JP6886888B2 - 磁壁移動素子および磁気メモリ - Google Patents

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本発明は、磁壁移動素子およびこれをメモリセルに備える磁気メモリに関する。
不揮発性、高速アクセス性、高集積性のすべてを満足するランダムアクセスメモリ(RAM)として、メモリセルにおける磁気抵抗効果素子の抵抗の高低を2値のデータとする磁気抵抗ランダムアクセスメモリ(Magnetoresistive Random Access Memory:MRAM)が開発されている。磁気抵抗効果素子の抵抗の高低は磁性膜(自由層)の磁化方向によるものであり、データの書込みとはすなわち自由層の磁化反転である。書込み方式として、配線(導線)からの磁界印加による初期のMRAMから、高速化およびセルの微細化のため、磁気抵抗効果素子に電流を垂直方向に供給するSTT(Spin Transfer Torque)−MRAM(以下、単にMRAMという)、そしてさらなる高速化を可能とする、自由層を両側に延伸した細線状として、自由層に電流を長手方向に供給する磁壁移動方式のMRAMが開発されている(例えば特許文献1、非特許文献1)。
厚さおよび幅に対して十分に長い細線状に形成された磁性体(以下、磁性細線)は、その長さ方向(細線方向)に2以上の磁区が生成し易く、さらに当該長さ方向に電流を供給されると磁区同士を区切るように生成している磁壁がすべて電流の逆方向に(+側へ)等距離移動するというシフト移動を行う。磁壁移動方式のMRAMにおいては、磁性細線の1つの磁壁が細線方向における所定の2点間を移動することによる、2点間の磁化方向の変化を利用する。また、磁壁移動方式は、磁界印加や垂直方向の電流供給による磁化反転よりも自由層の厚膜化が容易であることから、磁気光学材料で自由層を形成した、空間光変調器の光変調素子に好適である(例えば特許文献2)。
特許第5598697号公報 特許第4939489号公報
S. Fukami, T. Suzuki, K. Nagahara, N. Ohshima, Y. Ozaki, S. Saito, R. Nebashi, N. Sakimura, H. Honjo, K. Mori, C. Igarashi, S. Miura, N. Ishiwata, T. Sugibayashi, "Low-Current Perpendicular Domain Wall Motion Cell for Scalable High-Speed MRAM", 2009 Symposium on VLSI Technology Digest of Technical Papers, 12A-2
磁性細線における磁壁の移動は、供給する電流の電流密度が高いほど高速になる。しかしながら、このような電流密度の高い電流の供給を繰り返され続けると磁性細線が劣化する虞があり、MRAMの寿命が短くなる。
本発明は前記問題点に鑑み創案されたもので、供給する電流の電流密度を高くすることなく、高速な書込みを可能とする磁気メモリおよびその磁壁移動素子を提供することが課題である。
すなわち、本発明に係る磁壁移動素子は、垂直磁気異方性材料を細線状に形成してなる磁性細線を備え、前記磁性細線に電流を細線方向に供給されると、前記磁性細線に生成している磁壁が前記電流と逆向きに移動するものであって、前記磁性細線またはその細線方向延長線を上下から挟むように対向して互いに反発し合う磁界を発生させる2つ1組の磁界印加手段をさらに備え、前記磁界印加手段の組が前記磁界を発生させることによって、前記磁性細線に細線方向の磁界を印加する構造とする。
かかる構成により、磁壁移動素子は、供給する電流の電流密度に対して高速で書込みをすることができる。
本発明に係る磁気メモリは、前記磁壁移動素子をメモリセルに備える。かかる構成により、磁気メモリは、供給する電流の電流密度に対して高速で書込みをすることができる。
本発明に係る磁壁移動素子および磁気メモリによれば、供給する電流の電流密度を高くすることなく高速の書込みが可能となって磁性細線が劣化し難い。
本発明の第1実施形態に係る磁石付き磁壁移動素子の構造を説明する模式図である。 図1に示す磁石付き磁壁移動素子の磁壁移動素子の読出しの方法を説明する模式図である。 図1に示す磁石付き磁壁移動素子の磁石による磁界の印加を説明する模式図である。 シミュレーションにおける磁性細線と磁石の配置を説明する模式図である。 本発明の第1実施形態に係る磁石付き磁壁移動素子を模擬したサンプルの飽和磁束密度1Tの磁石による、x,y,zの成分別の磁界分布図であり、(a)は磁石のN極同士をz方向に2つ対向させたもの、(b)はS極同士をz方向に2つ対向させた組とN極同士をz方向に2つ対向させた組を+x方向に80nmピッチで配列したもの、(c)は(b)のx方向の配列を反転させたものである。 磁性細線における電流供給による磁壁の移動を説明する概念図である。 シミュレーションにおける磁性細線と磁石の配置を説明する模式図である。 シミュレーションによる、図7(a)に示す磁石を配置した磁性細線における電流供給時間推移による磁壁の移動距離を表すグラフである。 シミュレーションによる、図7(b)に示す磁石を配置した磁性細線における電流供給時間推移による磁壁の移動距離を表すグラフである。 シミュレーションによる、図7(a)に示す磁石を配置した磁性細線における電流供給による磁壁移動速度の、磁石の飽和磁束密度依存性を表すグラフである。 (a)、(b)は、図1に示す磁石付き磁壁移動素子の磁壁移動素子の書込みの方法を説明する模式図である。 (a)、(b)は、本発明の第1実施形態に係る磁石付き磁壁移動素子をメモリセルに備えた磁気メモリの等価回路図である。 本発明の第2実施形態に係る磁石付き磁壁移動素子の構造と書込みの方法を説明する模式図である。 シミュレーションによる、磁界を印加した磁性細線における電流供給時間推移による磁壁の移動距離を表すグラフである。 シミュレーションによる、磁界を印加した磁性細線における電流供給時間推移による磁壁の移動距離を表すグラフである。
以下、本発明に係る磁壁移動素子および磁気メモリを実現するための形態について、図面を参照して説明する。図面に示す磁壁移動素子および磁気メモリ、ならびにそれらの要素は、明確に説明するために、大きさや位置関係等を誇張していることがあり、また、形状や構造を単純化していることがある。
〔第1実施形態〕
本発明の第1実施形態に係る磁石付き磁壁移動素子(磁壁移動素子)10は、磁気抵抗ランダムアクセスメモリ(MRAM)のメモリセルの記憶素子であり、図1に示すように、磁壁移動素子1および8つの磁石(磁界印加手段)61f,61b,62f,62b,63f,63b,64f,64bを備える。磁壁移動素子1は、x方向(図の横方向)に長い細線状の磁性細線11と、磁性細線11のx方向両端における下面に接続する第1磁化固定層21および第2磁化固定層22と、磁性細線11のx方向中央における上面に順に積層した障壁層3および副磁化固定層23と、を備える。また、磁壁移動素子1は、第1磁化固定層21に第1電極51が、第2磁化固定層22に第2電極52が、副磁化固定層23に第3電極53が、それぞれ接続されている。また、磁壁移動素子1の磁性細線11に沿って+x方向に順に、磁性細線11の上側に磁石61b,61f,63f,63bが、下側に磁石62b,62f,64f,64bが、それぞれ配置され、上下各1つの2つずつが磁性細線11を間に挟んで互いに対向する。
