詳細な説明
量子系は、数十または数百ナノ秒の時間で典型的に進展する状態を示す。かかる系に対する制御は、以下の2つのアプローチの1つが選択されなければならない場合に難題を提示し得る。第1に、実験を、量子系の現在の状態に基づいて、かかる時間内で動的に選択され得る制御を必要としないものに制限し得る。しかしながらこのアプローチは、実施され得る実験の種類を制限する。代替的に、必要とされる時間にわたり量子系を動的に制御するための制御系が開発され得、それにより広範囲な実験が遂行されるようになるが、実際的な実行の問題も提示される。
数十または数百ナノ秒にわたり進展する量子系を動的に制御するために、その後の工程が実行され得る前に系が別の状態に進展しないように十分に速く、量子系の状態を探査し得、その後の制御工程を決定し得る極端に短い待機時間(latency)の系が必要になる。例えば、キュービット状態は、基底状態、励起状態または基底状態と励起状態の重ね合わせであり得る。キュービットの現在の状態に基づいてキュービットを制御するために、制御系は、キュービットの状態を探査してその後、結果に基づいて制御操作を決定し得る。しかしながら、キュービットの状態はマイクロ秒未満の時間にわたり自然に進展し得るので、探査、決定および制御の工程は、この時間未満でなされるべきであるが、そうでなければ決定された制御操作は、探査操作により同定されたものとは異なるキュービット状態に対して作動していることがある。
量子系を探査し、前記探査の結果に関する情報をコンピューターに送信し、その後の制御操作をコンピューターにより決定し、ハードウェアを操作して、量子系に対してその後の制御操作を遂行するためのハードウェア(例えば、信号ジェネレータ、データ取得ハードウェア等)の操作に含まれる時間は、量子系が進展する時間よりもかなり大きいために、従来のコンピューターは、この待機時間で制御操作を遂行できない。あるいは、コンピューターとは離れた信号ジェネレータは、量子系に対して遂行され得る種々の操作によりプログラムされ得る。しかしながらこれらの操作の数および種類は重要であり、可能な操作の全てを記憶するには、一般的に不十分なデータ記憶装置(storage)が信号ジェネレータにある。また、信号ジェネレータの処理能力は、一般的に、どの操作を適用するかを動的に決定するには不十分である。上記の困難さのために、従来の量子制御系は一般的に、マイクロ秒以下(sub-microsecond)の時間での動的な制御を必要としない実験による使用のために設計される。
本発明者らは、量子系の短い待機時間制御についての上記の技術的困難さに関わらず、量子系の有効な量子誤り訂正を遂行するために、かかる制御が非常に望ましいかまたは必要であり得るということを認識し、理解している。量子系の自然の進展のために、量子コンピューター計算は、コヒーレンス時間よりもかなり短い時間(例えば、マイクロ秒未満)内の量子誤り訂正(QEC)操作の実施の反復を必要とし得る。これらのQEC操作は、系における量子情報を保存するように設計され、コヒーレンス時間よりもかなり短い時間で該操作を遂行することによりコヒーレンス時間よりも長く情報が保存され得る。これらの時間でQEC操作を反復しない場合、系はデコヒーレンスを起こし得るので、コンピューター計算はもはや実行可能ではなくなる。
QEC操作を遂行することにより一旦制御系がコヒーレンス時間よりも長く量子系において情報を反復的に保存し得ると、制御系は、いわゆるQECの「損益分岐点(break-even point)」を越えて系を操作し得ると言い得る。この型の系は、より多くのキュービットを包含するための大きさに調整され得、それにより情報を系に保存しながらより複雑なコンピューター計算操作が可能になる。本願に記載される作業の前に、いくつかの異なる型の量子情報系においてQECの要素を説明した。しかしながら、これらの努力のいずれも損益分岐点を過ぎて系に量子情報を維持し得るQECのための装置または方法を説明していなかった。本明細書に記載されるように、本発明者らは、QECが損益分岐点に到達するかまたは超えることを可能にする時間内で量子系を動的に制御し得る装置を認識し、理解している。
一般的な量子情報系のアーキテクチャーを説明するために、図1は、いくつかの態様による、量子情報系を示す。例示的な系100は、作動して、制御連結120を介して量子系115-1、115-2、...115-nから信号を受信する制御装置110を含む。量子系は、例えば物理的キュービット(例えば、トランスモンキュービット、電荷キュービット、フラックスキュービット、位相キュービット等)または量子振動子(例えば、共振器空洞)を含み得る。量子系を実装する特定の技術に関係なく、量子系の少なくともいくつかは、量子情報を記憶するように操作される(例えば、キュービットとして操作される)。いくつかの実装において、2つ以上の量子系は、連結130を介して互いに連結され得、これは連結された系の状態の互いに対する影響を引き起こし得るか、および/または量子系の1つに対する操作が、それが連結される量子系の状態の変化を引き起こし得る。例えば連結130は、分散的カップリングを示し得る。図1に示す系100は、いくつかの場合において、モジュールが相互連結されるより大きな量子情報処理系の1つのモジュールであり得る。
妥当な量の処理能力(processing power)を有する実際的な量子処理系になるために、量子情報プロセッサ100は、少なくともいくつかの量子系115を正確に制御し、量子系の間の少なくともいくつかの相互作用を制御する能力を必要とする。例えば、2つ以上のキュービット間の論理操作を実行するために、制御装置110は、キュービット情報を記憶する量子系上で1つ以上の制御操作を遂行するように構成され得る。量子系が長いコヒーレンス時間を有し、個々に操作され得、1つ以上の他の量子系と相互作用し得(例えばマルチキュービットゲートを実装し)、効率的に初期化されて測定され得ること、および該系が多くの量子系の調整(scaling)を可能にすることが好ましい。制御装置110が多くの量子系を制御するように調整可能であることも好ましい。
量子情報プロセッサにおけるキュービットによる作業は一般的に、従来のコンピューターにおける従来のバイナリービットによる作業よりもかなり困難である。例示として、図2Aは、経時的に実行され得る従来のAND操作210を示す。図2Aの例において、第1の時刻tiで2つのバイナリービットB1およびB2は、それぞれ0または1のいずれかである初期状態で調製される。従来のコンピューターにおける2つの状態のみの閾値(thresholding)および認識のために、これらの状態の調製がかなり不正確であることが許容される。例えば、3.3V CMOS系において、0V〜1.4Vの間の電圧値を有する任意のビットは論理的な0と認識され、1.55V〜3.3Vの間の電圧値を有する任意のビットは論理的な1と認識される。したがって、ビットが不正確に調製され、ビットが調製される時刻と論理的操作が起こる時刻t1の間で摂動(perturbation)が生じるとしても、ビットはほぼ常に(典型的に10-9未満の誤り率で)論理操作について正確に認識され、該結果はその後の時間tfでほぼ常に正確に認識される。
キュービットは2つの直交状態に基づくが、それらはそれらのバイナリーの片割れと同様に2つの状態の1つには限定されない。その代りに、キュービットは、2つの状態の任意の重ね合わせを採り得、全ての重ね合わせ状態が量子コンピューター計算にとって重要である。図2Bは、いくつかの態様により、量子情報プロセッサ100により論理操作がどのように実行され得るかを示す。2つのキュービットQ1、Q2は、2つの量子状態Ψ1、Ψ2において時刻tiに調製され得る。デコヒーレンスのために、これらの状態は、キュービットにより記憶される情報が消失し得るような時間にわたり、自然におよび予測不能に他の状態に進展する。時刻t1での論理操作220の実行までそれぞれのキュービットの状態を保存するために、1つ以上の量子誤り訂正QEC工程が適用され得る。2つのキュービット状態を量子状態Ψ3、Ψ4に変換する論理操作220の適用後に、キュービットが例えば読み出され、および/または使用されて別の論理操作を遂行するまで、さらなるQEC工程が適用され得る。キュービットが物理的に実装される方法は、キュービットとの相互作用がどのように行われるか、およびQEC工程が実行される反復速度を決定し得る。
キュービットを実装するための1つの有望なアプローチは、回路量子電磁力学(回路QEC)として知られる。他のアプローチとしては、光学光子に介在されるトラップされた原子に基づくものおよび光子により介在される固体状態不純物に基づくものが挙げられる。かかるキュービットは、原子または不純物の部位と比較して巨視的であり、所望の特性および比較的長いコヒーレンス時間を有するように作り変えられ得る。回路QED系において、制御連結120は、量子系115に連結されるマイクロ波信号(例えば、約3GHz〜約40GHzの間の周波数での信号)により実装され得る(例えば、ワイヤレスに、導波管を介して等)。図2Bを再度参照すると、QEC工程および論理操作220は、注意深く調製されたマイクロ波信号をキュービットに適用することにより実行され得る。
量子情報プロセッサと従来のプロセッサの間の別の興味深い違いは、論理操作が遂行される方法である。従来のプロセッサにおいて、論理ゲート210は典型的に、ビットB1、B2状態を表す電圧信号を受信する半導体基板上に形成されるCMOSトランジスタを含む。論理ゲートは、系を通じて典型的に同じハードウェアである静的なハードウェアである。回路QED量子情報プロセッサにおいて、論理操作220は、量子ビットQ1、Q2に直接働きそれらの状態を変化させる一連のマイクロ波信号240として実行され得る。マイクロ波信号240は、注意深く調製されなければならず、連結ハードウェアの違いのために処理系を通じてわずかに異なり得る。いくつかの場合において、特定の論理操作のためのマイクロ波信号240は、論理操作のためのマイクロ波信号の直前に適用される信号にわずかに基づいて変化され得る(例えば、前の信号による量子系の加熱のため)。
上述のように、従来の量子制御系は一般的に、マイクロ秒以下の時間における動的制御を必要としない実験による使用のために設計されるが、これは量子誤り訂正において損益分岐点に到達することを除外する。量子誤り訂正操作に加えて量子系115上で多くの論理ゲートを実行することを含み得る(例えば図2Bに示されるような)所定の実験を遂行するような方法で制御装置110を操作するために、制御装置が十分に整列された(wide array of)制御操作を遂行し得ること、および量子系のコヒーレンス時間未満で量子系115の状態に基づいてこれらの操作から動的に選択し得ることが必要である。上述のように、これらの要件は、制御論理の待機時間および制御装置の記憶能力の両方を必要とする。
本発明者らは、量子系に作動するための信号が生成され得、典型的な量子系のコヒーレンス時間未満で量子系に適用され得るように制御装置により前もって構成される命令のシーケンスを実行するための技術を認識し、理解している。信号の動的な生成は、制御装置において可能性のある信号の全てを記憶する必要なく、多くの可能性のある信号を量子系への適用に利用可能にさせる。本発明者らは、量子系に適用され得る信号の多様性は、主に信号の異なる振幅および位相にあり、信号の形状にはあまりないことを認識している。本明細書に記載される技術は、いくつかの鋳型(または「ベース」)パルスエンベロープ(envelope)の1つを所望の信号に変換することにより量子系に作動するための信号を動的に生成する。したがって、ベース波形のみが、量子系と通信するハードウェアにより記憶されることを必要とする。
本発明者らはさらに、命令のシーケンスの論理フローが、受信された信号に基づいて変化され得るように、制御装置により量子系から受信される信号を積分するための技術を認識し、理解している。シーケンス化された命令は、(例えば、シーケンスにおける非連続命令にジャンプすることにより)制御装置に、これらの信号を積分および解釈させ、命令の論理フローを調整するために該結果を使用させるように構成され得る。受信された信号は、量子系の状態についての情報をエンコードし得るので、命令のシーケンスは、2つの論理的に異なる信号が量子系から受信される場合に異なる操作を実行するように配置され得、それにより、量子系の状態に基づいて命令が動的に実行され得る。
いくつかの態様によると、制御装置は、所定のシーケンスに従って命令を実行する回路構成を含み得る。本明細書で使用する場合、このように構成された回路構成は「シーケンサ」と称され、制御装置は、異なる命令のシーケンスをそれぞれ実行する1つ以上のシーケンサを含み得る。シーケンスはメモリまたは他の適切な記憶媒体上にロードされ得るか、またはそうでなければ、命令を実行するためにシーケンサがシーケンスの命令を順序正しき引出、該命令を実行し得るように、シーケンサにアクセス可能である。いくつかの態様によると、命令は、複数のデジタルデータフィールドを含み得、シーケンサは、どの操作(1つまたは複数)を遂行する(例えば、量子系に適用される信号を生成する、量子系から受信される信号を積分する、等)かを決定するためにデータフィールドを解釈するように構成され得る。データフィールドはまた、前記操作の遂行に使用され得る情報を含み得る(例えば、鋳型信号またはメモリにおける鋳型信号へのポインター等を含み得る)。
いくつかの態様によると、制御装置は、1つ以上のアナログ-デジタル変換器(ADC)またはデジタル-アナログ変換器(DAC)を含み得る。制御装置のデジタルシーケンサ(1つまたは複数)は、デジタル命令を実行し、DACを介して量子系に出力され得るアナログ信号を生成するおよび/またはADCを介して量子系から受信されるアナログ信号を受信するように構成され得る。
以下に続くものは、量子系のための制御装置に関連する種々の概念および該装置の態様のより詳細な説明である。本明細書に記載される種々の局面は、多くの方法のいずれかで実行され得ることが理解されるべきである。具体的な実行の例は、例示目的のみのために本明細書に提供される。また、以下の態様に記載される種々の局面は、単独または任意の組合せで使用され得、本明細書に明らかに記載される組み合わせには限定されない。
図3は、いくつかの態様による、例示的な波形プロセッサのブロック図である。例示的な波形プロセッサ300は、図1に示される制御装置110の構成要素であり得、量子系115の1つと相互作用するように構成され得る(例えば、制御連結120の1つを実装するように構成され得る)。波形プロセッサ300は、それぞれ、デジタル波形から変換されたアナログ信号を量子系に出力、および量子系から受信されたアナログ信号を受信しデジタル化するように構成されるDAC 321およびADC 322に加えて、マスターシーケンサ310、アナログシーケンサ320および波形アナライザ330を含む。アナログシーケンサ320は、アナログ信号の生成に関与し、それをしてマスターシーケンサから区別するので、デジタル構成要素であり得るが、本明細書において「アナログ」シーケンサと称される。図示されるシーケンサ構成要素のそれぞれは、実装される場合に複数のシーケンサユニットを含み得る。例えば、アナログシーケンサは、それぞれが信号をDAC 321の1つに出力する、並行に作動する2つのシーケンサを含み得る。
図3の例において、マスターシーケンサ310は、波形プロセッサの他の構成要素の作動と同調する。特に、マスターシーケンサ310は、アナログシーケンサ320がDAC 321を介してアナログ波形を生成および産生するように信号を送る命令を実行し得、波形アナライザ330がADC 322を介して受信した信号を受信して分析するようにトリガーする命令を実行し得る。マスターシーケンサはまた、マスターシーケンサとアナログシーケンサまたは波形アナライザの間の相互作用を引き起こさない他の命令を実行し得る。
マスターシーケンサは、通信連結351を介して波形アナライザ330と通信し得る。波形アナライザは、量子系から受信される波形を処理するように構成され得る。マスターシーケンサ310はまた、第2の通信連結353を介してアナログシーケンサ320と通信し得る。アナログシーケンサは、(例えばデジタル-アナログ変換器(DAC1、DAC2)により)アナログ波形に変換されて量子系に適用される(例えばキュービット上の量子操作を実行するために使用される)デジタル波形を生成するように構成され得る。
概観において、例示的波形プロセッサの操作は、マスターシーケンサ310、アナログシーケンサ320および波形アナライザ330にそれらの操作を決定する命令がロードされることにより開始され得る。命令を波形プロセッサ300上の任意の数のデータ記憶デバイスにロードすることにより、命令はロードされ得、それぞれの構成要素にアクセス可能になり得る。例えば、メモリ315は、それぞれのシーケンサに共有されシーケンサのそれぞれについてのシーケンスを記憶するメモリであり得る。代替的に、メモリ315は、マスターシーケンサ310についてのシーケンスを記憶し得、アナログシーケンサ320および波形アナライザ330は、それぞれの命令を記憶するための別のメモリ(示さず)をそれぞれ含み得る。いくつかの態様によると、波形プロセッサ300により量子操作を実行する前に、命令を従来のコンピューターから(例えばデジタルI/Oポート(示さず)により)波形プロセッサ300に予めロードし得る。
操作において、波形プロセッサ300は、アナログシーケンサ320からデジタル波形を生成し、該波形をアナログ信号に変換することにより、一組のアナログ波形を出力し得る。これらの波形は、直接または間接のいずれかで量子系に送信され得る。例えば、波形は、信号をRFジェネレータ構成要素に伝送することにより量子系に間接的に伝送され得、該構成要素は、次いで1つ以上の量子系に適用される信号を生成して量子操作(例えば、論理ゲート、誤り訂正等)を遂行する。続いて、量子系(1つまたは複数)からの戻り信号は、波形アナライザ330へと送信(route)され得る。
いくつかの態様において、マスターシーケンサ310により波形アナライザ330に送信されるトリガー値(trigger value)は、波形アナライザにより受信された信号を処理する結果がいつおよび/またはどのようにさらなる処理のためのマスターシーケンサに送信されるのかを決定し得る。マスターシーケンサの命令は、該命令が波形アナライザからのデータをいつおよびどのように処理するかを決定し得る。次いでマスターシーケンサは、アナログシーケンサおよび/または波形アナライザにより現在実行されているかかまたは実行される命令によりアクセスされる、メモリにおけるデータフィールドについての値を、そのコンピューター計算に基づいて設定し得る。この様式において、マスターシーケンサは波形プロセッサ300の操作フローに影響し得る。
いくつかの態様によると、波形プロセッサ300は、少なくとも部分的にフィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)を使用して実装され得る。いくつかの実装において、波形プロセッサは、少なくとも部分的に用途特異的積分回路(application-specific integrated circuit) (ASIC)を使用して実装され得る。例えば、マスターシーケンサ310は、論理ブロックの第1の群およびFPGAまたはASICのゲートにより実装され得る。波形アナライザ330は、論理ブロックの第2の群およびFPGAまたはASICのゲートにより実装され得る。波形アナライザはさらに、アナログ入力ポート322で信号のペアを受信するように配置されるアナログ-デジタル変換器ADC1、ADC2を含み得る(またはそれに連結され得る)。アナログシーケンサ320は、論理ブロックの第3の群およびFPGAまたはASICのゲートにより実装され得る。アナログシーケンサはさらに、アナログ出力ポート321についてアナログシーケンサからのデジタルデータ流をアナログ出力信号に変換するように配置されるデジタル-アナログ変換器DAC1、DAC2を含み得る(またはそれに連結され得る)。シーケンサおよび波形アナライザのいずれかは、いくつかの態様によるとランダムアクセスメモリ(RAM)を含み得るかまたは共有し得る。いくつかの態様によると、マスターシーケンサ310、アナログシーケンサ320および波形アナライザ330は、単一の基板上で集合され得る。波形プロセッサ300が1つ以上のDACおよび/またはADCを含む場合、これらはマスターシーケンサ310、アナログシーケンサ320および/または波形アナライザ330と同じ基板上に集合され得る。
いくつかの態様によると、マスターシーケンサ310、アナログシーケンサ320および波形アナライザ330は、それらの個々の命令に従って、同時におよび並行してそれらの操作の全てを実行し得る。例えば、アナログシーケンサ、波形アナライザおよびマスターシーケンサは全て、それらのそれぞれの命令を通じて進む(stepping)する場合、同じクロックにより駆動され得る。これらの構成要素の間の同期化は推定され得るが、実証されず、すなわちシーケンサのそれぞれは連続クロックサイクルで命令を実行し得、この同期化を実証せずに、他のシーケンサが同じことを実行することが推定される。これに関して、波形プロセッサ300は、それぞれのコアが特定のタスクについて特殊化されるが、他のコアとの同期化は確実ではないマルチコアプロセッサとして作動する(例えば、アナログ波形を生成して量子系に出力するため、量子系から受信される波形を分析するため、受信されたデータを整理(digest)して操作フローを決定するため、デジタル信号を通信する等のために特殊化される)。
いくつかの態様において、波形プロセッサはさらに、クラスターにおける他の波形プロセッサとの通信を可能にするように構成され得る。例えば、波形プロセッサは、波形プロセッサの他の例からのデータの送信および/または受信のための通信連結を含み得る。いくつかの態様において、波形プロセッサの間の通信は、複数の波形プロセッサにより共有されるかまたはアクセスされるシーケンサ命令における1つ以上のデータフィールドを含むことにより実行され得る。クラスターにおける他の波形プロセッサとの通信は、これらのデータフィールドについての値をインポートおよびエクスポートすることにより実行され得る。これらのデータフィールドは任意の時点でアップデートされ得るので、クラスターにおける任意の波形プロセッサ上のそれぞれのコアの操作は、実行時間(run time)の間に必要に応じて変化され得る。いくつかの態様において、クラスターにおける波形プロセッサが他の従属波形プロセッサに対して支配し得ることはない。その代り、それぞれの波形プロセッサは、他の波形プロセッサとはほぼ独立して作動し得、個々の波形プロセッサの操作に影響し得る他の波形プロセッサからの共有されるデータフィールド値のみに依存する。このアーキテクチャーのために、波形プロセッサクラスターは容易に大規模実現可能である。より多くの量子系を処理するために、より多くの波形プロセッサ300が追加され得る。例えば、図1におけるそれぞれの制御連結120は、1つの波形プロセッサにより実装され得る。
例示として、以下は、波形プロセッサ300により実行され得る量子系を用いる例示的な実験を説明する。図4Aは、(トランスモンなどの物理的キュービット、または量子振動子の状態の重ね合わせを使用して実装されるものなどの論理キュービットであり得る)キュービットにパルスを適用してキュービット状態の回転を生じる「Power Rabi」実験の際に生成され得る波形を示す。種々の振幅がキュービット状態回転の大きさにどのようにマッピングするかを理解するために、この実験を使用して、波形の振幅を較正し得る。図4Bは、いくつかの態様による、図4Aに示される波形のいくつかを生じるために図3の系内で実行され得るシーケンサ命令を示す。
例示的波形400は、2つのアナログ信号を示し、ここでそれぞれの信号は、I成分およびQ成分を提供するように調整される。図4A中の2つのアナログ信号の第1は、I成分およびQ成分を有する「キュービット」信号として標識され(一番左の2つの信号)、ガウスパルスとして経時的に進展することが示される。2つのアナログ信号の第2は、I成分およびQ成分を有する「読み出し」信号として標識され(一番右の2つの信号)、キュービットパルスが生成される後に生成される振動信号として示される。信号が出力されない遅延期間はキュービットパルスおよび読み出しパルスに続く。
例示的なPower Rabi実験において、振幅の範囲を超えるガウスパルスを生成することが目的である。上述のように、本明細書に記載される技術は、記憶装置を低減し、シーケンサにより実行される命令に従って所望の信号を動的にコンピューター処理するためにベース波形を利用する。図4Bにおいて、マスターシーケンサ310により実行される例示的な命令は、マスターシーケンス命令450と示され、アナログシーケンサ320により実行される例示的命令はアナログシーケンス命令460と示される。例示される命令は、キュービットアナログ信号を生成するように構成されたものであり、別のシーケンス(示さず)は、読み出しアナログ信号を生成するために使用される。
図4A〜4Bの例において、アナログシーケンサは例示されるシーケンスにおけるアナログシーケンス命令460を実行するように構成され、一旦シーケンスの終わりに達すると、最初の命令が再度実行されるなどである。それにより2つの例示された命令は繰り返し実行される(1、2、1、2、1、等)。
最初に、マスターシーケンス命令#1は、マスターシーケンサにより実行され、同じクロックサイクルにおいて、アナログシーケンス命令#1は、アナログシーケンサにより実行される。マスターシーケンサ命令#1は、アナログシーケンサに波形を操作させて出力信号を形成させる値をアナログシーケンサに供給するように構成される。これらの供給される値は、図4Bの例において、波形にスケール1.0の振幅を適用する。図4Bの例において、マスターシーケンス命令#1は、適用される波形についての情報を含まない-該命令は波形を変換するための値のみを含むことに注意。アナログシーケンサがこれらの値を受信する場合、アナログシーケンサはその命令#1内で供給される波形を変換し(I成分についてガウス、Q成分について信号なし)、それによりI成分についての振幅1.0を有するガウスパルスが生成され、Q成分についてベースライン信号が生成される。次いでアナログシーケンサは、調整された信号を形成し、DAC 321の1つに信号を出力する。
