以下に図面を用いて本開示に係る実施の形態につき詳細に説明する。以下では、積層コアとして、回転電機のロータコアを述べるが、これは説明のための例示であって、ステータコアであってもよい。以下に述べる積層コアを構成するコア薄板の枚数、カシメ突起の個数、形状、材質等は、説明のための例示であって、回転電機用コアの製造装置の仕様等により、適宜変更が可能である。また、以下では、全ての図面において同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
図1は、回転電機用コアの製造装置10の構成図である。以下では、特に断らない限り、回転電機用コアの製造装置10を、コアの製造装置10と呼ぶ。コアの製造装置10は、素材である金属板ワーク8を複数の成形ステーションに順次搬送して、所定の形状を有するコア薄板90の成形を行い、複数のコア薄板90をカシメ積層して積層コア92(図3参照)を成形する順送プレス成形装置である。図2は、コアの製造装置10の各成形ステーションにおいて、金属板ワーク8が順次搬送されて成形される過程を示す図である。図3は、各成形ステーションの内で、カシメパンチ40を用いて加工が行われるカシメ・切落ステーションにおける詳細工程を示す図である。
最初に、図1を用いて、コアの製造装置10の基本構成を説明し、次に、図2を用いて、コアの製造装置10の各成形ステーションの内容を述べ、図3を用いて、カシメパンチ40を用いるカシメ・切落ステーションの詳細を述べる。そして、再び図1に戻り、コアの製造装置10におけるカシメ深さの制御について説明する。
図1において、コアの製造装置10は、金属板ワーク8が配置される下金型30、及び、カシメパンチ40を有し下金型30に対向して配置された上金型50と、制御装置70とを備える。
コアの製造装置10は、基台であるベース12、ベース12の上方側に設けられ内部に駆動機構13を含むクラウン14、ベース12から立設してクラウン14を支持する2つの柱部であるコラム16を含む。さらに、コラム16に案内されて上下方向に移動可能なスライド部18と、クラウン14に設けられる駆動機構13の駆動力をスライド部18に伝達するスライド駆動部20を含む。
図1に、コアの製造装置10についての上下方向を示す。上下方向は、重力方向に平行な方向で、ベース12側が下方側であり、クラウン14側が上方側である。上下方向は、カシメ突起80の成形方向でもあり、カシメ突起80の成形に用いるカシメパンチ40が上下する軸方向でもある。以下では、特に断らない限り、コアの製造装置10の上下方向を軸方向と示す。
クラウン14に設けられる駆動機構13は、スライド駆動部20を介してスライド部18をコラム16に沿って上下方向に所定のストロークで駆動する往復運動機構である。往復運動機構としては、出力軸が回転するモータと、モータの出力軸に接続されたクランク軸とで構成されるクランク運動機構が用いられる。クランク運動機構に代えて、所定の往復ストロークを有する油圧昇降機構を用いてもよい。
駆動機構13をクランク運動機構等の往復運動機構で行う場合は、上金型50の最下降点は、往復運動機構の下死点に当たることから、上金型50の最下降点は上金型50の下死点と呼ばれる。そこで、往復運動機構の所定ストロークの下限位置を、下金型30の基準高さ位置GLから測り、これを上金型50の下死点位置LDPと呼ぶ。下金型30の基準高さ位置GLは、下金型30の上面の高さ位置に取る。これは例示であって、コアの製造装置10においてこれ以外の高さ位置を下金型30の基準高さ位置GLとしてよい。
スライド部18は、コラム16に案内されて軸方向に沿って上下する部材である。スライド駆動部20は、スライド部18の上方側に設けられ、クラウン14に内蔵される駆動機構13の駆動力をスライド部18に伝達する機構部品で、例えば、昇降軸と軸受等で構成される。
下金型30は、ベース12の上面に設けられ、金属板ワーク8を所定の位置に配置して保持するワーク保持金型である。金属板ワーク8は、車両に搭載される回転電機用コアに用いられる素材としての磁性体薄板のシートで、コイル状に巻かれ、図示しない搬送機構によって、コイルの巻始め端の側から順次、下金型30の上に搬送される。
