[黒色めっき鋼板を製造する方法]
本願発明に係る黒色めっき鋼板を製造する方法は、AlおよびMgを含有する溶融Al、Mg含有Znめっき鋼板を密閉容器の内部で水蒸気に接触させて黒色めっき鋼板を製造する方法である。なお、以下明細書中では、溶融Al、Mg含有Znめっき鋼板の溶融Al、Mg含有Znめっき層を黒色化するために、密閉容器の内部で溶融Al、Mg含有Znめっき鋼板に水蒸気を接触させることを、「水蒸気処理」という。
本願発明の密閉容器を用いた黒色めっき鋼板を製造する方法は、図1のフローチャートに示されているように、S100において密閉容器の内部に配置した溶融Al、Mg含有Znめっき鋼板を加熱する第1工程(S110)と、密閉容器の内部の雰囲気ガスを排気して、密閉容器内部の気体圧力を70kPa(絶対圧力)以下にする第2工程(S120)と、密閉容器の内部に水蒸気を導入して所定の圧力の下、めっき層を黒色化する第3工程(S130)と、第3工程(S130)の後に密閉容器の内部の圧力をいったん大気圧に戻した後に、密閉容器内部の気体圧力を再び70kPa(絶対圧力)以下にする第4工程(S140)と、密閉容器内部のめっき鋼板を冷却する第5工程(S150)とが、この順番で行われる。なお、雰囲気ガスとは、密閉容器の内部に存在するガスを意味し、本願明細書に記載された大気、水蒸気、水素、窒素等を含有する気体の総称である。
以下、図2を参照しながら、各工程について詳しく説明する。
(第1工程)
第1工程(S110)では、密閉容器の内部に配置しためっき鋼板を加熱する。
密閉容器10は、めっき鋼板1を配置する配置部12を内部に有し、雰囲気ガスの排気による内部の気体圧力の低下や水蒸気の導入、加熱、冷却などに耐えうる強度を有していればよい。密閉容器10は、その外部から内部への気体の流入が実質的に不可能な密閉状態と、内部へのめっき鋼板の搬入および外部へのめっき鋼板の搬出が可能な開放状態との、いずれをもとることが可能に構成されている。密閉容器10は、後述する排気配管31、水蒸気供給配管41、ガス導入配管51およびドレン配管35などを接続可能な開口をその壁面または底面に有しており、これらの配管に設けられた開閉弁を閉じることで容器の内部を密閉状態にできるように構成されている。また、密閉容器10は、その外壁面に密閉容器10を加熱または冷却して密閉容器内の温度調整を行う縦壁部温度調整機構20を備えている。
めっき鋼板1は、基材鋼板と、基材鋼板の表面に形成された溶融Al、Mg含有Znめっき層とを有する。
溶融Al、Mg含有Znめっき層は、水蒸気との接触により黒色化する組成を有していればよい。めっき層が水蒸気との接触により黒色化するメカニズムは不明であるが、一つの仮説としては、水蒸気との接触によりめっき層表面およびめっき層中に酸素欠乏型の欠陥構造を有するZn、Al、Mgの酸化物(例えば、ZnO1−xなど)や水酸化物が生成されるためと推察される。このように、酸素欠乏型の酸化物や水酸化物が生成されると、その欠陥準位に光がトラップされるため、上記の酸化物や水酸化物が黒色外観を呈することになる。例えば、Alが0.1質量%以上60質量%以下、Mgが0.01質量%以上10質量%以下、Znが残部の組成を有するめっき層は、水蒸気との接触によって好適に黒色化することができる。
めっき鋼板1の形状は、黒色化すべき領域のめっき層が水蒸気と接触することができるのであれば、特に限定されない。例えば、めっき鋼板1の形状は、めっき層が平坦な形状(例えば、平板状)でもよいし、屈曲した形状(例えば、コイル状)であってもよい。なお、コイル状とは、めっき鋼板1により構成される金属帯が、径方向に間隔をあけて巻かれた形状を意味する。密閉容器10内部への配置の容易さや、その後の搬送の容易さの観点から、めっき鋼板1の形状はコイル状であることが好ましい。めっき鋼板1の形状をコイル状とした場合、当該めっき鋼板1の径方向の間隔については、水蒸気の浸入が容易となるように、径方向に隣り合う表面同士の間隔の最短距離が0.05mm以上確保されることが好ましい。