マスターシーケンス命令450における命令#2は、キュービットの状態を測定するために時間の窓として含まれる。最初の命令#1は命令450および460(および読み出しパルス、示さず)において示されるようなガウスパルスを生じ得るので、その後の時間においてキュービット系の状態が測定され得る。この間に、マスターシーケンサにより命令が実行され得るが、図4Bにおいて「操作なし」との表示で示されるように、波形の操作は含まない。しかしながら、マスターシーケンサ命令#2が波形プロセッサにおいて、波形アナライザがキュービットから受信される信号を読み出すことを誘導するなどの他の機能を遂行しないことが真実であり得る。
図4Bに示される命令は、代表的な形態で示され、任意の適切な方法においてデジタルの形態で示され得ることに注意。特に、アナログシーケンス命令における命令#1のガウス波形などの波形は、デジタル命令に含まれ得るか、または代替的にデジタル命令により参照されるメモリ位置において記憶され得る。
いくつかの態様において、図4Bに示されるようなマスターシーケンス命令は、以下のように最適化され得る。マスターシーケンス命令450の完全なシーケンスを記憶する代わりに、図4Bの例において、マスターシーケンサは、2つのマスターシーケンス命令のみを記憶し得:第1は、(1.0-0.1×N)の振幅スケールを設定し、第2は操作なしである。この命令のシーケンスを反復的に実行するが、それぞれの反復においてNの値を漸増させることにより(N=0、1、2等)、マスターシーケンス命令450は繰り返され得る。下記のように、マスターシーケンサは、算術的操作を遂行して値を記憶するように構成され得、それによりかかる構成は、この例により例示されるようなマスターシーケンス命令のより効率的な処理を可能にし得る。
図5Aは、いくつかの態様による、量子系から情報を読み出すために使用され得る波形を示す。一旦アナログ信号が波形プロセッサ300から量子系に出力されると、量子系の状態についての情報をエンコードするその後の信号が量子系から受信される。例えば、受信された信号の振幅および/または位相は該状態を示し得る。図5Aは、I成分およびQ成分を有する読み出しパルスを含む信号500を示し(一番右側の2つの信号)、これは図4Aに示される読み出しパルスと同じである。読み出し信号が量子系への出力を開始した後、信号は量子系から(ADC 322を介して)波形アナライザ330に受信され、図5Aにおける振動信号(一番左側の信号)として示される。波形アナライザを使用してこの信号を捕捉するために、波形アナライザは、入ってくる(incoming)信号が捕捉される期間を示す内部トリガー信号(trigger signal)を生じるように構成される。このトリガー信号は、トリガーの間に一定の高い値およびそうでない間一定の低い値として、図5Aの左から2番目に示される。いくつかの態様において、トリガー信号は、マスターシーケンサにより生成され得るか、またはマスターシーケンサから波形アナライザにより受信される信号により波形アナライザにより生成させられ得る。
系から受信された信号は、一組の値の1つを生成するために波形アナライザおよび/またはマスターシーケンサの命令により所定の様式で積分される。積分される手順は、積分から所望の結果を生じるための命令により規定され得る。例えば、入ってくる信号は、マスターシーケンス命令により記載されるエンベロープに基づいて積分され得るので、2つの値の1つは該値が量子系のいくつかの特性を示すような結果となる。1つの例示的な積分戦略のための双峰分布を示す例示的なデータを図5Bに示す。この例において、受信される信号のI成分およびQ成分は別々に積分されて、1つの点として、示されるデータに追加される。これらの点の双峰分布は、(例えば)キュービットの状態と、2つの分布のうちのどちらに該点が分類されるかとの対応を可能にする。1つのクラスターは、キュービットが基底状態にあるという結果を示し得、他方のクラスターは、キュービットがその励起状態にあるという結果を示し得る。したがって、積分の結果を使用して、量子系の特性を同定し得る。これらの結果の表示はマスターシーケンサに提供され得るので、該表示は、結果に基づいた論理フローの決定をなし得る。
上述のように、波形プロセッサは、図3に示されるように、複数の同様に構成された対話式(interactive)波形プロセッサ300を含むクラスターにグループ分けされ得る。図6は、いくつかの波形プロセッサ605が一緒にグループ分けされる例示的な構成を示す。それぞれの波形プロセッサ605は、基板上に集合された複数の電気的構成要素を含み得る。電気的構成要素は、アナログ出力ポート610を介してそれぞれの量子系に出力される波形を生成し、1つ以上のアナログ入力ポート620を通ってマイクロ波構成要素を介してキュービットから受信される波形を処理するように構成され得る。それぞれの波形プロセッサ605は、データを従来のコンピューターに伝送および従来のコンピューターから受信するための第1のデジタルインターフェイス630を含み得、クラスター内の波形プロセッサ605の間の内部デジタル通信連結650によりデジタルデータを通信するために使用される第2のデジタルインターフェイス640をさらに含む。
図3に示される波形プロセッサ300は任意の特定の型の量子系または量子系と相互作用するための技術(1つまたは複数)に限定されないが、いくつかの態様において、該波形プロセッサ300は、マイクロ波信号を介して量子系と相互作用するように回路QED系で実装され得る。それにより、制御装置110は、制御波形のリアルタイムでの調整が量子系(1つまたは複数)に送信される柔軟な様式で、正確なマイクロ波信号(典型的には波形)を動的に生成するため、および量子系(1つまたは複数)から受信される信号(波形も)を処理するための電子機器を含み得る。多くの量子系(1つまたは複数)がコンピューター計算に関連し得るので、制御装置110は、複数の波形プロセッサが複数のキュービットに対して並行に作動し得るように調整可能であるべきである。また、それぞれの波形プロセッサは、それ自身の計算に基づいて波形生成についての理性的な(intelligent)決定をなし得るということにおいて準独立的(quasi-independent)であるべきであり、これは少なくとも部分的に、クラスター内の他の波形プロセッサからのデータにより影響を受け得る。
図7Aは、量子情報処理系100、例えば回路QED系115を使用し得る量子系のためのアーキテクチャーの一態様のさらなる詳細を示す。量子系115としては、物理的キュービット(例えば、1つ以上のトランスモンキュービット、電荷キュービット、フラックスキュービットおよび/または位相キュービット等)、量子力学振動子(1つまたは複数)(例えば1つ以上のストリップライン共振器)等が挙げられ得る。かかる系において、量子系の1つ以上は、系が操作中の場合に極低温または量子系内で超伝導が生じる温度で維持され得る。量子系との相互作用は、マイクロ波制御連結120を介し得、該連結は、マイクロ波構成要素760との有線および無線の連結の組合せを含み得る。マイクロ波構成要素760は、量子情報処理操作の実行を制御する波形プロセッサクラスター720(例えば波形プロセッサ300の複数の例を含む)に連結され得る。いくつかの態様において、従来のコンピューター705は、波形プロセッサクラスター720に連結され得、人による系の操作のためのインターフェイスを提供し得る。
従来のコンピューター705は、ユーザーによるデータ入力を受信し得、かつ波形プロセッサクラスター720から受信されるデータを表示、記憶および/または転送し得る任意の適切なコンピューターであり得る。従来のコンピューター705は、例えばパーソナルコンピューター、ラップトップコンピューター、またはタブレットコンピューターであり得る。いくつかの態様において、従来のコンピューター705は、波形プロセッサクラスター内に一体化されるマイクロプロセッサ、ディスプレイおよびメモリを含み得る。
マイクロ波構成要素760は、選択された周波数で一定の振幅で振動する信号を出力するための無線周波数(RF)ジェネレータ、ケーブル、ミキサー、ルーター、増幅器、コンバイナ、指向性結合器(directional coupler)等を含み得る。これらの構成要素のいくつかは、極低温または低温で操作され得、いくつかは室温で操作され得る。いくつかのマイクロ波構成要素は、キュービットからの信号を受信して増幅し、増幅された信号を分析のための波形プロセッサクラスターに提供するように配置され得る。いくつかのマイクロ波構成要素は、図7Bに示すように、波形プロセッサクラスター720から受信された信号を組み合わせ、得られた信号をキュービット115に出力するように配置され得る。
例として、2つのミキサー780、790は、1つまたは2つのRFジェネレータ(示さず)から、選択された周波数で、一定の振幅の信号782、792のそれぞれを受信し得る。ミキサーはまた、波形プロセッサクラスター(例えばクラスター600)から同相および直角位相(IQ)波形のペア784、786および794、796を受信し得る。混合後、出力波形788、798をコンバイナ795により組み合わせ、量子系に送信し、例えばキュービット操作またはマルチキュービット操作を遂行し得る。他のキュービットに送信される他の波形を生成するために、図7Bに示される構成要素と並行して作動するさらなる構成要素があり得る。
図8は、いくつかの態様による、例示的な波形プロセッサのブロック図である。波形プロセッサ800は、デジタルシーケンサ840および高速デジタルインターフェイス880も含む波形プロセッサ300の一例である。マスターシーケンサ810、メモリ815、アナログシーケンサ820、DAC 821、波形アナライザ830、ADC 822ならびに通信連結851および853は、それぞれ上述される要素310、315、320、321、330、322、351および353として構成され得る。
図8の例において、マスターシーケンサ810は、第3の通信連結855を介して、デジタルシーケンサ840およびデジタルI/Oポート841と通信する。デジタルシーケンサは、波形プロセッサ800と連結する他の装置(例えば、クラスター中の他の波形プロセッサまたは他の測定装置)と通信するために使用され得るデジタル情報を出力するように構成され得る。例えば、デジタルシーケンサは、別のデバイスをトリガーするおよび/または別のデバイスから受信または出力されるRF信号を遮断するなどの操作を実行するように構成され得る。後者の操作は、雑音のないベースライン信号を生じるために有用であり得る。
図8の例において、波形プロセッサ800は、第4の通信連結857を介してマスターシーケンサと通信し得る高速デジタルインターフェイス880およびI/Oポート881を含む。高速デジタルインターフェイス880はまた、第5の通信連結859を介して波形アナライザ830と通信し得るので、波形アナライザからのデータ(生の(raw)および/または処理された)は、デジタルインターフェイス880に直接流され得、遠隔解析のために送信され得る。高速デジタルインターフェイス880は、波形プロセッサ800へおよび波形プロセッサ800からデータをダウンロードおよびアップロードするために従来のコンピューターデバイスに連結されるように構成され得る。いくつかの実装において、高速デジタルインターフェイス880は、ペリフェラルコンポーネントインターコネクトエクスプレススタンダード(Peripheral Component Interconnect Express standard) (PCI Express(登録商標))をサポートし得るが、他の実装においては他のデジタルインターフェイス構成が使用され得る。
いくつかの態様によると、マスターシーケンサ810、アナログシーケンサ820、波形アナライザ830およびデジタルシーケンサ840は全て、それらの個々の命令に従って、同期的におよび並行してそれらの操作を実行し得る。例えば、アナログシーケンサ、波形アナライザおよびマスターシーケンサは全て、それらのそれぞれの命令を通じて進む場合、同じクロックにより駆動され得る。これらの構成要素の間の同期化は、実証されないが推定され得、すなわち、シーケンサのそれぞれは、連続クロックサイクルにおいて命令を実行し得、他のシーケンサは、この同期化を実証することなく同じことを行っていると推定される。
例示的なマスターシーケンサの内部の詳細を図9Aに示す。いくつかの態様によると、マスターシーケンサは、並行して実行される異なる機能(functionality)を有するように構成される複数の論理ロック(lock)(例えば、マスターシーケンサ内のサブ処理コア)を含み得る。論理ブロックの第1の群は、命令セレクタ910として構成され得る。命令セレクタは、マスターシーケンサ810の操作を決定するメモリ815からのマスターシーケンス命令(例えば、命令データストリング)を引出し得、それぞれのサブ処理コアの論理ゲートのアレイに命令(および/またはアドレスなどの命令を同定するデータ)をロードし得る。マスターシーケンスは、従来のコンピューターまたは他の適切なデバイスによりメモリ815に予めロードされるいくつかのマスターシーケンスの1つであり得る。マスターシーケンサ810の操作を開始するために、命令セレクタ910は、最初に、メモリ815にロードされた第1のマスターシーケンスを引き出し得る。一旦開始されると、マスターシーケンスは、本明細書に別々に記載されるいくつかの方法の一つにより規定される期間、作動する。
実行されるマスターシーケンス命令および/またはその後の同定されるマスターシーケンス命令は、マスターシーケンサ810の処理論理ブロック930から出力され、命令セレクタ910により受信されるフロー値に基づいて、命令セレクタ910により実行(effect)および/または選択され得る。例えば、処理論理ブロック930が分岐条件の適用を決定する場合、フロー値は、命令セレクタ910に、命令セレクタがアドレスまたはその後の分岐により実行されるその後の命令を同定することを可能にする情報を提供し得る。マスターシーケンス命令の実行の完了前に、波形プロセッサ830は、命令セレクタ910によりロードされるその後のマスターシーケンス命令を決定し得る。その後のマスターシーケンス命令の決定は、処理論理930および/またはブール関数計算機940によりコンピューター計算される値に基づき得る。
図9Aの例において、マスターシーケンサ810は、論理ブロックの第2の群を含み、かつ命令セレクタ910から通信連結915を介してマスターシーケンス命令を受信またはアクセスするように構成されるハンドラー920を含む。ハンドラー920は、マスターシーケンス命令を解析(parse)し得、処理論理930、ブール関数計算機940および/または波形アナライザ830に、内部通信連結925、924および853のそれぞれを介してデータ値を提供し得る。例えば、ハンドラー920は、マスターシーケンス命令を解析して、波形アナライザ830の波形サンプラーを誘発するために使用されるトリガー値を決定し得、および/または波形アナライザ830により使用される積分値を解析し得る。ハンドラー920は、処理論理ブロックによりコンピューター計算がどのように実行されるかを決定するデータを処理論理ブロック930にさらに提供し得る。例えば、ハンドラー920は、命令セレクタから処理論理ブロックに、処理論理ブロックにより実行されるプロセッサ命令を同定する命令アドレス位置を提供し得る。ハンドラーはさらに、ブール関数計算機940に、ブール操作がどのように実行されるかを規定するデータ(例えば、バイナリーマスク)を提供し得る。
いくつかの態様によると、処理論理930は、波形アナライザおよびハンドラー920からの入力に基づいて、計算を遂行するように構成されるプログラム可能論理を含み得る。処理論理930は、従来の解法を越える性能の大きな向上を可能にし得る、波形プロセッサ800の有効な構成要素である。処理論理930は、同期された様式で(マスターシーケンサ810により調整(orchestrate)される)、波形プロセッサの操作フローに影響する適切な計算を実行するように特別に構成される。いくつかの態様によると、処理論理930は、プログラム実行の際に波形プロセッサの他の構成要素により使用され得る複数の出力を生じる。処理論理は、それぞれの操作を実行するためのいくつかの処理要素(例えば、乗算器、加算器、算術論理ユニット等)、メモリおよび経路決定(routing)連結を含み得る。
操作を遂行するように構成されるそれぞれの要素は、その入力および出力を有する。それぞれの要素の出力は、データフローのネットワークを作成するために1つ以上の他の要素に対して選択的に送信(route)される。プログラムは、所望の計算を得るための要素を介して、経路決定命令のシーケンスにより実行される。
コンピューター計算の種類およびコンピューター計算のために使用される値は、ハンドラー920により、解析され、処理論理ブロックへと通されるマスターシーケンス命令の実行に含まれるデータにより部分的に決定され得る。処理論理ブロック930は、そのコンピューター計算に基づく値を、波形プロセッサ800内の他の構成要素に出力し得る。例えば、処理論理ブロック930は、アナログシーケンサ630により生成される波形を形作るために第2の通信連結851を介してアナログシーケンサ820により使用され得る値(操作マトリックス値、または「M値」)を利用可能にし得る。該値は、高いまたは低い値で波形プロセッサ回路内に制御ラインを設定すること、または一時的メモリに値を書き込むことにより利用可能になり得る。いくつかの実装によると、処理論理ブロック730は、通信連結735を介してブール関数計算機740にブール値(例えば、フラッグ、値および/またはマスク)を出力し得る。処理論理ブロックはまた、デジタルシーケンサ840に値を出力し得、これは、クラスター内の他の波形プロセッサに計算された値を出力し得る。
ブール関数計算機940は、処理論理ブロックからおよび第3の通信連結855を介して受信される外部データからの入力に基づいて、ブール操作を遂行するように構成される論理ブロックを含み得る。外部データは、波形プロセッサ800上の「センサー」から生じ(come from)得、波形プロセッサ800がかかるプロセッサのクラスターの一部である場合、外部データは、クラスター中の他の波形プロセッサ上のセンサーから生じ得る。センサーは、量子制御装置110の種々の構成要素の状態および/または量子系115の種々の状態を検出するバイナリーセンサーであり得る。
そのブール操作に基づいて、ブール関数計算機940は、波形プロセッサ800上の他の構成要素に利用可能にされる「内部結果」と称される値を出力し得る。内部結果は、1つ以上の制御ラインを高いまたは低い値に設定すること、および/またはメモリ815にデジタル値を書き込むことにより利用可能になり得る。内部結果は、全てのシーケンサにより実行される命令に直接的に影響し得る。いくつかの実装において、内部結果は、現在実行している命令が次の命令にどのように分岐するのかを決定する2ビットまたはnビットの信号である。下記の命令について、内部結果は、命令の「分岐方法」または「分岐の種類」のデータフィールドについて設定される値である。内部結果は、任意の時点で設定され得、波形プロセッサ800のリアルタイムの実行に影響し得る。
メモリ815は、いくつかの態様により、命令の実行の際に値を保持するための2つのバイナリー状態の1つにおいて設定されるトランジスタ(例えば、RAM型メモリ、レジスタ、バッファ)および/または制御ラインを含み得る。メモリ要素は、マスターシーケンサ810のための回路の一部として含まれ得る。他のシーケンサおよび波形アナライザ840はまた、メモリ要素を含み得る。例えば、メモリ要素は、メモリ機能性についての代わりになる(delegated)FPGAまたはASICの一部を含み得る。
いくつかの態様において、それぞれのシーケンサおよび処理論理930は、それらのそれぞれの命令をロードおよび実行することにより操作中に配置され得る。図9Bに示す例示的なマスターシーケンス命令950は、トリガー値を決定し、波形アナライザ840による波形サンプリングのタイミングおよび持続時間を制御し、波形プロセッサ800の操作に影響する他の値を確立する。アナログシーケンス命令は、アナログシーケンサの出力においてどのようなパルスが働く(play)かを説明する。デジタルシーケンス命令は、デジタルI/Oポート841上で働くデジタルパターンを説明する。プロセス論理命令は、波形プロセッサの操作に影響するいくつかの値がどのように計算され、出力結果がどのように計算されるかを決定する。
シーケンサと処理論理命令の間に共通の特性(attribute)があり得る。それぞれの命令は、どのくらいの長さ(どのくらいの数のクロックサイクル)の命令が実行されるかを同定する値を含み得る。この値は、全ての命令の実行を通して共通であり得るので、波形プロセッサ800の構成要素は同期され得る。いくつかの態様によると、命令の持続時間は4ns(1クロックサイクル)の単位で規定され得るが、他の基本ユニットは異なるクロック速度で使用され得る。命令の持続時間は220サイクルほどの長さであり得、これは、4nsクロックサイクルについて約4msである。最小の持続時間についてより低い拘束(bound)のクロックサイクルがあり得る(例えば、6サイクルまたは約24ns)。
命令の実行の持続時間は、命令内の記載事項(entry)に基づいて選択され得る静的値または動的値であり得る。静的値は、それぞれの命令内のデータフィールドとしてエンコードされ得る(例えば、インライン「持続時間」データフィールド)。1つ以上の動的な値は、処理論理930により任意の時点で計算され得、メモリ815中の1つ以上のレジスタに記憶され得る。レジスタは、命令内の「動的持続時間」データフィールドにより同定され得る。例えば、動的持続時間データフィールドは、2ビットの長さであり得る。値「00」は、持続時間が、命令のインライン持続時間から採られることを示し得、一方で値「01」、「10」または「11」は、持続時間が3つの対応するレジスタの1つから採られることを示す。動的持続時間は、例えば、キュービット上のT1測定に有用であり得、ここで適用されたパルス後の遅延は、それぞれのパルス適用について別々の命令を生成する代わりに効率的に段階づけされる(step)。命令を実行する持続時間を変化させる能力は、波形プロセッサクラスター320に第1のレベルの柔軟性を提供する。シーケンサの間の同期化は、命令のそれぞれのシーケンスを実行するための総持続時間が同じになることを確実にすることにより、動的持続時間の命令の使用により維持され得る。いくつかの場合において、それぞれのシーケンサにおいて同時に同じ動的な長さの命令を実行することは有益であり得るが、それぞれのシーケンスの単一の繰り返しが同じ持続時間を有する限り、これは不要である。
命令の間の別の共通の特性は、現在の命令の終結の後に実行される次の命令のアドレスである。いくつかの態様によると、次の命令アドレスは、現在の命令の終了の数サイクル前に柔軟に決定され得る。それぞれの命令は、次の実行可能な命令のための柔軟な分岐の決定を行うために使用されるデータフィールドを含む。いくつかの態様において、(例えば命令内の異なるデータフィールドにおける値に基づいて複数の次の命令から選択される)複数の分岐方法があり得る。例えば、いくつかの分岐方法は、GOTO、IF、GOSUBおよびRETURNとして規定され得、「分岐方法」データフィールドにおいて2ビットの値(11、00、01、10)による命令内で同定され得る。命令内の他のデータフィールド(例えば、「アドレス(address) (0)」、「アドレス(address) (1)」、「アドレスモード(addressing mode)」、「フォースリターン(force return)」、「アレイフラッグ(array flag)」、「オフセットレジスタ(offset register)」)は、次のアドレスがどのように得られるかを決定し得る。例えば、GOTO分岐方法の同定は、以下の論理操作に従って次のアドレスの決定を生じ得る:
IF "array_flag" then
next_address = "address(0)" + GOF["offset register"]
ELSE
next_address = "address(0)"
他の分岐方法について他の論理操作を使用し得る。
分岐方法を選択し得ることに加えて、相対および絶対アドレスモードは、「アドレスモード」値(例えば1または0)により特定され得る。絶対モードにおいて、次のアドレスの値は、アドレスデータフィールド、例えば「アドレス(0)」において示される値であり得る。相対モードにおいて、次のアドレスの値は、現在のデータフィールドの値 + アドレスデータフィールドにおいて示される値であり得る。さらに、それぞれの命令は、上述のGOTO分岐方法におけるものと同様に、次のアドレスの位置のコンピューター計算に使用され得るアドレスオフセットレジスタ(例えばGOF0、GOF1、GOF2、GOF3)を特定し得る。いくつかの異なる分岐方法の中から、命令内の分岐方法を決定する能力、および命令内または命令により同定される静的または動的な値に基づく次の命令のアドレスを決定する能力は、波形プロセッサ800に高レベルの柔軟性を提供する。
再度図9Bを参照すると、マスターシーケンス命令950は、マスターシーケンサの操作の開始前にマスターシーケンサ810のゲートに適用されるフィールドにおいて複数のデータ値を含み得る。マスターシーケンス命令における動的な値を参照することにより、マスターシーケンサおよび他の波形プロセッサ構成要素の操作は、キュービット(1つまたは複数)および/またはクラスター中の他の波形プロセッサから受信されるデータにより影響を受け得る。いくつかの態様によると、マスターシーケンス命令950は、256ビットを含み得、波形アナライザ830において両方のアナログ-デジタル変換器ADC1、ADC2上のサンプリングを制御する(「トリガーレベル」場においてエンコードされる)2つの内部トリガー信号を含み得る。これらのトリガーレベルは、サンプリングされた波形データが処理論理930によるさらなる処理について有効なデータである場合を決定する入力信号レベル値、時間値またはクロックサイクルとしてエンコードされ得る。「推定命令アドレス」(est. instr. addr.)および「ロード推定命令」(load est. instr.) フィールドは、波形アナライザ830によりサンプリングされた波形を積分するためのパラメーターをアップデートするために使用され得る。いくつかの実行によると、推定命令アドレスは、積分パラメーター(例えば、積分ウェイト(integrated weight)、積分長さ、閾値)を記憶するメモリ915におけるデータ表を指す。
