JP6936273B2 - 電気化学反応セルスタック - Google Patents
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Description
A−1.構成:
(燃料電池スタック100の構成)
図1は、本実施形態における燃料電池スタック100の外観構成を示す斜視図であり、図2は、図1のII−IIの位置における燃料電池スタック100のXZ断面構成を示す説明図であり、図3は、図1のIII−IIIの位置における燃料電池スタック100のYZ断面構成を示す説明図である。各図には、方向を特定するための互いに直交するXYZ軸が示されている。本明細書では、便宜的に、Z軸正方向を「上方向」といい、Z軸負方向を「下方向」というものとするが、燃料電池スタック100は実際にはそのような向きとは異なる向きで設置されてもよい。図4以降についても同様である。なお、燃料電池スタックは、特許請求の範囲における電気化学反応セルスタックに相当する。
一対のエンドプレート104,106は、略矩形の平板形状の導電性部材であり、例えばステンレスにより形成されている。一方のエンドプレート104は、最も上に位置する発電単位102の上側に配置され、他方のエンドプレート106は、最も下に位置する発電単位102の下側に配置されている。一対のエンドプレート104,106によって複数の発電単位102が押圧された状態で挟持されている。上側のエンドプレート104は、燃料電池スタック100のプラス側の出力端子として機能し、下側のエンドプレート106は、燃料電池スタック100のマイナス側の出力端子として機能する。
図4は、図2に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のXZ断面構成を示す説明図であり、図5は、図3に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のYZ断面構成を示す説明図である。
図2および図4に示すように、酸化剤ガス導入マニホールド161の位置に設けられたガス通路部材27の分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)を介して酸化剤ガスOGが供給されると、酸化剤ガスOGは、ガス通路部材27の分岐部29および本体部28の孔を介して酸化剤ガス導入マニホールド161に供給され、酸化剤ガス導入マニホールド161から各発電単位102の酸化剤ガス供給連通孔132を介して、空気室166に供給される。また、図3および図5に示すように、燃料ガス導入マニホールド171の位置に設けられたガス通路部材27の分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)を介して燃料ガスFGが供給されると、燃料ガスFGは、ガス通路部材27の分岐部29および本体部28の孔を介して燃料ガス導入マニホールド171に供給され、燃料ガス導入マニホールド171から各発電単位102の燃料ガス供給連通孔142を介して、燃料室176に供給される。
前提として、次のように各用語を定義する。
「第1の積分値」:ジルコニアを含む層に対してラマン分析を行った場合における、波数が440cm−1以上、690cm−1以下の範囲の強度ピークの積分値である。
ラマン分析とは、例えば、"タロウ シモノソノ(Taro Shimonosono)、外5名、Solid State lonics、(オランダ)、エルゼビア・ベーフェー(Elsevier B.V.)、2012年、volume225、p.69−72"に示されているラマン分光法に従った分析である。
また、波数が440cm−1以上、690cm−1以下の範囲は、ジルコニアの結晶系が立方晶と正方晶とに属する強度ピークの範囲を示す。第1の積分値は、ジルコニアの結晶系が立方晶と正方晶とに属する強度ピークの範囲において、バックグラウンド処理によりバックグラウンド(不純なピーク)が除去された後の強度ピークの積分値(面積値)である。本実施形態では、バックグランド処理として、公知の直線法を用いる。直線法は、強度ピークの対象範囲における強度ピークの両端を直線で結び、該直線の上の面積を強度ピークの積分値とする方法である。
波数が185cm−1以上、380cm−1以下の範囲は、ジルコニアの結晶系が正方晶に属する強度ピークの範囲を示す。第2の積分値は、ジルコニアの結晶系が正方晶に属する強度ピークの範囲において、上述のバックグラウンド処理によりバックグラウンドが除去された後の強度ピークの積分値(面積値)である。
