発明の詳細な説明
[関連出願の相互参照]
本願は、2014年10月13日に出願された米国仮特許出願第62/063,023号の利益を主張し、該出願の内容を参照により本願に援用する。
[技術分野]
本開示は、二次イオン質量分析計の一次イオン源、及びそのようなイオン源の作成方法に関する。
[背景]
二次イオン質量分析(SIMS)は、広く利用されている表面及び薄膜の分析手法であり、半導体産業、地球化学や材料研究、及び他の技術分野で幅広い用途が見出されている。500を超える市販機器が世界中に存在している。この手法では、試料表面から原子を「スパッタする」エネルギーイオンビーム(「一次」イオンビーム)を試料に照射することによって、分析信号が生成される。5〜15keVの一次イオンの各々の衝突により、ターゲット表面から少数の原子が放出される。放出された原子のうちのわずかな量が放出時にイオン化され、これらの「2次」イオンが加速されて質量分析計に導入され、質量分析されることによって、試料の化学的構成や同位体構成についての情報が得られる。
二次イオン生成の効率は、ターゲット表面に注入されてその表面の化学的構造を変化させる、化学的に活性な一次イオン種を用いることによって高めることができる。一次イオン種としては、正の二次イオン収率を上げるためには酸素等の電気的陰性の一次イオン種が使用され、また、陰イオン収率(つまり、電気陰性な種の負の二次イオン)を上げるためにはセシウムイオン等の電気的陽性の一次イオン種が使用される。
SIMS法は、水素からウランまたはそれ以上までのほぼ全ての元素に対して極めて高い感度(例えば、多くの元素に対して検出限界がppbレベル)と、横方向分解能が高い(例えば現在では50nmまで)画像化と、高ダイナミックレンジを可能にする非常に低いバックグラウンド(例えば5ディケードより大きい)との特有の組合せをもたらす。この手法は、材料をスパッタしてイオン信号を生成することを含んでいるので、本質的に「破壊的」である。この手法は、真空下に耐えられるいかなる種類の材料(絶縁体、半導体、金属)にも適用可能である。
SIMS法の主な長所の1つは、微量分析手法を具体化していることである。一次イオンビームは小さいスポットに集束可能であるので、極めて小さい領域に対して化学分析を実施可能である。あるいは、イオン信号を監視しながら、集束されたビームを試料表面上でラスター化することにより、優れた空間分解能で試料表面の化学的画像や同位体画像を生成可能である。
現在、典型的な画像化の実行方法は、現在の価格が約400万ドルである(フランスのパリにあるカメカ社によって製造された)NanoSIMSと称される機器内で行われる。この機器は、一次イオンビームを試料表面で可能な限り小さなスポットに集束することを目的とする、精密に設計された一次イオン光学部を有している。工場製イオン源による仕様上の最小ビーム寸法は50nmであり、通常は試料での値が0.25ピコアンペア(pA)までのビーム電流を用いて得られる。
NanoSIMS機器の工場製イオン源の設計を図1Aに概略的に図示する。イオン源1は、完全に金属、主にモリブデンで製造されているが、イオン化部7の一部はタングステンで製造されている。イオン源1は、搭載柱2と、搭載柱2で支持され、セシウム塩(例えば炭酸セシウム)を保持するように配置された貯留部空洞3Aを含む、加熱モリブデン貯留部本体3と、(貯留部の一部分として機能する幅広台部6を含む)モリブデン細管アセンブリ5と、炭酸セシウム蒸気を貯留部から細管を介して受け入れるように配置された強加熱イオン化部7とを含んでいる。細管アセンブリ5は、炭酸セシウム蒸気を加熱貯留部本体3から強加熱イオン化部7へと供給し、また、貯留部本体3とイオン化部7との間で、ある程度の熱的分離も行う。貯留部本体3の外縁部は傾斜面3Bを含んでいる。細管アセンブリ5の幅広台部6の境界面6Aは、貯留部本体3の傾斜面3Bに当接するように配置されている。貯留部本体3は雄ネジ加工され、幅広台部6の周囲に嵌まってスエージ型封止を形成する、雌ネジ加工された封止キャップネジ4を受けるように配置されている。モリブデン幅広台部6とモリブデン貯留部本体3との間の封止はこのイオン源1にとって非常に重要な課題である。その理由は、漏れがあると電子衝撃加熱システムの性能が低くなり、最終的には画像にノイズが生じてしまうからである。工場製イオン源1で用いられているこの2つのモリブデン貯留部3,6の間のスエージ型封止は、封止力の精密な制御を必要とし、取り外し可能に設計されていないので、イオン源1は再利用できない。
NanoSIMS工場製イオン源のイオン化部の詳細図を図1Bに示す。イオン化部7の先端部10は電極として機能し、出口開口9を画定する。タングステンイオン化平板8は、拡幅空洞5A内において(底部にある)細管5と出口開口9との間に配置されている。開口9は、通常、約0.5mm(500μm)の直径を有し、タングステンイオン化板8は、通常、電極として機能するとともに開口9を画定している先端部10の内側表面11から約0.2mm(200μm)の距離だけ離間されている。
イオン化部7の上流に配置された、図1Aに図示された構造をさらに参照して、イオン化部7の意図された(または設計目標とする)動作を図1Cに示す。貯留部本体3を加熱することにより、炭酸セシウム蒸気が細管5上部へと拡散し、蒸気が(例えば約1200°Cまで加熱されている)強加熱イオン化部7に到達してタングステンイオン化平板8上に流入すると蒸気が分解する。イオン化部7は、(例えば、電子放出フィラメントからの電子衝撃と放射加熱との組合せによって)強加熱され、タングステンイオン化板8に衝撃を与えるセシウム原子はほぼ100%陽イオンとして気化する。イオン源は、接地された抽出板(図示せず)の間近では高電位(NanoSIMS内では+8kV)に保たれており、セシウムイオンは、イオン化板8の周囲にある電極先端部10内で500μmの開口9を通り抜けている高電界によって抽出される。図1Cに示されるように、このような形状の電界は、イオンを静電的に加速し、そのイオンを、試料において縮小像(例えばNanoSIMSの場合は工場仕様が直径50nm)を結ぶ一次イオンカラムの集束光学系の場合には、イオン光学「対象」を形成する小さな「交差」へと引き込むように設計されている。
実際上、イオン化部の実際の動作は、図1Cに概略的に示された意図された動作とは異なっている。図1Dは、上述のイオン化部7の実際の動作を図示している。実際上、イオン化板8のみを加熱するのは不可能であり、その代わりにイオン化の頂部全体を加熱して、イオン化部の体積全体にわたって全表面上でセシウムイオンが形成(及び抽出)される。恐らく、セシウムイオンは、直径が500μmで深さ200μmの範囲で形成及び抽出が可能である。これにより、イオン光学対象がより拡散することになり、これが今度は直径が50nmという工場仕様に限定されている試料での集束画像となってしまう。図1Cに概略的に図示された設計目標と比較すると、実際の動作では、当初のイオンビーム交差は大幅に妥協されている。
図1Aに示された工場製イオン源1は、通常、(例えばセシウム塩の原材料が消耗したときに)年に1度から数度交換されるが、交換頻度はNanoSIMS機器の使用に依存する。このような「使い捨て」イオン源は、交換ごとに約3000ドルの費用を要する。
代替のイオン化器の設計は、2000年頃にアリゾナ州立大学において、カメカ社のSIMS機器ims 3fの初期型(つまりNanoSIMS機器ではない)とともに使用するために開発された。ある型式では、外径が1/8インチ、内径が1/16インチ、長さが約3インチのアルミナ管が使用される。管の一端は、市販のアルミナセメントプラグで封止され、微細な穴またはオリフィス(例えば直径が0.010インチつまり250μm)が、セメントプラグを貫通するように開けられる。多量(約0.15g)の炭酸セシウムが管の他端に装填され、その部分は、アルミナセメントで所定の位置に接着されたアルミナキャップで封止される。微細オリフィスを有する管の端部は、発熱要素を含む抵抗加熱器に挿入され、約1200℃に加熱される。Cs2CO3の電荷は熱伝導によって管に沿って加熱されて、Cs2CO3としてか、またはCs2Oに分解後かのいずれかで気化する。得られた蒸気はその後オリフィスから放出していく。オリフィス内が高温であると、蒸気はセシウム原子に解離する。オリフィスを通過するセシウム原子は、ほぼ全てが熱せられたアルミナ表面と複数回衝突するので、熱表面イオン化される確率が非常に高い。イオン化器にオリフィスがあると、小さい中央領域を通って、二次イオン質量分析計の一次イオンカラムと正確に整合可能な高流束密度のセシウム原子が生成される。さらに、高価なタングステン金属から製造された従来のイオン化器と比較すると、アルミナセメントは熱硬化前は非常に容易に穴を開けることができるので、また、セメントプラグは、セメント硬化後に抜き取られる細い挿入ワイヤの周囲に形成可能であるので、アルミナ(具体的にはアルミナセメント)の使用は、イオン源の耐熱イオン化部は製造するのが非常に安価であることを意味する。上記で概説したイオン化部を有するカメカ社のSIMS機器の初期型は、イオンビームを非常に微細なスポットに集束可能な一次イオンカラムを有してはいなかったが、総イオン電流はその時代の他のイオン源に負けないものであったことは実証されていた。