上金型50は、スライド部18の下方側の底面に固定して取り付けられる。上金型50は、下金型30に対向して配置され、下金型30と一組になって、金属板ワーク8の搬送方向に沿って複数の成形ステーションを成形する。
以上が、コアの製造装置10の基本構成である。図2は、コアの製造装置10において、磁性体薄板のシートから回転電機のロータに用いられるロータコアを成形する複数の成形ステーションの内容を示す図である。図2(a)に示すように、複数の成形ステーションは、成形工程の上流側から下流側に向かって、搬入ステーション、パイロット穴ステーション、スリット抜きステーション、軸穴抜きステーション、カシメ・切落ステーション、搬出ステーションの順に配置される。図2(b)と(c)は、各成形ステーションにおける金属板ワーク8の状態を示す図で、(b)は金属板ワーク8の上面図であり、(c)は(b)のC−C線に沿った断面図である。
搬入ステーションでは、コイル状に巻かれた状態の磁性体薄板のシートを長尺の金属板ワーク8として引き出し、下金型30のパイロット穴ステーションに配置する。磁性体の薄板シートとしては、電磁鋼板のシートを用いることができる。
パイロット穴ステーションでは、長尺の金属板ワーク8に、長手方向に沿って所定ピッチで複数の送り穴であるパイロット穴32を打ち抜く成形が行われる。金属板ワーク8は、このパイロット穴32を用いて搬送され、下流側の各ステーションにおいては、パイロット穴32によって金属板ワーク8の成形領域の位置決めが行われる。図2(b)の例では、4つのパイロット穴32で囲まれた領域が、各成形ステーションにおける成形領域である。
パイロット穴32の成形が終わると、長尺の金属板ワーク8は、パイロット穴32の1ピッチ分下流側に送られ、スリット抜きステーションの成形領域に位置決めされる。スリット抜きステーションでは、ロータの複数の磁石挿入孔34を打ち抜く成形が行われる。磁石挿入孔34の成形が終わると、金属板ワーク8は、パイロット穴32の1ピッチ分下流側に送られ、軸穴抜きステーションの成形領域に位置決めされる。軸穴抜きステーションでは、ロータの中心穴である軸穴36を打ち抜く成形が行われる。軸穴36の成形が終わると、金属板ワーク8は、パイロット穴32の1ピッチ分下流側に送られ、カシメ・切落ステーションの成形領域に位置決めされる。
カシメ・切落ステーションでは、複数のカシメ突起80が成形され、その次に、ロータコアの外形となる円環状に切り落とす外形抜きが行われ、円環状のコア薄板90が成形される。カシメ・切落ステーションの部分の下金型30には、切り落されたコア薄板90を受け止める受台31が設けられる。受台31の上には、既に先行する成形過程でカシメ突起80が成形され外形抜きされて切り落されたコア薄板90が載置されている。カシメ・切落ステーションでは、搬送されてきた金属板ワーク8にカシメ突起80が成形されるとその下面の凸部が、受台31の上に既に載置されているコア薄板90のカシメ突起80の凹部に嵌め込まれカシメ付けられる。その後、外形抜きが行われる。
図2(c)の例では、受台31の上に、互いにカシメ付けられて積層された4枚のコア薄板90が載置されている。その上に金属板ワーク8が搬送されてカシメ突起80が成形され、その下面の凸部が、受台31の上の4枚のコア薄板90の内で最も上側に載置されているコア薄板90の上面の凹部に嵌め込まれカシメ付けられる。図2は、カシメ付けが行われ外形抜きが行われる直前の状態を示す。
図3は、カシメ・切落ステーションにおいて行なわれる複数の成形工程について、順を追って示す断面図である。図3の各図は、図2(c)と同様に、図2(b)のC−C線に沿った断面図である。図3の各図では、下金型30及び受台31の図示を省略し、代わって、上金型50のカシメパンチ40とその上に設けられるカシメ圧力検出部60を示す。また、カシメ・切落ステーションに搬送されカシメ突起80、外形抜きの成形が行われて5枚目のコア薄板90となる部分を斜線で示す。