マスターシーケンス命令950はさらに、「センサー」の組で計算される3つのブール関数を含み得る。ブール関数は、センサーからの組み合わされた信号に対して適用されるバイナリーマスクを含み得る。センサーは、他の波形プロセッサから受信される信号値、波形アナライザ830による積分の結果、および他の計算(例えば、プロセッサ論理930および/またはブール関数計算機940により実行される計算)からの結果を含み得る。2つの外部ブール関数(「外部関数(external function)(0)」、「外部関数(external function) (1)」)は、クラスターにおいて他のカードに広められ(broadcast)得、1つの「内部関数」は、本波形プロセッサ上の操作フローを制御(例えば、分岐方法を決定)するために使用され得る。いくつかの場合に10〜20個のセンサーが存在し得るが、より少ないまたはより多いセンサーが使用されてもよい。ブール関数は、新規のマスターシーケンス命令がロードおよび実行されるたびにアップデートされ得る。命令中の示されるフラッグ「load int. func.」、「load ext. func.(0)」、「load ext. func.(1)」は、新規のブール関数のロードを強制するために使用され得る。
多くのセンサー(例えば、16)が使用される場合、最も一般的なブール関数は、これらのセンサーから216個の可能性のあるデータの組合せのそれぞれを占める(account for)必要がある。命令におけるこのような多くのデータは、ブール関数をセンサーのサブセットに限定すること(例えば、16個のうち4個までのセンサー)により回避され得る。次いで、ブール関数は、4個のセンサー(「var. sel.」データフィールドにより同定される4×4ビット)を選択して、出力値のそれらの組合せを可能にする(16ビット=24)ことによりエンコードされ得る。
例示的なマスターシーケンス命令は、実行のために処理論理930のゲートにロードされる処理論理命令のアドレスを同定するデータフィールド「prog. addr.」を含む。処理論理命令980の例を図9Cに示す。複数の異なる処理論理命令は、メモリ815内のプログラム表に記憶され得る。マスターシーケンサ810は、どの処理論理命令が次の命令サイクルにロードされるかを決定し得る。
処理論理命令980におけるデータフィールドは、処理論理930における異なる要素の操作を制御する。例えば、処理論理は、それぞれが2つのオペランドを有する2つの乗算器(データフィールド「mult. 0」および「mult. 1」により参照される)を含み得る。オペランドは、「op. sel.」データ値により同定される8個の選択肢のうちの1個から選択され得る。これらの8個の選択肢は、他の要素および/または処理論理930におけるメモリから出力され得る。同様に、処理論理命令980は、加算器についてのデータフィールドを含み得る。処理論理命令はまた、処理論理930によりアップデートされ、波形プロセッサ800の他の構成要素による使用のために出力される動的な変数についてのデータフィールドを含み得る(例えば、操作マトリックス値「mx(i,j)」、動的な持続時間長さ「dyn. len. i」、およびアドレスオフセット「goto offset i」)。
いくつかの態様によると、処理論理930の局面は、任意の関数のサンプルを記憶するデータ表を同定するデータフィールド値「arb. function」にアクセスする任意の関数計算機である。処理論理930は、サンプリングされた値を読み込み得、内挿により任意の関数を計算し得る。かかる内挿は、バイナリーフィードバックよりもプログラムの実行におけるアナログフィードバックを適用することを可能にするので、アナログシーケンサ630により生成されるパルスの振幅および位相は、離数量により変化され得ることのみよりも、値において連続的に調整(tune)され得る。連続調整は、重ね合わせ状態の連続を採り得る量子系(例えばキュービット)に作動するために重要であり得る。
操作の際に、処理論理は、命令980を実行し得、命令のいくつかの値をアップデートして波形プロセッサ800および/またはクラスター中の他の波形プロセッサのシーケンサ(例えばアナログシーケンサ)に出力し得る。例えば、処理論理930は、アナログシーケンサ630により得られ(fetch)得る4つの操作マトリックス値
(i、j=0、1)を生じ得る。これはまた、命令持続時間の間に動的長さとして処理される3つの値(「dyn. len. i」)をレジスタに出力し得る。これらの3つの値は、全てのシーケンサにより見られ得る。任意の命令は、その持続時間の間にこれらのレジスタのいずれかにおいて値にアクセスし得る。処理論理930は、次の命令アドレスを計算する場合にオフセットとして使用される4つの値(「goto offset i」)を出力し得る。これはまた、アナログシーケンサ630からのアナログ出力パルスの搬送波周波数を動的に変化させるために使用され得る単側波帯値(「SSB」)を出力し得る。処理論理はまた、外部の従来のコンピューターまたは他の外部のデバイスに、選択的または効果的な様式でデバッグ目的またはデータストリーミングのために有用であり得る4つの値(「record i」)を流し得るので、従来のコンピューターは、波形プロセッサクラスターからのデータ出力について行き得る。
図10Aは、いくつかの態様による、例示的アナログシーケンサのブロック図である。例示的アナログシーケンサ820は、命令表1005、波形表1010、第1の論理ブロックを含む波形ジェネレータ1020、波形ジェネレータにより出力される波形データに作動する第2の論理ブロックを含むマトリックス乗算器1040を含み、マトリックス乗算器1040により実行されるマトリックス操作についての値を記憶し得る操作マトリックスデータ表1050を含み得る。アナログシーケンサはさらに、デジタル-アナログ変換器DAC1、DAC2を含み得るが、これらの要素はアナログシーケンサが連結される別のユニットにも配置され得る。
図10Aの例において、命令表1005は、選択されて波形ジェネレータ1020のゲートにロードされる複数のアナログシーケンス命令を含む。上述のように、アナログシーケンサによるアナログシーケンス命令の実行は、アナログシーケンサに、外部の量子系に適用される波形を生成させ得る。図10Aの例において、波形ジェネレータ1020は、命令表1005からアナログシーケンス命令を引き出し、これらの命令を実行するように構成される。いくつかの場合において、アナログシーケンス命令は、波形ジェネレータ1020に波形を生成させるように命令し得、この場合、波形ジェネレータは、波形表1010から波形データを引き出し得る。例えば、アナログシーケンス命令は、そこから最終波形を生成する波形データが位置する波形表内のアドレス位置を含み得る。いくつかの場合において、波形ジェネレータによるアナログシーケンス命令の実行は、通信連結851を介してマスターシーケンサから受信されるデータを利用し得る。
アナログシーケンス命令および波形データは、波形プロセッサ800を用いて手順を実行する前に、データ連結859を介して従来のコンピューターにより表中に配置され得る。アナログシーケンス命令は、I波形およびQ波形についてのデータストリームの組を生成するための情報を含む。2つ一組で波形をデジタル方式で生成することおよびミキサー(図7Bに示されるような)を使用することにより、出力波形の振幅、位相および周波数は容易に制御され得る。アナログシーケンス命令は、波形表1010に記憶される波形データからI-Q出力をどのように構築するかを説明する。
波形表1010は、値および/または代表的な波形サンプルを記憶するメモリを含み得る。表中のそれぞれの値は、波形のクロックサイクルに対応し得る(例えば、250MHzクロックについて4nsの波形)。いくつかの態様によると、波形表は、有限の数の波形表示を含み得る。例えば、波形表1010にはわずか3種類の波形データがあり得る。第1の種類は、表中に一定の値のみが記憶される「定常」波形であり得る。第2の種類は、波形データ点のアレイが表中に記憶される「特有(unique)」波形であり得る。これらのデータ点は、選択された持続時間にわたる代表的な波形である波形の連続的なサンプル(例えば、ガウス波形上の連続点)を含み得る。波形データの第3の種類は、「内挿(interpolated)」波形であり得る。内挿波形データは、中間点が内挿により満たされ得る長い持続時間の平滑な波形の散在するサンプルを含み得る。
特有波形は定常および内挿波形記載事項よりも多くの記憶されたデータを必要とし得るが、これらの波形の種類のそれぞれから波形を生成することは、任意の波形ジェネレータを使用する従来のアプローチと比較して、波形の生成において、非常に大きなデータの低減を提供する。例えば、従来の任意の波形ジェネレータ(AWG)を使用する場合の典型的な実施のように、定常波系のそれぞれのサンプルについてのデータの完全アレイを記憶する代わりに、アナログシーケンサ820は、単一の値のみを必要とする。特有波形の2つの異なるバージョン(例えば、2つの異なる周波数、2つの異なる振幅、2つの異なる位相)についてのデータの2つの完全アレイを記憶する代わりに、アナログシーケンサ820は、振幅、位相および周波数のいずれか1つまたは組み合わせがアナログシーケンサにより変化され得る単一のアレイのみを必要とする。
図10Aの例において、波形ジェネレータ1020は、命令表1005から波形ジェネレータ―により引き出されるアナログシーケンス命令において同定される波形表1010から波形値を引き出すように構成され得る。波形ジェネレータは、データ連結851を介して、マスターシーケンサから波形ジェネレータに渡されるI-Qペアの波形値を、持続時間の間にマトリックス乗算器1040に出力し得る。いくつかの実行によると、波形ジェネレータは、異なる波形種類から波形値を引き出して、I-Q波形ペアを生成し得る。例えば、I波形についての波形データは特有波形構成要素から引き出され得、Q波形についての波形データは、波形表1010における定常波形記載事項から引き出され得る。
マトリックス乗算器1040は、波形ジェネレータ1020から受信されるベア(bare)I-Q波形データを、量子系への所望の操作(例えば、π/2位相フリップまたは誤り訂正)を実行するために使用され得るアナログ信号への変換に適した波形データに変換させるいくつかのマトリックス乗法を実行するように構成される論理ブロックを含み得る。いくつかの態様によると、マトリックス乗算器1040は、以下のマトリックス乗法を遂行するように構成され得る:
式中、
は、波形ジェネレータ1020により出力され、マトリックス乗算器1040により受信されるI-Q波形データペアを含む2×1ベクトルであり、
は、2×2操作マトリックスであり、
は、2×2単側波帯(SSB)マトリックスであり、
は、訂正マトリックスであり、
は、アナログシーケンサにより量子系に出力されるパルスである。マトリックス
は、引き出された波形値を調整(scale)および/または波形の位相を調整(adjust)するために使用され得、例えば、マトリックス乗法操作を生じる波形プロセッサにより検索されるアナログ命令またはマスターシーケンサから受信されるアナログ命令中のデータにより供給され得る。このマトリックスにおいて使用される値は、アナログシーケンス命令または処理論理930から生じ得る。マトリックス
は、静的または動的な周波数のいずれかで回転し得る進展回転マトリックスを含み得る。マトリックス
は、出力パルスの搬送波周波数を効率的に変化させるために使用され得る。マトリックス
は、ケーブル布線(cabling)およびマイクロ波構成要素により導入され得る下流の誤りを訂正するために使用され得る。
の値は静的であり得、較正測定から得られ得る。マトリックス乗法から得られる値は、出力アナログI-Q波形を生成するためにデジタル-アナログ変換器DAC1、DAC2に提供され得る。
いくつかの態様によると、
は、パルス生成シーケンスの持続時間の間に静的である値を含み得るか、またはパルス生成シーケンスの間に動的であり変化する値を含み得る。静的な値は、アナログシーケンス命令1050において規定され得、図10Bに示されるデータフィールドを含み得る。静的な値は、「ミキサー振幅」データフィールド中に記憶され得る。動的な値は、処理論理930が遂行する計算に基づいて処理論理930によりコンピューター計算され得る(例えば、power Rabiプロセスについてなされ得るようなパルスのそれぞれの連続適用により振幅を段階づける(step)ために)。動的な値は、操作マトリックスデータ表1050においてアナログシーケンサで局所的に記憶され得る。「ミキサーマスク」データフィールドは、操作マトリックスにおけるそれぞれの記載事項について、値がアナログシーケンス命令1050(静的)または処理論理930(動的)のいずれから生じるべきであるかを示すために使用され得る。いくつかの態様において、「ミキサーフェッチ」データフィールドは、操作マトリックス
についての全ての値が局所操作マトリックスデータ表1050から得られるべきであるかどうかを示すために使用され得る。
アナログシーケンス命令1080は、他の目的のための他のデータフィールドを含み得る。「SSBリロード」データフィールドは、アナログシーケンサ820に、処理論理930により決定される新規の周波数についての新規の値を用いてSSBマトリックスをリセットさせるように命令するために使用され得る。「波形アドレス」データフィールド(1つのみを示す)は、波形表1010を指すために使用され得るので、波形ジェネレータは、このアドレスで開始する所望の波形を引き出し得る。波形の種類は、「特有波形」場または「interp. pulse」場により同定され得る。いくつかのデータフィールド(例えば「持続時間」、「分岐方法」、「アドレスモード」等)は、操作フローのために使用され得る。図10Cは、波形表に記憶されるデータの例示的な例を示す。
操作において、アナログシーケンサ820は、波形の種類により、いくつかの異なる方法でDACについての波形データを生成し得る。定常波形について、波形表1010における同じ記載事項は、命令の持続時間を通じて、波形ジェネレータ1020により読み込まれ得る。特有波形について、波形ジェネレータ1020は、「波形アドレス」により特定される波形表から第1の値を読み込み得、その後それぞれのクロックサイクルにより、命令の持続時間の間に次の記載事項に進み得る。内挿波形について、波形ジェネレータ1020は、「波形アドレス」により特定される波形表から第1の値を読み込み得、該表から次の値を読み込み得、次いで、アナログシーケンス命令1050において「interp. step」データフィールドにより示されるいくつかのクロックサイクルの間に、第1の値と次の値の間に値を内挿し得る。
いくつかの態様によると、それぞれの波形プロセッサ800上に1つより多くのアナログシーケンサ820があり得るので、複数のI-Q波形ペアは波形プロセッサにより生成され得る。それぞれのアナログシーケンサは、それ自身のアナログシーケンス命令1050を受信し得る。いくつかの場合において、2つ以上のアナログシーケンサ630由来のマトリックス乗算器1040からの出力は、得られるI-Q波形データ値を出力DACに提供する前に合計され得る。いくつかの実装において、アナログシーケンサは、1つより多くの波形ジェネレータ1020を含み得、2つ以上の波形ジェネレータ1020からのI-Q出力は、得られるIi-Qi波形データ値をマトリックス乗算器1040に提供する前に合計され得る。それぞれの波形ジェネレータ1020は、アナログシーケンス命令1050から、波形表1010における波形アドレスを同定するデータ値を受信し得る。
いくつかの態様において、上述の図5Bに示されるような状態測定の結果は、リアルタイムで処理論理930へと送信され得、これは次いで、アナログシーケンサ820によるパルス生成における変化に影響を及ぼし得る。変化され得るパルス生成のパラメーターとしては、限定されないが、パルス調整(振幅)、位相、および将来のパルスのタイミングが挙げられる。さらに、閾値は、内部および外部の使用の両方について、積分されたI-Q値をデジタル信号に変換するために使用され得、該信号自身は、内部的および外部的に測定結果に基づいて、二元的な決定をなすために使用され得る。パルス生成に影響する測定の結果の使用の一例は、キュービットをリセットして、可能な限りしばしばキュービットを0状態に維持することを含む。キュービットが0状態にあると測定される場合、キュービットを回転させるためのパルスは適用され得ない。その代り、キュービットが1(励起)状態にあると測定される場合、処理論理930は、アナログシーケンサに、キュービットを0状態に戻すように回転させるパルスを生成させる命令を提供し得る。波形プロセッサ800のアーキテクチャーは、このフィードバック能力を可能にし、これは全てが5000ナノ秒未満で起こるように読み出し信号を生成することおよび送信すること、キュービットから信号を受信すること、受信された信号をI-Qペアに復調すること、I-Q波形値を積分すること、結果を分析すること、次に何を行うかを決定すること、ならびに決定を実行することを含む。かかる操作は従来のコンピューターでは可能ではない。これらの時間は、十分にキュービットのコヒーレンス寿命以内であり、量子情報プロセッサを用いたより複雑な操作を実行するために十分適する。
図11Aは、いくつかの態様による、例示的な波形アナライザのブロック図である。図11Aの例において、波形アナライザ830は、サンプラー1110、1112に連結されるアナログ-デジタル変換器ADC1、ADC2を含む。いくつかの態様によると、入ってくるアナログ信号は1GHz程の高いデータ速度でサンプリングされ得る。サンプルは、-1V〜+1Vの入力電圧範囲に対応する12ビットの深さ(bit deep)であり得る。サンプラー1110、1112は、通信連結1115を介してトリガー値を受信し得、サンプルがいつ復調器1120、1122を通過するかを決定する。それぞれのADCは、2つのトリガー信号の1つにより独立して制御され得る。
波形アナライザはさらに、サンプリングされた信号を、同相および直角位相波形ペア(I-Qペア)に復調するように構成される復調器論理ブロック1120、1122を含み得る。変調器1120、1122は、通信連結1125を介してメモリ815から(例えば、いくつかの振幅および位相を有する例えば50MHzの正弦および余弦波形データを含む係数表から)復調係数を受信し得、波形プロセッサ800からの出力データとして(例えば、従来のコンピューターに流れるデータとして)連結1125を介して復調されたデータ流を提供し得る。得られるI-Q波形ペアは、相対的I-Qブロック1130により比較され得、その後、積分器1140、1142により積分され得る。いくつかの場合において、両方のI-Q波形は、他のI-Qペアを回転させるために参照としてI-Qペアの1つを使用して同時に測定され得る。相対的I-Qブロック1130は、参照として1つを使用して相対的I-Q波形値をコンピューター計算し得るか、または復調器から受信されるように波形を使用し得るかのいずれかである。相対的波形ジェネレータ―1130はまた、波形プロセッサ800からの出力のために相対的I-Qペアデジタルデータ流を出力し得る。相対的I-Qブロック1130からの出力I-Q波形ペア値は、積分器1140、1142に提供される。
積分器は、マスターシーケンス850により特定される構成に従って受信され、ハンドラー920により渡された波形を積分し得る。いくつかの態様において、マスターシーケンサは、少なくとも部分的に処理論理930からコンピューター計算された結果に基づいて、メモリ815中の積分パラメーター表から積分パラメーター(例えば、閾値、積分長さおよびウエイト)を選択し得る。いくつかの場合において、積分パラメーターの選択は、従来のコンピューターからダウンロードされるマスターシーケンス命令における時刻に先立って決定され得、処理論理930からの出力には依存し得ない。
図11Bは、「weights addr.」場を介する積分の間に使用されるウエイトを指す例示的な積分パラメーター表を示す。いくつかの実装において、積分器は、積分パラメーターにより同定されるウエイトを使用して、I-Q波形値を蓄積し得る。ウエイトは積分の際に変化し得るかまたは変化し得ない。積分の際に変化するウエイトは、積分の際に積分器を通して段階づけられて積分器に提供される値のアレイとして記憶され得、ここで図11Cはその一例を示す。積分されたI-Q値は、-500mV〜+500mVの範囲の電圧レベルに対応する16ビットの有符号(signed)の整数であり得る。積分された出力値は、処理論理730に提供され得、外部デジタル信号と一緒に使用され、波形プロセッサ505の操作フローに影響し得る。積分器1140、1142はまた、積分されたデータ値の流れを、例えば、従来のコンピューター705に提供するために、データ連結1145を介する波形プロセッサ505からの出力として出力し得る。
いくつかの態様によると、波形プロセッサ800は、再検討、さらなる分析および/またはキュービットに操作を実行する場合はデバッグ目的で、従来のコンピューターにいくつかの異なるデータ流を出力し得る。上述のように、波形アナライザ830は、伝送のためのいくつかのデータ流を従来のコンピューターに提供し得る。これらのデータ流は、それぞれのサンプラー1110、1112からの生のサンプリングされたデータ、それぞれの復調器1120、1122からの復調されたI-Q波形ペア値、相対的I-Qペアデータおよびそれぞれの積分器1140、1142からの積分された値を含み得る。これらのデータ流に加えて、波形プロセッサ800は、デバッグに使用され得、また整理された(digested)波形データを含み得る結果データを生成し得る。結果データ1250を図12に示し、結果データは操作情報(例えば、タイムスタンプ、現在のマスターシーケンス命令「現在の命令」のアドレス、現在のアナログシーケンス命令「curr. SE instr.」のアドレス、現在のサイクル、IおよびQの合計等)を含み得る。
結果データ1250はまた、結果の要約を流し出すために使用される1つ以上のレジスタを含み得る。例として簡単なプロセスを使用するために、量子操作における各サイクルの開始時に、キュービットを測定して、キュービットがコールドでない(0(基底)状態にない)場合にリセットパルスを適用することによりキュービットをリセットすることが望ましくあり得る。波形プロセッサは、波形アナライザから受信される積分値からキュービット状態を検出し得、自動的に、アナログシーケンサにキュービットをその0状態に戻すパルスを生成するように命令し得る。キュービットを冷却(cool)するための試みの数は、プロセスを実行させるたびごとに異なり得る。有意な量のデータである積分された波形結果を流す代わりに、4つのレジスタのうちの1つを通してキュービットを冷却する試みの数のみを流し出し得る。これはオフライン分析を大きく簡易化し得る。より複雑な量子操作のために、結果の要約を流し出す能力は、従来のコンピューター705に対するデータフローを大きく低減し得、従来のコンピューター705に対するデータ処理ロードを大きく低減しながら、量子コンピューター計算系において実行される複雑な量子操作を可能にする。
図13は、いくつかの態様による、例示的なデジタルシーケンサ命令のデータフィールドを示す。例示的な命令1300は、デジタルI/Oポート841に方向づけられ得るデジタル信号を生成するデジタルシーケンサ840により実行され得る。例示的な命令1300は、以下の様式で任意のデジタルパターンを規定するために使用され得るマーカーレベルセクションを含む。3ビットマスクフィールドは、1〜4ビットからのパターンの長さをエンコードし、パターンフィールドは、特定された長さのパターンをエンコードする。持続時間は、エンコードされるデジタルパターンが出力されるいくつかのサイクルを特定する。いくつかの態様によると、連続デジタルシーケンス命令は、出力において3つの特定されたデジタルパターンを一緒に濃縮(concentrate)する長いデジタル出力信号を生成するために実行され得る。
図14は、2つの量子系がそれぞれの波形プロセッサに連結される例示的な系1400のブロック図である。波形プロセッサ1401および1402は、図3に示される波形プロセッサ300または図8に示される波形プロセッサ800の例であり得る。図14の例における波形プロセッサ1401および1402は、通信的に一緒に連結されて、上述のようなクラスターを形成し、共通の外部の従来のコンピューター計算デバイス(示さず)に連結され得る。波形プロセッサ1401および1402は、それぞれの量子系1410および1420に操作を実行するために、上述のように操作され得る。
例示的な系1400は、物理的キュービット1410および量子力学振動子1420を含む。図14の例において、キュービットおよび振動子は、分散的に連結され、すなわち、キュービット-振動子離調は、キュービットと振動子の間の連結強度よりもかなり大きい(例えば、一桁大きい)。電磁信号
は、波形プロセッサ1401から物理的キュービット1410に適用され得、電磁信号
は、波形プロセッサ1402から量子力学振動子1420に適用され得る。上述のように、かかる信号は、直接的にまたは中間ハードウェア(例えばRF信号ジェネレータ)を介して適用され得る。