(磁壁移動素子)
磁性細線11、第1磁化固定層21、第2磁化固定層22、および副磁化固定層23は、垂直磁気異方性材料からなり、MRAMの磁気抵抗効果素子であるCPP−GMR素子やTMR素子に用いられる公知の磁性材料を適用することができる。垂直磁気異方性材料は、具体的には、Fe,Co,Ni等の遷移金属とPd,Ptのような貴金属とを繰り返し積層したCo/Pd多層膜等の多層膜、Tb−Fe−Co,Gd−Fe等の希土類金属と遷移金属との合金(RE−TM合金)、L10系の規則合金としたFePt, FePd,CrPt3等が挙げられる。
磁性細線11は、磁壁移動素子1の主要部材であり、前記したようにx方向に長い細線状に形成され、図2に示すように、細線方向に2つの磁区D1,D2に分割されている。磁性細線11は、磁壁移動素子1の書込みにおいて、後記するように電気的手段によって、磁区D1,D2を区切る磁壁DWが細線方向に移動させられ、磁壁DWの移動の始点−終点間における磁化方向が移動の前後で変化する。そのために、磁性細線11は、前記の磁性材料から、保磁力が比較的大きくないものを適用されることが好ましい。磁性細線11は、細線方向にのみ磁区が分割され易いように、厚さ70nm以下、幅(細線幅、y方向長)300nm以下であることが好ましく、厚さおよび幅に対して十分に長い細線状に形成される。また、磁性細線11は、厚さと幅の積である断面積が小さいほど磁壁DWを移動させるための電流を小さくすることができる。一方、磁化の保持のために、磁性細線11はある程度の厚さおよび幅にすることが好ましく、具体的には、厚さが5nm以上、幅が10nm以上であることが好ましい。
障壁層3および副磁化固定層23は、磁性細線11と合わせた3層の積層構造からなるTMR素子を構成して、磁壁移動素子1の読出しとして、磁性細線11の磁化方向を検出するために設けられる。すなわち、磁性細線11の、障壁層3および副磁化固定層23の直下における領域(TMR素子部)が、前記TMR素子の磁化自由層となる。障壁層3は、公知のTMR素子の障壁層の絶縁膜であり、MgOが好ましく、厚さ3nm未満であることが好ましい。副磁化固定層23は、磁化方向を一方向に(図2では上向きに)設定、固定される。そのために、副磁化固定層23は、磁性細線11よりも保磁力が大きくなるように、前記の磁性材料から保磁力の大きいものを適用されることが好ましく、さらに十分な体積(厚さ、面積)に形成されていることが好ましく、y方向に磁性細線11の外側へ張り出して大きく形成されていてもよい。このような副磁化固定層23は、外部磁界を予め印加されることによって、磁化方向を設定される。副磁化固定層23の磁化方向に対して、磁性細線11のTMR素子部における磁化方向が同じ(平行、図2(a)参照)か逆向き(反平行、図2(b)参照)かで、第1電極51または第2電極52と第3電極53との間の抵抗の高さが変化する。したがって、磁壁移動素子1において、磁性細線11は、少なくともTMR素子領域全体が磁化反転するように、その両外側に磁壁DWの移動の始点、終点となる磁壁静止位置p1,p2を設定する。
第1磁化固定層21および第2磁化固定層22は、互いに異なる磁化方向に設定、固定されていて、磁性細線11の、当該磁化固定層21,22上に接続した領域に磁気的に結合して同じ磁化方向に固定するために設けられる。そのために、第1磁化固定層21および第2磁化固定層22は、磁性細線11よりも保磁力が大きくなるように、前記の磁性材料から保磁力の大きいものを適用されることが好ましく、さらに十分な体積(厚さ、面積)に形成されていることが好ましく、x方向やy方向に磁性細線11の外側へ張り出して大きく形成されていてもよい。図2においては、第1磁化固定層21が下向きの、第2磁化固定層22が上向きの磁化方向に、それぞれ設定されている。したがって、磁性細線11は、磁化方向が、第1磁化固定層21の直上の領域においては下向きに、第2磁化固定層22の直上の領域においては上向きに、それぞれ固定され、これら2つの領域に挟まれた領域(磁化反転可能領域1SW)においてのみ磁化方向を電気的手段で変化させられることができる。このような構成により、磁壁移動素子1は、その書込みの際に、磁性細線11において、磁壁DWが、目標とする静止位置である磁壁静止位置p1または磁壁静止位置p2を通過してさらに過剰に移動しようとしても、磁化反転可能領域1SW外に到達することがない。したがって、磁性細線11は、磁壁DWが消失して磁区D1のみまたは磁区D2のみの単磁区になることが防止される。なお、図2においては、磁壁静止位置p1,p2が、磁化反転可能領域1SWの内側に設定されているが、磁壁DWの移動限界位置である磁化反転可能領域1SWの両端に設定されてもよい。第1磁化固定層21および第2磁化固定層22は、副磁化固定層23と同様、外部磁界を予め印加されることによって、磁化方向を設定され、その際に互いに異なる磁化方向にするために、保磁力に差を設ける等、異なる構造とすることが好ましい。
第1電極51、第2電極52、および第3電極53は、Cu,Al,Au,Ag,Ta,Cr,Pt,Ru等の金属やその合金のような一般的な金属電極材料で形成される。電極51,52,53は、図1等では簡略化して線で表されるが、磁性細線11に供給する電流の大きさに対応した厚さや幅で、さらに磁化固定層21,22の下面や副磁化固定層23の上面に十分な面積で接続するように形成される。
(磁石)
磁石61fと磁石62f、磁石61bと磁石62b、磁石63fと磁石64f、磁石63bと磁石64bは、それぞれ2つで1組として、磁性細線11を間に挟んで上と下に配置され、磁壁移動素子1の書込み時に、磁性細線11に細線方向の磁界を印加する磁界印加手段である。そのために、同組の2つの磁石が互いに反発し合う同じ大きさの磁界を発生させる。詳しくは、磁石61f,61b,62f,62b,63f,63b,64f,64bは、それぞれが上向きまたは下向き(+z方向、−z方向)の所定の一方向の磁界をON/OFF自在に発生させるものであり、同じ構造とすることができるので、特定しない場合には磁石6と総称する。このような磁石6は、例えば、磁気記録ヘッドに適用される薄膜コイルや積層コイルを備える電磁石である(図示省略)。磁石6は、磁性細線11に対面させた磁極(コア)のy方向長が磁性細線11の細線幅以上であることが好ましい。なお、本明細書において磁石6の配置とは、磁性細線11に対面させた磁極の配置を指し、また、図面においては簡略化して磁極のみを表す。さらに、x方向に隣り合う磁石61fと磁石61bは、互いに逆向きの磁界を同時に発生させ、一方がN極を、他方がS極を、それぞれ磁性細線11に対面させている。したがって、磁石61f,61bをまとめて、適宜、磁石対61と称する。磁石62f,62b、磁石63f,63b、および磁石64f,64bもそれぞれ同様に、磁石対62、磁石対63、磁石対64と称する。
