以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態を説明する。なお、以下の説明では、同一又は類似の部材には同一の符号を付し、一度説明した部材についてはその説明を省略する場合がある。
本明細書中、「窒化物半導体層」は「GaN系半導体」を含む。「GaN系半導体」とは、窒化ガリウム(GaN)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化インジウム(InN)及びそれらの中間組成を備える半導体の総称である。
本明細書中、「アンドープ」とは、不純物濃度が1×1015cm−3以下であることを意味する。
本明細書中、部品等の位置関係を示すために、図面の上方向を「上」、図面の下方向を「下」と記述する。本明細書中、「上」、「下」の概念は、必ずしも重力の向きとの関係を示す用語ではない。
(第1の実施形態)
第1の実施形態の半導体装置は、窒化物半導体層と、絶縁層と、窒化物半導体層と絶縁層との間に位置し、水素及び重水素の少なくともいずれか一方の元素を含む第1の領域と、窒化物半導体層の中に位置し、第1の領域に隣り合い、フッ素を含む第2の領域と、を備える。また、第1の実施形態の半導体装置は、第1の窒化物半導体層と、第1の窒化物半導体層の上に位置し、第1の窒化物半導体層よりもバンドギャップが大きい第2の窒化物半導体層と、第1の窒化物半導体層の上に位置し、第1の窒化物半導体層に電気的に接続された第1の電極と、第1の窒化物半導体層の上に位置し、第1の窒化物半導体層に電気的に接続された第2の電極と、第1の電極と第2の電極との間に位置し、底面と側面を有し、底面が第1の窒化物半導体層の中に位置するトレンチと、トレンチの中に位置するゲート電極と、底面とゲート電極との間、及び、側面とゲート電極との間に位置するゲート絶縁層と、底面とゲート絶縁層との間に位置し、水素及び重水素の少なくともいずれか一方の元素含む第1の領域と、第1の窒化物半導体層及び第2の窒化物半導体層の少なくともいずれか一方の中に位置し、第1の領域に隣り合うフッ素を含有する第2の領域と、を備える。
図1は、第1の実施形態の半導体装置の模式断面図である。半導体装置は、GaN系半導体を用いたMIS構造のHEMT(High Electron Mobility Transistor)100である。HEMT100は、ゲート電極がトレンチ(リセス)内に設けられるゲート・リセス構造を備える。
HEMT100は、基板10、バッファ層12、チャネル層14(窒化物半導体層、第1の窒化物半導体層)、バリア層15(窒化物半導体層、第2の窒化物半導体層)、ゲート絶縁層16(絶縁層)、ゲート電極18、ソース電極20(第1の電極)、ドレイン電極22(第2の電極)、界面領域25(第1の領域)、層間絶縁層30、トレンチ40、及び、フッ素領域50(第2の領域)を備える。
トレンチ40は、底面40aと側面40bを有する。トレンチ40の底面40aはチャネル層14の中に位置する。ゲート絶縁層16及びゲート電極18は、トレンチ40の中に形成される。トレンチ40の底面40aがチャネル層14内に位置することにより、ゲート電極18の下の2次元電子ガスが消滅する。したがって、ノーマリーオフ動作の実現が可能となる。
基板10は、例えば、シリコン(Si)で形成される。シリコン以外にも、例えば、サファイア(Al2O3)や炭化珪素(SiC)を適用することも可能である。
基板10上に、バッファ層12が設けられる。バッファ層12は、基板10とチャネル層14との間の格子不整合を緩和する機能を備える。バッファ層12は、例えば、窒化アルミニウムガリウム(AlWGa1−WN(0<W≦1))の多層構造で形成される。
チャネル層14は、バッファ層12上に設けられる。チャネル層14は電子走行層とも称される。チャネル層14は、例えば、アンドープの窒化アルミニウムガリウム(AlXGa1−XN(0≦X<1))である。より具体的には、例えば、アンドープの窒化ガリウム(GaN)である。チャネル層14の膜厚は、例えば、0.1μm以上10μm以下である。
バリア層15は、チャネル層14上に設けられる。バリア層15は電子供給層とも称される。バリア層15のバンドギャップは、チャネル層14のバンドギャップよりも大きい。バリア層15は、例えば、アンドープの窒化アルミニウムガリウム(AlYGa1−YN(0<Y≦1、X<Y))である。より具体的には、例えば、アンドープのAl0.25Ga0.75Nである。バリア層15の膜厚は、例えば、10nm以上100nm以下である。
チャネル層14とバリア層15との間は、ヘテロ接合界面となる。ヘテロ接合界面に2次元電子ガス(2DEG)が形成されHEMT100のキャリアとなる。
また、チャネル層14とバリア層15の表面は、(0001)面である。(0001)面は、GaN系半導体のガリウム面である。チャネル層14とバリア層15の最表面は、ガリウム原子又はアルミニウム原子が配列する構造を有する。
ソース電極20は、チャネル層14及びバリア層15の上に設けられる。ソース電極20は、チャネル層14及びバリア層15に電気的に接続される。ソース電極20は、例えば、バリア層15に接する。
ソース電極20は、例えば、金属電極である。ソース電極20は、例えば、チタン(Ti)とアルミニウム(Al)の積層構造である。ソース電極20と、バリア層15との間はオーミックコンタクトであることが望ましい。
ドレイン電極22は、チャネル層14及びバリア層15の上に設けられる。ドレイン電極22は、チャネル層14及びバリア層15に電気的に接続される。ドレイン電極22は、例えば、バリア層15に接する。
ドレイン電極22は、例えば、金属電極である。ドレイン電極22は、例えば、チタン(Ti)とアルミニウム(Al)の積層構造である。ドレイン電極22と、バリア層15との間はオーミックコンタクトであることが望ましい。
ソース電極20とドレイン電極22との距離は、例えば、5μm以上30μm以下である。