いくつかの態様によると、パルス波形は、系1400の初期状態および最終状態の特定の組合せについての時間に先立って決定され得る。次いで、系が特定の初期状態にあり、標的最終状態が望ましい場合、パルス波形は、前もって調製されたパルス波形のライブラリーから選択され得、キュービット1410および振動子1420に適用されて、系を初期状態から標的最終状態へと遷移させる。波形プロセッサ1401および1402は、かかる状態遷移の所望のシーケンスを遂行するために、上述のように、命令がロードされ得る。これらの遷移は、量子誤り訂正操作に加えて、量子論理ゲートを含み得る。
いくつかの態様において、物理的キュービットおよび量子力学振動子に適用される特定の信号は、振動子の状態に依存するキュービットの状態の変化を生じさせ得る。したがって、これらのパルスの適用の結果としてのキュービットの状態の変化を観察することにより、振動子の状態についての情報が決定され得る。このように、特定のパルス波形は、キュービット-振動子系の状態を測定するためのツールとして使用され得る。いくつかの態様によると、波形プロセッサ1401および1402は、かかるパルス波形を適用して、キュービット-振動子系の状態を測定するために、上述のような命令がロードされ得る。いくつかの態様において、波形プロセッサ1401および1402は、マイクロ波パルスのキュービットおよび振動子のそれぞれの両方への適用を同時に実行(effect)するように構成され得る。
以下に続くものは、本明細書に記載される制御電子機器を使用して遂行され得る量子誤り訂正および量子制御の例示的技術を説明する3つの補遺である。例えば、以下に記載される技術は、図3および/または図8の波形プロセッサを介して遂行され得る。これらの技術は、限定としてみなされるべきではなく、例示として提供される。
補遺A-量子情報処理のための振動子状態操作の技術ならびに関連のある系および方法
従来の量子情報処理スキームは、いくつかの2準位量子系(すなわち「キュービット」)を連結して情報をエンコードする。しかしながら、量子情報はぜい弱で、ノイズおよびデコヒーレンスプロセスに影響を受けやすい傾向がある。したがって、量子情報が信頼できるように記憶され得る時間量(amount of time)を長くすることを目的として、誤り訂正(error-correction)プロトコルが頻繁に使用される。
いくつかの量子誤り訂正プロトコルは、物理的キュービットの集合から構築される単一の論理キュービットを利用する。例えば、論理キュービットの量子状態
は、2つの状態|0>および|1>の重ね合わせにより、例えば
で表され得、式中、αおよびβは、論理キュービットが状態|0>および|1>のそれぞれにある確率振幅を示す複素数である。いくつかの誤り訂正スキームにおいて、論理キュービットの量子状態は、3つの物理的キュービットのもつれた(entangled)量子状態を示す論理キュービット:
と同じ確率振幅を有する状態にある3つの物理的キュービットをもつれさせる(entangle)ことなどにより、複数の物理的キュービットにおいて物理的にエンコードされ得る。
量子力学振動子は、例えばジョセフソン接合から構築されるキュービットよりも(that)より長いデコヒーレンス時間を発揮する傾向があるので、他の量子誤り訂正スキームでは量子情報のビットをエンコードするために量子力学振動子が利用される。このような振動子は、線形エネルギースペクトルを有するが、振動子の状態の量子制御は、状態遷移の縮退が生じるために困難になる。従来では、キュービットは量子力学振動子に共鳴的に連結され得、制御可能な非線形性(nonlinearity)を有する合わされた系を生じる。
キュービットがかなり共鳴的から離れて(far off-resonantly)、すなわち分散的に、量子力学振動子に連結される系を形成することに利点があり得る。特に、物理的キュービットと量子力学振動子の間の分散連結は、合わされたキュービット-振動子系の制御を実現できるように選択され得る。物理的キュービットは、電磁パルス(例えば、マイクロ波パルス)により駆動され得、量子力学振動子は、別の電磁パルスにより同時に駆動され得、この組合せはキュービット-振動子系の状態の変化を生じる。
物理的キュービットおよび物理的キュービットがカップリングされる量子力学振動子に別々に適用される電磁パルス(以降「パルス」)の適切な組合せが、振動子への任意のユニタリー操作を生じ得、それによりユニバーサル制御(universal control)が提供されることが分析的に示され得る。この決定は、キュービットおよび振動子が同時には駆動されないという拘束(constraint)の下になされた。しかしながら、この分析によりユニバーサル制御のための技術がもたらされるが、該拘束により、振動子への実質的な操作に、長い一連のパルスのキュービットおよび振動子への適用が必要となり、系のデコヒーレンスの存在下で実行可能な操作の数が制限される。したがって、操作の忠実度が非常に高いかまたは完全でさえあったとしても、操作が適用される期間にわたる系のデコヒーレンスは、集合体(aggregate)において所望される忠実度よりも低い忠実度を生じることがある。
キュービットと振動子が別々に駆動されるという拘束を緩和することにより、所望の系の状態変化を生じるパルス波形が数値計算手法を使用して決定され得る。数値計算手法は、系に適用された場合に、上述の拘束されたアプローチにおいて必要とされたよりもかなり短い時間で非常に高い忠実度の状態遷移を生じるパルス波形を決定し得ると認識されている。
いくつかの態様によると、パルス波形は、初期の系の状態および最終の系の状態の特定の組合せについての時間よりも先に決定され得る。次いで、系が特定の初期状態にあり、標的最終状態が望ましい場合、パルス波形は、前もって準備されたパルス波形のライブラリーから選択され得、系を初期状態から標的最終状態まで遷移させるためにキュービットおよび振動子に適用され得る。
いくつかの態様によると、パルスは、物理的キュービットおよびキュービットが連結される量子力学振動子に同時に適用され得、それにより、キュービット-振動子の系の状態の変化が生じる。いくつかの場合、パルスは、同じ時間量(same amount of time)の間、キュービットおよび振動子に適用され得るか、および/または同じ期間の間(during the same time period)、適用され得る(すなわち、両方のパルスは実質的に同時に開始し、終了する)。
いくつかの態様によると、物理的キュービットおよび量子力学振動子に適用されるパルスは、振動子の光子数状態において変化を引き起こし得る。少なくともいくつかの場合、キュービットの状態も変化し得る。
いくつかの態様によると、物理的キュービットおよび量子力学振動子に適用されるパルスは、振動子の状態に応じて、キュービットの状態において変化を引き起こし得る。特に、キュービットおよび振動子に適用された特定のパルス波形を介して、キュービットの状態に振動子の状態がマッピングされ得る。したがって、これらのパルスの適用の結果としてキュービットの状態の変化を観察することにより、振動子の状態についての情報が決定され得る。少なくともいくつかの場合、キュービットの状態は、振動子の状態を実質的に変化させることなく、振動子の状態についての情報を決定するために測定され得る。したがって、特定のパルス波形は、キュービット-振動子系の状態を測定するためのツールとして使用される。他の場合において、キュービットの状態を測定して振動子の状態についての情報を決定することにより、振動子の状態を変化させるバックアクション(back-action)が起こる。
いくつかの態様によると、振動子の状態は、その光子数状態の2進表現(binary representation)を考慮することによりマルチキュービットレジスタとして処理され得る。例えば、振動子の|5>光子数状態は、3-キュービットレジスタの|101>状態とみなされ得る。キュービットおよび振動子に適用され得る特定の型のパルスは、このマルチキュービットレジスタの特定の「ビット」の状態に応じてキュービットの状態に変化を生じ得る。例えば、キュービットおよび振動子のそれぞれに適用される一対のパルスは、キュービットが基底状態にある場合には、マルチキュービットレジスタの最下位ビットが1に等しい場合にキュービットを基底状態から励起状態へと遷移させ得、レジスタの最下位ビットが0に等しい場合に同じパルスの適用により基底状態に維持されるキュービットが生じ得る。パルス波形が決定され、キュービットおよび振動子に適用され、n-ビットマルチキュービットレジスタの任意のビットのいずれか1つ以上が読まれ得る。いくつかの場合、キュービットおよび振動子に適用されるパルスは、状態が|0>+|1>であるかまたは|0>-|1>であるかの決定、すなわちコヒーレントな重ね合わせの位相の決定に対応して、レジスタ中の量子ビットのX値を測定するように構成され得る。
したがって、本明細書に記載される数値計算手法によりパルス波形を決定することにより、振動子の状態(マルチキュービットレジスタとして機能するかそうでないかどうか)が決定され得、所望の標的状態へと操作され得、それにより振動子のユニバーサル制御が提供される。
量子力学系の状態を制御するための技術に関する種々の概念およびその態様のより詳細な説明が以下になされる。本明細書に記載される種々の局面は、多くの方法のいずれかにおいて実行され得ることが理解されるべきである。具体的な実行の例を例示目的だけのために本明細書に示す。また、以下の態様に記載される種々の局面は、単独または任意の組合せで使用され得、本明細書に明確に記載される組み合わせには限定されない。
図15は、いくつかの態様による回路量子電磁力学系のブロック図である。系1500は、物理的キュービット1510および量子力学振動子1520を含む。図15の例において、キュービットおよび振動子は分散的に連結され、すなわちキュービット-振動子離調(detuning)は、キュービットと振動子の間の連結強度よりもかなり大きい(例えば、一桁大きい)。電磁信号
が物理的キュービット1510に適用され得、電磁信号
が量子力学振動子1520に適用され得る。一般的に、以下の記載において、かかる電磁信号またはパルスの適用は、キュービットまたは振動子の「駆動(driving)」とも称され得る。
図15の例において、振動子1520の状態は、構成要素の重ね合わせにより表され得、それぞれの成分は、励起数固有状態(フォック状態としても知られる)、
および対応する確率振幅(corresponding probability amplitude)
を含む:
いくつかの態様によると、量子力学振動子1520は、マイクロ波空洞などの共振器空洞を含み得る。かかる態様において、系1500は、ハミルトニアン:
(式中、χは、空洞とキュービットの間の分散カップリングの分散シフトであり、空洞モードおよびキュービットモードに対応する消滅演算子は、それぞれ
で表され、ω
cは空洞の基本周波数であり、ω
qはキュービットの遷移周波数であり、Kは(カー効果のための)空洞非調和性であり、αはトランスモン非調和性である)
を用いて記載され得る。
上述のように、駆動波形
は、系1500の特定の所望の状態変化について数値計算手法により決定され得る。特に、適切な駆動波形は、
を物理的キュービットおよび振動子のそれぞれに同時に適用させるように決定され得る。駆動波形
は、同じ期間の間に(すなわち、一緒に開始および終了し得る)適用され得るかまたは単に時間が重なり得る。
図16は、いくつかの態様による例示的な回路量子電磁力学系の模式図である。系1600は、トランスモンキュービット1610および空洞共振器1620を含む図15に示される系1500の例である。図16の例において、空洞共振器1620は、トランスモン1610および読み出し共振器1611にカップリングされるλ/4同軸スタブ空洞共振器である。入力カプラー(ポート)1612および1622は、時間依存的マイクロ波駆動信号
のそれぞれを送達する。トランスモンは、-1MHz〜-4MHz、例えば-3MHz〜-2MHz、例えば-2.2MHzの分散シフトを有して、空洞に分散的にカップリングされ得る。いくつかの態様によると、マイクロ波駆動信号は、(ポート1622に入力される場合は)空洞の基本周波数または(ポート1612に入力される場合は)キュービットの遷移周波数のいずれかに中心を合わせた(centered)完全な同相/直角位相(IQ)改変マイクロ波場であり得る。
図17Aは、いくつかの態様による、例示される駆動波形が振動子およびそれがカップリングされる物理的キュービットに適用される場合の量子力学振動子の光子数状態の変化を示す。図17Aの例は、駆動信号
が物理的キュービットおよび量子力学振動子のそれぞれに同時に適用される場合の図15に示す系1500または図16に示す系1600などの量子力学系の進展(evolution)を示す。示される駆動信号の適用の結果としての問題の系の状態の変化の少なくとも1つの局面は、下記のような|0>状態から|6>状態への振動子の数状態の遷移である。
図17Aの例において、振動子の数状態は、駆動信号
が適用される500nsの期間にわたる一連の時間でグラフ1710に示される。グラフ1710において、系の測定がそれぞれの数状態の測定を生じる確率は、異なる灰色の暗度で示され、より暗い灰色または黒色は、特定の数状態が測定される高い確率を示し、より明るい灰色は低い確率を示す。
図17Aの例において、グラフ1720は、系のキュービットに適用される駆動波形
を示し、グラフ1730は、系の振動子に適用される駆動波形
を示す。実線は、駆動信号の同相場成分を示し、点線は、駆動信号の直角位相場成分を示す。
系の初期状態(図17Aに示される時刻t=0)において、振動子の数状態は、t=0およびn=0で、非常に暗い灰色のブロックで示されるように|0>である。系の最終状態(図17Aに示される時刻t=500ns)において、振動子の数状態は、t=500nsおよびn=6で、非常に暗い灰色のブロックで示されるように|6>である。駆動波形の適用の間の中間の時間において、振動子の数状態は、一般的に、いくつかの数状態の重ね合わせである。
系の初期状態(t=0)と最終状態(t=500ns)の間の振動子の特定の状態が分からないことがあるが、これは、系を|0>状態から|6>状態に遷移するための駆動パルスの使用に直接的な影響を有さないことに注意されたい。すなわち、図17Aの例に示される駆動波形は、振動子の現在の数状態が|0>であり、パルスの適用後の振動子の標的最終状態が|6>である基準に基づいて決定されている。下記の数値計算手法によりこの種の決定が可能になるので、状態の特定のペアについての適切な波形が決定されている限りは、系が初期状態から最終状態へと遷移され得る。
図17Aは、量子力学系における振動子の数状態を操作することの一例であるが、キュービットおよびキュービットが分散的にカップリングされる振動子への駆動信号の同時適用に影響を受けることがあるかかる系の状態の変化は、この種の操作に限定されない。下記のように、1つの他の種類の系の状態変化は、振動子の状態に依存するキュービット状態を生じるものであり得る。しかしながら、これは単に追加的な一例である。本明細書に記載される数値計算手法により、キュービット-振動子系の初期状態および最終状態についての拘束が、計算への入力として提供され、その結果、拘束により規定されるような状態遷移を引き起こすための駆動信号
の形状が、計算から出力される。このように、生じ得るキュービット-振動子の状態変化の種類は、数値計算手法が本明細書に記載される任意の特定の型の状態変化に限定されない場合、そのように限定されない。
図17Bは、いくつかの態様による、図17Aに示される光子数状態の変化後の振動子の状態の特性を示す。図17Bは、図17Aに示される|6>状態への遷移を生じた後のキュービットの分光的な見え方を示すグラフ1760を含む。グラフ1760に見られ得るように、パワー(power)は、図17Bの例において、キュービット-振動子カップリングの分散シフトχ(すなわち
)の6倍にほぼ等しい13MHzあたりに集中する。図17Bに示されるグラフ1770は、図17Aに示されるような|6>状態への遷移後の振動子の状態のウィグナートモグラフィーを示す。
図18A〜18Cは、いくつかの態様による、猫状態キュービットのエンコード化を示す。図18Aは、ブロッホ球で示される2つの異なる二次元部分空間の間にコヒーレントにマッピングするために使用され得る操作
を示す。第1の部分空間(図18Aの左)は、トランスモンキュービットの基底状態および励起状態、すなわちそれぞれ
からなり、トランスモンキュービットが真空状態でカップリングされる空洞を有する。第2の部分空間(図18Bの右)は、振動子エンコード状態
で表される。
図18Bは、トランスモンキュービット(「T」と標識)および/またはキュービットがカップリングされる空洞(「C」と標識)に適用され得る操作のシーケンス(sequence)を示す。トランスモン状態は、初期回転
を適用することにより準備され、次いでエンコーディング操作
を介して空洞にマッピングされる。次いで、空洞ウィグナー関数
の測定を提供するパリティマッピング操作Πに続いて、空洞偏位
が空洞に適用される。パリティマッピング操作Πは、本明細書に記載される数値計算手法を使用して、適切な駆動波形を決定することにより実行され得る。
図18Cに示されるように、
のトランスモン状態
への適用により、そのウィグナー関数が、4構成要素猫状態により表されるエンコードされた基底状態と一致する状態が生じる:
トランスモン分光学実験(上パネル、空洞のそれぞれの数状態についての確率密度を示す)は、論理状態
についてn=0 mod 4 (n=2 mod 4)を有する光子数状態のみが存在することを示す。
図18Dに示されるように、
をトランスモン基底状態の重ね合わせに適用することで、相対的位相が保存され、
が、トランスモンキュービットブロッホ球と論理キュービットブロッホ球の間で忠実なマップであることが示される。これらの状態は、ブロッホ球の赤道上で、等しく重みがかけられた
の重ね合わせであり、そのため基底状態に存在する全ての偶数の光子数を含む。
図19は、いくつかの態様による、系の状態の所望の変化を生じるために回路量子電磁力学系に適用される駆動波形を決定する方法のフローチャートである。方法1900において、数値計算手法は、拘束を守る系の遷移を生じ得る駆動波形のパラメーターを数的に決定するために拘束(その1つ以上が系の最終状態を拘束する)が追加された、問題の量子系(例えば図15に示される系1500または図16に示される系1600)のハミルトニアンに基づいて適用される。
上述の式A2に基づいて、
の形式のマルコフ・リンドブラードマスター方程式を使用して、系の操作の忠実度に影響を与える公知のデコヒーレンス源の能力をシミュレートし得る。
上述の式および下記の例において、例示のために、系のキュービットがトランスモンキュービットであり、振動子が共鳴空洞であることを仮定する。上述の式における系のパラメーターについての非限定的で例示的な値を以下の表A1に示す。
いくつかの態様によると、キュービットおよび振動子に適用された駆動波形により実行される量子系における操作は、一組の同時状態転送(transfer)に関して規定され得る。すなわち、それぞれの
についての操作は、系の初期状態
に到達させる。方法1900の行為1902において、これらの初期状態および最終状態が選択され得る。
複合空洞-トランスモンヒルベルト空間上の所望の操作を準備するために、数値計算手法を使用して、駆動波形
によるこれらの状態転送の(コヒーレント)平均忠実度を最大化し得る:
(式中、
であり、ここで波形
により規定されるユニタリー
は、いくつかの最終時刻
まで、ハミルトニアンの時間順序指数関数(time-ordered exponential)により与えられ、
である)。
方法1900の行為1904において、式A9の最適化を実行して、行為1902において選択された初期状態および最終状態に基づき、駆動波形
を決定する。最適化は、本開示が任意の特定の数値計算手法(1つまたは複数)に限定されない場合、任意の適切な数値計算手法(1つまたは複数)を使用して実行され得る。
いくつかの態様によると、
は、駆動波形を特徴づける一組のパラメーターにより表され得る。例えば、駆動波形は、駆動波形の形状を決定するために式A9に関して最適化されたパラメトリック曲線および該曲線のパラメーターにより表され得る。いくつかの態様によると、
は、波形生成プロセスの時間分解に対応する長さ
段階を有する、区分的定数関数(piecewise constant function)として表され得る。
例えば、(空洞およびトランスモン駆動波形のそれぞれの実数および虚数構成要素について)時点毎に4つのパラメーターおよび1.1μsパルスを表すN=550の時点を使用すると、最適化されるべき2200個のパラメーターがある。
少なくともいくつかの場合において、式A9の最適化問題は、量子系に適用される場合に同等に高い忠実度を達成する
の複数の解を生じる。このように、いくつかの態様において、式A9にさらなる項(term)を追加することにより系についてのさらなる拘束が適用され得る:
(式中、拘束
のそれぞれにラグランジュ乗数
をかける)。したがって、行為1904において、式A14は、駆動波形を決定するための式A9の最適化の代わりとして最適化され得る。任意の数および種類の適切な拘束
が式A14に使用され得るが、いくつかの例を以下に記載する。
式A14に含まれ得る1つの例示的な拘束は、駆動パルスによって適用され得る振幅の量の上限を強制し、すなわち全てのtについて
である。この拘束は:
のように記載され得る。
さらにまたは代替的に、式A14に含まれ得る例示的な拘束は、(例えば、パルスの電磁供給源と量子系の間の相互作用が、パルスが共鳴から離れて移動するにつれてより不確実になるため)適用されるパルスの帯域幅を最小化するように設計され得る。この拘束は、式A14の以下の「ペナルティ項」:
を介して適用され得る。
さらにまたは代替的に、式A14に含まれ得る例示的な拘束は、解において可能になる最少および最大周波数でのハードカットオフ(hard cutoff)を強制することであり得る。例えば式A14は、パルスのフーリエ変換に関して再度パラメーター化され得、駆動信号が最大および最小の周波数よりも上および下でゼロと等しくなる条件が適用され得る。次いで、忠実度はパルスのフーリエ変換に関して最大化され得る。
上述の拘束のいずれか1つ以上および/または任意の他の拘束は、上述のものが単に例示として提供される場合に式A14に適用され得る。
数的に扱いやすい様式で式A9またはA14を最適化するために、ヒルベルト空間の無限次元の性質(infinite-dimensional nature)を考慮して式を適合させる必要があり得る。すなわちコンピューターメモリは有限であるために、有限の形式でベクトルまたはマトリックスを切断(truncation)またはそうでなければ表示することなく、無限の長さのベクトルまたはマトリックスを表示することはできない。このように、行為1904は、無限の長さのベクトルまたはマトリックスの切断または他の操作のかかる工程を含み得る。
いくつかの態様によると、式A14は、演算子
が
マトリックスになるように光子数切断
を選択することにより、無限のヒルベルト空間を考慮して適合され得る。発明者らがこれを行う場合、発明者らは、実質的に無限次元の振動子を有限次元のキュービットに置き換える。この置き換えは、所望の状態転送に関する系の力学の全てが
部分空間内で起こる場合にのみ妥当である。一般的に適用される駆動についてはその通りでないが、かかるアプローチは本明細書に記載されるいくつかのアプローチと自然に適合し得る(下記の図21A〜21Dおよび図22参照)か、またはそうでなければいくつかの態様において適用され得る。
この特性を強制するために、式A14の最適化問題は、いくつかの異なる値の
の下で同一に機能する解を見出すように改変され得る。切断
でコンピューター処理される場合、忠実度を
と記載すると、発明者らは:
を有する。
さらに、異なる切断において挙動が同一になることを強制するために、以下のペナルティ項が式A15に含まれ得る:
式A16の拘束により、サイズNの空間の決定された忠実度がサイズN+1の空間の決定された忠実度、およびサイズN+2の空間の決定された忠実度などと等しくなることが確実になる。
いくつかの態様によると、
の値の選択は、少なくとも部分的に、パルスにより生じ得る最大光子数集団を決定し得、および/または少なくとも部分的に問題の操作を完了するのに必要な最小時間を決定し得る(例えば、より速いパルスは、より高い値の
とともに達成され得る)。式16の拘束と結び付けられた式A15のアプローチにより、切断点が、決定されたパルス波形の終了結果に影響しないことが確実になる。
式A9、A14およびA15のいずれがパルス波形を決定するために最適化されるかに関係なく、最適化は、任意の非線形最適化技術を含む任意の適切な数値計算手法を使用し得る。いくつかの態様によると、数値計算手法は、Broyden-Fletcher-Goldfarb-Shannon (BFGS)を含むがこれに限定されない1つ以上の勾配降下法を含み得る。
一旦駆動波形が上述のプロセスによりまたはそうでなければ方法1900において決定されると、波形はその後の引き出し(retrieval)のために適切なコンピューター読み取り可能媒体に任意に記憶され得る。いくつかの態様によると、方法1900は、初期および最終の系の状態の種々の組合せならびに1つ以上のコンピューター読み取り可能媒体に記憶されるそれぞれの組合せについて決定された波形について多数回実施され得る。このように、パルス波形の「ライブラリー」は、任意の所望の系の状態遷移が、所望の遷移を生じるパルス波形を引き出しおよび適用することにより生成され得るように生成され得る。図20は、いくつかの態様による、駆動波形を選択し、回路量子電磁力学系に適用するかかる方法を示すフローチャートである。
方法2000は、図15に示される系1500または図16に示される系1600などの任意の適切な量子力学系内で実行され得る。行為2002において、初期系状態および標的系状態が同定される。いくつかの態様によると、初期系状態の少なくとも一部は、以下の図21A〜21Dおよび図22に関連して記載されるように、系へのパルス波形の適用により同定され得る。
