定すればよい。
つまり、伸線加工後の鋼線の線径や必要とされる強度と延性に応じて、製造条件を設定することができる。
なお、以下に説明する製造方法は一例であり、以下の手順および方法で限定するものではなく、本発明の高強度鋼線の構成を実現できる方法であれば、如何なる方法を採用することも可能である。
熱間圧延後、800℃以上940℃以下で線材をリング状に巻き取る。その後、700℃までの冷却速度を10℃/s以上で冷却し、その後、580℃まで冷却速度5℃/s以上15℃/s以下で冷却し熱間圧延線材を製造する。
乾式伸線加工後の線材の線径は特に限定しないが、0.4〜2.5mmの範囲としてもよい。
めっき後の伸線工程を乾式伸線にて行うと、加工発熱が大きいためにセメンタイトの分解が進行してしまう。したがって、最終熱処理後は湿式伸線にて加工を行うこととする。湿式伸線工程においては線材に潤滑剤等の液体を付着させるが、この付着させた液体によって伸線時の加工発熱が除かれ、更には線材とダイスとの接触圧力等が低減されて、セメンタイトの分解を抑制することができる。その結果、H280〜420/H100〜450を低減でき、伸線後の鋼線の延性を向上させることができる。
以下に、湿式伸線加工の製造条件の一例を示すが、これはあくまで一例であり、鋼線の線径や伸線機やダイス等の製造機器の種類や能力等に応じて、本発明の趣旨に適合し得る範囲で各条件を設定すればよい。
なお、表1〜表4で、本発明の適正範囲から外れる数値にアンダーラインを付している。
表1、2に示す組成の鋼を真空溶解もしくは転炉により溶製した後、熱間鍛造および熱間圧延により、直径3.6〜5.5mmの熱間圧延線材を作製した。その際、熱間圧延線材の組織は、マルテンサイトなど過冷組織は生成させず、初析セメンタイトを極力抑制したパーライト組織が主体となるよう制御した。具体的には、ビレットを加熱炉にて1000〜1200℃まで加熱したのちに熱間圧延を行い、その後、750〜950℃でリング状に巻取った。巻取った後は、700℃までの冷却速度を20℃/s、その後の580℃までの冷却速度を8℃/sとして冷却した。
なお、乾式伸線加工は、1パスの減面率20%以下で行い、真歪2.5超となる場合は、一般的なパテンティング処理で中間熱処理を実施した。
最終熱処理は、アルゴン雰囲気で985℃から1020℃までの範囲内に加熱し、その温度範囲にて5秒から10秒間保持しオーステナイト化した後、2秒以内に浴温が590℃から605℃の鉛浴に浸漬し、6秒から20秒間保持することでパーライト組織へと変態させた。
その後、直ちに大気もしくは水で常温まで冷却を行い、熱処理線材を製造した。なお、比較例のB15、B21は前記の製造方法からはずれた条件で製造した結果、引張強度TSbまたはパーライト面積率が本発明の好ましい範囲から外れた熱処理線材の例である。
なお、本発明例、比較例において、熱処理線材の金属組織はいずれもパーライトと初析セメンタイト、粒界フェライトおよびベイナイトの1種又は2種以上の複合組織であった。また、最終熱処理線材の引張試験は、N数を3、サンプル長さを400mm、クロスヘッドスピードを10mm/min、治具間を200mmとして行った。
まず前述の引張試験においてサンプルを採取した場所から連続して、20本以上のサンプルを採取する。その後、それらサンプルを図2に示すように、2本の鋼線1をループ状にして互いに引っ掛け合い、この状態で、各鋼線1を引張試験機のチャック2間に固定して破断するまで引張り、破断したときの荷重(引掛強さ)を測定した。そして、引掛強さと鋼線の引張強度TSとを比較することで、引掛強さ保持率=((引掛強さ)/引張強度TS×100)として求め、その値を延性値とした。本発明では、延性値60%以上を優れた延性値として評価した。
B1、B2はCが過剰に添加されたため、熱処理線材における初析セメンタイトの増加にともなうパーライト面積率の低下や引張強度の上昇により、鋼線の延性値が低下した例である。