なお、ソース電極20及びドレイン電極22は、チャネル層14に接する構造とすることも可能である。
トレンチ40は、ソース電極20とドレイン電極22の間に設けられる。トレンチ40は、底面40aと側面40bを有する。トレンチ40の底面40aはチャネル層14の中に位置する。図示はしないが、トレンチ40を形成する前に、窒化シリコン膜や窒化アルミニウムを形成し、それらを残したままプロセスを進めても良い。この場合、バリア層15の上には、バリア層15とゲート絶縁層16との間に、窒化シリコン膜又は窒化アルミニウム膜を含む積層膜が形成される。バリア層15の表面の保護の観点からは、バリア層15とゲート絶縁層16との間に、窒化シリコン膜又は窒化アルミニウム膜を挟むことが好ましい。
ゲート電極18の少なくとも一部は、トレンチ40の中に形成される。ゲート電極18は、バリア層15の上に設けられる。ゲート電極18は、ソース電極20とドレイン電極22の間に設けられる。
ゲート電極18は、例えば、導電性不純物を含む多結晶シリコンである。また、ゲート電極18は、例えば、金属である。ゲート電極18は、例えば、窒化チタン(TiN)である。
ゲート絶縁層16の少なくとも一部は、トレンチ40内に形成される。ゲート絶縁層16は、チャネル層14とゲート電極18との間に位置する。ゲート絶縁層16は、トレンチ40の底面40aとゲート電極18との間、及び、トレンチ40の側面40bとゲート電極18との間に位置する。
ゲート絶縁層16は、ゲート電極18とドレイン電極22との間のバリア層15上にも形成される。ゲート絶縁層16は、ゲート電極18とソース電極20との間のバリア層15上にも形成される。
ゲート絶縁層16は、例えば、酸化物又は酸窒化物である。ゲート絶縁層16は、例えば、酸化シリコン、酸化アルミニウム、酸窒化シリコン、又は、酸窒化アルミニウムである。ゲート絶縁層16は、例えば、窒化物を含んでいても良い。窒化物は、例えば、窒化シリコン、又は、窒化アルミニウムである。ゲート絶縁層16は通常は、アモルファス状態である。しかし、特に、窒化アルミニウムは、チャネル層14との界面に於いて、一部が結晶性を示す場合を含む。また、ゲート絶縁層16は、チャネル層14に接する部分と、バリア層15に接する部分とで、異なっていても構わない。
ゲート絶縁層16の厚さは、例えば、20nm以上100nm以下である。ゲート絶縁層16の酸化シリコン膜換算膜厚(EOT:Equivalent Oxide Thickness)は、例えば、20nm以上40nm以下である。
界面領域25は、チャネル層14及びバリア層15とゲート絶縁層16との間に設けられる。界面領域25は、トレンチ40の底面40a及び側面40bとゲート絶縁層16との間に設けられる。界面領域25は、ゲート電極18とドレイン電極22との間のバリア層15と、ゲート絶縁層16との間に設けられる。また、界面領域25は、ゲート電極18とソース電極20との間のバリア層15と、ゲート絶縁層16との間に設けられる。
界面領域25は、水素又は重水素を含む。界面領域25では、ガリウム原子又はアルミニウム原子のダングリングボンドが水素原子又は重水素原子で終端されている。以下、水素原子による終端の場合を例に説明する。
フッ素領域50は、トレンチ40の周囲のチャネル層14及びバリア層15の中に位置する。フッ素領域50は、チャネル層14の中のトレンチ40の底面40aに隣り合う。フッ素領域50は、チャネル層14の中のトレンチ40の底面40aの近傍に位置する。フッ素領域50は、トレンチ40の底面40aに接する。フッ素領域50は、バリア層15のトレンチ40の側面40bに隣り合う。フッ素領域50は、バリア層15のトレンチ40の側面40bの近傍に位置する。フッ素領域50は、トレンチ40の側面40bに接する。
フッ素領域50は、ゲート電極18とドレイン電極22との間のバリア層15の表面近傍に位置する。フッ素領域50は、ゲート電極18とドレイン電極22との間のバリア層15の表面に接する。フッ素領域50は、ゲート電極18とソース電極20との間のバリア層15の表面近傍に位置する。フッ素領域50は、ゲート電極18とソース電極20との間のバリア層15の表面に接する。フッ素領域50は、ドレイン電極22とバリア層15との間には存在しない方が好ましい。フッ素領域50は、ソース電極20とバリア層15との間には存在しない方が好ましい。フッ素領域50には窒素欠陥VN量が少ないため、シート抵抗が高くなってしまうおそれがある。
フッ素領域50は、界面領域25に隣り合う。フッ素領域50は、界面領域25の近傍に位置する。フッ素領域50は、界面領域25に接する。フッ素領域50は、フッ素(F)を含む窒化物半導体である。
図2は、第1の実施形態の半導体装置の元素の濃度分布を示す図である。図2は、ゲート絶縁層16、界面領域25、窒化物半導体層の中の元素の濃度分布を示す。図2は、図1のA−A’に沿った深さ方向の水素(H)とフッ素(F)の濃度分布を示す。図2では、ゲート絶縁層16が酸化シリコン(SiO2)、窒化物半導体層が窒化ガリウム(GaN)である場合を例示している。
界面領域25の中に水素濃度の分布の第1のピークがある。フッ素領域50の中にフッ素濃度の分布の第2のピークがある。
界面領域25の水素濃度は、例えば、1×1019cm−3以上1×1022cm−3以下である。フッ素領域50のフッ素濃度は、例えば、1×1019cm−3以上1×1022cm−3以下である。
界面領域25の水素濃度は、例えば、測定で得られる水素濃度の最大値で代表させる。フッ素領域50のフッ素濃度は、例えば、測定で得られるフッ素濃度の最大値で代表させる。
第1のピークの半値幅は、例えば、2nm以下である。第2のピークの半値幅は、例えば、10nm以下である。
また、水素濃度が最大値を有する第1の位置P1と、第1の位置P1に対して窒化物半導体層の側に存在し、最大値より二桁低い水素濃度を有する第2の位置P2との距離(図2中の“d”)は1nm以下である。
