JP6912800B2 - 造血器腫瘍治療剤、およびスクリーニング方法 - Google Patents

造血器腫瘍治療剤、およびスクリーニング方法 Download PDF

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Description

本発明は、造血器腫瘍治療剤、およびそのスクリーニング方法の技術分野に属する。本発明は、SMS(スフィンゴミエリン合成酵素)2の機能を抑制することができる薬物等(例えば、SMS2阻害薬、抗SMS2抗体)を有効成分として含有することを特徴とする造血器腫瘍治療剤、およびそのためのSMS2阻害薬を見出すためのスクリーニング方法に関するものである。
造血器腫瘍である白血病は、血液細胞の一種である白血球が腫瘍化し白血病細胞となり、無制限に増殖する白血病細胞が、正常の赤血球、白血球、血小板等の産生を抑制し、貧血、感染症、出血などを引き起こす疾患である。白血病には急性白血病と慢性白血病があるが、特に難治性白血病である急性白血病の進行は非常に早く、早期の治療が行われなければ、僅か数ヶ月で患者は死へ至る。急性白血病としては、急性骨髄腫白血病(AML)、急性リンパ性白血病(ALL)などが知られている。AMLは成人に多い予後不良な悪性の血液疾患であり、5年生存率は40%程度である。
現在、最も一般的に行われている急性白血病の治療法は、TCK(Total cell kill)と言われる方法であり、例えば、AMLではキロサイド(登録商標)、ALLではアントラサイクリンなどの抗がん剤により白血病細胞を正常骨髄細胞とともに死滅させる方法である。白血病細胞は抗がん剤に感受性が高いため、当該治療を繰り返すことにより、白血病細胞を完全に根絶させることができる。このような化学療法は非常に有効であるが、抗がん剤の副作用のため、患者には非常に負担が大きい。
特許文献1には、化合物N−[2−(2,1,3−ベンゾチアジアゾール−5−イルアミノ)−6−(2,6−ジクロロフェニル)ピリド[2,3−d]ピリミジン−7−イル]−N’−(1,1−ジメチルエチル)−尿素またはこの水和物、塩もしくは溶媒和物と、少なくとも1種の医薬として許容可能な賦形剤とを含む、AMLなどの骨髄性白血病の治療用の医薬組成物が開示されている。当該医薬組成物は、従来の抗がん剤の治療法の代替療法として開発されたものであるが、抗がん剤を含有する医薬組成物であるため、上記と同様の副作用が懸念される。
ところで、MLL/AF9キメラ遺伝子は、MLL(mixed linkage leucemia)遺伝子とAF9(ALL1 fused gene from chromosome 9)遺伝子とが、染色体転座によって融合することにより生じたキメラ遺伝子である。かかるキメラ遺伝子は、造血器腫瘍、特にAMLにおいて遺伝子発現量の増加が観察される。
当該遺伝子を人為的に造血器細胞に過剰発現させることにより、造血器細胞を腫瘍化できることが知られている(非特許文献1)。
急性白血病の研究には、その病態モデル動物、主にマウスが使用されている。病態モデルマウスは、例えば、発がん作用を有する上記MLL/AF9キメラ遺伝子等を過剰発現させた白血病細胞を、レシピエントマウスに移植することにより作製されるが、移植による白血病細胞の免疫拒絶を回避するため、レシピエントは、例えば放射線照射された免疫不全マウスであることが一般的である。
しかしながら、免疫不全マウスは、骨髄微小環境を有する免疫応答性(immunocompetent)の動物ではないため、腫瘍免疫活性を活用した治療法の研究には適さない。
SMSは、ホスファチジルコリンのリン酸コリン部分をセラミドに転移してスフィンゴミエリンを生成するとともに、ジアシルグリセロールを生成する酵素である。SMSは、ヒトでは細胞内での局在の異なるSMS1とSMS2の2つのホモログが知られている。
腫瘍とSMSの関係については、SMS1の欠損状態ががん細胞増殖抑制や遊走促進などに関与するが、SMS2のがん細胞機能への関与は少ないという報告がある(非特許文献2、3)。また、動物個体におけるSMS1やSMS2の病理的意義については、様々なマウス疾患モデルがSMS1やSMS2の遺伝子欠損(KO)マウスで実験され、SMS1欠損による難聴、耐糖能異常などが報告され、SMS2欠損では動脈硬化症や脂肪肝の抑制が報告されている(非特許文献4)。
特表2010−514743号公報
Nature, Vol 442, 17 August 2006, doi:10.1038/nature04980 Molecular and Cell Biology, 32(16): 3242-52, 2012 J. Biol. Chem., 286(41): 36053-62., 2011 疾患モデルの作成とその利用−脂質代謝異常と関連疾患:下巻(モデル動物利用マニュアルシリーズ)、第6章第8節、谷口真、岡崎俊朗、p348-357、エル・アイ・シー
難治性腫瘍の白血病の発症、進展の阻止には白血病細胞の増殖抑制のみならず、抗腫瘍活性を担う骨髄微小環境細胞(B細胞,T細胞,NK細胞や骨髄由来免疫抑制細胞(MDSC)など)の制御、特に細胞障害性T細胞(CTL)の活性化やMDSCの抑制が必須である。近年、CTLを抑制するPD1/PDL系を抗体により阻害する事で抗腫瘍活性を復活する治療法が、肺がんやメラノーマで臨床応用され、白血病においても腫瘍免疫療法の有用性が実証されている。
上述のTCKのように、白血病細胞と共に正常造血細胞を死滅させることで患者の免疫機能を抑制してしまう療法だけでなく、患者自身の抗腫瘍免疫を利用した、難治性白血病に対する新規の抗腫瘍活性を亢進した治療法の開発が不可欠である。
本発明は、造血器腫瘍(特にAMLやALL等の急性白血病)の治療に有効な新規な造血器腫瘍治療剤を提供すること、またはその治療薬を見出すためのスクリーニング方法を提供することを主な課題とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、SMS2が造血器腫瘍に関係すること、およびSMS2の機能を阻害することにより抗腫瘍免疫が亢進され、造血器腫瘍を治療し得ることを見出し、本発明に到達した。
本発明として、例えば、以下のものを挙げることができる。
[1]MLL/AF9キメラ遺伝子が過剰発現する造血幹細胞を移植された免疫応答性の病態モデル動物を用いて、造血器腫瘍の治療のためのSMS2阻害薬を見出すことを特徴とする、スクリーニング方法。