上述のアルミナをベースにしたオリフィスを有するイオン化部のグラファイトをベースにした変形がアリゾナ州立大学で開発され、そのような研究機関で2001年頃から使用されてきた。グラファイトをベースにしたイオン化部17の設計を図2に示す。このようなイオン化部17は、グラファイトプラグ20内に作製された流路またはオリフィス29を含んでいる。グラファイトプラグ20は、モリブデン貯留管15内に、ネジ山23を介して管15の端部15’の近位に螺装されており、管15及びプラグ20は、モリブデン管15及びグラファイトプラグ20の外側に配置された発熱要素13を含む抵抗加熱器12によって加熱されている。モリブデン管15は雌ネジ加工され、グラファイトプラグ20の雄ネジ部を受けるように配置されている。図2に示されているように、流路またはオリフィス29は0.125mm(125μm)の直径を有し、プラグ20の端面21は貯留管15の端面28とほぼ同一平面である。
グラファイトを使用するといくつかの利点が得られる。グラファイトは耐熱性が高く、そのため表面イオン化に必要な高い温度に耐える。しかし耐熱性金属とは異なり、グラファイトは柔らかく、破損しやすい直径0.005インチ(125ミクロン)のドリルで穴を開けることに適している。グラファイトが柔らかいことにより、穴の開いたグラファイトを金属貯留管へと挿入するという、容易な封止も可能である。図2において、グラファイトプラグ20の傾斜台部22が管15の鋭利な金属縁端部16へと押し込まれており、これによりグラファイトプラグ20のグラファイト材料に食い込んで、蒸気の封止をもたらす。グラファイトの表面仕事関数はほぼ4.5電子ボルトであり、これはタングステンに匹敵し、セシウムのイオン化ポテンシャル(3.9電子ボルト)よりも高い。よって、加熱されたグラファイト表面上では、セシウムのイオン化効率は確実にほぼ100%になる。
この技術は、性能の向上とコストの低減とをもたらすことが可能な、SIMS機器とともに使用するセシウムイオン源を求め続けている。本開示の各局面は、従来のシステム及び方法に付随する弱点に対処している。
[概要]
本開示の各局面は、二次イオン質量分析計とともに使用するために構成された一次イオン源及び一次イオン源サブアセンブリに関する。
ある局面において、本開示は、二次イオン質量分析計とともに使用するために構成された一次イオン源サブアセンブリであって、イオン化管と貯留台部とを備え、イオン化管と貯留台部とは一体であり、連続するグラファイトまたはグラファイト含有の本体材料で形成されている、一次イオン源サブアセンブリに関する。ある実施形態において、貯留台部の一部分は、空洞を画定する貯留部本体の円筒形空洞の境界をなすように、及び/または、円筒形空洞内に受容されるように構成されている。ある実施形態において、貯留台部及びイオン化管の第1部分は組み合わさって、空洞を画定する貯留部本体の円筒形空洞に露出するように、及び/または、円筒形空洞内に受容されるように配置されている環状凹部を画定し、イオン化管の第2部分は、貯留台部から外側に向かって延在している。ある実施形態において、イオン化管の第2部分は、イオン化管内部の通路の公称直径または平均直径と比較して小さい直径を有しているイオン化器開口を画定している遠位端を備えている。ある実施形態において、イオン化管の遠位端は、外側に突出している円錐面または円錐台形面を備え、イオン化器開口は、円錐面または円錐台形面の中心軸を貫通して延在している。ある実施形態において、円錐面または円錐台形面は、6度から45度の範囲の円錐の半角の余角を備えている。ある実施形態において、耐熱性金属被膜または耐熱性金属シースは、円錐面または円錐台形面の少なくとも一部分上に配置されている。ある実施形態において、イオン化器開口は、約125μm以下の直径、または50μm以下の直径を備えており、機械的穴開け加工またはレーザ穴開け加工によって画定されていてもよい。ある実施形態において、貯留台部は、(i)空洞を画定する貯留部本体の外縁部と(ii)空洞を画定する貯留部本体の一部分を螺合させるように配置されている封止キャップとの間で圧縮可能に受容されるように配置された、径方向に延在するリップ部を備えている。ある実施形態において、貯留台部は、イオン化器に最も近い端部における、空洞を画定する貯留部本体の内径よりも大きい最大直径値から、イオン化器から最も離れている端部における、空洞を画定する貯留部本体の内径よりも小さい縮小した直径値まで、位置に応じて変化する外径を有するテーパー形状のグラファイト円筒部と、空洞を画定する貯留部本体の一部分を螺合させるように、かつ、テーパー形状のグラファイト円筒部を空洞を画定する貯留部本体へと押し込むように配置された封止キャップとを備えている。ある実施形態において、貯留台部の一部分は、空洞を画定する貯留部本体の雌ネジ面と嵌まり合うように配置された雄ネジ面を備えている。ある実施形態において、グラファイト粉末またはグラファイト被膜は、雄ネジ面と雌ネジ面との間に配置されている。ある実施形態において、一次イオン源は、二次イオン質量分析計とともに使用するために構成され、一次イオン源は、円筒形空洞を備えている貯留部本体と、一次イオン源サブアセンブリとを備え、貯留台部の一部分は円筒形空洞内に受容されている。ある実施形態において、貯留部本体はグラファイトを含んでいる。ある実施形態において、一次イオン源は、貯留部本体の一部分を螺合させるように配置され、かつ、一次イオン源サブアセンブリを貯留部本体に封止係合させるように配置された封止キャップをさらに備えている。
ある局面において、本開示は、二次イオン質量分析計とともに使用するために構成された一次イオン源に関し、一次イオン源は、貯留部からセシウム含有蒸気を受けるように構成された管であって、雄ネジ面を含み、内部通路を含み、第1端を含む、管と、イオン化器開口を画定している本体を含む毛細管挿入物であって、イオン化器開口が内部通路からセシウム含有蒸気を受けるように配置されている状態で、毛細管挿入物の少なくとも一部分が、第1端に沿って内部通路に受容されるように構成された、毛細管挿入物と、オリフィスを画定しているキャップであって、オリフィスがイオン化器開口に位置合わせされた状態で、毛細管挿入物の一部分を受容するように配置された空洞を含み、管の雄ネジ面を係合させて、毛細管挿入物と管との間で封止係合が生じるように配置された雌ネジ面を含む、キャップと、を備えている。ある実施形態において、毛細管挿入物の本体は、キャップ内で画定されたオリフィスを貫通するように配置された遠位端を備え、遠位端は外側に突出している円錐面または円錐台形面を備え、イオン化器開口は円錐面または円錐台形面の中心軸を貫通して延在している。ある実施形態において、円錐面または円錐台形面は、6度から45度の範囲の円錐の半角の余角を備えている。ある実施形態において、毛細管挿入物の本体はグラファイトまたはグラファイト含有材料を含み、毛細管挿入物は、円錐面または円錐台形面の少なくとも一部分上に配置された耐熱性金属被膜または金属シースをさらに備えている。ある実施形態において、毛細管挿入物は、(i)管の製造材料と(ii)キャップの製造材料との各々よりも低い硬度を有する材料を含んでいる。ある実施形態において、毛細管挿入物はグラファイト材料で製造されている。ある実施形態において、毛細管挿入物の第1部分は、第1幅を備え、第1端に沿って内部通路に受容されるように構成され、毛細管挿入物の第2部分は、第2幅を備え、内部通路の外側に配置されるように構成され、第2幅は第1幅よりも大きい。ある実施形態において、管とキャップとのうちの少なくとも1つはモリブデンを含む。ある実施形態において、グラファイト粉末またはグラファイト被膜は、雄ネジ面と雌ネジ面との間に配置されている。ある実施形態において、イオン化器開口は約125μm以下の直径、または、約50μm以下の直径を備え、機械的穴開け加工またはレーザ穴開け加工によって画定されてもよい。
ある局面において、本開示は、二次イオン質量分析計とともに使用するために構成された一次イオン源に関し、一次イオン源は、貯留台部と、雄ネジ面を備える貯留部本体と、貯留台部と貯留部本体との間に配置された管状ガスケットであって、グラファイトまたはグラファイト含有の本体材料を含み、第1端と第2端とを備え、中間点における最大直径値から、第1端及び第2端における縮小した直径値まで、位置に応じて変化する外径を備える、管状ガスケットと、貯留台部の一部分と、貯留部本体の一部分と、管状ガスケットとによって境界がなされた貯留部空洞と流体連通して配置されたイオン化管と、雄ネジ面を係合させるように配置された雌ネジを備える封止ナットと、を備えている。ある実施形態において、貯留台部と貯留部本体とのうちの少なくとも1つは金属を含んでいる。ある実施形態において、貯留台部と貯留部本体とのうちの少なくとも1つは、グラファイトまたはグラファイト含有材料を含んでいる。ある実施形態において、イオン化管と貯留台部とは一体であり、連続するグラファイトまたはグラファイト含有の本体材料で形成されている。ある実施形態において、イオン化管は、貯留部本体の近位にある近位端を備え、イオン化管は、イオン化管内部の通路の公称直径または平均直径と比較して小さい直径を有しているイオン化器開口を画定している遠位端を備えている。ある実施形態において、イオン化管の遠位端は、外側に突出している円錐面または円錐台形面を備え、イオン化器開口は、円錐面または円錐台形面の中心軸を貫通して延在している。ある実施形態において、一次イオン源は、円錐面または円錐台形面の少なくとも一部分上に配置された耐熱性金属被膜または耐熱性金属シースをさらに備えている。ある実施形態において、一次イオン源は、さらに、イオン化器開口を画定している本体を含む毛細管挿入物であって、毛細管挿入物の少なくとも一部分が、イオン化管に受容されるように構成された、毛細管挿入物と、オリフィスを画定しているキャップであって、オリフィスがイオン化器開口に位置合わせされた状態で、毛細管挿入物の一部分を受容するように配置された空洞を含み、イオン化管の雄ネジ面を係合させて、毛細管挿入物とイオン化管との間で封止係合を生じるように配置された雌ネジ面を含む、キャップと、を備えている。ある実施形態において、毛細管挿入物はグラファイトまたはグラファイト含有材料を含む。ある実施形態において、毛細管挿入物の本体は、キャップ内で画定されたオリフィスを貫通して延在するように配置された遠位端を備え、遠位端は、外側に突出している円錐面または円錐台形面を備え、イオン化器開口は、円錐面または円錐台形面の中心軸を貫通して延在している。ある実施形態において、毛細管挿入物の本体は、グラファイトまたはグラファイト含有材料を含み、毛細管挿入物は、円錐面または円錐台形面の少なくとも一部分上に配置された耐熱性金属被膜またはシースをさらに備えている。