フッ素領域50は、窒化物半導体の結晶格子の窒素原子位置に存在する3個のフッ素原子を有する。フッ素領域50は、第1のガリウム原子と第2のガリウム原子に結合する第1のフッ素原子、第1のガリウム原子と第3のガリウム原子に結合する第2のフッ素原子、第1のガリウム原子と第4のガリウム原子に結合する第3のフッ素原子を有する。
半導体層、半導体領域の元素の種類、元素濃度は、例えば、SIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry)、EDX(Energy Dispersive X−ray Spectroscopy)により測定することが可能である。また、元素濃度の相対的な高低は、例えば、SCM(Scanning Capacitance Microscopy)で求められるキャリア濃度の高低から判断することも可能である。また、不純物領域の深さ、厚さ、幅、間隔などの距離は、例えば、SIMSで求めることが可能である。また。不純物領域の深さ、厚さ、幅、間隔などの距離は、例えば、SCM像とアトムプローブ像との比較画像からも求めることが可能である。
また、フッ素領域50中の原子の結合状態は、例えば、XPS(X−ray Photoelectron Spectroscopy)で判定することが可能である。また、フッ素領域50中の原子の結合状態や分布状態は、例えば、XAFS(X−ray Absorption Fine Structure)で判定することが可能である。
次に、第1の実施形態の半導体装置の製造方法の一例について説明する。図3、図4、図5、図6、図7、図8、図9は、第1の実施形態の半導体装置の製造方法を示す模式断面図である。
第1の実施形態の半導体装置の製造方法は、窒化物半導体層に底面と側面を有するトレンチを形成し、トレンチを形成した後に、三フッ化窒素を含む雰囲気中で第1のプラズマ処理を行い、トレンチ内にゲート絶縁層を形成し、水素を含む雰囲気中での熱処理を行い、ゲート絶縁層の上にゲート電極を形成する。
最初に、基板10、例えば、シリコン基板を準備する。次に、例えば、シリコン基板上にエピタキシャル成長により、バッファ層12となる窒化アルミニウムガリウムの多層構造を形成する。例えば、有機金属気相成長(MOCVD)法によりバッファ層12を成長させる。
次に、バッファ層12上に、チャネル層14(第1の窒化物半導体層)となるアンドープの窒化ガリウム、バリア層15(第2の窒化物半導体層)となるアンドープの窒化アルミニウムガリウムをエピタキシャル成長により形成する(図3)。例えば、MOCVD法により、チャネル層14、バリア層15を成長させる。
次に、マスク材60をマスクに、バリア層15及びチャネル層14にトレンチ40を形成する(図4)。トレンチ40は、バリア層15を貫通し、チャネル層14に達する。トレンチ40は、底面40aと側面40bとを有する。
マスク材60は、例えば、窒化シリコン膜である。トレンチ40は、例えば、反応性イオンエッチング法(RIE法)により形成する。トレンチ40は、例えば、塩素を含むガスを用いてエッチングする。
次に、マスク材60を剥離する(図5)。マスク材の剥離は、例えば、ウェットエッチングを用いて行う。
次に、三フッ化窒素(NF3)を含む雰囲気中で、第1のプラズマ処理を行う(図6)。第1のプラズマ処理により、フッ素領域50が形成される。フッ素領域50は、トレンチ40の周囲、及び、バリア層15の表面に形成される。
次に、チャネル層14及びバリア層15の上に、ゲート絶縁層16を形成する(図7)。ゲート絶縁層16は、酸化物又は酸窒化物である。ゲート絶縁層16は、例えば、酸化シリコン、酸化アルミニウム、酸窒化シリコン、又は、酸窒化アルミニウムである。但し、チャネル層14及びバリア層15との界面には、チャネル層14及びバリア層15からの窒素抜けを防止する意味で、0.5nm以上、5nm未満のアモルファスSi3N4膜、或いは、結晶化したAlN膜が挿入されていることが好ましい。0.5nm未満では、窒素供給源として機能し難い。5nm以上では、トラップとなる可能性が高い。
ゲート絶縁層16は、例えば、CVD法(Chemical Vapor Deposition法)により形成する。
次に、800℃以上1000℃以下の熱処理を行う。熱処理によりゲート絶縁層16のデンシファイを行う。
次に、水素を含む雰囲気中で熱処理を行う(図8)。例えば、水素ガス(H2ガス)と窒素ガス(N2ガス)との混合雰囲気中で、350℃以上500℃以下の温度で熱処理を行う。この熱処理により、水素を含む界面領域25が形成される。水素を含む雰囲気中での熱処理に先立ち、フッ素領域50を形成していることに注意が必要である。後に示されるように(図15)、フッ素領域50を形成せずに、水素を含む雰囲気中で熱処理を行うと、大量にある窒素欠陥に水素が入り、ギャップ中状態が出現することになる。このギャップ中状態に、電荷が出入りするため、デバイス動作が不安定化してしまう。
次に、ゲート絶縁層16の上にゲート電極18を形成する(図9)。ゲート電極18は、例えば、導電性不純物を含む多結晶シリコンである。また、ゲート電極18は、例えば、金属である。ゲート電極18は、例えば、窒化チタン(TiN)である。
ゲート電極18は、例えば、CVD法又はスパッタ法による導電膜の形成と、リソグラフィ法及びドライエッチング法によるパターニングにより形成する。
次に、公知の方法により、ソース電極20、ドレイン電極22、及び、層間絶縁層30を形成する。
以上の製造方法により、図1に示すHEMT100が形成される。
以下、第1の実施形態の半導体装置及びその製造方法の作用及び効果について説明する。
窒化物半導体を用いたトランジスタでは、窒化物半導体層と絶縁層との界面に界面準位(surface state)が存在する場合がある。窒化物半導体層と絶縁層との界面に界面準位が存在すると、移動度の低下、閾値電圧の変動、オン抵抗の増大等、トランジスタ特性の劣化が生じるという問題がある。
