本発明の好適な実施形態に係るインクジェットプリンタ1の概略構成について説明する。図1に示すように、プリンタ1は、プラテン2、キャリッジ3、インクジェットヘッド5(以下、単にヘッド5とも称す)、ホルダ6、給紙ローラ7、排紙ローラ8、メンテナンスユニット9、フラッシング受け10、電源回路60(図2参照)、温度センサ160、及び制御装置100等を備えている。尚、以下では、図1の紙面手前側をプリンタ1の「上方」、紙面向こう側をプリンタ1の「下方」と定義する。また、図1に示す前後方向及び左右方向を、プリンタ1の「前後方向」及び「左右方向」と定義する。
プラテン2の上面には、被記録媒体である用紙Sが載置される。また、プラテン2の上方には、左右方向(走査方向)に平行に延びる2本のガイドレール15,16が設けられる。キャリッジ3は、2本のガイドレール15,16に取り付けられ、プラテン2と対向する領域において2本のガイドレール15,16に沿って左右方向に移動可能である。また、キャリッジ3には、駆動ベルト17が取り付けられている。駆動ベルト17は、2つのプーリ18,19に巻き掛けられた無端状のベルトである。一方のプーリ18はキャリッジ駆動モータ20(図2参照)に連結されている。キャリッジ駆動モータ20によってプーリ18が回転駆動されることで駆動ベルト17が走行し、これにより、キャリッジ3が左右方向に往復移動する。また、このとき、キャリッジ3上に搭載されたヘッド5は、このキャリッジ3とともに左右方向に往復移動することになる。
ホルダ6は、左右方向に並ぶ4つのカートリッジ装着部41を備えている。各カートリッジ装着部41には、インクカートリッジ42が着脱可能に装着される。4つのカートリッジ装着部41に装着される4つのインクカートリッジ42には、それぞれ、ブラック、イエロー、シアン、マゼンタのインクが貯溜されている。尚、以下の説明において、インクジェットプリンタの構成要素のうち、ブラック(K)、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)のインクにそれぞれ対応するものについては、その構成要素を示す符号の後に、どのインクに対応するかが分かるように、適宜、ブラックを示す"K"、イエローを示す"Y"、シアンを示す"C"、マゼンタを示す"M"の何れかの記号を付す。例えば、インクカートリッジ42Kは、ブラックインクを貯溜するインクカートリッジ42を示す。尚、本実施形態では、ブラックインクは、顔料インクであり、それ以外のカラーインク、即ち、イエロー、シアン、マゼンタのインクは、染料インクである。
図3に示すように、インクカートリッジ42は、略直方体状の筐体43、筐体43内に配置され、インクを貯溜する略直方体状の貯溜室44、貯溜室44の下部に接続された排出管45、及び、貯溜室44に接続された大気連通部39を備えている。
排出管45は、貯溜室44に貯溜されたインクを、インクカートリッジ42の外部に供給するための流路を画定している。カートリッジ装着部41は、インクカートリッジ42が装着されたときに、この排出管45と接続してインクを流通するニードル41aを備えている。
大気連通部39は、貯溜室44とインクカートリッジ42外とを連通させる流路、及び、当該流路上に設けられたバルブ等を備えている。インクカートリッジ42がカートリッジ装着部41に装着されたときに、このバルブが開くことにより、貯溜室44が、カートリッジ装着部41に形成された大気連通流路41bを介して大気に連通する。また、カートリッジ装着部41には、インクカートリッジ42がカートリッジ装着部41に装着されているか否かを検知するための装着検知センサ71が設けられている。
図1に戻って、ヘッド5は、キャリッジ3に搭載されている。このヘッド5は、ヘッド本体13と、4つのサブタンク14(14K,14Y,14M,14C)とを有する。4つのサブタンク14は、左右方向に沿って並べて配置されている。また、これら4つのサブタンク14にはチューブジョイント21が一体的に設けられている。そして、チューブジョイント21には、可撓性を有する4本のインク供給チューブ22(22K,22Y,22M,22C)それぞれの一端が着脱可能に接続されている。4本のインク供給チューブ22それぞれの他端は、ホルダ6の4つのカートリッジ装着部41(41K,41Y,41M,41C)のニードル41aそれぞれに接続されている。カートリッジ装着部41に装着された4つのインクカートリッジ42内のインクは、この4本のインク供給チューブ22を介して、4つのサブタンク14にそれぞれ供給される。
ヘッド本体13は、4つのサブタンク14の下部に取り付けられている。ヘッド本体13の下面は、インクを吐出するための複数のノズル46が形成されたノズル面である。ノズル面において、複数のノズル46は、前後方向に配列されており、左右方向に並ぶ4列のノズル列47を構成している。この4列のノズル列47は、イエローのインクを吐出するノズル列47Yと、マゼンタのインクを吐出するノズル列47Mと、シアンのインクを吐出するノズル列47Cと、ブラックのインクを吐出するノズル列47Kとからなる。ヘッド本体13の詳細な構成については後述する。
給紙ローラ7と排紙ローラ8は、搬送モータ29(図2参照)によってそれぞれ同期して回転駆動される。給紙ローラ7と排紙ローラ8は協働して、プラテン2に載置された用紙Sを前方(搬送方向)に搬送する。
そして、プリンタ1は、給紙ローラ7と排紙ローラ8によって用紙Sを搬送方向に搬送する搬送動作と、キャリッジ3とともにヘッド5を左右方向(走査方向)に移動させながらインクを吐出させる印刷パス動作を交互に行うことにより、用紙Sに所望の画像等を印刷する。即ち、本実施形態のプリンタ1は、シリアル式のインクジェットプリンタである。
フラッシング受け10は、プラテン2よりも左側に配置されている。キャリッジ3を移動させてヘッド5をフラッシング位置に位置付けさせたとき、複数のノズル46が、フラッシング受け10と上下に対向する対向状態となる。そして、プリンタ1では、ヘッド5をフラッシング位置に位置付けさせた状態で、ヘッド5に、ノズル46からフラッシング受け10に向けてインクを吐出して排出させるフラッシングを行わせることができる。
メンテナンスユニット9は、ヘッド5の吐出機能の維持、回復のためのメンテナンス動作を行うためのものであり、キャップユニット50、吸引ポンプ51、切換装置52、及び廃液タンク53等を備えている。
キャップユニット50は、プラテン2よりも右側に配置されている。キャリッジ3がプラテン2よりも右側に移動したときにはこのキャップユニット50と上下に対向する。また、キャップユニット50は、キャップ昇降モータ24(図2参照)により駆動されて、上下方向に昇降可能である。このキャップユニット50は、ヘッド5に接触して装着可能な、キャップ55を備えている。キャップ55は、例えばゴム材料によって構成されており、ブラックキャップ部55a及びカラーキャップ部55bを有する。
キャリッジ3がキャップユニット50と対向した状態では、キャップ55がヘッド本体13の下面と対向する。そして、キャリッジ3とキャップユニット50とが対向した状態でキャップユニット50が上昇すると、キャップユニット50がヘッド5に装着される。このとき、ブラックキャップ部55aによりノズル列47Kが覆われ、カラーキャップ部55bにより、3列のノズル列47Y,47M,47Cが共通に覆われる。
ブラックキャップ部55a及びカラーキャップ部55bは、それぞれ、切換装置52を介して吸引ポンプ51に接続されている。切換装置52は、吸引ポンプ51の連通先を、ブラックキャップ部55a、及びカラーキャップ部55bの間で選択的に切り換える。廃液タンク53は、吸引ポンプ51の切換装置52とは反対側に接続されている。
そして、プリンタ1では、制御装置100の制御の下、メンテナンス動作として、ノズル46からインクを強制的に排出させる吸引パージを、メンテナンスユニット9に行わせることができる。
具体的には、ノズル列47Kに属するノズル46Kからブラックインクを強制的に排出させる吸引パージを行う際には、ブラックキャップ部55aでノズル列47Kを覆った状態で、ブラックキャップ部55aを吸引ポンプ51と連通させたうえで、吸引ポンプ51を駆動させる。これにより、ブラックキャップ部55a内が負圧となることで、ノズル列47Kのノズル46Kからブラックインクが強制的に排出される。
同様に、ノズル列47Y,47M,47Cに属するノズル46Y,46M,46Cからカラーインクを強制的に排出させる吸引パージを行う際には、カラーキャップ部55bでノズル列47Y,47M,47Cを覆った状態で、カラーキャップ部55bを吸引ポンプ51と連通させたうえで、吸引ポンプ51を駆動させる。
電源回路60は、図2に示すように、電源スイッチ61、整流回路62、電圧出力回路63、設定回路64等を有する。電源スイッチ61は、100Vの交流電源との接続/遮断を行う。整流回路62は、交流電源から供給された交流を直流に変換する。また、その際に、電圧を100Vから、それよりも低い電圧(例えば、30V程度)まで降圧させる。整流回路62からの直流電圧は電圧出力回路63に供給される。電圧出力回路63では、後述するドライバIC90等のプリンタ1を構成する様々な駆動部を駆動するための出力電圧(VDD)を生成して出力する。また、電圧出力回路63は、生成した出力電圧を、各駆動部への出力電圧の供給/非供給を切り換える機能を兼ね備えている。設定回路64は、出力電圧を所定の電圧に維持するためのフィードバック制御の制御目標値を、電圧出力回路63に対して設定するためのPMW回路である。電源回路60は、複数レベルの電圧を出力可能に構成されている。