別の局面において、本開示は、二次イオン質量分析計とともに使用するために構成された一次イオン源に関し、一次イオン源は、貯留部からセシウム含有蒸気を受けるように構成されたイオン化管と、外側に突出している円錐面または円錐台形面を備えている遠位端部分であって、イオン化器開口が円錐面または円錐台形面の中心軸を貫通して延在し、イオン化器開口がイオン化管からセシウム含有蒸気を受けるように配置されている、遠位端部分と、を備えている。ある実施形態において、遠位端部分とイオン化管とは、連続する本体構造を具体化している。ある実施形態において、一次イオン源は、円錐面または円錐台形面の少なくとも一部分上に配置された耐熱性金属被膜または耐熱性金属シースをさらに備えている。ある実施形態において、遠位端部分は、イオン化管に受容される毛細管挿入物を備え、毛細管挿入物は、円錐面または円錐台形面を画定し、かつ、イオン化器開口を画定し、一次イオン源は、オリフィスを画定しているキャップをさらに備え、キャップは、オリフィスがイオン化器開口に位置合わせされた状態で、毛細管挿入物の一部分を受容するように配置された空洞を含み、キャップは、イオン化管の雄ネジ面を係合させて、毛細管挿入物とイオン化管との間に封止係合を生じるように配置された雌ネジ面を含んでいる。ある実施形態において、一次イオン源は、円錐面または円錐台形面の少なくとも一部分上に配置された耐熱性金属被膜または耐熱性金属シースをさらに備えている。ある実施形態において、キャップの中央部は、円錐面または円錐台形面の少なくとも一部分上を覆うテーパー形状面を備え、テーパー形状面は、耐熱性金属シースを備えている。
別の局面において、本開示は、二次イオン質量分析計とともに使用するために構成されたイオン供給アセンブリに関し、イオン供給アセンブリは、本明細書に開示されているような一次イオン源と、イオン化器開口に位置合わせされた抽出板オリフィスを画定している抽出板と、抽出板オリフィスに位置合わせされたビーム阻止板オリフィスを画定しているビーム阻止板とを備えている。ある実施形態において、イオン供給アセンブリは、イオン化器開口から直接発するセシウムイオン以外のセシウムイオンがビーム阻止板オリフィスを通過することを防ぐように配置されている。ある実施形態において、(a)遠位端部分の形状、(b)遠位端部分の材料、及び(c)ビーム阻止板オリフィスの寸法及び形状、というパラメータは、イオン化器開口から直接発するセシウムイオン以外のセシウムイオンがビーム阻止板オリフィスを通過することを防ぐように選択される。ある実施形態において、ビーム阻止板オリフィスは、一次イオン源の近位では縮小した直径部分を備え、一次イオン源の遠位では増大した直径部分を備えている。ある実施形態において、ビーム阻止板オリフィスは円錐台形の断面形状を備えている。ある実施形態において、ビーム阻止板は、円錐台形延長部を備え、縮小した直径部分は、円錐台形延長部を介して画定されている。
別の局面において、本開示は、二次イオン質量分析計とともに使用するために構成されたイオン供給アセンブリに関し、イオン供給アセンブリは、イオン化器開口を介してイオンを放出するように配置された一次イオン源と、イオン化器開口に位置合わせされた抽出板オリフィスを画定している抽出板と、抽出板オリフィスに位置合わせされたビーム阻止板オリフィスを画定しているビーム阻止板であって、ビーム阻止板オリフィスが、一次イオン源の近位では縮小した直径を備え、一次イオン源の遠位では増大した直径を備えている、ビーム阻止板とを備えている。ある実施形態において、ビーム阻止板オリフィスは円錐台形の断面形状を備えている。
ある実施形態において、イオン化器は、セシウムイオンが、グラファイト要素内で画定されたイオン化器開口からは高効率で放射されるように、かつ、セシウムイオンが、イオン化器開口の近位に配置された耐熱性金属被膜または耐熱性金属シースからは低効率で放射されるように選択された温度で動作される。
ある局面において、本明細書に開示された前述の局面または他の特徴のうちのいずれかを、さらなる利点のために組み合わせてもよい。
当業者であれば、以下に続く好適な実施形態の詳細な説明を、添付の図面に関連付けて読めば、本開示の範囲を十分に理解し、かつ本開示のさらなる局面を実現するであろう。
NanoSIMS二次イオン質量分析機器の工場製一次イオン源の概略断面図である。
NanoSIMS二次イオン質量分析機器の工場製一次イオン源のイオン化部の概略断面拡大図である。
図1Bのイオン化部を図示し、セシウムイオンの意図された軌跡で、意図された(または設計目標とされた)動作を示している。
図1B〜1Cのイオン化部を図示し、実際の動作に近似させたセシウムイオンの軌跡を図示している。
2000年頃に二次質量分析機器とともに使用するために開発された、代替のイオン化部の設計を図示している。
一実施形態に係る、二次質量分析機器とともに使用するためのイオン化部の概略断面拡大図であって、イオン化部が、イオン化器開口を画定する、ネジ込みキャップで留められている毛細管挿入物を含んでいる、概略断面拡大図である。
図3Aの設計と同様のイオン化部を使用している、二次質量分析機器のイオン源の分解立面図である。
工場製一次イオン源を用いたNanoSIMS二次イオン質量分析機器を用いて(つまり図1Bに従って)得られた、エッチング加工されたシリコン製テスト格子の画像である。
図3Bに係るイオン源を用いたNanoSIMS二次イオン質量分析機器を用いて得られた、エッチング加工されたシリコン製テスト格子の画像である。
別の実施形態に係るイオン化部の概略断面図であって、イオン化部が、イオン化器開口を画定する、図3Aのキャップとは形状が異なるネジ込みキャップで留められている毛細管挿入物を含んでいる、概略断面図である。
図5に係るイオン化部を使用して得られた、NanoSIMS二次イオン質量分析機器のビーム寸法に関する規格のために使用される、工場製テスト試料におけるシリコン粒子のシリコン(28Si−)イオンを用いた画像である。
図6に図示されている工場製テスト試料における、鋭角形状を横切るシリコン(28Si−)イオン(つまり図6で矢印で特定されているシリコン粒子)を用いたラインスキャンである。
図5に係るイオン化部を使用して得られた、NanoSIMS二次イオン質量分析機器のビーム寸法に関する規格のために使用される、工場製テスト試料の酸素(16O−)イオンを用いた画像である。
図5に係るイオン化部を使用して得られた、NanoSIMS二次イオン質量分析機器のビーム寸法に関する規格のために使用される、工場製テスト試料のシリコン(28Si−)イオンを用いた画像である。
図5に係るイオン化部を使用して得られた、NanoSIMS二次イオン質量分析機器のビーム寸法に関する規格のために使用される、工場製テスト試料の炭素(12C−)イオンを用いた画像である。
図8Aに図示されている工場製テスト試料において矢印がついている酸素(16O−)イオン画像内の形状を横切るラインスキャンである。
NanoSIMS二次イオン質量分析機器内で粒子状試料の支持のために使用される穴あき炭素膜の二次電子画像であって、工場製一次イオン源を使用して得られ、顕著な変位ゴースト画像を描いている、二次電子画像である。
一実施形態に係る、金属貯留部本体と、金属封止キャップと、一体構造のグラファイトイオン化管及び貯留台部を含むサブアセンブリとを含んでいる一次イオン源の概略断面図である。
図11の設計と同様の構成要素を含む、一実施形態に係る一次イオン源の写真である。
一実施形態に係る、グラファイト貯留部本体と、一体構造のグラファイトイオン化管及び雄ネジ加工された貯留台部を含むサブアセンブリとを含んでいる、全てがグラファイトの一次イオン源の概略断面図であって、イオン化管が、外側に突出している錐面を有する遠位端を含み、イオン源には封止キャップがない、概略断面図である。
図13Aのイオン化管の遠位端の概略断面拡大図である。
円錐を図示し、円錐の半角αと円錐の半角の余角βとを示している。
一実施形態に係る、グラファイト貯留部本体と、雄の金属貯留部搭載柱と、一体構造のグラファイトイオン化管及び雄ネジ加工された貯留台部を含むサブアセンブリとを含む一次イオン源の概略断面図であって、イオン化管が外側に突出している錐面を有する遠位端を含んでいる、概略断面図である。
一実施形態に係る、グラファイト貯留部本体と、雌の金属貯留部搭載柱と、一体構造のグラファイトイオン化管及び雄ネジ加工された貯留台部を含むサブアセンブリとを含む一次イオン源の概略断面図であって、イオン化管が外側に突出している錐面を有する遠位端を含んでいる、概略断面図である。
