以下、図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、以下説明する実施形態によって本発明が限定されるものではなく、本発明を適用可能な形態が以下の実施形態に限定されるものでもない。また、図面の記載において、同一部分には同一の符号を付す。
[全体構成例]
図1は、本実施形態における戸袋移動型ホーム柵システム100の全体構成例を示す図である。図1では、停止目標位置として定められた駅の所定位置に停止した状態の列車Tを併せて示しており、その先頭の鉄道車両1を、車体側面の両側それぞれに1対の車両扉11,11を4組備えた4扉車として例示している。
また、図2は、停止した鉄道車両1の車両扉11付近をプラットホーム側から見た斜視図であり、図3は、図2における鉄道車両1を車両扉11の部分で縦断して進行方向側から見た端面の概略図である。なお、各図2,3では、ホームに設置されたホーム柵7についてホーム柵扉73(図1等を参照)の図示を省略し、戸袋部71のみを示している。
図1に示すように、本実施形態の戸袋移動型ホーム柵システム100は、駅に設置されたN台の単位装置10と、当該駅のホームの軌道側端縁に配置されてホーム上を軌道側から仕切るためのホーム柵7と、各単位装置10の検知結果である車両扉位置情報を入力して用い、駆動制御部8を介してホーム柵7の動作を制御する統括制御装置50とを備え、N台の単位装置10と、統括制御装置50とが車両扉位置検知装置60を構成する。
単位装置10は、撮影部としての撮影装置20と、処理装置30とを備える。撮影装置20は、鉄道車両1に設けられた識別部(反射部)13と、駅に設けられた基準マーカMKとを撮影するためのものである。そして、処理装置30は、撮影装置20の撮影画像を画像処理して識別部13や基準マーカMKの撮影位置を判別し、判別結果をもとに車両扉11のホーム上の位置(扉位置)を検知する車両扉位置検知処理を行う。ここでの検知結果は、車両扉位置情報として統括制御装置50に出力される。
ここで、撮影装置20の1つの撮影対象である識別部13は、鉄道車両1が備える全ての車両扉11の近傍(本実施形態では上部近傍)の車体側壁部を指定位置として、それぞれ配置される。この識別部13は、例えば、入射した光をその入射方向へと反射させる再帰性反射材料で構成され、シート状の再帰性反射材を接着剤で貼り付ける等して配置される。本実施形態における車両扉位置の検知のために鉄道車両1に設ける必要があるのはこの識別部13のみであり、電子部品等の設置は不要であるため、安価且つ耐候性・耐久性が期待できる。
より詳細には、識別部13は、扉幅d1と略同じ長さを有する横に長尺な形状(帯状)を有し、車両扉11の上部近傍の車体側壁部において、その長手方向が車両扉11の幅方向に沿い、その両端が扉幅d1と上下に揃うように配置される。扉幅d1は、全閉状態での車両扉11の両開きの各扉の全体の幅をいい、開扉時に車体側面に形成される開口幅ともいえる。つまり、識別部13は、その長さによって車両扉11の扉幅を示し、その両端の各位置によって車両扉11の幅方向の両端位置を示す。処理装置30が行う車両扉位置検知処理では、この識別部13の両端の各位置に対応するホーム上の位置(X座標位置;図4を参照)を扉位置として求め、両者間の距離を扉幅d1として算出する。検知する車両扉11の位置としては、ホーム上の位置座標における車両扉11の左右中央の位置であってもよいし、ホーム上の位置座標における車両扉11の左右両端の位置であってもよい。なお、識別部13の上下方向(高さ方向)の幅については特に限定されないが、10mm以上100mm以下(例えば50mm程度)とすることができる。
また、撮影装置20のもう1つの撮影対象である基準マーカMKも同様に、再帰性反射材料で構成される。本実施形態では、基準マーカMKは、表面にシート状の再帰性反射材を貼り付けることで当該基準マーカMKを表示した表示板91として用意される。なお、図2では、基準マーカMKの形状を十字形状としているが、例えば円形状や多角形状等の別の形状であってもよく、特に限定されない。
単位装置10の台数Nは、当該駅(より詳細には当該ホームトラック)を着発する可能性のあるあらゆる列車の全ての車両扉の識別部13を、1台以上の単位装置10で撮影可能にするための台数となる。例えば、当該駅を着発する列車の最大編成車両数や、それら列車の編成車両が備える車両扉の最大数(車体片側の車両扉の最大数)、各列車の停止目標位置、等に基づき定められる。そして、これらN台の単位装置10の各撮影装置20は、ホーム上方において、停止した鉄道車両1の車体上部に撮影範囲(撮影方向)を向けて設置される。より詳細には、到着した列車の各車両扉の扉位置と対向するように、撮影装置20をそれぞれ設置する。
一方、基準マーカMKを表示する表示板91は、本実施形態では、単位装置10の台数Nと同じ数が撮影装置20と1対1で設置される。具体的には、N個の表示板91は、ホーム上方において対応する撮影装置20の撮影範囲内となる位置に、基準マーカMKの表示面を撮影装置20に向けて固定的に設置される。その設置態様は、例えば、図3に示すように天井部分から表示板91を吊り下げることで設置する態様でもよいし、ホームの支柱に表示板91を取り付ける態様でもよい。表示板91の設置位置は、基本的には撮影装置20の撮影範囲に収まる位置であればよいが、旅客の影響を受けないように、可能な範囲で高い位置に設置するとよい。また、表示板91は、撮影装置20から見て、停車する列車に隠れることがないように、列車が停止しても必ず撮影装置20によって撮影される位置に設置することとする。
以上のように単位装置10の台数Nを定め、それらの撮影装置20を表示板91と対にしてホーム上方に設置するのは、どの列車が駅に到着した場合であっても何れかの撮影装置20によって全ての車両扉11の上部全幅とその近傍の車体側壁部(つまり識別部13の全体像)を捉えることができ、且つ、基準マーカMKを必ず1つ含んだ撮影画像を得るため(以下、当該条件を「撮影画像条件」という)である。ただし、当該撮影画像条件を満たすのであれば、表示板91の数はNより少なくてもよく、1つの基準マーカMKを複数の撮影装置20に対応させる構成でもよい。各単位装置10の撮影装置20が少なくとも1つの基準マーカMKを撮影できればよいため、例えば、隣り合う撮影装置20の重複する撮影範囲に1つの基準マーカMKを設置することとして、Nより少ない数の基準マーカMKを設置することとしてもよい。撮影装置20と、対応する基準マーカ(当該撮影装置20が撮影対象とする基準マーカ;以下、適宜「対応基準マーカ」ともいう)MKとの関係は、予め設定される。