温度センサ160は、ホルダ6近傍に配置されており、周囲温度を計測する。
制御装置100は、図2に示すように、CPU(Central Processing Unit)101、ROM(Read Only Memory)102、RAM(Random Access Memory)103、不揮発性メモリ104、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)105等を含む。ROM102には、CPU101が実行するプログラム、各種固定データ等が記憶されている。RAM103には、プログラム実行時に必要なデータ(印刷データ等)が一時的に記憶される。不揮発性メモリ104には、後述するカートリッジ情報121等が記憶される。ASIC105には、ヘッド5、キャリッジ駆動モータ20等、プリンタ1の様々な装置あるいは駆動部と接続されている。また、ASIC105は、PC等の外部装置31と接続されている。
制御装置100は、外部装置31から受信した印刷指示に基づいて、ヘッド5やキャリッジ駆動モータ20等を制御して、用紙Sに画像等を印刷する印刷処理を実行する。本実施形態では、この印刷処理の印刷モードとして、通常印刷モード、フォト印刷モード、及び低速印刷モードを有している。通常印刷モードは、ブラックインクを少なくとも使用して印刷を行う印刷モードである。フォト印刷モードは、ブラックインクを使用せずに、カラーインクのみを使用して印刷を行う印刷モードである。低速印刷モードは、ブラックインクを少なくとも使用して印刷を行い、且つ通常印刷モードよりも高画質の画像を印刷する印刷モードである。この低速印刷モードでは、印刷パス動作中におけるキャリッジ3の移動速度が、通常印刷モードよりも遅い。
尚、本実施形態において、制御装置100が行う上記印刷処理等の各種処理は、単一のCPUで行ってもよく、CPUと、ASICとの協動で行ってもよい。また、制御装置100が複数のCPUを備え、複数のCPUによって処理を分担して行ってもよい。また、制御装置100が複数のASICを備え、複数のASICによって処理を分担してもよい。あるいは、1つのASIC単独で処理を行ってもよい。
次に、ヘッド本体13について詳細に説明する。ヘッド本体13は、図4(a)に示すように、複数のノズル46及び複数のノズル46にそれぞれ連通する複数の圧力室83が形成された流路構造体81と、流路構造体81の上面に配置された圧電アクチュエータ86とを備えている。
図4(c)に示すように、流路構造体81は4枚のプレートが積層された構造を有する。この流路構造体81の下面には複数のノズル46が形成されている。図4(a)に示すように、複数のノズル46は前後方向(用紙Sの搬送方向)に配列されており、4色のインクにそれぞれ対応した、4列のノズル列47を構成している。複数の圧力室83は、複数のノズル46と同様に4列に配列されている。
さらに、図4(a),(b)に示すように、流路構造体81には、それぞれ前後方向に延在する4本のマニホールド84(84K,84Y,84M,84C)が形成されている。4本のマニホールド84は、4列の圧力室列に、4色のインクをそれぞれ供給する。また、4本のマニホールド84は、流路構造体81の上面に形成された4つのインク供給孔85(85K,85Y,85M,85C)に接続されている。4つのインク供給孔85には、4つのサブタンク14(図1参照)から4色のインクがそれぞれ供給される。以上の構成より、流路構造体81内には、各マニホールド84から分岐して、圧力室83を経てノズル46に至る個別流路が複数形成されている。
図4(c)に示すように、圧電アクチュエータ86は、複数の圧力室83を覆う振動板87と、この振動板87の上面に配置された圧電層88と、複数の圧力室83に対応した複数の個別電極89とを備えている。圧電層88の上面に位置する複数の個別電極89は、圧電アクチュエータ86を駆動するドライバIC90とそれぞれ電気的に接続されている。このドライバIC90には、図2に示すように、電源線99a、グランド線99b、制御信号線99c等の配線が接続されている。電源線99aは、電源回路60で生成された出力電圧をドライバIC90に供給するための線である。グランド線99bは、ドライバIC90をグランドに接続するための線である。制御信号線99cは、制御装置100からドライバIC90へ、後述するパルス波形データや波形選択データ等の制御信号を入力するための線である。
圧電層88の下面に位置する振動板87は金属材料で形成されており、圧電層88を挟んで複数の個別電極89と対向する共通電極の役割を果たす。尚、この振動板87はドライバIC90のグランド線99bに接続されて常にグランド電位に保持される。
以上の構成において、1つの個別電極89、共通電極としての振動板87の1つの圧力室83に対向する電極部分、及び、圧電層88の1つの圧力室83と対向する部分によって、1つの圧電素子95(図4(c)参照)が構成されている。
ドライバIC90は、制御装置100からの制御信号に基づいて、各圧電素子95の個別電極89に対して駆動パルス信号を出力し、個別電極89に印加させる電圧を、Highレベル(電源線99aを通じて電源回路60から受電した出力電圧のレベル)とLowレベル(グランドレベル)との間で切り換える。このように、本実施形態では、電源回路60により出力された出力電圧が、各圧電素子95に共通に印加される。
上記の圧電アクチュエータ86の、ノズル46からインクを吐出させる際の動作は、以下の通りである。ドライバIC90により、ある圧電素子95の個別電極89の電圧がLowからHighに切り換えられたとする。このとき、個別電極89と共通電極としての振動板87との間に電位差が生じ、両者の間に挟まれた圧電層88に圧電変形が生じる。この圧電層88の圧電変形によって圧力室83に体積変化が生じて、圧力室83(ノズル46)内のインクに圧力(エネルギー)が付与される。これにより、上記圧力室83に連通するノズル46からインクの液滴が吐出される。また、以下では、説明の便宜上、図1に示すように、ニードル41aから複数のノズル46に至る流路全体をインク流路30(30K,30Y,30M,30C)と総称する。
次に、上記圧電アクチュエータ86を駆動するための、電気的な構成の詳細について説明する。まず、圧電アクチュエータ86に駆動パルス信号を出力する、ドライバIC90の構成について説明する。
ドライバIC90は、所定の吐出周期各々において、圧電素子95の個別電極89に対して、22種類の信号(図5参照)の中から1種類の信号を選択して出力する。なお、吐出周期とは、走査方向(左右方向)の印刷解像度に対応する単位距離だけキャリッジ3(ヘッド5)が移動するのに要する時間である。尚、上述したように、低速印刷モードは、通常印刷モードよりもキャリッジ3の移動速度が遅いため、低速印刷モードでの吐出周期は、通常印刷モードでの吐出周期よりも長い。
これら22種類の信号のうち、1種類の信号(図5(a))はパルスPを有さない非吐出信号であり、21種類の信号(図5(b)〜(j))はパルスPを有する吐出信号である。21種類の吐出信号は、大きく分類すると、小玉吐出信号、中玉吐出信号、大玉吐出信号の3つに分類することができる。これら小玉吐出信号、中玉吐出信号、及び大玉吐出信号は、1つのノズル46から互いにサイズの異なる液滴(小玉、中玉、大玉)を吐出させるための駆動パルス信号であり、1吐出信号に含まれるパルスPの数が互いに異なっている。尚、図5では、説明の便宜上、22種類の信号のうち、10種類の信号のみ図示している。
吐出信号の波形長さは、パルスPを印加する時間長さと、パルスPの出力後の、圧力室83内のインクの圧力変動を抑える時間長さなどを合わせた長さである。尚、吐出信号の波形長さが吐出周期の長さよりも短い場合には、吐出信号に加えて、吐出周期の長さから当該吐出信号の波形長さを減算した長さ分だけ、パルスPを有さない付加信号が吐出信号の後に付加されて、吐出周期各々において、圧電素子95に対して出力される。
本実施形態では、21種類の吐出信号は、7種類の小玉吐出信号(小玉吐出信号1〜7)と、7種類の中玉吐出信号(中玉吐出信号1〜7)と、7種類の大玉吐出信号(大玉吐出信号1〜7)とから構成されている。大玉吐出信号1〜7は、パルスPのパルス幅、パルスPの数、及び1吐出信号に含まれる複数のパルスPのパルス間隔等が調整されることで、それぞれが同一の電圧レベルで圧電素子95に出力された場合にノズル46内のインクに付与するエネルギーが、互いに異なるように設定されている。小玉吐出信号1〜7、及び中玉吐出信号1〜7それぞれについても同様に、それぞれが同一の電圧レベルで圧電素子95に出力された場合にノズル46内のインクに付与するエネルギーが、互いに異なるように設定されている。以下、大玉吐出信号1〜7を例にして説明する。
大玉吐出信号1〜7は、同一の電圧レベルで圧電素子95に出力された際に、ノズル46内のインクに付与するエネルギーが、大玉吐出信号1が最も小さく、大玉吐出信号2、3、4、5、6の順に大きくなり、大玉吐出信号7が最も大きくなるように設定されている。つまり、大玉吐出信号1〜7は、「大玉吐出信号」の後に付加された数字が大きいほど、ノズル46内のインクに付与するエネルギーが大きい。尚、小玉吐出信号1〜7、及び中玉吐出信号1〜7それぞれについても同様に、付加された数字が大きいほど、ノズル46内のインクに付与するエネルギーが大きい。
