以下、本発明の電力変換装置を適用した実施の形態について説明する。
<実施の形態>
図1は、実施の形態の電力変換装置100を示す図である。電力変換装置100は、インバータ110、A/D(Analog to Digital)変換IC(Integrated Circuit)120、ゲート駆動IC130、及びFPGA(Field Programmable Gate Array)140を含む。
電力変換装置100は、直流電力を交流電力に変換して出力する装置であり、一例として、3相交流電力のU相、V相、W相のうちの1相を出力する2レベルインバータである。各相を出力する電力変換装置の構成は、電力変換装置100と同様であり、FPGA140は共通である。
インバータ110は、半導体スイッチT1、T2、コンデンサ113、114、リアクトル115、平滑コンデンサ116、出力端子117、中性点118、及び電流センサ119を有する。インバータ110は、電力変換回路の一例である。
半導体スイッチT1は、Nチャネル型のMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)111Aとダイオード111Bを有する。同様に、半導体スイッチT2は、Nチャネル型のMOSFET112Aとダイオード112Bを有する。
半導体スイッチT1、T2は、半導体スイッチの一例であり、MOSFET111A、112Aは、スイッチング素子の一例である。半導体スイッチT1、T2は、一例として、炭化珪素(SiC)ウェハに作製される。
半導体スイッチT1、T2は、複数の半導体スイッチを1つのパッケージにし、パッケージの外面にゲート接続端子、ドレイン接続端子、ソース接続端子、及び出力端子を設けてモジュール化したものであってもよい。
MOSFET111Aのドレインは、コンデンサ113の高電位側の端子(図中上側の端子)に接続される。MOSFET111Aのソースは、MOSFET112Aのドレインと、リアクトル115の一端(図中左側の端子)とに接続される。MOSFET111Aがオンになると、コンデンサ113からリアクトル115に電流が流れる。
ダイオード111Bのカソード及びアノードは、それぞれ、MOSFET111Aのドレイン及びソースに接続される。ダイオード111Bは、MOSFET111Aに逆並列接続される還流ダイオードである。なお、ここでは、ダイオード111Bには、MOSFET111Aのドレイン、ソース間の寄生ダイオードも含まれるものとして捉える。
MOSFET112A及びダイオード112Bの接続関係は、MOSFET111A及びダイオード111Bの接続関係と同様である。MOSFET112Aのソースは、コンデンサ114の低電位側の端子(図中下側の端子)に接続される。MOSFET112Aのドレインは、MOSFET111Aのソースと、リアクトル115の一端(図中左側の端子)とに接続される。MOSFET112Aがオンになると、リアクトル115からコンデンサ114に電流が流れる。
コンデンサ113、114は、直流電源としてインバータ110に設けられている。コンデンサ113は、高電位側の電源であり、コンデンサ114は、低電位側の電源である。コンデンサ113、114は、直列に接続され、コンデンサ113、114の直列接続体は、MOSFET111Aのドレインと、MOSFET112Aのソースとの間に並列に接続される。コンデンサ113、114の中点は、中性点118に接続される。なお、コンデンサ113、114に、それぞれ、コンデンサではない直流電源が並列に接続されていてもよい。
リアクトル115は、MOSFET111Aのソースと、MOSFET112Aのドレインとの間に一端が接続され、他端は出力端子117に接続されている。リアクトル115は、半導体スイッチT1、T2と、出力端子117との間に流れる高周波電流のリプルを押さえるために設けられており、平滑コンデンサ116と低域通過フィルタを構成する。
リアクトル115は、寄生容量Cを有する。図1では、説明の便宜上、寄生容量Cを図示して示す。ここでは、リアクトル115(寄生容量Cを除いた部分)に流れる電流(リアクトル電流)をiL、寄生容量Cに流れる電流をiEPCとする。
