JP6940262B2 - ゲノム配列が特異的に変換された遺伝子改変クロストリジウム・サッカロパーブチルアセトニカム種微生物、その製造方法およびその用途 - Google Patents

ゲノム配列が特異的に変換された遺伝子改変クロストリジウム・サッカロパーブチルアセトニカム種微生物、その製造方法およびその用途 Download PDF

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本発明は、ゲノム配列が特異的に変換された遺伝子改変クロストリジウム・サッカロパーブチルアセトニカム種微生物、その製造方法および該微生物を用いてブタノールを製造する方法に関する。
微生物によるブタノール発酵では、ブタノールに加えて、アセトン、エタノールなどの溶媒の他、酪酸、酢酸および乳酸といった有機酸が副生する。これらの副生物はブタノール収率低下の要因となるほか、ブタノールを回収するプロセスを構築する上でも障害となる。
ブタノール発酵において、副生物(アセトン、エタノール、有機酸など)を減らすことは、ブタノールの対グルコース収率を向上させ、分離精製工程を容易にするという意味で非常に有用である。そこで、以前から副生物を減らすための検討が行われてきた。その方法としては、副生物の合成遺伝子の破壊またはブタノール合成遺伝子の強化がよく採用され、相同組換えや突然変異を用いた手法で実施されてきたが、副生物の低減効果は十分とはいえず、ブタノールの収率向上が達成されていなかった。
本発明者らは以前、クロストリジウム・サッカロパーブチルアセトニカム(Clostridium saccharoperbutylacetonicum;以下、「C. サッカロパーブチルアセトニカム」ともいう)種微生物において、ブチリルCoAから酪酸が生成する経路を破壊することにより、当該微生物を用いたブタノール発酵において、酪酸だけでなく、その他の副生物の生成を抑制し、ブタノール収率を向上させ得ることを報告した(特許文献1)。しかしながら、当該方法では、従来法と同じく外来遺伝子を挿入することにより目的遺伝子を破壊しているため、得られた微生物は遺伝子組換え微生物に該当する。そのため、安全性確保のために、設備費用や廃棄物の処理費用が大きくなり、製造コストが高くなるという問題がある。
近年、様々な生物種において目的の遺伝子・ゲノム領域を改変する技術として、ゲノム編集が注目されている。従来、ゲノム編集の手法としては、配列非依存的なDNA切断能を有する分子と配列認識能を有する分子とを組み合わせた人工ヌクレアーゼを利用する方法が提案されている(非特許文献1)。これは、DNA二重鎖切断(double-stranded DNA breaks: DSB)が相同組換えを促進するとの知見に基づいている。従って、従来のゲノム編集技術は基本的にDSBを前提としているが、DSBは想定外のゲノム改変を伴うため、強い細胞毒性や染色体の転位などの副作用があり、生存細胞数が極めて少なかったり、単細胞微生物では、そもそも遺伝子改変自体が困難であるといった課題があった。
特開2014-207885号公報
Kelvin M Esvelt, Harris H Wang (2013) Genome-scale engineering for systems and synthetic biology, Molecular Systems Biology 9: 641
本発明の目的は、外来遺伝子の挿入に依らずに、C. サッカロパーブチルアセトニカム種微生物の酢酸、酪酸等の副生成物の生成酵素の機能を欠損させることにより、安全性に優れ、設備費用や廃棄物処理費用の低減が期待できる新規な高ブタノール産生菌およびその製造方法を提供することであり、該微生物を用いて、ブタノールの収率の向上と製造コストの低減とを実現した、より安価なブタノールの製造方法を提供することである。
本発明者らは、上記の目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、DSBを伴うことなく、DNA塩基の変換反応による塩基変換を採用することを着想した。DNA塩基の脱アミノ化反応による塩基変換反応自体は既に知られているが、これをDNAの特定の配列を認識させて任意の部位を標的化し、DNA塩基の塩基変換により標的化されたDNAを特異的に改変することは未だ実現されていない。
そこで、このような核酸塩基の変換を行う酵素として脱アミノ化反応を触媒するデアミナーゼを用い、これとDNA配列認識能のある分子とを連結させることにより、C. サッカロパーブチルアセトニカムの酢酸生成酵素遺伝子の特定DNA配列を含む領域における核酸塩基変換によるゲノム配列の改変を行った。
具体的には、CRISPR-Casシステム(CRISPR-変異Cas)を用いて行った。即ち、改変しようとする遺伝子の標的ヌクレオチド配列と相補的な配列を含むゲノム特異的CRISPR-RNA(crRNA)に、Casタンパク質をリクルートするためのRNA(trans-activating crRNA: tracrRNA)を連結したキメラRNA分子(ガイドRNA)をコードするDNAを作製し、他方で二本鎖DNAの両方の鎖の切断能を失活した変異Casタンパク質をコードするDNA(dCas)とデアミナーゼ遺伝子とを連結したDNAを作製し、これらのDNAを、クロストリジウム属で機能するシャトルベクターを用いて、C. サッカロパーブチルアセトニカム種微生物に導入した。その結果、標的ヌクレオチド配列内の目的の塩基を首尾よく他の塩基に置換することができた。酪酸生成酵素遺伝子を欠損したC. サッカロパーブチルアセトニカム種微生物の酢酸生成酵素遺伝子をこの方法によって改変することにより、酢酸生成酵素遺伝子内に挿入・欠失を生じることなく、ブタノール収率が向上したC. サッカロパーブチルアセトニカム種微生物を得ることに成功して、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]ブチリルCoAから酪酸が生成する経路に関与する酪酸生成酵素遺伝子の機能を欠損したクロストリジウム・サッカロパーブチルアセトニカム種微生物であって、該遺伝子内に挿入および/または欠失を含まないことを特徴とする、微生物。
[2]前記酪酸生成酵素遺伝子がptb1および/またはbukである、[1]記載の微生物。
[3]ptb1遺伝子にコードされるホスホトランスブチリラーゼが、P148L、P148S、A126V、A83V、T146I、A126V、A21V、P16L、P16S、T17I、A197V、A225V、H226Y、S66L、H91Y、A92V、S260F、A160V、S282F、S123F、H124I、T104I、S262F、A143V、H545Y、T257I、Q204X、A194V、A224V、S221F、V22I、V22M、A23T、E36K、A83T、V87I、E149K、V154I、G155K、G155E、G155R、C178Y、A194T、A219T、A249T、V251I、R280K、A281T、V24I、V24M、A25T、D152N、V180I、E181K、S186N、M187I、M252IおよびD282Nからなる群より選択されるアミノ酸変化を含むように、該遺伝子が改変されている、[2]記載の微生物。
[4]前記アミノ酸変化が、R280K、Q204X、P148LおよびV251Iから選ばれる少なくとも1つである、[3]記載の微生物。
[5]さらに、アセチルCoAから酢酸が生成する経路に関与する酢酸生成酵素遺伝子の機能を欠損した、[1]〜[4]のいずれかに記載の微生物であって、該遺伝子内に挿入および/または欠失を含まない、微生物。
[6]前記酢酸生成酵素遺伝子がptaおよび/またはackである、[5]記載の微生物。
[7]pta遺伝子にコードされるホスホトランスアセチラーゼが、S13F、A31V、A56V、A83V、P115F、P115S、P115L、T128I、S150L、P158L、P158S、Q183X、T194I、A206V、T212I、P274L、P274S、A292V、A32V、A41V、P43S、A54V、A118V、S123F、T129I、Q138X、Q156X、S160F、A185V、A186V、A195V、P236L、P236S、A259V、P260L、P260S、A290V、A294V、P305L、P305S、M112I、V113I、A143T、A11T、E51K、G282N、G282S、G282D、A185T、A190T、E30K、G92N、G92S、G92D、E219K、A268T、G166K、G166R、G166E、A186T、A188T、C313Y、M111I、G242N、G242S、G242D、E243K、W8X、A9T、A10T、D50N、G279E、A192T、R27K、S90N、D217N、E293K、G266K、G266R、G266E、E164K、R311K、G312K、G312R、G312EおよびS151Nからなる群より選択されるアミノ酸変化を含むように、該遺伝子が改変されている、[6]記載の微生物。
[8]前記アミノ酸変化が、R311Kおよび/またはG312K、或いはW8Xである、[7]記載の微生物。
[9]さらに、アセトアセチルCoAからアセトンが生成する経路に関与するアセトン生成酵素遺伝子の機能を欠損した、[1]〜[8]のいずれかに記載の微生物であって、該遺伝子内に挿入および/または欠失を含まない、微生物。
[10]前記アセトン生成酵素遺伝子がadcおよび/またはctfABである、[9]記載の微生物。
[11]adc遺伝子にコードされるアセトアセテートデカルボキシラ−ゼが、P13L、P13S、L14F、S225F、H226Y、T137I、Q79X、A64V、T69I、A186V、P82L、P82S、T229I、T128I、P164L、A56V、T189I、A15V、A16V、 P139L、P139S、A80V、P66F、P66S、P66L、A112V、P48L、P48S、T192I、R21K、G22R、S110N、S111N、G55K、G55R、G55E、A56T、C185Y、A186T、E187K、E109K、G146R、G146K、G146E、E220K、E30K、R179K、G173N、G173S、G173D、R25K、R108K、D54N、M145I、V218I、G234K、G234R、G234E、G72N、G72D、G72S、A56T、R29K、A157TおよびD127Nからなる群より選択されるアミノ酸変化を含むように、該遺伝子が改変されている、[10]記載の微生物。
[12]さらに、ピルビン酸から乳酸が生成する経路に関与する乳酸生成酵素遺伝子の機能を欠損した、[1]〜[11]のいずれかに記載の微生物であって、該遺伝子内に挿入および/または欠失を含まない、微生物。
