JP2023059508A - 悪性中皮腫の治療薬 - Google Patents
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Abstract
【課題】がん細胞を特異的に死滅させることができ、且つ副作用の少ない、悪性中皮腫の治療薬を提供すること。【解決手段】セルレニン及び/若しくはその誘導体、又はKN-93及び/若しくはその誘導体を有効成分として含む、悪性中皮腫の治療薬。【選択図】なし
Description
本発明は、悪性中皮腫治療薬に関する。具体的には、セルレニン及び/若しくはその誘導体、又はKN-93及び/若しくはその誘導体の新規用途である、悪性中皮腫への適用に関する。
悪性中皮腫(Malignant mesothelioma)は、中皮細胞由来の難治性の悪性腫瘍である。中皮とは、胸腔、心嚢、腹腔の体腔表面を覆う膜様組織のことであり、悪性中皮腫は、胸腔などを覆う膜に並んでいる中皮細胞から発生する悪性腫瘍である。悪性中皮腫は、発生する場所によって悪性胸膜中皮腫、悪性心膜中皮腫、悪性腹膜中皮腫などに分けられる。
悪性中皮腫の発生メカニズムは未だ不明な点が多いが、その発症にはアスベスト(石綿)が関与していることが知られている。アスベストは加工しやすく、熱や薬品にも強いことから、特に1970~1980年代にかけ、建設資材をはじめ、様々な分野で使われてきた。現在ではアスベストの使用は全面的に禁止されているが、悪性中皮腫はアスベストの暴露から30~40年という長い潜伏期間を経て発症するため、日本における悪性中皮腫の患者数は、今後増加すると予測される。事実、悪性中皮腫による死亡者数は、2000年は1,000人未満だったが、2019年は1,500人弱と増加の一途をたどっている(厚生労働省 中皮腫におる死亡数の年次推移より)。一方で、日本人におけるがんの死亡例としては肺がんの約75,000人、大腸がんの約51,000人(いずれも国立研究開発法人国立がん研究センター 2019年全国登録罹患データより)に比べると悪性中皮腫の症例数は少ない。そのため希少がんとして位置付けられており、稀なゆえに研究や診療の体制、及び治療薬の開発が整っていない状況である。
例えば乳がんや前立腺がんに効果を奏することが実験的に示されている物質であったとしても(例えば、特許文献1及び非特許文献1~3参照)、悪性中皮腫との関連性については何も知られていない。
例えば乳がんや前立腺がんに効果を奏することが実験的に示されている物質であったとしても(例えば、特許文献1及び非特許文献1~3参照)、悪性中皮腫との関連性については何も知られていない。
悪性中皮腫は自覚症状がないため、初期の段階で発見されることは稀であり、病気の進行した段階で診断されることが多い。診断後の患者の生存期間は6~12ヶ月と非常に短い。悪性中皮腫と診断されれば、その診断時の病状によっても異なるが、治療法としては一般的に、外科的療法(手術)、放射線療法、化学療法(抗がん剤治療)などが挙げられる。特に悪性胸膜中皮腫は、胸膜の肥厚やしこりとして発見されることが多いため、化学療法(薬物療法)が治療の候補となることが一般的である。化学療法はシスプラチンとペメトレキセドの併用治療が標準的治療として用いられている。
なお、悪性中皮腫においては、変異が見られる頻度の高い遺伝子としてNF2、p16、BAP1が知られており、これらの遺伝子は悪性中皮腫の発症に極めて重要な役割を担っているとされる。前記遺伝子はいずれもがん抑制遺伝子である。これらのがん抑制遺伝子の異常を主とし、付加的に且つ複合的にゲノム異常が起こることによって発がんしているものと考えられる。例えばNF2、p16及びBAP1からなる群より選ばれる少なくとも1つの遺伝子の欠損を有する悪性中皮腫患者が知られている。より具体的には、悪性中皮腫患者の約40%においてBAP1遺伝子欠損が見られ、約40-60%にNF2/p16遺伝子二重欠損が見られることが分かっている。あるいは、悪性中皮腫患者の実に60%以上がBAP1遺伝子欠損あるいは変異をしているという報告もある。
Oskar Rokhlin, et al., "KN-93 inhibits androgen receptor activity and induces cell death irrespective of p53 and Akt status in prostate cancer" Cancer Biology & Therapy 9:3, 224-235; February 1, 2010
Xuesong Liu, et al., "Inhibition of the phosphatidylinositol 3-kinase/Akt pathway sensitizes MDA-MB468 human breast cancer cells to cerulenin-induced apoptosis" Mol Cancer Ther 2006;5(3). March 2006
Na Young Jeong, et al., "Fatty acid synthase inhibitor cerulenin inhibits topoisomerase I catalytic activity and augments SN-38-induced apoptosis" Apoptosis (2013) 18:226–237
悪性中皮腫ではNF2、p16、BAP1遺伝子欠損が多いことが知られており、特にNF2/p16遺伝子二重欠損又はBAP1遺伝子欠損が多いとされる。しかしながら、遺伝子変異の種類によらず、現在の治療法は画一的に行われており、必ずしも効果があるとは言えない。例えば悪性中皮腫の治療で用いられている外科的療法では、仮に病巣を完全に切除できたとしても、それ単独での治癒はとても難しいのが現実である。また、悪性胸膜中皮腫は病巣が広い範囲に存在することが多いため、局所的な治療として用いられる放射線療法では十分な効果は期待できない。
多くの患者に適用されるのが化学療法であるが、シスプラチンとペメトレキセドの併用療法による奏効割合は約40%程度との報告がなされており、その効果は限定的であり且つ有効性の予測も困難である。また、悪性中皮腫診断後の余命は非常に短いにもかかわらず、標準的な治療法であるこの化学療法でさえ、生存期間の延長にはあまり効果がないことも分かってきている。そのため、より有効な治療法の開発が求められていた。