また、コイル状のめっき鋼板1における上記間隔を維持するため、巻かれためっき鋼板1の表面の間にスペーサーを配置することができる。当該スペーサーの形状は、コイル状のめっき鋼板表面のめっき層に十分水蒸気を行き渡らせることができればよく、例えば、線状のスペーサーでもよいし、面状のスペーサーであってもよい。線状のスペーサーは、めっき鋼板表面の一部に配置される線材であり、面状のスペーサーは、めっき鋼板表面の少なくとも一部に配置される平板状の部材である。めっき鋼板表面とスペーサーとが接触する面積は小さい方が好ましく、一つの接触点における接触面積は15mm2以下であることが好ましい。スペーサーの材質は、水蒸気処理中に著しい劣化や発火、めっき鋼板との融着または溶解が生じなければ特に限定されないが、その材質は金属または樹脂が好ましく、水蒸気透過性を有する材料であることがより好ましい。
また、めっき鋼板1は、単層に配置してもよいし、積層して配置してもよい。例えば、上記コイル状のめっき鋼板1はアイアップで配置することができる。また、2個以上のコイル状のめっき鋼板1を同時に黒色化するときは、2個以上のコイル状のめっき鋼板1をいずれもアイアップで重ねて密閉容器内に配置することができる。なお、密閉容器内に配置する際は、水蒸気を容易に浸入させるため、隣り合うめっき鋼板の間にスペーサーを配置するなどして、前述したように0.05mm以上となるように配置することが好ましい。また、任意の形状に加工されためっき鋼板1を密閉容器内に配置して黒色化してもよく、その際は密閉容器10内に棚を設けて、加工されためっき鋼板を棚に乗せてもよいし、加工されためっき鋼板を棚から吊り下げるようにしてもよい。
第1工程(S110)におけるめっき鋼板1の加熱は、めっき層の表面温度が水蒸気との接触によってめっき層が黒色化される温度(以下、「黒色処理温度」ともいう。)に達するまで行われる。
黒色処理温度は、例えば、めっき層の組成(例えば、めっき層中のAlおよびMgの量)、めっき層の厚みまたは必要とするめっき鋼板1の表面の明度に応じて任意に設定することができるが、下限温度は50℃以上であることが好ましく、上限温度は200℃以下であることが好ましい。さらに好ましくは、下限温度は105℃以上であることがより好ましい。黒色処理温度が105℃以上であれば黒色化をより短時間で行うことができる。また、黒色処理温度が200℃以下であれば水蒸気処理を行う装置の小型化が図れるとともに、黒色化する際の水蒸気の加熱に必要なエネルギー消費を抑えることができ、さらにめっき層の黒色化度合いを容易に制御することができる。めっき鋼板1を加熱する際は、密閉容器10内に設置しためっき鋼板1の表面温度を温度測定センサ60で測定しながら黒色処理温度を超えるまで加熱を行うようにするとよい。
なお、めっき鋼板1は熱容量が大きいため、表面温度が一様に上昇せず、表面温度にムラが生じることがある。したがって、めっき鋼板表面の複数の点もしくは領域、または表面全体の温度を測定しながら加熱を行い、測定された最も低い表面温度が黒色処理温度に到達するまで加熱が行われるようにすることが好ましい。なお、測定データを蓄積することによって、温度を実測することなく、加熱条件を設定して加熱を終了することも可能である。
めっき鋼板1の加熱方法は、めっき層の表面を黒色処理温度にすることができればよく、特に限定されるものではない。例えば、密閉容器10内にシーズヒータ等の加熱装置24を設けて、密閉容器10内の雰囲気ガスを加熱してめっき鋼板1を加熱してもよい。
なお、密閉容器内の雰囲気ガスを加熱する際に、密閉容器10内に設けた循環ファン71などの撹拌装置70で雰囲気ガスを撹拌すると、効率よく短時間でムラ無く、めっき鋼板1を加熱することが可能である。
また、第1工程(S110)において、めっき鋼板1は、露点が常にめっき鋼板温度未満であるガス(低水蒸気ガス)の存在下で加熱される。つまり、密閉容器10の内部に存在する雰囲気ガスは低水蒸気ガスである。めっき鋼板1の加熱作業を容易にする観点から、低水蒸気ガスは大気であってもよいが、めっき鋼板1の黒色化が可能な限りにおいて、窒素などの不活性ガスに置換してもよい。その他、大気よりも低露点の雰囲気に置換してもよい。なお、低水蒸気ガスは、密閉容器10に接続されたガス導入部50から密閉容器10内へ導入することができる。
加熱前のめっき鋼板1の温度は、通常、常温程度である。したがって、露点がめっき鋼板温度以上となる、水蒸気を多く含有する雰囲気ガスの存在下でめっき鋼板1を加熱すると、めっき鋼板1の表面近傍の雰囲気ガスがめっき鋼板1で冷却されてめっき鋼板表面に結露が生じることがある。その結果、めっき鋼板1の結露が生じた部分に対して水蒸気が接触できずに黒色化が阻害され、めっき層を均一に黒色化できないおそれがある。さらに、結露によってめっき鋼板表面が腐食し、白錆に覆われることで外観を損なうおそれもある。