「下流側比率R2」:ジルコニアを含む対象の層(燃料極116や電解質層112等)の内、燃料ガスFGのガス流路の下流側における、第1の積分値に対する第2の積分値の比率である。下流側比率R2は、特許請求の範囲における第2の比率に相当する。
「中央比率R3」:燃料ガスFGのガス流路の上流側と下流側との間の中央における、第1の積分値に対する第2の積分値の比率である。中央比率R3は、特許請求の範囲における第3の比率に相当する。
<第1の条件>
燃料電池スタック100に備えられた複数の単セル110のそれぞれについて、該単セル110に備えられた燃料極116における上流側比率R1(R11)は、燃料極116における下流側比率R2(R21)に比べて大きい。
なお、燃料極116における上流側比率R1(R11)に対する下流側比率R2(R21)の差(=R21−R11)は、0.02より大きいことが好ましい。
<第2の条件>
電解質層112における下流側比率R2(R22)と上流側比率R1(R12)との差(絶対値)は、燃料極116における下流側比率R2(R21)と上流側比率R1(R11)との差(絶対値)に比べて小さい。
<第3の条件>
電解質層112における下流側比率R2(R22)と上流側比率R1(R12)との差は、0.02以下である。
<第4の条件>
燃料極116における中央比率R3(R31)は、燃料極116における上流側比率R1(R11)より大きく、かつ、下流側比率R2(R21)より大きい。
なお、燃料極116における、ジルコニアの第1の積分値に対する第2の積分値の比率は、燃料ガスFGのガス流路の上流側から下流側に向けて、段階的に減少している構成でもよいが、連続的に減少している構成が、より好ましい。
図8は、本実施形態における燃料電池スタック100の製造方法を示すフローチャートである。まず、単セル110を作製される(S110)。具体的には、次の通りである。
(燃料極基板層用グリーンシートの作製)
NiO粉末(50重量部)とYSZ粉末(50重量部)との混合粉末(100重量部)に対して、造孔材である有機ビーズ(混合粉末に対して15重量%)と、ブチラール樹脂と、可塑剤であるDOPと、分散剤と、トルエン+エタノール混合溶剤とを加え、ボールミルにて混合して、スラリーを調整する。有機ビーズは、例えば、ポリメタクリル酸メチルやポリスチレンなどの高分子により形成された球状粒子である。得られたスラリーをドクターブレード法により薄膜化して、厚さ250μmの燃料極基板層用グリーンシートを作製する。なお、燃料極基板層用グリーンシートのNiO粉末とYSZ粉末との比率は、その性能を満足する限り適宜変更可能であり、例えばNiO粉末:YSZ粉末が60:40や40:60であっても構わない。つまり、NiO粉末とYSZ粉末との混合粉末が100重量部となるように、NiO粉末は40〜60重量部の間で適宜変更でき、残りをYSZ粉末とすることができる。
NiO粉末(60重量部)とYSZ粉末(40重量部)との混合粉末(100重量部)に対して、ブチラール樹脂と、可塑剤であるDOPと、分散剤と、トルエン+エタノール混合溶剤とを加え、ボールミルにて混合して、スラリーを調整する。また、上記混合粉末に、更に、造孔材である有機ビーズ(混合粉末に対して3.9重量%)を加えて、ボールミルにて混合して、スラリーを調整することにより、気孔率が燃料極基板層用グリーンシートより高い燃料極活性層用グリーンシートを作製することができる。得られたスラリーをドクターブレード法により薄膜化して、厚さ6μm〜36μmの燃料極活性層用グリーンシートを作製する。なお、燃料極活性層用グリーンシートのNiO粉末とYSZ粉末との比率は、その性能を満足する限り適宜変更可能であり、例えばNiO粉末:YSZ粉末が50:50や40:60であっても構わない。つまり、NiO粉末とYSZ粉末との混合粉末が100重量部となるように、NiO粉末は40〜60重量部の間で適宜変更でき、残りをYSZ粉末とすることができる。
YSZ粉末(100重量部)に対して、ブチラール樹脂と、可塑剤であるDOPと、分散剤と、トルエン+エタノール混合溶剤とを加え、ボールミルにて混合して、スラリーを調整する。得られたスラリーをドクターブレード法により薄膜化して、厚さ10μmの電解質層用グリーンシートを作製する。
燃料極基板層用グリーンシートと燃料極活性層用グリーンシートと電解質層用グリーンシートとを貼り付けて約280℃で脱脂する。さらに、約1350℃にて焼成を行い、電解質層112と燃料極116との積層体を得る。