平滑コンデンサ116は、出力端子117と中性点118の間に挿入されている。平滑コンデンサ116は、リアクトル115と低域通過フィルタを構成する。
出力端子117は、3相の交流電力のうちの1相を出力する端子であり、中性点118は、3相の交流電力の中性点(基準電位点)である。出力端子117の出力電圧Voは、中性点118の電位に対する出力端子117の電位で表される。
電流センサ119は、リアクトル115と出力端子117との間に設けられている。電流センサ119が検出する電流値iAMは、次式(1)で表される。
iAM=iL+iEPC (1)
すなわち、電流センサ119は、リアクトル電流iLと、寄生容量Cに流れる電流iEPCとを区別することはできない。
A/D変換IC120は、電流センサ119によって検出される電流値iAMをデジタル値に変換し、電流値を表す電流信号をFPGA140に出力する。A/D変換IC120は、ICチップで実現される。
ゲート駆動IC130は、FPGA140から入力されるPWM(Pulse Width Modulation:パルス幅変調)駆動信号をアナログ変換するとともに、電圧値を調整して、MOSFET111A、112Aのゲートに入力する。ゲート駆動IC130は、ICチップで実現される。
FPGA140は、ADC(Analog to Digital Converter)制御部141、レジスタ142、キャリア信号生成部143、変調波演算部144、PWMパルス出力部145、予測電流値計算部146、及び保護制御部147を有する。FPGA140の各部(ADC制御部141〜保護制御部147)は、共通のシステムクロックで動作する。
ADC制御部141は、キャリア信号生成部143から入力されるキャリア信号と、システムクロックとに基づき、A/D変換IC120にADC制御信号を出力する。ADC制御信号には、例えば、A/D変換IC120に入力するクロック、電流値をサンプリングさせるサンプリング指令等がある。
ADC制御部141が電流値をサンプリングするサンプリング周期は、MOSFET111A、112Aのスイッチング周期よりも短い周期である。電流値をサンプリングするタイミングは、サンプリング周期の始期(開始時)である。
このため、ADC制御部141は、サンプリング周期の始期(開始時)にサンプリング指令を出力し、A/D変換IC120から電流信号を受信することにより、電流値をサンプリングする。一例として、スイッチング周期は、100kHzであり、サンプリング周期は、1MHzである。
ADC制御部141は、A/D変換IC120から電流信号を受信すると、電流値のサンプリングが完了したことを表すサンプリング完了信号を予測電流値計算部146に出力する。
レジスタ142は、電流値を保持する4つの領域142A、142B、142C、142Dを有し、ADC制御部141がサンプリングするサンプル電流値と、電流値i(t−1)と、電流値i(t)と、予測電流値i(t+1)とをそれぞれ保持する。領域142A、142B、142C、142Dに電流値を格納する処理は、予測電流値計算部146によって行われる。
電流値i(t)は、現在のサンプリング時における電流値であり、各サンプリング時にADC制御部141によってサンプリングされて領域142Aに格納されたサンプル電流値を領域142Cに転送して保持させたものである。
すなわち、現在のサンプリング時の電流値i(t)は、特定の場合を除いて、現在のサンプリング時にADC制御部141によってサンプリングされたサンプル電流値に等しい。特定の場合とは、スイッチングのオン/オフの切替時から1回目のサンプリング時であり、このサンプリング時には、サンプル電流値ではなく、現在よりも1つ前のサンプリング時の予測電流値i(t+1)が現在のサンプリング時の電流値i(t)として取り扱われる。この詳細については後述する。
電流値i(t−1)は、現在よりも1つ前のサンプリング時の電流値であり、領域142Bに格納される。電流値i(t−1)は、サンプリング周期が1つずつ進む度に、1つ前のサンプリング時に領域142Cに格納されていた電流値i(t)が領域142Bに転送して保持されたものである。
予測電流値i(t+1)は、現在よりも1つ後のサンプリング時の電流値の予測値である。予測電流値i(t+1)は、予測電流値計算部146によって次式(2)を用いて計算される。
