JP5555897B2 - 白血病治療剤及び該治療剤の新規なスクリーニング方法 - Google Patents
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Description
しかし、この治療法を行うためには、HLA(白血球のタイプ)が一致する造血幹細胞の提供者が必要なこと、また移植後においても、GVHD(移植片対宿主病)がおこる危険性や再発の可能性がある。
しかし、CMLにおけるST571による臨床試験では、進行期の多くの患者が良好に応答するものの、その後再発することが報告されている。加えて、BCR-ABL遺伝子の発現の増強または変異によるST1571に対する耐性が慢性骨髄性白血病患者において認められている(非特許文献2)。
このように、本特許文献1は、FOXO3aホスホリル化を抑制することにより、造血細胞の異常増殖を抑制している。よって、本発明とは明らかに異なる。
加えて、本特許文献1の実施例で使用した細胞は、慢性骨髄性白血病の白血病幹細胞ではなく、急性白血病細胞を使用している。
しかし、スクリーニングの標的遺伝子が明らかに異なる。
1.Foxo若しくはFoxo改変体の活性化又は発現を阻害する試験化合物を選択することを特徴とする慢性骨髄性白血病の治療剤又は予防剤のスクリーニング方法。
2.以下の工程を含む前項1に記載のスクリーニング方法:
(a)試験化合物を、転写因子であるFoxo若しくはFoxo改変体、及び該転写因子に特異的に認識される遺伝子とレポーター遺伝子を含む融合遺伝子を含む試験動物又は試験細胞に接触させる工程、
(b)レポータータンパク質の試験動物又は試験細胞中での発現量を測定する工程。
3.以下の工程を含む前項1に記載のスクリーニング方法:
(a)試験化合物を、Foxo遺伝子若しくはFoxo改変体遺伝子とレポーター遺伝子を含む融合遺伝子を含む試験動物又は試験細胞に接触させる工程、
(b)レポータータンパク質の試験動物又は試験細胞中での発現量を測定する工程。
4.以下の工程を含む前項1に記載のスクリーニング方法:
(a)試験化合物を、Foxo遺伝子若しくはFoxo改変体遺伝子を含む試験動物又は試験細胞に投与又は接触させる工程、
(b)試験動物又は試験細胞中でのFoxo遺伝子若しくはFoxo改変体遺伝子又はFoxo若しくはFoxo改変体の発現量を測定する工程。
5.以下の工程を含む前項1に記載のスクリーニング方法:
(a)試験化合物を、Foxo遺伝子若しくはFoxo改変体遺伝子によってコードされるタンパク質に接触させる工程、
(b)前記タンパク質のリン酸化度を測定する工程。
6.前記試験細胞が、慢性骨髄性白血病の白血病幹細胞であることを特徴とする前項1〜5のいずれか1に記載のスクリーニング方法。
7.前記Foxoが、Foxo3a又はFoxo4であることを特徴とする前項1〜6のいずれか1に記載のスクリーニング方法。
8.[2-(5-クロロ-2-フルオロフェニル)プテリジン-4-イル]ピリジン-4-イル-アミンを有効成分として含む慢性骨髄性白血病の治療剤又は予防剤。
9.[3-(ピリジン-2-イル)-4-(4-キノニル)]-1H-ピラゾールを有効成分として含む慢性骨髄性白血病の治療剤又は予防剤。
10.Foxo3a又はFoxo4を不活性化する抗体を有効成分として含む慢性骨髄性白血病の治療剤又は予防剤。
加えて、Foxo3aの不活性化剤であるTGF-β阻害剤により慢性骨髄性白血病の白血病幹細胞の増殖が抑制されたことを確認している。
従って、本発明のスクリーニング系を用いて、Foxo3a若しくはFoxo4の活性化又は発現を阻害する物質を同定することにより、新たな作用機序を持つ慢性骨髄性白血病治療剤及び/又は慢性骨髄性白血病の予防剤を開発することができる。
