以下、本発明の第1実施形態を図1〜図10(B)に基づいて説明する。図1には、第1実施形態に係る画像形成装置としてのプロジェクタ10の概略構成が示されている。
プロジェクタ10は、例えば建物の床もしくは設置台に載置された状態、建物の天井から吊り下げられた状態、建物の壁に掛けられた状態等で用いられる。以下では、図1に示されるZ軸方向を鉛直方向とするXYZ3次元直交座標系を適宜用いて説明する。
プロジェクタ10は、一例として、光源装置5、光偏向装置1000、画像処理部40などを備えている。
光源装置5は、一例として、3つのレーザダイオードLD1〜LD3、3つのコリメートレンズCR1〜CR3、3つのダイクロイックミラーDM1〜DM3、LD制御部50などを含む。
レーザダイオードLD1は、一例として、赤色レーザであり、赤色光(波長640nm)を+Y方向に射出するように配置されている。
レーザダイオードLD2は、一例として、青色レーザであり、青色光(波長450nm)を+Y方向に射出するように、レーザダイオードLD1の+X側に配置されている。
レーザダイオードLD3は、一例として、緑色レーザであり、緑色光(波長520nm)を+Y方向に射出するように、レーザダイオードLD2の+X側に配置されている。
各レーザダイオードは、LD制御部50によって制御される。
コリメートレンズCR1は、一例として、レーザダイオードLD1の+Y側に配置されており、レーザダイオードLD1から射出された赤色光を略平行光とする。
コリメートレンズCR2は、一例として、レーザダイオードLD2の+Y側に配置されており、レーザダイオードLD2から射出された青色光を略平行光とする。
コリメートレンズCR3は、一例として、レーザダイオードLD3の+Y側に配置されており、レーザダイオードLD3から射出された緑色光を略平行光とする。
3つのダイクロイックミラーDM1〜DM3は、それぞれ、例えば誘電体多層膜などの薄膜から成り、特定の波長の光を反射し、それ以外の波長の光を透過させる。
ダイクロイックミラーDM1は、一例として、コリメートレンズCR1の+Y側に、X軸及びY軸に対して例えば45°傾斜して配置されており、コリメートレンズCR1を介した赤色光を+X方向に反射させる。
ダイクロイックミラーDM2は、一例として、ダイクロイックミラーDM1の+X側、かつコリメートレンズCR2の+Y側に、X軸及びY軸に対して例えば45°傾斜して配置されており、ダイクロイックミラーDM1を介した赤色光を+X方向に透過させ、コリメートレンズCR2を介した青色光を+X方向に反射させる。
なお、ダイクロイックミラーDM1を介した赤色光及びコリメートレンズCR2を介した青色光は、それぞれダイクロイックミラーDM2の中央付近に入射する。
ダイクロイックミラーDM3は、一例として、ダイクロイックミラーDM2の+X側かつコリメートレンズCR3の+Y側に、X軸及びY軸に対して例えば45°傾斜して配置されており、ダイクロイックミラーDM2を介した赤色光及び青色光を+X方向に透過させ、コリメートレンズCR3を介した緑色光を+X方向に反射させる。
なお、ダイクロイックミラーDM2を介した赤色光及び青色光、並びにコリメートレンズCR3を介した緑色光は、それぞれダイクロイックミラーDM3の中央付近に入射する。
ダイクロイックミラーDM3を介した3つの光(赤色光、青色光及び緑色光)は、1つの光に合成される。この場合、3つのレーザダイオードLD1〜LD3の発光強度の強弱のバランスにより、合成された光の色が表現されるようになっている。
結果として、光源装置5は、3つのレーザダイオードLD1〜LD3からの3つのレーザ光が合成されてなるレーザ光(合成光)を射出する。
ここで、プロジェクタ10の全体動作について簡単に説明する。例えばパソコン(パーソナルコンピュータ)等の上位装置からの画像情報が画像処理部40に印加され、画像処理部40で所定の処理(例えば歪み補正処理、画像サイズ変更処理、解像度変換処理等)が施され、LD制御部50に送られる。LD制御部50は、画像処理部40からの画像情報に基づいて強度変調した駆動信号(パルス信号)を生成し、駆動電流に変換する。そして、LD制御部50は、光偏向装置1000からの同期信号に基づいて、各レーザダイオードの発光タイミングを決定し、該発光タイミングで、駆動電流を供給して、該レーザダイオードを駆動する。光偏向装置1000は、光源装置5からのレーザ光(合成光)を、XZ平面に平行に張設されたスクリーンSの表面(被走査面)に向けて互いに直交する二軸周り(ここでは、X軸周り及びX軸に直交する軸周り)に独立に偏向する。この結果、レーザ光により被走査面が互いに直交する二軸方向(ここでは、Z軸方向及びX軸方向)に2次元走査され、被走査面上に2次元のフルカラー画像が形成される。以下では、X軸方向を主走査方向とも称し、Z軸方向を副走査方向とも称する。なお、各レーザダイオードを直接変調する強度変調に代えて、該レーザダイオードから射出されたレーザ光を光変調器で変調(外部変調)しても良い。
次に、光偏向装置1000について詳細に説明する。光偏向装置1000は、一例として、光偏向器100、コントローラ200、メモリ300などを備えている。
光偏向器100は、図2に示されるように、+Y側に反射面を有するミラー110と、該ミラー110をX軸に直交する第1軸(例えばZ軸)周りに駆動する第1駆動部150と、ミラー110及び第1駆動部150をX軸に平行な第2軸周りに駆動する第2駆動部250とを含む。ミラー110の反射面は、光源装置5からのレーザ光の光路上に位置している。
光偏向器100では、一例として、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)プロセスによって、各構成部が一体的に形成されている。簡単に言うと、光偏向器100は、1枚のシリコン基板に切れ込みを入れて複数の可動部(弾性変形部)を形成し、各可動部に圧電部材を設けることで作成される。ミラー110の反射面は、一例として、シリコン基板1の+Y側の面に形成された例えばアルミニウム、金、銀等の金属薄膜である。
第1駆動部150は、一例として、ミラー110の第1軸方向の両端に個別に一端が連続し、第1軸方向に延びる2つのトーションバー105a、105bと、該2つのトーションバー105a、105bそれぞれの第1軸方向の他端に中間部が連続し、第2軸方向に延びる2つの梁106a、106bと、該2つの梁106a、106bそれぞれの第2軸方向の両端に内縁部が連続する第1矩形枠部107と、2つの梁106a、106bそれぞれの第1軸を挟む一側部及び他側部の+Y側の面に個別に設けられた2つの第1圧電部材15、16と、を有している。
ここでは、ミラー110の中心は、第1矩形枠部107の中心に位置している。2つのトーションバー105a、105bは同径かつ同長である。2つの梁106a、106bは、第2軸方向を長手方向とする矩形板状である。2つの第1圧電部材15、16は、同形かつ同大の第2軸方向を長手方向とする矩形板状である。
第1駆動部150では、2つの梁106a、106bに個別に設けられた2つの第1圧電部材15に電圧(駆動電圧)が並列に印加されると、該2つの第1圧電部材15が変形して、2つの梁106a、106bが撓み、2つのトーションバー105a、105bを介してミラー110に第1軸周りの駆動力が作用し、ミラー110が第1軸周りに揺動する。第1駆動部150は、コントローラ200によって制御される。
また、第1駆動部150では、2つの梁106a、106bに個別に設けられた2つの第1圧電部材16に電圧(駆動電圧)が並列に印加されると、該2つの第1圧電部材16が変形して、2つの梁106a、106bが撓み、2つのトーションバー105a、105bを介してミラー110に第1軸周りの駆動力が作用し、ミラー110が第1軸周りに揺動する。
そこで、コントローラ200によって、第1駆動部150の各梁に設けられた2つの第1圧電部材15、16に逆位相の正弦波電圧を並行して(例えば同時に)印加することで、ミラー110を、第1軸周りに該正弦波電圧の周期で効率良く振動させることができる。
ここでは、正弦波電圧の周波数が約20kHz(各トーションバーの共振周波数)に設定され、各トーションバーのねじれによる機械的共振を利用して、ミラー110を約20kHzで振動させることができる。なお、ミラー110の振動中心からの最大振れ角は、±15°程度とされている。
第2駆動部250は、一例として、第1矩形枠部107の−Z側かつ+X側の角部に一端が連続し、蛇行するように連続する複数(例えば8つ)の梁108aを含む蛇行部210aと、第1矩形枠部107の+Z側かつ−X側の角部に一端が連続し、蛇行するように連続する複数(例えば8つ)の梁108bを含む蛇行部210bと、蛇行部210aの8つの梁108aの+Y側の面に個別に設けられた8つの第2圧電部材と、蛇行部210bの8つの梁108bの+Y側の面に個別に設けられた8つの第2圧電部材と、2つの蛇行部210a、210bそれぞれの他端に内縁部が連続する第2矩形枠部109と、を有している。
ここでは、ミラー110の中心は、第2矩形枠部109の中心に位置している。各蛇行部の8つの梁は、同形かつ同大の第1軸方向を長手方向とする矩形板状である。各第2圧電部材は、同形かつ同大の第1軸方向を長手方向とする矩形板状である。第2圧電部材の第1軸方向(長手方向)の長さは、該第2圧電部材が設けられた梁の第1軸方向の長さよりも幾分短い。
第2駆動部250では、各蛇行部に設けられた8つの第2圧電部材のうち最も+X側の奇数番目(1番目、3番目、5番目、7番目)又は最も−X側の端の第2圧電部材から数えて偶数番目(2番目、4番目、6番目、8番目)の4つの第2圧電部材11に電圧が並列に印加されると、該4つの第2圧電部材11及び該4つの第2圧電部材が設けられた4つの梁が第2軸周りの同一方向に撓み、ミラー110が第2軸周りに揺動する。
また、第2駆動部250では、各蛇行部の8つの第2圧電部材のうち最も+X側の偶数番目(2番目、4番目、6番目、8番目)又は最も−X側の端の第2圧電部材から数えて奇数番目(1番目、3番目、5番目、7番目)の4つの第2圧電部材12に電圧が並列に印加されると、該4つの第2圧電部材12及び該4つの第2圧電部材12が設けられた4つの梁が第2軸周りの同一方向に撓み、ミラー110が第2軸周りに揺動する。なお、図2では、可動部中心に対して点対称に2つの蛇行部210a、210bが接続されているため、+X側の蛇行部210aの偶数番目の第2圧電部材と−X側の蛇行部210bの奇数番目の第2圧電部材に同じ電圧をかけ、かつ+X側の蛇行部210aの奇数番目の第2圧電部材と−X側の蛇行部210bの偶数番目の第2圧電部材に同じ電圧をかけているが、屈曲変形が累積することができる構成であれば、これに限られない。
第2駆動部250では、各蛇行部に設けられた8つの第2圧電部材のうち最も+X側又は最も−X側の端の第2圧電部材から数えて奇数番目(1番目、3番目、5番目、7番目)の4つの第2圧電部材11に電圧が並列に印加されると、該4つの第2圧電部材11及び該4つの第2圧電部材が設けられた4つの梁が第2軸周りの同一方向に撓み、ミラー110が第2軸周りに揺動する。
また、第2駆動部250では、各蛇行部の8つの第2圧電部材のうち最も+X側又は最も−X側の端の第2圧電部材から数えて偶数番目(2番目、4番目、6番目、8番目)の4つの第2圧電部材12に電圧が並列に印加されると、該4つの第2圧電部材12及び該4つの第2圧電部材12が設けられた4つの梁が第2軸周りの同一方向に撓み、ミラー110が第2軸周りに揺動する。
以下では、便宜上、各蛇行部に設けられた奇数番目の4つの第2圧電部材11を併せて圧電部材群P1と称し、該蛇行部に設けられた偶数番目の4つの第2圧電部材12を併せて圧電部材群P2と称する。
