以下、本発明の実施形態を説明する。以下説明は、図中に矢印で示す左右、前後、上下を使用する。図1に示すミシン1は、布に閂止縫目を形成する閂止ミシンである。
図1〜図3を参照し、ミシン1の概略構造を説明する。ミシン1はベッド部2、脚柱部3、アーム部4を備える。ベッド部2はミシン1の土台である。ベッド部2は、ベッド本体部7とシリンダベッド部8を備える。ベッド本体部7は略箱状である。シリンダベッド部8は、ベッド本体部7から前方に延びる。ベッド本体部7とシリンダベッド部8の内部は連通する。シリンダベッド部8は前端部の上面に針板26を備える。針板26は針穴を備える。脚柱部3はベッド本体部7の後部から上方に延びる。アーム部4は、脚柱部3の上部から前方に延び、ベッド部2と対向する。アーム部4は、内部にミシンモータ16と上軸54を備える。ミシンモータ16はアーム部4後部にて支持する。上軸54は、ミシンモータ16の前方で前後方向に延びる。上軸54の後端部は、継手17を介してミシンモータ16の駆動軸に連結する。上軸54は、ミシンモータ16の駆動で回転する。上軸54の前端部と後端部は、互いに同軸である。上軸54は、後端部近傍にクランク部57を備える。クランク部57は、上軸54の前端部と後端部に対して偏心する。脚柱部3は内部に連桿59を備える。連桿59は上下方向に延びる。連桿59上端部は、クランク部57に対して回動可能に連結する。
アーム部4の前端部は先端部5である。先端部5の左壁部27の上部は、左側に向けて緩やかに湾曲する。先端部5は左壁部27の下部に、板部28を備える。板部28は、上下方向に延びる。板部28は、左壁部27の上部よりも右側に位置する。先端部5は、天秤機構50と針棒上下動機構10を支持する。天秤機構50は、天秤クランク52と天秤51を備える。天秤クランク52は上軸54の前端部に連結する。天秤51は天秤クランク52に設ける。天秤クランク52が上軸54と共に回転することで、天秤51は上下動する。天秤51は挿通孔51Aを有する。天秤51は、挿通孔51Aに挿通した上糸を保持する。
針棒上下動機構10は針棒クランクロッド43、針棒抱き19、針棒11、支持筒18等を備える。針棒クランクロッド43は、天秤クランク52に回動可能に連結し、上下方向に延びる。針棒抱き19は、針棒クランクロッド43の下端部に回動可能に連結する。針棒抱き19は上下方向を軸方向とする円筒状である。針棒11は、上下方向に延びる円筒状であり、針棒抱き19に挿通して針棒抱き19にて保持する。針棒クランクロッド43が天秤クランク52の回転により往復運動することで、針棒抱き19は針棒11を上下動する。支持筒18は、針棒抱き19下方且つ先端部5の内部で固定する。支持筒18は、上下方向を軸方向とする円筒状であり、針棒11を挿通する。支持筒18は針棒11の上下動を案内する。
針棒11の上端部13(図4参照)は、開口する。上端部13は内周面に雌螺子を形成する。針棒11の下端部12は先端部5から下側に突出し、針板26上方にある。下端部12は縫針6を装着する。縫針6は下端部に目孔14(図4参照)を備える。縫針6は目孔14に挿通した上糸を保持する。縫針6は、針棒11と一体的に上下動し、針板26の針穴を通過する。下端部12は、縫針6に代えて縫針46を装着可能である(図9参照)。縫針46は縫針6よりも長さが短い。縫針46は下端部に目孔44を備える。作業者は、例えば縫製対象となる布の厚さに応じて、縫針6,46の何れかを、下端部12に装着する。以下、縫針6,46を総称する場合、縫針96と称し、目孔14,44を総称する場合、目孔94と称す。