La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8O3粉末と、イソプロピルアルコールとからなる混合液を作成する。作成した混合液を、上記積層体における電解質層112の表面に噴霧塗布し、1100℃で焼成することによって空気極114を成形することにより、焼成体(還元前の単セル110)を得ることができる。
組み立て後の燃料電池スタック100が、運転温度(例えば700℃)以上の温度の水素雰囲気に還元時間だけ晒されることにより活性層320が還元(NiOがNiに還元)される(S130)。運転温度は、電解質層112の酸素イオンを伝導する活性を有する温度である。還元に利用される還元ガスは、水素に限定されず、メタンガス等でもよい。還元温度は、700℃以上、1000℃以下とすることができ、820℃以下とすることができ、800℃以下とすることができる。還元時間は、1時間以上の時間である。なお、還元温度は、昇温・降温過程の燃料電池スタック100の温度を含まず、例えば1時間以上維持される燃料電池スタック100の温度である。
以上説明したように、本実施形態における燃料電池スタック100は、複数の単セル110を備える。各単セル110は、空気極114と、燃料極116と、空気極114と燃料極116との間に配置された電解質層112と、を含む。各燃料極116は、ジルコニアを含む。ここで、このような燃料電池スタック100では、燃料室176において、燃料極116の内、燃料ガスFGのガス流路の上流側における燃料ガスFGの濃度(水素濃度)は、下流側における燃料ガスFGの濃度に比べて高い。すなわち、燃料ガスFGの濃度が高い燃料極116の上流側では、多くの水素が発電反応に利用されることにより電流集中が生じやすい。そのため、濃度が低下した後の燃料ガスFGが燃料極116の下流側に供給され、その結果、燃料極116の下流側では、十分な濃度の燃料ガスFGが供給されない、いわゆるガス枯れが局所的に生じる。このように、単セル110における面方向の電流密度が不均一になると、例えば、燃料電池スタック100の特性の低下(例えば、初期電圧の低下や耐久性の低下等)を招く。
図9は、第1の性能評価結果を示す説明図である。
第1の性能評価では、上述の還元工程における還元条件(還元温度、還元時間、雰囲気)と、燃料極116および電解質層112におけるジルコニアの相転移面積比(第1の積分値に対する第2の積分値の比率)との関係について評価を行った。第1の性能評価には、5つのボタンセルのサンプル(サンプル1〜5)が用いられた。各サンプルは、上述した実施形態の燃料電池スタック100(単セル110)の製造方法に倣って作製された。
第1の性能評価では、還元後のボタンセルの出力電圧(V)と、電流密度(A/cm2)と、相転移面積比(第1の積分値に対する第2の積分値の比率)との3つの項目について評価を行った。出力電圧の評価としては、発電運転開始時に、電流密度が0.55A/cm2のときの還元後のボタンセルの出力電圧を測定した。電流密度の評価としては、発電運転開始時に、0.95Vの電圧を印加したときの還元後のボタンセルの電流密度を測定した。相転移面積比の評価としては、燃料極116と電解質層112とのそれぞれにおけるジルコニアの相転移面積比を特定した。但し、本評価では、燃料極116の内、活性層320におけるジルコニアの相転移面積比を特定した。各部(層)におけるジルコニアの相転移面積比の特定方法は次の通りである。
電解質層:還元後のボタンセルの電解質層を厚み方向に3分割し、燃料極側に近い断面で顕微ラマン分析を行った。
燃料極:還元後のボタンセルの燃料極の断面を塩酸によりエッチング処理を行った後、活性層の厚み方向中央部のジルコニアに対して顕微ラマン分析を行った。
顕微ラマン分光装置は、堀場製作所製のLabRAM HR800を使用した。その他の測定条件および相転移面積比の算出方法は、"タロウ シモノソノ(Taro Shimonosono)、外5名、Solid State lonics、(オランダ)、エルゼビア・ベーフェー(Elsevier B.V.)、2012年、volume225、p.69−72"と同様の方法にて行った。
なお、還元前のボタンセルの燃料極116と電解質層112とのそれぞれにおける、ジルコニアの相転移面積比の初期値は、0.10であったとする。