そこで、各蛇行部に設けられた2つの圧電部材群P1、P2に鋸波状電圧及び逆鋸波状電圧を並行して(例えば同時に)個別に印加することで、該蛇行部の隣り合う2つの梁を第2軸周りの反対方向に撓ませて各梁の撓み量を累積させることで、ミラー110を、第2軸周りに該鋸波状電圧の周期で効率良く(低電圧で大きい振れ角で)振動させることができる(図4参照)。
ここで、「鋸波状電圧」とは、時間の経過につれ、徐々に高くなり、ピークに達すると、急激に低くなる電圧を意味する(図3上図参照)。「逆鋸波状電圧」とは、時間の経過につれ、急激に高くなり、ピークに達すると、徐々に低くなる電圧を意味する(図3下図参照)。
結果として、第1駆動部150及び第2駆動部250を含んで、ミラー110を第1軸及び第2軸周りに独立に駆動する駆動手段を含む支持部が構成されている。すなわち、ミラー110は、該支持部によって支持されている。
第1駆動部150及び第2駆動部250の各圧電部材は、一例として、圧電材料としてのPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)からなる。圧電部材は、分極方向に電圧が印加されると印加電圧の電位に比例した歪み(伸縮)が生じる、いわゆる逆圧電効果を発揮する。また、圧電部材は、力を加えると、該力に応じた電圧を分極方向に発生させる、いわゆる圧電効果を発揮する。
なお、ここでは、圧電部材がシリコン基板1の一面(例えば+Y側の面)のみに設けられた場合を一例として説明したが、配線のレイアウトや圧電部材の作成上の自由度を向上させるため、シリコン基板1の他面(例えば−Y側の面)にのみ設けても良いし、シリコン基板1の一面及び他面(例えば+Y側及び−Y側の面)の双方に設けても良い。いずれにしても、これらの圧電部材や電極の形成はほぼ半導体プロセスに準じるものであり、大量生産によりコストダウンを図ることができる。
ここで、第1軸周りに振動するミラー110に光が入射されると、反射光が第1軸周りにスキャン(偏向走査)される。また、第2軸周りに振動するミラー110に光が入射されると、反射光が第2軸周りにスキャン(偏向走査)される。そこで、被走査面に形成される画像の高精細化、面内均一化を図るために、ミラー110に入射される光を第1軸周りに直線的にスキャンし、その走査線を第2軸周りにスキャンすること、すなわちラスタスキャンを行うことができる。
具体的には、第1駆動部150では各トーションバーの機械的共振を利用してできるだけ少ないエネルギーでミラー110を高周波数で振動させ、第2駆動部250では非共振でミラー110を低周波数(例えば数十Hz)で振動させることでラスタスキャンを行うことができる。
しかしながら、この場合、各第2圧電部材の変位量は、各第1圧電部材の変位量よりも小さい。
そこで、上述の如く、第2駆動部250の各蛇行部の8つの梁に個別に設けられた8つの第2圧電部材を並列に動作させることで、変位量を稼ぐことができる。
第1実施形態では、ラスタスキャンを行うために、各蛇行部に設けられた圧電部材群P1、P2に印加する駆動電圧として互いに相似(相似比は1)の鋸波状電圧(波形a)及び逆鋸波状電圧(波形b)を用いる(図3参照)。
この場合、ミラー110の第2軸周りの揺動速度、すなわちミラー110の第2軸周りの振れ角(偏向角)の時間変化は、図4に示されるように直線的であることが望ましい。つまり、ミラー110の第2軸周りの揺動速度に変動が生じないこと、すなわちミラー110の第2軸周りの駆動は線形駆動であることが望ましい。ミラー110の第2軸周りの揺動速度に変動が生じると、直線的な光走査が妨げられ、被走査面に形成される画像に輝度ムラ、歪みなどが発生し、画質の劣化を招くからである。
しかしながら、第2駆動部250によるミラー110の第2軸周りの偏向動作においては、ミラー110及び第1駆動部150を含む系の重さや第2駆動部250の各蛇行部の梁の剛性などにより決まる固有の機械的共振の振動成分が発生し、ミラー110に伝わる。すなわち、ミラー110、第1駆動部150及び第2駆動部250を含む系は、固有の機械的共振の共振モード(共振周波数)を有する(図5参照)。図5から分かるように、この共振モード(以下では、デバイスの共振モードとも称する。)には、メインとなる0次の共振モード(共振周波数f0)に加えて、例えば1次の共振モード(共振周波数f1)等の高次(1次以上)の共振モード(共振周波数fk、k≧1)が存在する。
ここで、直線的なラスタ走査が必要となる第2軸周りの駆動において、0次の共振周波数f0の振動成分が乗ると、ミラー110の振れ角の時間変化に大きなうねりが生じてしまう(図6参照)。すなわち、ミラー110の第2軸周りの揺動速度に大きな変動が生じてしまう。
そこで、第1実施形態では、各蛇行部に設けられた2つの圧電部材群P1、P2に個別に印加される互いに相似(相似比1)の鋸波状電圧及び逆鋸波状電圧の位相をpだけずらすこととしている(図7参照)。
すなわち、第1実施形態では、各蛇行部に設けられた圧電部材群P1の4つの第2圧電部材の変形により励起される機械的共振の振動成分と該蛇行部に設けられた圧電部材群P2の4つの第2圧電部材の変形により励起される機械的共振の振動成分とが互いに打ち消しあうような、位相がpだけずれた互いに相似の鋸波状電圧及び逆鋸波状電圧を圧電部材群P1及び圧電部材群P2に並行して(例えば同時に)個別に印加する。この結果、各蛇行部における機械的共振の振動成分を大幅に低減させることが可能になる。
このようにして、第2駆動部250によるミラー110の第2軸周りの駆動によるZ軸方向(副走査方向)の光走査に対して、2つの圧電部材群P1、P2に印加する電圧の位相を異ならせることにより、ミラー110の揺動速度(ミラー110の振れ角の時間変化)の大きな変動を抑制することが可能となる。すなわち、ミラー110の第2軸周りの揺動速度の線形性をある程度向上させることが可能となる。
しかしながら、光偏向器100では、高次(1次以上)の共振モード(n次の共振周波数)が、圧電部材群P1及び圧電部材群P2に個別に印加される鋸波状電圧及び逆鋸波状電圧の高調波成分の周波数と重なる場合、この周波数での振動が光走査に乗り、ミラー110の振れ角の時間変化に小さな多数のうねりが生じてしまう。すなわち、ミラー110の第2軸周りの揺動速度に小刻みな変動が生じてしまう。この結果、高周波での速度ムラが生じ、画質の低下、具体的には細かい明るさムラとなって現れてしまう。
そこで、第1実施形態では、圧電部材群P1及び圧電部材群P2の駆動電圧(駆動信号)である鋸波状電圧及び逆鋸波状電圧のシンメトリを調整する。ここで、図9に示されるように、鋸波状電圧(波形a)のシンメトリは、該鋸波状電圧の1周期(Ta)に対する、最小値から最大値になるまでの時間Ta1(光走査のための時間)の割合(比率)を意味する。逆鋸波状電圧のシンメトリは、該逆鋸波状電圧の1周期(Tb)に対する、最大値から最小値になるまでの時間Tb1(光走査のための時間)の割合(比率)を意味する。
鋸波状電圧及び逆鋸波状電圧のシンメトリを変化させることで、鋸波状電圧及び逆鋸波状電圧の高調波成分の周波数特性を変化させることができる。具体的には、各電圧のシンメトリを調整することにより、共振周波数f1にある高次の共振モードと該電圧の高調波成分の重なりを低減させ、高周波での振動成分を大幅に低減することが可能となる。
このようにして、非共振での駆動を行う副走査方向の光走査において、鋸波状電圧及び逆鋸波状電圧のシンメトリを調整することで、より均一な駆動(線形駆動)が可能になる。この結果、副走査方向に関して、画像に発生しやすい明るさムラや画像パターン歪みをなくすことができる。
結果として、第1実施形態では、鋸波状電圧と逆鋸波状電圧の位相差を調整するとともに各電圧のシンメトリを調整することで、被走査面に形成される画像に輝度ムラ、歪みなどが発生するのを抑制し、画質の劣化を抑制することができる。すなわち、被走査面に高品質な画像を形成することができる。
ここで、鋸波状電圧及び逆鋸波状電圧のシンメトリを調整することで、垂直方向(副走査方向)の走査均一性(ミラー110の第2軸周りの揺動速度の均一性)を向上できる理由を詳細に説明する。以下の説明では、鋸波状電圧及び逆鋸波状電圧を、便宜上、「鋸波状波形」とも呼ぶ。
通常、シリコンなどを用いた光偏向デバイス(光偏向器)では、低次(0次)及び高次(1次以上)の共振モードを含む複数の共振モードが存在する。具体的には、図5に示されるように、メインとなる共振周波数f0の0次の共振モード、共振周波数f1の1次の共振モードが存在する。
図3に示される鋸波状電圧(波形a)及び逆鋸波状電圧(波形b)による駆動ではf0の共振モードが大きく出るため、図6に示されるような、波うち形状の光走査になる。そこで、波形a、波形bの位相差を調整することによって、f0の共振モードによる波うちを抑えることができる。
しかしながら、この場合であっても、図8に示すような細かい振動が発生することになる。この細かい振動は、高次(1次以上)の共振モードに起因しており、共振周波数f1での光偏向デバイスの振動となっている。この細かい振動は、画像上に細かいスジ(明るさムラ)となって現れてしまう。
この細かい振動は、鋸波状波形の高調波成分と光偏向デバイスの高次共振モードとが重なることにより発生する。図10(A)に示されるように、シンメトリαのときは、鋸波状波形の高調波成分と光偏向デバイスの高次共振モードとが重なっている。この場合、共振周波数f1での振動が発生し、副走査駆動時に図8に示されるような振動が発生することになる。ここで、鋸波状波形の周波数(駆動周波数)を固定したまま、鋸波状波形のシンメトリをαからβに変化させると、鋸波状波形の高調波成分のパターンが変化する。この鋸波状波形のシンメトリの調整により、図10(B)に示されるように、光偏向デバイスの高次共振モードの周波数領域で鋸波状波形の高調波成分が発生しないようにすることができる。このように、鋸波状波形のシンメトリを僅かに変化させることで、光偏向デバイスの副走査方向の共振モードの励起を抑えることができる。その結果、図4に示されるような、副走査方向において、振動などのない、均一な光走査が可能になる。
コントローラ200は、ミラー110の振れ角(偏向角)を検知する不図示のセンサからの検知結果に基づいて、ミラー110の振れ角と各レーザダイオードの発光タイミングとの同期をとるための同期信号を生成し、LD制御部50に出力する。また、コントローラ200は、以下に説明するように、光偏向器100の第2駆動部250を制御する。
すなわち、コントローラ200は、各蛇行部に設けられた圧電部材群P1の各圧電部材に波形aの駆動電圧(鋸波状電圧)を印加するとともに、該蛇行部に設けられた圧電部材群P2の各圧電部材に波形bの駆動電圧(逆鋸波状電圧)を印加する。ここでは、波形a、bの周波数は、約60Hzとされている。但し、各蛇行部における機械的共振の共振周波数(基本共振モード(0次の共振モード)、高次共振モード)との関係により、周波数を数Hz程度シフトさせても良い。
このように、各蛇行部に設けられた2つの圧電部材群P1、P2にそれぞれ波形a、波形bの駆動電圧が並行して印加されることにより、各蛇行部の8つの梁が撓み、ミラー110が第2軸周りに振動する。このようにして、ミラー110の第2軸周りの駆動によるZ軸方向(副走査方向)の光走査が行われる。
以下に、各蛇行部に設けられた圧電部材群P1、P2に印加される駆動電圧の調整方法(光偏向装置1000の調整方法)の一例を説明する。この調整は、例えば、プロジェクタ10の製造時、出荷時、メンテナンス時などに人(例えば作業者)によって行われる。
先ず、2つの圧電部材群P1、P2に、図9に示されるような同一周期かつ同一シンメトリかつ同一振幅、すなわち相似(相似比1)の波形aの鋸波状電圧、波形bの逆鋸波状電圧を並行して個別に印加して第2駆動部250を動作させ、ミラー110を第2軸周りに振動させる。そして、第2軸周りに振動するミラー110に対してレーザ光を照射すると、該レーザ光は第2軸周りに偏向される。そこで、波形a、bの位相を相対的にずらしながら、例えばポジションセンサダイオード(PSD)を用いて副走査方向の走査速度をモニタし、該走査速度(ミラー110の第2軸周りの揺動速度)の均一性が高くなる位相ずれ量(位相差)を求める。この位相差の調整により、副走査方向に関する低次共振(0次共振)を抑制でき、ミラー110の揺動速度の大きな変動を抑えることが可能になる。
