図を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。まず、本発明の実施形態に係る床構造について説明する。
図1の正面図、図1のA−A断面図である図2、及び図1のB−B断面図である図3に示すように、本実施形態の床構造10は、振動低減対象となる第1床部12(図2の一点鎖線で囲まれた部分)と、第2床部14(図3の一点鎖線で囲まれた部分)と、制振ダンパーとしての粘性系ダンパー16と、を有して構成されている。
第1床部12及び第2床部14は、建物18に設けられ、床スラブ20及び梁22を有して構成されている。床スラブ20は、躯体柱としての柱24と、躯体周辺梁としての梁26とに周縁を支持されている。梁22は、格子状に配置され、両端が柱24に支持されて床スラブ20を支持している。また、第1床部12は、梁22の仕口部28を有して構成され、第2床部14は、柱24の仕口部30を有して構成されている。
床スラブ20は、鉄筋コンクリートによって形成され、柱24、及び仕口部28、30は、角形鋼管によって形成され、梁22、26は、H形鋼によって形成されている。なお、柱24、仕口部28、30、梁22、26は、鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造等の他の構造部材であってもよい。
第1床部12は、柱24及び梁26により床スラブ20を支持する支持間距離が大スパンとなる大スパン床を構成している。
第2床部14は、第1床部12の下方に配置されている。第2床部14は、下柱としての柱24(以下、「柱24A」とする)で、第2床部14の周縁部内側の部位(柱24Aの仕口部30)を支持されることにより、第1床部12の剛性よりも剛性が大きくなっている。これにより、第1床部12と第2床部14との振動特性としての固有振動数を異ならせている。
図1、図3、及び図4の正面図に示すように、粘性系ダンパー16は、第2床部14の四隅寄りに位置する柱24Aの仕口部30(以下、「仕口部30A」とする)上面に立設された支持部材32の上端部に、球面軸受34を介して下端部が回転可能に接続され、仕口部30Aの真上に位置する梁22の仕口部28の下面に吊設された支持部材38の下端部に球面軸受36を介して上端部が回転可能に接続されている。これによって、第1床部12と第2床部14とが、粘性系ダンパー16により繋がれている。
支持部材32、38は、角形鋼管により構成されている。また、粘性系ダンパー16は、支持部材32、38を介して、柱24Aの仕口部30Aと、この仕口部30Aの真上に位置する仕口部28とを繋ぐようにして配置されることにより、粘性系ダンパー16の向き40(粘性系ダンパー16の作動方向)は、略鉛直になっている。
次に、本発明の実施形態に係る床構造の作用と効果について説明する。
本実施形態の床構造10では、図1に示すように、上下に配置された振動特性(固有振動数)の異なる第1床部12と第2床部14とを粘性系ダンパー16で繋ぐことによって、粘性系ダンパー16の変位量を大きくすることができ、振動低減対象となる第1床部12の床振動を粘性系ダンパー16により効率よく低減することができる。
また、本実施形態の床構造10では、図1に示すように、第2床部14の周縁部内側の部位(柱24Aの仕口部30)を下柱としての柱24Aで支持することにより第2床部14の剛性を第1床部12の剛性よりも大きくし、第1床部12と第2床部14との固有振動数を異ならせることによって、第1床部12と第2床部14との振動特性を異ならせることができる。
図5の平面図、及び図6の側面図には、粘性系ダンパー等の制振ダンパー42を用いて床スラブ44(一点鎖線で囲まれた部分)の床振動を低減する従来の床構造46の例が示されている。
床構造46のように、制振ダンパー42を用いて、床スラブ44に対して効率良く高い制振効果を得るためには、床スラブ44の振動モードにおいて床スラブ44の床振動の振幅が最も大きくなる床中央部48付近と、床スラブ44の振動モードにおいてほとんど振動を生じない、床スラブ44の周縁を支持する支持構造体としての梁26や柱24と、を繋ぐように制振ダンパー42を設けるのが有効である。図5では、床中央部48付近と、床スラブ44の四隅に配置された柱24とを繋ぐように制振ダンパー42が設けられている例が示されている。
しかし、この床構造46では、制振ダンパー42のダンパー長(制振ダンパー42の設置間水平距離d)が長くなり、且つ、高さ方向に対して狭い床下空間50(天井裏空間)内に制振ダンパー42を配置しなければならない。
よって、制振ダンパー42は、小さな傾斜で傾けて配置されることになり、このため制振ダンパー42の変位量が大きくならないので、床スラブ44に発生する上下振動に対して制振ダンパー42の減衰力を効果的に発揮させることができなくなってしまう。
