JP6874336B2 - 多孔質繊維及びリン吸着カラム - Google Patents
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本発明のリン吸着剤は、希土類元素の炭酸塩又は第4族酸化物を含むことが好ましく、20℃の水100gへの溶解度が10mg以下の粉粒体であることが好ましいものであって、体外循環におけるリン吸着用途に用いるものである。
一般に、生態内におけるpHバランスは非常に重要であり、バランスが乱れると様々な疾患に繋がる。本発明に係るリン吸着剤は、血液と接触した際、生理学的血液のpH変化が小さいことから、血液等の体液のpHに影響することが少ない。ここで、本発明では、生理食塩水中でのpH変化を以て、生態内pHバランスに優れているかの指標とする。具体的には、透析における4時間循環を想定して、リン吸着剤を生理食塩水中に入れて200rpmで4時間撹拌した後の前後のpH変化を測定する。本発明のリン吸着剤は、かかるpH変化が−1.0以上+1.0以下(±1.0以内)であり、好ましくは±0.8以内、より好ましいのは±0.6以内で、最も好ましいのはほとんどpH変化がない、すなわち±0.1以内である。
本発明の多孔質繊維は、リン吸着剤が内部に担持された多孔質繊維であって、生理食塩水中で4時間撹拌後のpH変化が−1.0以上+1.0以下である。
式1:添加率%:[添加したリン吸着剤質量]/(添加したリン吸着剤質量+原料ポリマー質量)×100
本発明の多孔質繊維は、表面細孔半径が0.5〜100nmであり、かつ細孔の比表面積が10m2/g以上であることが好ましい。平均細孔半径(以下、孔径又は細孔径ともいう)の下限としては、好ましくは0.5nm以上、より好ましくは1.5nm以上、特に好ましくは2.0nm以上であり、一方、上限としては、好ましくは100nm以下、より好ましくは40nm以下、特に好ましくは25nm以下である。均細孔半径の下限が前記のとおりであると、被吸着物質が孔に入りやすくなるため、吸着効率が低下しにくくなる。一方、細孔径の上限が前記のとおりであると、空隙部分に被吸着物質が吸着されやすくなるため、吸着効率が向上することがある。上記の孔径範囲内で、除去対象とする被吸着物質の大きさに応じて最適な孔径が存在する。
式2: 1次平均細孔半径[nm]=(33.30−0.3181×融点降下量[℃])/融点降下量[℃]
なお、上記測定・算出方法においては、上述した非特許文献2の記載を参照する。
本発明における多孔質繊維の素材としては、特に限定されるものではないが、成形加工のし易さやコストなどの観点から有機物が好適に用いられる。より具体的にはポリメチルメタクリレート(以下、PMMAという)、ポリアクリロニトリル(以下、PANという)、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリールエーテルスルホン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、セルロース、セルローストリアセテート、エチレン−ビニルアルコール共重合体等が好適に用いられる。中でも、非晶性の高分子であり、タンパク質を吸着できる特性を有する素材を含むことが好ましく、例えば、PMMA、PAN等が挙げられる。PMMA、PANは、また、厚み方向に均一構造を有する繊維の代表例であり、均質構造で孔径分布がシャープな構造を得やすいため好ましい。特にPMMAは、成形加工性やコストに優れ、また、透明性も高いため、多孔質繊維の内部状態も比較的観察が容易であり、ファウリング状態を評価しやすく好ましい。