ここで、パルスPのパルス数、及び1吐出信号に含まれる複数のパルスPのパルス間隔の条件が同じ大玉吐出信号同士では、パルスPのパルス幅が大きい大玉吐出信号ほど、1つのパルスP当たりの圧電素子95の変形量が大きくなるため、ノズル46内のインクに付与するエネルギーが大きくなる。従って、例えば、大玉吐出信号4(図5(g))と大玉吐出信号6(図5(i))とでは、パルスPのパルス数、及び1吐出信号に含まれる複数のパルスPのパルス間隔は互いに同じであるが、大玉吐出信号6の方がパルスPのパルス幅が大きいため、ノズル46内のインクに付与するエネルギーが大きい。
また、パルスPのパルス幅、及び1吐出信号に含まれる複数のパルスPのパルス間隔の条件が同じ大玉吐出信号同士では、パルスPのパルス数が多い大玉吐出信号ほど、圧電素子95の変形回数が多くなり、ノズル46内のインクに付与するエネルギーが大きくなる。従って、例えば、大玉吐出信号4(図5(g))と大玉吐出信号7(図5(j))とでは、パルスPのパルス幅、及び1吐出信号に含まれる複数のパルスPのパルス間隔は互いに同じであるが、大玉吐出信号7の方がパルスPの数が多いため、ノズル46内のインクに付与するエネルギーが大きい。
また、パルスPのパルス幅、及びパルスPの数が同じ条件にある大玉吐出信号同士でも、1吐出信号に含まれる複数のパルスPのパルス間隔が異なると、ノズル46内のインクに付与するエネルギーは互いに異なる場合がある。即ち、連続して出力されるパルスPのパルス間隔を、各パルスPで付与するエネルギーが重ね合わされるように調整することで、ノズル46内のインクに大きなエネルギーを付与することが可能である。例えば、大玉吐出信号3(図7(f))と大玉吐出信号4(図7(g))とでは、パルスPのパルス幅、及びパルスPの数は互いに同じであるが、大玉吐出信号4の方が各パルスPで付与するエネルギーがより重ね合わされるように調整されているため、ノズル46内のインクに付与するエネルギーが大きい。
以上のように、大玉吐出信号2〜7それぞれは、当該大玉吐出信号よりも、同一の電圧レベルのときにノズル46内のインクに付与するエネルギーが小さい大玉吐出信号と比べて、パルスPのパルス幅が大きい条件、パルスPの数が多い条件、複数のパルスPのパルス間隔が異なる条件の少なくとも何れかの条件を満たすように設定されている。
また、図5に示すように、本実施形態では、21種類の吐出信号のうち、大玉吐出信号7を除く20種類の吐出信号は、その波形の長さが、通常印刷モードでの吐出周期の長さ以下である。一方で、大玉吐出信号7は、その波形の長さが、通常印刷モードでの吐出周期よりも長く、且つ、低速モードでの吐出周期の長さ以下である。このため、大玉吐出信号7については、低速モードで印刷処理を実行するときのみ、圧電素子95に出力することが可能である。尚、以下では、特に断りがない限り、印刷処理の印刷モードは通常印刷モードであり、大玉吐出信号7を含む22種類の信号を圧電素子95に出力可能であるものとして説明する。
ドライバIC90は、制御装置100から送信された後述する波形選択データに基づいて、各圧電素子95の個別電極89に対して、吐出周期それぞれにおいて、上記22種類の信号のうちの1つを選択して出力する。
図6(a)に示すように、ドライバIC90は、シフトレジスタ91、ラッチ回路92、波形選択回路93、及び、出力回路94を有する。シフトレジスタ91には、制御装置100から、複数の圧電素子95のそれぞれに対応した波形選択データが入力される。1つの圧電素子95に対応する波形選択データは、後述する波形選択回路93において上記22種類の信号(後述する22種類のパルス波形データ)から1種類の信号を選択させるための数ビットのビットデータである。また、1吐出周期における、複数の圧電素子95に対応する波形選択データの総ビット数は、(1つの波形選択データのビット数)×(圧電素子95の総数)となり、これら多数のビットデータは制御装置100からドライバIC90へシリアル入力される。
シフトレジスタ91は、上記のシリアル入力された多数のビットデータを、パラレル変換してラッチ回路92へ順次出力する。また、ラッチ回路92は、シフトレジスタ91からパラレル出力される多数のビットデータ(波形選択データ)を、1吐出周期に係る全てのデータの入力が完了するまで保持する。そして、全ての波形選択データの入力が完了すると、保持している波形選択データを波形選択回路93へパラレル出力する。
波形選択回路93には、制御装置100から後述する22種類のパルス波形データが入力される。そして、波形選択回路93は、ラッチ回路92から入力された、複数の個別電極89のそれぞれに対応する波形選択データに基づいて、22種類のパルス波形データの中から1種類を選択し、そのパルス波形データに係るパルス波形を有する波形信号を出力回路94へ出力する。
波形選択回路93から出力される波形信号は、シフトレジスタ91、ラッチ回路92、及び、波形選択回路93等のロジック回路の制御電圧レベルの信号である。そして、出力回路94は、この波形選択回路93から入力された波形信号を、電源回路60により出力された出力電圧に応じた電圧レベルまで増幅して駆動パルス信号(吐出信号)を生成し、圧電素子95の個別電極89へ駆動パルス信号を出力する。
次に、上記圧電アクチュエータ86を駆動するための、制御装置100のASIC105の構成について説明する。図2に示すように、ASIC105は、吐出データ生成回路151、波形データ記憶回路152、選択データ生成回路153、及び信号出力回路154を有する。
吐出データ生成回路151は、RAM103に記憶された印刷データから、吐出周期それぞれにおいて、各ノズル46から吐出させるインクの吐出量を示す吐出データを生成する。この吐出データは、図6(b)に示すように、用紙S上において左右方向及び前後方向に格子状に区画された複数のドット形成領域に対応する複数のドット要素を有している。各ドット要素には、4階調で表された濃度値がインク色毎に設定されている。図6(b)に示す吐出データでは、各ドット要素に対して設定される4種類の濃度値それぞれを、「00」、「01」、「10」、「11」として示している。各ドット要素に設定可能な4種類の濃度値それぞれは、非吐出信号、小玉吐出信号、中玉吐出信号、大玉吐出信号の何れかに対応している。具体的には、「00」の濃度値は非吐出信号、「01」の濃度値は小玉吐出信号、「10」の濃度値は中玉吐出信号、「11」の濃度値は大玉吐出信号にそれぞれ対応している。
波形データ記憶回路152には、ドライバIC90が出力する22種類の信号(図5参照)のパルス波形に関するデータ(パルス波形データ)を記憶する回路である。選択データ生成回路153は、吐出データ生成回路151により生成された吐出データ、並びに、不揮発性メモリ104に記憶されたブラック用信号設定情報122及びカラー用信号設定情報123に基づいて、圧電素子95のそれぞれに関して、各吐出周期において、22種類のパルス波形データから1つを選択するための波形選択データを生成する。
なお、ブラック用信号設定情報122は、図6(c)に示すように、印刷処理中において、圧電素子95Kに出力可能な4種類の信号に関する設定情報である。詳細には、ブラック用信号設定情報122は、吐出データの各ドット要素に設定されるブラックのインク色についての4種類の濃度値それぞれに関して、圧電素子95Kに出力させる信号の種類の設定情報である。例えば、図6(c)に示す例では、吐出データの或るドット要素に設定された濃度値が「00」の場合には非吐出信号が、濃度値が「01」の場合には小玉吐出信号5が、濃度値が「10」の場合には中玉吐出信号5が、濃度値が「11」の場合には大玉吐出信号5が圧電素子95Kに出力されることになる。カラー用信号設定情報123は、図6(d)に示すように、印刷処理中において、圧電素子95Y,95M,95Cに出力可能な4種類の信号に関する設定情報である。
本実施形態では、ブラック用信号設定情報122及びカラー用信号設定情報123それぞれには、通常、印刷処理中において圧電素子95に出力可能な3種類の吐出信号として、小玉吐出信号4、中玉吐出信号4、大玉吐出信号4(以下、これらを総称して通常用吐出信号4と称す)が設定されている。詳細は、後述するが、ノズル46K内のインクの粘度が上昇した場合に、ブラック用信号設定情報122やカラー用信号設定情報123において設定された3種類の吐出信号が、通常用吐出信号4から変更される。その結果として、ドライバIC90が圧電素子95に出力される吐出信号が変更されて、ノズル46内のインクに付与するエネルギーが変わる。
信号出力回路154は、22種類のパルス波形データと、選択データ生成回路153で生成された波形選択データとを、ドライバIC90に出力する。これを受けて、ドライバIC90は複数の圧電素子95のそれぞれについて、電源回路60により出力された出力電圧に応じた電圧レベルの駆動パルス信号を生成し、複数の圧電素子95にそれぞれ出力する。
ところで、ブラックの顔料インクを貯溜するインクカートリッジ42Kが、長時間静置状態にされると、ヘッド5においてブラックインクの吐出不良が生じる場合がある。以下、詳細に説明する。