図9に示すように、サンプル1,2の評価結果を比較すると、ボタンセルの還元工程における還元時間が長いほど、燃料極116におけるジルコニアの相転移面積比が高くなり、それに伴って、初期電圧が低下し、電流密度が低下した。サンプル2,3の評価結果を比較すると、ボタンセルの還元工程における還元温度が高いほど、燃料極116におけるジルコニアの相転移面積比が高くなり、それに伴って、初期電圧が低下し、電流密度が低下した。サンプル3,4の評価結果を比較すると、ボタンセルの還元工程における還元時間が長いほど、燃料極116におけるジルコニアの相転移面積比が高くなり、それに伴って、初期電圧が低下し、電流密度が低下した。これらのことから、還元条件における還元時間を長くすることと還元温度を高くすることの少なくとも一方を行うことにより、燃料極116におけるジルコニアの相転移が進行し、燃料極116における酸素イオン導電性が低く(電気抵抗が大きく)なるため、初期電圧および電流密度が低下することが分かる。但し、還元温度が750℃以下である場合、電解質層112におけるジルコニアの相転移はほとんど進行しないことが分かった。
図10は、第2の性能評価結果を示す説明図である。
第2の性能評価では、燃料極116におけるジルコニアの上流側比率R1(R11)と下流側比率R2(R21)との差(=R11−R21)と、劣化率(%)との関係について評価を行った。第2の性能評価には、2つの単セルのサンプル(サンプル6,7)が用いられた。各サンプルは、上述した実施形態の燃料電池スタック100(単セル110)の製造方法に倣って作製された。
第2の性能評価では、還元後の単セルの劣化率(%)について評価を行った。劣化率の評価としては、まず、発電運転開始前に、電流密度が0.37A/cm2のときの単セルの初期電圧を測定した。次に、700℃、100時間で発電運転を行った後、電流密度0.37A/cm2のときの単セルの出力電圧を測定し、初期電圧に対する、初期電圧と出力電圧との差の比率を、単セルの劣化率とした。
図10に示すように、サンプル6では、燃料極116におけるジルコニアの上流側比率R1(R11)が下流側比率R2(R21)より大きく、その差は0.03であった。これに対して、サンプル7では、燃料極116におけるジルコニアの上流側比率R1(R11)が下流側比率R2(R21)より小さく、その差は−0.04であった。このことから、燃料極116におけるジルコニアの上流側比率R1(R11)が下流側比率R2(R21)より大きいと、単セルの劣化の進行を抑制できることが分かった。
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
Claims (4)
- 空気極と、燃料極と、前記空気極と前記燃料極との間に配置された電解質層と、をそれぞれ含む複数の電気化学反応単セルを備え、前記燃料極はジルコニアを含む、電気化学反応セルスタックにおいて、
ジルコニアを含む層に対してラマン分析を行った場合における、波数が440cm−1以上、690cm−1以下の範囲の強度の積分値を第1の積分値とし、波数が185cm−1以上、380cm−1以下の範囲の強度の積分値を第2の積分値としたとき、
前記複数の電気化学反応単セルの内の少なくとも1つに備えられた前記燃料極の内、前記燃料極に供給されるガスの流路の上流側における前記第1の積分値に対する前記第2の積分値の比率である第1の比率は、前記燃料極の内、前記ガスの流路の下流側における前記第1の積分値に対する前記第2の積分値の比率である第2の比率に比べて大きい、
ことを特徴とする電気化学反応セルスタック。 - 請求項1に記載の電気化学反応セルスタックにおいて、
前記電解質層は、ジルコニアを含んでおり、
前記電解質層における前記第2の比率と前記第1の比率との差は、前記燃料極における前記第2の比率と前記第1の比率との差に比べて小さい、
ことを特徴とする電気化学反応セルスタック。 - 請求項1または請求項2に記載の電気化学反応セルスタックにおいて、
前記電解質層における前記第2の比率と前記第1の比率との差は、0.02以下である、
ことを特徴とする電気化学反応セルスタック。 - 請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の電気化学反応セルスタックにおいて、
前記燃料極の内、前記ガスの流路の前記上流側と前記下流側との間の中央における前記第1の積分値に対する前記第2の積分値の比率である第3の比率は、前記第1の比率より小さく、かつ、前記第2の比率より大きい、
ことを特徴とする電気化学反応セルスタック。
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