本発明のろう材粉末は、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、ケイ素(Si)および亜鉛(Zn)を所定割合で含有するAl−Cu−Si−Zn系合金の粉末である。
Al−Cu−Si−Zn系合金は、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、ケイ素(Si)、亜鉛(Zn)および不可避不純物からなり、これらを、公知の方法で合金化することにより得ることができる。
なお、Al−Cu−Si−Zn系合金は、不可避不純物の含有を許容する。不可避不純物は、Al−Cu−Si−Zn系合金の製造過程において不可避的に混入する不純物成分であって、具体的には、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)、クロム(Cr)、錫(Sn)、鉛(Pb)などが挙げられる。これら不可避不純物の含有割合は、Al−Cu−Si−Zn系合金の性質に影響しない範囲であり、具体的には、Al−Cu−Si−Zn系合金の総量に対して、2.0質量%以下、好ましくは、1.20質量%以下である。
銅(Cu)の含有割合は、Al−Cu−Si−Zn系合金の総量に対して、20.0質量%を超過し、好ましくは、21.0質量%以上、より好ましくは、22.0質量%以上、さらに好ましくは、23.0質量%以上であり、27.0質量%未満、好ましくは、26.0質量%以下、より好ましくは、25.0質量%以下、さらに好ましくは、24.0質量%以下である。
また、ケイ素(Si)の含有割合は、Al−Cu−Si−Zn系合金の総量に対して、2.0質量%以上、好ましくは、2.5質量%以上、より好ましくは、3.0質量%以上、さらに好ましくは、4.0質量%以上であり、10.0質量%以下、好ましくは、9.0質量%以下、より好ましくは、7.0質量%以下、さらに好ましくは、5.0質量%以下である。
また、亜鉛(Zn)の含有割合は、Al−Cu−Si−Zn系合金の総量に対して、3.0質量%以上、好ましくは、3.5質量%以上、より好ましくは、4.0質量%以上、さらに好ましくは、5.0質量%以上であり、10.0質量%以下、好ましくは、9.0質量%以下、より好ましくは、7.0質量%以下、さらに好ましくは、6.0質量%以下である。
Cu、SiおよびZnの含有割合が、それぞれ、上記下限を上回っていれば、優れたろう付け性を得ることができる。また、Cu、SiおよびZnの含有割合が、それぞれ、上記上限を下回っていれば、優れた耐侵食性を得ることができる。
また、アルミニウム(Al)および不可避不純物の総量は、Al−Cu−Si−Zn系合金における銅(Cu)、ケイ素(Si)および亜鉛(Zn)の残部であり、具体的には、例えば、53質量%を超過し、好ましくは、55質量%以上、より好ましくは、60質量%以上、さらに好ましくは、65質量%以上であり、例えば、75質量%未満、好ましくは、73質量%以下、より好ましくは、71質量%以下、さらに好ましくは、69質量%以下である。
これらAl−Cu−Si−Zn系合金は、単独使用してもよく、また、各元素の含有割合が異なるAl−Cu−Si−Zn系合金を、2種類以上併用してもよい。
このようなAl−Cu−Si−Zn系合金の粉末(すなわち、ろう材粉末)の製造方法としては、例えば、アトマイズ法が挙げられる。アトマイズ法としては、例えば、遠心法、噴霧法などが挙げられる。
遠心法では、例えば、上記組成のAl−Cu−Si−Zn系合金の金属溶湯を、回転ディスクに落として、得られた微細液滴を冷却および固化する。この方法では、通常、粒度分布が比較的狭い粉末が、得られる。
また、遠心法では、金属溶湯の使用量や、ディスク回転数などに応じて、得られる粉末の粒子径を制御することができる。例えば、ディスク回転数の回転数レベルを高速化するほど、粒子径の比較的小さいろう材粉末が得られる。
噴霧法では、例えば、上記組成のAl−Cu−Si−Zn系合金の金属溶湯を、保護ガス(アルゴンガス、窒素ガスなどの不活性ガス)中に噴霧し、得られた微細液滴を冷却および固化する。この方法では、通常、粒度分布が比較的広い粉末が、得られる。
また、噴霧法では、金属溶湯の使用量や、噴霧圧力などに応じて、得られる粉末の粒子径を制御することができる。例えば、噴霧圧力を高圧化するほど、粒子径の比較的小さいろう材粉末が得られる。