フォークヘッド型転写因子は約100アミノ酸からなる特徴的なDNA結合ドメインを有する転写因子群であり、酵母からヒトに至る幅広い生物種で100種類以上の遺伝子ファミリーが同定されている。このうちFoxoはフォークヘッド型転写因子クラスOに分類されるサブファミリーであり、哺乳類ではFoxo1(FKHR)、Foxo3a (FKHRL1)、Foxo4 (AFX)、Foxo6等が知られている。
なお、本発明者らは、「Foxoは、線虫の寿命制御分子として知られる転写因子Daf-16のオルソログであり、この分子がマウス造血幹細胞の細胞周期、特にG0期維持、骨髄再構築能に必須の役割を持つこと」を明らかにしている(Cell Stem Cell, 1, 101-112, 2007)。
加えて、本発明のスクリーニングの標的Foxoは、Foxo3a、Foxo4であり、好ましくはFoxo3aである。
Foxo3aは、活性化したAktによりリン酸化され、細胞核から細胞質へと排出される。そして、排出されたFoxo3aは、転写因子としての機能を失うことが知られている(The Journal of Biological Chemistry, Vol.278, No.8, pp.641-6419, 2003)。
本発明の「Foxo3a」は、ヒト由来(Accession No.NM_001455)に限定されず、マウス(Accession No.NM_019740)、ラット、ウサギ等の非ヒト哺乳動物由来のものも含まれる。
なお、Foxo3aはヒト、マウス、ラット、ウシ、ニワトリ、ゼブラフィッシュ、ショウジョウバエでは配列が保存されている。
なお、本発明の「Foxo3a改変体」とは、Foxo3aと同等の機能を有し、かつFoxo3aとの構造を比較して、アミノ酸配列に1〜50、1〜30、1〜10、又は1〜3個のアミノ酸が置換、欠失、付加、または挿入等がされている構造を意味する。
加えて、本発明の「Foxo3a改変体遺伝子」は、該遺伝子によってコードされるタンパク質がFoxo3aと同等の機能を有する遺伝子配列を意味する。
Foxo4は、インスリンシグナル経路の制御に関与する転写因子として知られている。Foxo4は、IREs(insulin-response elements)に結合し、そしてIGFBP1の転写を活性化する。
本発明の「Foxo4」は、ヒト由来(Accession No. NM_005938)に限定されず、マウス(Accession No.NM_018789)、ラット、ウサギ等の非ヒト哺乳動物由来のものも含まれる。
なお、本発明の「Foxo4」とは、Foxo4と同等の機能を有し、かつFoxo4との構造を比較して、アミノ酸配列に1〜50、1〜30、1〜10、又は1〜3個のアミノ酸が置換、欠失、付加、または挿入等がされている構造を意味する。
加えて、本発明の「Foxo4改変体遺伝子」は、該遺伝子によってコードされるタンパク質がFoxo4と同等の機能を有する遺伝子配列を意味する。
本発明の「試験細胞」は、Foxo遺伝子(特にFoxo3a遺伝子)又は該遺伝子によってコードされるタンパク質(Foxo)を発現できる細胞であれば特に限定されない。
例えば、マウス由来又はヒト由来の慢性骨髄性白血病の白血病幹細胞、ヒト血液細胞、ヒト由来のAC133陽性造血幹細胞、マウスのKLS+細胞、ヒトのCD34+細胞が挙げられる。
特に好ましいのは、マウス由来若しくはヒト由来の慢性骨髄性白血病の白血病幹細胞、マウスのKLS+細胞、ヒトのCD34+細胞である。
本発明の「Foxoの活性化を阻害」とは、Foxo(特にFoxo3a)を不活性化、特に不活性化を誘導又は促進することを意味する。また、Foxoをリン酸化させることも意味する。また、白血病幹細胞の細胞核に局在するFoxoを細胞質に誘導することも意味する。加えて、発現したFoxoタンパク質に結合することにより転写機能を阻害することも意味する。
なお、「Foxo改変体の活性化を阻害」も上記と同様な意味である。