図1、図3に示すように、ベッド部2は内部に回動軸31、連結部材40、下軸33、下軸ギヤ34、釜39を備える。回動軸31は、ベッド本体部7にて支持し、ベッド本体部7の内部で前後方向に延びる。回動軸31は上軸54の右下方にある。連結部材40は回動軸31に固定する。連結部材40は腕部41、ギヤ部42を備える。腕部41は回動軸31から右側へ突出する。腕部41右端部は、連桿59下端部に対して回動可能に連結する。ギヤ部42は、腕部41の後方に設けた斜歯ギヤであり、回動軸31を中心として扇形状である。上軸54の回転に伴い往復運動する連桿59は、腕部41の右端部を、回動軸31の右側で往復揺動する。故に、回動軸31とギヤ部42は一体的に往復回動する。
下軸33は、ベッド部2にて支持し、ベッド本体部7とシリンダベッド部8の内部で前後方向に延びる。下軸33は、回動軸31の左方、且つ上軸54の下方に設ける。下軸ギヤ34は、下軸33の後端部に設けた斜歯ギヤであり、ギヤ部42と噛み合う。下軸ギヤ34は下軸33と一体的に往復回動可能である。釜39は、下軸33の前端部に設け、針板26下方に配置する。釜39は、下糸を巻回したボビンを内部に収容する。下軸33は、回動軸31に従動して往復回動し、釜39は下軸33を中心に往復揺動する。
図2に示すように、ミシン1は布送り装置20を備える。布送り装置20は、可動体、揺動軸、送り台、揺動モータ、送り板21、ラック軸22、移動モータ、押え腕23、レバー部25、布押えモータを備える。可動体は、ベッド本体部7の内部で前後動可能に設ける。揺動軸は、可動体に固定した上下方向に延びる軸であり、ベッド本体部7から上方に突出する。送り台は、ベッド本体部7の内部で可動体と連結し、且つ揺動軸に揺動可能に設ける。故に、送り台は、可動体と共に前後動可能であり、且つ揺動軸を中心に左右方向に揺動可能である。揺動モータは、送り台に連結する。揺動モータが駆動することで、送り台は揺動軸を中心に揺動する。送り板21は、ベッド部2上面に配置する。送り板21は布を支持する。送り板21は、送り台と一体的に、前後動し且つ揺動する。送り板21は前端部に孔を有する。上下動する縫針96は、送り板21の孔を通過して針板26の針穴に達する。
ラック軸22は、ベッド本体部7上方で前後方向に延び、且つ前後動可能である。ラック軸22の前端部は、揺動軸の上端部に連結する。ラック軸22の後端部は、脚柱部3の内部に配置する。ラック軸22は後端部に前後方向に延びる歯部を備える。移動モータは脚柱部3内部に設ける。移動モータの駆動軸に固定した歯車は、ラック軸22の歯部と噛み合う。移動モータが駆動することで、ラック軸22は前後動する。該場合、送り台、送り板21、揺動軸、可動体は、ラック軸22と一体的に前後動する。
押え腕23は、送り台から上方に延び、且つベッド部2の上方で前方へ延びる。押え腕23は、送り台と一体的に、前後動可能且つ揺動可能である。押え腕23は、押え足24、軸部29、レバー部25を備える。押え足24は、押え腕23の前端部に上下動可能に設ける。押え足24は送り板21の上方に配置する。軸部29は、左右方向を軸方向とし、押え腕23の前後方向略中央部に設ける。レバー部25は、押え腕23の左面と右面の夫々に設け、軸部29を中心に回動可能である。レバー部25の前端部は、押え足24に連結する。押えモータは、脚柱部3の内部に設ける。押えモータは、アーム部4の内部に設けたリンク機構を介して、レバー部25の後端部に連結する。レバー部25が、押えモータの駆動に伴い軸部29を中心に回動することで、押え足24は上下動する。押え足24は、送り板21との間で布を押圧可能である。
図4〜図6を参照し、縫針冷却機構100を説明する。縫針冷却機構100は、縫針6に対して空気を噴出して縫針6を冷却する機構である。縫針冷却機構100は先端部5にて支持する。尚、図6は、図2の二点鎖線W1で囲んだ領域の拡大図である(図9も同様)。