これに対して、本実施形態の床構造10は、図1に示すように、上下に配置された振動特性の異なる第1床部12と第2床部14とを粘性系ダンパー16で繋ぐことにより、粘性系ダンパー16の変位量を大きくして、振動低減対象となる第1床部12の床振動を粘性系ダンパー16により効率よく低減するものなので、第1床部12の振動モードにおいて大きく振動する第1床部12の中央部付近と、第1床部12の振動モードにおいてほとんど振動を生じない、第1床部12を構成する床スラブ20の周辺部を支持する梁26や柱24と、を繋ぐように粘性系ダンパー16を設けなくても粘性系ダンパー16の変位量を大きくすることができる。
これにより、第1床部12に発生する上下振動に対して減衰力を効果的に発揮させられるように粘性系ダンパー16を配置することができる。例えば、粘性系ダンパー16の向き40(粘性系ダンパー16の作動方向)を鉛直方向に、又は鉛直方向に近くすることができる(図1及び図4には、粘性系ダンパー16の向き40が鉛直方向になっている例が示されている)。すなわち、第1床部12の床振動に対して粘性系ダンパー16の減衰力を効果的に発揮させることができる。
さらに、本実施形態の床構造10では、図1に示すように、従来であれば柱を配置していた位置に粘性系ダンパー16を配置しているので、粘性系ダンパー16の配置により部屋空間が大きく損なわれてしまうことがない。
図7の平面図、及び図7のC−C断面図である図8には、TMD(Tuned Mass Damper)52を用いて床スラブ44の床振動を低減する従来の床構造54の例が示されている。
TMD52は、床スラブ44の床中央部48下面にフランジ56を介して取り付けられた板状の粘弾性ゴム部材58と、粘弾性ゴム部材58の下面に設けられた質量体60と、を有して構成され、床下空間50に配置されている。
また、TMD52は、床スラブ44の固有振動数に同調するように粘弾性ゴム部材58の剛性が設定されている。これにより、床スラブ44の振動に質量体60を共振させて大きく振動させ、床スラブ44の振動エネルギーを吸収することによって床スラブ44の振動を低減することができる。
床構造54のようにTMD52を用いて床スラブ44の床振動を低減する場合、床スラブ44の振動モードにおいて床スラブ44の床振動の振幅が最も大きくなる床中央部48付近にTMD58を設置するのが好ましいが、床スラブ44の静的なたわみ量は、床中央部48付近に載荷するほど大きくなる。このため、床スラブ44や梁22の構造断面を大きくするなどして床スラブ44の剛性を高めなければならない。
床スラブ44は、スパンが大きくなるほど面積が広くなり、振動する床スラブ44の重量(有効重量)が大きくなる。よって、TMD52の質量体60の重量を大きくしないと床スラブ44の床振動を効果的に低減できなくなる。しかし、TMD52の質量体60の重量を大きくすると、床スラブ44の静的なたわみ量が大きくなってしまうので、床スラブ44の剛性をさらに高めなければならない。
また、質量体60の重量を大きくすると、質量体60の大きさも大きくなるので、床下空間50にTMD52を納められなくなることが懸念され、さらに、床スラブ44からTMD52が落下してしまわないように、床スラブ44にTMD52を強固に取り付けなければならなくなる。
これに対して、本実施形態の床構造10は、図1に示すように、上下に配置された振動特性の異なる第1床部12と第2床部14とを粘性系ダンパー16で繋ぐことにより、粘性系ダンパー16の変位量を大きくして、振動低減対象となる第1床部12の床振動を粘性系ダンパー16により効率よく低減するものなので、振動低減対象となる第1床部12の床スラブ20や梁22の構造断面を大きくするなどして第1床部12の床スラブ20の剛性を高めなくても、第1床部12の床振動を低減する十分な効果を得ることができる。
また、床構造54のようにTMD52を用いて床スラブ44の床振動を低減する場合、床スラブ44の固有振動数に対してTMD52の固有振動数がずれると、床振動の低減効果は大きく低下してしまう。
特に、イベントプラザなどのような多くの人が出入りしたり、イベント機材等が入れ替わったりする広場の床スラブは、積載重量の変動が大きくなる。このため、床スラブ44の固有振動数が変動して、TMD52の固有振動数とずれてしまうことが懸念される。
これに対して、本実施形態の床構造10では、図1に示すように、上下に配置された振動特性の異なる第1床部12と第2床部14とを粘性系ダンパー16で繋ぐことにより、粘性系ダンパー16の変位量を大きくして、振動低減対象となる第1床部12の床振動を粘性系ダンパー16により効率よく低減するものなので、図7の床構造54とは異なり、制振対象とした振動モードの固有振動数の変動によって第1床部12の床振動を低減する効果が大きく低下することがない。