[13]前記乳酸生成酵素遺伝子がldh1である、[12]記載の微生物。
[14]ldh1遺伝子にコードされる乳酸デヒドロゲナーゼが、T79I、A80V、A273V、P138F、P138L、P138S、T19I、A20V、H170Y、A171V、A21V、S151L、Q301X、A64V、A128V、S258L、P289L、T131I、S73L、H177Y、A199V、S9F、T276I、R6C、P275S、P275L、T187I、P59L、P59S、A23V、S152L、S303L、A231V、A43V、T256I、E68K、G146N、G146S、G146D、A115T、G298R、V283I、V284I、A64T、G65R、G65K、G65E、S66N、A144T、E295K、E296K、G282R、G282K、G282E、V119I、V120IおよびS61Nからなる群より選択されるアミノ酸変化を含むように、該遺伝子が改変されている、[13]記載の微生物。
[15][1]〜[14]のいずれかに記載の微生物を、炭素源を含む培地中で培養する工程を含む、ブタノールの製造方法。
[16]さらに、前記培養液からブタノールを回収する工程を含む、[15]記載の方法。
[17][1]〜[14]のいずれかに記載の微生物の製造方法であって、機能を欠損させる酵素遺伝子内の標的ヌクレオチド配列の標的鎖に相補的な配列を含むcrRNAとtracrRNAとからなるキメラRNAをコードするDNAと、少なくとも一方のDNA鎖の切断能を失活した変異Casタンパク質とデアミナーゼとの融合タンパク質をコードするDNAとを、クロストリジウム・サッカロパーブチルアセトニカム種微生物で複製可能なベクターを用いて該微生物に導入することにより、該標的ヌクレオチド配列内の特定の塩基を置換し、それによって該酵素遺伝子の機能を欠損させることを特徴とする方法。
本発明によれば、ブタノール発酵におけるブタノール収率が向上し、発酵液からのブタノールの分離精製が容易で、かつ安全性に優れ、設備費用や廃棄物処理費用の低減が期待できるので、経済的に有利なブタノール生産が可能となる。
ブタノール発酵の代謝経路を、中間体化合物、および関与する酵素遺伝子とともに示す。 破壊ベクタープラスミドの構造を模式的に示した図である。 実施例で用いたプラスミドの全長ヌクレオチド配列を示す図である。 実施例で用いたプラスミドの全長ヌクレオチド配列(図3−1のつづき)を示す図である。 実施例で用いたプラスミドの全長ヌクレオチド配列(図3−2のつづき)を示す図である。
本発明は、ブチリルCoAから酪酸が生成する経路に関与する酪酸生成酵素遺伝子の機能を、遺伝子の挿入および/または欠失に依らずに欠損させたC. サッカロパーブチルアセトニカム種微生物(以下、「本発明の微生物」ともいう)を提供する。
本発明の微生物の製造に用いられる親株となるC. サッカロパーブチルアセトニカム種微生物は、分類学上C. サッカロパーブチルアセトニカム種に属し、ブタノール生成能を有するものであれば特に制限されないが、例えば、ATCC27021株、ATCC13564株などが挙げられる。
酪酸生成酵素遺伝子は、ブチリルCoAから酪酸が生成する経路に関与する酵素をコードする遺伝子である。酪酸生成酵素遺伝子には、ptb1(ホスホトランスブチリラーゼをコードする遺伝子)およびbuk(酪酸キナーゼをコードする遺伝子)が含まれる。ホスホトランスブチリラーゼは、ブチリルCoAからブチリルリン酸を形成する反応を触媒する酵素である。C. サッカロパーブチルアセトニカムのptb1遺伝子のCDS配列を配列番号1に、アミノ酸配列を配列番号2に示す。酪酸キナーゼは、ブチリルリン酸を酪酸に転化する反応を触媒する酵素である。酪酸生成酵素遺伝子の機能を欠損させることには、これらの遺伝子のうち単独の遺伝子の機能を欠損させること、および複数の遺伝子の機能を欠損させることが包含され、酵素サブユニットをコードする遺伝子の1つまたは複数の機能を欠損させることも包含される。
本発明者らは以前、C. サッカロパーブチルアセトニカムにおいて、酪酸生成酵素遺伝子を相同組換えを用いて破壊すると、クロストリジウム・アセトブチリカム等の他のブタノール産生菌の場合とは異なり、副生物の低減とブタノール収率向上の効果があることを見出した(上記特許文献1)。
本発明においては、CRISPR-Casシステムとデアミナーゼとを組み合わせて用いることにより、酪酸生成酵素遺伝子の所望の部位で塩基置換を起こし、それによって遺伝子の挿入および/または欠失に依らずに該酵素遺伝子の機能を欠損させた。そのため、本発明の微生物は、遺伝子組換え微生物の範疇にないと考えられ、遺伝子組換え微生物取扱いのために高度な設備や廃棄物処理が不要である。
本発明で用いられるデアミナーゼは、DNA鎖を切断することなく、核酸塩基のアミノ基をカルボニル基に変換する脱アミノ化反応を触媒する酵素であれば特に制限はないが、好ましくは、核酸/ヌクレオチドデアミナーゼスーパーファミリーに属する酵素、例えば、シトシン又は5-メチルシトシンをそれぞれウラシル又はチミンに変換し得るシチジンデアミナーゼ、アデニンをヒポキサンチンに変換し得るアデノシンデアミナーゼ、グアニンをキサンチンに変換し得るグアノシンデアミナーゼ等が挙げられる。シチジンデアミナーゼとして、より好ましくは、脊椎動物の獲得免疫においてイムノグロブリン遺伝子に変異を導入する酵素である活性化誘導シチジンデアミナーゼ(以下、AIDともいう)などが挙げられる。
デアミナーゼの由来は特に制限されないが、例えば、ヤツメウナギ由来のPmCDA1(Petromyzon marinus cytosine deaminase 1)、脊椎動物(例、ヒト、ブタ、ウシ、イヌ、チンパンジー等の哺乳動物、ニワトリ等の鳥類、アフリカツメガエル等の両生類、ゼブラフィッシュ、アユ、ブチナマズ等の魚類)由来のAID(Activation-induced cytidine deaminase; AICDA)を用いることができる。
本発明においては、デアミナーゼに核酸配列認識能を付与する分子として、CRISPR-Casを用いる。CRISPR-Casシステムは、標的ヌクレオチド配列の標的鎖に対して相補的な配列を含むガイドRNAにより目的の二本鎖DNAの配列を認識するので、標的ヌクレオチド配列と特異的にハイブリッド形成し得るオリゴDNAを合成するだけで、任意の配列を標的化することができる。尚、本明細書において「標的ヌクレオチド配列」とは、ガイドRNA中のcrRNAが認識して結合する二本鎖DNA配列を意味し、crRNAとハイブリッド形成する鎖を「標的鎖(targeted strand)」、その反対鎖で標的鎖とcrRNAとのハイブリッド形成により一本鎖状になる鎖を「非標的鎖(non-targeted strand)」と呼ぶこととする。また、デアミナーゼによる脱アミノ化反応は通常、一本鎖状になった非標的鎖上で起こる場合が多いと推定されるので、標的ヌクレオチド配列を一方の鎖で表現する場合(例えばPAM配列を表記する場合や、標的ヌクレオチド配列とPAMとの位置関係を表す場合等)、非標的鎖の配列で代表させるものとする。
本発明で用いられるCRISPR-Casは、Casの少なくとも一方の鎖のDNA切断能が失活したCRISPR-変異Casである。
本発明で使用されるCasタンパク質は、ガイドRNAと複合体を形成して、目的遺伝子中の標的ヌクレオチド配列とそれに隣接するprotospacer adjacent motif(PAM)を認識し結合し得る限り、特に制限はないが、好ましくはCas9である。Cas9としては、例えばストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)由来のCas9(SpCas9; PAM配列NGG(NはA、G、T又はC。以下同じ))、ストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)由来のCas9(StCas9; PAM配列NNAGAAW)、ナイセリア・メニンギチジス(Neisseria meningitidis)由来のCas9(MmCas9; PAM配列NNNNGATT)等が挙げられるが、それらに限定されない。好ましくはPAMによる制約が少ないSpCas9である(実質2塩基であり、理論上ゲノム上のほぼどこでも標的化することができる)。本発明で用いられる変異Casとしては、Casタンパク質の二本鎖DNAの両方の鎖の切断能が失活したものと、一方の鎖の切断能のみを失活したニッカーゼ活性を有するものの、いずれも使用可能である。例えば、SpCas9の場合、10番目のAsp残基がAla残基に変換した、ガイドRNAと相補鎖を形成する鎖の反対鎖の切断能を欠くD10A変異体、あるいは、840番目のHis残基がAla残基で変換した、ガイドRNAと相補鎖を形成する鎖の切断能を欠くH840A変異体、さらにはその二重変異体を用いることができるが、他の変異Casも同様に用いることができる。
デアミナーゼは変異Casとの融合タンパク質として提供することもできるし、あるいは、SH3ドメイン、PDZドメイン、GKドメイン、GBドメイン等のタンパク質結合ドメインとそれらの結合パートナーとを、変異Casと、デアミナーゼとにそれぞれ融合させ、該ドメインとその結合パートナーとの相互作用を介してタンパク質複合体として提供してもよい。あるいは、変異Casと、デアミナーゼとにそれぞれインテイン(intein)を融合させ、各タンパク質合成後のライゲーションにより、両者を連結することもできる。あるいは、デアミナーゼと変異Casとを、RNA aptamerであるMS2F6、PP7等とそれらとの結合タンパク質によるRNA scaffoldを利用して結合させることも出来る。
crRNAは標的ヌクレオチド配列の標的鎖と相補的なヌクレオチド配列(「ターゲッティング配列」ともいう)を含む。酪酸生成酵素遺伝子内に変異を導入することのできるターゲッティング配列は、標的ヌクレオチド配列の非標的鎖上の特定の塩基が他の塩基に置換(デアミナーゼがシチジンデアミナーゼの場合、CからTへの置換(但し、非標的鎖がアンチセンス鎖である場合、センス鎖上はGからAへの置換))されることにより、該遺伝子にコードされる酵素がその機能を少なくとも部分的に欠損する限り、特に制限はないが、例えば、ptb1遺伝子の場合、表1−1Aおよび1−1B(センス鎖を非標的鎖とする)並びに表1−2Aおよび1−2B(アンチセンス鎖を非標的鎖とする)に記載されるターゲッティング配列が挙げられる。表には20塩基または25塩基のターゲット配列が記載されているが、ターゲット配列は、18〜25塩基の任意の長さをとることができる。尚、ターゲット配列の選択は、PAMの存在により制限されるが、CRISPR-変異Casとシチジンデアミナーゼとを組み合わせた本発明のシステムによれば、ターゲット配列の長さに拘わらず、5’端から7ヌクレオチド以内の位置にあるCに変異が導入され易いという規則性があるので、標的ヌクレオチド配列(その相補鎖であるターゲッティング配列配列A)の長さを適宜選択することにより、変異を導入できる塩基の部位をシフトさせることができる。これにより、PAM(SpCas9においてはNGG)による制約を少なくとも部分的に解除することができ、変異導入の自由度がさらに高くなる。