図4、図5に示すように、縫針冷却機構100は、支持部材110、ピストン120、蓋部130、継手150、輸送管160、固定部材170、変更機構200を備える。支持部材110は、上下方向に延びる円筒状であり、先端部5の内部にて固定する。支持部材110は金属製である。支持部材110は針棒11を挿通する。支持部材110は、下側から順に案内部111、拡径部113、シリンダ部112を有する。案内部111は、針棒11を上下動可能に支持する。案内部111の内径は、針棒11の外径よりも僅かに大きい。案内部111は針棒11の上下動を案内する。拡径部113は、案内部111上端の上側に設ける。拡径部113は、上方に向かうに従い拡径する。シリンダ部112は、拡径部113上端から上方に延びる円筒状であり、先端部5から上方に突出する。シリンダ部112の上端部は、開口する。シリンダ部112は、針棒11の上端部13を収容する。シリンダ部112は、上端部の外周面に雄螺子115を形成する。
ピストン120は、針棒11の上端部13に固定し、シリンダ部112内に配置する。ピストン120は樹脂製である。ピストン120は円板部123、接続部122を備える。円板部123は、上下方向に厚みを有する円板状である。円板部123の外径は、シリンダ部112の内径よりも僅かに小さい。円板部123の外周面は、シリンダ部112の内周面に対して摺動可能である。円板部123は、外周面に凹部121を備える。凹部121は、円板部123の中心側に向けて凹み、円板部123の周方向の全周に亘って延びる。凹部121は、内部に潤滑剤を充填する。潤滑剤は例えばグリスである。凹部121内の潤滑剤は、シリンダ部112の内周面とピストン120の外周面の間を封止する。接続部122は、円板部123の下面中心部から下方に突出する円筒状である。接続部122は外周面に雄螺子124を形成する。雄螺子124が針棒11の上端部13の雌螺子に締結することで、ピストン120は針棒11に固定する。雄螺子124を針棒11の上端部13の雌螺子において緩めれば、ピストン120は針棒11から取り外せる。故にピストン120は針棒11に対して着脱可能である。以下、シリンダ部112の内側空間のうち、ピストン120の上方となる空間を、シリンダ室114(図7参照)と称す。
蓋部130は金属製の円筒状である。蓋部130は、シリンダ部112の上端部に固定して、シリンダ部112の上端部の開口を塞ぐ。蓋部130は、先端部5から上方に突出する。蓋部130は内壁部138を備える。内壁部138は、上下方向に延びる貫通孔139を囲む。貫通孔139は、平面視で蓋部130と同軸の円形状である。貫通孔139は、シリンダ室114に連通する。
内壁部138は、下内壁部137、延設内壁部131、傾斜内壁部133、連結内壁部132を備える。下内壁部137は上下方向に延びる。下内壁部137の下端部は、蓋部130の下端部である。下内壁部137の上端部は、上方に向かうに従い縮径するテーパ状である。延設内壁部131は、下内壁部137の上端から上方に延びる。延設内壁部131の内径は、シリンダ部112の外径よりも僅かに大きい。延設内壁部131は雌螺子を形成する。延設内壁部131の雌螺子が、シリンダ部112の雄螺子115に締結することで、内壁部138はシリンダ部112の上端部に嵌め込む。傾斜内壁部133は、延設内壁部131上端から上側へ延びる。換言すると、傾斜内壁部133は、シリンダ部112の上端部に連結する。傾斜内壁部133は、上方に向かうに従い縮径するテーパ状である。換言すると、傾斜内壁部133は、上方に向かう程貫通孔139の中心側へと延びる。連結内壁部132は、傾斜内壁部133の上端から上方に延びる。連結内壁部132の内径は、延設内壁部131の内径よりも小さい。連結内壁部132は、雌螺子を形成する。