[2]前記造血幹細胞が、次の1〜4の工程を含む方法により樹立されたものである、上記[1]に記載のスクリーニング方法。
1:動物の骨髄細胞に含まれる造血幹細胞を採取し、かかる幹細胞にMLL/AF9キメラ遺伝子を移入し、当該遺伝子が過剰発現する細胞を作製する工程、
2:上記1の工程において作製された細胞を、放射線照射された動物に投与ないし移植し、後に当該動物の骨髄からMLL/AF9遺伝子が過剰発現する細胞を採取する工程、
3:上記2の工程において採取された細胞を、上記2の工程で動物に照射された放射線よりも弱い放射線を照射された動物に投与ないし移植し、後に当該動物の骨髄からMLL/AF9キメラ遺伝子が過剰発現する細胞を採取する工程、および
4:必要に応じて、徐々に動物に照射する放射線量を弱めながら、免疫応答性の動物に投与ないし移植することができるまで上記3の工程を1回以上繰り返す工程。
[3]動物が、マウスまたは造血幹細胞の移植が可能な動物である、上記[1]または[2]に記載のスクリーニング方法。
[4]造血器腫瘍が急性白血病である、上記[1]〜[3]のいずれか一項に記載のスクリーニング方法。
[5]SMS2遺伝子がノックアウトされている免疫応答性の動物に、MLL/AF9キメラ遺伝子が過剰発現する造血幹細胞が移植されていることを特徴とする、病態モデル動物。
[6]次の1〜5の工程を含む方法により作製される、上記[5]に記載の病態モデル動物。
1:動物の骨髄細胞に含まれる造血幹細胞を採取し、かかる幹細胞にMLL/AF9キメラ遺伝子を移入し、当該遺伝子が過剰発現する細胞を作製する工程、
2:上記1の工程において作製された細胞を、放射線照射された動物に投与ないし移植し、後に当該動物の骨髄からMLL/AF9遺伝子が過剰発現する細胞を採取する工程、
3:上記2の工程において採取された細胞を、上記2の工程で動物に照射された放射線よりも弱い放射線を照射された動物に投与ないし移植し、後に当該動物の骨髄からMLL/AF9キメラ遺伝子が過剰発現する細胞を採取する工程、
4:必要に応じて、徐々に動物に照射する放射線量を弱めながら、免疫応答性の動物に投与ないし移植することができるまで上記3の工程を1回以上繰り返す工程、および
5:上記3または4の工程において採取された細胞を、SMS2遺伝子がノックアウトされた放射線照射されていない免疫応答性の動物に投与ないし移植する工程。
[7]動物が、マウスまたは造血幹細胞の移植が可能な動物である、上記[5]または[6]に記載の病態モデル動物。
[8]上記[5]〜[6]のいずれか一項に記載の病態モデル動物を用いることを特徴とする、造血器腫瘍の治療のための候補薬物を見出すためのスクリーニング方法。
[9]造血器腫瘍が急性白血病である、上記[8]に記載のスクリーニング方法。
[10]SMS2阻害薬、抗SMS2抗体、またはSMS2遺伝子を欠損させたヒト骨髄細胞もしくは免疫細胞を有効成分として含有することを特徴とする、造血器腫瘍治療剤。
[11]造血器腫瘍が急性白血病である、上記[10]に記載の造血器腫瘍治療剤。
[12]次の1〜4の工程を含むことを特徴とする、造血器腫瘍の治療方法。
1:ヒトの骨髄細胞または免疫細胞を採取する工程、
2:採取した骨髄細胞または免疫細胞のSMS2遺伝子を欠損させる工程、
3:当該遺伝子を欠損させた細胞を増殖する工程、および
4:増殖した細胞を患者に移植ないし投与する工程。
[13]造血器腫瘍が急性白血病である、上記[12]に記載の治療方法。
本発明に係るスクリーニング方法によれば、抗腫瘍免疫活性を亢進させ、造血器腫瘍を治療し得るSMS2阻害薬を見出すことができる。また、造血器腫瘍を治療し得る造血器腫瘍治療剤を得ることができる。
本発明に係る造血器腫瘍治療剤は、特に、AMLなどの急性白血病に有用である。
本発明に係る病態モデルマウスの作製法の一例を示した模式図である。 本発明に係る病態モデルマウスに関する試験結果を表す。A図は移植後の体重の変化率(%)を示す。B図は移植後の生存率(%)を示す。最薄実線は、腫瘍化された造血幹細胞(腫瘍化細胞)を1×10(個)投与した場合の結果を、中薄実線は、腫瘍化細胞を1×10(個)投与した場合の結果を、実線は、腫瘍化細胞を1×10(個)投与した場合の結果を、破線は、腫瘍化細胞を2×10(個)投与した場合の結果を、それぞれ示す。C図は脾臓の写真である。左写真は野生型マウスの脾臓を、右写真は本発明に係る病態モデルマウスの脾臓を、それぞれ示す。D図は脾臓重量/体重比(%)を表す。左カラムは野生型マウスの結果を、右カラムは本発明に係る病態モデルマウスの結果を、それぞれ示す。 腫瘍化細胞移植後15日目の末梢血における血液細胞を染色した写真である。上2つの顕微鏡写真は野生型マウスの結果(左:倍率×100、右:倍率×400)を、下2つの写真は本発明に係る病態モデルマウスの結果(左:倍率×100、右:倍率×400)を、それぞれ示す。 本発明に係る病態モデルマウスにおける白血病細胞の病態を試験した結果を表す。A図は骨髄(左)および脾臓細胞(右)における白血病細胞の数を示す。B図は各臓器の写真を示す。C図は各臓器における白血病細胞の数を示す。
本発明に係る、SMS2遺伝子をノックアウトした(SMS2−KO)病態モデルマウスに関する試験結果を表す。A図は移植後の体重の変化率(%)を示す。B図は移植後の生存率(%)を示す。破線は、本発明に係るSMS2正常病態モデルマウスの結果を、2つの実線は、本発明に係るSMS2−KO病態モデルマウスを、それぞれ示す。C図は脾臓の写真である。左写真は本発明に係るSMS2正常病態モデルマウスの移植後19日目の結果を、中写真は本発明に係るSMS2正常病態モデルマウスの移植後21日目の結果を、本発明に係るSMS2−KO病態モデルマウスの移植後41日目の結果を、それぞれ示す。D図は脾臓重量/体重比(%)を表すグラフである。左カラムは本発明に係るSMS2正常病態モデルマウスの結果を、中カラムと右カラムは本発明に係るSMS2−KO病態モデルマウスの結果を、それぞれ示す。 移植前にX線を照射し、腫瘍化細胞を移植したマウスと本発明に係るSMS2−KO病態モデルマウスの試験結果を表す。A図は放射線照射後の体重の変化率(%)を示す。B図は移植後の生存率(%)を示す。薄破線と中薄実線は、SMS2正常病態モデルマウスの結果を、破線と残りの実線は、SMS2−KO病態モデルマウスの結果を、それぞれ示す。C図は生存時間(日)の比較を示す。