これに対して本発明では、この第1工程(S110)において、低水蒸気ガスの存在下でめっき鋼板1を加熱している。これにより、水蒸気の凝縮による結露を発生し難くし、めっき層をより均一に黒色化してめっき鋼板1の外観をより見栄え良くできる。したがって、この第1工程(S110)における雰囲気ガスの露点は常温以下であることがより好ましく、例えば、本工程における雰囲気ガスを大気とすることができる。また、加熱に伴ってめっき鋼板1の温度が上昇していくので、加熱開始時における雰囲気ガスの露点がめっき鋼板1の温度より低い状態であれば、通常、雰囲気ガスの露点は常にめっき鋼板温度未満となり、上記めっき鋼板1に対する結露の発生が防がれることとなる。なお、密閉容器10の外壁面に設けられた縦壁部温度調整機構20により、密閉容器10の外壁面の温度調整を行い、これによって密閉容器10内の雰囲気ガスの温度調整を間接的に行ってめっき鋼板1を加熱してもよい。もちろん、加熱する際に、シーズヒータ等の加熱装置24や上記縦壁部温度調整機構20を、単独で使用してもよいし、これらを併用して加熱するようにしてもよい。
図5には、縦壁部温度調整機構20を使用して、めっき鋼板1を加熱する際の気体の流れが模式的に示されている。なお、ここでは前記流体として空気を用いる場合を例にして説明する。第1工程(S110)では、縦壁部温度調整機構20を使用して間接的にめっき鋼板1を加熱する際、弁82、85が閉じられるとともに弁86、88、90が開かれ、ブロワ81およびダクトヒータ80が稼動される。ブロワ81の稼動にともない、当該ブロワ81からダクトヒータ80に送り込まれた空気は当該ダクトヒータ80で加熱され、加熱された空気が縦壁部温度調整機構20の導入口202に導入されている。そして、当該加熱された空気が縦壁部温度調整機構20内に流されて、密閉容器10内の雰囲気ガスの温度が上昇することによって間接的にめっき鋼板1が黒色処理温度まで加熱されている。縦壁部温度調整機構20内を流動し、排出口204から排出された空気は、再びブロワ81によって循環され、循環される空気がダクトヒータ80を通過するときに再び加熱されるように構成されている。このような構成により、効率よく短時間で密閉容器内の雰囲気ガスの温度を上昇させてめっき鋼板1を加熱することが可能となっており、めっき鋼板1の単位時間当たりの生産性の向上を図ることが可能となる。なお、図5に記載された弁82、85は閉状態を示すものとして黒塗りで弁が描かれており、弁86、88、90は開状態を示すものとして白塗りで弁が描かれている。また、めっき鋼板1が加熱される際、循環ファン71を稼動して、密閉容器10内の雰囲気ガスを撹拌してもよい。このように撹拌することにより、密閉容器10内のめっき鋼板1が、均一に効率よく加熱される。
(第2工程)
第2工程(S120)では、密閉容器10内の雰囲気ガスを、排気配管31を通じて排気し、密閉容器10内の気体の圧力を70kPa(絶対圧力)以下にする。例えば、密閉容器10外に設置した排気ポンプ(図示せず。)で、密閉容器10の中の雰囲気ガスを排出することで、密閉容器10内の気体の圧力を上記範囲にすることができる。第2工程(S120)においては、雰囲気ガスの排気を1回のみ行ってもよいし、密閉容器10内に残存する水蒸気以外の気体成分の量をより少なくするため、雰囲気ガスの排気と、ガス導入配管51からの低水蒸気ガスの導入を繰り返し行ってもよい。
本願発明の実施例では、第2工程(S120)で密閉容器10内の雰囲気ガスを排気して密閉容器10内の気体圧力を低くすることによって、後述する第3工程(S130)で導入される水蒸気を、めっき鋼板1の間の隙間にまで十分に行き渡らせることができる。これにより、黒色化すべきめっき層全体をより均一に水蒸気処理することができ、黒色化のムラを発生しにくくすることができる。このような観点から、第2工程(S120)では密閉容器10内の気体圧力を70kPa(絶対圧力)以下にすることが好ましく、さらに50kPa(絶対圧力)以下にすることがより好ましい。
(第3工程)