窒化物半導体層と絶縁層との間の界面準位は、窒化物半導体層の表面の原子のダングリングボンドにより形成されると考えられる。第1の実施形態の半導体装置では、窒化物半導体層の表面のダングリングボンドを水素原子で終端する。したがって、窒化物半導体層と絶縁層との間の界面準位が低減される。よって、トランジスタ特性の劣化が抑制される。以下、詳述する。
図10は、第1の実施形態の作用及び効果の説明図である。図10は、窒化物半導体層と絶縁層との界面領域を示す模式断面図である。図10では、絶縁層が酸化シリコン(SiO2)、窒化物半導体層が窒化ガリウム(GaN)である場合を例示している。
図10(a)は界面領域が水素を含まない場合を示す。水素を含まない場合は、界面領域にガリウム原子のダングリングボンドが存在する。ダングリングボンドにより界面準位が形成される。
図10(b)は界面領域が水素を含む場合を示す。図10(b)は、4個のダングリングボンドの内の3個が水素原子により終端されている。このため、ダングリングボンドにより界面準位が低減する。以下、この終端構造を3H終端と称する。
図10(c)は界面領域が水素を含む場合を示す。図10(b)は、4個のダングリングボンドの内の4個が水素原子により終端されている。このため、ダングリングボンドにより界面準位が低減する。以下、この終端構造を4H終端と称する。
発明者による第1原理計算の結果、酸化シリコンと窒化ガリウムとの間の界面において、3H終端及び4H終端のいずれもが安定に存在し得ることが明らかになった。
図11は、第1の実施形態の作用及び効果の説明図である。図11は、窒化ガリウム表面の水素終端によって形成されるエネルギー準位の説明図である。図11は窒化ガリウムのバンド構造の模式図である。図11(a)は3H終端の場合、図11(b)は4H終端の場合である。図11は第1原理計算の計算結果に基づいている。
図11(a)に示すように、3H終端の場合はバンドギャップ中にエネルギー準位が形成されない。一方、図11(b)に示すように4H終端の場合は、窒化ガリウムの価電子帯上端付近にエネルギー準位が形成される。
なお、図11(b)の黒丸は電子で埋まったエネルギー準位、白丸は電子で埋まっていないエネルギー準位を示している。4H終端により形成されるエネルギー準位は、価電子帯上端付近にあることで、電子を受け取るアクセプタ準位となる。4H終端により形成されるエネルギー準位は、負の固定電荷を形成する。
図12は、第1の実施形態の作用及び効果の説明図である。図12は、3H終端の生成エネルギーと4H終端の生成エネルギーの差分を示す。図12は、第1原理計算の結果に基づいている。
3H終端と1個の水素が共存する場合の生成エネルギーと、4H終端の生成エネルギーとの差分を計算した結果である。正の値の場合は3H終端が安定となり、負の値の場合は4H終端が安定となる。
3H終端と共存する1個の水素の状態が、イオンの場合、分子の場合、酸化シリコンの格子間に存在する場合を計算した。例えば、水素プラズマの中では水素がイオン状態で存在し、水素ガス(H2ガス)の中では水素が分子状態で存在する。
図12から明らかなように、例えば、水素イオンの場合は4H終端が安定であり、水素分子の場合は3H終端が安定である。したがって、水素を水素プラズマで界面に供給する場合は4H終端が形成されやすく、水素を水素ガスで供給した場合は3H終端が形成されやすい。
第1の実施形態の半導体装置では、ゲート電極18直下のチャネル層14とゲート絶縁層16との間の界面領域25において、チャネル層14の表面のガリウム原子のダングリングボンドが水素原子で終端される。したがって、ゲート電極18直下の界面準位が低減される。よって、電子の移動度の低下、及び、閾値電圧の変動が抑制される。
第1の実施形態の半導体装置では、ゲート電極18とドレイン電極22との間のバリア層15と、ゲート絶縁層16との間の界面領域25において、バリア層15の表面のガリウム原子又はアルミニウム原子のダングリングボンドが水素原子で終端される。したがって、ゲート電極18とドレイン電極22との間の界面準位が低減される。
ゲート電極18とドレイン電極22との間の界面準位が低減すると、界面準位に電子がトラップされることにより生ずる電流コラプスが抑制される。電流コラプスはトランジスタのオン抵抗が増大する現象である。
仮に、ゲート電極18とドレイン電極22との間の界面領域25が4H終端であるとすると、上述のように負の固定電荷が形成される。ゲート電極18とドレイン電極22との間の界面領域25に負の固定電荷が存在すると、2DEG濃度が低減しオン抵抗が増大するおそれがある。
第1の実施形態の半導体装置の製造方法では、界面領域25を形成する際、水素ガス(H2)を含む雰囲気中での熱処理を行う。したがって、終端構造が3H終端となり、負の固定電荷は形成されない。よって、オン抵抗の増大が抑制される。
窒化物半導体層と絶縁層との界面領域のガリウム原子のダングリングボンドは、フッ素原子によっても終端することが可能である。フッ素原子による終端の場合も、4個のダングリングボンドの内の3個をフッ素原子で終端する3F終端、及び、4個のダングリングボンドの内の4個をフッ素原子で終端する4F終端が可能であることが、発明者による第1原理計算の結果、明らかになっている。
図13は、第1の実施形態の作用及び効果の説明図である。図13は、第1原理計算による窒化ガリウムのバンド構造の計算結果である。図13(a)は3F終端の場合、図13(b)は3H終端の場合である。
3H終端の場合、3F終端の場合と比較してバンドギャップ(Eg)が広くなる。したがって、3H終端の場合、3F終端の場合と比較して電子障壁が大きくなる。よって、ゲート絶縁層16の信頼性が向上する。
また、3H終端の場合、3F終端の場合と比較して伝導体下端のエネルギーの凹凸(図13中の点線)が大きくなる。したがって、HEMT100のMOS界面のチャネルを走行する電子の有効質量が小さくなる。よって、MOS界面の電子の移動度が向上する。