また、本実施形態では、駅を着発し得る列車の編成車両として、実在する各種タイプの鉄道車両を想定している。駅に停止した列車の扉位置は、車両長や車両扉数、車種、編成の併結の組合せ等によって異なるためである。一方で、列車の停止位置の問題もある。すなわち、停止目標位置と実際の列車の停止位置とにズレがあれば、扉位置は想定位置と一致しない。そこで本実施形態では、撮影装置20は、より広い範囲を撮影できるよう画角の広い広角レンズ(例えば90度等)が用いられることとする。
そして、撮影装置20は、近赤外光を撮影して撮影範囲内の対象物の反射強度画像を撮影画像として生成するとともに、対象物までの距離を計測して当該撮影範囲の距離画像を生成することができるTOF(Time of Flight)カメラを有して構成され、さらに撮影方向に投光する投光部21を内蔵する。この投光部21は、図3に示すように、撮影装置20の撮影方向に向けて近赤外光を照射する。本実施形態では、投光部21は、940nm付近の波長光を照射する。なお、投光部21は、撮影装置20に内蔵された構成に限らず、別体であってもよい。
撮影装置20は、図2や図3に示すように、識別部13や基準マーカMKを含む車体上部の広範囲A1に近赤外光を照射することができる。そして、識別部13及び基準マーカMKが投光部21からの投光光をその投光部21の方向へ反射させ、撮影装置20が、この反射光(近赤外光)B11,B13を撮影するとともに、当該識別部13及び基準マーカMKまでの距離を表す距離画像を生成・出力することができる。したがって、どのタイプの鉄道車両1が停止した場合であっても、上記撮影画像条件を満たすように撮影装置20を設置する施工を簡単に実現することができ、撮影装置20の設置にあたってその設置位置や設置角度を細かく調整する作業が不要となる。特に、識別部13や基準マーカMKを再帰性反射材料で構成したことでそれらからの反射光B11,B13が撮影装置20に戻ってくるため、撮影画像中の識別部13及び基準マーカMKの撮影位置の判別を確実且つ簡単化することができることは、画角の広い撮影画像においても有利である。また、車両扉11の上部近傍の車体側壁部に識別部13を配置するとともに、ホーム上方の高い位置に表示板91を設置しこれを撮影するため、それらの撮影位置の判別に際し旅客の影響を受け難くして、誤判別を抑制できる。
また、940nm付近の波長は、太陽光に含まれる近赤外光の中でもその割合が低い波長域であるため、日中の太陽光の存在下でも、その影響を抑えて識別部13及び基準マーカMKを鮮明に撮影することができる。一方で、投光部21から近赤外光を照射して撮影するため、夜間や悪天候時等、周囲が暗い場合であっても、識別部13及び基準マーカMKの鮮明な撮影が行える。したがって、撮影装置20の設置環境の影響を受けることなく、対応する基準マーカMKや撮影範囲内となった識別部13を確実に撮影できる。また、投光光は可視光線でない近赤外光であるため、投光光が旅客の視界に入ったとしても、旅客に眩しさを感じさせることは少ない或いは殆どない。
図1に戻り、ホーム柵7は、ホーム長手方向に沿って所定の可動範囲を移動自在な戸袋部71と、戸袋部71から進退移動するホーム柵扉73とを備える。本実施形態のホーム柵7は、戸袋部71が片側(図1では向かって左側)に1つのホーム柵扉73を開閉駆動(退避駆動及び進出駆動)自在に支持する構成を有しており、退避駆動時は、ホーム柵扉73が右に動いて戸袋部71に退避・収容される。一方、進出駆動時は、ホーム柵扉73が左に動いて戸袋部71から進出する。そして、駆動制御部8は、統括制御装置50の制御のもと、ホーム柵扉73の駆動部(不図示)を駆動してホーム柵扉73を退避/進出駆動するとともに、戸袋部71の駆動部(不図示)を駆動して戸袋部71を移動させる。なお、戸袋部71の全体形状は、閉扉時に、ホーム柵扉73を収容する袋状の形状であってもよいが、ホーム上の旅客から見て戸袋部71の背後にホーム柵扉73が位置する衝立状の形状であってもよい。要は、ホーム上の旅客から見て戸袋としての機能を発揮する用途形状であればよい。
統括制御装置50は、列車が駅に停止した際、N台の単位装置10(具体的にはそれらの処理装置30)から入力された車両扉位置情報に基づき駆動制御部8を制御することで、ホーム柵扉73の退避駆動及び戸袋部71の移動を同時並行に実施して、車両扉位置に旅客乗降用の開口部を形成する開扉動作制御を行う。また、統括制御装置50は、開扉動作制御後、旅客の乗り降りが終わると、駆動制御部8を制御してホーム柵扉73の進出駆動及び戸袋部71の移動を同時並行に実施し、開口部を閉ざす閉扉動作制御を行う。本実施形態では、ホーム柵7の定常状態(例えば図6(a)や図7(a)に示す定常状態)が予め決められている。そして、当該ホーム柵7の定常状態を基準に開扉動作制御を実行し、ホーム柵7を定常状態に戻すことで閉扉動作制御を実行する。本実施形態の特徴の1つが、開扉動作制御や閉扉動作制御は、ホーム柵扉73の開閉だけでなく、並行して戸袋部71を移動させて乗降用の開口部を設けたり、閉ざしたりすることである。そのため、本実施形態では、ホーム柵扉73の駆動については、開閉ではなく、退避(戸袋部71への退避)と、進出(戸袋部71からの進出)という用語を用いて説明する。
[原理]
1.車両扉位置検知処理
本実施形態では、撮影装置20は、撮影範囲を所定のフレームレート(例えば、20fps)で連続的に撮影し、撮影画像及び距離画像を処理装置30に随時出力する。一方、処理装置30では、撮影画像中の対応基準マーカMK及び識別部13の撮影位置をフレーム単位で検出し(反射体検出処理)、列車Tの停止を検知する(停止検知処理)。そして、停止検知時に、対応基準マーカMKの設置位置及び撮影装置20の設置位置の位置関係を参照して、撮影画像中の対応基準マーカMKの撮影位置と、撮影画像中の識別部13の撮影位置とを用いて扉位置を算出する扉位置算出処理を行う。その際、併せて扉幅を算出する。その後は、算出した扉位置を扉幅と対応付けて設定した車両扉位置情報を生成し、統括制御装置50に出力する。なお、撮影画像中に識別部13が写っていない場合には、車両扉位置情報を出力しないこととしてもよいし、対応する車両扉が無い旨の車両扉位置情報を生成して出力することとしてもよい。