図3(a)は、先行して成形されて積層された4枚のコア薄板90の上に、金属板ワーク8が搬送された状態を示す図である。金属板ワーク8には、磁石挿入孔34と軸穴36が成形済みであるが、磁石挿入孔34はC−C線上にないので図示されていない。カシメパンチ40は、下死点位置LDPよりも上方側にある。
図3(b)は、(a)の状態から、上金型50が下死点位置LDPまで下降し、カシメパンチ40が押付力Fで金属板ワーク8を下方に押付け、塑性変形によってカシメ突起80を成形した状態を示す。このとき、成形されたカシメ突起80の下面側の凸部は、既に積層されている4枚のコア薄板90の内で最も上方側に載置されたコア薄板90の上面側の凹部に嵌め込まれカシメ付けられる。金属板ワーク8、及び、下金型30側からカシメパンチ40が受けるカシメ圧力Pは、カシメ圧力検出部60によって検出され、信号線71によって制御装置70に伝送される。
図3(c)は、カシメ突起80が成形された金属板ワーク8の部分について図示しない切落パンチを用いて外形抜きを行って、金属板ワーク8から切落し、5枚のコア薄板90が積層された積層コア92と分離した状態を示す図である。カシメパンチ40の図示は省略した。
図3(d)は、5枚のコア薄板90が互いにカシメ突起80によってカシメ付けられ一体化された積層コア92を示す斜視図である。上記の工程を繰り返して、所定の枚数のコア薄板90を積層して、積層体のロータコアが得られる。さらに、積層体の磁石挿入孔34にそれぞれに永久磁石を配置し、軸穴36にロータ軸を固定して回転電機のロータが成形される。
以上が、コアの製造装置10の各成形ステーションの内容、及び、カシメパンチ40を用いるカシメ・切落ステーションの説明である。再び図1に戻り、カシメ突起80におけるカシメ深さの制御に関するコアの製造装置10の構成を述べる。図1では、上金型50の一部を破断して、カシメ・切落ステーションにおけるカシメパンチ40と、カシメパンチ40に設けられるカシメ圧力検出部60を示す。図1の例では、4つのカシメパンチ40と4つのカシメ圧力検出部60が設けられるが、紙面の手前側の3つのカシメパンチ40とこれらにそれぞれ設けられる3つのカシメ圧力検出部60が図示される。残りの1つのカシメパンチ40とそれに設けられる1つのカシメ圧力検出部60は、図示されているカシメパンチ40とカシメ圧力検出部60に対して紙面の向こう側に配置されているため図示されない。カシメパンチ40の個数が4つであるので、コア薄板90について成形されるカシメ突起80が4箇所である。これは説明のための例示であって、コア薄板90について成形されるカシメ突起80の数は4つ以外でもよく、例えば、1つ、2つ、3つ、5つ以上であってもよい。
カシメ圧力検出部60は、金属板ワーク8にカシメ突起80が成形される際にカシメパンチ40が受けるカシメ圧力Pを検出する圧力センサである。検出されたカシメ圧力Pは、信号線71で制御装置70に伝送される。図1では、4つのカシメ圧力検出部60に対応して、4本の信号線71が示される。かかるカシメ圧力検出部60としては、小型軽量のピエゾ素子が用いられる。ピエゾ素子に代えて、半導体歪ゲージ式のダイヤフラム圧力センサでもよい。
図1においてDHと示すのは、カシメパンチ40のダイハイトである。カシメパンチ40のダイハイトDHとは、上金型50の下死点位置LDPにおけるカシメパンチ40の下端位置と、下金型30の基準高さ位置GLとの間の距離である。以下では、カシメパンチ40のダイハイトDHを、特に断らない限り、ダイハイトDHと呼ぶ。ダイハイトDHが大とは、下金型30の基準高さ位置GLを基準として軸方向の上方側にカシメパンチ40の下端位置があることを示す。ダイハイトDHが過大の場合は、カシメ深さが浅くなっている状態である。ダイハイトDHが過小の場合は、カシメ深さが深くなっている状態である。図1では、ダイハイトDHを金属板ワーク8に接触しない上方側に示したが、下金型30の基準高さ位置GL、上金型50の下死点位置LDP、ダイハイトDHの関係を示すためである。実際には、ダイハイトDHは金属板ワーク8の上面よりさらに下方側の位置にある。