なお、非特許文献1には、CamKII阻害剤であるKN-93とドキソルビシンを併用することで前立腺がんに効果があることが記載されているが、ドキソルビシンの長期にわたる投与は二次がん(原発部位とは異なる細胞を起源とするがん)を引き起こす可能性を高めると言われている。これはドキソルビシンによるDNA傷害作用の結果、正常な細胞ががん化しやすいためと推測される。そのためKN-93とドキソルビシンとの併用が前立腺がんに効果があるとしても、ドキソルビシンの投与は、たとえ低用量であったとしても、新たながんの発症リスクを高めるという課題があった。
上記課題を解決すべく、本発明者らはセルレニン及び/若しくはその誘導体又はKN-93及び/若しくはその誘導体に着眼し、その有効性を詳細に検討した。その結果、セルレニン及び/若しくはその誘導体又はKN-93及び/若しくはその誘導体に悪性中皮腫治療効果があることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、本発明の実施形態は、以下に挙げる構成の少なくとも一部を含み得る。
すなわち、本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、本発明の実施形態は、以下に挙げる構成の少なくとも一部を含み得る。
[1]セルレニン及び/若しくはその誘導体、又はKN-93及び/若しくはその誘導体を有効成分として含む、悪性中皮腫の治療薬。
[2]前記悪性中皮腫が、NF2、p16及びBAP1からなる遺伝子群から選択される少なくとも1つの遺伝子が欠損している、[1]に記載の悪性中皮腫の治療薬。
[3]前記セルレニン及び/又はその誘導体を有効成分として含む治療薬が、NF2及びp16遺伝子二重欠損型悪性中皮腫用治療薬である、[1]又は[2]に記載の悪性中皮腫の治療薬。
[4]前記KN-93及び/又はその誘導体を有効成分として含む治療薬が、BAP1遺伝子欠損型悪性中皮腫用治療薬である、[1]又は[2]に記載の悪性中皮腫の治療薬。
[5]前記悪性中皮腫が、悪性胸膜中皮腫である、[1]~[4]のいずれかに記載の悪性中皮腫の治療薬。
[6]経静脈投与用である、[1]~[5]のいずれかに記載の悪性中皮腫の治療薬。
[7]免疫チェックポイント阻害剤と併用投与される、[1]~[6]のいずれかに記載の悪性中皮腫の治療薬。
[2]前記悪性中皮腫が、NF2、p16及びBAP1からなる遺伝子群から選択される少なくとも1つの遺伝子が欠損している、[1]に記載の悪性中皮腫の治療薬。
[3]前記セルレニン及び/又はその誘導体を有効成分として含む治療薬が、NF2及びp16遺伝子二重欠損型悪性中皮腫用治療薬である、[1]又は[2]に記載の悪性中皮腫の治療薬。
[4]前記KN-93及び/又はその誘導体を有効成分として含む治療薬が、BAP1遺伝子欠損型悪性中皮腫用治療薬である、[1]又は[2]に記載の悪性中皮腫の治療薬。
[5]前記悪性中皮腫が、悪性胸膜中皮腫である、[1]~[4]のいずれかに記載の悪性中皮腫の治療薬。
[6]経静脈投与用である、[1]~[5]のいずれかに記載の悪性中皮腫の治療薬。
[7]免疫チェックポイント阻害剤と併用投与される、[1]~[6]のいずれかに記載の悪性中皮腫の治療薬。
本発明の治療薬によれば、細胞増殖抑制効果及び殺細胞(アポトーシス誘導)効果を有し、がん細胞を特異的に死滅させることができる。副作用も少なく、悪性中皮腫の効果的な治療が期待される。
本発明は、悪性中皮腫治療薬に関する。より具体的には、本発明の治療薬は、セルレニン及び/若しくはその誘導体、又はKN-93及び/若しくはその誘導体を有効成分として含有する。なお、本明細書において「有効成分として含有する」とは、治療をする上で有効量のセルレニン及び/若しくはその誘導体、又はKN-93及び/若しくはその誘導体を含有することを意味する。
<悪性中皮腫>
悪性中皮腫(Malignant mesothelioma)は、中皮細胞由来の悪性腫瘍である。患者数が少ないため、希少がんとして位置付けられており、それゆえに研究の体制が整いにくいという事情があった。さらに、悪性中皮腫は難治性であり予後も極めて不良であることから効果的な治療薬が切望されていた。
そして近年の分子生物学的研究により、悪性中皮腫においては、腫瘍抑制遺伝子の神経線維種II型(NF2)、サイクリン依存性キナーゼ阻害2A(p16)、BAP1の3つが頻繁な遺伝的変化を起こすことが明らかとなった。特に、悪性中皮腫患者の約40%、あるいは60%以上においてBAP1遺伝子欠損が見られ、約40-60%にNF2/p16遺伝子二重欠損が見られることが分かっている。
悪性中皮腫(Malignant mesothelioma)は、中皮細胞由来の悪性腫瘍である。患者数が少ないため、希少がんとして位置付けられており、それゆえに研究の体制が整いにくいという事情があった。さらに、悪性中皮腫は難治性であり予後も極めて不良であることから効果的な治療薬が切望されていた。
そして近年の分子生物学的研究により、悪性中皮腫においては、腫瘍抑制遺伝子の神経線維種II型(NF2)、サイクリン依存性キナーゼ阻害2A(p16)、BAP1の3つが頻繁な遺伝的変化を起こすことが明らかとなった。特に、悪性中皮腫患者の約40%、あるいは60%以上においてBAP1遺伝子欠損が見られ、約40-60%にNF2/p16遺伝子二重欠損が見られることが分かっている。
このように、悪性中皮腫の原因遺伝子としては、NF2、p16、BAP1が知られているが、これら原因遺伝子はいずれも腫瘍抑制遺伝子であるため、これらを直接の標的とする悪性中皮腫の分子標的治療薬の開発は困難とされる。
一般的にがん治療薬としては抗がん剤、分子標的治療薬、ホルモン療法、免疫賦活剤の4種に大別される。例えば、日本人のがん罹患数上位に挙がってくる乳がんや前立腺がんはホルモンが関係しているとされ、治療においてホルモン療法が用いられている。具体的には、アロマターゼ阻害薬が乳がん治療薬として、アンドロゲン受容体阻害薬が前立腺がんの治療薬として広く使われており、一定の治療成果も得られている。肺がんは、がん遺伝子ALKやEGFRが変異を起こすことが分かっているため、それをターゲットにした分子標的療法が開発されている。一方で、悪性中皮腫の治療に用いられるシスプラチン及びペメトレキセドは、抗がん剤に当たり、がん細胞のみならず、正常細胞にも影響するため副作用が大きいとされる。そのため、副作用の小さく、治療効果の高い薬の開発が求められている。