さらに、多孔質繊維の糸形状が中空糸状や中実糸状の場合、それぞれ膜厚部や糸内部の形態を吸着に適した多孔質とすることで、吸着面積を十分に確保しやすくなり、ひいては血液中に含まれる吸着標的物質を効率的に吸着除去しやすくなる。これらのうち、特に好ましいのは中実糸状である。中空糸の場合には、中空糸の内側と外側で圧力損失が異なる場合などでは、中空糸内外で被処理液の流量に差が生じ、結果としてカラムの吸着効率の低下を引き起こすことが懸念されるためである。また、中空糸の内側と外側の圧力損失を同等にするためには、中空糸の内径およびカラム充填率に大きな制約が生じる。さらに、中空糸を充填したカラムに血液を流した場合、中空糸の中空部は、カラム内における中空糸外部の環境に比べて固定された閉鎖的な環境であり(中空糸外部の隙間は、糸がカラム内で動くことで変形する)血栓などが形成しやすいことが懸念される。
本発明の多孔質繊維は、繊維径が50〜1000μmであること好ましい。前記繊維径は、50μm以上が好ましく、より好ましいのは100μm以上、さらに好ましいのは150μm以上である。また、前記繊維径は1000μm以下が好ましく、より好ましいのは800μm以下、さらに好ましいのは500μm以下である。前記繊維径が50μm以上、より好ましくは100μm以上、さらに好ましくは150μm以上の場合、粒子添加率を高くしても、繊維強度が低下しにくくなり、生産性が向上しやすくなる。一方、前記繊維径が1000μm以下、より好ましくは800μm以下、さらに好ましくは500μm以下の場合、カラム内に充填する吸着繊維の充填率が大きくなりやすく、吸着性能が向上しやすくなる。
本発明のリン吸着カラムの別の一態様は、本発明の多孔質繊維が内蔵されたものである。
多孔質繊維の原料となるポリマーを適当な溶媒に溶かした後、選定したリン吸着剤の粒子を所定量添加し、紡糸原液を調製する。溶媒は、溶解するポリマーに応じて適宜選択されるが、一般的に、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサノン、キシレン、テトラリン、シクロヘキサノン、四塩化炭素などが使用されている。例えばポリマーとしてPMMAを用いる場合は、ジメチルスルホキシド(DMSO)が好ましく使用される。
この様に製造された中実糸を、ケーシングに内蔵してリン吸着カラムとする。ケーシングの形状としては、両端が開放端であり、例えば四角筒体、六角筒体等の角筒体や円筒体が挙げられ、中でも円筒体、特に断面が真円状の筒体が好ましい。これはケーシングが角をもたないことで、角部での被処理液の滞留を抑制しやすくなるためである。また、両側を開放端とすることで、被処理液の流れが乱流になりにくく圧力損失を最小限に抑えやすくすることができる。
カラムのケーシング内における吸着体の充填率の上限としては70%が好ましく、更に好ましくは63%以下である。吸着体の充填率の下限としては13%が好ましく、更に好ましくは30%、特に好ましくは45%である。吸着体の充填率を13%以上とすることにより、血液浄化に必要な血液量が低減されるため、患者の負担を軽減しやすくなる。また、吸着体の充填率を70%以下とすると、エア抜け性が良好となりやすい。さらに、吸着体を充填しやすくなるため、作業効率が向上しやすくなる。なお、ここでいう充填率とは、浄化前の血流が流入する入口部と浄化後の血流が排出される出口部が設けられたケーシング体積に占める吸着体体積の割合のことであり、ヘッダー部などは含まない。
Vc=ケーシング胴部の断面積×有効長
Vf=繊維断面積×繊維本数×有効長
充填率=Vf/Vc×100(%)
なお、ケーシング胴部の断面積については、ケーシングにテーパーがある場合は、ケーシング中央における断面積とする。
また、医療用具等に用いる際には殺菌又は滅菌して用いることが好ましい。殺菌、滅菌方法としては、種々の殺菌・滅菌方法、例えば、高圧蒸気滅菌、ガンマ線滅菌、エチレンオキサイドガス滅菌、薬剤殺菌、紫外線殺菌などが例示できる。これらの方法のうち、ガンマ線滅菌、高圧蒸気滅菌、エチレンオキサイドガス滅菌は、滅菌効率と材料に与える影響が少なく好ましい。