さらに、ろう材粉末の粒子径、例えば、得られた粉末を金網などの篩によって篩分けする方法や、例えば、2種類以上の粉末を混合する方法などによっても、調整することができる。
そして、本発明では、上記の方法などにより、ろう材粉末の50%累積粒子径(D50)および99%累積粒子径(D99)が、所定範囲に調整される。
より具体的には、ろう材粉末の積算体積分布において、50%累積粒子径(D50)は、80μm以上、好ましくは、90μm以上、より好ましくは、100μm以上、さらに好ましくは、110μm以上、とりわけ好ましくは、130μm以上であり、200μm以下、好ましくは、190μm以下、より好ましくは、180μm以下、さらに好ましくは、170μm以下、とりわけ好ましくは、160μm以下であり、
また、99%累積粒子径(D99)が、400μm以下、好ましくは、350以下、より好ましくは、300μm以下、さらに好ましくは、250μm以下、とりわけ好ましくは、200μm以下、通常、100μm以上である。
ろう材粉末の50%累積粒子径(D50)および99%累積粒子径(D99)が、上記下限を上回っている場合、ろう材粉末の過度な微細化が抑制されているため、比表面積が過度に大きくならず、ろう材粉末の酸化が抑制される。
その結果、ろう付けにおいてフラックスは、接合対象のアルミニウムまたはその合金からなる部材(以下、Al部材と称する。)表面の酸化被膜を除去することに主として消費されるため、必要最低限のフラックス量で優れたろう付け性を得ることができる。
一方、ろう材粉末の50%累積粒子径(D50)および99%累積粒子径(D99)が、上記下限を下回っている場合、ろう材粉末の比表面積が過度に大きくなっているため、ろう材粉が過剰に酸化される。その結果、ろう付けにおいてフラックスは過剰に酸化されたろう材粉末表面の酸化被膜を除去するためにも消費されてしまうため、Al部材表面の酸化被膜の除去が不十分となり優れたろう付け性を得ることができない。
また、ろう材粉末の50%累積粒子径(D50)および99%累積粒子径(D99)が、上記上限を下回っている場合、ろう材粉末の過度な粗大化が抑制されているため、比表面積が過度に小さくならず、ろう材粉末が適度に酸化される。このろう材粉末の適度な酸化は、ろう材粉末の融点をわずかに高めるため、フラックス量が必要最低限の場合においてはろう付けにおける過剰な浸食(エロージョン)の発生を抑制することができる。
なお、ろう材粉末の積算体積分布は、後述する実施例に準拠して測定される。
また、本発明では、ろう材粉末中の酸素(表面酸化によってろう材粉末に含まれる酸素など)の濃度が、所定範囲に調整される。
具体的には、上記したアトマイズ法(遠心法、噴霧法)において、アトマイズ雰囲気中の酸素濃度を調整することにより、得られるろう材粉末の酸素濃度が調整される。例えば、アトマイズ雰囲気中の酸素濃度を低減するほど、酸素濃度の低いろう材粉末が得られる。
また、同一酸素濃度のアトマイズ雰囲気においては、粉末の粒子径と、粉末の酸素濃度との間には関係性が存在する。具体的には、大きい粒子径の粉末を製造した場合は、粉末の比表面積が小さくなるため粉末の酸素濃度は低くなり、反対に、小さい粒子径の粉末を製造した場合は、比表面積が大きくなるため酸素濃度が高くなる。
したがって、希望とする粒子径および酸素濃度のろう材粉末を得る場合、上述した粒子径と酸素濃度との関係性に留意しながら、アトマイズ方法やアトマイズ雰囲気などの製造条件を調節する必要がある。
ろう材粉末の酸素濃度は、600ppm以下、好ましくは、500ppm以下、より好ましくは、400ppm以下、さらに好ましくは、200ppm以下、とりわけ好ましくは、150ppm以下であり、通常、50ppm以上である。
ろう材粉末の酸素濃度が、上記上限を下回っている場合、ろう材粉末の酸化が抑制される。そのため、ろう付けにおいて、ろう材粉末の酸化皮膜を除去するためにフラックスが過剰に消費されることを抑制でき、Al部材表面の酸化被膜を除去するために主として消費され、その結果、優れたろう付け性を得ることができる。
なお、ろう材粉末の酸素濃度は、後述する実施例に準拠して測定される。
そして、上記のろう材粉末は、Alの含有割合、Cuの含有割合、Siの含有割合およびZnの含有割合が所定範囲に調整されており、かつ、ろう材粉末の50%累積粒子径(D50)、99%累積粒子径(D99)および酸素濃度が所定範囲に調整されている。