一般的にがん治療薬としては抗がん剤、分子標的治療薬、ホルモン療法、免疫賦活剤の4種に大別される。例えば、日本人のがん罹患数上位に挙がってくる乳がんや前立腺がんはホルモンが関係しているとされ、治療においてホルモン療法が用いられている。具体的には、アロマターゼ阻害薬が乳がん治療薬として、アンドロゲン受容体阻害薬が前立腺がんの治療薬として広く使われており、一定の治療成果も得られている。肺がんは、がん遺伝子ALKやEGFRが変異を起こすことが分かっているため、それをターゲットにした分子標的療法が開発されている。一方で、悪性中皮腫の治療に用いられるシスプラチン及びペメトレキセドは、抗がん剤に当たり、がん細胞のみならず、正常細胞にも影響するため副作用が大きいとされる。そのため、副作用の小さく、治療効果の高い薬の開発が求められている。
本発明の発明者らは、セルレニン及び/若しくはその誘導体、又はKN-93及び/若しくはその誘導体が、悪性中皮腫への治療効果が高いことを見出した。高い治療効果が確認できたため、NF2、p16及びBAP1からなる遺伝子群から選択される少なくとも1つの遺伝子が欠損している悪性中皮腫に本願治療薬は有用であり、さらに、悪性胸膜中皮腫の治療にも有用である。特に、セルレニン及び/又はその誘導体はNF2/p16遺伝子二重欠損型悪性中皮腫に、KN-93及び/又はその誘導体は、BAP1遺伝子欠損型悪性中皮腫の治療に有用である。なお、NF2/p16遺伝子二重欠損型は、NF2及びp16遺伝子欠損型とも言い、NF2及びp16の遺伝子が欠損している型である。
<悪性中皮腫の診断方法>
一般的な悪性腫瘍の診断法は、生検による組織の病理学検査による。具体的には、生検で得られた腫瘍組織を、ホルマリン固定パラフィン包埋切片方法を用いてHE染色法や免疫組織化学染色法(IHC)によって、確定診断を行う。中皮マーカーであるCalretinin、WT1、D2-40の発現を確認し、正常中皮の細胞異型性が極めて高く、中皮由来であることが確認されれば、それらはすべて悪性中皮腫と診断される。
一般的な悪性腫瘍の診断法は、生検による組織の病理学検査による。具体的には、生検で得られた腫瘍組織を、ホルマリン固定パラフィン包埋切片方法を用いてHE染色法や免疫組織化学染色法(IHC)によって、確定診断を行う。中皮マーカーであるCalretinin、WT1、D2-40の発現を確認し、正常中皮の細胞異型性が極めて高く、中皮由来であることが確認されれば、それらはすべて悪性中皮腫と診断される。
本願発明においては、さらにゲノム診断によって、従来の検査で悪性中皮腫と診断された患者をNF2、p16、BAP1の有無によって層別化することが好ましい。ゲノム診断は前記3つの遺伝子変異を検出できる方法であればよく、例えば、前記3つの遺伝子でコードされるタンパク質の発現レベルを確認する免疫組織化学染色法や、次世代シークエンシング(NGS)などを用いて患者から一度に多くの遺伝子変異を網羅的に調べることが可能な遺伝子パネル検査法、3つの遺伝子座のコピー数を解析するFluorescence in situ hybridization(FISH)法などを挙げることができる。NF2及び/又はp16(MTAP)陰性の場合は、セルレニン及び/又はその誘導体を、BAP1陰性の場合は、KN-93及び/又はその誘導体を治療剤として提供する。
免疫組織化学染色法は、前記3つの遺伝子でコードされたタンパク質を特異的に認識する抗体を用いて、組織内の抗原物質の局在を確認する。一般的な免疫組織化学染色法に準拠して行うことができる。
遺伝子パネル検査法は、生検や手術などで採取されたがんの組織を用いて、高速で大量のゲノム情報を読み取る解析装置(次世代シーケンサー)を用いる方法である。1回の検査で多くの遺伝子を同時に調べることができる。具体的には、腫瘍組織はホルマリン固定パラフィン包埋切片からDNAを抽出し、ライブラリー作成して次世代シークエンサーを用いた解析を行い、腫瘍細胞DNA塩基配列上の突然変異やゲノム欠失の有無を確認する。遺伝子パネル検査法ができるシステムであれば特に限定されないが、日本人のがんゲノム変異の特徴を踏まえているNCCオンコパネルシステム(シスメックス)を使うことが好ましい。
FISH法は、染色体や遺伝子を組織や細胞においてその場で直接視覚に捉えることができる方法である。一般的なFISH法に準拠して行うことができる。また、パラフィン包埋切片から抽出したゲノムを用いて、Polymerase chain reaction(PCR)法やNGS法による解析を行うことで、遺伝子変異を同定することもできる。
<セルレニン>
本発明におけるセルレニン及び/又はその誘導体は、悪性中皮腫治療に有用である。NF2、又はp16遺伝子型悪性中皮腫の治療に有用であり、とりわけ、NF2/p16遺伝子二重欠損型悪性中皮腫の治療に有用である。
本発明におけるセルレニン及び/又はその誘導体は、悪性中皮腫治療に有用である。NF2、又はp16遺伝子型悪性中皮腫の治療に有用であり、とりわけ、NF2/p16遺伝子二重欠損型悪性中皮腫の治療に有用である。
本発明の発明者らはNF2及び/又はp16遺伝子欠損型悪性中皮腫患者において、脂肪酸シンターゼ(FAS)が高発現していることを確認し、FASを介したシグナルが、がん細胞の生存に関連があると推測した。FAS阻害物質に治療効果があると考え、発明者らは化合物ライブラリー(文科省科研費・新学術領域・がん支援・化学療法基盤支援活動班提供の標準阻害剤キット)を用いたスクリーニング試験からNF2及び/又はp16遺伝子欠損型悪性中皮腫細胞において、セルレニンの感受性が高まることを確認し、治療薬としての可能性を見出した。
より具体的にはNF2及び/又はp16遺伝子欠損型悪性中皮腫細胞にセルレニンを投与すると、細胞生存率を減少させ、アポトーシス誘導効果を奏する。一般的に、がん細胞は生存率が高く、異常に増殖したり、アポトーシス誘導経路に異常を持ち細胞死を回避したりすることができるとされるが、NF2及び/又はp16遺伝子欠損型悪性中皮腫細胞にセルレニンを投与すると、細胞増殖を抑制することができ、アポトーシス誘導効果も奏する。本発明のセルレニン及び/又はその誘導体を有効成分として含む治療薬は、10μMの濃度で悪性中皮腫細胞株又はNF2及び/又はp16遺伝子をノックアウトしたヒト中皮細胞に投与し、MTTアッセイにより評価した場合、37℃で72時間培養後の細胞生存率が、未投与群と比べ60%以下になることが好ましく、40%以下になることが更に好ましい。