顔料インクでは、顔料が溶媒中に分散された状態で存在しており、長時間静置状態にあると比重の大きい顔料がインクカートリッジ42の底部に沈降する。このため、ブラックの顔料インクを貯溜するインクカートリッジ42Kにおいては、長時間静置状態にあると、インクカートリッジ42Kの底部に顔料が多量に沈降する。その結果として、インクカートリッジ42の底部において顔料インクの顔料濃度が局所的に高くなり、その粘度も局所的に高くなる。この増粘した顔料インクがノズル46K内に供給されると、ノズル46K内のインクの粘度が所定の閾値(以下、第1閾値)以上に上昇する場合がある。この場合、ブラックインクに対応する圧電素子95Kに、通常電圧に応じた電圧レベルの上記通常用吐出信号4を出力したとしても、ノズル46Kから所望量のブラックインクが吐出されない、あるいは、ブラックインクがノズル46Kから全く吐出されない問題が生じる。
これに対して、染料インクは、顔料インクとは異なり、その成分が沈降することは殆どない。従って、これら染料インクを貯溜するインクカートリッジ42Y,42M,42Cが長時間静置状態に置かれたとしても、これらインクカートリッジ42Y,42M,42Cの底部において、粘度が局所的に高くなることはない。このため、ノズル46Y,46M,46C内のインクの粘度も上記第1閾値以上となることは殆どない。
以上のように、ブラックの顔料インクを貯溜するインクカートリッジ42Kが、長時間静置状態にされると、ヘッド5においてブラックインクの吐出不良が生じる場合がある。従って、ノズル46Kからブラックインクを吐出させるためには、ノズル46K内のインクの粘度の上昇に応じて、圧電素子95Kがノズル46K内のインクに付与するエネルギーを大きくする必要がある。
ここで、圧電素子95Kがノズル46K内のインクに付与するエネルギーを大きくする方法として、2種類ある。即ち、電源回路60に出力させる出力電圧を上昇させる方法と、圧電素子95Kに出力する吐出信号を変更する方法である。以下、それぞれの方法における作用について説明する。
まず、電源回路60に出力させる出力電圧を上昇させる方法について説明する。ノズル46K内のインクの粘度上昇に応じて、電源回路60に出力させる電圧を通常電圧から高電圧に上昇させると、圧電素子95Kに出力される吐出信号の電圧レベルが上昇する。その結果として、圧電素子95Kがノズル46K内のインクに付与するエネルギーが大きくなり、ノズル46Kからブラックインクを吐出させることができる。
しかしながら、電源回路60に出力させる出力電圧を上昇させると、圧電素子95Y,95M,95Cに出力される吐出信号の電圧レベルも上昇することになる。先に触れたように、染料インクを吐出する、ノズル46Y,46M,46C内のインクの粘度は、第1閾値以上には殆どならない。このため、電源回路60に出力させる出力電圧を上昇させたときに、通常電圧のときと同じ通常用吐出信号4を圧電素子95Y,95M,95Cに出力すると、所望の液滴量よりも大きいインク滴が吐出される問題が生じる。また、電源回路60に出力させる出力電圧を上昇させると、消費電力が増大する問題も生じる。
以上のように、電源回路60に出力させる出力電圧を上昇させる方法の場合、ブラックインクが不吐出となることを抑制することができる一方で、カラーインクが所望量よりも多く吐出される問題や、消費電力が増大する問題が生じる。
次に、圧電素子95Kに出力する吐出信号を変更する方法について説明する。圧電素子95Kに出力する吐出信号を、ノズル46K内のインクの粘度上昇に応じて、パルスPの数が多い吐出信号やパルスPのパルス幅が長い吐出信号等に変更すると、圧電素子95Kがノズル46K内のインクに付与するエネルギーが大きくすることができる。例えば、大玉吐出信号の場合には、圧電素子95Kに出力する吐出信号を、通常用の大玉吐出信号4から、大玉吐出信号5〜7の何れかに変更すると、圧電素子95Kがノズル46K内のインクに付与するエネルギーが大きくなる。その結果として、ノズル46Kからブラックインクを吐出させることができる。この方法の場合、電源回路60に出力させる出力電圧を上昇させる必要がないため、カラーインクが所望量よりも多く吐出される問題や、消費電力が増大する問題は生じない。
しかしながら、吐出信号の波形長さは、1吐出周期の長さ以内に収める必要があるため、1つの吐出信号に含めることが可能なパルスPの数や、パルスPのパルス幅等には制限がある。このため、吐出信号の変更のみによって、ノズル46K内のインクに付与するエネルギーを上昇させることが可能な上昇量には、上限がある。このため、圧電素子95Kに出力する吐出信号を変更する方法の場合、ノズル46K内のインクの粘度が第1閾値よりも高い所定の閾値(以下、第2閾値)以上に上昇すると、ブラックインクが不吐出となる問題が生じ得る。
そこで、本実施形態では、制御装置100は、印刷指示を受信した後、印刷処理を実行する前に、ノズル46K内のインクの粘度を推定するノズル内粘度推定処理を実行する。そして、ノズル内粘度推定処理により推定したノズル46K内のインクの粘度が第1閾値以上、且つ、第2閾値未満の場合には、電源回路60に出力させる出力電圧を通常電圧に維持した状態で、圧電素子95Kに出力する吐出信号を変更する。即ち、通常用吐出信号4よりも、同一の電圧レベルのときにノズル46内のインクに付与するエネルギーが大きい吐出信号(小玉吐出信号5〜7、中玉吐出信号5〜7、大玉吐出信号5〜7:以下、これらの吐出信号を高粘度用吐出信号5〜7と総称する)を圧電素子95Kに出力する吐出信号として設定して、ブラック用信号設定情報122に記憶する。より詳細には、推定したノズル46K内のインクの粘度が高いほど、同一の電圧レベルのときにノズル46内のインクに付与するエネルギーが大きい高粘度用吐出信号を設定する。その結果として、ブラックインクが不吐出となることをより確実に抑制することができる。
一方で、推定したノズル46K内のインクの粘度が第2閾値以上の場合には、電源回路60に出力させる出力電圧を通常電圧よりも高い高電圧を電源回路60に出力させる。具体的には、推定したノズル46K内のインクの粘度が高いほど、高い電圧値に設定する。なお、本実施形態では、電源回路60に高電圧を出力させるときに、この高電圧に応じた電圧レベルの通常用吐出信号4が圧電素子95Kに出力された際にノズル46K内のインクに付与するエネルギーが、上記通常電圧に応じた電圧レベルの高粘度用吐出信号5〜7が圧電素子95Kに出力された際にノズル46K内のインクに付与するエネルギーよりも大きくなるように、当該高電圧の電圧値が設定されている。
また、電源回路60に高電圧を出力させる際には、カラーインクに対応する圧電素子95Y,95M,95Cに出力する吐出信号を変更する。即ち、通常用吐出信号4よりも、同一の電圧レベルのときにノズル46内のインクに付与するエネルギーが小さい吐出信号(小玉吐出信号1〜3、中玉吐出信号1〜3、大玉吐出信号1〜3:以下、これらの吐出信号を高電圧用吐出信号1〜3と総称する)を圧電素子95Y,95M,95Cに出力する吐出信号として設定して、カラー用信号設定情報123に記憶する。より詳細には、電源回路60に出力させる電圧値が高いほど、同一の電圧レベルのときにノズル46内のインクに付与するエネルギーが小さい高電圧用吐出信号に変更する。これにより、ノズル46Y,46M,46Cから余分なインクが吐出されることを抑制することができる。
また、本実施形態では、制御装置100は、推定したノズル46K内のインクの粘度が第2閾値以上であり、且つ第2閾値よりも高い第3閾値未満の場合には、圧電素子95Kに出力する吐出信号を通常用吐出信号4に設定して、ブラック用信号設定情報122に記憶する。
また、推定したノズル46K内のインクの粘度が第3閾値以上である場合には、圧電素子95Kに出力する吐出信号を高粘度用吐出信号5〜7の何れかに設定して、ブラック用信号設定情報122に記憶する。このとき、推定したノズル46K内のインクの粘度が高いほど、同一の電圧レベルのときにノズル46内のインクに付与するエネルギーが大きい高粘度用吐出信号に設定する。
不揮発性メモリ104には、上記第1閾値〜第3閾値に関する閾値情報125が記憶されている。制御装置100は、ノズル粘度推定処理により推定したノズル46K内のインクの粘度と、閾値情報125に記憶された上記第1閾値〜第3閾値とに基づいて、印刷処理中において圧電素子95に出力する吐出信号の設定、及び電源回路60に出力させる出力電圧を設定する。
なお、上述したように、大玉吐出信号7については、低速印刷モードで印刷処理を実行するときのみ、圧電素子95に供給することが可能である。ここで、通常印刷モードでは、ノズル46K内のインクの粘度が高く、大玉吐出信号6を圧電素子95Kに出力したとしてもノズル46Kから所望量のブラックインクを吐出させることができない場合には、電源回路60に出力させる出力電圧を上昇させる必要がある。これに対して、低速印刷モードでは、このような場合でも、大玉吐出信号7を圧電素子95Kに出力することで、電源回路60に出力させる出力電圧を上昇させずに、ノズル46Kから所望量のブラックインクを吐出させることができる場合がある。そこで、本実施形態では、制御装置100は、低速印刷モードでは、閾値情報125に記憶されている上記第2閾値及び上記第3閾値を、通常印刷モードと比べて高くなるように調整する。その結果として、消費電力を抑えることができる。