そのため、上記のろう材粉末によれば、アルミニウムまたはその合金からなる部材同士のろう付けにおいて、優れたろう付け性を確保しながら、優れた耐侵食性も確保することができる。
ろう材粉末によるろう付けでは、まず、ろう付け用組成物が調製される。
ろう付け用組成物は、ろう材粉末と、Cs−Al−F系フラックスと、バインダ樹脂とを含んでいる。
ろう材粉末としては、上記したろう材粉末が挙げられる。
ろう材粉末の含有割合は、ろう付け性および耐侵食性の観点から、ろう付け用組成物の総量に対して、40質量%以上、好ましくは、45質量%以上、より好ましくは、50質量%以上であり、80質量%以下、好ましくは、75質量%以下、より好ましくは、70質量%以下である。
ろう材粉末の含有割合が上記下限を上回っていれば、優れたろう付け性を得ることができる。また、ろう材粉末の含有割合が、上記上限を下回っていれば、過剰な侵食(エロ―ジョン)を抑制して、優れた耐侵食性を得ることができる。
Cs−Al−F系フラックスは、アルミニウムまたはその合金の腐食を抑制しつつ、その表面の酸化皮膜を除去するためにろう付け用組成物に含有されている。
すなわち、例えば、塩化物系のフラックスなどを用いると、酸化皮膜を除去することはできる一方、ろう付け後に腐食が発生する場合があるが、Cs−Al−F系フラックスを用いれば、腐食の発生を抑制するとともに、酸化皮膜を除去することができる。
Cs−Al−F系フラックスとして、具体的には、フルオロアルミン酸セシウム(非反応性セシウム系フラックス)が挙げられる。
Cs−Al−F系フラックスの含有割合は、ろう付け性および耐侵食性の観点から、ろう付け用組成物の総量に対して、10質量%以上、好ましくは、15質量%以上、より好ましくは、20質量%以上であり、40質量%以下、好ましくは、35質量%以下、より好ましくは、30質量%以下である。
Cs−Al−F系フラックスの含有割合が上記下限を上回っていれば、酸化皮膜を十分に除去して、優れたろう付け性を得ることができる。また、Cs−Al−F系フラックスの含有割合が、上記上限を下回っていれば、過剰な侵食(エロ―ジョン)を抑制して、優れた耐侵食性を得ることができる。
また、ろう付け性および耐侵食性の観点から、ろう材粉末100質量部に対して、Cs−Al−F系フラックスが、例えば、20質量部以上、好ましくは、30質量部以上であり、例えば、60質量部以下、好ましくは、50質量部以下である。
バインダ樹脂としては、公知のバインダ樹脂が挙げられ、具体的には、例えば、ブチルゴム、(メタ)アクリル樹脂などが挙げられる。
ブチルゴムとしては、公知のブチルゴム、具体的には、イソブチレンとイソプレンとのコポリマーが挙げられる。このようなブチルゴムは、特に制限されず、公知の方法により得ることができる。
これらブチルゴムは、単独使用または2種類以上併用することができる。
(メタ)アクリル樹脂において、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」および/または「メタクリル」と定義される。
(メタ)アクリル樹脂としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステルのホモポリマー、(メタ)アクリル酸エステルのコポリマー、(メタ)アクリル酸エステル類と疎水性モノマーおよび/または親水性モノマーとのコポリマーなどが挙げられる。
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリルなどの(メタ)アクリル酸C1〜C18アルキルエステルなどが挙げられる。
これら(メタ)アクリル酸エステルは、単独使用または2種類以上併用することができる。
疎水性モノマーとしては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、p−クロルスチレンなどのスチレン類などが挙げられる。
これら疎水性モノマーは、単独使用または2種類以上併用することができる。
親水性モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、(無水)マレイン酸、フマル酸、(無水)シトラコン酸、あるいは、これらの塩などの不飽和カルボン酸類などのカルボキシル基含有モノマー、例えば、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、イソプレンスルホン酸、あるいは、これらの塩などの不飽和スルホン酸類などのスルホン酸基含有モノマーなどが挙げられる。