Figure 0006940262
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標的ヌクレオチド配列の標的鎖と相補的な配列を含むcrRNAは、変異Casタンパク質のリクルートに必要なtracrRNAと連結される。crRNAが標的ヌクレオチド配列の標的鎖と相補鎖を形成し、これに続くtracrRNAに変異CasがリクルートされてPAMを認識するが、一方あるいは両方のDNAを切断することができず、変異Casに連結されたデアミナーゼの作用により、標的ヌクレオチド配列内で塩基変換が起こり、二本鎖DNA内にミスマッチが生じる。このミスマッチが正しく修復されずに、反対鎖の塩基が、変換した鎖の塩基と対形成するように修復されることにより、酪酸生成酵素遺伝子内に変異が導入される。
変異Casとデアミナーゼとの複合体と、標的ヌクレオチド配列の標的鎖に相補的なcrRNAとtracrRNAとからなるRNAとは、それらをコードするDNAの形態で、C.サッカロパーブチルアセトニカム種微生物に導入することができる。
CasをコードするDNAは、そのcDNA配列情報をもとにオリゴDNAプライマーを合成し、当該タンパク質を産生する細胞より調製した全RNAもしくはmRNA画分を鋳型として用い、RT-PCR法によって増幅することにより、クローニングすることができる。また、変異Casは、クローン化されたCasをコードするDNAに、自体公知の部位特異的変異誘発法を用いて、DNA切断活性に重要な部位のアミノ酸残基(例えば、Cas9の場合、10番目のAsp残基や840番目のHis残基が挙げられるが、これらに限定されない)を他のアミノ酸で変換するように変異を導入することにより、取得することができる。
あるいは変異CasをコードするDNAは、化学的にDNA鎖を合成するか、もしくは合成した一部オーバーラップするオリゴDNA短鎖を、PCR法やGibson Assembly法を利用して接続することにより、その全長をコードするDNAを構築することも可能である。化学合成又はPCR法もしくはGibson Assembly法との組み合わせで全長DNAを構築することの利点は、該DNAを導入する宿主に合わせて使用コドンをCDS全長にわたり設計できる点にある。異種DNAの発現に際し、そのDNA配列を宿主生物において使用頻度の高いコドンに変換することで、タンパク質発現量の増大が期待できる。使用する宿主におけるコドン使用頻度のデータは、例えば(公財)かずさDNA研究所のホームページに公開されている遺伝暗号使用頻度データベース(http://www.kazusa.or.jp/codon/index.html)を用いることができ、または各宿主におけるコドン使用頻度を記した文献を参照してもよい。入手したデータと導入しようとするDNA配列を参照し、該DNA配列に用いられているコドンの中で宿主において使用頻度の低いものを、同一のアミノ酸をコードし使用頻度の高いコドンに変換すればよい。
デアミナーゼをコードするDNAも、同様に該酵素を産生する細胞からクローニングすることができる。例えば、ヤツメウナギのPmCDA1をコードするDNAは、NCBIデータベースに登録されているcDNA配列(accession No. EF094822)をもとに、CDSの上流及び下流に対して適当なプライマーを設計し、ヤツメウナギ由来mRNAからRT-PCR法によりクローニングできる。また、ヒトAIDをコードするDNAは、NCBIデータベースに登録されているcDNA配列(accession No. AB040431)をもとに、CDSの上流及び下流に対して適当なプライマーを設計し、例えばヒトリンパ節由来mRNAからRT-PCR法によりクローニングできる。他の脊椎動物由来のAIDホモログも、公知のcDNA配列情報(例えば、ブタ(accession No. CU582981)、ウシ(accession No. NM_110138682)、イヌ(accession No. NM_001003380)、チンパンジー(accession No. NM_001071809)、ニワトリ(accession No. NM_001243222)、アフリカツメガエル(accession No. NM_001095712)、ゼブラフィッシュ(accession No. AAI62573)、アユ(accession No. AB619797)、ブチナマズ(accession No. NM_001200185)等)をもとに、上記と同様にしてクローニングすることができる。
あるいは、上記と同様に、化学合成又はPCR法もしくはGibson Assembly法との組み合わせで、用いる宿主細胞での発現に適したコドン使用を有するDNAとして構築することもできる。
変異CasをコードするDNAと、デアミナーゼをコードするDNAとは、融合タンパク質として発現するように連結してもよいし、結合ドメインやインテイン等を用いて別々に発現させ、タンパク質間相互作用やタンパク質ライゲーションを介して宿主細胞内で複合体を形成するように設計してもよい。得られた変異CasおよびデアミナーゼをコードするDNAは、C. サッカロパーブチルアセトニカム種微生物で機能的なプロモーターの下流に挿入し、該微生物で複製可能な任意のベクターに担持させる。
クロストリジウム属微生物で複製可能なベクターとしては、大腸菌とクロストリジウム属微生物のシャトルベクターであれば都合がよく、例えば、pIM13由来のpKNT19(Journal of General Microbiology, 138, 1371-1378 (1992))などのシャトルベクターが好ましい。
一方、crRNA及びtracrRNAからなるキメラRNA(ガイドRNA)をコードするDNAは、標的ヌクレオチド配列の標的鎖に対して相補的な配列を含むcrRNA配列と既知のtracrRNA配列(例えば、gttttagagctagaaatagcaagttaaaataaggctagtccgttatcaacttgaaaaagtggcaccgagtcggtggtgctttt; 配列番号113)とを連結したオリゴDNA配列を設計し、DNA/RNA合成機を用いて、化学的に合成することができる。ガイドRNA及びtracrRNAをコードするDNAも、上記と同様の発現ベクターに挿入することができるが、pol III系のプロモーター(例、SNR6、SNR52、SCR1、RPR1、U6、H1プロモーター等)及びターミネーター(例、T6配列)を用いることができる。pol III系プロモーターを用いる場合は、4つ以上Tが連続するヌクレオチド配列をターゲッティング配列に選ばないようにすべきである。
変異CasおよびデアミナーゼをコードするDNAと、ガイドRNAをコードするDNAとは、別個のベクターに挿入してもよいし、単一のベクターに挿入してもよい。後者の場合、各DNAは別個の発現カセットとして挿入してもよいし、あるいは双方向性プロモーター(Cas9の内在プロモーター等)から同時に発現するように構築してもよい。
上記のようにして作製した発現ベクターの微生物への導入は、公知の方法で実施できる。導入方法は、特に制限されないが、例えば、ミクロセル法、リン酸カルシウム法、リポソーム法、プロトプラスト法、DEAE-デキストラン法、エレクトロポレーション法等を挙
げることができ、エレクトロポレーション法が好ましく用いられる。
従来型の人工ヌクレアーゼでは、DNA二重鎖切断(DSB)を伴うため、ゲノム内の配列を標的とすると染色体の無秩序な切断(off-target切断)によると思われる増殖阻害と細胞死とが引き起こされる。この影響は多くの微生物・原核生物において特に致命的であり、応用性を阻んでいる。本発明では、変異導入をDNA切断ではなくDNA塩基上の置換基の変換反応(特に脱アミノ化反応)によって行うため、毒性の大幅な軽減が実現できる。
このようにして得られる本発明の微生物の酪酸生成酵素遺伝子(ptb1および/またはbuk遺伝子)は、標的ヌクレオチド配列の非標的鎖上の特定の塩基が他の塩基(デアミナーゼがシチジンデアミナーゼを用いる場合、CからTへの置換(但し、非標的鎖がアンチセンス鎖である場合、センス鎖上はGからAへの置換))で置換され、その結果、該遺伝子にコードされる酵素の機能が欠損する。例えば、ptb1遺伝子の場合、それにコードされるホスホトランスブチリラーゼが表1−1および1−2に示されるいずれかのアミノ酸変化、即ち、P148L、P148S、A126V、A83V、T146I、A126V、A21V、P16L、P16S、T17I、A197V、A225V、H226Y、S66L、H91Y、A92V、S260F、A160V、S282F、S123F、H124I、T104I、S262F、A143V、H545Y、T257I、Q204X、A194V、A224V、S221F、V22I、V22M、A23T、E36K、A83T、V87I、E149K、V154I、G155K、G155E、G155R、C178Y、A194T、A219T、A249T、V251I、R280K、A281T、V24I、V24M、A25T、D152N、V180I、E181K、S186N、M187I、M252IおよびD282N(数字は、ホスホトランスブチリラーゼ(配列番号2)のアミノ酸の位置を示し、左側のアルファベットは元のアミノ酸残基を、右側は改変後のアミノ酸残基を1文字表記で示す。但し、Xは終止コドンに置換されたことを意味する。以下同じ。)から選択されるアミノ酸変化を含むように、該遺伝子が改変されているC. サッカロパーブチルアセトニカム種微生物を、本発明の微生物の具体例として挙げることができる。各アミノ酸変化に対応する塩基変化は表1−1および1−2に記載されている。