また、上述したように、本実施形態では、印刷モードとして、ブラックインクを使用せずに、カラーインクのみを使用して印刷を行うフォト印刷モードを有している。このフォト印刷モードでは、用紙Sへの画像印刷のためにはブラックインクを吐出させる必要がないため、ノズル46K内のインクの粘度が第1閾値以上の場合でも、電源回路60に高電圧を出力させる必要がない。そこで、本実施形態では、フォト印刷モードで印刷を行う際には、ノズル46K内のインクの粘度が第1閾値以上の場合でも、電源回路60に出力させる出力電圧を通常電圧に維持する。これにより、消費電力を抑えることができる。
ところで、インク流路30K内においても、サブタンク14K等で顔料の沈降が生じ得るが、インクカートリッジ42Kと比べて、その沈降量は極めて少ない。従って、顔料の沈降による粘度上昇は主にインクカートリッジ42K内で生じる。そこで、本実施形態では、制御装置100は、ノズル内粘度推定処理において、推定精度を高めるために、インクカートリッジ42Kにおける貯溜室44の下部のインクの粘度、即ち、貯溜室44内の排出管45との接続部分(以下、排出管接続部分)のインクの粘度を推定するカートリッジ内粘度推定処理を、まず、実行する。そして、カートリッジ内粘度推定処理により推定した排出管接続部分のインクの粘度を用いて、ノズル46K内のインクの粘度を推定する。以下、カートリッジ内粘度推定処理について詳細に説明する。
インクカートリッジ42K内に沈降する顔料の沈降量は、当該インクカートリッジ42Kが静置状態に置かれていた期間が長いほど多くなる。また、インクカートリッジ42K内に沈降する顔料の沈降量は、インクカートリッジ42K内からインク流路30内へのインクの供給頻度が少ないほど多くなる。加えて、顔料インクは、インクカートリッジ42内の温度が高いほど、粘度が低くなるため、顔料の沈降が促進される。
そこで、不揮発性メモリ104のカートリッジ情報121Kは、図2に示すように、総供給量カウント情報131、経過時間情報132、及び温度履歴情報133を有している。
総供給量カウント情報131は、装着検知センサ71によりインクカートリッジ42Kがカートリッジ装着部41Kに装着されたことを検知した装着検知時点から、インクカートリッジ42K内からインク流路30へ供給されたインクの供給量を示すカウント情報である。制御装置100は、印刷処理、フラッシング、吸引パージ等、インクカートリッジ42K内からインク流路30へインクが供給される毎に、その供給量を算出して、総供給量カウント情報131のカウント値に加算する。なお、印刷処理やフラッシングの際に供給されたインクの供給量は、各種類の吐出信号が圧電素子95Kに対して出力された回数を取得することで算出することができる。また、吸引パージの際に供給されたインクの供給量については、吸引ポンプ51の回転時間や回転数により算出することができる。
経過時間情報132は、上記装着検知時点からの経過時間を示す情報であり、装着検知時点以降において、制御装置100の内部時計により逐次更新される。温度履歴情報133は、上記装着検知時点から温度センサ160により計測された温度の履歴情報である。制御装置100は、内部時計により一定時間を計時する毎に、そのときに温度センサ160により計測されていた温度を温度履歴情報133に追加する。
制御装置100は、カートリッジ内粘度推定処理では、これら総供給量カウント情報131、経過時間情報132、及び温度履歴情報133に基づいて、顔料の沈降量を推定して、インクカートリッジ42K内の排出管接続部分のインクの粘度を推定する。これにより、インクカートリッジ42K内の排出管接続部分のインクの粘度を精度よく推定することができる。従って、このカートリッジ内粘度推定処理の推定結果を用いることで、ノズル46K内のインクの粘度を精度よく推定することができる。
(インクジェットプリンタの動作)
次に、プリンタ1の処理動作の一例について、図7を参照しつつ説明する。
制御装置100は、外部装置31から印刷指示を受信する受信処理を実行する(S1:YES)と、後で図8を参照して説明するノズル内粘度推定処理を実行する(S2)。このノズル内粘度推定処理により、ノズル46K内のインクの粘度が推定される。この後、制御装置100は、後で図9を参照して説明する信号・電圧設定処理を実行する(S3)。この信号・電圧設定処理により、印刷処理中に圧電素子95Kに出力する4種類の信号がブラック用信号設定情報122として、印刷処理中に圧電素子95Y,95M,95Cに出力する4種類の信号がカラー用信号設定情報123として不揮発性メモリ104に記憶される。また、印刷処理中に電源回路60に出力させる出力電圧の電圧値についての電圧設定情報124が不揮発性メモリ104に記憶される。
次に、制御装置100は、電圧設定情報124に設定された電圧値の出力電圧を電源回路60に出力させた上で、キャリッジ駆動モータ20を駆動してキャリッジ3を移動させつつ、印刷データ、ブラック用信号設定情報122及びカラー用信号設定情報123に基づいて、各圧電素子95に吐出信号を出力して、ノズル46からインクを吐出させる印刷処理を開始する(S4)。この後、制御装置100は、ノズル内粘度推定処理の前回実行時点から所定時間が経過したか否かを判断する(S5)。所定時間が経過していないと判断した場合(S5:NO)には、S11の処理に移る。一方で、所定時間が経過したと判断した場合(S5:YES)には、ノズル46K内のインクの粘度が変化している可能性があるとして、制御装置100は、S2の処理と同様なノズル内粘度推定処理を実行する(S6)。そして、制御装置100は、S6の今回のノズル内粘度推定処理により推定した粘度の推定結果と、前回のノズル内粘度推定処理により推定した粘度の推定結果から、ノズル46K内のインクの粘度が変化したか否かを判断する(S7)。粘度が変化していないと判断した場合(S7:NO)には、S11の処理に移る。一方で、粘度が変化したと判断した場合(S7:YES)には、制御装置100は、印刷処理を中断して(S8)、S3の処理と同様な信号・電圧設定処理を再度実行する(S9)。これにより、現在のノズル46K内のインクの粘度に応じて、ブラック用信号設定情報122、カラー用信号設定情報123、電圧設定情報124がより適切な情報に更新される。この後、制御装置100は、印刷処理を再開して(S10)、S11の処理に移る
S11の処理では、制御装置100は、印刷処理が終了したか否かを判断する。印刷処理が終了していないと判断した場合(S11:NO)には、S5の処理に戻る。一方で、印刷処理が終了したと判断した場合(S11:YES)には、制御装置100は、印刷処理により吐出されたインクの総吐出量をインク色毎に算出する(S12)。そして、算出した各インク吐出量を、各カートリッジ情報121の総供給量カウント情報131のカウント値に加算して(S13)、S1の処理に戻る。
以上のS3の信号・電圧設定処理において、不揮発性メモリ104に電圧設定情報124を記憶する処理、及び、S4の印刷処理において、電圧設定情報124に設定された電圧値の出力電圧を電源回路60に出力させる処理が、「電圧生成処理」に相当する。また、S3の信号・電圧設定処理において、不揮発性メモリ104にブラック用信号設定情報122を記憶する処理、及び、S4の印刷処理において、ブラック用信号設定情報122及び印刷データに従って圧電素子95Kに吐出信号を出力する処理が「第1吐出処理」に相当する。S3の信号・電圧設定処理において、不揮発性メモリ104にカラー用信号設定情報123を記憶する処理、及び、S4の印刷処理において、カラー用信号設定情報123及び印刷データに従って圧電素子95Y,95M,95Cに吐出信号を出力する処理が「第2吐出処理」に相当する。
次に、図8を参照して、ノズル内粘度推定処理について説明する。
まず、制御装置100は、総供給量カウント情報131、経過時間情報132及び温度履歴情報133を参照して、インクカートリッジ42K内の排出管接続部分の現在のインクの粘度を推定するカートリッジ内粘度推定処理を実行する(A1)。この後、制御装置100は、推定した現在のインクの粘度と、総供給量カウント情報131の現在のカウント値とを関連付けて、不揮発性メモリ104のカートリッジ情報121Kの粘度履歴情報134に新たに記憶して、粘度履歴情報134を更新する(A2)。尚、粘度履歴情報134は、インクカートリッジ42K内の排出管接続部分のインクの粘度と、総供給量カウント情報131のカウント値とを関連付けた、排出管接続部分のインクの粘度の履歴情報である。
次に、制御装置100は、粘度履歴情報134を参照して、インクカートリッジ42K内の排出管接続部分のインクの粘度が過去に閾値以上であったことがあるか否かを判断する(A3)。インクの粘度が過去に閾値以上であったことがないと判断した場合(A3:NO)には、制御装置100は、A2の処理で推定した現在のインクの粘度が閾値以上か否かを判断する(A4)。現在のインクの粘度が閾値以上であると判断した場合(A4:YES)には、制御装置100は、インクカートリッジ42K内の排出管接続部分のインクの粘度が閾値未満から閾値以上に遷移したとして、総供給量カウント情報131の現在のカウント値を増粘カウント値としてカートリッジ情報121Kのカウント情報135に記憶する(A5)。A5の処理の後、あるいは、A4の処理において、現在のインクの粘度が閾値未満と判断した場合(A4:NO)には、制御装置100は、ノズル46K内のインクの粘度は閾値未満と推定して(A6)、本処理を終了する。