コアの製造装置10は、カシメ圧力検出部60の検出値に応じてダイハイトDHを調整する機能を有する。
ダイハイトDHの調整用に、クラウン14の駆動機構13は、一括ダイハイト調整機構15を含む。一括ダイハイト調整機構15は、制御装置70の制御の下で、往復運動機構である駆動機構13のストロークを標準ストロークから変更し、上金型50の下死点位置LDPを調整する。これによって、上金型50に設けられる複数のカシメパンチ40のダイハイトDHの調整が一括して行われる。かかる一括ダイハイト調整機構15は、公知の下死点調整機構を用いることができる。
図1では、上金型50に二点鎖線で個別ダイハイト調整機構51を含むが、個別ダイハイト調整機構51は、4つのカシメパンチ40のそれぞれのダイハイトDHを独立に調整する場合に用いられる。その詳細については、後述する。
制御装置70は、コアの製造装置10における他の要素の動作を全体的に統括して制御する。制御装置70は、順送プレス成形装置としての順送工程のための移動制御部72を含む。移動制御部72は、駆動機構13の動作を制御して、上金型50を所定のストロークの範囲内で上下移動させる。制御装置70は、さらに、ダイハイト調整部74を含む。
制御装置70のダイハイト調整部74は、カシメ圧力検出部60の検出結果に応じてカシメパンチ40のダイハイトDHを調整する。ダイハイトDHの調整は、金属板ワーク8に成形するカシメ突起80のカシメ深さを所定の許容範囲内に収めるためである。具体的には、カシメ圧力検出部60によって検出されたカシメ圧力Pを、予め定めた所定の圧力許容範囲と比較し、検出されたカシメ圧力Pが圧力許容範囲を超えて大きい場合にはダイハイトDHを大きくする。逆に、検出されたカシメ圧力Pが圧力許容範囲を超えて小さい場合にはダイハイトDHを小さくする。
図4は、カシメパンチ40の部分と、金属板ワーク8との関係を示す図である。図4(a)は、図1における4つのカシメパンチ40の一部と、それらに設けられるカシメ圧力検出部60の部分を抜き出して示す断面図であり、(b)は、カシメ突起80が成形された金属板ワーク8を示す図である。
図4(a)において、上金型ホルダ52は、上金型50の内部に設けられた案内空間で、上金型50にリテーナ54が固定して配置される。リテーナ54は、4つのカシメパンチ40と4つのカシメ圧力検出部60とを一体として固定保持するブロック部材である。したがって、4つのカシメパンチ40は、上金型50と一体となって軸方向に移動する。
図4(a)において、金属板ワーク8を二点鎖線で示す。図4(a)は、金属板ワーク8の板厚tが標準的な値のt0であり、カシメ圧力検出部60によって検出されたカシメ圧力Pが予め定めた圧力許容範囲にある場合の例である。この場合には、ダイハイトDHの調整が行われず、ダイハイトDHは、金属板ワーク8の板厚t=t0に対する標準的な値のDH0にある。金属板ワーク8は、基準高さ位置GLにある下金型30の上面で支持され、カシメパンチ40の下端位置がダイハイトDH0の高さ位置まで突出することによって、カシメ突起80が成形される。
図4(b)は、(a)の標準的な板厚t0、標準的なダイハイトDH0の下で金属板ワーク8において成形されたカシメ突起80を示す図である。カシメ突起80は、金属板ワーク8の上面9から窪んだ凹部と、下面7から突き出す凸部を有する。金属板ワーク8の上面9からの凹部の深さは、標準的なカシメ深さd0である。金属板ワーク8の下面7からの凸部の高さd0’の値は、カシメ深さd0の値とほとんど同じで、やや小さめである。以下では、カシメ突起80の大きさを代表して、カシメ深さd0を用いる。