好ましい一実施態様においては、本発明の微生物は、ptb1遺伝子が、ホスホトランスブチリラーゼにR280Kのアミノ酸変化を生じる遺伝子改変を有する。C. サッカロパーブチルアセトニカム種微生物のホスホトランスブチリラーゼの立体構造等は明らかになっていないが、JOURNAL OF BACTERIOLOGY, Feb. 2006, p. 1143-1154ではMetanosarcina thremophilaのホスホトランスアセチラーゼの結晶構造解析データをもとに活性中心のアミノ酸を置換した例が示されており、これによればMetanosarcina thremophilaのホスホトランスアセチラーゼの活性中心R310をKに変異させた結果、著しく活性が低下したと報告されている。本発明者らは、Metanosarcina thremophilaのホスホトランスアセチラーゼとC. サッカロパーブチルアセトニカム種微生物のホスホトランスブチリラーゼのアミノ酸配列にはある程度の相同性があり、Metanosarcina thremophilaのホスホトランスアセチラーゼの活性中心のS309、R310、E316を含むSRGCSDE(配列番号244)の配列に相当する配列がC. サッカロパーブチルアセトニカム種微生物のホスホトランスブチリラーゼのアミノ酸配列279番目から286番目にSRADSFET(配列番号245)として存在していると考えた。これによればC. サッカロパーブチルアセトニカム種微生物のホスホトランスブチリラーゼのアミノ酸配列280番目のアルギニンが活性中心である可能性があり、これがリジンに改変されることにより、活性を喪失することが示唆される。あるいは、別の好ましい実施態様においては、本発明の微生物は、ptb1遺伝子が、ホスホトランスブチリラーゼにQ204Xのアミノ酸変化を生じる遺伝子改変を有する。204番目のグルタミン酸が終止コドンに変化してここでタンパク質合成が終了する。合成されたタンパク質は活性中心を欠くので、酵素機能を欠損していると考えられる。252番目のメチオニンをコードするATGから翻訳が再開することも考えられるが、少なくとも酵素機能を部分的に欠損している蓋然性が高い。252番目のメチオニンをコードするATGをATAに変換してイソロイシンに変化させることで、部分的に活性のある酵素の発現を阻止することもできる。さらに別の好ましい実施態様において、本発明の微生物は、ptb1遺伝子が、ホスホトランスブチリラーゼにP148LやV251Iのアミノ酸変化を生じる遺伝子改変を有する。
本発明の微生物は、酪酸生成酵素遺伝子に加えて、さらに酢酸生成酵素遺伝子の機能を欠損していることが好ましい。酪酸生成経路を破壊した株の酢酸生成経路を同様にして破壊することにより、酢酸、酪酸の生成の大幅な低減ができ、ブタノール収率を大幅に向上することができる。
酢酸生成酵素遺伝子は、アセチルCoAから酢酸が生成する経路に関与する酵素をコードする遺伝子である。酢酸生成酵素遺伝子には、pta(ホスホトランスアセチラーゼをコードする遺伝子)およびack(酢酸キナーゼをコードする遺伝子)が含まれる。ホスホトランスアセチラーゼは、アセチルCoAからアセチルリン酸を形成する反応を触媒する酵素である。C. サッカロパーブチルアセトニカムのpta遺伝子のCDS配列を配列番号3に、アミノ酸配列を配列番号4に示す。酢酸キナーゼは、アセチルリン酸を酢酸に転化する反応を触媒する酵素である。酢酸生成酵素遺伝子の機能を欠損させることには、これらの遺伝子のうち単独の遺伝子の機能を欠損させること、および複数の遺伝子の機能を欠損させることが包含され、酵素サブユニットをコードする遺伝子の1つまたは複数の機能を欠損させることも包含される。
酢酸生成酵素遺伝子の欠損も、酪酸生成酵素遺伝子の欠損と同様、CRISPR-変異Casとデアミナーゼを組み合わせたゲノム編集により行うことができる。酢酸生成酵素遺伝子内に変異を導入することのできるターゲッティング配列は、標的ヌクレオチド配列の非標的鎖上の特定の塩基が他の塩基に置換(デアミナーゼがシチジンデアミナーゼの場合、CからTへの置換(但し、非標的鎖がアンチセンス鎖である場合、センス鎖上はGからAへの置換))されることにより、該遺伝子にコードされる酵素がその機能を少なくとも部分的に欠損する限り、特に制限はないが、例えば、pta遺伝子の場合、表2−1Aおよび2−1B(センス鎖を非標的鎖とする)並びに表2−2Aおよび2−2B(アンチセンス鎖を非標的鎖とする)に記載されるターゲッティング配列が挙げられる。
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酪酸生成酵素遺伝子に加えて、さらに酢酸生成酵素遺伝子の機能を欠損した本発明の微生物において、酢酸生成酵素遺伝子(ptaおよび/またはack遺伝子)は、標的ヌクレオチド配列の非標的鎖上の特定の塩基が他の塩基(デアミナーゼがシチジンデアミナーゼを用いる場合、CからTへの置換(但し、非標的鎖がアンチセンス鎖である場合、センス鎖上はGからAへの置換))で置換され、その結果、該遺伝子にコードされる酵素の機能が欠損する。例えば、pta遺伝子の場合、それにコードされるホスホトランスアセチラーゼが表2−1および2−2に示されるいずれかのアミノ酸変化、即ち、S13F、A31V、A56V、A83V、P115F、P115S、P115L、T128I、S150L、P158L、P158S、Q183X、T194I、A206V、T212I、P274L、P274S、A292V、A32V、A41V、P43S、A54V、A118V、S123F、T129I、Q138X、Q156X、S160F、A185V、A186V、A195V、P236L、P236S、A259V、P260L、P260S、A290V、A294V、P305L、P305S、M112I、V113I、A143T、A11T、E51K、G282N、G282S、G282D、A185T、A190T、E30K、G92N、G92S、G92D、E219K、A268T、G166K、G166R、G166E、A186T、A188T、C313Y、M111I、G242N、G242S、G242D、E243K、W8X、A9T、A10T、D50N、G279E、A192T、R27K、S90N、D217N、E293K、G266K、G266R、G266E、E164K、R311K、G312K、G312R、G312EおよびS151Nから選択されるアミノ酸変化を含むように、該遺伝子が改変されているC. サッカロパーブチルアセトニカム種微生物を、本発明の微生物の具体例として挙げることができる。各アミノ酸変化に対応する塩基変化は表2−1および2−2に記載されている。
好ましい一実施態様においては、本発明の微生物は、pta遺伝子が、ホスホトランスア
セチラーゼにR311Kおよび/またはG312Kのアミノ酸変化を生じる遺伝子改変を有する。C. サッカロパーブチルアセトニカム種微生物のホスホトランスアセチラーゼについても立体構造等は明らかではないが、本発明者らは、前述のMetanosarcina thremophilaのホスホトランスアセチラーゼの活性中心のSRGCSDE(配列番号244)の配列に相当する配列が、C. サッカロパーブチルアセトニカム種微生物のホスホトランスアセチラーゼのアミノ酸配列310番目から317番目にSRGCSSDD(配列番号246)として存在していると考えた。これによればC. サッカロパーブチルアセトニカム種微生物のホスホトランスアセチラーゼのアミノ酸配列の311番目のアルギニンが活性中心である可能性があり、これがリジンに改変されることにより、活性を喪失することが示唆される。また、活性中心に隣接する312番目の非極性のグリシンが塩基性で嵩高いリジンに変わったことで酵素構造にゆがみが生じ、活性を喪失すると推測される。あるいは、別の好ましい実施態様においては、本発明の微生物は、pta遺伝子が、ホスホトランスブチリラーゼにW8Xのアミノ酸変化を生じる遺伝子改変を有する。8番目のトリプトファンが終止コドンに変化してここでタンパク質合成が終了する。後続のメチオニンをコードするATGから翻訳が再開することが推測されるが、少なくとも酵素機能を部分的に欠損しているものと考えられる。
本発明の微生物においては、さらに、アセトン生成酵素遺伝子の機能を欠損させてもよい。アセトン生成酵素遺伝子を欠損させることにより、アセトンが副生せず、分離精製工程がより容易になる。また、還元力供給培養と組み合わせることにより、さらなる収率向上が期待できる。
アセトン生成酵素遺伝子は、アセトアセチルCoAからアセトンが生成する経路に関与する酵素をコードする遺伝子である。アセトン生成酵素遺伝子には、ctfA(CoAトランスフェラーゼのAサブユニットをコードする遺伝子)、ctfB(CoAトランスフェラーゼのBサブユニットをコードする遺伝子)およびadc(アセトアセテートデカルボキシラ−ゼをコードする遺伝子)が含まれる。CoAトランスフェラーゼは、AサブユニットとBサブユニットを含み、アセトアセチルCoAをアセトアセテートに転化する反応を触媒する酵素である。ctfABと表記されている場合には、CoAトランスフェラーゼのAサブユニットをコードする遺伝子とBサブユニットをコードする遺伝子の両方を指す。アセトアセテートデカルボキシラ−ゼは、アセトアセテートを脱炭酸してアセトンを生成する反応を触媒する酵素である。C. サッカロパーブチルアセトニカムのadc遺伝子のCDS配列を配列番号5に、アミノ酸配列を配列番号6に示す。アセトン生成酵素遺伝子の機能を欠損させることには、これらの遺伝子のうち単独の遺伝子の機能を欠損させること、および複数の遺伝子の機能を欠損させることが包含され、酵素サブユニットをコードする遺伝子の1つまたは複数の機能を欠損させることも包含される。
アセトン生成酵素遺伝子の欠損も、酪酸生成酵素遺伝子の欠損と同様、CRISPR-変異Casとデアミナーゼを組み合わせたゲノム編集により行うことができる。アセトン生成酵素遺伝子内に変異を導入することのできるターゲッティング配列は、標的ヌクレオチド配列の非標的鎖上の特定の塩基が他の塩基に置換(デアミナーゼがシチジンデアミナーゼの場合、CからTへの置換(但し、非標的鎖がアンチセンス鎖である場合、センス鎖上はGからAへの置換))されることにより、該遺伝子にコードされる酵素がその機能を少なくとも部分的に欠損する限り、特に制限はないが、例えば、adc遺伝子の場合、表3−1Aおよび3−1B(センス鎖を非標的鎖とする)並びに表3−2Aおよび3−2B(アンチセンス鎖を非標的鎖とする)に記載されるターゲッティング配列が挙げられる。