セルレニンは(2R、3S)-3-[(4E、7E)-1-オキソ-4、7-ノナジエン-1-イル]-2-オキシランカルボキサミドであり、脂肪酸合成酵素阻害剤の一種である。セルレニンが、悪性中皮腫、とりわけNF2/p16遺伝子二重欠損型悪性中皮腫の治療に有効であるという、そのメカニズムは明らかではないが、おそらく、セルレニンが、悪性中皮腫で高発現しているFASタンパク質に作用して、脂肪酸生成量を減少させることによってエネルギー代謝のバランスを変化させ、アポトーシス誘導作用や細胞増殖抑制を示すと推測される。
本発明においてはセルレニンの誘導体を有効成分として含んでいてもよい。セルレニンのエポキシド構造はFAS阻害活性に必須であり、側鎖の二重結合も阻害活性に寄与するとの報告がなされており、それら基本骨格が維持されているのであれば置換基を有していてもよい。置換基の数は1又はそれ以上でもよい。置換基を2つ以上有する場合は、当該置換基は同一又は異なっていても良い。
置換基は例えば、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、シアノ基、ニトロ基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数2~6のアルキニル基、炭素数1~7のアルコキシ基、アミノ基、アシル基、アシルオキシ基、カルボキシル基、炭素数7~14のアラルキル基、芳香族炭化水素基、飽和複素環基、不飽和複素環基等が挙げられる。
本発明の治療薬はセルレニン及び/又はその誘導体であるが、入手のしやすさから、セルレニンが好ましい。
セルレニン及び/又はその誘導体は当該分野で公知の技術に従って合成してもよく、商業的に入手してもよい。
置換基は例えば、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、シアノ基、ニトロ基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数2~6のアルキニル基、炭素数1~7のアルコキシ基、アミノ基、アシル基、アシルオキシ基、カルボキシル基、炭素数7~14のアラルキル基、芳香族炭化水素基、飽和複素環基、不飽和複素環基等が挙げられる。
本発明の治療薬はセルレニン及び/又はその誘導体であるが、入手のしやすさから、セルレニンが好ましい。
セルレニン及び/又はその誘導体は当該分野で公知の技術に従って合成してもよく、商業的に入手してもよい。
<KN-93>
本発明におけるKN-93及び/又はその誘導体は悪性中皮腫治療に有用である。とりわけ、BAP1遺伝子欠損型悪性中皮腫の治療に有用である。
本発明におけるKN-93及び/又はその誘導体は悪性中皮腫治療に有用である。とりわけ、BAP1遺伝子欠損型悪性中皮腫の治療に有用である。
本発明の発明者らはBAP1遺伝子欠損型悪性中皮腫患者において、CamKIIDが高発現していることを確認し、CamKIIDを介したシグナルが、がん細胞の生存に関連があると推測した。CamKIIDに対して阻害作用を有する化合物に治療効果があると考え、発明者らは前記した化合物ライブラリーを用いたスクリーニング試験から、BAP1遺伝子欠損型悪性中皮腫において、KN-93の感受性が高まることを確認し、治療薬としての可能性を見出した。
より具体的には、BAP1遺伝子欠損型悪性中皮腫細胞に、KN-93を投与すると、細胞生存率を減少させ、アポトーシス誘導効果を奏する。本発明のKN-93及び/又はその誘導体を有効成分として含む治療薬は、10μMの濃度で悪性中皮腫細胞株又はBAP1遺伝子をノックアウトしたヒト中皮細胞に投与し、MTTアッセイにより評価した場合、37℃で72時間培養後の細胞生存率が、未投与群と比べ80%以下になることが好ましく、60%以下になることがより好ましく、40%以下になることが更に好ましい。
CamKIIDは、CamK(カルシウムカルモジュリン依存性タンパク質キナーゼ)(Ca2+/calmodulin-dependent protein kinase)ファミリーの1種であり、心不全や不整脈を引き起こす重要な細胞内リン酸化酵素である。中でもCamKIIDは心不全の病態に関与していることが知られており、KN-93などのCamKII阻害剤が心不全治療薬として有効とされている。悪性中皮腫の治療薬としては知られていない。
KN-93は(N-[2-[[[3-(4-クロロフェニル)-2-プロペニル]メチル]アミノ]メチル]フェニル]-N-(2-ヒドロキシエチル)-4-メトキシベンゼンスルホンアミド)であり、CamKII阻害剤の一種である。KN-93が、悪性中皮腫、とりわけBAP1遺伝子欠損型悪性中皮腫の治療に有効であるという、そのメカニズムは明らかではないが、KN-93がCamKIIDに対して阻害作用を持つためと考えられる。
KN-93は(N-[2-[[[3-(4-クロロフェニル)-2-プロペニル]メチル]アミノ]メチル]フェニル]-N-(2-ヒドロキシエチル)-4-メトキシベンゼンスルホンアミド)であり、CamKII阻害剤の一種である。KN-93が、悪性中皮腫、とりわけBAP1遺伝子欠損型悪性中皮腫の治療に有効であるという、そのメカニズムは明らかではないが、KN-93がCamKIIDに対して阻害作用を持つためと考えられる。
本発明においては、KN-93の誘導体を有効成分として含んでいてもよい。KN-93の基本骨格が維持されているのであれば置換基を有していてもよい。置換基の数は1又はそれ以上でもよい。置換基を2つ以上有する場合は、当該置換基は同一又は異なっていても良い。
置換基は例えば、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、シアノ基、ニトロ基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数2~6のアルキニル基、炭素数1~6のアルコキシ基、アミノ基、アシル基、アシルオキシ基、カルボキシル基、炭素数7~14のアラルキル基、芳香族炭化水素基、飽和複素環基、不飽和複素環基等が挙げられる。
本発明の治療薬はKN-93及び/又はその誘導体であるが、入手のしやすさから、KN-93が好ましい。
KN-93及び/又はその誘導体は当該分野で公知の技術に従って合成してもよく、商業的に入手してもよい。