抽出板及びビーム阻止部の連続して配置された開口を通ってセシウムイオンを送出するように構成されたイオン源の概略断面図であって、各矢印が、セシウムイオンの軌跡を示し、概略断面図が、ゴーストビーム生成のメカニズムを示している、概略断面図である。
抽出板及びビーム阻止板の連続して配置された開口を通ってセシウムイオンを送出するように構成された、テーパー形状の(例えば円錐形の)先端部を有するイオン源の先端部の概略断面図であって、ビーム阻止板の開口が、可変の直径を有し、図18Aがセシウムイオンの軌跡を示す線を含んでいる、概略断面図である。
一実施形態に係るビーム阻止板の一部分の概略断面図であって、ビーム阻止板が、上流側に沿った位置になるように配置されている円錐台形延長部を有し、かつ、延長部に位置合わせされ、前縁方向に沿って直径が小さくなり、後縁方向に沿って直径が大きくなる可変の開口を有するビーム阻止部開口を有している、概略断面図である。
別の実施形態に係るイオン化部の概略断面図であって、イオン化部が、ネジ込みキャップで留められている毛細管挿入物を含み、毛細管挿入物が、外側に突出している錐面を含み、イオン化器開口を画定している、遠位端を有していて、錐面が、ネジ込みキャップ内で画定されているオリフィスを貫通して突出している、概略断面図である。
非特異的加熱表面から気化しているセシウムイオン分率の温度関数としてのプロットである。
加熱グラファイト(C)表面とタングステン(W)表面とから気化するセシウムイオン分率の温度関数としての重ね合わせたプロットを含み、2本の縦線を追加して、好適な使用可能温度ウィンドウの範囲を定めている。
図19のイオン化部に類似するイオン化部の概略断面図であって、さらに、毛細管挿入物の遠位端の錐面の少なくとも一部分上に配置された耐熱性金属被膜を含んでいる、概略断面図である。
図19のイオン化部に類似するイオン化部の概略断面図であるが、キャップが、毛細管挿入物の遠位端の錐面の少なくとも一部分上に耐熱性金属シースを形成するように配置された先細遠位端を含んでいる、概略断面図である。
一実施形態に係る一次イオン源の概略断面図であって、貯留部分の間に配置され、二次質量分析機器とともに使用することに適した、可変直径を有する使い捨てグラファイト管ガスケットを含んでいる、概略断面図である。
可変直径のグラファイト管ガスケットの概略断面図であって、中間点にある最大外径と、2つの端部に沿った最小外径とを、直径の変化量を誇張して描いている、概略断面図である。
組み立て工程中の図24Aの一次イオン源の各部分の概略断面図であって、グラファイト管ガスケットが、細長い一時封止ナットを用いて、かつ、貯留部キャップ内に嵌まる円筒形テフロンスタブを用いて、貯留台部941内へと押圧されている、概略断面図である。
[詳細な説明]
本開示の各局面は、二次イオン質量分析計とともに使用するために構成された、一次イオン源、一次イオン源サブアセンブリ、及びイオン供給アセンブリに関する。
一実施形態に係る、二次イオン質量分析計とともに使用するための一次イオン源のイオン化部を図3Aに示す。このような実施形態において、工場製イオン源(例えば図1Aに示しているもの)と同じ貯留部や搭載部の構造を使用してもよいが、イオン化器(例えば先端)の部分は図1B〜1D及び図2に示された構造とは異なっている。図1B〜1Dに示されているようなイオン化平板8上でイオン生成を行うのではなく、図3Aのイオン化部は、好ましくは直径が125μm以下(もしくは、より好ましくは直径が100μm以下、75μm以下、50μm以下、25μm以下、または10μm以下)である開口59で終端する微細な流路58内でイオン生成を行う。このような開口59及び流路58は、グラファイト挿入物を貫通する機械的穴開け加工またはレーザ穴開け加工といった(しかしこれらに限定されない)任意の適切な手段によって形成されてもよい。レーザ穴開け加工は、機械的穴開け加工を用いて実際に形成可能であるよりも小さな開口の形成を可能にし得る。工場製イオン源の場合のように、セシウム蒸気は流路46中を自由に流動するが、イオン生成領域は、工場製イオン源のイオン抽出口の直径500μmよりも大幅に小さい値に限られている。
図3Aのイオン化部は、イオン化器開口59を画定する、ネジ込みキャップ60により、イオン化管45を封止する状態で留められている、毛細管挿入物50を含んでいる。毛細管挿入物(またはプラグ)50は、イオン化管45の端部に当接するように配置されている段部57を含み、イオン化管45の端部は、キャップ60のネジ山65と協働するように配置されている雄ネジ47を含んでいる。毛細管挿入物50は、遠位端51と近位端52とを含んでいる。ある実施形態において、ネジ込みキャップ60は、モリブデン材料を含んでいてもよい。キャップ60は、遠位端61と、毛細管挿入物50のイオン化器開口59に位置合わせされたオリフィスを画定する内向きテーパー形状(または逆テーパー形状)面64とを含んでいる。封止を保証し、かつ、加熱後にイオン源のイオン化部をより容易に取り外し可能にするために、ネジ山面47,65と、さらにはイオン化管45の端部及びネジ込みキャップ60の内側面に接触している毛細管挿入物50の表面も、組み立て前にグラファイト粉末でコーティングされてもよい。さらに、封止を保証し、かつ取り外しを行いやすくするために、(図1Aに示されているような)貯留部の2つの部分3,6のスエージ嵌合している金属面もグラファイトでコーティングされてもよい。図3Aのイオン化部は容易に分解できるようになっていてもよく、グラファイト毛細管挿入物50は、損傷を受けた場合はユーザによって交換されてもよい。
図3Bは、図3Aの設計と同様のイオン化部40を使用している、二次質量分析機器のためのイオン源の分解立面図である。イオン源は、搭載柱32によって支持された加熱貯留部本体33を含み、貯留部本体33は、雄ネジ面36と、傾斜面35と、(搭載柱32を受けるように配置されている)首部34とを含んでいる。ある実施形態において、貯留部本体33及び搭載柱32は、連続材料から製造された単一のアセンブリ30として構成されてもよい。イオン化部40は、イオン化管受け口42を有する貯留台部41と、雄ネジ47を含むイオン化管45と、毛細管挿入物50と、イオン化管45を封止する状態で毛細管挿入物50を固定するように配置された雌ネジ形状キャップ60’とを含んでいる。キャップ60’は、毛細管挿入物50内で画定された開口(図示せず)に位置合わせされたオリフィス(図示せず)を含んでいる。ある実施形態において、毛細管挿入物50は、グラファイトで製造されていてもよい。イオン化管45の近位端45Aは、貯留台部41のイオン化管受け口42内に封止されていて、イオン源の動作温度で完全性を維持する真空封止を実現する。好適な封止方法では、銅金属ろう付けを使用する。ある実施形態において、貯留台部41、ネジ込み部42、及びイオン化管45は、単一の連続する材料で製造されてもよい。雌ネジ加工された封止ナット70は、貯留部本体33の雄ネジ面36と係合するように配置されており、これにより、貯留台部41の表面を貯留部本体33の傾斜面35に押し付けることによって、貯留部本体33と貯留台部41とからなる貯留部を囲む。使用するときには、貯留部を加熱して、炭酸セシウム蒸気を貯留部からイオン化管45を通り、そして毛細管挿入物50の開口を通るように移動させ、ここで蒸気が分解及びイオン化されて、セシウムイオンを生成する。
図3A〜3Bのイオン化部及び一次イオン源の性能パラメータを図4A,4Bに示す。図4Aは、工場製セシウムイオン源を用いて得られたエッチング加工されたシリコン製テスト格子の画像を表しており、図4Bは、図3Aの新規のイオン化部を用いて得られたエッチング加工されたシリコン製テスト格子の画像を表している。図4Bは、(トレースした結果、貯留部のイオン化管の不正確な封止となるノイズレベルとともに)より鋭い形状をはっきりと示している。特に、図4Bの画像に点在する輝点に注目されたい。工場製一次イオン源の使用に相当する図4Aにおいて、これらの形状はほとんど見られない。その理由は、このような形状は、工場製のビーム寸法よりも大幅に小さいからである。図4Bにおいて、この輝点はより強い。その理由は、ビーム寸法が形状の寸法に匹敵するようになったからである。図4Bでは、ビーム点寸法が大幅に小さいため、小さな輝点形状の方がより見やすく、そのビーム寸法は、図4Aで用いたビーム寸法の場合よりも、形状寸法により近くなっている。これらの画像を取得したとき、図3Aのイオン化部で用いられる電流は51.4nAであり、工場製イオン源で用いられる電流20.3nAの約2倍であったことに注目されたい。これらの電流は、テスト格子試料において測定したものではなく、セシウムイオンビームが一次イオンの光学カラム内での最後の開口によって減衰されたときよりも前の上流側にあるテスト点で記録された。
図5は、別の実施形態に係るイオン化部の概略断面図であり、イオン化部は、イオン化器開口159を画定する、図3Aのキャップ60とは形状が異なる(例えば図3Aのキャップの逆テーパーがない)ネジ込みキャップ160で留められている毛細管挿入物150を含んでいる。毛細管挿入物(またはプラグ)150は、遠位端151と近位端152とを含んでいる。毛細管挿入物150はさらに、イオン化管145の端部に当接するように配置された段部157を含み、イオン化管145の端部は、キャップ160のネジ山165と協働するように配置された雄ネジ147を含んでいる。毛細管挿入物150は、遠位端151と近位端152とを含んでいる。毛細管挿入物150は、イオン化管145の流路146と狭いイオン化器開口159との間に介在された広流路部158を含んでいる。キャップ160は、平坦な近位端162と、外向き傾斜縁部166を有する遠位端161とを含んでいる。キャップ160はまた、イオン化器開口159に位置合わせされたオリフィス164を画定していて、毛細管挿入物150を収容する空洞を含んでいる。ある実施形態において、毛細管挿入物150は、グラファイト材料を含んでいる。