いくつかの態様によると、初期および最終の系状態は、キュービット、振動子、またはキュービットと振動子の両方の状態についての情報を含み得る。例えば、初期系状態は、振動子のわかっている光子数状態を含み得るが、キュービットの任意のわかっている状態を含み得ない(すなわち、いくつかの場合、キュービットの状態は、特定の系遷移について初期状態に関連し得ない)。別の例として、初期系状態は、キュービットのわかっている状態のみを含み得る。別の例として、最終系状態は、キュービットの状態についての情報および振動子の状態についての情報を含み得る。
行為2004において、駆動波形は、行為2002において同定された初期および最終の系状態に基づいて選択される。上述のように、いくつかの態様において、駆動波形は前もってコンピューター計算(precomputed)され得、1つ以上のコンピューター読み取り可能媒体に記憶され得る。かかる場合において、行為2004は、ルックアップキーとして初期および最終の状態を使用した、媒体へのルックアップ(lookup)を含み得る。いくつかの態様において、行為2004は、行為2002において同定された初期および最終の状態に基づいて、駆動波形の一部または全部の計算を含み得る(例えば、図19に関連して記載される技術による)。
行為2006において、行為2004で得られた駆動波形は、図15および16に関連して上述されるように、系の振動子およびキュービットに同時に適用される。
上述のように、物理的キュービットおよび量子力学振動子に適用される特定のパルスは、振動子の状態に依存するキュービットの状態の変化を引き起こし得る。このように、これらのパルスの適用の結果としてキュービットの状態の変化を観察することにより、振動子の状態についての情報が決定され得る。このように、特定のパルス波形は、キュービット-振動子系の状態を測定するためのツールとして使用され得る。
かかる測定技術を実施するパルスの一例を説明するために、図21A〜21Dは、量子力学振動子の測定を実施するための回路量子電磁力学系(例えば、図15に示される系1500または図16に示される系1600)への選択された駆動パルスの適用の結果を示す。図21A〜21Dの例において、振動子はマルチキュービットレジスタとして扱われている。すなわち、光子数レベルが上述のように操作され得るので、この状態は、状態をバイナリー値として見ることにより、情報の複数のビットを記憶するために使用され得る。例えば、振動子を2キュービットレジスタとして扱う場合、数状態0、1、2および3は、バイナリー値00、01、10および11のそれぞれを記憶するように見られ得る。振動子は、任意の適切なビット深度を有するマルチキュービットレジスタとして見られ得る。
図21A〜21Dは、キュービットおよびキュービットが分散的に連結される振動子へとパルス波形を適用し、それにより振動子の数状態の値のそれぞれのビットのパリティを測定した結果を示す。図21A〜21Dの例において、キュービットは最初に基底状態にあり(例えば、基底または他のものに駆動され得る)、パルス波形はキュービットおよび振動子に適用される。これらのパルス波形は、パルスの適用後のキュービットの測定された状態が、マルチキュービットレジスタとして扱われた場合に振動子の特定のビットのパリティを示すように、上述の数値計算手法により生成されている。
図21Aにおいて、チャート2100は、4キュービットレジスタとして扱われている振動子の最下位ビットのパリティを測定するように設計されたパルス波形の適用後のキュービットを測定した結果を示す。パルス波形の適用後、キュービットは、振動子が奇のパリティを有する場合は励起状態にあり、振動子が偶のパリティを有する場合は基底状態のままである。すなわち、キュービットは、光子数が奇数の場合は励起状態にあり、光子数が偶数の場合は基底状態にある。
図21Bは、第2下位ビット(second least significant bit)のパリティを測定するように設計されたパルス波形の適用後のキュービットを測定した結果を示す。この場合、2で割った光子数が奇数の場合(余りは無視する)、キュービットは励起状態にあり、2で割った光子数が偶数の場合(余りは無視する)は基底状態にある。図21C〜21Dは同様に、4キュービットレジスタの他のビットのパリティを測定するように設計されたパルス波形の適用後のキュービットを測定した結果を示す。
図22は、いくつかの態様による、マルチキュービットレジスタとして扱われている量子力学振動子の選択されたビットを測定する方法のフローチャートである。方法2200は、図15に示される系1500または図16に示される系1600などの任意の適切な量子力学系において実施され得る。
行為2202において、系のキュービットは、わかっている状態(例えば、基底状態または励起状態)に駆動される。上述のように、キュービットがカップリングされる振動子の状態に基づいて、キュービットの状態の変化を引き起こすパルス波形が生成され得、このように、パルス波形の適用前にキュービットがわかっている状態にあることで、キュービットの状態の変化を確かめることができることが望ましい。
行為2204において、駆動波形は、マルチキュービットレジスタとして扱われる場合に振動子の特定のビットNを測定するために(例えば前もってコンピューター計算された駆動波形のライブラリーから)得られる。Nは任意の適切な値を有し得る。行為2206において、得られた駆動波形は、上述のようにキュービットおよび振動子に適用され得る。
行為2208において、キュービットの状態が測定され得、振動子の状態についての情報(例えば、マルチキュービットレジスタのビットN)が決定され得る。行為2202、2204、2206および2208の過程は、レジスタの多数のビットを測定するために、必要に応じて任意の回数、反復され得る。
図23は、いくつかの態様による、回路量子電磁力学系のブロック図である。系2300は、電磁放射線源2330、制御器2340および記憶媒体2350に加えて系1500を含む。上述のように、いくつかの態様において、前もってコンピューター計算された駆動波形のライブラリーは、コンピューター読み取り可能記憶媒体に記憶され得、前記波形を量子系に適用するためにアクセスされ得る。図23の例において、制御器2340は、(例えば、制御器に提供されたユーザーの入力に応答して)記憶媒体2350に記憶された駆動波形2352にアクセスし、駆動波形
をキュービットおよび振動子のそれぞれに適用するために電磁放射線源2330を制御する。
補遺B-ボソンモードを使用した量子誤り訂正のための技術ならびに関連のある系および方法
この補遺に記載される技術は、1つ以上のボソンモード(bosonic mode)を示す量子系の状態における誤りを訂正するための向上した量子誤り訂正技術に関する。この文脈における「誤り」は、例えばボソン消失、ボソン獲得、位相散逸(dephasing)、系の時間進展(time evolution)等により引き起こされ得、系の状態を変化させ、その結果系に記憶される情報が変化する量子系の状態の変化をいう。
上述のように、キュービットなどの量子多準位系は、現在の実験的実践に基づいて、約100μsでデコヒーレンスする(decohere)量子状態を示す。実験的技術は疑いなくこれを改善し、より長いデコヒーレンス時間を有するキュービットを生じるが、多準位系を、さらにより長いデコヒーレンス時間を示す別の系にカップリングすることが有益であり得る。以下に記載されるように、ボソンモードは、多準位系へのカップリングに特に望ましい。このカップリングにより、多準位系の状態は、代わりにボソンモード(1つまたは複数)により表され得、それにより、他の場合において多準位系単独で存在するよりもさらに長い寿命の状態で同じ情報が維持される。
それにもかかわらず、ボソンモードに記憶される量子情報は、依然として限られた寿命を有し得るので、ボソン系内で誤りは依然として生じる。そのため、その状態において誤りが生じる場合に、これらの誤りを効率的に訂正し、それにより系の以前の状態を回復するようにボソン系を操作することが望ましくあり得る。広い種類の誤りが訂正され得る場合には、生じ得る任意の種類の誤りを訂正することにより、無期限に(または少なくとも長い時間の期間)ボソン系の状態を維持することが可能であり得る。
空洞量子電磁力学(空洞QED)および回路QEDの分野は、量子誤り訂正を実行するための1つの例示的な実験アプローチを提示する。これらのアプローチにおいて、1つ以上のキュービット系はそれぞれ、キュービット(1つまたは複数)に含まれる量子情報の共振器(1つまたは複数)へのおよび/または共振器(1つまたは複数)からのマッピングを可能にするような方法で共振器空洞にカップリングされる。共振器(1つまたは複数)は一般的にキュービット(1つまたは複数)よりも長い安定な寿命を有する。その後、量子状態は、それぞれの共振器からキュービットへと戻すように状態をマッピングすることにより、キュービットにおいて引き出され得る。
キュービットなどの多準位系が、それが連結されるボソン系の状態にマッピングされる場合、ボソン系においてキュービット状態をエンコーディングするための特定の方法が選択されなければならない。エンコーディングのこの選択はしばしば単に「コード」と称される。
一例として、コードは、共振器のゼロボソン数状態を使用してキュービットの基底状態を示し得、共振器の1ボソン数状態を使用してキュービットの励起状態を示し得る。すなわち、
であり、式中、
はキュービットの基底状態であり、
はキュービットの励起状態であり、αおよびβは状態
のそれぞれにあるキュービットの確率振幅を示す複素数であり、|0>および|1>はそれぞれ、共振器のゼロボソン数状態および1ボソン数状態である。これは好ましくは有効な(valid)コードであるが、ボソン消失などの多くの誤りに対して強くない(fails to be robust)。すなわち、ボソン消失が起こる場合、ボソン消失の前の共振器の状態はこのコードでは回復可能ではないことがある。
コードの使用は、より一般的に:
と記載することができ、式中、
は論理コードワード(または単に「コードワード」)という。そのため、コードの選択、同義的にボソン系の状態において2準位系(例えばキュービット)の状態をどのようにエンコードするかの選択は、
についての値を選択することを含む。図24A〜24Bは、
のいくつかの選択についてエンコードするこのプロセスを図解で示す。
誤りが起こる場合、系の状態は生じる状態の重ね合わせに変換し、ここで用語「誤りワード」
は以下:
のとおりであり、式中、添え字kは、生じた特定の誤りをいう。上述のように、誤りの例としては、ボソン消失、ボソン獲得、位相散逸、振幅減衰等が挙げられる。
一般的に、コードの選択は、系が誤りに対してどの程度強いかに影響する。すなわち、使用されるコードは、誤りが生じる際に以前の状態がどの程度忠実に回復され得るかを決定する。所望のコードは、いずれかの誤りが生じて論理コードワードの任意の量子重ね合わせが忠実に回復され得る場合に情報が消失しない広い種類の誤りに関連する。いくつかのコードは特定の誤りに対して強いが、物理的系において実現するには実際的ではないことがある。
ボソン獲得、ボソン消失、位相散逸および振幅減衰などのボソン系において生じ得る広く多数の誤りに対して保護し、実験的に実現され得るコードの種類が認識され、理解されている。以下に記載されるように、コードの種類は二項分布により説明され得るので、この種類のコードは本明細書において「二項コード」と称される。この種類のコードを利用してボソン系において状態を記憶する際に誤りを訂正するための技術が開発された。特に、検出された誤りに基づいて、ボソン系に適用され得るユニタリー操作が開発された。さらに、空洞共振器などのボソン系にエネルギーが適用されて上述のユニタリー操作を実施し得る実験的な構成が認識され、理解されている。
いくつかの態様によると、二項コードは、単一モードボソン系の状態を構成するために使用され得る。単一ボソンモードが均等間隔のコヒーレント状態を示し得るので、ボソン系が本明細書に記載される技術を適用するために特に望ましい系であり得る。例えば、共振器空洞は、均等間隔の準位間隔を有する単純な調和振動子である。量子メモリのためもしくは従来のキュービットと相互作用するためにボソンモードが静止(stationary)し得るか、または量子通信のためにボソンモードが伝播(「フライング(flying)」)中であり得る(例えばボソンモードが捕捉され得、共振器から放出され得る)量子通信についても、ボソンモードは有用である。特に、単一ボソンモードは、多ボソンモードにより生成される状態よりも低い平均ボソン数を有する状態を可能にし得る。ボソン消失率は平均ボソン数に比例する傾向があるので、単一ボソンモードは一般的に多ボソンモードよりも低い誤り率を有する。さらに、単一ボソンモードの誤り訂正は、そうでなければ多ボソンモードに必要であるモード-対-モードもつれ操作を必要としない。本明細書に記載される二項コードは、以下に記載されるように、コードワードを表すために単一ボソンモードのボソン数状態を利用する。
いくつかの態様によると、ボソン系は、量子メモリデバイスとして機能するために二項コードと関連して使用され得る。キュービットなどの多準位系は、上述のように、短時間の尺度でデコヒーレンスする状態において1つ以上の量子ビットを記憶し得る。選択された二項コードによりエンコードされるボソン系においてこの状態が代わりに記憶され得る。典型的に、多準位系により示されるものよりも長い時間の尺度であるがこの系もデコヒーレンスする。二項コードは、ボソン系の状態が維持され得るように、生じる誤りの完全なまたはほぼ完全な程度までの訂正を可能にし得る。この様式において、ボソン系は、多準位系に元々記憶されていた量子ビット(1つまたは複数)に関して量子メモリとして働く。所望の場合、ボソン系の状態は、その後多準位系に戻すように移され得る。
いくつかの態様によると、誤りが生じた際にボソン系をモニタリングして検出するための検出器が構成され得る。かかる検出器は、任意の誤りが生じたかどうかを検出することができ、どのような種類の誤りが生じたかも検出し得る一方でボソン系の状態を保存するということが本明細書に記載される二項コードの特徴である。この種類の測定はしばしば量子非破壊測定(quantum nondemolition measurement) (QND)と称される。全てのコードがこの特徴を示すわけではないが、いくつかのコードについて、誤りの検出は、2つのコードワードのうちのどちらがよりありそうな系の状態であるかという情報を生じ得る(所定のコードは2つの選択されたコードワードの量子重ね合わせにおいて状態を記憶することを思い出すこと)。測定の結果としてのこの情報の持ち去り(carry away)は、量子系の状態の変化を引き起こす。
対照的に、本明細書に記載される二項コードは、広い種類の誤りの検出を提供し、ここでそれぞれの場合において、検出は、系の状態のボソン数を変化させない。しかしながらボソン系の測定が誤りを検出しない場合、この操作のバックアクション(backaction)はボソンモードの振幅減衰を引き起こす。振幅減衰はボソン系のボソン数を変化させないが、異なるボソン数のそれぞれを測定する確率を変化させる。しかしながら、本明細書に記載される二項コードは、振幅減衰から回復するために、ボソン系へのエネルギーの再ポンピングのための明示の構造を提供する。したがって、誤りが検出されようがされまいが、二項コードに関連して本明細書に記載される技術は、振幅減衰効果を打ち消すためのユニタリー操作の適用により、ボソン系の状態の維持を可能にする。
二項コードの1つを使用して誤りを訂正する例示的な例は有益であり得る。二項コードの1つは、以下のコードワード:
を使用する(すなわち、ボソン系は、図24A〜24Bに示されるような2つのコードワード状態の重ね合わせにおいてエンコードされる)。
コードワードのこのペアについて、それぞれの状態に関して平均ボソン数
であることに注意。したがって、ボソンの消失または獲得は、(例えば)2つのコードワード状態のうちのいずれから光子が生じたかという情報を生じない。これはボソン消失または獲得の検出の際にボソン系の数状態を保存する。
このボソン系が(例えばエネルギー消失のために)ボソンを消失する場合は以下のように変換され:
式中、
は消滅演算子である。
この変換について考える1つの方法は、系が、|0>と|4>の重ね合わせである
状態にある場合、消失したボソンは明確に、基底状態ではなく|4>状態から生じたに違いないということである。従って、生じる状態は|3>状態である。同様に、系が、|2>状態である
状態にある場合、ボソン消失後に生じる状態は|1>状態である。
ボソン系が光子系である場合、光子消失を検出するための1つの方法は、光検出器を使用して、系から出た光子を検出することである。しかしながら多くの実験的構成において、これは実行することが困難または非現実的であり得る。したがって、ボソン消失を検出するための別の方法は、パリティ(奇または偶のボソン数状態)を調べることである。両方のコードワードのボソン数状態の全てが偶のパリティ状態であるので、誤りの前には、これらのコードワード状態は偶のパリティを生じる。ボソン消失後、両方が奇のパリティを有するので、誤りワード状態の特定の重ね合わせに関係なく、パリティは奇である。これは、持ち去られる情報はボソンが消失したということであるが、この情報はコードワード状態のうちいずれに系があるかについての任意の情報を含むことなく提供されるので、上述のように系のボソン数状態を変化させることのない測定の一例である。
一旦ボソン消失が検出されると、以下の変換:
を実行するユニタリー操作を適用することにより、系は以前の状態に駆動され得る。
系の量子状態に対してユニバーサル制御を有するように構成される系は、その例が以下に記載され、この種類の状態変換を実行するように操作され得る。二項コードがこの種類の訂正を可能にする一つの理由は、二項コードについての誤りワード(例えば、上述の例における|3>および|1>)が直交しているためである。そのため、条件付きユニタリー操作は、誤りワード状態のうちいずれに系があったかに関係なく、誤りワード状態を、対応するコードワード状態に変換するように適用され得る。
図25は、本明細書に記載される量子制御技術の局面の実施に適切な例示的な系を示す。系2500において、キュービット2510は、カップリング2515を介して共振器2520にカップリングされる。共振器は、エネルギーを消失または獲得(例えばボソンを消失または獲得)し得るか、位相散逸し得るものなどであり、該プロセスにおいて、図に示されるようにエネルギーを獲得または消失し得る。エネルギー源2530は、共振器にキュービットの状態をエンコードする、キュービットに共振器の状態をエンコードする、共振器にユニタリー操作を適用する(例えば、共振器中で検出される誤りを訂正するため)、キュービットにユニタリー操作を適用する、またはそれらの組合せなどの操作を系に対して実行するために、キュービット2510および共振器2520の一方または両方にエネルギーを供給し得る。
ボソン系にカップリングされた任意の多準位量子系が上述のような二項コードと共に利用され得るが、キュービットが共振器にカップリングされる1つの例示的な系として系2500が提供されることが理解されよう。共振器のモードは、この例においてはボソンモードを提供する。
系2500も、共振器2520中の誤りの出現を検出するために操作され得る検出器2540を含む。かかる検出器を操作するために、共振器からのエネルギーの獲得および/または消失を測定し得、キュービット2510と相互作用し得(例えば、キュービットに1つ以上のユニタリー操作を適用し得、および/またはキュービットの状態を測定し得る)、および/または共振器2520と相互作用し得(例えば、共振器に1つ以上のユニタリー操作を適用し得、および/または共振器の状態を測定し得る)いくつかの適切なアプローチを使用し得る。かかる操作の任意の組合せにより、共振器2520において誤りが生じたかどうかを決定するために、キュービット-共振器系について充分な情報を入手し得る。いくつかの態様において、検出器2540は、エネルギー源2530からのエネルギーの適用により、キュービット2510および/または共振器2520に1つ以上のユニタリー操作を適用する。
いくつかの態様によると、検出器2540は、光検出器、または共振器2520への粒子の進入および/または該共振器2520からの粒子の排出を検出するように構成された他の粒子検出器を含む。いくつかの態様によると、検出器2540は、共振器の状態のパリティmod 2、パリティmod 3、パリティmod N等の1つ以上を測定するための一連の操作を実行し得る。下記のように、かかる測定は、ボソンの消失または獲得が生じたかどうかを示し得る。
キュービット2510は、例えば限定されないが、荷電キュービット(クーパー対ボックス)、フラックスキュービットもしくは位相キュービット、またはそれらの組合せなどの超伝導ジョセフソン接合に基づくものなどの、2つの異なる状態を有する任意の適切な量子系を含み得る。キュービット2510は、キュービットの状態と共振器の状態をカップリングするカップリング2515を介して共振器2520にカップリングされ得る。共振器2520は、任意の電磁的、力学的、磁気的(例えば、マグノンとしても知られる量子化スピン波)、および/または限定されないが任意の空洞共振器(例えばマイクロ波共振器)などの他の技術を使用して実施され得る1つ以上のボソンモードを支持する任意の共振器を含み得る。いくつかの態様によると、共振器2520は、伝送路共振器であり得る。
例示的な態様として、キュービット2510は、中心導体および空洞内にトラップされた光子の波長に基づいて選択される長さにより分離される該導体の両方の面上の接地面を含む、超伝導伝送路空洞(共振器2520の一例)にカップリングされる荷電キュービットであり得る。例えば、共振器の長さは、かかる波長の1/2の倍数であり得る。伝送路の長さも、伝送路の所望のインピーダンス(impendence)に基づいて選択され得る。いくつかの態様によると、伝送路は、1μm〜100μm、例えば5μm〜50μm、例えば10μmの長さを有し得る。いくつかの態様によると、伝送路は、5mm〜50mm、例えば10mm〜30mm、例えば25mmの長さを有し得る。キュービットは、キュービットの状態への調整が、共振器の状態における調整を生じるように伝送路内の電場と相互作用し得る。
カップリング2515は、キュービットおよび共振器により発生される電場および/または磁場をカップリングすることによるなどして、キュービットと共振器をカップリングするために、任意の技術(1つまたは複数)を利用し得る。いくつかの態様によると、キュービットおよび共振器はカップリング2515を介して分散的にカップリングされ得る。いくつかの態様によると、キュービット(例えば、トランスモン)は、圧電性カップリングを介して機械的(mechanical)共振器である共振器にカップリングされ得る。いくつかの態様によると、キュービットはキュービット(例えば、トランスモン)をフォノンにカップリングして、フォノンを、磁気ひずみカップリングを介してマグノンにカップリングさせることにより、磁気共振器である共振器にカップリングされ得る。
図25の系は、少なくとも以下の2つの使用事例のシナリオにおいて使用され得る。第1に、共振器2520は、キュービット2510の状態を記憶するためのメモリーとして使用され得る。共振器の状態は、本明細書に記載される技術を使用して誤り訂正され得る。続いて、該状態は、キュービット2510および/または任意の他のキュービットにマッピングされ得る。第2に、共振器2520は、キュービット2510の状態を、伝送路に沿って別のキュービットに、および/または別の共振器に伝送するための伝送媒体として使用され得る。伝送の際の共振器の状態は、以下に記載される技術を使用して誤り訂正され得る。続いて、該状態は伝送の標的にマッピングされ得る。これらの使用事例のそれぞれにおいて、および系2500の任意の他の適切な使用において、状態は、二項コードの1つを使用して共振器2520内に表示され得る。さらに、エネルギー源2530は、以下にさらに詳細に記載されるように、選択された二項コードに基づいて誤りを訂正するために、キュービットおよび/または共振器にエネルギーを適用し得る。
上述のように、量子誤り訂正は、論理コードワードを選択することを含み、論理コードワードを用いて、キュービットの状態などの状態を示す。これらのコードワードは、調和振動子の空間などの大きなヒルベルト空間に埋め込まれる状態であるので、単一の独立した誤りのいずれか1つ:
が生じ、論理コードワード
の任意の量子重ね合わせが忠実に回復され得る場合に情報は消失しない。これは、量子誤り訂正基準を満たす2つの論理コードワードの発見と同等であり、該基準は、α
klは、エルミートマトリックスの構成要素(entry)であり、論理ワードから独立しているような全ての
としても公知である。対角構成要素α
kkは誤り
の確率である。論理コードワードからの構成要素α
klの独立および非対角構成要素の構造は、異なる誤りを区別可能かつ訂正可能にする。
系2500において、二項コードは、キュービット2510の状態に基づいて共振器2520の状態をエンコードするために使用され得る。ユニバーサル制御のための技術は、図24A〜24Bに示されるように、キュービットに存在する基底状態および励起状態の重ね合わせに基づいて共振器におけるコードワード状態の重ね合わせを作成するために適用され得る。上述のように、一般に、かかる技術は、一連の工程においてエネルギーを適用するためのエネルギー源2530を操作することを含み得、ここで各工程は、キュービット2510への、共振器2520への、またはキュービットと共振器の両方への同時のエネルギーの適用を含む。
例えば、キュービット状態の共振器状態へのエンコーディングは、図24A〜24Bに示されるように、以下のように達成され得る。図24Aに示され、該共振器が基底状態(ゼロボソン)である状態から開始して、駆動パルスはキュービット2510および共振器2520に同時に適用され、最終的にキュービットを基底状態に戻しながらボソンモードを励起する。キュービット2510が最初に基底状態
にある場合、駆動パルスはボソンモード2520を状態