ここで、本実施形態の床構造10の床振動低減効果を、数値シミュレーションを用いて検証した結果について説明する。
図9の斜視図には、縦27m、横27mの大スパン床のモデルとなる床スラブ62が示されている。
床スラブ62は、厚さが150mmの鉄筋コンクリート製のスラブとし、減衰を1次減衰定数を2%とした剛性比例型減衰としている。また、床スラブ62は、H形鋼(H-1000×400×19×36)からなる梁64により支持されている。梁64の配置間隔は9mとなっている。
図10の斜視図に示すように、数値シミュレーションにより求めた床スラブ62の1次振動モード形66は、床スラブ62の中央部68が盛り上がった(最も大きく振動する)形状となっている。また、このときの1次振動数は、5.4Hzとなっている。
図11の斜視図には、縦27m、横45mの大スパン床のモデルとなる床スラブ70が示されている。
床スラブ70は、厚さが150mmの鉄筋コンクリート製のスラブとし、減衰を1次減衰定数を2%とした剛性比例型減衰としている。また、床スラブ70は、H形鋼(H-1000×400×19×36)からなる梁72により支持されている。梁72の配置間隔は9mとなっている。
図12の斜視図に示すように、数値シミュレーションにより求めた床スラブ70の1次振動モード形74は、床スラブ70の中央部76が盛り上がった(最も大きく振動する)形状となっている。また、このときの1次振動数は、4.5Hzとなっている。
図13の斜視図には、図11に示された床スラブ70の周縁部内側の4つの部位(四隅寄りに位置する部位)に制振ダンパー78を設置したモデルとなる床スラブ80が示されている。制振ダンパー78は、1つ当たり減衰係数C=300N・s/mmの線形特性を持つものと仮定している。
図14のグラフは、床スラブ70と床スラブ80との各モデルにおいて、1次モード形状が最も大きくなる点(床スラブ70では中央部76、床スラブ80では中央部82)を鉛直方向に加力したときの同位置における床スラブ70、80の振動数(横軸)に対する変位の伝達関数のゲイン(縦軸)の値84、86を示したものである。床スラブ70の値を値84とし、床スラブ80の値を値86としている。
図14のグラフから、従来の床である床スラブ70のモデルの値84に対し、本実施形態の床構造10に基づく床スラブ80のモデルの値86は、伝達関数のゲインのピーク値が約30〜40%低減されていることがわかる。
以上、本発明の実施形態について説明した。
なお、本実施形態では、図1に示すように、第1床部12と第2床部14との剛性を異ならせることによって、第1床部12と第2床部14との振動特性としての固有振動数を異ならせている例を示したが、他の方法によって第1床部12と第2床部14との固有振動数を異ならせてもよい。例えば、床スラブ20の支持スパン(柱24及び梁26により床スラブ20を支持する支持間距離)を第1床部12と第2床部14とで異なるようにしてもよいし、床スラブ20自体の剛性を第1床部12と第2床部14とで異なるようにしてもよいし、床スラブ20を支持する梁26の柱24への接合方法(剛接合、ピン接合等)を第1床部12と第2床部14とで異なるようにしてもよい。また、第1床部12と第2床部14との固有振動数以外の振動特性を異ならせてもよい。
また、本実施形態の床構造10は、図1に示すように、振動低減対象となる第1床部12の床振動を粘性系ダンパー16により効率よく低減することができるものであるが、本実施形態の床構造10は、第1床部12の床スラブ20上を人が歩くことにより床スラブ20に生じる床振動、建物18の外部に発生する交通振動や工事振動等の環境振動が第1床部12の床スラブ20に伝達して生じる床振動、地震により床スラブ20に生じる床振動等のさまざまな床振動に対して振動低減効果を発揮させることができる。
さらに、本実施形態では、図1に示すように、振動低減対象となる第1床部12の下方に、第1床部12と振動特性の異なる第2床部14を配置し、第1床部12と前記第2床部14とを制振ダンパーとしての粘性系ダンパー16で繋いで、床構造10を構成した例を示したが、床構造は、振動低減対象となる第1床部12の上方又は下方に、第1床部12と振動特性の異なる第2床部14を配置し、第1床部と第2床部とを制振ダンパーで繋げて構成されていればよい。
例えば、図15、図16、図17、図18、図19、及び図20の正面図に示す床構造88、90、92、94、96、98であってもよい。
図15に示す床構造88では、第2床部14が、第1床部12の上方に配置されている。第2床部14は、上柱としての柱24(以下、「柱24B」とする)で、第2床部14の周縁部内側の部位(柱24Bの仕口部30)を支持されることにより、第1床部12の剛性よりも剛性が大きくなっている。これにより、第1床部12と第2床部14との振動特性としての固有振動数を異ならせている。