図6は、図5に係るイオン化部を使用して得られた、NanoSIMS二次イオン質量分析機器のビーム寸法に関する規格のために使用される、工場製テスト試料のアルミニウム基材に埋め込まれたシリコン粒子のシリコン(28Si−)イオンを用いて得られた画像である。図7は、図5に係るイオン化部を使用した、カメカ社によって供給された、アルミニウム中にシリコンが存在するテスト試料の鋭角形状を横切るラインスキャンを示している。ビーム寸法の基準は様々である。最も一般的な基準(及び工場で使用されている基準)は、イオン信号が最大値の16%から84%まで変化する距離である。図7において重なり合うスケールバーは幅が25nmである。これがおおよそスキャン範囲の16〜84%に及ぶ。この25nmのスケールバーは、ビーム寸法がこの値に近いことを示している。特に、このスキャンのビーム電流(試料において測定)は1pA、つまり、通常の工場製製品の電流値の4倍の電流値である。このような電流の増大は複数の点で利点がある。つまり、分析速度を大きく増加(4倍)するだけでなく、より多くの電流を犠牲にすることにより、さらに小さなイオンビームが達成され得ることを示唆している。
図8A〜8Cは、図5に係るイオン化部を用いて得られた酸素、シリコン、及び炭素の画像を提供している。図8Aは、NanoSIMS二次イオン質量分析機器のビーム寸法に関する規格のために使用される、アルミニウム中にシリコンが存在する工場製テスト試料内の酸素(16O−)イオンを用いて得られた画像である。図8Bは、NanoSIMS二次イオン質量分析機器のビーム寸法に関する規格のために使用される、アルミニウム中にシリコンが存在する工場製テスト試料内のシリコン(28Si)イオンを用いて得られた画像である。図8Cは、NanoSIMS二次イオン質量分析機器のビーム寸法に関する規格のために使用される、アルミニウム中にシリコンが存在する工場製テスト試料内の炭素(12C−)イオンを用いて得られた画像である。図8A〜8Cの画像は、図6の画像の数か月後に取得された。図9は、図8Aに図示されている工場製テスト試料の酸素(16O−)イオン画像内の小型形状を横切るラインスキャンである。図8Aの酸素イオン画像内の小型形状を横切るラインスキャンは、またしても25nmに近い解像度を示しており、これは網掛けの縦方向スケールバーに相当する。このスケールバーの両側にある縦線は50nmの距離で離間している。
しかしながら、図8A〜8Cの画像と図6の画像との違いに注目されたい。図8A〜8Cの画像は全方向において鮮明であるが、図6は、各形状の右側のわずかに上側にずれた位置に「ゴースト」画像を示している。これは、主要ビームからずれている、次位の弱い「ゴースト」イオンビームの証拠である。「ゴースト」イオンビームのさらなる証拠を図10に示す。図10は、NanoSIMS内で粒子状試料の支持のために使用される「穴あき」炭素膜の二次電子画像である。二次電子は、集束されたセシウムイオンビームによって陰イオンとともに生成されており、イオンビーム寸法を同様に反映する。図10の画像は、工場製一次イオン源を用いて得られ、大きく変位した(そして望ましくない)ゴースト画像を描いている。ゴースト画像は、隣接する形状の間にあるハローが存在する(例えばぼやけて変位している)境界として現れる。ゴーストビームの生成メカニズムは、本明細書では(以降の)図17A〜17Cとともに説明するが、本明細書で説明している少なくともある特定の実施形態は、ゴーストビームの存在を低減または排除することを目的とする特徴を含んでいる。
別の実施形態に係る二次イオン質量分析計とともに使用される一次イオン源を図11に示される。イオン源のイオン化部(またはイオン化サブアセンブリ)240全体は、グラファイト(または代替としてグラファイト含有材料)からなる一体構造の1つの単体で形成されていて、(貯留部の半分を具体化する)貯留台部241と、貯留台部241から外側に突出しているイオン化管245を含んでいる。このように一体構造で製造することにより、イオン化部240の様々な接合箇所でセシウム蒸気が漏れるあらゆる可能性を防ぎ、設計及び加工を簡素化する。イオン化サブアセンブリ240は、通路246を画定しているイオン化管245を含み、イオン化管245の遠位端251はイオン化器開口259を画定している。ある実施形態において、イオン化器開口259は、イオン化管245内部の通路246の公称直径または平均直径と比較して小さい直径を有している。イオン化器開口259は、好ましくは、直径が125μm以下、100μm以下、75μm以下、50μm以下、25μm以下、または10μm以下であり、また、機械的穴開け加工またはレーザ穴開け加工によって画定されてもよい。ある実施形態において、イオン化器開口259は、管245の遠位端251を貫通する機械的穴開け加工またはレーザ穴開け加工といった(しかしこれらに限定されない)任意の適切な手段によって形成されてもよい。ある実施形態において、イオン化器開口はグラファイト毛細管挿入物(図示せず)内で画定されてもよい。イオン化管245の近位部243は、貯留台部241を貫通して延在し、近位部245Aで終端している。イオン化管245の近位部243は、貯留台部241の側壁244と組み合わさって、貯留部本体233内で画定された円筒形空洞238に露出するように配置された環状凹部248の境界をなしている。貯留台部241はさらに、貯留部本体233の側壁237の傾斜面部235に当接するように配置された、径方向に延在する段部またはリップ部249を含んでいる。貯留部本体233は、ネジ切りされた外面236を有する側壁237を含んでいて、搭載柱232は貯留部本体233に取り付けられている。封止ナット270は、貯留台部241を貯留部本体233に留めるように配置されており、これにより、両者の間にある円筒形空洞238を封止する。封止ナット270は、貯留部本体233の段部またはリップ部249に接触するように配置された中央部271を含み、また、貯留部本体233のネジ切りされた外面236を係合させるように配置されたネジ切りされた内面277を有する側壁276を含んでいる。上述したように、工場製イオン源で使用されている、2つのモリブデン貯留部分の間のスエージ型封止は、封止力の精密な制御を必要とし、取り外し可能には設計されておらず、したがってイオン源は再利用できない。図11のイオン化サブアセンブリ240は比較的柔らかいグラファイトで製造されているので、封止手法の改良は、図11に示された一次イオン源を用いて可能になる。貯留部本体233の傾斜面部235の遠位端にある鋭い傾斜縁部は、封止ナット270を締めることによって押し込まれて、貯留台部241のグラファイト段部またはリップ部249に噛み合うことにより、良好な封止を形成する。好適な封止手法において、グラファイト貯留台部244の外壁は、(例えば、好ましくは1〜5度の範囲、より好ましくは2〜3度の範囲であるテーパー角を有する)テーパー形状であり、テーパー形状面の部分のみが貯留部本体233に簡単に挿入可能であるように寸法が定められているが、その後に封止ナット270を締めることによって完全に押し込まれなければならず、これにより、貯留部本体233をグラファイト貯留台部244の外壁のテーパー形状面へと食い込ませて、封止を実現することができる。
図12は、図11の設計と同様の構成要素を含む、一実施形態に係る一次イオン源の写真である。イオン化サブアセンブリ340は、イオン化管345と、貯留台部(図示せず)と、イオン化管端部345Aと、遠位面359内で画定された開口351とを含み、全てがグラファイト材料の一体構造の単体で製造されている。一次イオン源はさらに、貯留部本体333に取り付けられている搭載柱332を含み、雌ネジ加工された封止ナット370が、イオン化サブアセンブリ340を貯留部本体333と係合させるように配置されている。ある実施形態において、貯留部本体333及び搭載柱332は、材料の連続する一体構造を具体化するサブアセンブリ330として設けられてもよい。
代替の実施形態において、グラファイトイオン化サブアセンブリは、図1Aに示された装置と同様の、鋭い金属縁端部へと力をかけて、外側のナットを用いて圧縮力がかかっている状態で封止を形成する傾斜面を有する設計になっていてもよい。
(例えば、一体構造のグラファイトイオン化管及び貯留台部と、グラファイト貯留部本体とを含む)全てがグラファイトであるイオン源の封止は、以下の技術のうちの1つに従って実現されてもよい。
第1の封止技術では、ネジ山を2つの貯留部分(貯留台部と貯留部本体)の内側と外側とに切り込み、両者を単純にねじ込んで合わせてもよい。このような技術では、両方のグラファイト部材にかける機械的応力が比較的小さい。両者を締めたときのグラファイトネジ山の摩擦があらゆる高い箇所をこすり落とし、面対面の封止を確実に行う。ある実施形態において、ネジ山はまた、確実な封止を補助することになるグラファイト粉末で潤滑され得る。
第2の封止技術では、内側のネジ山の頂部にわずかな傾斜が形成されてもよく、また、外面の縁端は、ネジ山によってこの傾斜へと力がかけられる。
第3の封止技術では、2つの貯留部分のうちの1つを傾斜させてもよく、ネジ切りされた外側の金属部材によってこの2つの部分に一緒に力をかけてもよい。