i(t+1)=i(t)+{i(t)−i(t−1)} (2)
予測電流値i(t+1)は、レジスタ142の領域142Dに格納される。
キャリア信号生成部143は、システムクロックに基づいて、PWM駆動信号の生成に必要なキャリア信号を生成する。生成されたキャリア信号は、ADC制御部141とPWMパルス出力部145に入力される。
変調波演算部144は、システムクロックに基づいて、PWM駆動信号の生成に必要な変調波λを演算する。生成された変調波λは、PWMパルス出力部145に入力される。
PWMパルス出力部145は、キャリア信号生成部143から入力されるキャリア信号と、変調波演算部144から入力される変調波λとに基づき、MOSFET111A、112Aを駆動するPWM駆動信号を生成し、ゲート駆動IC130と予測電流値計算部146に出力する。MOSFET111A、112Aを駆動するPWM駆動信号のデューティ比は、キャリア信号と変調波λとに基づいて設定される。MOSFET111A、112Aを駆動するPWM駆動信号は、互いに逆位相である。
また、PWMパルス出力部145は、保護制御部147から過電流保護指令が入力されると、MOSFET111A、112Aを駆動するPWM駆動信号のデューティ比をともに0%に設定する。これにより、MOSFET111A、112Aは、ともにオフ(非導通状態)になり、ゲートブロックが行われる。ゲートブロックが行われると、インバータ110の動作は停止される。
PWMパルス出力部145は、過電流保護フラグを保持するデータ領域を有しており、保護制御部147から過電流保護指令が入力されると、過電流保護フラグを1に設定する。PWMパルス出力部145は、過電流保護フラグの値が1である間は、MOSFET111A、112Aを駆動するPWM駆動信号のデューティ比をともに0%に設定する。
なお、ゲートブロックが行われた場合に、ゲートブロックが解除されるのは、ゲートブロックが行われたキャリア信号の周期が終わる時点である。ここでは、一例として、キャリア信号の周期は、三角波のキャリア信号の振幅が正の最大値になる時点である。
ゲートブロックが解除されると、通常通りに(ゲートブロックが行われる前の状態で)MOSFET111A、112Aを駆動することができるようになる。また、ゲートブロックが解除されると、PWMパルス出力部145は、過電流保護フラグの値を0に戻す。
予測電流値計算部146は、各スイッチング周期において、スイッチングのオン/オフの切替時から1回目のサンプリング時と、スイッチングのオン/オフの切替時から2回目以降のサンプリング時とで、式(2)に代入する現在のサンプリング時の電流値i(t)が異なる。ここでは、図1に加えて、図2を用いて説明する。
図2は、レジスタ142の領域142A、142B、142C、142Dと、各領域に格納される電流値と、スイッチングのオン/オフの切替時から2回目以降のサンプリング時における電流値の遷移と、スイッチングのオン/オフの切替時から1回目のサンプリング時における電流値の遷移とを示す図である。
レジスタ142について上述したように、領域142A、142B、142C、142Dには、それぞれ、サンプル電流値、電流値i(t−1)、電流値i(t)、予測電流値i(t+1)が格納される。
まず、スイッチングのオン/オフの切替時から2回目以降のサンプリング時における電流値の遷移について説明する。図2に示すように、切替時から2回目以降のサンプリング時には、予測電流値計算部146は、領域142Cに格納されている電流値i(t)を電流値i(t−1)として領域142Bに転送(移動)させる。現在のサンプリング時が開始された時点で領域142Cに格納されている電流値i(t)は、既に1つ前のサンプリング時にサンプリングされた電流値になっているからであり、現在のサンプリング時のサンプル電流値のために領域142Cを空けるためである。
次に、領域142Aに格納されたサンプル電流値を電流値i(t)として領域142Cに転送させる。そして、その次に、領域142Bの電流値i(t−1)と、領域142Cの電流値i(t)とを式(2)に代入して予測電流値i(t+1)を計算し、レジスタ142の領域142Dに格納する。