また、親水性モノマーとして、さらに、例えば、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコールエステル、(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコールエステル、エステル部分にアルキレンオキシドが付加した(メタ)アクリル酸エステル(例えば、CH2=C(CH3)COO(C2H4O)nH(nは、例えば2〜12の整数)など)などの水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルなどの水酸基含有モノマーなどが挙げられる。
これら親水性モノマーは、単独使用または2種類以上併用することができる。
(メタ)アクリル樹脂として、好ましくは、(メタ)アクリル酸エステルのホモポリマーが挙げられる。また、ろう付け性の観点から、(メタ)アクリル樹脂を構成するモノマーとして、好ましくは、メタクリル系モノマー(メタクリル酸エステル、メタクリル酸など)が挙げられる。
このような(メタ)アクリル樹脂は、特に制限されないが、例えば、塊状重合、溶液重合、懸濁重合などの公知の重合法により、上記のモノマーをラジカル重合させることにより得られる。また、(メタ)アクリル樹脂の重量平均分子量は、ラジカル重合開始剤の配合量などを調整することにより、適宜、設定することができる。
これらバインダ樹脂は、単独使用または2種類以上併用することができる。
バインダ樹脂の含有割合は、ろう材粉末とCs−Al−F系フラックスとの合計質量に対する質量比率(バインダ樹脂/(ろう材粉末+Cs−Al−F系フラックス))として、調整される。
バインダ樹脂の質量比率(バインダ樹脂/(ろう材粉末+Cs−Al−F系フラックス))は、例えば、0.1/99.9以上、好ましくは、0.2/99.8以上、より好ましくは、0.5/99.5以上、さらに好ましくは、1/99であり、例えば、25/75以下、好ましくは、20/80以下、より好ましくは、15/85以下、さらに好ましくは、10/90である。
バインダ樹脂の質量比率(バインダ樹脂/(ろう材粉末+Cs−Al−F系フラックス))が、上記下限を上回っていれば、ろう材粉末およびCs−Al−F系フラックスによる、過剰な侵食(エロ―ジョン)を抑制でき、耐侵食性の向上を図ることができる。さらに、ろう付け用組成物がペースト状(後述)である場合、溶剤の分離を抑制して、優れた塗布性を得ることができる。
また、バインダ樹脂の質量比率(バインダ樹脂/(ろう材粉末+Cs−Al−F系フラックス))が、上記上限を下回っていれば、バインダ樹脂の揮発残りを低減して、優れたろう付け性を得ることができる。また、ろう付け時における副生ガスの発生を抑制でき、作業性にも優れる。さらに、ろう付け用組成物がペースト状(後述)である場合、ろう付け用組成物が過度に高粘度化することを抑制して、優れた塗布性を得ることができる。
バインダ樹脂の含有割合は、ろう付け性および作業性の観点から、ろう付け用組成物の総量に対して、例えば、0.1質量%以上、好ましくは、0.2質量%以上、より好ましくは、0.5質量%以上であり、例えば、2.0質量%以下、好ましくは、1.5質量%以下、より好ましくは、1.0質量%以下である。
また、ろう付け用組成物は、さらに、溶剤を含有することができる。
溶剤としては、例えば、n−ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、オクタンなどの脂肪族炭化水素系/脂環族炭化水素系(ナフテン系)有機溶剤、例えば、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系有機溶剤(芳香環を有する炭化水素系有機溶剤)などの炭化水素系有機溶剤が挙げられる。また、溶剤として、さらに、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどの、水酸基を有する炭化水素系有機溶剤などが挙げられる。
これら溶剤は、単独使用または2種類以上併用することができる。
