しかしながら、上記従来の磁気センサにあっては、GMR素子122a,122dとGMR素子122b,122cとには、中心線CL12の方向にもバイアス磁石130による反対向きのバイアス磁界がそれぞれ印加される。この場合、磁気センサが歯車140(磁性体)の幅方向に正確に配置されて、GMR素子122a,122dとGMR素子122b,122cとの中心間の中点O11が歯車140の凸部141a及び凹部141bの幅方向の中央に正確に位置していれば、歯車140の回転に伴ってバイアス磁界が変動しても、GMR素子122a,122dとGMR素子122b、122cとにそれぞれ印加される中心線CL12の方向の互いに反対向きのバイアス磁界の磁界強度は常に同じである。そして、中心線CL12の方向の互いに反対向きのバイアス磁界によるGMR素子122a,122dの抵抗値とGMR素子122b,122cの抵抗値は常に等しく保たれる。したがって、この場合には、フルブリッジ接続されたGMR素子122a〜122dからの出力の精度が良好であり、歯車140の回転が高精度で検出される。
しかし、磁気センサが歯車140(磁性体)の幅方向に正確に配置されずに、GMR素子122a,122dとGMR素子122b,122cとの中心間の中点O11が歯車140の凸部141a及び凹部141bの幅方向の中央位置からずれている場合には、磁気センサからの出力の精度が良好でなくなり、歯車140の回転位置が高精度で検出されないという問題がある(詳細には、後述する第3実験結果である図11(B)を参照)。この磁気センサからの出力の精度が良好でなくなる理由は、次のような点にあると考えられる。前記中点O11が歯車140の幅方向の中央位置からずれている場合には、中心線CL12の方向の互いに反対向きのバイアス磁界の磁界強度は異なり、歯車140の回転に伴ってバイアス磁界が変動すると、中心線CL12の方向の互いに反対向きのバイアス磁界によるGMR素子122a,122dの抵抗値変化とGMR素子122b,122cの抵抗値変化は、それぞれ等しい値を保つことなく、異なる態様である程度大きく変化する。そして、前記中点O11の歯車140の幅方向へのずれによるGMR素子122a,122dの抵抗値変化とGMR素子122b,122cとの抵抗値変化との相違により、フルブリッジ接続されたGMR素子122a〜122dからの出力の精度が良好でなくなると考えられる。
本発明は、このような問題に対処するためになされたもので、その目的は、磁気センサが磁性体の幅方向に正確に配置されていなくても、ブリッジ接続された一対のGMR素子からの出力の精度を良好にした磁気センサを提供することにある。なお、下記本発明の各構成要件の記載においては、本発明の理解を容易にするために、実施形態の対応箇所の符号を括弧内に記載しているが、本発明の各構成要件は、実施形態の符号によって示された対応箇所の構成に限定解釈されるべきものではない。
前述した目的を達成するため、本発明の特徴は、同一に構成されてブリッジ接続された磁界強度検知型の少なくとも一対のGMR素子(22a,22b又は22c,22d)と、前記一対のGMR素子に対してバイアス磁界を印加するバイアス磁界印加手段(30A,30B)とを備え、磁性体の移動を検出する磁気センサであって、前記一対のGMR素子を同一の平面内に所定間隔を隔てて配置し、かつ前記バイアス磁界印加手段を、直方体状であって長尺状にそれぞれ構成し、第1面をN極にそれぞれ磁化するとともに前記第1面の反対側の第2面をS極にそれぞれ磁化した一対の磁石で構成し、前記一対の磁石は、前記第1面又は前記第2面を、前記一対のGMR素子が配置された平面に対向させて配置され、前記一対の磁石による磁界成分であって、前記一対のGMR素子の中心を結ぶ第1直線(CL2)の方向の磁界成分を互いに相殺させて、前記一対のGMR素子に対して前記第1直線の方向にバイアス磁界が印加されないようにし、かつ前記一対の磁石による磁界成分であって、前記第1直線に直交する第2直線(CL1)の方向の磁界成分を合成させて、前記一対のGMR素子に対して前記第2直線の方向に反対向きの等しい強度のバイアス磁界が印加されるようにしたことにある。
この場合、例えば、前記磁石は、永久磁石である。
より具体的には、一対の永久磁石は同一の構成であり、一対の永久磁石は、一対の永久磁石の第1面又は第2面が、一対のGMR素子が配置された平面に対してそれぞれ同一距離だけ隔ててそれぞれ平行に対向するとともに、一対のGMR素子に対向する平面内にて所定の距離だけ隔てて平行に延設されており、一対の永久磁石の第1面又は第2面における各2つの長辺間の2つの中心線(CL3A,CL3B)が、一対のGMR素子に対向する平面内にて、前記第1直線に対して所定角度だけそれぞれ傾き、かつ前記第1直線上であって一対のGMR素子の中心間の中点(O1)が前記2つの中心線間の中心線上の所定位置に対向するように、配置されている。
言い換えれば、一対の永久磁石は同一の構成であり、一対の永久磁石は、一対の永久磁石の第1面又は第2面が、一対のGMR素子が配置された平面に対してそれぞれ同一距離だけ隔ててそれぞれ平行に対向するとともに、一対のGMR素子に対向する平面内にて、所定の距離だけ隔てて平行かつ前記第1直線に対して所定角度だけそれぞれ傾いて延設されており、かつ前記第1直線上であって一対のGMR素子の中心間の中点(O1)から一対の永久磁石の第1面又は第2面の前記中点側の各辺までの距離(並びに一対の永久磁石の第1面又は第2面における各2つの長辺間の2つの中心線(CL3A,CL3B)までの距離、及び前記第1面又は第2面の前記中点とは反対側の各辺までの距離)が同じになるように、配置されている。
また、これらの場合、例えば、一対のGMR素子は、絶縁基板(21)に形成された線状のグラニュラ薄膜又は線状の人口格子膜で構成され、かつ絶縁基板には一対のGMR素子に電気接続された複数の電極(23a〜23d)が設けられている。また、例えば、一対のGMR素子、絶縁基板及び複数の電極は、樹脂により成型されたパッケージ(10)内に収容され、かつ複数の電極に電気接続された複数の導電性のリードフレーム部(13a〜13d)を、パッケージから突出させている。
また、例えば、磁気センサは、移動方向に対して直交する方向に延設された少なくとも1つの凸部又は凹部を有する磁性体の移動の検出に適用され、一対のGMR素子を、前記第1直線が磁性体の移動方向に直交するように配置する。