長尺の金属板ワーク8の板厚tは、搬送方向及び搬送方向対して直交する方向に沿って一様ではなく、標準的な板厚t0からばらつく。図5は、金属板ワーク8の板厚tのばらつき範囲と、カシメ深さdの許容精度との比較図である。図5において、右側の縦軸に金属板ワーク8の板厚tをとり、左側の縦軸にカシメ深さdをとる。そして、板厚tの標準的な板厚t0と、カシメ深さdの標準的な値d0を同じレベルとして、金属板ワーク8の板厚tのばらつき範囲と、カシメ深さdの許容精度を、それぞれ矢印範囲で示す。図5に示すように、カシメ深さdの許容精度は、金属板ワーク8の板厚tのばらつき範囲に比べ、かなり狭く、正確な制御を必要とする。これは、金属板ワーク8の板厚tのばらつき範囲は、素材である磁性体薄板の圧延等の機械的なばらつき寸法で定まるのに対し、カシメ深さdの許容精度は、複数のコア薄板90を積層した積層体の高さ寸法や平行度の仕様によって定まるためである。例えば、積層体の高さ寸法の許容精度の仕様が±ΔHであって、積層されるコア薄板90の枚数がN枚であると、1枚のコア薄板90におけるカシメ深さdの許容精度は、単純計算上で{(±ΔH)/N}となり、Nが増加するほど、厳しい許容精度となる。
図6は、金属板ワーク8の板厚tがばらついた場合において、標準的なカシメ深さd0を確保するためのカシメパンチ40のダイハイトDHの例を示す図である。図6(b)は、板厚t=t0の場合であり、(a)は、板厚t=t1(<t0)の場合であり、(c)は、板厚t=t2(>t0)の場合である。各図は、図4に対応する断面図である。(b)の場合は、板厚t=t0であるので、図4と同じダイハイトDH=DH0で、カシメ深さは標準的なd0である。
板厚t=t1(<t0)の場合、(b)と同じダイハイトDH=DH0とすると、板厚tがt0より薄いので、カシメ突起80の箇所で破断しやすくなる。また、上面9からのカシメ深さdがd=d0よりも浅くなり、下面7からの凸部の突出高さが高くなり、積層の際のカシメ付けの強度が不十分となる。そこで、カシメ深さd=d0を確保できるダイハイトDH=DH1(<DH0)とする。
板厚t=t2(>t0)の場合、(b)と同じダイハイトDH=DH0とすると、板厚tがt0より厚いので、破断の恐れはない。しかし、上面9からのカシメ深さdがd=d0よりも深くなり、下面7からの凸部の突出高さが低くなり、積層の際のカシメ付けの強度が不十分となる。そこで、カシメ深さd=d0を確保できるダイハイトDH=DH2(>DH0)とする。
このように、金属板ワーク8の板厚tがばらつくと、それに応じてダイハイトDHを調整する必要がある。複数のコア薄板90を積層する場合には、1枚1枚のコア薄板90のカシメ突起80の成形の都度、ダイハイトDHを調整する必要がある。ダイハイトDHを調整するには、1枚1枚のコア薄板90のカシメ突起80の成形の都度、金属板ワーク8の板厚tを測定すればよいが、順送工程で金属板ワーク8の板厚をリアルタイムで測定することは困難である。
ここで、金属板ワーク8にカシメ突起80を成形する場合のカシメ深さdとカシメパンチ40のカシメ圧力Pとの間には一定の相関関係がある。例えば、カシメ深さdを深くするとカシメ圧力Pが高くなり、カシメ深さdが浅いとカシメ圧力Pが低くなる。換言すれば、カシメ圧力Pが過大の場合はカシメ深さdが深すぎ、カシメ圧力Pが過小の場合はカシメ深さdが浅すぎると考えられる。金属板ワーク8の板厚tがばらつく場合、カシメパンチ40の高さ位置であるダイハイトDHが同じとして、板厚tが厚い方向にばらつくと、カシメ深さdが深くなりすぎ、カシメ圧力Pが過大になる。逆に、板厚tが薄い方向にばらつくと、カシメ深さdが浅くなりすぎ、カシメ圧力Pが過小になる。金属板ワーク8の板厚tが与えられた条件の下でのカシメ深さdとカシメ圧力Pとの相関関係は、予め実験的に、あるいはシミュレーションによって求められる。
そこで、コアの製造装置10では、金属板ワーク8の板厚tのリアルタイムの測定を行わず、カシメ突起80の成形の際にカシメパンチ40が受けるカシメ圧力Pを、カシメ圧力検出部60を用いてリアルタイムで検出する。