置換基は例えば、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、シアノ基、ニトロ基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数2~6のアルキニル基、炭素数1~6のアルコキシ基、アミノ基、アシル基、アシルオキシ基、カルボキシル基、炭素数7~14のアラルキル基、芳香族炭化水素基、飽和複素環基、不飽和複素環基等が挙げられる。
本発明の治療薬はKN-93及び/又はその誘導体であるが、入手のしやすさから、KN-93が好ましい。
KN-93及び/又はその誘導体は当該分野で公知の技術に従って合成してもよく、商業的に入手してもよい。
<治療製剤>
本発明の一態様においては、セルレニン及び/若しくはその誘導体、又はKN-93及び/若しくはその誘導体を有効成分として含む治療薬に、その有効性を失わない範囲において、製剤上許容される他の成分、例えば、担体、賦形剤、崩壊剤、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、無痛化剤、安定剤、保存剤、防腐剤、生理食塩水などを含有させて、製剤としてもよい。製剤化する場合は通常公知の方法により調整することができる。
本発明の一態様においては、セルレニン及び/若しくはその誘導体、又はKN-93及び/若しくはその誘導体を有効成分として含む治療薬に、その有効性を失わない範囲において、製剤上許容される他の成分、例えば、担体、賦形剤、崩壊剤、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、無痛化剤、安定剤、保存剤、防腐剤、生理食塩水などを含有させて、製剤としてもよい。製剤化する場合は通常公知の方法により調整することができる。
本発明の治療薬又は治療製剤の投与対象は、悪性中皮腫の治療が望まれる又は必要とされるヒト及び非ヒト哺乳動物である。非ヒト哺乳動物とは例えばサル、ブタ、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコ、マウス、ラット、モルモット、ハムスターなどであり、ペット動物、家畜、実験動物を含む。好ましい投与対象としてはヒトが挙げられる。
治療薬又は治療製剤の剤形は特に限定されず、経口投与用製剤(錠剤、被覆錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤など)、経気道投与用製剤、腹腔内投与用製剤、経静脈投与製剤、注射剤、坐剤、貼付剤、軟膏剤等が例示できるが、経口投与用製剤、経気道投与用製剤又は経静脈投与用製剤が好ましい。ヒトにおいては経静脈投与製剤が好ましい。
<投与量及び投与方法>
本発明の治療薬の投与量は、使用目的、投与対象、投与対象の性別、年齢、体重、患部の状態等を考慮して適宜調製することができる。セルレニン及び/若しくはその誘導体又はKN-93及び/若しくはその誘導体の投与量は、効果を奏しつつ副作用が少ないという観点から、下記範囲が好ましい。具体的には、セルレニン及び/又はその誘導体の投与量は、単回投与または分割投与で、3日間に好ましくは10~40mg/Kg、さらに好ましくは10~30mg/Kg、 より好ましくは10~20mg/Kgである。KN-93及び/又はその誘導体の投与量は、 単回投与または分割投与で、3日間に好ましくは10~50mg/Kg、さらに好ましくは10~40mg/Kg、 より好ましくは10~30mg/Kgである。いずれも分割で投与する際の投与間隔は特に限定されず、例えば2~5日間隔を開けて投与することが好ましい。
本発明の治療薬の投与量は、使用目的、投与対象、投与対象の性別、年齢、体重、患部の状態等を考慮して適宜調製することができる。セルレニン及び/若しくはその誘導体又はKN-93及び/若しくはその誘導体の投与量は、効果を奏しつつ副作用が少ないという観点から、下記範囲が好ましい。具体的には、セルレニン及び/又はその誘導体の投与量は、単回投与または分割投与で、3日間に好ましくは10~40mg/Kg、さらに好ましくは10~30mg/Kg、 より好ましくは10~20mg/Kgである。KN-93及び/又はその誘導体の投与量は、 単回投与または分割投与で、3日間に好ましくは10~50mg/Kg、さらに好ましくは10~40mg/Kg、 より好ましくは10~30mg/Kgである。いずれも分割で投与する際の投与間隔は特に限定されず、例えば2~5日間隔を開けて投与することが好ましい。
投与方法としては、経口投与、経気道投与又は経静脈投与などが例示されるが、ヒトへ投与する際は経静脈投与が好ましい。動物における腹腔内投与は、ヒトにおける経静脈投与と同等の投与経路であることが知られているため、非ヒト哺乳動物においては腹腔内投与が好ましい。
本発明の治療薬を投与する際は、免疫チェックポイント阻害剤と併用投与することが好ましい。免疫チェックポイント阻害剤と本発明の治療薬とは作用メカニズムが異なるので、悪性中皮腫治療に対する相乗効果が期待できる。免疫チェックポイント阻害剤としては、PD-1阻害剤、PD-L1阻害剤、CTLA-4阻害剤等が挙げられる。より具体的なPD-1阻害剤としては、例えば、ニボルマブ、ペムブロリズマブ等が挙げられる。より具体的なPD-L1阻害剤としては、例えば、アベルマブ、アテゾリズマブ等が挙げられる。より具体的なCTLA-4阻害剤としては、イピリムマブ等が挙げられる。本発明とPD-L1阻害剤及び/又はCTLA-4阻害剤との併用が好ましい。より好ましくは、本発明とニボルマブ及び/又はイピリムマブとの併用が好ましい。
以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
<細胞>
以降の実施例では正常中皮細胞株、標的遺伝子をノックアウトしたヒト中皮細胞株及び悪性中皮腫細胞株を用いた。悪性中皮腫細胞株は標的遺伝子以外の欠損をしている場合もあるため、標的遺伝子のみを欠損させた細胞株(ヒト中皮細胞株)も使用した。欠損遺伝子と細胞株名との関係は表1に示した。
不活化した2つのヒト中皮細胞株MeT-5A(胸膜中皮)とHOMC-B1(大綱中皮)、及び8つの悪性中皮腫細胞株を用いた。いずれの細胞株も、10%ウシ胎児血清(Sigma)と1%ペニシリン/ストレプトマイシン(和光)を含むRPMI-1640(和光)培地で、37℃、5%CO2加湿雰囲気下で処理し、継代した。正常ヒト中皮細胞株、悪性中皮腫細胞株は、愛知県がんセンターより提供された。