ここで、磁石61f,62f,61b,62bが磁界を発生させている状態について、図3、図4、および図5を参照して説明する。上下(z方向)に対向する磁石61f,62f同士、磁石61b,62b同士が、互いに反発し合う磁界+Hz,−Hzを発生させると、図3に磁力線として表すように、前記対向する磁石同士の中間点を含むxy面(z=0面と称する)に、前記中間点から放射状に広がる磁界が発生する。詳しくは、図4に示すように配置した磁石61f,62fについて実行したシミュレーションによれば、このz=0面においては、図5(a)に示すように、z成分の磁界が0となり、一方、前記中間点の近傍に、±x,±y各成分の磁界が生成される。なお、図5に表示する数値は磁界(単位:A/m)である。さらに、S極同士を対向させた磁石61b,62bとN極同士を対向させた磁石61f,62fとがx方向に狭い間隙を空けて並んで配置されていることにより、z=0面における前記間隙に、磁石61f,62f、磁石61b,62bの各1組のみによって生成される±x成分の磁界(図5(a)参照)に対して格段に大きな−x方向の磁界−Heffが発生する。この磁界−Heffは、図5(b)に示すように、特に、前記間隙の中心で最大となる。なお、シミュレーションにおける磁石6(61f,62f,61b,62b)は、x方向長LMが20nm、y方向長が60nm、飽和磁束密度が1Tの永久磁石である。そして、磁石61f−61b、磁石62f−62bの間隙Lgが60nm、対向する磁石61f,62f、磁石61b,62bの間隙dが50nmである。磁石63f,64f,63b,64bについても、図5(c)に示すように、同様に大きい+x方向の磁界+Heffがz=0面に発生する。したがって、磁石61f,62f,61b,62bおよび磁石63f,64f,63b,64bのそれぞれ2組は、その磁力に対して格段に大きな−x方向または+x方向の磁界を、z=0面に配置された磁壁移動素子1の磁性細線11に印加する。このように細線方向の磁界を印加することにより、後記するように電流供給による磁性細線11における磁壁DWの移動が高速になるので、磁壁移動素子1の書込み速度が高速になる。
磁石6のそれぞれが発生させる磁界+Hz,−Hz(適宜、まとめて磁界Hzと表す)が大きい、すなわち磁石6の磁力が強いほど、x方向の磁界−Heff,+Heff(適宜、まとめて磁界Heffと表す)が大きい。また、磁石対61の磁石61f−61b(適宜、2極と称する)間の距離(=間隙Lg)は、は、0超であれば特に最小値は規定されないが、磁壁DWの厚み(x方向長)以上であることが好ましい。また、x方向の大きな磁界Heffは、間隙Lgが過剰に長いと得られず、間隙Lgが短いほどより大きくなるが、一方で、この磁界Heffが発生する領域の長さ(=間隙Lg)が短いので、磁性細線11で磁壁DWが移動している時に磁界Heffを印加される期間が短くなって、その分、効果が低くなる。したがって、間隙Lgは、磁石6の磁力と併せて、磁壁移動素子1の寸法に応じて設計されることが好ましい。磁石対62,63,64の2極間も同様である。磁界−Heff,+Heffが大きいほど、磁性細線11における磁壁DWの移動が高速になるが、一方で逆向きの磁界も大きくなるので、後記するように、磁壁静止位置p1−p2間の距離を長くする必要があり、書込みにおける磁壁DWの移動距離が増大して、その分書込時間が長くなる。さらに、磁界−Heff,+Heffが過剰に大きいと、磁壁DWの電流供給による移動を阻害する。
細線方向の磁界−Heff,+Heffは、磁壁移動素子1の書込み時すなわち磁性細線11において磁壁DWを移動させている時に磁壁DWに印加され、少なくとも磁壁DWが移動を開始した時に印加されていることが好ましい。詳しくは、磁界−Heff,+Heffは、少なくとも、磁性細線11に磁壁DWを移動させるための電流の供給を開始した時から、この電流によって磁壁DWが電流と逆方向の移動を開始した時までの期間に印加されていることが好ましく、さらにその後、継続して印加されることがより好ましい。そのため、磁石61f,61b、磁石62f,62bはそれぞれ、x方向において、その2極間の距離Lg(図11(a)に示す領域F1)に、磁性細線11における磁壁DWの一方の静止位置を内包するように配置されることが好ましい。具体的には、磁石対61,62はその2極の間隙に、少なくとも目標とする静止位置である磁壁静止位置p1を内包することが好ましく、さらに静止位置の誤差を含めた範囲を内包することがより好ましい。本実施形態においては、磁界−Heffが最大となる2極の中間が磁壁静止位置p1となるように、磁石対61,62が配置されている。また、磁石61f,62fが磁壁DWの移動先である磁壁静止位置p2から適度に距離を空けるように配置されることが好ましい。磁石61f,62fが磁壁静止位置p2に近過ぎると、磁石61f,62fから外側に向けたすなわち+x方向の磁界が電流供給による移動終了後の磁壁DWに作用して、磁壁DWを磁壁静止位置p2から不要に移動させる場合がある。一方で、磁石61f,62fと磁壁静止位置p2の距離を過剰に空けると、磁壁静止位置p1−p2間の距離が長くなるので、その分書込時間が長くなる。磁石対61,62と同様に、磁石対63,64は、x方向において、その2極の中間が磁壁静止位置p2となるように配置され、また、磁石63f,64fが磁壁静止位置p1から適度に距離を空けるように配置されることが好ましい。
(磁性細線における電流供給による磁壁移動)
磁性細線における電流供給による磁壁移動について、図6を参照して説明する。図6では、磁性細線11(磁化反転可能領域1SW(図2参照))の磁壁DWを含む部分を細線方向(x方向)に拡大して表す。強磁性体からなる磁性細線11の磁区D1,D2間では、磁化方向が下向きから上向きに急激に切り換わらず、隣り合う磁気モーメントm,mを同じ向きに揃えようとする交換相互作用が働くため、磁壁DWに配列した磁気モーメントmが磁区D1側から磁区D2側へ少しずつ傾斜している。通常、垂直磁気異方性材料からなる厚さや幅の小さい磁性細線11は、図6(a)、(b)に示すように、磁壁DWにおける磁気モーメントmが、磁区D1における下向きから、磁壁面(yz面)に垂直な細線方向(x方向)に向けて傾斜して磁区D2において上向きとなるように、xz面内で180°回転する。さらにその際、磁気モーメントmが磁区D2側(右)に向く回転(図6(a)参照)と磁区D1側(左)に向く逆回りの回転(図6(b)参照)とが存在する。
このような磁壁DWが生成している磁性細線11に、磁区D2の側から−x方向に電流を供給すると、磁区D1の側から、磁区D1の下向きの磁気モーメントmにより同じ下向きのスピンを持つ電子e-が弁別されて偏って注入される。電子e-は、白抜き矢印で示すように電流の向きとは逆の+x方向に、磁区D1から磁壁DWを経由して磁区D2へ移動する。すると、電子e-は、磁壁DWにおいて、磁気モーメントmによって同じ向きに回転させられ、また、その際に角運動量が変化する。すなわち、図6(a)においては、電子e-は、磁壁DWを磁区D1側から磁区D2側へ、xz面内で反時計回りに180°回転しながら移動する。そして、磁気モーメントmに、角運動量保存則により電子e-から角運動量を受け渡されて、電子e-の回転と逆向きに回転する力が働き(スピントルクトランスファー効果)、磁性細線11に供給された電流の電流密度が閾値以上である場合には、磁気モーメントmが時計回りに回転する。その結果、見かけ上、磁壁DWが電子e-と同じ+x方向に移動して、後側の磁区D1が伸長し、前側の磁区D2が短縮する。図6(b)に示す磁壁DWにおいては、電子e-がxz面内で時計回りに回転しながら+x方向に移動し、その際に、磁気モーメントmが反時計回りに回転するので、同様に、見かけ上、磁壁DWが+x方向に移動する。また、注入される電子e-の数が多いほど、磁気モーメントmの回転角が大きくなるので、磁壁DWの移動距離が大きくなる。したがって、供給される電流の電流密度が高いほど、磁壁DWの移動が高速になる。そして、磁性細線11への電流供給のみによって磁壁DWを移動させる場合、電流の電流密度と供給時間によって、磁壁DWの移動距離が決定される。