継手150は、下方から上方に延び更に左方へ折れ曲がる円筒状であり、蓋部130と輸送管160を互いに連結する。継手150下端部の外径は、連結内壁部132の内径よりも僅かに小さい。継手150は下端部に雄螺子154を形成する。雄螺子154が、連結内壁部132の雌螺子に締結することで、継手150の下端部は、蓋部130に固定して貫通孔139を閉塞する。継手150の内側空間は貫通孔139に連通する。
輸送管160は可撓性を有する管である。輸送管160は一端部161、延設部163、他端部162を備える。一端部161は、継手150の左端部の内側に嵌め込む。故に、一端部161は連結内壁部132に連結する。輸送管160の内側空間は、継手150の内側空間に連通する。延設部163は、一端部161から下側に延びる。他端部162は、延設部163の下端部から下側に延び、縫針96に対して左前方に配置する。他端部162は、縫針96の移動経路9に向けて開口する。本実施形態では、他端部162は、縫針96が特定位置(図4参照)にある時の目孔94に向けて、開口する。特定位置は、縫針96の可動範囲の上端よりも僅かに下方となる上下方向位置である。
固定部材170は、例えばコードクランプである。固定部材170は、左壁部27に形成した穴に嵌め込んで固定する。換言すると、固定部材170は先端部5の外表面に固定する。本実施形態では、二つの固定部材170が、上下方向に間隔を空けて並ぶ。固定部材170は、延設部163を挿通して保持する。故に延設部163は左壁部27に沿う。
図6に示す変更機構200は、輸送管保持部材220(後述)が保持する他端部162の上下方向位置を変更可能な機構である。変更機構200は延出部材210、二つの螺子219、輸送管保持部材220、二つの螺子部材230を備える。延出部材210は、前後方向に厚さを有する板状の金具である。延出部材210は固定部211、延出部214を備える。固定部211は、左壁部27の板部28に対向する。固定部211は、上下方向に並ぶ二つの挿通孔を備える。二つの挿通孔は、夫々、板部28に設けた二つの螺子穴と対向する。延出部214は、固定部211前端から前方へ延出する。延出部214前端は、先端部5よりも前方に配置する。二つの螺子219の一方は、固定部211の上側の挿通孔に挿通して、板部28の上側の螺子穴に締結する。二つの螺子219の他方は、固定部211の下側の挿通孔に挿通して、板部28の下側の螺子穴に締結する。故に、延出部材210は板部28に固定する。二つの螺子219の前後方向位置は、縫針96の前後方向位置と略一致する。延出部214は、二つの締結穴216を備える。換言すると、二つの締結穴216は先端部5に設ける。二つの締結穴216は、螺子219の前下方で、上下方向に並ぶ。締結穴216の前後方向位置は、縫針96の前後方向位置よりも前側である。
輸送管保持部材220は、板状の金具であり、後述の螺子部材230で延出部材210に固定する。輸送管保持部材220は、平板部221、一対の対向壁部223を備える。平板部221は、延出部214に対して左方から対向する。平板部221は挿通孔226を備える。挿通孔226は、上下方向に長径を有し、前後方向に短径を有する。挿通孔226の長径は、締結穴216の内径よりも小さい。挿通孔226の短径は、締結穴216の内径よりも僅かに大きい。一対の対向壁部223は、平板部221の前下方に設ける。一対の対向壁部223は、左斜め上方から右下方向かう方向に沿って、互いに対向する。一対の対向壁部223は、夫々、円形状の保持孔229を有する。二つの保持孔229は互いに同軸である。保持孔229の内径は、輸送管160の外径と略同じである。二つの保持孔229は、輸送管160の他端部162を挿通する。