<細胞>
以降の実施例では正常中皮細胞株、標的遺伝子をノックアウトしたヒト中皮細胞株及び悪性中皮腫細胞株を用いた。悪性中皮腫細胞株は標的遺伝子以外の欠損をしている場合もあるため、標的遺伝子のみを欠損させた細胞株(ヒト中皮細胞株)も使用した。欠損遺伝子と細胞株名との関係は表1に示した。
不活化した2つのヒト中皮細胞株MeT-5A(胸膜中皮)とHOMC-B1(大綱中皮)、及び8つの悪性中皮腫細胞株を用いた。いずれの細胞株も、10%ウシ胎児血清(Sigma)と1%ペニシリン/ストレプトマイシン(和光)を含むRPMI-1640(和光)培地で、37℃、5%CO2加湿雰囲気下で処理し、継代した。正常ヒト中皮細胞株、悪性中皮腫細胞株は、愛知県がんセンターより提供された。
前記ヒト中皮細胞株にCRISPR / Cas9システムを用いて、NF2ノックアウト細胞(NF2-KO#1及び#2)、p16ノックアウト細胞(p16-KO#1及び#2)、NF2/p16のダブルノックアウト細胞(DKO#1及び#2)、BAP1ノックアウト細胞(BAP1-KO#1及び#2)を作成した。NF2及び/又はp16ノックアウト細胞の作成方法及び欠損の確認結果を図1Aに、 BAP1ノックアウト細胞の作成方法及び欠損の確認結果を図1Bに示す。
シングルガイドRNA(sgRNA)は、CRISPRデザインを使用して選択された。NF2に使用されたsgRNA配列は5'-AAACATCTCGTACAGTGACA-3 'であり、p16に使用された配列は5'-A CCGTAACTATTCGGTGCGT-3'であり、それぞれエクソン8及び1に対応する。
BAP1に使用されたsgRNA配列は5'- TCAAATGGATCGAAGAGCGC -3'であり、エクソン4に対応する。オリゴヌクレオチドをPX458のBbsI部位(NF2 / PX458及びp16 / PX458)にライゲーションすることにより、hCas9及びsgRNAを発現するプラスミドを調製した。ノックアウト細胞は、4D-Nucleofectorシステム機器(Lonza Japan)を使用して、1μgのNF2 / PX458又はp16 / PX458プラスミドを1×106個の細胞にエレクトロポレーションすることによって確立した。トランスフェクションの3日後、緑色蛍光タンパク質を発現する細胞をBD FACSARIA III(BD bioscience)を使用して選別し、実験に用いた。遺伝子欠損の確認には、ウエスタンブロット法を用いた。
BAP1に使用されたsgRNA配列は5'- TCAAATGGATCGAAGAGCGC -3'であり、エクソン4に対応する。オリゴヌクレオチドをPX458のBbsI部位(NF2 / PX458及びp16 / PX458)にライゲーションすることにより、hCas9及びsgRNAを発現するプラスミドを調製した。ノックアウト細胞は、4D-Nucleofectorシステム機器(Lonza Japan)を使用して、1μgのNF2 / PX458又はp16 / PX458プラスミドを1×106個の細胞にエレクトロポレーションすることによって確立した。トランスフェクションの3日後、緑色蛍光タンパク質を発現する細胞をBD FACSARIA III(BD bioscience)を使用して選別し、実験に用いた。遺伝子欠損の確認には、ウエスタンブロット法を用いた。
図1Aに示すように、NF2及び/又はp16ノックアウト細胞においてシングルガイドRNA配列は、NF2遺伝子のエクソン8(左側)及びCDKN2A(p16)遺伝子のエクソン1(右側)に対して設計された。得られたダブルノックアウト細胞(DKO)において、NF2やp16でコードされたタンパク質が発現していないことをウエスタンブロットで確認した。図1Bに示すように、BAP1ノックアウト細胞において、シングルガイドRNA配列はBAP1遺伝子のエクソン4に対して設計された。得られたノックアウト細胞(BAP1-KO)において、BAP1でコードされたタンパク質が発現していないことをウエスタンブロットで確認した。GAPDHは内部標準として使用した。以降の実験で用いた細胞株の詳細を表1に示す。
<細胞生存率測定>
正常細胞、ノックアウトした細胞及び悪性中皮腫細胞3×103個を96穴細胞培養プレートに播種した。37℃で24時間培養し、その後、セルレニン(Fujifilm WAKO、 Cat. 031-18181)とKN-93(Fujifilm WAKO、 Cat. 115-00641)の濃度を20、 15、 10、 7.5、 5、 2.5、 1.25、 0.625(μM)と変化させて投与し、37℃で72時間培養した。それぞれの細胞株の細胞生存率についてMTTアッセイを用いて評価した。比較例として、現在、悪性中皮腫治療薬として使われている(従来薬ともいう)シスプラチン(SIGMA、479306)とペメトレキセド(Selleck、 S5971)も同様に濃度を変化させて添加した。処理群における吸光度を基準に各ノックダウン群及び阻害剤処理群を正規化(各細胞株において、薬剤を投与していないグループを100%とする)し、比較検討した。
正常細胞、ノックアウトした細胞及び悪性中皮腫細胞3×103個を96穴細胞培養プレートに播種した。37℃で24時間培養し、その後、セルレニン(Fujifilm WAKO、 Cat. 031-18181)とKN-93(Fujifilm WAKO、 Cat. 115-00641)の濃度を20、 15、 10、 7.5、 5、 2.5、 1.25、 0.625(μM)と変化させて投与し、37℃で72時間培養した。それぞれの細胞株の細胞生存率についてMTTアッセイを用いて評価した。比較例として、現在、悪性中皮腫治療薬として使われている(従来薬ともいう)シスプラチン(SIGMA、479306)とペメトレキセド(Selleck、 S5971)も同様に濃度を変化させて添加した。処理群における吸光度を基準に各ノックダウン群及び阻害剤処理群を正規化(各細胞株において、薬剤を投与していないグループを100%とする)し、比較検討した。
細胞生存率を測定し、本願治療薬が悪性中皮腫に有効であるかを確認した結果を図2~図5に示す。統計学的な有意差はStudentのT検定を用いて測定した。正常中皮細胞株と比較対象とする細胞株の生存率との間に有意差がある場合、アスタリスク(*)を付した。アスタリスクは、Probability(P)が0.05未満であることを表す。