本発明に係るSMS2−KO病態モデルマウスに関する試験結果を表す。A図は移植後の生存率(%)を示す。薄実線は、本発明に係るSMS2正常病態モデルマウスの結果を、実線は、本発明に係るSMS2−KO病態モデルマウスの結果を、それぞれ示す。B図は移植後24日目の各組織の写真である。左写真は、本発明に係るSMS2正常病態モデルマウスの結果を、右写真は、本発明に係るSMS2−KO病態モデルマウスの結果を、それぞれ示す。C図は、各組織における白血病細胞数を表す。上図は、本発明に係るSMS2正常病態モデルマウスの結果を、下図は、本発明に係るSMS2−KO病態モデルマウスの結果を、それぞれ示す。左の4つの図は移植後16日目の結果を、右の6つの図は死亡時または移植後24日目の結果を、それぞれ示す。 フローサイトメトリーによる分析結果を表す。A図はMDSCの量を、B図はCTLの量を、それぞれ分析した結果を示す。上各図は、本発明に係るSMS2正常病態モデルマウスの結果を、下各図は、本発明に係るSMS2−KO病態モデルマウスの結果を、それぞれ示す。
1 本発明に係るスクリーニング方法
本発明に係るスクリーニング方法(本発明スクリーニング方法)は、MLL/AF9キメラ遺伝子が過剰発現する造血幹細胞を移植された免疫応答性の病態モデル動物(以下、「本発明モデル動物」という。)を用いて、造血器腫瘍の治療のためのSMS2阻害薬を見出すことを特徴とする。
1.1 MLL/AF9キメラ遺伝子が過剰発現する造血幹細胞
本発明モデル動物に移植された造血幹細胞は、MLL/AF9キメラ遺伝子が過剰発現する。当該遺伝子を人為的に骨髄細胞に過剰発現させることにより、造血幹細胞を腫瘍化することができる。本発明モデル動物を作製するためのMLL/AF9キメラ遺伝子は、通常、ヒトの当該遺伝子であるが、ヒト以外の動物(例えば、マウス、ラット、モルモット、フェレット、ウサギ、イヌ、ネコ、イタチ、サル等の哺乳動物)の相当する遺伝子であってもよい。
造血幹細胞は、骨髄細胞中の1万〜10万個に一つ程度の割合で存在する細胞であり、白血球(好中球、好酸球、好塩基球、リンパ球、単球、マクロファージ)、赤血球、血小板、肥満細胞、樹状細胞等を生み出す細胞である。したがって、造血幹細胞は、モデル動物(ドナー)の骨髄から採取した骨髄細胞に含まれており、かかる骨髄細胞をそのまま移植して本発明モデル動物を作製することができる。また、骨髄細胞をフローサイトメトリー等の従来の手法で選別ソート(例えば、c−kit Sca−1 Lin)した造血幹細胞を移植して本発明モデル動物を作製することもできる。
ここで「過剰発現する」とは、ベクター等を用いて細胞に遺伝子を導入し、遺伝子発現量が遺伝子未導入細胞に比較して増加していることを意味し、発現量そのものの増加量の程度は問題としない。
上記ベクターとしては、通常、ウイルスベクターが用いられる。ウイルスベクターとしては、例えば、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、アデノウイルスベクターが挙げられる。
本発明モデル動物は、MLL/AF9キメラ遺伝子が過剰発現すればよく、MLL/AF9キメラ遺伝子が単独発現するものでも、他の遺伝子も同時発現するものでもよいが、MLL/AF9キメラ遺伝子が単独発現するものが好ましい。
1.2 免疫応答性の動物
本発明スクリーニング方法には、免疫応答性(immunocompetent)の動物が用いられる。免疫応答性の動物は、抗腫瘍活性を有する正常骨髄微小環境(B細胞,T細胞,NK細胞やMDSCなど)を保持する動物である。造血器腫瘍のモデル動物には、免疫不全動物を使用するのが一般的であるが、本発明スクリーニング方法においては免疫応答性の動物、例えば野生型の動物をレシピエントとして使用することができる。
ここで、本発明モデル動物の動物種としては、造血幹細胞の移植が可能な動物であれば特に制限されない。かかる動物としては、具体的には、例えば、マウス、ラット、モルモット、フェレット、ウサギ、イヌ、ネコ、イタチ、サル等の哺乳動物を挙げることができる。この中、マウスが好ましい。
1.3 造血幹細胞の移植
MLL/AF9キメラ遺伝子が過剰発現する腫瘍化された造血幹細胞(以下、「腫瘍化細胞」という。)は、免疫応答性の動物に移植される。当該腫瘍化細胞が移植される部位としては、例えば、骨髄、血管内、リンパ節が挙げられる。腫瘍化細胞は、移植されることにより、主として、レシピエントの骨髄に生着し、レシピエントは造血器腫瘍を発病する。
1.4 造血器腫瘍の治療のためのSMS2阻害薬
本発明スクリーニング方法により、造血器腫瘍の治療のためのSMS2阻害薬を見出すことができる。当該スクリーニングは、通常、複数の候補薬物を本発明モデル動物に投与し、その効果効能を比較することにより行われ、有効性のあるSMS2阻害薬が選別される。
本発明スクリーニング方法が対象とする造血器腫瘍としては、造血器細胞の腫瘍であれば特に制限されないが、例えば、急性白血病を挙げることができる。急性白血病としては、例えば、急性骨髄性白血病(AML)、急性リンパ性白血病(ALL)、骨髄異形性症候群(MDS)、乳児白血病、二次性白血病が挙げられる。
本発明スクリーニング方法によりスクリーニングされる候補薬物としては、SMS2の阻害作用を有しうるものであれば特に制限されないが、例えば、SMS2の阻害作用を有しうる、低分子化合物、抗体を挙げることができる。本発明スクリーニング方法においては、候補薬物を本発明モデル動物に投与し、SMS2の阻害作用、抗腫瘍免疫活性、造血器腫瘍の治療効果等を調べることにより、造血器腫瘍の治療に有効なSMS2阻害薬をスクリーニングすることができる。また、既知のSMS2阻害薬の中から、より有効な薬物を選別するために本発明スクリーニング方法を用いることもできる。
2 本発明に係る腫瘍化細胞
腫瘍化細胞は、次の1〜4の工程を含む方法により樹立されたもの(以下、「本発明腫瘍化細胞」という。)であることが好ましい(図1参照)。なお、動物の定義等は、前述と同義である。
1:動物の骨髄細胞に含まれる造血幹細胞を採取し、かかる幹細胞にMLL/AF9キメラ遺伝子を移入し、当該遺伝子が過剰発現する細胞を作製する工程、
2:上記1の工程において作製された細胞を、放射線照射された動物に移植し、後に当該動物の骨髄からMLL/AF9遺伝子が過剰発現する細胞を採取する工程、
3:上記2の工程において採取された細胞を、上記2の工程で動物に照射された放射線よりも弱い放射線を照射された動物に投与ないし移植し、後に当該動物の骨髄からMLL/AF9キメラ遺伝子が過剰発現する細胞を採取する工程、および