また、スイッチングのオン/オフの切替時から1回目のサンプリング時には、まず、予測電流値計算部146は、領域142Cに格納されている電流値i(t)を電流値i(t−1)として領域142Bに転送させる。現在のサンプリング時のサンプル電流値のために領域142Cを空けるためである。これは、切替時から2回目以降のサンプリング時と同様である。
次に、予測電流値計算部146は、レジスタ142の領域142Aに格納されたサンプル電流値を現在のサンプリング時の電流値i(t)として用いずに無視し、現在のサンプリング時よりも1つ前のサンプリング時に計算した予測電流値i(t+1)を電流値i(t)として領域142Cに転送させる。
そして、その次に、領域142Bの電流値i(t−1)と、領域142Cの電流値i(t)とを式(2)に代入して予測電流値i(t+1)を計算し、レジスタ142の領域142Dに格納する。これは、切替時から2回目以降のサンプリング時と同様である。
予測電流値計算部146は、PWMパルス出力部145から入力されるPWM駆動信号のH(High)レベルとL(Low)レベルとが切り替わると、スイッチングのオン/オフの切替時であることを認識する。
また、予測電流値計算部146は、レジスタ142の領域142Aに格納されているサンプル電流値が、スイッチングのオン/オフの切替時から1回目(切替後の1回目)のサンプリング時の電流値であることを認識するためのカウンタ146Aを内蔵しており、PWM駆動信号のレベルが切り替わると、カウント値を1にインクリメントする。
また、予測電流値計算部146は、サンプル電流値がサンプリングされるタイミングにおいて、カウンタ146Aのカウント値が1である場合には、カウント値を0にデクリメントする。
また、予測電流値計算部146は、サンプル電流値がサンプリングされるタイミングにおいて、カウンタ146Aのカウント値が0である場合には、カウント値を0に保持する。
予測電流値計算部146は、このようなカウンタ146Aのカウント値に基づいて、サンプル電流値、及び、1つ前のサンプリング時に計算した予測電流値i(t+1)のどちらを現在のサンプリング時の電流値i(t)として用いるかを決定する。
カウント値が1の場合には、1つ前のサンプリング時に計算した予測電流値i(t+1)を現在のサンプリング時の電流値i(t)として用い、カウント値が0の場合には、サンプル電流値を現在のサンプリング時の電流値i(t)として用いる。
すなわち、カウンタ146Aのカウント値は、スイッチングのオン/オフの切替が行われた後に、サンプル電流値を現在のサンプリング時の電流値i(t)として用いずに(無視し)、1つ前のサンプリング時に計算した予測電流値i(t+1)を現在のサンプリング時の電流値i(t)として用いる回数を表す。
予測電流値計算部146は、いずれのサンプリング時においても、ADC制御部141からサンプリング完了信号が入力されると、上述のように、各領域142A〜142Dに格納するデータの遷移等を行う。スイッチングのオン/オフの切替時から1回目のサンプリング時であるかどうかは、カウンタ値に基づいて決定される。
スイッチングのオン/オフの切替時から1回目のサンプリング時に、そのサンプリング時のサンプル電流値を無視し、1つ前のサンプリング時に計算した予測電流値i(t+1)を現在のサンプリング時の電流値i(t)として式(2)に代入して、予測電流値i(t+1)を計算するのは次のような理由によるものである。
スイッチングのオン/オフの切替時の直後は、スイッチングによって生じるノイズの影響によって、リアクトル115に流れる電流の変動が大きく、保護制御部147が用いる過電流の判定閾値を超えるおそれがあるからである。
SiCで作製した半導体スイッチT1、T2は、100kHzオーダでの高周波動作が可能であるため、スイッチング時の電圧の時間変化量(dV/dt)が大きくなり、リアクトル115の寄生容量Cの充放電電流のようなノイズを検出しやすくなっている。
このような場合に、寄生容量Cの充放電電流が重畳されたリアクトル電流に対して瞬時的に過電流保護を行うと、保護制御部147の誤動作になるおそれがあるため、スイッチングのオン/オフの切替時から1回目のサンプリング時には、そのサンプリング時のサンプル電流値を無視することにしている。