なお、波形aのシンメトリSaは、該鋸波状電圧の1周期Taに対する立ち上がり時間Ta1(光走査のための時間)の比率Ta1/Taである。Ta2=Ta−Ta1は、元に戻すための時間である。
波形bのシンメトリSbは、該逆鋸波状電圧の1周期Tbに対する立ち下り時間Tb1(光走査のための時間)の比率Tb1/Tbを意味する。Tb2=Tb−Tb1は、元に戻すための時間である。
そして、求められた位相ずれ量pを、メモリ300に保存する。なお、波形a、波形bの周期、振幅(最大値)及びシンメトリは、予めミラー110の第2軸周りの振れ角が概ね適切になる値に設定されている。
次に、波形aと波形bの位相差をpに保ち、かつシンメトリSaとシンメトリSbを一致させ(Sa=Sbを保ち)、かつ振幅を固定した状態でシンメトリを変化させ(図9参照)、走査速度(ミラー110の第2軸周りの揺動速度)が均一になるように(ミラー110の第2軸周りの揺動速度の変動を考慮して)、シンメトリの調整を行う。このとき、走査速度の均一性が最も高くなるときのシンメトリを最適シンメトリSkとして、位相ずれ量pと同様にメモリ300に保存する。このシンメトリの調整により、副走査方向に関する高次共振を抑制でき、ミラー110の揺動速度の小刻みな変動を抑えることが可能になる。
コントローラ200は、被走査面に画像を形成する際のミラー110の駆動時に、メモリ300から位相ずれ量p及び最適シンメトリSkを読み出し、該位相ずれ量p及び最適シンメトリSkを満たす2つの駆動電圧を各蛇行部に設けられた圧電部材群P1、P2に並行して個別に印加し、ミラー110を第2軸周りに駆動する。
詳述すると、メモリ300には、各蛇行部の2つの圧電部材群P1、P2の一方に印加される電圧の波形(周期及び振幅)、最適シンメトリSk及び位相ずれ量pが格納されている。コントローラ200は、これらに基づいて2つの圧電部材群P1、P2の他方に印加される電圧の波形を求める。
以上の説明から分かるように、調整後の波形a、bは、位相差がp、シンメトリが最適シンメトリSkである互いに相似(相似比1)の鋸波状波形となることが分かる。
なお、波形a、bのシンメトリは、最適シンメトリSkに調整されることが理想的ではあるが、最適シンメトリSkから幾分ずれたシンメトリに調整されても良い。
また、副走査駆動用の鋸波状波形のシンメトリは、画像表示領域の利用効率の観点から、0.8以上に設定されることが望ましい。この範囲で駆動電圧の波形のシンメトリを変化させ、デバイスの高次共振モードと重ならないような高調波パターンに調整を行う。これと同時に鋸波状波形の周波数を調整することも、鋸波状波形の高調波パターンを変化させることができ、デバイスの共振モードを重ならないようにすることができるため、有効である。
なお、第1実施形態では、駆動電圧の波形として鋸波状波形を用いているが、これに限らず、鋸波状波形の頂点を丸くした波形、鋸波状波形の直線領域を曲線とした波形など、光偏向器のデバイス特性に応じて波形を変えることも可能である。
さらに、光偏向器100の製造プロセスにおいて加工誤差や圧電部材の位置ずれが生じる場合にも、鋸波状波形のシンメトリ調整により、その加工誤差や位置ずれを補償することができる。この結果、副走査方向の走査の均一性、及び光偏向器100の製造歩留まりを向上させることができる。
以上説明した第1実施形態の光偏向装置1000は、光走査用の光偏向装置であって、反射面を有するミラー110と、前記ミラー110をX軸(第2軸)及び該X軸に直交する軸(第1軸)周りに揺動可能に支持する、複数の梁が蛇行するように連続する蛇行部を含む支持部と、複数の梁に個別に設けられた複数の圧電部材と、を備え、隣り合う2つの梁に個別に設けられた2つの圧電部材に異なる周期波形(波形a、b)の2つの電圧が並行して個別に印加され、2つの電圧それぞれの1周期に対する光走査のための時間の比率(シンメトリ)は、ミラー110のX軸周りの揺動速度の変動を考慮して設定されている。
この場合、ミラー110のX軸周りの揺動速度の均一性を高めることができる。
また、2つの電圧それぞれの前記比率(シンメトリ)は、該電圧の高調波成分と、デバイスの(ミラー110及び蛇行部を含む系の)高次の共振モードとが重ならないように設定されているため、ミラー110のX軸周りの揺動速度の小刻みな変動を抑制できる。
また、2つの電圧のシンメトリは、一致しているため、ミラー110をX軸周りにバランス良く揺動させることができる。
また、2つの電圧は、振幅及び周期が一致し、前記2つの電圧の一方の前記比率は、1周期に対する立ち上がり時間の比率であり、前記2つの電圧の他方の前記比率は、1周期に対する立ち下がり時間の比率である。
この場合、ミラー110をX軸周りに更にバランス良く揺動させることができる。
また、2つの電圧の一方は鋸波状電圧であり、他方は逆鋸波状電圧であるため、ミラー110のX軸周りの振れ角(偏向角)を直線的に変化させることができる。
また、2つの電圧それぞれの前記比率(シンメトリ)が0.8以上である場合、画像表示領域の利用効率を向上できる。
また、2つの電圧の位相差は、デバイスの(ミラー110及び蛇行部を含む系の)0次の共振モードが抑制されるように設定されているため、ミラー110のX軸周りの揺動速度の大きな変動を抑制できる。
また、支持部は、ミラー110をX軸に直交する軸周りに揺動可能に支持し、蛇行部にX軸周りに揺動可能に支持される第1駆動部150を含む。
この場合、ミラー110を、第1駆動部150によってX軸に直交する軸周りに振動させ、かつ第2駆動部250によってX軸周りに振動させることができる。そこで、第1駆動部150及び第2駆動部250によるミラー110の偏向動作を用いて光により被走査面を2次元走査することができる。この場合、例えばミラーを一軸周りにのみ揺動可能な光偏向器を2つ組み合わせる場合よりも、小型化、低コスト化が可能になる。
また、プロジェクタ10は、3つのレーザダイオードLD1〜LD3を含み、画像情報に基づいて変調されたレーザ光を射出する光源装置5と、該光源装置5からの光を被走査面に向けて偏向する光偏向装置1000と、を備えている。この場合、画像情報に基づいて変調された光により被走査面を安定して走査することができ、被走査面に高品質な画像を形成することができる。すなわち、ミラー110の第2軸周りの揺動速度の均一性が得られることにより、輝度ムラや歪みの発生が抑えられた高品質な画像を形成することができる。
また、第1実施形態の光偏向装置1000の調整方法は、反射面を有するミラー110と、該ミラー110をX軸及び該X軸に直交する軸周りに揺動可能に支持する、複数の梁が蛇行するように連続する蛇行部を含む支持部と、複数の梁に個別に設けられた複数の圧電部材と、隣り合う2つの梁に個別に設けられた2つの圧電部材に2つの異なる周期波形の電圧が並行して個別に印加される、光走査用の光偏向装置の調整方法であり、2つの電圧それぞれの1周期に対する光走査のための時間の比率(シンメトリ)を、ミラー110のX軸周りの揺動速度の変動を考慮して設定する工程を含む。
この場合、ミラー110のX軸周りの揺動速度の均一性を高めることができるように光偏向装置1000を調整することができる。
また、前記設定する工程では、2つの電圧それぞれの比率(シンメトリ)を、該電圧の高調波成分と、ミラー110及び蛇行部を含む系の高次の共振モードとが重ならないように設定する。
この場合、ミラー110のX軸周りの揺動速度の小刻みな変動が抑制されるように光偏向装置1000を調整することができる。
また、2つの電圧の位相差を、ミラー110及び蛇行部を含む系の0次の共振モードが抑制されるように設定する工程を更に含む。
この場合、ミラー110のX軸周りの揺動速度の大きな変動が抑制されるように光偏向装置1000を調整することができる。
ところで、特開2011−107505号公報に開示されている2次元スキャナ駆動装置では、以下のような方法によりラスタスキャンにおける走査速度の均一性を確保している。
すなわち、通常、光による2次元走査を行う場合、副走査方向の非共振駆動の高調波と走査駆動手段の副走査方向の構造による共振周波数が干渉して、副走査方向に波打ち現象が生じ、副走査方向の走査速度が不均一になる。そのため、光走査の速度を検出する速度検出手段を設け、速度検出信号を生成する。その速度検出信号に基づいて走査駆動手段へのフィードバックを行い、副走査方向の走査速度の不均一性を低減させている。
しかしながら、この2次元スキャナ駆動装置では、光走査の速度信号を検出するための追加のセンサ機構が必要となり、装置の構成が煩雑となり、装置の大型化を招く。また、2次元走査を行っているため、主走査方向と副走査方向の信号の混入が避けられず、信号の混入を回避するための処理に負担がかかり、また完全に除去することは難しい。さらに、これらの条件の最適化には精密な調整技術が必要であり、コストアップを招く。
第1実施形態の光偏向装置1000では、追加のセンサ機構、複雑な信号処理が必要なく、非共振駆動による副走査方向の走査速度の均一性を確保し、輝度ムラ、歪みのない高品質な画像を形成することができる。すなわち、簡易な構成及び制御で、かつ低コストで、副走査方向の走査速度の均一化を図ることができる。
なお、上記第1実施形態では、RGBの3原色に対応する3つのレーザダイオードからの3つのレーザ光の合成光を光偏向装置1000で偏向して被走査面を2次元走査することによりカラー画像を形成するプロジェクタについて説明したが、これに限らず、例えば、1つのレーザダイオードからの1つレーザ光を光偏向装置1000で偏向して被走査面を2次元走査することによりモノクロ画像を形成するプロジェクタを提供しても良い。
また、第1駆動部150及び第2駆動部250を含む駆動手段を有する支持部の構成は、上記第1実施形態で説明したものに限らず、適宜変更可能である。例えば上記第1実施形態の駆動手段は、ミラーを互いに直交する二軸(第1軸及び第2軸)周りに独立に駆動しているが、例えばミラー110を一軸周りにのみ駆動しても良い。具体的には、図11に示されるように、非共振駆動による1次元光走査用の光偏向器にも適用可能である。図11における駆動部は、第2駆動部250と同様の構成を有している。この場合、光偏向器を2つ組み合わせて、2つのミラーを互いに直交する二軸周りにそれぞれ駆動するようにしても良い。なお、図11における駆動部は、第1駆動部と同様の構成を有していても良い。
また、上記第1実施形態では、画像形成装置としてのプロジェクタ10に光偏向装置1000が配備されているが、これに限らず、例えば図12に示される画像表示装置としてのヘッドアップディスプレイ7に光偏向装置1000が配備されても良い。ヘッドアップディスプレイ7は、例えば車両、航空機、船舶等の移動体に搭載され、光により画像を形成し、該画像を形成した光を透過反射部材に導くことで、該透過反射部材を介して該画像の虚像を視認可能にする。そこで、ヘッドアップディスプレイ7と、該ヘッドアップディスプレイ7が搭載される移動体と、を備える移動体装置を提供することができる。「透過反射部材」は、光の一部を透過させ、残部の少なくとも一部を反射させる部材を意味する。