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酪酸生成酵素遺伝子に加えて、さらにアセトン生成酵素遺伝子の機能を欠損した本発明の微生物において、アセトン生成酵素遺伝子(adcおよび/またはctfAB遺伝子)は、標的ヌクレオチド配列の非標的鎖上の特定の塩基が他の塩基(デアミナーゼがシチジンデアミナーゼを用いる場合、CからTへの置換(但し、非標的鎖がアンチセンス鎖である場合、センス鎖上はGからAへの置換))で置換され、その結果、該遺伝子にコードされる酵素の機能が欠損する。例えば、adc遺伝子の場合、それにコードされるホスホトランスアセチラーゼが表3−1および3−2に示されるいずれかのアミノ酸変化、即ち、P13L、P13S、L14F、S225F、H226Y、T137I、Q79X、A64V、T69I、A186V、P82L、P82S、T229I、T128I、P164L、A56V、T189I、A15V、A16V、 P139L、P139S、A80V、P66F、P66S、P66L、A112V、P48L、P48S、T192I、R21K、G22R、S110N、S111N、G55K、G55R、G55E、A56T、C185Y、A186T、E187K、E109K、G146R、G146K、G146E、E220K、E30K、R179K、G173N、G173S、G173D、R25K、R108K、D54N、M145I、V218I、G234K、G234R、G234E、G72N、G72D、G72S、A56T、R29K、A157TおよびD127Nからなる群より選択されるアミノ酸変化を含むように、該遺伝子が改変されているC. サッカロパーブチルアセトニカム種微生物を、本発明の微生物の具体例として挙げることができる。各アミノ酸変化に対応する塩基変化は表3−1および3−2に記載されている。
本発明の微生物においては、さらに、乳酸生成酵素遺伝子の機能を欠損させてもよい。乳酸生成酵素遺伝子を欠損させることにより、乳酸が副生せず、分離精製工程がより容易になる。また、還元力をよりブタノール生成に利用できるようになるため、さらなる収率向上が期待できる。
乳酸生成酵素遺伝子は、ピルビン酸から乳酸が生成する経路に関与する酵素をコードする遺伝子である。乳酸生成酵素遺伝子には、乳酸デヒドロゲナーゼが包含される。乳酸デヒドロゲナーゼは乳酸とピルビン酸との相互変換を触媒する酵素である。その際、NADHとNAD+の相互変換も同時に生じる。乳酸デヒドロゲナーゼには4種の異なる種が存在する。2種はシトクロムc依存型で、それぞれD-乳酸(D-乳酸デヒドロゲナーゼ:EC1.1.2.4)または、L-乳酸(L-乳酸デヒドロゲナーゼ:EC1.1.2.3)に作用する。残りの2種はNAD(P)-依存型酵素で、それぞれD-乳酸(D-乳酸デヒドロゲナーゼ:EC1.1.1.28)、または、L-乳酸(L-乳酸デヒドロゲナーゼ:EC1.1.1.27)に作用する。乳酸デヒドロゲナーゼの具体例として、ldh1、ldh2、lldDおよびldh3が挙げられ、特にldh1の機能を欠損させることが好ましい。C. サッカロパーブチルアセトニカムのldh1遺伝子のCDS配列を配列番号7に、アミノ酸配列を配列番号8に示す。乳酸生成酵素遺伝子の機能を欠損させることには、これらの遺伝子のうち単独の遺伝子の機能を欠損させること、および複数の遺伝子の機能を欠損させることが包含される。
乳酸生成酵素遺伝子の欠損も、酪酸生成酵素遺伝子の欠損と同様、CRISPR-変異Casとデアミナーゼを組み合わせたゲノム編集により行うことができる。乳酸生成酵素遺伝子内に変異を導入することのできるターゲッティング配列は、標的ヌクレオチド配列の非標的鎖上の特定の塩基が他の塩基に置換(デアミナーゼがシチジンデアミナーゼの場合、CからTへの置換(但し、非標的鎖がアンチセンス鎖である場合、センス鎖上はGからAへの置換))されることにより、該遺伝子にコードされる酵素がその機能を少なくとも部分的に欠損する限り、特に制限はないが、例えば、ldh1遺伝子の場合、表4−1Aおよび4−1B(センス鎖を非標的鎖とする)並びに表4−2Aおよび4−2B(アンチセンス鎖を非標的鎖とする)に記載されるターゲッティング配列が挙げられる。
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酪酸生成酵素遺伝子に加えて、さらに乳酸生成酵素遺伝子の機能を欠損した本発明の微生物において、乳酸生成酵素遺伝子(ldh1遺伝子等)は、標的ヌクレオチド配列の非標的鎖上の特定の塩基が他の塩基(デアミナーゼがシチジンデアミナーゼを用いる場合、CからTへの置換(但し、非標的鎖がアンチセンス鎖である場合、センス鎖上はGからAへの置換))で置換され、その結果、該遺伝子にコードされる酵素の機能が欠損する。例えば、ldh1遺伝子の場合、それにコードされる乳酸デヒドロゲナーゼが表4−1および4−2に示されるいずれかのアミノ酸変化、即ち、T79I、A80V、A273V、P138F、P138L、P138S、T19I、A20V、H170Y、A171V、A21V、S151L、Q301X、A64V、A128V、S258L、P289L、T131I、S73L、H177Y、A199V、S9F、T276I、R6C、P275S、P275L、T187I、P59L、P59S、A23V、S152L、S303L、A231V、A43V、T256I、E68K、G146N、G146S、G146D、A115T、G298R、V283I、V284I、A64T、G65R、G65K、G65E、S66N、A144T、E295K、E296K、G282R、G282K、G282E、V119I、V120IおよびS61Nから選択されるアミノ酸変化を含むように、該遺伝子が改変されているC. サッカロパーブチルアセトニカム種微生物を、本発明の微生物の具体例として挙げることができる。各アミノ酸変化に対応する塩基変化は表4−1および4−2に記載されている。
このようにして得られた遺伝子改変C. サッカロパーブチルアセトニカム種微生物を、ブタノール生産用の培地で培養し、ブタノール発酵を行うことによりブタノールを製造する。培養に用いる培地および培養条件は、ブタノール発酵の分野で公知のものを使用できる。培養培地は、通常、炭素源、窒素源および無機イオンを含む。
炭素源としては、好ましくは糖類、例えば、単糖類、オリゴ糖類、多糖類を用いる。好ましくは単糖類、特にグルコースを用いる。グルコースとともに、ラクトース、ガラクトース、フラクトースもしくはでんぷんの加水分解物などのその他糖類、ソルビトールなどのアルコール類、またはフマル酸、クエン酸もしくはコハク酸等の有機酸類を、併用してもよい。
窒素源としては、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機アンモニウム塩、大豆加水分解物などの有機窒素、アンモニアガス、アンモニア水等を用いることができる。
無機イオンとしては、リン酸カリウム、硫酸マグネシウム、鉄イオン、マンガンイオン等が添加される。有機微量栄養素としては、チアミン、p-アミノ安息香酸、ビタミンB1、ビオチンなどの要求物質または酵母エキス等を必要に応じ適量含有させることが望ましい。
本発明においては、好ましくは還元力を上昇させた条件で形質転換体の培養を実施することにより、アセトン、エタノール、酢酸、酪酸および乳酸といった副生物の生成を抑制しながらブタノールを高効率で生産することができる。ブタノールの絶対生成量も増大させることができる。還元力を上昇させた条件での培養とは、培養中に生じる酵素反応が、還元力が上昇した条件で行われることをさす。還元力の上昇は、例えば、NADHを添加することにより、水素を導入することにより、または培養槽内の水素分圧を上昇させることにより実施できる。培養槽内の水素分圧を上昇させることにより、培養液が接する気相における水素分圧が上昇し、培養液に接する気相中の水素は、ヒドロゲナーゼによって即座に取り込まれると考えられる。
培養槽内の水素分圧は、例えば、密閉状態で培養することにより、上昇させることができる。密閉状態とすることにより、微生物から排出される水素の外部放出を制限することができ、結果として培養槽内の水素分圧を上昇させることができる。また、外部から水素を導入してもよい。例えば、培養液に水素をバブリングすることにより水素を導入してもよいし、培養槽の気相部に水素を導入してもよいし、培養液に接するように水素を導入してもよい。具体的には、培養槽内の水素分圧を20〜40℃の範囲で、好ましくは0.06 atm以上、より好ましく0.08 atm以上、さらに好ましくは0.10 atm以上、さらにより好ましくは0.12 atm以上、最も好ましくは0.15 atm以上で、好ましくは10 atm以下とする。
水素分圧の測定は、公知の方法で実施でき、特に制限されないが、例えば、発生した気体をアルミニウムバッグに捕集し、バッグ内の気体の水素濃度をガスクロマトグラフィーで検出し、濃度と体積を掛け合わせることで発生した水素の量を定量し、発生した水素の量と培養槽中の気相部の体積から、水素分圧を算出できる。
本発明においては、pHを調整して培養を実施することにより、さらに、副生物に対するブタノールの生成量を向上させることができる。培地のpHは、好ましくは4.6以上、4.7以上、4.8以上、4.9以上、5以上または5.5以上であり、好ましくは8以下、7.5以下、7.0以下、6.9以下、6.8以下、6.7以下、6.6以下または6.5以下になるよう、必要であれば制御する。pH調整には、無機または有機の酸性またはアルカリ性物質、例えば、炭酸カルシウム、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、リン酸カリウムなどを使用できる。pH調整には、上記のようなアルカリ性物質等を加えなくても、培地が目的のpHに保たれている場合も包含される。例えば、窒素源として硫酸アンモニウムを用いている場合、それを緩衝能の高い酢酸アンモニウムに代替すれば、pHの低下が抑えられ、生育が改善される場合がある。
その他の培養条件は、特に制限されず、当技術分野で慣用の条件を採用することができる。例えば、バッチ培養を行う場合、培養時間は通常5〜100時間、好ましくは12〜48時間である。連続培養または流加培養を行う場合には、培養時間は通常200時間以上、好ましくは500時間以上、より好ましくは1000時間以上である。培養温度は通常20〜55℃、好ましくは25〜40℃、例えば約30℃に調整する。
本発明の製造方法において、副生物に対するブタノールの生成比は、生成したブタノールのモル数を、生成したアセトン、エタノール、酢酸および酪酸の合計モル数で割った数値として、好ましくは2.5以上、3.0以上、4.0以上または5.0以上である。また、副生物に対するブタノールの生成比は、生成したブタノールのモル数を、生成したアセトン、エタノール、酢酸、酪酸および乳酸の合計モル数で割った数値とすると、好ましくは2.5以上、3.0以上、4.0以上または5.0以上である。