第3工程(S130)では、密閉容器10内に水蒸気を導入してめっき鋼板1のめっき層を黒色化する。
めっき鋼板1の黒色化を均一に行うため、第3工程(S130)は、めっき層の表面のうち複数の点もしくは領域、または表面の全体のうち、測定された温度が最も高い箇所の温度と、測定された温度が最も低い箇所の温度との差が30℃以下、好ましくは20℃以下、さらに好ましくは10℃以下となってから、行われることが好ましい。つまり、第3工程(S130)は、めっき鋼板全体の表面温度が一様となってから行われることがより好ましい。例えば、めっき鋼板表面の温度差を上記範囲内にするため、第1工程(S110)と第2工程(S120)との間や、第2工程(S120)と第3工程(S130)との間に、めっき鋼板1のめっき層の表面温度を均一化させる、表面温度均一化工程を設けてもよい。
第3工程(S130)では、水蒸気処理中の密閉容器10内の雰囲気ガスの温度が105℃以上且つ水蒸気処理中の密閉容器10内の相対湿度が80%以上100%以下であることが好ましい。雰囲気ガスの温度を105℃以上とし、水蒸気の相対湿度を80%以上とすることで、黒色化をより短時間に行うことができる。また、雰囲気ガスの温度を105℃以上とすることによって、めっき層を十分に黒色化し、たとえばL*a*b*色空間におけるめっき層の明度Lを、60以下、好ましくは40以下、さらに好ましくは35以下にまで低下させることができる。なお、上記めっき層表面の明度(L*値)は、分光型色差計を用いて、分光反射測定法で測定される。また、雰囲気ガスの温度を105℃以上とすることによって水分が凝縮しにくくなるため、密閉容器10の内部や、めっき層表面への結露の発生を抑制することができる。なお、雰囲気ガスの温度は105℃以上200℃以下であることがより好ましく、相対湿度は100%であることがより好ましい。
また、第3工程(S130)における水蒸気処理中に、上記雰囲気ガスの温度を保つため、密閉容器10の内部を加熱してもよく、加熱方法は密閉容器の内部の温度および相対湿度が上記範囲に制御される限りにおいて特に限定されない。例えば、第1工程(S110)で使用した縦壁部温度調整機構20を使用してもよく、密閉容器10内に設けたシーズヒータ等の加熱装置24を使用してもよい。また、導入される水蒸気を加熱することで、密閉容器10の内部を加熱してもよい。
また、雰囲気ガスの排出および水蒸気の導入は、第3工程(S130)の開始から終了まで連続して行ってもよいし、単回のみ行ってもよい。さらに、一定の間隔をおいて複数回行ってもよい。
また、めっき鋼板1の黒色化のムラを防ぐため、密閉容器10の内部に水蒸気を導入した後または導入中の黒色化処理中に、密閉容器10の内部の雰囲気ガスを、循環ファン71を稼動することによって撹拌してもよい。
また、水蒸気処理の処理時間は、めっき層の組成(たとえば、めっき層中のAlおよびMgの量)もしくは厚み、ならびに必要とする明度などに応じて任意に設定することができるが、水蒸気処理は24時間程度行うのが好ましい。
(第4工程)
第4工程(S140)では、密閉容器10の内部の圧力をいったん大気圧に戻した後に、密閉容器10の内部の雰囲気ガスを排気して、密閉容器の内部の気体圧力を70kPa(絶対圧力)以下にする。例えば、密閉容器10の内部の圧力をいったん大気圧に戻すためには、密閉容器に設けた大気圧開放弁(図示せず。)を開くことで行うことができる。また、密閉容器10内の気体圧力を70kPa(絶対圧力)以下とするためには、密閉容器外に設置した排気ポンプ(図示せず。)使用し、密閉容器10内の雰囲気ガスを、排気配管31を通じて排出することで密閉容器10内の圧力を低くすることができる。
第4工程(S140)において、密閉容器内の内部の気体圧力を70kPa(絶対圧力)以下とする理由は次のとおりである。つまり、後述する第5工程(S150)で、密閉容器10の内部に水蒸気が残ったままめっき鋼板1を冷却すると、めっき鋼板1の隙間などに残った水蒸気が冷却されて凝縮し、めっき鋼板1の表面または密閉容器10の内部に結露が生じることがある。そして、めっき鋼板1の表面に結露が生じると、めっき鋼板1の表面に水分が付着してめっき鋼板1の黒色にムラが生じる可能性がある。そのため、第4工程(S140)において密閉容器10の内部の圧力をいったん大気圧に戻した後、密閉容器10の内部の雰囲気ガスを排気して、密閉容器10の内部の水蒸気量を少なくしている。これにより、後の第5工程(S150)におけるめっき鋼板1の冷却の際、上記のような問題を防ぐことができる。なお、上記のような観点から、第4工程(S140)において密閉容器10内の気体圧力を70kPa(絶対圧力)以下にすることが好ましく、30kPa(絶対圧力)以下にすることがより好ましい。