一方、芳香環を有する炭化水素系有機溶剤は、労働衛生性、安全性、環境保全性、臭気性において劣る場合がある。
また、水酸基を有する炭化水素系有機溶剤は、保存安定性において劣る場合があり、また、例えば、水が共存する場合には、ろう材粉末と経時的に反応し、保管安定性や安全性を低下させる場合がある。
そのため、溶剤として、好ましくは、芳香環および水酸基を有しない炭化水素系有機溶剤、具体的には、脂肪族炭化水素系/脂環族炭化水素系(ナフテン系)有機溶剤が挙げられる。
脂肪族炭化水素系/脂環族炭化水素系(ナフテン系)有機溶剤を用いれば、労働衛生性、安全性、環境保全性、臭気性および保管安定性を確保することができる。
また、溶剤の沸点は、臭気抑制による作業の円滑性の観点から、例えば、150℃以上、好ましくは180℃以上である。
このような溶剤は、市販品としても入手可能であり、具体的には、例えば、商品名「エクソールD80」(エクソン・モービル社製、ナフテン系炭化水素系有機溶剤、沸点(初留点)205℃)などが挙げられる。
溶剤の配合割合は、特に制限されず、目的および用途に応じて、適宜設定される。具体的には、ろう付け用組成物において、溶剤の配合割合は、ろう材粉末、Cs−Al−F系フラックスおよびバインダ樹脂の残部である。
また、ろう付け用組成物は、必要に応じて、例えば、酸化防止剤(例えば、ジブチルヒドロキシトルエンなど)、腐食防止剤(例えば、ベンゾトリアゾールなど)、消泡剤(例えば、シリコンオイル、グリセリンなど)、増粘剤(例えば、ワックス、硬化油、脂肪酸アミド、ポリアミドなど)、着色剤などの各種添加剤を、本発明の効果を損なわない範囲で、含有することができる。
そして、ろう付け用組成物は、上記の割合で各成分を、公知の方法により混合および撹拌することにより得ることができる。
例えば、ろう付け用組成物が、上記した溶剤を含有する場合には、ろう付け用組成物は、例えば、ペースト状の組成物(ろう付け用ペースト)として得られる。
また、ろう付け用組成物の形状は、ペースト状に限定されず、固形状であってもよい。
固形状のろう付け用組成物は、例えば、上記した溶剤を用いることなく、ろう付け用組成物を調製し、得られたろう付け用組成物をプレス成形などの公知の方法で成形することにより、得ることができる。
また、例えば、上記したペースト状のろう付け用組成物を、任意の形状に成形した後、乾燥させる方法や、例えば、ペースト状のろう付け用組成物に、添加剤として増粘剤(ワックスなど)を添加する方法によっても、得ることができる。
固形状のろう付け用組成物の形状としては、例えば、棒状、板状、パイプ状、線状、リング状などが挙げられ、好ましくは、パイプ状、リング状が挙げられ、より好ましくは、リング状が挙げられる。なお、ろう付け用組成物を板状または棒状に形成した後、屈曲させることにより、パイプ状またはリング状に形成することもできる。
そして、このようなろう付け用組成物は、上記したろう材粉末を含んでいるため、アルミニウムまたはその合金からなる部材同士のろう付けにおいて、優れたろう付け性を確保しながら、優れた耐侵食性も確保することができる。
そのため、上記のろう付け用組成物は、アルミニウムまたはその合金からなる部材(Al部材)同士のろう付けにおいて、好適に用いられる。
アルミニウムの合金は、アルミニウムを主成分とする合金であって、公知のアルミニウム合金が用いられる。なお、アルミニウムの合金において、アルミニウムの他に含まれる成分については特に制限されず、目的および用途に応じて、適宜設定される。
Al部材の形状は、特に制限されず、例えば、板形状、管形状、パイプ形状、円柱形状、角柱形状などが挙げられる。好ましくは、管形状、パイプ形状が挙げられる。
とりわけ好ましくは、Al部材は、管形状またはパイプ形状である。
以下において、管形状またはパイプ形状のAl部材同士を接合する方法について、図1および図2を参照して詳述する。
図1において、熱交換器10は、公知のクロスフィンチューブ型熱交換器であって、フィン積層体5と熱交換機用接合管1とを有している。
フィン積層体5は、熱交換器10における放熱部材であって、複数のフィン板6が互いに所定間隔を隔てて積層されることにより、形成されている。
熱交換器用接合管1は、熱交換器10における冷媒を流通させる管部材であって、熱交換器10の大きさに応じて単数または複数設けられており、フィン積層体5を積層方向に貫通するように配置されている。