上記本発明に係る磁気センサにおいては、一対のGMR素子を同一の平面内にて、一対のGMR素子に対して、一対のGMR素子の中心を結ぶ第1直線の方向にバイアス磁界が印加されず、かつ前記第1直線と直交する第2直線の方向に反対向きの等しい強度のバイアス磁界がそれぞれ印加される。そして、この磁気センサを用いて、例えば磁性体で構成した歯車の回転を検出するためには、一対のGMR素子を配置した平面が歯車の歯の外周面に対向し、かつ前記第1直線が歯車の回転方向と直交するように、磁気センサを歯車に対して配置する。好ましくは、一対のGMR素子の中心間の中点を歯車の幅方向の中央に位置させるとよい。そして、歯車を回転させれば、一対のGMR素子の抵抗値は歯車の回転に応じてそれぞれ逆方向に変化して、ブリッジ接続された一対のGMR素子から歯車の回転に応じた正弦波状の電圧信号が得られる。したがって。本発明によれば、この正弦波状の電圧信号を用いて、歯車の回転位置を高精度で検出することができる。
前記歯車の回転検出においては、磁気センサが歯車の幅方向に正確に配置されていなくてずれている、すなわち一対のGMR素子の中心間の中点が歯車の幅方向の中央位置からずれていることもあり得る。しかし、本発明においては、一対のGMR素子の中心間の中点が歯車の幅方向の中央位置から多少ずれていても、磁気センサからの出力電圧波形は、一対のGMR素子の中心間の中点が歯車の幅方向の中央位置にある場合とほぼ同じになり、ブリッジ接続された一対のGMR素子からの出力の精度が良好になる。特に、背景技術の項で説明した図14に示す従来の磁気センサに比べて極めて良好になる(詳細には、後述する第3実験結果である図11(A)(B)を参照)。その結果、本発明によれば、一対のGMR素子の中心間の中点が歯車の幅方向の中央位置から多少ずれていても、歯車の回転位置を高精度で検出することができる。
このブリッジ接続された一対のGMR素子からの出力の精度が良好になる理由について考察すると、次の点が考えられる。本発明の磁気センサにおいては、磁気センサを歯車に対向させていない状態においては、バイアス印加手段による一対のGMR素子の中心を結ぶ第1直線の方向へのバイアス磁界は相殺され、一対のGMR素子には、前記第1直線と直交する方向(前記第2直線の方向)へのバイアス印加手段によるバイアス磁界のみが印加されている。すなわち、本発明に係る磁気センサは、優れた磁界感度異方性をもつ。そして、磁気センサを歯車の幅方向にずれて対向させた場合には、バイアス印加手段によるバイアス磁界は、前記第1直線と直交する方向から傾くが、その傾き量は小さく、また一対のGMR素子に対しては同程度となる。したがって、磁気センサの歯車の幅方向に対するずれがあっても、バイアス印加手段による一対のGMR素子の中心を結ぶ第1直線の方向へのバイアス磁界に対する、磁気センサの歯車の幅方向へのずれによる影響は極めて小さい。その結果、磁気センサが歯車の幅方向に正確に配置されていなくても、本発明に係る磁気センサにおいては、優れた磁界感度異方性のために、ブリッジ接続された一対のGMR素子からの出力の精度が良好になると考えられる。
また、後述する第2実験結果である図10から分かるように、歯車の歯車ピッチが変化しても、高精度の正弦波状の信号を出力電圧として得ることができる。そして、後述する第4実験結果である図12の実線で示すように、歯車ピッチが小さくなるほど、前記出力電圧のピーク間電圧差は小さくなる。しかし、図14に示す従来の磁気センサを用いて、歯車の歯車ピッチを変化させた後述する第4実験結果では、図12の破線で示すように、前記出力電圧のピーク間電圧差は、本発明による磁気センサの場合よりも常に小さい。特に、本発明の磁気センサによる出力電圧のピーク間電圧差は、歯車ピッチの小さな領域では、従来の磁気センサにおける出力電圧のピーク間電圧差の2倍よりも大きい。その結果、本発明によれば、歯車ピッチの小さな歯車の回転位置も高精度で検出することができる。
なお、本発明に係る磁気センサは、歯車以外の磁性体の移動の検出にも利用できる。ただし、この場合の出力は正弦波状には変化しない。また、本発明の磁気センサにおいては、磁界強度検知型の一対のGMR素子を同一に構成して平面内に配置すればよいので、例えば同一構成の一対のGMR素子を絶縁基板などの基体上に形成すればよく、磁気センサを簡単に構成できる。
また、本発明の他の特徴は、一対のGMR素子は、長手方向と短手方向の形状異方性を有し、かつ一対のGMR素子を、長手方向が前記第1直線に直交するように配置したことにある。これによれば、後述する図8の説明からも分かるように、長手方向が一対のGMR素子の中心を結ぶ直線に平行になるように配置した場合に比べて、優れた磁界感度異方性が得られ、大きな出力を得ることができる。
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。図1は、実施形態に係る磁気センサのチップパッケージ10内の概略構成を示す平面図である。図2は図1の磁気センサにおけるセンサチップ20の拡大平面図であり、図3は図1の磁気センサの斜視図である。なお、本明細書においては、図1の上下方向を磁気センサの前後方向(図1の下側を磁気センサの前側、図1の上側を磁気センサの後側)とし、図1の左右方向を磁気センサの左右方向とし、かつ図1における紙面の表裏方向を磁気センサの上下方向として説明する。
チップパッケージ10は、エポキシ樹脂により、直方体状に構成されている。チップパッケージ10内には、チップパッケージ10の上下方向のほぼ中央位置にて上下面に平行にして、薄板状に非磁性の導電体材料(例えば、銅板)で形成されたアイランド部11、突出部12a,12b及びリードフレーム部13a〜13dが組み込まれている。チップパッケージ10の厚みは、1.0mmである。
アイランド部11は、平面視で長方形状に構成され、チップパッケージ10の左右方向の中央位置かつ前後方向の若干後方位置に配置されている。アイランド部11の左右辺及び前後辺は、チップパッケージ10の左右辺及び前後辺とそれぞれ平行である。突出部12a,12bは、平面視で鉤型形状にアイランド部11と一体形成され、内側端部の後端をアイランド部11の前端にそれぞれ接続させ、外側端部の前端をチップパッケージ10の前面から突出させている。なお、突出部12a,12bは、アイランド部11の周囲にエポキシ樹脂を流し込んで、アイランド部11、突出部12a,12b及びリードフレーム部13a〜13dをチップパッケージ10内に固定する際に、アイランド部11を支持するために設けられている。リードフレーム部13a〜13dも、平面視で鉤型形状を有し、それらの前端部をアイランド部11の前部近傍に位置させ、それらの後端部をチップパッケージ10の後面から突出させている。