4:必要に応じて、徐々に動物に照射する放射線量を弱めながら、免疫応答性の動物に投与ないし移植することができるまで上記3の工程を1回以上繰り返す工程。
以下、それぞれの工程について詳述する。
(1)第1工程
第1工程は、動物の骨髄細胞に含まれる造血幹細胞を採取し、かかる幹細胞にMLL/AF9キメラ遺伝子を移入し、当該遺伝子が過剰発現する細胞を作製する工程である。
第1工程として、具体的には、例えば、次のような方法を挙げることができる。MLL/AF9キメラ遺伝子を含むウイルスベクター(例、レトロウイルスベクター)をパッケージ細胞であるPLAT−Eで増産する。一方、ドナー動物の造血幹細胞が含まれる骨髄細胞を採取し、必要に応じて、フローサイトメトリー等の従来の手法で選別ソートし、当該造血幹細胞にMLL/AF9キメラ遺伝子を含む前記ウイルスベクターを感染させることにより、MLL/AF9キメラ遺伝子が過剰発現する第1工程の細胞を作製することができる。
(2)第2工程
第2工程は、第1工程において作製された細胞を、放射線照射された動物に投与ないし移植し、後に当該動物の骨髄からMLL/AF9遺伝子が過剰発現する細胞を採取する工程である。
レシピエント動物に放射線を照射することにより、当該動物の免疫機能が抑制され、免疫拒絶反応を引き起こすことなく、第1工程で得られた細胞を投与ないし移植することができ、定着させることができる。放射線としては、通常、X線が使用される。第2工程における放射線の照射量としては、レシピエント動物の種類などによって異なるが、致死量より少し低い量が好ましい。マウスの場合には、通常、X線量として10Gy(グレイ)または9.5Gy程度である。
投与ないし移植する当該細胞数としては、レシピエント動物の種類などによって異なるが、例えばマウスの場合、1×10〜1×10(個)の範囲内が適当であり、1×10〜5×10(個)の高容量投与により移植成功率が向上する。1×10(個)より少ないと、レシピエントマウスにおいて当該造血器腫瘍細胞が十分に増加しないおそれがあり、1×10(個)より多いと、血管内腫瘍血栓のおそれがあるので適当でない。
続いて、第1工程で得られた細胞を、放射線照射したレシピエント動物に投与ないし移植した後、当該動物の骨髄からMLL/AF9遺伝子が過剰発現する細胞を採取する。当該投与ないし移植から第2工程の細胞の採取までの期間としては、レシピエント動物が死亡する直前が好ましく、レシピエント動物の種類などによって異なるが、例えばマウスの場合、ドナー細胞として1×10個のMML/AF9発現骨髄細胞を用いた場合には40〜70日間が好ましい細胞採取期間となる。
(3)第3工程
第3工程は、第2工程において採取された細胞を、第2工程で動物に照射された放射線よりも弱い放射線を照射された動物に投与ないし移植し、後に当該動物の骨髄からMLL/AF9キメラ遺伝子が過剰発現する細胞を採取する工程である。
第2工程で得られた細胞は、第2工程と比較して弱い放射線を照射したレシピエント動物であっても、免疫拒絶反応を引き起こすことなく、第2工程で得られた細胞を投与ないし移植することができ、定着させることができる。第3工程における放射線の照射量としては、レシピエント動物の種類などによって異なるが、例えばマウスの場合、第2工程の照射量の35〜85%程度が適当であり、45〜75%程度が好ましく、55〜65%程度がより好ましい。
投与ないし移植する当該細胞数としては、レシピエント動物の種類などによって異なるが、
例えばマウスの場合、1×10〜1×10(個)の範囲内が適当であり、1×10〜5×10(個)の高容量投与により移植成功率が向上する。1×10(個)より少ないと、レシピエントマウスにおいて当該造血器腫瘍細胞が十分に増加しないおそれがあり、1×10(個)より多いと、血管内腫瘍血栓のおそれがあるので適当でない。
続いて、第2工程で得られた細胞を、放射線照射したレシピエント動物に投与ないし移植した後、当該動物の骨髄からMLL/AF9遺伝子が過剰発現する細胞を採取する。当該投与ないし移植から第3工程の細胞の採取までの期間としては、レシピエント動物が死亡する直前が好ましく、レシピエント動物の種類などによって異なるが、例えばマウスの場合、25〜60日間が適当であり、30〜50日間が好ましく、35〜45日間がより好ましい。
(4)第4工程
第4工程は、必要に応じて、徐々に動物に照射する放射線量を弱めながら第3工程を1回以上繰り返す工程である。
第3工程において採取された細胞を、放射線照射しない免疫応答性のレシピエント動物に投与ないし移植すると、免疫拒絶反応を引き起こす場合には、第4工程、即ち、徐々に動物に照射する放射線量を弱めながら第3工程を1回以上、通常は1〜5回程度まで、好ましくは1、2回程度繰り返す。第3工程において採取された細胞を、放射線照射しない免疫応答性のレシピエント動物に投与ないし移植しても、免疫拒絶反応を引き起こさない場合には、本工程を行う必要はない。
第4工程における放射線の照射量としては、レシピエント動物の種類などによって異なるが、例えばマウスの場合、第3工程または前工程の照射量の35〜85%程度が適当であり、45〜75%程度が好ましく、55〜65%程度がより好ましい。
投与ないし移植する細胞数としては、レシピエント動物の種類などによって異なるが、例えばマウスの場合、1×10〜1×10(個)の範囲内が適当であり、1×10〜5×10(個)の高容量投与により移植成功率が向上する。1×10(個)より少ないと、レシピエントマウスにおいて当該造血器腫瘍細胞が十分に増加しないおそれがあり、1×10(個)より多いと、血管内腫瘍血栓のおそれがあるので適当でない。
第4工程を行う場合、第3工程または前工程で得られた細胞を、放射線照射したレシピエント動物に投与ないし移植した後、当該動物の骨髄からMLL/AF9遺伝子が過剰発現する細胞を採取する。当該投与ないし移植から第4工程の細胞の採取までの期間としては、レシピエント動物が死亡する直前が好ましく、レシピエント動物の種類などによって異なるが、例えば、マウスの場合、25〜60日間が適当であり、30〜50日間が好ましく、35〜45日間がより好ましい。
第3工程または本工程により、放射線を照射しない免疫応答性のレシピエント動物であっても、免疫拒絶反応を引き起こすことなく、投与ないし移植することができ、また定着させることができる本発明腫瘍化細胞を得ることができる。