より具体的には、熱交換器用接合管1は、図2に示されるように、第1のAl部材としての冷媒管2と、第2のAl部材としての接続管3とを備えている。
冷媒管2は、直管形状のAl部材であって、熱交換器10において公知の冷媒を流通させるために、複数設けられている。
また、冷媒管2は、直管部21と補助部22とを備えている。
直管部21は、内径および外径が一定の管部材であって、熱交換器10の大きさに応じて複数(図1参照)設けられ、フィン積層体5を積層方向に貫通するように、フィン板6の長手方向において互いに間隔を隔てて配置されている。このような直管部21は、内部に冷媒を通過させるとともに、外部においてフィン積層体5と接触しており、これによって、熱交換性を担保している。
補助部22は、段階的に広口化する略テーパ形状の開口端部であって、フィン板6から露出するように、直管部21の両端部に形成されている。このような補助部22は、直管部21と一体的に形成されていてもよく、また、直管部21とは別部材として形成され、直管部21に接続されていてもよい。
冷媒管2の肉厚L1は、0.45mm以下である。
冷媒管2の肉厚L1が上記上限以下であれば、熱交換器10の軽量化を図ることができ、さらに、優れたろう付け性および耐侵食性を発現できる。
接続管3は、逆U字管形状のAl部材であって、隣り合う冷媒管2を互いに接続させるに設けられている。
より具体的には、接続管3は、冷媒管2の数に応じて複数(図1参照)設けられており、接続管3の一方側端部が、一方の冷媒管2の端部(補助部22)に嵌合され、また、接続管3の他方側端部が、隣り合う他方の冷媒管2の端部(補助部22)に嵌合されている。
接続管3の肉厚L2は、例えば、1.5mm以下である。
接続管3の肉厚L2が上記上限以下であれば、熱交換器10の軽量化を図ることができ、さらに、優れたろう付け性および耐侵食性を発現できる。
また、接続管3の肉厚L2は、好ましくは、冷媒管2の肉厚L1よりも厚く、具体的には、冷媒管2(比較的薄い部材)の肉厚L1に対して、接続管3(比較的厚い部材)の肉厚L2の肉厚比(接続管3の肉厚L2/冷媒管2の肉厚L1)が、例えば、1.5以上、好ましくは、2以上であり、例えば、10以下、好ましくは、5以下である。
肉厚比が上記範囲であれば、熱交換器10の軽量化を図ることができ、さらに、優れたろう付け性および耐侵食性を発現できる。
そして、これら冷媒管2と接続管3とが、ろう付け用組成物4でろう付け(接合)されることによって、熱交換器用接合体1が形成される。
以下において、冷媒管2と接合管3とをろう付けする方法について、図3を参照して説明する。
この方法では、まず、図3Aにおいて矢印で示すように、冷媒管2の端部(補助部22)と、接続管3の端部とを嵌合させる。
その結果、図3Bに示すように、接続管3と冷媒管2とが部分的にオーバーラップし、接続管3の下端縁は、主管部21の上端縁(補助部22の下端縁)に接触するか、または、接続管3の下端縁が、主管部21の上端縁の近傍に配置される。
次いで、この方法では、図3Cに示すように、補助部22の上端部(図3の紙面上端部)に、上記したろう付け用組成物4を配置する。
例えば、ろう付け用組成物4がペースト状である場合には、補助部22の上端縁を覆うように、ろう付け用組成物4を塗布する。その後、必要に応じて、ろう付け用組成物4を乾燥させる。なお、乾燥条件は、ろう付け用組成物4の処方などに応じて、適宜設定される。
また、例えば、ろう付け用組成物4が所定形状(好ましくは、リング状またはパイプ状)に形成されている場合には、補助部22の上端縁を覆うように、ろう付け用組成物4を配置する。
その後、この方法では、ろう付け用組成物4を加熱する。
加熱方法は、特に制限されず、公知のろう付け方法を採用することができ、具体的には、炉中でろう付けする方法などを採用することができる。
加熱条件は、Al部材の融点および厚みや、ろう材粉末の融点、Cs−Al−F系フラックスの融点などに応じて、適宜設定される。例えば、ろう材粉末の融点以上、および、Cs−Al−F系フラックスの融点以上、かつ、Al部材の融点未満の温度であり、ろう材粉末が十分に溶融する時間以上である。
具体的には、例えば、Al部材の厚みが0.5mm〜5mmであった場合、加熱温度が、例えば、420℃以上、好ましくは、450℃以上であり、例えば、620℃以下、好ましくは、600℃以下である。また、加熱時間が、例えば、10秒以上、好ましくは、15秒以上であり、例えば、50秒以下、好ましくは、40秒以下である。