アイランド部11の前部上面には、センサチップ20が固定されている。センサチップ20は、シリコン、ガラス、セラミック等の絶縁体材料で長方形の板状に構成された絶縁基板21を備えている。絶縁基板21は、本実施形態では、前後方向の長さL1が1.05mmに設定され、左右方向の長さL2がそれぞれ1.8mmに設定され、厚みが0.25mmに設定されている。この絶縁基板21は、その左右辺及び前後辺をチップパッケージ10の左右辺及び前後辺とそれぞれ平行にして、ダイボンド材によりアイランド部11の上面に固着されている。
絶縁基板21の上面には、GMR素子(巨大磁気抵抗効果素子)22a〜22d及び電極23a〜23dが配置されている。GMR素子22a〜22dは、Ag−FeCoからなる線状のグラニュラ薄膜で構成されており、絶縁基板21の上面上にスパッタリング法を用いてグラニュラ薄膜を成膜することにより、絶縁基板21上に形成されている。GMR素子22a,22dは絶縁基板21の上面における左側かつ前側部分に設けた長方形領域21aに成膜され、GMR素子22b,22cは絶縁基板21の上面における右側かつ前側部分に設けた長方形領域21bに成膜されている。長方形領域21a,21bの形状及び大きさは同じであり、前後方向の長さを左右方向の長さよりも大きくしている。長方形領域21a,21bの左右辺は絶縁基板21及びチップパッケージ10の左右辺とそれぞれ平行であるとともに、長方形領域21a,21bの前後辺は絶縁基板21及びチップパッケージ10の前後辺とそれぞれ平行である。また、長方形領域21a,21bの前後方向の位置は同じであり、すなわち長方形領域21a,21bの前辺から絶縁基板21及びチップパッケージ10の前辺までの距離は同じであり、長方形領域21a,21bは絶縁基板21の左右方向の中心線CL1に対して左右対称に位置する。これらの長方形領域21a,21bにおいては、本実施形態では、前後方向の長さL3が0.4825mmに設定され、左右方向の長さL4が0.3mmに設定されている。また、長方形領域21aの右端から長方形領域21bの左端までの長さL5は、本実施形態では0.92mmに設定されている。そして、GMR素子22a,22dの中心とGMR素子22b,22cの中心との間の距離L6は、1.22mmである。
GMR素子22a,22dは、長方形領域21a上に、長手方向を前後方向にするとともに短手方向を左右方向にして、それぞれ複数の折り返し部がある線状に形成されている。より具体的には、GMR素子22a,22dは、長方形領域にて、前後方向に一直線状に一定長さ(長さL3よりも若干短い長さ)延設させた後に折り返して、前記一直線状に延びた前端部又は後端部を湾曲させて若干長さだけ左右方向に延設して、さらに前記一直線状に延設させた方向と反対方向に一直線状に延設することを繰返す。
また、GMR素子22a,22dは、隣合う線状部分の左右方向の間隔を大きくした部分と、隣合う線状部分の左右方向の間隔を小さくした部分とを有するように、折り返して構成されている。そして、GMR素子22aにおける隣合う線状部分の左右方向の間隔を大きくした部分に、GMR素子22dにおける隣合う線状部分の左右方向の間隔を小さくした部分を侵入させるとともに、GMR素子22dにおける隣合う線状部分の左右方向の間隔を大きくした部分に、GMR素子22aにおける隣合う線状部分の左右方向の間隔を小さくした部分を侵入させる。なお、これらのGMR素子22a,22bの折り返し回数は、例えば、GMR素子22a,22dの前後方向に延設された直線部分の本数が17本となるように設定されている。
GMR素子22b,22cは、長方形領域21b上に、長手方向を前後方向にするとともに短手方向を左右方向にして、それぞれ複数の折り返し部がある線状に形成されている。GMR素子22b,22cも、GMR素子22a,22dと同様に構成されている。そして、GMR素子22bは、前記中心線CL1に対して、GMR素子22aと左右対称になるように配置されている。また、GMR素子22cは、前記中心線CL1に対して、GMR素子22dと左右対称になるように配置されている。
電極23a〜23dは、薄板状に非磁性の導電体材料(例えば、アルミニウム)で、絶縁基板21上に平面視で正方形状にパターン形成されている。電極23aはGMR素子22b,22cの後方に位置し、電極23bはGMR素子22a,22dの後方に位置する。電極23a,23bは、前記中心線CL1に対して左右対称に配置されている。電極23cはGMR素子22b,22cの左方であって前記中心線CL1とGMR素子22b,22cの間に位置し、電極23dはGMR素子22a,22dの右方であって前記中心線CL1とGMR素子22a,22dの間に位置する。電極23c,23dは、前記中心線CL1に対して左右対称に配置されている。
また、絶縁基板21上には、GMR素子22a〜22dと電極23a〜23dとをそれぞれ電気接続するための配線パターン24が形成されている。この配線パターン24も、薄板状の非磁性の導電体材料(例えば、アルミニウム)で構成されている。GMR素子22aの一端(右上端)は配線パターン24により電極23aに電気接続され、GMR素子22aの他端(左下端)は配線パターン24により電極23cに接続されている。GMR素子22bの一端(右下端)は配線パターン24により電極23bに電気接続され、GMR素子22bの他端(左上端)は配線パターン24により電極23cに接続されている。これにより、GMR素子22a,22bはハーフブリッジ接続されている。また、GMR素子22cの一端(左上端)は配線パターン24により電極23aに電気接続され、GMR素子22cの他端(右下端)は配線パターン24により電極23dに接続されている。GMR素子22dの一端(左下端)は配線パターン24により電極23bに電気接続され、GMR素子22dの他端(右上端)は配線パターン24により電極23dに接続されている。これにより、GMR素子22c,22dもハーフブリッジ接続されている。
電極23a〜23dは、導電線(例えば、金線)からなるワイヤ14a〜14dを介して、リードフレーム部13a〜13dにそれぞれ電気接続されている。リードフレーム部13aには外部に設けた電気回路装置から電圧Vが供給され、リードフレーム部13bは前記電気回路装置により接地されている。リードフレーム13c,13dは、前記電気回路装置に電圧Vo1,Vo2をそれぞれ出力する。これにより、GMR素子22a〜22dは図4に示すように、フルブリッジ回路を構成している。また、前記電気回路装置は差動増幅器25を備えており、差動増幅器25は出力電圧Vo1,Vo2の差分電圧を出力する。