粘性系ダンパー16は、第2床部14の四隅寄りに位置する柱24Bの仕口部30(以下、「仕口部30B」とする)下面に吊設された支持部材38の下端部に、球面軸受を介して上端部が回転可能に接続され、仕口部30Bの真下に位置する梁22の仕口部28の上面に立設された支持部材32の上端部に、球面軸受を介して下端部が回転可能に接続されている。これによって、第1床部12と第2床部14とが、粘性系ダンパー16により繋がれている。
図16に示す床構造90は、図1に示す床構造10と図15に示す床構造88とを組み合わせた構成になっている。よって、図16に示す床構造90において、床構造10、88と実質上同じ部分には、同じ符号を付すとともに説明を省略する。
図17に示す床構造92は、図16に示す床構造90の第2床部14の一部(平面視にて4つの粘性系ダンパー16により囲まれている部分)を無くして、第1床部12の上下空間を吹き抜けにしたものである。よって、図17に示す床構造92において、床構造90と実質上同じ部分には、同じ符号を付すとともに説明を省略する。
図18に示す床構造94は、図17に示す床構造92の第1床部12の下方に配置されている第2床部14を無くして、第1床部12の下空間を大きな吹き抜けにしたものである。よって、図18に示す床構造94において、床構造92と実質上同じ部分には、同じ符号を付すとともに説明を省略する。
図19に示す床構造96は、図16に示す床構造90の第1床部12を上下方向に対して複数(本例では、4つ)配置させたものである。よって、図19に示す床構造96において、床構造90と実質上同じ部分には、同じ符号を付すとともに説明を省略する。
図20に示す床構造98は、図16に示す床構造90の粘性系ダンパー16を斜めに配置したものである。よって、図20に示す床構造98において、床構造90と実質上同じ部分には、同じ符号を付すとともに説明を省略する。
床構造98では、第1床部12の下方に配置されている粘性系ダンパー16が、第1床部12の下方に配置されている第2床部14の四隅寄りに位置する柱24Aの仕口部30A上面に斜めに立設された支持部材32の上端部に、球面軸受を介して下端部が回転可能に接続され、第1床部12の梁22の下面に斜めに吊設された支持部材38の下端部に球面軸受を介して上端部が回転可能に接続されている。
また、第1床部12の上方に配置されている粘性系ダンパー16が、第1床部12の上方に配置されている第2床部14の四隅寄りに位置する柱24Bの仕口部30B下面に斜めに吊設された支持部材38の下端部に、球面軸受を介して上端部が回転可能に接続され、第1床部12の床スラブ20に斜めに立設された支持部材32の上端部に球面軸受を介して下端部が回転可能に接続されている。
このように、粘性系ダンパー16は、第1床部12及び第2床部14の仕口部、床スラブ、小梁等の何れの部位に接続してもよい。
床構造98のように、制振ダンパーとしての粘性系ダンパー16を斜めに配置すれば、制振ダンパーの配置自由度を高くすることができる。
また、本実施形態では、図4に示すように、制振ダンパーを粘性系ダンパー16とした例を示したが、制振ダンパーは、第1床部12と第2床部14とを繋いで、第1床部12の床振動に対して減衰力を発揮できるものであればよい。また、制振ダンパーの数や配置は、適宜決めればよい。
例えば、制振ダンパーを、粘性系ダンパー、粘弾性ダンパー、超塑性亜鉛アルミ合金制震ダンパー、又は摩擦系ダンパーとしてもよい。
図21の正面図には、制振ダンパーを、上下方向へ減衰力を発揮する粘弾性体100を備えた粘弾性ダンパー102とした例が示されている。
また、図22の正面図には、制振ダンパーを、上下方向へ減衰力を発揮する粘性系ダンパー104とした例が示されている。
粘性系ダンパー104は、柱24Aの仕口部30A上面に立設された支持部材32の上端部に球面軸受34を介して下端部が回転可能に接続され、仕口部30Aの真上に位置する梁22の仕口部28の下面に吊設された支持部材38の下端部に球面軸受36を介して上端部が回転可能に接続されている。
また、粘性系ダンパー104は、支持部材32の上端部に取り付けられた鋼管106内に配置され、鋼管106の上部に設けられたリニアブッシュ108によって、ロッド110を上下方向へ滑らかに動かすとともに、ロッド110に作用する水平力を鋼管106及び支持部材32を介して柱24Aの仕口部30Aへ伝達する。
これにより、地震時において、通常の柱と同様に、粘性系ダンパー104によってせん断力の伝達を行うことができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。