(第5工程)
第5工程(S150)では、密閉容器10の内部に露点がめっき鋼板温度未満であるガスをガス導入管51から導入してめっき鋼板1を冷却する。
例えば、第5工程(S150)で導入されるガスは、不活性ガスまたは大気とすることができ、作業性を考慮すると、密閉容器10を大気開放して、大気を導入することが好ましい。
さらに、本願発明の実施例では当該第5工程において、めっき鋼板1は、縦壁部温度調整機構20を使用して密閉容器10内の雰囲気ガスの温度を下げて、冷却されるようにしている。縦壁部温度調整機構20は、水蒸気処理の被処理物であるコイル状のめっき鋼板1の鉛直方向の上方の内側を避けて(すなわち、コイル状のめっき鋼板1の径方向における最も外側の位置よりもさらに外側にのみ)設けられている。つまり、めっき鋼板1から見て鉛直方向の上方の内側(図2のWの範囲)に位置する密閉容器10の天井部9Bの外壁面には、温度調整機構が設けられていない。これにより、天井部9Bの外壁面が冷却されることによる天井部9Bへの結露の発生が抑制され、結露水がめっき鋼板1へ落下することによって発生する外観不良を防ぐことが可能となる。
図6には、縦壁部温度調整機構20を使用して、めっき鋼板1を冷却する際の流体の流れが模式的に示されている。なお、ここでは前記流体として空気を用いる場合を例にして説明する。第5工程(S150)では、縦壁部温度調整機構20を使用して間接的にめっき鋼板1を冷却する際、弁86が閉じられるとともに弁82、85、88、90が開かれ、ブロワ81が稼動される。なお、めっき鋼板1を冷却する際は、ダクトヒータ80は非稼動状態となる。ブロワ81の稼動にともない、吸気口83から取り入れられた外部の空気は、当該ブロワ81からダクトヒータ80に送り込まれる。当該ダクトヒータ80に送り込まれた空気は、ダクトヒータ80で加熱されることなく、縦壁部温度調整機構20の導入口202から導入されている。そして、送り込まれた空気が縦壁部温度調整機構20内に流されて、密閉容器10内の雰囲気ガスの温度が低下することによって間接的にめっき鋼板1が冷却されている。縦壁部温度調整機構20内を流動し、排出口204から排出された空気は排気口84から大気に放出されるようになっている。つまり、吸気口83から常に新しい外部の空気を取り込み、縦壁部温度調整機構20を通過して抜熱した空気は排気口84から大気に放出されるようになっている。このような構成により、効率よく短時間で密閉容器10内の雰囲気ガスの温度を低下させてめっき鋼板1を冷却することが可能となっており、めっき鋼板1の単位時間当たりの生産量の向上を図ることが可能となる。なお、図6に記載された弁86は閉状態を示すものとして黒塗りで弁が描かれており、弁82、85、88、90は開状態を示すものとして白塗りで弁が描かれている。また、密閉容器10内の雰囲気ガスの温度を低下させる際、循環ファン71を稼動して、密閉容器10内の雰囲気ガスが撹拌されるようにしてもよい。密閉容器10内の雰囲気ガスが撹拌されることにより、密閉容器10内のめっき鋼板1を、均一に効率よく冷却することが可能となる。
[黒色めっき鋼板を製造する装置]
(装置の構成)
本願発明に係る黒色めっき鋼板を製造する装置は、その一例を示す模式断面図である図2に示されているように、めっき鋼板1を取り出し可能に配置できる配置部12を有する密閉容器10と、密閉容器10の内部を加熱(または冷却)する縦壁部温度調整機構20と、シーズヒータ等の加熱装置24と、密閉容器10の内部の雰囲気ガスを排気する排気調整機構30と、密閉容器10の内部に水蒸気を導入する導入水蒸気調整機構40とを有する。本発明の密閉容器は、さらに、密閉容器10の内部に大気を含むガスを導入するガス導入部50や、密閉容器10の内部の圧力を大気圧に戻すための大気圧開放弁(図示せず。)を有していてもよい。本発明の密閉容器は、さらに、めっき鋼板1の表面の温度を測定する温度計測部60や密閉容器10内の圧力を測定する圧力計測部61、雰囲気ガスの温度を計測するガス温度計測部62を有していてもよい。さらに、密閉容器10の内部の雰囲気ガスを撹拌する循環ファン71などの撹拌部70を有していてもよい。また、ドレン配管35およびドレン弁36を有しているとき、ドレン弁36を開放して、密閉容器10内から外部へ水を排出させてもよい。