チップパッケージ10の下面には、永久磁石である直方体の一対のバイアス磁石30A,30Bの上面がダイボンド材により固着されている。一対のバイアス磁石30A,30Bは、本実施形態では、ネオジウムと鉄を主原料としたネオジウム磁石からなり、同一の形状及び寸法を有する同一の永久磁石である。バイアス磁石30A,30Bの上面及び下面の長辺及び短辺の長さL7,L8がそれぞれ3mm、2mmに設定され、厚み(高さ)L9が3mmにそれぞれ設定されている。また、バイアス磁石30A,30Bは、厚み方向を2等分する面を境界として分極されて境界面に対して垂直方向に2極に着磁されており、上側がN極になっているとともに、下側がS極になっている。
そして、バイアス磁石30A,30Bは、GMR素子22a,22dとGMR素子22b,22cの中心を通る中心線CL2と前記中心線CL1との交点位置O1(すなわちGMR素子22a,22dとGMR素子22b,22cの中心間の中央位置O1)を挟んで、0.6mm隔てて平行、かつ上面の長辺を中心線CL2に対して30度傾けて配置されている。なお、バイアス磁石30A,30Bの上面の各長辺は平行であるが、バイアス磁石30Aの上面の長辺はバイアス磁石30Bの上面の長辺に対して図1の左下方向にずれており、バイアス磁石30Aの上面の図示右上側の長辺の中央位置はGMR素子22a,22dの中心位置付近に対向しており、バイアス磁石30Bの上面の図示左下側の長辺の中央位置はGMR素子22b,22cの中心位置付近に対向している。
このバイアス磁石30A,30Bの配置について詳しく説明すると、一対のバイアス磁石30A,30Bは、チップパッケージ10に固着された各上面が、GMR素子22a〜22dが配置された平面に対してそれぞれ同一距離だけ隔ててそれぞれ平行に対向するとともに、前記平面内にて所定の距離だけ隔てて上面の各長辺を平行に延設させるように配置されている。バイアス磁石30A,30Bの上面からGMR素子22a〜22dが配置された平面までの距離は0.7mmである。そして、バイアス磁石30A,30Bの各上面における各2つの長辺間の2つの中心線CL3A,CL3Bは、GMR素子22a〜22dに対向する平面内にて、中心線CL2に対して30度それぞれ傾いている。また、中心線CL2上であってGMR素子22a〜22dの中心間の中点O1は中心線CL3A,CL3B間の中心線上の所定位置に対向している。すなわち、中点O1からバイアス磁石30A,30Bの各上面における中点O1側の各長辺までの距離(並びにバイアス磁石30A,30Bの各上面における各2つの長辺間の2つの中心線までの距離、及びバイアス磁石30A,30Bの各上面における中点O1側とは反対側の各長辺までの距離)は同じである。
そして、前記構成により、GMR素子22a,22d及びGMR素子22b、22cに対して、図1に太い矢印で示すように、中心線CL1の方向に反対向きの等しい強度のバイアス磁界がそれぞれ印加されるようになっている。この点について、図5及び図6を用いて説明する。図5(A)は、バイアス磁石30Bを省略して、バイアス磁石30Aのみを設けた状態を示している。この状態では、図5(B)に示すように、バイアス磁石30Aからの磁界により、GMR22a,22dには中心線CL2に対して60度傾いて図示右上方向を向いたバイアス磁界H1Aが印加され、GMR22b,22cには中心線CL2に対して60度より小さい角度(例えば、40度程度)傾いて図示右上方向を向いたバイアス磁界H2Aが印加される。
また、図6(A)は、バイアス磁石30Aを省略して、バイアス磁石30Bのみを設けた状態を示している。この状態では、図6(B)に示すように、バイアス磁石30Bからの磁界により、GMR22b,22cには中心線CL2に対して、前記バイアス磁界H1Aと同じである60度傾いて図示左下方向を向いたバイアス磁界H2Bが印加され、GMR22a、22dには中心線CL2に対して、前記バイアス磁界H2Aと同一角度である60度より小さい角度(例えば、40度程度)傾いて図示左下方向を向いたバイアス磁界H1Bが印加される。この場合、バイアス磁界H1Aとバイアス磁界H2Bとは反対方向であるが、それらの磁界強度は等しい。また、バイアス磁界H2Aとバイアス磁界H1Bとは反対方向であるが、それらの磁界強度は等しい。
そして、実際には、GMR素子22a,22dには、バイアス磁界H1Aとバイアス磁界H1Bとを合成したバイアス磁界が印加されることになる。また、GMR素子22b,22cには、バイアス磁界H2Aとバイアス磁界H2Bとを合成したバイアス磁界が印加されることになる。この場合、バイアス磁石30A,30Bの形状及び大きさ、並びにバイアス磁石30A,30Bの中心線CL2に対する傾き角度などにより変わるが、本実施形態の場合、バイアス磁界H1Aの中心線CL2の方向の磁界成分x1aの大きさと、バイアス磁界H1Bの中心線CL2の方向の磁界成分x1bの大きさとが一致し、かつバイアス磁界H2Aの中心線CL2の方向の磁界成分x2aの大きさと、バイアス磁界H2Bの中心線CL2の方向の磁界成分x2bの大きさとが一致するように調整されている。なお、これらの一致を実現できない場合には、バイアス磁石30A,30Bの形状及び大きさ、及びバイアス磁石30A,30Bの中心線CL2に対する傾き角度などを調整して、前記一致を実現すればよい。
磁界成分x1a,x1bの方向は反対であるので、磁界成分x1a,x1bの大きさの一致により、磁界成分x1a,x1bは互いに打ち消し合って、GMR素子22a,22dに対するバイアス磁石30A,30Bによる中心線CL2の方向の磁界成分が相殺されて、GMR素子22a,22dには中心線CL2の方向のバイアス磁界が印加されない。また、磁界成分x2a,x2bの方向は反対であるので、磁界成分x2a,x2bの大きさの一致により、磁界成分x2a,x2bは互いに打ち消し合って、GMR素子22b、22cに対するバイアス磁石30A,30Bによる中心線CL2の方向の磁界成分が相殺されて、GMR素子22b,22cには中心線CL2の方向のバイアス磁界が印加されない。
一方、GMR素子22a,22dに印加される中心線CL2と直交する方向へのバイアス磁界は、磁界成分y1aと磁界成分y1bとを合成したものであり、磁界成分y1aの磁界強度は磁界成分y1bの磁界強度よりも大きいので、GMR素子22a,22dには図5(B)及び図6(B)の上方向を向いたバイアス磁界が印加される。また、GMR素子22b,22cに印加される中心線CL2と直交する方向へのバイアス磁界は、磁界成分y2aと磁界成分y2bとを合成したものであり、磁界成分y2bの磁界強度は磁界成分y2aの磁界強度よりも大きいので、GMR素子22b,22cには図5(B)及び図6(B)の下方向を向いたバイアス磁界が印加される。そして、磁界成分y1aの磁界強度は磁界成分y2bの磁界強度に等しく、かつ磁界成分y2aの磁界強度は磁界成分y1bの磁界強度に等しい。したがって、GMR素子22a,22dとGMR素子22b,22cとには、中心線CL2に直交する方向であって反対方向に等しい強度のバイアス磁界が印加されることになる(図1参照)。