B3〜5、B10は、Si量やCr量およびSi+Cr量が少なすぎたため、湿式伸線加工工程においてセメンタイトの分解が進行してしまい、結果、H280〜420/H100〜450が上昇し、鋼線の引張強度や延性値が低下した例である。
B6はSi量が過剰に添加されたため、SiO系の介在物が析出し、断線が発生した例である。
B7は、Cr量およびSi+Cr量が過剰であったため、またB8はSi+Cr量が過剰であったため、鋼線の延性値が低下した例である。
また、B9はCr+Mn量が過剰であるため、変態完了時間が長時間化し、所定の時間内(鉛浴への浸漬中)に変態が完了せず、ベイナイトが多く析出してしまい、パーライト面積率が低下した結果、熱処理線材の引張強度TSbが低下し、鋼線の延性が低下した例である。
B11はCr+Mn量が小さいため、初析セメンタイトの増加にともなう熱処理線材におけるパーライト面積率の低下や引張強度TSbの低下により、鋼線の引張強度TSや延性値が低下した例である。
B12はCuが過剰に添加されたため、熱処理線材に粗大な表面疵が生成し、鋼線の延性値が低下した例である。
B13は湿式伸線時の減面率が大きいため、B14、16、19、22は逆張力が小さいもしくは逆張力を安定的に制御していないために、湿式伸線時に鋼線表層にかかるダイスとの接触圧力や摩擦による加工発熱量などが増加し、セメンタイトの分解が進んでしまい、H280〜420/H100〜450が本発明の範囲外となり、鋼線の延性が低下した例である。
B17は湿式伸線時の伸線速度が過剰に速かったため、B18、23は伸線速度が過剰に遅かったために、湿式伸線時に潤滑剤の引き込みが低下し、摩擦による加工発熱が上昇した結果、セメンタイトの分解が進んでしまい、H280〜420/H100〜450が本発明の範囲外となり、鋼線の延性が低下した例である。
B20は湿式伸線時の減面率が小さく、B24は逆張力が大きかったため、断線が発生した例である。
B15は、熱処理線材においてベイナイトやフェライトが析出してしまいパーライト面積率が低下した結果、湿式伸線時の歪が不均一に集中し、局所的にセメンタイトの分解が進行してしまい、H280〜420/H100〜450が本発明の範囲外となり、鋼線の延性が低下した例である。
B21は、熱処理線材の引張強度が過剰に大きいため、湿式伸線時の変形抵抗が上昇し、加工発熱が上昇し、湿式伸線時のラメラセメンタイトの分解が進行し、鋼線の延性が低下した例である。
2:試験機のチャック
Claims (2)
- 質量%で、
C:0.90〜1.10%、
Si:0.40%超0.80%以下、
Mn:0.10〜0.70%、
Cr:0.10〜0.40%
を含有し、
Al:0.003%以下、
P:0.020%以下、
S:0.010%以下
に制限し、かつ質量%で下記式(1)、(2)を満たし、残部はFeおよび不純物よりなり、
線径が直径で0.05〜0.30mmであり、
示差走査熱量測定のDSC曲線の100〜450℃の温度範囲において、複数の発熱ピークを有し、かつ、100〜450℃の温度範囲における発熱量の総和H100〜450と280〜420℃の温度範囲における発熱量H280〜420が、下記式(3)を満足し、
引張強度TSが3500MPa超を満足する、高強度鋼線。
0.50≦Si(%)+Cr(%)≦0.90 ・・・(1)
0.40≦Cr(%)+Mn(%)≦0.80 ・・・(2)
0.05≦H280〜420/H100〜450<0.45 ・・・(3)
上記の(1)、(2)式中の元素記号は、その元素の質量%での含有量を意味する。 - 更に、質量%で、Ni:0.50%以下、Co:1.00%以下、Mo:0.20%以下、B:0.0002〜0.0030%、Cu:0.15%以下のいずれか1種もしくは2種以上を含有する、請求項1に記載の高強度鋼線。
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