上記のようにして作製したカラムについてもリン吸着性能を測定することができる。詳細な測定方法は実施例にて後述する。カラムのリン吸着性能は、好ましくは3.0mg/g以上、より好ましくは4.0mg/g、さらに好ましくは5.0mg/g以上、その中でも好ましくは10.0mg/g以上、特に好ましくは15.0mg/g以上である。
本発明におけるリン吸着カラムの使用用途は多種多様であり、水処理、精製、血液浄化などの用途として用いることができる。血液浄化用途の場合、処理方法には全血を直接灌流する方法と血液から血漿を分離した後に血漿をカラムに通す方法とがあるが、本発明のリン吸着カラムはいずれの方法にも用いることができる。
(1)リン吸着性能評価
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウムを添加した牛血液から、遠心分離によって血漿を得た。該牛血漿について、総タンパク量(TP)が6.5±0.5g/dLとなるように調整した。尚、牛血漿は、採血後5日以内のものを用いた。
式3: リン吸着性能〔mg/g〕=〔(Cs−Ce)×0.5(dL)〕/0.01(g)
また、多孔質繊維のリン吸着性能の測定方法は、上記においてリン吸着剤0.01gを用いる代わりにリン吸着剤が担持された多孔質繊維0.02gを用いる点を除けば、吸着剤のリン吸着性能の場合と同様にして行った。リン吸着性能の算出においては、下記式4を用いた。
式4: 多孔質繊維のリン吸着性能〔mg/g〕=〔(Cs(mg/dL)−Ce(mg/dL))×0.5(dL)〕/多孔質繊維質量(g)
(2)リン吸着剤の平均粒径
NIKKISO社のMT3300を用いてレーザ回折・散乱法で測定した。粒子形状を非球形と設定し、横軸粒経、縦軸頻度(%)をプロットして、平均粒径として個数平均を用いた。
pH測定方法としては、一般に最も多く用いられている測定法であるガラス電極法を用いる。これは、ガラス電極と比較電極の2本の電極を用いて、この2つの電極の間に生じた電圧(電位差)を知ることで、対象の溶液のpHを測定する方法である。具体的には、堀場製作所製のコンパクトpHメータLAQUAtwin等を用いることができる。
式5:pH変化=pH(4H)−pH(スタート)
4)吸着剤の溶解度(水溶解性)測定
恒温槽で20℃にした水100gと回転子をフラスコにいれ、リン吸着剤100mgを投入し、4時間以上撹拌した。その後、12000rpmで20分遠心分離することにより、リン吸着剤の粒子と溶液とを分離した。上澄みをサンプリングし、溶解したリン吸着剤の粒子イオン濃度を測定した。吸着剤が粉粒体の場合は誘導結合プラズマ−質量分析(ICP−MS)により測定した。測定した上記イオン濃度から粒子質量を算出し、上澄み100gあたりの溶解した粒子質量を上記水溶解性とした。
[実施例1]
まず、21質量%PMMA原液の調製を行った。質量平均分子量が40万のシンジオタクティック−PMMA(syn−PMMA、三菱レイヨン製、“ダイヤナール”BR−85)を31.7質量部、質量平均分子量が140万のsyn−PMMA(住友化学製、“スミペックス”AK−150)を31.7質量部、質量平均分子量が50万のアイソタクティック−PMMA(iso−PMMA、東レ製)多孔質繊維を16.7質量部、パラスチレンスルホン酸ソーダを1.5mol%含む分子量30万のPMMA共重合体(東レ製)20質量部をジメチルスルホキシド(DMSO)376質量部と混合し、110℃で8時間撹拌し紡糸原液を調製した。得られた紡糸原液の110℃での粘度は1240poiseであった。
実施例1で調製した21質量%PMMA原液50gに、リン吸着剤として酸化チタン粒子(測定例6)を4g添加し、酸化チタン/PMMA原液を調製した。その後、実施例1と同様の手法で紡糸した。リン吸着剤が27.6質量%含まれ、断面外径がφ350μmである中実形状の多孔質繊維が得られた。