図7は、コアの製造装置10の制御装置70において用いられるカシメ・切落成形方法の手順を示すフローチャートである。各手順は、制御装置70が、積層コア成形プログラムを実行することで実現される。コアの製造装置10が始動すると、初期化が行われる。カシメパンチ40のダイハイトDHは、標準的な値のDH=DH0に設定される。その後、積層コア成形プログラムが立ち上がり、金属板ワーク8が下金型30に保持されながら、図2で述べた各成形ステーションに順次搬送される。
カシメ・切落ステーションに搬送(S10)されると、パイロット穴32を用いて4つのカシメパンチ40の真下に金属板ワーク8が位置決めされる。そして、制御装置70の移動制御部72の機能によって、上金型50が軸方向の下方側に下降する。そして、DH=DH0の設定の下で、4つのカシメパンチ40が金属板ワーク8に4つのカシメ突起80を成形する。それと同時に、既に先行するコア薄板90が下金型30の受台31に積層されている場合には、最も上方側のコア薄板90の間でカシメ付けが行われる(S12)。4つのカシメ突起80の成形及びカシメ付けのときに、4つのカシメ圧力検出部60は、それぞれカシメ圧力Pを検出し(S14)、信号線71を経て、制御装置70に伝送される。制御装置70では、検出された4つのカシメ圧力Pの平均値P0を算出する(S16)。
次に、4つのカシメ圧力Pの平均値P0を、予め定めた圧力許容範囲以内にあるか否かが判定される(S18)。予め定めた圧力許容範囲は、許容上限圧力PHと許容下限圧力PLとで規定される。S18は、PL≦P0≦PHか否かの判定である。許容上限圧力PHと許容下限圧力PLは、コアの製造装置10におけるカシメ深さdの許容精度の仕様に基づいて、実験あるいはシミュレーションによって予め求められたカシメ深さdとカシメ圧力Pとの関係を用いて設定される。予め求められたカシメ深さdとカシメ圧力Pとの関係、及び、カシメ深さdの許容精度の仕様に基づいて定められる圧力許容範囲は、制御装置70のメモリに予め記憶されているので、その関係を読み出して、S18の判定が行われる。
S18の判定が肯定される場合は、カシメ深さdが許容精度内にあってダイハイトDHが適切であるので、4つのカシメパンチ40のいずれについてもダイハイトDHの変更は行われない。S18の判定が否定されるときは、カシメパンチ40のダイハイトDHが不適切な場合であるので、次に、カシメ圧力Pの平均値P0がPHを超えるか否かが判定される(S20)。S20は、P0>PHか否かの判定である。S20が肯定される場合は、カシメ圧力Pの平均値P0が高く、カシメ深さdが許容精度を超えて深すぎる状態で、4つのカシメパンチ40のダイハイトDHが過小状態である。そこで、4つのカシメパンチ40のダイハイトDHを共に大きくする(S22)。ダイハイトDHの増加量は、カシメ圧力Pの平均値P0が圧力許容範囲に入るように設定される。金属板ワーク8の板厚tが与えられた条件の下でのカシメ深さd=d0となるカシメ圧力Pの平均値P0とダイハイトDHの関係は、実験的に、またはシミュレーション等で予め求められる。求められた関係は、制御装置70のメモリに記憶されるので、その関係を用いて、ダイハイトDHの増加量を定めることができる。
S18とS20が共に否定される場合は、カシメ圧力Pの平均値P0がPL未満であり、カシメ深さdが許容精度の範囲を超えて浅すぎる状態で、カシメパンチ40のダイハイトDHが過大状態である。そこで、カシメパンチ40のダイハイトDHを小さくする(S24)。DHの減少量は、制御装置70のメモリに記憶されているカシメ圧力Pの平均値P0とダイハイトDHの関係を用いて設定される。
その後、制御装置70におけるダイハイト設定値の更新が行われる(S26)。更新は、S22,S24の結果に基づいて行われ、S18が肯定の場合には、ダイハイト設定値はそのままで、更新時間のみが更新される。更新結果は、制御装置70のメモリのダイハイト設定値に上書きされる。