(1)反射体検出処理
上記したように、識別部13は、入射した光を入射方向へと反射する。そして、撮影装置20は、投光部21からその撮影方向に向けて近赤外光を照射しながら、近赤外光を所定のフレームレートで撮影している。撮影範囲内には常時対応基準マーカMKが存在するため、撮影画像中の当該対応基準マーカMKの撮影位置が輝度の高い画素範囲(近赤外光の反射強度が大きい画素範囲)となって現れる。一方、列車Tが駅に到着したことで撮影範囲内に識別部13が含まれるようになると、撮影画像中でその撮影位置が反射強度の高い画素範囲となって現れる。その際、撮影装置20からみて基準マーカMK(表示板91)は列車Tよりも手前に設置されるため、停止した列車Tに遮られることなく撮影される。また、撮影装置20からみて列車Tより上方に基準マーカMKが写る位置に基準マーカMKが設置されるため、基準マーカMKによって識別部13が遮られて撮影されることもない。
そこで、反射体検出処理では、例えば、撮影画像を予め設定される所定の閾値を用いて2値化し、高反射強度箇所を抽出する処理をフレーム毎に繰り返す。そして、列車Tが駅に到着するまでの間に、先ず、対応基準マーカMKの撮影位置を検出する。具体的には、抽出した高反射強度箇所に基づき対応基準マーカ照合処理を行って対応基準マーカMKの撮影位置を識別し、識別した撮影位置について自己診断処理を行った後、当該撮影位置を基準マーカ位置として決定する。
対応基準マーカ照合処理では、対応基準マーカMKを識別する。上記したように、本実施形態では、N個の撮影装置20がホーム上方に設置され、しかも広角レンズを用いて個々の撮影範囲を広くしている。そのため、撮影装置20の撮影範囲内には複数の基準マーカMKが含まれ得る。例えば後述する図4の例では、2つの基準マーカMKが含まれている。そこで、対応基準マーカ照合処理では、抽出した高輝度反射強度箇所について計測された距離(計測距離)を距離画像から読み出し、撮影装置20及び対応基準マーカMKの設置位置間の距離と比較判定することで、対応基準マーカMKの撮影位置を識別する。なお、識別した対応基準マーカMK以外の高反射強度箇所(別の撮影装置20の対応基準マーカMK)については、以下の処理では無視して参照しない。
一方、自己診断処理では、撮影装置20の故障、レンズの汚れ等の不具合を含む異常の有無を判定する。ここでの処理は、前段の対応基準マーカ照合処理で識別した対応基準マーカMKの撮影位置の画素値(輝度の値や所定輝度以上の画素数など)を、1つ前の列車の到着に際して決定した対応基準マーカ位置の画素値と比較することで行う。或いは、予め正常時に対応基準マーカMKを撮影してその撮影位置の画素値の情報を取得・設定しておき、これと比較する構成でもよい。例えば、両者の画素値に許容値以上の差がある場合に異常と判定する。自己診断処理の結果異常無しと判定したら、識別した対応基準マーカMKの撮影位置を対応基準マーカ位置とし、以下説明する後段の処理で参照する。
対応基準マーカMKの撮影位置を検出したならば、その後は、各フレームで対応基準マーカMKとは別の高輝度範囲を探し、識別部13の撮影位置を検出する。なお、識別部13は、車両扉の上部近傍の車体側壁部に配置されることから、撮影画像において識別部13が出現し得る上下方向の範囲を予め設定しておくことが可能である。そこで、撮影画像の全域ではなく、設定した上下方向の範囲を含む撮影画像の帯状の領域を抽出エリアとし、識別部13を探すようにしてもよい。
またその際、予め設定された所定の距離範囲(例えば、3m等)内に自装置の検知対象となる列車が存在するか否かを判定する。単位装置10の検知対象となるのは、その撮影装置20が設置されたホームに停止した列車である。しかし、複数のホームを備えた駅では、撮影装置20の設置ホームには列車が存在せず、その奥の別のホームに列車が停止している場合に、当該別の列車に設けられた識別部13が撮影装置20の撮影範囲に含まれる事態が生じ得る。これを検知対象の列車に設けられた識別部13と捉えて後段の処理を行ってしまうと、設置ホームに列車が存在しないのにも関わらずその扉位置を検知することとなり、問題である。
そこで、例えば、予め撮影装置20から駅に停止した状態の列車までの距離を含む所定の距離範囲を設定しておく。そして、対応基準マーカMKとは別の高反射強度箇所を抽出した場合に、その計測距離が当該距離範囲内であれば、自装置の検知対象となる列車が存在する(つまり、抽出した高反射強度箇所が検知対象の列車に配置された識別部13の撮影位置である)と判定する。距離範囲外であり検知対象の列車が存在しないと判定した場合は、以下説明する後段の処理を行わない。
この反射体検出処理によれば、単に撮影画像中の高反射強度箇所を抽出することで対応基準マーカMKや識別部13の撮影位置を検出することができ、形態認識等の計算量が多い高度な画像処理を必要としないため、高速且つ確実にそれらの検出が行える。また、識別部13の形状の選択を自由に行えるという副次的な効果もある。
(2)停止検知処理
停止検知処理では、撮影画像中の識別部13の撮影位置の位置変化が所定の不動相当条件を満たすことを検知することで、列車Tの停止を検知する。識別部13は車体側壁部に配置されるため、列車Tが移動している間は撮影画像中のその撮影位置も移動し、列車Tが停止すれば同じく停止するためである。
例えば、撮影画像中の識別部13の撮影位置について、今回のフレームと直前のフレームとの間の当該識別部位置の移動量と、フレームレート(例えば20fps)とから列車速度を算出する。そして、「列車速度が所定速度以下(例えば3km/h以下)となったこと」を不動相当条件として用い、不動相当条件を満たした場合に列車Tが停止したとして検知する。
(3)扉位置算出処理
扉位置算出処理では、列車の停止検知時に得られた撮影画像及び距離画像をもとに、識別部13が示す扉位置を算出する。図4は、ホーム9に停止した状態の列車Tを平面的に示す模式図であり、図4中黒丸で撮影装置20の設置位置を示し、×印で基準マーカMKの設置位置を示している。また、図5は、図4に示す設置位置P211の撮影装置20が、当該列車Tの停止検知時に撮影した撮影画像の模式図である。