二つの螺子部材230は、上下方向に並び、挿通孔226に挿通する。挿通孔226に挿通した二つの螺子部材230は、夫々、延出部材210の二つの締結穴216に締結する。故に輸送管保持部材220は延出部材210に固定し、変更機構200は他端部162を保持する。
上側の螺子部材230の軸部の上端と、下側の螺子部材230の軸部の下端との上下方向の距離を、軸部距離と称す。挿通孔226長径から軸部距離を差し引いた距離を、第一距離L1と称す。縫針6と縫針46の寸法差を、第二距離L2と称す(図9参照)。本実施形態では、第一距離L1と第二距離L2は、互いに略同じである(図9参照)。
図1〜図3を参照し、ミシン1の動作概要を説明する。布は送り板21に載置する。布押えモータが駆動することで、押え足24は、下降して送り板21との間で布を押える。ミシンモータ16、移動モータ、揺動モータは、互いに同期して駆動する。上軸54が、ミシンモータ16の駆動に伴い回転することで、針棒上下動機構10、天秤機構50は夫々駆動し、連桿59は往復運動する。針棒11と天秤51は上下動し、釜39は、針棒11に同期して下軸33を中心に往復揺動する。針棒11と共に下降する縫針96は、布を貫通して針穴を通過した後、釜39に達する。釜39は、縫針96が保持する上糸に、ボビンケースから引き出した下糸を絡める。天秤51は、下糸に絡んだ上糸を針板26上方に引き上げ布に縫目を形成する。縫針96は、釜39に到達した後、布の上側まで上昇する。押え腕23と送り板21は、移動モータの駆動に伴い前後動し、且つ、揺動モータの駆動に伴い左右方向に往復揺動する。故に、布送り装置20は、布を前後動し、且つ左右方向に往復揺動する。ミシン1は、上記動作を繰り返すことで、布に閂止縫目を形成する。
図4、図6〜図8を参照し、縫針冷却機構100の動作を説明する。尚、図8は図4の二点鎖線W2で囲んだ領域の拡大図である(図7も同様)。針棒11は下端部12に縫針6を装着する(図6参照)。縫針冷却機構100の動作前、縫針6は特定位置にある(図4、図6参照)。輸送管保持部材220は、下端位置にある(図6参照)。下端位置は、輸送管保持部材220の上下動可能な範囲の下端となる位置である。輸送管保持部材220が下端位置にある場合、挿通孔226の上端部が、上側の螺子部材230の軸部の上端に接触する。
図4に示すように、ミシンモータ16の駆動で、ピストン120は針棒11と共に下降する(矢印A)。ピストン120の円板部123の外周面が、シリンダ部112の内周面に対して摺動しながら下降することで、シリンダ部112はピストン120の下降を案内する。該場合、凹部121(図5参照)にある潤滑剤は、シリンダ部112とピストン120の間を潤滑する。故に、縫針冷却機構100は、シリンダ部112内周面とピストン120外周面との摩擦抵抗を、低減する。シリンダ室114の圧力は、ピストン120の下降に伴い、ミシン1の外部の気圧よりも低下する。輸送管160は他端部162から空気を吸入する(矢印B)。輸送管160は吸入した空気を一端部161へ輸送する。
図7に示すように、輸送管160は、一端部161を介して継手150に空気を送る。継手150に流入した空気は、貫通孔139を経由してシリンダ室114に流れる(矢印C)。以下、内壁部138に沿ってシリンダ室114へ流れる空気を、特定吸入空気(矢印D)と称す。特定吸入空気は、連結内壁部132、傾斜内壁部133、延設内壁部131を順に伝う。傾斜内壁部133がテーパ状なので、特定吸入空気は、水平方向(即ち、蓋部130の軸線と直交する方向)に流れ難い。故に貫通孔139を流れる空気は、シリンダ室114へ流れ易い。縫針6が釜39に達した後、ピストン120は針棒11と共に上昇する。シリンダ部112は、ピストン120の上昇を案内する。