グラファイトを構成材料として使用すると、一次イオン源の再利用性が大幅に高まる。金属でできた工場製イオン源は、再利用することを意図していない。炭酸セシウム貯留部が消耗した場合、または(例えば、一次イオンカラム内の表面を打ち当てるセシウムビームによって生成された、過度の熱または逆流イオンによって)イオン化器が損傷を受けた場合、現状ではユーザの第1の処置は、一次イオン源を廃棄して、製造業者から新たな一次イオン源を購入することである。本明細書に開示されている再利用可能な貯留部のあるイオン源は、イオン化器のオリフィスが完全なまま保たれている限りは、交換可能なグラファイト製両テーパーガスケットの出費で、ユーザはイオン源の補充及び再利用が可能であることを意図している。イオン源のオリフィス部分が損傷を受けた場合、オリフィス部分を単独で交換することができる。グラファイトイオン化器挿入物を用いた、金属を使用した設計では、挿入物及びその金属ネジ込みキャップは交換可能な部品になることになり、予備品を購入品で供給してもよい。
ある実施形態において、グラファイトイオン化サブアセンブリは、封止ナットを使用する必要なく、貯留台部を直接係合させてもよい。
図13Aは、一実施形態に係る、全てがグラファイトの一次イオン源を図示している。イオン化サブアセンブリ440は、グラファイト材料(または他のグラファイト含有材料)からなる一体構造の単体で製造された、イオン化管445及び貯留台部441を含んでいる。イオン化管445は通路446を画定し、イオン化管445の遠位端は、円錐面または円錐台形面451を含み、イオン化管445内部の通路446の公称直径または平均直径と比較して小さい直径を有しているイオン化器開口459を画定している。イオン化管445の近位部443は、貯留台部441を貫通して延在し、近位部445Aで終端している。イオン化管445の近位部443は、貯留台部441の雄ネジ加工された側壁444と組み合わさって、貯留部本体433内で画定された円筒形空洞438に露出するように配置されている環状凹部448の境界をなしている。貯留台部441の雄ネジ加工された側壁444は、貯留部本体433の側壁437の雌ネジ面436を係合させるように配置されている。貯留部本体433及び搭載柱432は、グラファイト(またはグラファイト含有)材料の連続する一体構造を具体化するサブアセンブリ430として設けられている。2つのサブアセンブリ430,440は分離可能であり、炭酸セシウムまたは他のセシウムイオン源物質を貯留部空洞438内へ装填することができる。
図13Bは、図13Aのイオン化管445の遠位端の概略断面拡大図であり、円錐面または円錐台形面451とイオン化器開口459とを示している。イオン化器開口459は、イオン化管445内部の通路446の公称直径または平均直径と比較して小さい直径を有し、円錐面または円錐台形面451の中心軸(または頂点)を貫通して延在している。
図14は、円錐を図示し、円錐の半角αと円錐の半角の余角βとを示している。図14の円錐を図13Bに示されたイオン化管の遠位端と比較すると、図13Bのイオン化器開口459は、円錐面または円錐台形面451の中心軸(または頂点)を貫通して延在し、このような面451は、図14の円錐の側壁に相当する。ある実施形態において、図13A〜13Bに描かれている円錐面または円錐台形面451は、6〜45度の範囲、または10〜40度の範囲、または15〜35度の範囲、または20〜30度の範囲の円錐の半角の余角を含んでいる。このような角度の範囲は、本明細書に開示されているようなイオン化器開口に近位の他の円錐面または円錐台形面に適用してもよい。
図13Aに図示されているようなグラファイト搭載柱432はやや破損しやすい可能性があるので、ある実施形態において、搭載柱は、金属(例えばモリブデン)で製造されて、グラファイト貯留部本体に(例えばネジ込み接続で)取り付けられるように配置されてもよい。搭載柱と貯留部本体との間における、2種類の代替的なネジ込み接続を図15及び図16に示す。
図15は、グラファイト貯留部本体533と、(雄の)金属貯留部搭載柱522と、一体構造のグラファイトイオン化管545と雄ネジ加工された貯留台部541とを含むサブアセンブリ540と含む一次イオン源の概略断面図であり、イオン化管545は、内部通路546を含み、また、イオン化器開口559を画定している、外側に突出している円錐面または円錐台形面551を有する遠位端を含んでいる。イオン化管545の近位部543は、貯留台部541を貫通して延在し、近位端545Aで終端している。イオン化管545の近位部543は、貯留台部541の雄ネジ加工された側壁544と組み合わさって、貯留部本体533内で画定された円筒形空洞538に露出するように配置された環状凹部548の境界をなしている。貯留台部541の雄ネジ加工された側壁544は、貯留部本体533の側壁537の雌ネジ面536を係合させるように配置されている。搭載柱522は、径方向に延在するフランジ部523を含み、雄ネジ加工された突出部524は、貯留部本体533の雌ネジ加工された凹部534を係合させるように配置されている。ある実施形態において、搭載柱522は、金属(例えばモリブデン)で製造されていてもよく、貯留部本体533は、グラファイトで製造されてもよい。サブアセンブリ540は、貯留部本体533から分離可能であり、炭酸セシウムまたは他のセシウムイオン源物質を貯留部空洞538内へ装填することができる。
図16は、グラファイト貯留部本体633と、(雌の)金属貯留部搭載柱622と、一体構造のグラファイトイオン化管645及び雄ネジ加工された貯留台部641を含むサブアセンブリ640とを含んでいる一次イオン源の概略断面図であり、イオン化管645は、内部通路646を含み、また、イオン化器開口659を画定している、外側に突出している円錐面または円錐台形面651を有する遠位端を含んでいる。イオン化管645の近位部643は、貯留台部641を貫通して延在し、近位端645Aで終端している。イオン化管645の近位部643は、貯留台部641の雄ネジ加工された側壁644と組み合わさって、貯留部本体633内で画定された円筒形空洞638に露出するように配置された環状凹部648の境界をなしている。貯留台部641の雄ネジ加工された側壁644は、貯留部本体633の側壁637の雌ネジ面636を係合させるように配置されている。搭載柱622は、雌ネジ加工された凹部626を画定しているネジ込み部625を含み、雌ネジ加工された凹部626は、貯留部本体633の雄ネジ加工された突出部634を係合させるように配置されている。ある実施形態において、搭載柱622は、金属(例えばモリブデン)で製造されていてもよく、貯留部本体633は、グラファイトで製造されていてもよい。サブアセンブリ640は、貯留部本体633から分離可能であり、炭酸セシウムまたは他のセシウムイオン源物質を貯留部空洞638内へ装填することができる。
次に、ゴーストビーム生成のメカニズムを説明する。図17A〜17Cは、連続して配置された抽出板701及びビーム阻止部702の開口701A,702Aを通ってセシウムイオンを送出するように構成されたイオン源700の概略断面図であり、各矢印は、セシウムイオンの軌跡を示している。図17Aにおいて、イオン源700からのCs+イオンは広がり、イオンの中には、ビーム阻止板702に衝突して、セシウムをビーム阻止板702の表面に打ち込むものもある。図17Bにおいて、その後のCs+イオンのビーム阻止板702への衝突は、打ち込まれたCsを中性原子としてスパッタし、これがドリフトして高温のイオン化器へと戻ってくる。図17Cにおいて、再イオン化されたCs+イオンは、ビーム阻止部開口702Aを通って加速される。当初生成されたCs+イオンビームのかなりの部分は広がって、(例えばモリブデンの)ビーム阻止板702に当たるが、ビーム阻止板702は、特にこの広がるビームを妨害するとともに、下流側にあるレンズ素子(図示せず)を保護するように配置されている。これらの衝突イオンは、ビーム阻止板702から、加速されてイオン源700へと戻ることが可能な陰イオンをスパッタした結果、イオン源700の表面からの陽イオンのスパッタを生じさせる。ビーム阻止部の金属の電子親和力が低いので、この影響は恐らく小さく、よって陰イオン収率は低い。より顕著な影響は、打ち込まれたセシウムが再スパッタされることである。定常状態では、衝突イオンごとに1つのセシウムがスパッタされる。セシウムがビーム阻止板702の表面内に堆積することに起因して、再スパッタされたセシウムのイオン化確率は低く、50%以下である。再スパッタされたCs+イオンは正バイアスがかかったイオン化器へは戻れないが、中性のセシウム原子は容易にイオン化器へ戻ることができる。(図17Bに示されている)スパッタされたセシウムの中性流束の一部は、高温のイオン源700の前面に再衝突可能であり、ここではほぼ100%の効率でイオン化されることになる。これが、カラムを下方へと移動させてイオンレンズによって集束可能な(図17Cに示されている)Cs+イオンのゴーストビームを生成する。加速電界と、電界の抽出板701内の透過との影響は、ゴーストビームが、イオン化器の面の後ろにある虚物体面から来ているように現れるようにすることである。このビームは、試料では焦点が外れることになり、検出は難しいかもしれないが、主要ビームが衝突する小さな領域を越えてイオンを生成可能である、弱いハローを生成してしまい、誤った結果を生み出すこともある。上述の説明は、全てのイオン化器の形状にあてはまる。カメカ社の工場製イオン源における平坦面と凸面との組み合わせは、元となる点の異なる見かけの点と集光特性とを有する、いくつかのゴーストビームを生成し得る。