さらに、磁性細線11に、細線方向(+x方向、−x方向)の磁界を印加しながら、電流を−x方向に供給したときの磁壁DWの移動を、スピントランスファートルク項を有するLLG(Landau-Lifshitz-Gilbert)方程式を用いたシミュレーションにより観察する。磁性細線11はここでは、厚さ20nm、幅60nm、長さ(x方向長)1500nmとし、磁気特性を、飽和磁化:0.25T、一軸異方性Hk:7.06×105A/m、交換スティフネス:1.2×10-11J/m、ギルバート減衰定数:0.02に設定した。シミュレーションのセルサイズは4×4×4nm3とした。また、磁界の影響をわかり易くするために、16すなわち8組の磁石6を、図7に示すように、x方向に等間隔に並べて配置し、1組ずつ交互に極性を入れ替えた。なお、図7では、図中左(磁壁DWの進行方向後方)から1、2組目の磁石6は省略する。磁石6のそれぞれは、図4および図5に示したシミュレーションと同様、x方向長LMが20nm、y方向長が60nmの永久磁石である。そして、x方向に並んだ磁石6−6の間隙Lgが60nm、対向する磁石6,6の間隙dが50nmである。磁性細線11には1つの磁壁DWがx方向略中心に生成し、サンプルAとして、図7(a)に示すように、磁壁DWが初期状態で、S極同士、N極同士が対向した2組の磁石6が後ろから前へ順に並んだ間隙の中心に配置されるように設定した。また、サンプルBとして、図7(b)に示すように、磁壁DWが、N極同士、S極同士が対向した2組の磁石6が後ろから前へ順に並んだ間隙におけるS極同士が対向した組の磁石6の後端に配置されるように設定した。サンプルAについては、磁石6の飽和磁束密度を、0.5T,1T,2Tの3通りに、サンプルBについては、磁石6の飽和磁束密度を1Tに、それぞれ設定した。また、比較例として、磁性細線11のみで磁石のない(飽和磁束密度0Tの)サンプル(ref.)を設定した。
各サンプルの磁性細線11に、その一端から−x方向に9.1×107A/cm2の電流を、パルス幅0.8nsのパルス電流として1パルス供給して停止し、すなわち0.8ns供給した。シミュレーションにより、磁性細線11全体の磁化の平均値を0.01ns毎に算出し、電流の供給開始時を0とした時間の経過に伴う磁性細線11の磁化の変化を表すグラフを図8(サンプルA)、図9(サンプルB)に示す。また、磁壁DWの+x方向の移動に伴い、下向きの磁化方向の磁区D1がx方向に拡張することから、磁性細線11の平均磁化から磁壁DWの移動距離を算出して、図8、図9にそれぞれ併記する。
図8に示すように、磁石6を設けない(飽和磁束密度0Tの)サンプルref.は、電流を供給されている0.8nsの間、磁壁DWが、+x方向に一定の速度(電流供給時移動速度)で移動した。これに対して、飽和磁束密度0.5T,1Tの磁石6により、電流の供給開始時に磁壁DWに−x方向の磁界が印加されるサンプルAは、電流の供給を開始されると、磁壁DWが、初めに、電流供給時移動速度よりも高速で移動し、その後、電流供給時移動速度よりも低速での移動に切り替わり、さらに再び高速での移動、と電流を供給されている間、移動速度を交互に切り替えながら+x方向に移動した。詳しくは、磁壁DWが、−x方向の磁界が印加されている期間は高速で、+x方向の特に大きな磁界が印加されている期間は低速で、それぞれ移動した。高速の移動速度が電流供給時移動速度に対して大幅に高速であるため、0.8ns経過時点の移動距離は、サンプルref.よりも長かった。また、これらのサンプルAは、電流の供給を停止した後も磁壁DWが移動し、電流の供給停止時の位置近傍で前進と後退を交互に繰り返しながらその移動距離(振幅)が漸減し、最終的には、高速で移動した領域における中心辺りに静止した。これは、磁壁DWが、磁気モーメントm(図6参照)に振動が残存した状態で、その近傍の磁石6から磁界を印加されたことで、磁気モーメントmが回転したことによると推測される。一方、飽和磁束密度2Tの磁石6を設けたサンプルAは、磁壁DWが、開始位置からその近傍で前進と後退を交互に繰り返しながらその移動距離(振幅)が漸減し、最終的に開始位置から移動しなかった。
図8に示すグラフから、磁壁DWの移動速度を近似的に求め、電流供給時移動速度を1とした、磁石の飽和磁束密度依存性のグラフを図10に示す。磁石の飽和磁束密度0.5T,1TのサンプルAについては、磁性細線平均磁化が約−0.03〜−0.04の範囲から高速の移動速度vHを、約−0.047近傍から低速の移動速度vLを得た。また、磁性細線平均磁化が−0.017(0ns)〜−0.057の範囲を移動するのに要した時間から、平均移動速度vAVEを算出した。磁石の飽和磁束密度2TのサンプルAについては、時間0〜0.02nsの範囲から高速の移動速度vHを得た。図10に示すように、磁石の飽和磁束密度が高い、すなわち印加磁界が大きいほど、磁壁DWの高速での移動速度がより高速になった。一方、印加磁界が大きいほど、磁壁DWの低速での移動速度がわずかに低速になる傾向が観察されたが、高速での移動速度の差に対して極めて小さかった。したがって、電流を供給した0.8nsの期間における磁壁DWの移動距離は、磁石の飽和磁束密度1T以下において、磁界が大きいほど長く、効果が高かった。
一方、図9に示すように、電流の供給開始時に磁壁DWに+x方向の磁界が印加されるサンプルBは、磁壁DWが、電流の供給開始直後に−x方向へ後退し、その後、+x方向に高速で移動し、以降は、サンプルAと同様に、電流を供給されている間、移動速度を交互に切り替えながら+x方向に移動した。詳しくは、磁壁DWが、+x方向の磁界が印加されている期間は高速で、−x方向の特に大きな磁界が印加されている期間は低速で、それぞれ移動した。
図8および図9から、磁性細線11に生成している磁壁DWは、磁性細線11の磁化容易軸(z方向)に直交する、細線方向の磁界を印加されることにより、電流の供給による移動速度が高速になって、移動距離を長くすることができる。さらに、電流の供給開始時に磁壁DWに印加されている方向と同じ方向の磁界によって、移動速度が高速になり、この磁界は、細線方向であれば、+x方向、−x方向のいずれでも効果がある。ただし、図9に示すように、電流の供給開始時に、磁壁DWを移動させようとする方向、すなわち電子e-の移動方向と同じ方向の磁界を印加されると、供給開始直後に磁壁DWが後退してから前進を開始する。したがって、磁壁DWを移動させる方向と逆向きの磁界を移動開始時の磁壁DWに印加するように、磁石6を配置することが好ましい。