本発明の「Foxoの発現を阻害」とは、Foxo 遺伝子(特にFoxo3a遺伝子)がFoxoタンパク質に翻訳されるいずれの段階をも阻害することを意味する。
なお、「Foxo改変体の発現を阻害」も上記と同様な意味である。
本発明のスクリーニング方法は、以下に例示する。しかしながら、Foxo若しくはFoxo改変体の活性化又は発現を阻害する試験化合物を選択することができれば特には限定されない。
なお、本発明の「試験化合物の選択」とは、試験化合物が慢性骨髄性白血病の治療剤又は予防剤として利用できるかを確認することである。すなわち、本発明のスクリーニング方法で得られた慢性骨髄性白血病の治療剤又は予防剤の試験化合物は、さらに動物実験等で実用性が確認することができる。
(a)試験化合物を、転写因子であるFoxo(特にFoxo3a)若しくはFoxo改変体(特にFoxo3a改変体)、及び該転写因子に特異的に認識される遺伝子とレポーター遺伝子を含む融合遺伝子を含む試験動物又は試験細胞に接触させる工程、
(b)レポータータンパク質の試験動物又は試験細胞中での発現量を測定する工程。
ここで、Foxoは転写因子であるので、自体公知のレポータージーンアッセイを使用することができる(参照:特開2003−180393)。
すなわち、上記レポータータンパク質の発現量が、試験化合物を含まない「転写因子であるFoxo若しくはFoxo改変体、及び該転写因子に特異的に認識される遺伝子及びレポーター遺伝子の融合遺伝子を含む試験動物又は試験細胞」のレポータータンパク質の発現量と比較して有意に低ければ、試験化合物がFoxoの転写機能を阻害したことがわかる。Foxo遺伝子若しくはFoxo改変体遺伝子の転写機能を阻害することができる試験化合物は慢性骨髄性白血病の治療剤又は予防剤となり得る。
なお、レポーター遺伝子としては、β−ガラクトシダーゼ遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、グリーンフルオレッセンスプロテイン(GFP)遺伝子等が挙げられるがこれらに限定されない。
加えて、転写因子であるFoxo3aに特異的に認識される配列は、Insulin-response elements{3x (CAAAACAA)+4x (TTATTTTG)}等が例示される。
(a)試験化合物を、Foxo遺伝子(特にFoxo3a遺伝子)若しくはFoxo改変体遺伝子(特にFoxo3a改変体遺伝子)とレポーター遺伝子を含む融合遺伝子を含む試験動物又は試験細胞に接触させる工程。
(b)レポータータンパク質の試験動物又は試験細胞中での発現量を測定する工程。
ここで、上記レポータータンパク質の発現量が、試験化合物を含まない「Foxo遺伝子若しくはFoxo改変体遺伝子とレポーター遺伝子の融合遺伝子を含む試験動物又は試験細胞」のレポータータンパク質の発現量と比較して有意に低ければ、試験化合物がFoxo遺伝子若しくはFoxo改変体遺伝子の発現量を減少させたことがわかる。Foxo遺伝子若しくはFoxo改変体遺伝子の発現量を減少させる試験化合物は慢性骨髄性白血病の治療剤又は予防剤となり得る。
(a)試験化合物を、Foxo遺伝子(特にFoxo3a遺伝子)若しくはFoxo改変体遺伝子(特にFoxo3a改変体遺伝子)を含む試験動物又は試験細胞に投与又は接触させる工程。
(b)試験動物又は試験細胞中でのFoxo遺伝子若しくはFoxo改変体遺伝子又はFoxo若しくはFoxo改変体の発現量を測定する工程。
ここで、上記Foxo遺伝子若しくはFoxo改変体遺伝子又はFoxo若しくはFoxo改変体の発現量が、試験化合物を含まない「Foxo遺伝子若しくはFoxo改変体遺伝子を含む試験動物又は試験細胞」のFoxo遺伝子若しくはFoxo改変体遺伝子又はFoxo若しくはFoxo改変体の発現量と比較して有意に低ければ、試験化合物がFoxo遺伝子若しくはFoxo改変体遺伝子又はFoxo若しくはFoxo改変体の発現量を減少させたことがわかる。よって、Foxo遺伝子若しくはFoxo改変体遺伝子又はFoxo若しくはFoxo改変体の発現量を減少させる試験化合物は慢性骨髄性白血病の治療剤又は予防剤となり得る。