また、雰囲気条件は、例えば、真空雰囲気、例えば、アルゴンガス、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気などが挙げられ、また、雰囲気条件として、好ましくは、酸素濃度50ppm以下であることが挙げられる。
これにより、ろう付け用組成物4が溶解および流動して、図2が参照されるように、ろう付け用組成物4が、冷媒管2(補助部22)と接続管3との間隙に充填される。その後、冷却されることにより、冷媒管2と接合管3とがろう付け(接合)され、それらの接合体としての熱交換器用接合管1が得られる。
このような熱交換器用接合管1は、上記のろう材粉末およびろう付け用組成物を用いて得られるため、ろう付け性および耐侵食性に優れる。
具体的には、例えば、熱交換器10の分野においては、軽量化および高効率化を図るため、熱交換器用接合管1(冷媒管2および/または接続管3)の薄肉化が要求されている。
しかし、薄肉の冷媒管2および/または接続管3に、ろう付け性に優れたろう付けペーストを使用すると、図4に示すように、冷媒管2および接続管3において、過剰な侵食(エロージョン)を惹起し、熱交換器の耐久性を低下させる不具合がある。すなわち、優れたろう付け性を得ようとする場合、過剰な侵食(エロージョン)が発生しやすく、また、侵食(エロージョン)を抑制しようとすると、ろう付け性が低下するという背反がある。
これに対して、上記のろう材粉末およびろう付け用組成物は、ろう付け性と、耐侵食性とを兼ね備えることができる。
そのため、上記のろう材粉末およびろう付け用組成物を用いて得られる熱交換器用接合管1は、ろう付け性に優れながら、配管の侵食(エロージョン)を抑制でき、その結果、耐久性に優れる。
なお、上記した説明では、第1のAl部材としての冷媒管2と、第2のAl部材としての接続管3とのろう付けについて説明したが、第1のAl部材、および、第2のAl部材は、これらに限定されず、公知のAl部材から適宜選択することができる。
そのような場合、好ましくは、いずれか一方の部材(比較的薄い部材)の肉厚が、上記した冷媒管2の肉厚と同等(好ましくは、0.45mm以下)である。
また、好ましくは、他方の部材(比較的厚い部材)の肉厚が、上記した接合管3の肉厚と同等である。
Al部材の肉厚が上記上限を下回っていれば、ろう付け性および耐侵食性を確保しながら、軽量化を図ることができる。
また、好ましくは、第1のAl部材(比較的薄い部材)の肉厚に対する、第2のAl部材(比較的厚い部材)の肉厚の比が、上記した冷媒管2の肉厚L1に対する接続管3の肉厚L2の肉厚比と同等(好ましくは、2以上)である。
また、肉厚比が上記下限を上回っていれば、Al部材の溶解を抑制し、耐侵食性の向上を図ることができる。また、肉厚比が上記上限を下回っていれば、各Al部材の間における温度差を小さくでき、ろう付け性の向上を図ることができる。
次に、本発明を、実施例および比較例に基づいて説明するが、本発明は、下記の実施例によって限定されるものではない。なお、「部」および「%」は、特に言及がない限り、質量基準である。また、以下の記載において用いられる配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなどの具体的数値は、上記の「発明を実施するための形態」において記載されている、それらに対応する配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなど該当記載の上限値(「以下」、「未満」として定義されている数値)または下限値(「以上」、「超過」として定義されている数値)に代替することができる。
実施例1〜12、参考例1〜4および比較例1〜4
(1)ろう材粉末
ろう材粉末として、表1〜表3に示す組成、粒子径(D50およびD99)および酸素濃度を有するAl−Cu−Si−Zn系合金の粉末を、それぞれ入手した。なお、表中の組成において、Alは、不可避不純物を含む。
また、ろう材粉末は、遠心法または噴霧法により製造した。
遠心法の場合、ディスク回転数レベルを調整することによって、ろう材粉末の粒子径を、表中に記載の値に調整した。なお、表中に記載のディスク回転数レベル(1〜6)は、数字が高いほど高回転数であることを示す。