培養中または培養終了後の培養液からの発酵生成物、すなわちブタノールの回収には、特別な方法は必要ではなく、公知の方法でブタノールを回収できる。当技術分野で周知のイオン交換樹脂法、蒸留、ガスストリッピング、溶媒抽出その他の方法を組み合わせることにより、培養中または培養終了後に実施できる。好ましくは培養中に、ブタノールをガスストリッピングまたは溶媒抽出により回収し、さらに蒸留により精製する。本発明の方法では、副生物の生成量に対するブタノールの生成量が多いことから、ブタノールの収率が高く、またブタノールの分離精製工程を簡略化することができるため、コストの観点からも有利である。
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1 破壊ベクタープラスミドの構築−pKNT19への改変CRISPRの導入
大腸菌とクロストリジウム属微生物で複製可能なプラスミドpKNT19の制限酵素BamHIとKpnIで切断される間に下記の必要な遺伝子配列を挿入して破壊ベクタープラスミドを構築した。
双方向プロモーター領域を含むStreptococcus pyogens Cas9遺伝子にD10A及びH840Aのアミノ酸変異を導入し(dCas9)、リンカー配列を介してPmCDA1との融合タンパク質として発現するコンストラクトを構築し、さらにC. サッカロパーブチルアセトニカムのpta遺伝子またはptb1遺伝子内の各標的ヌクレオチド配列に相補的な配列(ターゲッティング配列)をコードしたキメラgRNAを同時に載せたプラスミド(全長ヌクレオチド配列を図3−1〜3−3(配列番号475)に示す。配列中n20(ヌクレオチド番号5560-5579)の部分に各ターゲッティング配列が挿入される)11757、1269+AatII(以上、pta遺伝子破壊用)、11753、11754 64G>A、655G>A、442C>Tおよび745G>A(以上、ptb1遺伝子破壊用)を作成した(図2)。
実施例2 破壊ベクタープラスミドのブタノール発酵菌への導入
実施例1で作成した破壊ベクタープラスミドのうち、11757または1269+AatIIをC. サッカロパーブチルアセトニカムATCC27021株及びATCC27021Δptb1株(特開2014-207885の実施例1を参照)に形質転換した。破壊ベクタープラスミド11757、1269+AatIIのターゲッティング配列等を表5に示した。
Figure 0006940262
・方法
前培養として、C. サッカロパーブチルアセトニカムATCC27021株及びATCC27021Δptb1株のグリセロールストック0.5 mLをTYA培地5 mLに接種し、30℃、24時間培養した。TYA培地の組成を表6に示す。
Figure 0006940262
この前培養液をTYA培地10 mLにOD=0.1となるよう接種、15 mL容ファルコンチューブで37℃にてインキュベートした。OD=0.6となった段階で発酵液を遠心分離して上清を除去し、氷冷しておいた65 mM MOPSバッファー(pH 6.5)10 mLを加えピペッティングにより再懸濁し、遠心分離を行った。MOPSバッファーによる洗浄は2回繰り返した。遠心分離によりMOPSバッファーを除去した後、氷冷しておいた0.3 Mスクロース100 μLで菌体ペレットを再懸濁し、コンピテントセルとした。コンピテントセル50 μLをエッペンドルフチューブに取り、プラスミド1 μgと混合した。氷冷したエレクトロポレーション用セルに入れ、Exponential dcayモード、2.5 kV/cm、25 μF、350 Ωで印加した。用いたエレクトロポレーション装置はGene pulser xcell(Bio-rad)である。その後5 mL TYA培地に全量を接種し、30℃で2時間程度回復培養した。その後、回復培養液を、エリスロマイシン10 ppmを含有するMASS固体培地に塗布し、30℃で数日間培養を行って出現したコロニーからの選抜を行い、プラスミドが導入されエリスロマイシン耐性となった株を取得した。次に得られた株にプラスミドが保持されていることを確認することとした。各4コロニーずつ、エリスロマイシン10 ppmを含有するTYA培地に植菌し、生育した形質転換体コロニー由来の培養液を鋳型に、プラスミド特有の領域をPCRで増幅し、電気泳動による増幅物の解析からプラスミド保持の有無を確認した。
・結果
全てプラスミド特有の領域の増幅物が得られた。従ってブタノール発酵菌内で破壊ベクタープラスミドが保持されていることが明らかとなった。
実施例3 破壊ベクタープラスミドを用いたブタノール発酵菌pta遺伝子配列変換
破壊ベクタープラスミドを用い、ブタノール発酵菌のpta遺伝子のDNA配列変換を行った。破壊ベクタープラスミドは破壊ツールに制御機構を有しないため、単純に世代を重ねるのみで機能する。
・方法
実施例2で作成した11757保持株である11757/ATCC27021Δptb1株、1269+AatII保持株である1269+AatII/ATCC27021Δptb1及び1269+AatII/ATCC27021株を、エリスロマイシン10 ppmを含有するTYA培地に植菌し培養した後、エリスロマイシン10 ppmを含有するTYA固体培地に希釈塗布し、シングルコロニーとした。このシングルコロニーを11757/ATCC27021Δptb1株及び1269+AatII/ATCC27021株では8コロニー、1269+AatII/ATCC27021Δptb1では16コロニー取り、これを鋳型にゲノム上のpta遺伝子全長の増幅を行った。
PCR 組成(1サンプル分)
2×KODFX buffer 25 μL
2 mM dNTPS 10 μL
20 μM F primer 0.75 μL (NS-150414-i02)
20 μM R primer 0.75 μL (NS-150304-i04)
D.W. 11.5 μL
KODFX 1 μL
NS-150414-i02の配列
5’-GCCCTTTATGAAAGGGATTATATTCAG-3’(配列番号478)
NS-150304-i04の配列
5’-GCTTGTACAGCAGTTAATGCAAC-3’(配列番号479)
49 μLずつ分注後、鋳型としてシングルコロニーの懸濁液を1 μL加え、下記条件にてPCRした。
94℃ 2 min
98℃ 10 sec → 50℃ 30 sec → 68℃ 2 min ×30 cycles
10℃ hold
次にPCR産物をWizard(登録商標)SV Gel and PCR Clean-Up Systemで精製し、該精製物を鋳型にシーケンス反応を行った。
シーケンス反応組成(1サンプル分)
Terminator Ready Reaction Mix 1 μL
5×Sequencing buffer 3.5 μL
3.2pmol primer 1 μL
Template DNA 0.35 μL
D.W. 14.15 μL
Template DNAとprimerは下記の組み合わせとした。
1269+AatII保持株
F側NS-150414-i02 / R側NS-150304-i04
11753保持株
F側NS-150525-i01 / R側NS-150304-i04)
NS-150525-i01の配列
5’-GGTGTTACAGGAAATGTTGCAG-3’(配列番号480)
上記組成物を下記条件にてPCRした。
96℃ 1 min
96℃ 10 sec → 50℃ 5 sec → 60℃ 4 min ×25 cycles
10℃ hold
反応終了後に反応物の配列をDNAシーケンサーABI PRISM3101にて解析した。
・結果
11757/ATCC27021Δptb1由来コロニーの配列解析結果のうち、pta遺伝子のDNA配列の916〜935番目の結果を表7に示した。
Figure 0006940262
この結果、配列が解析できた8株全てに何らかの変異が導入されていた。この結果からベクタープラスミド11757がクロストリジウム・サッカロパーブチルアセトニカムに対して破壊ツールプラスミドとして機能することが確認された。変異導入の位置としては、c.932G>A(pta遺伝子の932番目の塩基GがAに改変)変異株が6株、c.934G>Aが1株、c.932G>A、c.934G>A及びc.935G>Aの変異株が1株であった。c.932G>Aの変異によりPTAタンパク質としては311番目のアミノ酸アルギニン(AGAでコードされる)がリジン(AAAでコードされる)となり、同様に、c.934G>Aの変異によりG312R、c.934G>A及びc.935G>Aの変異によりG312Kとなる。特にR311はPTAの活性中心と推定されており、c.932G>Aの変異により大幅な酵素活性の低下が期待された。
次に1269+AatII/ATCC27021及び1269+AatII/ATCC27021Δptb1由来コロニーの配列解析結果のうち、pta遺伝子のDNA配列の6〜30番目の結果を、それぞれ表8および9に示した。
Figure 0006940262
Figure 0006940262
配列が解析できた22株中21株に何らかの変異が導入されていた。この結果から1269+AatIIがクロストリジウム・サッカロパーブチルアセトニカムに対して破壊ツールプラスミドとして機能することが確認された。変異導入の位置としては、変異導入された株全てでpta遺伝子25番目のGがAに変わっており、これに加えてc.24G>Aまたはc.28G>Aの変異を有している株も複数存在した。c.24G>Aの変異導入によりPTAタンパク質としては8番目のアミノ酸トリプトファン(UGGでコードされる)が終止コドン(UGAでコードされる)に変わり、ここでタンパク質合成が停止するため機能を喪失すると期待された。
実施例4 pta遺伝子配列変換ブタノール発酵菌の培養評価
実施例3で作製した11757/ATCC27021Δptb1由来コロニー#1〜8(以下11757#1〜8)および1269+AatII/ATCC27021Δptb1由来コロニー#1〜8(以下1269+AatII#1〜8)を培養しその性能の評価を行った。特開2014−207885の実施例3で示された様に、クロストリジウム・サッカロパーブチルアセトニカムはpta遺伝子とptb1遺伝子の両方が破壊されることでブタノール発酵の際にグルコースからのブタノール収率が大きく向上する。11757#1〜8および1269+AatII#1〜8は特開2014−207885の実施例1で示されたptb1遺伝子破壊株Δptb1を宿主に作成されており、これらの株を培養してグルコースからのブタノール収率を確認すれば、pta遺伝子改変のPTAタンパク質への影響が確認できる。
・方法
各コロニーのグリセロールストックを500 μl分、TYA培地に植菌し、ねじ口試験管内で30℃にて前培養を24時間行った。比較としてATCC27021野生株(以下野生株)、ptb1遺伝子破壊株(特開2014‐207885の実施例1参照;以下GIIiΔptb1という)、pta遺伝子とptb1遺伝子を破壊した株(特開2014‐207885の実施例1参照;以下GIIiΔptaΔptb1という)も同時に前培養した。取得した前培養液を、TYS-CaCO3培地5 mlに50 μl分植菌し、同じくねじ口試験管内で30℃にて培養を行った。TYS-CaCO3培地の組成を表10に示す。