A3の処理で、インクの粘度が過去に閾値以上であったことがあると判断した場合(A3:YES)には、制御装置100は、A2で推定した現在のインクの粘度が閾値以上か否かを判断する(A7)。現在のインクの粘度が閾値以上と判断した場合(A7:YES)には、制御装置100は、インクカートリッジ42K内の排出管接続部分のインクの粘度が閾値未満から閾値以上に遷移した(増粘した)以降において、インクカートリッジ42K内からインク流路30Kに供給されたインクの供給量を算出する(A8)。具体的には、総供給量カウント情報131の現在のカウント値から、カウント情報135の増粘カウント値を減算した量を、増粘後の供給量とする。この後、制御装置100は、増粘後の供給量が、インク流路30Kの流路容量未満か否かを判断する(A9)。増粘後の供給量が、インク流路30Kの流路容量未満と判断した場合(A9:YES)には、制御装置100は、増粘したインクがノズル46内には未だ到達していないとして、ノズル46K内のインクの粘度は閾値未満と推定し(A6)、本処理を終了する。
一方で、A9の処理で、増粘後の供給量が、インク流路30Kの流路容量以上と判断した場合(A9:NO)には、制御装置100は、増粘したインクがノズル46内に到達しているとして、ノズル46K内のインクの粘度は閾値以上と推定し、且つその粘度を推定する(A10)。具体的には、粘度履歴情報134において、総供給量カウント情報131の現在のカウント値から、インク流路30Kの流路容量を減算した値に最も近いカウント値に関連付けられた粘度を、ノズル46K内のインクの粘度と推定する。A10の処理が終了すると、本処理を終了する。
A7の処理で、A2で推定したインクカートリッジ42Kの排出管接続部分の現在のインクの粘度が閾値未満と判断した場合(A7:NO)には、粘度履歴情報134を参照して、前回のカートリッジ内粘度推定処理により推定したインクカートリッジ42Kの排出管接続部分のインクの粘度が閾値以上か否かを判断する(A11)。前回のインクの粘度が閾値以上と判断した場合(A11:YES)には、制御装置100は、インクカートリッジ42Kの排出管接続部分のインクの粘度が閾値以上から閾値未満に遷移したとして、総供給量カウント情報131の現在のカウント値を増粘解消後カウント値としてカウント情報135に記憶する(A12)。この後、制御装置100は、A10の処理に移り、ノズル46K内のインクの粘度は閾値以上と推定し、且つ、その粘度を推定して、本処理を終了する。
A11の処理で、前回のインクの粘度が閾値未満と判断した場合(A11:NO)には、制御装置100は、インクカートリッジ42K内の排出管接続部分のインクの粘度が閾値以上から閾値未満に遷移した(増粘解消)以降において、インクカートリッジ42K内からインク流路30Kに供給されたインクの供給量を算出する(A13)。具体的には、総供給量カウント情報131の現在のカウント値から、カウント情報135の増粘解消後カウント値を減算した量を、増粘解消後の供給量とする。この後、制御装置100は、増粘解消後の供給量が、インク流路30Kの流路容量未満か否かを判断する(A14)。増粘解消後の供給量が、インク流路30Kの流路容量未満と判断した場合(A14:YES)には、制御装置100は、増粘したインクがノズル46K内に未だ留まっているとし、A10の処理に移り、ノズル46K内のインクの粘度は閾値以上と推定し、且つ、その粘度を推定して、本処理を終了する。一方で、増粘解消後の供給量が、インク流路30Kの流路容量以上と判断した場合(A14:NO)には、制御装置100は、インク流路30K内の増粘したインクはノズル46Kから全て吐出されたとして、ノズル46K内のインクの粘度は閾値未満と推定し(A15)、本処理を終了する。
次に、図9を参照して、信号・電圧設定処理について説明する。
制御装置100は、まず、ノズル内粘度推定処理により推定したノズル46K内のインクの粘度が、閾値情報125が示す第1閾値以上か否かを判断する(B1)。第1閾値以上と判断した場合(B1:YES)には、制御装置100は、受信した印刷指示がフォト印刷モードでの印刷処理の実行を指示しているか否かを判断する(B2)。フォト印刷モードでの印刷処理の実行を指示していると判断した場合(B2:YES)には、制御装置100は、電源回路60に出力させる出力電圧を通常電圧に設定し、その設定した電圧値を電圧設定情報124として不揮発性メモリ104に記憶する(B3)。そして、制御装置100は、印刷処理中に圧電素子95Y,95M,95Cに出力する吐出信号を通常用吐出信号4に設定し、その設定をカラー用信号設定情報123として不揮発性メモリ104に記憶して(B4)、本処理を終了する。
B2の処理において、フォト印刷モードでの印刷処理の実行を指示していないと判断した場合(B2:NO)には、制御装置100は、受信した印刷指示が低速モードでの印刷処理の実行を指示しているか否かを判断する(B5)。低速モードでの印刷処理の実行を指示していると判断した場合(B5:YES)には、制御装置100は、閾値情報125に記憶されている第2閾値及び第3閾値が、通常印刷モードのときと比べて大きくなるように調整する調整処理を実行する(B6)。
B5の処理で低速モードでの印刷処理の実行を指示していないと判断した場合(B5:NO)、あるいはB6の処理の後において、制御装置100は、ノズル内粘度推定処理により推定したノズル46K内のインクの粘度が、閾値情報125が示す第2閾値以上か否かを判断する(B7)。第2閾値未満と判断した場合(B7:NO)には、制御装置100は、上記B3及びB4と同様なB8及びB9の処理を実行する。そして、制御装置100は、印刷処理中に圧電素子95Kに出力させる吐出信号を高粘度用吐出信号5〜7の何れかに設定し、その設定をブラック用信号設定情報122として不揮発性メモリ104に記憶する(B10)。なお、印刷モードが低速モードの場合には、大玉吐出信号については、大玉吐出信号5又は6の何れかに設定する。このB10の処理が終了すると、本処理を終了する。
B7の処理で、推定したノズル46K内のインクの粘度が第2閾値以上と判断した場合(B7:YES)には、電源回路60に出力させる出力電圧を高電圧に設定し、その設定した電圧値を電圧設定情報124として不揮発性メモリ104に記憶する(B11)。尚、今回の信号・電圧設定処理が、印刷処理の開始前に実行される処理(図7のS3の処理)である場合には、B11の処理においては、推定したノズル46K内のインクの粘度が高いほど、高い電圧値に設定する。具体的には、圧電素子95Kに通常用吐出信号4が出力された際にノズル46K内に付与するエネルギーが、電源回路60に通常電圧を出力させるときに、圧電素子95Kに高粘度用吐出信号5〜7が出力された際にノズル46K内に付与するエネルギーよりも大きくなるように電圧値が設定される。一方で、今回の信号・電圧設定処理が、印刷処理の開始後に実行される処理(図7のS9の処理)である場合には、B11の処理において、電源回路60に出力させる出力電圧が極力変わらないように、電圧値を設定する。即ち、圧電素子95Kに出力する吐出信号を変更することで、電源回路60に出力させる出力電圧を変更せずにブラックインクが不吐出となることを抑制できるのであれば、電圧設定情報124の更新を行わない。これにより、印刷処理の開始後において、電源回路60に出力させる出力電圧を不要に変更することを防止できる。
次に、制御装置100は、印刷処理中に圧電素子95Y,95M,95Cに出力させる吐出信号を高電圧用吐出信号1〜3の何れかに設定し、その設定をカラー用信号設定情報123として不揮発性メモリ104に記憶する(B12)。次に、制御装置100は、ノズル内粘度推定処理により推定したノズル46K内のインクの粘度が、閾値情報125が示す第3閾値以上か否かを判断する(B13)。インクの粘度が第3閾値未満と判断した場合(B13:NO)には、制御装置100は、印刷処理中に圧電素子95Kに出力させる吐出信号を通常用吐出信号4に設定し、その設定をブラック用信号設定情報122として不揮発性メモリ104に記憶して(B14)、本処理を終了する。一方で、インクの粘度が第3閾値以上と判断した場合(B13:YES)には、制御装置100は、印刷処理中に圧電素子95Kに出力させる吐出信号を高粘度用吐出信号5〜7の何れかに設定し、その設定をブラック用信号設定情報122として不揮発性メモリ104に記憶する(B15)。なお、印刷モードが低速モードの場合には、大玉吐出信号については、大玉吐出信号5又は6の何れかに設定する。このB15の処理が終了すると、本処理を終了する。
B1の処理で、ノズル内粘度推定処理により推定したノズル46K内のインクの粘度が第1閾値未満と判断した場合(B1:NO)には、制御装置100は、上記B3及びB4と同様なB16及びB17の処理を実行する。そして、制御装置100は、上記B14の処理と同様なB18の処理を実行して、本処理を終了する。
以上、本実施形態によると、ノズル46K内のブラックインクの粘度が第1閾値以上且つ第2閾値未満の場合には、通常用吐出信号4と比べて同一電圧レベルで圧電素子95Kに印加された際にインクに付与するエネルギーが大きくなる高粘度用吐出信号5〜7の何れかを出力することで、ブラックインクが不吐出となることを抑制することができる。また、ノズル46K内のブラックインクの粘度が第2閾値未満の場合には、電源回路60に出力させる出力電圧は通常電圧に維持される。このため、ノズル46K内のブラックインクの粘度が第1閾値以上に上昇したときに、出力する吐出信号を変えずに電圧を上昇させる構成と比較して、消費電力が増加することを抑制することができ、且つ、印刷処理中に余分にカラーインクが吐出されることを抑制することができる。また、ノズル46K内のインクの粘度が第2閾値以上の場合には、電源回路60に出力させる出力電圧を高電圧とすることで、ブラックインクが不吐出となることを抑制することができる。