詳述すると、ヘッドアップディスプレイ7は、一例として図12に示されるように、光偏向装置1000で偏向されたレーザ光の光路上に配置されたXZ平面に沿って2次元配列された複数のマイクロレンズ60aを含むマイクロレンズアレイ60と、該マイクロレンズアレイ60を介したレーザ光の光路上に配置された透過反射部材としての半透明部材70(例えばコンバイナ)と、を備えている。この場合、光偏向装置1000による第1軸及び第2軸周りのレーザ光の偏向動作に伴い該レーザ光によりマイクロレンズアレイ60の表面(被走査面)が2次元走査され、該表面に画像が形成される。そして、マイクロレンズアレイ60を介した画像光が半透明部材70に入射し、該画像光の拡大された虚像が形成される。すなわち、観察者は、半透明部材70を介して画像光の拡大された虚像を視認することができる。この場合、マイクロレンズアレイ60により画像光が拡散されるため、所謂スペックルノイズの低減が期待できる。
なお、マイクロレンズアレイ60に代えて、光の少なくとも一部を透過又は反射させる部材(例えば透過スクリーン、反射スクリーン、拡散板等)を用いても良い。また、これらの部材と半透明部材70との間の光路上に例えば凹面鏡、平面鏡等のミラーを設けても良い。また、半透明部材70を例えば車両の窓ガラスで代用しても良い。
また、光偏向装置1000を、画像表示装置としてのヘッドマウントディスプレイに配備しても良い。
また、上記第1実施形態では、画像形成装置の一例として、プロジェクタ10を採用しているが、これに限らず、例えば、プリンタ、複写機等を採用しても良い。具体的には、例えば、図11に示される1次元走査用の光偏向器で偏向されたレーザ光により像担持体としての感光体ドラムの表面を走査して静電潜像を形成し、該静電潜像にトナーを付着させて現像し、得られたトナー画像を媒体に転写し、画像を形成しても良い。
また、上記第1実施形態では、波形aと波形bの位相差は、0以外にされているが、0にされても良い。
また、上記第1実施形態では、波形aと波形bの周期は、等しくされているが、異なっていても良い。
また、上記第1実施形態では、波形aと波形bの振幅は、等しくされているが、異なっていても良い。
また、上記第1実施形態では、波形aと波形bのシンメトリは、等しくされているが、異なっていても良い。
また、上記第1実施形態では、圧電部材に印加される駆動電圧の波形は、鋸波状波形とされているが、これに限らず、要は、周期的な波形であることが好ましい。特に、隣り合う2つの第2圧電部材に印加される駆動電圧の波形は、ミラー110の第2軸周りの揺動速度の変動が抑制されるように設定されていることが好ましい。
また、上記第1実施形態における光偏向器100の各構成部の配置、大きさ、形状、数、材質等は、適宜変更可能である。例えば、第1駆動部150において、トーションバーの一端にミラー110が連続し、該トーションバーの他端に梁が連続しているが、要は、トーションバーの一部にミラーが連続し、該トーションバーの他の一部に梁が連続していれば良い。
また、上記第1実施形態における光源装置5の構成は、適宜変更可能である。例えば、光源装置5は、光の3原色に対応する3つのレーザダイオードを有しているが、1つ又は4つ以上のレーザダイオードを有していても良い。この場合、レーザダイオードの数に応じて、コリメートレンズ、ダイクロイックミラーの数(0を含む)を変更しても良い。
また、上記第1実施形態では、光源として、レーザダイオード(端面発光レーザ)を用いているが、これに限られない。例えば、面発光レーザを用いても良いし、レーザ以外の光源を用いても良い。
以下に、上記第1実施形態を本発明の一形態として発案した思考プロセスを説明する。
近年、光ビームを偏向、走査する手段として、半導体製造技術を応用したシリコンやガラスを微細加工するマイクロマシニング技術により、基板上に反射面を設けた可動部や弾性梁部を一体形成した小型の光偏向器が開発されている。このような光偏向器の構成として、薄膜化した圧電材料からなる薄膜圧電体をアクチュエータとして使用したタイプのものがある。
この圧電アクチュエータを使用した光偏向器では、薄膜圧電体をカンチレバー(片持ち梁)の表面に重ねあわせて形成する。この構成においては、圧電体の圧電特性から生じる面内方向の伸縮がカンチレバーに伝わり、カンチレバーを振動させることができる。この振動によって、反射面が回動し、光偏向を可能にする。
このような光偏向器において、反射面を有するミラーが互いに直交する第1軸(例えば水平方向)と第2軸(例えば垂直方向)の2軸周りに揺動し、2次元の光走査が可能な光偏向器を用いることで、1次元走査の光偏向器を2つ組み合わせた構成とすることより、小型化、低コスト化が可能になる。
2次元走査を行う場合の構成は、水平方向の光走査に関しては、機械的な共振周波数を使用する共振駆動が使われる。それに対し、垂直方向への光走査に関しては、多くの場合非共振駆動が使われることが通例である。
2次元走査に際して、機械的共振を使った水平方向の駆動に関しては、まずカンチレバーの一端が枠部に固定されて支持され、圧電駆動によりカンチレバーの他端を振動させる。このカンチレバーの振動によって発生するトルクをカンチレバーの他端に一端が連続するトーションバー(弾性梁)に伝え、該トーションバーの他端に連続するミラーを回転駆動させる。これにより、小型、低電圧駆動で、大きな走査角が得られることになる。
一方、表示画像の高精細化、面内均一化を達成するためにはラスタ走査が必要となるため、垂直方向の光走査には非共振駆動を用いる。通常ラスタ走査させるためには、駆動信号としての鋸波状波形を使い光走査を行う。
ところが、このような垂直方向のラスタ走査させるための駆動においては、可動部の重さとカンチレバーの剛性などにより決まる機械的共振と、駆動信号(駆動電圧)として使用している鋸波状波形の高調波成分とが干渉することがある。この振動成分の干渉は、輝度ムラ、画像歪みなどとなり表示画像の画質を劣化させるため、印加する駆動信号の振幅や位相を調整して共振による振動を抑制していた。
しかし、2次元走査が可能になる光偏向デバイスの構成から、デバイス固有の機械的共振周波数は1つではなく、複数となる。鋸波状波形の位相などを調整することによってメインとなる共振(0次共振)に対する機械的共振は抑制できても、さらに高周波領域に有する機械的共振を抑制できなくなるという問題が発生する。
これは画像上、より細かい輝度ムラ、画像歪みとなって現れ、画像品質の低下を招いてしまう。
そこで、発明者らは、画像品質の低下を防止すべく、上記第1実施形態を発案した。
ところで、上記第1実施形態においては、隣り合う2つの圧電部材に印加される2つの鋸波状波形の駆動電圧の位相差の調整により最低次の共振モードの励起や増幅を抑制しているが、該位相差が最適位相差からずれて最低次の共振モードが駆動電圧の高調波成分と重なったときに大きな高周波振動が発生し、走査線の直性線が大きく低下することが確認された。
そこで、発明者らは、この問題に対処するため、鋭意検討の末、第2実施形態を発案した。
以下に、第2実施形態を、図13〜図26(B)を参照して説明する。
第2実施形態の光偏向器500も、上記第1実施形態やその変形例と同様に、画像表示装置(例えばヘッドアップディスプレイ、ヘッドマウントディスプレイ等)や画像形成装置(例えばプロジェクタ、プリンタ、複写機等)における光走査に用いられる。
図13には、第2実施形態の光偏向器500が平面図にて示されている。光偏向器500は、図13から分かるように、各蛇行部の梁部(梁)の数が異なる点を除いて、上記第1実施形態の光偏向器100と略同様の構成を有している。以下では、光偏向器を「デバイス」とも呼ぶ。
すなわち、光偏向器500は、反射面を有するミラーを含む可動部と、該可動部をX軸周りに揺動可能に支持する、一対の蛇行部と外側支持枠とを含む支持部と、を備えている。可動部では、ミラーがトーションバー、カンチレバーを介して内側支持枠にY軸周りに揺動可能に支持されている。
光偏向器500では、各蛇行部は、一例として、6つの梁部を有しており、隣り合う2つの梁部を梁部A、梁部Bと呼ぶ。そして、梁部A、梁部Bにそれぞれ設けられた圧電部材を第A圧電部材、第B圧電部材と呼ぶ。また、各梁部A及び該梁部Aに設けられた第A圧電部材から成るアクチュエータをAchとも呼び。各梁部B及び該梁部Bに設けられた第B圧電部材から成るアクチュエータをBchとも呼ぶ。
ここでも、第A及び第B圧電部材に異なる2つの電圧を並行して(例えば同時に)個別に印加して、隣り合う2つの梁部A、梁部Bの撓みを累積させることで、ミラーを含む可動部をX軸周りに大きな角度で揺動させることができる。すなわち、第A及び第B圧電部材に並行して個別に印加(入力)される電圧信号である第A及び第B駆動信号の信号波形を異ならせることで可動部をX軸周りに揺動させて光走査(例えば副走査方向の光走査)を行うことが可能となる。
図14には、反射ミラーを鋸波状波形で動作させるために印加する、一般的な、第A駆動信号、第B駆動信号が示されている。第A駆動信号は、周波数fAの鋸波状信号であり、繰返し周期TA(=1/fA)は、印加電圧が極小値から極大値に一様に増加する立上がり期間(TrA)と、逆に印加電圧が極大値から極小値まで一様に減少する立下がり期間(TfA)とに分けられる。一方で、第B駆動信号は、周波数fBの鋸波状信号であり、繰返し周期TB(=1/fB)は印加電圧が極大値から極小値まで一様に減少する立下がり期間(TfB)と印加電圧が極小値から極大値に一様に増加する立上がり期間(TrB)とに分けられる。光偏向器500による光走査によって画像を描画する場合には、TrA及びTfBの期間が画像描画時間帯となる。
一般に第A駆動信号と第B駆動信号の繰返し周波数は等しく、以後の説明においても、駆動周波数fs(駆動信号の繰返し周波数)について、fs=fA=fBであることを前提とする。また、以後の説明において、「印加電圧幅」とは、電圧極大値と電圧極小値の差(振幅の2倍)のことを指すものとする。また、以後の説明において、「共振周波数」は、特に断りがない限り、「最低次の共振周波数」を意味する。
また、図15に示されるように、第A駆動信号がその立ち上り期間において印加電圧幅の0.5倍となる時間(以下では「立ち上り中点」とも呼ぶ)と、第B駆動信号がその立ち下り期間において印加電圧幅の0.5倍となる時間(以下では「立ち下り中点」とも呼ぶ)が一致した状態を基準状態と定義し、該基準状態では第A駆動信号と第B駆動信号との間の位相差が0°であるものとする。第A駆動信号と第B駆動信号との間に位相差が付与された場合は、第A駆動信号の立ち上り中点と第B駆動信号の立ち下り中点との間に時間的なずれが生じる。
ここで、以後の説明のために以下のパラメータをシンメトリとして定義する。
シンメトリA=TrA/TA
シンメトリB=TfB/TB
例えば、第A駆動信号の立ち上がり時間と立ち下り時間の比が9:1のときにはシンメトリA=90%である。仮にシンメトリA=シンメトリBである場合、基準状態、すなわち第A駆動信号の立ち上がり中点と第B駆動信号の立ち下がり中点が一致する状態では、第A駆動信号の立ち上がり開始時間と第B駆動信号の立ち下り開始時間が同じタイミングとなる(図14参照)。一方で、シンメトリAとシンメトリBとを互いに異なる値に設定した場合、基準状態では、第A駆動信号の立ち上がり開始時間と第B駆動信号の立ち下り開始時間とは異なる(図15参照)。
まず、従来の駆動方式の例として、特開2012‐185314号公報に開示されている従来方法に則って光偏向器を駆動したときの偏向角を評価した結果について説明する。図16(A)及び図16(B)は、それぞれ第A駆動信号のみ、第B駆動信号のみを基準状態で光偏向器に印加したときのミラー偏向角を評価した結果である。ここでは、第A及び第B駆動信号のシンメトリは等しく設定されている。
図16(A)及び図16(B)から分かるように、ミラー偏向角には線形な偏向角の変化の上に周期的な高周波振動成分が重畳されている。このミラー偏向角に現れる高周波振動成分の周波数は、光偏向器が有するX軸を回転軸として振動する共振モードのうち、最低次共振モードの周波数に相当する。また、高周波振動成分は、第A駆動信号のみ、第B駆動信号のみを印加した場合に、ほぼ同位相で発生する。