以下に、図2、3、4を参照して、本発明の密閉容器の例示的な態様について詳しく説明する。
密閉容器10は、下部容器8と、上部容器9とを有している。下部容器8は、めっき鋼板1が配置される配置部12を備えており、上部容器9は、天井部9Bがドーム状に形成されるとともに、当該天井部9Bの端部から略鉛直方向下方に沿って延設された縦壁部9Aから構成されていて、下部が開放される形状によって構成されている。また、上部容器9の縦壁部9Aには、流体を流すことによって密閉容器10内の雰囲気ガスを加熱したり冷却したりすることができる縦壁部温度調整機構20が設けられている。また、密閉容器10は、下部容器8と上部容器9とが密閉されることにより構成されており、雰囲気ガスの排気による内部の気体の圧力の低下、水蒸気導入による内部圧力の上昇、加熱、冷却などに耐えうる強度を有している。
下部容器8には、水蒸気供給源から水蒸気を導入する水蒸気供給配管41と、密閉容器10内の雰囲気ガスや水蒸気などを排出するための排気配管31、ガス導入配管51、ドレン配管35が接続されており、これらの配管に設けられた開閉弁を閉じることで、密閉容器10の内部を密閉状態にできる。
下部容器8に設けられた配置部12には、めっき鋼板1が配置される。めっき鋼板1は、スペーサー2によって積層されてもよい。また、図2に示されているように、配置部12は、めっき鋼板1の上部から、めっき鋼板1の下部に流れてきた雰囲気ガスが、循環ファン71に吸い込まれるようにするための吸込口12Aと、循環ファン71に吸い込まれた雰囲気ガスを密閉容器10の内部空間へ吐き出すための吐出口12Bとを有している。
縦壁部温度調整機構20およびシーズヒータ等の加熱装置24は、密閉容器10を加熱するための手段である。例えば、図2〜4に図示しているように、加熱された流体が縦壁部温度調整機構20の内部を通過して上部容器9を加熱することにより、密閉容器10内部の雰囲気ガスの温度を上昇させることができる。なお、密閉容器10の内部を加熱するための手段は縦壁部温度調節部20に限られず、これと併せて、シーズヒータ等の加熱装置24によって、直接密閉容器10の内部の温度を上昇させることも可能である。また、縦壁部温度調整機構20は、上記のように密閉容器10内部の雰囲気ガスの温度を上昇させることのほか、外気を当該縦壁部温度調整機構20内に導入することによって、導入された外気が縦壁部温度調整機構20の内部を通過して上部容器9を冷却することにより、密閉容器10内の雰囲気ガスの温度を低下させることができる。
また、本実施形態の縦壁部温度調整機構20の態様が図2〜4に示されているが、図3に示されているように、縦壁部温度調整機構20の内部空間には複数の隔壁25が設けられており、その隔壁25により形成された空間に、所定の温度を有する流体が流通することで、上部容器9の縦壁部9Bを加熱または冷却されるように構成されている。これによって、密閉容器10内の雰囲気ガスを間接的に冷却または加熱することができる。なお、流体は、気体であっても液体であってもよく、縦壁部温度調整機構20内を流動することができるものであれば、特に限定されるものではない。
また、本実施形態の縦壁部温度調整機構20の内部空間に設けられた複数の隔壁25には、密閉容器内の雰囲気ガスを加熱する際には当該雰囲気ガスよりも高温の流体が流され、密閉容器内の雰囲気ガスを冷却する際には当該雰囲気ガスよりも低温の流体が流される。ただし、生産効率を上げるためには加熱及び冷却の両方を行うことが好ましいが、加熱と冷却とのうち冷却のみが行われる態様を排除するものではない。