本実施形態では、ホーム長手方向に沿う図に向かって左右方向をX軸方向、ホーム短手方向に沿う図に向かって上下方向をY軸方向、これら各方向に直交する高さ方向をZ軸方向と定義し、扉位置を、ホーム9の一端側に定められた所定の基点位置を原点OとするXYZ座標系のX位置(基点位置からのホーム長手方向に沿った距離)として求める。
ここでは、設置位置P211の撮影装置20の撮影画像及び距離画像を処理する処理装置30での扉位置算出処理に着目する。前提として、当該撮影装置20の対応基準マーカMKは、設置位置P213の基準マーカMKとする。そして、当該撮影装置20の撮影範囲A1には、停止した列車Tの車両扉11Aが含まれている。したがって、本扉位置検出処理では、識別体13Aの両端部P31,P33の各X位置X1,X2を扉位置として算出する。
具体的には、撮影装置20の設置位置P211及び対応基準マーカMKの設置位置P213は既知であり、それら設置位置P211,P213間の距離d21も既知である。また、撮影画像中の対応基準マーカ位置(図5の撮影画像において向かって左側の基準マーカMKの位置座標)は、反射体検出処理で検出済みである。一方、撮影画像中の識別部13の撮影位置についても反射体検出処理で検出されており、撮影画像中その両端位置の計測距離(つまり、図4に示すd231,d233の長さ)も得られている。さらに、撮影装置20の設置位置P211から見た対応基準マーカMKの設置位置P213の方向と、識別部13の両端部P31,P33の各方向との成す角度θ21,θ23は、撮影画像の画角を基準とする撮影画像中の両者間の水平方向の距離(例えばドット数)L31,L33から換算してそれぞれ求めることができる。よって、求めた角度θ21,θ23と、計測距離として得られているd231,d233の長さとから、三角関数を用いてホーム9上の識別部13の両端部P31,P33の位置が特定でき、そのX位置X1,X2が得られる。結果、ホーム9上で車両扉11Aが位置するX位置の範囲X1〜X2を扉位置として算出でき、その差によって扉幅も算出できる。なお、ここで説明した算出手順は一例であり、他の算出手順によって算出することもできる。既知である撮影装置20の設置位置P211及び対応基準マーカMKの設置位置P213と、撮影画像中の対応基準マーカ位置及び識別部13の撮影位置とに基づいて幾何学的に扉位置及び扉幅を算出することができる。
2.開扉動作制御
図6は、開扉動作制御を説明する図である。図6では、車両長がL4である4扉車を編成車両1aとする列車Taが駅に停止した状態とともに、上段(a)では当該列車Taが駅に停止した直後のホーム柵7の状態(定常状態)を示し、下段(b)では開扉動作制御後のホーム柵7の状態を示している。
統括制御装置50には、各単位装置10から車両扉位置情報が入力される。そこで、開扉動作制御では先ず、それらをもとに到着した列車Taの全ての扉位置を収集し、各扉位置をそれぞれ含むX座標範囲を開口形成範囲931(931−1,931−2,・・・)として決定する。
続いて、決定した開口形成範囲931毎に、当該開口形成範囲931に開口部を形成するための退避対象のホーム柵扉73と、移動対象の戸袋部71とを選出して、対象制御データを生成する。例えば車両扉11Bに着目すると、(1)ホーム柵扉73Bを全開させること、(2)戸袋部71Bを図6に向かって右向きに所定量移動させること、(3)戸袋部71Bの移動量分ホーム柵扉73Cを退避させること、を並行に実行することでその開口形成範囲931−2に開口部を形成できる。この場合は、退避対象であるホーム柵扉73B及びホーム柵扉73Cのそれぞれの対応する戸袋部71からの退避量と、移動対象である戸袋部71Aの移動量及び移動向きとを設定した制御データが当該車両扉11Bに係る対象制御データとして生成される。
そして、統括制御装置50は、同様の要領で全ての車両扉11について対象制御データを生成し、それらを駆動制御部8に出力する。これを受けて駆動制御部8は、入力された車両扉11毎の対象制御データに従って、退避対象として設定されているホーム柵扉73をそれぞれその退避量に従って退避駆動するとともに、移動対象として設定されている戸袋部71をそれぞれその移動量に従ってその移動向きへと移動させる。結果、ホーム柵扉73の退避駆動及び戸袋部71の移動が同時並行に実施されることとなり、図6(b)に示すように、各開口形成範囲931に旅客乗降用の開口部が形成される。なお、その後の閉扉動作制御では、ホーム柵7が開扉動作制御時とは逆の動きをして定常状態(図6(a)の状態)に戻ることで、開口部を閉ざす。
図7は、車両長がL5である3扉車を編成車両1bとする列車Tbが駅に停止した場合の開扉動作制御を説明する図である。図7に示すように、図6に示したのとは車両長や車両扉数の異なる編成車両1bの列車Tbが駅に停止した場合でも、図6を参照して説明した手順で開扉動作制御を行うことで、各扉位置をそれぞれ含む開口形成範囲933(93−1,93−2,・・・)に、旅客乗降用の開口部を形成できる。
[機能構成]
1.処理装置
図8は、処理装置30の機能構成例を示すブロック図である。図8に示すように、処理装置30は、操作部31と、表示部33と、通信部35と、制御部37と、記憶部39とを備えた一種のコンピュータであり、CPUボード等として構成することが可能である。
操作部31は、プッシュスイッチやダイヤル等を有して構成され、表示部33は、LEDや小型の液晶表示装置等を有して構成される。操作部31及び表示部33は、主に作業員によってメンテナンス時に利用されるものである。
通信部35は、例えば無線通信モジュールやルータ、モデム、TA、有線用の通信ケーブルのジャックや制御回路等で実現される有線或いは無線の通信装置であり、外部装置(撮影装置20や統括制御装置50等)との間で通信を行う。この通信部35を介して撮影装置20からフレーム毎に入力される撮影画像は撮影画像データ394として、撮影画像とともに入力される距離画像は距離画像データ395として、記憶部39に格納される。