図8に示すように、シリンダ室114の圧力が、ピストン120の上昇に伴い、ミシン1の外部の気圧よりも上昇する。シリンダ室114の空気は、貫通孔139を経由して、継手150、輸送管160を順に流れる(矢印E)。以下、内壁部138に沿って継手150へ流れる空気を、特定排出空気(矢印F)と称す。特定排出空気は、延設内壁部131、傾斜内壁部133、連結内壁部132を順に伝う。傾斜内壁部133がテーパ状なので、特定排出空気は、水平方向に流れ難い。故に貫通孔139を流れる空気は、継手150に流れ易い。輸送管160は、一端部161から流入した空気を他端部162へ輸送する。故に他端部162は空気を噴出する(図6の矢印E)。針棒11、ピストン120は、可動範囲の上端に到達する。ピストン120が可動範囲の上端に達した時、貫通孔139を流れる空気の流量は、最大となる。針棒11とピストン120は下降する。シリンダ部112は、ピストン120の下降を案内する。縫針6は、特定位置に向けて下降する。
輸送管160が空気を輸送する分、他端部162からの噴出空気の流量が最大になる時機は、貫通孔139の空気流量が最大になる時機よりも、僅かに後となる。故に、縫針6が特定位置に到達した時、輸送管160は他端部162から最も多量な空気を、目孔14に向けて噴出できる。故にミシン1は、縫針6下端、目孔14、上糸を、効率良く冷却できる。針棒11が高速で上下動すると、縫針6と布との摺動により生じる摩擦熱は、過大になる。該場合、布が溶解し、上糸と下糸は糸切れを生じる可能性がある。本実施形態では、ミシン1は、縫針6下端、目孔14、上糸を効率良く冷却することで、布の溶解、上糸と下糸の糸切れを抑制できる。
図6、図9を参照し、作業者が輸送管160の他端部162の上下方向位置を調整する方法を説明する。作業者は、例えば縫針6に代えて縫針46を下端部12に装着する時、他端部162の上下方向位置を調整する。上下方向位置の調整前、輸送管保持部材220は、下端位置にある(図6参照)。
作業者は、二つの螺子部材230を脱落しない程度に緩める。挿通孔226が二つの締結穴216に対向する範囲で、輸送管保持部材220は上下動可能となる。作業者は、輸送管保持部材220を上端位置(図9参照)に移動する。上端位置は、輸送管保持部材220の上下動可能な範囲の上端となる位置である。輸送管保持部材220が上端位置にある場合、挿通孔226の下端は、下側の螺子部材230の軸部下端に当たる。故に、作業者は、上方へ移動する輸送管保持部材220を、上端位置にて位置決めできる。作業者は、位置決めした輸送管保持部材220を保持し、二つの螺子部材230を締結する。輸送管保持部材220が上端位置にある場合、他端部162は、特定位置にある時の縫針46の目孔44に向けて開口する。故に、作業者が縫針6に代えて縫針46を下端部12に装着すれば、ミシン1は、縫針46の下端、目孔44、上糸を効率良く冷却できる。
尚、作業者は、二つの螺子部材230を再び緩めた後、輸送管保持部材220を上端位置から下端位置に移動できる。挿通孔226の上端が、上側の螺子部材230の軸部上端が当たれば、作業者は、輸送管保持部材220を下端位置にて位置決めできる。作業者は、二つの螺子部材230を締結することで、輸送管保持部材220を下端位置にて固定できる。
以上説明したように、針棒上下動機構10は、ミシンモータ16の駆動力によって針棒11を上下動する。針棒11の上下動によって、縫針冷却機構100は、縫針6に対して空気を噴出して縫針6を冷却する。針棒11の昇降に伴い、特定吸入空気、特定排出空気は、テーパ状に形成した傾斜内壁部133に沿って流れる。故に、輸送管160の空気の輸送時、貫通孔139で水平方向に流れる空気が生じ難いので、貫通孔139での空気の滞留は生じ難い。故に他端部162からの空気の噴出量は、低下し難い。本実施形態では、内壁部138が、シリンダ部112の上端部と連結する傾斜内壁部133を備えるので、縫針冷却機構100は、ピストン120の上下動に追従して貫通孔139にて上下動する弁体を備えない。故に、針棒11が高速で上下動しても、輸送管160の他端部162からの空気の噴出量は、低下し難い。また、縫針冷却機構100が弁体を備えないので、ミシン1の構成は簡易になる。故に、縫針96に向けた空気の噴出量が低下し難く、且つ簡易な構成を有するミシン1が実現できる。