図2に示されているように、縦壁部温度調整機構20には、導入口202と排出口204とが設けられている。図3(B)に示されるように、導入口202から導入した流体は、上部容器9の縦壁部9Aの略全体にわたって縦壁部温度調整機構20の内部空間を上下に流動し、排出口204から排出されるようになっている。なお、図2および図3(B)に記載された実施例では、導入口202および排出口204が縦壁部温度調整機構20の下部に設けられているが、これに限定されるものではなく、導入口202および排出口204を、縦壁部温度調整機構20の上部に設けるようにしてもよいし、導入口202または排出口204のいずれか一方を、縦壁部温度調整機構20の上部または下部に設けるようにしてもよい。
また、図3(A)の模式図に示されているように、縦壁部温度調整機構20では、導入口202から導入された流体が左右に振り分けられ、導入口202と排出口204とを含む平面に対して略対称に形成された左経路22および右経路23にそれぞれ流体が流されるように構成されている。このように構成されることで、左経路22の表面積と右経路23の表面積とが略同じとなり(左経路22を流れる流体が接する表面積と右経路を流れる流体が接する表面積とが略同じとなり)、左経路22を流れる流体と上部容器9との間での熱交換量と、右経路23を流れる流体と上部容器9との間での熱交換量とが略同じとなる。これにより、密閉容器10に対する熱分布の偏りが防がれて密閉容器10の熱ひずみが抑制され、さらに、効率よく短時間で密閉容器10内の雰囲気ガスの温度調整が可能となる。
ここで、各経路を流れる流体と熱交換される対象物の熱伝導率は略同じである必要がある。詳述すると、例えば、縦壁部温度調整機構20に形成されている経路が本実施形態のように左経路22および右経路23の二つである場合、左経路22を流れる流体と熱交換される対象物の熱伝導率と、右経路23を流れる流体と熱交換される対象物の熱伝導率とが略同じである必要がある。この点、本実施形態では、左経路22を流れる流体と熱交換される対象物(上部容器9)と、右経路23を流れる流体と熱交換される対象物(上部容器9)とが共通するため、左経路22を流れる流体と熱交換される対象物の熱伝導率と、右経路23を流れる流体と熱交換される対象物の熱伝導率とは同じである。
また、縦壁部温度調整機構20の内部空間に設けられた隔壁25は、図3に示された実施例に限られず、上部容器9の縦壁部9Aの略全体にわたって経路が形成されるとともに各経路を流れる流体と上部容器9との熱交換量が経路間で略同じであれば、図4(B)に示されているように、縦壁部温度調整機構20の下部から導入された流体が、左右に流動しながら上昇し、縦壁部温度調整機構20の上部に排出されるように構成してもよい。さらに、図4(A)に示されているように、左右の流動経路ごとに、導入口202と排出口204とをそれぞれ設けるようにしてもよい。なお、図4(B)に記載された実施例に限定されるものではなく、縦壁部温度調整機構20の上部から流体を導入し、縦壁部温度調整機構20の下部から流体を排出するようにしてもよい。
さらに、導入口202から排出口204までの経路(導入口202から排出口204までの経路)は、上部容器9の縦壁部9Aの略全体にわたって形成されていれば、全ての経路が同じ形状で形成されている必要はなく、流体が接する表面積が経路間で略同じであればよい。導入口202から排出口204までの経路として、例えば、流体が上下に流動する第1の経路と左右に流動する第2の経路とがあったとしても、第1の経路を流れる流体が接する表面積と第2の経路を流れる流体が接する表面積とが略同じであれば良い。
排気調整機構30は、排気配管31、排気弁322、324、326(以下、これらの総称として「排気弁32」と称する)および排気ポンプ(図示しない。)を有している。排気配管31は、密閉容器10の内部と密閉容器10の外部とを連通するように下部容器8を貫通して設けられた配管である。例えば、密閉容器10の内部の雰囲気ガスは、排気配管31を通って排気ポンプ(図示しない。)によって外部に排気される。なお、本願発明の実施例では、図2に示されているとおり、水蒸気処理中の密閉容器内の水蒸気量を調整するために、呼び径がそれぞれ異なる配管332、配管334及び配管336が接続された排気管31を備えている。配管332、配管334及び配管336のそれぞれには、排気弁32が設けられている。ここで、例えば、配管332には呼び径20Aの配管を、配管334には呼び径25Aの配管を、配管336には呼び径80Aの配管を、それぞれ用いることにより、必要な密閉容器内の水蒸気量にもとづき、排気弁32の開閉制御を行い、細かく正確な排気量調整が可能に構成されている。もちろん、本実施例に限定されるものではなく、排気管の呼び径や数は必要に応じて設定可能である。また、上述の第2工程および第4工程において、排気調整機構30は、雰囲気ガスを排気することによって密閉容器10内の気体の圧力を70kPa(絶対圧力)以下にできるように構成されている。