保護制御部147は、予測電流値計算部146によって計算される予測電流値i(t+1)が所定の判定閾値以上であるかどうかを判定することにより、過電流の発生の有無を判定する。
保護制御部147は、予測電流値i(t+1)が所定の判定閾値以上である場合には、過電流が発生していると判定し、過電流保護指令をPWMパルス出力部145に出力する。この結果、PWMパルス出力部145は、デューティ比を0%に設定したPWM駆動信号をMOSFET111A、112Aのゲートに出力するため、MOSFET111A、112Aは、ともにオフ(非導通状態)になる。すなわち、ゲートブロックが行われる。ゲートブロックが解除されるのは、ゲートブロックが行われたキャリア信号の周期が終わる時点である。
このように、現在のサンプリング時の電流値i(t)を取得するタイミングで計算した予測電流値i(t+1)を用いてリプルによる過電流を判定するため、素早く確実にリプルによる過電流を抑制でき、高周波動作を安定的に行える電力変換装置を提供することができる。
図3は、インバータ110の動作中におけるキャリア信号、変調波λ、PWM駆動信号、及びリアクトル115の両端間電圧VLのレベルを時間的変化を示す図である。図3に示すPWM駆動信号は、半導体スイッチT1のMOSFET111Aを駆動するための信号である。
なお、横軸が時間を表し、縦軸は、各信号等のレベルを表す。また、両端間電圧VLは、図1におけるリアクトル115の右側の端子に対する左側の端子の電圧を正とする。また、PWM駆動信号がHレベルからLレベル、及び、LレベルからHレベルに切り替わる時刻t1、t3、t5、t7、t9のタイミングは、PWMパルス出力部145が予め決めていて把握しているタイミングである。
時刻t0において、インバータ110の駆動が開始され、変調波λのレベルが三角波のキャリア信号のレベル以上であるため、PWM駆動信号はHレベルである。この状態では、コンデンサ113からMOSFET111Aを経てリアクトル115に電流が流れるため、両端間電圧VLは正の値になる。
時刻t1において、変調波λのレベルが三角波のキャリア信号のレベル未満になり、PWM駆動信号がHレベルからLレベルに切り替わると、リアクトル115からMOSFET112Aを経てコンデンサ114に電流が流れるため、両端間電圧VLは負の値になる。
時刻t2において、キャリア信号生成部143がキャリア信号を折り返して低下させ始め、変調波演算部144が変調波λのレベルを上昇させるが、変調波λのレベルは引き続き三角波のキャリア信号のレベル未満であるため、PWM駆動信号はLレベルに保持され、両端間電圧VLは負の値で一定である。
時刻t3において、変調波λのレベルが三角波のキャリア信号のレベル以上になり、PWM駆動信号がLレベルからHレベルに切り替わると、コンデンサ113からMOSFET111Aを経てリアクトル115に電流が流れるため、両端間電圧VLは正の値になる。
時刻t4において、キャリア信号生成部143がキャリア信号を折り返して上昇させ始め、変調波演算部144が変調波λのレベルを上昇させるが、変調波λのレベルは引き続き三角波のキャリア信号のレベル以上であるため、PWM駆動信号はHレベルに保持され、両端間電圧VLは正の値で一定である。
時刻t5において、変調波λのレベルが三角波のキャリア信号のレベル未満になり、PWM駆動信号がHレベルからLレベルに切り替わると、リアクトル115からMOSFET112Aを経てコンデンサ114に電流が流れるため、両端間電圧VLは負の値になる。
時刻t6から時刻t9までは、時刻t2から時刻t5までと同様の動作が繰り返され、時刻t9以降もPWM駆動信号のレベルが切り替わると、リアクトル115の両端間電圧VLが変化する。
なお、図3には、半導体スイッチT1のMOSFET111Aを駆動する場合の各信号等の時間的変化の様子を示したが、半導体スイッチT2のMOSFET112Aを駆動するPWM駆動信号は、半導体スイッチT1のMOSFET111Aを駆動するPWM駆動信号とは逆位相であるため、半導体スイッチT2のMOSFET112Aを駆動する場合の各信号等の時間的変化の様子は、図3に示す動作例とは逆位相で同様に行われる。
図4は、予測電流値計算部146及び保護制御部147が行う処理を示すフローチャートである。