変更機構200は、輸送管保持部材220の上下方向位置を変更する。ミシン1は、輸送管160の他端部162からの噴出空気に触れる縫針96の上下方向位置を、調整できる。故に、輸送管160の他端部162からの空気の噴出量が最大になる時機で、輸送管160は縫針96に空気を噴出し易い。故にミシン1は縫針96を冷却し易い。
作業者は、締結穴216に締結した螺子部材230を緩めれば、輸送管保持部材220の上下方向位置を調整できる。故に、ミシン1は、輸送管160の他端部162の上下方向位置を調整する作業を簡略化できる。輸送管保持部材220が下端位置にある場合、他端部162は、特定位置にある時の縫針6の目孔14に向けて開口する。輸送管保持部材220が上端位置にある場合、他端部162は、特定位置にある時の縫針46の目孔44に向けて開口する。作業者が輸送管保持部材220を、下端位置と上端位置の夫々の位置にて位置決めできるので、ミシン1は、他端部162の上下方向位置を調整する作業を更に簡略化できる。本実施形態では、第一距離L1と第二距離L2は、互いに略同じである。故に、作業者が輸送管保持部材220を位置決めすれば、他端部162は、特定位置にある縫針96の目孔94に向けて開口する。故に、ミシン1は、他端部162の上下方向位置を調整する作業を簡略化し、且つ、縫針96の冷却を効率良く実行できる。
締結穴216は、延出部材210の前側に設ける。換言すると、締結穴216は、延出部材210のうちで、アーム部4の延設方向に沿って脚柱部3から離隔する方向側の部位に設ける。故に輸送管保持部材220は、アーム部4と接触し難い。故にミシン1は、輸送管保持部材220の移動範囲を確保し易い。
輸送管160の延設部163は、一端部161と他端部162の間で延びる。延設部163は、左壁部27の外表面に沿う姿勢で、固定部材170に保持する。延設部163は、左壁部27に近接した状態で固定部材170にて保持するので、作業者に接触し難い。故にミシン1は安全性を向上できる。延設部163は、左壁部27に沿うので、縫針96の前側に存在し難い。延設部163が、ミシン1の前側から縫針96と布を見る作業者の視界に入り難いので、作業者は、縫針96と布を視認し易い。故にミシン1は、作業者による布の取り扱いを容易化できる。
ミシン1の動作に伴って、ピストン120は劣化する。例えば、糸屑、埃、粉塵等の異物がピストン120の円板部123と、シリンダ部112との間に進入する場合がある。該場合、ピストン120と円板部123との間に異物が挟まった状態で、ピストン120は上下動するので、ピストン120の劣化は早まる。ピストン120が劣化すると、作業者は、劣化したピストン120を別のピストン120に交換する必要がある。本実施形態では、ピストン120は針棒11に対して着脱可能である。ピストン120の交換時、作業者はピストン120と共に針棒11を交換する必要がない。故にミシン1は省資源化できる。また、作業者は、ピストン120を針棒11から外して、凹部121に潤滑剤を補充できる。故にミシン1は、ピストン120の保守作業を容易化できる。
以上説明にて、変更機構200は本発明の変更手段の一例である。前方向は本発明の脚柱部から離隔する方向の一例である。