に励起するが、最終的にキュービット2510をその基底状態に戻す。キュービット2510が最初に励起状態
にある場合、駆動パルスは、キュービット2510をその基底状態
に戻すように駆動しながら、ボソンモードを状態
に励起する。すなわち、ボソンモード2520の最終状態は、キュービット2510の初期状態に対して条件づけられる。別の言い方をすれば、これらの駆動パルスは、ユニタリー状態遷移操作:
を実行し、ここで、ユニタリー操作の残りの項
は、特定のユニタリー状態遷移操作とは関係ない。
を選択する自由は、状態遷移操作の忠実度を最適化するように適用された駆動パルスを変化させるために使用され得る。
いくつかの態様によると、二項コードは、2つの連続量子訂正段階の間の時間間隔
において生じる
ボソン消失事象までに対して保護し得る。別個の誤り
は消滅演算子であり、「1」は恒等演算子であり誤りがないことを示す)の組を考える。
ボソン消失誤りに対する保護は最初に議論されるが、これは、ボソン獲得
、位相散逸誤り
および振幅減衰に対しても保護するように設計されるコードにまで、以下に一般化される。本明細書において使用される場合、特定の誤りに対して「保護する」コードは、コードが、誤りが生じる場合に1つ以上のユニタリー操作により以前の状態が回復可能であるようなことを意味する。
上述のように、
(誤りがないかまたは単一ボソンの消失のいずれか)に対して保護するコードの一例は、
である。
ボソン消失誤りは、論理コードワード
を、論理コードワードの偶パリティ部分空間(subspace)と共通の要素を持たない(disjoint)奇数ボソン数を有する部分空間に導くので、(式B5)におけるQECマトリックスαの非対角部分は同様にゼロである。αの残りの対角部分は、平均ボソン数が状態の両方について同一であることを示し、ここで
であり、ボソンジャンプが起こるかまたは起こらない確率が状態の両方について等しくありそうなことを意味し、量子状態が誤りの下で変形しないことを示唆する。明確に、量子状態
がボソンジャンプを被る場合に、該状態は
に変換され、ここで誤りワードは
であり、
はそれぞれ、生成および消滅演算子である。
このコードについて、同じ平均ボソン数を有するコードワードに加えて、誤りワード
は同じ平均ボソン数を有する。対照的に、(式B6)のコードは、同じ平均ボソン数を有するコードワードを有するが、ボソンの消失の際に、誤りワードは異なる平均ボソン数を有する。これを考慮すると、(式B7)のコードは、別のボソン消失誤りを許容し得、保護された誤りセットは、
である。この場合について、ボソン消失誤りは、ボソン数mod 3を測定することにより検出され得る。誤り回復手順は上述のものと同様であり、誤り検出には、状態遷移
を実行するユニタリー操作が続く。任意の自由裁量の数のボソン消失誤りLに対して保護するコードのファミリーが開発され得ることが示され得る。
系2500において、起こり得る別の誤りは、共振器の周波数揺らぎ(例えば、例えばカップリングしたキュービット2501の遷移により生じるボソン数
にカップリングするノイズ)による共振器2502の位相散逸である。(式B7)のコードはまた、位相散逸誤り
に対しても保護するので、十分な(full)誤りセットは
である。位相散逸誤りはボソン数を変化させないので、該誤りは、誤り状態
を導き、これは、元のワードと位相散逸
に関連する誤りワードの重ね合わせである。位相散逸誤りを検出するための1つの方法は、論理ワード基底
に、射影測定(projective measurement)を生じるユニタリー操作を適用することであり、その回答がネガティブである場合(およびボソン消失誤りが検出されなかった場合)に位相散逸が検出される。次いで、状態遷移
を実行するユニタリー操作を行うことにより、元の状態を回復し得る。
ボソン追加誤りおよび2つのボソン消失誤りがボソン数mod 3において同じ変化を有し、論理コードワードがボソン獲得誤りについてのQEC条件:
に既に従っているので、(式B7)のコードが代わりに選択されて、誤り
(=誤りがない、単一ボソン消失、単一ボソン獲得、位相散逸)に対して保護し得る。特殊な場合として、コード(式B7)と同じフォック状態係数であるが、コード(式B6)の間隔を有するもの(the same Fock state coefficients as with the code (Eqn. B7) but with spacing of the code (Eqn. B6)):
によって達成される
のみに対してを保護することを選択し得る:
コードが保護する誤りの種類が広範であるほど誤り率が大きくなり、コードがより高いフォック状態を含むにつれて該種類はより広範になり、より高いフォック状態はより多くの誤りを生じることが注意され得る。
上述のコードは、
ボソン消失まで;
ボソン獲得誤りまで;および
位相散逸事象までを含む誤りセット:
に対して保護するように一般化され得る。
この誤りセットから生じる誤りを訂正し得るコードの種類は、
であり、式中、
であることが認識されている。例えば、L=1、G=0およびD=0の値を有する式B11は、式B6のコードワードを生じる。状態振幅は二項係数を含む(間隔
から独立することに注意すべきである)ので、これらのコードは本明細書において「二項コード」と称されている。式B11の2パラメーター
コード空間を図29に示す。本明細書に記載される誤り訂正技術を適用するために、2準位系をエンコードする状態を有するボソン系は、2準位系を記述するために式B10により与えられるコードワードの任意のペア(すなわち、L、GおよびDの値の任意の組合せについて)を使用し得、すなわちボソン系は、状態
を有し得、ここで
は、L、GおよびDの値のいくつかの組合せについて式B11により与えられる。
二項コードは、限られたヒルベルト空間内で作動し、誤り診断および回復に必要とされるユニタリー演算子の実践的構築のために有益であり得ることが注意される。これは特に、
演算子を含む誤りに適用され得、従来のコードにおけるその操作は、
演算子単独よりも簡単(straightforward)でないことがある。
図25に戻り、二項コードの上述の種類から選択されるコードは、共振器2520においてキュービット2510の状態を表すために使用され得る。共振器において一旦誤りが起こると、誤りが検出され得、誤りを訂正するための操作が実行され得る。誤り訂正プロセスは、図26に関して以下に詳細に記載される。
図26は、いくつかの態様による、ボソン系内で生じる誤りを訂正する方法のフローチャートである。図26は、例えば図25に示される系2500内で実行され得る。方法2600は、ボソン系の誤り徴候(syndrome)を測定する工程、および測定された誤り徴候に基づいて訂正を実行する工程を含む。方法2600はまた、ボソンモードの状態が、カップリングされた多準位系に基づいてエンコードされる任意の最初の工程を含む。
方法2600は、任意に、多準位系の状態がボソンモードの状態にエンコードされる行為2602で始まり得る。多準位系がキュービットである場合において、このエンコーディングは、ボソンモードにおいてキュービットの状態を表すための上述の二項コードから選択される任意のコードを利用し得る。代替的に、多準位系がキュービットである場合、このエンコーディングは、ボソンモードにおいてキュービットの状態を表すために、多項コードを利用し得る。任意の適切な技術は、ボソンモードにおいて多準位系の状態をエンコードするために適用され得、その例は上述される。
代替的に、方法2600は、行為2604で始まり得、この行為2604においてボソンモードは二項コードの種類または多項コードの種類から選択されるコードワードのペアの重ね合わせである状態を用いて以前に構成されている。したがって、方法2600が行為2604の前に任意のエンコーディング行為2602を含むかどうかに関係なく、ボソンモードは、二項コードの種類または多項コードの種類から選択されるコードワードのペアの重ね合わせである状態にある。例えば、方法2600のボソンモードが2準位系を表す場合、ボソンモードは、式B11により示されるコードワードのペアの1つの重ね合わせである状態を有する。
行為2604において、ボソンモードの誤り徴候が測定される。本明細書で使用する場合、「誤り徴候」は、特定の誤り(または特定の誤りの群の1つ)が生じたことを示す測定値ををいう。上述の誤り徴候の一例は、ボソンモードのボソン数状態のパリティ(またはパリティmod 3、パリティmod 4等)に変化があることを示す測定値である。別の誤り徴候は、位相散逸が起こったことを示す測定値である(この種類の測定値の例は上述される)。別の誤り徴候は、誤りが起こらなかったことを示す測定値である。ボソンモードを測定する行為はモードの振幅減衰を引き起こし得るので、誤りが起こらなかったことを示す測定値は、それにもかかわらずこの測定に基づく行為を引き起こし得、それにより「誤りがない」ことも誤り徴候とみなされる。
いくつかの態様によると、行為2604においてボソン消失または獲得誤りを検出することは、ボソンモードに直接および/またはボソンモードがカップリングされる別の系にエネルギーを適用する一連の操作を含み得る。例えば、キュービットへの強力な分散的カップリングを有し、分散的カップリングの強度がキュービットおよび共振器の減衰速度よりも強力である共振器(例えば、マイクロ波空洞)を含む系において、キュービットは、共振器の所定のボソン数状態に対し条件づけられて駆動され得る。キュービットに適用される電磁パルスは、例えば、キュービットが、共振器のボソン数状態に応じたパルスの適用後に特定の状態であるように選択され得る。次いで、キュービットの測定は、カップリングされた共振器のパリティを示す。いくつかの態様によると、ボソン数mod(S+1)の測定は、2準位キュービットのS個の連続測定を実行することを含む。
いくつかの態様によると、行為2604における位相散逸誤りの検出は、射影測定(projective measurements)
によりなされ得る。ここで、
は、直交条件:
を満たす、
の線形結合である。ボソン獲得または消失誤りの検出と同様に、位相散逸誤りの検出は、ボソンモードに直接および/またはボソンモードがカップリングされる別の系にエネルギーを適用する一連の操作を含み得る。
例えば、キュービットへの強力な分散的カップリングを有する共振器(例えば、マイクロ波空洞)を含む系において、共振器およびキュービットに適用される電磁パルスは、パルス(1つまたは複数)の適用後、キュービットが、いくつかのdについて
により張られる部分空間にある共振器に応じて特定の状態になるように選択され得る。次いで、キュービットの測定値は、振動子が、
により張られる部分空間にあるかどうかを示す。振動子がこの部分空間にあることが見出される場合、(例えば、前もってコンピュータ計算され得る)1つ以上の電磁パルスは、
へのユニタリー状態変換を実行するために、系に適用され得る。
いくつかの態様によると、
の測定は、2準位キュービットのN+1個の連続測定を実行することを含み得る。
いくつかの態様によると、行為2604は、本明細書において「ジャンプ誤りがない(no-jump error)」とも称される「誤りがない」ことの検出を含む。上述のように、ボソン数状態において変化がないことを観察する結果として、ボソンモードに対して生じる測定バックアクション(backaction)が存在し得る。このバックアクションは、より高いフォック状態のより低いものに対する相対的な確率を低減し、これは、誤り演算子において、形式的に要素
により表される(下記、式B14参照)。この誤り徴候の訂正は以下に記載される。
行為2606において、行為2604において検出された誤り徴候に基づいてその状態を変換するために、1つ以上の操作がボソンモードに実行される。この変換は、測定された誤り徴候により示唆される誤りを打ち消すために、つまり系を誤り以前の状態に戻して遷移させるように試みるために構成される。全てではないがいくつかの場合において、この変換は正確であり得る。他の場合では、該変換は、系をその以前の状態にほぼ戻し得る。
いくつかの態様によると、行為2606は、経時的に進展するボソンモードの分析に基づいて1つ以上の操作を適用し得る。例えば、空洞エネルギー減衰速度κを有するゼロ温度槽にカップリングされる空洞の密度マトリックス
の標準リンドブラード時間進展は、(空洞周波数で回転するフレームにおいて表され)
である。
有限の時間間隔dtにおいて、連続的な時間進展は、無限の組の誤りを生じ、十分な組の誤りの正確な量子誤り訂正は可能ではない。しかしながら、誤りの確率は、κdtの累乗(power)と比例し、本発明者らは、κdtにおいて最も重要な誤りのみを訂正することを選択し得る。形式的に、本発明者らは、近似量子誤り訂正(AQEC)の分野の概念および理論を活用する。大まかにいうと、それぞれの誤り演算子は、κdtの累乗で展開され、誤りは展開の所定の最高次数まで訂正される。ある確率で生じる誤りのみをκdtにおける特定の最高次まで訂正することを選択することと一致するために、生じる元の状態の回復がκdtにおける同じ最高次により与えられる精度を有するように、近似的にのみ式B5のQEC基準を満たすことで十分であり得る。
最初に、ボソン消失誤りによる振幅減衰、すなわち式B12の時間進展のみを考え、その後、ボソン獲得および位相散逸のプロセスについての議論を広げる。ボソンが消失するたびにクリック(click)する光電子倍増管の測定記録に基づき、系の条件付き量子進展を考えることにより、リンドブラード方程式(式B12)を「解き」得る。この量子軌道図において、検出器が
をクリックする場合に、系のボソン消失ジャンプを表す式B12の第1項を見る。クリック確率は
に比例するという事実を含むためにこれは標準化されない。括弧内の最後の2つの項は、ボソンが検出されない場合の虚数非エルミート行列ハミルトニアン
下での系の時間進展を表す。上述において、理想化された誤りセット
を考慮する場合、本発明者らは、単純化のために、物理的誤りプロセスの一部を無視し、つまりボソン消失ジャンプの間にこのジャンプ進展が起こらない。ファインマンの経路積分とかなり類似して、本発明者らは、時間間隔tの間の全ての可能な時刻でジャンプが起こる全ての可能な軌道に対する合計に関して時刻0〜tの密度マトリックスの進展:
を表し得、式中、
は、正確に
のボソン消失およびボソン消失事象の間にジャンプ進展が生じないことにより生成される時間進展を含むクラウス演算子である。時間間隔tの間の正確に
のボソンジャンプの全ての可能なジャンプ時間に渡って積分することにより、本発明者らは、
についての分析式:
を導き得、式中、
である。減衰した単純な調和振動子の顕著な特徴は、ボソンジャンプの正確なタイミングが役割を果たさないということである。これは、式B14における演算子の順番の交換可能性においても見ることができる。自己カー非線形性が存在する場合、ジャンプ事項の正確なタイミングおよびそれら事項に対する正確な追跡は、位相散逸をもたらす。まとめて考えると、ボソン消失誤りを次数
まで訂正する場合、コードが保護されるべき誤りの正しい組は、非ユニタリー時間進展のジャンプおよび非ジャンプ部分の両方の寄与を含む
である。
いくつかの態様によると、行為2604において測定される誤り徴候が1つ以上のボソンの消失または獲得を示す行為2606において、行為2606に適用される変換は、ボソンモードを、誤りワード状態の重ね合わせである状態からモードが以前に示したコードワード状態の重ね合わせまで戻す遷移に構成される(例えば式B4に示される状態遷移を生じる)。
いくつかの態様によると、この変換は、訂正ユニタリー
をボソンモードに適用して、論理コードワードと誤りワードの間で状態遷移を実行することにより実行され得る。誤り
は、誤り
を回復させるために選択される回復プロセスRにより
の精度まで回復され得、ここで、誤り
の組:
は2つの部分に分けられ、ここで
である。
回復プロセスRのクラウス演算子は、
と記載され得、ここで誤り検出は、誤り部分空間、
に射影され、訂正ユニタリー
は、論理コードワードと誤りワードの間の状態遷移を実行する。
例えば、単一のボソン消失誤りを訂正するためのユニタリー操作は、
である。
いくつかの態様によると、ボソンモードが共振器のモードである場合(例えば図25に示される共振器2520)、訂正ユニタリー
は、共振器および/または共振器がカップリングしたキュービットにエネルギー(例えば時間変化電磁パルス)を供給するエネルギー源により共振器に適用され得る(例えば、図28に関して以下に記載される)。少なくともいくつかの場合において、複数の操作を実行して、訂正ユニタリー
を共振器に適用し得る。かかる操作は、エネルギー(例えば時間変化パルス)をキュービットに、共振器に、またはキュービットおよび共振器に同時に適用する1つ以上の工程を含み得る。
いくつかの態様によると、行為2604において測定される誤り徴候が1つ以上の位相散逸誤りを示す行為2606において、行為2606に適用される変換は、誤りの部分空間と論理コードワードの間の状態遷移を実行することにより位相散逸の前の状態を回復する(例えば、式B4に示される状態遷移を生じる)ように構成される。位相散逸誤りの事象において、演算子
は、状態を、式B8のような論理コードワードと誤りワードの対角セットの重ね合わせにまで持っていく。この事象は診断され得、量子状態は射影測定に続く条件付きユニタリー操作により回復される。
いくつかの態様によると、行為2604において測定される誤り徴候が非ジャンプ誤り徴候を示した行為2606において、行為2606において適用される変換は、測定がなされる前の状態に回復するように構成される。
いくつかの態様によると、行為2604において測定される誤り徴候が非ジャンプ誤り徴候を示した場合(例えば、ボソン消失が検出されなかった場合)、量子状態
は、
により示される非ジャンプ進展の下で、
に変換される。式B6のコードは、確率
で生じる単一ボソン消失誤りに対して保護される。したがって、いくつかの態様によると、非ジャンプ進展は、同じ精度まで決定され得:
であり、式中、
は、非ジャンプ進展に関連する誤りワードである。
は、その励起数が平均ボソン数と等しいので、非ジャンプ進展に影響を受けないことに注意。κdtにおける一次に対して、非ジャンプ進展は、部分空間
内で決定論的進展を引き起こす。ユニタリー操作
を適用することにより、元の状態はκdtにおける一次まで回復され得る。
代替的に、回復は、論理コードワードの部分空間に射影する測定により実行され得る。ボソン消失および非消失誤りの両方の検出と訂正を組み合わせることにより、全体回復プロセスは、クラウス演算子
(式中、
は、ボソン数部分空間kmod 2、すなわちパリティ部分空間に対する射影作用素(projector)である)により記述される
である。回復プロセスは、
すなわち、所望されるようなκdtにおける一次への誤りプロセスの訂正を生じる。
要するに、行為2606において、上記の単一モードコードは、上述の技術を使用して、Lまでのボソン消失誤りに対して、および非ジャンプ進展に対して、次数
まで保護し得る。すなわち、コードは、同じ精度で、
に対して保護される近似量子誤り訂正コードである。物理的に、これは、最大でL回までのボソン消失誤りの観察が論理コードワード
の間の粒子数および位相に対してなんら情報を生じない場合に、≦L回の非ジャンプ誤りの観察も、情報を生じず、状態を変形させない測定バックアクションを有することを意味する。換言すると、
についてのコードは、該コードがボソンジャンプ誤りに対して保護されるよりも、同じ次数まで非ジャンプ進展に対して保護される。
図27は、いくつかの態様による、ボソン系内に生じる3種類の誤りの1つを訂正する方法のフローチャートである。方法2700は、振動子にカップリングされるキュービットを含む系内で実行される方法2600の特定の例である(例えば、系2800は図28に関連して以下に記載される)。
行為2702において、キュービットの状態は、振動子においてキュービットの状態を表すための二項コードの1つを使用して振動子にエンコードされ、その例示的な技術は上述される。行為2704、2706または2708において、光子獲得/消失、位相散逸または非ジャンプ誤りのそれぞれであり得る誤り徴候が検出される。かかる誤りを検出するための例示的な技術は上述される。行為2705、2707または2709のそれぞれにおいて、これらの誤りを訂正するためにキュービット-振動子系に変換が適用される。いくつかの態様において、行為2705、2707および/または2709は、かかる訂正を実行するユニタリー操作を実行するために、キュービットおよび/または振動子への電磁パルスの適用を含み得る。例えば、図26に関連して上述されるこれらのユニタリー操作は、パルスの前記適用により実行され得る。
図28は、いくつかの態様における、回路量子電磁力学的系のブロック図である。系2800は、電磁放射線源2830、制御器2840および記憶媒体2850に加えて系2801を含む。いくつかの態様において、あらかじめコンピューター計算された駆動波形のライブラリーは、コンピューター読み取り可能記憶媒体に記憶され得、前記波形を量子系に適用するためにアクセスされ得る。図28の例において、制御器2840は、(例えば、制御器に提供されるユーザー入力に応答して)記憶媒体2850に記憶される駆動波形2852にアクセスし、駆動波形
をキュービットおよび振動子のそれぞれに適用するように電磁放射線源2830を制御する。
系2801は、物理的キュービット2810および量子力学振動子2820を含む。図28の例において、キュービットおよび振動子は分散的に連結され、すなわち、キュービット-振動子離調は、キュービットと振動子の間の連結強度よりもかなり大きい(例えば、一桁大きい)。電磁信号
は物理的キュービット2810に適用され得、電磁信号
は量子力学振動子2820に適用され得る。本明細書で使用する場合、かかる電磁信号またはパルスの適用はまた、キュービットおよび/または振動子の「駆動」と称され得る。
いくつかの態様によると、駆動波形
は、系2800の特定の所望の状態変化のために数値的技術を介して決定され得る。特に、
を物理的キュービットおよび振動子のそれぞれに同時に適用させる適切な駆動波形が決定され得る。駆動波形
は、同じ時間の期間に適用され得る(すなわち、一緒に開始および終了し得る)か、または単に時間が部分的に重複し得る。これらの駆動波形は、系2801を最初の状態から所望の最終状態へと遷移させるために前もってコンピューター計算されたライブラリー2852中で記憶媒体2850に記憶され得る。いくつかの態様によると、駆動波形は、上述のように、キュービット2810および振動子2820に適用される場合に振動子を、誤りワードの重ね合わせである状態から論理コードワード状態の重ね合わせに遷移させる波形を含み得る。例えば、駆動波形は、キュービットおよび振動子に適用される場合に、式B4に示される状態遷移を生じる波形を含み得る。
図29は、二項コード(式B11)の2パラメーター(N、S)標識を示す。最も大きな丸は、ボソン消失誤りL=1に対して保護されるコード(式B6)を示し、大きな正方形は、
に対して保護されるコード(式B7)であり、大きなひし形は、
に対して保護されるコード(式B9)を示す。パラメーターS=L+Gは、検出可能なボソン消失誤りLおよび獲得誤りGの合計数を設定する。パラメーターNは、コードが、ボソン消失、獲得および位相散逸誤りに対して保護される最大次数を設定する
。「S=2N」および「S=N」と標識された直線上または直線間に示されるコードは、S=L+Gにより設定されるボソン消失および獲得誤りに対する保護を有し、さらに、該コードは、
までの位相散逸に対して保護される。「S=2N」と標識される直線の左側についてのコードは、さらに、S-2Nの修正可能でないボソン消失または獲得誤りの予告(heralding)を可能にする。「S=N」と標識される直線の右側についてのコードは、Sボソン消失および獲得誤りの合計に対して、かつ
位相散逸誤りまで保護される。ボソン消失または獲得誤りはNをN-1に、位相散逸誤りはNをN-2に低減するので、二項コードの誤りワードはまた、妥当な論理コードワードであるがパラメーターNについて低下した値を有する。
占有されるフォック状態の間の間隔は、コードワードにおいてS+1である(式B11)ことに注意。これは、全てのボソン消失および獲得誤りは、ボソン数mod S+1を測定することにより独自に区別され得ることを意味する。次いで、式B5における量子誤り訂正条件は、全ての
についての
は、論理コードワード(式B6)の平均ボソン数が等しいことが必要とされるように、2つの論理コードワードについて等しいことを示す。位相散逸誤りを含むことは、QECマトリックス(式B11)を非対角にするが、二項係数により、次数
までの位相散逸誤り(四角の括弧が整数部分を示す)もこれらのコードにより訂正される。間隔S=L+Gは、検出可能かつ訂正可能なボソン消失および獲得誤りの最大数を設定し、L+1は、二項量子コードの距離として見られ得る。位相散逸訂正の最も高い程度は、制限なしにNにより増加し得る。二項コードは(式B10)に設定される誤りに対して保護されるので該コードは小さなαについて偏位(displacement)誤り
などのこれらの重ね合わせである全ての誤りに対しても保護されることにも注意。
図30は、いくつかの態様による、二項量子誤り訂正コードについてのもつれ非忠実度の割合を示す。回復プロセスにおける第1の非忠実度を無視して、二項コードの性能を、訂正可能でない誤りの割合により推定し得る。いくつかの誤りチャンネルを含む場合、これは割合κ、κ
+およびγを有するボソン消失、ボソン獲得および位相散逸誤りであり、支配的な訂正可能でない誤りについての正確な表現はこれらの割合の相対的な比に依存する。しかしながら、ボソン消失チャンネルが支配的なものでありκ>κ
+、γであると仮定することは物理的に妥当である。次いで、訂正可能でない誤りの割合はまた、最大の訂正可能でないボソン消失誤り割合、すなわち、dtの間にL+1のボソンを消失する誤り割合
により支配される。これは、
としてだんだん大きくなり(scale)、このことは、時間ステップdtについて、異なる二項コードの間で訂正可能でない誤り割合を最小化する有限のL、SおよびNを有する最適な二項コードが存在することを示す。