以上のように、窒化物半導体層と絶縁層との界面領域のガリウム原子のダングリングボンドの終端をフッ素原子ではなく水素原子で終端することで、HEMT100の特性が向上する。
なお、水素原子に代えて重水素原子でダングリングボンドを終端する場合、HEMT100のチャネルを走行する電子の散乱が抑制され、更に電子の移動度が向上する。これは、質量の大きい重水素原子の熱振動が、水素原子に比較して小さいからである。一般に電子が散乱を受ける際、電子を散乱させる散乱体が重い程、電子はエネルギーを失わずに済む。よって、出来る限り質量の重い終端元素を使う方が、界面散乱を抑制する観点から有利である。
図14は、第1の実施形態の作用及び効果の説明図である。図14は、窒化ガリウム中の窒素空孔によって形成されるエネルギー準位の説明図である。図14(a)は窒化ガリウムのバンド構造の模式図、図14(b)は第1原理計算によるバンド構造の計算結果である。
図14(a)、図14(b)に示すように、窒素空孔により窒化ガリウムの伝導帯下端付近にエネルギー準位が形成される。なお、図14(a)の黒丸は電子で埋まったエネルギー準位、白丸は電子で埋まっていないエネルギー準位を示している。窒素空孔により形成されるエネルギー準位は、伝導帯下端付近にあることで、電子を放出するドナー準位となる。
窒化物半導体層内には、例えば、プロセスダメージにより形成される窒素空孔(VN)が存在する。特に、トレンチをRIE法により形成する場合、高電界で加速されたイオンがトレンチ底面や側面に衝突する。イオンの衝突により、窒化物半導体層内にエッチングダメージが及ぶ。エッチングダメージにより、多量の窒素空孔がトレンチ周囲の窒化物半導体層内に形成される。
窒素空孔は、ドナー準位となるため、トレンチ周囲の窒化物半導体層がn型半導体となる。したがって、HEMTの閾値電圧が低下する。
図15は、第1の実施形態の作用及び効果の説明図である。図15は、窒化ガリウムの窒素原子の格子位置に4個の水素(H)が存在する構造の説明図である。図15(a)はバンド構造の模式図、図15(b)は第1原理計算によるバンド構造の計算結果である。
窒素空孔を4個の水素原子で埋めた構造がエネルギー的に安定であることは、発明者による第1原理計算の結果明らかになっている。以下、この構造をVN−4H構造と称する。
しかしながら、図15(a)、図15(b)に示すようにVN−4H構造では、ガリウムの価電子帯と伝導帯との中間付近にエネルギー準位が形成される。なお、図15(a)の黒丸は電子で埋まったエネルギー準位、白丸は電子で埋まっていないエネルギー準位を示している。
価電子帯と伝導帯との中間付近のエネルギー準位は、電荷の正負が安定しない。したがって、VN−4H構造が窒化物半導体層内にあると、HEMTの特性が安定しない。よって、VN−4H構造は、窒素空孔を消滅させるための構造としては好ましくない。
図16は、第1の実施形態の作用及び効果の説明図である。図16は、窒化ガリウムの結晶構造中に存在するガリウム原子で形成された四面体構造を示す。図16(a)は基本構造、図16(b)は窒素空孔の構造、図16(c)が第1の実施形態のフッ素領域50が備える構造である。
図16(a)の基本構造では、第1のガリウム原子(G1)、第2のガリウム原子(G2)、第3のガリウム原子(G3)、第4のガリウム原子(G4)で形成された四面体構造の中心部に窒素原子(N)が位置する。
図16(b)は、四面体構造の中心部から窒素原子(N)が離脱し、窒素空孔(VN)が形成された構造である。以下、図16(b)の構造をVN構造と称する。
第1の実施形態のフッ素領域50には、図16(c)に示す構造が含まれる。すなわち、窒化ガリウムの結晶格子の窒素原子位置に存在する3個のフッ素原子を有する構造である。いいかえれば、窒化ガリウムの結晶構造中に存在する窒素原子を、3個のフッ素原子で置換した構造である。
より具体的には、第1のガリウム原子(G1)と第2のガリウム原子(G2)に結合する第1のフッ素原子(F1)、第1のガリウム原子(G1)と第3のガリウム原子(G3)に結合する第2のフッ素原子(F2)、第1のガリウム原子(G1)と第4のガリウム原子(G4)に結合する第3のフッ素原子(F3)を有する構造である。以下、図16(c)の構造をVN−3F構造と称する。発明者による第1原理計算により、VN−3F構造が安定であることが明らかになった。
なお、VN−3F構造は、VNが存在する状態からは容易に生成されるが、VNのない基本構造(図16(a))からの生成は、エネルギー障壁が高く容易ではない。
図17は、第1の実施形態の作用及び効果の説明図である。図17は、VN−3F構造の説明図である。図17(a)はバンド構造の模式図、図17(b)は第1原理計算によるバンド構造の計算結果である。
図17(a)、図17(b)に示すように、VN−3F構造では、窒素空孔により形成されていたドナー準位は消滅する。第1の実施形態のHEMT100では、トレンチ40の周囲の窒素空孔が多量に存在していた領域に、フッ素領域50を備える。このため、窒素空孔によるドナー準位が低減する。したがって、HEMT100の閾値電圧の低下が抑制される。よって、高い閾値電圧を有するHEMT100が実現される。
第1の実施形態の半導体装置の製造方法では、トレンチ40をRIE法により形成した後、三フッ化窒素(NF3)を含む雰囲気中で第1のプラズマ処理を行う。第1のプラズマ処理により、トレンチ40のエッチングで生じた多量の窒素空孔を3個のフッ素原子で埋める。
三フッ化窒素を構成するフッ素原子と窒素原子のいずれもが窒素空孔を埋めることができる。したがって、効率的に窒素空孔を消滅させることが可能である。
また、三フッ化窒素の窒化物半導体との反応性は、例えば、六フッ化硫黄(SF6)、四フッ化炭素(CF4)等の他のフッ化物と窒化物半導体との反応性よりも低い。したがって、窒化物半導体のエッチングが第1のプラズマ処理で進行することが抑制される。
また、六フッ化硫黄(SF6)、四フッ化炭素(CF4)等の他のフッ化物を用いると、硫黄(S)や炭素(C)が、新たなエネルギー準位を窒化物半導体のバンドギャップ中に形成する。したがって、HEMTの特性が劣化するおそれがある。