本発明は上記実施例に限定しない。送り板21は、揺動軸を中心に左右方向に揺動する代わりに、左右方向に直線移動してもよい。ミシン1は、複数の縫針96を有する多針ミシンでもよい。ミシン1は、布送り装置20を備える代わりに、例えば送り歯を備えてもよい。該場合、ミシン1は、送り歯の往復揺動により移動する布に対して縫製動作を実行する。支持部材110は、上下方向に延びる円筒状である代わりに、上下方向に延びる角筒状でもよい。該場合、ピストン120は、円板部123を備える代わりに、多角形状の板部材を備えればよい。板部材は、平面視で支持部材110の形状に略一致する。
延出部材210は、左壁部27に固定する代わりに、例えば、先端部5の前壁部、右壁部に固定してもよい。該場合、固定部材170は、延出部材210を固定した先端部5の壁部に、固定してもよい。変更機構200は延出部材210を備えなくてもよい。該場合、締結穴216は例えば左壁部27に設けてもよい。変更機構200は、螺子部材230を備える代わりに、ボルトとナットを備えてもよい。該場合、延出部材210は、締結穴216に代えて孔を備える。作業者は、ボルトを、挿通孔226と孔とに挿通し、挿通したボルトにナットを締結する。故に、輸送管保持部材220は、延出部材210に固定する。
図10を参照し、ミシン1の変形例であるミシン201を説明する。尚、ミシン1と同一の構成については、図中で同一の符号を付与し、詳細な説明を省略する。ミシン201は、縫針冷却機構100に代えて縫針冷却機構101を備える。縫針冷却機構101は、固定部材170に代えて、第一連通孔181と第二連通孔182を備える。第一連通孔181は、先端部5の上壁部の前部を上下方向に貫通する。第二連通孔182は、先端部5の左壁部27の前部を左右方向に貫通する。第二連通孔182は第一連通孔181よりも下側に設ける。第一連通孔181と第二連通孔182は、何れも、アーム部4の内部と外部を連通する。輸送管160の延設部163は、第一連通孔181と第二連通孔182に挿通する。即ち、第一連通孔181と第二連通孔182の間にある延設部163は、先端部5の内部に配置する。延設部163が作業者に接触し難いので、ミシン201は安全性を向上できる。延設部163は縫針96の前側に存在し難い。故に、延設部163が、ミシン201の前側から縫針96と布を見る作業者の視界に入り難いので、作業者は、縫針96と布を視認し易い。先端部5の内部にある延設部163は、視認困難である。故に、ミシン201は外観を良好にできる。
ピストン120が針棒11に対して着脱可能となる構成は、ミシン1の説明で示した構成に限定しない。即ち、接続部122(図5参照)は外周面に雄螺子124を形成しなくてもよく、針棒11(図5参照)の上端部13は内周面に雌螺子を形成しなくてもよい。以下、図11を参照し、針棒11の変形例である針棒61と、ピストン120の変形例であるピストン320を説明する。尚、ミシン1と同様の構成については、図中で同一の符号を付与し、詳細な説明を省略する。
針棒61は、上端部13(図5参照)に代えて上端部63を備える。上端部63は、側面に円形状の穴部66を有する。穴部66は、針棒61の上端部63を水平方向に貫通する。ピストン320は、接続部122(図5参照)に代えて接続部322を備える。接続部322は、円板部123の下面中心部から下方に突出する円筒状である。接続部322は、側面に円形状の穴部325を開口する。穴部325は、接続部322を水平方向に貫通する。ピストン320の穴部325は、針棒61の穴部66に対して同軸となる。本変形例では、ピン324が、穴部66、325に挿通することで、ピストン320は針棒61の上端部63に固定する。ピン324を穴部66、325から取り外せば、ピストン320は針棒61から取り外せる。故にピストン320は針棒61に対して着脱可能である。