(a)試験化合物を、Foxo遺伝子(特にFoxo3a遺伝子)若しくはFoxo改変体遺伝子(特に、Foxo3a改変体遺伝子)によってコードされるタンパク質に接触させる工程。
(b)前記タンパク質のリン酸化度を測定する工程。
ここで、上記リン酸化度が、試験化合物を含まない場合のリン酸化度と比較して有意に高ければ、試験化合物がFoxo若しくはFoxo改変体のリン酸化(Foxoの不活性化)を促進させたことがわかる。よって、Foxo若しくはFoxo改変体のリン酸化を促進させる試験化合物は慢性骨髄性白血病の治療剤又は予防剤となり得る。なお、リン酸化度は自体公知の方法で測定することができる。
なお、スクリーニング系は、iv vitro 又はin vivoのどちらでも良い。
1)RT-PCR法
2)免疫ブロット法
3)SAGE
4)抗Foxo抗体を使用した免疫沈降法
5)プルダウン法
6)ELISA
7)ウエスタンブロット
8)ハイブリダイゼーション
上記試験細胞内又は試験動物でFoxoを発現させる方法としては、Foxo若しくはFoxo改変体をコードする遺伝子を該細胞又は該試験動物に導入すれば良い。
なお、Foxoは細胞中で発現している内因性Foxoを利用することができる。しかし、より感度の良いスクリーニング系を構築するには、Foxo若しくはFoxo改変体をコードする遺伝子を該細胞又は該試験動物に導入しても良い。
上記組換え発現ベクターの宿主への導入方法は、例えば、リン酸カルシウム法、プロトプラスト法、エレクトロポレーション法、スフェロブラスト法、酢酸リチウム法、リポフェクション法などが挙げられるが、特に限定されない。なお、レトロウイルスベクターやレンチウイルスベクターが好適に利用できる。
本発明の「慢性骨髄性白血病の診断方法」とは、従来の診断方法とは異なり、患者由来の細胞特に白血病幹細胞中のFoxo発現量(特にFoxo3a発現量)を指標とするものである。
すなわち、本発明の「慢性骨髄性白血病の診断方法」では、予め設定しておいたFoxo発現量の基準値と比較して、発病時期の予測及び/又は進行度合いを判定することができる。
なお、基準値とは進行度を示す標準値を示す。一般的に、慢性骨髄性白血病の白血病幹細胞中のFoxo量は、慢性骨髄性白血病の進行が進むにつれて増加すると考えられる。基準値の設定方法としては、予め慢性骨髄性白血病の進行度合い及び発病時期を確認している患者の慢性骨髄性白血病の白血病幹細胞から得られるFoxo量の平均値から算出する。
本発明で用いる「試験化合物」としては任意の物質を使用することができる。試験化合物の種類は特に限定されず、個々の低分子合成化合物特にsiRNAでもよいし、天然物抽出物中に存在する化合物でもよく、合成ペプチドでもよい。
あるいは、試験化合物は、化合物ライブラリー、ファージディスプレーライブラリーもしくはコンビナトリアルライブラリーでもよい。試験化合物は、好ましくは低分子化合物であり、低分子化合物の化合物ライブラリーが好ましい。化合物ライブラリーの構築は当業者に公知であり、また市販の化合物ライブラリーを使用することもできる。
本発明の慢性骨髄性白血病の治療剤又は予防剤は、有効成分として[2-(5-クロロ-2-フルオロフェニル)プテリジン-4-イル]ピリジン-4-イル-アミン及び/又は[3-(ピリジン-2-イル)-4-(4-キノニル)]-1H-ピラゾールを含有する。
さらに、本発明の慢性骨髄性白血病の治療剤又は予防剤は、有効成分としてFoxo遺伝子のmRNAを特異的に切断するリボザイムを含有する。
加えて、本発明の慢性骨髄性白血病の治療剤又は予防剤は、有効成分としてFoxo3a又はFoxo4を不活性化する抗体を含有する。