制御部37は、例えばCPU(Central Processing Unit)やDSP(Digital Signal Processor)等のプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等の電子部品によって実現され、装置各部との間でデータの入出力制御を行う。そして、所定のプログラムやデータ、通信部35を介して入力されたデータ等に基づいて各種の演算処理を行い、処理装置30の動作を制御する。この制御部37は、反射体検出部371と、停止検知部373と、扉位置算出部375とを含む。これらの機能部は、プログラムを実行することによりソフトウェアとして実現される処理ブロックであってもよいし、ASICやFPGA等のハードウェア回路によって実現される回路ブロックであってもよい。本実施形態では、制御部37が車両扉位置検知プログラム391を実行することによりソフトウェアとして実現される処理ブロックとして説明する。
反射体検出部371は、撮影装置20から入力された撮影画像中の対応基準マーカMKの撮影位置と、検知対象の列車に配置された識別部13の撮影位置とをフレーム毎に検出する。その際、上記した対応基準マーカ照合処理と、自己診断処理とを行う。
停止検知部373は、撮影画像中の識別部13の撮影位置をフレーム間で追跡し、その位置変化が所定の不動相当条件を満たすことを検知することで、列車の停止を検知する。
扉位置算出部375は、停止検知部373によって列車の停止が検知された場合に図4等を参照して説明した扉位置算出処理を行うことで、停止した状態の列車に配置された識別部13が示す車両扉の扉位置(X位置)や扉幅を算出する。この扉位置算出部375が、基準マーカMKの設置位置及び撮影装置20の設置位置の位置関係と、撮影装置20による撮影画像に含まれる基準マーカMKの撮影位置と、識別部13の撮影位置とを用いて、車両扉11の位置を算出する演算制御部に該当する。
記憶部39は、ICメモリやハードディスク、光学ディスク等の記憶媒体により実現される。この記憶部39には、処理装置30を動作させ、処理装置30が備える種々の機能を実現するためのプログラムや、当該プログラムの実行中に使用されるデータ等が予め記憶され、或いは処理の都度一時的に記憶される。例えば、記憶部39には、車両扉位置検知プログラム391と、撮影装置設置情報392と、対応基準マーカ設置情報393と、撮影画像データ394と、距離画像データ395と、対応基準マーカ位置データ396と、識別体検出結果データ397とが格納される。
車両扉位置検知プログラム391は、制御部37を反射体検出部371、停止検知部373、及び扉位置算出部375として機能させるためのプログラムである。
撮影装置設置情報392は、自装置の撮影装置20のホーム上の設置位置(XYZ座標系の座標位置)を格納する。また、対応基準マーカ設置情報393は、自装置の撮影装置20の対応基準マーカMKの設置位置(XYZ座標系の座標位置)と、その撮影装置20から対応基準マーカMKまでの設置位置間の距離とを格納する。
対応基準マーカ位置データ396は、反射体検出部371によって決定された撮影画像中の対応基準マーカ位置と、距離画像として得られた当該対応基準マーカ位置の計測距離とを格納する。
識別体検出結果データ397は、反射体検出部371によりフレーム毎に検出された識別部13の撮影位置を時系列で格納する。したがって、識別体検出結果データ397には、撮影画像中に識別部13の撮影位置が含まれるフレームについては、その撮影画像における位置座標が設定される。
2.統括制御装置
図9は、統括制御装置50の機能構成例を示すブロック図である。図9に示すように、統括制御装置50は、操作部51と、表示部53と、通信部55と、制御部57と、記憶部59とを備えた一種のコンピュータであり、CPUボード等として構成することが可能である。操作部51及び表示部53は、処理装置30と同様に、メンテナンス時等のために用意される。
通信部55は、例えば無線通信モジュールやルータ、モデム、TA、有線用の通信ケーブルのジャックや制御回路等で実現される有線或いは無線の通信装置であり、外部装置(処理装置30や駆動制御部8等)との間で通信を行う。
制御部57は、例えばCPUやDSP等のプロセッサ、ASIC、FPGA等の電子部品によって実現され、装置各部との間でデータの入出力制御を行う。そして、所定のプログラムやデータ、通信部55を介して外部から受信したデータ等に基づいて各種の演算処理を行い、統括制御装置50の動作を制御する。この制御部57は、車両扉位置取得部571と、開口形成範囲決定部572と、制御対象選定部573と、事前準備完了通知制御部574と、開扉動作制御部575と、閉扉動作制御部576とを含む。これらの機能部は、プログラムを実行することによりソフトウェアとして実現される処理ブロックであってもよいし、ASICやFPGA等のハードウェア回路によって実現される回路ブロックであってもよい。本実施形態では、制御部57がホーム柵制御プログラム591を実行することによりソフトウェアとして実現される処理ブロックとして説明する。
車両扉位置取得部571は、処理装置30から入力された車両扉位置情報を車両扉位置リスト595に登録し、駅に停止した列車の全ての車両扉の扉位置を収集する。図10は、車両扉位置リスト595のデータ構成例を示す図である。図10に示すように、車両扉位置リスト595は、処理装置30の装置IDと、扉位置と、扉幅と、開口形成範囲とを対応付けて設定したデータテーブルである。扉位置と、扉幅とには、該当する処理装置30から入力された車両扉位置情報の扉位置及び扉幅が設定される。別個の処理装置30から入力された車両扉位置情報の中に扉位置が重複するものがあれば、そのうちの1つを採用して車両扉位置リスト595に登録する。設置位置が隣接する撮影装置20の撮影範囲内に同じ識別部13が同時に含まれ得るためである。ここでの処理により、車両扉位置リスト595には、駅に停止した列車の全ての車両扉の扉位置が設定される。
なお、車両扉位置リスト595は、ホームに到着した列車が駅から出発した後等の適宜のタイミングでリセットされることから、撮影範囲内に識別部13が存在せず扉位置を検知しなかった(車両扉位置情報を出力しなかった)処理装置30があれば、そのレコードはブランク(未登録)となる。よって、この車両扉位置リスト595の登録内容から、駅に停止した列車のおおまかな停止位置や存在範囲(X座標範囲)を特定できる。