図30は、図において標識されるようにS=L=1、2、3、4および5を有する式B11の二項コードについて、1/κの単位での時間ステップdtの関数としてプロットされるκの単位でのもつれ非忠実度
の割合を示す。図30の例において、完全に忠実な回復プロセスは、例示の目的のために仮定される。それぞれの軸の対数スケールに注意。図30の点線は、ナイーブエンコーディング(naive encoding)
の性能を示し、小さなdtでのもつれ非忠実度のその割合は、κ/2に近づき、
を有するボソン消失の割合に対応する。本明細書に記載される二項コードは、時間ステップがdt0.4κ
-1ではナイーブエンコーディングアプローチより優れており、L≧2を有する二項コードは時間ステップがdt0.2κ
-1では好ましくなる。もつれ非忠実度は、
として計算され得、式中、
である。もつれ非忠実度は、一般的に入力状態に依存する。しかしながら、ここで、もつれ非忠実度は、プロセスマップの
構成要素に等しいので、本発明者らは、入力として十分に混合された状態
を使用する。小さなdtで、
の傾きは、最大の訂正可能でない誤り
の割合の傾きと充分に一致する。
図30の例において、本発明者らは、回復プロセスの非忠実度の非存在下および小さい時間ステップdtで、最大の訂正可能でない誤り割合により十分に近似されるもつれ非忠実度の割合により、
についての二項コードの性能を説明している。平均ボソン数
は、保護されたボソン消失誤りLの数により二次式的に増加し、これは、コードワードのより速い減衰を示し、より高次の保護の利点を達成するために、チェック時間dtは、適切に小さくなり得るので、物理的に、観察されただんだん大きくなること(scaling)が理解され得る。より小さいチェック時間についてはより大きいコードが好ましい。しかしながら、単一回復段階に関連する実験的非忠実度εは、ε/dtで誤り割合を増加させ、より長い時間ステップを有する低次の二項コードを好む。コードの最適さは、実験的回復プロセスの詳細な構造にも依存し、非忠実度のいくつかは、次回の回復プロセスにより抑制される訂正可能な誤りであり得る。公知の誤り源の存在下で、誤り検出の信頼度および結果的に回復プロセスの忠実度は、量子状態フィルタリングおよび平滑化(smoothing)の手段により、すなわち測定記録を効果的に使用することにより、向上され得る。
量子メモリおよび量子ビットの寿命の向上の他に、ボソンモード量子誤り訂正は、量子状態転送(quantum state transfer)ならびに量子ネットワークにおける2つの離れた位置または節の間の量子ビットの高忠実度もつれペアの生成からなる量子通信にも有用である。上述のように、光子または他のボソン系は、通信媒体として使用され得、ここでキュービット(または他の量子系)は、その状態をボソン系上にマッピングさせ、該ボソン系は、該状態を物理的空間を横切って伝達またはそうでなければ転送させ、かつ該状態を第2のキュービット系にマッピングする。この様式で、ボソン系は、物理的空間を横切って情報を移動させることにより、光ファイバーまたは光を利用した他の通信媒体に類似した作用をする。
本発明者らは、ここで、例示的な課題、つまり図31A〜31Bに図式化される量子状態についての「ピッチ-および-キャッチ(pitch-and-catch)」シナリオを考察する。図31Aは回路QEDハードウェア提案の略図であり、図31Bは二項量子状態のエンコーディングおよび量子誤り訂正を利用する量子状態転送シナリオの模式図である。図31A〜31Bの例において、キュービット状態を送付空洞(send cavity)にエンコードした後、空洞減衰を制御することにより、受信空洞に十分に吸収されるフライング、トラベリング振動子モードについて時間的モードを調整し得る。受信される空洞状態は、物理的キュービットにデコードする前に、回復プロセスを実行することにより回復され得る光子消失誤り(式B14)、位相散逸および光子獲得誤りを被り得る。
図31A〜31Bの例示的シナリオは、キュービットAを基底状態および励起状態の重ね合わせ
に初期化すること、二項コードの1つを使用した送付空洞の論理コードワード
にキュービット状態をエンコード(ユニタリースワップ操作)すること、逆のプロセス(キャッチ)が最も効率的に受信空洞
に入るように、時間反転対称(symmtricd)様式(ピッチ)における空洞状態の漏れを伝送路または他の種類のフライング振動子
に入れることを含む。転送は、受信される空洞状態を、
を生じるキュービットBにデコードする(ユニタリースワップ操作)ことにより仕上げられ、これはキュービットの間のキュービット状態の転送に対応する。遠隔物理的キュービットは、第1のスワップを、物理的キュービットAと空洞の論理キュービットの間のCNOTゲートで置き換えることによりもつれ得る。
該プロセスは種々の誤りおよび転送プロセスの異なる段階での非忠実度に対して脆弱である。最も明白な不完全性は、伝送の間の、(式12〜14)と同様の、光子消失プロセスによるフライング振動子の状態の減衰である。空洞とキュービット状態の間の局所的デコーディングおよびエンコーディング操作も不完全であり得る。「ピッチ-および-キャッチ」プロセスの重要な部分は、フライング振動子の時間的モードの巧みな計画(engineering)であるので、受信空洞によるキャッチは可能な限り無反射である。反射は、さらなる光子消失プロセスとしてモデル化され得る。また、空洞は、キュービットの制御されない遷移により位相散逸事象を被り得、空洞状態は、伝送チャンネルにだけではなく望ましくないチャンネルにも減衰され得る。ナイーブエンコーディング
を使用する場合、光子消失誤りは、伝送距離の関数としてプロセス忠実度の指数関数的な消失をもたらし、同様に他の誤りは、忠実でない伝送をもたらす。空洞における論理コードワードとして二項コードワードまたは他の量子コードを使用する場合、受信キュービットBへのデコーディングの前に、受信される空洞状態に対して回復プロセスを実行することにより、忠実度は上昇し得る。この方法は、訂正可能な誤り(式B10)が十分な誤りプロセスに寄与する量により忠実度を向上し得る。
古典的通信において、本発明者らは典型的に、信号を伝送させるために、電磁場の振幅および/または位相の連続変数を使用する。一般的なコードスキームの1つは、参照信号の位相を変化/変調することによりデータを運搬するデジタル変調スキームである位相シフトキーイング(phase-shift keying)(PSK)である。例えば、直角位相シフトキーイングは、情報の2個の古典的なビットをエンコードするために、位相空間中半径αを有する円上に4個の等間隔の点(α、iα、-α、-iα)を使用する。一般的に、本発明者らは、情報の
古典的ビットをエンコードするために、
を有する円
上でd等間隔の点を使用し得る。信号減衰の存在下で、参照信号の位相が信頼性高く抽出され得る限り、PSKは信頼性高く情報をエンコードし得る。その単純さのために、PSKは、Bluetooth 2規格および無線LAN規格などの古典的通信における既存の技術において広く使用される。
古典的PSKエンコーディングに密接に関連する量子連続変数コードの種類があり得る。二項コードは、量子通信に使用され得る複数の励起消失誤りを訂正し得るコードとしてみなされ得る。特に、二項コードは、第3世代の量子リピーターにおいて光子消失誤りを訂正するために使用され得る。安全な量子通信(量子鍵配送(quantum key distribution)、QKD)の観点において、二項コードは、盗聴者を阻止する。盗聴者は、コードワードから小さな数の光子を除去することにより、またはコードがそれに対して保護される別の演算子を用いて作用することにより、通信されたコードワードを明らかにしようと試み得るが、盗聴者は、送信されているワードについて何ら情報を取得しない。これは、これらの光子消失が、どのコードワードから生じたかについて何らヒントをもたらさないためである。実際に、まさにこのために消失に関わらず意図される受信者がコードワードを回復し得る。
いくつかの態様によると、図31A〜31Bの例は、より大きな距離を横断するために複数回反復され得る。換言すると、初期送信空洞と最終受信空洞の間のそれぞれ受信してその後(空洞外への状態の漏れにより)状態を送信するいくつかの空洞を利用した量子リピーターが生成され得た。
いくつかの態様によると、光ファイバー(1つまたは複数)を介しておよび/または電磁信号を伝播するための他の適切な手段を介してマイクロ波共振器を連結する量子通信系が形成され得る。例えば、オプトメカニカル変換器は、光力学的変換器を介して、マイクロ波共振器からフライング光学的光子への量子状態転送(および逆ダウンコンバーション(reverse down-conversion))を実行し得る。かかる変換器は、量子通信において中心的な役割を担い得る。いくつかの態様によると、かかる通信は、マイクロ波から光へのアップコンバーション(up-conversion)、ファイバーを介した光状態の伝送、および遠隔位置での光からマイクロ波へのダウンコンバーションを含む。全ての3つの段階は、光子消失、獲得または位相散逸誤りを含み得る。したがって、量子情報を保持するために0および1個の光子数状態を使用するよりもむしろ、本明細書で記載される誤り等について訂正され得る二項コードワード
を使用することが有益であり得る。
図32は、2モードコードを実行するために適した1キュービット、2空洞系のブロック図である。系3200は、上述の2モード(二項)コードが実行され得る系の別の例である。図32に示す1キュービット、2空洞実験構成は、原則的に、以下の理由のために2モードのユニバーサル制御を実現するのに十分である。
キュービットと空洞の間の分散的カップリングのハミルトニアンは、
の形式であり、式中、
は、j番目のモードについての消滅演算子である。さらなるハミルトニアン項は、空洞
およびキュービット
(式中、
は、外部から制御される)に対する独立した駆動から生じる。既存のハミルトニアン項は、近似同一性:
を使用して、より複雑な有効ハミルトニアンを生成し得る。これらの同一性は、より高次の変換子
の重ね合わせを生成するために、複数回適用され、組み合され得る。
多モード系のユニバーサル制御を確立するために、各モードがユニバーサル制御され得ること、異なるモード
の間でビームスプリッター相互作用
(
に同等)を生成することが可能であることを示すことが十分であり得る。同一性(式B19)を使用して、分散相互作用に加えての空洞駆動は、個々の空洞上でキュービットが連結された有効な駆動を生成する:
実数または虚数であるα
iを選択することは、
の有効演算子を生じる。これらをキュービットの前および後の回転と組み合わせることは、例えば
を生じる。再度(式B19)を適用することは、モード演算子の積、例えば:
の構築を可能にする。
(式B18)を使用して、i=jにて(式B21)と(式B22)を合計することは、単一モード分散相互作用を与え、これは、外部空洞駆動と組み合わせて、単一モードユニバーサル制御を生成するために十分である。(式B23)と、反対の符号を有し
である同じ項を重ね合わせることは、多モード系のユニバーサル制御を与えるのに十分なビームスプリッター相互作用を生じる。
補遺C-2キュービット量子状態の操作のための技術ならびに関連のある系および方法
量子コンピューターの開発は、いくつかの異なる技術的開発を含み、そのいくつかは互いに基づき合う。最初の段階として、量子情報の1つのビット(「キュービット」)を、キュービットが記載され、操作されかつ読まれるのに十分に長く保持するために十分良好に制御され得る量子系が開発されなければならない。一旦これが達成されると、DiVincenzo基準として公知のいくつかのさらなる要件も満足される場合、これらの量子系上で量子アルゴリズムが遂行され得る。これらの基準の1つは、ゲートのユニバーサルセットを実行する能力である。すなわち、組み合わせにおいて、複雑な量子アルゴリズムを実現し得るゲートを実行することである。しかしながら、任意の所望のBooleanゲートがNAND(またはNOR)ゲート単独から実行され得る古典的コンピューター計算とは異なり、量子コンピューターにおいては、任意の単一キュービットゲートおよび2キュービットゲート(例えばCNOTゲート)の組合せにより、普遍性(universality)が達成され得るのみである。
別のDiVincenzo基準は、コンピューター計算を遂行し得るように十分に長いデコヒーレンス時間を有するキュービットを生じることである。この基準を満たすことを補助するためのいくつかの技術は、いったんデコヒーレンス誤りが起こると量子系においてデコヒーレンス誤りを訂正するための量子誤り訂正技術を使用する。誤り訂正操作が十分有効である場合、量子系の状態は、長時間、おそらくは無期限に維持され得る。
DiVincenzo基準を満足する系において量子論理ゲートのユニバーサルセットを実行するための技術が認識され、理解されている。量子情報は、多準位(例えば非線形)量子系により互いにカップリングされる線形の量子力学振動子において記憶され得る。線形量子力学振動子の状態は、量子情報の単一のビットを記憶するために論理キュービットとして働く。量子力学振動子および多準位量子系を駆動信号により制御することにより、量子論理ゲートのユニバーサルセットが実行され得る。例えば、任意の単一キュービット回転ならびに2つ以上のキュービットの間でのもつれおよびもつれ解消(disentangling)操作が遂行され得る。
これらの技術は、2つの量子力学振動子の間にもつれた状態を生成するための操作を含む。かかる状態は、それぞれの論理キュービットが振動子の1つの状態により表される2つの論理キュービットの間の論理操作を可能にし得、これらのキュービットに適用される量子誤り訂正技術をさらに可能にし得る。したがって、これらの技術は、(i)論理操作を2つのキュービット上で遂行させること、および(ii)量子誤り訂正技術を可能にしてデコヒーレンス時間を長くすることを同時にすることにより上記の2つのDiVincenzo基準を支持し得る。
いくつかの態様において、適切なデバイスアーキテクチャーは、それぞれが量子力学振動子として実装される2つのキュービットに分散的にカップリングされるトランスモンまたは他の非線形量子系などの多準位量子系を含み得る。例えば、該振動子は共振器空洞または他の適切な線形量子振動子であり得る。多準位量子系は、それがカップリングされる振動子のそれぞれの量子状態を生成、操作および/または測定するためのアンシラとして使用され得る。アンシラの複数のエネルギー準位にアクセスすることにより、本明細書に記載される技術は、2つのキュービットのユニバーサル量子制御を実現すること、および量子非破壊(QND)測定を遂行して2つのキュービットの誤り徴候をモニタリングすることを可能にする。
非線形量子系は、一定のエネルギー差により分離される無限の数のエネルギー準位(例えば、エネルギー固有状態)を有さない量子系である。対照的に、線形量子系は、無限の数の均等に分配されたエネルギー準位を有する。線形量子系の例は量子力学振動子である。非線形量子系の例は、2つのエネルギー固有状態のみを有する2準位量子系(例えば、2準位原子)である。非線形量子系の別の例は、超伝導キュービット(例えば、トランスモン)などの多準位量子系である。
従来、非線形量子系は、量子情報を記憶するために使用される。例えば、トランスモンはキュービットを実装するために使用され得ることが示されている。線形量子力学振動子中に量子情報を記憶することは、非線形量子系において該情報を記憶することに対していくつかの利点を有することが認識され、理解されている。1つのかかる利点は、コヒーレンス時間の増加である。特に、いわゆる「猫状態」は、本明細書に記載される技術を適用する量子力学振動子の特に有用な型の状態であり得ることが認識され、理解されている。
猫状態は、反対の位相を有する2つのコヒーレント状態のコヒーレントな重ね合わせである。例えば、量子調和振動子において、猫状態は、
で記載され得、式中|α>は第1の位相を有するコヒーレント状態であり、|-α>は第1の位相に対して180°シフトした第2の位相を有するコヒーレント状態である。大きな|α|では、猫状態の2つの構成要素は、閉じられた箱の中で同時に死亡および生存している不運な猫のシュレディンガーの象徴的な逆説に対して類似を記す、異なる準古典的波束に対応する。これまで、猫状態は、約100までの光子を有する単一モードの光学またはマイクロ波場により実現されていたが、数状態の大きさの増加に伴い、ますますデコヒーレンスに影響されやすくなっている。
いくつかの態様によると、2つの量子力学振動子を横断するもつれた状態は、振動子の猫状態をもつれさせることにより生成され得る。かかる状態を生じさせるための技術を以下に述べるが、最初にもつれた状態の特性を説明する。もつれた状態は、
として表され得、ここで
は、振幅が便宜上(convenience)等しくなるように調製される2つの振動子固有モードのコヒーレントな状態である。2つの振動子は、本明細書において「アリス」および「ボブ」と称する。2つのモードのそれぞれは、アンシラを介して弱く連結される2つの振動子の1つにおいて主に(predominantly)配置される。
2つのモードのゼロではない(しかし小さい)空間的重複に関わらず、便宜上、本発明者らは、本明細書において2つのモードを2つの振動子の状態と称する。より大きな|α|(例えば|α|
2≧2)について、
は、重ね合わされた構成要素がアリスおよびボブの両方を含む混成(hybridized)モードにおけるコヒーレントな状態である2つの箱の中で生きている単一の猫状態とみなされ得る。代替的に、より自然な固有モードの基底において、
はまた、互いにもつれた2つの単一振動子猫状態として理解され得る。
多振動子猫状態は、フォルトトレラント(fault-tolerant)量子コンピューター計算を可能にする量子情報をエンコードする有用な方法であり得、ここで量子情報は、複数の振動子のコヒーレント状態の基底において重複してエンコードされる。この文脈において、本明細書に記載される技術は、2つの連結された論理キュービットのアーキテクチャーを実現する。2モード猫状態は、論理キュービットの2キュービットベル状態
とみなされ得、ここで第1の準直交コヒーレント状態|α>は、2つの振動子のそれぞれについて論理状態|0>を表し、第2の準直交コヒーレント状態|-α>は、2つの振動子のそれぞれについて論理状態|1>を表す。
いくつかの態様によると、量子力学振動子はボソン系であり得る。かかる場合において、2モード猫状態は、連結ボソン数パリティ演算子
:
の固有状態であり、式中
は、アリスおよびボブにおけるボソンの消滅(生成)演算子であり、
は、個々の振動子へのボソン数パリティ演算子である。顕著なことに、
は、組み合された2つの空洞におけるボソンの定義上偶(または奇)の数を有するが、それぞれの空洞におけるボソン数パリティは、最大限に不確実である。そのため、2モード猫状態の誤り徴候は、猫状態の量子非破壊(QND)測定を遂行することによりモニタリングされ得る。
いくつかの態様によると、連結パリティのQND測定は、カップリングされたアンシラを介して2モード猫状態を探査することにより遂行され得る。下記のかかる測定の結果は、状態の高度に非古典的な(highly non-classical)特性の例示であるだけでなく、一般的に、量子誤り訂正のための基本的なツールでもある。いくつかの態様によると、該系は、(2つの量子力学振動子のそれぞれにカップリングされる)アンシラにカップリングされる読み出しユニットを含み得る。例えば、該読み出しユニットは、アンシラ状態を射影的に(projectively)測定するために使用され得る共振空洞であり得る。それにより、読み出しユニットは、振動子の連結および/または単一パリティ測定を含むがこれに限定されない2つの振動子の上述のQND測定を提供し得る。
以下に続くものは、2つの量子力学振動子を横断するもつれた状態を生成、操作および/または探査するための技術に関する種々の概念およびその態様のより詳細な説明である。本明細書に記載される種々の局面は多くの方法のいずれかにおいて実行され得ることが理解されるべきである。具体的な実行の例は、例示目的のみのために本明細書に提供される。また、以下の態様に記載される種々の局面は、単独または任意の組合せで使用され得、本明細書に明示的に記載される組み合わせに限定されない。
図33は、本開示の局面を実施するために適切な回路量子電磁力学系のブロック図である。系3300は、多準位量子系3330 (「アンシラ」)に分散的にカップリングされる量子力学振動子3310(「アリス」)および3320(「ボブ」)を含む。電磁信号
は振動子3310に適用され得、電磁信号
は振動子3320に適用され得、電磁信号
は多準位系3330に適用され得る。一般的に、以下の記載において、かかる電磁信号またはパルスの適用は、振動子またはアンシラの「駆動」とも称され得る。いくつかの態様において、該多準位量子系3330は非線形量子系であり得る。
上述のように、2つの振動子の状態を操作するために、多準位量子系3330は、アンシラとして使用され得る。多準位系の1つ以上のエネルギー準位は、このプロセスにおいて評価され得る。例えば、最低の2つのエネルギー準位、最低の3つのエネルギー準位等、または任意の他のエネルギー準位の群は、それぞれの分散的カップリングを介したアンシラと2つの振動子の間の相互作用を生成するために、
により評価され得、その例を以下に記載する。
いくつかの態様によると、2つの振動子モード、多準位系、およびそれらの分散的相互作用を含む系3300のハミルトニアンは:
のように記載され得、式中
は振動子アリスおよびボブにおけるエネルギー量子(quanta)の消滅(生成)演算子であり、
は、アンシラの最低の3つのエネルギー準位であり、
は、2つの振動子(アリスおよびボブ)の角周波数であり、
は、アンシラの
遷移周波数であり、
は、2つのアンシラ遷移に伴う振動子
の分散周波数シフトを表す。小さな高次非線形性は、簡易化のために式C1においては無視される。
時間依存的駆動信号
は、本明細書において「駆動波形」とも称され、アリス、ボブおよびアンシラのそれぞれに適用され得、これらの要素のそれぞれにおいて任意の単一キュービット操作を実現する。振動子の状態とアンシラの状態の間のかかる量子論理ゲートは、2モード猫状態
の決定論的生成および操作のため、例えば連続変数ベース量子コンピューター計算を可能にするための重要なツールである。
以下に広く記載され得る系3300の2つの振動子に関して、上記の2モードのもつれた猫状態を生成するための方法が認識され、理解されている。最初に、多準位量子系3330を、2つのエネルギー準位の重ね合わせへと操作し得る。この結果を生じるための1つのアプローチは、
ブロッホ球においてアンシラ状態の回転を生成するために、
によりアンシラを駆動することであり得る。この状態においてアンシラがどのように配置(arrange)されるかに関係なく、それぞれの振動子は、その後アンシラの状態に応じた偏位により駆動され得、これはそれぞれの振動子とアンシラの状態をもつれさせる。例えば、それぞれの振動子が|0>状態であり、偏位が
であるアンシラに応じたものである条件的偏位が適用される場合、偏位は、三者間もつれゲート:
を実現する。
続いて、連結振動子状態に応じる別の回転操作がアンシラに適用され得、これによりアンシラがもつれ解消されて、2モード猫状態の振動子が残る。
いくつかの態様によると、それぞれのアンシラ遷移に関するそれぞれの振動子の状態依存的周波数シフト(χ)は、空洞状態の操作が、スペクトル選択的制御パルスを使用してアンシラ準位に対して条件づけられるか、または逆になるように配置される。実施において、かかる配置は、かかる操作を可能にした異なる共振周波数を有するように振動子およびアンシラ系を形成することを含む。1つのかかる配置の例を以下に記載する。
この上記の猫状態もつれプロセスを図34に示し、図34は、いくつかの態様による、2つの量子力学振動子のモードにわたる猫状態を生じるための制御配列(control sequence)を示す。制御配列3400は、アリス、ボブおよびアンシラ系の状態を示し、図中、左から右に時間が経過する。
例示的制御配列3400において、アリス、ボブおよびアンシラ系は異なる初期状態で始まる。いくつかの態様において、3つの系はそれぞれの系の基底状態である初期状態を有する。例えば、アリスおよびボブは、|0>状態にあり得、アンシラは
状態にあり得る。これらの初期状態は例示される制御配列について都合の良い開始点を示し得るが、猫状態の間の記載されるもつれが生成され得る限り、他の初期状態が企図されることもある。
行為3410において、アンシラは、状態の重ね合わせにあるように制御される。これは、アンシラを駆動信号で駆動させて、アンシラの2つの固有状態に関するブロッホ球上のアンシラの量子状態の回転を引き起こすことにより達成され得る。重ね合わせは、多準位アンシラ系の任意の数のエネルギー準位の重ね合わせであり得、これらのエネルギー準位の任意の重ね合わせが生成され得る。制御配列3400における重要な工程は、条件的偏位3420および3421であり、これらは、アンシラの状態に依存的であり、アンシラと2つの振動子のそれぞれとの間のもつれを生じる。これらの偏位が、かかるもつれを生成するために行為3410において生成されるアンシラの重ね合わせの状態に応じてなされ得る限り、行為3410において任意の適切な重ね合わせが生成され得る。
行為3420および3421において、アリスおよびボブのそれぞれに、カップリングされたアンシラの状態に応じて、振動子に(または振動子から)エネルギーをコヒーレントに追加(または除去)するゲートが適用される。アンシラはこの段階で状態の重ね合わせにあるので、重ね合わせのこれらの状態の少なくとも1つに応じて偏位3420および3421を行うことは、アンシラの状態ともつれるそれぞれの振動子において状態の重ね合わせを生じる。
任意の行為3430において、アリスおよびボブの状態に応じてアンシラに回転が適用され得る。この回転は、振動子からアンシラをもつれ解消し得るが、アンシラを介したそれらの(弱い) カップリングを介して振動子を互いにもつれたままにし得る。