Figure 0006940262
培養は、96時間程度行った。培養はねじ口の蓋を緩めた開放条件で実施した。培養終了後、培養液を取得し、液体クロマトグラフィーを用いてブタノールおよび他のアルコール、ケトン、有機酸類の定量分析を実施した。カラムにはAminex HPX-87H Column(Bio-Rad)を使用した。結果を表11に示した。
Figure 0006940262
11757#1〜8についてはブタノール/グルコース収率(g/g)がGIIiΔptaΔptb1のものと同等の値を示した。この結果から11757#1〜8は外来遺伝子の挿入により遺伝子が破壊されているGIIiΔptaΔptb1と同程度にptaが破壊されていると考えられた。このうち11757#1、2、4〜8の7株はR311がKに改変された株(うち1株はR311K及びG312Kの二重改変)、#3は隣接するG312がRに改変された株である。11757#1、2、4〜8の7株は活性中心の可能性があるR311がKに改変されたことにより、#3についてはR311に隣接する非極性のGが塩基性で嵩高いKに変わったことで酵素構造にゆがみが生じ、活性を喪失したと推測される。活性中心と推測されるR311の改変で活性を喪失できたことはptb1遺伝子破壊に重要な情報である。前述のように、C. サッカロパーブチルアセトニカム種微生物のホスホトランスブチリラーゼについてもアミノ酸配列279番から285番目が活性中心の可能性があり、280番目のアミノ酸RをKに改変することで同様の効果が期待できる。
一方で1269+AatII#1〜8は#4のみブタノール/グルコース収率(g/g)がGIIiΔptaΔptb1と野生株の中間の値を示し、他は野生株と同程度であった。1269+AatII#4はc.24G>Aの変異導入によりPTAタンパク質の8番目のアミノ酸トリプトファン(UGGでコードされる)が終止コドン(UGAでコードされる)に変わり、ここでタンパク質合成が停止すると期待された。GIIiΔptaΔptb1と野生株の中間の値を示したことから、PTAの機能が完全に抑制されておらず、若干の活性が残っているのではないかと思われた。PTAの合成が終止コドンで一旦停止した後、下流の開始コドンから再度生合成されていると考えられた。PTAの活性中心は下流に存在する。
以上の結果から、ベクタープラスミド11757によって、pta遺伝子を外来遺伝子の挿入による遺伝子破壊と同程度に破壊できることが示された。
実施例5 11757/ATCC27021#1株からのプラスミド除去
複数の遺伝子が破壊された株の作成のため、実施例3で得られた11757/ATCC27021#1株からプラスミドを除去した。
・方法
ATCC27021Δpta#1株の作成方法を以下に示す。
11757/ATCC27021#1株を、抗生物質を含まないTYA培地で培養した後固形培地に希釈塗布し、生育したシングルコロニーを鋳型に実施例2に示した方法でプラスミド保持の有無を確認し、プラスミド特有の領域の増幅物が無いコロニーを選抜した。
PCR 組成(1サンプル分)
2×KODFX buffer 25 μL
2 mM dNTPS 10 μL
20 μM F primer 0.75 μL (NS-150410-i01)
20 μM R primer 0.75 μL (NS-150410-i02)
D.W. 11.5 μL
KODFX 1 μL
プライマー
NS-150410-i01 5’-CCGATAGCTAAGCCTATTGAG-3’(配列番号490)
NS-150410-i02 5’-TCATCCTGTGGAGCTTAGTAG-3’(配列番号491)
49 μLずつ分注後、鋳型としてシングルコロニーの懸濁液を1 μL加え、下記条件にてPCRした。
94℃ 2 min
98℃ 10 sec → 50℃ 30 sec → 68℃ 2 min ×30 cycles
10℃ hold
・結果
得られたPCR産物を電気泳動し、プラスミド特有の領域の増幅物が無いコロニーを11757脱落株ATCC27021Δpta#1株とした。
実施例6 ptb1破壊ベクタープラスミドのブタノール発酵菌への導入
実施例1で作成した破壊ベクタープラスミドのうち、ptb1への変異導入を行う11753または11754を、C. サッカロパーブチルアセトニカムATCC27021株及び実施例5において得られたATCC27021Δpta#1株に形質転換した。破壊ベクタープラスミド11753、11754のターゲッティング配列等を表12に示した。11753は実施例2、3で使用した11757と同じ様に標的遺伝子ptb1の活性中心R280をKに変異させる破壊ベクターであり、11754は実施例2、3で使用した1269+AatIIと同じ様にアミノ酸を指定するコドンを終止コドンに変異させる破壊ベクターである。
Figure 0006940262
・方法
ptb1破壊ベクタープラスミドのブタノール発酵菌への導入とプラスミド保持の確認は実施例2に示した方法で行った。宿主はC. サッカロパーブチルアセトニカムATCC27021株及びATCC27021Δpta#1株とした。
・結果
得られた株を鋳型にしたプラスミド保持確認PCRの結果、どちらの宿主においてもプラスミド特有の領域の増幅物が得られ、形質転換体と確認された。
実施例7 破壊ベクタープラスミドを用いたブタノール発酵菌ptb1遺伝子配列変換
破壊ベクタープラスミドを用い、ブタノール発酵菌のptb1遺伝子のDNA配列変換を行った。
・方法
実施例6で作成した11753保持株である11753/ATCC27021株および11753/ATCC27021Δpta#1株、11754保持株である11754/ATCC27021株および11754/ATCC27021Δpta#1株を、エリスロマイシン10 ppmを含有するTYA培地に植菌し培養した後、エリスロマイシン10 ppmを含有するTYA固体培地に希釈塗布し、シングルコロニーとした。このシングルコロニーを取り、これを鋳型にゲノム上のptb1遺伝子全長の増幅を行った。
PCR組成、条件は実施例3に従い、プライマーのみptb1用のNS-150819-i01及びNS-150819-i02を用いた。
NS-150819-i01 5’-GCAAGAAATGAGCAAAAACTTTGACG-3’(配列番号494)
NS-150819-i02 5’-GCTGCAACTAATGCTGCTAAAGC-3’ (配列番号495)
次にPCR産物をWizard(登録商標)SV Gel and PCR Clean-Up Systemで精製し、生成物を鋳型にシーケンス反応を行った。
シーケンス反応組成、条件は実施例3に従い、プライマーのみNS-150324-i01をもちいた。
NS-150324-i01 5’- CTCTGACTGTGCAGTTAACC-3’(配列番号496)
・結果
11753/ATCC27021株および11753/ATCC27021Δpta#1株由来コロニーの配列解析の結果、どちらの株由来のコロニーにおいても823G>Aおよび/または839G>Aおよび/または842G>Aの変異導入のある株を得られた。839G>Aの変異によりPTB1タンパク質としては280番目のアミノ酸アルギニン(AGAでコードされる)がリジン(AAAでコードされる)となった。R280はPTB1の活性中心の可能性があるため、変異導入により大幅な酵素活性の低下が期待された。特にATCC27021Δpta#1株を宿主にしたものではPTA及びPTB1の機能喪失によりブタノールの大幅な収率向上が期待された。また823G>A、839G>Aの変異の結果それぞれV275I、A281Tのアミノ酸置換が生じた。これらはR280の近傍であるため、同様に酵素活性の低下が期待された。
11754/ATCC27021株および11754/ATCC27021Δpta#1株由来コロニーの配列解析の結果、どちらの株由来のコロニーにおいても610C>Tの変異導入のある株を得られた。610C>Tの変異によりPTB1タンパク質としては204番目のアミノ酸Qが終止コドンとなり、ここでタンパク質合成が停止するため機能を喪失すると期待された。特にATCC27021Δpta#1株を宿主にしたものではPTA及びPTB1の機能喪失によりブタノールの大幅な収率向上が期待された。
実施例8 破壊ベクタープラスミドを用いたブタノール発酵菌pta遺伝子配列変換(2)
実施例2で作成した11757保持株である11757/ATCC27021を用い、実施例3と同様の方法で、ATCC27021株のpta遺伝子のDNA配列変換を行った。配列解析の結果、pta遺伝子の932番目の塩基GがAに改変し、311番目のアルギニンがリジンに置換したPTAタンパク質を産生する変異株R311K株と、pta遺伝子の934番目の塩基GがAに改変し、312番目のグリシンがアルギニンに置換したPTAタンパク質を産生する変異株G312R株とが得られた。
実施例9 複数遺伝子破壊用宿主の作成
複数の遺伝子が破壊された株の作成のため、実施例8で得られた11757/ATCC27021R311K株および11757/ATCC27021G312R株からプラスミド11757を除去した。
・方法
11757/ATCC27021R311K株および11757/ATCC27021G312R株を、抗生物質を含まないTYA培地で培養した後固形培地に希釈塗布し、生育したシングルコロニーを鋳型に実施例2に示した方法でプラスミド保持の有無を確認し、プラスミド特有の領域の増幅物が無いコロニーを選抜した。PCR組成、条件は実施例5に従った。
・結果
得られたPCR産物を電気泳動し、11757/ATCC27021R311K株および11757/ATCC27021G312R株由来の、プラスミド特有の領域の増幅物が無いコロニーを、それぞれ11757脱落株ATCC27021R311K株およびATCC27021G312R株とした。
実施例10 ptb1破壊ベクタープラスミドのブタノール発酵菌への導入(2)
実施例1で作成した破壊ベクタープラスミドのうち、ptb1への変異導入を行う11753または11754で、実施例9で得られたATCC27021R311K株およびATCC27021G312R株を形質転換した。
・方法
ptb1破壊ベクタープラスミドのブタノール発酵菌への導入とプラスミド保持の確認は実施例2に示した方法で行った。宿主はATCC27021R311K株およびATCC27021G312R株とした。
・結果