開口形成範囲決定部572は、車両扉位置リスト595を参照し、車両扉毎に、その扉位置を含むX座標範囲を開口形成範囲として決定する。またその際、決定した開口形成範囲を車両扉位置リスト595に追加登録する。
制御対象選定部573は、車両扉毎に、その開口形成範囲に開口部を形成するために退避動作が必要な退避対象のホーム柵扉73及び移動が必要な移動対象の戸袋部71を選定する。そして、選定した退避対象のホーム柵扉73の退避量と、移動対象の戸袋部71の移動量及び移動向きを算出して、当該車両扉に係る対象制御データ597を生成する。
事前準備完了通知制御部574は、「扉位置の算出が完了したこと」を外部出力条件として判定し、当該外部出力条件を満たした場合に、開口部を形成するための事前準備が完了した旨の信号を外部出力する制御を行う。本実施形態では、制御対象選定部573が全ての車両扉について対象制御データ597を生成した段階で、外部出力条件を満たすと判定する。また、外部出力制御は、例えばホーム上方に専用のランプを設け、これを点灯させることで行う。車掌は、当該ランプの点灯を合図に車両扉の開扉操作を行い、車両扉を開扉させることとなる。なお、ホーム柵7に設けられた操作盤に当該完了した旨を表示制御する構成でもよく、外部出力制御の態様は特に限定されない。
開扉動作制御部575は、生成した全ての車両扉に係る対象制御データ597を駆動制御部8に出力して駆動制御部8による退避対象のホーム柵扉73及び移動対象の戸袋部71の移動を制御することで、開扉動作制御を実行する。本実施形態では、車掌がホーム柵扉73の開扉操作を行うと、その操作信号(ホーム柵扉開扉操作信号)が統括制御装置50に伝達される構成となっている。開扉動作制御部575は、ホーム柵扉開扉操作信号を受信すると、開扉動作制御を実行する。なお、車両の停止検知などに連動して開扉動作制御を実行する事としても良い。
閉扉動作制御部576は、開扉動作制御で退避対象としたホーム柵扉を進出動作させるとともに、移動対象とした戸袋部71を開扉動作制御時と逆向きに移動させる閉扉動作制御を実行し、開口部を閉ざしてホーム柵7を定常状態に戻す。車掌がホーム柵扉73の閉扉操作を行ったときには、その操作信号(ホーム柵扉閉扉操作信号)が統括制御装置50に伝達される。閉扉動作制御部576は、ホーム柵扉閉扉操作信号を受信すると、閉扉動作制御を実行する。なお、車両の走行検知などに連動して閉扉動作制御を実行する事としても良い。
記憶部59は、ICメモリやハードディスク、光学ディスク等の記憶媒体により実現される。この記憶部59には、統括制御装置50を動作させ、統括制御装置50が備える種々の機能を実現するためのプログラムや、当該プログラムの実行中に使用されるデータ等が予め記憶され、或いは処理の都度一時的に記憶される。本実施形態では、記憶部59には、ホーム柵制御プログラム591と、ホーム柵定常状態情報593と、車両扉位置リスト595と、車両扉毎の対象制御データ597とが格納される。
ホーム柵制御プログラム591は、制御部57を車両扉位置取得部571、開口形成範囲決定部572、制御対象選定部573、事前準備完了通知制御部574、開扉動作制御部575、及び閉扉動作制御部576として機能させるためのプログラムである。
ホーム柵定常状態情報593は、ホーム柵7の定常状態を定義する。このホーム柵定常状態情報593には、定常状態におけるホーム上の各戸袋部71の位置(X座標)や、当該定常状態における各ホーム柵扉73の開閉状態が設定される。開閉状態は、例えば全閉時を基準とする退避量、又は全開時を基準とする進出量として定義できる。
[処理の流れ]
先ず、1台の列車が駅を着発する間、より詳細には、前の列車が駅から出発してから次の列車(検知対象の列車)が駅を発車するまでの間の処理装置30の処理の流れについて、図11を参照して説明する。ここで説明する処理は、処理装置30において、制御部37が記憶部39から車両扉位置検知プログラム391を読み出して実行することで実現できる。
先ず、制御部37は、撮影装置20を起動し、投光や撮影画像及び距離画像の入力を開始する(ステップS1)。
撮影画像及び距離画像の入力を開始したならば、反射体検出部371が、反射体検出処理として先ず、フレーム毎に撮影画像から高反射強度箇所を抽出する処理を開始する(ステップS5)。そして、ここでの抽出がされた場合には(ステップS7:YES)、対応基準マーカ照合処理を行って対応基準マーカMKの撮影位置を識別し(ステップS9)、識別した撮影位置について自己診断処理を行う(ステップS11)。ここでの自己診断処理の結果、異常があれば(ステップS13:NO)、警告出力等を行う。
一方、異常無しの場合には(ステップS13:YES)、高反射強度箇所の抽出処理を再開する(ステップS15)。そして、対応基準マーカMKとは別の高反射強度箇所が抽出されたならば(ステップS17:YES)、当該画像箇所に対応する計測距離を距離画像から読み出し、所定の距離範囲内か否かを判定する(ステップS19)。当該距離範囲内であれば(ステップS19:YES)、検知対象の列車に設けられた識別部13の撮影位置と判断してステップS21に移行する。一方、当該距離範囲外の場合は(ステップS19:NO)、検知対象の列車に設けられた識別部13の撮影位置ではないと判断してステップS17に戻る。
そして、ステップS21では、停止検知部373が停止検知処理をフレーム毎に繰り返し行い、撮影画像中の識別部13の撮影位置の位置変化が所定の不動相当条件を満たした場合に、列車が停止したことを検知する。その後、ステップS21で列車の停止が検知されたならば(ステップS23:YES)、扉位置算出部375が扉位置算出処理を行って、識別部13の両端部のX位置を車両扉の扉位置として算出する(ステップS25)。そして、算出したX位置間の距離を扉幅とし、扉位置とともに車両扉位置情報として統括制御装置50に出力する(ステップS27)。
次に、統括制御装置50が行う処理の流れについて、図12を参照して説明する。ここで説明する処理は、統括制御装置50において、制御部57が記憶部59からホーム柵制御プログラム591を読み出して実行することで実現できる。
開扉動作制御にあたっては、先ず、車両扉位置取得部571が、処理装置30からの車両扉位置情報の入力を待機する。そして、入力された車両扉位置情報を車両扉位置リスト595に登録し、駅に停止した列車の全ての車両扉の扉位置を取得する(ステップS31)。