前記のように構成した磁気センサは次のようにして製造される。まず、電極23a〜23d及び配線パターン24を、絶縁基板21上にパターン形成する。そして、絶縁基板21の上面上にスパッタリング法を用いてグラニュラ薄膜を成膜することにより、GMR素子22a〜22dを形成する。なお、前記とは逆に、GMR素子22a〜22dを形成した後に、電極23a〜23d及び配線パターン24を形成してもよい。これにより、絶縁基板21上にGMR素子22a〜22d、電極23a〜23d及び配線パターン24を設けたセンサチップ20が完成する。
次に、アイランド部11、突出部12a,12b及びリードフレーム部13a〜13dを図1に示す位置に配置し、アイランド部11部の上面上に絶縁基板21の下面をダイボンド材により接着することにより、アイランド部11上にセンサチップ20を固着する。なお、この場合も、前記とは逆に、アイランド部11上にセンサチップ20を固着した後に、アイランド部11、突出部12a,12b及びリードフレーム部13a〜13dを図1に示す位置に配置してもよい。次に、電極23a〜23dとリードフレーム部13a〜13dにワイヤ14a〜14dの両端をそれぞれワイヤボンディング(超音波加熱接続)により接続して、電極23a〜23dとリードフレーム部13a〜13dとをワイヤ14a〜14dを介して電気接続する。
その後、エポキシ樹脂を用いて、センサチップ20、アイランド部11、突出部12a,12bの後部、リードフレーム部13a〜13dの前部、及びワイヤ14a〜14dを内部に収容するとともに、突出部12a,12bの前部及びリードフレーム部13a〜13dの後部を突出させたチップパッケージ10をモールド成型する。次に、チップパッケージ10の下面に、事前に着磁したバイアス磁石30A,30Bの上面をダイボンド材により接着することにより、チップパッケージ10及びバイアス磁石30A,30Bが一体となった磁気センサが完成する。
このようにして製造される磁気センサにおいては、電極23a〜23d及び配線パターン24を絶縁基板21上にパターン形成するとともに、GMR素子22a〜22dを絶縁基板21上にグラニュラ薄膜を成膜形成するだけで、センサチップ20が製造される。そして、センサチップ20をアイランド部11に固着するとともに、電極23a〜23dとリードフレーム部13a〜13dとをワイヤ14a〜14dにより電気接続し、かつモールド成型によりセンサチップ20、アイランド部11、突出部12a,12b、リードフレーム部13a〜13d及びワイヤ14a〜14dを含むチップパッケージ10が製造される。そして、チップパッケージ10にバイアス磁石30A,30Bを固着するだけで磁気センサが完成するので、磁気センサを簡単に製造できる。
次に、このようにして製造された磁気センサを用いて磁性体である歯車40の回転を検出する磁性体の移動検出装置について説明する。歯車40は、図7に示すように、円形の外周面上にそれぞれ同じ形状及び大きさの方形状の凸部(歯)41と凹部42を交互に配置させている。歯車40は磁性体材料で構成されていれば、種々の磁性体材料で種々の形状に構成され得る。また、歯車40の形状に関しても、凸部41及び凹部42を有していれば、種々の形状に構成され得る。本実施形態の歯車40は、S45C鋼材インボリュート形状歯車である。なお、各種実験で用いられる本発明に関する歯車40も、背景技術の項で説明した従来の歯車140も、S45C鋼材インボリュート形状歯車である。
磁気センサは、チップパッケージ10の上面が歯車40の凸部41の外周面に平行に対向し、かつチップパッケージ10(センサチップ20)の前後方向(図1の中心線CL1の方向)が歯車40の回転方向(凸部41の移動方向)に一致、すなわちGMR素子22a〜22dの長手方向が歯車40の回転方向に一致するように、図示しない固定部品により歯車40に対して配置される。そして、この実施形態では、GMR素子22a〜22dの上表面から前記一つの凸部41の外周面までの距離は0.8mmに設定されている。歯車40の回転方向は、図1においてチップパッケージ10の右側に矢印で示す方向であり、図7において歯車40の下側に示す矢印の方向である。
このように磁気センサを歯車40に対して配置した状態で、歯車40を回転させると、GMR素子22a,22dをそれらの素子面に対して平行に通過する磁界と、GMR素子22b,22cをそれらの素子面に対して平行に通過する磁界は互いに反対方向であって、それらの磁界強度は、180度の位相差をもってそれぞれほぼ正弦波状に変化する。具体的には、GMR素子22a,22dをそれらの素子面に対して平行に通過する磁界であって歯車40の回転方向と反対方向成分を有する磁界強度(この磁界強度を正の印加磁界強度とする)は、GMR素子22a,22dが隣合う2つの凸部41の中間位置にあるとき正の所定強度であり、歯車40の回転に従って前記正の所定強度から徐々に大きくなった後、小さくなって、GMR素子22a,22dが一つの凸部41に対向する位置に来ると、ほぼ前記正の所定強度に戻る。歯車40がさらに回転すると、前記正の印加磁界強度はほぼ前記正の所定値より徐々に小さくなった後、大きくなって、GMR素子22a〜22dが隣合う2つの凸部41の中間位置に来ると、前記正の所定強度に戻る。なお、前記正の印加磁界強度の変化は、ほぼ正弦波状である。
一方、GMR素子22b,22cをそれらの素子面に対して平行に通過する磁界であって歯車40の回転方向と同一方向成分を有する磁界強度(この磁界強度を負の印加磁界強度とする)は、GMR素子22b,22cが隣合う2つの凸部41の中間位置にあるとき負の所定強度であり、歯車40の回転に従って前記負の所定強度から徐々に小さくなった後、大きくなって、GMR素子22a〜22dが一つの凸部41に対向する位置に来ると、ほぼ前記負の所定強度に戻る。歯車40がさらに回転すると、前記負の印加磁界強度はほぼ前記負の所定強度より徐々に大きくなった後、小さくなって、GMR素子22a〜22dが隣合う2つの凸部41の中間位置に来ると、前記負の所定強度に戻る。なお、前記負の印加磁界強度の変化も、ほぼ正弦波状である。また、前記正の所定強度と前記負の所定強度の絶対値は等しい。