上述の方法により樹立された本発明腫瘍化細胞は、動物への移植に際して、免疫拒絶反応が抑制されており、免疫応答性の動物に移植することができる。また、本発明腫瘍化細胞が移植された動物は、MLL/AF9遺伝子が単独で過剰発現し、免疫応答性を有しながら白血病等の造血器腫瘍を発症させることができる。
したがって、本発明腫瘍化細胞を移植された動物は、造血器腫瘍の病態モデル動物として有用である。
なお、免疫応答性の動物への本発明腫瘍化細胞の投与ないし移植する細胞数としては、レシピエント動物の種類などによって異なるが、例えばマウスの場合、1×10〜1×10(個)の範囲内が適当であり、1×10〜1×10(個)の範囲内が好ましく、1×10〜5×10(個)の範囲内がより好ましい。1×10(個)より少ないと、レシピエントマウスにおいて当該造血器腫瘍細胞が十分に増加せず、造血器腫瘍を発病しないおそれがあり、1×10(個)より多いと、血管内腫瘍血栓のおそれがあるので適当でない。
3 SMS2遺伝子がノックアウトされている病態モデル動物
本発明は、SMS2遺伝子がノックアウトされている免疫応答性の動物に、MLL/AF9キメラ遺伝子が過剰発現する造血幹細胞が移植されていることを特徴とする病態モデル動物(以下、「本発明SMS2−KO動物」という。)を含む。
本発明SMS2−KO動物は、SMS2遺伝子がノックアウトされているだけで、免疫機能を保持している。しかも、後述する試験例から明らかな通り、腫瘍免疫が亢進しており、CTLの増強とMDSCの抑制が同時に確認され、その結果、腫瘍化細胞が移植されていても、SMS2遺伝子がノックアウトされていない動物と異なり、造血器腫瘍の発病が抑えられ、延命できることを本発明者らは見出した。したがって、SMS2の機能を、例えばSMS2阻害薬などで抑制することより、急性白血病等の造血器腫瘍を治療しうる。
本発明SMS2−KO動物としては、例えば、次の1〜5の工程を含む方法により作製されるものが好ましい。なお、動物の定義等は、前述と同義である。
1:動物の骨髄細胞に含まれる造血幹細胞を採取し、かかる幹細胞にMLL/AF9キメラ遺伝子を移入し、当該遺伝子が過剰発現する細胞を作製する工程、
2:上記1の工程において作製された細胞を、放射線照射された動物に投与ないし移植し、後に当該動物の骨髄からMLL/AF9遺伝子が過剰発現する細胞を採取する工程、
3:上記2の工程において採取された細胞を、上記2の工程で動物に照射された放射線よりも弱い放射線を照射された動物に投与ないし移植し、後に当該動物の骨髄からMLL/AF9キメラ遺伝子が過剰発現する細胞を採取する工程、
4:必要に応じて、徐々に動物に照射する放射線量を弱めながら、免疫応答性の動物に投与ないし移植することができるまで上記3の工程を1回以上繰り返す工程、および
5:上記3または4の工程において採取された細胞を、SMS2遺伝子がノックアウトされた放射線照射されていない免疫応答性の動物に投与ないし移植する工程。
上記第1工程〜第4工程までは、前述の項目2と同様である。第1工程〜第4工程までの動物は、SMS2遺伝子が正常発現していることが好ましい。
第1工程〜第4工程により樹立された腫瘍化細胞(本発明腫瘍化細胞)を、SMS2遺伝子がノックアウトされた放射線照射されていない免疫応答性の動物に投与ないし移植することにより、本発明SMS2−KO動物を作製することができる(第5工程)。
SMS2遺伝子がノックアウトされた放射線照射されていない免疫応答性の動物への投与ないし移植する細胞数としては、レシピエント動物の種類などによって異なるが、例えばマウスの場合、1×10〜1×10(個)の範囲内が適当であり、1×10〜1×10(個)の範囲内が好ましく、1×10〜5×10(個)の範囲内がより好ましい。
本発明SMS2−KO動物は、造血器腫瘍の治療のための候補薬物をスクリーニングするために用いることができる。本発明には、本発明SMS2−KO動物を用いることを特徴とする、造血器腫瘍の治療のための候補薬物を見出すためのスクリーニング方法も含まれる。
本発明SMS2−KO動物と当該遺伝子がノックアウトされていない通常のモデル動物(例、非SMS2−KOの本発明モデル動物)を用いて、本発明スクリーニング方法の結果を比較することにより、SMS2阻害剤の候補薬物の効能効果が、SMS2の阻害によるものであるということを、より明確にすることができる。また、本発明SMS2−KO動物に、SMS2阻害剤以外の抗腫瘍剤を投与することにより、SMS2阻害剤と当該薬剤の併用効果を予測することもできる。
本発明SMS2−KO動物を用いた本発明スクリーニング方法は、SMS2阻害剤の実用化に向けた研究に有用である。
4 造血器腫瘍治療剤
本発明は、SMS2阻害薬、抗SMS2抗体、またはSMS2遺伝子を欠損させたヒト骨髄細胞もしくは免疫細胞を有効成分として含有することを特徴とする造血器腫瘍治療剤(以下、「本発明治療剤」という。)を含む。
後述する試験結果から明らかな通り、本発明SMS2−KO動物は、造血器腫瘍(急性白血病)を十分に発症せず、延命することから、SMS2の機能を抑制することができる、例えば、SMS2阻害薬、抗SMS2抗体、またはSMS2遺伝子を欠損させたヒト骨髄細胞もしくは免疫細胞は、造血器腫瘍の治療に有用である。
具体的なSMS2阻害薬としては、本発明スクリーニング方法で見出されるもの、in vitroでSMS2阻害活性が確認されるもの、または従来知られているものを挙げることができる。従来から知られているSMS2阻害薬としては、例えば、下の化学式に示すD609(Tricyclodecan−9−yl−xanthogenate)が挙げられる。
Figure 0006912800
本発明治療剤に使用される抗SMS2抗体としては、本発明スクリーニング方法で見出されるもの、in vitroでSMS2阻害活性が確認されるもの、または従来知られているものを挙げることができる。当該抗体は、SMS2の酵素活性を阻害する阻害抗体であることが好ましい。
SMS2阻害薬、抗SMS2抗体、またはSMS2遺伝子を欠損させたヒト骨髄細胞もしくは免疫細胞を、例えば、いわゆるゲノム編集でSMS2遺伝子を欠損することにより得ることができる。患者自身から採取された骨髄細胞または免疫細胞を用いて、SMS2遺伝子を欠損したものが好ましい。
上記ゲノム編集の方法としては、例えば、ZEN(ジンクフィンガーヌクレアーゼ)、TALEN(転写活性化様エフェクターヌクレアーゼ)、またはCRISPR/Cas9(clustered regularly interspaced short palindromic repeats / CRISPR associated proteins)を用いた方法を挙げることができる。