NF3処理では、Fが近傍に3つあるため、VNはVN−3F構造となる。更にFを結合させたVN−3FF構造にするには、追加でFを供給する必要がある。この時、大部分は格子間Fi構造となるが、長時間アニールなどによって、VN3FF構造が出来る。Fi構造は熱処理によって、外方拡散してしまうが、VN3FF構造は安定で、負の電荷を持つ。プラズマ処理をNF3処理とF2処理に分割することによって、VN3F構造とVN3FF構造を使い分けることが可能となる。
例えば、CF4処理やSF6処理を行った場合は、初期段階からVN3FF構造が出来ることになり、VN3F構造(チャージアップなし)とVN3FF構造(VN3F構造の近傍の格子間にFが導入され、負にチャージアップした構造)とを使い分けることができなくなってしまう。CF4やSF6を使った場合は、CやSが窒化物中に拡散してトラップを形成するというデメリットだけではなく、VN3F構造とVN3FF構造とを使い分けることができないというデメリットもある。
フッ素領域50のフッ素濃度は、1×1019cm−3以上1×1022cm−3以下であることが好ましく、5×1019cm−3以上1×1021cm−3以下あることがより好ましい。上記範囲を下回ると窒素空孔が残存するおそれがある。上記範囲を上回ることは、通常の製造条件では実現困難である。
VN構造が存在した状態で、水素を含む雰囲気中で熱処理を行い界面領域25の形成を行うと、上述のVN−4H構造が形成され、HEMTの特性が劣化する。第1の実施形態の半導体装置では、界面領域25の形成の前にVN−3F構造を形成することで、VN構造を消滅させる。したがって、VN−4H構造の形成が抑制される。よって、HEMTの特性の劣化が抑制される。
以上、第1の実施形態の半導体装置及びその製造方法によれば、窒化物半導体層の表面のダングリングボンドを水素原子で終端する。したがって、窒化物半導体層と絶縁層との間の界面準位が低減される。よって、トランジスタ特性の向上したHEMT100が実現される。
(第2の実施形態)
第2の実施形態の半導体装置は、ゲート電極と第2の電極との間の第2の窒化物半導体層と、ゲート絶縁層との間に、第1の領域が存在しない点で、第1の実施形態と異なる。以下、第1の実施形態と重複する内容については、一部記述を省略する。
図18は、第2の実施形態の半導体装置の模式断面図である。半導体装置は、GaN系半導体を用いたMIS構造のHEMT200である。HEMT200は、ゲート電極がトレンチ内に設けられるゲート・リセス構造を備える。
HEMT200は、基板10、バッファ層12、チャネル層14(窒化物半導体層、第1の窒化物半導体層)、バリア層15(窒化物半導体層、第2の窒化物半導体層)、ゲート絶縁層16(絶縁層)、ゲート電極18、ソース電極20(第1の電極)、ドレイン電極22(第2の電極)、界面領域25(第1の領域)、層間絶縁層30、トレンチ40、及び、フッ素領域50(第2の領域)を備える。
トレンチ40は、底面40aと側面40bを有する。トレンチ40の底面40aはチャネル層14の中に位置する。ゲート絶縁層16及びゲート電極18は、トレンチ40の中に形成される。トレンチ40の底面40aがチャネル層14内に位置することにより、ゲート電極18の下の2次元電子ガスが消滅する。したがって、ノーマリーオフ動作の実現が可能となる。
界面領域25は、チャネル層14及びバリア層15とゲート絶縁層16との間に設けられる。界面領域25は、トレンチ40の底面40a及び側面40bとゲート絶縁層16との間に設けられる。
界面領域25は、水素又は重水素を含む。界面領域25では、ガリウム原子又はアルミニウム原子のダングリングボンドが水素原子又は重水素原子で終端されている。以下、水素原子による終端の場合を例に説明する。
界面領域25は、4H終端である。界面領域25には負の固定電荷が形成されている。なお、4個のダングリングボンドの内の4個の重水素原子(D)で終端する構造(4D終端)の場合も水素原子の場合と同様、負の固定電荷が形成される。
フッ素領域50は、トレンチ40の周囲のチャネル層14及びバリア層15の中に位置する。フッ素領域50は、チャネル層14の中のトレンチ40の底面40aに隣り合う。フッ素領域50は、チャネル層14の中のトレンチ40の底面40aの近傍に位置する。フッ素領域50は、トレンチ40の底面40aに接する。フッ素領域50は、バリア層15のトレンチ40の側面40bに隣り合う。フッ素領域50は、バリア層15のトレンチ40の側面40bの近傍に位置する。フッ素領域50は、トレンチ40の側面40bに接する。
フッ素領域50は、界面領域25に隣り合う。フッ素領域50は、界面領域25の近傍に位置する。フッ素領域50は、界面領域25に接する。フッ素領域50は、フッ素(F)を含む窒化物半導体である。
次に、第2の実施形態の半導体装置の製造方法の一例について説明する。図19、図20、図21、図22、図23、図24は、第2の実施形態の半導体装置の製造方法を示す模式断面図である。
第2の実施形態の半導体装置の製造方法は、窒化物半導体層に底面と側面を有するトレンチを形成し、トレンチを形成した後に、三フッ化窒素を含む雰囲気中で第1のプラズマ処理を行い、トレンチ内にゲート絶縁層を形成し、水素を含む雰囲気中での第2のプラズマ処理を行い、ゲート絶縁層の上にゲート電極を形成する。第2の実施形態の半導体装置の製造方法は、水素を含む雰囲気中での第2のプラズマ処理を行う点で、第1の実施形態の半導体装置の製造方法と異なる。
ここで、VN3FにHプラズマが作用すると、VN3F−H構造となり得る。この時、負にチャージアップすることになる。VN3F構造の、少なくとも一部が、VN3F−H構造となっていても良い。
マスク材60をマスクに、バリア層15及びチャネル層14にトレンチ40を形成するまでは第1の実施形態と同様である(図19)。