なお、抗Foxo3a抗体又は抗Foxo4抗体は、市販されている抗体を利用することができる。
以下の方法により、慢性骨髄性白血病の白血病幹細胞を取得した。
マウス(C57BL/6)から骨髄単核細胞を取得し、抗CD4 (L3T4)、抗CD8 (53-6.7)、抗 B220 (RA3-6B2)、抗TER119 (Ly-76)、抗Gr-1 (RB6-8C5)、抗Mac1 (M1/70)、抗Sca-1 (E13-161.7)、並びに抗c-Kit 抗体を用いて染色を行った。このマウス骨髄単核細胞から、セルソーター (FACSaria, BD社製)を用いて、マウスの正常造血幹細胞を含む分化マーカー(CD4、CD8、B220、TER119、Gr-1, Mac1)陰性、c-Kit陽性、 Sca-1陽性細胞集団を純化した。さらに、該細胞集団を無血清培地S-Clone {(SF-O;3三光純薬社製)(10ng/ml ヒトTPO: Thrombopoietin; PeproTech社)、並びに10 ng/ml マウスSCF (Stem cell factor; 和光純薬社製)含有、(以下サイトカイン含有)}で1日間培養し、レトロウイルスベクターを用いてBCR-ABL-GFP遺伝子を導入した。なお、BCR-ABL遺伝子はヒトの慢性骨髄性白血病の原因遺伝子である。1日間サイトカイン含有 S-Clone培地で培養後、別途取得したマウス骨髄単核細胞(一匹当たり5x105細胞)と共に、放射線照射 (9.5Gy)したマウス(C57BL/6)に移植(尾静脈より注射)した。最後に、12〜14日後に移植したマウスの骨髄、並びに脾臓から白血病細胞を取得した.
上記(1)で得られた白血病細胞を、抗CD4 (L3T4)、 抗CD8 (53-6.7)、抗B220 (RA3-6B2)、抗TER119 (Ly-76)、抗Gr-1 (RB6-8C5)、抗Mac1 (M1/70)、抗Sca-1 (E13-161.7)並びに抗c-Kit 抗体を用いて染色を行った。該染色細胞から、セルソーター(FACSaria, BD社製)を用いて、BCR-ABL遺伝子を発現するGFP陽性細胞中、分化マーカー(CD4、CD8、B220、TER119、Gr-1、Mac1)陽性細胞 (Lin+)、分化マーカー陰性細胞 (Lin-)、分化マーカー陰性、c-Kit陽性、Sca-1陰性細胞(KLS-)並びに分化マーカー陰性、c-Kit陽性、Sca-1陽性(KLS+)集団を単離した。
(B)マウス生体内における白血病発症能を評価するため、それぞれ30,000細胞のLin+細胞、Lin-細胞、KLS+細胞、KLS-細胞を上記の方法によりマウスに二次移植し、生存率の解析を行った。
上記(B)の結果では、試験管内でのコロニー形成実験と一致して、KLS+細胞を移植したマウスの生存率が低いことが明らかになった(図2)。従ってKLS+細胞は、他の細胞と比較して、白血病発症能力の高い細胞がより多く存在していると考えられる。
以上の結果から、マウスの慢性骨髄性白血病モデルにおいて、白血病細胞の供給源となる白血病幹細胞はKLS+細胞中に存在していると考えられる。
Foxo3aの白血病幹細胞内の局在を確認した。詳細は、以下の通りである。
実施例1で得られた分化マーカー陰性、c-Kit陽性、Sca-1陽性細胞 (KLS+)である白血病幹細胞を単離した。さらに、コントロールとして、BCR-ABLを発現するGFP陽性細胞中、分化マーカー陰性c-Kit陽性、Sca-1陰性細胞(KLS-)である非白血病幹細胞を使用した。