(磁石付き磁壁移動素子の書込方法)
本実施形態に係る磁石付き磁壁移動素子の書込方法について、図11、および適宜図2を参照して説明する。なお、図11においては、磁壁移動素子1の障壁層3および副磁化固定層23を省略する。まず、図2(a)に示す、磁壁DWが磁性細線11の磁壁静止位置p1に静止している状態から、図2(b)に示すように磁壁静止位置p2に静止した状態に遷移させる。磁石61f,61b,62f,62bのコイルに所定の大きさの電流を供給して磁界を発生させて、図11(a)に示すように、−x方向の磁界−Heffを磁性細線11の磁壁静止位置p1近傍領域に印加する。なお、このとき、磁石63f,63b,64f,64bは、コイルに電流を供給されておらず、磁界を発生させていないことから破線で表す。そして、第1電極51を「−」、第2電極52を「+」として、磁化固定層21,22を経由して磁性細線11に電流Iwを−x方向に供給する。これにより、下向きのスピンを持つ電子e-が磁性細線11の磁区D1に注入されて+x方向に移動する。図6を参照して説明したように、磁性細線11における電子e-の移動に伴い磁壁DWが+x方向に移動するが、磁界−Heffが印加されている領域F1を移動する期間は、電流Iwの供給のみによる磁壁DWの移動速度(以下、電流供給時移動速度と称する)よりも高速で移動する。
磁壁DWは、領域F1を通過して、さらに磁石61f,62f間を通過すると、磁石61f,62fにより+x方向の磁界+Heff´を印加されることにより、電流供給時移動速度よりも低速に移動速度が変化する。磁壁DWは、この磁界+Heff´を印加される領域F2を通過すると、電流供給時移動速度で、または電流供給時移動速度よりも高速で移動する。このとき、磁壁DWは、磁界が+x方向、−x方向共に印加されていないが、領域F1を移動した時に印加された磁界−Heffが十分に大きい場合、磁気モーメントの残存している振動が電子e-のスピントルクによる回転を回復させて、領域F1を移動していた時の状態にある程度近付くと推測される。その後は、磁壁DWの移動と共に時間が経過して磁気モーメントの回転の振動が減衰して、次第に減速して電流供給時移動速度に近付き、最終的には電流供給時移動速度で移動する。そして、磁壁DWが磁壁静止位置p2に到達する時点に合わせて電流Iwの供給を停止すると、磁壁DWが、移動を停止して磁壁静止位置p2で静止する。さらに、磁石6のコイルへの電流の供給を停止して、磁界の印加を停止する。
本実施形態に係る磁石付き磁壁移動素子10においては、磁壁DWの移動が一時的に減速するが、その原因である+x方向の磁界+Heff´が磁界−Heffよりも小さいため、磁壁静止位置p1−p2間全体の移動は電流供給時移動速度での移動よりも短時間で完了する。なお、電流Iwの供給を停止した時点で磁壁DWが領域F2から退出していないと、電流Iwの供給を停止した瞬間に、磁気モーメントが、電子e-のスピントルクを受けなくなったことで、残留する振動と磁界+Heff´によって逆向きに回転して−x方向に後退する等、振動が消失するまで静止しない場合がある。その結果、磁壁DWの静止位置を電流Iwの供給時間で正確に制御することが困難になる。
図2(b)に示す、磁壁DWが磁性細線11の磁壁静止位置p2に静止している状態から、図2(a)に示すように磁壁静止位置p1に静止した状態に遷移させるためには、磁石63f,63b,64f,64bのコイルに電流を供給して、図11(b)に示すように、+x方向の磁界+Heffを磁性細線11の磁壁静止位置p2近傍領域に印加する。このとき、磁石61f,61b,62f,62bは、磁界を発生させていないことから破線で表す。そして、第1電極51を「+」、第2電極52を「−」として、磁化固定層21,22を経由して磁性細線11に電流Iwを+x方向に供給する。これにより、上向きのスピンを持つ電子e-が磁性細線11の磁区D2に注入されて−x方向に移動する。すると、磁壁DWが図11(a)に示す+x方向の移動とは、移動方向が−x方向に反転する以外は同様の挙動で移動する。すなわち、磁壁DWに磁界+Heffが印加されている領域F3を移動する期間は、電流供給時移動速度よりも高速で移動し、−x方向の磁界−Heff´が印加されている領域F4を移動する期間は、電流供給時移動速度よりも低速で移動し、さらに領域F4を通過した後は再び高速で移動して、その後次第に減速して電流供給時移動速度に近付く。そして、磁壁DWが磁壁静止位置p1に到達する時点に合わせて電流Iwの供給を停止すると、磁壁DWが磁壁静止位置p1で静止し、さらに磁石6のコイルへの電流の供給を停止する。
このように、磁性細線11に供給する電流Iwの向きに合わせて、磁石61f,61b,62f,62bまたは磁石63f,63b,64f,64bに磁界を発生させることにより、磁壁DWを高速で移動させて書込時間を短縮することができる。なお、磁性細線11は、電流Iwを供給されている時には常に磁界−Heff,+Heffの所定の一方を印加されているようにする。すなわち、所定の4つの磁石6は、電流Iwの供給開始と同時にまたはその前にコイルへの電流の供給を開始され、電流Iwの供給終了と同時にまたはその後にコイルへの電流の供給を停止される。また、書込みにおける磁壁DWの移動距離(磁壁静止位置p1−p2間距離)が数十nm〜1μm程度であれば、電流密度等にもよるが、電流Iwの供給時間は0.1ns〜100ns程度であり、このような極めて短時間の直流電流を供給するために、パルス電流が好ましい。
(磁気メモリ)
磁石付き磁壁移動素子10は、図12(a)に示す磁気メモリ90に配列されたメモリセル9の磁気抵抗効果素子として搭載される。なお、図12(a)および図12(b)においては、簡潔に説明するために、2列×2行の4つのメモリセル9(9A)を示し
、また、磁壁移動素子1を、抵抗器と可変抵抗器の図記号を組み合わせて表す。また、磁石対61,62,63,64をそれぞれ1つの電磁石の図記号で表す。メモリセル9は、磁石付き磁壁移動素子10と共に、磁壁移動素子1の第1電極51に接続するトランジスタ71と、第2電極52に接続するトランジスタ72と、を備える。磁気メモリ90においては、トランジスタ71を経由して第1電極51に接続するビット線BLTと、トランジスタ72を経由して第2電極52に接続するビット線BLBと、を行方向に延設し、同じメモリセル9のトランジスタ71,72の各ゲートに共通して入力するワード線WLを列方向に延設する。また、第3電極53は、GND(0V)に接続される。さらに磁気メモリ90は、磁石対61,62に共通して接続する配線ML1P,ML1N、磁石対63,64に共通して接続する配線ML2P,ML2Nを備える。なお、磁気メモリ90におけるメモリセル9の配列方向(行方向、列方向)と磁石付き磁壁移動素子10のx,y方向とは一致していなくてよく、例えば、x方向(磁性細線11の細線方向)がメモリセル9の配列方向に対して45°傾斜していてもよい。また、磁石付き磁壁移動素子10は、磁壁移動素子1(磁性細線11)に電流が供給されていなければ磁壁DWが移動せず書込みがされないので、非選択のメモリセル9で磁石対61,62や磁石対63,64がON状態であっても誤書込み等がない。したがって、磁気メモリ90は、配線ML1P,ML1N,ML2P,ML2Nを列方向(または行方向)に延設して、書込みを選択したメモリセル9と同列の磁石対61,62または磁石対63,64を同時にON状態とする。あるいは磁気メモリ90は、選択したメモリセル9に限定して所定の4つの磁石6をON状態とするように、配線ML1P,ML1N,ML2P,ML2Nとの接続/切断を切り換えるためのトランジスタまたはダイオードをメモリセル9に備えてもよい(図示せず)。