図33に示される系3300の1つの起こり得る実験的実現を例示するために、図35Aおよび35Bは、いくつかの態様による、アンシラトランスモンにカップリングされた2つの同軸共振器空洞を含む例示的な回路量子電磁力学(cQED)系を示す。図35Aに示されるデバイスの三次元模式図である系3500において、共振器3510および3520は、図33の系における量子力学振動子35310および35320として機能し、トランスモン3530は、図33の系における多準位量子系3330として機能する。例示されるように、共振器3510および3520は、アルミニウムで形成される同軸共振器である。
図35A〜35Bの例において、cQED系はまた、アンシラトランスモンの状態を読み出すように操作され得る準平面線形共振器を含む。読み出し共振器により生成されるパルスの振幅および位相の両方は、その共振周波数の近位で、アンシラトランスモンの量子状態に依存する。共振器は、図35Aに示される共振器空洞および示される同軸配置の中心要素であるトランスモンチップ上のストリップラインにより形成される。トランスモンは、3つのアンテナ3531、3532および3533を特徴とし、これらは空洞3510、空洞3520および読み出し共振器3540のそれぞれにカップリングされる。ジョセフソン接合3535はアンテナのそれぞれにカップリングされる。
図35A〜35Bに示される例示的cQED系3500を以下により詳細に調べ、図36は共振器空洞3510および3520を横断する2モード猫状態を生成するための具体的な制御配列を示し;図37は間に待機時間を有する2つの非条件的偏位を適用することにより共振器空洞上に条件的偏位を効果的に生成するための例示的な技術を示し;図38A〜38Bは2つの共振器空洞の連結パリティを実験的に測定するための2つの例示的な制御配列を示し;図39は系3500の操作のための実験的設定を示し;および図40A〜40Cは高純度アルミニウムのブロック製の系3500の物理的な実行を示す。
多くの実験的実行および構成は、図35A〜35Bに示されるcQED系の型に基づいて構想され得るが、それぞれの共振器およびトランスモンの特性に関して1つの例示的な構成を説明する。以下の表C1は、トランスモンアンシラ、2つの空洞共振器(アリスおよびボブ)および読み出し共振器を含む系3500の例示的態様のそれぞれの構成要素のハミルトニアンパラメーターを示す。測定されるパラメーターとしては、全ての遷移周波数(
)、それぞれの共振器とそれぞれのトランスモン遷移との間の分散的シフト(
)アリス(
)およびボブ(
)の自己カー、ならびにアリスとボブの間の交差カー相互作用(
)が挙げられる。カーパラメーターおよび読み出し共振器に伴う
は他の測定されたパラメーターに基づく理論的な推定値である。
表C1の例において、
であることに注意されたい。図38A〜38Bに関連して以下に記載されるように、この配置は、
が正確に
に等しいという要件なしで、共振器の連結パリティの測定を可能にする。
図36は、いくつかの態様による、2つの量子力学共振器のモードにわたる猫状態を生成するために適した制御配列を示す。例えば、制御配列3600は図35A〜35Bに示される系3500に適用され得る。
図36の例において、共振器アリスおよびボブならびにアンシラトランスモンは、最初に基底状態である|0>状態および
のそれぞれにある。行為3610において、アンシラ重ね合わせは、
多様体(manifold)のブロッホ球のX-Y面中のπ/2のアンシラ回転である回転
を遂行することにより調製される。これは基底状態と励起状態の等しい重ね合わせ
にアンシラを配置する。
行為3620において、条件的偏位
は、2つの空洞のそれぞれに適用される。時間依存的マイクロ波制御パルス
を空洞に適用することにより、アリス(
)およびボブ(
)において独立して任意の空洞状態偏位が生じ得る。図36の例において、条件的偏位は、連結されたアンシラトランスモンが
状態にある場合にそれぞれの共振器を|2α>状態に置く操作(該状態を|0>から|2α>に移すためのエネルギーの追加)である。これらの偏位の正味の結果は、三者間もつれゲート:
を実現することである。
行為3630において、空洞状態
に応じたアンシラ回転(
)は、アンシラをもつれ解消し、空洞を2モード猫状態のままにする。すなわち、アンシラは
に戻るが、空洞は、
状態のままである。
行為3640において、さらなる偏位
が空洞に適用される。これらは、猫状態を位相空間の中心に置くためのアリスおよびボブの非条件的偏位(
)である。これは、純粋に表示の便宜のための些細な工程であり、猫状態:
を生じる。
上述のように、条件的偏位(
)は、アンシラと空洞のもつれを可能にするものであり、そのため2つの空洞間でもつれた状態の生成を可能にする。この操作は、分散相互作用強度(
)よりも小さい帯域幅を有する空洞駆動を使用して直接的に実行され得る。しかしながら、この方法は、比較的長いパルス持続時間(およびそのためにデコヒーレンスおよびカー効果のためのより高い非忠実度)を必要とする。条件的偏位(
)を生じるための代替的な方法を図37に示す。
図37は、条件的偏位
が、その間の待機時間
により分離される2つの非条件的偏位により効果的に実現される制御配列を示す。図37の例において、工程3710、3730および3740は、図36に示される工程3610、3630および3640と同等である。図36と図37の差は、工程3721、3722および3723が一緒になって図36の工程3620、すなわち条件的偏位
を効果的に実行することである。
工程3721において、非条件的偏位
がアリスおよびボブのそれぞれに適用され、
である2つの空洞の生成物状態が生じる。いくつかの態様において、2つの偏位は等しい大きさおよび位相を有し得る(例えば、α
1=α
2)。工程3722において、待機時間
が遂行され、その時間にアリスおよびボブの状態は、ユニタリー演算子
により表されるアンシラの状態に依存する条件的位相を蓄積する。具体的に、待機時間
の間に、それぞれの空洞とアンシラの間の分散的相互作用のために、両方の空洞における空洞コヒーレント状態は、アンシラが
にある場合に
の条件的位相を蓄積する:
正味の結果は、空洞の状態が様式:
において三者間のもつれ状態に進展するということである。
この時間進展工程の後、行為3723においてそれぞれの空洞に適用されるさらなる偏位は、上記の条件的偏位と同じ結果を効果的に達成する。回転枠内のそれぞれの空洞における光子確率分布を説明するためにIQ面を使用して、コヒーレント状態
は、アンシラが
にある場合に静止し、アンシラが
にある場合に角速度
で回転する(ガウス)円により表され得る:
。そのため、この条件的位相ゲートは、アンシラが
において調製される場合に位相空間において空洞コヒーレント状態を分裂させ得、条件的偏位を効果的に実現する。
図38A〜38Bは、いくつかの態様による、2つの量子力学振動子の連結パリティを実験的に測定するための2つのアプローチを示す例示的な制御配列である。上述のように、連結パリティ数の測定は、2モード猫状態を理解すること、および量子誤り訂正技術により誤り徴候を検出してそれを訂正し、該状態を維持し得ることの両方のために重要である。
図35A〜35Bに示される例示的な系3500について、連結パリティ測定は連結光子数パリティ
測定である。アンシラキュービットの
準位のみを使用したこの単一空洞光子パリティ測定は、他の空洞が真空状態にある場合に1つの空洞に適用可能である。該測定は、目的の空洞中の偶の光子数状態および奇の光子数状態(i=AまたはB)を、アンシラの異なる準位にマッピングするために分散相互作用
を使用する。これは、
の待機時間により分離される、アンシラキュービットの2つのπ/2回転
(同じ軸、例えばX軸の周り)により実現され得る。例えば、ボブが真空状態にある場合(
)、時間
に対する式C5において記載される条件的位相シフトは、以下のユニタリー演算子:
により記載される。
このシフトは、
であるために、奇数であるアリスの光子数に対して条件づけされたπのキュービットZ回転と同等である。そのため、アリスにおける光子数パリティが偶である場合およびその場合のみにおいて、全体のシーケンス
は、キュービットをフリップさせ(flip)、そのためにその後のキュービット状態の読み出しにより空洞のパリティが測定される。
単一空洞におけるパリティを測定するためのこの制御および測定シーケンスは、原則的に、連結光子数パリティを測定するためにも実行され得るが、
が正確に
と等しい場合にのみである。これは、
の待機時間のために、式C5から本発明者らは、
を有するからである。
であることに注意して、キュービット読み出しへと続く
の恒等制御配列は、連結パリティ測定を達成する。しかしながら、厳密に同一な
がなければ、一空洞中の位相蓄積は、もう一方よりも早くなり、一般的に、この単純なプロトコルを使用して、両方の空洞におけるパリティ演算子を同時に実現することは可能ではない。さらに、一般的な2空洞量子状態について、この配列は、該プロセスの間のアンシラと他の空洞中の光子の間の避けられないもつれのために、単一空洞パリティ演算子(
)を測定し得ない。
いくつかの態様によると、ハミルトニアンパラメーターに対して厳密さがより低い要件を有する
を測定するための1つの技術は、アンシラの
を活用することにより働く。この方法は、アンシラの
遷移がボブとのより強い相互作用(
)を示す場合に有利であり得るが、
遷移は、アリスとのより強い相互作用(
)を示す。これは、アンシラ周波数を2つの空洞の間に作り変える、すなわち
にすることにより物理的に実現され得る。
一般的に、2つの空洞および3つのアンシラ準位を有する量子状態を考慮すると、任意の待機時間
についてのユニタリー進展は:
であり、式中、
である。
ここで本発明者らは、
を定義する。そのため、2つの空洞は、
について異なる相対的速度で、それらのコヒーレント状態構成要素における条件的位相を同時に取得する。図38Aおよび38Bは、
が等しいという要件なしで連結パリティ測定を実現するための2つの異なるパルス配列を示す。図38Aと図38Bの両方において、工程3810は、2つの振動子(アリスおよびボブ)とアンシラの間の状態の生成を表す。工程3810は、例えば図34に示される制御配列3400または図36に示される制御配列3600を含み得る。図38Aおよび38Bのそれぞれにおける工程3820は、空洞の初期偏位である。
図38Aの例において、所定の2空洞量子状態
について、本発明者らは、行為3830において最初に
回転を使用して、状態
におけるアンシラを調製し得る。次いで、行為3840における待機時間
は、状態の
成分について、2つの空洞に位相
を与える:
次いで、行為3850において、この中間状態における
成分は、
空間におけるπ回転
により
に変換される。その後、行為3860における第2の待機時間
は、状態の現在の
成分について、2つの空洞に位相
を与える第2の同時の条件的位相ゲートをもたらす:
成分は、次いで、行為3870における別の
パルスにより
に戻すように変換される。
が以下の式:
を満足する場合、得られる量子状態は、
であり、式C7において同時の制御されたπ位相ゲート(
)を効率的に実現する。最終的に、行為3880における
パルスは、連結パリティの、アンシラ
準位への射影を完了し、行為3890における読み出し共振器による読み出しの準備が整う。
式C12における
についての負ではない解を見出すための条件は、
が反対の符号を有することである。本質において、より小さな
のために
でもう一方よりも遅い位相を獲得する空洞は、そのより大きな
を使用して、
で追いつくようになる。
χのかかる相対的関係は、絶対的な数学的要件よりもむしろ、ただ実践的に好ましい条件であるということに注意すべきである。これは、両方の空洞がπの条件的位相モジュロ2πを獲得する場合にはいつでもパリティマッピングが達成され得るためである。追加の(extra)倍数の2π位相をアンシラへのより強力な分散的カップリングを有する空洞に適用されることが常に可能であるが、これは合計ゲート時間を増加させ、より大きなデコヒーレンスを招く。
演算子を作り変えることにおける最も重要な要因は、式C12などの2つの式を同時に満足させる追加の同調(tuning)パラメーター
(
に加えて)である。
この追加の自由度はまた、任意の2空洞量子状態についての単一空洞の光子数パリティ
の測定を可能にする。この選択肢は、1つの空洞が条件的π位相(モジュロ2π)を獲得するが、もう一方は0位相(モジュロ2π)を獲得するように待機時間を選択しながら図38Aに示されるものと同じ制御配列を用いて実現され得る。例えば、
を測定するために、本発明者らは、
を満足する
を使用する。
図38Bは、より多くのアンシラ操作を使用するがχのより大きなパラメーター空間に対してより適応性である連結パリティマッピングプロトコルの代替バージョンを示す。このプロトコルにおいて、
に比例する条件的位相を空洞に適用する場合に、アンシラは、
重ね合わせで時間を費やす。そのため、連結パリティマッピングを達成するために、2つの時間間隔
は
を満足するべきであり、これは、
が
に対して反対の符号を有する場合に追加の2π位相の使用を回避し得る。
実験的に、どのパリティマッピングシーケンスを適用するか(図38Aまたは図38B)の選択ならびにゲート時間
の選択は、パルス速度/帯域幅およびコヒーレント時間などの種々の局面において代償を含む。図38Aのシーケンスについて、
が実験的に実行されている。図38Bのシーケンスについて、
が実験的に実行されている。実際の有効な待機時間は、それぞれのアンシラ回転のゼロでない持続時間(16ns)のためにより長くなる。待機時間のこの選択を有する第1のプロトコルは、正確なパリティマッピングに必要な正確なπ位相を生じない(本発明者らは、
を推定する。これらの位相誤りは、この試験下での2空洞状態について約3%の連結パリティ測定の推定される非忠実度をもたらす。正確な位相はより長い待機時間により達成され得るので、
であるが、デコヒーレンスおよび高次のハミルトニアン項のための非忠実度は利益に対して重過ぎる(outweigh)。原則的に、比較的短い総ゲート時間で正確なπ位相を達成する第2のプロトコルはより有利であるはずである。しかしながら、第2のプロトコルを使用して、本発明者らは、第1のプロトコルとほぼ等しい忠実度を有する2モード猫状態の連結ウィグナートモグラフィーの同一の結果を視覚的に観察する。これは、第2のプロトコルに含まれるより複雑なアンシラ回転由来の追加の非忠実度に起因し得る。
図39は、いくつかの態様による、アンシラ多準位量子系に連結された2つの量子力学振動子の系を制御および/または測定するための例示的な実験設定の回路図である。系3900は、例えば図35A〜35Bに示されるcQED系3500または本明細書に記載される技術を実施するのに適したいくつかの他のcQED系であり得るcQED系3920を含む。
系3900は、15mK、4Kおよび3500Kの3つの温度段階を含み、cQED系3920は、15mK段階で操作される。例えば、cQED系3920は、Cryoperm磁気シールドの内側に設置され得、15mKの基礎温度を有する希釈冷却装置の混合チャンバーに熱平衡化(thermalize)され得る。ローパスフィルターおよび赤外線(エコソーブ(eccosorb))フィルターを使用して、迷放射線および迷光子のショットノイズを低減し得る。ジョセフソンパラメトリック変換器(JPC)3930も15mK段階に積載され、サーキュレータ―を介して該デバイスパッケージの出力ポートに連結され、量子限界近くの増幅(near-quantum-limited amplification)を提供する。
図39の例において、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)3940は、量子制御パルス配列およびデータ取得プロセスの両方を操作する。いくつかの場合、FPGAは、(例えば、上述の回転、偏位等を遂行するために)アリス、ボブおよびアンシラへの適用のために記憶された波形にアクセスし得る。他の場合では、FPGAは、波形をリアルタイムで記憶するよりもむしろコンピューター計算するためにプログラムされ得る。この後者のアプローチは、多くの異なる空洞偏位について波形メモリのより低い(または最小の)使用量をもたらし得、単一の実行(run)における多くの測定を可能にする。
図39の例において、空洞駆動およびトランスモン駆動は、それぞれのマイクロ波ジェネレータにより生じた持続波(CW)キャリアトーンの側帯波変調により生成される。駆動波形は、それぞれの空洞およびトランスモンに独立して適用され得る。4 FPGAアナログチャンネルは、ユニット3950中の2 IQペアとして使用され、それぞれ、空洞駆動を制御して、任意の空洞偏位を実行する。トランスモンアンシラの回転は、デジタルマーカーを介してFPGAに同期する任意の波形ジェネレータ(AWG 3960)により提供されるIQチャンネルの別のペアにより制御される。このIQペアは、異なる中間周波数(IF)を使用することにより
遷移の両方を制御する。
図39の例において、アンシラ読み出しは、その共振周波数の近位の準平面読み出し共振器の2つのポートにより、読み出しパルスのマイクロ波伝送のヘテロダイン測定により遂行され得る。cQED分散的読み出しを使用して、伝送された信号の振幅および位相は、アンシラの量子状態に依存する。この読み出しパルスは、FPGAデジタルチャンネルによりゲート制御された(gated)マイクロ波ジェネレータ(RO 3971)により生成される。JPCにより増幅された後、伝送された信号は、4Kで高電子移動度トランジスタ(HEMT)および室温で通常のRF増幅器によりさらに増幅される。次いで増幅された信号は、「局部発振器」(LO 3972)マイクロ波ジェネレータの出力と混合され50MHzとされ、FPGAにより分析される。読み出しパルスの分割されたコピーは、冷却装置に入ることなく、LOと直接混合され、測定される伝送について位相参照を提供する。
いくつかの態様によると、cQED系の空洞の長い寿命は、高度にコヒーレントな空洞量子状態の調製を可能にし得るが、測定プロセスが反復され得る速度も厳密に制限し得る。(アリスについて、
で、空洞光子数が0.01の次数まで自然に減衰するには15〜20ms要する。) 2空洞量子状態のトモグラフィーによる測定は多くの測定を必要とし得るので、いくつかの場合では、両方の空洞の速いリセットを実現するために4波混合プロセスが実行され得る。これらのプロセスは、3つのパラメトリックポンピングトーンを使用して、アリスまたはボブにおける光子を、短い生存読み出し共振器モードにおける光子に効果的に変換し得る。例えば、このリセット操作は400μsの間適用され得、次いで約900μsの反復サイクルにより実験データが取得され得る。
図4A〜40Cは、高純度アルミニウムのブロックで形成されたcQED系3500の1つの例示的な物理的実行を示す。図40Aは、2つの同軸スタブ空洞共振器およびトランスモンを含む機械加工されたアルミニウムパッケージの写真である。図40Aの例において、高純度(5N5)アルミニウムの単一のブロックは、両方の超伝導空洞共振器を含み、かつ配置されたジョセフソン接合を有するサファイアチップのためのパッケージとしても機能する3D構造を形成するように機械加工されている。
図40Aにおける2つの空洞のそれぞれは、中心スタブ(例えば直径3.2mm)と円筒形の壁(外部導電体)(例えば直径9.5mm)の間のλ/4伝送路共振器の3Dバージョンとみなされ得る。スタブの高さは共振周波数を制御し、図示される例においてはアリスおよびボブについてそれぞれ約12.2mmおよび16.3mmである。(5.8mmの最大幅および3.9mmの最大高さを有する例における)トンネルは、外側から、2つの空洞の間の中間壁に向かって開かれ、トンネルと2つの空洞の間に三者間の連結を生じる。全パッケージは機械加工後に約80μm化学的にエッチングされ、空洞共振器の表面の質が向上される。
図40A〜40Cの例において、超伝導トランスモンは5.5mm x 27.5mmのチップ上にあり、これは、製作(fabrication)後430μmの厚さのc面サファイアウェハーから切断される(diced)。チップ上のトランスモンを図40Bに示す。該製作プロセスにはAl/AlOx/Alジョセフソン接合の電子ビームリトグラフィーおよびシャドウマスク蒸着を使用した。サファイアチップをトンネルに挿入し、トランスモンのアンテナパッドを同軸空洞にわずかに押し入れて、モードカップリングを提供する。該チップを、アルミニウムクランプ構造およびインジウムシールを用いて1つの端に機械的に保持する。
いくつかの態様によると、トランスモン製作プロセスの間に、100μm x 9.8mmのアルミニウムフィルムのストリップを、サファイアチップ上に蒸着して読み出し共振器を形成し得る。この金属ストリップおよびトンネルの壁は、平面-3Dハイブリッドλ/2ストリップライン共振器を形成する。この共振器設計は、リトグラフィーによる寸法制御および低い表面/放射損失の両方の利点を有する。ここで、図40Cに示すように、該共振器はトランスモンに容量的にカップリングされ、読み出しについて50Ω伝送路に強く連結される。
本発明の少なくとも1つの態様のいくつかの局面がこのように記載されるが、種々の変更、改変および向上は、当業者に容易であることが理解されよう。
かかる変更、改変および向上は、本開示の一部であることが意図され、本発明の精神および範囲の範囲内にあることが意図される。さらに、本発明の利点が示されるが、本明細書に記載される技術の全ての態様が記載される利点の全てを含むわけではないことが理解されるべきである。いくつかの態様は、本明細書において有利であると記載される特徴を何ら実行しないこともあり、いくつかの例においては記載される特徴の1つ以上を実行して、さらなる態様が達成されることもある。したがって、前述の記載および図面は、例示のみのためのものである。
数値および範囲は、およその値または正確な値で明細書および特許請求の範囲に示され得る。例えばいくつかの場合、用語「約(about)」、「約(approximately)」および「実質的に(substantially)」は、値に関して使用され得る。かかる参照は、参照される値、ならびにその値のプラスおよびマイナスの妥当な変動を包含することを意図する。例えば、句「約10〜約20」は、いくつかの態様において「正確に10〜正確に20」およびいくつかの態様において「10±δ1〜20±δ2」を意味することを意図する。値についての変動δ1、δ2の量は、いくつかの態様において値の5%未満、いくつかの態様において値の10%未満、およびさらにいくつかの態様において値の20%未満であり得る。値の大きな範囲、例えば二桁以上を含む範囲が示される態様において、値についての変動δ1、δ2の量は50%であり得る。例えば、操作可能な範囲が2から200にわたる場合、「約80」は40〜120の値を包含し得る。
本明細書に記載される技術の上述の態様は、多くの方法のいずれかにおいて実装され得る。例えば、該態様は、ハードウェア、ソフトウェアまたはそれらの組合せを使用して実装され得る。ソフトウェアにおいて実装される場合、ソフトウェアコードは、単一のコンピューターに提供されるかまたは複数のコンピューター間に分配されるかのいずれにせよ、任意の適切なプロセッサまたはプロセッサの集合(collection)により実行され得る。かかるプロセッサは、CPU チップ、GPUチップ、マイクロプロセッサ、マイクロコントローラまたはコプロセッサなどの名称により当該技術分野で公知の市販の集積回路構成要素を含む、集積回路構成要素中の1つ以上のプロセッサを有する集積回路として実装され得る。代替的に、プロセッサは、ASIC、FPGAまたはプログラム可能論理デバイスを構成することにより生じるセミカスタム回路などのカスタム回路中で実装され得る。さらなる代替物として、プロセッサは、市販、セミカスタムまたはカスタムのいずれにせよ、より大きな回路または半導体デバイスの一部であり得る。具体例として、いくつかの市販のマイクロプロセッサは、コアの1つまたはコアのサブセットがプロセッサを構成し得るように、複数のコアを有する。しかしながら、プロセッサは、任意の適切な形式で回路を使用して実装されてもよい。
本発明の種々の局面は、単独、組合せまたは前述のものに記載される態様中に具体的に記載されない種々の配置で使用され得、そのためその適用において前述の記載に示されるかまたは図面に示される構成要素の詳細および配置に限定されない。例えば、一態様に記載される局面は、何らかの様式で他の態様に記載される局面と組み合されてもよい。
また、本発明は、その例示が提供される方法として具体化され得る。該方法の一部として実施される行為は、任意の適切な方法で順序づけられ得る。したがって、例示態様において連続的な行為として示されてはいるが、示されるものとは異なる順序で行為が実施される態様が構成され得、これにはいくつかの行為を同時に実施することが含まれ得る。
さらに、いくつかの行為は、「ユーザー」が行うように記載され得る。「ユーザー」は、単一の個体である必要はなく、いくつかの態様において、「ユーザー」に起因する行為は、個体のチームおよび/またはコンピューター補助ツールもしくは他の機構と組み合わせた個体により実施され得ることが理解されるべきである。
請求項要素を修飾するための特許請求の範囲における例えば「第1」、「第2」、「第3」などの順序を示す用語の使用は、それ自体では、別の請求項要素に対する1つの請求項要素の優先、先行もしくは順序または方法の行為が実施される時間的な順序のいずれも意味しないが、単に、特定の名称を有する1つの請求項要素を、同じ名称(順序を示す用語の使用以外)を有する別の要素と区別して、複数の請求項要素を区別するための標識として使用される。
また、本明細書で使用される語法および用語法は、説明を目的とするものであり、限定とみなされるべきではない。本明細書中の「含む(including)」、「含む(comprising)」または「有する(having)」、「含む(containing)」、「含む(involving)」およびそれらの変形の使用は、以降に列挙される項目およびそれらの同等物ならびにさらなる項目を包含することを意味する。