その後、金属板ワーク8は、外形抜きが行われ、コア薄板90の部分が切り落とされる(S28)。既に下金型30の受台31に積層されていたコア薄板90とカシメ付けが行われている場合には、積層コア92が金属板ワーク8から分離される。S28の工程が済むと、S10に戻り、金属板ワーク8は、搬送方向に1ピッチ送られ、次のカシメ・切落処理が行われる。その処理において、ダイハイトDHはS26で更新された値が用いられ、これによってダイハイトDHの調整が行われる。ダイハイトDHの調整は、制御装置70のダイハイト調整部74の制御の下で、クラウン14の駆動機構13に設けられる一括ダイハイト調整機構15によって行われる。一括ダイハイト調整機構15は、ダイハイトDHの更新値に従って、往復運動機構である駆動機構13のストロークを標準ストロークから変更し、上金型50の下死点位置LDPを調整する。これによって、上金型50に設けられる4つのカシメパンチ40のダイハイトDHの調整が一括して行われる。
上記では、カシメ圧力検出部60は、カシメパンチ40の下端位置とは反対側の背面側端部に設けられる。これは、カシメパンチ40がカシメ圧力Pを受け止めても変形等が生じない十分な剛性とするためである。金属板ワーク8において、カシメ深さd0があまり深くない場合には、図8に示すカシメパンチ41のように、カシメパンチ41の内部で、カシメパンチ41の下端位置に近い場所にカシメ圧力検出部61を配置してよい。カシメパンチ41の下端位置に近づけてカシメ圧力検出部61を配置することで、検出されるカシメ圧力Pの精度が向上する。
上記では、図4で述べたように、4つのカシメパンチ40を1つのリテーナ54で保持し、一括ダイハイト調整機構15で4つのカシメパンチ40のダイハイトDHを一括して調整するものとした。この場合には、4つのカシメ圧力検出部60が検出するカシメ圧力Pの平均値P0を用いているので、4つのカシメ突起80に対応する箇所における金属板ワーク8の板厚tが異なっていれば、4箇所のカシメ深さdは異なる値となる。
4箇所のカシメ深さdについて均一化を図るには、1つのリテーナ54に1つのカシメパンチ40のみを配置するようにして、4つのリテーナ54を用いる。各リテーナ54の外周面を上金型ホルダ52の内壁面に沿って軸方向に摺動可能に保持し、各リテーナ54の軸方向位置を上金型50に対し独立に変更できるようにして、それぞれのダイハイトDHを調整可能にする。
図1において、上金型50に設けられる個別ダイハイト調整機構51は、4つのダイハイト調整機構を有し、それぞれが4つのカシメパンチ40のダイハイトDHを独立に調整する場合に用いられる。即ち、4つのカシメパンチ40が配置される各リテーナ54には、それぞれ専用のダイハイト調整機構が接続される。各ダイハイト調整機構は、対応するリテーナ54の中に配置されるカシメパンチ40に設けられたカシメ圧力検出部60が検するカシメ圧力Pに応じて、軸方向の高さ位置を調整する。これによって、4つのカシメパンチ40のそれぞれのダイハイトDHを個別に調整でき、4箇所のカシメ深さdの均一化を図ることができる。かかるダイハイト調整機構としては、精密モータと、精密モータの回転運動をリテーナ54の軸方向の運動に変換するねじとナット等の機構の組合せを用いることができる。この方法を用いる場合には、リテーナ54が4つ、4つのダイハイト調整機構を含む個別ダイハイト調整機構51が必要になるので、上金型50の質量が増加し、大型化する。
上記構成のコアの製造装置10によれば、カシメ・切落ステーションにおいてカシメ突起80の成形およびカシメ付けが行われる都度、カシメパンチ40が受けるカシメ圧力Pに基づいて、ダイハイトDHの調整が行われる。このダイハイトDHの調整は、カシメ圧力Pが検出されたカシメ突起80の成形には反映されないが、金属板ワーク8が搬送の1ピッチ送られて次のカシメ突起80の成形およびカシメ付けが行われる際に適用される。金属板ワーク8の板厚tが標準的な板厚t0からばらついた場合、最初のコア薄板90のカシメ深さdは板厚dのばらつきの影響をそのまま受ける。金属板ワーク8の板厚tが、搬送の1ピッチの長さに比べて長い周期で緩やかにばらつく場合は、その次のコア薄板90のカシメ深さdは、ダイハイトDHの調整によって標準的なカシメ深さd0に近づく。