従来の駆動方式では、基準状態では同位相で発生する高周波振動成分を抑制するために、第A駆動信号と第B駆動信号との間に位相差を付与し、高周波振動成分が逆相で重なりあうような駆動条件を予め定める。図16(C)には、このような位相差が付与された第A及び第B駆動信号を同時に印加したときのミラー偏向角が示されるが、確かに位相差付与により高周波振動成分を除去でき、ミラー偏向角がほぼ線形に変化している。しかしながら、後述するが付与する位相差が最適値からわずかに異なっただけで、高周波振動成分が表出し、十分な走査線の線形性が得られないことも確認された。上述のように高周波振動成分は光偏向器の共振モードが励起されることに起因するが、この共振周波数は光偏向器の連続駆動や温度変化等により変動し、それに伴って最適位相差も変化する。したがって、最適位相差を保って光偏向器の駆動を継続することは困難である。
図17には、第1実施形態の駆動方式における鋸波状波形の駆動信号の周波数成分(高調波成分)と、光偏向器100がもつX軸を回転軸として振動する最低次の共振モードの周波数特性との関係が示されている。鋸波状波形の駆動信号の周波数成分は、理想的な鋸波波形をフーリエ変換して印加信号を周波数成分に分解したものであり、直流(0Hz)から駆動周波数間隔で発生する印加電圧成分の重ね合わせで表される。
また、図17には、光偏向器が有する、X軸を回転軸として振動する最低次共振モードのスペクトル特性も示されている。図17では、駆動信号の駆動周波数(繰り返し周波数)を光偏向器の共振周波数の半整数分の1に設定した場合が例示している。このように設定すると、周期的に発生する信号成分である高調波成分と光偏向器の共振周波数とが重なりあわないため、理論上は可能な限り振動成分の大きさが低減されるが、図16(A)及び図16(B)に示される従来の駆動方式と同様に第A駆動信号を単独で印加したときや、第B駆動信号を単独で印加したときには、比較的大きな高周波振動が発生してしまう。この場合、第A及び第B駆動信号の位相差が最適位相差からずれていると、第A及び第B駆動信号を同時に印加したときに走査線に発生する高周波振動を十分に抑制できない。
ここで、鋸波状波形の周波数特性において注目すべきは、駆動信号の周波数特性に、理論上信号強度がゼロになるヌル周波数が存在することである。ヌル周波数fnは、駆動周波数fs及びシンメトリSを用いて以下の式で与えられる。
Nは整数であり、ヌル周波数は周期的に表れる。上記(1)式から明らかなように、ヌル周波数fnは鋸波状駆動信号の駆動周波数fs、あるいはシンメトリSをパラメータとして所望の値に調整することができる。
ここで、「ヌル周波数」について説明する。例えば、所定の変調信号(例えば鋸波状信号)によってMEMSミラーを駆動した場合、その変調信号の種類によっては周波数スペクトル(変調信号をフーリエ変換して周波数成分に分解したもの)に、一定間隔の「谷」(理論上電力密度がゼロとなる点)が存在する。この谷のことを一般にヌル点と呼ぶ。そこで、本明細書では、ヌル点を取る周波数のことを「ヌル周波数」と定義している。
鋸波状波形の駆動信号にもヌル周波数が存在していることが確認され、その周波数が上記(1)式で与えられることが帰納的に明らかとなった。
なお、駆動信号スペクトル(図17参照)では駆動周波数に対応して離散的な周波数成分が現れているが、仮に鋸波状パルス1個だけをフーリエ変換すると連続的にヌルに向かって減衰していくようなスペクトル特性が得られる。周期的な鋸波状信号ではその連続スペクトルを包絡線として駆動周波数間隔で飛び飛びの信号成分をもつことになる。すなわち、ヌル周波数近傍の信号成分も相対的に低く抑えられる。図34(A)には、鋸波状波形の第A駆動信号の1周期分の波形が示され、これをフーリエ変換したものが図34(B)に示されている。
つまり、ヌル周波数とその近傍を含む周波数帯(以下では「ヌル周波数帯」とも呼ぶ)では、駆動信号の高周波成分の信号強度が極小(ヌル周波数で最小)になる(図17参照)。図34(B)において、信号強度が周期的に極小となる周波数帯がヌル周波数帯であり、該ヌル周波数帯内で信号強度が最小となる周波数がヌル周波数である。
また、ヌル周波数帯は、所定の周波数間隔で複数存在することも分かっている(図17参照)。
図18(A)及び図18(B)には、第2実施形態の光偏向器500の駆動方式について、駆動信号の周波数成分と光偏向器500の最低次の共振周波数との関係が示されている。
第2実施形態の光偏向器500の駆動方式では、第A及び第B駆動信号のヌル周波数fna、fnbを互いに異ならせ、かつ2つのヌル周波数fna、fnb間に光偏向器500の機械的な共振周波数(ここでは最低次の共振周波数)を位置(存在)させている。
換言すると、光偏向器500の駆動方式では、第A及び第B駆動信号のヌル周波数fna、fnbを互いに異ならせ、かつ光偏向器500の機械的な共振周波数(ここでは最低次の共振周波数)を2つのヌル周波数fna、fnbで挟んでいる。
上述のように、鋸波状波形の駆動信号のヌル周波数は、駆動周波数及びシンメトリによって制御できるが、第A及び第B駆動信号の駆動周波数を互いに異ならせると周期的に安定した走査線を描くことが困難である。
そこで、第2実施形態では、第A及び第B駆動信号の駆動周波数が同一の条件でシンメトリAとシンメトリBとを互いに異ならせることで、第A及び第B駆動信号のヌル周波数を互いに異ならせている。
ここで、第A駆動信号においてヌル周波数fnaを挟み隣接する(相前後する)2つの高調波成分ha1、ha2の周波数間の周波数領域Pと、第B駆動信号においてヌル周波数fbを挟み隣接(相前後する)2つの高調波成分hb1、hb2の周波数間の周波数領域Qは、一部がオーバーラップしている(重なっている)。
そして、光偏向器500の最低次の共振周波数が、第A及び第B駆動信号の周波数領域P、Qのオーバーラップ部分(重なり部分)に含まれている。
さらに、第A及び第B駆動信号のヌル周波数fna、fnbの少なくとも一方を光偏向器500の共振周波数近傍に設定することが好ましい。すなわち、ヌル周波数fnaが含まれるヌル周波数帯及びヌル周波数fnbが含まれるヌル周波数帯の少なくとも一方に光偏向器500の共振周波数を含ませることが好ましい。これはヌル周波数帯では高周波成分の信号強度が非常に小さいため、ヌル周波数帯に光偏向器500の共振モード(共振周波数)が存在しても、この共振モードが励起されることで発生する高周波振動を大幅に抑制できるためである。
このような駆動信号の設定により、第A及び第B駆動信号を基準状態において同時に印加した場合に、高周波振動を抑制した走査線を得ることができる。以下、この動作原理について説明する。
図19(A)及び図19(B)は、第1実施形態の駆動方式において、第A駆動信号のみ、第B駆動信号のみを光偏向器100に印加した場合に得られるミラー偏向角の特性が示されている。図19(A)から分かるように、第A駆動信号による光偏向器100のミラー偏向角は、印加電圧の増加に伴って0°から正の角度方向に変化する。一方、図19(B)から分かるように、第B駆動信号による光偏向器100のミラー偏向角は、印加電圧の減少に伴って負の角度方向から0°に向かって変化する。
図19(A)及び図19(B)より、第1実施形態の駆動方式において、第A駆動信号のみ、第B駆動信号のみを印加した場合は、従来の駆動方式と比べて高周波振動成分の振動幅がある程度抑制されるものの、それでもなお十分に抑制されておらず、光偏向器100による走査線に高周波振動が重畳されていることが確認できる。
図20(A)及び図20(B)は、図19(A)及び図19(B)に示される第1実施形態の光偏向器100における第A駆動信号、第B駆動信号による偏向特性について、光走査範囲の走査線と該走査線を直線近似した理想的な走査線との差分を取ることにより抽出された高周波振動成分が示されている。ここで、「光走査範囲」としては、第A駆動信号の立ち上がり期間あるいは第B駆動信号の立ち下り期間における任意の時間領域を設定すればよい。
ここで、高周波振動の特性を表すパラメータとして位相及び振動幅についてさらに考察する。なお、高周波振動の位相量の評価においては、第A駆動信号による振動についてはその極大点の位相に注目し、第B駆動信号による振動についてはその極小点の位相に注目する。
図21(A)及び図21(B)には、第A及び第B駆動信号のシンメトリを変化させた場合に発生する高周波振動について、発明者が見出した位相変化及び振動幅の変化の特徴が定性的に示されている。
図21(A)の縦軸には高周波振動の位相をとっているが、第A及び第B駆動信号について縦軸の値が同じ値となるとき、各駆動信号によって発生する高周波振動の位相は180°ずれていることになる。すなわち、高周波振動が逆相で発生する。
図21(A)から、第A及び第B駆動信号の高周波振動のいずれにおいても、シンメトリの変化に対する位相の変化が急激な領域(以下では「位相変化急激領域」と呼ぶ)が存在することがわかる。この位相変化急激領域は、第A及び第B駆動信号の高周波振動の交点となるシンメトリから増加する方向及び減少する方向に所定のシンメトリまで続いている。位相変化急激領域の各端(上記所定のシンメトリ)の前後で付与される位相差はほぼ180°である。また、位相変化急激領域は、光偏向器の共振周波数と駆動信号のヌル周波数とを一致させた場合、すなわち上記(1)式においてヌル周波数fnの値に光偏向器の共振周波数を代入した場合に得られるシンメトリの近傍に現れる。
そこで、第2実施形態では、位相変化急激領域よりも外側(シンメトリ増加側、シンメトリ減少側)のシンメトリに設定されている。この場合、各シンメトリのずれに対する高周波振動の位相差のずれが小さい。すなわち、第A及び第B駆動信号のシンメトリを高周波振動成分の位相が逆相になるように設定してからの、シンメトリの経時変化(ヌル周波数の経時変化)に対する位相差の変化が小さく、ロバスト性が高い。
従来の駆動方式のように、第A及び第B駆動信号で等しいシンメトリを設定した場合には、特別な場合を除いて各駆動信号の印加によって発生する高周波振動は同相で発生する。「特別な場合」とは、光偏向器の共振周波数と駆動信号のヌル周波数とがほぼ一致するように信号のシンメトリを決定した場合である。
一方で、第2実施形態の駆動方式では、第A及び第B駆動信号のシンメトリを互いに異ならせることにより、第A及び第B駆動信号のヌル周波数の間に光偏向器500の共振周波数を存在させている。このように第A及び第B駆動信号のシンメトリを適切に設定することにより、第A及び第B駆動信号の印加によって発生する高周波振動を逆相で発現させることが可能となる。
図21(B)には、駆動信号のシンメトリを変化させたときの高周波振動の振動幅(高周波振動幅)の変化が示されている。図21(B)から分かるように、高周波振動幅は、特定のシンメトリで極小となり、そこから離れるほど振動幅が大きくなる。高周波振動が極小となるシンメトリは、理論的には光偏向器の共振周波数と駆動信号のヌル周波数とが一致するシンメトリであるが、実際の光偏向器ではわずかにこのシンメトリ(理論値)からずれる場合がある。
さらに、第A及び第B駆動信号をそれぞれ単独で印加した場合では、シンメトリの理論値からのずれが異なり、高周波振動幅の極小値も異なることが確認された。
ここで第2実施形態の駆動方式では、第A及び第B駆動信号のシンメトリを互いに異ならせることにより、第A及び第B駆動信号のヌル周波数fna、fnbの間に光偏向器500の共振周波数を存在させているため、第A及び第B駆動信号に対して高周波振動幅は極小とはならないが、高周波振動幅が互いに略一致するようなシンメトリを付与することができる(図21(B)参照)。
以上のように、第2実施形態の駆動方式により、第A及び第B駆動信号を独立に印加した場合に発生する高周波振動の振動幅が互いに等しく、かつ第A及び第B駆動信号の高周波振動が互いに逆相で発現するようなシンメトリを、第A及び第B駆動信号に設定することができる。