処理が開始される(スタート)の時点では、ADC制御部141によってサンプル電流値がサンプリングされているものとする。
予測電流値計算部146は、レジスタ142の領域142Cに格納されている1つ前のサンプリング時の電流i(t)を現在のサンプリング時よりも1つ前のサンプリング時の電流i(t−1)として領域142Aに転送させる(ステップS1)。
予測電流値計算部146は、カウンタ146Aのカウント値が1であるかどうかを判定する(ステップS2)。
予測電流値計算部146は、カウント値が1である(S2:YES)と判定すると、現在のサンプリング時のサンプル電流値を無視して、1つ前のサンプリング時に計算された予測電流値i(t+1)を現在のサンプリング時の電流値i(t)として取り扱うために、領域142Dに格納されている電流値i(t+1)を領域142Cに転送させる(ステップS3)。
次いで、予測電流値計算部146は、カウント値をデクリメントする(ステップS4)。
次いで、予測電流値計算部146は、領域142Cに格納されている現在のサンプリング時の電流値i(t)と、領域142Bに格納されている1つ前のサンプリング時の電流値i(t−1)とを式(2)に代入して、予測電流値i(t+1)を計算する(ステップS5)。
次いで、保護制御部147は、ステップS5で計算された予測電流値i(t+1)が判定閾値以上であるかどうかを判定する(ステップS6)。
保護制御部147は、予測電流値i(t+1)が判定閾値以上である(S6:YES)と判定すると、過電流保護指令をPWMパルス出力部145に出力する(ステップS7)。この結果、PWMパルス出力部145は、過電流保護フラグを1に設定する。
ステップS7の処理が終了すると、予測電流値計算部146及び保護制御部147は、次のサンプリング時にADC制御部141によってサンプル電流値がサンプリングされるまで待機する(エンド)。
なお、ステップS2において、予測電流値計算部146がカウント値は1ではない(S2:NO)と判定すると、予測電流値計算部146は、ADC制御部141によってサンプリングされたサンプル電流値を現在のサンプリング時の電流値i(t)として領域142Cに転送させる(ステップS8)。
また、ステップS6において、保護制御部147によって予測電流値i(t+1)は判定閾値以上ではない(S6:NO)と判定した場合には、予測電流値計算部146及び保護制御部147は、ADC制御部141によってサンプル電流値がサンプリングされるまで待機する(エンド)。
以上の一連の処理は、予測電流値計算部146及び保護制御部147によって繰り返し行われる。
図5は、インバータ110の動作中におけるキャリア信号、変調波λ、電流値iAM、電流値i(t−1)、電流値i(t)、予測電流値i(t+1)、過電流保護フラグ、及び、予測電流値計算部146のカウンタ146Aのカウント値の時間的変化を示す図である。
電流値iAMについては、実線で示す電流値が実際の電流値iAMの値である。また、電流値iAMには、便宜的に、FPGA140によってサンプリングされるサンプル電流値を黒丸(●)、三角(▲)、及び菱形(◆)のマーカで示す。
図5には、半導体スイッチT1のMOSFET111Aを駆動する場合の各信号等を示す。横軸が時間を表し、縦軸は、各信号等のレベルを表す。キャリア信号と変調波λは、図3に示すものと同一である。
また、図5には、図3の時刻t2の直前の時刻t11から時刻t3を経て、時刻t4に至るまでの時間帯の部分を時間軸方向に拡大して示す。時刻t11は、図3に示す時刻t1と、時刻t2との間にある電流値のサンプリング時である。また、時刻t31、t32、t33、t34は、時刻t3と時刻t4との間にある電流値のサンプリング時である。時刻11のサンプリング時の次のサンプリング時は、時刻t31である。
時刻t11で、電流値のサンプリングが行われると、黒丸(●)で示す電流値i1がサンプル電流値としてサンプリングされる。時刻t11では、MOSFET111Aがオフで、MOSFET112Aがオンであるため、電流値iAMは時間の経過とともに低下している。
また、時刻t11では、予測電流値計算部146は、次のサンプリング時(時刻t31)の予測電流値i(t+1)として、時刻t31に小さい黒丸で示す電流値i2Aを計算する。