金属板ワーク8は順送プレス成形用にコイル状に巻かれた長尺材であり、例えば、数千個以上のコア薄板90を成形可能な長さを有する。金属板ワーク8の板厚ばらつきの範囲は、この長尺の全長に渡っての板厚ばらつきであるので、搬送方向に沿った板厚tは、緩やかに変化する。また、積層コア92におけるコア薄板90の積層枚数は、回転電機の仕様にもよるが、数十枚以上の場合が多い。したがって、1つの積層コア92に用いられる数十枚のコア薄板90を成形するために必要な金属板ワーク8の長さは、コイル状に巻かれた金属板ワーク8の全長に比べればかなり短い。これらのことから、搬送の1ピッチごとにダイハイトDHのフィードバックを行うことで、積層コア92に必要な枚数のコア薄板90のカシメ深さdは、全体として、標準的なカシメ深さd0に平均化する。これによって、積層コア92において、コア薄板90の複数枚の積層を適切に行うことができる。
次に、カシメ圧力検出部60を用いるコアの製造装置10の作用効果について、カシメ深さdの許容精度と、カシメ圧力検出部60を用いない従来技術との比較を述べる。図9は、図7のカシメ・切落成形方法を用いない従来技術において、カシメ突起81を有する複数のコア薄板91の積層例を示す図である。例えば、長尺の金属板ワーク8の板厚tが、幅方向に沿って一様でなく、一方側の端部の板厚が他方側の端部の板厚よりも厚い場合、従来技術では金属板ワーク8の板厚tのばらつきに対応できないままのカシメ突起81を有するコア薄板91が成形される。成形された各コア薄板91では、板厚tの薄い他方側の端部でカシメ突起81のカシメ深さdが標準的な凸部の深さd0より浅くなり、板厚tの厚い一方側の端部でカシメ突起81のカシメ深さdが標準的なカシメ深さd0より深くなる。これによって、複数のコア薄板91をカシメ付けして成形された積層コア93は、高さ方向に傾斜した外形となり、高さ方向の平行度が低下する。
図10は、長尺の金属板ワーク8の板厚tが、長手方向または幅方向に沿って一様でなく不規則にばらつく場合である。図10(a)は、従来技術による積層コア93を示し、(b)は、図7のカシメ・切落方法を用いて成形した積層コア92を示す図である。従来技術による積層コア93は、カシメ深さdが各コア薄板91でばらつくため、高さ方向の寸法が定まらず、高さ方向の平行度が低下する。これに対し、図7のカシメ・切落方法を用いて成形した積層コア92は、カシメ深さdが各コア薄板90でほぼ標準的なカシメ深さd0に成形されるので、高さ方向の寸法が一定値に定まり、高さ方向の平行度がよい。
上記では、積層コアとして、回転電機のロータコアを述べたが、積層コアとしては、回転電機のステータコアであっても、上記内容は同様に適用できる。ロータコアとステータコアとの相違点は、コアの形状である。コアの形状が相違しても、複数のコア薄板がカシメ積層されることは同じである。そして、そのために、カシメ・切落ステーションにおいて、カシメ突起の形成とカシメ付けと外径抜きの切り落としが行われること、カシメ圧力を検出してその結果に応じてダイハイトDHを調整することも同じである。したがって、上記構成の回転電機用コアの製造装置10において、ロータコアの形状に関する上記内容を、ステータコアの形状に関する内容に適宜変更することで、回転電機のステータコアについても、同様に製造することができる。
上記構成の回転電機用コアの製造装置10によれば、カシメパンチ40にカシメ圧力検出部60が設けられ、カシメ突起80成形の際にカシメパンチ40が受けるカシメ圧力Pを検出できる。したがって、金属板ワーク8の板厚tを測定しなくても、検出されたカシメパンチ40のカシメ圧力Pに応じてダイハイトDHをリアルタイムで調整できる。例えば、予め定めた所定の圧力許容範囲と検出圧力を比較し、検出圧力が圧力許容範囲を超えて大きい場合にはダイハイトDHを小さくし、検出圧力が圧力許容範囲を超えて小さい場合にはダイハイトDHを大きくする。これにより、金属板ワーク8の板厚tのばらつきがあっても、板厚tの測定を行うことなく、次のカシメ突起成形の工程のダイハイトDHが適切になり、そのカシメ深さdを所定の許容精度内に収めることができるので、コア薄板90の複数枚の積層が適切に行える。