出願人は、二次イオン質量分析計のための一次イオン源におけるゴーストビームを低減または排除する3つの手法を開発した。第1の手法は、イオン化器表面を成形して、ゴーストイオンがビーム阻止部開口を通過するのを防ぐことを含む。第2の手法は、イオン化器にぶつかる再スパッタされたセシウム原子の生成を最少化するように、ビーム阻止部を成形することを含む。第3の手法は、再スパッタされたセシウムが衝突する領域がこれらの再スパッタされたセシウム原子の再イオン化を生じさせないように、イオン化器表面の化学的性質と温度とを調整することを含む。ある実施形態において、上記の手法は、別々に用いても、組み合わせて用いてもよい。
図18Aは、抽出板711及びビーム阻止板712の連続して配置されたオリフィス711A,712Bを通ってセシウムイオンを送出するように構成された、イオン化器開口709を含んでいるテーパー形状の(例えば円錐形または円錐台形)表面710を含む遠位端を有するイオン源700の先端部の概略断面図である。図18Aは、イオン化器の前面710を30度のテーパー形状にする効果のイオン光学シミュレーションを含んでいる。テーパー形状面710上で生成されたイオンは、始めは離脱する面の法線方向に加速されるので、このテーパー形状面710からのイオンは(図18Aにあるように、円錐の先端部の間近で生成されたイオンであっても)、テーパー形状面710の角度が十分に大きい場合はビーム阻止板のオリフィス712Bを通過できない。ビーム阻止板のオリフィス712Bは、一次イオン源700に近位の前縁713−1は直径が小さくなり、そして一次イオン源700から遠位の後縁713−2は直径が大きくなる、可変の直径を有している。ある実施形態において、ビーム阻止板のオリフィス712Bは、断面形状が円錐台形である。イオン源700のテーパー形状面710がテーパー形状(例えば円錐形または円錐台形)であると、テーパー形状面710から発するスパッタ堆積されたCsイオンが抽出板711及びビーム阻止板712の連続して配置されているオリフィス711A,712Bを通過する能力が低減または排除される。テーパー形状面710に近い線719は、再スパッタされたCsから生成されたイオンを含む、イオン源700から発するCsイオンの電位方向の接線である。ある実施形態において、円錐面または円錐台形面710は、6〜45度の範囲、または10〜40度の範囲、または15〜35度の範囲、または20〜30度の範囲にある、円錐の半角の余角を備えている。このような角度の範囲は、本明細書に開示されている円錐面または円錐台形面にも当てはまる。
図18Bは、一実施形態に係る変形したビーム阻止板722の断面図であり、ビーム阻止板722は、上流側のイオン化器(例えば図18Aに示されているような一次イオン源)の近似側に位置するように配置されている円錐台形延長部724を含んでいる。ビーム阻止板722は、円錐台形延長部744に位置合わせされた開口722Bを含み、開口722Bは、上流側の一次イオン源に近位の前縁723−1は直径が小さくなり、そして上流側の一次イオン源から遠位の後縁723−2は直径が大きくなる、可変の直径を有している。円錐台形延長部724は、イオン化器開口から広がるセシウムイオンが視射角で延長部表面724Aに確実に当たることになるように設計されている。これらの視射角では、衝突セシウムイオンの大多数は、開口722Bに近位のビーム阻止板722内へは打ち込まれることにならず、むしろ、前方や外側へ散乱して、最終的には、再スパッタされたいずれのセシウムにとっても離れすぎている点で、ビーム阻止部材料の上または内部で停止し、上流側の一次イオン源の表面へと戻ることになる。最初の衝撃でビーム阻止部材料内に打ち込まれるいずれのセシウムも、前方方向に再スパッタされる確率が高く、再スパッタされたいずれのセシウムにとっても離れすぎている点で、ビーム阻止部材料の上または内部で停止し上流側の一次イオン源の表面へと戻る。さらに、最初に衝突されたビーム阻止板722の延長部表面724A内に打ち込まれたセシウムの濃度が低いので、衝突された面では仕事関数の低下が最小になることになる。この高仕事関数を有する面から再スパッタされたいずれのセシウムも、大部分がセシウム陽イオンとして表面を離れることになるが、これらは、正にバイアスされた上流側の一次イオン源に戻ることはできない。
上述の図18A〜18Bの説明から分かるように、以下のパラメータのうちのいくつか、または全ては、イオン化器開口から直接発するセシウムイオン以外のセシウムイオンが、ビーム阻止板のオリフィスを通過することを防ぐように選定されてもよい。パラメータとは、(a)イオン化器の遠位端部分の形状、(b)イオン化器の遠位端部分の材料、及び(c)ビーム阻止板のオリフィスの寸法及び形状、である。
イオン化管の円錐面または円錐台形面を有する遠位端を含むイオン化器サブアセンブリは、図13A,15,16に図示されていた。ある実施形態において、グラファイト毛細管挿入物は、イオン化器開口の近位に円錐面または円錐台形面を含んでもよい。
図19は、一実施形態に係るイオン化部を図示し、イオン化部は、ネジ込みキャップ760で留められている(例えばグラファイトまたはグラファイト含有材料を含む)毛細管挿入物750を含み、毛細管挿入物750は、外側に突出している錐面751を含み、イオン化器開口759を画定している、遠位端を有していて、錐面751は、中央部761内で画定されたオリフィス764を貫通し、ネジ込みキャップ760の遠位端に沿って延在している。毛細管挿入物(またはプラグ)750は、遠位端(錐面)751と近位端752とを含んでいる。毛細管挿入物750はさらに、イオン化管745の端部に当接するように配置された段部757を含み、イオン化管745の端部は、キャップ760のネジ山765と協働するように配置された雄ネジ747を含んでいる。毛細管挿入物750は、イオン化管745の流路746と狭いイオン化器開口759との間に介在された広流路部758を含んでいる。キャップ760は、近位端部分762と、外向き傾斜縁部766とを含んでいる。キャップ760のオリフィス764は、イオン化器開口759に位置合わせされており、毛細管挿入物750を収容する空洞を含んでいる。ある実施形態において、イオン化管745及びキャップ760は、少なくとも1つの金属(例えばモリブデンまたはタングステン)を含み、毛細管挿入物750は、グラファイトを含んでいる。ある実施形態において、錐面751は、形状が円錐台形であってもよい。錐面751上に存在するいかなるセシウムイオンも面751の法線方向に加速されることになるので、外側に突出している円錐面または円錐台形面が十分な角度(例えば、6〜45度の範囲、または10〜40度の範囲、または15〜35度の範囲、または20〜30度の範囲にある、円錐の半角の余角)で存在していると、このような面からイオン化されたいかなるセシウムイオンも(図18A〜18Bに示されているような)ビーム阻止部開口を通って送出されることになる可能性が低減されることになる。
円錐形または円錐台形のイオン化器表面の少なくとも一部分上に配置された耐熱性金属被膜または耐熱性金属シースの存在を含む、さらなる実施形態を説明する前に、イオン化温度の調整及び制御を行うイオン化器表面材料の効果を紹介する。
図20は、加熱表面から気化しているセシウムイオン分率(α)の温度関数としてのプロットである。イオン分率のピークは1に近い。グラファイト及びタングステンの双方は、清浄表面では4.5eV程度の電子の仕事関数(電子の脱出に対するポテンシャル障壁)を有しており、これはセシウムのイオン化ポテンシャル(3.9eV)よりも高い。よって、いずれの温度でも、セシウムがこれらの清浄で仕事関数が高い表面から陽イオンとして気化することは、エネルギー的により起こりやすい。セシウムは陽イオンとして吸着される。吸収されたセシウムイオンは表面から遠ざかるので、原子内の空の価電子準位のエネルギーは降下するが、金属内ではフェルミ準位を下回ることはなく、金属からの電子が障壁を通り抜けてセシウムイオン内に入ることによって電気的に中和する可能性はない。本来なら清浄であるはずの表面から気化するセシウムの場合、図20における曲線は、全温度で平坦になるはずである(より正確には、中性としての気化は温度が高いほどより確実に起こる活性化プロセスであるので、温度が高くなるほど温度とともにわずかに下がっていくはずである)。このカーブにおける急な始まりの理由は、所与のセシウムの表面への流束の場合、イオンと中性原子のどちらかとそれ以外のものが表面上で蓄積するので、低温ではセシウムは十分に早く気化しないからである。これが仕事関数を急激に低下させ(単層の約10〜20%のセシウム被覆率での最小仕事関数は1.5eVという低値であり、これはセシウムイオン化ポテンシャルよりも大幅に低い)、これにより、イオンの放出が、表面からの電子トンネル効果に起因して抑えられる。所与のセシウムの表面への流束の場合、温度は、仕事関数が3.9eVよりも低くならない程度の十分に低いレベルにおいてセシウム被覆率を維持するのに十分に高くなければならない。タングステン表面の場合、イオン化の急激な始まりが起こるのは、1200°C程度であり、清浄表面の仕事関数が存在するのに十分に低くセシウム被覆率が低下した場合である。出願人は、本明細書に開示されているグラファイトイオン化器が、タングステンイオン化器よりも低い温度(加熱電流により推定)、恐らく900°Cという低さで動作することを観測した。これは、セシウムの炭素上での吸着熱がタングステン上よりも大幅に低いためであると考えられているので、タングステンイオン化器の表面をセシウムがない状態に保つためには非常に高い温度が必要である。この効果により、炭素上でイオン化を生じるには十分であるが、タングステン(または、タングステンと同様の挙動をすると考えられているモリブデン)から感知できるほどのイオン化を生じるには低すぎる温度で動作することによって、イオン化器の金属要素でのゴーストビームの形成を抑える手段を提供する。図21は、加熱グラファイト(C)表面及びタングステン(W)表面から気化しているセシウムイオン分率の温度関数としての重ね合わせたプロットを含み、好ましくは2本の縦実線によって境界を示された、好適な使用可能温度「窓」を特定している。グラファイトのT0値は900°C程度であると推定される。