5 本発明に係る造血器腫瘍の治療方法
本発明は、以下の工程を含むことを特徴とする造血器腫瘍の治療方法(以下、「本発明治療方法」という。)を含む。本発明治療方法は、造血器腫瘍の中でも急性白血病(例、AML、ALL)の治療に用いることが好ましい。
1:ヒトの骨髄細胞または免疫細胞を採取する工程、
2:採取した骨髄細胞または免疫細胞のSMS2遺伝子を欠損させる工程、
3:当該遺伝子を欠損させた細胞を増殖する工程、および
4:増殖した細胞を患者に移植ないし投与する工程。
以下、それぞれの工程について詳述する。
第1工程は、ヒトの骨髄細胞を採取する工程である。
骨髄細胞または免疫細胞は、常法により、ヒトの骨髄から採取することができる。当該ヒトは、患者自身であっても、他者であってもよい。患者自身であることが好ましい。
第2工程は、第1工程で採取した骨髄細胞または免疫細胞のSMS2遺伝子を欠損させる工程である。
本工程は、例えば、いわゆるゲノム編集により行うことができる。かかるゲノム編集の方法としては、例えば、ZEN(ジンクフィンガーヌクレアーゼ)、TALEN(転写活性化様エフェクターヌクレアーゼ)、またはCRISPR/Cas9(clustered regularly interspaced short palindromic repeats / CRISPR associated proteins)を用いた方法を挙げることができる。
第3工程は、第2工程でSMS2遺伝子を欠損させた細胞を増殖する工程である。
本工程は、生体外で常法により当該細胞を培養し、増殖することにより行うことができる。当該細胞の培養には、従来、骨髄細胞や免疫細胞の培養に使用されている方法を使用することができる。具体的には、例えば、免疫細胞を採取したヒト個体の血液から血清を分離して、約20%の濃度で細胞培養液であるRPMI1640などに混入した後、細胞増殖因子(IL2,IL6など)を追加添加してヒト免疫細胞培養液を作成し、腫瘍免疫作用をヒト体内で発現するために必要な細胞数を得るために培養を継続し、最終目標数の免疫細胞(例えば、1×10〜1×10個)を得る方法が挙げられる。
第4工程は、第3工程で増殖した細胞を患者に移植ないし投与する工程である。
増殖した当該細胞の患者への移植ないし投与は、常法により行うことができる。患者における当該移植ないし投与部位としては、例えば、患者の骨髄、血管、リンパ管が挙げられる。
増殖した当該細胞の患者への移植量ないし投与量は、患者の状態、移植ないし投与部位などによって異なり、既知のDLI(ドナーリンパ球注入)法などに基づき適宜設定される。
上述のように、SMS2遺伝子を欠損させた骨髄細胞または免疫細胞を患者に移植ないし投与することにより、患者の抗腫瘍免疫活性が亢進し、抗腫瘍活性が発揮されるから、造血器腫瘍(特に急性白血病(例、AML、ALL))を治療することができる。
以下、実施例、試験例等を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例等に何ら限定されるものではない。
[実施例1]本発明腫瘍化細胞の作製
図1に示す手順のようにして、本発明腫瘍化細胞を作製した。
(1)MLL/AF9キメラ遺伝子レトロウイルスの産生
トランスフェクションする16〜24時間前に、パッケージング細胞PLAT−Eを10cm組織培養皿に3×10まいた。遺伝子導入用ベクターであるMLL/AF9キメラ遺伝子を持つレトロウイルスベクターpMSCV−MLL/AF9−IRES−GFPII 10μg、Lipofectamine3000(Thermo Fisher Scientific社製)30μL、P3000 reagent 20μLを1.0mLのOpti−MEM培地(Thermo Fisher Scientific社製)に混合し、20分おいた。その後、これを、パッケージング細胞をまいた10cm皿にゆっくり加えた。培養開始から48時間後に培養上清を10mLシリンジで回収し、0.45μmフィルターに通した。Retro−X Concentrator(タカラバイオ社製)1/3量を加え転倒混和後4℃に一晩置き、1,500×gで45分間遠心した。沈殿物をSF−03培地(エーディア社製)80〜100μLに懸濁し濃縮ウイルス液とした。
(2)骨髄細胞回収とレトロウイルス感染
安楽死させた8〜10週齢マウスの大骸骨、脛骨、上腕骨を取り出し、26G注射針とシリンジを用いて、DMEMを骨内に5〜10回通すことで骨髄細胞を回収し、200μmメッシュを通した後、1,200rpmで5分間遠心した。上清を除き、DMEM培地4mLに懸濁後、Lymphoprep(コスモバイオ社製)4mLに重層し、1,800rpmで20分遠心した。中間層の単核球分画を回収し、D−PBS(−)13mLを加え、1,200rpmで5分間遠心し、1%BSA、0.1μg/mL rhTPO(和光純薬工業社製)および0.1μg/mLのSCF(和光純薬工業社製)を加えたSF−03培地に懸濁して骨髄細胞液とした。
レトロウイルス感染を行う24時間以上前にRetroNectin(タカラバイオ社)20μg/mLを加えたD−PBS(−)100μLを96穴プレートに加え、室温で2時間静置後、上清を除き、2%BSAを加えたD−PBS(−)100μLを加え、室温で30分静置した。その後上清を除き、RetroNectinコートプレートとして4℃で遮光保存した。レトロウイルス感染を行う2時間以上前に、濃縮レトロウイルス液40〜100μLをRetroNectinコートプレートに加え、1,000×gで90分間遠心した。遠心後上清を除き、骨髄細胞1×10をまき、37℃で一晩培養することでレトロウイルス感染を行った。
(3)1stレシピエント病態モデルマウスの作製
骨髄移植を行う前日に、7〜10週齢1stレシピエントマウスへ9〜10Gy致死量放射線照射を行った。骨髄移植を行う当日に、安楽死させた8〜10週齢ドナーマウスの大骸骨、脛骨、上腕骨より上記と同様の方法で骨髄細胞を採取し、ドナー骨髄細胞とした。レトロウイルス感染を行ったMLL/AF9レトロウイルス感染骨髄細胞1×10をドナー骨髄細胞1×10とSF−03培地中で混ぜ、27G注射針とシリンジを用いてレシピエントマウスの尾静脈より注射を行った。
(4)2nd、3rdレシピエント病態モデルマウスの作製