以上説明した実施形態において、ノズル46Kが「第1ノズル」に相当し、ノズル46Y,46M,46Cが「第2ノズル」に相当する。インクカートリッジ42Kが「第1インクタンク」に相当し、インクカートリッジ42Y,42M,42Cが「第2インクタンク」に相当する。ブラックの顔料インクが「第1インク」に相当し、カラーの染料インクが「第2インク」に相当する。圧電素子95Kが「第1駆動素子」に相当し、圧電素子95Y,95M,95Cが「第2駆動素子」に相当する。電源回路60が「電圧生成回路」に相当する。制御装置100及びドライバIC90を合わせたものが「制御部」に相当する。印刷指示が「吐出指示」に相当する。通常印刷モードが「第1吐出モード」に相当し、低速印刷モードが「第2吐出モード」に相当する。圧電素子95Kに出力する通常用吐出信号4が「第1吐出信号」に相当し、圧電素子95Kに出力する高粘度用吐出信号5〜7が「第2吐出信号」に相当する。圧電素子95Y,95M,95Cに出力する通常用吐出信号4が「第3吐出信号」に相当し、圧電素子95Y,95M,95Cに出力する高電圧用吐出信号1〜3が「第4吐出信号」に相当する。
次に、前記実施形態に種々の変更を加えた変更形態について説明する。上述の実施形態では、イエロー、シアン、マゼンタのカラーインクは染料インクであったが、顔料インクであってもよい。ここで、ブラックの顔料インクは、イエロー、シアン、マゼンタのカラーの顔料インクと比べて、顔料が沈降しやすい顔料インクである。これは、ブラックの顔料インクの方が、カラーの顔料インクよりも、顔料粒子の粒子径が大きくて重く、且つその顔料粒子の含有量が多いことに主に起因する。従って、各インクカートリッジ42が、長時間静置状態にあった場合には、インクカートリッジ42Kの方が、インクカートリッジ42Y,42M,42Cと比べて底部に顔料が多量に沈降して、その粘度も高くなる。このため、ノズル46K内のインクは、ノズル46Y,46M,46C内のインクと比べて、その粘度が上昇しやすい。従って、この変更形態についても、上述の実施形態と同じく、ノズル46K内のインクの粘度を推定して、その推定結果に応じて電源回路60に出力させる出力電圧や、圧電素子95Kに出力する吐出信号を設定することで、ブラックインクが不吐出となることを抑制することができる。また、電源回路60に高電圧を出力させる場合には、印刷処理の際に、高電圧用吐出信号1〜3を圧電素子95Y,95M,95Cに出力することで、カラーインクが余分に排出されることを抑制することができる。
尚、このとき、カラーのインク色毎に、圧電素子95Y,95M,95Cに出力する高電圧用吐出信号を変更してもよい。例えば、カラーの顔料インクの中でも、マゼンタの顔料インクの方が、イエロー、シアンの顔料インクと比べて、顔料が沈降しやすい顔料インクである。従って、圧電素子95Y,95Cに出力する吐出信号を、圧電素子95Mに出力する高電圧用吐出信号と比べて、同一の電圧レベルのときにノズル46内のインクに付与するエネルギーが小さい高電圧用吐出信号に設定してもよい。
また、上述の実施形態では、ノズル内粘度推定処理は、インクカートリッジ42内での顔料の沈降を考慮した推定処理であったが、インクの水分蒸発を考慮した推定処理であってもよい。具体的には、インクカートリッジ42内にインクが滞在する間、及び、インクカートリッジ42内のインクがノズル46に移動する過程において、インクの水分は時間の経過とともに蒸発する。このときの、単位時間当たりの蒸発量はインクの種類によって互いに異なる。例えば、染料インクは、その種類によって、水分含有量が異なるため、単位時間当たりの蒸発量が互いに異なる。その結果として、単位時間当たりの蒸発量が大きいインク色に係るノズル46内のインクの粘度が、単位時間当たりの蒸発量が小さいインク色に係るノズル46内のインクの粘度よりも、水分の蒸発に起因して大きく上昇することがある。従って、例えば、ブラック、イエロー、シアン、マゼンタの全色が染料インクの場合、制御装置100は、単位時間当たりの蒸発量が大きいインク色に係るノズル46内のインクの粘度を総供給量カウント情報131や経過時間情報132に基づいて推定してもよい。この場合、単位時間当たりの蒸発量が大きいインク色に係るノズル46内のインクの粘度が第1閾値以上になった場合に、当該インク色に対応する圧電素子95に出力する吐出信号を、高粘度用吐出信号5〜7の何れかに変更する。そして、ノズル46内のインクの粘度が第2閾値以上になった場合に、電源回路60に出力させる出力電圧を高電圧に上昇させる。一方で、電源回路60に高電圧を出力させる場合には、単位時間当たりの蒸発量が小さいインク色に対応する圧電素子95に対して、高電圧用吐出信号1〜3の何れかを出力することで、余分にインクが排出されることを抑制することができる。
次に、別の変更形態について説明する。上述の実施形態では、電源回路60に高電圧を出力させる場合において、この高電圧に応じた電圧レベルの通常用吐出信号4が圧電素子95Kに出力された際にノズル46K内のインクに付与するエネルギーが、通常電圧に応じた電圧レベルの高粘度用吐出信号7が出力された際にノズル46K内に付与するエネルギー(以下、通常電圧時最大エネルギーと称す)よりも大きくなるように、当該高電圧の電圧値が設定されていたが、これに限定されるものではない。
例えば、高電圧に応じた電圧レベルの高電圧用吐出信号1〜3が圧電素子95Kに出力された際にノズル46K内のインクに付与するエネルギーが、上記通常電圧時最大エネルギーよりも大きくなるように、高電圧の電圧値が設定されていてもよい。この場合、図9に示すB14の処理において、推定したノズル46K内のインクの粘度に応じて、印刷処理中に圧電素子95Kに出力させる吐出信号を通常用吐出信号4及び高電圧用吐出信号1〜3(「第5吐出信号」に相当)の何れかに設定し、その設定をブラック用信号設定情報122として不揮発性メモリ104に記憶してもよい。
また、高電圧に応じた電圧レベルの通常用吐出信号4が圧電素子95Kに出力された際にノズル46K内のインクに付与するエネルギーが、上記通常電圧時最大エネルギーよりも大きくなるように、高電圧の電圧値を設定する必要はない。例えば、高粘度用吐出信号5が、高電圧に応じた電圧レベルで圧電素子95Kに出力された際にノズル46K内のインクに付与するエネルギーが、上記通常電圧時最大エネルギーよりも大きくなるように設定されていてもよい。以下、本変更形態に係る信号・電圧設定処理について、図10を参照して説明する。
制御装置100は、上記のB1〜B13の処理と同様なC1〜C13の処理を実行する。そして、C13の処理において、推定したノズル46K内のインクの粘度が第3閾値未満と判断した場合(C13:NO)には、制御装置100は、印刷処理中に圧電素子95Kに出力させる吐出信号を、小玉吐出信号、中玉吐出信号、大玉吐出信号それぞれについて、ノズル46K内のインクに付与するエネルギーが最も大きい高粘度用吐出信号(以下、最大吐出信号)以外の高粘度用吐出信号の何れかに設定し、その設定をブラック用信号設定情報122として不揮発性メモリ104に記憶する(C14)。より、詳細には。高粘度用吐出信号7以外の高粘度用吐出信号5又は6の何れかに設定する。なお、印刷モードが低速モードの場合には、大玉吐出信号については、大玉吐出信号6が最大吐出信号となるため、大玉吐出信号5を設定する。このC14の処理が終了すると、本処理を終了する。
また、C13の処理において、インクの粘度が第3閾値以上と判断した場合(C13:YES)には、印刷処理中に圧電素子95Kに出力させる吐出信号を最大吐出信号に設定し、その設定をブラック用信号設定情報122として不揮発性メモリ104に記憶する(C15)。このC15の処理が終了すると、本処理を終了する。また、C1の処理で、ノズル内粘度推定処理により推定したノズル46K内のインクの粘度が第1閾値未満と判断した場合(C1:NO)には、制御装置100は、上記B16〜B18の処理と同様なC16〜C18の処理を実行して、本処理を終了する。
以上、本変更形態では、上述の実施形態と比べて、電源回路60に高電圧を出力させる際の電圧値を低くすることができるため、消費電力をより抑えることができる。
また、高電圧の電圧値が、最大吐出信号を高電圧に応じた電圧レベルで圧電素子95Kに出力されたときのみ、ノズル46K内のインクに付与するエネルギーが、上記通常電圧時最大エネルギーよりも大きくなるように設定されていてもよい。以下、本変更形態に係る信号・電圧設定処理について、図11を参照して説明する。
制御装置100は、上記のB1〜B12の処理と同様なD1〜D12の処理を実行する。そして、D12の処理の後、制御装置100は、印刷処理中に圧電素子95Kに出力させる吐出信号を最大吐出信号に設定し、その設定をブラック用信号設定情報122として不揮発性メモリ104に記憶する(D13)。このD13の処理が終了すると、本処理を終了する。また、D1の処理で、ノズル内粘度推定処理により推定したノズル46K内のインクの粘度が第1閾値未満と判断した場合(D1:NO)には、制御装置100は、上記B16〜B18の処理と同様なD14〜D16の処理を実行して、本処理を終了する。