イオン化温度の調整及び制御を行うイオン化器表面材料に関する上述の説明を考慮に入れて、ある実施形態において、耐熱性金属被膜または耐熱性金属シースは、円錐形または円錐台形を有することが好ましいグラファイトイオン化器表面の少なくとも一部分上に配置されていてもよい。グラファイトイオン化器の表面を900°C程度に加熱することは、セシウムイオンをイオン化するには十分であるが、この程度の温度は、いずれの耐熱性金属(例えばタングステンまたはモリブデン)の表面上に存在しているセシウムをイオン化するのに足りるほど高くはない。
図22は、図19のイオン化部に類似するイオン化部の概略断面図であり、さらに、毛細管挿入物750の遠位端の錐面751の少なくとも一部分上に配置された耐熱性金属被膜769を含んでいる。図22の他の全ての要素は、図19とともに説明された要素と同一であるので、簡潔にするために、このような要素のさらなる説明は省略する。耐熱性金属被膜は、スパッタリングまたは他の任意の適切な技術によって、錐面751上に堆積されてもよい。ある実施形態において、錐面751は、形状が円錐台形であってもよい。ある実施形態において、錐面751のほぼ全ての外側に面する(例えば露出している)部分は、耐熱性金属(例えばタングステン及び/またはモリブデン)で被膜されている。ある実施形態において、塗布された金属被膜769は、毛細管挿入物のグラファイトと反応して金属炭化物を形成してもよい。ある実施形態において、塗布された金属被膜769は、毛細管挿入物750の円錐形(または円錐台形)表面751の80%、90%、または95%を超えて覆っている。
図23は、図19のイオン化部に類似するイオン化部の概略断面図であるが、キャップ860は、毛細管挿入物850の遠位端の外側に突出している錐面851の少なくとも一部分上に耐熱性金属シースを形成するように配置された先細遠位端866を含んでいる。毛細管挿入物850は、イオン化器開口859を画定し、錐面851は、中央部868内で画定されたオリフィス864を貫通し、ネジ込みキャップ860の遠位端に沿って延在している。毛細管挿入物(またはプラグ)850は、遠位端(錐面)851と近位端852とを含んでいる。毛細管挿入物850はさらに、イオン化管845の端部に当接するように配置された段部857を含み、イオン化管845の端部は、キャップ860のネジ山865と協働するように配置された雄ネジ847を含んでいる。毛細管挿入物850は、近位端部分862を含み、イオン化管845の流路846と狭いイオン化器開口859との間に介在された広流路部858を含んでいる。キャップ860のオリフィス864は、イオン化器開口859に位置合わせされており、毛細管挿入物850を収容する空洞を含んでいる。ある実施形態において、イオン化管845及びキャップ860は、少なくとも1つの耐熱性金属(例えばモリブデンまたはタングステン)を含み、毛細管挿入物850は、グラファイトを含んでいる。ある実施形態において、錐面851は、形状が円錐台形であってもよい。ある実施形態において、キャップ860は、毛細管挿入物850の円錐形(または円錐台形)表面851の80%、90%、または95%を超えて覆っている。
ある実施形態は、使い捨ての管状グラファイトガスケットを用いた新規の貯留部封止システムを含む、二次イオン質量分析計とともに使用するように配置された、改良された一次イオン源を対象にしている。本明細書にて上述したように、工場製イオン源の貯留部の封止は、(貯留部の境界をなす)2つの成形されたモリブデン面を押し込んで、ネジキャップを施すことによって互いに接触させるスエージ設計を用いて行われている。モリブデンといった相当の超硬金属を用いた封止を実現するために必要なトルクはかなり高く、封止と金属の割れの防止との間の均衡をとるためには、トルクパラメータを慎重に制御しなければならない。モリブデンは貯留部の温度では脆化し、また、接合箇所に再びトルクをかけると割れが生じるので、イオン源本体は再利用できない。貯留部の金属部分を封止することに関する難点を克服するために、優れた封止特性をもたらしながら低トルクでの動作を可能にするような使い捨ての管状グラファイトガスケットが開発されてきた。
図24Aは、一実施形態に係る一次イオン源の概略断面図であり、金属貯留部本体933と金属貯留台部941との間に配置された可変直径を有する使い捨てグラファイト管ガスケット910を含んでいる。貯留部本体933は、貯留部空洞938の境界をなす側壁937の雄ネジ面936を含み、搭載柱932は貯留部本体933に取り付けられている。イオン化管945は、通路946を画定し、イオン化管945の遠位端は、加熱イオン化部951に接続され、イオン化管945の近位部945Aは、貯留台部941を貫通して延在している。イオン化管945の遠位部945Aは、貯留台部941の側壁944と組み合わさって、貯留部本体933内で画定された貯留部空洞938に露出するように配置された環状凹部948の境界をなしている。封止ナット970は、中央部971を含み、雄ネジ面936を係合させるように配置された雌ネジ面977を含んでいる。グラファイト管ガスケット910は、貯留部本体933の内側及び貯留台部941の内部で、側壁937,944の近位に配置されている。ある実施形態において、グラファイト管ガスケット910は、(例えば、好ましくは1〜5度の範囲、より好ましくは2〜3度の範囲のテーパー角を有する)両側テーパー形状の外面を有し、ガスケット910の両端部の近位では外径が小さくなり、そして、両端部の間の中間点で外径が大きくなっている。図24Bは、可変直径のグラファイト管ガスケット910の概略断面図であり、中間点にある最大外径と、両端911,912に沿った最小外径とを、理解しやすいように直径の変化量を誇張して描いている。管ガスケット910は、第1テーパー形状面915と第2テーパー形状面916を含んでいる。両側テーパー形状のグラファイト管ガスケット910の外面は、締まりばめが行えるように寸法が定められているので、各テーパー形状面915,916の一部分のみがそれぞれの貯留台部941または貯留部本体933内へと容易に挿入可能であるが、その後に完全に押し込まなければならず、これにより金属貯留台部941と貯留部本体933とがグラファイト管ガスケットのテーパー形状面915,916へと食い込んで、封止を実現することができる。ある実施形態において、グラファイト管ガスケットは、(図24Bに示すような)内部凹部918を画定する一定の内径を含んでいる。ある実施形態において、グラファイト管ガスケットは、(図24Bに示すような)内部凹部918を画定している一定の内径を含んでいる。
図24Cは、組み立て工程中の図24Aの一次イオン源の各部分の概略断面図である。組み立て中、ある実施形態において、まず、貯留部キャップ937内へとすきま嵌めされている円筒形テフロンスタブ990を用いて、グラファイト管ガスケット910を貯留部本体933へと押し込み、雄ネジ面936上にねじ止めされている特別に長い仮の封止ナット980を用いて、グラファイト管ガスケット910の端部に対して力をかけることで、グラファイト管ガスケット910の一部分を貯留台部941の内部に押し入れる。次に、貯留部本体933を片寄せしてテフロンスタブ990を取り外す。イオン化部951をイオン化管945に組み立てて取り付けた後、グラファイト管ガスケット910を内部に挿入した状態の貯留部本体933に、脱気した乾燥炭酸セシウムを装填する。その後、特別に長い仮の封止ナット980を再び用いて、貯留部本体933をグラファイト管ガスケット910の突出部に押し付ける。グラファイト管ガスケット910を貯留台部941の環状凹部948内へと十分に押し込んだら、特別に長い封止ナットを取り外し、最終の封止ナット970に取り換えて、グラファイト管ガスケット910が両端911,912とも底に達するまで、組立体を締めることによって、図24Aの組立体が得られる。グラファイト管ガスケット910の表面915,916がわずかにテーパー形状であり、かつ、グラファイトが柔軟で潤滑性があるために、封止を実現するには少量の力しか必要ない。好ましくは、長さが約4インチの2つの小さなレンチで手締めすることで十分である。グラファイト管ガスケット910は、イオン化部951のグラファイト毛細管挿入物とともに使い捨てであるが、図24Aのイオン源の残りの金属部分は再利用されてもよい。
添付の図面に鑑みて以下に続く説明を読むと、当業者であれば本開示の概念を理解し、本明細書では特に取り扱われてはいないこれらの概念の用途を認識するであろう。当業者であれば、本開示の好適な実施形態への改良や変形を認識するであろう。このような改良や変形は全て、本明細書に開示された概念や以下に続く請求項の範囲内であるとみなされる。