上記の多孔質繊維のリン吸着性能評価を実施した。実施例1同様に、測定例で示した(1)リン吸着性能評価で調製したリンスタート液50mL中に、多孔質繊維1g(内リン吸着剤は0.275g)を添加し、他は実施例1と同様にリン濃度および多孔質繊維質量を定量し、また多孔質繊維のリン吸着性能を式4により計算した。結果を表2に示す。
実施例1で調製した21質量%PMMA原液23.81gにDMSOを26.19g添加し、PMMAが10質量%含まれたポリマー溶液50gを得た。かかる10質量%PMMA原液50gにリン吸着剤として酸化チタン粒子(測定例6)を5g添加し、100℃に加温して100rpmの回転数で撹拌しながら均一に混合し、酸化チタン/PMMA原液を調製した。その後、実施例1と同様の手法で紡糸した。リン吸着剤が50質量%含まれ、断面外径がφ250μmである中実形状の多孔質繊維が得られた。
実施例1で調製した21質量%PMMA原液23.81gにDMSOを26.19g添加し、PMMA濃度が10質量%のポリマー溶液50gを得た。かかる10質量%PMMA原液50gにリン吸着剤として炭酸ランタン粒子(測定例3)を5g添加し、100℃に加温して100rpmの回転数で撹拌しながら均一に混合し、炭酸ランタン/PMMA原液を調製した。その後、実施例1と同様の方法で紡糸した。リン吸着剤が50質量%含まれ、断面外径がφ170μmである中実形状の多孔質繊維が得られた。
実施例4と同様の方法により炭酸ネオジム/PMMA原液を調製した。その後、実施例1と同様な方法で紡糸した。リン吸着剤が50質量%含まれ、断面外径がφ170μmである中実形状の多孔質繊維が得られた。
粒子を添加しないこと以外、実施例1と同様の手法により紡糸し、断面外径φ138μmである中実糸形状のPMMA繊維が得られた。得られたPMMA繊維について実施例1と同様な手法でリン吸着性能を評価した。
<カラムの作製>
実施例3又は実施例4で得られた多孔質繊維複数本を、それぞれ内径10mm、軸方向長さ12.2mmのポリカーボネート製円筒状ケーシング内に、繊維を長手方向に引き揃えてカラムケースの長手方向に対して平行にストレート形状で挿入した。
吸着性能評価として、カラムのリン吸着性能を測定した。上記実施例1〜5、比較例1〜3の(1)リン吸着性能評価と同様にして牛血漿を得た。該牛血漿について、総タンパク質が6.5±0.5g/dLとなるように調製した。尚、牛血漿は、採血後5日以内のものを用いた。次に、上記牛血漿100mLあたりに、7.85mgのリン酸一水素ナトリウム(Na2HPO4)及び3.45mgのリン酸二水素カリウム(KH2PO4)を溶解し、高リン血漿を模倣した被処理液を作成した。
Claims (7)
- リン吸着剤が繊維内部に担持された多孔質繊維であって、
前記リン吸着剤が希土類元素の炭酸塩を含むものであり、
前記希土類元素はランタン、セリウム、プラセオジム、サマリウム、ネオジムから選ばれる一つであり、
前記繊維は生理食塩水中で4時間撹拌後のpH変化が−1以上+1以下である、多孔質繊維。 - リン吸着性能が3mg/g以上である、請求項1記載の多孔質繊維。
- 前記リン吸着剤が粉粒体であって、
前記多孔質繊維に担持された状態における前記粉粒体の20℃の水100gにおける溶解度が10mg以下である、請求項1または2記載の多孔質繊維。 - 前記リン吸着剤が粉粒体であって、平均粒径が100μm以下である、請求項1〜3のいずれか一項記載の多孔質繊維。
- 繊維径が50〜1000μmである、請求項1〜4のいずれか一項記載の多孔質繊維。
- 平均細孔半径が0.5〜100nmであり、かつ細孔の比表面積が10m2/g以上である、請求項1〜5のいずれか一項記載の多孔質繊維。
- 前記請求項1〜6のいずれか一項記載の多孔質繊維が内蔵されたリン吸着カラム。
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