図22(A)及び図22(B)には、第2実施形態の駆動方式によって、第A及び第B駆動信号を基準状態で同時に印加して光偏向器500を駆動した場合のミラー偏向角及び高周波振動成分の時間変化が示されている。図22(A)及び図22(b)から分かるように、上記のように第A及び第B駆動信号のシンメトリを個別に調整することにより、鋸波状波形の駆動信号に対して光偏向器500の走査線が線形に変位し、高周波振動を十分に抑制することが可能である。
ここで、図22(A)及び図22(B)に示される実施結果においては、第B駆動信号のシンメトリを第A駆動信号のシンメトリよりも大きく設定した。
第2実施形態の駆動方式の動作原理からは、第A及び第B駆動信号のシンメトリ間で大小に対する制限は特に存在しない。
しかしながら、直線性を評価するパラメータとして「走査線直線性指標」を以下のように定義し、1周期において立ち下り期間が立ち上がり期間よりも長い第B駆動信号のシンメトリを1周期において立ち上がり期間が立ち下がり期間よりも長い第A駆動信号のシンメトリよりも大きくすると走査線直線性が良好となることが、実際に様々な駆動条件によって光偏向器500を駆動した結果、見出された。
走査線直線性指標=(ミラー偏向による走査線の直線からのずれ)/(直線近似した該走査線の該直線方向の全幅)
走査線直線性指標の値が小さいほど、ミラー偏向による走査線から高周波成分が取り除かれ、直線に近い走査線が描かれることに注目すべきである。
また、上記(1)式に示されるように、第2実施形態の駆動方法では任意の駆動信号の繰返し周波数(駆動周波数fs)を選択でき、これと既知の共振周波数f1との関係から好適なシンメトリ値が求められるが、より詳細にはf1/fs=半整数とする駆動条件が望ましい。これは以下の理由による。
鋸波状波形は理想的にはヌル周波数では信号強度を持たず、かつ駆動信号の整数倍の振動成分以外は信号強度を持たないが、第2実施形態のように駆動信号のヌル周波数と光偏向器500の共振周波数とを僅かに異ならせるように駆動振動を設定した場合、光偏向器500の共振周波数近傍の駆動信号の信号強度が大きいと大きな高周波振動成分が励起される。
したがって、f1/fs=半整数とすることにより、駆動周波数fsごとに周期的に発生する信号成分(高調波成分)の隙間に相当する周波数帯に光偏向器の共振周波数を含ませることが、高周波振動成分の抑制に有効である。
図23には、第A及び第B駆動信号の位相差の最適位相差からのずれ(位相差ずれ)に対する走査線直線性指標の変化をプロットした結果が示されている。図23において、第2実施形態の駆動方式と従来の駆動方式の位相差ずれに対するロバスト性を比較できる。
第2実施形態では、基準状態で第A及び第B駆動信号を印加しているから、最適位相差はゼロである。
図23から明らかなように、第2実施形態の駆動方式により、位相差ずれに対するロバスト性が大幅に向上できる。これは駆動信号のヌル周波数と光偏向器500の共振周波数とが近い状態にあるため、第2実施形態では第A駆動信号のみ、第B駆動信号のみで駆動させた時点で従来の駆動方式に比べて高周波振動成分が抑制されることに起因する。
第A及び第B駆動信号の位相差は、諸々の要因すなわち、駆動時の環境温度変化による共振周波数変動、長時間連続駆動による光偏向器の特性変化、駆動中の印加電圧の微調整等によって容易に変動し得るが、第2実施形態の駆動方式では第A及び第B駆動信号の位相差が最適位相差からずれた状態で光偏向器500を駆動しても走査線の直線性への影響が小さい(走査線の直線性の低下を十分に抑制できる)。
図24(A)には、第2実施形態の駆動方式と従来の駆動方式の印加電圧変化に対するミラー偏向角の変化が示されている。図24(A)から、従来の駆動方式に比べて、第2実施形態の駆動方式ではより低電圧で所望のミラー偏向角が得られることがわかる。これは、第2実施形態の駆動方式では基準状態で第A及び第B駆動信号を同時に印加することから、仮に位相差を付与した場合に生じる実効的な電圧の低下を招くことなく、光偏向器500の駆動感度すなわち単位印加電圧あたりのミラー偏向角が増加するためである。
図24(B)には、第2実施形態の駆動方式と従来の駆動方式の印加電圧変化に対する走査線直線性指標の変化をプロットした結果が示されている。従来の駆動方式では印加電圧の変化に伴って最適位相差がずれるため、ミラー偏向角に高周波振動が重畳される。このため、例えば印加電圧調整による印加電圧変化の度に位相差調整が必要となる。これに対して、第2実施形態の駆動方式では、印加電圧の変化に対する直線性の低下がほとんどない。このため、例えば光偏向器500の長時間駆動による感度低下により、所望のミラー偏向角を得るために印加電圧を増加させることが必要であっても、それ以外の駆動条件すなわち第A及び第B駆動信号のシンメトリ及び位相差を調整する必要がない。すなわち、第2実施形態では、印加電圧調整のみにより、走査線の直性線の低下を抑制しつつ所望のミラー偏向角を得ることができる。
結果として、第2実施形態の駆動方式では従来の駆動方式と比べて、位相差の最適位相差からのずれ及び印加電圧の変動に対するロバスト性が大きく向上する。
また、第2実施形態では、第A及び第B駆動信号のシンメトリを互いに異ならせることで、第A及び第B駆動信号それぞれの単独印加によって発生する高周波振動の振動幅を一致させ、さらに基準状態で高周波振動を互いに逆相で発現させ得ることを特徴としているが、必ずしも互いの高周波振動の位相差を完全に180°にする必要はなく、初期値としてほぼ逆相で重なり合う条件を設定し、完全逆相からの僅かな位相ずれを補正するために第A駆動信号と第B駆動信号との間に位相差を付与してもよい。この場合、光偏向器の設計パラメータの違いや製作誤差等によって発生する最適シンメトリ条件の僅かな差を、位相差補正によって補償することができる。
さらに、第A及び第B駆動信号の印加電圧幅について、必要に応じて両者の印加電圧幅に差を設けることも高周波振動成分のさらなる低減に有効である。
図21(B)に示されるように、駆動信号のシンメトリを変化させることで、駆動信号印加によって発生する高周波振動の振動幅を調整できるが、さらに第A及び第B駆動信号の印加電圧幅を微調整することにより、第A及び第B駆動信号それぞれの単独印加による高周波振動の振動幅をほぼ完全に一致させることができる。これにより第A駆動信号と第B駆動信号を同時に印加した場合の高周波振動の発生を格段に抑制することが可能となる。
特に、駆動信号のシンメトリを、光偏向器の共振周波数と駆動信号のヌル周波数とが一致するシンメトリの理論値に近づけた場合、第B駆動信号による高周波振動の振動幅が第A駆動信号による高周波振動の振動幅より相対的に小さくなることが実験的に見出されており、この場合においては第B駆動信号の印加電圧を相対的に高めに設定することにより、第A及び第B駆動信号による高周波振動の振動幅を一致させることができる。
また、第2実施形態の駆動方法では、第A駆動信号のヌル周波数と第B駆動信号のヌル周波数との間に光偏向器500の共振周波数を存在させることで、第A及び第B駆動信号をそれぞれ単独で印加した際のデバイス固有の振動モードに起因する高周波振動について、振動幅を一致させかつ互いに逆相関係で振動を発現させることが可能となるため、結果的に第A駆動信号及び第B駆動信号を同時に印加した場合の高周波振動の発生を抑制できる。
ここで、図21(B)から明らかなように、駆動信号のヌル周波数とデバイスの共振周波数とを近づけるほど、第A及び第B駆動信号をそれぞれ単独で印加した場合に発生する高周波振動の振動幅が小さくなる。したがって、わずかな高周波振動の位相ずれが発生した場合でも、第A駆動信号及び第B駆動信号を同時に印加した場合に発生する高周波振動の振動幅が小さい。そこで、第A及び第B駆動信号のヌル周波数帯の少なくとも一方にデバイスの共振周波数を含ませることが好ましい。
ここで、高周波振動の発生は、駆動信号に含まれる高周波成分がデバイスに共振モードを励振することに起因するため、駆動信号からこの共振周波数付近の信号成分を取り除くことで、第A及び第B駆動信号をそれぞれ単独で印加した場合に発生する高周波振動の振動幅を低減させることが可能となる。
そこで、図25に示されるように、さらに高周波振動成分を抑制するために、デバイスの共振周波数近傍の周波数帯のみ信号透過率を減衰させるノッチフィルタを介して信号を印加することが有効である。フィルタが減衰を与える周波数帯域として、図25に示されるように、デバイスの駆動感度を十分減衰させるために十分な減衰帯域幅を設けてもよいし、またフィルタ減衰帯域幅をデバイスの駆動周波数以下に設定すれば、駆動信号への波形歪みをほとんど引き起こすことなく、デバイスの固有振動を励起する成分のみを効果的に抑制することができる。
第2実施形態では、デバイスに固有の振動モードのうち、走査線の歪に大きな影響を与える最低次の振動モードの励振を抑制するための駆動方法を説明してきた。一方でデバイスには様々な振動モードが存在し、ミラーの偏向特性に影響し得る。例えば図13におけるX軸を回転軸とするより高次の振動モードは、第2実施形態における課題であった高周波振動成分よりさらに周期の短い振動を発生させる。また別の周波数帯においてはY軸を回転軸とする振動モードも存在し、この振動モードが励振された場合は、例えば垂直方向に直線を描くことを意図したのに対し、水平方向に振動するような所謂波状の線が描かれる。
駆動信号として鋸波状の波形を与えた場合、図18(A)及び図18(B)に示されるように信号成分(高調波成分)は駆動周波数間隔で高周波帯まで発生するため、上記のようなより高次の振動モードを意図せず励振してしまい、デバイスによって描画される画像が歪んでしまう恐れがある。
このような、より高次の振動モードの励振を防止するために、図26(A)に示されるように駆動信号にローパスフィルタをかけ、高周波成分をカットすることが有効である。ローパスフィルタによる帯域制限の例として、透過帯域をヌル周波数より低周波側とし、残りの成分をカットした場合の駆動信号波形が図26(B)に示されている。ヌル周波数より低周波数側に鋸波形状(鋸波波形)を形成する大部分の振動成分が存在するため、高周波成分をカットしてもほとんど印加信号波形への影響はない。より現実的には、予め最低次の振動モード及びその次に発生する振動モードの共振周波数を把握しておき、フィルタの遮断周波数をこれらの2つの振動モードの共振周波数の間に設定すればよい。
このように、鋸波状波形の駆動信号から高周波信号成分を除去することによって、デバイスがもつ固有の振動モードが励振されるのを防止し、光走査によって描画される画像に歪みが発生するのを抑制できる。
以上説明したように、第2実施形態では、「第A及び第B駆動信号のヌル周波数の間にデバイスの共振周波数を存在させる」ことで、光偏向器500のミラーの揺動速度の均一性を高めて、走査線の直線性の低下を抑制している。
以上説明した第2実施形態の光偏向装置は、反射面を有するミラーを含む可動部と、該可動部をX軸周りに揺動可能に支持する、複数の梁が蛇行するように連続する蛇行部を含む支持部と、複数の梁に個別に設けられた複数の圧電部材と、を備え、隣り合う2つの梁に個別に設けられた2つの圧電部材に所定の波形の2つの駆動信号(第A及び第B駆動信号)が並行して個別に入力され、可動部及び支持部を含む系(デバイス)が有する複数の機械的な共振周波数のうち所定の共振周波数が、2つの駆動信号の一方の駆動信号(第A駆動信号)の高周波成分の信号強度が極小となる一の周波数(ヌル周波数fna)と、2つの駆動信号の他方の駆動信号(第B駆動信号)の高周波成分の信号強度が極小となる他の周波数(ヌル周波数fnb)に挟まれるように、2つの駆動信号それぞれの1周期における立ち上がり時間と立ち下がり時間の比率が設定されている。なお、「高周波成分」は、駆動信号の繰り返し周波数(例えば50〜70Hz)よりも高い周波数の成分を意味する。