トランジスタ71,72は、例えばMOSFET(金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)であり、Si基板の表層に形成される。したがって、Si基板を土台として、メモリセル9を配列することができる。ビット線BLT,BLB、ワード線WL、および配線ML1P,ML1N,ML2P,ML2Nは、電極51,52,53と同様に金属電極材料で形成される。また、これらの配線間や隣り合うメモリセル9,9のそれぞれの磁性細線11同士等の間隙には、SiO2やAl23等の、半導体素子に設けられる公知の無機絶縁材料が充填される。
磁気メモリ90の書込みは、ビット線BLT,BLBで直流パルス電流を供給し、前記パルス電流の向きに応じて、配線ML1P,ML1Nまたは配線ML2P,ML2Nで、磁石対61,62または磁石対63,64のコイルに所定の大きさの磁界Hzを発生させる電流を供給し、さらにワード線WLでゲート電圧を印加する。なお、ビット線BLT,BLBでは連続電流を供給し、ワード線WLでゲート電圧をパルス入力してもよい。また、磁気メモリ90の読出しは、書込みと同様にワード線WLでゲート電圧を印加する一方、負極をGNDに接続した定電流源の正極にビット線BLT,BLBを共に接続することで、磁壁移動素子1の電極51,52から第3電極53へ定電流を供給する。
あるいは、磁石付き磁壁移動素子10は、図12(b)に示す磁気メモリ90Aのメモリセル9Aに搭載されてもよい。メモリセル9Aは、磁石付き磁壁移動素子10と共に、磁壁移動素子1の第1電極51に接続するトランジスタ71と、第3電極53に接続するダイオード73と、を備える。磁気メモリ90Aにおいては、第2電極52が直接にビット線BLBに接続し、ダイオード73を経由して第3電極53に接続する読出ビット線RBLを列方向に延設する。このような構造の磁気メモリ90Aは、磁気メモリ90と同様に書込みをすることができる。一方、磁気メモリ90Aの読出しは、ゲート電圧を印加せず、ビット線BLBと読出ビット線RBLに定電流源(図示省略)を接続して、磁壁移動素子1の第2電極52から第3電極53へ定電流を供給する。
(変形例)
磁石付き磁壁移動素子10の磁壁移動素子1は、磁化固定層21,22の下面や副磁化固定層23の上面等の、最下面および最上面に、必要に応じて、非磁性金属からなる厚さ1〜10nm程度の下地膜や保護膜を備えてもよい。また、磁壁移動素子1は、磁性細線11と磁化固定層21,22との界面に、Ru,Ta等の非磁性金属からなる厚さ1〜10nm程度の磁気結合膜を設けてもよい。また、磁壁移動素子1は、障壁層3および副磁化固定層23が、磁化固定層21,22と同じく磁性細線11の下側に積層されていてもよく、また、第1磁化固定層21と第2磁化固定層22が磁性細線11の上面と下面に接続されていてもよい。また、磁壁移動素子1は、磁性細線11が磁壁静止位置p1,p2からそれぞれの端まで十分な長さを有する等、書込みにおいて磁壁DWが過剰に移動して消失する虞がなければ、磁化固定層21,22を設けなくてよく、この場合、磁性細線11がその両端近傍に第1電極51と第2電極52を直接に接続される。また、磁性細線11の細線の形状は、直線に限られず、磁壁DWの移動を妨げないような緩やかな曲線を含む形状であってもよい。この場合には、磁壁静止位置p1,p2において細線方向の磁界−Heff,+Heffが印加されるように、磁石61f,61b,62f,62b、および磁石63f,63b,64f,64bをそれぞれ配置する(以上、図示せず)。
上下に対向して組をなす磁石6,6同士は、磁性細線11から等距離に離間していなくてもよく、距離の離れている方が大きい磁界を発生させて、磁性細線11においてz成分の磁界が0になって、xy面内方向の磁界が生成されるように設計されればよい。また、磁界−Heff,+Heffが磁壁静止位置p1,p2に印加されればよいので、例えば、磁壁移動素子1の寸法が磁石6に対して小さい場合、両端の磁石61b,62bおよび磁石63b,64bは、磁性細線11に対面せず、磁性細線11の細線方向延長線沿いに配置されていてもよい。さらに、磁気メモリ90(90A)がx,y方向にメモリセル9(9A)を配列している場合に、x方向に隣り合う2つのメモリセル9,9の磁石付き磁壁移動素子10,10の一方の端の磁石61b,62bと他方の端の磁石63b,64bとが共有されていてもよい。また、磁石6が、それぞれの磁極をy方向に長く(幅広に)形成して、y方向に隣り合う2以上のメモリセル9のそれぞれの磁石付き磁壁移動素子10で共有されていてもよい。
また、磁石付き磁壁移動素子10は、8つの磁石6のそれぞれの一方の極のみを磁性細線11に対面させる構成としているが、4つの磁石を備えて、それぞれの2極を共に磁性細線11に対面させる構成としてもよい。すなわち、磁石付き磁壁移動素子10は、磁石対61,62,63,64がそれぞれ1つの電磁石で構成され、それぞれの2極が共に磁性細線11に等距離を空けて対面するように、両端を前記2極とするコアをU字型等に形成される。このような構造の電磁石によれば、内部で閉磁路を形成するので、2極間の外側へは磁界が漏れ難い。したがって、磁界−Heff,+Heffがいっそう大きくなり、さらに逆向きの磁界(+Heff´,−Heff´)が抑制される。
また、磁石付き磁壁移動素子10は、磁石61f,61b,62f,62bまたは磁石63f,63b,64f,64bのいずれかのみの4つを備えてもよい。このような磁石付き磁壁移動素子10は、磁壁DWの高速移動が一方向のみとなる一方、簡易な構造となる。例えば、磁気メモリ90(90A)において、すべてのメモリセル9における磁壁移動素子1を同時に同じ方向に磁壁DWを電流供給時移動速度で移動させて、その後、メモリセル9を1列ずつ書き換える際に、磁壁DWを高速で移動させる。このような書込方法によれば、磁石付き磁壁移動素子10が8つの磁石6を備える場合に対して、磁気メモリ90全体の書込時間はほとんど変化しない。
〔光変調素子、空間光変調器〕
磁石付き磁壁移動素子10は、磁壁移動素子1の磁性細線11にGd−Fe等の磁気光学材料を適用して、光変調素子とすることができる。この場合には、磁壁移動素子1の障壁層3および副磁化固定層23は不要である。あるいは、障壁層3および副磁化固定層23が、磁化固定層21,22と同じ磁性細線11の下側に積層されて、磁性細線11の磁壁静止位置p1−p2間に光が入射するようにする。さらに、磁石61f,62fと磁石63f,64fとの間を十分に空けて開口領域とする。また、磁性細線11の幅および開口領域のx方向長は、入射光の波長にもよるが、200〜300nm程度以上であることが好ましい。さらに、磁性細線11の厚さが大きいほど光変調度が高くなる。このような磁石付き磁壁移動素子10を配列して空間光変調器を構成する場合には、図12(b)に示す磁気メモリ90Aからダイオード73と読出ビット線RBLを削除すればよい。