前記正の印加磁界強度の変化により、図8に実線で示す印加磁界強度に対するGMR素子の抵抗値の変化特性からも理解できるように、歯車40が凸部41の1ピッチ分だけ回転する時間を1周期として、GMR素子22a〜22dの抵抗値はほぼ正弦波状に変化する。そして、GMR素子22b,22cの抵抗値変化は、GMR素子22a,22dの抵抗値変化に対して、180度(歯車40の凸部41の1/2ピッチ)だけ位相を異ならせる。
したがって、図4に示す電気回路装置から、磁性体からなる歯車40の回転を表し、凸部41の1ピッチ分を1周期とする正弦波信号からなる、図10(A)〜(C)に示すような出力電圧信号が取り出される。この場合、GMR素子22a〜22dはフルブリッジ接続され、出力電圧Vo1,Vo2の差分電圧が差動増幅器25から出力されるので、大きな振幅値を有する歯車40の回転検出信号を得ることができる。
ここで、GMR素子22a〜22dの長手方向を中心線CL1の方向とする場合と、GMR素子22a〜22dの短手方向を中心線CL1の方向とする場合とについて説明しておく。図8の実線は、GMR素子の長手方向を磁界の印加方向としたときにおける、印加磁界強度に対するGMR素子の抵抗値の変化特性を示す一般的なグラフである。図8の破線は、GMR素子の短手方向を磁界の印加方向としたときにおける、印加磁界強度に対するGMR素子の抵抗値の変化特性を示す一般的なグラフである。すなわち、磁界感度異方性に関しては、前記長手方向を磁界の印加方向とする場合の方が、前記短手方向を磁界の印加方向とする場合よりも、印加磁界強度に対するGMR素子の抵抗値の変化が大きくなり、大きな出力電圧が得られる。したがって、上記実施形態のように、GMR素子22a〜22dの長手方向を中心線CL1の方向とすることが、GMR素子22a〜22dの短手方向を中心線CL1の方向とすることよりも好ましい。すなわち、上記実施形態のように、GMR素子22a〜22dの長手方向が歯車40の回転方向に一致するように、磁気センサを歯車40に対して配置することが好ましい。その結果、上記実施形態の歯車40の回転検出においては、振幅の大きくかつ高精度な正弦波状の出力電圧を得ることができる。
次に、上記実施形態の磁気センサを用いた歯車40の回転検出による効果について、実験結果に基づいて説明する。
a1.第1実験
まず、チップパッケージ10にバイアス磁石30A,30Bを固着した上記実施形態の磁気センサに外部磁界を印加して、上記電気回路装置の差動増幅器25の出力電圧(差分電圧)を測定した。この場合、外部磁界の印加方向を中心線CL1(図1参照)の方向すなわちGMR素子22a〜22dの長手方向にして、磁界強度を正負に変化させてGMR素子22a〜22dに外部磁界を印加した。なお、この外部磁界の方向は、図1に矢印で示す歯車40の回転方向と反対方向(図1の上方向)を正方向として、前記回転方向(図1の下方向)を負方向とする。具体的には、外部磁界強度を、0KA/mから約22KA/mまで徐々に上昇させた後に、約−22KA/mまで徐々に下降させ、その後に0KA/mまで上昇させた。なお、この外部磁界の印加は、上述した歯車40の回転によるGMR素子22a〜22dに対する印加磁界の変化に対応する。
そして、外部磁界強度の所定値ずつの変化ごとに、差動増幅器25の出力電圧値を測定した。この測定結果を図9のグラフに実線で示す。これによれば、広動作磁界範囲で、高いリニア特性を有し、ヒステリシスの無い出力特性が得られたことが分かる。
次に、前記測定と同じ上記実施形態の磁気センサを用いて、外部磁界の印加方向を中心線CL2(図1参照)の方向すなわちGMR素子22a〜22dの短手方向に、磁界強度を正負に変化させてGMR素子22a〜22dに外部磁界を印加した。なお、この外部磁界の方向は、図1の左方向を正方向として、図1の右方向を負方向とする。そして、外部磁界強度を、前記場合と同様に、0KA/mから約22KA/mまで徐々に上昇させた後に、約−22KA/mまで徐々に下降させ、その後に0KA/mまで上昇させた。
そして、外部磁界強度の所定値ずつの変化ごとに、差動増幅器25の出力電圧値を測定した。この測定結果を図9のグラフに破線で示す。この場合、出力電圧値の変化はほぼ「0」である。これは、バイアス磁石30A,30BによってGMR素子22a,22dとGMR素子22b,22cとに印加されているバイアス磁界におけるGMR素子22a〜22dの短手方向の磁界成分は相殺されており、GMR素子22a,22dとGMR素子22b,22cとにそれぞれ印加される外部磁界は常に同じであるからである。
このように、中心線CL1の方向(GMR素子22a〜22dの長手方向)の外部磁界が変化した場合には、広動作磁界範囲で、高いリニア特性を有し、ヒステリシスの無い出力電圧が得られる。そして、中心線CL2の方向(GMR素子22a〜22dの短手方向)の外部磁界が変化した場合には、出力電圧が得られない。その結果、この第1実験結果から、上記実施形態の磁気センサは優れた磁界感度異方性をもつことが確認される。
a2.第2実験
次に、歯車ピッチの異なる3種類の歯車40に対して、上記実施形態のように磁気センサをそれぞれ配置して、歯車40を回転させて出力電圧をそれぞれ測定した。なお、3種類の歯車40はいずれも、S45C鋼材インボリュート形状歯車である。また、ここで言う歯車ピッチとは、隣合う2つの凸部41の回転方向幅の中心と歯車40の回転中心を結ぶ2つの直線が前記隣合う凸部41の外周面と交差する2点間の円周方向の長さ、すなわち直線距離ではなく前記2点間の円弧の長さである。また、次の図10のおける電気角とは、1歯車ピッチを360度に対応させたものである。
図10(A)は、歯車ピッチが1.57mmであり、歯幅が5mmである歯車40を用いた場合の測定結果である。図10(B)は、歯車ピッチが2.51mmであり、歯幅が8mmである歯車40を用いた場合の測定結果である。図10(C)は、歯車ピッチが3.14mmであり、歯幅が10mmである歯車40を用いた場合の測定結果である。図10(A)(B)(C)においては、測定結果である出力電圧の変化を実線で示し、出力電圧波形と正弦波形との比較のために正弦波形を破線で示している。
この第2実験結果によれば、歯車ピッチが小さくなると、出力電圧の振幅値は低下するものの、いずれの場合でも、出力電圧はほぼ正弦波状に変化する。その結果、上記実施形態のように構成した磁気センサを用いて、上記実施形態のように歯車40に対して磁気センサを配置すれば、歯車ピッチが変化しても、高精度の正弦波信号を出力電圧として得ることができ、歯車40の回転位置を高精度で検出することができる。