KLS-並びに KLS+細胞をそれぞれスライドガラス上で30分間培養後、4%パラホルムアルデヒド含有リン酸緩衝液で 30分間固定し、0.25%Triton-X含有リン酸緩衝液で2分間処理して細胞浸透化処理を行った。これらの細胞を2%ウシ血清アルブミン含有リン酸緩衝液で 1時間処理後、一次抗体として抗 FKHRL1(Foxo3a)抗体(シグマ社)を含む2%ウシ血清アルブミン含有リン酸緩衝液で4℃で一晩インキュベートした。次に、蛍光化合物(AlexaFluor546)で標識された二次抗体と4℃で1時間さらに反応させた。さらに細胞核をDAPIによって染色した。染色した細胞は退色防止剤含有封入剤によって封入し、共焦点レーザー顕微鏡(Fluoview 1,000,オリンパス社製)によって観察した。
少数の細胞集団である慢性骨髄性白血病の白血病幹細胞(KLS+)では約40%の細胞で Foxo3aが細胞核に局在していた。一方、非白血病幹細胞であるKLS-細胞集団では、ほとんど全ての細胞で Foxo3aが細胞質に局在していた。
これまでの報告では、慢性骨髄性白血病細胞ではFoxoは白血病細胞の増殖抑制の役割を担っており、慢性骨髄性白血病の発症の原因となるBCR-ABLはFoxoを阻害することで白血病細胞の増加を引き起こすと考えられてきた。すなわち、恒常活性化型チロシンキナーゼであるBCR-ABLはPI3K-PKB/AKTシグナルを活性化し、さらに活性化されたPKB/AKTはFoxoをリン酸化する。次に、リン酸化されたFoxoは細胞核から細胞質へと排出され、転写因子としての機能を喪失する。Foxoは細胞周期の停止や細胞死を誘導することから、このような BCR-ABLによる Foxoの抑制が白血病細胞の増殖の原因になると考えられてきた。すなわち、従来の解釈では,BCR-ABLを発現する慢性骨髄性白血病細胞ではFoxoは(細胞核から排出され)細胞質に存在すると考えられていた。しかし、上記したように、慢性骨髄性白血病の白血病幹細胞(KLS+)では約40%の細胞で Foxo3aが細胞核に局在していた。
以上のような結果から、Foxo3aが白血病幹細胞の維持に関与していると考えられる。
白血病幹細胞において、TGFβシグナルによるFoxo3aの制御機構の有無を解析するため、白血病幹細胞をTGFβ並びにTGFβシグナルの阻害剤により処理後 Foxo3aの局在を確認した。なお、Foxo3aは、TGFβにより活性化されることが知られている。
図4の蛍光像から明らかなように、TGFβ1添加によりFoxo3aは細胞核に局在していたが、TGFβ阻害剤であるLy364947添加によりFoxo3aは細胞質に局在した。
また、図5の結果から明らかなように、Ly364947添加により細胞核に局在しているFoxo3aの割合が減少していた。
以上の結果により、TGFβ阻害剤によりFoxo3aが不活性化されていることがわかった。
生体内での白血病幹細胞の支持環境を試験管内で構築してTGFβシグナルの阻害効果を評価するため、マウス間葉系細胞株 OP-9細胞上でマウス白血病幹細胞の共培養を実施した。詳細は、以下の通りである。
Ly364947は、TGFβタイプ1型受容体キナーゼ阻害剤であり、化合物名は[3-(ピリジン-2-イル)-4-(4-キノニル)]-1H-ピラゾール([3-(Pyridin-2-yl)-4-(4-quinonyl)]-1H-pyrazole)である(参照:http://www.emdbiosciences.com/product/d/616451)。
SD208は、TGFβR1キナーゼ阻害剤であり、化合物名は[2-(5-クロロ-2-フルオロフェニル)プテリジン-4-イル]ピリジン-4-イル-アミン{[2-(5-Chloro-2-fluorophenyl)pteridin-4-yl}pyridin-4-yl-amine}である(参照:http://www.sigmaaldrich.com/catalog/ProductDetail.do?N4=S7071%7CSIGMA&N5=SEARCH_CONCAT_PNO%7CBRAND_KEY&F=SPEC)。
図6の結果から明らかなようにTGFβ阻害薬(Ly364947、SD208)によりマウスの慢性骨髄性白血病の白血病幹細胞の増殖が抑えることができた。