また、噴霧法の場合、噴霧圧力レベルを調整することによって、ろう材粉末の粒子径を、表中に記載の値に調整した。なお、表中に記載の噴霧圧力レベル(1〜5)は、数字が高いほど高圧であることを示す。
また、製造後のろう材粉末は金網による篩分けや2種類の粉末を混合するなどして、ろう材粉末の粒子径を所定の範囲内、あるいは所定範囲外となるように調整した。
さらに、製造時における雰囲気条件(とりわけ、雰囲気中の酸素濃度)を調整することにより、ろう材粉末の酸素濃度を、表中に記載の値に調整した。なお、表中に記載の窒素とは、窒素雰囲気を示す。また、準窒素とは、窒素と大気との混合雰囲気を示す。また、大気とは、大気雰囲気を示す。
ろう材粉末の粒子径の測定には、レーザー光回折・散乱式粒度分布測定装置MT3000II(MICROTRAC社製)を用いた。溶媒としてイソプロピルアルコール(IPA;屈折率1.38)を使用し、試料のDV値(レーザーの前方方向に配置された検出器に捉えた、粒子の散乱光量積算値に関連する値で、測定濃度を決定するマイクロトラックでの目安)が0.01〜1.0の範囲となるように試料を調整し、超音波装置(出力40W)を用いて超音波を3分間照射した後、流速80%(40cc/分)で循環させながら測定(測定条件:粒子透過性・・・反射)した。
ろう材粉末の酸素濃度の測定には、酸素・窒素分析装置EMGA−620W(株式会社堀場製作所)を用いて、不活性ガス融解−赤外線吸収法により、得られたろう材粉末中の酸素濃度を測定した。
(2)ろう付け用組成物
上記のろう材粉末51質量部と、Cs−Al−F系フラックス(フルオロアルミン酸セシウム)22質量部と、バインダ樹脂(ブチルゴム)0.5質量部と、炭化水素系有機溶剤26.5質量部とを配合して撹拌し、ペースト状のろう付け用組成物を得た。
なお、実施例8では、炭化水素系有機溶剤を使用せず、固形状のろう付け用組成物を得た。具体的には、ろう材粉末69質量部と、Cs−Al−F系フラックスを30質量部と、バインダ樹脂1質量部とを混練し、リング状の型に流し込んで、プレス成形した。
(3)接合体
表1〜表3に記載の通り、肉厚Aを有するアルミニウム管(JIS A1050、直径φ6mm)と、肉厚Bを有するアルミニウム管(JIS A1050、直径φ6mm)とを用意した。なお、アルミニウム管の端部は、図1に示されるように、互いに嵌合可能な形状であった。
次いで、それらアルミニウム管の端部を嵌合させ、その嵌合部に、ろう付け用組成物を配置した(図3参照)。
そして、互いに嵌合したアルミニウム管を加熱し、ろう付けした。このとき、ろう付け温度を、ろう材粉末の融点以上、Cs−F−Al系フラックスの融点以上、かつ、Al部材の融点未満に調整し、また、ろう付け時間を、ろう材粉末が溶融し、接合部に侵入するように調整する。
具体的には、Al部材の肉厚Aが0.2mmである場合、420℃〜620℃程度で、15秒〜50秒加熱した。
これにより、2つのアルミニウム管が接合された接合体を得た。
なお、各実施例および各比較例では、比較的薄い(1mm未満)の肉厚のAl部材を用いた。一方、各参考例では、比較的厚い(1mm以上)肉厚のAl部材を用いた。
<評価>
得られた接合体を長手方向に沿って切断し、その断面を光顕微鏡により観察して、ろう付け性および耐侵食性を評価した(図4参照)。
(1)ろう付け性
接合部の全長に対する、ろう切れ発生部の長さの割合(ろう切れ長さ/接合部長さ)を算出して、ろう付け性を評価した。その結果を、表1〜表3に示す。また、評価基準を下記する。
〇:ろう切れ長さが、接合部の全長の10%未満。
△:ろう切れ長さが、接合部の全長の10%以上60%未満。
×:ろう切れ長さが、接合部の全長の60%以上である、または、接合不可。
(2)耐侵食性
Al部材の厚みに対する、ろう材の侵食深さの最大値の割合(最大浸食深さ/Al部材厚み)を算出して、耐浸食性を評価した。その結果を、表1〜表3に示す。また、評価基準を下記する。
なお、侵食深さは、肉厚Bを有するアルミニウム管(Al部材)について測定した。また、肉厚Aを有するアルミニウム管においても、同程度の侵食が生じているとみなした。
〇:最大侵食深さが、Al部材の厚みの5%未満。
△:最大侵食深さが、Al部材の厚みの5%以上20%未満。
×:最大侵食深さが、Al部材の厚みの20%以上である、または、エロージョンが目視で確認できる。