次に、三フッ化窒素(NF3)を含む雰囲気中で、第1のプラズマ処理を行う(図20)。第1のプラズマ処理により、フッ素領域50が形成される。フッ素領域50は、トレンチ40の周囲に形成される。
次に、マスク材60を剥離する。マスク材の剥離は、例えば、ウェットエッチングを用いて行う。
次に、チャネル層14及びバリア層15の上に、ゲート絶縁層16を形成する(図21)。ゲート絶縁層16は、酸化物又は酸窒化物である。ゲート絶縁層16は、例えば、酸化シリコン、酸化アルミニウム、酸窒化シリコン、又は、酸窒化アルミニウムである。但し、チャネル層14及びバリア層15との界面には、チャネル層14及びバリア層15からの窒素抜けを防止する意味で、0.5nm以上、5nm未満のアモルファスSi3N4膜、或いは、結晶化したAlN膜が挿入されていることが好ましい。0.5nm未満では、窒素供給源として機能し難い。5nm以上では、トラップとなる可能性が高い。
ゲート絶縁層16は、例えば、CVD法(Chemical Vapor Deposition法)により形成する。
次に、800℃以上1000℃以下の熱処理を行う。熱処理によりゲート絶縁層16のデンシファイを行う。
次に、ゲート絶縁層16のトレンチ40以外の領域にマスク材62を形成する(図22)。マスク材60は、例えば、窒化シリコン膜である。
次に、水素を含む雰囲気中で第2のプラズマ処理を行う(図23)。水素プラズマにより、水素を含む界面領域25がトレンチ40内に形成される。
次に、マスク材62を剥離した後、ゲート絶縁層16の上にゲート電極18を形成する(図24)。ゲート電極18は、例えば、導電性不純物を含む多結晶シリコンである。また、ゲート電極18は、例えば、金属である。ゲート電極18は、例えば、窒化チタン(TiN)である。
ゲート電極18は、例えば、CVD法又はスパッタ法による導電膜の形成と、リソグラフィ法及びドライエッチング法によるパターニングにより形成する。
次に、公知の方法により、ソース電極20、ドレイン電極22、及び、層間絶縁層30を形成する。
以上の製造方法により、図18に示すHEMT200が形成される。
第2の実施形態の半導体装置及びその製造方法によれば、界面領域25が負の固定電荷を備える。したがって、HEMT200の閾値電圧が高くなる。
以上、第2の実施形態の半導体装置及びその製造方法によれば、窒化物半導体層の表面のダングリングボンドを水素原子で終端する。したがって、窒化物半導体層と絶縁層との間の界面準位が低減される。さらに、閾値電圧が高くなる。よって、トランジスタ特性の向上したHEMT200が実現される。
(第3の実施形態)
第3の実施形態の半導体装置は、窒化物半導体層と、酸化シリコン層と、窒化物半導体層と酸化シリコン層との間に位置し、水素及び重水素の少なくともいずれか一方の元素を含む第1の領域と、を備え、酸化シリコン層、第1の領域、及び、窒化物半導体層の中の少なくともいずれか一方の元素の濃度分布において、少なくともいずれか一方の元素の濃度が最大値を有する第1の位置と、第1の位置に対して窒化物半導体層の側に存在し最大値より二桁低い少なくともいずれか一方の元素の濃度を有する第2の位置との距離が1nm以下である。第3の実施形態の半導体装置は、第2の領域を備えない点で、第1の実施形態と異なる。以下、第1の実施形態と重複する内容については、一部記述を省略する。
図25は、第3の実施形態の半導体装置の模式断面図である。半導体装置は、GaN系半導体を用いたMIS構造のHEMT300である。HEMT300は、ゲート電極がトレンチ内に設けられるゲート・リセス構造を備える。
HEMT300は、基板10、バッファ層12、チャネル層14(窒化物半導体層、第1の窒化物半導体層)、バリア層15(窒化物半導体層、第2の窒化物半導体層)、ゲート絶縁層16(酸化シリコン層)、ゲート電極18、ソース電極20(第1の電極)、ドレイン電極22(第2の電極)、界面領域25(第1の領域)、層間絶縁層30、及び、トレンチ40を備える。
トレンチ40は、底面40aと側面40bを有する。トレンチ40の底面40aはチャネル層14の中に位置する。ゲート絶縁層16及びゲート電極18は、トレンチ40の中に形成される。トレンチ40の底面40aがチャネル層14内に位置することにより、ゲート電極18の下の2次元電子ガスが消滅する。したがって、ノーマリーオフ動作の実現が可能となる。
ゲート絶縁層16は、例えば、酸化シリコンである。
界面領域25は、チャネル層14及びバリア層15とゲート絶縁層16との間に設けられる。界面領域25は、トレンチ40の底面40a及び側面40bとゲート絶縁層16との間に設けられる。界面領域25は、ゲート電極18とドレイン電極22との間のバリア層15と、ゲート絶縁層16との間に設けられる。また、界面領域25は、ゲート電極18とソース電極20との間のバリア層15と、ゲート絶縁層16との間に設けられる。
界面領域25は、水素又は重水素を含む。界面領域25では、ガリウム原子又はアルミニウム原子のダングリングボンドが水素原子又は重水素原子で終端されている。以下、水素原子による終端の場合を例に説明する。
図26は、第3の実施形態の半導体装置の元素の濃度分布を示す図である。図26は、ゲート絶縁層16、界面領域25、窒化物半導体層の中の元素の濃度分布を示す。図26は、図25のB−B’に沿った深さ方向の水素(H)の濃度分布を示す。図26では、ゲート絶縁層16が酸化シリコン(SiO2)、窒化物半導体層が窒化ガリウム(GaN)である場合を例示している。
界面領域25の中に水素の濃度分布の第1のピークがある。第1のピークの半値幅は、例えば、2nm以下である。界面領域25の水素濃度は、例えば、1×1019cm−3以上1×1022cm−3以下である。
また、水素の濃度が最大値を有する第1の位置P1と、第1の位置P1に対して窒化物半導体層の側に存在し、最大値より二桁低い水素濃度を有する第2の位置P2との距離(図26中の“d”)は1nm以下である。