以上のように、本発明の第1実施形態に係る磁石付き磁壁移動素子によれば、電流を大きくせずに書込みが高速化されるので、磁性細線が劣化し難く長期の使用が可能となる。さらに、磁性細線の1つの磁壁静止位置を細線方向に挟んだ2箇所のそれぞれに上下1組の磁石を配置した構造として、大きな磁界を発生させるため、磁石の磁力を大きく設計しなくてよい。
〔第2実施形態〕
磁石付き磁壁移動素子の、磁性細線を挟んで対向する上下1組の磁石は、この1組でxy面内に放射状の磁界を発生させ、すなわち+x方向、−x方向の磁界が含まれる。以下、磁壁静止位置毎に1組の電磁石を設けた本発明の第2実施形態に係る磁石付き磁壁移動素子について、図13を参照して説明する。第1実施形態(図1〜12参照)と同一の要素については同じ符号を付し、説明を省略する。
図13に示すように、本発明の第2実施形態に係る磁石付き磁壁移動素子10Aは、磁壁移動素子1および4つの磁石(磁界印加手段)61A,62A,63A,64Aを備える。磁壁移動素子1は、第1実施形態にて図2を参照して説明した通りであり、図13においては、磁壁移動素子1の障壁層3および副磁化固定層23を省略する。
磁石61Aと磁石62A、磁石63Aと磁石64Aの組はそれぞれ、磁性細線11を間に挟んで上と下に配置され、磁壁移動素子1の書込み時にいずれか一組が同時に磁界を発生させる。磁石61A,62A,63A,64Aは、いずれもS極を磁性細線11に対面させ、したがって、それぞれ第1実施形態に係る磁石付き磁壁移動素子10の磁石61b,62b,63b,64bに相当する。このような構成により、図3に示す磁石61b,62bのように、対向する磁石61A,62A(63A,64A)同士の中間点を含むxy面(z=0面)に、前記中間点に放射状に集中する磁界が発生する。この磁界は、前記中間点から遠ざかるにしたがい小さくなり、平面(xy面)視で磁石61A,62AのS極の外縁において最大となる。したがって、磁石付き磁壁移動素子10Aは、平面視で、磁石61A,62Aを、磁性細線11の磁壁静止位置p1の外側(−x方向側)の磁化反転可能領域1SW(図2参照)外に、かつ磁石61A,62Aの外縁が磁壁静止位置p1近傍となる位置に配置することが好ましい。このように配置された磁石61A,62Aによって、磁壁静止位置p1に静止している磁壁DWに−x方向の比較的大きな磁界−Heffが印加される。同様に、磁石63A,64Aを、磁壁移動素子1の磁壁静止位置p2の外側(+x方向側)の磁化反転可能領域1SW外に配置することが好ましい。なお、本実施形態において、磁石61A,62A,63A,64Aは、発生させる磁界Hzの大きさ(磁力)に対して、磁性細線11に印加される磁界−Heff,+Heffが第1実施形態と比較して大きくないので、十分に強い磁力を発生させるように設計される。
(磁石付き磁壁移動素子の書込方法)
本実施形態に係る磁石付き磁壁移動素子の書込方法について、図13、および適宜図2を参照して説明する。まず、図2(a)に示す、磁壁DWが磁性細線11の磁壁静止位置p1に静止している状態から、図2(b)に示すように磁壁静止位置p2に静止した状態に遷移させる。磁石61Aと磁石62Aのコイルに電流を供給して磁界を発生させて、図13(a)に示すように、−x方向の磁界−Heffを磁性細線11の磁壁静止位置p1近傍領域に印加する。このとき、磁石63A,64Aは、磁界を発生させていないことから破線で表す。そして、第1実施形態(図11(a)参照)と同様に、第1電極51を「−」、第2電極52を「+」として、磁性細線11に電流Iwを−x方向に供給することにより、電子e-を磁性細線11の磁区D1に注入して+x方向に移動させると、磁壁DWが+x方向に移動する。磁壁DWは、磁界−Heffが印加されている領域を移動する期間は、電流供給時移動速度よりも高速で移動し、この領域を通過した後は、次第に減速して電流供給時移動速度に近付く。そして、磁壁DWが磁壁静止位置p2に到達する時点に合わせて電流Iwの供給を停止すると、磁壁DWが、移動を停止して磁壁静止位置p2で静止する。さらに、磁石61A,62Aのコイルへの電流の供給を停止して、磁界の印加を停止する。
本実施形態に係る磁石付き磁壁移動素子10Aにおいては、磁壁DWは、+x方向への移動中に移動を阻害する+x方向の磁界を印加されることがないため、磁石61A,62Aと磁壁静止位置p2との距離を大きく空けなくても、第1実施形態のように、電流Iwの供給停止直後に磁壁DWが後退する虞がない。ただし、磁界−Heffが印加されている領域を磁壁DWが移動している時に電流Iwの供給を停止すると、停止後にさらに+x方向へ前進する場合がある。したがって、磁壁静止位置p1−p2間距離が短い場合には、磁性細線11の磁壁静止位置p1,p2から端までにおける磁化方向を固定するために、磁壁移動素子1が第1磁化固定層21および第2磁化固定層22を備えることが好ましい。
図2(b)に示す、磁壁DWが磁性細線11の磁壁静止位置p2に静止している状態から、図2(a)に示すように磁壁静止位置p1に静止した状態に遷移させるためには、磁石63Aと磁石64Aのコイルに電流を供給して、図13(b)に示すように、+x方向の磁界+Heffを磁性細線11の磁壁静止位置p2近傍領域に印加する。このとき、磁石61A,62Aは、磁界を発生させていないことから破線で表す。そして、第1実施形態(図11(b)参照)と同様に、第1電極51を「+」、第2電極52を「−」として、磁性細線11に電流Iwを+x方向に供給することにより、電子e-を磁性細線11の磁区D2に注入して−x方向に移動させる。すると、磁壁DWが図13(a)に示す+x方向の移動とは、移動方向が−x方向に反転する以外は同様の挙動で移動する。すなわち、磁壁DWに磁界+Heffが印加されている領域を移動する期間は、電流供給時移動速度よりも高速で移動し、この領域を通過した後は、次第に減速して電流供給時移動速度に近付く。そして、磁壁DWが磁壁静止位置p1に到達する時点に合わせて電流Iwの供給を停止すると、磁壁DWが磁壁静止位置p1で静止し、さらに磁石63A,64Aのコイルへの電流の供給を停止する。このように、第1実施形態と同様に、磁性細線11に供給する電流Iwの向きに合わせて、磁石61A,62Aまたは磁石63A,64Aに磁界を発生させることにより、磁壁DWを高速で移動させて書込時間を短縮することができる。
(磁気メモリ、光変調素子および空間光変調器)
磁石付き磁壁移動素子10Aは、磁石付き磁壁移動素子10と同様に、図12(a)、(b)に示す磁気メモリ90,90Aに配列されたメモリセル9,9Aの磁気抵抗効果素子として搭載される。また、磁石付き磁壁移動素子10Aは、光変調素子として、配列して空間光変調器を構成することができる。なお、磁気メモリ90(90A)がx,y方向にメモリセル9(9A)を配列している場合に、x方向に隣り合う2つのメモリセル9,9の磁石付き磁壁移動素子10A,10Aの一方の磁石61A,62Aと他方の端の磁石63A,64Aとが共有されていてもよい。また、第1実施形態と同様、61A,62A,63A,64Aが、それぞれの磁極をy方向に長く(幅広に)形成して、y方向に隣り合う2以上のメモリセル9のそれぞれの磁石付き磁壁移動素子10Aで共有されていてもよい。