得られた株を鋳型にしたプラスミド保持確認PCRの結果、プラスミド特有の領域の増幅物が得られ、形質転換体と確認された。
実施例11 破壊ベクタープラスミドを用いたブタノール発酵菌ptb1遺伝子配列変換(2)
破壊ベクタープラスミドを用い、ブタノール発酵菌のptb1遺伝子のDNA配列変換を行った。
・方法
実施例10で作成した11753保持株である11753/ATCC27021R311K株および11753/ATCC27021G312R株、11754保持株である11754/ATCC27021R311K株および11754/ATCC27021G312R株を、エリスロマイシン10 ppmを含有するTYA培地に植菌し培養した後、エリスロマイシン10 ppmを含有するTYA固体培地に希釈塗布し、シングルコロニーとした。このシングルコロニーを取り、これを鋳型にゲノム上のptb1遺伝子全長の増幅を行った。PCR組成、条件は実施例7に従った。
次にPCR産物をWizard(登録商標)SV Gel and PCR Clean-Up Systemで精製し、精製物を鋳型にシーケンス反応を行った。シーケンス反応組成、条件は実施例7に従った。
・結果
11753/ATCC27021R311K株および11753/ATCC27021G312R株由来コロニーの配列解析の結果、823G>Aおよび/または839G>Aおよび/または842G>Aの変異導入のある株を得られた。839G>Aの変異によりPTB1タンパク質としては280番目のアミノ酸アルギニン(AGAでコードされる)がリジン(AAAでコードされる)となった。また823G>A、839G>Aの変異の結果それぞれV275I、A281Tのアミノ酸置換が生じた。11754/ATCC27021R311K株および11753/ATCC27021G312R株由来コロニーの配列解析の結果、610C>Tの変異導入のある株を得られた。610C>Tの変異によりPTB1タンパク質としては204番目のアミノ酸Qが終止コドンとなった。
この結果、pta、ptb1の両方の遺伝子が破壊されたブタノール高収率株を得た。
実施例12 ptb1破壊ベクタープラスミドのブタノール発酵菌への導入(3)
実施例1で作成した破壊ベクタープラスミドのうち、ptb1への変異導入を行う64G>A 、655G>A、442C>Tまたは745G>Aで、C. サッカロパーブチルアセトニカムATCC27021株、ATCC27021R311K株およびATCC27021G312R株を形質転換した。破壊ベクタープラスミド64G>A、442C>T、655G>A、745G>Aのターゲッティング配列等を表13に示した。
Figure 0006940262
64G>Aは、標的遺伝子ptb1に64G>Aおよび/または66G>Aおよび/または67G>Aの変異を導入、アミノ酸レベルでV22IまたはV22および/またはA23Tの変異を導入する。442C>TはP148をLまたはSに変異させる破壊ベクターである。プロリンはイミノ酸で、タンパク質の自由度を局所的に低下させることが知られており、これがロイシンに変わることで構造の保持が困難となり、活性の低下あるいは消失が期待される。655G>AはA219をTに、745G>AはA249をTに、それぞれ変異させる破壊ベクターである。非極性で側鎖の小さいアラニンが極性で嵩高い側鎖を有するトレオニンに変異することによりPTB1タンパク質の構造が変化し、活性の低下あるいは消失が期待される。745G>Aはまた、751G>Aの変異(V251をIに変異)を導入することもできる。
・方法
ptb1破壊ベクタープラスミドのブタノール発酵菌への導入とプラスミド保持の確認は実施例2に示した方法で行った。宿主はC. サッカロパーブチルアセトニカムATCC27021株、ATCC27021R311K株及びATCC27021G312R株とした。
・結果
得られた株を鋳型にしたプラスミド保持確認PCRの結果、全ての宿主においてプラスミド特有の領域の増幅物が得られ、形質転換体と確認された。
実施例13 破壊ベクタープラスミドを用いたブタノール発酵菌ptb1遺伝子配列変換(3)
破壊ベクタープラスミドを用い、ブタノール発酵菌のptb1遺伝子のDNA配列変換を行った。
・方法
実施例12で作成した64G>A保持株である64G>A保持株である64G>A/ATCC27021株、64G>A/ATCC27021R311K株および64G>A/ATCC27021G312R株、442C>T保持株である442C>T/ATCC27021株、442C>T/ATCC27021R311K株および442C>T/ATCC27021G312R株、655G>A保持株である655G>A/ATCC27021株、655G>A/ATCC27021R311K株および655G>A/ATCC27021G312R株、745G>A保持株である745G>A/ATCC27021株、745G>A/ATCC27021R311K株および745G>A/ATCC27021G312R株を、エリスロマイシン10 ppmを含有するTYA培地に植菌し培養した後、エリスロマイシン10 ppmを含有するTYA固体培地に希釈塗布し、シングルコロニーとした。このシングルコロニーを取り、これを鋳型にゲノム上のptb1遺伝子全長の増幅を行った。PCR組成、条件は実施例7に従った。
次にPCR産物をWizard(登録商標)SV Gel and PCR Clean-Up Systemで精製し、精製物を鋳型にシーケンス反応を行った。シーケンス反応組成、条件は実施例3に従い、プライマーは64G>A保持株についてはNS-150819-i01(配列番号494)、その他はNS-150324-i01(配列番号496)を用いた。
・結果
64G>A保持株由来コロニーの配列解析の結果、64G>Aおよび/または67G>Aの変異導入のある株を得られた。64G>Aおよび/または67G>Aの変異によりPTB1タンパク質としてV22Iおよび/またはA23Tとなった株が得られた。V22Mが導入された株は今回の解析では無かった。442C>T保持株由来コロニーの配列解析の結果、442C>Tおよび/または443C>Tの変異導入のある株を得られた。442C>Tおよび/または443C>Tの変異によりPTB1タンパク質としてP148LまたはP148Sとなった株が得られた。655G>A保持株由来コロニーの配列解析の結果、655G>Aの変異導入のある株を得られた。655G>Aの変異によりPTB1タンパク質としてA219Tとなった株が得られた。745G>A保持株由来コロニーの配列解析の結果、745G>Aおよび/または751G>Aの変異導入のある株を得られた。745G>Aおよび/または751G>Aの変異によりPTB1タンパク質としてA249Tおよび/またはV251Iとなった株が得られた。
本発明のゲノム編集により得られた、遺伝子の挿入および/または欠失に依らずに酪酸生成酵素遺伝子等の機能を欠損したC. サッカロパーブチルアセトニカム種微生物は、安
全性に優れ、設備費用や廃棄物処理費用の低減が期待できるので、工業的なブタノール生産において極めて有用である。

Claims (15)

  1. ブチリルCoAから酪酸が生成する経路に関与する酪酸生成酵素遺伝子およびアセチルCoAから酢酸が生成する経路に関与する酢酸生成酵素遺伝子の機能を欠損したクロストリジウム・サッカロパーブチルアセトニカム種微生物であって、
    前記酢酸生成酵素遺伝子がptaであり、かつpta遺伝子にコードされるホスホトランスアセチラーゼが、W8X、R311K、G312K、G312RおよびG312Eからなる群より選択されるアミノ酸変化を含むように、該遺伝子が改変されており、
    該遺伝子内に挿入および/または欠失を含まないことを特徴とする、微生物。
  2. 前記酪酸生成酵素遺伝子がptb1および/またはbukである、請求項1記載の微生物。
  3. ptb1遺伝子にコードされるホスホトランスブチリラーゼが、P148L、P148S、Q204X、V22I、V22M、A23T、A219T、A249T、V251I、R280K、A281TおよびV275Iからなる群より選択されるアミノ酸変化を含むように、該遺伝子が改変されている、請求項2記載の微生物。
  4. 前記アミノ酸変化が、R280K、Q204X、P148S、P148LおよびV251Iから選ばれる少なくとも1つである、請求項3記載の微生物。
  5. 前記アミノ酸変化が、P148S、P148LおよびV251Iから選ばれる複数のアミノ酸変化である、請求項4記載の微生物。
  6. 前記アミノ酸変化が、R311Kおよび/またはG312K、或いはW8Xである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の微生物。
  7. 前記アミノ酸変化が、R311K、G312RおよびG312Kから選ばれる少なくとも1つである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の微生物。
  8. さらに、アセトアセチルCoAからアセトンが生成する経路に関与するアセトン生成酵素遺伝子の機能を欠損した、請求項1〜7のいずれか1項に記載の微生物であって、該遺伝子内に挿入および/または欠失を含まない、微生物。
  9. 前記アセトン生成酵素遺伝子がadcおよび/またはctfABである、請求項8記載の微生物。
  10. さらに、ピルビン酸から乳酸が生成する経路に関与する乳酸生成酵素遺伝子の機能を欠損した、請求項1〜のいずれか1項に記載の微生物であって、該遺伝子内に挿入および/または欠失を含まない、微生物。
  11. 前記乳酸生成酵素遺伝子がldh1である、請求項10記載の微生物。
  12. 請求項1〜11のいずれか1項に記載の微生物を、炭素源を含む培地中で培養する工程を含む、ブタノールの製造方法。
  13. さらに、前記培養液からブタノールを回収する工程を含む、請求項12記載の方法。
  14. 請求項1〜11のいずれか1項に記載の微生物の製造方法であって、機能を欠損させる酵素遺伝子内の標的ヌクレオチド配列の標的鎖に相補的な配列を含むcrRNAとtracrRNAとからなるキメラRNAをコードするDNAと、少なくとも一方のDNA鎖の切断能を失活した変異Casタンパク質とデアミナーゼとの融合タンパク質をコードするDNAとを、クロストリジウム・サッカロパーブチルアセトニカム種微生物で複製可能なベクターを用いて該微生物に導入することにより、該標的ヌクレオチド配列内の特定の塩基を置換し、それによって該酵素遺伝子の機能を欠損させることを特徴とする方法。
  15. 前記デアミナーゼがPmCDA1である、請求項14に記載の方法。
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