a3.第3実験
次に、上記実施形態の磁気センサと、従来の磁気センサとを用いて、両磁気センサを歯車40(140)の歯幅方向にずらして位置させ、歯車40(140)を回転させて出力電圧をそれぞれ測定した。従来の磁気センサは、図14及び図15を用いて背景技術の項で説明したものであり、次の点を除いて、上記実施形態の磁気センサとは全く同じである。第1の異なる点は、チップパッケージ110の厚みが1.5mmであり、かつセンサチップ120の厚みが0.4mmであって、バイアス磁石130の上面から一対のGMR素子122a,122bが配置された平面までの距離は1mmである。第2の異なる点は、上述したように、直方体であるバイアス磁石130は一つのみであり、その中心線CL13を中心線CL11,CL12に対して45度傾けて、その中心位置を中心線CL11,CL12の交点O11と対向させている。このバイアス磁石130においては、図14に示す長辺の長さL11は7mmであり、短辺の長さL12,L13は3mmである。また、この場合も、両歯車40,140は、それぞれS45C鋼材インボリュート形状歯車で構成され、歯車ピッチが2.51mmであり、歯幅が8mmである。歯車40,140の外周面から一対のGMR素子22a〜22d,122a〜122dが配置された平面までの距離はそれぞれ0.8mmである。
そして、両磁気センサの各中心線CL1、CL11(GMR素子22a,22d,122a,122dとGMR素子22b,22c,122b,122cとの間の各中央位置O1,O11)を、歯車40,140の幅方向中心に位置させた状態及び前記幅方向中心から左右に所定距離だけずらした状態で、歯車40,140をそれぞれ回転させて出力電圧をそれぞれ測定した。図11(A)は、上記実施形態の磁気センサの測定結果であり、上述した電気角に対する出力電圧値の変化を示している。図11(B)は、上記従来例の磁気センサの測定結果であり、図11(A)と同様に、上述した電気角に対する出力電圧値の変化を示している。図11(A)(B)においては、各中心線CL1,CL11が歯車40,140の幅方向中心にある場合(±0mm)を実線で表している。なお、以下の説明では、この場合を、オフセット量が±0mmであるとする。また、各中心線CL1、CL11が歯車40,140の幅方向中心から左右に1mm(±1mm)、2mm(±2mm)、3mm(±3mm)ずれている場合を、破線、一点鎖線及び二点鎖線でそれぞれ示している。なお、これらの場合を、オフセット量が1mm(±1mm)、2mm(±2mm)、3mm(±3mm)であるとして以下では説明する。このずれ量の表示においては、前記各中心線CL1,CL11が歯車40,140の幅方向中心から左方向にずれている場合を正として、前記各中心線CL1,CL11が歯車40,140の幅方向中心から右方向にずれている場合を負としている。そして、図11(A)(B)においては、実線の上側にある出力電圧波形が正(前記左方向ずらし)のずれ量の場合を示しており、実線の下側にある出力電圧波形が負(前記右方向ずらし)のずれ量の場合を示している。
この第3実験によれば、従来の磁気センサにおいては、オフセット量が±0mmであれば、出力電圧波形は「0」を中心に正負に正弦波状に変化する(図11(B)の実線参照)。しかし、オフセット量が+1mm、+2mm、+3mmであれば、出力電圧波形は、前記オフセット量が「0」の場合の出力電圧波形に対して、正側にずれる。そして、オフセット量が大きくなるに従って、正側へのずれ量は大きくなる(図11(B)の破線、一点鎖線及び二点鎖線参照)。また、オフセット量が−1mm、−2mm、−3mmであれば、出力電圧波形は、前記オフセット量が「0」の場合の出力電圧波形に対して、負側にずれる。そして、オフセット量の絶対値が大きくなるに従って、負側へのずれ量は大きくなる(図11(B)の破線、一点鎖線及び二点鎖線参照)。このことは、オフセット量の絶対値が大きくなるに従って、出力電圧波形の正負のずれ量が大きくなることを意味する。
一方、上記実施形態の磁気センサにおいては、オフセット量が±0mmであれば、出力電圧波形は「0」を中心に正負に正弦波状に変化する(図11(A)の実線参照)。そして、オフセット量が+1mm、+2mm、+3mmであれば、出力電圧波形は、前記オフセット量が「0」の場合の出力電圧波形に対して若干量だけ正側にずれる。そして、この場合も、オフセット量が大きくなるに従って、正側へのずれ量は大きくなる(図11(A)の破線、一点鎖線及び二点鎖線参照)。また、オフセット量が−1mm、−2mm、−3mmであれば、出力電圧波形は、前記オフセット量が「0」の場合の出力電圧波形に対して、若干量だけ負側にずれる。そして、この場合も、オフセット量の絶対値が大きくなるに従って、負側へのずれ量は大きくなる(図11(A)の破線、一点鎖線及び二点鎖線参照)。しかし、これらの場合における出力電圧波形の正負側へのずれ量は、前記従来の磁気センサに比べれば極めて小さく、特に、オフセット量が±1mm、±2mmである場合の出力電圧波形は、オフセット量が±0mmである場合の出力電圧波形とほぼ同じである。なお、オフセット量が±3mmである場合の出力電圧波形は、オフセット量が±0mmである場合の出力電圧波形からは若干ずれるが、このずれ量は許容範囲内である。
したがって、上記実施形態の磁気センサによれば、歯車40の幅方向に正確に配置されていなくても、すなわちGMR素子22a,22dとGMR素子22b,22cの中心間の中点O1が歯車40の幅方向の中央位置からずれていても、磁気センサの出力電圧波形は大きく変動することなく、磁気センサからの出力の精度が良好になる。この磁気センサからの出力の精度が良好になる理由について考察すると、次の点が考えられる。上記実施形態に係る磁気センサにおいては、磁気センサを歯車40に対向させていない状態においては、バイアス磁石30A,30Bによる中心線CL2の方向へのバイアス磁界は相殺され、GMR素子22a〜22dには、バイアス磁石30A,30Bによる中心線CL1へのバイアス磁界のみが印加されている。すなわち、上記実施形態に係る磁気センサは、優れた磁界感度異方性をもつ。そして、磁気センサを歯車40の幅方向にずらして対向させた場合には、前記中心線CL1の方向へのバイアス磁石30A,30Bによるバイアス磁界は、前記中心線CL1の方向から傾くが、その傾き量は小さく、また一対のGMR素子に対して同程度となる。したがって、磁気センサの歯車40の幅方向のずれがあっても、バイアス磁石30A,30Bによる中心線CL2の方向へのバイアス磁界に対する、磁気センサの歯車の幅方向へのずれによる影響は極めて小さい。すなわち、GMR素子22a〜22dは、優れた磁界感度異方性のために、中心線CL2の方向には同程度のバイアス磁界しか印加されず、中心線CL2の方向のバイアス磁界の影響を受け難いためであると考えられる。