この場合、2つの駆動信号間の位相差(0を含む)に設定値(設計値)からのずれが生じても、2つの駆動信号の高周波成分による光偏向器500の共振モードの励起を抑制できる。
この結果、可動部の一軸周りの揺動速度の均一性を安定して高めることができる。
また、一の周波数は、一方の駆動信号の隣接する2つの高調波成分の周波数間の周波数領域である第1の周波数領域にあり、他の周波数は、他方の駆動信号の隣接する2つの高調波成分の周波数間の周波数領域である第2の周波数領域にあり、第1及び第2の周波数領域は、一部がオーバーラップしている。
この場合、2つの駆動信号の互いに直近のヌル周波数間に共振周波数を存在させることができ、ひいては可動部の一軸周りの揺動速度の均一性を確実に安定して高めることができる。
また、所定の共振周波数は、第1及び第2の周波数領域のオーバーラップ部分に含まれるため、該共振周波数と該共振周波数を挟む2つのヌル周波数の双方とを近づけることができ、ひいては可動部の一軸周りの揺動速度の均一性をより確実に安定して高めることができる。
また、一方の駆動信号の高周波成分の信号強度が極小となる、一の周波数(ヌル周波数fna)が存在する第1の周波数帯(ヌル周波数帯)を含む複数の周波数帯(ヌル周波数帯)が略一定の周波数間隔で存在し、他方の駆動信号の高周波成分の信号強度が極小となる、他の周波数(ヌル周波数fnb)が存在する第2の周波数帯(ヌル周波数帯)を含む複数の周波数帯(ヌル周波数帯)が略一定の周波数間隔で存在し、共振周波数は、第1及び第2の周波数帯の少なくとも一方に含まれる。
この場合、共振周波数を2つの駆動信号の少なくとも一方の高周波成分の信号強度が極小となる領域に存在させることで、該高周波成分によるデバイスの共振モードの励起を抑制できる。なお、デバイスの共振モードの励起をより確実に抑制する観点から、共振周波数は第1及び第2の周波数帯のいずれにも含まれることが好ましい。この場合、第1及び第2の周波数帯は、オーバーラップしている必要がある。
また、一の周波数は、第1の周波数帯において前記一方の駆動信号の信号強度が最小となる周波数であり、他の周波数は、第2の周波数帯において他方の駆動信号の信号強度が最小となる周波数である。
この場合、ヌル周波数が設定値(設計値)から高周波数側近傍及び低周波数側近傍のいずれにずれても、高周波成分が極小の周波数帯(ヌル周波数帯)内に収めることができる。なお、ヌル周波数は、ヌル周波数帯の略中央に存在するヌル周波数帯における最低周波数である。
また、所定の波形は鋸波状波形であり、一方の駆動信号(第A駆動信号)の1周期における立ち上がり時間の割合(シンメトリA)と他方の駆動信号(第B駆動信号)の1周期における立ち下がり時間の割合(シンメトリB)を異ならせることで、一方及び他方の駆動信号のヌル周波数を異ならせることができる。
また、一方の駆動信号は、1周期における立ち上がり時間の割合(シンメトリA)が立ち下がり時間の割合よりも大きく、他方の駆動信号は、1周期における立ち下がり時間の割合(シンメトリB)が立ち上がり時間の割合よりも大きく、他方の駆動信号の1周期における立ち下がり時間の割合(シンメトリB)は、一方の駆動信号の立ち上り時間の割合(シンメトリA)よりも大きい。
この場合、走査線の直線性をより向上させることができる。
また、一方の駆動信号の1周期に対する立ち上がり時間の比率と、他方の駆動信号の1周期に対する立下り時間の比率が、0.8以上である場合には、画像表示領域もしくは画像形成領域の利用効率を向上できる。
また、駆動信号は、所定周波数帯域に周期的に(駆動周波数間隔で)存在する、高周波成分としての高調波成分を複数含んでいる。そこで、ヌル周波数帯は、隣接する(相前後する)2つの高調波成分の周波数の間にあることが好ましい。
さらに、例えば2つの駆動信号それぞれの繰り返し周波数(駆動周波数fs)は、共振周波数の略半整数分の1に設定されることが好ましい。この場合、ヌル周波数帯を相前後する2つの高調波成分の周波数の間の中央領域に収めることができる。
結果として、可動部の一軸周りの揺動速度の変動をより確実に抑制できる。
また、2つの駆動信号間に、基準位相差から±10°の範囲内の位相差が付与される場合に、可動部の一軸周りの揺動速度の変動を抑制できる。すなわち、2つの駆動信号間の位相差に理想的な設計値(最適位相差(0を含む))から±10°の範囲でずれが生じても、可動部の一軸周りの揺動速度の変動を抑制できる。つまり、ロバスト性が高い。
また、2つの駆動信号の振幅(印加電圧幅の1/2)を異ならせることでも、可動部の揺動速度の変動を更に抑制できる。詳述すると、2つの駆動信号の振幅を同一にしたときに2つの駆動信号によるミラー偏向角の高周波振動成分の振動幅が異なる場合に、2つの駆動信号の少なくとも一方の振幅を調整することで2つの駆動信号による高周波振動成分の振動幅を揃えることができ、可動部の一軸周りの揺動速度の変動をより抑制できる。
また、共振周波数は、最低次の共振周波数であるため、可動部の揺動速度の変動に最も影響する最大の共振モードの励起を抑制することができる。なお、最低次以外の次数の共振周波数を第A及び第B駆動信号の互いに直近のヌル周波数で挟んでも良い。この場合、該次数の共振モードの励起を抑制できる。なお、この場合、第2実施形態のヌル周波数帯(図18(A)及び図18(B)参照)とは異なるヌル周波数帯のヌル周波数で共振周波数を挟んでも良い。
また、光偏向装置が共振周波数及びその近傍の帯域の高周波成分を抑制するノッチフィルタを更に備える場合には、共振周波数近傍の高周波成分を低減できるため、可動部の一軸周りの揺動速度の変動をより抑制できる。
また、光偏向装置が共振周波数よりも高周波帯域の高周波成分を抑制するローパスフィルタを更に備える場合には、可動部の揺動動作の周波数(駆動周波数)とはかけ離れた高周波数帯の高周波成分を低減できるため、可動部の揺動動作を阻害することなく揺動速度の変動をより抑制できる。
また、画像情報に基づいて変調された光により被走査面を走査して画像を形成する画像形成装置であって、光を射出する光源部と、光源部からの光を偏向する第2実施形態の光偏向装置と、を備える画像形成装置では、高品質な画像を形成できる。
また、上記画像形成装置と、被走査面を介した光を透過反射部材に導く光学系と、を備える画像表示装置では、高品質な画像を表示できる。
また、上記画像表示装置と、該画像表示装置が搭載される移動体と、を備える移動体装置では、移動体の操縦者に対して視認性の良い画像を提供することができる。
また、第2実施形態の光偏向装置の調整方法は、反射面を有するミラーを含む可動部と、該可動部を一軸周りに揺動可能に支持する、複数の梁が蛇行するように連続する蛇行部を含む支持部と、複数の梁に個別に設けられた複数の圧電部材とを備え、隣り合う2つの梁に個別に設けられた2つの圧電部材に所定の波形の2つの駆動信号が並行して個別に入力される、光偏向器500を含む光偏向装置1000の調整方法であって、可動部及び支持部を含む系が有する複数の機械的な共振周波数のうち所定の共振周波数が2つの駆動信号の高周波成分の信号強度が極小となる周波数(ヌル周波数fna、fnb)に挟まれるように、2つの駆動信号の1周期における立ち上がり時間と立ち下がり時間の比率を調整する工程を含む(図35のステップS1、S2参照)。
この場合、各駆動信号の高周波成分による共振モードの励起を安定して抑制することができ、可動部の一軸周りの揺動速度の変動を安定して抑制できる。
この結果、可動部の一軸周りの揺動速度の均一性を安定して高めることができる。
また、この場合、光偏向器500の設計で決まる共振周波数によらず、ヌル周波数を、共振周波数が2つの駆動信号のヌル周波数で挟まれるように調整することができる。すなわち、光偏向器500の設計によらず、該調整を容易に行うことが可能である。結果として、簡易な手法により、可動部の揺動速度の均一性を高めることができる。
また、光偏向装置の調整方法が2つの駆動信号の位相差を調整する工程を更に含む場合(図35のステップS3参照)には、可動部の揺動速度の均一性を更に高めることができる。
また、光偏向装置の調整方法が2つの駆動信号の少なくとも一方の振幅を調整する工程を更に含む場合(図35のステップS3参照)には、可動部の揺動速度の均一性を更に高めることができる。
なお、上記第2実施形態では、共振周波数を挟む2つの周波数のうち一の周波数は、ヌル周波数fnaとされているが、要は、ヌル周波数fnaが含まれるヌル周波数帯の任意の周波数であれば良い。
また、上記第2実施形態では、共振周波数を挟む2つの周波数のうち他の周波数は、ヌル周波数fnbとされているが、要は、ヌル周波数fnbが含まれるヌル周波数帯の任意の周波数であれば良い。
また、共振周波数を第A及び第B駆動信号の互いに直近のヌル周波数帯(2つのヌル周波数帯)で挟んでも良い。なお、この場合も、該2つのヌル周波数帯の一方のヌル周波数帯に含まれる一のヌル周波数と他方のヌル周波数帯に含まれる他のヌル周波数とで共振周波数を挟むことに含まれる。
以上、本発明の具体的な実施形態について説明したが、上述した各実施形態は本発明の一適用例を示したものである。本発明は、上述した各実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で様々な変形や変更を加えて具体化することができる。例えば、上述した各実施形態では、駆動信号の波形は、鋸波状波形としたが、台形波や立ち下がり時間が曲線を描いているような波形でも良く、要は、高周波成分(特に高調波成分)を含む波形であれば良い。
また、上記各実施形態では、画像表示装置(HUD)は、例えば車両、航空機、船舶等の移動体に搭載されるものを一例として説明したが、要は、物体に搭載されるものであれば良い。なお、「物体」は、移動体の他、恒常的に設置されるものや運搬可能なものを含む。
そこで、上記各実施形態の画像表示装置と、該画像表示装置が搭載される物体と、を備える物体装置を提供することもできる。
また、上記各実施形態を具現化するための構成は、適宜変更できる。例えば、図27には、LD及び光偏向器を制御する変形例の制御系900のハードウェア構成が示されている。制御系900は、例えば、RAM21やROM22に保存されたプログラム等を読み出して処理を実行するCPU20(Central Processing Unit)、該CPU20の出力信号を受けて制御信号を出力するFPGA23(Field-Programmable Gate Array)、FPGA23からの制御信号を受けて光偏向器に駆動信号を印加する光偏向器ドライバ25、FPGA23からの制御信号を受けて各LDに駆動信号を印加するLDドライバ26等を備える電子回路ユニットである。
ところで、前述したように、ヌル周波数帯においては、ヌル周波数に近いほど高周波成分の強度が低くなる傾向にある。
そこで、「ヌル周波数帯」を、周波数が隣接する2つの高調波成分の周波数に挟まれる周波数領域内において、該2つの高調波成分の強度の平均値の20%以下(より好ましくは10%以下)に高周波成分の強度が抑えられる周波数帯と定義することが好ましい。この周波数帯に共振周波数が含まれれば、可動部の一軸周りの揺動速度の均一性を安定して高めることができる。
また、図21(A)で説明した高周波振動の位相は、第A駆動信号と第B駆動信号で±10%以内(より好ましくは±5%以内)になるようにシンメトリを調整することが望ましい。
また、図2において、第1圧電部材が設けられ第2軸方向に延びる梁は、トーションバーの第2軸方向の両側に設けられているが、図28に示されるように片側のみに設けても良い。
[画像形成装置等]
また、上記各実施形態の駆動方式によって駆動される光偏向器を、図29及び図30に示される画像形成装置に適用しても良い。
図29には、一例として光書込装置600が組み込まれた画像形成装置としてのレーザプリンタ650が概略的に示されている。図30には、光書込装置600の概略構成が示されている。