ドレン配管35は、密閉容器10の内部と密閉容器10の外部とを連通するように下部容器8を貫通して設けられた配管である。密閉容器10の内部の液体(結露水など)は、ドレン配管35を通って外部に排出される。
導入水蒸気調整機構40は、水蒸気供給配管41および水蒸気供給弁422、424、426(以下、これらの総称として「水蒸気供給弁42」と称する)を有しており、密閉容器10内に供給する水蒸気量を、水蒸気供給弁42で調整するものである。また、水蒸気の供給をしないときは、水蒸気供給弁42は閉じられて、水蒸気供給配管41を通じた密閉容器10内への水蒸気の供給は遮断される。なお、本願発明の実施例では、図2に示されているとおり、水蒸気処理中の密閉容器10内への水蒸気量を調整するために、配管432、配管434、配管436の、それぞれ呼び径の異なる配管が接続された排気管41が備えられており、それぞれの配管には水蒸気供給弁42が設けられている。ここで、例えば、配管432には呼び径20Aの配管を、配管434には呼び径25Aの配管を、配管436には呼び径80Aの配管を、それぞれ用いることにより、必要な密閉容器内の水蒸気量にもとづき、水蒸気供給弁42の開閉制御を行い、細かく正確な導入水蒸気量の調整が可能に構成されている。もちろん、本実施例に限定されるものではなく、水蒸気供給配管41の呼び径や数は必要に応じて設定可能である。
ガス導入部50は、ガス導入配管51およびガス導入弁52を有している。ガス導入配管51は、密閉容器10の内部と、密閉容器10の外部または不図示のガス供給源とを連通するように、下部容器8を貫通して設けられた配管である。
温度計測部60は、めっき鋼板1の表面のうちそれぞれ異なる領域に当接して設置された複数の温度測定センサ60であり、例えば、熱電対を用いてめっき鋼板1の表面温度を測定する。なお、めっき鋼板1をコイル状にした場合、コイルの板間に熱電対を挿入してもよい。
圧力計測部61は、密閉容器10内の圧力を測定するものであり、密閉容器10内での水蒸気処理の開始タイミングの指標となる圧力の測定や、密閉容器10内に導入する水蒸気量を適切に管理するために必要となるものである。また、ガス温度計測部62は、密閉容器10内の雰囲気ガスの温度を測定するものであり、密閉容器10内の雰囲気ガスを加熱及び冷却する際や、めっき鋼板1の各処理工程において、適切に密閉容器10内の雰囲気ガスの温度を管理するために必要となるものである。
撹拌部70は、下部容器8に配置された循環ファン71と、循環ファン71を回転駆動する駆動モーター72とを有している。図2において矢印で示されているように、駆動モーター72が循環ファン71を回転させると、めっき鋼板1の内径部分を抜けてきた雰囲気ガスが、配置部12の上部に設けられた吸込口12Aから吸い込まれるとともに、配置部12の外周部に設けられた吐出口12Bから流出して、密閉容器10の内壁とコイル1の外周面の間を通過し、めっき鋼板1の上部からめっき鋼板1の隙間に流入する。そして、再びめっき鋼板1の下部から配置部12の上部に設けられた吸込口12Aから雰囲気ガスが循環ファン71吸い込まれて上記のように密閉容器10内を循環する。このようにして、水蒸気処理中の密閉容器10の内部の雰囲気ガスは撹拌されるとともに、めっき鋼板1の隅々まで雰囲気ガスを行き渡らせることができる。もちろん、撹拌部70は水蒸気処理中(第3工程)だけ使用されるものではなく、めっき鋼板の加熱工程(第1工程)や冷却工程(第5工程)において使用してもよい。
(効果)
上記本願発明の密閉容器によれば、温度制御として例えば冷却を行った場合、密閉容器内において結露が発生し、それを起因としてめっき鋼板の外観不良を引き起こすおそれがある。しかし、本願発明の密閉容器は、被処理物から見て鉛直方向の上方の内側にあたる上部容器の外壁面に、冷却用の流体が流されることがないため、上部容器の内壁面への結露の発生が抑制され、被処理物の外観不良を防ぐとともに、当該被処理物の生産効率を向上させることが可能となる。