また、図11(A)(B)から分かるように、上記実施形態の磁気センサの出力電圧のピーク間電圧差は、従来の磁気センサの出力電圧のピーク間電圧差に比べて大きい。したがって、上記実施形態の磁気センサの出力は、従来の磁気センサの出力よりも向上していることも確認される。
a4.第4実験
次に、上記実施形態の磁気センサと、従来の磁気センサとを用いて、歯車ピッチの異なる歯車40,140をそれぞれ回転させて出力電圧をそれぞれ測定した。従来の磁気センサは、上記第3実験の場合と同じ磁気センサである。この場合も、両歯車40,140は、それぞれS45C鋼材インボリュート形状歯車で構成され、一対のGMR素子22a〜22d,122a〜122dが配置された平面までの距離はそれぞれ0.8mmであり、かつ歯車40,140に対するオフセット量はそれぞれ±0mmである。
図12は、上記実施形態の磁気センサの出力電圧のピーク間電圧差を実線で示し、従来の磁気センサの磁気センサの出力電圧ピーク間電圧差を破線で示している。この第4実験によれば、両ピーク間電圧差は、歯車40,140の歯車ピッチが小さくなるに従ってそれぞれ小さくなる。しかし、本実施形態の磁気センサにおける出力電圧のピーク間電圧差は、従来の磁気センサにおける出力電圧のピーク間電圧差よりも常に大きい。また、本実施形態の磁気センサにおける出力電圧のピーク間電圧差の低下傾向は、従来の磁気センサにおける出力電圧のピーク間電圧差の低下傾向よりも少ない。そして、特に、本実施形態の磁気センサにおける出力電圧のピーク間電圧差は、歯車ピッチが1.5mm程度の小さな領域では、従来の磁気センサにおける出力電圧のピーク間電圧差の2倍よりも大きい。
したがって、上記実施形態の磁気センサによれば、上記従来の磁気センサによる場合に比べて、大きな出力電圧を得ることができる。特に、歯車ピッチが小さな領域で大きな出力電圧を得ることができる。
b.変形例
上記実施形態においては、各種長さ及び距離L1〜L11を所定の値に設定したが、この値は適宜変更され得る。また、上記実施形態においては、バイアス磁石30A,30Bのチップパッケージ10側をN極にして反対側をS極に磁化したが、このN極とS極を逆にしてもよい。また、上記実施形態では、アイランド部11及び突出部12a,12bを、リードフレーム部13a〜13dと同様な非磁性の導電板で構成した。しかし、アイランド部11及び突出部12a,12bは導電性を必要としないので、非磁性体であれば、導電性を有さない材料の薄板を用いてもよい。
また、上記実施形態においては、4個のGMR素子22a〜22dでフルブリッジ回路を構成し、フルブリッジ回路から正弦波状の出力信号を得て、歯車40の回転を検出するようにした。しかし、出力値は小さくなるが、2個のGMR素子22a,22b(又はGMR素子22c,22d)でハーフブリッジ回路を構成し、ハーフブリッジ回路から正弦波状の出力信号を得て、歯車40の回転を検出するようにしてもよい。
また、上記実施形態においては、バイアス磁石30A,30Bによるバイアス磁界の方向が歯車40の中心線CL2に対して30度だけ傾斜させるようにした。しかし、センサチップ20におけるGMR素子22a,22dとGMR素子22b,22cに対して、中心線CL2の方向にバイアス磁界が印加されずに、中心線CL1の方向に反対向きのバイアス磁界が印加され、かつ歯車40の回転によりGMR素子22a,22dとGMR素子22b,22cとにおける磁界強度の逆方向の変化を得ることができれば、前記30度の傾斜角度を異ならせてもよい。
また、上記実施形態においては、面内感磁素子である磁界強度検知型のGMR素子として、グラニュラ薄膜を用いたGMR素子22a〜22dを用いた。しかし、これに代えて、面内感磁素子である磁界強度検知型のGMR素子として、人工格子型のGMR素子を用いることができる。この人工格子型のGMR素子は、例えば、日本応用磁気学会誌Vol.15,No51991,P813〜821の「人工格子の磁気抵抗効果」と題する論文に記載されている数オングストロームから数十オングストロームの厚さの磁性層と非磁性層とを交互に積層させた積層体、いわゆる人工格子膜((Fe/Cr)n,(パーマロイ/Cu/Co/Cu)n,(Co/Cu)nなど)で構成される。
また、上記実施形態では、GMR素子22a〜22dの長手方向を歯車40の回転方向に一致させて、歯車40の回転によりGMR素子22a〜22dの長手方向の磁界強度を変化させるようにした。しかし、GMR素子22a〜22dの短手方向を歯車40の回転方向に一致させて、歯車40の回転によりGMR素子22a〜22dの短手方向の磁界強度を変化させてもよい。これによっても、振幅は多少減少するものの、歯車40の回転に応じた正弦波状の出力信号を得ることができる。
また、上記実施形態では、GMR素子として、グラニュラ薄膜を折り返しながら直線状に延設させたGMR素子22a〜22dを用いた。しかし、このGMR素子22a〜22dに代えて、渦巻き状のGMR素子を用いてもよい。この渦巻き状のGMR素子とは、絶縁基板上に、外側から内側に渦巻き状に線状のグラニュラ薄膜(又は人工格子膜)を延設させ、内側端から外側に渦巻き状に線状のグラニュラ薄膜(又は人工格子膜)を延設させたものである。
また、上記実施形態では、バイアス磁界印加手段として、永久磁石であるバイアス磁石30A,30Bを用いているが、これに代えて磁気コイルを用い、磁気コイルに電流を流すことによりバイアス磁界を発生させてもよい。
また、上記実施形態では、磁気センサを磁性体からなる歯車40の回転を検出する検出装置に適用した。しかし、上述した磁気センサは、歯車40でなくても、図13に示すように、磁性体からなる円盤状部材50の外周面に凹凸を形成した一つ以上の凸部(歯)51を有するような円盤状部材の回転の検出にも適用され得る。また、円盤状部材の外周面に一つ以上の凹部を有する円盤状部材の回転検出にも適用され得る。この場合も、上記実施形態の場合と同様に、凸部51の外周面に対向させて上述した磁気センサを配置すればよい。さらには、回転体でなくても、磁性体からなり凸部(歯)又は凹部を有していて直線的に移動する移動体の検出にも、上述した磁気センサは適用され得る。この場合も、移動体の凹凸部に対向させて上述した磁気センサを配置すればよい。