骨髄移植を行う前日に、7〜10週齢2ndレシピエントマウスへ6Gy半致死量放射線照射を行った。上記(3)と同様の方法により上記の骨髄移植を行った56日目の1stレシピエント病態モデルマウスより骨髄細胞を採取後、フローサイトメトリーにより導入遺伝子を有する細胞(GFP陽性)である腫瘍化細胞が存在することを確認した。回収した腫瘍化細胞を含む骨髄細胞をSF−03培地に懸濁し、2×10を2ndレシピエントマウスへ尾静脈注射により骨髄移植した。
骨髄移植を行う前日に、7〜10週齢3rdレシピエントマウスへ4.5Gy非致死量放射線照射を行った。上記(3)と同様の方法により骨髄移植を行った40日目の2ndレシピエント病態モデルマウスより骨髄細胞を採取後、フローサイトメトリーにより導入遺伝子を有する細胞(GFP陽性)である腫瘍化細胞が存在することを確認した。回収した腫瘍化細胞を含む骨髄細胞をSF−03培地に懸濁し、1×10を3rdレシピエントマウスへ尾静脈注射により骨髄移植した。
(5)腫瘍化細胞の作製
上記(3)と同様の方法により骨髄移植を行った40日目の3rdレシピエントマウスより骨髄細胞を採取し、フローサイトメトリーにより、導入遺伝子を有する細胞(GFP陽性)である腫瘍化細胞が存在することを確認した。回収した腫瘍化細胞を含む骨髄細胞をSF−03培地に懸濁することより、本発明腫瘍化細胞を作製した。
[実施例2]本発明モデルマウスの作製
実施例1で作製した本発明腫瘍化細胞1×10〜2×10(個)を7〜10週齢4thレシピエントマウスへ尾静脈注射することにより本発明モデルマウス(AML−4th)を作製した。
作製した本発明モデルマウスの体重、脾臓の重量、脾臓/体重量比、体重(body weight)、脾臓重量(spleen)の解析、および血液検査(白血球数(WBC)、赤血球数(RBC)、血小板数(PLT)など)を行った。その結果を表1および図2〜図4に示す。
表1および図2〜図4に示したように、本発明モデルマウス(AML−4th、又はWTAML−4th)は、移植後の体重変化については、図2のように野生型コントロールマウスと比べて大差はないが、死亡前には急激な減少を認めた。MLL/AF9遺伝子発現ベクターを感染させた1×10個の骨髄細胞の移植15日後(WTAML−4th)に末梢血中の白血球数が野生型(WT)マウスの1040/μLから7万1700/μLへと著増した(表1参照)。白血病細胞はクラゲ蛍光タンパクであるGFP(緑色蛍光タンパク)を強制発現しており、細胞内の蛍光物質を測定できるフローサイトメーターを用いて、検体内の白血病細胞数を計測した。結果は、図4に示したように、移植15日後にはフローサイトメトリー法による解析で、骨髄、脾臓での白血病細胞の増殖が94%と69%にそれぞれ認められた。移植23日後には、腋窩リンパ節(axillar lymph node)においても95%の白血病細胞の増殖が認められ、脾臓(spleen)の増大(60mgから318mgへ)、貧血による骨の白色化が著明であった。これらの結果は、免疫応答性を有する野生型マウスでMLL/AF9過剰発現細胞の増殖によってヒト白血病発症モデルが作成できたことを示す。
Figure 0006912800
[実施例3]本発明SMS2−KOマウスの作製
最後のレシピエントマウスがSMS2遺伝子をノックアウトしたマウスであること、また4thレシピエントマウスへの本発明腫瘍化細胞の投与量が5×10(個)であること以外は、実施例1、2と同様の手順で本発明SMS2−KOマウス(SMS2−KO#1、SMS2−KO#2)を作製した。そして、作製した本発明SMS2−KOマウスの体重、脾臓の重量、脾臓/体重量比などを解析、および血液検査を行った。その結果を表2、および図5に示す。
図5に示したように、造血器腫瘍(急性白血病)を発症する本発明モデルマウス(WT)では、SMS2−KOマウス(本発明SMS2−KOマウス)においても、野生型コントロールマウス(SMS2正常発現の本発明モデルマウス(WT))においても、体重の変化はなかった(図5A参照)。しかしながら、明らかに生存曲線がSMS2−KOマウスでは#1と#2の2グループ共に有意に延長しており(図5B参照)、脾臓の増大により判定される白血病の脾臓への浸潤増殖は、SMS2欠損状態で明らかに抑制されていた(図5C、D参照)。
表2に示したように、作成した血病発症モデルでは、野生型マウス(本発明モデルマウス:WTAML)に対してSMS2−KOマウス(SMS2−/−AML)の末梢血液中の白血球細胞数が3万6400/μLから2万800/μLに減少し、貧血の使用のヘモグロビンは11.6g/dLから13.6g/dLに回復し、血小板数は11.1万/μLから68.7万/μLに増加していた。これらの結果は、急性白血病がSMS2−KOマウスでは全く発症していないわけではなく、一旦発症後に時間経過と共に白血病状態が回復することを示唆している。
Figure 0006912800
一方、4thレシピエントマウスへの移植前の、X線照射(4.5Gy)を施行した3thレシピエントマウスに本発明腫瘍化細胞を移植して白血病を発症させたところ、図6に示すように、SMS2遺伝子をノックアウトしていないコントロールマウス(SMS2正常マウス、WT4.5Gy(MLL/AF9非移植)又はWTAML−3rd+4.5Gy(MLL/AF9移植))とSMS2−KOマウス(SMS2−KO4.5Gy(MLL/AF9非移植)又はSMS2−KOAML−3rd+4.5Gy(MLL/AF9移植))との間で、生存期間の差異は見られなかった(図6B参照)。即ち、腫瘍免疫活性が抑制された放射線照射後には、免疫応答性(immunocompetent)のSMS2−KOマウスで見られた白血病細胞の増殖抑制が認められておらず、SMS2欠損状態での骨髄微小環境における抗腫瘍活性の亢進が、白血病の発症、進展に必須であることが確認された。言い換えれば、骨髄微小環境に起因する腫瘍に対する免疫応答性が、SMS2−KOによる白血病の抑制効果に重要であることが示された。
[試験例1]本発明SMS2−KOマウスにおける当該白血病細胞の骨髄への生着
本発明SMS2−KOマウスにおいて、本発明腫瘍化細胞が骨髄に生着しているか否かについて検討した。実験は、本発明腫瘍化細胞移植後に経時的に16日ごと24日後にマウスを安楽死することで、野生型とSMS2−KOマウスにおける白血病の進展程度を評価することをフローサイトメトリー法による白血病細胞の計測と腫瘍免疫細胞であるCTLと骨髄由来免疫抑制細胞(MDSC)の計測により行った。白血病細胞の骨髄(BMCs)と末梢血(blood)への浸潤は白血病細胞にタグ化したGFP(緑蛍光蛋白)の測定、またCTL(CD4陽性または非陽性(CD8陽性相当)細胞)とMDSC(CD11bとGr1陽性細胞)を各種抗体によって測定した。その結果を図7、図8に示す。