実施例3及び4の結果から、Foxo3aの不活性化は慢性骨髄性白血病の白血病幹細胞を減少させる効果があると言える。
すなわち、[3-(ピリジン-2-イル)-4-(4-キノニル)]-1H-ピラゾール又は[2-(5-クロロ-2-フルオロフェニル)プテリジン-4-イル]ピリジン-4-イル-アミンは、慢性骨髄性白血病の治療剤となることができる。
ヒト慢性骨髄性白血病の白血病幹細胞に対するTGFβ阻害剤の効果の確認をした。詳細は、以下の通りである。
図7の結果から明らかなように、TGFβ阻害薬(Ly364947)によりヒト慢性骨髄性白血病の白血病幹細胞の増殖が抑えることができた。
すなわち、Foxo3aを不活性化する化合物である[3-(ピリジン-2-イル)-4-(4-キノニル)]-1H-ピラゾールは、慢性骨髄性白血病の治療剤となることができる。
Claims (10)
- Foxo若しくはFoxo改変体のリン酸化を促進させる試験化合物又は発現を阻害する試験化合物を選択することを特徴とするチロシンキナーゼ阻害剤耐性の慢性骨髄性白血病の治療剤又は予防剤のスクリーニング方法。
- 以下の工程を含む請求項1に記載のスクリーニング方法:
(a)試験化合物を、転写因子であるFoxo若しくはFoxo改変体、及び該転写因子に特異的に認識される遺伝子とレポーター遺伝子を含む融合遺伝子を含む試験動物又は試験細胞に接触させる工程、
(b)レポータータンパク質の試験動物又は試験細胞中での発現量を測定する工程。 - 以下の工程を含む請求項1に記載のスクリーニング方法:
(a)試験化合物を、Foxo遺伝子若しくはFoxo改変体遺伝子とレポーター遺伝子を含む融合遺伝子を含む試験動物又は試験細胞に接触させる工程、
(b)レポータータンパク質の試験動物又は試験細胞中での発現量を測定する工程。 - 以下の工程を含む請求項1に記載のスクリーニング方法:
(a)試験化合物を、Foxo遺伝子若しくはFoxo改変体遺伝子を含む試験動物又は試験細胞に投与又は接触させる工程、
(b)試験動物又は試験細胞中でのFoxo遺伝子若しくはFoxo改変体遺伝子又はFoxo若しくはFoxo改変体の発現量を測定する工程。 - 以下の工程を含む請求項1に記載のスクリーニング方法:
(a)試験化合物を、Foxo遺伝子若しくはFoxo改変体遺伝子によってコードされるタンパク質に接触させる工程、
(b)前記タンパク質のリン酸化度を測定する工程。 - 以下の工程を含む請求項1に記載のスクリーニング方法:
(a)試験化合物を、Foxo若しくはFoxo改変体を含む試験細胞に接触させる工程、
(b)Foxo若しくはFoxo改変体が細胞核に局在する細胞の頻度が減少しているかどうかを測定する工程。 - 以下の工程を含む請求項1に記載のスクリーニング方法:
(a)試験化合物を、Foxo若しくはFoxo改変体を含む試験細胞に接触させる工程、
(b)Foxo若しくはFoxo改変体が細胞核に局在する細胞の頻度が減少しているかどうかを測定する工程、
(c)Foxo若しくはFoxo改変体が細胞質に局在する細胞の頻度が増加しているかどうかを測定する工程。 - 前記試験細胞が、慢性骨髄性白血病の白血病幹細胞であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1に記載のスクリーニング方法。
- 前記Foxoが、Foxo3a又はFoxo4であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1に記載のスクリーニング方法。
- 前記Foxoが、Foxo4であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1に記載のスクリーニング方法。
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