続いて、開口形成範囲決定部572が、車両扉位置リスト595を参照し、車両扉毎に、その扉位置に応じた開口形成範囲を決定する(ステップS33)。そして、制御対象選定部573が、車両扉毎に、その開口形成範囲に開口部を形成するための退避対象のホーム柵扉73及び移動対象の戸袋部71を選定し、各車両扉について対象制御データ597を生成する(ステップS35)。
そして、制御対象選定部573が全ての車両扉について対象制御データを生成したならば、事前準備完了通知制御部574が、外部出力条件を満たしたとして、事前準備が完了した旨の外部出力制御を行う(ステップS37)。例えば、専用のランプに点灯信号を出力する外部出力を行って、当該ランプを点灯させる。
その後は、車掌がホーム柵開扉操作を行い、ホーム柵扉開扉操作信号を受信したことを受けて(ステップS39:YES)、開扉動作制御部575が、開扉動作制御を実行する(ステップS41)。
また、車掌がホーム柵閉扉操作を行い、ホーム柵扉閉扉操作信号を受信したならば(ステップS43:YES)、閉扉動作制御部576が閉扉動作制御を実行する(ステップS45)。
以上説明したように、本実施形態の戸袋移動型ホーム柵システム100によれば、車両扉の上部近傍の車体側壁部に設けられた識別部13を基準マーカMKとともに撮影することができる。そして、基準マーカMKの設置位置及び撮影装置20の設置位置の位置関係と、撮影画像中の基準マーカMKの撮影位置と、当該撮影画像中の識別部13の撮影位置とを用いて、車両扉の扉位置(当該車両扉のホーム上の位置)を算出することができる。これによれば、扉位置の算出にあたり、駅に停止した列車の車両長や車両扉数、車種、編成の併結の組合せといった、従来の技術手法では事前に受け取る必要のあった列車の情報が不要になる。また、実際に駅に停止した列車に設けられた識別部13が示す車両扉の扉位置や扉幅を、撮影装置20の撮影画像及び距離画像から算出することで扉位置を検知することができる。よって、列車の停止位置は予め定められた停止目標位置と高精度に一致する必要がなくなり、当該列車の停止位置と停止目標位置とにズレが生じていても問題にならない。
一方で、検知した各車両扉の扉位置に基づきホーム柵扉73の退避及び戸袋部71の移動を同時並行に実施して、各車両扉の扉位置に旅客乗降用の開口部を形成することができる。具体的には、各車両扉の扉位置に従って開口形成範囲を決定し、決定した開口形成範囲に開口部を形成するように、戸袋部71を移動させつつホーム柵扉73を退避動作させることができる。したがって、従来の戸袋移動型ホーム柵システムのように、駅に列車が在線していないときに戸袋を移動させる工程が不要となり、列車が在線していないときに移動する戸袋部71がホームにいる旅客に接触する事態を想定する必要がなくなる。さらに、本工程は、その後駅に到着した列車が停止目標位置に停止することを前提に行っており、実際の列車の停止位置と停止目標位置とにズレが生じているときには、そのズレ量に応じてホーム柵を全体的に移動させる工程がさらに必要であった。これに対し、本実施形態の戸袋移動型ホーム柵システム100では、停止した状態で検知した車両扉の扉位置に開口部を形成できるので、当該工程も不要となる。これによれば、列車が駅に到着してからホーム柵7に開口部を設けるまでの時間短縮が図れる。また、列車の停止位置を検知する構成も不要となる。
なお、本発明を適用可能な形態は上記した実施形態に限定されるものではなく、適宜構成要素の追加・省略・変更を施すことができる。
[変形例1]
例えば、上記実施形態では、車両扉の上部近傍の車体側壁部に帯状の識別部13を配置することとしたが、識別部は扉位置(或いは、扉位置及び扉幅)を示していればよく、その形状は限定されない。例えば、車両扉の幅方向の両端位置をそれぞれ指し示す所定形状の識別部を配置する構成でもよい。或いは、車体側壁部ではなく、車両扉に識別部を配置してもよい。
[変形例2]
また、車両扉近傍(例えば車両扉の上部近傍)の車体側壁部と、車両扉との両方に識別部を配置してもよい。そして、この場合は、識別部の撮影位置の検出結果から、車両扉の開扉検知をさらに行うとしてもよい。
図13は、本変形例における識別部の配置例と併せて、車両扉開扉検知処理を説明する図である。本変形例では、列車Tcには、車両扉11単位で第1識別部131と第2識別部133とが配置される。第1識別部131は、上記実施形態の識別部13に対応するものであり、扉位置及び扉幅を示している。なお、上記実施形態では、識別部13を角の四角い帯状として図示したが(図2等を参照)、図13のように角の丸い形状としてもよい。また、上記実施形態では、識別部13の左右方向の長さを車両扉11の開口幅の全幅にわたる長さとしたが(図2等を参照)、図13のように、左右方向の長さを、車両扉11の開口幅に対応する(例えば比例する)長さとしてもよい。一方、第2識別部133は円形状を有し、閉扉状態で当接する両開きの各扉の上角付近に1つずつ配置される。識別部の形状は、第1識別部131や第2識別部133のように、円形状や楕円状等の角のない形状や角の丸い形状(R面取り形状)とすることで剥がれ難くすることができ、貼り直し等のメンテナンスを必要とする頻度を低減できる。
そして、本変形例では、撮影画像中の第1識別部131及び第2識別部133の撮影位置の変化に基づいて、車両扉開扉検知処理と、車両扉閉扉検知処理とを行う。これらの各処理による車両扉の開閉検知は、処理装置30にて上記実施形態で説明した扉位置算出処理の後段の処理として行う。
1.車両扉開扉検知処理
第1識別部131と第2識別部133の位置関係は、列車Tcが停止するまでの間は、図13(a)に示す閉扉時の位置関係を維持する。そして、当該位置関係は、その後車両扉11が開扉動作を開始する(矢印A61,A63)と変化する。図13(b)に示すように、2つの第2識別部133が互いに離反する方向へと移動するからである。そこで、車両扉開扉検知処理では、第1識別部131及び第2識別部133の撮影位置の位置関係が、閉扉時の位置関係を満たした関係から満たさない関係に変化したことを検知することで、車両扉11の開扉動作が開始されたことを検知する。