また、時刻t11は、サンプル電流値がサンプリングされるタイミングであり、カウンタ146Aのカウント値が0であるため、予測電流値計算部146は、カウント値を0に保持する。
時刻t2でキャリア信号生成部143がキャリア信号を折り返して低下させ始めるが、MOSFET112Aがオンであるため、電流値iAMは時間の経過とともに低下し続けている。時刻t2は、サンプル電流値がサンプリングされるタイミングではないため、カウンタ146Aのカウント値は変化しない。
時刻t3で変調波λのレベルが三角波のキャリア信号のレベル以上になり、PWM駆動信号がLレベルからHレベルに切り替わると(図3参照)、MOSFET111Aがオフからオンに切り替わる(スイッチングされる)とともに、MOSFET112Aがオンからオフに切り替わる。このため、電流センサ119が検出する電流値iAMには、リアクトル電流iLに加えて、寄生容量Cに流れる電流iEPCがスイッチングに伴うノイズ成分として重畳される。ノイズを含む電流値iAMは、時刻t3以降にノイズによって判定閾値を超えている。
また、時刻t3は、MOSFET111Aのスイッチングのオン/オフの切替時であるため、予測電流値計算部146は、カウンタ146Aのカウント値を1に設定する。
時刻t31は、MOSFET111Aのオン/オフの切替時(時刻t3)から1回目のサンプリング時である。このため、予測電流値計算部146は、時刻t31におけるサンプル電流値(▲印で示される電流値i2)を無視し、1つ前のサンプリング時に計算した予測電流値である電流値i2Aを現在(時刻t31)のサンプリング時の電流値i(t)として用いて、電流値i2Aと、1つ前のサンプリング時の電流値i1とに基づいて、次のサンプリング時(時刻t32)の予測電流値i3Aを計算する。
また、時刻t31は、サンプル電流値がサンプリングされるタイミングにおいて、カウンタ146Aのカウント値が1であるため、予測電流値計算部146は、カウント値をデクリメントする。これにより、カウンタ値は0になる。
時刻t32では、予測電流値計算部146は、1つ前のサンプリング時に現在のサンプリング時の電流値i(t)として用いた電流値i2Aを、1つ前のサンプリング時の電流値i(t−1)にするために、レジスタ142の領域142Cに格納される電流値i2Aを領域142Bに転送させる。
また、時刻t32は、MOSFET111Aのオン/オフの切替時(時刻t3)から2回目のサンプリング時である。このため、予測電流値計算部146は、時刻t32におけるサンプル電流値i3を現在のサンプリング時の電流値i(t)として用いて、電流値i3と、1つ前のサンプリング時の電流値i2Aとに基づいて、次のサンプリング時(時刻t33)の予測電流値i4Aを計算する。予測電流値i4Aは、判定閾値未満である。
また、時刻t32は、サンプル電流値がサンプリングされるタイミングにおいて、カウンタ146Aのカウント値が0であるため、予測電流値計算部146は、カウント値を0に保持する。
時刻t33は、MOSFET111Aのオン/オフの切替時(時刻t3)から3回目のサンプリング時である。このため、予測電流値計算部146は、時刻t33におけるサンプル電流値i4を現在のサンプリング時の電流値i(t)として用いて、電流値i4と、1つ前のサンプリング時の電流値i3とに基づいて、次のサンプリング時(時刻t34)の予測電流値i5Aを計算する。ここでは、電流値i4は、時刻t32で計算した予測電流値i4Aと略等しいものとする。
また、菱形(◆)で示す予測電流値i5Aは、判定閾値以上であるため、保護制御部147は、過電流が発生していると判定し、過電流保護指令をPWMパルス出力部145に出力する。これにより、PWMパルス出力部145によって過電流保護フラグが1に設定される。
この結果、ゲートブロックが行われ、時刻t33以降に電流値iAMが低下するため、電流値iAMが判定閾値を超えることが未然に抑制される。
なお、時刻t33は、サンプル電流値がサンプリングされるタイミングにおいて、カウンタ146Aのカウント値が0であるため、予測電流値計算部146は、カウント値を0に保持する。