以上、本変更形態においても、上述の実施形態と比べて、電源回路60に高電圧を出力させる際の電圧値を低くすることができるため、消費電力をより抑えることができる。
次に、別の変更形態について説明する。上述の実施形態では、プリンタ1は、圧電素子95K、95Y,95M,95Cに共通の電圧を印加する1つの電源回路60を備えていたが、本変更形態では、図12に示すように、4色のインク色に対応して、4つの電源回路60K、60Y,60M,60Cを備えている。また、ヘッド5は、4色のインク色に対応して4つのドライバIC90K、90Y,90M,90Cを有している。各電源回路60は、圧電素子95K、95Y,95M,95Cの何れかに対応しており、対応する圧電素子95に対して個別に電圧を印加する。従って、上述の実施形態と異なり、或る圧電素子95に対して印加する電圧を上昇させたとしても、他の圧電素子95に出力する吐出信号の電圧レベルが変わることはない。
以下、本変更形態について、詳細に説明する。本変更形態では、各カートリッジ情報121には、総供給量カウント情報131、経過時間情報132、温度履歴情報133、粘度履歴情報134、及びカウント情報135が記憶されている。そして、図7における、S2及びS6のノズル内粘度推定処理では、これら各カートリッジ情報121を参照して、ノズル46K,46Y,46M,46C内それぞれのインクの粘度を推定する。
また、印刷処理中に電源回路60に出力させる出力電圧の設定、及び印刷処理中に圧電素子95に出力させる吐出信号の設定は、インク色毎に行う。従って、不揮発性メモリ104には、カラー用信号設定情報123の代わりに、印刷処理中に圧電素子95Y,95M,95Cそれぞれに出力させる4種類の吐出信号を設定するための、イエロー用信号設定情報126、マゼンタ用信号設定情報127、シアン用信号設定情報128が記憶されている。また、不揮発性メモリ104には、電圧設定情報124の代わりに、印刷処理中に4つの電源回路60に出力させる出力電圧をそれぞれ設定するための、ブラック用電圧設定情報129、イエロー用電圧設定情報130、マゼンタ用電圧設定情報131、シアン用電圧設定情報132が記憶されている。
また、本変更形態では、S2の信号・電圧設定処理では、以下、図13を参照して説明する一連の処理をインク色ごとに行う。以下、本変更形態における信号・電圧設定処理について説明する。なお、以下では、説明の便宜上、シアンに係る信号・電圧設定処理を例にして説明する。
制御装置100は、まず、ノズル内粘度推定処理により推定したノズル46C内のインクの粘度が、閾値情報125が示す第1閾値以上か否かを判断する(E1)。第1閾値以上と判断した場合(E1:YES)には、制御装置100は、上記B5及びB6と同様なE2及びE3の処理を実行して、E4の処理に移る。
E4の処理において、制御装置100は、ノズル内粘度推定処理により推定したノズル46C内のインクの粘度が、閾値情報125が示す第2閾値以上か否かを判断する。第2閾値未満と判断した場合(E4:NO)には、制御装置100は、電源回路60Cに出力させる出力電圧を通常電圧に設定し、その設定した電圧値をシアン用電圧設定情報132として不揮発性メモリ104に記憶する(E5)。そして、制御装置100は、印刷処理中に圧電素子95Cに出力させる吐出信号を高粘度用吐出信号5〜7の何れかに設定し、その設定をシアン用信号設定情報128として不揮発性メモリ104に記憶して(E6)、本処理を終了する。
E4の処理で、ノズル46C内のインクの粘度が、閾値情報125が示す第2閾値以上と判断した場合(E4:YES)には、制御装置100は、電源回路60Cに出力させる出力電圧を高電圧に設定し、その設定した電圧値をシアン用電圧設定情報132として不揮発性メモリ104に記憶する(E6)。そして、制御装置100は、印刷処理中に圧電素子95Cに出力させる吐出信号を最大吐出信号に設定し、その設定をシアン用信号設定情報128として不揮発性メモリ104に記憶して(E7)、本処理を終了する。
E1の処理で、ノズル46C内のインクの粘度が、第1閾値未満と判断した場合(E1:NO)には、制御装置100は、E5と同様なE9の処理を実行した後、印刷処理中に圧電素子95Cに出力させる吐出信号を通常用吐出信号4に設定し、その設定をシアン用信号設定情報128として不揮発性メモリ104に記憶して(E10)、本処理を終了する。
以上、本変更形態においても、ノズル46内のインクの粘度が第1閾値以上且つ第2閾値未満の場合には、通常用吐出信号4と比べて同一電圧レベルで圧電素子95に印加された際にインクに付与するエネルギーが大きくなる高粘度用吐出信号5〜7の何れかを出力することで、インクが不吐出となることを抑制することができる。また、ノズル46内のインクの粘度が第2閾値未満の場合には、電源回路60に生成させる駆動電圧は通常電圧に維持される。このため、ノズル46内のインクの粘度が第1閾値以上に上昇したときに、出力する吐出信号を変えずに電圧を上昇させる構成と比較して、消費電力が増加することを抑制することができる。また、ノズル46内のインクの粘度が第2閾値以上の場合には、電源回路60に高電圧を出力させることで、インクが不吐出となることを抑制することができる。
以下、その他の変更形態について説明する。
ノズル内粘度推定処理は、少なくともノズル46を含む流路領域に存在するインクの粘度を推定する処理であればよい。従って、例えば、ノズル内粘度推定処理が、圧力室83からノズル46内に至る流路等、インク吐出に影響を及ぼす流路内に存在するインクの粘度を推定する処理であってもよい。
フラッシング処理の際においても、上記印刷処理のときと同様に、ノズル46K内のインクの粘度を推定して、その推定結果に応じて電源回路60に出力させる出力電圧や、圧電素子95Kに出力する吐出信号を設定してもよい。
上述の実施形態では、波形データ記憶回路152に22種類のパルス波形データが記憶されていたが、通常用吐出信号4のパルス波形データ(以下、基準パルス波形データ)のみが記憶されていてもよい。この場合、制御装置100は、ノズル46K内のインクの粘度に応じて、圧電素子95Kに出力する吐出信号のパルス波形データを、基準パルス波形データに基づいて生成して、ドライバIC90に出力する。
また、ノズル46K内のインクの粘度が第1閾値以上の場合には、印刷モードに関わらず、電源回路60に高電圧を出力させるように構成されていてもよい。また、電源回路60に高電圧を出力させる場合において、圧電素子95Y,95M,95Cに出力する吐出信号を高電圧用吐出信号1〜3に変更せずに、通常用吐出信号4を出力するように構成されていてもよい。
ノズル46内のインクにエネルギーを付与する駆動素子は、圧電素子であったが、これに限定されるものではない。例えば、駆動素子として、インクを加熱して膜沸騰を生じさせる発熱体を採用してもよい。また、圧電素子95に共通の電圧を生成する電圧生成回路が、ヘッド5に搭載されていてもよい。カートリッジ内粘度推定処理では、総供給量カウント情報131、経過時間情報132、及び温度履歴情報133に基づいて、顔料の沈降量を推定して、インクカートリッジ42K内の排出管接続部分のインクの粘度を推定していたが、総供給量カウント情報131、及び経過時間情報132のみに基づいて推定してもよい。また、インクカートリッジ42内のインクの残量が減ると、顔料の沈降量が少なくなる。このため、インクカートリッジ42K内の排出管接続部分のインクの粘度が閾値以上から閾値未満に遷移したか否かについては、増粘後のインク供給量のみに基づいて推定してもよい。
インクカートリッジが装着されるカートリッジ装着部がキャリッジに搭載された、いわゆるオンキャリッジタイプのプリンタにも適用することができる。インクカートリッジ42の排出管45は、貯溜室44の下部に接続されていなくてもよく、例えば、貯溜室44の中部に接続されていてもよい。
加えて、上述の実施形態では、インクの供給源であるタンクは、インクカートリッジであったが、これに限定されるものではなく、例えば、可撓性を有する樹脂からなるパウチ式のインク収容袋であってもよい。このインク収容袋には、インク供給チューブ22を接続可能なキャップが設けられており、インク供給チューブ22をこのキャップに接続したときにインク収容袋内のインクがインク供給チューブ22に流通可能となる。また、上述の実施形態ではカートリッジ装着部41に着脱可能に装着されたインクカートリッジ42から、ヘッド5にインクが供給されるようになっていたが、これには限定されない。カートリッジ装着部41の代わりに、プリンタ1の筐体に固定された硬質樹脂からなるインクタンクからヘッド5にインクが供給されるように構成されていてもよい。このインクタンクには、インクを補充するための補充口が形成されている。そして、ユーザは、インクが貯留されるボトルの供給口を補充口に挿入し、ボトルを押圧することで、ボトルから補充口を経由してインクタンクにインクを補充することが可能である。
また、各インクカートリッジ42に貯溜されているインクは、互いに異なるインク色であったが、種類(成分)が異なるならば、同じインク色であってもよい。
また、本発明は、インクジェットヘッドを固定した状態で、搬送機構により搬送される用紙に画像を印刷する、所謂ライン式のインクジェットプリンタにも適用されうる。