具体的には、第1識別部131の位置が固定であるため、第2識別部133の移動量から開扉動作の開始を検知する。すなわち、例えば、撮影画像中で2つの第2識別部133の撮影位置を追跡し、列車Tcの停止検知時からの移動量d61,d63の何れか一方が予め設定される所定量に達した場合に、車両扉11の開閉動作が開始されたとして検知する。移動量d61,d63の両方が所定量に達した場合に検知するのでもよい。
なお、第2識別部133の移動量から開扉動作の開始を検知する場合に限らず、2つの第2識別部133間の距離d71,d73を監視し、予め定められる所定距離以上離れたときに開扉動作の開始を検知するとしてもよい。
そして、車両扉11の開扉動作の開始を検知した場合には、処理装置30は、車両扉開扉検知信号を統括制御装置50に出力する。統括制御装置50は、この車両扉開扉検知信号を受けて開扉動作制御を実行する。したがって、本変形例によれば、統括制御装置50は、停止した列車の車上装置との通信を必要とせずに、車両扉11の開扉動作の開始と連動してホーム柵扉73に開口部を形成することができる。すなわち、車両扉11の開扉動作が開始されると、それに呼応するようにホーム柵扉73に開口部を形成することが可能となる。
2.車両扉閉扉検知処理
車両扉11が開扉動作を完了すると、車両扉11は車体に設けられた戸袋に収容されるが、撮影装置20の撮影範囲はその左右範囲内に車両扉11の上部を全幅含むため、車両扉11の開扉動作の完了とともに、撮影画像中に第2識別部133の画像箇所が含まれていない状態となる。そして、その後車両扉11の閉扉動作が開始され、車両扉11が戸袋から進出し始めるとすぐに、第2識別部133の画像箇所が含まれる状態に変化する。なお、第1識別部131の画像箇所は、その間も撮影画像中に含まれる状態のままである。
そこで、車両扉閉扉検知処理では、当該含まれる状態への変化を検知することで、車両扉11の閉扉動作が開始されたことを検知する。車両扉11の閉扉動作の開始を検知した場合には、処理装置30は、車両扉閉扉検知信号を統括制御装置50に出力する。統括制御装置50は、この車両扉閉扉検知信号を受けて閉扉動作制御を実行する。したがって、本変形例によれば、統括制御装置50は、停止した列車の車上装置との通信を必要とせずに、車両扉11の閉扉動作の開始と連動してホーム柵扉73に形成された開口部を閉ざすことができる。すなわち、車両扉11の閉扉動作が開始されると、それに呼応するようにホーム柵扉73の開口部を閉ざすことが可能となる。
[変形例3]
また、単位装置10は、識別部13が反射した近赤外光を撮影して車両扉11の扉位置を検知するため、識別部13の色は自由に選択できる。例えば、当該識別部13を配置する列車各所の車体色(地色や塗装色)と同系色のものを用いることで、識別部13を見た目に目立たなくすることができる。逆に、車体色と異なる色や派手な色を選ぶことで、識別部13を目立たせることも可能である。表示板91が表示する基準マーカMKの色も同様である。
また、識別部や基準マーカは必ずしも再帰性反射材料で構成された反射部である必要はなく、撮影画像を画像解析することで識別可能な構成であればよい。例えば、車体側壁部や表示板等に所定色の塗料を塗布したりシールを貼付して構成することもできる。
[変形例4]
また、上記実施形態では、N台の単位装置10を構成する処理装置30の扉位置算出部375が、車両扉の位置を算出する演算制御部の機能を有することとし、各処理装置30がそれぞれ車両扉位置検知処理を行うこととした。これに対し、統括制御装置50の制御部57が演算制御部の機能を有することとしてもよい。すなわち、制御部57が、各単位装置10から撮影画像を受信して、各単位装置10についての車両扉位置検知処理を実行することとしてもよい。その場合、各処理装置30が、撮影画像を随時、統括制御装置50に出力することとして、統括制御装置50が、各処理装置30に関して、図11のステップS5〜S25の処理を行うこととすればよい。その場合、図8に示した処理装置30の各機能部や各種データを統括制御装置50が備えることとなる。
[その他の変形例]
また、上記実施形態では、列車が停止目標位置を目安に停止することを前提として説明したが、基本的に、上記撮影画像条件を満たすように撮影装置20及び基準マーカMKがホーム上に設置されていれば、列車の停止位置に関わらず、全ての車両扉の扉位置を検知できる。したがって、たとえ列車が停止目標位置から大きく外れた位置で停止したとしても、確実に扉位置を検知してホーム柵7に開口部を設けることができる。
また、停止目標位置自体は上記実施形態と同様に目安として定めておくこととし、当該停止目標位置を列車によって変えることも可能である。これによれば、例えば、行き先の異なる列車が着発するホームにおいて行き先別に異なる乗車位置(つまり扉位置)を設定し、行き先別の各列車に乗車する旅客の整列用のスペースをホーム上に別々に割り当てるといったことが自由に行えるようになる。つまり、仮に、編成車両や車両数が全く同じ列車が行き先別に設定された場合に、乗車位置(扉位置)を基準にして、行き先別の列車の停止目標位置を変えて設定すれば、行き先別に整列スペースを設けることができる。停止目標位置を同じとした場合には、列車の到着順番の別に整列スペースを設け、列車が出発したところで、整列していた旅客に移動を強いる必要があったが、その必要もなくなる。なお、その場合でも、列車の停止位置に精度が要求されるわけではない。先行列車と次発列車とで乗車位置を変える場合も同様のことができる。
また、上記実施形態では、駅に停止した列車の全ての車両扉の扉位置及び扉幅を登録した車両扉位置リスト595が得られることから、これを用いて列車情報を特定することも可能である。その場合は、統括制御装置50は、当該駅を着発する全ての列車の編成情報を一覧で定義した列車編成テーブルを予め用意して、記憶部59に格納しておく。図14は、列車編成テーブルのデータ構成例を示す図である。図14に示すように、列車編成テーブルには、編成種類番号と対応付けて、その編成車両毎に、車両扉の車両扉数や編成車両における位置、扉幅、当該編成車両の長さ(車両長)等が設定される。この列車編成テーブルを参照し、車両扉位置リスト595に設定された全ての車両扉の扉位置及び扉幅の組合せを各レコードと順次照合していけば、該当する編成種類番号を特定することができる。
また、カラー画像を出力可能なカメラを用いて撮影装置20を構成し、メンテナンス時に適宜参照できるように、当該カラー画像を記録しておく構成としてもよい。