図2から明らかなように、セルレニンは用量依存的に細胞生存率を抑制した。従来薬のシスプラチンやペメトレキセド投与と比較して、セルレニン投与による有意な生存細胞の減少が見られた。特にNF2/p16遺伝子二重欠損株においては2.5μM以上のセルレニン投与で効果が見られた。低濃度投与で治療効果が見られることは、副作用の点からも好ましい。
図2から明らかなように、セルレニンは用量依存的に細胞生存率を抑制した。従来薬のシスプラチンやペメトレキセド投与と比較して、セルレニン投与による有意な生存細胞の減少が見られた。特にNF2/p16遺伝子二重欠損株においては2.5μM以上のセルレニン投与で効果が見られた。低濃度投与で治療効果が見られることは、副作用の点からも好ましい。
図3及び図4は、10μM薬物を添加した際の細胞生存率を示す。10μMの濃度での投与では、従来薬投与と比較して、特にNF2/p16二重欠損株においてセルレニン投与による有意な生存細胞の減少が見られた(図3参照)。より具体的には、10μMセルレニンを投与することで、NF2/p16二重欠損株の細胞生存率が60%以下になった。KN-93の投与においては、従来薬投与と比較すると、BAP1欠損株で有意な生存細胞の減少が見られた(図4参照)。興味深いことに、KN-93による細胞増殖抑制効果は、少なくともBAP1が欠損した株で見られ、BAP1/NF2二重欠損株やBAP1/p16二重欠損株においても見られた。10μMのKN-93の投与で、BAP1欠損株の細胞生存率が80%以下になった。
図5はKN-93投与濃度と細胞生存率との関係を調べた図であるが、BAP1欠損株において、2.5μM以上のKN-93の投与で生存細胞減少の効果が見られた。低濃度投与で治療効果が見られることは、副作用の点からも好ましい。
またセルレニン10μMを添加した細胞と、比較例としてセルレニンと同じ脂肪酸合成酵素阻害剤であるC75(ALEXIS)10μMを添加した細胞の生存率を比較した結果を図6に示す。同様にKN-93 10μMと、KN-93と同じCamKIID阻害剤であるKN-62(WAKO)と、LavendustinC(Calbio Chem)10μMを添加した際の細胞生存率を図7に示す。実験方法は先述した方法と同じである。
図6から、セルレニン添加ではC75添加に比べて有意に生存細胞減少効果が認められた。セルレニンもC75も脂肪合成酵素阻害剤であるが、その構造の違いからC75は生存細胞減少効果を有さないと推測される。図7からは、特にBAP1欠損株における優位な生存細胞減少効果が、KN-93のみに認められた。おそらく構造の違いによるものと推測される。
図6から、セルレニン添加ではC75添加に比べて有意に生存細胞減少効果が認められた。セルレニンもC75も脂肪合成酵素阻害剤であるが、その構造の違いからC75は生存細胞減少効果を有さないと推測される。図7からは、特にBAP1欠損株における優位な生存細胞減少効果が、KN-93のみに認められた。おそらく構造の違いによるものと推測される。
<アポトーシス誘導率測定>
中皮細胞又は中皮腫細胞株にセルレニン又はKN-93を7.5μM添加して37℃で48時間培養し、PI(Propidium iodide)染色及びAnnexin-V-FITC染色の二重染色法により、フローサイトメトリーによる細胞死(アポトーシス)誘導作用を解析した。
細胞を2x105cell/mLになるよう調整して12well plateに播種し、37℃で48時間培養した。PI染色液はPI(SIGMA)を100μg/mLの濃度となるようにPBSに懸濁したものを用いた。Annexin-V-FITC(MBL)を用いた。BD FACSCantoTM II フローサイトメーター(BD bioscience)を用いて測定を行い、アポトーシス細胞死割合を測定した。その結果を図8、9に示す。
中皮細胞又は中皮腫細胞株にセルレニン又はKN-93を7.5μM添加して37℃で48時間培養し、PI(Propidium iodide)染色及びAnnexin-V-FITC染色の二重染色法により、フローサイトメトリーによる細胞死(アポトーシス)誘導作用を解析した。
細胞を2x105cell/mLになるよう調整して12well plateに播種し、37℃で48時間培養した。PI染色液はPI(SIGMA)を100μg/mLの濃度となるようにPBSに懸濁したものを用いた。Annexin-V-FITC(MBL)を用いた。BD FACSCantoTM II フローサイトメーター(BD bioscience)を用いて測定を行い、アポトーシス細胞死割合を測定した。その結果を図8、9に示す。
図8A、図9Aはフローサイトメトリーの結果である。縦軸はPIの蛍光強度を示し、横軸はアネキシンV-FITCの蛍光強度を示す。アネキシンV-FITCの蛍光値が高く、PIの蛍光値が低い細胞は、アポトーシス初期の細胞であり、アネキシンV-FITCの蛍光値及びPIの蛍光値の双方が高い細胞は、アポトーシス後期の細胞である。
図8Aから明らかなようにNF2/p16二重欠損株にセルレニンを添加すると、特にアポトーシス後期の細胞が増加することがわかる。同様に図9Aから、BAP1欠損株にKN-93を添加するとアポトーシス前期及び後期の細胞が増加する。
図8Bは図8Aの結果に基づいて作成したグラフであり、アポトーシスを生じた細胞の割合を示す。図8Bからも、NF2/p16二重欠損株においてセルレニンはアポトーシス誘導作用を増強させることが明らかとなった。同様に図9Bから、KN-93はBAP1欠損株においてアポトーシス誘導作用を増強させることが分かった。
図8Aから明らかなようにNF2/p16二重欠損株にセルレニンを添加すると、特にアポトーシス後期の細胞が増加することがわかる。同様に図9Aから、BAP1欠損株にKN-93を添加するとアポトーシス前期及び後期の細胞が増加する。
図8Bは図8Aの結果に基づいて作成したグラフであり、アポトーシスを生じた細胞の割合を示す。図8Bからも、NF2/p16二重欠損株においてセルレニンはアポトーシス誘導作用を増強させることが明らかとなった。同様に図9Bから、KN-93はBAP1欠損株においてアポトーシス誘導作用を増強させることが分かった。
<副作用の程度の確認試験>