図29及び図30に示されるように、レーザプリンタ650において光書込装置600は、1本または複数本のレーザビームで被走査面670(感光体ドラム表面や感光紙表面)を光偏向器を用いて光走査することにより、被走査面670に光書込を行う。ここでは、変形例の光偏向器として、上記第1実施形態の光偏向器100又は第2実施形態の光偏向器500の2つの蛇行部にミラーが直接的(トーションバーを介さずに)に固定された1次元走査用の光偏向器680が採用されている。
図30に示されるように、光書込装置600において、半導体レーザ等の発光素子655からのレーザ光は、コリメータレンズ等を含む結像光学系601を経た後、光偏向器680により偏向されることによって、一軸方向(主走査方向)に走査される。
そして、光偏向器680で偏向されたレーザ光が第1レンズ602a、第2レンズ602b及び反射ミラー部602cを含む走査光学系602を介して被走査面670に照射されることで、光書込みが行われる。走査光学系602は、被走査面670にスポット状に光ビームを結像する。
また、発光素子655及び光偏向器680は、制御装置660により、上記第1実施形態又は上記2実施形態と同様の方式で制御される。
なお、上記第1実施形態の光偏向器100又は第2実施形態の光偏向器500を用いてレーザ光によりサーマルメディア上を走査し、加熱することで光書込みを行う画像形成装置を構成することも可能である。また、レーザ光によりリライタブルラベル(熱可逆記録媒体)上を光走査し、加熱することで光書込みや光消去を行う装置を構成することも可能である。
上述した画像形成装置等に適用される光偏向器100、500、680は、ポリゴンミラー等を用いた回転多面鏡に比べ駆動のための消費電力が小さいため、光書込装置等の省電力化に有利である。
また、光偏向器100、500、680の振動時における風切り音は回転多面鏡に比べ小さいため、光書込装置等の静粛性の改善に有利である。光書込装置等は回転多面鏡に比べ設置スペースが圧倒的に少なくて済み、またこれらの光偏向器の発熱量もわずかであるため、小型化が容易であり、よって画像形成装置等の小型化に有利である
また、画像形成装置としての複写機、ファクシミリ、これらの複合機等に変形例の光偏向器680を適用しても良い。
また、上記各実施形態や変形例の光源と光偏向器を組み合わせて投光装置を構成することができる。
[物体検出装置]
次に、図31及び図32を参照して、光源と光偏向器を含む投光装置を備える物体検出装置700について説明する。
図31は、物体検出装置700が搭載された自動車の概略図である。また、図32には、物体検出装置700の構成例が示されている。
物体検出装置700は、物体の有無や、物体までの距離、物体の形状や大きさ等の物体に関する情報を検出する装置であり、例えばレーザレーダである。
図31に示されるように、物体検出装置700は、投光し、物体702からの反射光を受光することで、物体702に関する情報を検出する。
図32に示されるように、発光素子701から出射されたレーザ光は、発散光を略平行光とするコリメートレンズ703と平面ミラー704とを含む入射光学系を経て、光偏向器で1軸もしくは2軸方向に走査される。ここでは、光偏向器として、上記第1実施形態の光偏向器100や上記第2実施形態の光偏向器500や変形例の光偏向器680を用いることができる。
そして、光偏向器で偏向された光は、投光レンズ705を含む投光光学系を経て装置前方に投光され、物体702に照射される。発光素子701及び光偏向器は、駆動装置720により駆動される。物体702で反射された光は、光検出器709により検出される。
すなわち、物体702からの反射光は集光レンズ706を含む受光光学系を経て撮像素子707により受光され、撮像素子707から検出信号が信号処理回路708に出力される。信号処理回路708は、入力された検出信号に2値化やノイズ処理等の所定の処理を行い、処理後の信号を検出・測距回路710に出力する。
検出・測距回路710は、発光素子701での発光タイミングと、光検出器709での受光タイミングとの時間差、または受光した撮像素子707の画素ごとの位相差によって、物体702の有無を検出し、必要に応じて物体702までの距離情報を算出する。
光偏向器100、500、680は多面鏡に比べて破損しづらく、小型であるため、耐久性の高い小型のレーザレーダを提供することができる。
このようなレーダレーダは、例えば車両、航空機、船舶、ロボット等に取り付けられ、所定範囲を光走査して障害物の有無や障害物までの距離を検出することができる。
なお、上記物体検出装置700はレーザレーダであるが、本発明の物体検出装置は、光偏向器を駆動装置で制御することにより光走査を行い、光検出器により反射光を受光することで物体702に関する情報を検出する装置であれば、他の装置であっても良い。
すなわち、本発明の物体検出装置は、例えば、手や顔を光走査して得た距離情報から形状等の情報を算出し、算出された情報と記録データを照合することで対象物を認識する生体認証や、対象範囲への光走査により侵入者を検出するセキュリティセンサ、光走査により得た距離情報から形状等の物体情報を算出し、3次元データとして出力する3次元スキャナなどにも同様に適用することができる。
[パッケージング]
次に、図33を参照して、上記第1実施形態、第2実施形態、変形例の光偏向器100、500、680のパッケージングについて説明する。図33には、光偏向器がパッケージングされた光偏向ユニットの構成例が示されている。
図33に示されるように、光偏向器は、開口部を有するパッケージ部材801の底面に固定された取付部材802に取り付けられ、パッケージ部材801の開口部が光透過窓部材803で覆われて密閉されることでパッケージングされる。
さらに、パッケージ部材801内には、窒素等の不活性ガスが充填されている。これにより、光偏向器の酸化による劣化が抑制され、さらに温度等の環境の変化に対する耐久性が向上する。
以下に、発明者らが上記第2実施形態を発案するに至った経緯を説明する。
近年、光ビームを偏向、走査する手段として、半導体製造技術を応用したシリコンやガラスを微細加工するマイクロマシニング技術により、基板上に反射面を設けた可動部や弾性梁部を一体形成した小型の光偏向器(MEMS偏向素子)が開発されている。このような光偏向器の構成として、薄膜化した圧電材料からなる薄膜圧電体をアクチュエータとして使用したタイプのものがある。この圧電アクチュエータを使用した光偏向器では、薄膜圧電体をカンチレバーの表面に重ねあわせて形成する。この構成においては、圧電体の圧電特性から生じる面内方向の伸縮がカンチレバーとなる支持体に伝わり、カンチレバーの一端を固定しておけば、圧電体に印加する電圧量に応じてカンチレバーの他端を上下に振動させることができる。カンチレバー近傍に小型の反射ミラーを配置し、上述のような圧電薄膜への電圧印加によって生じる薄膜の収縮を利用することによって、数mm角程度の素子サイズで、素子内に設けられた直径1mm〜数mm程度の微小なミラーを高速で走査し得る。
圧電カンチレバーを利用して2次元での光ビーム走査を可能にした光偏向素子の構成について説明する。光偏向素子は半導体プロセスにて製造されるMEMS偏向素子であり、反射ミラーを備えている。反射ミラーはトーションバーを介してミラー周辺枠に連結されて可動部を構成する。また光偏向素子は複数の折り返し部を有して蛇行して形成された一対の蛇行状梁部を有する。それぞれの蛇行状梁部の一端は支持基板に支持され、多端は可動部に連結されている。それぞれの蛇行状梁部は、一つおきに梁部A及び梁部Bに分けられ、隣り合う各梁部ごとに独立の圧電部材(例えばPZT)が設けられている。これらの圧電部材の一つおき(第A圧電部材及び第B圧電部材)に異なる電圧を印加して、蛇行状梁部に反りを発生させることにより、隣り合う梁部が異なる方向にたわみ、それが累積されて、反射ミラーがX軸周り(=垂直方向)に大きな角度で回転することになる。このような構成により、X軸を中心とした垂直方向への光走査が可能となる。一方、Y軸を中心とした水平方向では、反射ミラーに接続されたトーションバーなどを利用した共振による光走査が行われる。
2次元的に光ビームを走査する際の走査方法として以下のようなラスタ走査方式が一般的である。すなわち、Y軸を中心とした水平方向には、光偏向器が有する水平方向の共振モードの励振周波数に合わせた高速(数kHz〜数10kHz)の正弦波信号によってミラーを走査し、一方、X軸を中心とした垂直方向への光走査は、より低速(数Hz〜数10Hz)の鋸波状波形信号によってミラーを走査する。例えば光ビーム走査を利用した画像描画装置では、光ビームの発光タイミングをミラーの走査角に合わせて点滅させることで、垂直方向の走査周波数と等しい更新時間で画像を描画することができる。
このような水平走査及び垂直走査ができる光偏向素子及びそれを利用した画像描画方法が既に知られている。
上述のような、光透過窓を備えたリッド及びパッケージによって封止された2軸走査光偏向素子及び、これを利用した画像形成装置が既に知られている。
しかし、垂直方向に鋸波状の走査線を形成する際、光ビームの走査角度すなわち光偏向素子のミラー偏向角は、時間の経過に対して直線的に変化することが望まれるのに対し、実際は光偏向素子が有する固有振動モードの影響により、走査周波数より高周波の振動成分が走査線に重畳され、走査線に歪みが生じてしまう。
特に走査線の歪みに大きな影響を与えるのは、光偏向素子の蛇行状梁部構造に起因する共振モードである。振動方向はほぼX軸を回転軸とした垂直方向であり、その共振周波数は100〜1000Hz程度である。
垂直方向の光走査のために蛇行状梁部に印加する鋸波状波形は、走査周波数の整数倍の周波数を持つ正弦波の重ね合わせによって生成されるため、高次の振動信号が上記の垂直方向の共振モードに応じた振動成分を励振してしまう。その結果、鋸波状の走査線にこの振動が重畳され、走査線が歪んでしまう。この走査線歪は垂直方向に発生するため、2次元画像を描画した場合には、画像の垂直方向に輝度ムラを発生させることになる。
このように、通常の鋸波状信号印加による光偏向素子の駆動では、垂直方向のビーム走査を行う際に、光偏向素子がもつ固有振動モードの影響で走査線が歪んでしまい、これに伴いビーム走査による描画画像に輝度ムラが発生するという問題があった。
このような問題を解決するための従来技術として、特開2012‐185314号公報には、蛇行上梁部に設けられた圧電アクチュエータの一端及び他端のいずれか一方側から偶数番目の圧電カンチレバーを圧電駆動する第1駆動電圧と、奇数数番目の圧電カンチレバーを圧電駆動する第2駆動電圧とを逆位相の鋸波状の電圧として与え、かつ可動部の高周波振動が発生するのを抑制するように第1駆動電圧と第2駆動電圧との間に位相差を付与する方法が開示されている。
しかしながら、従来技術の駆動方法では、奇数番目あるいは偶数番目の圧電カンチレバーを単独で駆動させた場合の高周波振動が大きく、予め付与した位相差の最適値からのトレランスが狭い。すなわち、温度変化や長時間駆動によって、奇数番目及び偶数番目のカンチレバーに発生する高周波信号の相対位相差が変化した場合、高周波振動を十分に抑制することができない。
また、素子を長時間連続駆動する場合、走査角を高精度に安定させるために印加電圧を制御する必要があるが、印加電圧が異なると上記の相対位相差量も変動するため、常に高周波振動の振動幅が最低になるように位相差を調整する必要がある。
また、2種類の鋸波状波形に有意の位相差を付与して光素子を駆動するため、駆動電圧に対して素子に印加される実効的な電圧が低くなり、駆動感度が低下する。このため所定の偏向角を得るために、素子をより高い電圧で駆動する必要があり、長時間駆動した場合の信頼性を低下させる要因となる。
そこで、発明者らは、このような問題を解決すべく、上記第2実施形態を発案するに至った。