HEMT300を製造する場合、プロセスダメージにより形成される窒化物半導体層中のVN構造は、窒素を含む雰囲気中の熱処理により低減させることが好ましい。
窒化物半導体層中にVN構造が大量にあると、ゲート絶縁膜SiO2を形成する段階で界面が酸化されGa2O3層(Gaに酸素が3つ結合した構造)が形成される。VN構造を十分に減らした上で、水素終端を行う必要がある。VN構造を減らすと、耐酸化性が向上するため、結果として、Ga2O3層ではなく、GaON層(Gaに3つの窒素と1つの酸素が結合した構造)が形成される。この時、酸素量/(酸素量+窒素量)は0.15<酸素量/(酸素量+窒素量)≦0.35である。酸素量/(酸素量+窒素量)は0.2<酸素量/(酸素量+窒素量)<0.3がより好ましい。
VN構造を十分に減らす一つの方法(VN除去処理)は、窒化物半導体層表面を低温(室温が好ましい)窒素プラズマ処理することである。VN除去処理を長時間行った場合の、GaONの典型的な酸素量/(酸素量+窒素量)の値は0.25である。0.25でエネルギー的に最安定となるためである。ゲート絶縁膜SiO2をエッチングして、表面をXPS分析すれば分かる。
SiO2は、低温にてCVDなどで成膜する。その後、H2処理を行えば、3H終端構造が出来る。また、プラズマ水素処理を行えば、4H終端が出来る。4H終端では、負にチャージアップするため、閾値を上げることが出来る。
以上、第3の実施形態の半導体装置によれば、第1の実施形態と同様、窒化物半導体層の表面のダングリングボンドを水素原子で終端する。したがって、窒化物半導体層と絶縁層との間の界面準位が低減される。よって、トランジスタ特性の向上したHEMT300が実現される。
(第4の実施形態)
第4の実施形態の半導体装置は、底面が、第2の窒化物半導体層の中に位置する点で、第1の実施形態と異なっている。以下、第1の実施形態と重複する内容については、一部記述を省略する。
図27は、第4の実施形態の半導体装置の模式断面図である。半導体装置は、GaN系半導体を用いたMIS構造のHEMT400である。HEMT400は、ゲート電極がトレンチ内に設けられるゲート・リセス構造を備える。
HEMT400は、基板10、バッファ層12、チャネル層14(窒化物半導体層、第1の窒化物半導体層)、バリア層15(窒化物半導体層、第2の窒化物半導体層)、ゲート絶縁層16(絶縁層)、ゲート電極18、ソース電極20(第1の電極)、ドレイン電極22(第2の電極)、界面領域25(第1の領域)、層間絶縁層30、トレンチ40、及び、フッ素領域50(第2の領域)を備える。
トレンチ40は、底面40aと側面40bを有する。トレンチ40の底面40aはバリア層15の中に位置する。ゲート絶縁層16及びゲート電極18は、トレンチ40の中に形成される。トレンチ40の底面40aの直下のバリア層15の厚さが薄くなり、ゲート電極18の下の2次元電子ガスの密度が低減する。したがって、ノーマリーオフ動作の実現が可能となる。
第4の実施形態の半導体装置によれば、第1の実施形態と同様、窒化物半導体層の表面のダングリングボンドを水素原子で終端する。したがって、窒化物半導体層と絶縁層との間の界面準位が低減される。よって、トランジスタ特性の向上したHEMT400が実現される。
(第5の実施形態)
第5の実施形態の電源回路及びコンピュータは、第1ないし第4の実施形態のHEMTを有する。
図28は、第5の実施形態のコンピュータの模式図である。第5の実施形態のコンピュータは、例えば、サーバ500である。
サーバ500は筐体160内に電源回路162を有する。サーバ500は、サーバソフトウェアを稼働させるコンピュータである。電源回路162は、例えば、第1の実施形態のHEMT100を有する。
電源回路162は、トランジスタ特性の向上したHEMT100を有することにより、安定した動作が実現される。また、サーバ500は、電源回路162を有することにより、安定した動作が実現される。
第5の実施形態によれば、安定した動作が実現される電源回路及びコンピュータが実現できる。
第1ないし第4の実施形態では、窒化物半導体としてガリウム(Ga)を含む窒化ガリウムや窒化アルミニウムガリウムを例に説明したが、例えば、インジウム(In)を含有する窒化インジウムガリウム、窒化インジウムアルミニウムガリウムを適用することも可能である。Gaを含まない、窒化アルミニウム、窒化インジウム、窒化インジウムアルミニウムも可能である。また、これらの積層構造も可能である。
また、第1ないし第4の実施形態では、バリア層15として、アンドープの窒化アルミニウムガリウムを例に説明したが、n型の窒化アルミニウムガリウムを適用することも可能である。
また、第1ないし第4の実施形態ではゲート・リセス構造を有するHEMTを例に説明したが、ゲート・リセス構造を備えないプレーナゲート構造のHEMTに本発明を適用することも可能である。
また、トレンチ底部に、窒化アルミニウムガリウムや窒化アルミニウムなどを再度成長させた構造なども可能である。
また、第1ないし第4の実施形態では、キャリアに2次元電子ガスを用いるHEMTを例に説明したが、2次元電子ガスを用いない通常のMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)に本発明を適用することも可能である。
また、第1ないし第4の実施形態では、絶縁層がゲート絶縁層である場合を例に説明したが、絶縁層は必ずしもゲート絶縁層に限定されるものではない。
また、絶縁膜は、例えば、窒化物を含んでいても良い。例えば、窒化シリコン、又は、窒化アルミニウムである。また、絶縁膜は、チャネル層14に接する部分と、バリア層15に接する部分とで、異なった積層膜であってもよい。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。例えば、一実施形態の構成要素を他の実施形態の構成要素と置き換え又は変更してもよい。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。