時刻t34は、MOSFET111Aのオン/オフの切替時(時刻t3)から4回目のサンプリング時である。時刻t34では、サンプル電流値として電流値i5がサンプリングされる。
予測電流値計算部146は、時刻t34におけるサンプル電流値i5を現在のサンプリング時の電流値i(t)として用いて、電流値i5と、1つ前のサンプリング時の電流値i4とに基づいて、次のサンプリング時の予測電流値を計算する。
その後、予測電流値計算部146によって予測電流値が繰り返し計算され、キャリア信号の周期の終わりの時点(図2における時刻t6に相当する時点)において、ゲートブロックが解除される。
なお、図5には、半導体スイッチT1のMOSFET111Aを駆動する場合の各信号等の時間的変化の様子を示したが、半導体スイッチT2のMOSFET112Aを駆動するPWM駆動信号は、半導体スイッチT1のMOSFET111Aを駆動するPWM駆動信号とは逆位相である。半導体スイッチT2のMOSFET112Aのオン/オフの切替時においても、予測電流値計算部146によって同様の処理が行われる。
以上のように、実施の形態の電力変換装置100によれば、現在のサンプリング時の電流値i(t)を取得するタイミングで予測電流値i(t+1)を計算する。予測電流値i(t+1)は、現在のサンプリング時よりもサンプリング周期の1周期分だけ後のサンプリング時における電流値の予測値である。
そして、現在のサンプリング時に、サンプリング周期の1周期分だけ後の予測電流値i(t+1)が過電流になっているかどうかでゲートブロックを行うかどうかを判定するため、電流センサ119で検出される電流値iAMが判定閾値を超える前に、素早く確実にリプルによる過電流を抑制できる。
従って、高周波動作を安定的に行える電力変換装置100を提供することができる。
また、MOSFET111A、112Aのオン/オフの切替時から1回目のサンプリング時のサンプル電流値を無視し、1つ前のサンプリング時に計算した予測電流値i(t+1)を現在のサンプリング時の電流値i(t)として取り扱うので、スイッチングに伴うノイズによる過電流の誤判定を抑制することができる。このことによっても、高周波動作を安定的に行える電力変換装置100を提供することができる。
なお、以上では、MOSFET111A、112Aのオン/オフの切替時から1回目のサンプリング時のサンプル電流値を無視する形態について説明したが、オン/オフの切替時から2回目以降の所定回数にわたってサンプリング時のサンプル電流値を無視するようにしてもよい。
MOSFET111A、112Aのオン/オフの切替時から何回目のサンプリング時までのサンプル電流値を無視するかは、MOSFET111A、112Aのオン/オフの切替後にリアクトル115に流れる電流が判定閾値未満になるまでの所要時間と、サンプリング周期とによって決定すればよい。
例えば、図5において、ノイズ成分が時刻t32よりも後で時刻t33よりも前の時点まで生じるような場合には、MOSFET111A、112Aのオン/オフの切替時から2回目のサンプリング時までのサンプル電流値を無視するようにすればよい。
具体的には、予測電流値計算部146は、PWM駆動信号のレベルが切り替わると、カウント値を2にインクリメントするとともに、サンプル電流値がサンプリングされるタイミングにおいて、カウンタ146Aのカウント値が1以上である場合には、カウント値をデクリメントするように構成すればよい。
また、以上では、FPGA140でインバータ110の制御を行う形態について説明したが、インバータ110以外のリアクトル及びスイッチング素子を含む電力変換回路の制御を行ってもよい。このような電力変換回路としては、昇圧型又は降圧型のDC−DCコンバータや、交流を直流に整流するスイッチング電源(整流器)がある。
リアクトルとスイッチング素子を含み、スイッチングに伴うノイズと、リアクトルに流れる電流にリプルが発生する電力変換回路であれば、FPGA140で制御を行うことにより、高周波動作を安定的に行えるようにすることができる。
以上、本発明の例示的な実施の形態の電力変換装置について説明したが、本発明は、具体的に開示された実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。