移植16日後と24日後のマウスの白血病細胞の増殖を解析したところ、図7Cに示した通り、コントロール(SMS2正常発現の本発明モデルマウス、WT又はWTAML)群と本発明SMS2−KOマウス群(SMS2−KOAML、又は2KOAML)では、SMS2欠損状態での骨髄、末梢血、脾臓での白血病細胞浸潤の若干の低下が見られたが、移植したMLL/AF9過剰発現白血病細胞がSMS2欠損状態で生着不全を誘導する証拠は全く認められなかった。したがって、本発明SMS2−KOマウスにおいても、本発明腫瘍化細胞が骨髄に生着していることは明らかである。
[試験例2]本発明SMS2−KOマウスにおける骨髄微小環境の検討
試験例1で生存していた本発明SMS2−KOマウスから骨髄細胞を採取し、フローサイトメトリー法により骨髄微小環境を解析した。具体的な実験方法としては、各細胞に特異的な細胞表面抗原に対する選択的な蛍光化された抗体をフローサイトメーターで測定した。一般的には、CTL(細胞障害性T細胞)は抗CD4抗体陽性細胞、もしくは抗CD8陽性(抗CD4陰性)であり、MDSC(骨髄由来抑制性細胞)は、抗CD11b陽性とGr1陽性の二重陽性である。その結果を図8に示す。
図8に示したように、生存している本発明SMS2−KOマウス(SMS2−KOAML)においては、抗腫瘍免疫効果の重要な細胞であるCD8陽性CTL(CD4陰性)が明らかにコントロール群に比較して32%から62%へ増加していた。また、がん微小環境におけるMDSC(骨髄由来抑制性細胞)について、G−MDSC(CD11b陽性+Gr1強陽性細胞)が20%から3%へ、および、M−MDSC((CD11b陽性+Gr1弱陽性細胞)が29%から9%へと顕著に減少していた。
このことは、SMS2欠損状態で抗腫瘍免疫活性に必須のCTLの増強とMDSCの抑制が同時に確認されたことを示している。
以上から、SMS2の機能が抑制された免疫応答性の動物(SMS2−KO野生型動物)においては、抗腫瘍免疫活性が増強され、造血器腫瘍の発病が抑制されることが明らかである。したがって、SMS2の活性を何らかの手段で阻害することにより、例えば、SMS2に対する低分子阻害剤や抗SMS2抗体を投与することにより、難治性の造血器腫瘍(急性白血病(例、AML、ALL))を治療しうることが明らかである。また、SMS2欠損により抗腫瘍活性が亢進したCTLを担がん個体(ヒト)に注入することにより、造血器腫瘍を治療しうることも明らかである。
本発明スクリーニング方法は、造血器腫瘍の治療のためのSMS2阻害薬を開発することにおいて有用である。また、SMS2阻害薬などを有効成分として含有する造血器腫瘍治療剤は、造血器腫瘍の治療、特にAMLなどの急性白血病の治療に有用である。

Claims (11)

  1. MLL/AF9キメラ遺伝子が過剰発現する造血幹細胞を移植された免疫応答性の病態モデル動物を用いて、造血器腫瘍の治療のためのSMS2(スフィンゴミエリン合成酵素2)阻害薬を見出すことを特徴とするスクリーニング方法であって、前記造血幹細胞が、次の1〜3の工程を含む方法により樹立されたものであり、かつ、次の4の工程により移植されるものである、スクリーニング方法;
    1:哺乳動物の骨髄細胞に含まれる造血幹細胞を採取し、かかる幹細胞にMLL/AF9キメラ遺伝子を移入し、当該遺伝子が過剰発現する細胞を作製する工程、
    2:上記1の工程において作製された細胞を、放射線照射され免疫応答を引き起こさなくなった上記と同種の哺乳動物に投与ないし移植し、後に当該哺乳動物の骨髄からMLL/AF9遺伝子が過剰発現する細胞を採取する工程、
    3:上記2の工程において採取された細胞を、上記2の工程で哺乳動物に照射された放射線よりも弱い放射線を照射された上記と同種の哺乳動物に投与ないし移植し、後に当該哺乳動物の骨髄からMLL/AF9キメラ遺伝子が過剰発現する細胞を採取する工程、および
    4:上記3の工程において採取された細胞を、放射線を照射しない、免疫応答性を有する上記同種の哺乳動物(以下、本工程において「放射線非照射動物」という。)に移植する工程であって、当該哺乳動物が当該移植により免疫拒絶反応を引き起こす場合には、徐々に照射する放射線量を弱めながら、放射線非照射動物に投与ないし移植することができるまで上記3の工程を1回以上繰り返して得られた細胞を、放射線非照射動物に移植する工程。
  2. 前記4の工程において移植される造血幹細胞が、前記3の工程を1〜5回繰り返すことにより樹立されたものである、請求項1に記載のスクリーニング方法。
  3. 哺乳動物が、マウス、ラット、モルモット、またはフェレットである、請求項1または2に記載のスクリーニング方法。
  4. 造血器腫瘍が急性白血病である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のスクリーニング方法。
  5. 急性白血病が、急性骨髄性白血病(AML)、急性リンパ性白血病(ALL)、骨髄異形性症候群(MDS)、乳児白血病、または二次性白血病である、請求項4に記載のスクリーニング方法。
  6. 請求項1に記載の1〜3の工程を含む方法により樹立された造血幹細胞であって、請求項1〜5のいずれか一項に記載のスクリーニング方法に用いるための造血幹細胞。
  7. 請求項1に記載の病態モデル動物であって請求項1〜5のいずれか一項に記載のスクリーニング方法に用いるための病態モデル動物。
  8. 動物が、マウス、ラット、モルモット、またはフェレットである、請求項に記載の病態モデル動物。
  9. 請求項7または8に記載の病態モデル動物を用いることを特徴とする、造血器腫瘍の治療のための候補薬物を見出すためのスクリーニング方法。
  10. 造血器腫瘍が急性白血病である、請求項に記載のスクリーニング方法。
  11. 急性白血病が、急性骨髄性白血病(AML)、急性リンパ性白血病(ALL)、骨髄異形性症候群(MDS)、乳児白血病、または二次性白血病である、請求項10に記載のスクリーニング方法。
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