MSTO-211H(p16欠損悪性中皮腫細胞株)、Y-MESO-9(p16/BAP1欠損悪性中皮腫細胞株)を免疫不全マウス(n=6)へ移植したXenograftモデルを用いて、本発明の治療薬の副作用の程度を確認した。マウスの体重減少が多い場合は副作用が大きいと判断した。マウスへがん細胞を移植後、腫瘍体積が100mm3に達したのち(Day-0)、MSTO-211Hを移植したマウスにセルレニンを20mg/Kg、3日に1回、計5回投与した。Y-MESO-9を移植したマウスにKN-93を30mg/Kg、週に2回21日間投与した(計6回の投与)。マウスの体重は3日に1回測定し、6個体の平均値を出した。結果を図10に示す。
いずれの場合もマウスの体重の増減はなく、ほぼ一定の値を示したことから副作用(体重減少)は認められないと考える。
MSTO-211H(p16欠損悪性中皮腫細胞株)、Y-MESO-9(p16/BAP1欠損悪性中皮腫細胞株)を免疫不全マウス(n=6)へ移植したXenograftモデルを用いて、本発明の治療薬の副作用の程度を確認した。マウスの体重減少が多い場合は副作用が大きいと判断した。マウスへがん細胞を移植後、腫瘍体積が100mm3に達したのち(Day-0)、MSTO-211Hを移植したマウスにセルレニンを20mg/Kg、3日に1回、計5回投与した。Y-MESO-9を移植したマウスにKN-93を30mg/Kg、週に2回21日間投与した(計6回の投与)。マウスの体重は3日に1回測定し、6個体の平均値を出した。結果を図10に示す。
いずれの場合もマウスの体重の増減はなく、ほぼ一定の値を示したことから副作用(体重減少)は認められないと考える。
<腫瘍抑制効果確認試験>
前記体重測定を行ったマウスにつき、がん細胞移植部分を切開し、腫瘍を取り出し、腫瘍の体積を測定した。腫瘍は長径、短径をノギスで測定し、長径×短径×短径÷2で算出し、治療時のマウスの体積で割った。その結果を図11に示す。セルレニン投与(図11A)及びKN-93投与(図11B)により、腫瘍体積低減が認められた。図11Aからも明らかなように、セルレニンはp16単独欠損株(MSTO-211H)にも腫瘍抑制効果を示した。
前記体重測定を行ったマウスにつき、がん細胞移植部分を切開し、腫瘍を取り出し、腫瘍の体積を測定した。腫瘍は長径、短径をノギスで測定し、長径×短径×短径÷2で算出し、治療時のマウスの体積で割った。その結果を図11に示す。セルレニン投与(図11A)及びKN-93投与(図11B)により、腫瘍体積低減が認められた。図11Aからも明らかなように、セルレニンはp16単独欠損株(MSTO-211H)にも腫瘍抑制効果を示した。
<悪性腫瘍原因タンパク質への効果確認>
正常ヒト中皮細胞株(parent)及びNF2/p16二重欠損株(DKO)を用い、セルレニン添加によるFASタンパク質(FASN)、CD24、切断型PARP(c-PARP)の増減についてウエスタンブロットにより確認した。parent及びDKO株にセルレニンを7.5μM添加して24時間培養したのち、タンパク質抽出液を調製した。FASタンパク質(FASN)、CD24、切断型PARP(c-PARP)を特異的に認識する抗体を用いた。その結果を図12に示す。セルレニン未投与群では、DKO細胞株においてFASN、CD24の増加が認められた。これらの発現量は、セルレニン投与によって減少した。なお、CD24は、グリコシルホスファチジルイノシトール結合シアロタンパク質であり、最近の研究でNF2/p16-二重欠損株で高度に発現していることが明らかとなったため、悪性中皮腫発生のターゲットとして用いた。セルレニンの投与によりCD24が減少したことより、セルレニンが悪性中皮腫、特にNF2/p16二重欠損型悪性中皮腫の細胞増殖の抑制効果が示唆された。さらに、セルレニン投与はアポトーシスマーカーである、切断型PARPを増加させたことから、セルレニンによるアポトーシス誘導作用が示唆された。
正常ヒト中皮細胞株(parent)及びNF2/p16二重欠損株(DKO)を用い、セルレニン添加によるFASタンパク質(FASN)、CD24、切断型PARP(c-PARP)の増減についてウエスタンブロットにより確認した。parent及びDKO株にセルレニンを7.5μM添加して24時間培養したのち、タンパク質抽出液を調製した。FASタンパク質(FASN)、CD24、切断型PARP(c-PARP)を特異的に認識する抗体を用いた。その結果を図12に示す。セルレニン未投与群では、DKO細胞株においてFASN、CD24の増加が認められた。これらの発現量は、セルレニン投与によって減少した。なお、CD24は、グリコシルホスファチジルイノシトール結合シアロタンパク質であり、最近の研究でNF2/p16-二重欠損株で高度に発現していることが明らかとなったため、悪性中皮腫発生のターゲットとして用いた。セルレニンの投与によりCD24が減少したことより、セルレニンが悪性中皮腫、特にNF2/p16二重欠損型悪性中皮腫の細胞増殖の抑制効果が示唆された。さらに、セルレニン投与はアポトーシスマーカーである、切断型PARPを増加させたことから、セルレニンによるアポトーシス誘導作用が示唆された。
本発明の治療薬によれば、悪性中皮腫を効果的に治療することができる。細胞増殖抑制効果及び殺細胞(アポトーシス誘導)効果を有し、がん細胞を特異的に死滅させることができるため、副作用も少ない。
Claims (7)
- セルレニン及び/若しくはその誘導体、又はKN-93及び/若しくはその誘導体を有効成分として含む、悪性中皮腫の治療薬。
- 前記悪性中皮腫が、NF2、p16及びBAP1からなる遺伝子群から選択される少なくとも1つの遺伝子が欠損している、請求項1に記載の悪性中皮腫の治療薬。
- 前記セルレニン及び/又はその誘導体を有効成分として含む治療薬が、NF2及びp16遺伝子二重欠損型悪性中皮腫用治療薬である、請求項1又は2に記載の悪性中皮腫の治療薬。
- 前記KN-93及び/又はその誘導体を有効成分として含む治療薬が、BAP1遺伝子欠損型悪性中皮腫用治療薬である、請求項1又は2に記載の悪性中皮腫の治療薬。
- 前記悪性中皮腫が、悪性胸膜中皮腫である、請求項1~4のいずれか一項に記載の悪性中皮腫の治療薬。
- 経静脈投与用である、請求項1~5のいずれか一項に記載の悪性中皮腫の治療薬。
- 免疫チェックポイント阻害剤と併用投与される、請求項1~6のいずれか一項に記載の悪性中皮腫の治療薬。
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