以上のように、本発明の第2実施形態に係る磁石付き磁壁移動素子によれば、第1実施形態と同様に書込みが高速化され、かつ長期間の使用が可能となり、さらにサイズを縮小し易い。
本発明の効果を確認するために、本発明の第1実施形態に係る磁石付き磁壁移動素子を模擬したサンプルによる、スピントランスファートルク項を有するLLG(Landau-Lifshitz-Gilbert)方程式を用いたシミュレーションを実行した。磁壁移動素子に代えて、厚さ20nm、幅60nm、長さ(x方向長)1500nmの磁性細線のみのサンプルとし、磁性細線の磁気特性は、飽和磁化:0.25T、一軸異方性Hk:7.06×105A/m、交換スティフネス:1.2×10-11J/m、ギルバート減衰定数:0.02に設定した。また、シミュレーションのセルサイズは4×4×4nm3とした。そして、図4に示すように、磁性細線11を間に挟んでz方向に2つの永久磁石(磁石6)のS極同士を対向させた組(61b,62b)を磁壁DWの−x方向側に、N極同士を対向させた組(61f,62f)を磁壁DWの+x方向側に、計2組4つ配置した。磁石は、y方向長が磁性細線11と同じ60nm、x方向長LMが20nmであり、対向する磁石同士(N極同士、S極同士)の間隙dが50nm、2組の磁石の間隙Lgが60nmである。また、磁性細線11に生成された1つの磁壁DWが、初期状態で2組の磁石の間隙の中心に配置されているように設定した。磁石の飽和磁束密度が0.5T,1T,2Tの3通りのサンプル(No.1〜3)を設定し、また、比較例として、磁石のない(飽和磁束密度0Tの)サンプル(No.5)を設定した。
各サンプルの磁性細線に、その一端から−x方向に9.1×107A/cm2の電流を、パルス幅0.8nsのパルス電流として1パルス供給して停止し、すなわち0.8ns供給した。また、磁石の飽和磁束密度1Tのサンプルで電流を供給しない場合(No.4)についてもシミュレーションを実行した。シミュレーションにより、磁性細線全体の磁化の平均値を0.01ns毎に算出し、電流の供給開始時を0とした時間の経過に伴う磁性細線の磁化の変化を表すグラフを図14に示す。また、磁壁の+x方向の移動に伴い、下向きの磁化方向の磁区がx方向に拡張することから、磁性細線の磁化から磁壁の移動距離を算出して、図14に併記する。
また、飽和磁束密度1Tの磁石の間隙Lgを20nm、80nmに変化させたサンプル(No.6,7)についても、同様にパルス電流を供給したシミュレーションを実行した。これらのサンプルも、磁壁DWが、初期状態で2組の磁石の間隙の中心に配置されているように設定した。間隙Lgが60nmのサンプル(No.2)、および磁石のないサンプル(No.5)と共に、磁性細線の磁化の変化を表すグラフを図15に示す。
図14に示すように、飽和磁束密度0.5T,1Tの磁石を設けて電流を供給すると、磁壁DWが、移動開始位置(2組の磁石の間隙の中心)から+x方向側の1組の磁石の近傍まで、磁石のない比較例(No.5)よりも高速で移動し、一旦、低速になってから再び高速で移動して、その後、次第に減速して比較例の移動速度に近付き、電流を供給している間、+x方向に移動することが観察された。また、高速での移動速度は、磁石の飽和磁束密度が高いほど、すなわち磁界が大きいほど高速であった。ただし、飽和磁束密度2Tの磁石を設けたサンプル(No.3)は、磁壁DWが、開始位置からその近傍で前進と後退を交互に繰り返しながらその移動距離(振幅)が漸減し、最終的に開始位置から移動しなかった。なお、磁石の飽和磁束密度0.5Tのサンプル(No.1)は、電流の供給停止後に磁壁DWが後退して、再び前進した。これは、電流の供給を停止した時点で、磁壁DWが+x方向側の1組の磁石に近いために磁界の影響を受けたことに起因すると推測される。また、磁石を設けても電流を供給しなければ(No.4)磁壁DWが移動しないことが観察され、磁石による外部磁界自体は磁壁DWを移動させるものではない。このように、磁性細線11の磁壁DWが生成している領域に局所的に細線方向の磁界を印加することにより、電流供給による磁壁DWの移動速度が高速になり、また、磁壁DWが磁界を印加される領域から退出した後もある程度の期間、その効果が持続することが確認された。
また、図15に示すように、2組の磁石の間隙Lgが20〜80nmの範囲においては間隙が長いほど、磁壁DWが高速で移動する領域が長くなるので、電流を供給していた0.8nsで移動した距離が長くなる。ただし、2組の磁石の間隙Lgが80nm(No.7)の場合には、電流の供給停止後に磁壁DWが後退して、開始位置近傍で前進と後退を交互に繰り返した。これは、電流の供給を停止した時点で、磁壁DWが+x方向側の1組の磁石に近いために磁界の影響を受けたことに起因すると推測され、電流の供給時間を2.0nsに延長して(No.8)磁壁DWの電流による移動距離を長くすると、磁壁DWが電流の供給停止時からほぼ移動しないことが観察された。
以上、本発明に係る磁壁移動素子および磁気メモリを実施するための各実施形態について述べてきたが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。
10,10A 磁石付き磁壁移動素子(磁壁移動素子)
1 磁壁移動素子
11 磁性細線
61f,61b,61A 磁石(磁界印加手段)
62f,62b,62A 磁石(磁界印加手段)
63f,63b,63A 磁石(磁界印加手段)
64f,64b,64A 磁石(磁界印加手段)
90,90A 磁気メモリ
9,9A メモリセル

Claims (5)

  1. 垂直磁気異方性材料を細線状に形成してなる磁性細線を備え、前記磁性細線に電流を細線方向に供給されると、前記磁性細線に生成している磁壁が前記電流と逆向きに移動する磁壁移動素子であって、
    前記磁性細線またはその細線方向延長線を上下から挟むように対向して互いに反発し合う磁界を発生させる2つ1組の磁界印加手段をさらに備え、前記磁界印加手段の組が前記磁界を発生させることによって、前記磁性細線に細線方向の磁界を印加することを特徴とする磁壁移動素子。
  2. 前記磁界印加手段の組を、前記磁性細線の細線方向に2以上備え、
    前記磁界印加手段の2つの組は、同時に互いに逆向きの磁界を発生させることを特徴とする請求項1に記載の磁壁移動素子。
  3. 前記磁界印加手段の組は、前記細線方向の磁界を、少なくとも、前記磁性細線に予め設定された磁壁の静止位置に印加することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の磁壁移動素子。
  4. 前記垂直磁気異方性材料が磁気光学材料であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の磁壁移動素子。
  5. 請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の磁壁移動素子をメモリセルに備える磁気メモリ。
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